• 蒼乱

【蒼乱】大将軍の“自宅”にて

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
3日
締切
2016/10/06 19:00
完成日
2016/10/17 13:08

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●天ノ都――龍尾城
 エトファリカ武家四十八家門、第一位立花院家当主にして「八代目征夷大将軍」立花院 紫草(kz0126)は、城の中庭で稽古の最中だった。
 物腰柔らかく常に微笑を浮かべている美男子ではあるが、刀の腕前は達人の域を遥かに越えている。
 武家はエトファリカ連邦国と帝を守護する戦闘集団でもあった。長い間、憤怒の歪虚勢力との熾烈な戦いは戦死者を多く出す一方、数多くの強者も生み出した。
「……腕が鈍ってますよ、蒼人」
 稽古の相手である青年が地に伏せていた。
 武家四十八家門、第九位大轟寺家の大轟寺蒼人だった。最近まで、十鳥城の代理当主として天ノ都を離れていたが訳あって帰っていた。
「いや、ムラちゃんがおかしいだけ」
 言い訳のように呟く蒼人に紫草は冷たい視線を向ける。
「まだ懲りていないようですね」
「調子乗りました。それにしても、紫草様は、また強くなりましたか?」
「当たり前です。我々は常に成長しているのですから」
 しれっと言う紫草。それが容易い事ではないのは、誰の目にも明らかだ。
「しかし、蒼人では、もはや、稽古の相手にもなりませんね」
「面目もありません」
 しょんぼりとする蒼人。
 彼自身もかなりの腕前だ。特に対人戦であれば、歴戦のハンターとも互角以上に渡り合えるだろう。
 それでも、足元にも及ばない。
「それだけ強ければ、もう、作戦を立てなくてもよさそうですよ」
 蒼人はようやく立ち上がる。
 憤怒の歪虚の本拠地がおおよそ判明した為、武家は攻め込む事になっている。
「……私一人で勝てれば苦労はしませんよ」
 紫草の表情に陰りが見えた。
 どんなに強くても一人では守れない。彼が守るのは、エトファリカ連邦国とそこに住む全ての人々なのだ。
 もし、一人で全てを守れるというのであれば、紫草は身命を賭して戦い続けるだろう。
「ハンター達を呼ぶと聞きましたが?」
 話の流れを変えるように蒼人が尋ねた。
 出陣を前に、何人かのハンター達を呼んで、戦いへの助言を求めるという。
「あの冊子には、いくつか弱点がある雑魔も居ますからね。兵達が戦う際の参考になればという事です」
 紫草が向けた視線の先に、その冊子は置いてあった。
 ある依頼で商人が作った物だ。そこに書かれているものと、ほぼ同じ雑魔が出没している。
「それだけでは無いようですが」
「一方的に話すだけでは、退屈な人もいるかもしれませんからね」
 雑魔との戦い方の助言が終われば――ささやかではあるものの、紫草とひと時を過ごすという。

◇冊子
 対策を練る必要がある雑魔の情報を、紫草との会談前にハンター達は渡された。
 既にハンター達との交戦記録のある雑魔もいるという。

◆魔眼
容姿:巨大なメガネのような雑魔
武器:左目の強力な光線
・射撃攻撃:【射撃】左目の蓋を開けると強力な光線が飛ぶ
※蓋をあけるのに、時間がかかる(少なくとも4R以上)

◆影求怪鳥
容姿:頭と足が鹿、胴体と翼が鳥
・近接攻撃:【近接】爪や足による攻撃
・飛行可能
※影のある敵は襲ってこない

◆ジョシリョクタカイ
容姿:可愛い金色の鼠っぽい娘のような外見
武器:棍棒
・近接攻撃:【近接】棍棒による攻撃
・範囲攻撃:【魔法】自分中心に半径5mにわたって強力な稲妻を放つ

◆一本角
容姿:瞳は深き紅、髪は白銀 額に太刀の如き一本角。背中には太刀が幾重の如き刃の翼。
武器:龍尾、紅色の爪
・近接攻撃:【近接】爪や鋭い尾による攻撃
・範囲攻撃:【魔法】翼を広げ、負のマテリアルの鋭い風を全周囲に放つ
・飛行可能

◆濡鳥魔女
容姿:黒く長い髪の女の姿をした雑魔
武器:髪を鞭のようにしあらせて、肉を抉り、精気を吸い取る
・近接攻撃:【近接】髪を鞭のようにしならせる攻撃(最大射程3)
・飛行可能
※ある言葉で動かなくなる(⇒『愛』に関する言葉等)

◆瞳のない者
容姿人の形はしておるが、眼窩にあるべきはずの目玉はなく、暗い穴が2つある雑魔
武器:長い両手は鉤爪
・近接攻撃:【近接】爪などによる攻撃
・ゾンビや骸骨などの死体系の雑魔も複数使役する事ができる

◆グスダブル
容姿:巨人型雑魔(サイズ2)
・近接攻撃:【近接】腕や足による攻撃
・音もなく歩くが、大きな足跡は残す

◆食人植物
容姿:根っこで動く巨大なパンジー。花の中心から美しい女性の姿が見える。
・近接攻撃:【近接】鋭い葉や触手による攻撃
・特殊能力:【魔法】人を甘い最近効果のある香りでおびき寄せる。半径5m。
魔法命中による、魔法判定を行う。成功すれば効果範囲内の対象に混乱による「行動混乱:強度(スキル)」の効果を与える。

◆殺人兎
容姿:見た目普通の白兎の雑魔
武器:鋭く伸びた牙でポンポンと一撃で首を飛ばす
・近接攻撃:【近接】牙による攻撃
・特殊能力:サブ移動で移動力をD6加算できる

●天ノ都――龍尾城内のある建物
 蒼人が去り、紫草は自室に戻っていた。
 供も隠密も下げたので、今は一人。その建物は、紫草専用の“自宅”だった。
 部屋が僅か二つ。一つは寝床であり、もう一つは客人を出迎える為の部屋。
 その部屋から見える小さい庭は、豪勢な庭園……ではなく、紫草自らが耕す小さい畑。
「ここに帰るのも久しぶりですね」
 思わず独り言。
 普段、紫草は本城に寝泊りしている。獄炎を倒したと言っても平和になった訳ではない。
 むしろ、残党する歪虚勢力と復興の両面で忙しさは変わらない。
「だいぶと、育ちましたね」
 畑をしげしげと見つめる。
 育ったのは、野菜ではなく――雑草だった。
 ここの所、忙しかったので、“自宅”に帰れなかったからだ。この“自宅”は、基本的には紫草以外の者の出入りは禁止している。
 掃除や修繕など全てを、紫草が行っているのだ。
「……」
 伴侶が居れば違ったかもしれない。
 戦に次ぐ戦であり、出迎えている時間が無かった――というのは言い訳であると誰もが知っていた。なぜなら、彼は、最後の将軍になる覚悟だったのだから。
 結局、幾つもの奇跡が重なり、東方は救われた。
「……まぁ、後継ぎ問題は、私より、スメラギ(kz0158)様の方が先ですね」
 ニヤっと笑った。
 この話になると帝もなにか言って来そうであるが、大抵、台詞が想像出来る。
「さて、準備しますか」
 ハンター達を“自宅”に招く為に。

リプレイ本文

●準備
 集合時間よりも早くライラ = リューンベリ(ka5507)は、立花院 紫草(kz0126)の“自宅”に足を運んでいた。
「皆様がいらっしゃる前に、細かい所をお手伝いいたしましょう。私は『そちら』の方が本職ですし」
 さすが貴族に仕えるメイドという事か。
 キュッと肩袖を挙げて気合を入れるライラを紫草は出迎えた。
「気を遣わせてしまったようで申し訳ありませんが、ぜひ、よろしくお願いします」
「それでは、失礼します」
 どうやら靴を脱ぐようである為、それに従う。
 そして、グルッと室内を確認。どうしても仕えている屋敷と比べてしまう。
「……これが、侘寂というものなのでしょうか」
 “自宅”は極めて質素な作りであった。仮にも武家を束ねる大将軍であるにも関わらず、だ。
「余り、こちらではお過ごしになってはいないのですか?」
「そうですね。普段は城に居ますので」
 紫草の言葉通りなのだろう。
 散らかっている事はなく隅に埃が溜まっていた。それらを拭き取りながらライラは呟くように言った。
「私事になりますが……私は覚醒者になる前、家の口減らしの為にメイドになりました」
 仕えた屋敷の壁の外、村の家々が亜人の襲撃で焼かれるのを見ることしかできなかった。
「私の様な民を、これ以上出さないようにしてください。その為に、私の力なら、いくらでもお貸しいたします」
「それなら、頼りにさせてもらいますね」
「はい。では、まずはしっかりと掃除させて頂きます」
 ライラが仕事モードに入るのであった。

 鳳城 錬介(ka6053)がやって来た時には、“自宅”の中の清掃も大体終わりかけた時であった。
「……東方。何だか懐かしい場所ですね。昔は東方の何処かに居たのでしょうか」
 記憶喪失であるので思い込みかもしれない。
 だが、鬼という種族を思えば、もしかして、昔、東方に居たのかもしれない。ただ、将軍の“自宅”は、さすがに初めてのはずだ。
「今日はよろしくお願いします、錬介さん」
「お役に立てると良いの……です、が……何ですか、あの草ぼうぼうの畑らしきものは」
 開きっぱなしの戸の奥に庭なのか畑なのか何か見える。
 とりあえず、雑草が物凄い勢いで伸び放題だ。あれは根までしぶとい雑草なはずだ。
「お忙しいのは分かりますが、動物でも植物でも最後まできちんと面倒を見ないと駄目ですよ」
「もっともです」
 頷きながら非を認める紫草。
「結婚でもされて、奥さんに任せれば良いんじゃないですか」
「そうですね……私の変わりに将軍職の仕事をやってくれれば良いのですが」
 笑顔で応える紫草に錬介は苦笑を浮かべた。
「今日の話の後は草むしりをします」
 さすがに見た以上はこのままにしておけない。当初の目的である助言が終わったら、雑草を根こそぎすると決意する錬介だった。

●出迎え
 残りのハンター達がやって来た。
 “自宅”にて迎える用意が出来たのは、先に来た二人のおかげだ。
「お待ちしておりましたよ、皆さん」
 紫草は戸を開けてハンター達を迎える。
「今日は招いて頂いてありがとうございます」
 シェルミア・クリスティア(ka5955)が丁寧に頭を下げた。
 そして、少し顔を上げ、上目遣いで尋ねる。
「立花院さん……紫之さん……どう呼んだ方がいいんだろう、こういう時」
「ここでは呼びやすいように呼んで貰って構いませんよ」
 微笑を浮かべて答えた紫草。シェルミアの背後に居る二人に視線を向ける。
「邪魔するぜ」
「タチバナさん、よろしくだよ」
 龍崎・カズマ(ka0178)とアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が視線に気がついて応える。
 そして、更にその後ろに、怖いほど落ち込んでいるハンターが1人。
「アルマさん?」
 紫草の呼び掛けに、タタタっと駆けて、アルマ・A・エインズワース(ka4901)は紫草の胴にガシっと捕まった。
「わふー…」
「いつもよりだいぶと元気が無いようですね」
「ちょっと色々……あ、これお土産です」
 ハンター業は万事が上手くいくとは限りらない。きっと、アルマも壁にあたる事があるのだろうと紫草は思いながらお土産を受け取る。
 お土産はクッキーや紅茶のようだ。他のハンターも其々何か持ってきている。
「僕からは、これを」
 アルトが差し出したのは剪定ばさみだった。
 庭の手入れ用という訳なのだろうか。
「ちょうど良かったです。今しがた壊れた所でして」
 身体をズラした紫草の後ろ、“自宅”の奥でライラと錬介が中庭での剪定作業を続けていた。

●助言
「なるほど。距離を取って戦うという事ですか……」
 ハンター達の助言を聞き、紫草は考えるように呟いた。
「はい。相手の土俵で勝負をしないというのが大事だと思います」
 錬介が頷きながら言った。
 彼は虚博が作り出した『ジョシリョクタカイ』について助言していたのだ。近づけば強力な電撃が発生するのであれば、その範囲内に入らなければ良い訳だ。
「それは同感ね。『瞳のない者』も両手の鈎爪が主な攻撃手段だから」
 シェルミアが追随して続ける。
「それと、単独や少数での戦闘は避けて、数的優位を保つ事を徹底させた方が良いと思う所かな」
 特に非覚醒者であれば尚更の事である。
「集団を維持しようとすると『魔眼』の攻撃や、空から来る『影求怪鳥』が怖いですね」
「『魔眼』は反対側に回り込めば対抗する手段がなくなります」
 ライラがおかわりのお茶を煎れながら言った。
 移動を繰り返し『魔眼』正面に居なければ問題ないだろう。
「わふ? 『影求怪鳥』は簡単ですよ、皆で光源持って戦うんです」
 紫草にすりすりとしながらアルマがクッキーを口にしたまま手を挙げた。
「自分じゃなくて、お互い照らしたら、うっかり落としても影はなくならないですよね」
 続けてそう言い終わるとパクっとクッキーを食べる。
 優しい味が口の中に広がった。そして、人差し指を立てる。
「襲ってこなければただの的です。射程が判ってる相手なら範囲外から銃や弓で撃ち抜けばいいのです」
 サラっと純粋そうな瞳で言う台詞にしては物騒だが、その通りである。
「弓と銃の長距離射撃部隊とかどうだろう? 銃は覚醒の有無で一番差が出難いかなとね」
 シェルミアが持ってきたランチセットからポテトをつまみながらアルトが銃を持つ動作をみせた。
「『食人植物』の甘い香りで思ったのだけど、軍用犬に匂いを教え込めれば、偵察などにも使えるのではないかな」
「軍事用に訓練を施した犬ですか……匂いという点は他にも活かせそうですね」
 微笑を浮かべていた紫草が真剣な表情になる。
 特別な訓練を施すには今の状態では間に合わないと思ったからだ。ただ、匂いという点は、非覚醒者にも分かりやすい識別であるのは確かである。
「まぁ、全ての兵に、妖怪情報と対抗策を叩きこむ、と言うのは無理な話だ」
 そんな風に切り出したのはカズマだった。
 床に広げた紙に、これから説明する事をすらすらと書き込む。
「だから、俺が提案するのは二つ。一つは兵士らの基礎訓練を継続。もう一つは将に、どう動くか机上で演習する事だ」
「それなら今すぐにでも出来ますね」
「妖怪の手の内はある程度本から読み取れるからな」
 虚博が作り出した雑魔は、ある冊子の内容通りであるのは先だっての長江への探索で分かっている。
「皆さんのおかげで良いように軍勢を編成できそうです」
 紫草が満足そうであった。
「お役に立てれば良かったのです~。でも、この位ならシノさんでも?」
 まだ腰にくっついたままのアルマが首を傾げた。
 武家を束ねる大将軍であり、自身も優れた侍である紫草なら分かりそうではあると思ったからだ。
「……ハンターの皆さんは、対歪虚戦のプロ。その皆さんからの助言は重みがありますから」
 書き纏めた資料を大事に筒に入れる紫草だった。

●“自宅”にて
 刀同士が打ち合い火花が宙に舞った。
 咄嗟に距離を取るアルトは愛刀を構え直した。
「……良い、運動レベルになってるかな?」
 肩で激しく息をつく。紫草が強いと分かっていたが、その想定を遥かに超えていた。
 スキルを駆使して動き回りフェイントを織り交ぜた攻撃を繰り返すが紫草は何事もない様子で払われてしまう。
「えぇ。十分に強いですよ。蒼人に稽古をつけて貰いたいですね」
 紫草の表情は楽しくてしょうがないという程の微笑みだった。
 模擬戦の様子を錬介はしっかりと見つめていた。もし、怪我をするような事があれば回復魔法を使う為だ。
「見るのも勉強……と思ったのですが……」
「目で追うのが精一杯です」
 ライラが言葉を続けた。
 それ程までに、アルトと紫草の模擬戦は高レベルであった。
「……強いというか、次元が違う……」
 呼吸を整えたアルト。相手の動きをしっかりと見据え、学べるものがあれば物にするつもりだった。
 ここまで実力差があると逆に諦めがつくと同時に、希望も見えた気がした。“人”はこんなにも強くなれるのだと。
「私は、とても有意義ですよ」
「それは……良かった」
 紫草はまだ強くなるというのだろうか。
 だらりと刀先を下げたまま構えもしない“紫草の刀”。しかし、そこから放たれる刀捌きは変幻自在で水の流れのようだった。
「久々にアルトが打倒される姿が見えそうだな」
 カズマが何気なく言った言葉通り、模擬戦は紫草の勝利で終わったのだった。

 模擬戦が終わり、アルトの傷を錬介が治している間、ライラから手ぬぐいを渡された紫草は汗を拭きながらシェルミアの質問に答えていた。
「……シェルミアさんは矢鳴文と戦われた方ですからね」
 そう前置きしてから紫草は続けた。
 十鳥城は蒼人が代理で治めていた事。状況が落ち着いて来たので、蒼人の代理は近く解消される事。
「蒼人に継ぐ者は、私の中では既に決めているのですけどね。あの周囲はまだまだ危険ですから」
「それは……?」
「きっと、シェルミアさんにも縁がある人……かもしれませんよ」
 その台詞で誰なのか、見当がついた。
 もし、その通りなら、“あの人”も喜ぶのではないだろうか。
「……私は、“あの人”と全く同じにはなれないけど、代わりに『わたしとして出来る事』をやりたい。その為に、“あの人”と同じだけの強さは欲しいって思うんだ」
 だから強さを求める。紫草に剣を教授させて貰いたいと申し出たのもその為だ。
 まだ、『大根の戻し斬り』は出来ないが、日々、鍛錬は怠っていない。

「今は、もふもふするです! 僕、紫草さんすきですー!」
 突如としてアルマが紫草の胴に飛びつく。
 それを「はいはい」と、頭を撫でる紫草。アルマは顔を上げた。
「……それにしても、虚博さんは一体何考えてるんでしょう。存在が知られた上で陣営が負けたら、その後どうなるか……簡単に想像つきますよね」
 あの憤怒の歪虚は得体の知れない所があるのは確かだ。
 お酒を用意しつつカズマも同様に尋ねる。
「アンタも、実際に会ったなら判るだろうが……どう見る? 私見を聞きたい」
「私は、もし、この先もあの歪虚が生き残ってていても、きっと、東方には居ないと思います」
 先の依頼の際、紫草の推測の言葉を、虚博は否定しなかった。
 肯定の所があるからではないのか。それが紫草の考えだ。そして、東方で存在が知られている以上、東方に虚博の居場所はない。
「仲良くできる歪虚さん、僕は歪虚のヒト、って言ってますけど。そういう方なら……守らないとです。ハンターとして間違ってるのは解ってますけど」
 真剣に悩む表情を浮かべるアルマ。
 虚博は歪虚としては歪虚らしからぬ所があった。ただ、アルマにはハンターとしての役目もある。紫草は優しくアルマの頭を撫で続けた。
「難しく考えるのは政を行う者の役目です。アルマさんはもっと素直で良いと思いますよ」
 “個”を見て決めて貰いたい――そんな事を紫草は呟いた。
「うん。なら、もっと強くならないと……ですね」
 強くなくては守れない時もあるのだから。

 キレのある辛口の純米酒を、お酒が飲める人達のぐい飲みに注ぐライラ。
「カズマ様のぐい飲みは綺麗な器ですね」
「お忘れないようにご注意下さいね。もっとも、忘れても、“いつでも”取りに来る事は出来ますけど」
 含みのある笑いを浮かべながら紫草は告げると、注がれた純米酒をくいっと飲む。
「凄く……いい味ですね」
「酒の席でつまらない話だが、アンタに聞きたい事がある。征西部隊……あれはどんな意味を持つ?」
 東方から西方に向かって陸路を横断している部隊の事だ。
「僕もそれが聞きたいな」
 アルトも席に交じる。傷はすっかりと錬介が癒したようだ。
 自然とシェルミアも頷いていた。
 ――アルマだけは紫草の腰にしがみついたままだ。
「ホープ……希望……その名が、示すものを持って欲しいと貴方は願ったんじゃないかなって、僕は勝手に思っているけど」
 それは部隊を率いる牡丹を含め、部隊の全員が、希望を自身と誰かに灯して示す事ができるのではないかと。
 征西部隊の状況は逐一連絡が入っているはずだ。紫草が知らない訳ではないし、この行軍も紫草が立案したものだ。
「おおむね、アルトさんの仰る通りです」
 紫草は静かにゆっくりと答えた。
 “彼ら”を放置する事もできただろう。あるいは捨て駒として使う事もできただろう。だが、紫草はそれを良しとしなかった。
「……私達は、多くの先人達の想いを受け継いで来ました。それをここで途絶えさせてはいけないと思うのです」
 再び注がれた酒を口につけた。
「そういえば、カズマさんは牡丹をよくみてくれたようで、ありがとうございます」
「いや、礼を言われる意味が分からねぇよ」
 すっとぼけたように応えるカズマに紫草は続ける。
「自由奔放な子だと噂がある位ですからね。マテリアルを吸い尽くされないに」
 紫草の台詞に、その場にいたハンター達が盛大に吹いたのだった。


 大将軍の“自宅”にて、ハンター達から虚博の作り出した雑魔対策の助言は、紫草によって纏められ、さっそく武家軍団に伝われた。
 また、紫草自身も得る事も多く、充実した時をハンター達と過ごしたのであった。


 おしまい。


●片付け
 すっかりと日が暮れて片付けの為に残っていたライラは、食器類を片付けていた。
「これにも……です」
 “自宅”にある物の中に、名前入りの物があるのだ。
 紫草の名前ではない。別の人物――それも、色々な人の名前。
 そして、それらだけは、とても大切に保管されているようでもあった。
「――それはですね。故人の物を譲って貰ったのです」
 居間を片付けている紫草が、ライラの呟きが聞こえたのか応えた。
「……大事に仕舞っておきますね」
 将軍という立場である以上、苦渋の決断をした時もあっただろう。きっと、ここは故人と、紫草が向き合う場所――なのかもしれない。
 ライラは食器を一枚一枚丁寧に紙に包みながら、そんな風に思うのであった。

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重体一覧

参加者一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • 【魔装】猫香の侍女
    ライラ = リューンベリ(ka5507
    人間(紅)|15才|女性|疾影士
  • 符術剣士
    シェルミア・クリスティア(ka5955
    人間(蒼)|18才|女性|符術師
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介(ka6053
    鬼|19才|男性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/10/03 12:50:43
アイコン 立花院紫草さんへの質問
シェルミア・クリスティア(ka5955
人間(リアルブルー)|18才|女性|符術師(カードマスター)
最終発言
アイコン 大将軍宅での過ごし方(相談
シェルミア・クリスティア(ka5955
人間(リアルブルー)|18才|女性|符術師(カードマスター)
最終発言
2016/10/06 11:23:09