ゲスト
(ka0000)
竜と兎の狂想曲
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2016/10/22 22:00
- 完成日
- 2016/10/29 01:07
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
カチャは朝一番、アパートの同居人にして後見人であるアレックスに相談を持ちかけた。トーストを齧りながら。
「私、どうも最近イロモノ依頼にばかり関わり過ぎているんじゃないかと思うんですよね」
アレックスはコーヒーを飲みながら応じる。
「そうかもな。この間は補導されたし。まあ、胸出して騒いだくらいで反応し過ぎだって感じもするけどな。屋外ならともかく、屋内だろ?」
「屋内でも十分NGだと思うんですけど……とにかくですね、こんな話故郷の母に知れたら骨まで丸焦げになるくらい雷が落ちるんです」
「あー、お前のお袋さんおっかないもんなー。怒らせたら理詰めでぐいぐい来るもんな」
「ええ。下ろし金かける要領でぐいぐい来ますよぐいぐい……そういうわけですから、そろそろハンターとしての本道に戻らなきゃって思いまして。そのためにはイロモノと縁が無いまっとうな依頼を受けるべきですよね」
「そうかもな」
「というわけでアレックスさん、私の代わりに依頼を探してきてくれませんか?」
「え? なんで自分で探さねえの?」
「……いえ、自分でやると知らず知らずにまたイロモノを掴んじゃうんじゃないかと……依頼選びに対する負け癖?みたいなのがついてる気がして……それなら他人に任せた方が外れを取る確率が低くなるかと……」
「考え過ぎだと思うけどな。まあ、いいぜ、別に。それなら選んできてやるよ。なるべくまともそうな奴を」
「頼みます」
●
ここは帝国との国境近く。
どんより曇った空の下。肌寒い風が吹きすさぶ丘の上。
あんぎゃあああああ
ドラゴン型歪虚が吠えている。
刺だらけの背中。ホオズキのように真っ赤な目、裂けた口には牙がずらり、それでもって炎の息を吐く。息を吹き付けられた足元の草はすぐさま燃え上がり、灰になる。
見るからに凶暴そうな化け物。
それがカチャにとっては喜びの種。眼を輝かせ、その場でぴょんぴょん跳び撥ねる。
「そう! これですよ! こういうのですよ私が求めてたのは!」
これぞ、イロモノではない普通の歪虚。久しぶりに普通の戦闘が出来る。
さあ行くぞ、とやる気を漲らせるカチャ。
そのときドラゴンのいる丘と相対した丘に、黒兎ロップイヤーの着ぐるみ――手足等を縫い縮め綿を入れてあるので縫いぐるみに見える――が現れた。
『待て、ふらちな歪虚め! ぴょこがいる限り、平和なこの地をお前の好きにはさせーん!』
カチャはそのウサギに見覚えがあった。
(間違いない。あれは以前依頼で関わった、着ぐるみ憑依英霊……!)
しかし何故こんなところに。思いかけた矢先、気づく。そういえばあの依頼が行われた村とこの場所、同じ郡名だと。
私はどこまで行ってもイロモノから逃れられないのかと、軽く落ち込むカチャ。
彼女がそうしている間に、ぴょこが走りだした。短い足で。
『食らえ、ぴょこられぱんち!! ほあわああああああああああ!』
刺ドラゴンは、ぎゃおおおと吠えた。
炎を吐き散らしながらぴょこに向かって行く。背中の刺を持ち上げて。
リプレイ本文
「わー……大きなドラゴンさんなのですよー……」
ドラゴンもどきに目を奪われるシャルア・レイセンファード(ka4359)の耳に、直後聞こえてきた謎の声。
『待て、ふらちな歪虚め! ぴょこがいる限り、平和なこの地をお前の好きにはさせーん!』
一体何かと目を向ければ、黒いロップイヤー(のぬいぐるみ)。
「って、えっ、あそこにいるのは、兎、さん?」
ウィーダ・セリューザ(ka6076)は走ってくるうさぎに、胡散臭げな視線を向けた。
「……何だあのぬいぐるみ?」
短い足で懸命にちこちこ駆けるその姿。時音 ざくろ(ka1250)は、すっかり魅了されてしまう。
「見てリナリス、すごいよ、人間サイズのぬいぐるみが動いてるよ! 世界の神秘だ、冒険だ!」
と目をキラキラ。
対しリナリス・リーカノア(ka5126)は、大声でうさぎに呼びかける。
「あっ、ぴょこだー♪ おーい、ぴょこー!」
「……あっ、知り合いなの?」
「もちろん! あたしがあの子を発掘し、そして育てたっ! そうだよね、カチャ」
同意を求めるリナリスはカチャは、曖昧に頷く。
「……まあ、一面でそう言えなくもないですかね」
天竜寺 詩(ka0396)はカチャに尋ねた。相手の表情の曇り具合を気にかけつつ。
「カチャ、あの兎さんと知り合いなの?」
「ええ、一応は」
「中の人誰なの?」
「誰って言うか、誰も入ってませんよ。あれはあのままの生き物って言いますか――」
会話を小耳に挟んだビリティス・カニンガム(ka6462)は、早とちりした。
「ありゃユキウサギとかいう幻獣に違いねえ! 助けねえと!」
以下の台詞後半部分を聞かないまま、走りだす。
「――英霊が憑依して動かしてるんです。憑依型英霊って感じでしょうか?」
「……何それカッコいい」
「え? カッコいいですか?」
カッコよさについての議論はさておくとして、とにかくあれは敵ではない。
確信を得たリズリエル・ュリウス(ka0233)は、うさぎ仲間の応援をするため地を蹴り、跳ねて行く。
「うごくぬいぐるみうさぎが居ると聞けば黙っておれぬ。という事で兎の道化師、くらうんらびっつ参戦!」
ところで丘のあっちとこっちから走ってくる歪虚とぴょこの二者は、この段に至ってもまだ接触していなかった。両者、見た目に反し進行速度が遅いのだ。
ビリティスとリズリエルを追うように、他のハンターたちも駆け出した。リナリスは戦闘に先駆けいち早く、カチャに依頼をしておく。
「あ、そうだ。カチャ、ぴょこの直護頼むね」
「え、護衛……いります?」
「そりゃいるよー。ぴょこは天然コットンとウールで構成されてるんだから。火がついたら炎上必至だよ?」
あの体が燃えても英霊自体は傷つかないのではないのだろうかという疑問を抱くが口には出せないカチャ。
オルタニア(ka6436)は甘美な紅の幻想に酔い、人知れず舌なめずりする。
「さて、どんな愛を語れるかどうか……まぁ綺麗に化粧をしてやればいいか」
●
『ほぉああああああああ……あっ』
短い足をもつれさせてぴょこが転ぶ。
手足を丸め玉になって丘を転がり落ち、突進してくる歪虚にぶち当たられ、高く跳ね上げられた。
しかしさすがは英霊、高所から落ちてきてもすぐ起き上がる。体に棘が刺さっているが、本人気にならないようだ。中身が綿なだけに。
『うぬぬ、運のいい奴め。しかし次は外さんぞ!』
再び歪虚に挑もうとする彼の前にリズリエルが、ずさーっと滑り込んできた。
しっかり相手の目を見て、まずは自己紹介。
「くらうんらびっつ、道化師だ!」
後から追いついてきたビリティスも、ついでなので自己紹介。
「闇狩人ビリィ、得意技はπタッチだ!」
ぴょこも自己紹介。正義の味方はノリがいい。
『わしはぴょこ、この地の平和を守る英霊じゃ!』
正体を聞いたビリティスは、大いに盛り上がった。
「何、幻獣じゃなく英霊? なら一緒に戦おうぜぴょこ!」
『よかろう! 皆のもの、わしに続け!』
再度突撃を敢行しようとするぴょこ。そこにカチャが息を切らせ、飛び込んできた。垂れ耳を押さえ、ぴょこを引き留める。
「ちょっちょっと待って下さい! せめて棘を抜いてからにして下さい!」
ざくろはぴょこたちの前に立ち盾を構え、歪虚に対峙した。
「うさぎさん、ざくろも平和を護る為、一緒に戦うよ! マテリアルアーマーフルドライブ」
マテリアルの障壁にぶち当たった歪虚は、猛り狂って吠え上げた。そしてまた同じように突進した。
再度展開された障壁にぶち当たり、いよいよ猛り狂う。
失敗から学んでいないあたり、かなり頭がよくないらしい。
「うさぎのぴょこの性能とやら、見せてもらおう。とぅっ!」
リズリエルは空中三回転ひねりで歪虚の前に着地。べろべろばあと舌を出す。
「亀よりノロマなドラゴンじゃ、うさぎには追いつけないぜっ」
たとえ言葉が分からなくても、おちょくられているということは伝わるものだ。歪虚は跳ねるリズリエルに向け、唸った。
ビリティスもソウルトーチをちらちらさせ、挑発を始める。
「何がドラゴンだ只の火吹きトカゲじゃねえか! 黒い翼もねえし喋れるだけの知性もねえ! 何より威厳が全くねえ! 真のドラゴンなら金色の闘気纏って泰拳術で戦ってみせろ! あちょー!」
槍の穂先もドラゴンの前にしつこく突き出し、煽る。
「ほーら偽ドラかかってこいよ♪」
加えてぱっとスカート捲り、パンツもあらわに尻叩き。
そこにぷすっという音。
「やべ、屁こいちまったぜ♪」
歪虚は怒り狂った。さっきまで自分が何をしていたか忘れて、猛然と彼女らを追い始める。
「ひゃひゃひゃひゃ、こいつマジ切れしてるおもすれーww」
彼女らが引き付けを行っている間にアースウォールを立ち上げ、ぴょこの姿を隠すシャルア。刺を抜き終わるまでの時間が稼げるように。
ウィーダはぴょこについて放置の姿勢。歪虚との戦いに専念する。あれはやりやすい方の敵だ。爪や牙はもちろん、刺のリーチもたいしてない。ブレスについても、ごく短いものしか出せていない。
「ならボクは、アウトレンジから攻撃させてもらうよ。元々そういう職業だ」
うそぶいて剛力矢を引き絞り、冷気を纏った矢を放つ。
オルタニアは刺の存在を歯牙にもかけず、接近戦を始めた。灼熱した刃で、歪虚の脚関節、首筋といった障害の少ない場所を狙う。
「愛と共に喰わせて貰わうぞ? ドラゴン」
●
詩とともに後衛で支援を行うリナリスは、ぴょこの立ち回りを観察していた。
何が問題かといって、とにかくパンチが当たっていない。
詩がジャッジメントで一時停止をかけてさえ、スカっと空振りする始末。
「当たらなくても落ち込まない! 諦めない限り奇跡は起こるんだよ!」
『左様、念ずれば花開く!』
言った直後至近距離から炎を吹きかけられるぴょこ。詩はホーリーヴェールで援護し、炎上を防ぐ。
(ぴょこの攻撃がいまいちな一番の原因は……キャラに引きずられてるのもあるけど……今の体での動作に慣れていないからだよね)
そう考えたリナリスは、ぴょこを自分のいる後方に呼んだ。
「ぴょこ、一旦下がって! こっちに来て!」
ついでカチャに言った。
「そのまま引き付け頑張って!」
「そう来ると思ってましたよ!」
カチャは下がって行くぴょこに歪虚が注意を向けないよう、鼻面に竹刀を打ち付けた。
ビリティスがその横で、またしても屁の挑発。
「ほらほら、こっちだノロマ!」
次の瞬間炎が、屁に引火した。
「ううおっちい!?」
「ビリィさんお尻が燃えてますよ!」
慌ててビリティスの尻を叩き、鎮火するカチャ。
危険だと判断したざくろは、彼女らと歪虚の間に割り込んだ。
「やらせはしないよ……ブレス来る?って、短っ」
盾で炎を避けながら、メイスで鼻や背中をガンガン殴る。
棘がメイスに刺さり、抜けた。
(……盾で殴りつけたら、大量に抜けたりしないかな?)
試しにメイスを引っ込め盾を前面に押し出し、背を殴りつけてみる。
目論みは当たった。先程より多くの刺が取れた。
オルタニアが足の関節に切りつける。皮膚の切れ目から血が滲んできた。
「紅程綺麗で化粧に会う色はないだろう?」
歪虚は刺を逆立て、尾を振り回し暴れた。
刺が腕に刺さったがオルタニアは動じる事なく、力任せに引き抜く。返しのついた刺が肉を引き裂く痛みに哄笑する。
「ハハハッ! 受け入れてくれ、私の想いをなっ!」
●
しゅっしゅとジャブを放つぴょこ。ボタンの目がキラリと光る。
『うむ、分かったぞ! これが……リングにかける魂なのだな!』
ボクシング指導を終えたリナリスは、ぴょこが完全に技をマスターしてくれたことに感無量。
「勝つことがすべて、それが王道! さあ、戻ろうぴょこ!」
●
シャルアはドラゴンの棘に着目した。
これまでの経過から見るにあの棘は、ヤマアラシと同じく、ものに刺さると案外簡単に抜けるらしい。
(もしかするとアースウォールでも、抜ける……?)
いや、きっと抜けるに違いない。
確信を抱いたシャルアは、ぴょこと一緒に戻ってきたリナリスにその旨を伝え、一緒にありったけの壁を立ち上げた。
そして、皆に呼びかける。
「皆さん、なるべく壁に当たるように誘導してくださーい! そうすれば、もっとたくさん刺が取れるかも!」
「おっけー♪」
リズリエルは歪虚の前に出た。ショットアンカーを振り回しぴしゃりと鼻先に当ててから、背を向け走り始める。
追い始める歪虚。
牙が届くか届かないかというところでアンカーを地面に打ち込み、急激な方向転換。
歪虚も向きを変えようとしたが、気持ちに体が追いつかず、横ざまに倒れ壁と衝突。
壁は崩れたが、刺も抜けた。
「くらうんらびっつ、大成功♪」
リズリエルは別の壁の上でぴょんぴょん跳びはね、大仰な礼をする――サーカスの一場面を演じているかのように。
腹を立てた歪虚は彼女が乗っている壁に、頭から突進する。
「くそっ、よくもあたしのパンツに穴空けやがったな! 尻から風邪ひいたらどうしてくれんだ!」
ビリティスは大身槍を歪虚に向け突き出し、直進を押さえた。
前から来る力に槍がたわむ。しかし彼女は譲らない。
カチャは歪虚の意識をそらさせるため、竹刀で横から目を叩いた。オルタニアは刺が抜けた背中を執拗に切りつけた。
ウィーダの矢が、鼻の穴に刺さる。
歪虚は轟きを上げ向きを変え、彼女らの方を追い始める。
リズリエルはシャルアとリナリスが作ったアースウォールの上を伝い、歪虚を追った。追い込まれたところで、止めをさしてやろうと。
その時、何者かが彼女の横をかすめ、追い抜いて行った。
それは跳びはね走法を身につけたぴょこだった。
『皆のもの、危険なので下がるがよい! とおっ!』
うさぎが壁の上から跳ぶ。
シャルアはファイアエンチャントを送った。
「あたし達の想いを乗せ、祈りを纏い、どうか、その必殺技を成功させてください!」
リナリスはウィンドガストを送った。
「風の様に高く舞い上がれ! ぴょこ、風に、旋風になるっちゃー!」
彼女らの祈りと力を受け、ぴょこは高く高く、跳ぶ。点にしか見えなくなるまで。
空がにわかにかき曇り雷鳴が轟いた。
炎を纏ったぴょこが、錐揉み高速回転しながら落ちてくる。
その身から生まれるのは竜巻。地上にいたハンターたちは、吸い上げられそうなほどの風圧を感じる。
機動剣を振るっていたざくろは、攻撃の途中で退いた。とてつもないものが来そうな予感がしたからだ。
リナリスは壁の後ろに身を隠し、夢中で魔導カメラのシャッターを切る。
「風よ、龍に届かんことを……」
『スパイラルぴょこられパンチ! オン・ファイアー!』
ぴょこの拳が歪虚の額に当たった。
歪虚が細かな粒に分解し、弾ける。
目を焼くほどの光が世界を包んだ。遅れて猛烈な衝撃波が――。
どむん。
●
丘の中腹に出来た直系5メートルほどのクレーター。
しゅうしゅう煙を上げている縁に手をかけはい上がってきたのは、土埃まみれのウィーダ。
「……今何が起きたんだ」
同じく土埃まみれのざくろ。
「眩しくてよく見えなかったけど……歪虚は消滅したみたいだね」
さらに同じく、土埃まみれのシャルア。
「とりあえず、作戦成功のようですね~」
彼女らの目の前では、先にはい上がったらしいリナリスが、片目の外れそうになっているぴょこを抱き締めている。
「やったやった、すごいよぴょこ! 完勝だよー!」
ビリティスもぴょこに抱き着き、もふる。
「見直したぜゆる英霊!」
くらうんびっつのリズリエルも跳びはねはしゃぎ回る。
「トカゲ肉は手に入らなかったけど、ま、いっか♪」
ビリティスがぴょこの手を持ってぐるぐる回り始めた。軽いぴょこは、完全に振り回される形となっているのだが、本人は特に気にしていないらしい。『ふははは、正義は勝つのじゃ!』なんて、上機嫌である。
それを見たシャルアはほっとした。ぴょこたれパンチへの加勢が『余計なことをして』と思われていないか、気になっていたのだ。
取り急ぎ、お祝いに駆け出す。
「ぴょこさん、おめでとうございますー!」
ざくろとウィーダが続く。
クレーターの底ではカチャが憮然とした顔で、頭に積もった土を払い落としている。
爆風の影響で三つ編みは解け、ざんばら状態。
「ええ、ええ、予想してましたよ。どうせこういうオチが来るんだろうなって」
今回のカチャが最初から最後まで嫌そうにしていたことを思い返す詩。励ましを送る。
「そのうちいいこともあるよ」
そのとき、土の中から手が出てきた。
「あ。オルタニアさん、大丈夫ですかー?」
「生きてるー?」
二人がかりで引き出されたオルタニアは、覚醒の反動なのか、ちょっとぼんやりしていた。
「……甘美な魂だったよ」
彼女を連れて詩たちは、クレーターから出た。
詩は真っ先にぴょこの元へ走り寄り、祝福のもふり。
「英霊さんなんだよね?」
『その通り、拝んでよいぞよ』
「クラスは何? セイバー? キャスター? もしかしてバーサーカー?」
『うむ、それは――きれいさっぱり忘れてしもうとる! ははははは!』
やっと頭が平常に戻ってきたオルタニアは、ぴょこに問う。
「それで……貴様は何者なんだ?」
ぴょこはえへんと腰に手を当て、言った。
『わしこそはぴょこられうさぎのぴょこ、正義の味方の英霊なのじゃ!』
●
後日、ぴょこの宿る村――シャン郡ペリニョン村の祠には、リナリスの寄贈した写真が飾られた。
一つ目は依頼に参加したハンターたちと撮った集合記念写真。
二つ目はぴょこたれぱんち発動の瞬間をコマ送りで撮影した連続写真。
三つ目はクレーターの写真。
ぴょこは修繕を受け、今日も元気に英霊として活動中。
頑張れぴょこ。祠がぴょこミュージアムになる日まで。
ドラゴンもどきに目を奪われるシャルア・レイセンファード(ka4359)の耳に、直後聞こえてきた謎の声。
『待て、ふらちな歪虚め! ぴょこがいる限り、平和なこの地をお前の好きにはさせーん!』
一体何かと目を向ければ、黒いロップイヤー(のぬいぐるみ)。
「って、えっ、あそこにいるのは、兎、さん?」
ウィーダ・セリューザ(ka6076)は走ってくるうさぎに、胡散臭げな視線を向けた。
「……何だあのぬいぐるみ?」
短い足で懸命にちこちこ駆けるその姿。時音 ざくろ(ka1250)は、すっかり魅了されてしまう。
「見てリナリス、すごいよ、人間サイズのぬいぐるみが動いてるよ! 世界の神秘だ、冒険だ!」
と目をキラキラ。
対しリナリス・リーカノア(ka5126)は、大声でうさぎに呼びかける。
「あっ、ぴょこだー♪ おーい、ぴょこー!」
「……あっ、知り合いなの?」
「もちろん! あたしがあの子を発掘し、そして育てたっ! そうだよね、カチャ」
同意を求めるリナリスはカチャは、曖昧に頷く。
「……まあ、一面でそう言えなくもないですかね」
天竜寺 詩(ka0396)はカチャに尋ねた。相手の表情の曇り具合を気にかけつつ。
「カチャ、あの兎さんと知り合いなの?」
「ええ、一応は」
「中の人誰なの?」
「誰って言うか、誰も入ってませんよ。あれはあのままの生き物って言いますか――」
会話を小耳に挟んだビリティス・カニンガム(ka6462)は、早とちりした。
「ありゃユキウサギとかいう幻獣に違いねえ! 助けねえと!」
以下の台詞後半部分を聞かないまま、走りだす。
「――英霊が憑依して動かしてるんです。憑依型英霊って感じでしょうか?」
「……何それカッコいい」
「え? カッコいいですか?」
カッコよさについての議論はさておくとして、とにかくあれは敵ではない。
確信を得たリズリエル・ュリウス(ka0233)は、うさぎ仲間の応援をするため地を蹴り、跳ねて行く。
「うごくぬいぐるみうさぎが居ると聞けば黙っておれぬ。という事で兎の道化師、くらうんらびっつ参戦!」
ところで丘のあっちとこっちから走ってくる歪虚とぴょこの二者は、この段に至ってもまだ接触していなかった。両者、見た目に反し進行速度が遅いのだ。
ビリティスとリズリエルを追うように、他のハンターたちも駆け出した。リナリスは戦闘に先駆けいち早く、カチャに依頼をしておく。
「あ、そうだ。カチャ、ぴょこの直護頼むね」
「え、護衛……いります?」
「そりゃいるよー。ぴょこは天然コットンとウールで構成されてるんだから。火がついたら炎上必至だよ?」
あの体が燃えても英霊自体は傷つかないのではないのだろうかという疑問を抱くが口には出せないカチャ。
オルタニア(ka6436)は甘美な紅の幻想に酔い、人知れず舌なめずりする。
「さて、どんな愛を語れるかどうか……まぁ綺麗に化粧をしてやればいいか」
●
『ほぉああああああああ……あっ』
短い足をもつれさせてぴょこが転ぶ。
手足を丸め玉になって丘を転がり落ち、突進してくる歪虚にぶち当たられ、高く跳ね上げられた。
しかしさすがは英霊、高所から落ちてきてもすぐ起き上がる。体に棘が刺さっているが、本人気にならないようだ。中身が綿なだけに。
『うぬぬ、運のいい奴め。しかし次は外さんぞ!』
再び歪虚に挑もうとする彼の前にリズリエルが、ずさーっと滑り込んできた。
しっかり相手の目を見て、まずは自己紹介。
「くらうんらびっつ、道化師だ!」
後から追いついてきたビリティスも、ついでなので自己紹介。
「闇狩人ビリィ、得意技はπタッチだ!」
ぴょこも自己紹介。正義の味方はノリがいい。
『わしはぴょこ、この地の平和を守る英霊じゃ!』
正体を聞いたビリティスは、大いに盛り上がった。
「何、幻獣じゃなく英霊? なら一緒に戦おうぜぴょこ!」
『よかろう! 皆のもの、わしに続け!』
再度突撃を敢行しようとするぴょこ。そこにカチャが息を切らせ、飛び込んできた。垂れ耳を押さえ、ぴょこを引き留める。
「ちょっちょっと待って下さい! せめて棘を抜いてからにして下さい!」
ざくろはぴょこたちの前に立ち盾を構え、歪虚に対峙した。
「うさぎさん、ざくろも平和を護る為、一緒に戦うよ! マテリアルアーマーフルドライブ」
マテリアルの障壁にぶち当たった歪虚は、猛り狂って吠え上げた。そしてまた同じように突進した。
再度展開された障壁にぶち当たり、いよいよ猛り狂う。
失敗から学んでいないあたり、かなり頭がよくないらしい。
「うさぎのぴょこの性能とやら、見せてもらおう。とぅっ!」
リズリエルは空中三回転ひねりで歪虚の前に着地。べろべろばあと舌を出す。
「亀よりノロマなドラゴンじゃ、うさぎには追いつけないぜっ」
たとえ言葉が分からなくても、おちょくられているということは伝わるものだ。歪虚は跳ねるリズリエルに向け、唸った。
ビリティスもソウルトーチをちらちらさせ、挑発を始める。
「何がドラゴンだ只の火吹きトカゲじゃねえか! 黒い翼もねえし喋れるだけの知性もねえ! 何より威厳が全くねえ! 真のドラゴンなら金色の闘気纏って泰拳術で戦ってみせろ! あちょー!」
槍の穂先もドラゴンの前にしつこく突き出し、煽る。
「ほーら偽ドラかかってこいよ♪」
加えてぱっとスカート捲り、パンツもあらわに尻叩き。
そこにぷすっという音。
「やべ、屁こいちまったぜ♪」
歪虚は怒り狂った。さっきまで自分が何をしていたか忘れて、猛然と彼女らを追い始める。
「ひゃひゃひゃひゃ、こいつマジ切れしてるおもすれーww」
彼女らが引き付けを行っている間にアースウォールを立ち上げ、ぴょこの姿を隠すシャルア。刺を抜き終わるまでの時間が稼げるように。
ウィーダはぴょこについて放置の姿勢。歪虚との戦いに専念する。あれはやりやすい方の敵だ。爪や牙はもちろん、刺のリーチもたいしてない。ブレスについても、ごく短いものしか出せていない。
「ならボクは、アウトレンジから攻撃させてもらうよ。元々そういう職業だ」
うそぶいて剛力矢を引き絞り、冷気を纏った矢を放つ。
オルタニアは刺の存在を歯牙にもかけず、接近戦を始めた。灼熱した刃で、歪虚の脚関節、首筋といった障害の少ない場所を狙う。
「愛と共に喰わせて貰わうぞ? ドラゴン」
●
詩とともに後衛で支援を行うリナリスは、ぴょこの立ち回りを観察していた。
何が問題かといって、とにかくパンチが当たっていない。
詩がジャッジメントで一時停止をかけてさえ、スカっと空振りする始末。
「当たらなくても落ち込まない! 諦めない限り奇跡は起こるんだよ!」
『左様、念ずれば花開く!』
言った直後至近距離から炎を吹きかけられるぴょこ。詩はホーリーヴェールで援護し、炎上を防ぐ。
(ぴょこの攻撃がいまいちな一番の原因は……キャラに引きずられてるのもあるけど……今の体での動作に慣れていないからだよね)
そう考えたリナリスは、ぴょこを自分のいる後方に呼んだ。
「ぴょこ、一旦下がって! こっちに来て!」
ついでカチャに言った。
「そのまま引き付け頑張って!」
「そう来ると思ってましたよ!」
カチャは下がって行くぴょこに歪虚が注意を向けないよう、鼻面に竹刀を打ち付けた。
ビリティスがその横で、またしても屁の挑発。
「ほらほら、こっちだノロマ!」
次の瞬間炎が、屁に引火した。
「ううおっちい!?」
「ビリィさんお尻が燃えてますよ!」
慌ててビリティスの尻を叩き、鎮火するカチャ。
危険だと判断したざくろは、彼女らと歪虚の間に割り込んだ。
「やらせはしないよ……ブレス来る?って、短っ」
盾で炎を避けながら、メイスで鼻や背中をガンガン殴る。
棘がメイスに刺さり、抜けた。
(……盾で殴りつけたら、大量に抜けたりしないかな?)
試しにメイスを引っ込め盾を前面に押し出し、背を殴りつけてみる。
目論みは当たった。先程より多くの刺が取れた。
オルタニアが足の関節に切りつける。皮膚の切れ目から血が滲んできた。
「紅程綺麗で化粧に会う色はないだろう?」
歪虚は刺を逆立て、尾を振り回し暴れた。
刺が腕に刺さったがオルタニアは動じる事なく、力任せに引き抜く。返しのついた刺が肉を引き裂く痛みに哄笑する。
「ハハハッ! 受け入れてくれ、私の想いをなっ!」
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しゅっしゅとジャブを放つぴょこ。ボタンの目がキラリと光る。
『うむ、分かったぞ! これが……リングにかける魂なのだな!』
ボクシング指導を終えたリナリスは、ぴょこが完全に技をマスターしてくれたことに感無量。
「勝つことがすべて、それが王道! さあ、戻ろうぴょこ!」
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シャルアはドラゴンの棘に着目した。
これまでの経過から見るにあの棘は、ヤマアラシと同じく、ものに刺さると案外簡単に抜けるらしい。
(もしかするとアースウォールでも、抜ける……?)
いや、きっと抜けるに違いない。
確信を抱いたシャルアは、ぴょこと一緒に戻ってきたリナリスにその旨を伝え、一緒にありったけの壁を立ち上げた。
そして、皆に呼びかける。
「皆さん、なるべく壁に当たるように誘導してくださーい! そうすれば、もっとたくさん刺が取れるかも!」
「おっけー♪」
リズリエルは歪虚の前に出た。ショットアンカーを振り回しぴしゃりと鼻先に当ててから、背を向け走り始める。
追い始める歪虚。
牙が届くか届かないかというところでアンカーを地面に打ち込み、急激な方向転換。
歪虚も向きを変えようとしたが、気持ちに体が追いつかず、横ざまに倒れ壁と衝突。
壁は崩れたが、刺も抜けた。
「くらうんらびっつ、大成功♪」
リズリエルは別の壁の上でぴょんぴょん跳びはね、大仰な礼をする――サーカスの一場面を演じているかのように。
腹を立てた歪虚は彼女が乗っている壁に、頭から突進する。
「くそっ、よくもあたしのパンツに穴空けやがったな! 尻から風邪ひいたらどうしてくれんだ!」
ビリティスは大身槍を歪虚に向け突き出し、直進を押さえた。
前から来る力に槍がたわむ。しかし彼女は譲らない。
カチャは歪虚の意識をそらさせるため、竹刀で横から目を叩いた。オルタニアは刺が抜けた背中を執拗に切りつけた。
ウィーダの矢が、鼻の穴に刺さる。
歪虚は轟きを上げ向きを変え、彼女らの方を追い始める。
リズリエルはシャルアとリナリスが作ったアースウォールの上を伝い、歪虚を追った。追い込まれたところで、止めをさしてやろうと。
その時、何者かが彼女の横をかすめ、追い抜いて行った。
それは跳びはね走法を身につけたぴょこだった。
『皆のもの、危険なので下がるがよい! とおっ!』
うさぎが壁の上から跳ぶ。
シャルアはファイアエンチャントを送った。
「あたし達の想いを乗せ、祈りを纏い、どうか、その必殺技を成功させてください!」
リナリスはウィンドガストを送った。
「風の様に高く舞い上がれ! ぴょこ、風に、旋風になるっちゃー!」
彼女らの祈りと力を受け、ぴょこは高く高く、跳ぶ。点にしか見えなくなるまで。
空がにわかにかき曇り雷鳴が轟いた。
炎を纏ったぴょこが、錐揉み高速回転しながら落ちてくる。
その身から生まれるのは竜巻。地上にいたハンターたちは、吸い上げられそうなほどの風圧を感じる。
機動剣を振るっていたざくろは、攻撃の途中で退いた。とてつもないものが来そうな予感がしたからだ。
リナリスは壁の後ろに身を隠し、夢中で魔導カメラのシャッターを切る。
「風よ、龍に届かんことを……」
『スパイラルぴょこられパンチ! オン・ファイアー!』
ぴょこの拳が歪虚の額に当たった。
歪虚が細かな粒に分解し、弾ける。
目を焼くほどの光が世界を包んだ。遅れて猛烈な衝撃波が――。
どむん。
●
丘の中腹に出来た直系5メートルほどのクレーター。
しゅうしゅう煙を上げている縁に手をかけはい上がってきたのは、土埃まみれのウィーダ。
「……今何が起きたんだ」
同じく土埃まみれのざくろ。
「眩しくてよく見えなかったけど……歪虚は消滅したみたいだね」
さらに同じく、土埃まみれのシャルア。
「とりあえず、作戦成功のようですね~」
彼女らの目の前では、先にはい上がったらしいリナリスが、片目の外れそうになっているぴょこを抱き締めている。
「やったやった、すごいよぴょこ! 完勝だよー!」
ビリティスもぴょこに抱き着き、もふる。
「見直したぜゆる英霊!」
くらうんびっつのリズリエルも跳びはねはしゃぎ回る。
「トカゲ肉は手に入らなかったけど、ま、いっか♪」
ビリティスがぴょこの手を持ってぐるぐる回り始めた。軽いぴょこは、完全に振り回される形となっているのだが、本人は特に気にしていないらしい。『ふははは、正義は勝つのじゃ!』なんて、上機嫌である。
それを見たシャルアはほっとした。ぴょこたれパンチへの加勢が『余計なことをして』と思われていないか、気になっていたのだ。
取り急ぎ、お祝いに駆け出す。
「ぴょこさん、おめでとうございますー!」
ざくろとウィーダが続く。
クレーターの底ではカチャが憮然とした顔で、頭に積もった土を払い落としている。
爆風の影響で三つ編みは解け、ざんばら状態。
「ええ、ええ、予想してましたよ。どうせこういうオチが来るんだろうなって」
今回のカチャが最初から最後まで嫌そうにしていたことを思い返す詩。励ましを送る。
「そのうちいいこともあるよ」
そのとき、土の中から手が出てきた。
「あ。オルタニアさん、大丈夫ですかー?」
「生きてるー?」
二人がかりで引き出されたオルタニアは、覚醒の反動なのか、ちょっとぼんやりしていた。
「……甘美な魂だったよ」
彼女を連れて詩たちは、クレーターから出た。
詩は真っ先にぴょこの元へ走り寄り、祝福のもふり。
「英霊さんなんだよね?」
『その通り、拝んでよいぞよ』
「クラスは何? セイバー? キャスター? もしかしてバーサーカー?」
『うむ、それは――きれいさっぱり忘れてしもうとる! ははははは!』
やっと頭が平常に戻ってきたオルタニアは、ぴょこに問う。
「それで……貴様は何者なんだ?」
ぴょこはえへんと腰に手を当て、言った。
『わしこそはぴょこられうさぎのぴょこ、正義の味方の英霊なのじゃ!』
●
後日、ぴょこの宿る村――シャン郡ペリニョン村の祠には、リナリスの寄贈した写真が飾られた。
一つ目は依頼に参加したハンターたちと撮った集合記念写真。
二つ目はぴょこたれぱんち発動の瞬間をコマ送りで撮影した連続写真。
三つ目はクレーターの写真。
ぴょこは修繕を受け、今日も元気に英霊として活動中。
頑張れぴょこ。祠がぴょこミュージアムになる日まで。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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質問卓 リナリス・リーカノア(ka5126) 人間(クリムゾンウェスト)|14才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/10/22 04:56:47 |
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相談卓 リナリス・リーカノア(ka5126) 人間(クリムゾンウェスト)|14才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/10/22 19:48:28 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/10/18 18:56:30 |