仕組まれた試練、器の襲撃者

マスター:朝臣あむ

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/10/21 22:00
完成日
2016/10/29 19:39

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●アネリの塔
 高い壁に囲まれ、複数の支柱と銅線が張られた監獄都市、それが第十師団の管理する都市アネリブーベの印象だ。
 第十師団の本拠地は、都市の中央に佇む銅線を束ねる剣のような塔にある。これをアネリの塔と呼び、監獄都市の象徴とされていた。
「報告書は読みましたわ。これは後程処分しておいてもらえるかしら」
 塔内部の謁見の間で足を組み、第十師団師団長のゼナイド(kz0052)は億劫そうに報告書を前へ放った。それを受け取った副師団長のマンゴルトが苦笑する。
「放っておく気かの?」
「わたくしの玩具が動くには決め手に欠けますわ。もっとこう――そうですわね、わたくしの陛下へ危害を加える何かがある、と確証が取れれば動きますわ」
「ふむ。ならば引き続き動いてもらうとするか……エゴはいるかの?」
 マンゴルトの声に謁見の間の空気が揺れる。
「……呼んだかな?」
「うむ。引き続き調査を続けて欲しくてな。頼まれてくれるかの?」
「それは良いけれど……流石にこちらも少し人手が足りない感じなのだよ。補充はいつになったらしてくれるのかな?」
「死神の補充なんてそう簡単にできませんわよ」
 エゴと呼ばれた人物の言葉にゼナイドが答える。
 死神とは第十師団の隠密部隊ソウルイーターの略称だ。ソウルイーターは第十師団の汚れ役を引き受ける他、敵地への潜入調査など危険任務を主に行っている。
 故にソウルイーターは副師団長のマンゴルトと同等――否、それ以上の実力がなければなる事はできない。そしてその人材は近年不測の一途を辿っているという。
「ジュリがいるよ」
「……何ですって?」
「ジュリがいると言ったのだよ。ジュリはゼナイド様を裏切らない。きっと良い死神になる」
「認められませんわ」
 ピシャリと切り捨てたゼナイドにエゴの声が止まる。
 ジュリとは第3階層に籍を置く囚人で、偽タングラムとして捕縛された過去を持っている。
 囚人として収容されて以降、何度か疾影士としての強さを見込まれて重要任務に就いた事もあるが、実力はソウルイーターとしてはやや不足だ。
 それに第3階層は更生途中の囚人ばかりが籍を置く。ジュリも例外ではなく彼女の刑期だけ言えばまだかなり残っている状態だ。
「貴方、わたくしの作った階級制度を甘く見てません事? 第2階層と第1階層を飛ばしてソウルイーターには出来ませんわ。それに実力が足りませんのよ」
「マイラーは良いのかい? 彼はある日突然親衛隊に所属した。そんな彼の特例は認められるのにジュリが認められないのは何故だろう。彼女だって特殊な囚人ではないのかな?」
 それに。と言葉を続ける。
「実力が足りないというのであればボクが見てあげるのだよ。それなら文句はないのではないかな?」
「決闘でもするつもりですの?」
「さあ、どうだろう。でも似たようなものかもしれないね」
 エゴは何処か楽し気に笑うと、心配そうに周囲を伺うマンゴルトに「任務の件は了解なのだよ」と声を零して気配を消した。
「マンゴルト。至急ハンターにジュリの監視を頼みなさい。嫌な予感がしますわ」

●仕組まれた試練
 死神のエゴとゼナイドが会話を果たして翌日の事だった。
 ジュリの元に数名のハンターと新たな任務が届いた。その任務の内容は「ソウルイーターを倒せ」。
 別に仲間を排除しようという訳ではなく、エゴのソウルイーターになるための試練がジュリに課せられた結果の任務である。単純に言うと、エゴと闘い勝てば資格ありと判断される、と言うものだ。
「ソウルなんちゃらは本当に存在してたッスね。第十師団に所属してから噂は聞いてたッスが……」
 思案気に森林に足を踏み入れたジュリは、長らく首につけっぱなしの刑期メーターに手を添える。そうして辺りを見回すと、後ろを歩くハンターを振り返った。
「なんだかこっちの事情に巻き込んで申し訳ないッス。あっしはソウルイタコに興味はないんスが、行かないとゼナイド様に刑期増やされるって言われて……でもこうして自由に外を歩けるのはやっぱ良いッスね!」
 森林の空気をめいいっぱい吸うように目を閉じたジュリに監視という名目で同行したハンターたちの表情も和らぐ。
 そもそも彼らが同行を任されたのはジュリの監視――と言うのは建前で、昨日のやりとりを踏まえてジュリを守るのが役目だ。つまりハンターたちには「ジュリに課した試練は危険が伴うため、彼女の身の安全を守れるように動いて欲しい」という依頼が出されていた。
 けれど彼女を守るという任務内容はジュリに伏せられている。
 ジュリはあくまでハンターは彼女の監視に来ていると思っているのだ。
「あ! あの巨大な樹の先ッス――」
 森林の中で突出した樹がある。その下がエゴとの試練の場だった。
 そこを指差して駆けだそうとした彼女の足が止まる。
「――みんな、飛ぶッス!」
 突然の声と同時にジュリが地面を蹴った。
 そこに突き刺さる数本のダガー。それを目視するよりも早く次の攻撃が見舞う。
 間髪入れずに降ってくるダガーは複数方向から。確実に1人の所業ではない攻撃にジュリの頭がフル回転する。
「右に1人、左に1人、もう1人……そこッスね!!」
 即座に判断して踏み込む。
 仕込んだ短剣を抜き取って近場の木を蹴り上げると宙返り。そのままもう1本の木を蹴り上げ飛び上がった。
「元義賊のあっしの動きに勝とうなんて姉御以上に自信過剰ッス!」
 タングラムが聞いていたら頭を抱えそうだがジュリは至って真面目だ。枝の上に潜む影を発見するとそこに一刀を見舞う。
 ハラリ。と襲撃者の外套が剥がれた。
 見えたのは幼い容姿と無の表情。そしてエルフの耳――。
「どういう……ッ、しまった!」
 思いもよらない襲撃者の正体に動揺が走った次の瞬間、彼女の身体が勢いよく地面に叩き付けられた。
 息を奪う衝撃に意識が、声が、息が動きを止める。そして詰まった息を再開した時、彼女はある声を聞いた。
「彼女たちは浄化の器と呼ばれているのだよ。本物ではなく、量産された模造品のようだけどね。きっとボクを襲撃しようとしたんだろうね。でもちょうど良い。ジュリ、君が倒してごらん」
「!」
 量産型浄化の器。聞いた事のない。
「っ、く……あっしは……浄化の器とか、知らないッス……でも……同じエルフがこんな……!」
 まるで体の骨全てを叩き折らんばかりの力で圧し潰してくる少女には殺意も何もない。ただ言われた通りに殺しに来ている存在に寒気がする。
「許せないッス!!」
 全力で押し返して大地を転がる。
 そして背にあたった木に手を引っかけて飛び上がると改めて襲撃者の顔を睨みつけた。
 無垢な顔の無垢な襲撃者。気配だけで3人はいるであろう存在に奥歯を噛み締める。そしてありったけの声を放つ。
「あっしは第十師団第3階層所属、ジュリ! 根性見せるッスよ!!」

リプレイ本文

「これがハンターの実力……全然期待外れなのだよ」
 微かに揺れる木々の合間に身を潜め、量産型浄化の器とハンターの戦いを見ていたエゴが呟く。その手には全てを刈り取る鎌が1つ。
「もしジュリに危害が及ぶような事があれば――」
 現状、ゼナイドの駒であるジュリを死なす訳にはいかない。それはハンターを犠牲にしても言える事。故にエゴはハンターを厳しく見極める。
「ッ、なんて速さなんだ!」
 ソウルエッジで強化した武器を薙いだ鞍馬 真(ka5819)は焦りの混じる声を零し、回避に動いた浄化の器を見た。
 次々と回避される攻撃。元々速さで翻弄してくるであろう予想は立てていた。だからこそ注意深くその動きを観察し、隙をついて攻撃をする予定だったのだ。
「数ではこちらが勝っているんだ! 何でッ!!」
 間髪入れずに紡ぎ続ける攻撃。それを悠々と回避する敵にヒース・R・ウォーカー(ka0145)も内心で言いえぬ焦りを感じ始めている。
(分断はまだか、ねぇ?)
 当初の予定では戦闘開始直後に3体の浄化の器は分断させられるはずだった。にも拘わらず、戦闘が開始した今も3体は連携を取るようにハンターの周りを動いている。
 勿論、ホリィと呼ばれる存在に似ているから手を抜いている訳ではない。現に接近した器の顔を見たが雰囲気こそ似ていても別人だ。
「ボクはボクの敵を殺せる。戦う事になったらやることはひとつ」
 殺し合うこと。唇を引き結び、毒を迷う武器を手に接近する。狙うのは腕だ。相手の動きを先読みして軌道を追うように手を動かす。

 バンッ!

 弾けるようにして器の腕が飛んだ。同時に彼女が持つ武器も宙を舞うが動きは鈍らない。それどころか鮮血を舞わせて突っ込む姿に喉が動いた。
「――」
 喉を掻くように迫った指先。それが触れる直前、器の体が弾かれるように飛んだ。上空に漂う木の枝を掴み、軌道を修正する姿に鵤(ka3319)の腕が風に舞う包帯を手繰り寄せて術を刻む。
 素早く敷かれた三角の光。それがヒースへ再び踏み込む器に向かう。但し向かわせるのは1つの光のみ。残りの光は――
「いいタイミングだ」
 胴に鵤の放った光を掠めた器がリカルド=イージス=バルデラマ(ka0356)に転進する。銃口を向けても怯まない姿はエゴの放った声の通り感情がないように見える。
「いや、腕が吹き飛んでも怯まない時点で決定事項だな。にしても随分と小柄な襲撃者だな、子供か?」
「量産型の浄化の器ってなら可能性はあるねぇ……ま、量産型の存在自体はおかしかねえなぁ。存在自体は」
 鵤の言葉に「違いねえ」と零して弾を打つ。腹部から頭部へ、徐々に狙いを動かしながら狙撃するが動きは鈍らない。それどころか加速する足に舌打ちが漏れる。
「ったく、ガキ相手だとなまじ目標が小さい分狙い辛いから嫌なんだよ」
 苛立ち放った弾丸を潜り抜けて接近した存在に頭が仰け反る。それでも引き剥がすべく銃の柄を叩き付けると器の顔が急接近した。
「浄化の器って名前は同じだが別人……ぅっ」
 一瞬の事で理解が遅れたが柄は器には当たらず空を掻いていた。代わりに頭が掴まれ器の体が地面を蹴る。そうして反対側に着地した手が背を突こうと伸びる。
「リカルドさん、前へ倒れて……!」
 重い音を響かせてライフルの弾が飛ぶ。
 1度、2度、とマテリアルの力を借りてリロードを繰り返す。
 飛び退く器に体勢を整えるリカルド。それを目に安堵の息を吐くアメリア・フォーサイス(ka4111)だったが照準は外す事はない。懐に忍ばせた拳銃に意識を向けながら再び弾を装填する。そして今1度狙いを器に添えた所で鋭い痛みが頬を過った。
「シェリルくん、今ならアメリアくんを助けられる!」
 アメリアの頭を抑えるように手を添えたシェリル・マイヤーズ(ka0509)が前に出た。飛び馬の勢いで駆け出す彼女はナイフが飛んできた軌道線上を走る。そして迎え討つ器の懐に飛び込んだ。
「空っぽの……つくられた器……殺意すらもない……哀しいレプリカ……」
 間近で見ても感情の窺えないそれに「きゅぅ」と胸が締め付けられる。それでも殺さなければ自分たちが殺される。それはここまでの遣り取りで理解した。
「――私は、私のセカイの為に……戦うの……」
 抜刀の勢いで薙いだ風。本来であれば器の胴も切り裂く勢いだったそれを容易に回避して器は武器を構えた。漆黒の光も見えないナイフを手に地面を蹴った彼女が狙うのはシェリルだ。
「なんで……なんでなんだ? 相手は、子供だぜ。それも、女の子だよ!」
 叫び、水流崎トミヲ(ka4852)が牽制の意味で銃の引き金を引く。
 当てるつもりのない攻撃は相手からもわかるのだろう。軽々回避して、障害物を蹴って進行方向を修正する。まるで木の葉のように風で躍るかのような動きにトミヲの胸に行き場のない怒りが募り始める。
「なんだこれなんだこれなんだこれなんだこれ!」
「……私は、エルフハイムと帝国の確執を、きちんとわかってはいません。その身で感じ、その目で見てきたわけではありませんから」
 それでも。と言葉を秘めて周囲を窺う彼女の目に厳しさが走る。トミヲを叱咤する声はない。彼の声はこの場の全員の代弁に過ぎないから。
「囲まれましたね」
 冷静に、冷徹に、感情を押し殺して囁く松瀬 柚子(ka4625)の頬を冷や汗が走る。
 彼女の背には興奮に上がった息を整えるジュリがいる。一先ず彼女と敵を引き離す事には成功した。しかし状況は悪化の一途を辿っている。
 木々に身を潜めた3体の器。内1体は腕を失い鮮血を滴らせる事で隠れ場所を示しているが、残りの2体はほぼ無傷でハンターを狩るべく息を潜めている。
「くる!」
 葉音を響かせ3体の器が同時に飛び出してきた。
「おっさんの見せ場かねぇ?」
 腕を開き紡ぎ上げた三角の光を開放する。散開する光がそれぞれの器の行動を阻害に動く。
「随分と軽く越えてきますね。ですが身のこなしなら、こっちだって自信ありです!」
 光に進行方向を歪まされた1体が柚子へ急接近する。だがこちらとて出迎えるばかりが芸ではない。
 斜めに大地を蹴り上げて直角気味に木へ着地。更にそれを起点に飛び上がると器の頭上を回って背後を取った。
「私は、生命を護ります。そして悪を殺し、その悪しき運命から生命を、死を以て護ります」
 晒されたままの背に白銀の刃を突き入れ――
「!」
 柚子の視界を花弁のような血が舞った。それが自分のものであると判断するのに数刻の間を要し、激痛が利き腕を襲う。
「うあああああああッ!」
 咄嗟に腕を抑えて地面に転がる。そして其処に更なる攻撃が降ろうとした時、奇跡のような風が吹いた。
 器の視界を遮り、柚子を戦闘から引き摺り出すだけの間を作った風。これがどんな原理で起こったものなのか、それは彼女の心の内にだけ理解されているかもしれない。
「駄目だ! 動いたら血が」
 痛みを噛み締めて無理矢理に立ち上がった柚子をトミヲが青い顔で引き留める。それに対して微かに笑って首を横に振った柚子は、一度は落とした刀を拾って握り締めた。
「今の私にとっては全ての生命が大切なもので、護りたいものなので」
 自らに回復を施して前を向いた彼女の目に映るのは、自身を傷付けた器とジュリが闘う姿。そして傍には別の器と刃を交わすリカルドの姿も。
「……速い攻撃だが見えない訳じゃねえ。防げるなら勝てる算段もあるってことだ」
 器を漸く捉えたリカルドのブレード動き続ける刃を止める。ビリビリと伝う振動を無視して一気に踏み出すと、重なる刃を滑らせて外へと薙いだ。
「おっと、逃げるのはお終いにしようかぁ?」
 リカルドの反撃で飛び退こうとした器の足が止まる。
 不思議そうに視線を落とした先に見えたワイヤー。元を辿った先にいたヒースはグッと唇を結んで繋いだワイヤーを引っ張った。
 引き摺られる様に引き倒された存在に冷やかな視線が注がれる。
「んー……こりゃあガキの形した対人用の暗殺兵器みたいなもんか。こんなもん使うのは俺の故郷だけだと思っていたが、考えることは何処も一緒か」
 呟き、止めを刺そうと刃を振り下ろす。が、
「――なっ」
 飛んできたナイフに意識が奪われ、咄嗟に剣で払っていた。
 その瞬間、ヒースが握っていたワイヤーにも衝撃が走り、彼の腕が持っていかれそうになる。そして距離を測ろうと離れた器を見て鵤が動いた。
「あー、まあ当たったらすまん、ってえことで?」
「冗談じゃねえぞ!」「当然、避けるよねぇ」
 翳した手の前方に出現した術式陣。そこに浮かび上がった無数の氷柱にリカルドとヒースの双方が動いた。
 ワイヤーを近くの枝に引っ掛けて飛び退くヒースに対し、リカルドは動きを封じるように剣を器の足に突き投げて飛び退く。そうして双方が一定の距離を取った所で氷柱が器の体を貫いた。
 表情もなく体を凍てつかせる存在に止めを見舞ったのはこの直後だった。

 ヒースとリカルドの双方が1体の器と対峙していた頃。トミヲはありえない出来事を前に心を動揺させていた。
「う、うわあああああっ!!!」
 腕を失い、胸を貫かれた器。次々と鮮血を滴らせながらも迫りくる彼女はトミヲの銃弾によって致命傷に近い傷を受けた。
 トミヲはただ牽制の為に引き金を引いたに過ぎない。ただ運が悪かった。
 進行を阻むつもりで放った弾は当初の予定を逸れ、真っ直ぐに器の胸を貫いた。本来であれば死も免れないダメージのはず。それでも攻撃を止めない彼女にトミヲの精神が限界まで追い詰められている。
 真にとってトミヲの反応は理解出来ないものだ。彼にとって敵は敵。自我がなかろうが、幼い少女だろうが、倒すべき敵だという事実に変わりは無い。
 だが彼は敵の姿に動揺し、己の心に素直に反応している。それが良いか悪いかで言えば、彼からすれば悪いに当たるのかもしれない。それでも人の心が否定出来ないのは事実。
「シェリル君。彼のためにも早急に対処したいと思うんだが」
 攻撃の速度は徐々にだが遅くなっている。
 二刀流で攻撃を捌く真の声に頷いてシェリルが飛び出す。狙うのは敵の懐、動きを止める一撃だ。
「……作りもの……哀しい、操り人形……ここで、死んで……」
 陰りある声が真の耳を掠め、器のもう片方の腕が吹き飛んだ。これに真が確かな一刀を放つ。
 迷いなく放たれた刃は器の瞳にあった光を完全に奪った。崩れ落ち、黒く変色して無に還ってゆく存在にトミヲの膝が折れる。
 呆然と、ただ無意識に消えゆく存在を見詰め、瞳に怒りが宿った。


「やーねぇ、相手する輩を間違ってるぜおじょうちゃん」
 残る器の攻撃を反鏡を使って弾き飛ばした鵤は、砕け散る鏡の破片越しに彼女を見詰めて指を折った。その直後、変則的な軌道を描く弾丸が複数降り注ぐ。
 まるで雨のように足元を狙う攻撃に器の退路が徐々に狭まってゆく。
「ジュリさんには今後の人生の為にも自身の力を示し、活躍してほしいと思っています」
 ここまで援護は極力避けてきた。それでも必死に頑張る彼女を見て、最後まで諦めずに戦い続けた彼女を見て、アメリアはライフルを手に最後の照準を定める。視界に掠めたジュリの金髪。それを意識しながらこれから放つ一撃に全てを込める。
「――ジュリさん、がんばれ……!」
 胴を貫いた弾。前屈みにもつれた足を合図に踏み出す。
 内に抱えた怒りをナイフに乗せて突き入れた彼女に、器は何の表情も示さず息を噤んだ。静かに止まった鼓動と失われてゆく熱。それらを流れ落ちる血と共に抱きしめたジュリに唐突な声が降ってきた。
「期待外れ。いや、元々期待もしていなかったかもしれないけれど、よく頑張ったのだよジュリ。そしてハンターの諸君」
 木々の合間から姿を現した黒のローブを頭から被る人物。その人物を見てハンター達の態度が一変する。
 彼らの態度は決して柔らかくはない。それもそうだろう。元はジュリの試練に立ち合い、彼女を危険から守るのが彼らの仕事だったのだから。
 だが実際に訪れたのは試練という名の襲撃。しかも相手は量産型の浄化の器というではないか。
「ずいぶんと都合のいい試練になったねぇ?」
 警戒を隠しもせずに放つヒースの声に皆が同意する。
 それをさも当然の反応と受け取ってローブの人物――ソウルイーターのエゴは頷いた。
「そうだね。その点は君たちに詫びる必要があるのだよ。申し訳なかったね。騙すような真似をしてしまって」
「悪いと思ってるのか。だったらぜひとも餌の内容について詳しく教えてもらいたいところだねぇ。勿論、追加報酬枠で」
「そうですね。どうにもタイミングが良すぎますし、襲撃されることは想定内だったと判断しても?」
「問題ないのだよ」
 真の声に大きく頷いたエゴは、ジュリを見ながら言葉を紡ぐ。
「ボクが所属しているのはソウルイーター、通称死神と呼ばれる部隊なのだよ」
 死神は第十師団の隠密部隊。昨今人員不足でジュリに白羽の矢を立てたところゼナイドに反対された為、今回のような強引な手段に出たという。
「強制的に事件に巻き込んでしまえば彼女の立場はグッとボクたちに近付く。そう思ったのだよ」
 得意げに話すエゴに、今まで話を聞いているだけだったトミヲが立ち上がった。
「どうしたんだい? まだ具合が悪いのでは?」
「ああ、めちゃくそ胸糞わるいよ……キミもだぜ、エゴ!!」
 目尻に涙を浮かべて指を差す彼にエゴの首が傾げられる。
「知ってたんだろ。『此処』に来れば彼女たち――エルフハイムが動くって」
「『此処』ってなんのことだろう?」
「キミは、エルフハイムの警戒状況、その証拠を掴む為だけにジュリくんの試験と僕達を利用したんだろ、ああああ、もう!」
 叫び、胸を掻く彼に「うーん」とエゴの頭が揺れる。
「少し訂正しよう。確かに器の襲撃は偶然ではない。何故なら君たちはゼナイド様が実力を認めるハンターだからね。君たちの実力がボクの想像通りであるのなら、これからの行動にも光が見えると思ったのだよ」
「……どういう?」
「器の襲撃はボクがわざと隙を作ってやらせたに過ぎないのだよ。『敵は他にもいる』という危機感を植え付けるためにね。こうすることでボクはボクの目的を達することが出来る。うん、そうだね。君たちはエルフハイムの実態を知る切っ掛けを得た。なら君たちに頼むのもありかもしれない」
 そう言うとエゴは、被っていたフードを外してハンターたちを見回した。その容姿にハンターだけでなくジュリも驚いたように目を見開く。
「君たちにお願いがある。どうかボクと一緒にエルフハイムへ行ってくれないだろうか」
 エゴ――白銀の髪を持つ少女は、そう言って小首を傾げると、言動とは似つかわしくない程に可愛らしく笑って見せた。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 8
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 真水の蝙蝠
    ヒース・R・ウォーカー(ka0145
    人間(蒼)|23才|男性|疾影士
  • ……オマエはダレだ?
    リカルド=フェアバーン(ka0356
    人間(蒼)|32才|男性|闘狩人
  • 約束を重ねて
    シェリル・マイヤーズ(ka0509
    人間(蒼)|14才|女性|疾影士
  • は た ら け
    鵤(ka3319
    人間(蒼)|44才|男性|機導師
  • Ms.“Deadend”
    アメリア・フォーサイス(ka4111
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士
  • むなしい愛の夢を見る
    松瀬 柚子(ka4625
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • DTよ永遠に
    水流崎トミヲ(ka4852
    人間(蒼)|27才|男性|魔術師

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
水流崎トミヲ(ka4852
人間(リアルブルー)|27才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/10/21 13:11:04
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/10/18 11:37:59