ゲスト
(ka0000)
黄色い馬車の行方
マスター:韮瀬隈則

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/10/20 09:00
- 完成日
- 2016/11/01 16:38
このシナリオは2日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
辺境東部の小さな港町。
河口から延びる細い川伝いの流通と、GG──商業管理事務所ゴルドゲイルの港湾倉庫群管理、ささやかな漁業がこの町の生業、である。
その町から数本交差して辺境各地へ繋がる細道に、GGの流通馬車に便乗する形で運行される乗合馬車があった。馬を自由に駆り荒野を行く辺境民向け、ではない。商用などで訪れる他国民や転移者のほか馬に乗りつけぬ老人子供向けの、この町と周辺の村々独自の、路線ごとに色分けされた小規模な不定期便である。
不定期便というのには理由がある。
あくまでもGGの厚意で同道させてもらう馬車である。流通馬車、護衛、客車。この3つが揃わなければ運行されないのと、終着駅まで客車が同道するケースが非常に稀なためだ。途中駅までの折り返しと乗り継ぎで足りる、主に需要の問題だ。が、しかし、当然ながら不穏な理由もあるのが辺境の地。──歪虚、盗賊のリスクである。
護衛は基本的にGGの荷馬車専任であるから、よほどの重要な顧客か用件でもないかぎり、アクシデント時に増員してまで町ローカルの客車という『お荷物』を増やしはしない。もっとも、増員分の金を積めば別……だ。
●
「は? 折り返し運行? ちょっとまってよ、予定じゃちゃんと終点まで行くって書いてあるし、予約もちゃんと入れたし、なによりウチはGGの用事で乗るんだけど?」
流通馬車の操車場わき。乗合馬車の発着場を兼ねたそこで、ほたえる転移者らしき旅行者二人と一人。
「ほらここにね。辺境東部方面支社のえらいひとのハンコ、あるでしょ? 僕らが終点まで行く理由って重要だと思うわけ」
──彼らは商事『レイサイン』。この町に事務所を置く3人だけの弱小アパレル会社、その実、GGの調達下請けとして拾われた転移者たちだ。騒いでいるのは、デザイナー女史とプランナー氏。困惑顔の相手は客車の御者と護衛で、ふりかざしたチケットにある署名は倉庫群を預かるGG中間管理職のおっさんのものだ。
そうは言いましても……
と、御者は続ける。予定が変わったのだ。主に、不穏なほうの理由で。
──二十日ほど前のことである。
『レイサイン』が目指す村の手前。流通馬車と黄色い客車が脇を通る、ガフナの丘と地元民が呼ぶ地に、盗賊団が出没した。
人とゴブリンの混成。そんな奇妙な盗賊団に護衛のGG私兵と傭兵達は思いのほか苦戦した、らしい。むろん、荷は無事。だが、盗賊団を振るきるのがやっと。客車に乗客がいたとしたら、護りきれなかっただろう。とは護衛率いる私兵リーダーの弁である。
「護衛を増員しないかぎりは、客車をその区間に同行させるのは無理だ。乗り継ぎ? ああ、普段ならできるさ。だがアレが討伐されるまではやはり護衛をつけて強行軍になるのは変わりない」
討伐はいつかって? そんなのオフィスに聞いてくれ。
肩をすくめて御者は言う。ほんの数キロだがね、ナヴァシの宿とホンゴの集落の間は、この黄色い馬車は運行しない。出来ねぇんだ。
「奇妙な盗賊団、というのは?」
いままで騒ぐ二人がエスカレートする毎に宥めていたもう一人の転移者、『レイサイン』の事務職女史が、苦戦はその奇妙さゆえだろうかと問いかける。
よくぞ聞いてくれたと、うんざりした顔の御者がこれで諦めろとばかりに件の賊について話し始めた。
九月下旬の彼岸頃から、周辺住民から不穏な噂が出回っていた。
盗賊団は元から『居た』のだ。それも2つ。
ひとつは人間の少数精鋭である盗賊兄弟。荷馬車狙いの盗賊ギルド末端も末端。ドゥマリ一味と自称するチンピラ二人だ。
もうひとつはゴブリン盗賊団であり、よくあるコソ泥集団として追われては舞い戻るチンケな亜人どもである。
混成団ならばそれらが手を組んだのか? と思われたが、話はどうも良くないほうに違うらしい。
──死んでいる筈なのだ。盗賊兄弟は。
別の賊と抗争があり彼らが壊滅したのが数ヶ月前のこと。治安部隊が出張って抗争の後始末ついでにゴブリン盗賊団も追い散らし、報告書をあげているから間違いない。
それが──
死んだはずの盗賊兄弟が追われたゴブリンを率いて荷馬車を襲う。
人の頭脳と執念を持つ一団。騎乗するゴブリンに武器は効くがその体捌きは普通の亜人離れしたものであり、率いる盗賊兄弟には武器そのものが効かなかった。いずれも、人骨を繋いだらしい馬具を騎乗する馬に飾りたてて、まるで万霊節前夜の悪霊騒ぎの列だったとは、彼らに出会った者の供述だ。
報告者達が生き延びたのは、その奇妙な盗賊団が活動するのは件のガフナの丘周辺のみで、全速力をもって離脱する馬車を追うものはなかったから、である。
「承知しました。では追加の護衛を当方で雇用します。黄色い馬車の運行を、重ねてお願いします」
「っちょ……待って」
その足でオフィス出張所に向かう『レイサイン』の事務職女史に、デザイナー女史とプランナー氏が食って掛かるのを一蹴する。
「調達下請けとはいえ、査収する先方は辺境の名工房。まして今回の査収は、幻獣防衛の成功祝いと収穫祝い、冬支度をも兼ねた大切なもの。必ずお二人には現地へ行っていただかねばなりません」
そして……と繋げる。
「この成功がなければ独自ブランドをこの地で立ち上げる望みは断たれるでしょう。バイヤー出身の腕を見せるのは今です。護衛の雇用費用? 成功報酬で十分補えます。討伐まで行けばボーナスまででるかもしれませんね?」
●
ガフナの丘に立つ、盗賊団の群れ。
異様に目を光らせて、その騎馬を飾るのは不気味な骨と骨と骨。
死んだはずの盗賊兄弟。その名を、ニシフ・ドゥマリ。ヅダン・ドゥマリ。という。
辺境東部の小さな港町。
河口から延びる細い川伝いの流通と、GG──商業管理事務所ゴルドゲイルの港湾倉庫群管理、ささやかな漁業がこの町の生業、である。
その町から数本交差して辺境各地へ繋がる細道に、GGの流通馬車に便乗する形で運行される乗合馬車があった。馬を自由に駆り荒野を行く辺境民向け、ではない。商用などで訪れる他国民や転移者のほか馬に乗りつけぬ老人子供向けの、この町と周辺の村々独自の、路線ごとに色分けされた小規模な不定期便である。
不定期便というのには理由がある。
あくまでもGGの厚意で同道させてもらう馬車である。流通馬車、護衛、客車。この3つが揃わなければ運行されないのと、終着駅まで客車が同道するケースが非常に稀なためだ。途中駅までの折り返しと乗り継ぎで足りる、主に需要の問題だ。が、しかし、当然ながら不穏な理由もあるのが辺境の地。──歪虚、盗賊のリスクである。
護衛は基本的にGGの荷馬車専任であるから、よほどの重要な顧客か用件でもないかぎり、アクシデント時に増員してまで町ローカルの客車という『お荷物』を増やしはしない。もっとも、増員分の金を積めば別……だ。
●
「は? 折り返し運行? ちょっとまってよ、予定じゃちゃんと終点まで行くって書いてあるし、予約もちゃんと入れたし、なによりウチはGGの用事で乗るんだけど?」
流通馬車の操車場わき。乗合馬車の発着場を兼ねたそこで、ほたえる転移者らしき旅行者二人と一人。
「ほらここにね。辺境東部方面支社のえらいひとのハンコ、あるでしょ? 僕らが終点まで行く理由って重要だと思うわけ」
──彼らは商事『レイサイン』。この町に事務所を置く3人だけの弱小アパレル会社、その実、GGの調達下請けとして拾われた転移者たちだ。騒いでいるのは、デザイナー女史とプランナー氏。困惑顔の相手は客車の御者と護衛で、ふりかざしたチケットにある署名は倉庫群を預かるGG中間管理職のおっさんのものだ。
そうは言いましても……
と、御者は続ける。予定が変わったのだ。主に、不穏なほうの理由で。
──二十日ほど前のことである。
『レイサイン』が目指す村の手前。流通馬車と黄色い客車が脇を通る、ガフナの丘と地元民が呼ぶ地に、盗賊団が出没した。
人とゴブリンの混成。そんな奇妙な盗賊団に護衛のGG私兵と傭兵達は思いのほか苦戦した、らしい。むろん、荷は無事。だが、盗賊団を振るきるのがやっと。客車に乗客がいたとしたら、護りきれなかっただろう。とは護衛率いる私兵リーダーの弁である。
「護衛を増員しないかぎりは、客車をその区間に同行させるのは無理だ。乗り継ぎ? ああ、普段ならできるさ。だがアレが討伐されるまではやはり護衛をつけて強行軍になるのは変わりない」
討伐はいつかって? そんなのオフィスに聞いてくれ。
肩をすくめて御者は言う。ほんの数キロだがね、ナヴァシの宿とホンゴの集落の間は、この黄色い馬車は運行しない。出来ねぇんだ。
「奇妙な盗賊団、というのは?」
いままで騒ぐ二人がエスカレートする毎に宥めていたもう一人の転移者、『レイサイン』の事務職女史が、苦戦はその奇妙さゆえだろうかと問いかける。
よくぞ聞いてくれたと、うんざりした顔の御者がこれで諦めろとばかりに件の賊について話し始めた。
九月下旬の彼岸頃から、周辺住民から不穏な噂が出回っていた。
盗賊団は元から『居た』のだ。それも2つ。
ひとつは人間の少数精鋭である盗賊兄弟。荷馬車狙いの盗賊ギルド末端も末端。ドゥマリ一味と自称するチンピラ二人だ。
もうひとつはゴブリン盗賊団であり、よくあるコソ泥集団として追われては舞い戻るチンケな亜人どもである。
混成団ならばそれらが手を組んだのか? と思われたが、話はどうも良くないほうに違うらしい。
──死んでいる筈なのだ。盗賊兄弟は。
別の賊と抗争があり彼らが壊滅したのが数ヶ月前のこと。治安部隊が出張って抗争の後始末ついでにゴブリン盗賊団も追い散らし、報告書をあげているから間違いない。
それが──
死んだはずの盗賊兄弟が追われたゴブリンを率いて荷馬車を襲う。
人の頭脳と執念を持つ一団。騎乗するゴブリンに武器は効くがその体捌きは普通の亜人離れしたものであり、率いる盗賊兄弟には武器そのものが効かなかった。いずれも、人骨を繋いだらしい馬具を騎乗する馬に飾りたてて、まるで万霊節前夜の悪霊騒ぎの列だったとは、彼らに出会った者の供述だ。
報告者達が生き延びたのは、その奇妙な盗賊団が活動するのは件のガフナの丘周辺のみで、全速力をもって離脱する馬車を追うものはなかったから、である。
「承知しました。では追加の護衛を当方で雇用します。黄色い馬車の運行を、重ねてお願いします」
「っちょ……待って」
その足でオフィス出張所に向かう『レイサイン』の事務職女史に、デザイナー女史とプランナー氏が食って掛かるのを一蹴する。
「調達下請けとはいえ、査収する先方は辺境の名工房。まして今回の査収は、幻獣防衛の成功祝いと収穫祝い、冬支度をも兼ねた大切なもの。必ずお二人には現地へ行っていただかねばなりません」
そして……と繋げる。
「この成功がなければ独自ブランドをこの地で立ち上げる望みは断たれるでしょう。バイヤー出身の腕を見せるのは今です。護衛の雇用費用? 成功報酬で十分補えます。討伐まで行けばボーナスまででるかもしれませんね?」
●
ガフナの丘に立つ、盗賊団の群れ。
異様に目を光らせて、その騎馬を飾るのは不気味な骨と骨と骨。
死んだはずの盗賊兄弟。その名を、ニシフ・ドゥマリ。ヅダン・ドゥマリ。という。
リプレイ本文
●
手前の村で馬車一行は積荷の上げ下ろしと替え馬を済ませ、あとは出発の鞭を入れるばかり。
ナヴァシ市場と替え馬業者、酒場兼宿屋に、前回同行した傭兵が数名いたらしい。
「これで一味出没以来、会敵経験者の情報が揃いました」
Serge・Dior(ka3569)が食料調達ついでに聞き込んできたらしい。
彼らが試せなかった防衛策は下記の通り。と、セルジュのメモが広げられる。
属性を帯びた攻撃
スキルを浴びせるような攻撃
兄弟とゴブリン以外への攻撃
「思ったとおり、職も装備もフラットだな」
GG私兵と御者とに作戦を再調整していたロニ・カルディス(ka0551)が頷く。流通馬車の護衛という業務上、敢えて職も得物も偏りを出すわけにはいかんのだよ。と、私兵リーダーの弁。無論、敵が予めわかっていれば別だがね、と続け、少し申し訳なさそうに情報不足を詫びる。
一番活きの良い替え馬を繋ぎ、車輪の鉄輪と軸へ職人を呼んだ。
大袈裟ではないことは、向かう道の厳しさを見ればわかるだろう。
「冬枯れの季節だが、馬車は轍を踏まなければ進めない。賊はまず、走路妨害にかかるだろうが、その時に車輪が壊れましたでは済まされない」
伏撃からの挟撃を仕掛けてくるのはほぼ確実なのだ──ロニは地図を指でなぞる。
岩と低木が多いこの一帯、すれ違い車線を潰すに好都合な地点で絞り込めば、なるほど「噂」の情報と一致する。
「ね……ねぇ。本当に大丈夫?」
『レイサイン』のデザイナー女史が、馬車の窓から顔を出し不安げに聞く。
「大丈夫だ。必要なのは止まらず駆け抜けること。それは私が保証する」
だから窓を閉めて。騎士装束のユナイテル・キングスコート(ka3458)は腰に提げた宝剣を誓うように捧げてみせた。直衛として馬車の行く手を阻むものは、この私が退けるのだから、と微笑めば『レイサイン』プランナー氏が大袈裟に恐縮してみせた。
「き、君のような幼女が戦うというのに! ああ、我が身が嘆かわしいよ!」
──幼女?
一瞬生じた空白を埋め合わせるかのように、ディーナ・フェルミ(ka5843)がぱたぱたっと馬車に駆け寄ると、「はいっ」と小さな毛玉を差し出した。
「「!?」」
「鯖猫のサバちゃんなの。道中だっこしていて欲しいの」
この子だっこが大好きだからきっと怖くないの。じゃぁね! とフェルミが窓を閉め、固まったままのユナイテルに振り向いて小首をかしげる。
(最低外見年齢、更新してしまったかもしれない……)
●
「はい! う、初陣ですっ。予習と自主練はばっちり……ですけど、えっと」
ちゃんとできるかな? できるよね?
魔導バイクをゴースロンと並べ、ディーナ ウォロノフ(ka6530)はぺこりとセルを組む相手へ一礼する。こういうときは敬礼だっけ? いや違うってば!
「うん。よろしくね。僕はゴブリンを殲滅しに来ただけだから、そんなに畏まらなくていいよ」
(え、でも今度のゴブリンって異常なんじゃ……)
「そう。ゴブリンは厄介だ。知恵をつけ、歪虚に容易く侵される。雑魚と侮るものから隙を衝かれて殺される。対抗手段はただ一つ。完膚なき殲滅だけだ」
ウォロノフの心中を読んだのだろうか? カイン・マッコール(ka5336)はじっと彼女を見つめ、軽く頷くと視線を進行方向に戻す。斥候が潜伏するならあの辺りだろうか? 奴らの兆候は逃すまいと、淡々とした表情と対照的な据わる眼差し。
(このひとはゴブリンが元凶とみていて、抹殺の使命を感じて来てるのかな。じゃあ、あたしはどうしてこの護衛を引き受けたんだろう?)
ガフナの丘を半分ほども過ぎた頃か──
「来る」
カインの呟きと同時に、ロニとユナイテルが目礼を交し合う。
先頭と最後尾はGGの流通馬車でも特に頑健な車体と馬を揃え、御者と護衛も屈強な者が就いている。間に挟まるように黄色い馬車。あれほど難を示した黄色い馬車を庇う隊列なのは、ハンターたちの作戦とGG私兵の思惑をうまく合致させた結果だ。
──つまり、
止まらない
近寄らせない
追わせない
「「我々が道を切り開く。何があろうとも……馬車の速度を落とさず駆け抜けろ!」」
ロニが先頭車両と私兵につげた言葉は、そのまま並ぶユナイテルの叫びに繋がった。
丘斜面上に点在する岩陰から、放たれる1本の矢──!
火矢なのは恫喝だろう。一瞬おののきかける馬を諌めそのまま突き進めば、間髪入れず低木に隠れた一団が逃すものかと一斉に飛び出す。
『はっ! 我らこそは新生ドゥマリ一味なり! 馬車をよこさねば皆殺しよ!』
ははは!
響く哄笑!
からからと、追従するかのように鳴り響く、骨と骨と骨。
『逃すかよぅ!』
嘲笑いとともにニシフ──大男が魔杖を掲げれば、先頭車が青白いガスに包まれる。
スリープクラウド。包まれた眠りのくびきに連なる生命を睡眠に陥らせる術に、御者と私兵は打ち克ち、馬は堕ちた。
「させない!」
場違いな爆音と銃声。その主はウォロノフ!
飛び起きる馬と慌てて体勢を整える御者を送り、彼女は再度、改造魔導バイクのクラクションの咆哮をあげる。
「残念。機械は眠らない。またソレを仕掛けるつもりなら、あたしも何度でも皆をたたき起こして廻るから!」
ニシフはフンと鼻を鳴らし回りを見ろと仕草で示す。
いつの間にか──手に手に斧を携えたゴブリンどもと、もう一人の大男、ヅダンが斜面上寄りから轍片面を圧迫するかのように、一行と併走を仕掛けはじめていた。
「弓2、斧3、兄弟。斜面より強襲! 馬車私兵とも異常なし……しかし、轍が狭められては……!」
現況を後方より俯瞰していたセルジュが、最後尾の馬車に据えつけられた無線に叫ぶ。
受ける車列先頭。
「まだだ。まだ1匹が伏兵として潜んでいる……」
おそらくはここから遠くないすれ違い車線。圧迫された轍を振り切ろうとするその隙を狙い、先頭の馬を射抜いてくる。
予想通りじゃないか! ロニの口角がわずかに上がる。
「1匹だけ? そう……1匹だけなら、ロニさん、あなたの手を煩わせる必要はない」
自身ありげな二段構えの伏撃だけれど、逆を言えば、ここで馬車列を止められなければ賊めらは挟撃に失敗。ガフナの丘を過ぎるまで、延々、轍を圧迫するしかなくなるということ……
ユナイテルは抜刀した宝剣を体に引き込むように構えて言う。
「兄弟を止めて。私は最後の伏兵を討つ」
馬車は走る。ただ一路。
すれ違い車線の膨らんだ轍が見え、ユナイテルの拍車は愛馬の腹を打つ。
「我が名は騎士ユナイテル。いざ尋常に勝負!」
弾かれたように潜み弓を構えたゴブリンが、矢先を馬にではなくユナイテルへ向ける。
恫喝には恫喝を。ユナイテルのまっすぐな名乗りは、ゴブリンへ二択を強いた。
馬車を狙い射て、その隙のまま私に殺られるか?
それとも窮鼠のごとく歯向かうか?
突出し切っ先に移動のエネルギーを溜めて放った一撃を、弓を放ちながらも機動力はそのままに、ゴブリンは避けてギィと耳障りに鳴く。
「避けたか。やはりただの子鬼ではない、な」
避けられてしかし、ユナイテルに笑み。
先頭の馬車はすれ違い車線を抜け、先に妨害者のないままに走る。走る。
「これより先には通すわけにはいかないの! 盗賊崩れのヘタレ雑魔!」
丘の斜面を抜け、今度こそはと先頭車に追いすがるニシフに、フェルミの乗用馬が立ちふさがる。
(大丈夫だから。あの怖いのから護るから)
小声で愛馬を励まして距離を詰める。遠く距離をとるよりも、いっそ近づくほうが勝機はあるはず。
『ヘタレ雑魔ぁ? 覚醒してみりゃゴブリン共までかしずいた俺様たちに、でかい口叩くんじゃねぇぞオラァ!』
(あれ? 歪虚の自覚どころか、死んだ自覚もないってことなの?)
氷がフェルミの頬を掠める。チリ……と焼けて強張るのに構わず、抱えた聖槍を体を捻る勢いで振り回す。届かねぇぞと嘲笑うニシフが、びくりと衝撃に体を震わせた。
「必ず当たる攻撃探したのね。セイクリッドフラッシュの次は、今度こそ槍で薙いでやるの!」
けれど、なんとなく……亡霊さん(……たぶん)に槍を当てるには、大男と違う目標を叩かないといけない気がする……?
セルジュの息は忙しい。
轍を狭めてくる一味に割って入った。バーンブレイドに焔を帯びてヅダンを薙いだ。邪魔に絡むゴブリンを振り向きざまに闇のダガーで両目を掠めた。
『あははぁ! どうした若造。効かん、効かんぞ!』
手ごたえはある。ヅダンの服は裂け胸から腹にかけてセルジュのつけた刀傷。
──しかし。
(痛みを感じていないのか? いや感じられないんだ。その自覚がない……!?)
ギィ! と、大きく鳴いてゴブリンが斧を薙ぎ、かわすセルジュにヅダンが大斧を振りかぶる。
(南無三……!)
父よ、我を護りたまえ!
目はつぶらない。差し違えの覚悟でバーンブレイドを寄せ一気にヅダンの懐に入る。その耳に、遠くから響く鎮魂歌──
大斧は振り下ろされることはなかった。
脇腹に突き刺さるセルジュの刃より、不思議そうにヅダンが見た視線の先……
硬直する馬から慌てて弓を放つゴブリンが、ロニから放たれた衝撃で的を外す。
「セルジュ。そのまま馬車列から引き離せ! 俺が抑えている隙に奴らの連携も破断しろ!」
再度、いや何度でも。セルジュは引き攣る馬を斬りつけて、一味の轍を狭める足は、どんどんその速度を落としてゆく。
「ロニさん、兄弟は痛みの自覚がない。ゴブリンは馬任せで取り憑かれたように走る。これはやっぱり……」
セルジュの問いにロニが頷く。
「すれ違いざまフェルミが言ったとおりか。奴らは亡霊と憑依者だ」
「弓、破断してくれる?」
すかさず銃声。
「はいっ!」
カインへの返事より先にウォロノフのリティディオンが火を噴いた。すかさずスピンコックから流れるように、標的をニシフから支援に動く弓ゴブリンに移す。魔導バイクの制御中断を短縮する片手リロード改修。彼女のこだわり、だ。
「狙うなら馬だ。いや、あの悪趣味な馬具を奴らは庇う」
遅参したな、と弓折れて馬にしがみつくばかりのゴブリンを一閃し、ユナイテルが合流した。
「馬車列、戦域離脱に成功せり!」
高らかな宣言。
「まだだよね。こいつら逃がしたら、馬車の復路を狙うに決まってるから」
じゃあ馬ごと弓の足止め頼むよ。
カインのゴースロンが駆ける。ユナイテルの翻弄するような馬術に追われたゴブリン3匹が、勝機を賭けて一見無防備に得物をさげたままのカインを一斉に狙う。
薄汚れた鎧に矢を受けて構わず、斧を振り回すゴブリンとすれ違いざま、速攻駆動をかけたたチェーンソーを薙ぐ。落ちるは轢断された馬の首とゴブリンの上体。馬具を繋ぐ鎖が、断たれた反動で宙を踊る。どう……と斃れる半身二つは塵と崩れる。
「ぃやっ! 痛い痛い痛ぁい! 先輩痛いってば」
カインに刺さる矢が我が事のように怖いのに、援護射撃の射線も構わずゴブリン鏖殺にかかるものだから、ウォロノフは半泣きでマテリアルの力を銃弾に込める。
(「射線に惑うな。俺ごと撃て」……って、なに言ってんの先輩っ!?)
──不思議と。
無茶なカインの背を追えば、敵の動きが緩慢に見える。ユナイテルが斬りつけたのはフェイント、ウォロノフの射線に馬面と馬具が顕わになって、持てる全ての射撃の業を載せて撃ち砕けとハンターとしての本能が告げる。崩れる馬から馬上のゴブリンを串刺しにして、カインが向かう弓ゴブリンの最後の視界は、盾となり朽ちる同胞の死体の向こうに現れるゴブリン殺しだろう。
「馬具です。狙って壊すのが難しいなら、馬ごと潰せって先輩たちが!」
無茶ばっか言うんですよぅ。カインさんとユナイテルさん……
ウォロノフが悲鳴のように叫んで、ドゥマリ兄弟との対峙を妨害する最後のゴブリンに狙いを定める。
「地縛霊さんかと思ってたけれど、憑依霊さんだったのね……」
いや、両方だろうか?
フェルミが納得がいったと頷いた。GGに対する通商破壊の胎動。街道の破断に盗賊の復活を企んだ便乗犯が居る……か。
『知るかぃ。GGの替わりにてめぇらの身包み剥いで勘弁してもいいんだぜぇ?』
『オマケに命も貰うがなぁ!』
この期に及んで──
妄執に囚われた盗賊が復活させられたのは必然だったのだろう。
ニシフの青白い霧がロニとセルジュ、フェルミの馬の足を止める。哄笑してヅダンは大斧を掲げ、騎乗のまま旋回の勢いを載せる。刃の軌跡に3名を捕らえて……
「殲滅戦を邪魔する奴はゴブリン以下だな」
忙しいんだ。馬に構ってる暇はない。
空振る大斧……ヅダンの馬が脚を折られてのめる。ゴースロンから飛び降りざまに駆けて低く大剣を薙いだカインを追い、ウォロノフが目覚めよとクランクションの爆音を響かせる。
(ぁう。無茶に限界がないのかな……先輩……)
爆音が去ったあとには、静かに流れていた鎮魂歌は影形もなく……
「情けは無用。盗賊崩れの亡霊よ。彼岸へ去る前にもう少し、俺に付き合って貰おうか」
審判の秤に魂を載せよ。罪の数だけ伸びる鎖に縛られよ。歌に替わり、ロニのクロノスサイズが虹色を増す。
万霊節前夜には地獄の釜の蓋が開く。亡霊に与えられた一夜が過ぎれば待つのは神の裁きのみ。光の杭が兄弟を馬ごと縫いとめれば、好機とフェルミが槍を大きく旋回させる。
「もう還ってほしいの! 怨念とか残しちゃだめっ!」
馬具を飾る髑髏の砕ける感触は、あっけないほど軽く、軽く。
そして跡形もなく晩秋の風に消える、骨と骨と骨。
●
丘を抜けた先に馬車が待っていた。
「我々の勝利です!」
ユナイテルの一言。待つ者を安心させるには十分。
私兵リーダーへロニが詳細を報告する。
「討伐報告書は追って提出しますが、この街道における通商は安泰です」
怨念満ちた兄弟の骨にゴブリン盗賊団が誘導されたのだ、とカインの見立てです、と付け加える。
セルジュがフェルミを手招いた。
「馬車馬の怪我はこの子だけです。お願いできますか?」
1回だけ残しておいたヒールはこのために使うと決めていた。怖かったね大丈夫だよ、と優しく鼻面を撫でて馬の返礼に笑う。
(……カイン先輩、反省会だって黙っちゃった)
並ぶカインを横目で窺うウォロノフの耳に、「にゃぁ」と小さい鳴き声。
「あっ! ディーナ同盟組んだフェルミ先輩のサバちゃんっ!」
慌てて黄色い馬車のよろい窓を開ければ、港猫と一緒に『レイサイン』の二人の顔が飛び出した。
「ありがとう! これで査収と納品が間に合うわ! ……あら貴女、姫茴香の香り?」
「はい。覚醒で薫るんです」
女史が続けて教えてくれた姫茴香のおまじない。人の結びつきと盗難避けに、だから護衛を引き受けなくちゃって思ったのだと、ウォロノフは大きく頷いた。
手前の村で馬車一行は積荷の上げ下ろしと替え馬を済ませ、あとは出発の鞭を入れるばかり。
ナヴァシ市場と替え馬業者、酒場兼宿屋に、前回同行した傭兵が数名いたらしい。
「これで一味出没以来、会敵経験者の情報が揃いました」
Serge・Dior(ka3569)が食料調達ついでに聞き込んできたらしい。
彼らが試せなかった防衛策は下記の通り。と、セルジュのメモが広げられる。
属性を帯びた攻撃
スキルを浴びせるような攻撃
兄弟とゴブリン以外への攻撃
「思ったとおり、職も装備もフラットだな」
GG私兵と御者とに作戦を再調整していたロニ・カルディス(ka0551)が頷く。流通馬車の護衛という業務上、敢えて職も得物も偏りを出すわけにはいかんのだよ。と、私兵リーダーの弁。無論、敵が予めわかっていれば別だがね、と続け、少し申し訳なさそうに情報不足を詫びる。
一番活きの良い替え馬を繋ぎ、車輪の鉄輪と軸へ職人を呼んだ。
大袈裟ではないことは、向かう道の厳しさを見ればわかるだろう。
「冬枯れの季節だが、馬車は轍を踏まなければ進めない。賊はまず、走路妨害にかかるだろうが、その時に車輪が壊れましたでは済まされない」
伏撃からの挟撃を仕掛けてくるのはほぼ確実なのだ──ロニは地図を指でなぞる。
岩と低木が多いこの一帯、すれ違い車線を潰すに好都合な地点で絞り込めば、なるほど「噂」の情報と一致する。
「ね……ねぇ。本当に大丈夫?」
『レイサイン』のデザイナー女史が、馬車の窓から顔を出し不安げに聞く。
「大丈夫だ。必要なのは止まらず駆け抜けること。それは私が保証する」
だから窓を閉めて。騎士装束のユナイテル・キングスコート(ka3458)は腰に提げた宝剣を誓うように捧げてみせた。直衛として馬車の行く手を阻むものは、この私が退けるのだから、と微笑めば『レイサイン』プランナー氏が大袈裟に恐縮してみせた。
「き、君のような幼女が戦うというのに! ああ、我が身が嘆かわしいよ!」
──幼女?
一瞬生じた空白を埋め合わせるかのように、ディーナ・フェルミ(ka5843)がぱたぱたっと馬車に駆け寄ると、「はいっ」と小さな毛玉を差し出した。
「「!?」」
「鯖猫のサバちゃんなの。道中だっこしていて欲しいの」
この子だっこが大好きだからきっと怖くないの。じゃぁね! とフェルミが窓を閉め、固まったままのユナイテルに振り向いて小首をかしげる。
(最低外見年齢、更新してしまったかもしれない……)
●
「はい! う、初陣ですっ。予習と自主練はばっちり……ですけど、えっと」
ちゃんとできるかな? できるよね?
魔導バイクをゴースロンと並べ、ディーナ ウォロノフ(ka6530)はぺこりとセルを組む相手へ一礼する。こういうときは敬礼だっけ? いや違うってば!
「うん。よろしくね。僕はゴブリンを殲滅しに来ただけだから、そんなに畏まらなくていいよ」
(え、でも今度のゴブリンって異常なんじゃ……)
「そう。ゴブリンは厄介だ。知恵をつけ、歪虚に容易く侵される。雑魚と侮るものから隙を衝かれて殺される。対抗手段はただ一つ。完膚なき殲滅だけだ」
ウォロノフの心中を読んだのだろうか? カイン・マッコール(ka5336)はじっと彼女を見つめ、軽く頷くと視線を進行方向に戻す。斥候が潜伏するならあの辺りだろうか? 奴らの兆候は逃すまいと、淡々とした表情と対照的な据わる眼差し。
(このひとはゴブリンが元凶とみていて、抹殺の使命を感じて来てるのかな。じゃあ、あたしはどうしてこの護衛を引き受けたんだろう?)
ガフナの丘を半分ほども過ぎた頃か──
「来る」
カインの呟きと同時に、ロニとユナイテルが目礼を交し合う。
先頭と最後尾はGGの流通馬車でも特に頑健な車体と馬を揃え、御者と護衛も屈強な者が就いている。間に挟まるように黄色い馬車。あれほど難を示した黄色い馬車を庇う隊列なのは、ハンターたちの作戦とGG私兵の思惑をうまく合致させた結果だ。
──つまり、
止まらない
近寄らせない
追わせない
「「我々が道を切り開く。何があろうとも……馬車の速度を落とさず駆け抜けろ!」」
ロニが先頭車両と私兵につげた言葉は、そのまま並ぶユナイテルの叫びに繋がった。
丘斜面上に点在する岩陰から、放たれる1本の矢──!
火矢なのは恫喝だろう。一瞬おののきかける馬を諌めそのまま突き進めば、間髪入れず低木に隠れた一団が逃すものかと一斉に飛び出す。
『はっ! 我らこそは新生ドゥマリ一味なり! 馬車をよこさねば皆殺しよ!』
ははは!
響く哄笑!
からからと、追従するかのように鳴り響く、骨と骨と骨。
『逃すかよぅ!』
嘲笑いとともにニシフ──大男が魔杖を掲げれば、先頭車が青白いガスに包まれる。
スリープクラウド。包まれた眠りのくびきに連なる生命を睡眠に陥らせる術に、御者と私兵は打ち克ち、馬は堕ちた。
「させない!」
場違いな爆音と銃声。その主はウォロノフ!
飛び起きる馬と慌てて体勢を整える御者を送り、彼女は再度、改造魔導バイクのクラクションの咆哮をあげる。
「残念。機械は眠らない。またソレを仕掛けるつもりなら、あたしも何度でも皆をたたき起こして廻るから!」
ニシフはフンと鼻を鳴らし回りを見ろと仕草で示す。
いつの間にか──手に手に斧を携えたゴブリンどもと、もう一人の大男、ヅダンが斜面上寄りから轍片面を圧迫するかのように、一行と併走を仕掛けはじめていた。
「弓2、斧3、兄弟。斜面より強襲! 馬車私兵とも異常なし……しかし、轍が狭められては……!」
現況を後方より俯瞰していたセルジュが、最後尾の馬車に据えつけられた無線に叫ぶ。
受ける車列先頭。
「まだだ。まだ1匹が伏兵として潜んでいる……」
おそらくはここから遠くないすれ違い車線。圧迫された轍を振り切ろうとするその隙を狙い、先頭の馬を射抜いてくる。
予想通りじゃないか! ロニの口角がわずかに上がる。
「1匹だけ? そう……1匹だけなら、ロニさん、あなたの手を煩わせる必要はない」
自身ありげな二段構えの伏撃だけれど、逆を言えば、ここで馬車列を止められなければ賊めらは挟撃に失敗。ガフナの丘を過ぎるまで、延々、轍を圧迫するしかなくなるということ……
ユナイテルは抜刀した宝剣を体に引き込むように構えて言う。
「兄弟を止めて。私は最後の伏兵を討つ」
馬車は走る。ただ一路。
すれ違い車線の膨らんだ轍が見え、ユナイテルの拍車は愛馬の腹を打つ。
「我が名は騎士ユナイテル。いざ尋常に勝負!」
弾かれたように潜み弓を構えたゴブリンが、矢先を馬にではなくユナイテルへ向ける。
恫喝には恫喝を。ユナイテルのまっすぐな名乗りは、ゴブリンへ二択を強いた。
馬車を狙い射て、その隙のまま私に殺られるか?
それとも窮鼠のごとく歯向かうか?
突出し切っ先に移動のエネルギーを溜めて放った一撃を、弓を放ちながらも機動力はそのままに、ゴブリンは避けてギィと耳障りに鳴く。
「避けたか。やはりただの子鬼ではない、な」
避けられてしかし、ユナイテルに笑み。
先頭の馬車はすれ違い車線を抜け、先に妨害者のないままに走る。走る。
「これより先には通すわけにはいかないの! 盗賊崩れのヘタレ雑魔!」
丘の斜面を抜け、今度こそはと先頭車に追いすがるニシフに、フェルミの乗用馬が立ちふさがる。
(大丈夫だから。あの怖いのから護るから)
小声で愛馬を励まして距離を詰める。遠く距離をとるよりも、いっそ近づくほうが勝機はあるはず。
『ヘタレ雑魔ぁ? 覚醒してみりゃゴブリン共までかしずいた俺様たちに、でかい口叩くんじゃねぇぞオラァ!』
(あれ? 歪虚の自覚どころか、死んだ自覚もないってことなの?)
氷がフェルミの頬を掠める。チリ……と焼けて強張るのに構わず、抱えた聖槍を体を捻る勢いで振り回す。届かねぇぞと嘲笑うニシフが、びくりと衝撃に体を震わせた。
「必ず当たる攻撃探したのね。セイクリッドフラッシュの次は、今度こそ槍で薙いでやるの!」
けれど、なんとなく……亡霊さん(……たぶん)に槍を当てるには、大男と違う目標を叩かないといけない気がする……?
セルジュの息は忙しい。
轍を狭めてくる一味に割って入った。バーンブレイドに焔を帯びてヅダンを薙いだ。邪魔に絡むゴブリンを振り向きざまに闇のダガーで両目を掠めた。
『あははぁ! どうした若造。効かん、効かんぞ!』
手ごたえはある。ヅダンの服は裂け胸から腹にかけてセルジュのつけた刀傷。
──しかし。
(痛みを感じていないのか? いや感じられないんだ。その自覚がない……!?)
ギィ! と、大きく鳴いてゴブリンが斧を薙ぎ、かわすセルジュにヅダンが大斧を振りかぶる。
(南無三……!)
父よ、我を護りたまえ!
目はつぶらない。差し違えの覚悟でバーンブレイドを寄せ一気にヅダンの懐に入る。その耳に、遠くから響く鎮魂歌──
大斧は振り下ろされることはなかった。
脇腹に突き刺さるセルジュの刃より、不思議そうにヅダンが見た視線の先……
硬直する馬から慌てて弓を放つゴブリンが、ロニから放たれた衝撃で的を外す。
「セルジュ。そのまま馬車列から引き離せ! 俺が抑えている隙に奴らの連携も破断しろ!」
再度、いや何度でも。セルジュは引き攣る馬を斬りつけて、一味の轍を狭める足は、どんどんその速度を落としてゆく。
「ロニさん、兄弟は痛みの自覚がない。ゴブリンは馬任せで取り憑かれたように走る。これはやっぱり……」
セルジュの問いにロニが頷く。
「すれ違いざまフェルミが言ったとおりか。奴らは亡霊と憑依者だ」
「弓、破断してくれる?」
すかさず銃声。
「はいっ!」
カインへの返事より先にウォロノフのリティディオンが火を噴いた。すかさずスピンコックから流れるように、標的をニシフから支援に動く弓ゴブリンに移す。魔導バイクの制御中断を短縮する片手リロード改修。彼女のこだわり、だ。
「狙うなら馬だ。いや、あの悪趣味な馬具を奴らは庇う」
遅参したな、と弓折れて馬にしがみつくばかりのゴブリンを一閃し、ユナイテルが合流した。
「馬車列、戦域離脱に成功せり!」
高らかな宣言。
「まだだよね。こいつら逃がしたら、馬車の復路を狙うに決まってるから」
じゃあ馬ごと弓の足止め頼むよ。
カインのゴースロンが駆ける。ユナイテルの翻弄するような馬術に追われたゴブリン3匹が、勝機を賭けて一見無防備に得物をさげたままのカインを一斉に狙う。
薄汚れた鎧に矢を受けて構わず、斧を振り回すゴブリンとすれ違いざま、速攻駆動をかけたたチェーンソーを薙ぐ。落ちるは轢断された馬の首とゴブリンの上体。馬具を繋ぐ鎖が、断たれた反動で宙を踊る。どう……と斃れる半身二つは塵と崩れる。
「ぃやっ! 痛い痛い痛ぁい! 先輩痛いってば」
カインに刺さる矢が我が事のように怖いのに、援護射撃の射線も構わずゴブリン鏖殺にかかるものだから、ウォロノフは半泣きでマテリアルの力を銃弾に込める。
(「射線に惑うな。俺ごと撃て」……って、なに言ってんの先輩っ!?)
──不思議と。
無茶なカインの背を追えば、敵の動きが緩慢に見える。ユナイテルが斬りつけたのはフェイント、ウォロノフの射線に馬面と馬具が顕わになって、持てる全ての射撃の業を載せて撃ち砕けとハンターとしての本能が告げる。崩れる馬から馬上のゴブリンを串刺しにして、カインが向かう弓ゴブリンの最後の視界は、盾となり朽ちる同胞の死体の向こうに現れるゴブリン殺しだろう。
「馬具です。狙って壊すのが難しいなら、馬ごと潰せって先輩たちが!」
無茶ばっか言うんですよぅ。カインさんとユナイテルさん……
ウォロノフが悲鳴のように叫んで、ドゥマリ兄弟との対峙を妨害する最後のゴブリンに狙いを定める。
「地縛霊さんかと思ってたけれど、憑依霊さんだったのね……」
いや、両方だろうか?
フェルミが納得がいったと頷いた。GGに対する通商破壊の胎動。街道の破断に盗賊の復活を企んだ便乗犯が居る……か。
『知るかぃ。GGの替わりにてめぇらの身包み剥いで勘弁してもいいんだぜぇ?』
『オマケに命も貰うがなぁ!』
この期に及んで──
妄執に囚われた盗賊が復活させられたのは必然だったのだろう。
ニシフの青白い霧がロニとセルジュ、フェルミの馬の足を止める。哄笑してヅダンは大斧を掲げ、騎乗のまま旋回の勢いを載せる。刃の軌跡に3名を捕らえて……
「殲滅戦を邪魔する奴はゴブリン以下だな」
忙しいんだ。馬に構ってる暇はない。
空振る大斧……ヅダンの馬が脚を折られてのめる。ゴースロンから飛び降りざまに駆けて低く大剣を薙いだカインを追い、ウォロノフが目覚めよとクランクションの爆音を響かせる。
(ぁう。無茶に限界がないのかな……先輩……)
爆音が去ったあとには、静かに流れていた鎮魂歌は影形もなく……
「情けは無用。盗賊崩れの亡霊よ。彼岸へ去る前にもう少し、俺に付き合って貰おうか」
審判の秤に魂を載せよ。罪の数だけ伸びる鎖に縛られよ。歌に替わり、ロニのクロノスサイズが虹色を増す。
万霊節前夜には地獄の釜の蓋が開く。亡霊に与えられた一夜が過ぎれば待つのは神の裁きのみ。光の杭が兄弟を馬ごと縫いとめれば、好機とフェルミが槍を大きく旋回させる。
「もう還ってほしいの! 怨念とか残しちゃだめっ!」
馬具を飾る髑髏の砕ける感触は、あっけないほど軽く、軽く。
そして跡形もなく晩秋の風に消える、骨と骨と骨。
●
丘を抜けた先に馬車が待っていた。
「我々の勝利です!」
ユナイテルの一言。待つ者を安心させるには十分。
私兵リーダーへロニが詳細を報告する。
「討伐報告書は追って提出しますが、この街道における通商は安泰です」
怨念満ちた兄弟の骨にゴブリン盗賊団が誘導されたのだ、とカインの見立てです、と付け加える。
セルジュがフェルミを手招いた。
「馬車馬の怪我はこの子だけです。お願いできますか?」
1回だけ残しておいたヒールはこのために使うと決めていた。怖かったね大丈夫だよ、と優しく鼻面を撫でて馬の返礼に笑う。
(……カイン先輩、反省会だって黙っちゃった)
並ぶカインを横目で窺うウォロノフの耳に、「にゃぁ」と小さい鳴き声。
「あっ! ディーナ同盟組んだフェルミ先輩のサバちゃんっ!」
慌てて黄色い馬車のよろい窓を開ければ、港猫と一緒に『レイサイン』の二人の顔が飛び出した。
「ありがとう! これで査収と納品が間に合うわ! ……あら貴女、姫茴香の香り?」
「はい。覚醒で薫るんです」
女史が続けて教えてくれた姫茴香のおまじない。人の結びつきと盗難避けに、だから護衛を引き受けなくちゃって思ったのだと、ウォロノフは大きく頷いた。
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相談卓 カイン・A・A・カーナボン(ka5336) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/10/19 19:47:14 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/10/18 03:45:35 |