ゲスト
(ka0000)
おいしい和食の作り方
マスター:cr

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/09/23 12:00
- 完成日
- 2014/09/29 17:48
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
絢爛豪華な調度品が敷き詰められ、古今東西の珍品希品が並ぶ。
部屋の中央に置かれたテーブルには白いクロスが敷かれ、その上に贅を尽くした料理が並ぶ。
テーブルに着いたのはたった一人。テーブルの一番真ん中に座った男の前に、料理がサーブされる。
男はフォークを突き刺し、料理を口に運ぶ。
部屋にいる人々が一斉に男に注目する。
男は二、三度咀嚼し首を振った。
「……ダメだな」
●
ここは極彩色の街、ヴァリオス。男の名はバロテッリ。このヴァリオスに自分の店である「バロテッリ商会」を構える成功者だ。
「旦那様、考えうる限り最高の素材と料理人を集めて作らせた料理です。何が悪いのですか?」
傍に居た女性が、淡々とした口調でバロテッリに異を唱える。彼女の名はモア。若いながら、バロテッリ商会で番頭を務めている。彼女もまた、有能な商人であった。
「誰もマズいとは言ってねぇだろ。この料理は最高に美味ぇよ」
バロテッリはモアの反論に、不満げに言葉を返す。そしてそのまま、ダメだと言った理由を説明する。
「この料理は美味いさ。だが金さえ払えばこの町の人間なら誰でも食える料理だ。新しい店を立ち上げるんだ。あっと驚くような料理じゃねぇといけないんだ!」
バロテッリは喋りながら、どんどん熱くなっていく。
彼はこの街に、新たなレストランを開こうと考えていた。場所は押さえた。内装の手配も済ませてある。だが、肝心の提供する料理が決まっていない。
そこで試食会が開かれたが、バロテッリを満足させる料理は出なかった。バロテッリは粗野な男だが、こと商売に関する勘は異常に冴え渡る人間だ。彼が満足するような料理でなければ、すぐにレストランは潰れるだろう。
「……旦那様、それでは和食というものはいかがでしょうか?」
モアは思案を巡らせ口を開く。
サルヴァトーレ・ロッソ、その中に居て共に転移してきた人間達が「和食」なるものに付いて話題にしていたことを、モアは思い出した。転移者達がよく食べているであろう料理。これなら、この町の人間を驚かせる事もできるだろう。
「和食に詳しい奴なんて知っているのか?」
「リアルブルー出身者なら詳しいかと思われます」
「とは言っても、限度があるだろう。リアルブルー出身者で和食が作れる人間なんて相当限られてくるぞ」
「私たちも和食を知らないのですから、誰もが自分で考える和食を作ってもらえばいいのではないでしょうか」
「……なら、ハンターズオフィスに頼むか」
「もう依頼書は書き始めています」
バロテッリの決断を先回りして、モアは依頼書の執筆に取り掛かっていた。
ハンターズオフィスに和食作りの依頼が入るのは、翌日の朝の事である。
絢爛豪華な調度品が敷き詰められ、古今東西の珍品希品が並ぶ。
部屋の中央に置かれたテーブルには白いクロスが敷かれ、その上に贅を尽くした料理が並ぶ。
テーブルに着いたのはたった一人。テーブルの一番真ん中に座った男の前に、料理がサーブされる。
男はフォークを突き刺し、料理を口に運ぶ。
部屋にいる人々が一斉に男に注目する。
男は二、三度咀嚼し首を振った。
「……ダメだな」
●
ここは極彩色の街、ヴァリオス。男の名はバロテッリ。このヴァリオスに自分の店である「バロテッリ商会」を構える成功者だ。
「旦那様、考えうる限り最高の素材と料理人を集めて作らせた料理です。何が悪いのですか?」
傍に居た女性が、淡々とした口調でバロテッリに異を唱える。彼女の名はモア。若いながら、バロテッリ商会で番頭を務めている。彼女もまた、有能な商人であった。
「誰もマズいとは言ってねぇだろ。この料理は最高に美味ぇよ」
バロテッリはモアの反論に、不満げに言葉を返す。そしてそのまま、ダメだと言った理由を説明する。
「この料理は美味いさ。だが金さえ払えばこの町の人間なら誰でも食える料理だ。新しい店を立ち上げるんだ。あっと驚くような料理じゃねぇといけないんだ!」
バロテッリは喋りながら、どんどん熱くなっていく。
彼はこの街に、新たなレストランを開こうと考えていた。場所は押さえた。内装の手配も済ませてある。だが、肝心の提供する料理が決まっていない。
そこで試食会が開かれたが、バロテッリを満足させる料理は出なかった。バロテッリは粗野な男だが、こと商売に関する勘は異常に冴え渡る人間だ。彼が満足するような料理でなければ、すぐにレストランは潰れるだろう。
「……旦那様、それでは和食というものはいかがでしょうか?」
モアは思案を巡らせ口を開く。
サルヴァトーレ・ロッソ、その中に居て共に転移してきた人間達が「和食」なるものに付いて話題にしていたことを、モアは思い出した。転移者達がよく食べているであろう料理。これなら、この町の人間を驚かせる事もできるだろう。
「和食に詳しい奴なんて知っているのか?」
「リアルブルー出身者なら詳しいかと思われます」
「とは言っても、限度があるだろう。リアルブルー出身者で和食が作れる人間なんて相当限られてくるぞ」
「私たちも和食を知らないのですから、誰もが自分で考える和食を作ってもらえばいいのではないでしょうか」
「……なら、ハンターズオフィスに頼むか」
「もう依頼書は書き始めています」
バロテッリの決断を先回りして、モアは依頼書の執筆に取り掛かっていた。
ハンターズオフィスに和食作りの依頼が入るのは、翌日の朝の事である。
リプレイ本文
●
極彩色の街ヴァリオス。最先端の流行が発信される街。
「違う! この器では駄目であります! ……おっと勿体無い」
そこで敷島 吹雪(ka1358)は食器を探しまわっていた。ヴァリオスなら、あらゆる食器が揃う。しかし吹雪が望むような食器は見当たらない。思わず手にしていた食器を投げつけようとして思い留まった。
「最悪、自分で焼く所から始める覚悟がいるかもしれないでありますなぁ……」
絵で見本を描き、市場を駆けまわる吹雪。しかし答えは芳しく無い。磁器なら安いものから高いものまで揃っているのだが、吹雪が求めるような陶器が見当たらない。
「こんなのは今うちには無いねぇ。この前売ったばかりだよ」
「そうでありますか……この前売ったばかりと……この前、売ったばかり?」
へとへとになりながら辿り着いた店で、吹雪は思いがけない答えを聞く。思わず、どこに売ったのか食い気味に尋ねた吹雪に店主が出したのは意外な答えだった。
(和食……リアルブルーのとある国の食文化……)
その頃、エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)はヴァリオス魔術学院の資料館の中に居た。料理に余り詳しくないエヴァはまず、和食というものがどんなものかを学ぼうとしたのだ。
借りてきた本をパラパラとめくるエヴァ。あるページで、エヴァの手が止まる。そこに描かれていた和食を示す一枚の絵にエヴァは目を取られた。
●
「お待たせしました」
ずらりと材料が並んだ試食会場の扉が開き、荷物をたくさん抱えたモアが入ってくる。背中には穀物が入った袋。
「お約束の米です」
モアが降ろした荷物の元へ真っ先に向かったのは、藤堂研司(ka0569)。袋を開け、中身を手に取る。淡黄色の丸い粒。間違いない、米、それもジャポニカ種と呼ばれるものだ。
藤堂は米を手にすると瓶の中に入れ、棒を瓶の口から差し込むとトントンと上下させ始めた。
「ありゃ何やってるんだ?」
予想外の行動に、バロテッリは目を丸くしモアに尋ねる。
「さあ……精米、だそうですが……」
モアが返事をした頃、日下 菜摘(ka0881)は材料を見繕っていた。隅に置かれたものを手に取り確かめると水を張った鍋に入れる。
「アンチョビとトビウオ……それにコンブか!」
「それらを干したものです。魚を干したものはニボシと言うそうですね。これでブイヨンを作るそうです」
ブイヨン……和食で言う出汁を取る作業。想像を超える食材に、バロテッリは驚愕していた。
その頃、藤堂は瓶から米を取り出していた。水を注ぎ、手で丁寧に研ぐ。濁った水を捨てて注ぎなおすこと二、三度。米は白く輝いていた。
●
「せっかく和食っていうのなら、それにあったお酒や飲み物を出したほうがいいと思ったの」
料理が出来る前にとシルフェ・アルタイル(ka0143)は二人の前にグラスを差し出す。中には琥珀色に輝く液体。
「ブランデーなら普通に飲んでるぞ?」
「そこに梅を漬け込んでいるようですね」
バロテッリの疑問にモアが返し、グラスに口をつける。芳醇な香りの中から爽やかな梅の香りが広がり、舌を酸味と甘味が覆う。
「これは……いいですね」
「ああ、食欲が増すな」
胃の中に染み渡った梅酒は胃を広げ、次に来る食材を待ち構えていた。
「驚きましたね。レモンチェッロと同じ様な飲み物があるんですね」
レシピを確認したモアは感想を口に出す。
レモンチェッロとは、同盟を中心によく飲まれているレモンを漬け込んだ酒。クリムゾンウェストとリアルブルー、離れた二つの世界に同じような作り方の酒があることを知り、モアは個人的に自分でも作ろうと思っていた。
●
二人が食前酒を飲み終えた頃、菜摘は別の作業に取り掛かっていた。魚の切り身を用意する菜摘。
「マグロか……俺はメカジキの方が好きだな」
バロテッリは素直に感想を口にする。彼が言う通り、マグロはここで余り人気のある魚ではない。
そんなマグロを菜摘は包丁で器用に薄く切る。
「この器が有れば、『勘違い日本文化』が広まることを阻止できるであります」
菜摘が切った魚を吹雪が盛り付ける。取り出したのは四角く少し歪んだ皿。
「って、俺がこの前買った皿じゃねぇか!」
「驚きましたね。旦那様がコレクションした変な食器は和食に使うものだったのですね」
バロテッリの抗議にモアが淡々とツッコむ。バロテッリは珍品奇品に目が無い。先日手触りが気に入って買った皿や鉢は、まさに吹雪が求める和食器だったのだ。
「盛り付けは『三』の数字が基本であります」
抗議を無視し、吹雪は丁寧に盛り付ける。三角を描くように皿に並べ、皿の余白は三割残して。そうやって盛りつけられた皿に醤油と山葵が添えられる。刺身の完成だ。
「って、これだけ?」
ただ魚を切っただけにしか見えず、間の抜けた言葉を漏らすバロテッリ。
一方モアは刺身を口に運ぶ。目を閉じてゆっくり味わうと、バロテッリに食べるよう促す。バロテッリもフォークを突き刺し、醤油を付けて口に入れる。
「……驚いたぜ」
「これが和食の神秘なのかもしれませんね」
刺身を次々と食べる二人。
「こいつはマグロがメカジキより高くなるぜ」
食べ終えたバロテッリの一言は、商人流の最大級の賛辞だった。
●
一方藤堂の作業も進んでいた。米を入れた鍋を火にかけ、吹き零れたところで火を弱める。
弱火に数分かけて火から下ろす。だがまだ蓋は開けない。大切な蒸らしがある。
しばし後に鍋を開けると、中には白くつやつやと輝く白飯が炊きあがっていた。
菜摘の作業も終盤に向かっていた。鍋が沸騰したら火から下ろし、中の煮干しと昆布を取り出すと、黄金色に輝く出汁が完成していた。
●
白飯と出汁ができ、本格的な和食作りが始まる。
まずはミリア・アンドレッティ(ka1467)の番。
「料理人さんがアレンジしやすそうで、種類も豊富に作れそうな丼物を作ってみようかしら?」
ミリアは具材と調味料を集める。鶏肉、玉ねぎ、卵。そして醤油。
「味醂は準備できたかしら?」
「一応ありましたが……」
モアは示す先には琥珀色の液体。
「何だそりゃ?」
「リアルブルーで飲まれる甘い酒です。リゼリアで仕入れたのですが、安定して手に入れるとなると難しいですね」
「これは代用の仕方を教えたほうが良さそうね」
ミリアは酒に蜂蜜を加える。色合いだけなら似たように見える。
本物と代用品、二つが出来たところでそれらを小さなフライパンに加え、醤油と菜摘が作った出汁を加える。そこに玉ねぎを加えてひと煮立ち。
次に鶏肉を加え、火が通ったら溶き卵を回しかける。後は蓋をして余熱で火を通す。
「なるほど、鶏の親子で出来ているから親子丼か! ……丼って何だ?」
「米の上に具材を乗せて食べるものの総称ですね」
モアの言葉通り、ミリアは具をご飯の上に乗せる。親子丼の完成だ。
「ご飯の上に具を乗せる、というのが丼の基本。他にもカツ丼、牛丼、豚丼なんてのもあるわ」
ミリアの解説を聞きつつ、二人は器にスプーンを差し込む。そして一口。
「ふわふわ、とろとろしていて大変美味しいですね。様々な味が交じり合いとても複雑です。口の中で混ざりあうとより美味しくなるのですね。旦那様はどう思われました?」
「見りゃわかるだろ!」
モアの感想の横で、バロテッリはガツガツと丼を掻き込んでいた。
●
「十全に腕が振るえますね」
次は割烹着に三角巾で万全の準備の守原 有希弥(ka0562)。
まず、醤油に味醂と砂糖を混ぜ鍋でひと煮立ち。
「さっきも見たぞ」
「これは返しです」
疑問は守原が解説する。
次いでそば粉に水を加えこね、棒を使って伸ばしていく。四角く伸ばしたところで折り畳んで切るとリズミカルな音と共に麺が作られた。
「ありゃパスタか」
「でも、卵を使っていませんね」
そんな中卵を割り冷水と混ぜる守原。さらに小麦粉を加え軽く混ぜる。
「やっぱり卵使うのか?」
「いえ、違う目的のようです」
モアの言う通り、それをイカやエビなどに付け、次々と熱い油の中に入れていく。最後に千切りにした人参と混ぜ油に投入すると、鍋の中で花が咲いた。
守原は同時に麺を湯の中に投入し、茹で上がった物を半量は器に、もう半量は冷水で締めて皿に盛る。返しと出汁で作ったつゆと揚げたものを添えると天ぷらそばの完成だ。
「何かと思えばパスタとフリッターか」
「でも作り方が全然違いますね」
そう言いながら、二人はフォークを使って食べ始める。
「このフリッターは軽く食べられますね。パスタも美味しいのですけど少々食べにくいですね」
「こうやって食えばいいんだ」
ズルズルと音を立ててそばをすすり始めるバロテッリ。いつの間にか、かけそばの中には天ぷらが入っている。
「旦那様、はしたないですよ」
「いえ、日本ではそのように食べるのが粋とされています」
リアルブルーの食文化を説明する守原。ならばとモアは同様に食べ、言葉を漏らした。
「ああ……美味しい」
●
「難しく色々考えたけど、私はリアルブルーの『和食』というものの原点に帰ってみる、それがテーマかな」
ティアナ・アナスタシア(ka0546)は小鍋を手にそう語る。ティアナが今回作るのは最もオーソドックスな和食、肉じゃがと焼き魚。そこで旬の魚が無いか探す。
そこにあったのは一際目を引く綺麗な形の鯖。鯖の青く光る体に走る黄色いラインが新鮮さを示している。
コクリと頷いたティアナは合わせて鯖を手にし、下処理を始める。
わたを取り除くと塩を振り、かまどの上においた金網に乗せる。
尻尾の部分には多めの塩、綺麗に魚を焼くためのテクニックだ。
すぐにパチパチという音が聞こえてくる。鯖の身に乗った脂が滴り落ち弾ける音だ。
「やまとなでしこを目指す者として、和食の一つや二つパパッと作ってしまわねばなのです!」
一方、リェータ・メルクーリ(ka1937)もそうやる気まんまんで宣言する。なにせリェータはリアルブルー贔屓、着ている服もリアルブルーのものだ。
だが、リェータは自分でもわかるぐらいの料理下手。味はさておき、なぜか作る料理が全て真っ黒になってしまう。
そこでリェータは逆転の発想をした。ならば黒い料理を作ればいいのだと。
というわけで作る料理は炊き込みご飯。藤堂が精米した米を鍋に入れ、そこに一口大に切った人参、茸、それに何かを入れる。
「ありゃ何だ?」
「油揚げです。豆腐を油で揚げたものです」
バロテッリの疑問は、守原が解説。
「豆腐ってのはどういうものだ?」
「藤堂さんが今、手にしているものですよ」
藤堂はリェータの炊き込みご飯の手伝いをしつつ、自分も料理を始めていた。出汁を鍋に入れて温め、手にしたものは白い豆腐。
一方ティアナは鯖の様子を横目で見ながら次の品に取り掛かっていた。玉ねぎを櫛型に切り、油を敷いた鍋で炒める。しんなりとしたところに牛肉を加え同様に。色が変わったら砂糖、醤油、そして味醂。よく馴染んだところで皮を剥いて切り分けたじゃがいもを入れ、出汁をひたひたになるまで入れる。
ここまでくれば弱く火が当たるようにしてじっくり待てば完成だ。焼き魚と肉じゃがの具合を注意深く見るティアナ。
リェータは横で鍋に出汁と調味料を加えながら、これなら自分にも作れるかも、という気持ちと自分が作ったらやはり真っ黒になってしまうのだろうかという不安が入り交じっていた。
炊き込みご飯を火にかけたリェータが今度は藤堂を手伝う。野菜を何とか刻み終えたリェータの横で、藤堂は手の上で豆腐を切り鍋に投入。鮮やかな手さばきに技を盗もうとしていたリェータも目を丸くしている。
鍋が沸いたらそこに味噌を加えて完成だ。
ちょうど同じ頃、炊き込みご飯も出来上がり。最後に蓋を開け、鍋を覗きこんだリェータは手にしたものを鍋の中に入れ、しゃもじでよく混ぜる。
こうして三人が作った料理が並べられる。盛りつけたのは吹雪。三角形に盛られた肉じゃが、焼き鯖、各種味噌汁、そして白いご飯と……
「黒いな」
「黒いですね」
二人がそう漏らした炊き込みご飯。
リェータはやはり黒くなってしまった炊き込みご飯に黒ゴマを大量に加え、フォローしていたのだ。
「究極を目指す、なんて大したこと言えないけど……誰かに美味しく、喜んでもらいたいというのは素晴らしいよね」
「はい! 見た目は悪くとも、料理は愛情なのですよ! ……うん。きっと、たぶん……」
ティアナの言葉にリェータも同意する。最後の方は消え入りそうだが。
そして試食を始める。
「魚を焼いただけだが美味いな。ここらの連中に受けるぜ」
「この肉じゃが、でしたっけ、これも甘くて辛くて美味しいですね」
そして残った黒いご飯。ちょっと勇気を出して口の中に入れる二人。
「……見た目は悪いが、味は悪くない」
「そうですか? 白いご飯と対比になって見た目も悪くないと思いますよ」
そう言いながら目の前に並んだ料理をあっという間に平らげる二人であった。
●
「ふう、よく食ったな」
「ええ、大変美味しかったです」
ひと通り食事を終え、満足した二人。そんな二人の前にシルフェが器が運んでくる。
「和食は季節感を出すものだって誰かが言ってたから、デザートの和菓子は目で楽しめるようにいろいろな形にして、味も全部違うものにしたよ」
9個に区切られた四角い器に、それぞれ菓子が並べられている。薄茶色の色合いが春の空気を思わせるあられ、透き通った外側が見るだけで涼やかな葛饅頭、秋の紅葉を象った練切、白くもちもちした皮が暖かみを与える大福……1年の季節まで表現した一つの世界が作り上げられていた。
横には渋い緑茶も添えられている。
「こいつは驚いた……」
「ええ、食べるのがもったいないぐらいです」
と言いつつ食べ始めるモア。
「甘さもしつこくなくて美味しいですね。女性に人気が出そうです」
「ああ、この茶もいいな。紅茶とは全然違う……そしてこの菓子にちょうど合うな」
二人の満足気な顔がシルフェの、そして一連の和食の完成度を表していた。
●
「で、そこの兄ちゃんは何も作らねぇのか?」
和食を食べ終えたバロテッリが尋ねたのは葵(ka2143)。他の作業を手伝いつつ、本人は今まで何も出して無かった。
「いや、俺が出すものはこれだぜ」
葵が出してきたのは二つの皿。それぞれの皿には塊が3つづつ載っている。葵が作ったのはおにぎり。藤堂やリェータが作ったご飯の残りを握ったものだ。
「単にレストランで提供するだけじゃなく、テイクアウトという方面でもアプローチできれば」
「新しい客になるってか」
そう言ってバロテッリは薄茶色のおにぎりを一口。口の中にご飯の食感と共に、魚の脂の旨味が広がる。
「鯖か! 憎いことしやがるぜ」
一つは余った焼き魚の身をほぐし混ぜ込んだもの。鯖の塩気が白飯の味をさらに引き立たせる。
「これは……」
その横でモアも白いおにぎりを一口食べ驚いていた。中には黒い物体。菜摘が出汁のために使った昆布で作った佃煮。それを中央に入れたのだ。
「お客さんが選べるようにしたら、選べる楽しさというのもあるんじゃないかな」
「ああ、それに手で食べられるのもいいぜ」
「さらに言うと、冷めても美味しいんですね。これは有難いです」
日頃忙しくしている商人達にとって、温かい食事にありつけるのは中々難しい。冷めて不味くなった食事をよくしているモアにとって、このおにぎりは福音に他ならなかった。
そんなモアの気持ちが通じたのか、エヴァが語り始める。
『働いている人が多いから』
エヴァが差し出したのは四角い箱。中に葵が作ったおにぎりに、卵焼きなどのちょっとしたおかずが詰められている。
『少しおかずをつけて持ち帰る様に販売するのもどうかしら、と思ったのですけど』
筆談で自分の思いを語るエヴァ。
「ええ、そうですね……これはフマーレで売ってもいいかもしれませんね」
蒸気工場都市フマーレは労働者が集まる街。忙しく働く彼らには人気が出るだろうとモアは考えた。
「モア、少しは仕事から離れてもいいじゃねぇか。見てみろ、さしずめ食べる芸術だぜ」
彩り良く詰められた箱の中身。リェータの黒い炊き込みご飯もここでは彩りの一ピースとして働いている。エヴァがお弁当を作ろうとしたのは、資料館で見た本でその美しさに目を引かれたからだ。絵描きで日銭を稼ぐエヴァにとって、その美しさもまた芸術である。
「目でも舌でも楽しめる和食の真髄、堪能しました」
モアは仕事の一環で美味しい食事がとれたことに感謝していた。
●
「うう、それにしてもみなさんの料理美味しそうなのです。食べたい……!」
試食会が終わり、リェータが思わず本音を漏らす。リェータはどちらかというと作るより食べる方が得意なタイプだ。
「なら食べりゃいいじゃねぇか。料理は余ってるんだぜ?」
その言葉にバロテッリが促す。
「それなら鍋を作りましょう、ちり鍋としゃぶしゃぶがありますよ」
「茶碗蒸しもありますよ」
「シメのラーメンだって和食だぜ」
その言葉に、まだまだ作り足りないとばかりに料理にとりかかる守原、菜摘、藤堂。試食会は和食による宴に変わっていた
楽しい会話という最高の調味料を得た食事は進む。試食会は大成功、後にバロテッリ商会は和食レストランを開くのだが、これはまた別の話である。
極彩色の街ヴァリオス。最先端の流行が発信される街。
「違う! この器では駄目であります! ……おっと勿体無い」
そこで敷島 吹雪(ka1358)は食器を探しまわっていた。ヴァリオスなら、あらゆる食器が揃う。しかし吹雪が望むような食器は見当たらない。思わず手にしていた食器を投げつけようとして思い留まった。
「最悪、自分で焼く所から始める覚悟がいるかもしれないでありますなぁ……」
絵で見本を描き、市場を駆けまわる吹雪。しかし答えは芳しく無い。磁器なら安いものから高いものまで揃っているのだが、吹雪が求めるような陶器が見当たらない。
「こんなのは今うちには無いねぇ。この前売ったばかりだよ」
「そうでありますか……この前売ったばかりと……この前、売ったばかり?」
へとへとになりながら辿り着いた店で、吹雪は思いがけない答えを聞く。思わず、どこに売ったのか食い気味に尋ねた吹雪に店主が出したのは意外な答えだった。
(和食……リアルブルーのとある国の食文化……)
その頃、エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)はヴァリオス魔術学院の資料館の中に居た。料理に余り詳しくないエヴァはまず、和食というものがどんなものかを学ぼうとしたのだ。
借りてきた本をパラパラとめくるエヴァ。あるページで、エヴァの手が止まる。そこに描かれていた和食を示す一枚の絵にエヴァは目を取られた。
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「お待たせしました」
ずらりと材料が並んだ試食会場の扉が開き、荷物をたくさん抱えたモアが入ってくる。背中には穀物が入った袋。
「お約束の米です」
モアが降ろした荷物の元へ真っ先に向かったのは、藤堂研司(ka0569)。袋を開け、中身を手に取る。淡黄色の丸い粒。間違いない、米、それもジャポニカ種と呼ばれるものだ。
藤堂は米を手にすると瓶の中に入れ、棒を瓶の口から差し込むとトントンと上下させ始めた。
「ありゃ何やってるんだ?」
予想外の行動に、バロテッリは目を丸くしモアに尋ねる。
「さあ……精米、だそうですが……」
モアが返事をした頃、日下 菜摘(ka0881)は材料を見繕っていた。隅に置かれたものを手に取り確かめると水を張った鍋に入れる。
「アンチョビとトビウオ……それにコンブか!」
「それらを干したものです。魚を干したものはニボシと言うそうですね。これでブイヨンを作るそうです」
ブイヨン……和食で言う出汁を取る作業。想像を超える食材に、バロテッリは驚愕していた。
その頃、藤堂は瓶から米を取り出していた。水を注ぎ、手で丁寧に研ぐ。濁った水を捨てて注ぎなおすこと二、三度。米は白く輝いていた。
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「せっかく和食っていうのなら、それにあったお酒や飲み物を出したほうがいいと思ったの」
料理が出来る前にとシルフェ・アルタイル(ka0143)は二人の前にグラスを差し出す。中には琥珀色に輝く液体。
「ブランデーなら普通に飲んでるぞ?」
「そこに梅を漬け込んでいるようですね」
バロテッリの疑問にモアが返し、グラスに口をつける。芳醇な香りの中から爽やかな梅の香りが広がり、舌を酸味と甘味が覆う。
「これは……いいですね」
「ああ、食欲が増すな」
胃の中に染み渡った梅酒は胃を広げ、次に来る食材を待ち構えていた。
「驚きましたね。レモンチェッロと同じ様な飲み物があるんですね」
レシピを確認したモアは感想を口に出す。
レモンチェッロとは、同盟を中心によく飲まれているレモンを漬け込んだ酒。クリムゾンウェストとリアルブルー、離れた二つの世界に同じような作り方の酒があることを知り、モアは個人的に自分でも作ろうと思っていた。
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二人が食前酒を飲み終えた頃、菜摘は別の作業に取り掛かっていた。魚の切り身を用意する菜摘。
「マグロか……俺はメカジキの方が好きだな」
バロテッリは素直に感想を口にする。彼が言う通り、マグロはここで余り人気のある魚ではない。
そんなマグロを菜摘は包丁で器用に薄く切る。
「この器が有れば、『勘違い日本文化』が広まることを阻止できるであります」
菜摘が切った魚を吹雪が盛り付ける。取り出したのは四角く少し歪んだ皿。
「って、俺がこの前買った皿じゃねぇか!」
「驚きましたね。旦那様がコレクションした変な食器は和食に使うものだったのですね」
バロテッリの抗議にモアが淡々とツッコむ。バロテッリは珍品奇品に目が無い。先日手触りが気に入って買った皿や鉢は、まさに吹雪が求める和食器だったのだ。
「盛り付けは『三』の数字が基本であります」
抗議を無視し、吹雪は丁寧に盛り付ける。三角を描くように皿に並べ、皿の余白は三割残して。そうやって盛りつけられた皿に醤油と山葵が添えられる。刺身の完成だ。
「って、これだけ?」
ただ魚を切っただけにしか見えず、間の抜けた言葉を漏らすバロテッリ。
一方モアは刺身を口に運ぶ。目を閉じてゆっくり味わうと、バロテッリに食べるよう促す。バロテッリもフォークを突き刺し、醤油を付けて口に入れる。
「……驚いたぜ」
「これが和食の神秘なのかもしれませんね」
刺身を次々と食べる二人。
「こいつはマグロがメカジキより高くなるぜ」
食べ終えたバロテッリの一言は、商人流の最大級の賛辞だった。
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一方藤堂の作業も進んでいた。米を入れた鍋を火にかけ、吹き零れたところで火を弱める。
弱火に数分かけて火から下ろす。だがまだ蓋は開けない。大切な蒸らしがある。
しばし後に鍋を開けると、中には白くつやつやと輝く白飯が炊きあがっていた。
菜摘の作業も終盤に向かっていた。鍋が沸騰したら火から下ろし、中の煮干しと昆布を取り出すと、黄金色に輝く出汁が完成していた。
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白飯と出汁ができ、本格的な和食作りが始まる。
まずはミリア・アンドレッティ(ka1467)の番。
「料理人さんがアレンジしやすそうで、種類も豊富に作れそうな丼物を作ってみようかしら?」
ミリアは具材と調味料を集める。鶏肉、玉ねぎ、卵。そして醤油。
「味醂は準備できたかしら?」
「一応ありましたが……」
モアは示す先には琥珀色の液体。
「何だそりゃ?」
「リアルブルーで飲まれる甘い酒です。リゼリアで仕入れたのですが、安定して手に入れるとなると難しいですね」
「これは代用の仕方を教えたほうが良さそうね」
ミリアは酒に蜂蜜を加える。色合いだけなら似たように見える。
本物と代用品、二つが出来たところでそれらを小さなフライパンに加え、醤油と菜摘が作った出汁を加える。そこに玉ねぎを加えてひと煮立ち。
次に鶏肉を加え、火が通ったら溶き卵を回しかける。後は蓋をして余熱で火を通す。
「なるほど、鶏の親子で出来ているから親子丼か! ……丼って何だ?」
「米の上に具材を乗せて食べるものの総称ですね」
モアの言葉通り、ミリアは具をご飯の上に乗せる。親子丼の完成だ。
「ご飯の上に具を乗せる、というのが丼の基本。他にもカツ丼、牛丼、豚丼なんてのもあるわ」
ミリアの解説を聞きつつ、二人は器にスプーンを差し込む。そして一口。
「ふわふわ、とろとろしていて大変美味しいですね。様々な味が交じり合いとても複雑です。口の中で混ざりあうとより美味しくなるのですね。旦那様はどう思われました?」
「見りゃわかるだろ!」
モアの感想の横で、バロテッリはガツガツと丼を掻き込んでいた。
●
「十全に腕が振るえますね」
次は割烹着に三角巾で万全の準備の守原 有希弥(ka0562)。
まず、醤油に味醂と砂糖を混ぜ鍋でひと煮立ち。
「さっきも見たぞ」
「これは返しです」
疑問は守原が解説する。
次いでそば粉に水を加えこね、棒を使って伸ばしていく。四角く伸ばしたところで折り畳んで切るとリズミカルな音と共に麺が作られた。
「ありゃパスタか」
「でも、卵を使っていませんね」
そんな中卵を割り冷水と混ぜる守原。さらに小麦粉を加え軽く混ぜる。
「やっぱり卵使うのか?」
「いえ、違う目的のようです」
モアの言う通り、それをイカやエビなどに付け、次々と熱い油の中に入れていく。最後に千切りにした人参と混ぜ油に投入すると、鍋の中で花が咲いた。
守原は同時に麺を湯の中に投入し、茹で上がった物を半量は器に、もう半量は冷水で締めて皿に盛る。返しと出汁で作ったつゆと揚げたものを添えると天ぷらそばの完成だ。
「何かと思えばパスタとフリッターか」
「でも作り方が全然違いますね」
そう言いながら、二人はフォークを使って食べ始める。
「このフリッターは軽く食べられますね。パスタも美味しいのですけど少々食べにくいですね」
「こうやって食えばいいんだ」
ズルズルと音を立ててそばをすすり始めるバロテッリ。いつの間にか、かけそばの中には天ぷらが入っている。
「旦那様、はしたないですよ」
「いえ、日本ではそのように食べるのが粋とされています」
リアルブルーの食文化を説明する守原。ならばとモアは同様に食べ、言葉を漏らした。
「ああ……美味しい」
●
「難しく色々考えたけど、私はリアルブルーの『和食』というものの原点に帰ってみる、それがテーマかな」
ティアナ・アナスタシア(ka0546)は小鍋を手にそう語る。ティアナが今回作るのは最もオーソドックスな和食、肉じゃがと焼き魚。そこで旬の魚が無いか探す。
そこにあったのは一際目を引く綺麗な形の鯖。鯖の青く光る体に走る黄色いラインが新鮮さを示している。
コクリと頷いたティアナは合わせて鯖を手にし、下処理を始める。
わたを取り除くと塩を振り、かまどの上においた金網に乗せる。
尻尾の部分には多めの塩、綺麗に魚を焼くためのテクニックだ。
すぐにパチパチという音が聞こえてくる。鯖の身に乗った脂が滴り落ち弾ける音だ。
「やまとなでしこを目指す者として、和食の一つや二つパパッと作ってしまわねばなのです!」
一方、リェータ・メルクーリ(ka1937)もそうやる気まんまんで宣言する。なにせリェータはリアルブルー贔屓、着ている服もリアルブルーのものだ。
だが、リェータは自分でもわかるぐらいの料理下手。味はさておき、なぜか作る料理が全て真っ黒になってしまう。
そこでリェータは逆転の発想をした。ならば黒い料理を作ればいいのだと。
というわけで作る料理は炊き込みご飯。藤堂が精米した米を鍋に入れ、そこに一口大に切った人参、茸、それに何かを入れる。
「ありゃ何だ?」
「油揚げです。豆腐を油で揚げたものです」
バロテッリの疑問は、守原が解説。
「豆腐ってのはどういうものだ?」
「藤堂さんが今、手にしているものですよ」
藤堂はリェータの炊き込みご飯の手伝いをしつつ、自分も料理を始めていた。出汁を鍋に入れて温め、手にしたものは白い豆腐。
一方ティアナは鯖の様子を横目で見ながら次の品に取り掛かっていた。玉ねぎを櫛型に切り、油を敷いた鍋で炒める。しんなりとしたところに牛肉を加え同様に。色が変わったら砂糖、醤油、そして味醂。よく馴染んだところで皮を剥いて切り分けたじゃがいもを入れ、出汁をひたひたになるまで入れる。
ここまでくれば弱く火が当たるようにしてじっくり待てば完成だ。焼き魚と肉じゃがの具合を注意深く見るティアナ。
リェータは横で鍋に出汁と調味料を加えながら、これなら自分にも作れるかも、という気持ちと自分が作ったらやはり真っ黒になってしまうのだろうかという不安が入り交じっていた。
炊き込みご飯を火にかけたリェータが今度は藤堂を手伝う。野菜を何とか刻み終えたリェータの横で、藤堂は手の上で豆腐を切り鍋に投入。鮮やかな手さばきに技を盗もうとしていたリェータも目を丸くしている。
鍋が沸いたらそこに味噌を加えて完成だ。
ちょうど同じ頃、炊き込みご飯も出来上がり。最後に蓋を開け、鍋を覗きこんだリェータは手にしたものを鍋の中に入れ、しゃもじでよく混ぜる。
こうして三人が作った料理が並べられる。盛りつけたのは吹雪。三角形に盛られた肉じゃが、焼き鯖、各種味噌汁、そして白いご飯と……
「黒いな」
「黒いですね」
二人がそう漏らした炊き込みご飯。
リェータはやはり黒くなってしまった炊き込みご飯に黒ゴマを大量に加え、フォローしていたのだ。
「究極を目指す、なんて大したこと言えないけど……誰かに美味しく、喜んでもらいたいというのは素晴らしいよね」
「はい! 見た目は悪くとも、料理は愛情なのですよ! ……うん。きっと、たぶん……」
ティアナの言葉にリェータも同意する。最後の方は消え入りそうだが。
そして試食を始める。
「魚を焼いただけだが美味いな。ここらの連中に受けるぜ」
「この肉じゃが、でしたっけ、これも甘くて辛くて美味しいですね」
そして残った黒いご飯。ちょっと勇気を出して口の中に入れる二人。
「……見た目は悪いが、味は悪くない」
「そうですか? 白いご飯と対比になって見た目も悪くないと思いますよ」
そう言いながら目の前に並んだ料理をあっという間に平らげる二人であった。
●
「ふう、よく食ったな」
「ええ、大変美味しかったです」
ひと通り食事を終え、満足した二人。そんな二人の前にシルフェが器が運んでくる。
「和食は季節感を出すものだって誰かが言ってたから、デザートの和菓子は目で楽しめるようにいろいろな形にして、味も全部違うものにしたよ」
9個に区切られた四角い器に、それぞれ菓子が並べられている。薄茶色の色合いが春の空気を思わせるあられ、透き通った外側が見るだけで涼やかな葛饅頭、秋の紅葉を象った練切、白くもちもちした皮が暖かみを与える大福……1年の季節まで表現した一つの世界が作り上げられていた。
横には渋い緑茶も添えられている。
「こいつは驚いた……」
「ええ、食べるのがもったいないぐらいです」
と言いつつ食べ始めるモア。
「甘さもしつこくなくて美味しいですね。女性に人気が出そうです」
「ああ、この茶もいいな。紅茶とは全然違う……そしてこの菓子にちょうど合うな」
二人の満足気な顔がシルフェの、そして一連の和食の完成度を表していた。
●
「で、そこの兄ちゃんは何も作らねぇのか?」
和食を食べ終えたバロテッリが尋ねたのは葵(ka2143)。他の作業を手伝いつつ、本人は今まで何も出して無かった。
「いや、俺が出すものはこれだぜ」
葵が出してきたのは二つの皿。それぞれの皿には塊が3つづつ載っている。葵が作ったのはおにぎり。藤堂やリェータが作ったご飯の残りを握ったものだ。
「単にレストランで提供するだけじゃなく、テイクアウトという方面でもアプローチできれば」
「新しい客になるってか」
そう言ってバロテッリは薄茶色のおにぎりを一口。口の中にご飯の食感と共に、魚の脂の旨味が広がる。
「鯖か! 憎いことしやがるぜ」
一つは余った焼き魚の身をほぐし混ぜ込んだもの。鯖の塩気が白飯の味をさらに引き立たせる。
「これは……」
その横でモアも白いおにぎりを一口食べ驚いていた。中には黒い物体。菜摘が出汁のために使った昆布で作った佃煮。それを中央に入れたのだ。
「お客さんが選べるようにしたら、選べる楽しさというのもあるんじゃないかな」
「ああ、それに手で食べられるのもいいぜ」
「さらに言うと、冷めても美味しいんですね。これは有難いです」
日頃忙しくしている商人達にとって、温かい食事にありつけるのは中々難しい。冷めて不味くなった食事をよくしているモアにとって、このおにぎりは福音に他ならなかった。
そんなモアの気持ちが通じたのか、エヴァが語り始める。
『働いている人が多いから』
エヴァが差し出したのは四角い箱。中に葵が作ったおにぎりに、卵焼きなどのちょっとしたおかずが詰められている。
『少しおかずをつけて持ち帰る様に販売するのもどうかしら、と思ったのですけど』
筆談で自分の思いを語るエヴァ。
「ええ、そうですね……これはフマーレで売ってもいいかもしれませんね」
蒸気工場都市フマーレは労働者が集まる街。忙しく働く彼らには人気が出るだろうとモアは考えた。
「モア、少しは仕事から離れてもいいじゃねぇか。見てみろ、さしずめ食べる芸術だぜ」
彩り良く詰められた箱の中身。リェータの黒い炊き込みご飯もここでは彩りの一ピースとして働いている。エヴァがお弁当を作ろうとしたのは、資料館で見た本でその美しさに目を引かれたからだ。絵描きで日銭を稼ぐエヴァにとって、その美しさもまた芸術である。
「目でも舌でも楽しめる和食の真髄、堪能しました」
モアは仕事の一環で美味しい食事がとれたことに感謝していた。
●
「うう、それにしてもみなさんの料理美味しそうなのです。食べたい……!」
試食会が終わり、リェータが思わず本音を漏らす。リェータはどちらかというと作るより食べる方が得意なタイプだ。
「なら食べりゃいいじゃねぇか。料理は余ってるんだぜ?」
その言葉にバロテッリが促す。
「それなら鍋を作りましょう、ちり鍋としゃぶしゃぶがありますよ」
「茶碗蒸しもありますよ」
「シメのラーメンだって和食だぜ」
その言葉に、まだまだ作り足りないとばかりに料理にとりかかる守原、菜摘、藤堂。試食会は和食による宴に変わっていた
楽しい会話という最高の調味料を得た食事は進む。試食会は大成功、後にバロテッリ商会は和食レストランを開くのだが、これはまた別の話である。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/09/22 22:23:00 |
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相談卓 日下 菜摘(ka0881) 人間(リアルブルー)|24才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/09/23 11:16:56 |
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モアさんに質問したいの。 シルフェ・アルタイル(ka0143) 人間(クリムゾンウェスト)|10才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2014/09/20 23:39:04 |