ゲスト
(ka0000)
貫破せよ、看破せよ。
マスター:DoLLer

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/10/27 09:00
- 完成日
- 2016/10/30 22:09
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「魔導列車、始動します!」
派手な蒸気が車体の左右から吹き出ると同時に、車体に刻まれた魔導紋が光の筋を帯びる。
下手な家よりも大きな巨体は、ゆる、と動き出すと同時に線路も光が生まれ、車体は光の筋を歩むようであった。
「アミィ。今日の試験は?」
「鉱山の荷物を載せて、運びきる効率の計算ね。ついでに鉱山の崩落部分を取り除けば、歪虚ちゃんの巣とご対面できるわけじゃない? 歪虚の巣窟の掃除は10年以上の刑罰免除なのよ。ゾンビ1体1年!! うまくいきゃあ、あそこで50年は稼げるのよ。姫様だって、あそこの歪虚とは浅からぬ因縁なんでしょ? 尻尾掴むチャンスかもよ」
クリームヒルトの言葉に、アミィは自分に付けられた帝国謹製の囚人用首輪を撫でながら笑った。
いったいどこでそんな情報を得たのか。クリームヒルトは苦笑いしつつ、確かにそれは有用ね、と返した。
「ファルバウティ。死骸を集める歪虚。そしていくつものゾンビを生み出す……」
村が一つ消えた。
クリームヒルトはきり、と歯噛みした。
「お、珍しい。姫様が怒ってる」
「ヴルツァライヒの仕業……だと思っていたけど、さらに後ろにそういう歪虚がいるだなんて思わなかったわ」
本当に自分の浅慮が恨めしくなる。と言うと、アミィはまたくすくすと笑った。
「もうすぐそれもお仕舞い。このアミィ様が歪虚の計画なんざ丸裸にして……」
その瞬間、二人の視界がぶれた。
いや、地面が大きく揺れたのだ。何が起こったのか顔を見合わせる二人の顔に、影がすぅっと差し込んだ。
「な、なに……あれ」
影の原因たる二人の視線の先には、山があった。鉱山となっていた山の一部が、メリメリとはがれ、まるで巨人のように立ち上がっているではないか。
「ハ ハ ハ。返シ テ モラウ ゾ」
腹の底から響くような声だった。
それが山が喋ったものだと気づくのにそう時間はかからなかった。
「返してってことは、ファルバウティご本人みたいよ」
「あれが、ファルバウティ」
直接出会ったことは一度もなかった。クリームヒルトはぽつりとつぶやくのをまたファルバウティは嘲った。
「ヒャ ヒャ。お礼ジャ。テメェラモ ぞんびノ 仲間 ニ シテヤルゾ。トイッテモ みんち ニシカ ナランケドナァ」
「ふふ」
口元が微笑んだのはクリームヒルトであった。
列車は徐々に加速していく。線路によって導かれる列車では移動もそれほど自由ではない。逃げも隠れもできない状況であるばかりか、山を削り取ったような巨人の姿であるファルバウティに足でも踏み入れられるようなことがあれば、一般人のクリームヒルトは無事では済まない。
「人間というものをなめないで欲しいわね!」
クリームヒルトが手を振りかざした次の瞬間、列車の中央、貨車から姿を現したのは大砲であった。
「元々鉱山の崩落部を吹き飛ばす計画だったから準備してたのがこんなところで役に立つなんて! うふふ、あれ倒したら100年は免除されるかも!!」
拳をゆるりと振り上げる岩塊のファルバウティ。
小岩がバラバラと列車と降り注ぐ中、列車に搭載された大砲が勢いよく火を吹き、拳を粉砕した。
●
「なんだこれは!!」
同じくガルカヌンクの鉱山部入り口。目の前の岩壁が突如動き出したのを呆然と見ていたのは線路活動を請け負っていたボラ族であった。
「ハ ハ ハ。返シ テ モラウ ゾ」
「歪虚よ。この空気は……レーヴァ!」
岩の塊は人間のような形をとって立ち上がったのを見て、彼らもすぐさま戦闘態勢に入った。その中で誰よりも早くその正体に気付いたのは女、レイアは憎々し気な瞳をそちらに向けた。
名乗らずとも荒れ狂う負のマテリアルでわかる。それが前族長を貶め、我々から安住の地を奪った歪虚の親玉であることを。
「仇か」
族長のイグもその言葉にすっと目を細めると、みるみる内に体が羽毛に覆われ、大梟の姿に変じていく。
だが、そんな彼らを止めたのはうら若い美少年ロッカの一言であった。
「師匠!? なにしてんだよ、こんなとこで!!」
「ア゛ ァ ン? オォ ろっか カ」
そのやりとりがいかなる衝撃をもたらしたか。ボラ族の面々は凍り付いたようにロッカを見た。
「ここはオレの仕事場なの。勝手な事すんな!」
「ソリャア スマンノ。ヒヘヘ 小サイカラ 見エナンダワイ」
その言葉にロッカは冷たい顔で「ブッ殺す」と呟いた。
「おい、ロッカ……師匠って」
「ファルバウティはオレの鍛冶の師匠だよ。封印を司る元精霊様さ。マテリアルを込める魔剣の生成法を教えてくれたんだ」
吐き捨てるようにロッカはそう言うと、普段使い慣れている魔導機械を投げ捨てると、おもむろに短剣を引き抜いた。途端に血生臭い匂いが充満する。
ボラ族の皆はそれを見慣れていた。仇敵と言っても過言ではない血の魔剣。
「レーヴァ……!」
「こいつでないと憑依した師匠はたたっきれない。憑依したものをぶっ壊しても本体は傷つけられないからね」
「ちょ、ちょっと待て。じゃあ……」
「話は後だよ。あんな岩に殺されたいの、ゾール」
冷たい眼光を寄せたロッカにゾールは一瞬押し黙った。普段は愛嬌たっぷりのロッカがこんな顔をするのは初めてだった。
イグが静かに問いかける。
「……ファルバウティは師匠であっても、倒す決意はあるのだな?」
「あったりまえじゃない。倒す為の魔剣なんだから」
その一言にイグは振り返り腕を振り上げた。
「鉱山を掘り出すために呼んだハンターにも応援をしてもらう。これは我々の敵討ちだけではない。未来の為の戦いだ!! 歪虚を倒し、クリームヒルトを守るぞっ」
「ヴォラー!!!」
ボラ族の勇ましい掛け声が一斉に上がった。
派手な蒸気が車体の左右から吹き出ると同時に、車体に刻まれた魔導紋が光の筋を帯びる。
下手な家よりも大きな巨体は、ゆる、と動き出すと同時に線路も光が生まれ、車体は光の筋を歩むようであった。
「アミィ。今日の試験は?」
「鉱山の荷物を載せて、運びきる効率の計算ね。ついでに鉱山の崩落部分を取り除けば、歪虚ちゃんの巣とご対面できるわけじゃない? 歪虚の巣窟の掃除は10年以上の刑罰免除なのよ。ゾンビ1体1年!! うまくいきゃあ、あそこで50年は稼げるのよ。姫様だって、あそこの歪虚とは浅からぬ因縁なんでしょ? 尻尾掴むチャンスかもよ」
クリームヒルトの言葉に、アミィは自分に付けられた帝国謹製の囚人用首輪を撫でながら笑った。
いったいどこでそんな情報を得たのか。クリームヒルトは苦笑いしつつ、確かにそれは有用ね、と返した。
「ファルバウティ。死骸を集める歪虚。そしていくつものゾンビを生み出す……」
村が一つ消えた。
クリームヒルトはきり、と歯噛みした。
「お、珍しい。姫様が怒ってる」
「ヴルツァライヒの仕業……だと思っていたけど、さらに後ろにそういう歪虚がいるだなんて思わなかったわ」
本当に自分の浅慮が恨めしくなる。と言うと、アミィはまたくすくすと笑った。
「もうすぐそれもお仕舞い。このアミィ様が歪虚の計画なんざ丸裸にして……」
その瞬間、二人の視界がぶれた。
いや、地面が大きく揺れたのだ。何が起こったのか顔を見合わせる二人の顔に、影がすぅっと差し込んだ。
「な、なに……あれ」
影の原因たる二人の視線の先には、山があった。鉱山となっていた山の一部が、メリメリとはがれ、まるで巨人のように立ち上がっているではないか。
「ハ ハ ハ。返シ テ モラウ ゾ」
腹の底から響くような声だった。
それが山が喋ったものだと気づくのにそう時間はかからなかった。
「返してってことは、ファルバウティご本人みたいよ」
「あれが、ファルバウティ」
直接出会ったことは一度もなかった。クリームヒルトはぽつりとつぶやくのをまたファルバウティは嘲った。
「ヒャ ヒャ。お礼ジャ。テメェラモ ぞんびノ 仲間 ニ シテヤルゾ。トイッテモ みんち ニシカ ナランケドナァ」
「ふふ」
口元が微笑んだのはクリームヒルトであった。
列車は徐々に加速していく。線路によって導かれる列車では移動もそれほど自由ではない。逃げも隠れもできない状況であるばかりか、山を削り取ったような巨人の姿であるファルバウティに足でも踏み入れられるようなことがあれば、一般人のクリームヒルトは無事では済まない。
「人間というものをなめないで欲しいわね!」
クリームヒルトが手を振りかざした次の瞬間、列車の中央、貨車から姿を現したのは大砲であった。
「元々鉱山の崩落部を吹き飛ばす計画だったから準備してたのがこんなところで役に立つなんて! うふふ、あれ倒したら100年は免除されるかも!!」
拳をゆるりと振り上げる岩塊のファルバウティ。
小岩がバラバラと列車と降り注ぐ中、列車に搭載された大砲が勢いよく火を吹き、拳を粉砕した。
●
「なんだこれは!!」
同じくガルカヌンクの鉱山部入り口。目の前の岩壁が突如動き出したのを呆然と見ていたのは線路活動を請け負っていたボラ族であった。
「ハ ハ ハ。返シ テ モラウ ゾ」
「歪虚よ。この空気は……レーヴァ!」
岩の塊は人間のような形をとって立ち上がったのを見て、彼らもすぐさま戦闘態勢に入った。その中で誰よりも早くその正体に気付いたのは女、レイアは憎々し気な瞳をそちらに向けた。
名乗らずとも荒れ狂う負のマテリアルでわかる。それが前族長を貶め、我々から安住の地を奪った歪虚の親玉であることを。
「仇か」
族長のイグもその言葉にすっと目を細めると、みるみる内に体が羽毛に覆われ、大梟の姿に変じていく。
だが、そんな彼らを止めたのはうら若い美少年ロッカの一言であった。
「師匠!? なにしてんだよ、こんなとこで!!」
「ア゛ ァ ン? オォ ろっか カ」
そのやりとりがいかなる衝撃をもたらしたか。ボラ族の面々は凍り付いたようにロッカを見た。
「ここはオレの仕事場なの。勝手な事すんな!」
「ソリャア スマンノ。ヒヘヘ 小サイカラ 見エナンダワイ」
その言葉にロッカは冷たい顔で「ブッ殺す」と呟いた。
「おい、ロッカ……師匠って」
「ファルバウティはオレの鍛冶の師匠だよ。封印を司る元精霊様さ。マテリアルを込める魔剣の生成法を教えてくれたんだ」
吐き捨てるようにロッカはそう言うと、普段使い慣れている魔導機械を投げ捨てると、おもむろに短剣を引き抜いた。途端に血生臭い匂いが充満する。
ボラ族の皆はそれを見慣れていた。仇敵と言っても過言ではない血の魔剣。
「レーヴァ……!」
「こいつでないと憑依した師匠はたたっきれない。憑依したものをぶっ壊しても本体は傷つけられないからね」
「ちょ、ちょっと待て。じゃあ……」
「話は後だよ。あんな岩に殺されたいの、ゾール」
冷たい眼光を寄せたロッカにゾールは一瞬押し黙った。普段は愛嬌たっぷりのロッカがこんな顔をするのは初めてだった。
イグが静かに問いかける。
「……ファルバウティは師匠であっても、倒す決意はあるのだな?」
「あったりまえじゃない。倒す為の魔剣なんだから」
その一言にイグは振り返り腕を振り上げた。
「鉱山を掘り出すために呼んだハンターにも応援をしてもらう。これは我々の敵討ちだけではない。未来の為の戦いだ!! 歪虚を倒し、クリームヒルトを守るぞっ」
「ヴォラー!!!」
ボラ族の勇ましい掛け声が一斉に上がった。
リプレイ本文
「その魔剣……レーヴァはどうやって使うんですか?」
セレスティア(ka2691)の問いかけにロッカは視線をそちらに向けずに話した。
「そのまま切りつけるだけだよ。……こいつはマテリアルごと切り裂くんだよ」
「ふぅむ。亡霊型歪虚、特に憑依能力のある存在は物理は全く効かないはずだけどねぇ」
セレスティアのトランシーバーごしにヒース・R・ウォーカー(ka0145)の声が届く。声の主は宵闇色したデュナミスの中だ。そんなヒースに嘲るかのようにしてロッカの声が届く。
「なんだ、CAM乗りのリアルブルー人でも頭は大したことないんだね。例えばさ、硬いっていわれるダイヤモンドでも、ダイヤモンド同士をぶつければ削りあえるんだ。同質の存在同士は削れるんだよ」
「亡霊同士をぶつけて削り合うってことなんだね……さいっこうに悪い夢の予感がするよ、それ」
南條 真水(ka2377)は肩をすくめてそう言いつつ、手を差し出した。
「良ければ南條さんが使ってみてもいいよ。どこだろうと飛んでいけるからね」
「折るなよ? 作んの面倒なんだから」
ロッカはあまり信用していなさそうな顔をしながらも、それを手渡してくれた。その瞬間、肌の泡立つような寒気が真水を襲う。ロッカの言う通り、これは負のマテリアルの塊……一種の歪虚だ。
「もう一つ聞いていい?」
トランシーバー越しに今度はアーシュラ・クリオール(ka0226)の声が響いた。その声はいつもの感情がたくさんこもる豊かな声色とはまるで違い、低く、冷たかった。
「それ……『作った』の? 修復したんじゃなくて?」
「馬鹿言うなよ。アーシュラねーちゃん。このレーヴァはオレの作品! このロッカ、オリジナルの武器なんだから」
ロッカのプライドがちらりと覗く言葉にアーシュラは言葉を返さなかった。
ボラ族の仇敵たるファルバウティに傷をつけられる武器などそうそうない。その才能は褒めてしかるべきだ。
だが、その短剣、レーヴァが蓄えるマテリアル。そして血色の輝きと生臭い香りは、誰の物だ?
「……それは後で聞いたらいいっすよ。とりあえず、今は目の前の敵に注力するべきっす」
無限 馨(ka0544)は軽く跳ねて準備体操をしつつ、口元をにんまりとさせた。溢れる自信は漣のようにして身を湛えると同時に、周囲の時間がまるで水に囚われたかのようにして、動きを遅くする。
無限は一歩踏み出した。時の止まったような空間の中を。周りの人には、きっと神風のようにしかみえないであろう。軽々と岩を駆け登り、勢いをつけて宙返りをきめながら、肩口に立ち上がった無限は高空を舞う風を一身に浴びて、深呼吸をすると眼下よりこちらに顔向けする魔導列車に向き直った。その黒鉄の魔導列車に並走する紅色の巨狼、紅狼刃、そしてその主リュー・グランフェスト(ka2419)の覚醒炎に眼のピントを合わせるとトランシーバーを口当てた。
「リュー君。オールグリーン。準備はいつでもいいっすよ」
「了解。アミィ、測射するぞ。矢の行き先を狙え」
イェジドの背でリューは背を伸ばし、胸を大きく張ると、大弓を目いっぱい引き絞った。狙いは無限が教えてくれる。
「いけぇっ!!!」
風を切り裂き、唸る矢が無限に向かって走る。
「自滅覚悟 カ。ヒャ ハハ ハ」
「そんなつもりはなっすよ。なんせみんな遅いっすから」
轟くような笑い声の途中で残像とそんな言葉だけ残して、もう無限は消えていた。
残るは突き刺さる矢と……それを追うように飛ぶ大砲の弾だけであった。
「カ カカ! 山ニ 大砲トカ 阿呆ジャノウ 脳足リン若造共が!」
爆散した岩が粉塵と化し、もうもうと煙の上がる中から濃い影が現る。ファルバウティだ。
ゆるりと動いたそれは足元のボラ族を蹴散らす如く真上から降り注ぐような大岩を振り落とした。その落ちる陰にボラ族は次々と対比していくが、ただ一人、紅の髪と瞳だけが残る。ボルディア・コンフラムス(ka0796)だ。
数トンもの落石が降り注ぐ視界は天災と言ってもいいような状況だったが、大斧で肩を軽く叩きながらを笑顔すら見せるボルディアに恐怖はみじんもなかった。
「脳が足りてねェのはそっちだろ……? 丁度いい。その頭かち割ってどんなけ詰まってンのか、見てやるぜ」
降り落ちる粉塵、足元の砂塵がボルディアを中心に渦巻き、嵐のように噴き上がり、ファルバウティから零れ落ちる岩石すらも巻き込んで、巨大な砂竜巻を作り始める。
同時に砂竜巻の中心から、焔が吹き、砂竜巻に混じ入る。その影に見えるは二足で立つ獣の姿だった。
大地の轟音、砂竜巻の嵐よりも響く咆哮を上げると、振り上げる獣腕と共に砂竜巻をまるで棍棒のようにして蠢いた。同時に火山の噴火のような爆炎が岩塊を真下から受け止めた。
「オオオオオオっっっっ」
炎と竜巻が、真上からの大質量の岩塊とぶつかりあうと周りにも爆風が吹き荒れ拮抗する。
「どっち向いてんのさ。あんたが売りつけてくれた怒りはそっちだけじゃない」
アーシュラがディファレンスエンジンを動かすと数式紋がらせん状に走り、光条が次々とファルバウティに襲い掛かる。
「あたしの分っ」
大砲が命中した部分に追い打ちをかけるように射ち込み。
「スィアリ様の分っ」
光が土台となる、脚を切り裂いた。
そしてレイアのブリザードが吹き荒れ、押し固めたところをゾールが大棍棒で叩きのめした大腿部にイグが大地を揺るがすような一撃を叩きこむと亀裂はびしりと走る。
「それから、ボラ族みんなの分っ!!!」
獅子のように吼え猛ると最後のデルタレイが亀裂へと飛び込むと、光の爆発を伴って爆発四散した。
その瞬間に拮抗していたボルディアとの力の争いも途端に崩れ始める。
「オオオオオアアアアアアアァァア!!! 死んでこいやァァァァ!」
十数メートルの岩塊が、竜巻と焔にさらされて浮き上がると同時に、細かなヒビに赤熱の線が走る。
「爆炎!!!」
ボルディアの怒轟と共に、ファルバウティは吹き飛んだ。
「クハー、痛イノゥ。痛イノゥ。痛イノゥ!!」
巨塊がバラバラに崩れたが苛立ちに満ちた怨嗟の声は止まらない。それどころか、まるで崩れた岩から吹き出る黒い煙に繋がれたように、決してバラバラにはなろうとしない。
「あの黒い瘴気、可視化できるレベルの負のマテリアルのようだ」
ウェスペルのセンサー類がメインディスプレイの横で大きく反応する数値を目で追いながらヒースは呟いた。
「中に死体置き場があるってクリームヒルトが言ってたわ。前はゾンビの塊、次は枯れた樹木……全部死んだものよ。あいつ、死体にある負のマテリアルと結合するのね。どこまでも命を軽んじる……」
息を細く、そして深く吐き出しながら高瀬 未悠(ka3199)が呟いた。
「ナンダァ 小娘ガ エレェ事言イヤガル 命? ソンナモノまてりあるノ塊ダヨ コノ岩クレ ト カワリャシネェ」
ファルバウティの言葉に未悠は眉間にしわを寄せた。
クリームヒルトは言った。命を賭けてと。命より大事なものはないけれど、何かの為に全霊を尽くす想いは何よりも強いと。
ある意味同じで、そして正反対なのが、ファルバウティだ。
「一度でもっ、傷ついてから、言いなさい!!!」
再構成しつつ立ち直ろうとするファルバウティに向かって未悠は跳んだ。覚醒で細くなった虹彩は瓦礫の塊の中で、動かない一つの石を見抜き、そこに向かって全力で刀を叩きつけた。岩塊が乗っかっている石だけあり、全力でぶつかってもぎしりと食い込むだけだった。だが、振動刀のスイッチを入れて、そのまま未悠は押し込む。
「痛みを知らない奴が……命という言葉を使わないでほしいわね!」
めきゃ。
要石が粉々になった次の瞬間、ファルバウティを構成する岩が再び大きく傾いだ。つぶて石が土砂崩れのように襲い掛かって来たのだ。
「アヒャヒャヒャ ジャアヨォ 痛ミッテノ 教エテクレヨォ。潰サレル様子ヲナ コトコマカーニ」
日差しすら見えない。岩礫が光を覆い隠し、雪崩れてくるのを力を込め切った未悠は見上げることしかできなかった。
死ぬ……?
虹彩すら動かせない時間の中で、未悠の視界に風が殴りつけ、真っ黒に染まった。
「高瀬さんっ!!」
黒いのは岩ではない。黒鉄の板、マテリアルの輝き。魔導列車だ。
飛び込んできた車体が岩つぶてを受け止める間に、窓越しに突き出されたクリームヒルトの手を取って、未悠は列車に飛び込んだ。クリームヒルトを庇うようにして抱きしめる間、車体すらへしゃげるような岩の雨の音が響き渡る。
「全く、無茶するねぇ……」
魔導列車の隅で転げまわっているトランシーバーからヒースの声が響いたかと思うと、急に雨の打ち付ける音が聞こえなくなった。
未悠が窓の外を見ると、黒い機体ウェスペルが見えた。
「細かくするばするほど面倒だ。押し固めさせてもらうとしようかぁ」
ヒースはウェスペルのアクティブスラスターを起動すると、両手を広げて雪崩れる岩つぶてをその身体で受け止め、推進機のエネルギーだけで魔導列車に覆いかぶさった土砂を押し出した。
「プラズマカッターを使わせてもらう。光の力で……斬れてくれるといいんだがなぁ」
そのまま腕に格納されたコンバットナイフに魔導エネルギーが集約し、光り輝く刃となって岩くれを切り裂くが再構成を続けようとする超自然的な岩の動きが収まる様子は見えない。
「ち、効果なしか。でもまあいいさ。この姿勢なら動けないだろうからねぇ」
スラスターで押し続けている間は向こうにも運動エネルギーがかかり続けるはずだ。再構成した瞬間に押し出される状態を続けば、間違いなく今の岩塊全てを保持できなくなる。
「ヒースさん。そのままでいてくださいっ!!」
セレスティアの声が聞こえたや否や、岩礫の山の上にセレスティアを乗せたイェジドが跳びあがった。
「負のマテリアルの中枢をなくせば保持できなくなるはずです。それは……中の死体のはず。臭い……わかる?」
セレスティアは軽やかに飛び降りるとその頬を軽く撫でつつ問いかけた。骸の臭いなど触れてほしくはないが、今はイェジドの鼻が頼りだ。
鼻をちかづけるイェジドが一歩踏み出した瞬間、地面が震えた。
「サガシモノ ハ コッチジャア!」
足元のつぶてがさざめいたかと思うと、セレスティアの足をぐずぐずになった人間の手が握っていた。
「きゃっ!!!」
つぶてとつぶての間から、二本目、三本目と次々腕が出て、セレスティアの脚をにぎると、それらはセレスティアを引きずり込もうと力をこめる。
「セレスティアぁぁぁ!!」
遠くからすばやく察知したリューは叫ぶと、大弓を再び引き絞り、燃え上がるマテリアルを込めて飛ばした。
爆炎は岩をトンネル状に抉り、セレスティアの衣服をかすめた。
中には無数の手、無数の眼が蠢いている。
「みーえた。浄化の前に、無慈悲なる女王の裁きを受けてもらおうかな」
光る翼が生えた靴で、矢の痕跡の真上を飛ぶ真水は言うと、左腕を差し出しセレスティアと手を重ねると同時に、右手甲から真っ赤な刃を生み出す。
「ほつれた糸は……」
セレスティアにすがるように伸びる腕。だが、ホーリーヴェールの光の波紋がそれを阻みできた隙間を。
「切っちゃわないとね」
紅色の光が黒い煙を切り裂いて、細い屍の腕を叩ききった。
「ありがとうございます!」
「セレスティア君。悪いけどそのピュリフィケーション展開してくれない? 一緒に実験しちゃおうと思って」
「わかりました」
頷くと同時に真水は浄化用のカートリッジをポーチから引き抜くと口に咥え、そしてセレスティアも同時に祈りの言葉を紡ぐ。
「こういう時は何て言うのかな。臭いのどっかとんでいけ! かな」
「穢れを祓い給え!!」
二人の術式が発動する。清冽な空気がうず巻き、歪虚と対峙した時独特の目眩にもにた感覚はすっと薄らいだが、かと言って蠢く死体やファルバウティの黒い瘴気が消える様子もなく、リフレアの効果が薄れ、落ちてくる二人を掴もうと手を伸ばしてくる。
「あまり効果は認められないようですね。……退きなさい!」
セレスティアの一言でホーリーヴェールが再び展開されると、光の幕が屍の腕を弾き飛ばして着地した。
「うん、残念。やっぱりこっちか……」
どうせそれほど期待していたわけでもない。
とは言え、真水はそれほど落胆してはいなかった。むしろひどい乗り物酔いの気分転換には使えるかもしれない、というくらいの胸のスッキリ感に感動を覚えていたからだ。
それはともかく、真水はロッカから預かった短剣を引き抜き、リューの貫いた穴に飛び込むと、黒い瘴気渦巻く地面に突き刺した。それは瘴気に触れるとまるで水中を進むように重たくなり、力で押し込めるとまるでナマクラで肉を押し切るような独特の感触が伝わってきた。
「グ!?」
嘲笑ってばかりのファルバウティの声が詰まった。
「ア アアアアア イタイイィィィ アギャアアア!!!?」
「今度はジョークではないみたい。なるほど、確かに効果あるみたい」
痛みにのたうつ岩の山に真水はにやりと笑うと、刃を振り上げもう一度渾身の力を込めて突き刺し……た。
岩の奥底まで差し込むとファルバウティののたうちまわる様子は激しくなり、同時に、刃が蠢く岩の隙間に挟み込まれる。
「あ」
慌てて引き抜こうとしたのが間違いだった。割と軽い音と共に、刃は真っ二つになっていた。
「レーヴァが……折れちゃいました」
「バカヤロー! だから気を付けろっつったんじゃんか!」
セレスティアの報告にロッカの悲鳴じみた罵声がトランシーバーが飛んできた。
「いやぁ、うっかり。ははは、南條さんの力で折れちゃうって相当貧弱なんじゃないかな……」
と、うそぶいた瞬間、真水の目の前に砂塵が取り巻き始めた。それは短剣を持つ腕に付着し、どんどん鎧のように固まっていく。
「な、な、なんだこれ。取れないぞ!? いた……っ!!? あああ、ああっ!!!」
「あれ、歪虚レーヴァ……そうか、剣が本体の歪虚だから……デュラハン型になるんだ」
アーシュラがその腕を見て即座に気付いた。歪虚レーヴァが構築されようというのだ。折れた刃から危険を察知して、周囲の適当なもので構成されていく。前の船での一件ではフジツボだらけの鉄板だったのも、恐らく海底で材料を寄せ集めたのだろう。すると今回の適当な材料とは岩になり……構成を阻む真水の腕の形など二の次で構成される。
「南條さん、手を離してっ! 取り込まれる!!」
アーシュラは叫んだが、まるで彫像にでもなるかのように、腕先が岩で覆われ続け、それが南條の華奢な腕をすり潰して血を滴らせていた。
「離せない、離れないんだよ!!」
横でセレスティアもこびりついた岩を剥がし、短剣を振り落とさせようとするが、まったくスピードが折り合わない。
「真水、真水!!」
ウェスペリアの中でヒースは叫ぶと、のたうつファルバウティを捨てて、ウェスペリアの手で真水をそっと握った。だがどうにもならない。
「そのままでいて。私が行く……!」
未悠がウェスペリアの腕の上を走り、大きく跳びあがると両手を組んで真上に掲げた。
そしてそのままガントレットのように分厚くなった腕に腕を振り下ろす。
「でりゃああああ!!!」
速度を持った一撃が岩石の手甲を、そして短剣を叩き壊した。
「大丈夫? でも真水の一撃でファルバウティは弱ったわ」
良かった。とウェスペリアの腕の上で抱きしめる未悠。
彼女の言う通り、ウェスペリアの拘束がなくなっても、当たり構わず攻撃をしかけようというファルバウティの意志は失われていた。
「イタイ イタインジャア アアア イタイヨォ」
「よし、二人とも退散するっす。多分、ファルバウティよか、味方の攻撃の方がキツいんじゃないかって思うっす」
無限は傷ついた真水を引き受けると、未悠に真後ろを指さした。
「痛みを経験したことねぇのか。はっ、こんな奴にコケにされてたのかと思うと、心底反吐が出るぜ」
まるで這いつくばって逃げようとしているファルバウティに対して、ボルディアは心底軽蔑の視線を送っていた。
こんな相手に一撃くらわされて笑われてたかと思うと虫唾が走り、こんな奴に弄ばれた命も浮かばれないと思うと情けなさすら感じる。
「死なねぇかもしれねーけどな、てめぇの身体にはまだ短剣は突き刺さったままだよな」
殺せないだろうが。それでも今までのツケの利子くらいは払ってもらうぜ。
ボルディアの周りに再び、砂竜巻が巻き起こる。
「刺さった短剣にズタボロにされやがれ。てめぇの肉体をえぐってかきまわしてやるぜ!!」
竜巻を手にした巨大な幻影が空を跳び、そして地面を這いずるファルバウティに打ち付けた。
「アギャアアアアア……オボエテロ ヨ ……ォ」
吹き飛んだ死肉の一部に集約したのか、別の何かに取り憑いて移動したのか、よくわからないものの、竜巻が完全に収まる頃には腐臭にもにた負のマテリアルは散り散りになって消え去っていた。
●
「スィアリはどうやってあんな奴に堕とされたんすかね。とてもそんな巧緻な頭しているようには見えないっすけど」
無限の言葉にボラ族の人間は押し黙っていた。唯一、アーシュラを除いて。
「スィアリ様の子……生まれたばかりのウル君を人質に取ったんだよね……レーヴァが」
アーシュラのキツい視線の先にはロッカがいた。師弟関係ということは、レーヴァの作り主ということは。今日までのレーヴァの襲撃はロッカが片棒を担いでいたことになる。
「そこだけ言われりゃ、全部オレが悪者じゃないか。いいかい? オレ達が住んでいたエリアは、今もう北荻に呑まれたエリアだけど、当時も酷かったんだぜ。ここにいる全員が餓死するか戦死するかの選択を迫られてたけど、生前からバケモノだったスィアリ様だけは違ってた。飲まず食わずで北荻で戦い続けられるなんてあの人しかいないよ。だけど、あの人が族長である限り、夜逃げもできなかった。自分たちを育ててくれた土地を守るのがボラ族の役目だってさ」
ロッカは心底残念そうに粉々になった短剣を見つめて呟いた。
「ということは、ロッカがスィアリの動向を見計らってウル君をさらい、ファルバウティの憑りついたレーヴァに預けたと……そういうことっすか」
ファルバウティの性格からして、人質を取られて無抵抗になったスィアリをどれほどいたぶったのか。
帰って来た時には、歪虚と見間違われて討たれるほどに変貌していたというのだから想像を絶するに違いない。
「先人ってのは次代に技術や知識、経験を教えてくれる存在だ。スィアリもファルバウティも最終的にオレ達は越えていかなきゃいけない。付き従うだけじゃ単なる従者だもの」
イグも沈鬱な面持ちをしていた。
流れる沈黙の間に、真水がロッカに声をかけた。
「でも、その剣じゃファルバウティを殺せないんじゃない? レーヴァってのは、ファルバウティのマテリアルや技術の結集なんだろ?」
「だね。やっぱベースがダメだ。あれを始末できるくらいの強い武器がないと」
本気でファルバウティを殺すつもりなのはロッカからは滲み出ていたので、真水はふぅん、と頷いて次の言葉を舞った。
「心当たりあるんだ?」
「ボラ族最強の武器をベースにすりゃファルバウティを切り殺せるさ。スィアリ様の持つ槍『マイステイル』なら間違いなく」
貫いて生きるということ。自由闊達に生きる人間の闇を見た気がした。
セレスティア(ka2691)の問いかけにロッカは視線をそちらに向けずに話した。
「そのまま切りつけるだけだよ。……こいつはマテリアルごと切り裂くんだよ」
「ふぅむ。亡霊型歪虚、特に憑依能力のある存在は物理は全く効かないはずだけどねぇ」
セレスティアのトランシーバーごしにヒース・R・ウォーカー(ka0145)の声が届く。声の主は宵闇色したデュナミスの中だ。そんなヒースに嘲るかのようにしてロッカの声が届く。
「なんだ、CAM乗りのリアルブルー人でも頭は大したことないんだね。例えばさ、硬いっていわれるダイヤモンドでも、ダイヤモンド同士をぶつければ削りあえるんだ。同質の存在同士は削れるんだよ」
「亡霊同士をぶつけて削り合うってことなんだね……さいっこうに悪い夢の予感がするよ、それ」
南條 真水(ka2377)は肩をすくめてそう言いつつ、手を差し出した。
「良ければ南條さんが使ってみてもいいよ。どこだろうと飛んでいけるからね」
「折るなよ? 作んの面倒なんだから」
ロッカはあまり信用していなさそうな顔をしながらも、それを手渡してくれた。その瞬間、肌の泡立つような寒気が真水を襲う。ロッカの言う通り、これは負のマテリアルの塊……一種の歪虚だ。
「もう一つ聞いていい?」
トランシーバー越しに今度はアーシュラ・クリオール(ka0226)の声が響いた。その声はいつもの感情がたくさんこもる豊かな声色とはまるで違い、低く、冷たかった。
「それ……『作った』の? 修復したんじゃなくて?」
「馬鹿言うなよ。アーシュラねーちゃん。このレーヴァはオレの作品! このロッカ、オリジナルの武器なんだから」
ロッカのプライドがちらりと覗く言葉にアーシュラは言葉を返さなかった。
ボラ族の仇敵たるファルバウティに傷をつけられる武器などそうそうない。その才能は褒めてしかるべきだ。
だが、その短剣、レーヴァが蓄えるマテリアル。そして血色の輝きと生臭い香りは、誰の物だ?
「……それは後で聞いたらいいっすよ。とりあえず、今は目の前の敵に注力するべきっす」
無限 馨(ka0544)は軽く跳ねて準備体操をしつつ、口元をにんまりとさせた。溢れる自信は漣のようにして身を湛えると同時に、周囲の時間がまるで水に囚われたかのようにして、動きを遅くする。
無限は一歩踏み出した。時の止まったような空間の中を。周りの人には、きっと神風のようにしかみえないであろう。軽々と岩を駆け登り、勢いをつけて宙返りをきめながら、肩口に立ち上がった無限は高空を舞う風を一身に浴びて、深呼吸をすると眼下よりこちらに顔向けする魔導列車に向き直った。その黒鉄の魔導列車に並走する紅色の巨狼、紅狼刃、そしてその主リュー・グランフェスト(ka2419)の覚醒炎に眼のピントを合わせるとトランシーバーを口当てた。
「リュー君。オールグリーン。準備はいつでもいいっすよ」
「了解。アミィ、測射するぞ。矢の行き先を狙え」
イェジドの背でリューは背を伸ばし、胸を大きく張ると、大弓を目いっぱい引き絞った。狙いは無限が教えてくれる。
「いけぇっ!!!」
風を切り裂き、唸る矢が無限に向かって走る。
「自滅覚悟 カ。ヒャ ハハ ハ」
「そんなつもりはなっすよ。なんせみんな遅いっすから」
轟くような笑い声の途中で残像とそんな言葉だけ残して、もう無限は消えていた。
残るは突き刺さる矢と……それを追うように飛ぶ大砲の弾だけであった。
「カ カカ! 山ニ 大砲トカ 阿呆ジャノウ 脳足リン若造共が!」
爆散した岩が粉塵と化し、もうもうと煙の上がる中から濃い影が現る。ファルバウティだ。
ゆるりと動いたそれは足元のボラ族を蹴散らす如く真上から降り注ぐような大岩を振り落とした。その落ちる陰にボラ族は次々と対比していくが、ただ一人、紅の髪と瞳だけが残る。ボルディア・コンフラムス(ka0796)だ。
数トンもの落石が降り注ぐ視界は天災と言ってもいいような状況だったが、大斧で肩を軽く叩きながらを笑顔すら見せるボルディアに恐怖はみじんもなかった。
「脳が足りてねェのはそっちだろ……? 丁度いい。その頭かち割ってどんなけ詰まってンのか、見てやるぜ」
降り落ちる粉塵、足元の砂塵がボルディアを中心に渦巻き、嵐のように噴き上がり、ファルバウティから零れ落ちる岩石すらも巻き込んで、巨大な砂竜巻を作り始める。
同時に砂竜巻の中心から、焔が吹き、砂竜巻に混じ入る。その影に見えるは二足で立つ獣の姿だった。
大地の轟音、砂竜巻の嵐よりも響く咆哮を上げると、振り上げる獣腕と共に砂竜巻をまるで棍棒のようにして蠢いた。同時に火山の噴火のような爆炎が岩塊を真下から受け止めた。
「オオオオオオっっっっ」
炎と竜巻が、真上からの大質量の岩塊とぶつかりあうと周りにも爆風が吹き荒れ拮抗する。
「どっち向いてんのさ。あんたが売りつけてくれた怒りはそっちだけじゃない」
アーシュラがディファレンスエンジンを動かすと数式紋がらせん状に走り、光条が次々とファルバウティに襲い掛かる。
「あたしの分っ」
大砲が命中した部分に追い打ちをかけるように射ち込み。
「スィアリ様の分っ」
光が土台となる、脚を切り裂いた。
そしてレイアのブリザードが吹き荒れ、押し固めたところをゾールが大棍棒で叩きのめした大腿部にイグが大地を揺るがすような一撃を叩きこむと亀裂はびしりと走る。
「それから、ボラ族みんなの分っ!!!」
獅子のように吼え猛ると最後のデルタレイが亀裂へと飛び込むと、光の爆発を伴って爆発四散した。
その瞬間に拮抗していたボルディアとの力の争いも途端に崩れ始める。
「オオオオオアアアアアアアァァア!!! 死んでこいやァァァァ!」
十数メートルの岩塊が、竜巻と焔にさらされて浮き上がると同時に、細かなヒビに赤熱の線が走る。
「爆炎!!!」
ボルディアの怒轟と共に、ファルバウティは吹き飛んだ。
「クハー、痛イノゥ。痛イノゥ。痛イノゥ!!」
巨塊がバラバラに崩れたが苛立ちに満ちた怨嗟の声は止まらない。それどころか、まるで崩れた岩から吹き出る黒い煙に繋がれたように、決してバラバラにはなろうとしない。
「あの黒い瘴気、可視化できるレベルの負のマテリアルのようだ」
ウェスペルのセンサー類がメインディスプレイの横で大きく反応する数値を目で追いながらヒースは呟いた。
「中に死体置き場があるってクリームヒルトが言ってたわ。前はゾンビの塊、次は枯れた樹木……全部死んだものよ。あいつ、死体にある負のマテリアルと結合するのね。どこまでも命を軽んじる……」
息を細く、そして深く吐き出しながら高瀬 未悠(ka3199)が呟いた。
「ナンダァ 小娘ガ エレェ事言イヤガル 命? ソンナモノまてりあるノ塊ダヨ コノ岩クレ ト カワリャシネェ」
ファルバウティの言葉に未悠は眉間にしわを寄せた。
クリームヒルトは言った。命を賭けてと。命より大事なものはないけれど、何かの為に全霊を尽くす想いは何よりも強いと。
ある意味同じで、そして正反対なのが、ファルバウティだ。
「一度でもっ、傷ついてから、言いなさい!!!」
再構成しつつ立ち直ろうとするファルバウティに向かって未悠は跳んだ。覚醒で細くなった虹彩は瓦礫の塊の中で、動かない一つの石を見抜き、そこに向かって全力で刀を叩きつけた。岩塊が乗っかっている石だけあり、全力でぶつかってもぎしりと食い込むだけだった。だが、振動刀のスイッチを入れて、そのまま未悠は押し込む。
「痛みを知らない奴が……命という言葉を使わないでほしいわね!」
めきゃ。
要石が粉々になった次の瞬間、ファルバウティを構成する岩が再び大きく傾いだ。つぶて石が土砂崩れのように襲い掛かって来たのだ。
「アヒャヒャヒャ ジャアヨォ 痛ミッテノ 教エテクレヨォ。潰サレル様子ヲナ コトコマカーニ」
日差しすら見えない。岩礫が光を覆い隠し、雪崩れてくるのを力を込め切った未悠は見上げることしかできなかった。
死ぬ……?
虹彩すら動かせない時間の中で、未悠の視界に風が殴りつけ、真っ黒に染まった。
「高瀬さんっ!!」
黒いのは岩ではない。黒鉄の板、マテリアルの輝き。魔導列車だ。
飛び込んできた車体が岩つぶてを受け止める間に、窓越しに突き出されたクリームヒルトの手を取って、未悠は列車に飛び込んだ。クリームヒルトを庇うようにして抱きしめる間、車体すらへしゃげるような岩の雨の音が響き渡る。
「全く、無茶するねぇ……」
魔導列車の隅で転げまわっているトランシーバーからヒースの声が響いたかと思うと、急に雨の打ち付ける音が聞こえなくなった。
未悠が窓の外を見ると、黒い機体ウェスペルが見えた。
「細かくするばするほど面倒だ。押し固めさせてもらうとしようかぁ」
ヒースはウェスペルのアクティブスラスターを起動すると、両手を広げて雪崩れる岩つぶてをその身体で受け止め、推進機のエネルギーだけで魔導列車に覆いかぶさった土砂を押し出した。
「プラズマカッターを使わせてもらう。光の力で……斬れてくれるといいんだがなぁ」
そのまま腕に格納されたコンバットナイフに魔導エネルギーが集約し、光り輝く刃となって岩くれを切り裂くが再構成を続けようとする超自然的な岩の動きが収まる様子は見えない。
「ち、効果なしか。でもまあいいさ。この姿勢なら動けないだろうからねぇ」
スラスターで押し続けている間は向こうにも運動エネルギーがかかり続けるはずだ。再構成した瞬間に押し出される状態を続けば、間違いなく今の岩塊全てを保持できなくなる。
「ヒースさん。そのままでいてくださいっ!!」
セレスティアの声が聞こえたや否や、岩礫の山の上にセレスティアを乗せたイェジドが跳びあがった。
「負のマテリアルの中枢をなくせば保持できなくなるはずです。それは……中の死体のはず。臭い……わかる?」
セレスティアは軽やかに飛び降りるとその頬を軽く撫でつつ問いかけた。骸の臭いなど触れてほしくはないが、今はイェジドの鼻が頼りだ。
鼻をちかづけるイェジドが一歩踏み出した瞬間、地面が震えた。
「サガシモノ ハ コッチジャア!」
足元のつぶてがさざめいたかと思うと、セレスティアの足をぐずぐずになった人間の手が握っていた。
「きゃっ!!!」
つぶてとつぶての間から、二本目、三本目と次々腕が出て、セレスティアの脚をにぎると、それらはセレスティアを引きずり込もうと力をこめる。
「セレスティアぁぁぁ!!」
遠くからすばやく察知したリューは叫ぶと、大弓を再び引き絞り、燃え上がるマテリアルを込めて飛ばした。
爆炎は岩をトンネル状に抉り、セレスティアの衣服をかすめた。
中には無数の手、無数の眼が蠢いている。
「みーえた。浄化の前に、無慈悲なる女王の裁きを受けてもらおうかな」
光る翼が生えた靴で、矢の痕跡の真上を飛ぶ真水は言うと、左腕を差し出しセレスティアと手を重ねると同時に、右手甲から真っ赤な刃を生み出す。
「ほつれた糸は……」
セレスティアにすがるように伸びる腕。だが、ホーリーヴェールの光の波紋がそれを阻みできた隙間を。
「切っちゃわないとね」
紅色の光が黒い煙を切り裂いて、細い屍の腕を叩ききった。
「ありがとうございます!」
「セレスティア君。悪いけどそのピュリフィケーション展開してくれない? 一緒に実験しちゃおうと思って」
「わかりました」
頷くと同時に真水は浄化用のカートリッジをポーチから引き抜くと口に咥え、そしてセレスティアも同時に祈りの言葉を紡ぐ。
「こういう時は何て言うのかな。臭いのどっかとんでいけ! かな」
「穢れを祓い給え!!」
二人の術式が発動する。清冽な空気がうず巻き、歪虚と対峙した時独特の目眩にもにた感覚はすっと薄らいだが、かと言って蠢く死体やファルバウティの黒い瘴気が消える様子もなく、リフレアの効果が薄れ、落ちてくる二人を掴もうと手を伸ばしてくる。
「あまり効果は認められないようですね。……退きなさい!」
セレスティアの一言でホーリーヴェールが再び展開されると、光の幕が屍の腕を弾き飛ばして着地した。
「うん、残念。やっぱりこっちか……」
どうせそれほど期待していたわけでもない。
とは言え、真水はそれほど落胆してはいなかった。むしろひどい乗り物酔いの気分転換には使えるかもしれない、というくらいの胸のスッキリ感に感動を覚えていたからだ。
それはともかく、真水はロッカから預かった短剣を引き抜き、リューの貫いた穴に飛び込むと、黒い瘴気渦巻く地面に突き刺した。それは瘴気に触れるとまるで水中を進むように重たくなり、力で押し込めるとまるでナマクラで肉を押し切るような独特の感触が伝わってきた。
「グ!?」
嘲笑ってばかりのファルバウティの声が詰まった。
「ア アアアアア イタイイィィィ アギャアアア!!!?」
「今度はジョークではないみたい。なるほど、確かに効果あるみたい」
痛みにのたうつ岩の山に真水はにやりと笑うと、刃を振り上げもう一度渾身の力を込めて突き刺し……た。
岩の奥底まで差し込むとファルバウティののたうちまわる様子は激しくなり、同時に、刃が蠢く岩の隙間に挟み込まれる。
「あ」
慌てて引き抜こうとしたのが間違いだった。割と軽い音と共に、刃は真っ二つになっていた。
「レーヴァが……折れちゃいました」
「バカヤロー! だから気を付けろっつったんじゃんか!」
セレスティアの報告にロッカの悲鳴じみた罵声がトランシーバーが飛んできた。
「いやぁ、うっかり。ははは、南條さんの力で折れちゃうって相当貧弱なんじゃないかな……」
と、うそぶいた瞬間、真水の目の前に砂塵が取り巻き始めた。それは短剣を持つ腕に付着し、どんどん鎧のように固まっていく。
「な、な、なんだこれ。取れないぞ!? いた……っ!!? あああ、ああっ!!!」
「あれ、歪虚レーヴァ……そうか、剣が本体の歪虚だから……デュラハン型になるんだ」
アーシュラがその腕を見て即座に気付いた。歪虚レーヴァが構築されようというのだ。折れた刃から危険を察知して、周囲の適当なもので構成されていく。前の船での一件ではフジツボだらけの鉄板だったのも、恐らく海底で材料を寄せ集めたのだろう。すると今回の適当な材料とは岩になり……構成を阻む真水の腕の形など二の次で構成される。
「南條さん、手を離してっ! 取り込まれる!!」
アーシュラは叫んだが、まるで彫像にでもなるかのように、腕先が岩で覆われ続け、それが南條の華奢な腕をすり潰して血を滴らせていた。
「離せない、離れないんだよ!!」
横でセレスティアもこびりついた岩を剥がし、短剣を振り落とさせようとするが、まったくスピードが折り合わない。
「真水、真水!!」
ウェスペリアの中でヒースは叫ぶと、のたうつファルバウティを捨てて、ウェスペリアの手で真水をそっと握った。だがどうにもならない。
「そのままでいて。私が行く……!」
未悠がウェスペリアの腕の上を走り、大きく跳びあがると両手を組んで真上に掲げた。
そしてそのままガントレットのように分厚くなった腕に腕を振り下ろす。
「でりゃああああ!!!」
速度を持った一撃が岩石の手甲を、そして短剣を叩き壊した。
「大丈夫? でも真水の一撃でファルバウティは弱ったわ」
良かった。とウェスペリアの腕の上で抱きしめる未悠。
彼女の言う通り、ウェスペリアの拘束がなくなっても、当たり構わず攻撃をしかけようというファルバウティの意志は失われていた。
「イタイ イタインジャア アアア イタイヨォ」
「よし、二人とも退散するっす。多分、ファルバウティよか、味方の攻撃の方がキツいんじゃないかって思うっす」
無限は傷ついた真水を引き受けると、未悠に真後ろを指さした。
「痛みを経験したことねぇのか。はっ、こんな奴にコケにされてたのかと思うと、心底反吐が出るぜ」
まるで這いつくばって逃げようとしているファルバウティに対して、ボルディアは心底軽蔑の視線を送っていた。
こんな相手に一撃くらわされて笑われてたかと思うと虫唾が走り、こんな奴に弄ばれた命も浮かばれないと思うと情けなさすら感じる。
「死なねぇかもしれねーけどな、てめぇの身体にはまだ短剣は突き刺さったままだよな」
殺せないだろうが。それでも今までのツケの利子くらいは払ってもらうぜ。
ボルディアの周りに再び、砂竜巻が巻き起こる。
「刺さった短剣にズタボロにされやがれ。てめぇの肉体をえぐってかきまわしてやるぜ!!」
竜巻を手にした巨大な幻影が空を跳び、そして地面を這いずるファルバウティに打ち付けた。
「アギャアアアアア……オボエテロ ヨ ……ォ」
吹き飛んだ死肉の一部に集約したのか、別の何かに取り憑いて移動したのか、よくわからないものの、竜巻が完全に収まる頃には腐臭にもにた負のマテリアルは散り散りになって消え去っていた。
●
「スィアリはどうやってあんな奴に堕とされたんすかね。とてもそんな巧緻な頭しているようには見えないっすけど」
無限の言葉にボラ族の人間は押し黙っていた。唯一、アーシュラを除いて。
「スィアリ様の子……生まれたばかりのウル君を人質に取ったんだよね……レーヴァが」
アーシュラのキツい視線の先にはロッカがいた。師弟関係ということは、レーヴァの作り主ということは。今日までのレーヴァの襲撃はロッカが片棒を担いでいたことになる。
「そこだけ言われりゃ、全部オレが悪者じゃないか。いいかい? オレ達が住んでいたエリアは、今もう北荻に呑まれたエリアだけど、当時も酷かったんだぜ。ここにいる全員が餓死するか戦死するかの選択を迫られてたけど、生前からバケモノだったスィアリ様だけは違ってた。飲まず食わずで北荻で戦い続けられるなんてあの人しかいないよ。だけど、あの人が族長である限り、夜逃げもできなかった。自分たちを育ててくれた土地を守るのがボラ族の役目だってさ」
ロッカは心底残念そうに粉々になった短剣を見つめて呟いた。
「ということは、ロッカがスィアリの動向を見計らってウル君をさらい、ファルバウティの憑りついたレーヴァに預けたと……そういうことっすか」
ファルバウティの性格からして、人質を取られて無抵抗になったスィアリをどれほどいたぶったのか。
帰って来た時には、歪虚と見間違われて討たれるほどに変貌していたというのだから想像を絶するに違いない。
「先人ってのは次代に技術や知識、経験を教えてくれる存在だ。スィアリもファルバウティも最終的にオレ達は越えていかなきゃいけない。付き従うだけじゃ単なる従者だもの」
イグも沈鬱な面持ちをしていた。
流れる沈黙の間に、真水がロッカに声をかけた。
「でも、その剣じゃファルバウティを殺せないんじゃない? レーヴァってのは、ファルバウティのマテリアルや技術の結集なんだろ?」
「だね。やっぱベースがダメだ。あれを始末できるくらいの強い武器がないと」
本気でファルバウティを殺すつもりなのはロッカからは滲み出ていたので、真水はふぅん、と頷いて次の言葉を舞った。
「心当たりあるんだ?」
「ボラ族最強の武器をベースにすりゃファルバウティを切り殺せるさ。スィアリ様の持つ槍『マイステイル』なら間違いなく」
貫いて生きるということ。自由闊達に生きる人間の闇を見た気がした。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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破壊せよ(相談卓) アーシュラ・クリオール(ka0226) 人間(リアルブルー)|22才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/10/27 02:49:23 |
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質問卓 ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2016/10/27 01:59:15 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/10/25 08:29:19 |