ゲスト
(ka0000)
赤獣
マスター:まれのぞみ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/10/12 22:00
- 完成日
- 2016/10/19 23:36
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
それは、ある夕べのことであった。
領主が村を一望できる館のテラスにでて、秋の風にあたりながら、己の領地を眺めていた。彼らしくもないと陰口を叩く者もおるであろうが、一年の中に四季という表情があるように、ひとには様々な顔がある。常になく、そんな物思いにふけったのは、一夜、異界からの来訪者たちと興じた晩餐のことを思い出したからであった。
よもやまの話が語られる中、ひとりの客人が故郷の昔語りをした。
まだ若い館の主に思うことがあったのだろう。それは、ある支配者の話であった。
家々からあがる煙の数をみて食卓の様子を想像し、庶民の暮らしぶりを見抜いた支配者がいたという。
自分は、それほど領民たちの生活に注意を払っているだろうか――まだ、若い領主の心に、ふと、その夕暮れ時、心に去来した思いは、あるいは経験のなさからくる漠然とした不安でもあったろう。若年の、かがやく目を持つ者にとって、世界はまだ若く、広く――そして、知らぬことに満ちあふれている――おや?
それは、なにげない発見であった。
村中の家々から昇る煙の先に、その日、最後の陽光が畑を、まさに黄金の色にかがやかせ、麦穂の大海の、さらにその果てに小島のようにこんもりと盛り上がった場所がある。
村人たちが単に森とだけ呼ぶ、規模のさほど大きくない森だ。
そこに、うっすらと昇る煙が見えた。
まるで救いをもとめる救難の狼煙のように、細々としたもので、やがて宵の帳の中に消えてしまった。
だが――
「焚火にしては……」
奇妙である。
森の山小屋がわりである炭小屋とは方向が違う。
なにより、この季節に村人たちが森へ遊びに行くとも思えないし、炭小屋のおやじも村に出稼ぎにきているのを、先日、村内で確認したばかりだ。
さほど広くもない森だが、部外者が迷い込んでしまったのかもしれないが、ならばなぜ宵闇の近づく中、わざわざ消すのだろうか?
胸騒ぎがした。
最近、近隣の村々を、煙を吐き、巨大な刃をふるって暴れる赤い魔物を率いた盗賊団に襲撃される事件を聞く。
ふむ。
調査隊を送りたいが、現在は麦刈りの時節だ。
常は館にいる兵たちも農家の次男坊、三男坊が多く、収穫期の手伝いの為に休暇を与え、地元に帰らせている。
そんなわけで人手がない。
ならば――
●
「――と、まあそんな話でございます」
ギルドでは、ニコニコと笑いながら初老の男が君たちに、そんな仕事を斡旋した。
つまり森からあがっていた煙の原因をさぐり、それがもし救援を求める存在であるのならば適切に対処し、あるいは害をなすモノであった時には、正体をさぐり、村に被害がでる前にやはり適切に対処しろということであるらしい。
赤い化物については、それにまたがった数人の盗賊団ということ以上の情報をギルドは持っていないといい、森の状態についても手入れのよく行き届いた場所だという。
「あ、それとこれはついででございますが、その赤い化物が暴れた後の土地は、みごとなほどふかふかとした土になったそうでございます」
さて、どうしたものか? 依頼を受けてもいいし、もちろん受諾しなくてもよい。
それで、君たちはどうする?
領主が村を一望できる館のテラスにでて、秋の風にあたりながら、己の領地を眺めていた。彼らしくもないと陰口を叩く者もおるであろうが、一年の中に四季という表情があるように、ひとには様々な顔がある。常になく、そんな物思いにふけったのは、一夜、異界からの来訪者たちと興じた晩餐のことを思い出したからであった。
よもやまの話が語られる中、ひとりの客人が故郷の昔語りをした。
まだ若い館の主に思うことがあったのだろう。それは、ある支配者の話であった。
家々からあがる煙の数をみて食卓の様子を想像し、庶民の暮らしぶりを見抜いた支配者がいたという。
自分は、それほど領民たちの生活に注意を払っているだろうか――まだ、若い領主の心に、ふと、その夕暮れ時、心に去来した思いは、あるいは経験のなさからくる漠然とした不安でもあったろう。若年の、かがやく目を持つ者にとって、世界はまだ若く、広く――そして、知らぬことに満ちあふれている――おや?
それは、なにげない発見であった。
村中の家々から昇る煙の先に、その日、最後の陽光が畑を、まさに黄金の色にかがやかせ、麦穂の大海の、さらにその果てに小島のようにこんもりと盛り上がった場所がある。
村人たちが単に森とだけ呼ぶ、規模のさほど大きくない森だ。
そこに、うっすらと昇る煙が見えた。
まるで救いをもとめる救難の狼煙のように、細々としたもので、やがて宵の帳の中に消えてしまった。
だが――
「焚火にしては……」
奇妙である。
森の山小屋がわりである炭小屋とは方向が違う。
なにより、この季節に村人たちが森へ遊びに行くとも思えないし、炭小屋のおやじも村に出稼ぎにきているのを、先日、村内で確認したばかりだ。
さほど広くもない森だが、部外者が迷い込んでしまったのかもしれないが、ならばなぜ宵闇の近づく中、わざわざ消すのだろうか?
胸騒ぎがした。
最近、近隣の村々を、煙を吐き、巨大な刃をふるって暴れる赤い魔物を率いた盗賊団に襲撃される事件を聞く。
ふむ。
調査隊を送りたいが、現在は麦刈りの時節だ。
常は館にいる兵たちも農家の次男坊、三男坊が多く、収穫期の手伝いの為に休暇を与え、地元に帰らせている。
そんなわけで人手がない。
ならば――
●
「――と、まあそんな話でございます」
ギルドでは、ニコニコと笑いながら初老の男が君たちに、そんな仕事を斡旋した。
つまり森からあがっていた煙の原因をさぐり、それがもし救援を求める存在であるのならば適切に対処し、あるいは害をなすモノであった時には、正体をさぐり、村に被害がでる前にやはり適切に対処しろということであるらしい。
赤い化物については、それにまたがった数人の盗賊団ということ以上の情報をギルドは持っていないといい、森の状態についても手入れのよく行き届いた場所だという。
「あ、それとこれはついででございますが、その赤い化物が暴れた後の土地は、みごとなほどふかふかとした土になったそうでございます」
さて、どうしたものか? 依頼を受けてもいいし、もちろん受諾しなくてもよい。
それで、君たちはどうする?
リプレイ本文
「音……についてでございますか?」
意外だが重要な問いだと言外に臭わせながら、ギルドの担当は目を細めた。
現役のハンターたちの勘のよさに、己の老いを認めながら賞賛を送っている。
「赤い化物にまたがった数人の盗賊団に関してだが、その目撃証言に音に対する情報はなかったかってことだな。生物の唸り声や聞いたことの無い規則性のある、そう機械音みたいなものがあったかってな」
ヴァイス(ka0364)は飲み干したカップをテーブルに置く。
「確かに、それは重要な情報でございましたな。されど、残念なことに我らがギルドの情報網では、それを探ることはできませんでしたし、なによりも、こちらの――しかも田舎の人間には、機械がどんなモノかすらわからない者もおるのでございますよ」
「こちら……ではか」
そう言いながら、仲間たちが立ち上がる。
「はい、あちらのような便利な農作機械は、一般には拡がってはおりませんよ。だから、収穫の時期は人出頼みの人海戦術でこなすしかないのでございます」
「まだまだこちらの農業は重労働の時代ね」
ハンターたちが、自分たちの労務とは別の労働のつらさを思いながらギルドを出て行く。最後に、入り口の扉のところで振り返ったアシェ-ル(ka2983)が敬礼をした。
「収穫前の大事な時ですもんね。さくっと原因見つけて対処してきます!」
●
(赤い魔物か……)
シャーリーン・クリオール(ka0184)は考える。
(土がフカフカになる、と言うと精霊の類じゃなきゃ、リアルブルーで言う耕耘機……?)
ギルドでの会話がまだ頭の中に残っている。
「まあ、なんにしろ近隣の村々を周って盗賊団について聞き込みをしよう」
森へと向かった仲間たちとは、道の半ばで分れ、これから襲撃されたという村々へと足を向けるつもりだ。
「ボクは村の方に残るね」
ユウキ(ka5861)がばいばいと手をふって、仲間を送ると、くるりとまわって、三百六十度。あたりの景色を目に焼き付ける。
全身をつつみこむような、圧倒的なまでの人の手の入った自然。
どこの畑も、家族総出で、その年の収穫をしている様子は見てるだけで圧倒――
「ココが荒されるなんて、荒そうと思うなんて我慢できないよ。村の皆も綺麗な麦畑も絶対に護るから!」
そんな中、通りかかった畑では、働くのいやだとわめいては両親に怒られている子供たちがた。いやはや、異界といえども手伝いを嫌がる子供と、その親というのはリアルブルーと変わらないものらしい。
しかし、そんな様子が彼女の目には映っていたか否か――
(襲撃してきた時間帯、攻撃手段、魔物の大きさ、盗賊の人数、盗賊の服装。それに、やっぱり魔物が立てた音か――被害の内容も、ね。何を取られたか、要求されたか、でも目的が推測できるかも)
――それと暴れまわった跡も見せてもらおう。何か特徴があるかもしれない。
●
「通った後の土がふかふかになる……って、うーん?」
央崎 遥華(ka5644)の心に去来するのも、やはりギルドで聞いた話。
「央崎のお嬢ちゃん、どうした?」
ラジェンドラ(ka6353)が、顔色のすぐれない同行者に声をかけると、そんな疑問が返ってきた。
「そうだな、土地がふかふか……敵の戦い方なのか……何か意味があるのか……。歪虚がいるならその土地は荒れそうなものだが、どういう事だ……」
「そうなんだよね、なんだかリアルブルーにあったトラクターみたいだねーって思っていてね。もしかして本当にトラクターだったり……まさかね」
妄想を振り払うように頭をふる。
(でも、武器を持ってて煙を吐く、このあたり魔導アーマーと似てるなあって――)
人類の最大の敵は未知である。
未知が人を駆り立て、あるいは思考の森の迷い子に変える。
その時の導きの手となるのは知恵である。
森に足を踏み入れたかれらの手にした知恵は森の地図。
無線機を身につけたヴァイスが炭小屋のおやじの手書きの紙をのぞき込む。
煙が上がった原因や場所の特定を行う目的で森に入ってきたのだ。
写しの図面に、探索したエリアをマークしていたアシェ-ルが、ふと目をあげると双眼鏡をのぞき込んだ。
よくよく整えられた森だ。
こんなところで迷うのは、ほんの数歳の子供程度だろう。
ラジェンドラが地面に注意を払っている。
ヴァイスも同じように、こちらは得意の技術を利用して真新しい人が通った跡や、大型の何かが通った跡を探してまわる。
見つけた!
大型の何かの痕跡――生物のものには見えない。
仲間を呼ぶ。
「やはり轍ですね」
ラジェンドラが、それが人工物であると断言する。
うなずき、他班に情報を送ろうとして、無線機に伸しかけた手をヴァイスは止めた。アシェ-ルもうなずき、つぶやいている。
(雑魔? 歪虚? でもないみたいですね)
何かの気配を感じ、かれらは気配を消した。
●
「煙の原因はなんでしょうか……まさか、盗賊団の食事の用意だったり!」
道中、アシェ-ルが、そんな冗談を言ったことがある。
むろん笑って流された小話だが事の本質はついてはいた。
「どうだ?」
「兄貴、なんとかなりそうっす」
工作道具を手にして、まっくろになった男が叫んでいた。
赤いマシンを前にして、肩パッドにトゲをつけたモヒカン頭の男たちが数人、集まってくる。
「やったぜ! これで、村を襲えるぜ!」
「まったくやね、これが壊れちまった時にはどうしようかと思ったぜ」
「あんなに煙をだしちゃって……漢の紅いトラクターカッコカリちゃんに、もしものことがあったら、ボク、ボクちゃん……ぐすんぐすん」
「おお、泣くなよ、泣くな」
それは、巨大なトラクターめいた、何かだった。
赤い車体の後方に地面を掘り返す回転する鋤がついていて、それで地面を掘り返すのだろう。二本の角にように飛び出た巨大な煙突がある。それはもはや地球でいうトラクターとうよりも蒸気機関車であり、その飾られたトゲトゲしい外装と、車体の前方に描かれた目玉のせいで化物めいてさえ見える。
それにしても、その角にも似た煙突にかけられた巨大な布はなんだろうか?
●
「森の中では私達同様に相手も、そう自由に行動はできないはず!」
盗賊たちの姿を認め、ハンターたちは一端、村へと後退するということに傾きかけたところ、別案を声高に唱える者がいた。
「こちらにもリスクはありますが、生じた隙を狙います」
央崎が強襲を進言しているのだ。
(……うん、リアルブルーのヒャッハーな某映画に出てくるようなトゲトゲしい恰好の連中に、それ相応のマシンじゃない! たしかに、あのなりだったら獣に思えるかもだけど……――!?)
「村の中では暴れさせません!」
なにか本来とは違う意味で、まるで子供におかしなものを見せまいとする親心のように、あれはクリムゾンウェストの人たちに見せてはいけない存在だと確信した。
とりわけリアルブルーの名誉の為に。
ならばと、『赤い化物』を、じっと観察していたアシェ-ルが、
「試しに、眠るかどうかやってみますね!」
スリープクラウドを使った。
●
「なんとか終わったよ」
メモに最後のチェックをし終えて、村で留守番をしていたユウキが、ふっとため息をついた。
仲間たちが村人たちにしておいて欲しいことという仕事を残していったので、ひとりであっちでお願いしたり、こっちで頭をさげたりといろいろと走り回っていたのだ。
見れば、ヴァイスの手筈で決められた複数の戦闘予定区域の収穫は終わっている。
「終わったようね」
そこへシャーリーンが戻ってきた。
表情がどことなく柔らかい。
なにか情報があったのか――と、聞こうとしたとき、爆音が響き、地面が揺れた。
「なに!?」
「おい、あれを見ろ!」
村人たちが森を指さした。
まる山火事のような煙があがっている。
無線機から悲鳴にも似たイマンジェンシーがあがった。
「どうしました?」
「敵をもらした! そちらへ向かっている!?」
「敵……」
ユウキが残っていた一般人たちに、村へと戻り家の戸を閉めるようにと叫んだ。
「――ちょっと待って!」
切れかけた無線にシャーリーンは叫ぶ。
「なにかわかったことがあるのか?」
「やはり、あれは農業用のマシンよ。向こうの世界のトラクターをモデルで――といっても伝聞からの想像の産物らしいけど――こちらの世界の工房で作られた試作品が盗まれたものだそうよ」
「そうか」
「だから武装はない。それに巨体を動かすには試作品の機関は能力不足でいつ動かなくなってもおかしくないそうよ」
「だから森で煙を出して動けなくなっていたのか」
「そうね――って、来たわ! 時間を稼ぐから、急いで!」
車体の各所から火をあげながら、巨大なトラクターが村へと近づいてきた。それは本来の機能というよりも森で受けた被害のせいだろう。車体のあちらこちらか白い煙幕もあがっており、操縦席からのぞく盗賊の顔はすすで真っ黒だ。車体の周囲には敵の仲間の姿が見えない。
森の中で、他のならず者たちは眠りの網に捕縛されたのだろうか。
だが、ふたりで勝ちきるには荷が重いだろう。
背後に村人たちがいることを考えると、ここで無駄な賭けをする必要もない。
仲間たちが来るまで時間を稼ごう――
「どっち向いてんだ。敵が誰かもわかんねーのかよ!」
ユウキがトーチをふって、相手を挑発しながら背後へと後ずさり。
「なにを!」
脳のないやつは操るのが簡単だ。
さて、いい場所まで誘い込めた。
――おや、
「その旗はなに?」
角にはためく黒い旗に、なにか文字のような絵が書いてある。
「労苦だ!」
「ろうく?」
「知らないのか! なんたらあおってところのろっくって書いてあるんだよ!?」
「ロック!?」
なんたらあおの元住人は頭を抱えたくなった。
「そうだ。あっちの世界のえらいやつみたいなのが……そう、そいつは言ったんだ! 働きたくないでござる!? ってな。これほど、俺たちの気持ちを表してる言葉はねぇんだ! これこそ俺たちの生きる道なんだよ!?」
本当に頭を抱えたい。
完全に間違った知識だ。
だが、言いたいことはわかる。つまり、まじめに働きたくないから盗みをしているのだという。もしもの場合は村人たちとの仲介も考えていたことすら後悔したくなる。
「いくぞ! 漢の紅い……――!?」
夜炉死苦なみの頭の悪い名称を叫びかけて、大きくくしゃみをした。
「雪……?」
いつしかトラクターの周囲に数週間早い、冬の使者が舞い踊っていたのだ。
しかし、赤い機械に襲いかかる白い結晶は、けして天からの来訪者ではない。
「動きを鈍らせます! 少し早めの吹雪なのです!」
氷凍榴弾がトラクターの片方の目玉を射貫くと、
「うごっぉおおおお」
突然、反対側の車輪も動かなくなって、そのまま巨体は回転をはじめた。
「デートに遅れてくるのはいいことじゃないわよ」
シャーリーンが軽口を叩くと、軽口が返ってくる。
「主役は遅れてやってくるものだよ!」
ヴァイスの放った貫徹の矢が駆動部分を射貫いたのだ。
両輪を壊されてしまい、慣性だけで回転しながら村へと突っ込んでいこうとしている。
その時、巨体の目の前に、女が立ちはだかった。
すでに操縦も不能になって転がってくる物体に向かい、女は片腕を突き出し、腕にまとわりつく電撃を、一閃、
「シビシビしてもらいますよっ!」
央崎の放った一撃。
車体とぶつかった光線、そして、それによって発生した爆発によって機械は吹き飛び、そのまま地面に衝突。
白煙の中、ついに止まった。
「お目、目、くるくる~」
なんたらかんたらの文化をでたらめに受けて育ってしまった、生半可な盗賊団一味はこれでおしまいだ。
「さて、始末だな!」
そのできた隙を見のがさない。
「ウェアラブルデバイス起動、インターセプト」
ジェットブーツを使いラジェンドラが赤い化物の上に移動すると、操縦席にうっぷした盗賊を槍で振り落として戦いは終わった。
やれやれ――髪をかく。
「なるほどな、こっちの人間にとっては、重機も化け物に映るわけか、盲点だったな。こういった事を依頼を聞いたときに思いつかないとはね。俺も少しこっちの世界に染まり過ぎていたって所か……」
「ところで……」
「うん?」
「そこの倒れた人の手当をしておいた方がいいかな?」
圧倒的なまでの完勝のせいで戦闘のお仕事がまるでなかったユウキは、きょとんとしながら仲間たちに同意を求めていた。
●
すでに半ば残骸となってしまった『赤い化物』にアシェ-ルは興味津々。
「おぉ~。これが、こうなってるんですね!?」
新しいおもちゃを手にいれた子供のように歓喜をあげ、ここと、あそこがどうつながっているのとか、どの部品がどの部品に影響を与えているのかと、まるで巨大な立体パズルに挑戦するような感じでもてあそんでいる。
やれやれ――
ラジェンドラもまた、その半壊した物体を見ながら、こちらはため息をついていた。
赤い化物を確保できたなら、扱い方を村の人にも教え、農地の開墾や畑を耕すために使ってもらうつもりだったが、これではまるで意味がない。
正直燃料の補給は無理だろうし、大した時間は動かないと思っていたが、まさかのゼロである。
「旦那、そのうちこれが市場に出回るのかしれんぞ」
それが試作品であると聞いているヴァイスが、その肩を叩いた。
シャーリーンの呼ぶ声がした。
村人たちからお礼にもらった、季節の果物を使って、両面を焼いたパイを作ったという。
「甘いものも良いだろう?」
その声に、足を踏み出した時、髪がそよいだ。
誘うように吹いた風に、ユウキは振り返った
あ――
まだ刈り終わっていない麦穂が揺れている。波たつこがねの海に、虹のリングが沈んでいくように太陽が落ちていく。
夢のような一瞬、心に残る永遠。
それは依頼を成功させたハンターへの、過ぎ去っていく季節と、そして近づいてくる季節からの手向けであったのかもしれない。
●
それで、盗賊団のメンツはどうなったかって?
「そうね、贖罪のためにも『仕事』してもらいますよー」
魔王ですら失禁しながら許しを乞うに違いない、そんな天使のほほえみを浮かべて央崎は捕縛した盗賊団に告げた。その後、どんなことがあったのかは関係者はもちろん、ギルドの誰もかれもが口を閉ざしているので、ことの詳細をここで記すことすら不可能なのだが、彼女いわく、真っ当な生き方を目指した結果、
いまでは――
「労働ハ素晴ラシイデスヨー」
目の輝き失った盗賊団改め、自称社畜のかれらは朝から晩まで、ハレの日も雨の日も、農作業に勤しんでいるという事実だけを記載するにとどめることにしよう。
まあ、なんだ。
めでたし、めでたし
意外だが重要な問いだと言外に臭わせながら、ギルドの担当は目を細めた。
現役のハンターたちの勘のよさに、己の老いを認めながら賞賛を送っている。
「赤い化物にまたがった数人の盗賊団に関してだが、その目撃証言に音に対する情報はなかったかってことだな。生物の唸り声や聞いたことの無い規則性のある、そう機械音みたいなものがあったかってな」
ヴァイス(ka0364)は飲み干したカップをテーブルに置く。
「確かに、それは重要な情報でございましたな。されど、残念なことに我らがギルドの情報網では、それを探ることはできませんでしたし、なによりも、こちらの――しかも田舎の人間には、機械がどんなモノかすらわからない者もおるのでございますよ」
「こちら……ではか」
そう言いながら、仲間たちが立ち上がる。
「はい、あちらのような便利な農作機械は、一般には拡がってはおりませんよ。だから、収穫の時期は人出頼みの人海戦術でこなすしかないのでございます」
「まだまだこちらの農業は重労働の時代ね」
ハンターたちが、自分たちの労務とは別の労働のつらさを思いながらギルドを出て行く。最後に、入り口の扉のところで振り返ったアシェ-ル(ka2983)が敬礼をした。
「収穫前の大事な時ですもんね。さくっと原因見つけて対処してきます!」
●
(赤い魔物か……)
シャーリーン・クリオール(ka0184)は考える。
(土がフカフカになる、と言うと精霊の類じゃなきゃ、リアルブルーで言う耕耘機……?)
ギルドでの会話がまだ頭の中に残っている。
「まあ、なんにしろ近隣の村々を周って盗賊団について聞き込みをしよう」
森へと向かった仲間たちとは、道の半ばで分れ、これから襲撃されたという村々へと足を向けるつもりだ。
「ボクは村の方に残るね」
ユウキ(ka5861)がばいばいと手をふって、仲間を送ると、くるりとまわって、三百六十度。あたりの景色を目に焼き付ける。
全身をつつみこむような、圧倒的なまでの人の手の入った自然。
どこの畑も、家族総出で、その年の収穫をしている様子は見てるだけで圧倒――
「ココが荒されるなんて、荒そうと思うなんて我慢できないよ。村の皆も綺麗な麦畑も絶対に護るから!」
そんな中、通りかかった畑では、働くのいやだとわめいては両親に怒られている子供たちがた。いやはや、異界といえども手伝いを嫌がる子供と、その親というのはリアルブルーと変わらないものらしい。
しかし、そんな様子が彼女の目には映っていたか否か――
(襲撃してきた時間帯、攻撃手段、魔物の大きさ、盗賊の人数、盗賊の服装。それに、やっぱり魔物が立てた音か――被害の内容も、ね。何を取られたか、要求されたか、でも目的が推測できるかも)
――それと暴れまわった跡も見せてもらおう。何か特徴があるかもしれない。
●
「通った後の土がふかふかになる……って、うーん?」
央崎 遥華(ka5644)の心に去来するのも、やはりギルドで聞いた話。
「央崎のお嬢ちゃん、どうした?」
ラジェンドラ(ka6353)が、顔色のすぐれない同行者に声をかけると、そんな疑問が返ってきた。
「そうだな、土地がふかふか……敵の戦い方なのか……何か意味があるのか……。歪虚がいるならその土地は荒れそうなものだが、どういう事だ……」
「そうなんだよね、なんだかリアルブルーにあったトラクターみたいだねーって思っていてね。もしかして本当にトラクターだったり……まさかね」
妄想を振り払うように頭をふる。
(でも、武器を持ってて煙を吐く、このあたり魔導アーマーと似てるなあって――)
人類の最大の敵は未知である。
未知が人を駆り立て、あるいは思考の森の迷い子に変える。
その時の導きの手となるのは知恵である。
森に足を踏み入れたかれらの手にした知恵は森の地図。
無線機を身につけたヴァイスが炭小屋のおやじの手書きの紙をのぞき込む。
煙が上がった原因や場所の特定を行う目的で森に入ってきたのだ。
写しの図面に、探索したエリアをマークしていたアシェ-ルが、ふと目をあげると双眼鏡をのぞき込んだ。
よくよく整えられた森だ。
こんなところで迷うのは、ほんの数歳の子供程度だろう。
ラジェンドラが地面に注意を払っている。
ヴァイスも同じように、こちらは得意の技術を利用して真新しい人が通った跡や、大型の何かが通った跡を探してまわる。
見つけた!
大型の何かの痕跡――生物のものには見えない。
仲間を呼ぶ。
「やはり轍ですね」
ラジェンドラが、それが人工物であると断言する。
うなずき、他班に情報を送ろうとして、無線機に伸しかけた手をヴァイスは止めた。アシェ-ルもうなずき、つぶやいている。
(雑魔? 歪虚? でもないみたいですね)
何かの気配を感じ、かれらは気配を消した。
●
「煙の原因はなんでしょうか……まさか、盗賊団の食事の用意だったり!」
道中、アシェ-ルが、そんな冗談を言ったことがある。
むろん笑って流された小話だが事の本質はついてはいた。
「どうだ?」
「兄貴、なんとかなりそうっす」
工作道具を手にして、まっくろになった男が叫んでいた。
赤いマシンを前にして、肩パッドにトゲをつけたモヒカン頭の男たちが数人、集まってくる。
「やったぜ! これで、村を襲えるぜ!」
「まったくやね、これが壊れちまった時にはどうしようかと思ったぜ」
「あんなに煙をだしちゃって……漢の紅いトラクターカッコカリちゃんに、もしものことがあったら、ボク、ボクちゃん……ぐすんぐすん」
「おお、泣くなよ、泣くな」
それは、巨大なトラクターめいた、何かだった。
赤い車体の後方に地面を掘り返す回転する鋤がついていて、それで地面を掘り返すのだろう。二本の角にように飛び出た巨大な煙突がある。それはもはや地球でいうトラクターとうよりも蒸気機関車であり、その飾られたトゲトゲしい外装と、車体の前方に描かれた目玉のせいで化物めいてさえ見える。
それにしても、その角にも似た煙突にかけられた巨大な布はなんだろうか?
●
「森の中では私達同様に相手も、そう自由に行動はできないはず!」
盗賊たちの姿を認め、ハンターたちは一端、村へと後退するということに傾きかけたところ、別案を声高に唱える者がいた。
「こちらにもリスクはありますが、生じた隙を狙います」
央崎が強襲を進言しているのだ。
(……うん、リアルブルーのヒャッハーな某映画に出てくるようなトゲトゲしい恰好の連中に、それ相応のマシンじゃない! たしかに、あのなりだったら獣に思えるかもだけど……――!?)
「村の中では暴れさせません!」
なにか本来とは違う意味で、まるで子供におかしなものを見せまいとする親心のように、あれはクリムゾンウェストの人たちに見せてはいけない存在だと確信した。
とりわけリアルブルーの名誉の為に。
ならばと、『赤い化物』を、じっと観察していたアシェ-ルが、
「試しに、眠るかどうかやってみますね!」
スリープクラウドを使った。
●
「なんとか終わったよ」
メモに最後のチェックをし終えて、村で留守番をしていたユウキが、ふっとため息をついた。
仲間たちが村人たちにしておいて欲しいことという仕事を残していったので、ひとりであっちでお願いしたり、こっちで頭をさげたりといろいろと走り回っていたのだ。
見れば、ヴァイスの手筈で決められた複数の戦闘予定区域の収穫は終わっている。
「終わったようね」
そこへシャーリーンが戻ってきた。
表情がどことなく柔らかい。
なにか情報があったのか――と、聞こうとしたとき、爆音が響き、地面が揺れた。
「なに!?」
「おい、あれを見ろ!」
村人たちが森を指さした。
まる山火事のような煙があがっている。
無線機から悲鳴にも似たイマンジェンシーがあがった。
「どうしました?」
「敵をもらした! そちらへ向かっている!?」
「敵……」
ユウキが残っていた一般人たちに、村へと戻り家の戸を閉めるようにと叫んだ。
「――ちょっと待って!」
切れかけた無線にシャーリーンは叫ぶ。
「なにかわかったことがあるのか?」
「やはり、あれは農業用のマシンよ。向こうの世界のトラクターをモデルで――といっても伝聞からの想像の産物らしいけど――こちらの世界の工房で作られた試作品が盗まれたものだそうよ」
「そうか」
「だから武装はない。それに巨体を動かすには試作品の機関は能力不足でいつ動かなくなってもおかしくないそうよ」
「だから森で煙を出して動けなくなっていたのか」
「そうね――って、来たわ! 時間を稼ぐから、急いで!」
車体の各所から火をあげながら、巨大なトラクターが村へと近づいてきた。それは本来の機能というよりも森で受けた被害のせいだろう。車体のあちらこちらか白い煙幕もあがっており、操縦席からのぞく盗賊の顔はすすで真っ黒だ。車体の周囲には敵の仲間の姿が見えない。
森の中で、他のならず者たちは眠りの網に捕縛されたのだろうか。
だが、ふたりで勝ちきるには荷が重いだろう。
背後に村人たちがいることを考えると、ここで無駄な賭けをする必要もない。
仲間たちが来るまで時間を稼ごう――
「どっち向いてんだ。敵が誰かもわかんねーのかよ!」
ユウキがトーチをふって、相手を挑発しながら背後へと後ずさり。
「なにを!」
脳のないやつは操るのが簡単だ。
さて、いい場所まで誘い込めた。
――おや、
「その旗はなに?」
角にはためく黒い旗に、なにか文字のような絵が書いてある。
「労苦だ!」
「ろうく?」
「知らないのか! なんたらあおってところのろっくって書いてあるんだよ!?」
「ロック!?」
なんたらあおの元住人は頭を抱えたくなった。
「そうだ。あっちの世界のえらいやつみたいなのが……そう、そいつは言ったんだ! 働きたくないでござる!? ってな。これほど、俺たちの気持ちを表してる言葉はねぇんだ! これこそ俺たちの生きる道なんだよ!?」
本当に頭を抱えたい。
完全に間違った知識だ。
だが、言いたいことはわかる。つまり、まじめに働きたくないから盗みをしているのだという。もしもの場合は村人たちとの仲介も考えていたことすら後悔したくなる。
「いくぞ! 漢の紅い……――!?」
夜炉死苦なみの頭の悪い名称を叫びかけて、大きくくしゃみをした。
「雪……?」
いつしかトラクターの周囲に数週間早い、冬の使者が舞い踊っていたのだ。
しかし、赤い機械に襲いかかる白い結晶は、けして天からの来訪者ではない。
「動きを鈍らせます! 少し早めの吹雪なのです!」
氷凍榴弾がトラクターの片方の目玉を射貫くと、
「うごっぉおおおお」
突然、反対側の車輪も動かなくなって、そのまま巨体は回転をはじめた。
「デートに遅れてくるのはいいことじゃないわよ」
シャーリーンが軽口を叩くと、軽口が返ってくる。
「主役は遅れてやってくるものだよ!」
ヴァイスの放った貫徹の矢が駆動部分を射貫いたのだ。
両輪を壊されてしまい、慣性だけで回転しながら村へと突っ込んでいこうとしている。
その時、巨体の目の前に、女が立ちはだかった。
すでに操縦も不能になって転がってくる物体に向かい、女は片腕を突き出し、腕にまとわりつく電撃を、一閃、
「シビシビしてもらいますよっ!」
央崎の放った一撃。
車体とぶつかった光線、そして、それによって発生した爆発によって機械は吹き飛び、そのまま地面に衝突。
白煙の中、ついに止まった。
「お目、目、くるくる~」
なんたらかんたらの文化をでたらめに受けて育ってしまった、生半可な盗賊団一味はこれでおしまいだ。
「さて、始末だな!」
そのできた隙を見のがさない。
「ウェアラブルデバイス起動、インターセプト」
ジェットブーツを使いラジェンドラが赤い化物の上に移動すると、操縦席にうっぷした盗賊を槍で振り落として戦いは終わった。
やれやれ――髪をかく。
「なるほどな、こっちの人間にとっては、重機も化け物に映るわけか、盲点だったな。こういった事を依頼を聞いたときに思いつかないとはね。俺も少しこっちの世界に染まり過ぎていたって所か……」
「ところで……」
「うん?」
「そこの倒れた人の手当をしておいた方がいいかな?」
圧倒的なまでの完勝のせいで戦闘のお仕事がまるでなかったユウキは、きょとんとしながら仲間たちに同意を求めていた。
●
すでに半ば残骸となってしまった『赤い化物』にアシェ-ルは興味津々。
「おぉ~。これが、こうなってるんですね!?」
新しいおもちゃを手にいれた子供のように歓喜をあげ、ここと、あそこがどうつながっているのとか、どの部品がどの部品に影響を与えているのかと、まるで巨大な立体パズルに挑戦するような感じでもてあそんでいる。
やれやれ――
ラジェンドラもまた、その半壊した物体を見ながら、こちらはため息をついていた。
赤い化物を確保できたなら、扱い方を村の人にも教え、農地の開墾や畑を耕すために使ってもらうつもりだったが、これではまるで意味がない。
正直燃料の補給は無理だろうし、大した時間は動かないと思っていたが、まさかのゼロである。
「旦那、そのうちこれが市場に出回るのかしれんぞ」
それが試作品であると聞いているヴァイスが、その肩を叩いた。
シャーリーンの呼ぶ声がした。
村人たちからお礼にもらった、季節の果物を使って、両面を焼いたパイを作ったという。
「甘いものも良いだろう?」
その声に、足を踏み出した時、髪がそよいだ。
誘うように吹いた風に、ユウキは振り返った
あ――
まだ刈り終わっていない麦穂が揺れている。波たつこがねの海に、虹のリングが沈んでいくように太陽が落ちていく。
夢のような一瞬、心に残る永遠。
それは依頼を成功させたハンターへの、過ぎ去っていく季節と、そして近づいてくる季節からの手向けであったのかもしれない。
●
それで、盗賊団のメンツはどうなったかって?
「そうね、贖罪のためにも『仕事』してもらいますよー」
魔王ですら失禁しながら許しを乞うに違いない、そんな天使のほほえみを浮かべて央崎は捕縛した盗賊団に告げた。その後、どんなことがあったのかは関係者はもちろん、ギルドの誰もかれもが口を閉ざしているので、ことの詳細をここで記すことすら不可能なのだが、彼女いわく、真っ当な生き方を目指した結果、
いまでは――
「労働ハ素晴ラシイデスヨー」
目の輝き失った盗賊団改め、自称社畜のかれらは朝から晩まで、ハレの日も雨の日も、農作業に勤しんでいるという事実だけを記載するにとどめることにしよう。
まあ、なんだ。
めでたし、めでたし
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【相談卓】 アシェ-ル(ka2983) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/10/12 21:14:51 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/10/10 22:53:20 |