ゲスト
(ka0000)
Sについての調査依頼
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2016/10/12 22:00
- 完成日
- 2016/10/18 00:59
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
● 刑務所にて。
都市同盟の北方。
山岳地帯に居を構える刑務所に、一人の男が訪ねてきた。ゆったりしたローブを着て、ワンドを手にしている。見たまま魔術師だ。
「スペット……ですか。ええ、その名の者は確かに当刑務所におりますが……」
「では、面会させていただけますでしょうか?」
「……あのですね、肉親が面会に来るときでさえ、前以ての申請が入り用なんですよ? こんな急に飛び込みをされて、はいそうですかと受け付けるわけにはいかないのですよ。正規の手続きを踏んでいただきませんと。まずこの書類に必要事項を記入して提出を――」
「お説ごもっともですが、そういうわけにはいかんのです。なにしろ上から、この訪問を正式な記録に残すなと言われておりますのでね」
「上? 上とは誰のことですか」
応対に出てきた職員に男は、魔術師協会成員の証しである記章を見せた。
それを一瞥した職員は椅子から立ち上がり、声を上ずらせる。
「少々お待ちください。所長に事の次第をお伝えして来ますので」
● 刑務所面会室にて。
面会室に入って来たスペットは、彼にとって全く見覚えのない者の顔を、はすかいに眺める。
「なんや俺に用があるて聞いたけど、おたくどちらさんや?」
男は立ち上がり、名刺を差し出す。
「お初にお目にかかります。こういうものでして……」
「ふーん、魔術師協会のタモンはん言うのか」
「はい。どうぞ今後ともお見知りおきを……あ、どうぞおかけください」
促されたスペットは、端の擦り切れた革椅子に腰掛けた。
灰色の囚人服は土埃だらけ。
両方の足首に逃亡防止のための金輪が嵌めてある。魔導具の一種だ――普通にしてる分にはほとんど重さを感じないが、一定のエリア外に出ようとすると、たちどころに荷重が増すという作り。
昔ながらの鉄球つき金鎖よりも場所を取らないし動きの邪魔にもならないということから、各地の刑務所で最近よく使われるようになってきている。
「まあ何にしてもありがたいわ。少なくとも今の間だけは、岩塩掘りから逃げられるさかいな。ほんで、何の話やの」
その質問を待っていましたとばかり魔術師は、写真を取り出して来た。
一枚目は指輪の写真。
「まず確認を取りたいのですが――この指輪を所有していたのは、あなたで間違いないですね?」
「せや。俺のもんや。間違いあらへん。取り上げられたきり返ってきとらん……この写真、どこで撮ったんや? 今どこにあんねん、これ」
畳み掛けてくるスペットを魔術師は、まあまあと宥めた。続けて、警察が彼から取り上げた指輪を勝手に売り払ったことを説明した。
スペットは、毛を逆立てて怒る。
「なんやとおお! 何の権利があって俺のもん勝手に売り払うとんねん!」
「落ち着いてください。まだ続きがありますので――」
魔術師は、指輪がアイテム中古ショップに売り払われたこと、そのせいで奇怪な事件が起きたことを話して聞かせる。
「そのとき撮られた写真がこれです」
写真には二つのものが写っていた。
一つは見た瞬間目を背けたくなるほど醜悪な歪虚。
もう一つは、白いワンピースを着た女。
「私たちがより重要視しているのは、こちらの女性です。ハンターからの報告によりますと、歪虚とも思えない。さりとて人間とも思えない。自分では、マゴイと名乗っていたとか。この人物に、見覚えは――」
質問が終わらないうち、スペットは写真をもぎ取った。瞳孔を針のように縮めて、ぶるぶると身を震わせる。
「ここっ、こいつ、生きとったんかー! おいこらどこや、こいつどこにおったんや! 会わせえ、俺はこいつに言いたいことが山ほどあるんやー!」
● 魔術師協会にて。
「――彼によりますとこの『マゴイ』は、彼を現在あるような姿に変えた魔術師である、とのことです」
「魔術師? 人間だということか?」
「そこはスペットにもはっきりしないようです。とにかくこいつに会わせろと、しつこく言っておりました」
「彼の腕は確かかね?」
「経歴を見るに、確かです。我流ではありますが」
「そうか。なら、調査に協力させてはどうか。例の指輪の件については、分からないことが多すぎる」
「しかし、彼は服役中の身です。どうやって刑務所から出すのですか」
「社会奉仕活動をさせるという名目をつければいいのではないかね。まあ、とにもかくにもまずは、そのスペットなる者が信用出来る人間かどうか、見極める必要があるが」
● ハンターオフィスにて。
魔術師協会から依頼が来た。
内容は、以下。
内容:『産廃場に発生した蜘蛛型歪虚の除去』。
この任務には、社会奉仕活動の一環として刑務所から派遣されてきた魔術師・スペットが同行いたします。
ハンター諸氏におかれましては、歪虚を退治することはもちろんのこと、彼の実力の程と素行についての報告書を作成、魔術師協会に提出してください。
なおそういった調査をしていることについては、スペット本人に悟られないようにしてください。
都市同盟の北方。
山岳地帯に居を構える刑務所に、一人の男が訪ねてきた。ゆったりしたローブを着て、ワンドを手にしている。見たまま魔術師だ。
「スペット……ですか。ええ、その名の者は確かに当刑務所におりますが……」
「では、面会させていただけますでしょうか?」
「……あのですね、肉親が面会に来るときでさえ、前以ての申請が入り用なんですよ? こんな急に飛び込みをされて、はいそうですかと受け付けるわけにはいかないのですよ。正規の手続きを踏んでいただきませんと。まずこの書類に必要事項を記入して提出を――」
「お説ごもっともですが、そういうわけにはいかんのです。なにしろ上から、この訪問を正式な記録に残すなと言われておりますのでね」
「上? 上とは誰のことですか」
応対に出てきた職員に男は、魔術師協会成員の証しである記章を見せた。
それを一瞥した職員は椅子から立ち上がり、声を上ずらせる。
「少々お待ちください。所長に事の次第をお伝えして来ますので」
● 刑務所面会室にて。
面会室に入って来たスペットは、彼にとって全く見覚えのない者の顔を、はすかいに眺める。
「なんや俺に用があるて聞いたけど、おたくどちらさんや?」
男は立ち上がり、名刺を差し出す。
「お初にお目にかかります。こういうものでして……」
「ふーん、魔術師協会のタモンはん言うのか」
「はい。どうぞ今後ともお見知りおきを……あ、どうぞおかけください」
促されたスペットは、端の擦り切れた革椅子に腰掛けた。
灰色の囚人服は土埃だらけ。
両方の足首に逃亡防止のための金輪が嵌めてある。魔導具の一種だ――普通にしてる分にはほとんど重さを感じないが、一定のエリア外に出ようとすると、たちどころに荷重が増すという作り。
昔ながらの鉄球つき金鎖よりも場所を取らないし動きの邪魔にもならないということから、各地の刑務所で最近よく使われるようになってきている。
「まあ何にしてもありがたいわ。少なくとも今の間だけは、岩塩掘りから逃げられるさかいな。ほんで、何の話やの」
その質問を待っていましたとばかり魔術師は、写真を取り出して来た。
一枚目は指輪の写真。
「まず確認を取りたいのですが――この指輪を所有していたのは、あなたで間違いないですね?」
「せや。俺のもんや。間違いあらへん。取り上げられたきり返ってきとらん……この写真、どこで撮ったんや? 今どこにあんねん、これ」
畳み掛けてくるスペットを魔術師は、まあまあと宥めた。続けて、警察が彼から取り上げた指輪を勝手に売り払ったことを説明した。
スペットは、毛を逆立てて怒る。
「なんやとおお! 何の権利があって俺のもん勝手に売り払うとんねん!」
「落ち着いてください。まだ続きがありますので――」
魔術師は、指輪がアイテム中古ショップに売り払われたこと、そのせいで奇怪な事件が起きたことを話して聞かせる。
「そのとき撮られた写真がこれです」
写真には二つのものが写っていた。
一つは見た瞬間目を背けたくなるほど醜悪な歪虚。
もう一つは、白いワンピースを着た女。
「私たちがより重要視しているのは、こちらの女性です。ハンターからの報告によりますと、歪虚とも思えない。さりとて人間とも思えない。自分では、マゴイと名乗っていたとか。この人物に、見覚えは――」
質問が終わらないうち、スペットは写真をもぎ取った。瞳孔を針のように縮めて、ぶるぶると身を震わせる。
「ここっ、こいつ、生きとったんかー! おいこらどこや、こいつどこにおったんや! 会わせえ、俺はこいつに言いたいことが山ほどあるんやー!」
● 魔術師協会にて。
「――彼によりますとこの『マゴイ』は、彼を現在あるような姿に変えた魔術師である、とのことです」
「魔術師? 人間だということか?」
「そこはスペットにもはっきりしないようです。とにかくこいつに会わせろと、しつこく言っておりました」
「彼の腕は確かかね?」
「経歴を見るに、確かです。我流ではありますが」
「そうか。なら、調査に協力させてはどうか。例の指輪の件については、分からないことが多すぎる」
「しかし、彼は服役中の身です。どうやって刑務所から出すのですか」
「社会奉仕活動をさせるという名目をつければいいのではないかね。まあ、とにもかくにもまずは、そのスペットなる者が信用出来る人間かどうか、見極める必要があるが」
● ハンターオフィスにて。
魔術師協会から依頼が来た。
内容は、以下。
内容:『産廃場に発生した蜘蛛型歪虚の除去』。
この任務には、社会奉仕活動の一環として刑務所から派遣されてきた魔術師・スペットが同行いたします。
ハンター諸氏におかれましては、歪虚を退治することはもちろんのこと、彼の実力の程と素行についての報告書を作成、魔術師協会に提出してください。
なおそういった調査をしていることについては、スペット本人に悟られないようにしてください。
リプレイ本文
自由都市同盟にある某刑務所。
朝。
スペットは刑務官から『特別に外出許可を出すので、来訪したハンターたちに同行するように』との指示を受けた。
「魔術師としての力を借りたいそうだ。これも服務の一部と思い、骨身を惜しまず協力してくるように」
「ほなら指輪返せや。あれがないと力発揮出来へんねんぞ」
「却下」
と言って刑務官がスペットに渡したのは、メモ用紙とペン。
「書くものさえあればどうにかなるんだろう?」
この野郎という気分で毛を逆立てるスペット。しかし命令には逆らえないので、渋々ハンターたちが待つという裏門へ向かう。
●
マリィア・バルデス(ka5848)は裏門から出てきたスペットへ、いの一番に駆け寄った。
「頭が猫って聞いた瞬間に依頼を受けちゃったのよね。ところでスペット、貴方の頭や顎の下を撫でてもいいかしら?」
「やめえ。俺は猫ちゃうぞ」
ミグ・ロマイヤー(ka0665)は激しく勘違い。
「これが噂のユグディラというものか、かわいいのう」
全身を魔導鎧で包んでいるので表情が確かめにくいが、声色からデレデレ状態にあることが伺い知れる。
「少し屈んでミグになでなでさせるがいい」
「やめえちゅうに。ちゅうかユグディラでもないわ」
メイム(ka2290)はスペットの言葉を継いで言った。
「うん、ただのユグディラじゃなくて老けたユグディラだよね。こんなに大きくなっちゃって」
「しばくぞお前。誰が老けたユグディラや。俺はまだ二十代や」
「猫の二十代って人間に直したら百歳越えだけど」
「猫やない人間や!」
ビリティス・カニンガム(ka6462)は大興奮。
リアルブルーで見た特撮ものの影響から、こいつはきっと正義の改造人間に違いないと思い込む。
「すっげー! 本物のヒーローだぜ! なあ、必殺技はなんだ? パワースーツのカラーは? 一日何回毛玉吐く?」
「ええいやかましわ!」
カーッと息を吐くスペット、しかし相手は露ほども怯んでくれない。かえってますます騒ぎ始める。
「うおー! ニャイガージョーみてえだ! かっけー!」
天竜寺 詩(ka0396)はスペットの足元を見た。両方に金輪がつけられている。
先程ひそかに刑務官から確認を取ったのだが、これを外す鍵は防犯上の理由により、所外への持ち出しを禁じられているそうだ。つまりスペットは重りをつけたまま行動しなくてはならない。
(力は良い方に使えばきっと人の役に立つと思うし、これを機にしっかり更生して欲しいな。協会の思惑はともかく……)
●
ジルボ(ka1732)、ロニ・カルディス(ka0551)、鵤(ka3319)はスペットの受け取りを詩たちに任せ、先んじて産廃場に入り、下調べを行っていた。
時折得体の知れない匂いが、地面からふいと湧き上がって来る。
ジルボはバンダナで口元を覆った。
「しかし、魔術師協会からの依頼は珍しいな。何を企んでるのやら……」
鵤はお気楽に鼻歌を歌う。
「何だって構わないよ。今回は俺たち働かなくていいみたいだし。いいねぇいいねぇ、おっさん超楽できそうじゃないのぉ」
そこに近づいてくる話し声と人影。
「三味線作るのに猫の皮使うんだよね。三味線になりたくなかったらきりきり働く! それとも噂通り指輪が無ければ何も出来ないヘボ魔術師なのかな?」
「ねーねー、猫幻獣さん。今まで結界で隠れたり、こっそり逃げるのは何回も見たけど、歪虚造る以外にどんなワザ持っているの?」
「何やお前ら失礼すぎるやろ! 歪虚造りも結界も難易度高いねんぞ!」
鵤は双眼鏡を降ろし片手を挙げ、そちらへと歩いて行く。
「よお、久しぶりだなスペット」
『これは裏など一切ない社会奉仕活動だ』という事実と異なる説明を行ってから、本題に入る。
「で、訊いておきたいんだが、現在使える魔法は何と何だ? とりあえず結界が作れるかどうかだけは確認を取っておきたいんだが」
スペットは咥えたチキンの骨を上下させながら言った。
「そらもちろん作れるで。指輪ないさかい、完成度低うなるけどな」
「そうか。なら協力してくれ。緊急の際の避難場所があれば、こちらもかなりやりやすくなる」
「簡単に言うて……結界作るの面倒やねんぞ」
ジルボは不満たらたらなスペットの肩を叩き、協力を申し出た。
「まあまあ猫のおっさん。俺もちったあ手伝ってやるからさ」
「なんや、お前魔術師か」
「いいや、単なる魔術マニア。でも、あんたの結界術の話をメイム達から聞いてね。そいつを見せて貰おうと思ってさ。なんかすごいそうじゃないか」
自尊心をくすぐっておいてから、特異の詐術、いや話術で畳み掛ける。
「せっかく奉仕活動として出回る機会を得たんだ。それを利用しない手はないんじゃねぇの? 真面目に働きゃ、仮釈放だってあり得るしな。脱獄したら追われるだけだろ? でも仮釈放なら大手を振って通りを歩けるんだぜ? この差はでかいと思わないか?」
会話に相乗りする形でメイムも、スペットに餌を撒く。
「さあ真面目に働いてね、頑張れば刑期短縮を進言してあげるから」
進言だけだ。相手が採用するかどうかはまた別の話。
●
スペットはメモ用紙で作った即席の護符を、産廃所の周囲に埋めて行く。
鵤はその後を付いて回った。パルムによる行動の記録が主の理由だが、基本的には興味本位。
「おいおい猫君、これは本当に効くのか」
「触んなやずれるやろが」
産廃所の反対側から、同じように護符を埋め回っていたジルボが戻ってくる。
「おーい、こっちは仕込み終わったぞ」
「ほか。そんなら全員こっち側に入れや」
結界の内側に一同を寄せたスペットは、大きく息を吸い、左右の両手を合わせた。
護符を埋めたところから、黒い光線の柱が立ちのぼる。
柱は横に手を伸ばし連結しあいながら、5メートルほど上ったところで直角に折れ曲がり、また連結しあい、天井を作る。
柱と柱の間に、ガラスに似た膜が張られる。
かくして産廃所全体が、方眼紙の箱に入れられたようになった。
ビリティスは大興奮だ。
「うおー! すっげー!」
ミグも感心する。
「ほう、なかなかやるのう。これだけ大規模なものをの」
大きいのや小さいのや、こいつは実に色んな結界を作るものだという感想を抱くメイム。
「なるほどお手並み見事だね。ところでス・ペット」
「変な感じに区切んなや」
「これだけだと遮蔽物としての役には立たなくない? あたしたちも相手と同一空間内にいるわけだし。もちろん、歪虚がよそへ行かないようにするためにはいいことだとしても」
「分かっとる。ちょっと待てや」
スペットは髭をひくひく動かし、手を打ち合わせる。
壁面の柱に沿う形で、壁が幾つも張り出してきた。
ロニはそれを拳で打ってみる――強度は十分だ。これなら、不意な攻撃への物理的な障害として有効だろう。
「やるもんだな」
褒め言葉にスペットは、悪い気がしなかったらしい。口を閉じ目を細めた。それは、眠たい猫そっくりな顔だった。
●
遮蔽壁に隠れながら一同は、歪虚を探す。
マリィアは、戦闘に不慣れそうなスペットの横に陣取る。彼に怪我をさせまいと周辺の気配を探るのだが、いつしかその視線は、音を探ろうとちらちら動いている三角の耳に向いてしまう。
情報収集と個人的関心の両方を満たすため、彼女は、スペットに話しかけてみる。
「ところでスペットみたいなことをされたのはスペットだけだったの?」
「俺だけのはずや。同じ奴なんかこれまで見たことないし。ほんまに最悪や」
「人面猫にされるよりはましだったんじゃないかしら……そんなふうにされたら魔法だって使えなさそうよ?」
先を行くメイムが付け加えた。
「だよね。そこは不幸中の幸いとして感謝しないと。そういえば、来るとき言ってなかったっけ? あの指輪、マゴイから貰ったんだって」
「貰うて当然や。俺あいつのところで長いこと手伝いしてんねんぞ。あいつ他にも何や色々持っとったのに、一番小さいあの指輪しかくれへんかったんや。ケチやケチやあいつはケチや」
ビリティスは大身槍で地面を突き、安全を確かめながら進む。
「スペット、マゴイが死んだって思ってたのは、なんでだ?」
「なんでもくそもあいつが弾け飛ぶところ見たからやがな」
「おお、自爆か! 悪役ってよくそれやるよな!」
「ちゃうわ。確か――多分――何かの実験してて失敗したんや。結局生きてたわけやけど」
それらの会話を小耳に挟んだジルボは、近くにいた詩に話しかけた。
「そういや詩はマゴイを見たことがあるんだってな。どんな感じの奴だった?」
「うーん、すごく変わってる感じはしたけど……そんな悪い感じの人には見えなかったかな……」
と言いながら彼女は、頭の片隅で別のことを考える。
(……あの人、実体が無かった……完全になかった)
思い返せば思い返すほど、次の点があやしまれてならない。
(マゴイは本当に『生きて』いるのかな……)
先頭近くのマリィアが足を止めた。後続のメンバーを、手で制する。
何か感じるものがあったらしい。
スペットも神経質に周囲を見回している。その耳があんまりせわしく動くので、鵤はつい茶化したくなった。
「奉仕活動なら働かねえとなぁスペットくぅん」
「うっさいわ黙ってえ。音が聞こえんやろが」
これは確実に何かいそうだ。
ミグはスペットに耳打ちした。
「音とやらはどこから聞こえるかの」
「下やな。隙間ぎょうさんあるさかいそん中におるのやろ」
「そうか……ではいぶし出しが有効じゃな」
と言って彼女は、あちこち継ぎが当てられた金属の箱を取り出す。
「これをシザーハンズに装着すれば性能が3倍に」
クックックと自信ありげに笑うミグに、痛ましげな目を向けるメイム。
「こんな古い回路でミグさんやっぱり……」
リアルブルー由来のコントを経た後、自慢のミグ回路は装着された。
ひとまず地面の裂け目に照準を合わせる。
「悪い蜘蛛は消毒なのじゃ」
ブーストつきで吹き出された炎は甚大な力を発揮した。裂け目の中を焼き尽くしただけではない。そこに繋がる穴全て回り込み、地上に炎の柱を吹き上がらせる。
隠れていたクモ歪虚が1匹、熱さに耐えかね飛び出してくる。
口をもごもごさせ左右に体を揺らし、尻を持ち上げる。
「ふりぃぃず!」
メイムの一喝でびくっと動きを止め後退し、牙を鳴らす。
カカカ。カカカ。カカカ。
延々同じ拍子が繰り返される。ビリティスは不審を覚えた。皆に注意を促す。
「気ぃつけろ、まだ出てくるかも知れねえぞ!」
彼女の懸念は、すぐさま形となって現れた。左右と背後から前方にいるのと同じ型の歪虚が現れたのだ。
「おいおい、後ろからは勘弁してくれ。おっさんは休みたいんだからさー。狙うならスペットくんだよスペットくん」
やる気無さそうにしながら威嚇射撃を行う鵤。
前方の一匹がぐっと屈んだ。
跳躍の兆候を見て取った詩は、ジャッジメントを繰り出す。
一瞬宙に浮いたところを、叩き落とされるクモ。マリィアが狙撃する。クモは前足を打ち抜かれたが、そのくらいは感じないらしく、残った足で右に左に走り回り、弾を避け回る。
「ふりぃず! ふりぃーず!」
メイムは炎を纏うアックスを振りかざし、牽制する。ロニは低い声で歌い、クモたちの足を鈍くした。
「スペット! こういう昆虫に効きそうな魔法って何かないの!?」
マリィアがそう言ったとたん、スペットが手を叩いた。
天井の升目に沿って壁が――落ちて来たかという速度で――降りてきて、クモを囲んでしまう。
結界の中の結界に閉じ込められたクモは、身動きが取れなくなった。飛び上がろうにも障壁にぶつかり、跳ね返されてしまうだけである。
スペットが人の役に立ったのはこれが初めてかもしれない、と喜ぶ詩。
「で、スベット、ここからどうするの?」
「どうもせえへん、お前らが攻撃せえ。俺には閉じ込めるしか出来んのや」
「あ、そうなんだ……」
そういえば彼が何かを退治したケースこれまで全くなかったな、と納得する詩。
「そういうことならミグに任せるがよい」
ミグはシザーハンズを囚われたクモに向け、全身全霊ぶちかます。
「灼熱のブラックアウトを見せてやろうぞ!」
結界もろともクモは消え去った。
残りは3匹。
スペットの捕獲能力が知れた今、それを使わない手はない。というわけで鵤は遠慮会釈もなく呼び付ける。近づこうとするクモに防壁弾を浴びせながら。
「スペットくん、こっちのも確保してくれー」
「お前武器持ってるやろが!」
「持ってるけど、無駄撃ちは弾が勿体ないじゃーん」
そのとき、グボッと底が抜けるような音がした。
「うわぁぁ!」
目を向けてみればビリィ。穴に腰まで突っ込んでいる。手に槍はない。クモの顎に突き刺さったまま、取れなくなったのだ。そこにもう1匹が近寄ってきた。
手持ちの武器を奪われた格好の彼女は、スペットへ助力を求めた。
「ニャイガージョー、なんとかしてくれー!」
スペットは手を叩いた。
今度結界に囲まれたのはクモではなく、ビリティスだった。
彼女に襲いかかろうとしたクモは、障壁にぶち当たり跳ね返された。
そこに詩のジャッジメント。動きが止まったところ、メイムのアックスで真っ二つに。
痙攣し動きを止める2匹目。
跳びはね逃げ出す3匹目と4匹目。
「ほら、しっかり狙ってね、スベット!」
「ベやないペや、ペ!」
拘束された3匹目も、ハンターたちの集中砲火を浴びてついえ去る。
残るは1匹。
「おいおーいちゃんとしなさいよスペットくぅん。おっさんの分まで働いてもらわねえと困っちまうだろぉ?」
なんにしても鵤は、最後までまともに戦おうとはしなかった。
そのおかげで、いい映像が取れた。
●
「絶景だねぇ」
「いやー、これいいのかなってくらいよく燃えるな」
「臭い匂いをもとから絶つためじゃ」
鵤、ジルボ、ミグの会話が交わされるのは、炎と黒煙を上げる産廃場のほとり。
「ほんまにむちゃくちゃやな」
「その言葉、刑務所を半壊させたスペットには言う資格ないと思うけどなあー」
と言いつつ詩は、仲間と共に彼にも、仕事収めのジュースを配ってやる。
ロニがスペットに言う。
「社会貢献作業はこれで終了だ。あとは仮釈放が取れるよう、真面目に勤め上げる事を願っている」
そこにメイムが付け加える。
「そうそう。真面目が一番。今度ミソつけたら無期かもだからね」
ビリティスは煤けた猫の頬にキスをしてやった。
「王子様はお姫様のキスで元に戻るんだぜ♪」
「どこに姫おんねん。俺の目に見えるのはガキんすだけやぞ」
「またまたー。照れんなよ、素直になれよニャイガージョー!」
「痛いわ髭引くなや!」
マリィアは、猫耳の後ろに手を伸ばす。
「ところでスペット、せっかく戦闘が終わったんだから耳の後ろを撫でさせてもらってもいいかしら?」
「……撫でとるやん」
朝。
スペットは刑務官から『特別に外出許可を出すので、来訪したハンターたちに同行するように』との指示を受けた。
「魔術師としての力を借りたいそうだ。これも服務の一部と思い、骨身を惜しまず協力してくるように」
「ほなら指輪返せや。あれがないと力発揮出来へんねんぞ」
「却下」
と言って刑務官がスペットに渡したのは、メモ用紙とペン。
「書くものさえあればどうにかなるんだろう?」
この野郎という気分で毛を逆立てるスペット。しかし命令には逆らえないので、渋々ハンターたちが待つという裏門へ向かう。
●
マリィア・バルデス(ka5848)は裏門から出てきたスペットへ、いの一番に駆け寄った。
「頭が猫って聞いた瞬間に依頼を受けちゃったのよね。ところでスペット、貴方の頭や顎の下を撫でてもいいかしら?」
「やめえ。俺は猫ちゃうぞ」
ミグ・ロマイヤー(ka0665)は激しく勘違い。
「これが噂のユグディラというものか、かわいいのう」
全身を魔導鎧で包んでいるので表情が確かめにくいが、声色からデレデレ状態にあることが伺い知れる。
「少し屈んでミグになでなでさせるがいい」
「やめえちゅうに。ちゅうかユグディラでもないわ」
メイム(ka2290)はスペットの言葉を継いで言った。
「うん、ただのユグディラじゃなくて老けたユグディラだよね。こんなに大きくなっちゃって」
「しばくぞお前。誰が老けたユグディラや。俺はまだ二十代や」
「猫の二十代って人間に直したら百歳越えだけど」
「猫やない人間や!」
ビリティス・カニンガム(ka6462)は大興奮。
リアルブルーで見た特撮ものの影響から、こいつはきっと正義の改造人間に違いないと思い込む。
「すっげー! 本物のヒーローだぜ! なあ、必殺技はなんだ? パワースーツのカラーは? 一日何回毛玉吐く?」
「ええいやかましわ!」
カーッと息を吐くスペット、しかし相手は露ほども怯んでくれない。かえってますます騒ぎ始める。
「うおー! ニャイガージョーみてえだ! かっけー!」
天竜寺 詩(ka0396)はスペットの足元を見た。両方に金輪がつけられている。
先程ひそかに刑務官から確認を取ったのだが、これを外す鍵は防犯上の理由により、所外への持ち出しを禁じられているそうだ。つまりスペットは重りをつけたまま行動しなくてはならない。
(力は良い方に使えばきっと人の役に立つと思うし、これを機にしっかり更生して欲しいな。協会の思惑はともかく……)
●
ジルボ(ka1732)、ロニ・カルディス(ka0551)、鵤(ka3319)はスペットの受け取りを詩たちに任せ、先んじて産廃場に入り、下調べを行っていた。
時折得体の知れない匂いが、地面からふいと湧き上がって来る。
ジルボはバンダナで口元を覆った。
「しかし、魔術師協会からの依頼は珍しいな。何を企んでるのやら……」
鵤はお気楽に鼻歌を歌う。
「何だって構わないよ。今回は俺たち働かなくていいみたいだし。いいねぇいいねぇ、おっさん超楽できそうじゃないのぉ」
そこに近づいてくる話し声と人影。
「三味線作るのに猫の皮使うんだよね。三味線になりたくなかったらきりきり働く! それとも噂通り指輪が無ければ何も出来ないヘボ魔術師なのかな?」
「ねーねー、猫幻獣さん。今まで結界で隠れたり、こっそり逃げるのは何回も見たけど、歪虚造る以外にどんなワザ持っているの?」
「何やお前ら失礼すぎるやろ! 歪虚造りも結界も難易度高いねんぞ!」
鵤は双眼鏡を降ろし片手を挙げ、そちらへと歩いて行く。
「よお、久しぶりだなスペット」
『これは裏など一切ない社会奉仕活動だ』という事実と異なる説明を行ってから、本題に入る。
「で、訊いておきたいんだが、現在使える魔法は何と何だ? とりあえず結界が作れるかどうかだけは確認を取っておきたいんだが」
スペットは咥えたチキンの骨を上下させながら言った。
「そらもちろん作れるで。指輪ないさかい、完成度低うなるけどな」
「そうか。なら協力してくれ。緊急の際の避難場所があれば、こちらもかなりやりやすくなる」
「簡単に言うて……結界作るの面倒やねんぞ」
ジルボは不満たらたらなスペットの肩を叩き、協力を申し出た。
「まあまあ猫のおっさん。俺もちったあ手伝ってやるからさ」
「なんや、お前魔術師か」
「いいや、単なる魔術マニア。でも、あんたの結界術の話をメイム達から聞いてね。そいつを見せて貰おうと思ってさ。なんかすごいそうじゃないか」
自尊心をくすぐっておいてから、特異の詐術、いや話術で畳み掛ける。
「せっかく奉仕活動として出回る機会を得たんだ。それを利用しない手はないんじゃねぇの? 真面目に働きゃ、仮釈放だってあり得るしな。脱獄したら追われるだけだろ? でも仮釈放なら大手を振って通りを歩けるんだぜ? この差はでかいと思わないか?」
会話に相乗りする形でメイムも、スペットに餌を撒く。
「さあ真面目に働いてね、頑張れば刑期短縮を進言してあげるから」
進言だけだ。相手が採用するかどうかはまた別の話。
●
スペットはメモ用紙で作った即席の護符を、産廃所の周囲に埋めて行く。
鵤はその後を付いて回った。パルムによる行動の記録が主の理由だが、基本的には興味本位。
「おいおい猫君、これは本当に効くのか」
「触んなやずれるやろが」
産廃所の反対側から、同じように護符を埋め回っていたジルボが戻ってくる。
「おーい、こっちは仕込み終わったぞ」
「ほか。そんなら全員こっち側に入れや」
結界の内側に一同を寄せたスペットは、大きく息を吸い、左右の両手を合わせた。
護符を埋めたところから、黒い光線の柱が立ちのぼる。
柱は横に手を伸ばし連結しあいながら、5メートルほど上ったところで直角に折れ曲がり、また連結しあい、天井を作る。
柱と柱の間に、ガラスに似た膜が張られる。
かくして産廃所全体が、方眼紙の箱に入れられたようになった。
ビリティスは大興奮だ。
「うおー! すっげー!」
ミグも感心する。
「ほう、なかなかやるのう。これだけ大規模なものをの」
大きいのや小さいのや、こいつは実に色んな結界を作るものだという感想を抱くメイム。
「なるほどお手並み見事だね。ところでス・ペット」
「変な感じに区切んなや」
「これだけだと遮蔽物としての役には立たなくない? あたしたちも相手と同一空間内にいるわけだし。もちろん、歪虚がよそへ行かないようにするためにはいいことだとしても」
「分かっとる。ちょっと待てや」
スペットは髭をひくひく動かし、手を打ち合わせる。
壁面の柱に沿う形で、壁が幾つも張り出してきた。
ロニはそれを拳で打ってみる――強度は十分だ。これなら、不意な攻撃への物理的な障害として有効だろう。
「やるもんだな」
褒め言葉にスペットは、悪い気がしなかったらしい。口を閉じ目を細めた。それは、眠たい猫そっくりな顔だった。
●
遮蔽壁に隠れながら一同は、歪虚を探す。
マリィアは、戦闘に不慣れそうなスペットの横に陣取る。彼に怪我をさせまいと周辺の気配を探るのだが、いつしかその視線は、音を探ろうとちらちら動いている三角の耳に向いてしまう。
情報収集と個人的関心の両方を満たすため、彼女は、スペットに話しかけてみる。
「ところでスペットみたいなことをされたのはスペットだけだったの?」
「俺だけのはずや。同じ奴なんかこれまで見たことないし。ほんまに最悪や」
「人面猫にされるよりはましだったんじゃないかしら……そんなふうにされたら魔法だって使えなさそうよ?」
先を行くメイムが付け加えた。
「だよね。そこは不幸中の幸いとして感謝しないと。そういえば、来るとき言ってなかったっけ? あの指輪、マゴイから貰ったんだって」
「貰うて当然や。俺あいつのところで長いこと手伝いしてんねんぞ。あいつ他にも何や色々持っとったのに、一番小さいあの指輪しかくれへんかったんや。ケチやケチやあいつはケチや」
ビリティスは大身槍で地面を突き、安全を確かめながら進む。
「スペット、マゴイが死んだって思ってたのは、なんでだ?」
「なんでもくそもあいつが弾け飛ぶところ見たからやがな」
「おお、自爆か! 悪役ってよくそれやるよな!」
「ちゃうわ。確か――多分――何かの実験してて失敗したんや。結局生きてたわけやけど」
それらの会話を小耳に挟んだジルボは、近くにいた詩に話しかけた。
「そういや詩はマゴイを見たことがあるんだってな。どんな感じの奴だった?」
「うーん、すごく変わってる感じはしたけど……そんな悪い感じの人には見えなかったかな……」
と言いながら彼女は、頭の片隅で別のことを考える。
(……あの人、実体が無かった……完全になかった)
思い返せば思い返すほど、次の点があやしまれてならない。
(マゴイは本当に『生きて』いるのかな……)
先頭近くのマリィアが足を止めた。後続のメンバーを、手で制する。
何か感じるものがあったらしい。
スペットも神経質に周囲を見回している。その耳があんまりせわしく動くので、鵤はつい茶化したくなった。
「奉仕活動なら働かねえとなぁスペットくぅん」
「うっさいわ黙ってえ。音が聞こえんやろが」
これは確実に何かいそうだ。
ミグはスペットに耳打ちした。
「音とやらはどこから聞こえるかの」
「下やな。隙間ぎょうさんあるさかいそん中におるのやろ」
「そうか……ではいぶし出しが有効じゃな」
と言って彼女は、あちこち継ぎが当てられた金属の箱を取り出す。
「これをシザーハンズに装着すれば性能が3倍に」
クックックと自信ありげに笑うミグに、痛ましげな目を向けるメイム。
「こんな古い回路でミグさんやっぱり……」
リアルブルー由来のコントを経た後、自慢のミグ回路は装着された。
ひとまず地面の裂け目に照準を合わせる。
「悪い蜘蛛は消毒なのじゃ」
ブーストつきで吹き出された炎は甚大な力を発揮した。裂け目の中を焼き尽くしただけではない。そこに繋がる穴全て回り込み、地上に炎の柱を吹き上がらせる。
隠れていたクモ歪虚が1匹、熱さに耐えかね飛び出してくる。
口をもごもごさせ左右に体を揺らし、尻を持ち上げる。
「ふりぃぃず!」
メイムの一喝でびくっと動きを止め後退し、牙を鳴らす。
カカカ。カカカ。カカカ。
延々同じ拍子が繰り返される。ビリティスは不審を覚えた。皆に注意を促す。
「気ぃつけろ、まだ出てくるかも知れねえぞ!」
彼女の懸念は、すぐさま形となって現れた。左右と背後から前方にいるのと同じ型の歪虚が現れたのだ。
「おいおい、後ろからは勘弁してくれ。おっさんは休みたいんだからさー。狙うならスペットくんだよスペットくん」
やる気無さそうにしながら威嚇射撃を行う鵤。
前方の一匹がぐっと屈んだ。
跳躍の兆候を見て取った詩は、ジャッジメントを繰り出す。
一瞬宙に浮いたところを、叩き落とされるクモ。マリィアが狙撃する。クモは前足を打ち抜かれたが、そのくらいは感じないらしく、残った足で右に左に走り回り、弾を避け回る。
「ふりぃず! ふりぃーず!」
メイムは炎を纏うアックスを振りかざし、牽制する。ロニは低い声で歌い、クモたちの足を鈍くした。
「スペット! こういう昆虫に効きそうな魔法って何かないの!?」
マリィアがそう言ったとたん、スペットが手を叩いた。
天井の升目に沿って壁が――落ちて来たかという速度で――降りてきて、クモを囲んでしまう。
結界の中の結界に閉じ込められたクモは、身動きが取れなくなった。飛び上がろうにも障壁にぶつかり、跳ね返されてしまうだけである。
スペットが人の役に立ったのはこれが初めてかもしれない、と喜ぶ詩。
「で、スベット、ここからどうするの?」
「どうもせえへん、お前らが攻撃せえ。俺には閉じ込めるしか出来んのや」
「あ、そうなんだ……」
そういえば彼が何かを退治したケースこれまで全くなかったな、と納得する詩。
「そういうことならミグに任せるがよい」
ミグはシザーハンズを囚われたクモに向け、全身全霊ぶちかます。
「灼熱のブラックアウトを見せてやろうぞ!」
結界もろともクモは消え去った。
残りは3匹。
スペットの捕獲能力が知れた今、それを使わない手はない。というわけで鵤は遠慮会釈もなく呼び付ける。近づこうとするクモに防壁弾を浴びせながら。
「スペットくん、こっちのも確保してくれー」
「お前武器持ってるやろが!」
「持ってるけど、無駄撃ちは弾が勿体ないじゃーん」
そのとき、グボッと底が抜けるような音がした。
「うわぁぁ!」
目を向けてみればビリィ。穴に腰まで突っ込んでいる。手に槍はない。クモの顎に突き刺さったまま、取れなくなったのだ。そこにもう1匹が近寄ってきた。
手持ちの武器を奪われた格好の彼女は、スペットへ助力を求めた。
「ニャイガージョー、なんとかしてくれー!」
スペットは手を叩いた。
今度結界に囲まれたのはクモではなく、ビリティスだった。
彼女に襲いかかろうとしたクモは、障壁にぶち当たり跳ね返された。
そこに詩のジャッジメント。動きが止まったところ、メイムのアックスで真っ二つに。
痙攣し動きを止める2匹目。
跳びはね逃げ出す3匹目と4匹目。
「ほら、しっかり狙ってね、スベット!」
「ベやないペや、ペ!」
拘束された3匹目も、ハンターたちの集中砲火を浴びてついえ去る。
残るは1匹。
「おいおーいちゃんとしなさいよスペットくぅん。おっさんの分まで働いてもらわねえと困っちまうだろぉ?」
なんにしても鵤は、最後までまともに戦おうとはしなかった。
そのおかげで、いい映像が取れた。
●
「絶景だねぇ」
「いやー、これいいのかなってくらいよく燃えるな」
「臭い匂いをもとから絶つためじゃ」
鵤、ジルボ、ミグの会話が交わされるのは、炎と黒煙を上げる産廃場のほとり。
「ほんまにむちゃくちゃやな」
「その言葉、刑務所を半壊させたスペットには言う資格ないと思うけどなあー」
と言いつつ詩は、仲間と共に彼にも、仕事収めのジュースを配ってやる。
ロニがスペットに言う。
「社会貢献作業はこれで終了だ。あとは仮釈放が取れるよう、真面目に勤め上げる事を願っている」
そこにメイムが付け加える。
「そうそう。真面目が一番。今度ミソつけたら無期かもだからね」
ビリティスは煤けた猫の頬にキスをしてやった。
「王子様はお姫様のキスで元に戻るんだぜ♪」
「どこに姫おんねん。俺の目に見えるのはガキんすだけやぞ」
「またまたー。照れんなよ、素直になれよニャイガージョー!」
「痛いわ髭引くなや!」
マリィアは、猫耳の後ろに手を伸ばす。
「ところでスペット、せっかく戦闘が終わったんだから耳の後ろを撫でさせてもらってもいいかしら?」
「……撫でとるやん」
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/10/09 01:51:30 |
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相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/10/12 10:19:55 |