仮装のかわりに戦闘服?

マスター:紺堂 カヤ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/10/09 07:30
完成日
2016/10/17 06:13

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ようやく暑さも和らいで、とたんに木葉が鮮やかに色づきはじめたころ。
 美味しい作物もたっぷり市場に出回って、食事もおやつも華やぎが増すころ。
 そんな、心がうきうきと踊るような秋に、ひとり、そわそわしているお嬢様がいた。
 彼女の名前はダイヤ・モンド。グラズヘイム王国の宝石商モンド氏の一人娘である。幼いころは体が弱く、屋敷の外にも満足に出られずに育ったため世の中に慣れていないが、もともとの気質はおてんばそのもの。病弱が改善されてからはそのおてんばぶりを如何なく発揮して周囲をトラブルに巻き込んでいた。
 そんなダイヤがそわそわと落ち着きなく、広い自室をうろうろ歩き回っているとなれば、周囲にとってはあまり喜ばしい事態とは言えない。特に。
「お嬢様。さっきからどうしたんです」
 冷ややかな目でそう尋ねる使用人・クロスにとっては。
「まさかまた、お屋敷を抜け出すことなどをお考えではありませんよね?」
 ダイヤはぎくりと肩をこわばらせた。また、という言葉通り、ダイヤには前科がある。
「あ・り・ま・せ・ん・よ・ね?」
 ぎこちない動きで目をそらそうとするダイヤの顔を覗き込むようにして、クロスは再度尋ねた。いや、これは尋ねているというよりも「抜け出すなよ」という念押しだ。ダイヤは勢いよくこくこくとうなずいた。このクロスの強制力に逆らえるわけがない。ダイヤだって学習するのだ。
(そう、逆らわない方がいいのよね)
 悟ってしまえば不思議と気が楽になるもので、ダイヤは自然と背筋が伸びるのを感じた。目を逸らすのをやめて、しっかりとクロスと向き合うと、突然姿勢を正したダイヤをいぶかるようにクロスが眉をひそめた。
「なんです? お嬢様」
「あのね、クロス。私、抜け出す、とか、逃げ出す、というのはもうやめることにしたわ」
「はあ。それは非常に助かります。無駄に探し回ることをしなくてよくなるわけですから」
「無駄!?」
 褒めてもらえるとは思っていないが、よくもまあこうも暴言ばかりで返答できるものだとダイヤは憤りつつ、ひとまずそれは黙っておく。
「……まあ、いいわ……。それでね。私、これからは逃げたりせずにきちんと主張をしていこうと思うの」
「はあ……。それはそれで面倒な……。で、今回は何を主張なさりたいんです?」
「めんどっ……、まったく……。ええとね。私、自分の将来のことを考えたの。それでね。ハンターを目指そうと思うのよ」
「……は?」
 クロスが、それはもう低い声でそう言った。
「また何をすっとぼけたこと言ってるんだこのお嬢様は、と言いたいところですが心の中に留めるとして」
「全然留められてないわよ、ダダ漏れよクロス」
「それは失礼いたしました」
「口先だけの謝罪ね! 言っておきますけどね、私別にすっとぼけたこと言ったつもりはないわよ! ちゃんと、正面から、お父さまにお願いするつもりでいるんだから!」
 ダイヤはつん、と横を向く。
「最初は、お屋敷を抜け出してハンターオフィスに行っちゃおうかと思ってたけど、どうせクロスに連れ戻されるのが関の山だし、きちんと理解を得ることにしたわ。お父さまは、私の心からの願いだったら聞き入れてくださるはずだもの」
 珍しく筋の通ったことを言い、ダイヤは部屋のドアへと足を向けた。これまた珍しく、クロスが慌ててダイヤを呼び止める。
「お嬢様、どちらへ?」
「どちらへ、ってお父さまのところよ。さっそくお話に行くの」
「もう少し、良く考えた方がよろしいのではないですか? お嬢様はハンターのことをあまりご存じでないのですし」
「あら、そんなことないわ。ハンターのお友だちもたくさんできたし」
 ダイヤはまさしくそのハンターの「お友だちたち」に憧れているわけである。
「しかし、お嬢様がハンターの皆さまとかかわることになっている出来事はすべて、安全なものばかりだったではありませんか。ハンターという職業の危険な部分については何もご存じないはずですよ」
「それは、まあ、そうだけど……」
 暴言を交えることなく説明するクロスの話はもっともで、ダイヤも足を止めて考え出した。
「でも、危険な体験をしてみてから決める、というのは何かおかしい気がするわ」
「では、疑似体験をなさっては如何です?」
「疑似体験?」
「そうです。ハンターの皆様を招いて、ハンターのお仕事がどういうものか、ゲーム形式で教えていただいては?」
「ゲーム形式……」
 ダイヤの顔が次第に明るくなり、クロスの案に前向きになってきたのがわかった。
「ハンター役と、モンスター役を決めて、模擬討伐をしたらいいのよね!」
「ええ、よろしいんじゃありませんか? そろそろハロウィンも近いですし、ちょうどいいでしょう」
「そうね!」
 すっかり乗り気になったダイヤは、早速衣装の相談をしようと、仲良しのメイドたちを呼び集めはじめた。普段なら反対するに違いないこうしたイベントを、クロスの方から提案してくることの不自然さも特に感じていないようだった。クロスはこっそり、胸をなでおろす。ダイヤのハンター志望を、モンド氏ならばあっさり許可してしまう可能性が高いからだ。
「そうなったらどうせ、私もお付きで行かなければならなくなるんでしょうから……、そんな面倒なことはごめんです」
「クロス? 何か言ったー?」
「いいえ、何も」
 クロスの考えをかけらも知ることなく、ダイヤは無邪気に笑っていた。

リプレイ本文

 すっきりとした秋晴れの空だった。ときおり吹く風は肌寒く感じられたが、走り回るにはちょうどいい、とダイヤは思った。
「ねえクロス、みてみて!」
 秋晴れに似合わぬ仏頂面の使用人の目の前で、ダイヤが両腕を広げて見せる。
「みて、って……、何をですか?」
「私の服装よ! どう? カッコいいでしょ?」
 この日の為に新調した服は、全体的に黒を基調とした乗馬服風のもので、豊満さはないがスレンダーではあるダイヤによく似合っている。
「あー、はいはい、よくお似合いですよ。何でも形から入ろうとするお嬢様にぴったりです」
「それ褒めてる!?」
「褒めてますよ。そんなことよりお嬢様、お客様のお出迎えを」
 ダイヤはクロスの雑な言葉に頬を膨らましたが、屋敷の門の方からぞろぞろとハンターたちがやってくるのを見つけると、膨れっ面は一瞬にして笑顔に変わる。
「よぉダイヤ! またおもしれーコトやるみてぇじゃん♪」
 大伴 鈴太郎(ka6016)が楽しげにやってきて、小宮・千秋(ka6272)も軽やかに跳ねながら手を振る。その後ろから、しとやかな歩みでエルバッハ・リオン(ka2434) が「ダイヤさん、お久しぶりです。今日はよろしくお願いします」と挨拶をした。顔なじみが次々とやってくる中、ダイヤは今回初めて屋敷へ来てくれたハンターにもにこにこと挨拶をした。万歳丸(ka5665)の風貌に驚き、「なンだ、鬼をみるのは初めてかィ?」と笑われる場面はあったものの、ダイヤの人見知りは随分と改善されているように見えた。
「皆様お集まりいただきましてありがとうございます。簡単に、趣旨説明を」
 クロスが挨拶と説明をしながら赤いバンダナを全員に配っていく。
「ほほう、中々面白そうな遊びじゃない。なんていったかしら。さば・げー? キーバセン?」
ケイ(ka4032)はバンダナを受け取り、にんまり笑った。テオバルト・グリム(ka1824) も楽しそうに準備を始める。
「へぇ、ハンターごっこか。なかなか面白そうだな! どっちの役も面白そうだけど、折角だから俺はモンスターを選ぶぜ」
  その言葉を皮切りに、参加者たちが組み分けをしていく。ダイヤとクロスも含めて均等になるよう組み分けをした結果、ハンター役になることとなったミルティア・ミルティエラ(ka0155)は、バンダナをスカーフのように首に巻きつつ、照れくさそうに笑った。
「ハンターに憧れて……か。うーん、なんかちょっとそういうの聞くとくすぐったいね……?」
 その呟きを聞いたらしい鈴太郎が妙に渋い顔をする。その鈴太郎の顔を横目で確認しながら、柄永 和沙(ka6481)はこっそり気合を入れていた。
「悪いけど、すずには手加減するつもりはない。はっ倒す」
「聞こえてんぞコラァ」
 旧知の中である和沙にそう返しつつ、鈴太郎は和沙に自分の考えを話そうか迷った。しかし、今回は敵同士。結局は何も言わず、鈴太郎は、何かを決意したようにダイヤへと近付いた。



 ルールを確認し、チーム分けも終わり、スポンジボールやマジックハンドなどのアイテムが配布され、フィールドも整えられた。なお、木箱の配置は主に和沙が指示を出し、万歳丸が軽々と素早く運び込んでくれ、その手際の良さにクロスがいたく感心していた。千秋からはペット参加を希望されたが、公平性を期すため不可とした。覚醒もなし、という方向で話は固まった。
「ヘッへ、喰っちまうぞこらァ!」
 まるごとぞんびを着込んだ万歳丸が、ダイヤに向かってギャボーっと歯を剥いて見せると、ダイヤはきゃああ、とわざとらしく声を上げ、笑って逃げた。バンダナはポニーテールにした栗色の髪にリボンのように結んだようで、髪と一緒にひらりと靡いた。場のテンションは上がり調子で、ゲームのスタートを今か今かと待つ。その雰囲気にクロスはひとつ頷くと、自らもモンスター陣営へ整列した。
「では、始めましょう。制限時間は一時間。ゲーム、スタート!」
 その開始の合図の途端。
「さぁかかって来い!」
 配置された箱の上に、じゃーん、とばかりに飛び乗ったのはテオバルトだった。それも、ユグディラの仮装姿の。愛嬌たっぷりに箱の上で跳ねている。
「……テオさん、何やってんの?」
 ハンター陣営の最奥に設置した木箱に身を隠す作戦だった和沙が、思わず顔を出してツッコミを入れた。
「ん? 目立ってる」
 しれっとそう言って、箱の上からハンター陣営を見下ろすテオバルトに、負けじと飛び出してボールを投げつけたのは、千秋であった。
「目立ち方なら私だって負けませんよー。私はダイヤさんの仮装でーす」
 以前、ダイヤの身代わりを務めたことのある千秋は、ウィッグで髪型を同じにしてダイヤになりきっていた。服装は揃えられなかったものの、充分、敵を撹乱できそうだ。
「よっしゃぁ!」
 向こうが飛び出したならこちらも、とばかりに、両手にマジックハンドを持った万歳丸が木箱の陰から駆け出した。ゾンビとは思えぬスピードで突っ込んでくる万歳丸に、ケイがボールを投げつけた。
「正面から来るやつにはこうよっ」
「げっ」
 ボールのいくつかを器用に避けた万歳丸だったが、避けたところを狙われ、顔面にボールを喰らってしまった。ようし、とケイがガッツポーズをする。
 ゲームは序盤から盛り上がりを見せていた。それを木箱の内側で眺め、タイミングを伺いつつ、エルは考えを巡らせてそっと呟く。
「ハンターの疑似体験を兼ねたゲーム……。しかし、ダイヤさんがハンターを目指しているとなれば、ただ楽しむだけというのは彼女の今後のことを考えると、あまり良くないかもしれませんね」
 実に思慮深いが、そんなエルも、もこもこと愛らしいくまさんになっていた。ふと目を上げると、姿勢を低く取ったクロスが近くにいた。ちょうどいい、と、エルは質問を投げかける。
「クロスさん、ダイヤさんのハンター志望についてはどうお考えなんですか?」
「え、面倒だなあ、と。あ、いや……、私を巻き込まないでくれるのなら好きにしたらいいと思います」
「あら。反対しないのね、意外」
「反対はしませんよ。案外、向いてるんじゃないかと思いますし。ただ……、今のお嬢様は憧れだけで物を言っているようですからそこは正していただきたいと思いますが」
「なるほど」
 エルは頷いて、このゲームにおける自分の立ち回り方を少し考えた。
「ようし、私だって!」
 その心配されているお嬢様・ダイヤが、ゴムのナイフを手に木箱から飛び出してきた。千秋と肩を並べるようにして敵陣営へ近付いていく。ゴム製ナイフを使ってボールを打ち落としていくユグディラ姿のテオバルトに目を奪われつつも、ダイヤが探しているのはもちろん、クロスだった。
「クロスをコテンパンにするチャンスなんてそうはないんだから!」
 目がマジである。
 ダイヤが前へ出たため、ハンター陣営が全体的に前進することとなった。ネコミミをつけ、手書きのヒゲで化け猫に扮した鈴太郎がダイヤ目掛けて動き出すが、木箱の間を縫うように走って前進した和沙が行く手を阻む。
「すず、わかりやすすぎだ。動き読まれたら意味ないぞ」
「ちィッ」
 鈴太郎が舌打ちをして、和沙のゴムナイフ攻撃をすんでのところで避けた。すかさず反撃するが、和沙はアクロバットな動きでそれを避ける。だが、その見事なアクロバットの隙に、鈴太郎は和沙をかわしてダイヤへと向かった。
「あっ、しまった、ダイヤさん! ひとりそっち行ったから!」
 そう叫んでおいて、和沙は次のターゲットを視界に入れた。千秋の攻撃からひらひらと逃げ回っているテオバルトだ。自分が狙われることにいち早く気が付いたテオバルトはにやりと笑うと……、広いフィールドへ誘うように木箱から離れた。
 ダイヤはというと。
「えっ、はい、こっち来るんですね!」
 返事をしたものの、どこからともなく飛んでくるボールを必死に避けていて余裕がない。鈴太郎が一気に距離を詰めた。と、そこへ。
「護衛もハンターの大事な仕事、ってね!」
 踊るような華麗な動きで、ミルティアがひらり、とダイヤを庇った。
「まずはボクが相手だよ!」
「わっ!」
 不意を突かれた上、ミルティアの素早くも柔らかい動きに翻弄され、鈴太郎は大きくバランスを崩した。そこを見逃すミルティアではない。
「よーし、いただきぃ!」
 鈴太郎の二の腕に巻かれた赤い布をつかんでさっとほどいた。やった、と思ったが、しかし。
「ん? これ、バンダナじゃない……?」
 ミルティアが首を傾げ、鈴太郎がふっふっふ、と不敵な笑い声を上げた。
「ネコの魂3つまでってな! いや……6つだっけ? まぁ、いいや。兎に角フッカツだぜ!」
 胸元のスカーフと交換していたバンダナを示して見せながら、鈴太郎はミルティアの首に手を伸ばした。
「しまった、ダミー!」
「へへへ、もらったァ!」
 ミルティアのバンダナを抜き去り、鈴太郎はそのまま、背後に庇われていたダイヤの前へやってきた。拳を固め、大きく振りかぶる。
「手加減しねーつったよな? 覚悟しろよ!」
 そして振り下ろした拳から繰り出したのは……デコピンだった。
「いたっ」
 ダイヤは大きくのけ反ったが、衝撃はそのひとつだけだったことに戸惑ってきょとん、とする。そんなダイヤを、鈴太郎は眉を下げた表情で見た。
「ハンターになったら、もっと痛くて怖い目に遭ったりすンだぜ? ダイヤには危ねぇコトして欲しくねぇよ……」
 ダイヤはそれを聞いて、困ったような怒ったような顔をすると、何も言わずにスカーフと交換されて結ばれている鈴太郎のバンダナに手をかけ、引き抜いた。
「手加減しない、って言ったくせに嘘つきね、鈴さん」
 そう、鈴太郎はゲーム開始前、ダイヤにこっそりと宣戦布告をしていたのだ。ダイヤは抜き取ったバンダナを見せながら、にっこり笑った。
「私の勝ちね」
 呆気に取られた鈴太郎だったが、そのダイヤの笑顔を見て、釣られたように少し笑った。すると、次の瞬間。
「まだゲーム中ですよ!」
 くまの姿のエルがさっと姿を現し、ダイヤの頭に結ばれたバンダナに手をかけた。なんとか避けようとしたダイヤだったが、不意のことに動きが間に合わず、大きくバランスを崩して芝生にへたりこむ。エルに端をつかまれていたバンダナが、ビッ、と音を立てて破れた。
「あっ!」
 無残に裂かれたバンダナを見上げ、ダイヤは自分が負けたことを知った。エルが微笑みつつもはっきりと言う。
「戦場は、非情なものですよダイヤさん」
「はい」
 ダイヤは自分で芝生から立ち上がり、ぱんぱん、と土を払う。そして晴れやかに笑った。
「負けちゃった! ミルティアさん、庇ってくれたのにごめんなさい」
「いいのいいの!」
 ミルティアはひらりと手をふってそれに応える。潔くてカッコいいな、とダイヤは思った。
 ダイヤとともに、バンダナを取られた鈴太郎とミルティアがフィールドから出た。ゲームは終盤に差し掛かっていた。制限時間も残りわずかだ。
 激しい攻防戦を繰り広げているのは、万歳丸とケイだった。ケイはマジックハンドを使い、万歳丸の足元を執拗に狙うものの、万歳丸がとにかく走り回るおかげで捕まえられずにいた。
「捕まえられるもンなら捕まえてみなァ!」
 時折マジックハンドをヒュンヒュン伸ばして威嚇しつつ、ゾンビの仮装をしているとは思えない速さで走り回る万歳丸に、ケイもムキになっていた。
「絶対捕まえるんだからー!!」
 ノリは完全に子どもの遊びだったが、ふたりとも動きは素早く、かなり高度な戦いが繰り広げられていた。残り時間は五分。どうも決着はつきそうにない。
 高度な戦いは、こちらもそうであった。テオバルトと和沙だ。実践さながらにゴム製のナイフを繰り出すテオバルト(ただしコミカルなユグディラ姿)と、トリッキーな動きでそれを避けつつボールを投げて牽制する和沙の本気具合を見て、ダイヤはスポーツ観戦でもしているかのようにわくわくした。
「あ、そういえば、クロスどこ?」
「あれじゃない?」
 ミルティアが指をさした先には、木箱の陰からボールを投げて千秋を牽制しているクロスの姿があった。
「あら。なかなかやるじゃない、クロス」
 ダイヤが感心していたが、千秋は華麗な動きでクロスが身を隠す木箱を飛び越え、クロスに接近した。
「あっ、クロス危ない!」
 思わず叫んでしまったダイヤの声が聞こえたのかはわからないが、クロスは接近してきた千秋のバンダナをタイミングよくつかんで引き抜いた。それは、千秋がクロスのバンダナに手を伸ばすより一瞬、早かった。
「あー、やられてしまいましたー」
 千秋は悔しそうに肩を落とす。ちょうどそのとき、制限時間がきた。
「ゲーム終了です!」
 今まさに勝負を終えたばかりのクロスが、大きく安堵の息をついて立ち上がる。その終了の合図とともに、万歳丸とケイが芝生にへたりこんだ。ふたりとも汗だくだ。
「あー、もう! 負けなかったけど勝てなかった!」
 和沙が地団駄を踏み、テオバルトはふー、と熱い息を吐いた。
「さすがに着ぐるみで本気はきついなあ」
「で? どっちのチームの勝ちなの?」
 ケイが尋ねる。
「モンスター側の勝利でございます」
 クロスは極めて冷静にそう言った。けれど、少々得意げにしているように、ダイヤには思えた。



 約束通り、勝者のモンスターチームにはモンド家特製のかぼちゃパフェがふるまわれた。
「な、なんだこの食べ物は!? 甘い! 美味い!」
 パフェを初めて食べたらしい万歳丸は、見た目にも味にも驚いている。
「ダイヤさんのところのパティシエさんは腕が良いのですね、とっても美味しいです」
 エルも満足そうだ。
 テオバルトは、和沙の目の前で美味しそうにパフェを食べてからかっていた。
「美味しそうー」
「美味しそうー」
「パフェ、食べたかったなー」
 ダイヤ、ミルティア、千秋ががっくりしていた。ダイヤは恨めしそうにクロスを見たが、クロスは「ルールですから」とにべもなくスプーンを自分の口にだけ運んだ。
「ダイヤ、あのさ」
 そこへ、鈴太郎が近付いてきた。
「大伴さま、あげてはいけませんよ」
 素早くクロスが釘を刺す。
「わーったよ……、ってことだからパフェはあげらんねーんだけど……、ゲームのとき、手加減するような真似して、悪かったな」
「ううん。私ももうちょっと、いろいろ考えてみようって思ったから」
 ダイヤはこのゲームで、ハンターの仕事について考える機会を得たようだった。ふたりの会話をそっと聞いていたエルとクロスが、ふと顔を見合わせて微笑んだ。
「くーっ、ひと汗かいたあとのビールは最高ね!」
 ケイが持ち込んだビールを煽るのがいかにも美味しそうで、早く大人になりたいな、などとこっそり思うダイヤであった。

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MVP一覧

  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオンka2434

重体一覧

参加者一覧

  • 明日への祝杯
    ミルティア・ミルティエラ(ka0155
    エルフ|20才|女性|聖導士
  • 献身的な旦那さま
    テオバルト・グリム(ka1824
    人間(紅)|20才|男性|疾影士
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 憤怒王FRIENDS
    ケイ(ka4032
    エルフ|22才|女性|猟撃士
  • パティの相棒
    万歳丸(ka5665
    鬼|17才|男性|格闘士
  • 友よいつまでも
    大伴 鈴太郎(ka6016
    人間(蒼)|22才|女性|格闘士
  • 一肌脱ぐわんこ
    小宮・千秋(ka6272
    ドワーフ|6才|男性|格闘士
  • 《大切》な者を支える為に
    和沙・E・グリム(ka6481
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/10/08 12:08:43
アイコン 相談卓
大伴 鈴太郎(ka6016
人間(リアルブルー)|22才|女性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2016/10/09 07:29:25