ゲスト
(ka0000)
ビッグダディ・ザ・画家
マスター:瀬川綱彦

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~2人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/09/24 07:30
- 完成日
- 2014/09/27 15:48
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●人型の悪夢
最初は気の迷いだった。と、その画家――アルベールは証言する。
気の迷いであった。だが、それを見た瞬間、彼はこう思ったのだ。
美しいと。
ある日、アルベールが新しい絵のモチーフを探して街の外へと散策に出たときのことである。
彼は盗賊に囲まれた。
思えば、人気のない小さな山の麓まで足を伸ばしたのがよくなかった。街道から少し外れた所にあるこの山は、盗賊たちの根城だったのだ。
山の手前の森林で、アルベールは盗賊の歩哨に見つかった。そこから先は早いもので、あっという間に仲間を呼ばれてこの有様である。
気分転換がてらいつもならば絶対に訪れぬ場所へと立ち寄ったのは拙かったな、と思ったときには既に何もかも手遅れだったわけである。
幸か不幸か、アルベールは今、少量の食糧と絵の具や木炭などの画材、あとはキャンパスとイーゼル程度しか手元にはなかった。それらは代替が利くという点で共通しており、取られて困る物ではないと言って良い。
そして不幸なのは、つまり命の他に差し出すものがないという事実である。
ああ、ついに命運つきたかと画家が他人事のように天を仰いだとき、運命の足音がした。
比喩ではなく、本当に枯れ枝や落ち葉をミシミシと踏みしめる足音が遠方から、しかしハッキリと聞こえてきたのだ。
盗賊たちがざわつく。
「誰だ?」
しめた、とアルベールは希望を抱いた。この盗賊を討伐しようとやってきた集団かもしれない。そうとなれば、きっと盗賊たちから逃げ出す隙が生まれるかもしれないぞ、と。
などと思考を巡らせていられたのは、それが木々の合間から顔を出すまでのことだった。
アルベールは、その顔を見上げた。
木々から顔を出したそれの足は確かに地についている。だがアルベールたちを見下ろす頭は、彼らからさらに人一人分以上高い位置にあった。
木々の合間から差し込んでいた陽光を遮り、逆光の中で黒く浮かび上がるシルエットは――巨人。しかし人のシルエットにしては直線的なその姿に、盗賊たちが叫ぶ。
「い、岩の化け物だ!」
身長三メートルを超す、岩から削り出されたかのような不格好なその姿は、ゴーレムと呼ぶにふさわしい。
「う、撃て! 撃て!」
形は出来そこのないの彫刻のようですらあったが、それは巨大であり、顔に作られた目とおぼしき一対のくぼみに見つめられるだけで、盗賊たちは震え上がってしまった。
盗賊の親玉らしき者の号令によって、盗賊たちの猟銃が火を噴いた。
弾丸はデタラメに撃たれ、或いは樹を抉り、或いはアルベールの頬をかすめていき、そして大多数はゴーレムの躯にたたきつけられた。
だが、ゴーレムの躯はよろめきすらしなかった。
――ッッッ!!!
それは声なきゴーレムの咆吼だったのか。
ゴーレムの両拳が地面を殴りつけ、大地は縦に鳴動し、土は津波のように巻き上がった。
蜘蛛の子を散らすとはこのことか、盗賊たちは一声で戦意を喪失して逃げ出していく。こんなところに、どうして、何故。そう口々に悲鳴をあげながら駆け出す盗賊たちの中には、武器を投げ出してしまう者もいた。
だが戦意を喪失した盗賊たちにも関わらず、ゴーレムは手近な盗賊たちへと乱暴に拳を振り回す。
顔の一対の目――いや、よく見ると実際はただの空洞で、躯の中に続いているようだったが、真っ暗なその二つの虚は不格好だからこそ、人にジワジワと恐怖を呼び起こさせた。
腕をたったの一振りで数人の盗賊たちが吹き飛ぶ。耳の奥にこびりつくような鈍い異音を鳴らしながら、盗賊たちは物言わぬ屍として転がっていった
悪夢のような惨状を、アルベールはただただ呆然と眺めているしかなかった。
そして、震えながらぽつりと呟いたのだ。
「……ふつくしい」
●そして時間軸は現在
「――というわけなのだよ!」
どういうわけだよ。
ギルドにて舌を振るっていた画家・アルベールの言葉に、おそらく集まったハンターの幾人かがそんな感想を抱いただろう。
アルベールは鷹揚に頷いてマントをひるがえしながら腕を開いた。彼のかけた丸眼鏡越しに目が意気揚々と輝いているのが見て取れる。近視用レンズの歪みで小さく見えるはずの目は、それでも強い意志の力を微塵も衰えさせてはいなかった。
「わたしがゴーレムに出会ったのは、先に話した通りだ。さて、わたしはあの巨人の美しさの虜になったのだ! わかるか、あの適当に作っていて途中で飽きて放り出された彫刻のような中途半端な造形! 不格好な姿! なのにあの膂力!」
それは褒めているのだろうか。
「ああ、つまりだね、直近で小規模なコンクールがあるのだが、それにゴーレムとハンターの戦いを見ながら描いた絵で挑戦したいのだよ。そのため、君たちにはわたしの絵の題材兼護衛をしてもらいたいのだ」
アルベールは真摯な瞳をハンターである君たちに向けてくる。
「いい加減、王国内で絵描きとしてチャレンジしてみたい。わたしには時間がないんだ」
そう言って彼は鎮痛な面持ちで自分の胸を押さえた。
「頼む。賞金が出なければわたしは飢え死にだ」
働け。
「とにかく! 直に戦いを見て描けば臨場感は十二分にでるはず。だから君たちはゴーレムの退治がてら、わたしを護衛してくれるだけで構わない。依頼を受けてはくれないか?」
アルベールはにやりと笑う。
「戦いが命懸けであるのは重々理解している。しかし、芸術も常に命懸けなのだ。その点において、我々は戦友と言っても過言ではないだろう。どうだ、誰か共に戦ってはくれまいか? 当然、報酬も通常通り用意してある」
先ほどまでふざけてるようにしか思えなかった彼は、真剣な表情で君たちを見回すと、最後にこう告げた。
「なにせ食費を削ったからな」
それまでずっと黙っていた眼鏡をかけた無愛想な受付嬢が、ため息をつきながらハンターたちに告げた。
「……それでは、なにとぞよろしくお願いします」
あ、これは匙を投げたな。と、投げやりになった受付嬢の心情を察するのは、まああまりにも容易いのだった。
最初は気の迷いだった。と、その画家――アルベールは証言する。
気の迷いであった。だが、それを見た瞬間、彼はこう思ったのだ。
美しいと。
ある日、アルベールが新しい絵のモチーフを探して街の外へと散策に出たときのことである。
彼は盗賊に囲まれた。
思えば、人気のない小さな山の麓まで足を伸ばしたのがよくなかった。街道から少し外れた所にあるこの山は、盗賊たちの根城だったのだ。
山の手前の森林で、アルベールは盗賊の歩哨に見つかった。そこから先は早いもので、あっという間に仲間を呼ばれてこの有様である。
気分転換がてらいつもならば絶対に訪れぬ場所へと立ち寄ったのは拙かったな、と思ったときには既に何もかも手遅れだったわけである。
幸か不幸か、アルベールは今、少量の食糧と絵の具や木炭などの画材、あとはキャンパスとイーゼル程度しか手元にはなかった。それらは代替が利くという点で共通しており、取られて困る物ではないと言って良い。
そして不幸なのは、つまり命の他に差し出すものがないという事実である。
ああ、ついに命運つきたかと画家が他人事のように天を仰いだとき、運命の足音がした。
比喩ではなく、本当に枯れ枝や落ち葉をミシミシと踏みしめる足音が遠方から、しかしハッキリと聞こえてきたのだ。
盗賊たちがざわつく。
「誰だ?」
しめた、とアルベールは希望を抱いた。この盗賊を討伐しようとやってきた集団かもしれない。そうとなれば、きっと盗賊たちから逃げ出す隙が生まれるかもしれないぞ、と。
などと思考を巡らせていられたのは、それが木々の合間から顔を出すまでのことだった。
アルベールは、その顔を見上げた。
木々から顔を出したそれの足は確かに地についている。だがアルベールたちを見下ろす頭は、彼らからさらに人一人分以上高い位置にあった。
木々の合間から差し込んでいた陽光を遮り、逆光の中で黒く浮かび上がるシルエットは――巨人。しかし人のシルエットにしては直線的なその姿に、盗賊たちが叫ぶ。
「い、岩の化け物だ!」
身長三メートルを超す、岩から削り出されたかのような不格好なその姿は、ゴーレムと呼ぶにふさわしい。
「う、撃て! 撃て!」
形は出来そこのないの彫刻のようですらあったが、それは巨大であり、顔に作られた目とおぼしき一対のくぼみに見つめられるだけで、盗賊たちは震え上がってしまった。
盗賊の親玉らしき者の号令によって、盗賊たちの猟銃が火を噴いた。
弾丸はデタラメに撃たれ、或いは樹を抉り、或いはアルベールの頬をかすめていき、そして大多数はゴーレムの躯にたたきつけられた。
だが、ゴーレムの躯はよろめきすらしなかった。
――ッッッ!!!
それは声なきゴーレムの咆吼だったのか。
ゴーレムの両拳が地面を殴りつけ、大地は縦に鳴動し、土は津波のように巻き上がった。
蜘蛛の子を散らすとはこのことか、盗賊たちは一声で戦意を喪失して逃げ出していく。こんなところに、どうして、何故。そう口々に悲鳴をあげながら駆け出す盗賊たちの中には、武器を投げ出してしまう者もいた。
だが戦意を喪失した盗賊たちにも関わらず、ゴーレムは手近な盗賊たちへと乱暴に拳を振り回す。
顔の一対の目――いや、よく見ると実際はただの空洞で、躯の中に続いているようだったが、真っ暗なその二つの虚は不格好だからこそ、人にジワジワと恐怖を呼び起こさせた。
腕をたったの一振りで数人の盗賊たちが吹き飛ぶ。耳の奥にこびりつくような鈍い異音を鳴らしながら、盗賊たちは物言わぬ屍として転がっていった
悪夢のような惨状を、アルベールはただただ呆然と眺めているしかなかった。
そして、震えながらぽつりと呟いたのだ。
「……ふつくしい」
●そして時間軸は現在
「――というわけなのだよ!」
どういうわけだよ。
ギルドにて舌を振るっていた画家・アルベールの言葉に、おそらく集まったハンターの幾人かがそんな感想を抱いただろう。
アルベールは鷹揚に頷いてマントをひるがえしながら腕を開いた。彼のかけた丸眼鏡越しに目が意気揚々と輝いているのが見て取れる。近視用レンズの歪みで小さく見えるはずの目は、それでも強い意志の力を微塵も衰えさせてはいなかった。
「わたしがゴーレムに出会ったのは、先に話した通りだ。さて、わたしはあの巨人の美しさの虜になったのだ! わかるか、あの適当に作っていて途中で飽きて放り出された彫刻のような中途半端な造形! 不格好な姿! なのにあの膂力!」
それは褒めているのだろうか。
「ああ、つまりだね、直近で小規模なコンクールがあるのだが、それにゴーレムとハンターの戦いを見ながら描いた絵で挑戦したいのだよ。そのため、君たちにはわたしの絵の題材兼護衛をしてもらいたいのだ」
アルベールは真摯な瞳をハンターである君たちに向けてくる。
「いい加減、王国内で絵描きとしてチャレンジしてみたい。わたしには時間がないんだ」
そう言って彼は鎮痛な面持ちで自分の胸を押さえた。
「頼む。賞金が出なければわたしは飢え死にだ」
働け。
「とにかく! 直に戦いを見て描けば臨場感は十二分にでるはず。だから君たちはゴーレムの退治がてら、わたしを護衛してくれるだけで構わない。依頼を受けてはくれないか?」
アルベールはにやりと笑う。
「戦いが命懸けであるのは重々理解している。しかし、芸術も常に命懸けなのだ。その点において、我々は戦友と言っても過言ではないだろう。どうだ、誰か共に戦ってはくれまいか? 当然、報酬も通常通り用意してある」
先ほどまでふざけてるようにしか思えなかった彼は、真剣な表情で君たちを見回すと、最後にこう告げた。
「なにせ食費を削ったからな」
それまでずっと黙っていた眼鏡をかけた無愛想な受付嬢が、ため息をつきながらハンターたちに告げた。
「……それでは、なにとぞよろしくお願いします」
あ、これは匙を投げたな。と、投げやりになった受付嬢の心情を察するのは、まああまりにも容易いのだった。
リプレイ本文
青々と茂った雑草が風に揺れる。
広大で緑の絨毯が広がる平原に、しかし草も茂らぬ巨大な石塊が転がっていた。その岩だけは自然が避けたかのようで、黒ずんだ岩肌を陽光の下に晒している。
その岩肌の表面を、疾風が刃物のように擦過した。
みしり、と音を立てて石塊が震える。ぱらぱらと砂をこぼしながら、その石塊は頭をもたげた。
それは地に跪き動きを止めていたゴーレムであった。
土塊の巨人は黒く闇に沈む虚の眼窩が、遠方の人影を捉えた。
●風の射手
「さすがにこの距離では外れますか」
新しく用意した弓の調子を手で確かめながら、メトロノーム・ソングライト(ka1267)はゴーレムが巨体を持ち上げるのを見ていた。
距離も離れている。外れても構うまいと射ったが、どうやらゴーレムの気を引くには充分な様子であった。
「よし、このまま山の麓まで急ぎましょう。いい絵を描いてもらえるように頑張るぞー!」
クレール(ka0586)もメトロノームのすぐ側でゴーレムの動向をうかがっていた。
ハンターとしてゴーレム退治兼画家の護衛を引き受けたハンターたちは、山の麓に標的を誘き寄せることを選んだのである。
彼女たちふたりはゴーレムの誘導役を任されていた。
「同じクリエイターとして、ぜひ協力したいですからね」
俄然張り切るクレール、彼女とは対照的にメトロノームの表情は乗り気ではなかった。
「正直、あまり気は進まないのですが」
人に見せることを意識して戦うことなどそうはない。故に躊躇はあったが、人と見れば襲いに来るゴーレムを野放しにする訳にもいかない。
「話を聞いて放っておくこともできませんか」
「さ、急ぎますよ! 目指せ入賞ー!」
自分たちの方へと足を踏み出すゴーレムを背後に、ふたりは走り出した。
●観覧席
「わあ、ここなら周りがよく見えるでござるね!」
山を登ったミィリア(ka2689)は眼下に広がる光景にそう声を洩らした。
念のために木々に隠れながら、ハンターたちとアルベールが山の登頂を終えていた。
もっとも、頂上まで登ったわけでない。そう高くない山であるが、戦闘の目視や参加に支障はない距離となると、交戦予定地点から十数メートル登った程度の距離になる。ただ、ゴーレムが一直線にやって来られないよう障害物も挟んでいた。
「どうでしょう、このくらいの距離で大丈夫ですか?」
椥辻 ヒビキ(ka3172)が依頼主であるアルベールに声をかけると、彼は満足そうに頷いた。
「ああ、充分だとも! ここからなら君たちとゴーレムの激闘をキャンパスに納めることができそうだ」
アルベールはイーゼルを設置し始める。道具はどれも高価なものではなかったが、使い込んだ武器のように年季が入っているのは間違いなかった。
「戦いが命懸けなら芸術も命懸け……。確かに、そうかもしれませんね。しっかり護衛させてもらいますので、よろしくお願いします」
画材を見ながら依頼を受けたときのことを思い出し、ルナ・クリストファー(ka2140)は改めてそう告げた。
「うんうん、守りはおまかせ、お絵かきに集中しても大丈夫なことを保証しちゃうでござるるる!」
自分の躯よりも大きなフェンスシールドを手にしながらミィリアもアルベールも激励した。
「ミィリアもおサムライさん目指して頑張ってるから、夢に一直線な人は応援しちゃうよ!」
「頼もしい限りだ、よろしく頼むぞ戦友たちよ! これで目の前までゴーレムが来ても安心だな!」
「いやそのときは逃がしますけどね」
本当に大丈夫か一抹の不安を覚えなくもなかったが、周囲に気を配っていたヒビキは地を揺るがす音で平原の方を注視する。
味方に誘導されて、ゴーレムが近づきつつあった。
●巨兵、近づく
足を踏み出す度に地響きを響かせるゴーレムの動きは緩慢であったが、同時に質量を感じさせるものだった。
その姿を山の麓で待機していた久延毘 大二郎(ka1771)が、顎に手を添えて眺めていた。
「成程、アルベール氏はゴーレムの造形に不完全な美を見出したのか……いや、分からんでもないな」
「……そういう、ものなのですか?」
同じく山の麓で待機していたLuegner(ka1934)が訊ねると、大二郎は大きく頷いた。
「ああ、元あった形からかけ離れた姿……例えば、廃墟や遺構に惹かれる者は多い。恐らく私も、そうでなければ考古学に手を染めてなかっただろう」
近づいてくるゴーレムから目を離さずに答えられた言葉には、どこか昔を懐かしむようなニュアンスがあったかもしれない。
「なるほど……」
「元とは違う姿になると何事も味わい深さは増すよね」
超級まりお(ka0824)も会話を聞いて賛同するように何度も頷いていた。
紙袋を頭に被って。
「これも、そういうもの、なのでしょうか?」
一緒にしていいのだろうか。
「みなさーん! 連れてきましたよー!」
クレールの呼び声。
疑問に答えが出るより先に、石塊の怪物はやってきた。
●巨兵、襲来
自分たちに求められているのは魅せる戦いだ。
その考えの行き着いた先は――紙袋を被る、ということだった。
「これならゴーレムの異様にも負けない、あとはゴーレムをヴチ砕くだけ!」
ムフーッ、と得意気な鼻息で紙袋が内側から膨らんだ。
紙袋を被ったまりおはゴーレムに向かって飛び出していた。
山の麓、斜面の上をとっているハンターたちからすると、ゴーレムは高低の下に位置している。
よって、斜面から飛び出したまりおは容易くゴーレムの上半身に一撃をたたき込めた。
リボルビングソーの回転鋸がうなりを上げる。その刃には炎の魔力が込められていた。大二郎により炎の精霊の力を流し込まれていたのだ。
「ヒァーウィーゴー!」
回転鋸が岩の躯に食い込んで火花を散らし、岩肌を溶断していく。
――――!!!
ゴーレムは悲鳴の代わりに躯を震わせ、振りほどこうと巨腕を振るう。だがまりおは一足早く岩肌を蹴って軽快に宙に舞っていた。
「いやっほぉぉぉう!」
入れ替わりに疾駆するはクレール。それをゴーレムの出来損ないの拳が迎え撃つ。
その横顔に銃弾が叩き込まれた。
Luegnerの魔導拳銃、ペンタグラムである。
「絵になる戦いは……お任せします」
横から殴られたゴーレムの顔は自然、Luegnerへと向いた。視界に入った者を無差別に攻撃するゴーレムの標的から、一瞬クレールが消失する。
「これは! 最初の挨拶代わりだっ!」
手にアルケミストタクトを握りしめて、クレールが腕を振り抜いた。
瞬間、タクトより放たれた電が土塊の躯を貫いた。魔力で編まれた雷撃は容赦なく巨体の内部を駆け巡り、その動きを蝕む。
ゴーレムの岩や土で構成された巨体には、その雷撃は強く響いた。巨体が地面に片膝をつく。
「動きが止まったぞ!」
距離の離れた後方にもすぐ届くように大二郎が抜け目なく声をかける。
雷と号令を合図に地を疾走するのは不可視の矢だ。地面を一文字に抉り飛ばしながら駆ける何かがゴーレムの上半身を空気の弾ける音と共に穿った。
前線と護衛の中間地点に移動していたメトロノームが弓を携え、その一撃を放ったのである。
「試射をした甲斐は、あったようですね」
再び、指が矢もつがえずに弦を引く。マギステルグローブには風の力が収束し、透き通った宝石のごとき頭髪はふわりと揺れた。覚醒により淡く透き通る髪を揺らして弓を構える姿は、絵画に描かれる乙女のそれであった。
前衛の戦いが始まっているのは、予定通り護衛役のハンターたちからもしっかりと見ることができた。
「今の所気づく様子はなし、ですか。こちらからも援護しないといけませんね」
ヒビキも弓を取り出して、矢をつがえる。その後ろではルナがアルベールにウィンドガストをかけていた。アルベールのまわりで枯葉が舞い上がる。
「これで攻撃は当たりにくくなるはずですから、安心してください」
「さて、どこで弓を撃った方が良いか希望はありますか?」
ヒビキが画家の方を顔だけで振り返る。キャンバスに向かっていたアルベールは視線をそらさずに答えた。
「そうだな、わたしの視界に入る所で頼むよ。みんなしっかり収めたい」
「では」
要望に応えて前に出たヒビキは眼下のゴーレムに狙いをつけ、放つ。
空気を叩く凜とした音が山の空気を震わせた。
「近くで聞く弓の音は、なかなか迫力があるでしょう?」
残心し、ヒビキはそう声をかける。弓の音には自然と背筋を正したくなる凄みが込められていた。
「よーしっ、ミィリアも!」
バトルライフルを負けじと構える。小柄な躯に銃身の長いライフルを構える姿はミスマッチのようで、逆にその相違が生む味わい深さもあった。
ゴーレムに向かって撃たれた銃弾。
遠方からの射撃、だが的も大きく鈍重なゴーレム。ライフルの銃弾はゴーレムの肩の石塊の肉をはじき飛ばした。
「ふっ……峰ウチでござる」
「峰ウチ?」
「おサムライさんのキメ台詞だよ!」
あまりにも目を輝かせて言うものだから、ヒビキは苦笑するだけで追求することはせずに二の矢三の矢をつぐことに専念する。
続いてルナは杖を眼下のゴーレムに突き出す。
「演出は大事、ですからね」
中空には灼熱の火炎が現れ、原始的な力強さと美しさを垣間見えるようだった。ルナがあえて土塊の怪物相手に炎の魔法をチョイスしたのも、この炎による美しさを狙ってのことである。
炎は矢となって撃ち出され、ゴーレムの躯に激突し、爆ぜた。
ゴーレムの躯が炎に飲み込まれる。
それを間近で見ながら、大二郎は眼鏡の奥で目を細めた。
「これは――ちぃ!」
舌打ちひとつ、大二郎は自分のいる場所から飛び退く。だが炎の中から突き出た石塊の拳はその大きさ故に回避が間に合わなかった。
ドオンッ、とそれは爆弾が弾けたような音で斜面を貫いた。
避けきれない拳が大二郎の躯を打ち、はじき飛ばした。空から土の雨が降り注ぐ中、大二郎は片腕を抑えながら体勢を立て直す。
「岩らしく、頑丈……ですね」
Luegnerの視線の先で炎が風に吹き飛ばされる。炎の下には依然健在のゴーレムの姿があった。
「もう少し、お付き合い頂きましょう」
魔導拳銃をゴーレムに向けて連射する。相手の頭上を取っているため容易く頭の岩肌を抉るが、敵も負けじと両腕で地面を力一杯叩いた。
地面が激しく縦に跳ね、足を取られそうになりながらもハンターはゴーレムに向かって応戦する。
メトロノームがウィンドスラッシュを矢に見立てて何度も撃つ。それらはゴーレムの肩口を抉り、胸を削り、確かに傷を与えているはずだが、ゴーレムは怯むことなく豪腕で地面を殴りつけていた。
「効いているはずだが、そうか、こいつは岩の魔法生物、痛覚なぞないということか。痛みを感じない相手はなるほど、面倒だな」
大二郎はワンドを掲げて巻き起こした風の刃で岩肌を削りながら、悪態とも感嘆ともつかぬ声をあげた。
「でもずっと元気なわけはないはずです!」
クレールがアルケミストタクトを手に、ゴーレムをにらみ付ける。
「痛みを感じなくても、動けなくなるまで殴ったらこっちの勝ちだ!」
ゴーレムに向かって突撃すれば、迎え撃ってくる豪腕を盾で受け流す。岩肌とシールドがこすれあがり悲鳴をあげ、痛む腕を無視して袈裟に機導剣で斬りつけた。
「岩で手こずってたら憧れの配管工に近づけないもんね!」
マテリアルを流し込まれて唸りを挙げるリボルビングソーを手に、まりおは向かってくる巨腕にすれ違いざまに回転鋸の刃を滑らせる。
頭上からはヒビキ、ミィリア、メトロノーム、ルナの攻撃が途切れることなくゴーレムに降り注ぐ。
ここで初めてゴーレムが片腕を盾にしてそれらの攻撃を防いだ。巨腕で襲い来る炎から頭を庇い、炎と風の刃と銃弾、矢で腕がボロボロとブロック状に崩れ始める。
攻撃の圧力に押されて、再びゴーレムの片膝が地面についた。しかし度重なる頭上からの攻撃にゴーレムの頭が上を向いた。
山の麓より上に構えた者たちの中で最初に目に入ったのは、メトロノーム。
――――!!!
ゴーレムが地面に手をつき、四足獣のように斜面を駆け上り始めた。
頭上からの攻撃、その最前列にいるように見えたのは、メトロノームであったからだ。
「ここから先には、行かせません」
地面をひっかきながら視界を覆わんばかりの巨体で迫る相手に向かい、メトロノームは果敢に弓を向ける。しかし苦戦する戦闘で、彼女は集中の力を使い尽くしていた。それでも額に汗をにじませながら、風の矢を射る手を止めない。
「そちらは関係者以外立ち入り禁止だ! その勇姿……アルベール氏の絵の中へと閉じ込めさせて貰うぞ、ゴーレム君」
風を受けてなお前進を続けようとしたゴーレムの頭部を、大二郎の放ったファイアアローの爆炎が包み込んだ。
頭を振って炎を振り払うゴーレムの頭にロープが絡みつく。そのロープを頼りにして、クレールがゴーレムの肩の上に着地していた。
「外は頑丈でも内側から喰らえば――!」
アルケミストタクトごと拳を暴れるゴーレムの眼窩へとねじ込む。闇だけが溜まっていた空洞は、ゴーレムの体内にまで続いていた。
雷撃が体内で弾けた。ゴーレムの腹部が内側から弾け飛び、度重なる損傷を受けていた腕が耐えきれずに瓦解していく。
動きが止まったゴーレムに魔法と弾丸、鏃が突き立ち、躯は雨に晒された砂山のように崩れていく。
ついに、土は土に還った。
●後日談
残念ながら、即日で絵が完成とはいかなかった。絵を描くのはなかなか時間がかかるもので、それゆえハンターたちは完成品が飾られるコンクール会場に招待されていた。
「ついに見られるんですね。貰った感動はぜひ私の鍛冶アイデアメモに……!」
職業が違うとはいえ物作りに携わる者としての興味からか、クレールは興味津々と会場を見回していた。
「どんな絵を描かれるのか存じませんので、少し気になりますが。ちゃんと完成出来たのでしょうか?」
メトロノームの言葉にヒビキが笑みを洩らす。
「彼がプロの心を持った絵師なら、きっと目に焼き付けた情景を描き出してくれていますよ」
「ミィリアはかっこいいおサムライさんみたいに描いて貰えてるかなぁ?」
各々が言葉を交わしながら目的の絵を探す。
そこでひとり大二郎は考え込んでいた。
彼は事前にアルベールにこう告げていた。ありのままの自分の姿を描いて欲しいと。
戦う自分の姿は立派な戦士か悪鬼羅刹か、それが気になったのだ。
「あ。ありましたよ」
ルナが指をさした先には、目的の絵画が飾られていた。
特別賞。
そこには、絵の半分を埋めつくす程の巨体を誇る土塊の化身、それに挑む自然と武器を操る美しく勇猛な戦乙女の姿があり、そして智に惹かれ子供のように目を輝かせる探求者の姿が描かれていたという。
広大で緑の絨毯が広がる平原に、しかし草も茂らぬ巨大な石塊が転がっていた。その岩だけは自然が避けたかのようで、黒ずんだ岩肌を陽光の下に晒している。
その岩肌の表面を、疾風が刃物のように擦過した。
みしり、と音を立てて石塊が震える。ぱらぱらと砂をこぼしながら、その石塊は頭をもたげた。
それは地に跪き動きを止めていたゴーレムであった。
土塊の巨人は黒く闇に沈む虚の眼窩が、遠方の人影を捉えた。
●風の射手
「さすがにこの距離では外れますか」
新しく用意した弓の調子を手で確かめながら、メトロノーム・ソングライト(ka1267)はゴーレムが巨体を持ち上げるのを見ていた。
距離も離れている。外れても構うまいと射ったが、どうやらゴーレムの気を引くには充分な様子であった。
「よし、このまま山の麓まで急ぎましょう。いい絵を描いてもらえるように頑張るぞー!」
クレール(ka0586)もメトロノームのすぐ側でゴーレムの動向をうかがっていた。
ハンターとしてゴーレム退治兼画家の護衛を引き受けたハンターたちは、山の麓に標的を誘き寄せることを選んだのである。
彼女たちふたりはゴーレムの誘導役を任されていた。
「同じクリエイターとして、ぜひ協力したいですからね」
俄然張り切るクレール、彼女とは対照的にメトロノームの表情は乗り気ではなかった。
「正直、あまり気は進まないのですが」
人に見せることを意識して戦うことなどそうはない。故に躊躇はあったが、人と見れば襲いに来るゴーレムを野放しにする訳にもいかない。
「話を聞いて放っておくこともできませんか」
「さ、急ぎますよ! 目指せ入賞ー!」
自分たちの方へと足を踏み出すゴーレムを背後に、ふたりは走り出した。
●観覧席
「わあ、ここなら周りがよく見えるでござるね!」
山を登ったミィリア(ka2689)は眼下に広がる光景にそう声を洩らした。
念のために木々に隠れながら、ハンターたちとアルベールが山の登頂を終えていた。
もっとも、頂上まで登ったわけでない。そう高くない山であるが、戦闘の目視や参加に支障はない距離となると、交戦予定地点から十数メートル登った程度の距離になる。ただ、ゴーレムが一直線にやって来られないよう障害物も挟んでいた。
「どうでしょう、このくらいの距離で大丈夫ですか?」
椥辻 ヒビキ(ka3172)が依頼主であるアルベールに声をかけると、彼は満足そうに頷いた。
「ああ、充分だとも! ここからなら君たちとゴーレムの激闘をキャンパスに納めることができそうだ」
アルベールはイーゼルを設置し始める。道具はどれも高価なものではなかったが、使い込んだ武器のように年季が入っているのは間違いなかった。
「戦いが命懸けなら芸術も命懸け……。確かに、そうかもしれませんね。しっかり護衛させてもらいますので、よろしくお願いします」
画材を見ながら依頼を受けたときのことを思い出し、ルナ・クリストファー(ka2140)は改めてそう告げた。
「うんうん、守りはおまかせ、お絵かきに集中しても大丈夫なことを保証しちゃうでござるるる!」
自分の躯よりも大きなフェンスシールドを手にしながらミィリアもアルベールも激励した。
「ミィリアもおサムライさん目指して頑張ってるから、夢に一直線な人は応援しちゃうよ!」
「頼もしい限りだ、よろしく頼むぞ戦友たちよ! これで目の前までゴーレムが来ても安心だな!」
「いやそのときは逃がしますけどね」
本当に大丈夫か一抹の不安を覚えなくもなかったが、周囲に気を配っていたヒビキは地を揺るがす音で平原の方を注視する。
味方に誘導されて、ゴーレムが近づきつつあった。
●巨兵、近づく
足を踏み出す度に地響きを響かせるゴーレムの動きは緩慢であったが、同時に質量を感じさせるものだった。
その姿を山の麓で待機していた久延毘 大二郎(ka1771)が、顎に手を添えて眺めていた。
「成程、アルベール氏はゴーレムの造形に不完全な美を見出したのか……いや、分からんでもないな」
「……そういう、ものなのですか?」
同じく山の麓で待機していたLuegner(ka1934)が訊ねると、大二郎は大きく頷いた。
「ああ、元あった形からかけ離れた姿……例えば、廃墟や遺構に惹かれる者は多い。恐らく私も、そうでなければ考古学に手を染めてなかっただろう」
近づいてくるゴーレムから目を離さずに答えられた言葉には、どこか昔を懐かしむようなニュアンスがあったかもしれない。
「なるほど……」
「元とは違う姿になると何事も味わい深さは増すよね」
超級まりお(ka0824)も会話を聞いて賛同するように何度も頷いていた。
紙袋を頭に被って。
「これも、そういうもの、なのでしょうか?」
一緒にしていいのだろうか。
「みなさーん! 連れてきましたよー!」
クレールの呼び声。
疑問に答えが出るより先に、石塊の怪物はやってきた。
●巨兵、襲来
自分たちに求められているのは魅せる戦いだ。
その考えの行き着いた先は――紙袋を被る、ということだった。
「これならゴーレムの異様にも負けない、あとはゴーレムをヴチ砕くだけ!」
ムフーッ、と得意気な鼻息で紙袋が内側から膨らんだ。
紙袋を被ったまりおはゴーレムに向かって飛び出していた。
山の麓、斜面の上をとっているハンターたちからすると、ゴーレムは高低の下に位置している。
よって、斜面から飛び出したまりおは容易くゴーレムの上半身に一撃をたたき込めた。
リボルビングソーの回転鋸がうなりを上げる。その刃には炎の魔力が込められていた。大二郎により炎の精霊の力を流し込まれていたのだ。
「ヒァーウィーゴー!」
回転鋸が岩の躯に食い込んで火花を散らし、岩肌を溶断していく。
――――!!!
ゴーレムは悲鳴の代わりに躯を震わせ、振りほどこうと巨腕を振るう。だがまりおは一足早く岩肌を蹴って軽快に宙に舞っていた。
「いやっほぉぉぉう!」
入れ替わりに疾駆するはクレール。それをゴーレムの出来損ないの拳が迎え撃つ。
その横顔に銃弾が叩き込まれた。
Luegnerの魔導拳銃、ペンタグラムである。
「絵になる戦いは……お任せします」
横から殴られたゴーレムの顔は自然、Luegnerへと向いた。視界に入った者を無差別に攻撃するゴーレムの標的から、一瞬クレールが消失する。
「これは! 最初の挨拶代わりだっ!」
手にアルケミストタクトを握りしめて、クレールが腕を振り抜いた。
瞬間、タクトより放たれた電が土塊の躯を貫いた。魔力で編まれた雷撃は容赦なく巨体の内部を駆け巡り、その動きを蝕む。
ゴーレムの岩や土で構成された巨体には、その雷撃は強く響いた。巨体が地面に片膝をつく。
「動きが止まったぞ!」
距離の離れた後方にもすぐ届くように大二郎が抜け目なく声をかける。
雷と号令を合図に地を疾走するのは不可視の矢だ。地面を一文字に抉り飛ばしながら駆ける何かがゴーレムの上半身を空気の弾ける音と共に穿った。
前線と護衛の中間地点に移動していたメトロノームが弓を携え、その一撃を放ったのである。
「試射をした甲斐は、あったようですね」
再び、指が矢もつがえずに弦を引く。マギステルグローブには風の力が収束し、透き通った宝石のごとき頭髪はふわりと揺れた。覚醒により淡く透き通る髪を揺らして弓を構える姿は、絵画に描かれる乙女のそれであった。
前衛の戦いが始まっているのは、予定通り護衛役のハンターたちからもしっかりと見ることができた。
「今の所気づく様子はなし、ですか。こちらからも援護しないといけませんね」
ヒビキも弓を取り出して、矢をつがえる。その後ろではルナがアルベールにウィンドガストをかけていた。アルベールのまわりで枯葉が舞い上がる。
「これで攻撃は当たりにくくなるはずですから、安心してください」
「さて、どこで弓を撃った方が良いか希望はありますか?」
ヒビキが画家の方を顔だけで振り返る。キャンバスに向かっていたアルベールは視線をそらさずに答えた。
「そうだな、わたしの視界に入る所で頼むよ。みんなしっかり収めたい」
「では」
要望に応えて前に出たヒビキは眼下のゴーレムに狙いをつけ、放つ。
空気を叩く凜とした音が山の空気を震わせた。
「近くで聞く弓の音は、なかなか迫力があるでしょう?」
残心し、ヒビキはそう声をかける。弓の音には自然と背筋を正したくなる凄みが込められていた。
「よーしっ、ミィリアも!」
バトルライフルを負けじと構える。小柄な躯に銃身の長いライフルを構える姿はミスマッチのようで、逆にその相違が生む味わい深さもあった。
ゴーレムに向かって撃たれた銃弾。
遠方からの射撃、だが的も大きく鈍重なゴーレム。ライフルの銃弾はゴーレムの肩の石塊の肉をはじき飛ばした。
「ふっ……峰ウチでござる」
「峰ウチ?」
「おサムライさんのキメ台詞だよ!」
あまりにも目を輝かせて言うものだから、ヒビキは苦笑するだけで追求することはせずに二の矢三の矢をつぐことに専念する。
続いてルナは杖を眼下のゴーレムに突き出す。
「演出は大事、ですからね」
中空には灼熱の火炎が現れ、原始的な力強さと美しさを垣間見えるようだった。ルナがあえて土塊の怪物相手に炎の魔法をチョイスしたのも、この炎による美しさを狙ってのことである。
炎は矢となって撃ち出され、ゴーレムの躯に激突し、爆ぜた。
ゴーレムの躯が炎に飲み込まれる。
それを間近で見ながら、大二郎は眼鏡の奥で目を細めた。
「これは――ちぃ!」
舌打ちひとつ、大二郎は自分のいる場所から飛び退く。だが炎の中から突き出た石塊の拳はその大きさ故に回避が間に合わなかった。
ドオンッ、とそれは爆弾が弾けたような音で斜面を貫いた。
避けきれない拳が大二郎の躯を打ち、はじき飛ばした。空から土の雨が降り注ぐ中、大二郎は片腕を抑えながら体勢を立て直す。
「岩らしく、頑丈……ですね」
Luegnerの視線の先で炎が風に吹き飛ばされる。炎の下には依然健在のゴーレムの姿があった。
「もう少し、お付き合い頂きましょう」
魔導拳銃をゴーレムに向けて連射する。相手の頭上を取っているため容易く頭の岩肌を抉るが、敵も負けじと両腕で地面を力一杯叩いた。
地面が激しく縦に跳ね、足を取られそうになりながらもハンターはゴーレムに向かって応戦する。
メトロノームがウィンドスラッシュを矢に見立てて何度も撃つ。それらはゴーレムの肩口を抉り、胸を削り、確かに傷を与えているはずだが、ゴーレムは怯むことなく豪腕で地面を殴りつけていた。
「効いているはずだが、そうか、こいつは岩の魔法生物、痛覚なぞないということか。痛みを感じない相手はなるほど、面倒だな」
大二郎はワンドを掲げて巻き起こした風の刃で岩肌を削りながら、悪態とも感嘆ともつかぬ声をあげた。
「でもずっと元気なわけはないはずです!」
クレールがアルケミストタクトを手に、ゴーレムをにらみ付ける。
「痛みを感じなくても、動けなくなるまで殴ったらこっちの勝ちだ!」
ゴーレムに向かって突撃すれば、迎え撃ってくる豪腕を盾で受け流す。岩肌とシールドがこすれあがり悲鳴をあげ、痛む腕を無視して袈裟に機導剣で斬りつけた。
「岩で手こずってたら憧れの配管工に近づけないもんね!」
マテリアルを流し込まれて唸りを挙げるリボルビングソーを手に、まりおは向かってくる巨腕にすれ違いざまに回転鋸の刃を滑らせる。
頭上からはヒビキ、ミィリア、メトロノーム、ルナの攻撃が途切れることなくゴーレムに降り注ぐ。
ここで初めてゴーレムが片腕を盾にしてそれらの攻撃を防いだ。巨腕で襲い来る炎から頭を庇い、炎と風の刃と銃弾、矢で腕がボロボロとブロック状に崩れ始める。
攻撃の圧力に押されて、再びゴーレムの片膝が地面についた。しかし度重なる頭上からの攻撃にゴーレムの頭が上を向いた。
山の麓より上に構えた者たちの中で最初に目に入ったのは、メトロノーム。
――――!!!
ゴーレムが地面に手をつき、四足獣のように斜面を駆け上り始めた。
頭上からの攻撃、その最前列にいるように見えたのは、メトロノームであったからだ。
「ここから先には、行かせません」
地面をひっかきながら視界を覆わんばかりの巨体で迫る相手に向かい、メトロノームは果敢に弓を向ける。しかし苦戦する戦闘で、彼女は集中の力を使い尽くしていた。それでも額に汗をにじませながら、風の矢を射る手を止めない。
「そちらは関係者以外立ち入り禁止だ! その勇姿……アルベール氏の絵の中へと閉じ込めさせて貰うぞ、ゴーレム君」
風を受けてなお前進を続けようとしたゴーレムの頭部を、大二郎の放ったファイアアローの爆炎が包み込んだ。
頭を振って炎を振り払うゴーレムの頭にロープが絡みつく。そのロープを頼りにして、クレールがゴーレムの肩の上に着地していた。
「外は頑丈でも内側から喰らえば――!」
アルケミストタクトごと拳を暴れるゴーレムの眼窩へとねじ込む。闇だけが溜まっていた空洞は、ゴーレムの体内にまで続いていた。
雷撃が体内で弾けた。ゴーレムの腹部が内側から弾け飛び、度重なる損傷を受けていた腕が耐えきれずに瓦解していく。
動きが止まったゴーレムに魔法と弾丸、鏃が突き立ち、躯は雨に晒された砂山のように崩れていく。
ついに、土は土に還った。
●後日談
残念ながら、即日で絵が完成とはいかなかった。絵を描くのはなかなか時間がかかるもので、それゆえハンターたちは完成品が飾られるコンクール会場に招待されていた。
「ついに見られるんですね。貰った感動はぜひ私の鍛冶アイデアメモに……!」
職業が違うとはいえ物作りに携わる者としての興味からか、クレールは興味津々と会場を見回していた。
「どんな絵を描かれるのか存じませんので、少し気になりますが。ちゃんと完成出来たのでしょうか?」
メトロノームの言葉にヒビキが笑みを洩らす。
「彼がプロの心を持った絵師なら、きっと目に焼き付けた情景を描き出してくれていますよ」
「ミィリアはかっこいいおサムライさんみたいに描いて貰えてるかなぁ?」
各々が言葉を交わしながら目的の絵を探す。
そこでひとり大二郎は考え込んでいた。
彼は事前にアルベールにこう告げていた。ありのままの自分の姿を描いて欲しいと。
戦う自分の姿は立派な戦士か悪鬼羅刹か、それが気になったのだ。
「あ。ありましたよ」
ルナが指をさした先には、目的の絵画が飾られていた。
特別賞。
そこには、絵の半分を埋めつくす程の巨体を誇る土塊の化身、それに挑む自然と武器を操る美しく勇猛な戦乙女の姿があり、そして智に惹かれ子供のように目を輝かせる探求者の姿が描かれていたという。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
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相談用掲示板 ルナ・クリストファー(ka2140) エルフ|13才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2014/09/23 20:48:05 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/09/22 16:40:50 |