ゲスト
(ka0000)
【女神】打ち上がった沈没船
マスター:奈華里

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2016/10/24 19:00
- 完成日
- 2016/11/03 01:12
このシナリオは2日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●才能
「もう、こう毎日雨が続いちゃ仕事にならないわね」
机には書きかけの海図――これは彼女の手によるものだ。
彼女は父から受け継いだ船を使い、現在小さな船で運搬業を営んでいる。
「まあ、この天候じゃあ仕方ありませんよ」
そんな彼女のもとにやってきたのは父の代から仲良くして貰っている一人の乗組員だった。彼女よりは随分年上であるが、他界した父に代わって彼女の補佐をかって出てくれている頼もしい仲間である。
窓の外では今日も激しい雨が降り注ぎ、ガタガタと窓枠を揺らしている。
「私の見立てだと明日のお昼くらいまでだとは思うけどね。頼まれてる荷物の納期、まだあったわよね?」
天気が悪くて動けないが、それでも納期はやってくる。
その辺も考慮して交渉していたつもりであるが、自然が相手では完璧にとはいかないものだ。
それに彼女の仕事場は海であり、危険が多い。ヴォイドとの遭遇も常に頭に入れての仕事となる。
「後二日ですね。けどまあ、船長の腕があれば大丈夫ですよ。あっしはそう思います」
信頼しているのだろう。不安な顔一つ見せずに彼が言う。
「フフッ、嬉しい事を言ってくれるわね♪」
彼女もその言葉に柔らかな笑顔を返して、彼の持ってきたホットワインを口に含む。
彼女の名はイズ――若干二十二歳の若き女船長。
●船
「さあ、目的の港まで急ぐわよ」
『オッー!!』
翌日、彼女の読み通り雨を降らせていた雲は消え、昼を過ぎると青空が広がり波も穏やかに海面を揺らす。それを逸早く悟って、彼女は船を走らせる。そんな彼女の船には何故だか自然といい風が吹き、時にイルカがやってきたりもするものだから、彼女を知らぬ者はさぞ驚く事だろう。同業者でさえ彼女のその神がかかった才能には一目置き、彼等は彼女の事を【海の女神】と呼び、彼女が動き出すのを待って続く者も多い。
「あの子の風読みはピカイチだからなっ」
漁師もそう言って、船を出すタイミングを計る。
それ程までに天候、とりわけ風を読むのに彼女は長けていた。
というのも幼い頃から父の船に同行していたのだから無理もない。
そんな余談はともかく、彼女の航海は今日も順調だった。
慣れ親しんだ海で最速となりそうなルートに舵を切って、頼まれている荷物を目的地の港へと運ぶ。
そんな折だった。
「ん、なんだあれは…?」
甲板に出ていた一人が対岸手前に見える何かを見つけ、双眼鏡を覗く。
するとそこにあるのは彼等の船よりも何倍も大きい船で…船底をこちらに向けて、ぷかりと浮かび上がっている。
「難破でもしたのか? だったとしたら急がないと!!」
そう思い彼は慌ててイズの許へ。
それを聞き彼女も進路をその船に取り、近付き見えてきたのは海水に侵食され、藻の生えた船体。
どうやら、その船は最近のものではないらしい。
「原型は留めているけど、この型…かなり昔の、かしら?」
百年、いや二百年――もしかするともっと前かもしれない。ずんぐりとしたフォルムが今ある船とは少し違う。
その船は一部大破しているようで、そこを塒にしていた魚達がいたのか剥き出しの側面に打ち上げられ息絶えている。
「どうします、船長?」
船を見上げ乗組員の一人が問う。
「そうねえ…気になるけど、とりあえず納品優先。港に報告しておきましょう」
イズはそう言うも視線は外せなかった。何かを感じて、小さくなるその船をずっと見つめてしまう。
「船長、どうかしましたか?」
余りにもずっと見つめる彼女に再び乗組員が問う。
「いえ、なんでもないの、気にしないで」
彼女とこの船の出会いが後に彼女の未来に大きく関わる事になるとは、この時彼女は思いもよらなかった。
●責任
「はあ?! 見に行った船が帰ってこない?」
荷物を無事届け終えて、現状を聞きに戻って来てみればあの船を調査に行った船が戻ってこないらしい。
「まさかヴォイドが乗ってたとか? そんな気配なかったけど…」
いなかったとは言い切れない。彼女達が確認したのは外観だけだ。大型の船であったなら、内部には何かいてもおかしくない。
「とりあえずハンターに調査依頼を移行したから行きたいならそっちに同行してくれや」
港の管理部の者にそう言われて、彼女はそのままハンターオフィスへ。
そして、新しく追加されそうになっていたその依頼に同行できないか交渉する。
「いきなりそう言われましても…」
「お願いよ。あの船は私が見つけたのよっ!」
窓口から乗り出して彼女が言う。
「船長、危なそうだし任せてしまえば…」
「嫌よ。私達が見つけた船のせいで人がいなくなったの。ちゃんと責任とらなきゃ! と、そうよ。あの場所は陸からは少し離れてるわよね? だったら、船が必要でしょ? そこを引き受けるわ!」
ずずいっと迫っての交渉に流石の窓口も圧倒されて、そこまで言うならとOKサインが出る。
「但し、あなた非覚醒者ですよね? ハンターの邪魔にならないようにお願いしますよ」
勝気な性格を読み取って窓口が念を押す。
「判ってるわ。忠告どうも」
イズはそう言うと早速皆にその事を告げに戻るのだった。
「もう、こう毎日雨が続いちゃ仕事にならないわね」
机には書きかけの海図――これは彼女の手によるものだ。
彼女は父から受け継いだ船を使い、現在小さな船で運搬業を営んでいる。
「まあ、この天候じゃあ仕方ありませんよ」
そんな彼女のもとにやってきたのは父の代から仲良くして貰っている一人の乗組員だった。彼女よりは随分年上であるが、他界した父に代わって彼女の補佐をかって出てくれている頼もしい仲間である。
窓の外では今日も激しい雨が降り注ぎ、ガタガタと窓枠を揺らしている。
「私の見立てだと明日のお昼くらいまでだとは思うけどね。頼まれてる荷物の納期、まだあったわよね?」
天気が悪くて動けないが、それでも納期はやってくる。
その辺も考慮して交渉していたつもりであるが、自然が相手では完璧にとはいかないものだ。
それに彼女の仕事場は海であり、危険が多い。ヴォイドとの遭遇も常に頭に入れての仕事となる。
「後二日ですね。けどまあ、船長の腕があれば大丈夫ですよ。あっしはそう思います」
信頼しているのだろう。不安な顔一つ見せずに彼が言う。
「フフッ、嬉しい事を言ってくれるわね♪」
彼女もその言葉に柔らかな笑顔を返して、彼の持ってきたホットワインを口に含む。
彼女の名はイズ――若干二十二歳の若き女船長。
●船
「さあ、目的の港まで急ぐわよ」
『オッー!!』
翌日、彼女の読み通り雨を降らせていた雲は消え、昼を過ぎると青空が広がり波も穏やかに海面を揺らす。それを逸早く悟って、彼女は船を走らせる。そんな彼女の船には何故だか自然といい風が吹き、時にイルカがやってきたりもするものだから、彼女を知らぬ者はさぞ驚く事だろう。同業者でさえ彼女のその神がかかった才能には一目置き、彼等は彼女の事を【海の女神】と呼び、彼女が動き出すのを待って続く者も多い。
「あの子の風読みはピカイチだからなっ」
漁師もそう言って、船を出すタイミングを計る。
それ程までに天候、とりわけ風を読むのに彼女は長けていた。
というのも幼い頃から父の船に同行していたのだから無理もない。
そんな余談はともかく、彼女の航海は今日も順調だった。
慣れ親しんだ海で最速となりそうなルートに舵を切って、頼まれている荷物を目的地の港へと運ぶ。
そんな折だった。
「ん、なんだあれは…?」
甲板に出ていた一人が対岸手前に見える何かを見つけ、双眼鏡を覗く。
するとそこにあるのは彼等の船よりも何倍も大きい船で…船底をこちらに向けて、ぷかりと浮かび上がっている。
「難破でもしたのか? だったとしたら急がないと!!」
そう思い彼は慌ててイズの許へ。
それを聞き彼女も進路をその船に取り、近付き見えてきたのは海水に侵食され、藻の生えた船体。
どうやら、その船は最近のものではないらしい。
「原型は留めているけど、この型…かなり昔の、かしら?」
百年、いや二百年――もしかするともっと前かもしれない。ずんぐりとしたフォルムが今ある船とは少し違う。
その船は一部大破しているようで、そこを塒にしていた魚達がいたのか剥き出しの側面に打ち上げられ息絶えている。
「どうします、船長?」
船を見上げ乗組員の一人が問う。
「そうねえ…気になるけど、とりあえず納品優先。港に報告しておきましょう」
イズはそう言うも視線は外せなかった。何かを感じて、小さくなるその船をずっと見つめてしまう。
「船長、どうかしましたか?」
余りにもずっと見つめる彼女に再び乗組員が問う。
「いえ、なんでもないの、気にしないで」
彼女とこの船の出会いが後に彼女の未来に大きく関わる事になるとは、この時彼女は思いもよらなかった。
●責任
「はあ?! 見に行った船が帰ってこない?」
荷物を無事届け終えて、現状を聞きに戻って来てみればあの船を調査に行った船が戻ってこないらしい。
「まさかヴォイドが乗ってたとか? そんな気配なかったけど…」
いなかったとは言い切れない。彼女達が確認したのは外観だけだ。大型の船であったなら、内部には何かいてもおかしくない。
「とりあえずハンターに調査依頼を移行したから行きたいならそっちに同行してくれや」
港の管理部の者にそう言われて、彼女はそのままハンターオフィスへ。
そして、新しく追加されそうになっていたその依頼に同行できないか交渉する。
「いきなりそう言われましても…」
「お願いよ。あの船は私が見つけたのよっ!」
窓口から乗り出して彼女が言う。
「船長、危なそうだし任せてしまえば…」
「嫌よ。私達が見つけた船のせいで人がいなくなったの。ちゃんと責任とらなきゃ! と、そうよ。あの場所は陸からは少し離れてるわよね? だったら、船が必要でしょ? そこを引き受けるわ!」
ずずいっと迫っての交渉に流石の窓口も圧倒されて、そこまで言うならとOKサインが出る。
「但し、あなた非覚醒者ですよね? ハンターの邪魔にならないようにお願いしますよ」
勝気な性格を読み取って窓口が念を押す。
「判ってるわ。忠告どうも」
イズはそう言うと早速皆にその事を告げに戻るのだった。
リプレイ本文
●魔手
「おいおい、こりゃあ堪らんぜ…」
いくつになっても浪漫を感じると心が疼く。
とりあえず近くに落ちていた冊子を拾い上げて彼――エヴァンス・カルヴィ(ka0639)はページを捲る。
すると彼の足元に一匹のヤドカリが現れて、この船に先に乗船していたらしい。
(なんだ、おまえも浪漫を感じたか?)
かさかさと横切っていく彼を見送り、エヴァンスは読めるページを探す。
だが、不思議な事に徐々にヤドカリが増えてきて…。
それは一瞬の出来事だった。浸水が進んできた事もある。
迫上がってきた海面の中からとび出した魔手が彼を捕らえる。
(ッ! ウソだろっ!?)
周りに仲間はいない。何故なら彼は、自ら単独を申し出ていたのだから…。
「お、誰かと思えば海の女神サンかい。こりゃ安心できそうだ」
時は遡って、好奇心を擽られてやってきたジャック・エルギン(ka1522)はイズの姿を見つけて軽く手を上げる。
「あら、また会ったわね」
そういうイズは現在パティことパトリシア=K=ポラリス(ka5996)とルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)と打ち合わせ中。出港前に道中の道筋や見つけた沈没船についての概要を纏め調査に活かすらしい。船の向きや形、破損の具合まで事細かに。行けば判る事であるが、先に聞いて目星をつけておく事で迅速な調査が出来るというものだ。キャラック船と聞いてパティは資料を探し船内構造を推測する。
「フムフム、ナルホド。ほぼ逆さ状態という事は」
「船長室は浸水中の可能性が高く、加えて一番奥って事になりますね」
符術師同士だからか息ぴったりにパティとルンルンが話す。
「あの、おばけとか…出ません…よね?」
その横ではワクワクと不安を抱えたブレナー ローゼンベック(ka4184)が緊張の面持ち。
御伽話は好きなのだが、お化けが苦手なのかもしれない。
「まあ、出んとは言い切れンな。何たって雨が運んできた幽霊船だから」
実際は沈没船であるが、乗組員が死霊化していてもおかしくないという理由でJ・D(ka3351)がブレナーをからかう。
「駄目ダヨ、J・D。怖がらせちゃ…大丈夫、この人こう見えテ頼りになるカラ」
そんな悪ふざけに気付いて、パティがフォロー。この二人は知り合いらしい。彼女はJを信頼の目で、彼は彼女をほってはおけないようで時折彼女に視線を送っている。
「そう、ですか」
そんな二人をブレナーは見取り、遠慮がちに言葉する。
「船長、準備できましたー」
そこへイズの部下がやって来て一路――現場に向かうハンター達であった。
●調査開始
天気が良かった事も相まってか沈没船までの航路は順調に進む。
時折双眼鏡を構えて周囲を確認したりルンルンが式符を飛ばし辺りを探っているようだが、これいった危険は見当たらない。但し、一点気になったのは岩場に浮かぶ木片の数。
「もしかして、あれって調査船の破片じゃあ…」
こちらに向かった調査船はイズの船よりも小さかったと聞く。武装もしていなかったようだから、何かの襲撃にあったのならきっとひとたまりもなかった事だろう。
「そんな…何処かに生存者はいないデスか?」
イズに頼んでその破片の近くまで寄ってもらって、取り上げた木片はやはりまだ真新しい。
周辺の潮の流れはおとなしく、やられたとすればこの辺りで間違いないだろう。その『この辺り』というのは、そのものずばり例の沈没船のある場所であり、いよいよこの船自体が怪しくなってくる。
「船からの生命反応は…ビンゴ! 何かいっぱいいるんダヨ」
パティが早速生命感知で判った事を報告する。
「いるったってうじゃうじゃじゃ意味ネェだろうが。本当にあてになんのかネェ」
冷やかすようにJが言う。
「ま、調査船が見当たらない以上、行くしかねぇじゃんか。って事で俺は中で」
ジャックがロープを準備し、壊れた船底側面から侵入を試みる。
「じゃあ、俺はあっちだな。すまんが、ショットアンカーをあそこにかけてくれんだろうか?」
それを見てエヴァンスは折れて短くなった船嘴の方を指差す。
「いいだろう。けど、一人で大丈夫カイ?」
「俺を誰だと思ってる? 歪虚の大将とも殺り合ってるんだ。そっちこそ”アレ”が出たらしっかり守ってやんな」
終始笑顔でよっぽどこの調査に心躍っているらしい。少年のような無邪気さを垣間見せながら、かけて貰ったアンカーを頼りにエヴァンスは船前方へと飛び移る。
(若いねぇ~)
Jはグラサン越しに笑みを浮かべ、皆を見送る。
「では行ってくるのです」
「外の方は宜しくお願いします」
ルンルンとブレナーも船を移って、パティとJはイズの船に残り側面調査。沈没船の名が判る様な特徴を探す。
「しっかしフジツボだらけダナァ。こいつらにとっちゃいい住処ってか」
Jが呟く。パティはその隣で式符を使い、船の観察に励んでいた。
さて、後方の裂け目から入ったジャックらは最も何かありそうな船長室を目指す。
所々でルンルンが式符を先行させ、安全を確保しての調査となる。
(お化けなんか怖くない…怖くない…)
ブレナーの心の声、無理もない。この船はそう思わせる独特の雰囲気を有している。何百年も海底に沈み、久々の空気に触れた船体からは歩くたびに軋む音がする。ぽたりぽたりと落ちてくる雫も自然と彼らを煽ってくる。それに一歩中に入ると、とても薄暗く灯りをもってしても範囲は限定され、いかにも何か出そうな気にさせる。そんな中、三人が初めに見つけたのは見慣れぬ形の器だった。
「なあ、これ民芸品じゃね?」
ジャックがまじまじとそれを見つめつつ問う。
他にもバラックに混じって割れた陶器やら一風変わった形の武具やらが散乱している。
「やっぱりこの船、海賊船なんじゃあ」
金銀財宝とは違うが、珍品にかわりはない。ブレナーの気持ちが好奇にぐっと傾く。
「それにしては火薬が少な過ぎます」
が、それをルンルンが否定した。何故なら多分ここは船倉で…もし海賊ならば戦闘は必須事項。お宝も大事であるが、その前に戦う為の道具がなくては話にならない。それがないという事は、海賊船という線は低くなる。
「それに人骨がないってのも変じゃね?」
どんな船にしろ、人が動かしていた筈だ。なのに、それさえ見当たらない。
「まさかとは思うのですが、この船自体が歪虚化してるとか…」
ルンルンの最悪な推測――それが口から零れたその時だった。
ギィィと船体が軋みを響かせて、突如ぐらりと船体が傾く。
「えっえっ…うわぁぁ!」
それに足をとられブレナーが派手に転ぶ。更に転倒先の床が腐っていたのか、彼はそのまま足場を破懐し下へと落ちる。
「う、うぅ……最あ、く…ってうわぁぁ!?」
打ったお尻を摩って、立ち上がりかけたまさにその時、彼に再びの災難到来。
手に触れたヌチャリとした感触に思わず悲鳴。それに利き腕を絡みとられて、びくりと身体が跳ねる。
「おいっ、大丈夫かっ!!」
その異変を悟ってジャックが下へ。そして、引き摺られるブレナーとその魔手の間に入って斧を振り下ろす。
ぶちりと音がした。それと同時に魔手は後退。傾きからして浸水部に逃げ込もうという事らしい。
「そうはさせませんよっ」
だが、それにルンルンが待ったをかけた。
自称ニンジャの身軽さで彼女も下に降りるとタタタッと駆けて術を展開。
「ルンルン忍法土蜘蛛の術…いきなりトラップカードオープン」
すると目には見えぬ結界が発動し、後退する足を固め、逃走をくい止める。
「ナイス、ルンルン!」
その好プレーにジャックの称賛――如何やら敵はタコらしい。
「さっきの借りは返します」
そこで立ち上がったのはブレナーだった。自分より大きな敵目掛けて、龍殺しの名を持つ魔剣を構え突きの体勢。相手が相手だ。少々の切り傷を負わせた所で致命傷には至らない。ならば、狙うのはただ一点――しかし、よく考えるとタコの心臓は何処にあるのか。
「ええい、迷ってる場合じゃないッ!」
ブレナーの声に応えてるように青い鳥が彼を包む。
すると彼の姿は青年へと変化し、手にしていた剣も真っ赤に染まって、
「くらえぇぇぇ!!」
先程の彼とはもはや別人に近かった。身体からは青い炎が立ち昇り、闘争心をむき出しにしたその姿で渾身の刺突一閃を食らわせる。ぶすりと食い込んだ剣先を更に捩じると、流石の敵も健在な足をじたばたされる。
「うっしゃ、そのままで頼むぜ?」
そこへジャックの追い打ち。胴と頭を断つように再び斧を振り抜く。その威力は凄まじかった。それもその筈、彼は自身の斧にソウルエッジを付加している。つまりは物理以上の力がそこには働いているのだ。一閃されたタコは暫く暴れていたが先程までの勢いはなく、ついには動きを停止する。
「まさかタコとは…」
うっすら靄になり消えていく敵に少年の姿に戻ったブレナーが呟く。
「とりあえず報告しておきましょう。エヴァンスさん、エヴァンスさーん…ってあれ?」
通信機越しにルンルンが首を傾げる。その頃彼は…。
●攻防
(くそっ、息が持たねぇ…)
突然引きずり込まれたから酸素を確保する余裕はなかった。
それでも水泳の心得があったからパニックになる事は避けられた。だが、依然としてピンチなのに変わりはない。服が水を吸って重くなっていくが、ここでは連絡の取りようもない。唯一の方法はこの場を早く凌いで酸素を確保する事だが、それがなかなかに難しい。三本の触手で片腕と足を絡めとられて、これでは魔導拳銃剣に手が伸ばせない。
(こなくそがぁぁぁっ!)
だから後は力の問題。敵の魔手と自分の体力――辛うじて、今は船のへりに手をかけて踏み止まっているが、このまま押し切られたら? ぞっとした。歪虚の親玉と戦ってきた彼がこんな海洋生物にやられるなんて。しかし、この均衡は徐々にタコの方に傾き始めている。そこで彼は賭けに出る。チャンスは一瞬しかないが、このままではどっち道やられてしまう。
(さて、覚悟を決めろよぉ)
エヴァンスは自分に言い聞かせ、手を放せば一気に詰まるタコとの距離。
ひっぱられる力にませて手をポケットに伸ばし中のものを掴み、タコの口へと放り込む。
『グガァァァァ』
その異物にタコは声のない悲鳴を上げ、彼を手放した。
その隙に彼は浮上。顔を上げて、落ち着く間もなく一発空に発砲する。
「アレは…エヴァンスか?」
それに外周を船から見て回っていたJが気付いて、イズが素早く船を走らせ彼を引き上げる。
「オイ、何があった?」
「はー…油断大敵だな。デビルフィッシュとはよく言ったもんだ…」
「デビルフィッシュ……」
「敵はタコなのデスか?」
パティの問いにエヴァンスが頷く。しかし、敵はまだ諦めない。
大きく船が揺れたかと思うと、ヘリにはぬらめく複数の足。船底に噛みつく事はないだろうが、転覆させられてたら、船を徐々に砕いていく事も考えられる。
「チッ、えらいのを連れてきたナ、アンタ」
皮肉めいた言葉を投げてJがたこ足を狙い打つ。
「そりゃあ、悪いな」
エヴァンスもそれに応えつ前へ。船を傷つけない様考慮しながら薙ぎ払いで引っぺがしにかかる。が、敵の吸盤がしっかりと船を捉え、なかなか離れてくれない。
「ちょっと踏ん張っててよねっ!」
そこでイズ自ら舵を取って、目指すのは岩肌ギリギリのライン。この辺は沈没船が上がったように海底の起伏が激しい。従ってそれを利用し、敵をぶつけようというのだ。
「うひゃっ、凄いのデスヨー」
いざという時の動力として積んでいた魔導モーターをパティのマテリアルで起動し、急速発進する。
「こらぁ…凄いな」
「ホントにナァ」
感心するJににやりとするエヴァンス――イズは見事な舵裁きをみせ、難なく岩肌に激突させる。
そこで仕掛けたのはJだった。
「何かと逃げられちゃあ、厄介なんデネ。ほーら、プレゼントだ」
冷気を纏った弾丸は着弾時に氷柱を作りタコをルンルンの時同様岩肌へと縫い付ける。
その後はもうしめたものだ。音に気付いて船内班も様子を見に出てきたが、手を借りる必要もなくあっという間に二匹目のタコ歪虚が塵と消える。
加えて、その銃撃戦がいい方向へと彼等を導いたようで…。
「おーい、助けてくれー」
沈没船のある所よりも少し奥、崖のようになった場所の洞穴から手を振る人…。
彼らは調査船の乗組員のようだった。
●発見
「お疲れ様です。皆さん無事で何よりです」
調査船の乗組員を救出した後更に沈没船の調査を続け、歪虚が残っていない事を確認して戻り報告の為に情報を整理する。ちなみに調査船の乗組員は船を囮にあの洞穴へ逃げていたらしい。何名かはやられてしまったようだが、全滅でなかったのは救いである。それはともかく、ハンターらは持ち帰った内容を手掛かりにイズの意見を聞きつつ推理する。
「とりあえず船内の重要そうなもんはこれ位か」
各々魔導カメラで写真を撮っていたから実に判りやすい。
あやしいと思われる場所や特徴的な装飾を写し、あの船の名前、および持ち主やら乗船者を探る。
「うーん、流石に資料が膨大過ぎますネー」
この手のキャラック船が活躍した時期は特定できても、そこからが進まない。
せめて船首の部分が残っていればいいのだが、それも月日が経ってしまっている為形が定かではなく、一般的に名前が彫られる船尾にはフジツボがびっしりと生え見る影もない。
「っとそう言えば日誌を見つけてたんだったな。ほら、これだ」
エヴァンスが一般的には水筒として使われる水袋から日誌の一部を取り出して手渡す。よく残っていたものだが、文字は滲み読める部分は少ない。
「危険…暗黒、海域……しかし、これがあれば……うーん、これ以上は読めない」
がくりと肩を落としてイズが椅子に身を投げ出す。
「あの、船底の奥にこんなものが…一応持ってきたのですが、これはどうでしょうか?」
そんな彼女におずおずとブレナーから差し出されたのは止まった懐中時計だった。
裏にはイニシャルと短いメッセージが彫られている。
「愛する貴方へ、航海の無事を願って。A・P……ってこれ凄い手がかりじゃない!」
闇雲に探すよりずっといい。イニシャルから人物もぐっと絞られる。
「民芸品を積んでて、しかも意味深な言葉まで…あの船の持ち主はきっとただものじゃないわ」
イズが確信を抱いた様に言い切る。
「じゃあ、俺達はお役に立てたのカね?」
「もちろん。後は任せて頂戴! 私の情報網を駆使して見つけて見せるから」
イズが張り切る。そして、数日後、彼女はある答えに辿りついて……。
「うそでしょ…まさか、実在したの?」
彼女が幼き頃聞いた昔話。その主人公はあの暗黒海域を渡ったとされているが、果たして――。
「おいおい、こりゃあ堪らんぜ…」
いくつになっても浪漫を感じると心が疼く。
とりあえず近くに落ちていた冊子を拾い上げて彼――エヴァンス・カルヴィ(ka0639)はページを捲る。
すると彼の足元に一匹のヤドカリが現れて、この船に先に乗船していたらしい。
(なんだ、おまえも浪漫を感じたか?)
かさかさと横切っていく彼を見送り、エヴァンスは読めるページを探す。
だが、不思議な事に徐々にヤドカリが増えてきて…。
それは一瞬の出来事だった。浸水が進んできた事もある。
迫上がってきた海面の中からとび出した魔手が彼を捕らえる。
(ッ! ウソだろっ!?)
周りに仲間はいない。何故なら彼は、自ら単独を申し出ていたのだから…。
「お、誰かと思えば海の女神サンかい。こりゃ安心できそうだ」
時は遡って、好奇心を擽られてやってきたジャック・エルギン(ka1522)はイズの姿を見つけて軽く手を上げる。
「あら、また会ったわね」
そういうイズは現在パティことパトリシア=K=ポラリス(ka5996)とルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)と打ち合わせ中。出港前に道中の道筋や見つけた沈没船についての概要を纏め調査に活かすらしい。船の向きや形、破損の具合まで事細かに。行けば判る事であるが、先に聞いて目星をつけておく事で迅速な調査が出来るというものだ。キャラック船と聞いてパティは資料を探し船内構造を推測する。
「フムフム、ナルホド。ほぼ逆さ状態という事は」
「船長室は浸水中の可能性が高く、加えて一番奥って事になりますね」
符術師同士だからか息ぴったりにパティとルンルンが話す。
「あの、おばけとか…出ません…よね?」
その横ではワクワクと不安を抱えたブレナー ローゼンベック(ka4184)が緊張の面持ち。
御伽話は好きなのだが、お化けが苦手なのかもしれない。
「まあ、出んとは言い切れンな。何たって雨が運んできた幽霊船だから」
実際は沈没船であるが、乗組員が死霊化していてもおかしくないという理由でJ・D(ka3351)がブレナーをからかう。
「駄目ダヨ、J・D。怖がらせちゃ…大丈夫、この人こう見えテ頼りになるカラ」
そんな悪ふざけに気付いて、パティがフォロー。この二人は知り合いらしい。彼女はJを信頼の目で、彼は彼女をほってはおけないようで時折彼女に視線を送っている。
「そう、ですか」
そんな二人をブレナーは見取り、遠慮がちに言葉する。
「船長、準備できましたー」
そこへイズの部下がやって来て一路――現場に向かうハンター達であった。
●調査開始
天気が良かった事も相まってか沈没船までの航路は順調に進む。
時折双眼鏡を構えて周囲を確認したりルンルンが式符を飛ばし辺りを探っているようだが、これいった危険は見当たらない。但し、一点気になったのは岩場に浮かぶ木片の数。
「もしかして、あれって調査船の破片じゃあ…」
こちらに向かった調査船はイズの船よりも小さかったと聞く。武装もしていなかったようだから、何かの襲撃にあったのならきっとひとたまりもなかった事だろう。
「そんな…何処かに生存者はいないデスか?」
イズに頼んでその破片の近くまで寄ってもらって、取り上げた木片はやはりまだ真新しい。
周辺の潮の流れはおとなしく、やられたとすればこの辺りで間違いないだろう。その『この辺り』というのは、そのものずばり例の沈没船のある場所であり、いよいよこの船自体が怪しくなってくる。
「船からの生命反応は…ビンゴ! 何かいっぱいいるんダヨ」
パティが早速生命感知で判った事を報告する。
「いるったってうじゃうじゃじゃ意味ネェだろうが。本当にあてになんのかネェ」
冷やかすようにJが言う。
「ま、調査船が見当たらない以上、行くしかねぇじゃんか。って事で俺は中で」
ジャックがロープを準備し、壊れた船底側面から侵入を試みる。
「じゃあ、俺はあっちだな。すまんが、ショットアンカーをあそこにかけてくれんだろうか?」
それを見てエヴァンスは折れて短くなった船嘴の方を指差す。
「いいだろう。けど、一人で大丈夫カイ?」
「俺を誰だと思ってる? 歪虚の大将とも殺り合ってるんだ。そっちこそ”アレ”が出たらしっかり守ってやんな」
終始笑顔でよっぽどこの調査に心躍っているらしい。少年のような無邪気さを垣間見せながら、かけて貰ったアンカーを頼りにエヴァンスは船前方へと飛び移る。
(若いねぇ~)
Jはグラサン越しに笑みを浮かべ、皆を見送る。
「では行ってくるのです」
「外の方は宜しくお願いします」
ルンルンとブレナーも船を移って、パティとJはイズの船に残り側面調査。沈没船の名が判る様な特徴を探す。
「しっかしフジツボだらけダナァ。こいつらにとっちゃいい住処ってか」
Jが呟く。パティはその隣で式符を使い、船の観察に励んでいた。
さて、後方の裂け目から入ったジャックらは最も何かありそうな船長室を目指す。
所々でルンルンが式符を先行させ、安全を確保しての調査となる。
(お化けなんか怖くない…怖くない…)
ブレナーの心の声、無理もない。この船はそう思わせる独特の雰囲気を有している。何百年も海底に沈み、久々の空気に触れた船体からは歩くたびに軋む音がする。ぽたりぽたりと落ちてくる雫も自然と彼らを煽ってくる。それに一歩中に入ると、とても薄暗く灯りをもってしても範囲は限定され、いかにも何か出そうな気にさせる。そんな中、三人が初めに見つけたのは見慣れぬ形の器だった。
「なあ、これ民芸品じゃね?」
ジャックがまじまじとそれを見つめつつ問う。
他にもバラックに混じって割れた陶器やら一風変わった形の武具やらが散乱している。
「やっぱりこの船、海賊船なんじゃあ」
金銀財宝とは違うが、珍品にかわりはない。ブレナーの気持ちが好奇にぐっと傾く。
「それにしては火薬が少な過ぎます」
が、それをルンルンが否定した。何故なら多分ここは船倉で…もし海賊ならば戦闘は必須事項。お宝も大事であるが、その前に戦う為の道具がなくては話にならない。それがないという事は、海賊船という線は低くなる。
「それに人骨がないってのも変じゃね?」
どんな船にしろ、人が動かしていた筈だ。なのに、それさえ見当たらない。
「まさかとは思うのですが、この船自体が歪虚化してるとか…」
ルンルンの最悪な推測――それが口から零れたその時だった。
ギィィと船体が軋みを響かせて、突如ぐらりと船体が傾く。
「えっえっ…うわぁぁ!」
それに足をとられブレナーが派手に転ぶ。更に転倒先の床が腐っていたのか、彼はそのまま足場を破懐し下へと落ちる。
「う、うぅ……最あ、く…ってうわぁぁ!?」
打ったお尻を摩って、立ち上がりかけたまさにその時、彼に再びの災難到来。
手に触れたヌチャリとした感触に思わず悲鳴。それに利き腕を絡みとられて、びくりと身体が跳ねる。
「おいっ、大丈夫かっ!!」
その異変を悟ってジャックが下へ。そして、引き摺られるブレナーとその魔手の間に入って斧を振り下ろす。
ぶちりと音がした。それと同時に魔手は後退。傾きからして浸水部に逃げ込もうという事らしい。
「そうはさせませんよっ」
だが、それにルンルンが待ったをかけた。
自称ニンジャの身軽さで彼女も下に降りるとタタタッと駆けて術を展開。
「ルンルン忍法土蜘蛛の術…いきなりトラップカードオープン」
すると目には見えぬ結界が発動し、後退する足を固め、逃走をくい止める。
「ナイス、ルンルン!」
その好プレーにジャックの称賛――如何やら敵はタコらしい。
「さっきの借りは返します」
そこで立ち上がったのはブレナーだった。自分より大きな敵目掛けて、龍殺しの名を持つ魔剣を構え突きの体勢。相手が相手だ。少々の切り傷を負わせた所で致命傷には至らない。ならば、狙うのはただ一点――しかし、よく考えるとタコの心臓は何処にあるのか。
「ええい、迷ってる場合じゃないッ!」
ブレナーの声に応えてるように青い鳥が彼を包む。
すると彼の姿は青年へと変化し、手にしていた剣も真っ赤に染まって、
「くらえぇぇぇ!!」
先程の彼とはもはや別人に近かった。身体からは青い炎が立ち昇り、闘争心をむき出しにしたその姿で渾身の刺突一閃を食らわせる。ぶすりと食い込んだ剣先を更に捩じると、流石の敵も健在な足をじたばたされる。
「うっしゃ、そのままで頼むぜ?」
そこへジャックの追い打ち。胴と頭を断つように再び斧を振り抜く。その威力は凄まじかった。それもその筈、彼は自身の斧にソウルエッジを付加している。つまりは物理以上の力がそこには働いているのだ。一閃されたタコは暫く暴れていたが先程までの勢いはなく、ついには動きを停止する。
「まさかタコとは…」
うっすら靄になり消えていく敵に少年の姿に戻ったブレナーが呟く。
「とりあえず報告しておきましょう。エヴァンスさん、エヴァンスさーん…ってあれ?」
通信機越しにルンルンが首を傾げる。その頃彼は…。
●攻防
(くそっ、息が持たねぇ…)
突然引きずり込まれたから酸素を確保する余裕はなかった。
それでも水泳の心得があったからパニックになる事は避けられた。だが、依然としてピンチなのに変わりはない。服が水を吸って重くなっていくが、ここでは連絡の取りようもない。唯一の方法はこの場を早く凌いで酸素を確保する事だが、それがなかなかに難しい。三本の触手で片腕と足を絡めとられて、これでは魔導拳銃剣に手が伸ばせない。
(こなくそがぁぁぁっ!)
だから後は力の問題。敵の魔手と自分の体力――辛うじて、今は船のへりに手をかけて踏み止まっているが、このまま押し切られたら? ぞっとした。歪虚の親玉と戦ってきた彼がこんな海洋生物にやられるなんて。しかし、この均衡は徐々にタコの方に傾き始めている。そこで彼は賭けに出る。チャンスは一瞬しかないが、このままではどっち道やられてしまう。
(さて、覚悟を決めろよぉ)
エヴァンスは自分に言い聞かせ、手を放せば一気に詰まるタコとの距離。
ひっぱられる力にませて手をポケットに伸ばし中のものを掴み、タコの口へと放り込む。
『グガァァァァ』
その異物にタコは声のない悲鳴を上げ、彼を手放した。
その隙に彼は浮上。顔を上げて、落ち着く間もなく一発空に発砲する。
「アレは…エヴァンスか?」
それに外周を船から見て回っていたJが気付いて、イズが素早く船を走らせ彼を引き上げる。
「オイ、何があった?」
「はー…油断大敵だな。デビルフィッシュとはよく言ったもんだ…」
「デビルフィッシュ……」
「敵はタコなのデスか?」
パティの問いにエヴァンスが頷く。しかし、敵はまだ諦めない。
大きく船が揺れたかと思うと、ヘリにはぬらめく複数の足。船底に噛みつく事はないだろうが、転覆させられてたら、船を徐々に砕いていく事も考えられる。
「チッ、えらいのを連れてきたナ、アンタ」
皮肉めいた言葉を投げてJがたこ足を狙い打つ。
「そりゃあ、悪いな」
エヴァンスもそれに応えつ前へ。船を傷つけない様考慮しながら薙ぎ払いで引っぺがしにかかる。が、敵の吸盤がしっかりと船を捉え、なかなか離れてくれない。
「ちょっと踏ん張っててよねっ!」
そこでイズ自ら舵を取って、目指すのは岩肌ギリギリのライン。この辺は沈没船が上がったように海底の起伏が激しい。従ってそれを利用し、敵をぶつけようというのだ。
「うひゃっ、凄いのデスヨー」
いざという時の動力として積んでいた魔導モーターをパティのマテリアルで起動し、急速発進する。
「こらぁ…凄いな」
「ホントにナァ」
感心するJににやりとするエヴァンス――イズは見事な舵裁きをみせ、難なく岩肌に激突させる。
そこで仕掛けたのはJだった。
「何かと逃げられちゃあ、厄介なんデネ。ほーら、プレゼントだ」
冷気を纏った弾丸は着弾時に氷柱を作りタコをルンルンの時同様岩肌へと縫い付ける。
その後はもうしめたものだ。音に気付いて船内班も様子を見に出てきたが、手を借りる必要もなくあっという間に二匹目のタコ歪虚が塵と消える。
加えて、その銃撃戦がいい方向へと彼等を導いたようで…。
「おーい、助けてくれー」
沈没船のある所よりも少し奥、崖のようになった場所の洞穴から手を振る人…。
彼らは調査船の乗組員のようだった。
●発見
「お疲れ様です。皆さん無事で何よりです」
調査船の乗組員を救出した後更に沈没船の調査を続け、歪虚が残っていない事を確認して戻り報告の為に情報を整理する。ちなみに調査船の乗組員は船を囮にあの洞穴へ逃げていたらしい。何名かはやられてしまったようだが、全滅でなかったのは救いである。それはともかく、ハンターらは持ち帰った内容を手掛かりにイズの意見を聞きつつ推理する。
「とりあえず船内の重要そうなもんはこれ位か」
各々魔導カメラで写真を撮っていたから実に判りやすい。
あやしいと思われる場所や特徴的な装飾を写し、あの船の名前、および持ち主やら乗船者を探る。
「うーん、流石に資料が膨大過ぎますネー」
この手のキャラック船が活躍した時期は特定できても、そこからが進まない。
せめて船首の部分が残っていればいいのだが、それも月日が経ってしまっている為形が定かではなく、一般的に名前が彫られる船尾にはフジツボがびっしりと生え見る影もない。
「っとそう言えば日誌を見つけてたんだったな。ほら、これだ」
エヴァンスが一般的には水筒として使われる水袋から日誌の一部を取り出して手渡す。よく残っていたものだが、文字は滲み読める部分は少ない。
「危険…暗黒、海域……しかし、これがあれば……うーん、これ以上は読めない」
がくりと肩を落としてイズが椅子に身を投げ出す。
「あの、船底の奥にこんなものが…一応持ってきたのですが、これはどうでしょうか?」
そんな彼女におずおずとブレナーから差し出されたのは止まった懐中時計だった。
裏にはイニシャルと短いメッセージが彫られている。
「愛する貴方へ、航海の無事を願って。A・P……ってこれ凄い手がかりじゃない!」
闇雲に探すよりずっといい。イニシャルから人物もぐっと絞られる。
「民芸品を積んでて、しかも意味深な言葉まで…あの船の持ち主はきっとただものじゃないわ」
イズが確信を抱いた様に言い切る。
「じゃあ、俺達はお役に立てたのカね?」
「もちろん。後は任せて頂戴! 私の情報網を駆使して見つけて見せるから」
イズが張り切る。そして、数日後、彼女はある答えに辿りついて……。
「うそでしょ…まさか、実在したの?」
彼女が幼き頃聞いた昔話。その主人公はあの暗黒海域を渡ったとされているが、果たして――。
依頼結果
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パトリシア=K=ポラリス(ka5996)
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/10/24 08:57:55 |
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海の女神さまと(相談卓) パトリシア=K=ポラリス(ka5996) 人間(リアルブルー)|19才|女性|符術師(カードマスター) |
最終発言 2016/10/24 18:13:33 |