ゲスト
(ka0000)
【郷祭】ワイン最強酔剣士決定戦
マスター:深夜真世

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~50人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/10/26 07:30
- 完成日
- 2016/11/10 00:53
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ここは同盟領、極彩色の街「ヴァリオス」。
「いらっしゃいませ、Pクレープにようこそ♪」
街角屋台「Pクレープ」で南那初華(kz0135)が明るく元気に働いている。きょうはハンター仕事はお休みで、Pクレープの手伝いをしている。
「おお、たしかにあの時の娘さんじゃ」
「ふむ。この娘があんなに色っぽく倒れたのじゃな!」
「悪くない。いや、結構ではないか!」
「うむうむ、今すぐ倒れてもらいたいくらいじゃ!」
「きゃ、ちょ……ちょっと何~?」
突然窓口に殺到した中年親父どもがまるで餌箱に首を突っ込む豚のように激しい勢いでふんふんジロジロ自分を見るのだからたまらない。初華、着衣を乱しているわけではないのだが胸元を両手で隠しつつ身をよじる。
そこへどたどたと何者かが近付いてくる足音。
「遅れてすいませ……ちょっと皆さん、初華さんに何してるんですか!」
どうやら屋台のオーナー、ポルカ商会のポルテがやって来たようで。
が、中年親父どもは振り返りもしない。
「ぜひ、今度はジェオルジの郷祭(さとまつり)で!」
「ジェオルジ各村特産のワインが飲めるぞ」
「オシャレなワインに村自慢のおつまみがぐっとうまみと現地ならではの味わいを醸すのじゃ」
「アンタなら若い娘もうっとりして『私も食べてみたい』と思うに違いあるまい」
「首を一つ縦に振るだけでオイシイハンター依頼に優先ご招待じゃ!」
「おい、客の邪魔だ。……メロンジャムのクレープ一つ」
その騒ぎにムッスリと首を突っ込む禿頭のチンピラ。
「あ、はぁい。いつもありがとうございます」
初華、救われたとばかりに注文を受けてクレープを焼く。実際、禿頭のいつものチンピラは「やれやれ、相変わらずだ」とカウンターに肩肘突いたり。
その隙にポルテが中年親父どもをテーブルにまとめて話を進める。
「初華さんは必ず参加させますからご安心ください。それより最強酔剣士大会でワインに混ぜる分の酒の仕入れ配分を話し合いましょう」
「ウム、そうじゃった」
「大会に一人は欲しい女性選手も生で品定めできたことじゃし」
「しかもなかなかの天然」
「ポルカ商会さんはええ人材を仕入れておるの」
「それよりジェオルジ産白茶もごちそうになれると聞いたが」
「初華さぁん、あとで白茶もお願いします」
「あ、はぁい」
そんなこんなで、ここで話し合われている「ジェオルジの郷祭序盤を盛り上げる余興『最強酔剣士決定戦』」に初華の出場が決まってしまう。後に初華は涙目で嫌がったが、白茶の取り引きも決まったことで鬼の形相をするポルテに押し切られてしまう。
「今度は闘祭の時と違ってワインだし、その時の反省もあっておつまみ付きです。ジェオルジの村の特産紹介でもあるからおいしいものばかりです。チーズ入りチクワとかトマトとか……」
「ほ、ホント?」
初華、女の子である。
美味しいものに目がない。
そんなわけで、ジェオルジの郷祭開催序盤の特産品紹介の余興「ワイン最強酔剣士決定戦」(ワイン以外もあり)に出場してくれる人、求ム。
以下、ルール。
同決定戦は決められた酒量を飲んで酩酊した状態で戦うバトルロイヤル。
「酒に強くて戦いも強い」
の両方を兼ね備えたナンバーワンを決める。「戦いに強いだけでは意味がなく、酒に強いだけでも価値がない」がキャッチコピー。
今回は、まず以下の各村特産酒とつまみを味わい腹ごしらえと美味しい思いをしてもらう。
★トマト酒&カプレーゼ(カルドルビーノ村/シナリオ「酔いどれ? 新トマト祭!」(奈華里MS担当)より)
★クワス2種(どっしり重いアルコール強めのものと、フルーツの香りが爽やかな軽いタイプ)(※特定の村の特産ではない/シナリオ「【春郷祭】バチャーレ村広報記」(樹シロカMS担当)より)
★レ・リリカ&チーズ入りチクワ(タスカービレ村/シナリオ「タスカービレ~少竜巻を崩せ!」(深夜真世担当)より)
そして、アルコール度を強化した以下10種類のワインの内5つを選び順番に飲んでもらう。
赤ワイン
A)女神の騎行
B)紳士の矜持
C)宵闇鎮魂歌
D)文豪の書斎
E)鍛冶屋気質
白ワイン
F)深窓の令嬢
G)蝶衣の演舞
H)妖精果樹園
I)勝利の歓喜
J)友情交響曲
全員が5杯飲んだのち、バトルロイヤル開始。
合計酩酊度が低く、敗北フラグ酒を飲んでない者が勝者となる。
注意事項:観客を集めたショービジネスである旨を理解して参加すること。ショーを逸脱する攻撃などは禁止。同じ理由で範囲攻撃や遠距離攻撃は禁止。武器や防具は自由だが、観客に誤って危害を加えてしまわないもの限定。武器装備なしは戦意なしとして敗北扱いとなる
「いらっしゃいませ、Pクレープにようこそ♪」
街角屋台「Pクレープ」で南那初華(kz0135)が明るく元気に働いている。きょうはハンター仕事はお休みで、Pクレープの手伝いをしている。
「おお、たしかにあの時の娘さんじゃ」
「ふむ。この娘があんなに色っぽく倒れたのじゃな!」
「悪くない。いや、結構ではないか!」
「うむうむ、今すぐ倒れてもらいたいくらいじゃ!」
「きゃ、ちょ……ちょっと何~?」
突然窓口に殺到した中年親父どもがまるで餌箱に首を突っ込む豚のように激しい勢いでふんふんジロジロ自分を見るのだからたまらない。初華、着衣を乱しているわけではないのだが胸元を両手で隠しつつ身をよじる。
そこへどたどたと何者かが近付いてくる足音。
「遅れてすいませ……ちょっと皆さん、初華さんに何してるんですか!」
どうやら屋台のオーナー、ポルカ商会のポルテがやって来たようで。
が、中年親父どもは振り返りもしない。
「ぜひ、今度はジェオルジの郷祭(さとまつり)で!」
「ジェオルジ各村特産のワインが飲めるぞ」
「オシャレなワインに村自慢のおつまみがぐっとうまみと現地ならではの味わいを醸すのじゃ」
「アンタなら若い娘もうっとりして『私も食べてみたい』と思うに違いあるまい」
「首を一つ縦に振るだけでオイシイハンター依頼に優先ご招待じゃ!」
「おい、客の邪魔だ。……メロンジャムのクレープ一つ」
その騒ぎにムッスリと首を突っ込む禿頭のチンピラ。
「あ、はぁい。いつもありがとうございます」
初華、救われたとばかりに注文を受けてクレープを焼く。実際、禿頭のいつものチンピラは「やれやれ、相変わらずだ」とカウンターに肩肘突いたり。
その隙にポルテが中年親父どもをテーブルにまとめて話を進める。
「初華さんは必ず参加させますからご安心ください。それより最強酔剣士大会でワインに混ぜる分の酒の仕入れ配分を話し合いましょう」
「ウム、そうじゃった」
「大会に一人は欲しい女性選手も生で品定めできたことじゃし」
「しかもなかなかの天然」
「ポルカ商会さんはええ人材を仕入れておるの」
「それよりジェオルジ産白茶もごちそうになれると聞いたが」
「初華さぁん、あとで白茶もお願いします」
「あ、はぁい」
そんなこんなで、ここで話し合われている「ジェオルジの郷祭序盤を盛り上げる余興『最強酔剣士決定戦』」に初華の出場が決まってしまう。後に初華は涙目で嫌がったが、白茶の取り引きも決まったことで鬼の形相をするポルテに押し切られてしまう。
「今度は闘祭の時と違ってワインだし、その時の反省もあっておつまみ付きです。ジェオルジの村の特産紹介でもあるからおいしいものばかりです。チーズ入りチクワとかトマトとか……」
「ほ、ホント?」
初華、女の子である。
美味しいものに目がない。
そんなわけで、ジェオルジの郷祭開催序盤の特産品紹介の余興「ワイン最強酔剣士決定戦」(ワイン以外もあり)に出場してくれる人、求ム。
以下、ルール。
同決定戦は決められた酒量を飲んで酩酊した状態で戦うバトルロイヤル。
「酒に強くて戦いも強い」
の両方を兼ね備えたナンバーワンを決める。「戦いに強いだけでは意味がなく、酒に強いだけでも価値がない」がキャッチコピー。
今回は、まず以下の各村特産酒とつまみを味わい腹ごしらえと美味しい思いをしてもらう。
★トマト酒&カプレーゼ(カルドルビーノ村/シナリオ「酔いどれ? 新トマト祭!」(奈華里MS担当)より)
★クワス2種(どっしり重いアルコール強めのものと、フルーツの香りが爽やかな軽いタイプ)(※特定の村の特産ではない/シナリオ「【春郷祭】バチャーレ村広報記」(樹シロカMS担当)より)
★レ・リリカ&チーズ入りチクワ(タスカービレ村/シナリオ「タスカービレ~少竜巻を崩せ!」(深夜真世担当)より)
そして、アルコール度を強化した以下10種類のワインの内5つを選び順番に飲んでもらう。
赤ワイン
A)女神の騎行
B)紳士の矜持
C)宵闇鎮魂歌
D)文豪の書斎
E)鍛冶屋気質
白ワイン
F)深窓の令嬢
G)蝶衣の演舞
H)妖精果樹園
I)勝利の歓喜
J)友情交響曲
全員が5杯飲んだのち、バトルロイヤル開始。
合計酩酊度が低く、敗北フラグ酒を飲んでない者が勝者となる。
注意事項:観客を集めたショービジネスである旨を理解して参加すること。ショーを逸脱する攻撃などは禁止。同じ理由で範囲攻撃や遠距離攻撃は禁止。武器や防具は自由だが、観客に誤って危害を加えてしまわないもの限定。武器装備なしは戦意なしとして敗北扱いとなる
リプレイ本文
●
「さあ、出場者の皆さん、集まってください」
ジェオルジの広場で司会者の声が響いた。
広場にはテーブルとイス、そしてワイングラスが並んでいた。広場の周りには見物人が遠巻きに。
「……ワイン最強酔剣士決定戦かぁ」
とぼ、とテーブルの方に移動しているのは、メイド服姿の南那初華(kz0135)。何でこうなっちゃったかなぁ、とかぶつぶつ。
ふと横を見る。
「さぁ、酒だ酒だ!」
颯爽とマントをひらめかせ、レイオス・アクアウォーカー(ka1990)がテーブルに向かっている。今日も赤い出で立ちがお洒落である。
「よう、前も会ったな。またいい勝負ができるといいな!」
初華に気付き爽やかな笑顔を見せる。
「た、楽しそうでいいね」
「おお。酒も飲めるし勝負もできる。こんなに楽しいことはないぜ?」
むしろ何でそんなびくびくしてんだ、とレイオス。
「あら、大丈夫?」
横からマリィア・バルデス(ka5848)もやって来た。
「あ、マリィアさん……も、参加するんだ」
「こんな面白そうな遊び、参加するに決まってるじゃない」
「でも……酒飲んで殴り合いって聞いたよ? マリィアさん、大丈夫?」
不安そうな初華、上目遣いで聞いてみる。
これを聞いたマリィア、むしろにやり。
「そう思うでしょ? 殴り合い。……銃使いの猟撃士が参加できなそうと思われるところが特に燃えるわね」
ひら、と手を振って先を急ぐ。
そんな初華の横から。
「ほほぅ、何やら美味そうなワインが並んでおるのう。参加するとただで飲めるのじゃな? ホントじゃな?」
乱して身にまとう着物「黒昇龍」とさらした肌のもっちり感が鮮烈な印象を纏っている。
さら、と黒髪に手櫛を通して微笑するのは、御酒部 千鳥(ka6405)だ。
「ん?」
ここで、横にぽつねんと立っていた初華に気付く。
「おぬし、良くないのぅ。笑顔を見せい。楽しく飲まぬと酒も楽しくないぞよ? ほれ、おぬしも!」
「え? ええっ!」
初華、びっくりした。
「た、楽しく……ですね」
いつの間にか隣にマルカ・アニチキン(ka2542)がいたのだ。おどおどして隠れるように、というのが正しい表現だが。うつむき加減で長い睫毛をぱちくりさせ胸に手を置き、立ち去ったレイオスやマリィア、そして千鳥といった堂々としている人たちを羨望の眼差しを送っている。
マルカ、似た様子の初華の傍に位置取りしてしまったようで。
「うふふ~、また来ましたよぅ。楽しくなるといいですねぇ~」
ここで星野 ハナ(ka5852)がやって来た。何やら期待たっぷりの様子。果たして酒か色香か食い意地か?
「ッシャア! 酒だつまみだ勝負だ仕事だ。こんな祭りを楽しまねぇ奴ぁどーかしてるぜ!」
さらにどでかい宣花大斧を担いだ筋肉美を誇る赤毛の女性、ボルディア・コンフラムス(ka0796)も通り過ぎる。
「この風、この匂い、そして美味しそうなもの……故郷みたいな、とっても懐かしい感じなの」
おっと。ディーナ・フェルミ(ka5843)が両手を広げてくるくる回りながらテーブルに向かっている。
「地域特産って、伝統が感じられて何だかワクワクするよね」
こちらは霧雨 悠月(ka4130)。好奇心に誘われるように軽くステップ。楽しそうだ。
参加する人たちは熱気を纏っていたり、爽やかな笑顔だったり。
「初華さ~ん」
輝いている人の姿に見惚れている初華の背中から呼ぶ声がする。
振り返るとメルクーア(ka4005)だった。
「さー、きょうは飲むわよ~。せっかくいろんなワインがあるっていうんだからこの機会に飲まなくちゃね!」
「これは初華にメルクーアさん。今回は知り合いが多いですね」
ぐ、と拳を固めつつメルクーアが楽しそうに意気込んだところで頭を掻きつつGacrux(ka2726)もやって来た。
「……結局、今回も参加してしまった」
ガクルックスの横では鞍馬 真(ka5819)が茫然と立ちすくんで……。
「まあいいか」
おっと、初華ほどうだうだと思い悩んでいない。あっさりしているというか流され人生ここに極まるというか。
「来てしまいました……」
サクラ・エルフリード(ka2598)も真同様、積極的に好き好んでここに来たわけではなさそうだ。
「でもこういうのも経験ですし頑張ります……」
おっと、こちらもあまり思い悩んでない様子だ。
「人生前向きな人が多いのね……」
「なんだかんだでみんな大人だ、とも言えますね……」
感心した初華の背後に真田 天斗(ka0014)が立つ。
「う……わ、わたし、子どもかなぁ?」
「少なくとも、人の歴史は酒の歴史でもあります」
恥ずかしそうにする初華に、うやうやしく言い聞かせる天斗である。
「そうそう。人生は酒とともに明るく。……行こう行こう、楽しく飲んで気分良くしてればいいんで~す」
メルクーアが初華の重い腰を背後からうんしょと押す。
「まあ、私もあまり強くは無いのですが……」
「ホント? 天斗さん」
「初華、だまされちゃダメですよ」
ぼやく天斗に助かった、な感じの初華。もっとも、ガクルックスがこういう所の心得を教示したり。
そんな連行される初華の姿を少し離れたところで見る女性が一人。
「また……巻き込まれている」
アリア・セリウス(ka6424)である。
(お酒は嗜み方さえ知らない身だけれど……)
改めて、周りを見る。
「1番強いお酒を飲んだうえで優勝するのが様式美だと思うの頑張るの」
テーブルでは待ちきれないディーナがちょこまか動いている。ひらひらの衣装なのでまるで踊っているかのよう。
「この……このお面さえ被れば……」
初華に巻き込まれてテーブルに向かっているマルカはどぎまぎしながらも手にした何かのマスクをまじまじと見つめている。一体それをどうするつもりかはともかく、やや儀式めいていたりするかも。
「ふふ……こういう雰囲気だと勇ましい曲をやりたくなるよね?」
「そういう雰囲気ではありますね」
「さすがに用意はしてきていないが」
悠月とサクラ、真は音楽でもやりたそうな雰囲気だ。
「お酒で気分が浮けば、歌や詩が浮かぶもの。芸術の神や、妖精はお酒とその雰囲気が好き……」
始まる前の様子を見て、アリアも歌うように呟き心動かされる。
その横を、誰かが通り過ぎた。
「いけない……お酒を飲んで殴り合いをするなんて……」
少年のようなきらめく瞳をした十色 乃梛(ka5902)が、ワンピースのフリルを軽やかに揺らめかしながらかけていく。まるで喧嘩を止めに行くような雰囲気だ。
アリア、大丈夫だろうかと思わずついて行く。
●
「さあ、今回のエントリーはここで締め切ります。参加しない観客の方はいったん後ろの屋台まで下がってください」
司会の男性の仕切る声が響く。ぞろ、と多くの人が後ろに。
参加者と明確な谷間ができる。
「え?」
「あ……」
憐れ、乃梛とアリア、完全に参加者の方に取り残された。
「私……も、お酒飲んで殴る側に?」
「……雰囲気に酔い踊るのも素敵でしょう」
愕然とする乃梛に、喧嘩ではないことを独特の表現で伝えるアリアだった。
「まずは参加者の方はテーブル周りにいるワゴンの係員から、ジェオルジ各村の誇る特産酒とつまみを楽しんでください。会場の観客の方も、後ろの屋台で同じものを販売しています。ぜひご賞味を!」
粛々と大会を勧める司会。観客も待ってましたとばかりに背後の屋台で酒を買う。これにより、参加者たちの戦いの場が自然と生み出され、係員があらかじめ立ててあったポールにロープを張った。流れるような進行だ。
参加者たちはまず、用意された特産品の数々を同量ずつ飲食することになる。
「ほっほっほっ、これは珍しいの~。トマトのお酒とは」
満足そうな千鳥は、カルドルビーノ村名物のトマト酒のグラスを揺らして色味を拝見中。きゅっと一口飲んでほんのり頬を染める。
「あの、大丈夫ですか? 最初から酔ってませんか? よろしければヒールを……」
気にした乃梛が心配する。
「ほっほっほっ。いい感じに酔いが回る……ん~? 最初から酔っとるじゃと? 良い良い、良いのじゃ」
千鳥の方はこれが平常運転とばかりの言いようで。
「……それは?」
アリア、乃梛に突っ込んでみる。
「はっ! ええと……カプレーゼというらしいです」
乃椰の方はちょっと摘まんだモッツァレラとトマトのサラダが気に入ったようで、もぐもぐしながら赤くなっていたり。
「ほれ、酒も飲むと良い」
「んんん~」
「……自分から飲んだ方が良さそうね」
千鳥に飲まされる乃椰を見つつ、アリアもゆったりと食す。
こちらはレイオス。
「まずは特産酒を全部だな。ジョッキで頼むぜ」
「え、それは……飲む量が決まってますので」
ふんす、と鼻息荒く気分よく注文したところそんな返答が。
「誰かが不利になるわけでもないだろう!?」
「おまえだけ有利にさせるわけねぇだろ!」
異議を唱えるレイオスの隣に、ボルディアがどすんと座り牽制する。
「何でオレが有利になるんだ?」
「一人だけ酒量を多くして気分よくなろうたぁそうはさせねぇ」
前のめりになるレイオスに、負けずに前のめりになって説明するボルディア。
なんかもうむちゃくちゃな酒飲み理論である。
「お酒の前に迎え酒なの素敵なの。クワス初めて飲んだの……ヒック」
「そちらはバチャーレ村での一品となっていますね。特産酒……とはまた違う位置付けのようですが」
軽い方のクワスを飲んでほんのりまったりしているディーナに、なぜか給仕をしている天斗が解説。
「こちらはどうでしょう……」
サクラはクワスのどっしりと重い方を。
「そちらはアルコールがきついですよ」
「でも今は全員、一定量を飲むことになってますの……こちらは飲みごたえがあって素晴らしいですわ~」
サクラが飲んだ方をディーナもくいっ。困りましたわ、な感じで頬に手を添える。
「逆にこちらは爽やかですね」
「自分も飲んでおきましょうか」
ディーナの飲んでいた方のクワスも飲むサクラ。天斗も味わう。実はうわばみだったりするが。
うわばみといえば。
「ん……これ、軽いけど華やかでいいわね。樽で買って帰ろうかしら」
マリィアが、タスカービレ村の白ワイン「レ・リリカ」を飲んでほんのりしている。
「改めて食べてみても美味しいな」
真は自分も開発に手を貸した同村のチーズ入りチクワとレ・リリカをやりつつ感慨深げ。
「あら、こっちはまるで貴腐ワインみたいじゃない!? こんなワインがクリムゾンウェストにもあったのね……」
「こっちのカプレーゼも絶妙……」
マリィアと真、称賛しつつの飲み食いに集中しているようで。
おや。
賑やかな中で笑顔の固まっている女性がいるぞ。
「くっ」
ハナである。こっそり舌打ちしているが。
「こんなに男性が少ないなんて想定外ですぅ。やられたふりして抱きつく予定が大外れ……」
「あ、こちらをどうぞ。……ほへ? どうしました?」
おっと。なぜか給仕している初華がそこに出くわしたぞ?
「……げふんげふん、何も言ってないですよぅ」
顔を背けて軽く爪噛みしていたが、超笑顔で「それじゃいただきますぅ」とカブレーゼとかクワスとかもう一緒くたに取ったり。
「ええと、やられたふりして……」
「だから何でもないんですぅ。初華さんも飲んでくださいねぇ」
ぐいぐいと初華の口に杯を近付けたり。「ち、ちょっと」と止める初華と力比べ状態。
そこへ。
「初華さ~ん、こっちこっちー」
「トマト酒は先日、祭りで飲みましたね。初華も如何ですか?」
強引に飲まさせそうになった寸前、メルクーアとガクルックスに呼ばれその場を逃げる初華。「くっ」と顔をそむけるハナ。どうも今日は万事調子が狂うようである。
戻ると、悠月も一緒だった。
「あ、これは飲みやすい」
「でしょん♪ 最初はトマト酒とカブレーゼがいいかもよん。初華さんも早く早く」
「そういうメルクーアさんはクワスの重い方からなのね……」
「初華さんもトマト酒からね♪」
トマト酒の味の面白さに目を輝かせている悠月にいろいろレクチャーメルクーア。実に楽しそうだ。
「もちろん、この白ワインとチクワもいいですね」
ガクルックスもいい気分でひょいぱく、ごくごく。
「……」
その横に、マルカ。ちびり、と大人しくお酒を飲んでいたが気分良さそうに杯の進むガクルックスをまじまじ見ていたり。
「あー。まあ、美味しいと困りますね」
「……そういえば前の大会、きついお酒ばかり飲む羽目になったんじゃなかったっけ? 大丈夫?」
とぼけるガクルックス。横から初華も心配する。
「……!」
マルカ、長い睫毛の瞳を見開き尊敬したような目つき。「きついお酒ばかり?」といった感じだ。
「いや、あまり良いとは言えませんがね」
ガクルックス、最近酒量が増えたんだよなぁとか思いつつあくまですっとぼけておく。
もちろんこの時、まだ彼は後にあのようなことになろうとは夢にも思っていなかったのであるが。
●
さて、余談であるが参加者のここまでの特産酒の飲みっぷりや料理への賛辞で、観客たちは「うまそうだ、俺も」などと屋台に殺到していた。大会の興行売り上げという面で、ここですでに成功したと言っても過言ではない状態となっていた。
それはともかく以下、参加者たちが選んで五杯飲む銘柄。
赤ワイン
A)女神の騎行
B)紳士の矜持
C)宵闇鎮魂歌
D)文豪の書斎
E)鍛冶屋気質
白ワイン
F)深窓の令嬢
G)蝶衣の演舞
H)妖精果樹園
I)勝利の歓喜
J)友情交響曲
「この中から五杯選んで飲んでいただきます。飲むか飲まないかは本人次第ですが、『E)鍛冶屋気質』が最高のアルコール度を誇ります」
司会の解説。さて、参加者は何を選ぶ!
●
「さぁて、ようやく本番の酒にありつけるな」
ボルディアはまず手始めに「C)宵闇鎮魂歌」のグラスを選んだ。
「せっかくだから、オレはこの赤ワインを全部選ぶぜ」
ああっ!
レイオスはひょいひょい、と赤ワイン全種類を確保。
そのうえで、一番酩酊度の高いとされる「E)鍛冶屋気質」をくいっとやった。
「かぁ~、渋い。渋いが……肉好きにゃこの渋さがたまんねぇ」
じっくり味わうレイオス。このくらい平気とばかりに次は「D)文豪の書斎」に。
「へぇ、こっちはどっしりしてるな」
これを見たボルディア、負けていられない。
「宵闇? 香りが深いって感じか? 鍛冶屋気質もうまいな」
宵闇の後、負けじと鍛冶屋に手を伸ばしていた。
対抗意識を互いに感じたが、ボルディアはその後わざと赤ワインを外すことになった。後の話であるが、これが運命の分かれ目となる。
「赤の方が好きなんですけどぉ、赤全制覇したら地雷を踏みそうな気がしましてぇ…」
おっと、こちらの集団ではハナが赤ワインの「A)女神の騎行」を手始めに順に飲んでいたが、途中から白ワインに手を出していた。何という気まぐれというか深読みしすぎというか勘ぐり深い性格か!
「ええっ!? 赤だと地雷なの?」
横ではハナに見習い女神の騎行を飲んでいた乃椰が、ガガン!
「まあ、レ・リリカとチクワが良い感じでしたので」
天斗は先に飲んだ流れからハナと同じように赤ワインを順に飲んでいた。
「しかし、赤と白のちゃんぽんですか……これは酔いそうですね」
ぽそりと今後の被害に思いを寄せる天斗。特産酒で先に白も赤も飲んでいるので必然的にそうなりますね。
「ほっほっほっほっ、実に美味じゃの~」
千鳥は宵闇に文豪と赤ワインの流れだ。とても気分良さそうに飲んでいる。さらす二の腕や胸元などの肌も色っぽく上気していたり。
「それでしたら……」
アリア、こだわりはなかったが皆に習い女神から飲んでいる。
ここで、流れをぶった切る者が。
「お酒は白ワインの方が好みですしこちらを選びましょうか…」
サクラである。
これを聞いたレイオスが突っ込んでくる。
「赤もうまいぞ。赤いっとけ!」
「いえ……お酒は嗜む程度ですし」
サクラ、考えは変えずに令嬢を飲む。ほふぅ、とほんのり。
「イメージカラーもあるのかしらね」
そんな赤装束のレイオスと白装束のサクラを見比べる初華。
ここで、決定的に流れを変える声が。
「やっぱり最初は1番強いお酒ですの」
ディーナである。
ディーナが無邪気に「鍛冶屋気質」に手を伸ばした。
で、一気に飲んで、ぷは~。
「良い気分ですの~」
そのまま女神など次々と飲んでいく。
さらにボルディアもここで隣のテーブルから声を張る。
「鍛冶屋いっとけ。大したことねーぜ?」
「うふん。もちろんそのつもり♪」
この囃し声に応じたのが、メルクーア。
早速一杯目から鍛冶屋を飲む。
「うーん、鍛冶屋とはよく言ったものね。ズッシリとした旨みがあって、ザ・赤ワインって感じだわ~」
まったくへっちゃらそうである。
「そうだな。先に大変そうなのを」
真も鍛冶屋を最初に言った。
「……」
どうやら変化なしである。
というかこの男、酔っても顔には出ないだろう。
これが、被害拡大につながった!
「ほへ? そ、そう? そんじゃ私も……」
流されやすい初華、赤ワインの一番強いグラスに行った!
瞬間。
――とさ……。
まるで雪山遭難者の最後列の者が誰にも知られずに脱落するように、静かに優しくその場に倒れた。
「……って、初華さん大丈夫ー!?」
「そ、そんな! しっかりしてください」
慌てて支えるメルクーアに、必死にヒールする乃椰。
「やれやれ」
そこに天斗。
初華をお嬢様抱っこで抱えると会場の外へと運んでおくのだった。
「あらあら。私はじっくり飲むわ」
「ま、初華は何とか無事なようでなにより」
天斗が通ったのを見送り、マリィアとガクルックスが改めてグラスを手にしていた。
で、二人の視線が合う。
共に「勝利の歓喜」を一杯目に選んでいた。
「あら?」
「ふふふ」
対抗心を燃やした二人。目の前に確保したグラスも似たものが多い。
「それじゃ」
「おやおや」
マリィア、三杯目に「友情交響曲」を飲んだ。
ガクルックスはこれを見て、同じワインを最後に回す。脚を組み替え余裕の表情。
後の話になるが、これが勝敗を分けることになった。
それはそれとして、マルカ。
「……の、飲まないと」
おどおどと皆の様子を見ていたが、遅れていたのを知ってかぱかぱ飲んだ。
「うーん、蝶衣の演舞は飲みやすすぎるわね。こっちの妖精果樹園のようなゴージャスさとかあればもっと良くなるんだけど」
「でも結構強い……ような?」
メルクーアと真はワインを評しつつ楽しんでいる。
そして、悠月。
「…折角の機会だし、一番強いお酒は飲んでみたいよね?」
初華の退場を見ても、鍛冶屋を選んだ。最後の一杯ということで思い直したのだろう。このあたり、好奇心が強い少年らしい。
くいっ、とやって立ち上がる。
ふぅ、と深呼吸一つ。
「あぁ……うん、効いてる効いてる。でも、どこか心地良い気分♪」
ここでぐりんと肩を回す悠月。
周りを見ても、レイオスやサクラが立ち上がっていた。
「さて、それでは決定戦……バトルロイヤル開始だね」
心地良いまま日本刀「白狼」を手にする悠月だった。
時を同じくして、マルカ。
(わ、わたしなんかがバトルロイヤルなんて……)
酒も入ったことが影響したか、ここで彼女のネガティブ感情大爆発!
うつむいたまま膝の上で握っていた何かをぎゅっと握りしめると、思い切ってがばりと広げて……。
頭から被ったッ!
そしてハンディLEDライトを頭に括り付ける!
『ふ……ふぉーっふぉーっ!』
息遣いも荒く、戦う飲酒覆面ファイター、コボルドマスクの爆誕である!
●
(ま、魔法無しでやれますかしら? ……いいえ、今の私は……)
マルカ、すでに心もコボルドマスク。自問の答えは瞳に宿した闘争心が物語る。
「さて、酒を飲んでのことだからリベンジマッチなんて言わないが、優勝はさせてもらうぜ」
この時、広場に強そうに仁王立ちしていたのはレイオスである。鉄扇片手に余裕をぶちかましている。ちなみに、前回はゲロの匂いでペースを乱された。これで扇げば防げると得意顔。
そこへマルカが突っ込んだ。頭の悪げなコボルドマスク姿だが、ライトをレイオスの瞳に向けるなど小賢しい。
『ふぉ…』
「おっと」
レイオス、光を鉄扇で遮断。テクニカルだ。
『ふぉぅ!』
「何?」
この隙にウィッブで足元を狙う。
が、ここは意地で耐えるレイオス。踏ん張って酔いが回ってもここは仕方がない場面だ。
とにかく、二人の戦いが本格戦闘の合図となった。
「さあ、お酒飲んで気分良くなったところで運動だわね~」
メルクーア、にっこり熊手クローを掲げる。もっとも刃にカバーがしてあるが。
「お相手、しましょう」
ゆら、とメルクーアの前に立つアリア。優雅に一礼する。
「ん? しっかり飲んでる?」
にこ、と突っ込んできたメルクーア。
「皆さんと同じだけ飲んだのですが」
ひら、と交わし大太刀「破幻」を合わせるアリア。
これがリズムの呼吸になった。
「それじゃお酒に強いわね~。それかキツくないのを飲んだか」
「分かりませんが……魔術に秀でながら白兵を、酩酊しながらも剣には冴えを、曇らぬ闘志を」
実はアリア、キツくない五杯だった。ふらり、くらり、くるりと千鳥足なのは……単にいつものように躍っているだけだったりする!
「そう? 楽しいからいっかー」
笑うメルクーア、あまり動かない。結構冷静である。
こちら、悠月。
「さぁ、お祭りの目玉なんだから……観客を楽しませるような素敵なステージにしたいよね?」
悠々と周りの観客に手を振っている。くるりと気分良く回る。
なんというか、舞台慣れというか盛り上げ慣れしているというか。
「今回は勝利を狙いますよ」
その姿を見て、ゆらりとガクルックスが近寄って来た。
すかさず手にした槍を振り回して来るッ!
対する悠月、日本刀。
――パン、パシィン……。
「……堪らないよね?」
突っ込んだ悠月、槍を刀で逸らせ繰り出した二の太刀をガクルックスの籠手で受けられていた。
「演舞はここまでですよ?」
「堪らない」
一瞬の至近でのにらみ合いの後、蹴りを繰り出すガクルックスに屈んでかわし下がる悠月。
激しい戦いだ。
そこに鞭が飛んできて槍に絡む。
「……槍なら狙うしかないですね」
サクラである。
「交ぜてもらうわよ?」
悠月の懐には二丁拳銃のマリィアが飛び込む。
「銃?」
「ゼロ距離戦闘だそうですよ」
驚く悠月に、ガクルックスが先に聞いた知識を言って聞かせる。
「くっ」
「あら、やるわね?」
トンファーのように銃床で殴打を繰り出すマリィアに、防戦一方の悠月。一瞬、悠月の耳にマリィアが最接近した。
「……本当は殴りながら両手で撃つけどね」
「ふふ、勘弁してほしいね」
耳元でささやかれ、ざっと後ずさる悠月。
その後ろに!
「接近戦、いいですよね~」
ハナが満面の笑みで立っていた。
「符? こっちも遠距離かな?」
「符で作った扇子ですぅ、勿論殴打武器として使用するんであって術は使いませんよぅ?」
言うと同時にひっぱたいてくる。パシン、と腕で受ける悠月。
「擬似的に札束でひっぱたかれる気分が味わえると思いますぅ……というわけで一発どうですぅ?」
超笑顔でぶんぶん。
「札束で、ひっぱたかれる……」
「ちょっと、行くんですか?」
ハナの言葉にふらふらとサクラが引き寄せられた。鞭がハナの腕に絡まる。対峙していたガクルックスは虚を突かれ茫然と。
――すぱぁん!
「どうですぅ? どこかの酒場とかでしか味わえないですよぅ」
「これが札束にひっぱたかれる感覚……」
サクラ、札束のひっぱたかれた感触を堪能。
そして、とんでもないことが始まるッ!
時は遡り、テーブル。
「オゥオゥやれやれー! 相手ビビッてんぞ、いっちまえ!」
何と、ボルディアがまだ飲んでいた。完全なバトル観戦好きねーさん状態。腕を振り上げヤジを飛ばし、とても機嫌が良さそうだ。
「ほっほっほっほっ、実に美味じゃの~」
っていうか、千鳥も一緒だ。まだ飲んでいる。っていうか、それ以上着物をはだけないでくださいよ?
ここで、二人の前に黒服の姿が立った。
「一応、バトルロイヤルですので」
天斗である。
戦えということだ。
「ん? なんじゃ? ……おぉそうじゃ、闘うんじゃったの」
仕方ない、と千鳥が立った時だった!
「楽しく飲んで戦うの」
ディーナが聖槍を突いてきた。
「ほっほっ」
千鳥、千鳥足で交わし槍を脇で挟む。
するとっ!
「大車輪ですのー!」
ディーナ、体重を掛けてぐるんぐるん槍を回し始めた。
「ほっほっ、こりゃいい」
千鳥、楽しそうに身を任せ……というか、自分からも回り始めた!
「お?」
「……どちらにもステップできませんね」
ボルディアと天斗を巻き込んでぐるんぐるん。
その影響は周囲のテーブルにも!
「ああっ。お酒がこぼれてしまう!」
給仕係の悲鳴。テーブルにはワイングラスが残っている。
「何、それはもったいない!」
「ほっほっほっ」
「……執事としては見過ごせませんね」
ボルディア、千鳥、天斗の三人、回りながら倒れそうなグラスをキャッチ。そのままごくりと飲み干してしまう。
「早く優勝が決まってくれないと目が回るの~」
ディーナ、まだ回っている。でもってさらに他のグラスもピンチに。三人がこぼれる前にキャッチし回りながら飲む。
「……初華が先に倒れてくれて助かりました」
これはひどく泥酔するな、と感じつつクールに巻き込まれる天斗だった。
その後、仲良くダウンする。
同じく時は遡り、乃椰。
「お酒、なんかに……私は負けな…ぃ!」
ぐぐぐ、と屈んだ上体をスカートから伸びる素足で踏ん張って支えている。スタートしたばかりなのに。すでに相当お酒にやられているようで。
「無理は良くない」
その前に真が立つ。一歩下がって戦況を見ていたが、見かねてここに来たようだ。
「ヒーラーたるもの、真っ先に倒れる訳には……」
乃椰の零した言葉に瞳を大きくする真。刹那、クロスウィップが伸びてきた。
「酒に負けてはいないな」
今度は乃椰が瞳を大きくした。再度振るった鞭は剣に絡めとられ、間合いを詰めた真の姿だけ覚えている。
真、グローブ「スキアタキオン」で死角からブローを撃ち込んで乃椰をおねんねさせ横たえたのだが……。
「後はゆっくり……あ!」
何と、乃椰の上げたお尻でスカートが捲れ清楚な太腿と純白の何かが見えたのだ!
これに、周りの参加者が気付く!
●
「ふぅ、何か少し暑くなって来ましたね。ん、これで涼しいですし動きやすいです…」
「ちょ……ダメですよ、わあっ!」
鎧を脱いでセクシーな下着姿になった脱衣上戸のサクラを止めようとした悠月。足元の鎧の胸のふくらみに足を取られてサクラに抱き着いたままどし~ん。
「あ、ちょっと真さん!」
「え?」
メルクーアは真の所業に気付いて咎めに行く。アリアも突然外されついついついて行く。
「いや、誤解だ。見えたのはパニエかフリルだったし……」
言い訳する真だが、まだ乃椰のお尻を上げたままのポーズ。スカートを下ろすことを優先したあまりそのままなのだが、誤解を誘発する。
「それじゃ先におしおきなの~」
「そ、そうですか?」
すでに回っているのかメルクーア、恋人に見せるような無邪気な感じで真に攻撃。それまでの戦いで感じが良かったのでついアリアもペア攻撃に。
「ちょ……」
そこに、サクラと悠月の放り投げた鞭と日本刀が降って来た。
「わあっ!」
三人まとめてこの不幸な事故に巻き込まれる。
『ブオ…』
「やれやれ」
レイオスはついに刀を使い、相手の足をカウンターで引っ掛けてコボルドマスクことマルカを倒していた。
改めて周りを見ると、マリィア、ハナ、ガクルックスが残っていた。
「う…本番前に飲み過ぎましたか…」
おっと、ガクルックスはすでにダウン寸前だ!
「チャンス!」
ハナが動く。もちろん、やられたフリして抱き着くためだ。最後のチャンスでもあるッ!
「させないわよ!」
マリィアも続く。もちろんハナの言葉は勘違いしている。
「ちょうどいい。決着だ!」
レイオスも走った。
結果!
――ガキッ!
ガクルックスはわざと隙を作っていたのだが、乗ったハナも負ける気満々。
このフェイントの応酬の割を食ったのがマリィアで、ガクルックスの本命の攻撃と相打ちに。さらにそこにレイオスが捨て身にダイブでもろともダウン。レイオスとしては自分だけ立ち上がる予定が……。
「チャンスですぅ」
ぼすっ、と三人の上にハナがダイブしてきた。
これが止めのボディプレスとなる。
「あれ?」
「優勝は、ハナさんで~す!」
一人立ち上がるハナ。司会から腕を高々と上げられる。
わあっ、と観客が沸いて帽子などが舞うのだった。
●リザルト
星野 ハナ=15(優勝者)
マリィア・バルデス=21(第二位)
レイオス・アクアウォーカー=28(第三位)
Gacrux=33(最高酩酊度)
<以下、リタイア>
マルカ・アニチキン=8
アリア・セリウス=9
サクラ・エルフリード=10
ボルディア・コンフラムス=13
十色 乃梛=16
メルクーア=19
霧雨 悠月=19
鞍馬 真=20
ディーナ・フェルミ=22
御酒部 千鳥=26
真田 天斗=31
●酒の酩酊度
A)女神の騎行=酩酊進行+1(※1)
B)紳士の矜持=酩酊進行+5
C)宵闇鎮魂歌=酩酊進行+2(&※2とセットで+9)
D)文豪の書斎=酩酊進行+2(※2)
E)鍛冶屋気質=酩酊進行+9
F)深窓の令嬢=酩酊進行+3
G)蝶衣の演舞=強制敗北(敗北フラグ)(着衣はだけ)
H)妖精果樹園=酩酊進行+4
I)勝利の歓喜=酩酊進行+1(&※1とセットで+15)
J)友情交響曲=直前に飲んだ酒の効果が二倍(友情効果)
「さあ、出場者の皆さん、集まってください」
ジェオルジの広場で司会者の声が響いた。
広場にはテーブルとイス、そしてワイングラスが並んでいた。広場の周りには見物人が遠巻きに。
「……ワイン最強酔剣士決定戦かぁ」
とぼ、とテーブルの方に移動しているのは、メイド服姿の南那初華(kz0135)。何でこうなっちゃったかなぁ、とかぶつぶつ。
ふと横を見る。
「さぁ、酒だ酒だ!」
颯爽とマントをひらめかせ、レイオス・アクアウォーカー(ka1990)がテーブルに向かっている。今日も赤い出で立ちがお洒落である。
「よう、前も会ったな。またいい勝負ができるといいな!」
初華に気付き爽やかな笑顔を見せる。
「た、楽しそうでいいね」
「おお。酒も飲めるし勝負もできる。こんなに楽しいことはないぜ?」
むしろ何でそんなびくびくしてんだ、とレイオス。
「あら、大丈夫?」
横からマリィア・バルデス(ka5848)もやって来た。
「あ、マリィアさん……も、参加するんだ」
「こんな面白そうな遊び、参加するに決まってるじゃない」
「でも……酒飲んで殴り合いって聞いたよ? マリィアさん、大丈夫?」
不安そうな初華、上目遣いで聞いてみる。
これを聞いたマリィア、むしろにやり。
「そう思うでしょ? 殴り合い。……銃使いの猟撃士が参加できなそうと思われるところが特に燃えるわね」
ひら、と手を振って先を急ぐ。
そんな初華の横から。
「ほほぅ、何やら美味そうなワインが並んでおるのう。参加するとただで飲めるのじゃな? ホントじゃな?」
乱して身にまとう着物「黒昇龍」とさらした肌のもっちり感が鮮烈な印象を纏っている。
さら、と黒髪に手櫛を通して微笑するのは、御酒部 千鳥(ka6405)だ。
「ん?」
ここで、横にぽつねんと立っていた初華に気付く。
「おぬし、良くないのぅ。笑顔を見せい。楽しく飲まぬと酒も楽しくないぞよ? ほれ、おぬしも!」
「え? ええっ!」
初華、びっくりした。
「た、楽しく……ですね」
いつの間にか隣にマルカ・アニチキン(ka2542)がいたのだ。おどおどして隠れるように、というのが正しい表現だが。うつむき加減で長い睫毛をぱちくりさせ胸に手を置き、立ち去ったレイオスやマリィア、そして千鳥といった堂々としている人たちを羨望の眼差しを送っている。
マルカ、似た様子の初華の傍に位置取りしてしまったようで。
「うふふ~、また来ましたよぅ。楽しくなるといいですねぇ~」
ここで星野 ハナ(ka5852)がやって来た。何やら期待たっぷりの様子。果たして酒か色香か食い意地か?
「ッシャア! 酒だつまみだ勝負だ仕事だ。こんな祭りを楽しまねぇ奴ぁどーかしてるぜ!」
さらにどでかい宣花大斧を担いだ筋肉美を誇る赤毛の女性、ボルディア・コンフラムス(ka0796)も通り過ぎる。
「この風、この匂い、そして美味しそうなもの……故郷みたいな、とっても懐かしい感じなの」
おっと。ディーナ・フェルミ(ka5843)が両手を広げてくるくる回りながらテーブルに向かっている。
「地域特産って、伝統が感じられて何だかワクワクするよね」
こちらは霧雨 悠月(ka4130)。好奇心に誘われるように軽くステップ。楽しそうだ。
参加する人たちは熱気を纏っていたり、爽やかな笑顔だったり。
「初華さ~ん」
輝いている人の姿に見惚れている初華の背中から呼ぶ声がする。
振り返るとメルクーア(ka4005)だった。
「さー、きょうは飲むわよ~。せっかくいろんなワインがあるっていうんだからこの機会に飲まなくちゃね!」
「これは初華にメルクーアさん。今回は知り合いが多いですね」
ぐ、と拳を固めつつメルクーアが楽しそうに意気込んだところで頭を掻きつつGacrux(ka2726)もやって来た。
「……結局、今回も参加してしまった」
ガクルックスの横では鞍馬 真(ka5819)が茫然と立ちすくんで……。
「まあいいか」
おっと、初華ほどうだうだと思い悩んでいない。あっさりしているというか流され人生ここに極まるというか。
「来てしまいました……」
サクラ・エルフリード(ka2598)も真同様、積極的に好き好んでここに来たわけではなさそうだ。
「でもこういうのも経験ですし頑張ります……」
おっと、こちらもあまり思い悩んでない様子だ。
「人生前向きな人が多いのね……」
「なんだかんだでみんな大人だ、とも言えますね……」
感心した初華の背後に真田 天斗(ka0014)が立つ。
「う……わ、わたし、子どもかなぁ?」
「少なくとも、人の歴史は酒の歴史でもあります」
恥ずかしそうにする初華に、うやうやしく言い聞かせる天斗である。
「そうそう。人生は酒とともに明るく。……行こう行こう、楽しく飲んで気分良くしてればいいんで~す」
メルクーアが初華の重い腰を背後からうんしょと押す。
「まあ、私もあまり強くは無いのですが……」
「ホント? 天斗さん」
「初華、だまされちゃダメですよ」
ぼやく天斗に助かった、な感じの初華。もっとも、ガクルックスがこういう所の心得を教示したり。
そんな連行される初華の姿を少し離れたところで見る女性が一人。
「また……巻き込まれている」
アリア・セリウス(ka6424)である。
(お酒は嗜み方さえ知らない身だけれど……)
改めて、周りを見る。
「1番強いお酒を飲んだうえで優勝するのが様式美だと思うの頑張るの」
テーブルでは待ちきれないディーナがちょこまか動いている。ひらひらの衣装なのでまるで踊っているかのよう。
「この……このお面さえ被れば……」
初華に巻き込まれてテーブルに向かっているマルカはどぎまぎしながらも手にした何かのマスクをまじまじと見つめている。一体それをどうするつもりかはともかく、やや儀式めいていたりするかも。
「ふふ……こういう雰囲気だと勇ましい曲をやりたくなるよね?」
「そういう雰囲気ではありますね」
「さすがに用意はしてきていないが」
悠月とサクラ、真は音楽でもやりたそうな雰囲気だ。
「お酒で気分が浮けば、歌や詩が浮かぶもの。芸術の神や、妖精はお酒とその雰囲気が好き……」
始まる前の様子を見て、アリアも歌うように呟き心動かされる。
その横を、誰かが通り過ぎた。
「いけない……お酒を飲んで殴り合いをするなんて……」
少年のようなきらめく瞳をした十色 乃梛(ka5902)が、ワンピースのフリルを軽やかに揺らめかしながらかけていく。まるで喧嘩を止めに行くような雰囲気だ。
アリア、大丈夫だろうかと思わずついて行く。
●
「さあ、今回のエントリーはここで締め切ります。参加しない観客の方はいったん後ろの屋台まで下がってください」
司会の男性の仕切る声が響く。ぞろ、と多くの人が後ろに。
参加者と明確な谷間ができる。
「え?」
「あ……」
憐れ、乃梛とアリア、完全に参加者の方に取り残された。
「私……も、お酒飲んで殴る側に?」
「……雰囲気に酔い踊るのも素敵でしょう」
愕然とする乃梛に、喧嘩ではないことを独特の表現で伝えるアリアだった。
「まずは参加者の方はテーブル周りにいるワゴンの係員から、ジェオルジ各村の誇る特産酒とつまみを楽しんでください。会場の観客の方も、後ろの屋台で同じものを販売しています。ぜひご賞味を!」
粛々と大会を勧める司会。観客も待ってましたとばかりに背後の屋台で酒を買う。これにより、参加者たちの戦いの場が自然と生み出され、係員があらかじめ立ててあったポールにロープを張った。流れるような進行だ。
参加者たちはまず、用意された特産品の数々を同量ずつ飲食することになる。
「ほっほっほっ、これは珍しいの~。トマトのお酒とは」
満足そうな千鳥は、カルドルビーノ村名物のトマト酒のグラスを揺らして色味を拝見中。きゅっと一口飲んでほんのり頬を染める。
「あの、大丈夫ですか? 最初から酔ってませんか? よろしければヒールを……」
気にした乃梛が心配する。
「ほっほっほっ。いい感じに酔いが回る……ん~? 最初から酔っとるじゃと? 良い良い、良いのじゃ」
千鳥の方はこれが平常運転とばかりの言いようで。
「……それは?」
アリア、乃梛に突っ込んでみる。
「はっ! ええと……カプレーゼというらしいです」
乃椰の方はちょっと摘まんだモッツァレラとトマトのサラダが気に入ったようで、もぐもぐしながら赤くなっていたり。
「ほれ、酒も飲むと良い」
「んんん~」
「……自分から飲んだ方が良さそうね」
千鳥に飲まされる乃椰を見つつ、アリアもゆったりと食す。
こちらはレイオス。
「まずは特産酒を全部だな。ジョッキで頼むぜ」
「え、それは……飲む量が決まってますので」
ふんす、と鼻息荒く気分よく注文したところそんな返答が。
「誰かが不利になるわけでもないだろう!?」
「おまえだけ有利にさせるわけねぇだろ!」
異議を唱えるレイオスの隣に、ボルディアがどすんと座り牽制する。
「何でオレが有利になるんだ?」
「一人だけ酒量を多くして気分よくなろうたぁそうはさせねぇ」
前のめりになるレイオスに、負けずに前のめりになって説明するボルディア。
なんかもうむちゃくちゃな酒飲み理論である。
「お酒の前に迎え酒なの素敵なの。クワス初めて飲んだの……ヒック」
「そちらはバチャーレ村での一品となっていますね。特産酒……とはまた違う位置付けのようですが」
軽い方のクワスを飲んでほんのりまったりしているディーナに、なぜか給仕をしている天斗が解説。
「こちらはどうでしょう……」
サクラはクワスのどっしりと重い方を。
「そちらはアルコールがきついですよ」
「でも今は全員、一定量を飲むことになってますの……こちらは飲みごたえがあって素晴らしいですわ~」
サクラが飲んだ方をディーナもくいっ。困りましたわ、な感じで頬に手を添える。
「逆にこちらは爽やかですね」
「自分も飲んでおきましょうか」
ディーナの飲んでいた方のクワスも飲むサクラ。天斗も味わう。実はうわばみだったりするが。
うわばみといえば。
「ん……これ、軽いけど華やかでいいわね。樽で買って帰ろうかしら」
マリィアが、タスカービレ村の白ワイン「レ・リリカ」を飲んでほんのりしている。
「改めて食べてみても美味しいな」
真は自分も開発に手を貸した同村のチーズ入りチクワとレ・リリカをやりつつ感慨深げ。
「あら、こっちはまるで貴腐ワインみたいじゃない!? こんなワインがクリムゾンウェストにもあったのね……」
「こっちのカプレーゼも絶妙……」
マリィアと真、称賛しつつの飲み食いに集中しているようで。
おや。
賑やかな中で笑顔の固まっている女性がいるぞ。
「くっ」
ハナである。こっそり舌打ちしているが。
「こんなに男性が少ないなんて想定外ですぅ。やられたふりして抱きつく予定が大外れ……」
「あ、こちらをどうぞ。……ほへ? どうしました?」
おっと。なぜか給仕している初華がそこに出くわしたぞ?
「……げふんげふん、何も言ってないですよぅ」
顔を背けて軽く爪噛みしていたが、超笑顔で「それじゃいただきますぅ」とカブレーゼとかクワスとかもう一緒くたに取ったり。
「ええと、やられたふりして……」
「だから何でもないんですぅ。初華さんも飲んでくださいねぇ」
ぐいぐいと初華の口に杯を近付けたり。「ち、ちょっと」と止める初華と力比べ状態。
そこへ。
「初華さ~ん、こっちこっちー」
「トマト酒は先日、祭りで飲みましたね。初華も如何ですか?」
強引に飲まさせそうになった寸前、メルクーアとガクルックスに呼ばれその場を逃げる初華。「くっ」と顔をそむけるハナ。どうも今日は万事調子が狂うようである。
戻ると、悠月も一緒だった。
「あ、これは飲みやすい」
「でしょん♪ 最初はトマト酒とカブレーゼがいいかもよん。初華さんも早く早く」
「そういうメルクーアさんはクワスの重い方からなのね……」
「初華さんもトマト酒からね♪」
トマト酒の味の面白さに目を輝かせている悠月にいろいろレクチャーメルクーア。実に楽しそうだ。
「もちろん、この白ワインとチクワもいいですね」
ガクルックスもいい気分でひょいぱく、ごくごく。
「……」
その横に、マルカ。ちびり、と大人しくお酒を飲んでいたが気分良さそうに杯の進むガクルックスをまじまじ見ていたり。
「あー。まあ、美味しいと困りますね」
「……そういえば前の大会、きついお酒ばかり飲む羽目になったんじゃなかったっけ? 大丈夫?」
とぼけるガクルックス。横から初華も心配する。
「……!」
マルカ、長い睫毛の瞳を見開き尊敬したような目つき。「きついお酒ばかり?」といった感じだ。
「いや、あまり良いとは言えませんがね」
ガクルックス、最近酒量が増えたんだよなぁとか思いつつあくまですっとぼけておく。
もちろんこの時、まだ彼は後にあのようなことになろうとは夢にも思っていなかったのであるが。
●
さて、余談であるが参加者のここまでの特産酒の飲みっぷりや料理への賛辞で、観客たちは「うまそうだ、俺も」などと屋台に殺到していた。大会の興行売り上げという面で、ここですでに成功したと言っても過言ではない状態となっていた。
それはともかく以下、参加者たちが選んで五杯飲む銘柄。
赤ワイン
A)女神の騎行
B)紳士の矜持
C)宵闇鎮魂歌
D)文豪の書斎
E)鍛冶屋気質
白ワイン
F)深窓の令嬢
G)蝶衣の演舞
H)妖精果樹園
I)勝利の歓喜
J)友情交響曲
「この中から五杯選んで飲んでいただきます。飲むか飲まないかは本人次第ですが、『E)鍛冶屋気質』が最高のアルコール度を誇ります」
司会の解説。さて、参加者は何を選ぶ!
●
「さぁて、ようやく本番の酒にありつけるな」
ボルディアはまず手始めに「C)宵闇鎮魂歌」のグラスを選んだ。
「せっかくだから、オレはこの赤ワインを全部選ぶぜ」
ああっ!
レイオスはひょいひょい、と赤ワイン全種類を確保。
そのうえで、一番酩酊度の高いとされる「E)鍛冶屋気質」をくいっとやった。
「かぁ~、渋い。渋いが……肉好きにゃこの渋さがたまんねぇ」
じっくり味わうレイオス。このくらい平気とばかりに次は「D)文豪の書斎」に。
「へぇ、こっちはどっしりしてるな」
これを見たボルディア、負けていられない。
「宵闇? 香りが深いって感じか? 鍛冶屋気質もうまいな」
宵闇の後、負けじと鍛冶屋に手を伸ばしていた。
対抗意識を互いに感じたが、ボルディアはその後わざと赤ワインを外すことになった。後の話であるが、これが運命の分かれ目となる。
「赤の方が好きなんですけどぉ、赤全制覇したら地雷を踏みそうな気がしましてぇ…」
おっと、こちらの集団ではハナが赤ワインの「A)女神の騎行」を手始めに順に飲んでいたが、途中から白ワインに手を出していた。何という気まぐれというか深読みしすぎというか勘ぐり深い性格か!
「ええっ!? 赤だと地雷なの?」
横ではハナに見習い女神の騎行を飲んでいた乃椰が、ガガン!
「まあ、レ・リリカとチクワが良い感じでしたので」
天斗は先に飲んだ流れからハナと同じように赤ワインを順に飲んでいた。
「しかし、赤と白のちゃんぽんですか……これは酔いそうですね」
ぽそりと今後の被害に思いを寄せる天斗。特産酒で先に白も赤も飲んでいるので必然的にそうなりますね。
「ほっほっほっほっ、実に美味じゃの~」
千鳥は宵闇に文豪と赤ワインの流れだ。とても気分良さそうに飲んでいる。さらす二の腕や胸元などの肌も色っぽく上気していたり。
「それでしたら……」
アリア、こだわりはなかったが皆に習い女神から飲んでいる。
ここで、流れをぶった切る者が。
「お酒は白ワインの方が好みですしこちらを選びましょうか…」
サクラである。
これを聞いたレイオスが突っ込んでくる。
「赤もうまいぞ。赤いっとけ!」
「いえ……お酒は嗜む程度ですし」
サクラ、考えは変えずに令嬢を飲む。ほふぅ、とほんのり。
「イメージカラーもあるのかしらね」
そんな赤装束のレイオスと白装束のサクラを見比べる初華。
ここで、決定的に流れを変える声が。
「やっぱり最初は1番強いお酒ですの」
ディーナである。
ディーナが無邪気に「鍛冶屋気質」に手を伸ばした。
で、一気に飲んで、ぷは~。
「良い気分ですの~」
そのまま女神など次々と飲んでいく。
さらにボルディアもここで隣のテーブルから声を張る。
「鍛冶屋いっとけ。大したことねーぜ?」
「うふん。もちろんそのつもり♪」
この囃し声に応じたのが、メルクーア。
早速一杯目から鍛冶屋を飲む。
「うーん、鍛冶屋とはよく言ったものね。ズッシリとした旨みがあって、ザ・赤ワインって感じだわ~」
まったくへっちゃらそうである。
「そうだな。先に大変そうなのを」
真も鍛冶屋を最初に言った。
「……」
どうやら変化なしである。
というかこの男、酔っても顔には出ないだろう。
これが、被害拡大につながった!
「ほへ? そ、そう? そんじゃ私も……」
流されやすい初華、赤ワインの一番強いグラスに行った!
瞬間。
――とさ……。
まるで雪山遭難者の最後列の者が誰にも知られずに脱落するように、静かに優しくその場に倒れた。
「……って、初華さん大丈夫ー!?」
「そ、そんな! しっかりしてください」
慌てて支えるメルクーアに、必死にヒールする乃椰。
「やれやれ」
そこに天斗。
初華をお嬢様抱っこで抱えると会場の外へと運んでおくのだった。
「あらあら。私はじっくり飲むわ」
「ま、初華は何とか無事なようでなにより」
天斗が通ったのを見送り、マリィアとガクルックスが改めてグラスを手にしていた。
で、二人の視線が合う。
共に「勝利の歓喜」を一杯目に選んでいた。
「あら?」
「ふふふ」
対抗心を燃やした二人。目の前に確保したグラスも似たものが多い。
「それじゃ」
「おやおや」
マリィア、三杯目に「友情交響曲」を飲んだ。
ガクルックスはこれを見て、同じワインを最後に回す。脚を組み替え余裕の表情。
後の話になるが、これが勝敗を分けることになった。
それはそれとして、マルカ。
「……の、飲まないと」
おどおどと皆の様子を見ていたが、遅れていたのを知ってかぱかぱ飲んだ。
「うーん、蝶衣の演舞は飲みやすすぎるわね。こっちの妖精果樹園のようなゴージャスさとかあればもっと良くなるんだけど」
「でも結構強い……ような?」
メルクーアと真はワインを評しつつ楽しんでいる。
そして、悠月。
「…折角の機会だし、一番強いお酒は飲んでみたいよね?」
初華の退場を見ても、鍛冶屋を選んだ。最後の一杯ということで思い直したのだろう。このあたり、好奇心が強い少年らしい。
くいっ、とやって立ち上がる。
ふぅ、と深呼吸一つ。
「あぁ……うん、効いてる効いてる。でも、どこか心地良い気分♪」
ここでぐりんと肩を回す悠月。
周りを見ても、レイオスやサクラが立ち上がっていた。
「さて、それでは決定戦……バトルロイヤル開始だね」
心地良いまま日本刀「白狼」を手にする悠月だった。
時を同じくして、マルカ。
(わ、わたしなんかがバトルロイヤルなんて……)
酒も入ったことが影響したか、ここで彼女のネガティブ感情大爆発!
うつむいたまま膝の上で握っていた何かをぎゅっと握りしめると、思い切ってがばりと広げて……。
頭から被ったッ!
そしてハンディLEDライトを頭に括り付ける!
『ふ……ふぉーっふぉーっ!』
息遣いも荒く、戦う飲酒覆面ファイター、コボルドマスクの爆誕である!
●
(ま、魔法無しでやれますかしら? ……いいえ、今の私は……)
マルカ、すでに心もコボルドマスク。自問の答えは瞳に宿した闘争心が物語る。
「さて、酒を飲んでのことだからリベンジマッチなんて言わないが、優勝はさせてもらうぜ」
この時、広場に強そうに仁王立ちしていたのはレイオスである。鉄扇片手に余裕をぶちかましている。ちなみに、前回はゲロの匂いでペースを乱された。これで扇げば防げると得意顔。
そこへマルカが突っ込んだ。頭の悪げなコボルドマスク姿だが、ライトをレイオスの瞳に向けるなど小賢しい。
『ふぉ…』
「おっと」
レイオス、光を鉄扇で遮断。テクニカルだ。
『ふぉぅ!』
「何?」
この隙にウィッブで足元を狙う。
が、ここは意地で耐えるレイオス。踏ん張って酔いが回ってもここは仕方がない場面だ。
とにかく、二人の戦いが本格戦闘の合図となった。
「さあ、お酒飲んで気分良くなったところで運動だわね~」
メルクーア、にっこり熊手クローを掲げる。もっとも刃にカバーがしてあるが。
「お相手、しましょう」
ゆら、とメルクーアの前に立つアリア。優雅に一礼する。
「ん? しっかり飲んでる?」
にこ、と突っ込んできたメルクーア。
「皆さんと同じだけ飲んだのですが」
ひら、と交わし大太刀「破幻」を合わせるアリア。
これがリズムの呼吸になった。
「それじゃお酒に強いわね~。それかキツくないのを飲んだか」
「分かりませんが……魔術に秀でながら白兵を、酩酊しながらも剣には冴えを、曇らぬ闘志を」
実はアリア、キツくない五杯だった。ふらり、くらり、くるりと千鳥足なのは……単にいつものように躍っているだけだったりする!
「そう? 楽しいからいっかー」
笑うメルクーア、あまり動かない。結構冷静である。
こちら、悠月。
「さぁ、お祭りの目玉なんだから……観客を楽しませるような素敵なステージにしたいよね?」
悠々と周りの観客に手を振っている。くるりと気分良く回る。
なんというか、舞台慣れというか盛り上げ慣れしているというか。
「今回は勝利を狙いますよ」
その姿を見て、ゆらりとガクルックスが近寄って来た。
すかさず手にした槍を振り回して来るッ!
対する悠月、日本刀。
――パン、パシィン……。
「……堪らないよね?」
突っ込んだ悠月、槍を刀で逸らせ繰り出した二の太刀をガクルックスの籠手で受けられていた。
「演舞はここまでですよ?」
「堪らない」
一瞬の至近でのにらみ合いの後、蹴りを繰り出すガクルックスに屈んでかわし下がる悠月。
激しい戦いだ。
そこに鞭が飛んできて槍に絡む。
「……槍なら狙うしかないですね」
サクラである。
「交ぜてもらうわよ?」
悠月の懐には二丁拳銃のマリィアが飛び込む。
「銃?」
「ゼロ距離戦闘だそうですよ」
驚く悠月に、ガクルックスが先に聞いた知識を言って聞かせる。
「くっ」
「あら、やるわね?」
トンファーのように銃床で殴打を繰り出すマリィアに、防戦一方の悠月。一瞬、悠月の耳にマリィアが最接近した。
「……本当は殴りながら両手で撃つけどね」
「ふふ、勘弁してほしいね」
耳元でささやかれ、ざっと後ずさる悠月。
その後ろに!
「接近戦、いいですよね~」
ハナが満面の笑みで立っていた。
「符? こっちも遠距離かな?」
「符で作った扇子ですぅ、勿論殴打武器として使用するんであって術は使いませんよぅ?」
言うと同時にひっぱたいてくる。パシン、と腕で受ける悠月。
「擬似的に札束でひっぱたかれる気分が味わえると思いますぅ……というわけで一発どうですぅ?」
超笑顔でぶんぶん。
「札束で、ひっぱたかれる……」
「ちょっと、行くんですか?」
ハナの言葉にふらふらとサクラが引き寄せられた。鞭がハナの腕に絡まる。対峙していたガクルックスは虚を突かれ茫然と。
――すぱぁん!
「どうですぅ? どこかの酒場とかでしか味わえないですよぅ」
「これが札束にひっぱたかれる感覚……」
サクラ、札束のひっぱたかれた感触を堪能。
そして、とんでもないことが始まるッ!
時は遡り、テーブル。
「オゥオゥやれやれー! 相手ビビッてんぞ、いっちまえ!」
何と、ボルディアがまだ飲んでいた。完全なバトル観戦好きねーさん状態。腕を振り上げヤジを飛ばし、とても機嫌が良さそうだ。
「ほっほっほっほっ、実に美味じゃの~」
っていうか、千鳥も一緒だ。まだ飲んでいる。っていうか、それ以上着物をはだけないでくださいよ?
ここで、二人の前に黒服の姿が立った。
「一応、バトルロイヤルですので」
天斗である。
戦えということだ。
「ん? なんじゃ? ……おぉそうじゃ、闘うんじゃったの」
仕方ない、と千鳥が立った時だった!
「楽しく飲んで戦うの」
ディーナが聖槍を突いてきた。
「ほっほっ」
千鳥、千鳥足で交わし槍を脇で挟む。
するとっ!
「大車輪ですのー!」
ディーナ、体重を掛けてぐるんぐるん槍を回し始めた。
「ほっほっ、こりゃいい」
千鳥、楽しそうに身を任せ……というか、自分からも回り始めた!
「お?」
「……どちらにもステップできませんね」
ボルディアと天斗を巻き込んでぐるんぐるん。
その影響は周囲のテーブルにも!
「ああっ。お酒がこぼれてしまう!」
給仕係の悲鳴。テーブルにはワイングラスが残っている。
「何、それはもったいない!」
「ほっほっほっ」
「……執事としては見過ごせませんね」
ボルディア、千鳥、天斗の三人、回りながら倒れそうなグラスをキャッチ。そのままごくりと飲み干してしまう。
「早く優勝が決まってくれないと目が回るの~」
ディーナ、まだ回っている。でもってさらに他のグラスもピンチに。三人がこぼれる前にキャッチし回りながら飲む。
「……初華が先に倒れてくれて助かりました」
これはひどく泥酔するな、と感じつつクールに巻き込まれる天斗だった。
その後、仲良くダウンする。
同じく時は遡り、乃椰。
「お酒、なんかに……私は負けな…ぃ!」
ぐぐぐ、と屈んだ上体をスカートから伸びる素足で踏ん張って支えている。スタートしたばかりなのに。すでに相当お酒にやられているようで。
「無理は良くない」
その前に真が立つ。一歩下がって戦況を見ていたが、見かねてここに来たようだ。
「ヒーラーたるもの、真っ先に倒れる訳には……」
乃椰の零した言葉に瞳を大きくする真。刹那、クロスウィップが伸びてきた。
「酒に負けてはいないな」
今度は乃椰が瞳を大きくした。再度振るった鞭は剣に絡めとられ、間合いを詰めた真の姿だけ覚えている。
真、グローブ「スキアタキオン」で死角からブローを撃ち込んで乃椰をおねんねさせ横たえたのだが……。
「後はゆっくり……あ!」
何と、乃椰の上げたお尻でスカートが捲れ清楚な太腿と純白の何かが見えたのだ!
これに、周りの参加者が気付く!
●
「ふぅ、何か少し暑くなって来ましたね。ん、これで涼しいですし動きやすいです…」
「ちょ……ダメですよ、わあっ!」
鎧を脱いでセクシーな下着姿になった脱衣上戸のサクラを止めようとした悠月。足元の鎧の胸のふくらみに足を取られてサクラに抱き着いたままどし~ん。
「あ、ちょっと真さん!」
「え?」
メルクーアは真の所業に気付いて咎めに行く。アリアも突然外されついついついて行く。
「いや、誤解だ。見えたのはパニエかフリルだったし……」
言い訳する真だが、まだ乃椰のお尻を上げたままのポーズ。スカートを下ろすことを優先したあまりそのままなのだが、誤解を誘発する。
「それじゃ先におしおきなの~」
「そ、そうですか?」
すでに回っているのかメルクーア、恋人に見せるような無邪気な感じで真に攻撃。それまでの戦いで感じが良かったのでついアリアもペア攻撃に。
「ちょ……」
そこに、サクラと悠月の放り投げた鞭と日本刀が降って来た。
「わあっ!」
三人まとめてこの不幸な事故に巻き込まれる。
『ブオ…』
「やれやれ」
レイオスはついに刀を使い、相手の足をカウンターで引っ掛けてコボルドマスクことマルカを倒していた。
改めて周りを見ると、マリィア、ハナ、ガクルックスが残っていた。
「う…本番前に飲み過ぎましたか…」
おっと、ガクルックスはすでにダウン寸前だ!
「チャンス!」
ハナが動く。もちろん、やられたフリして抱き着くためだ。最後のチャンスでもあるッ!
「させないわよ!」
マリィアも続く。もちろんハナの言葉は勘違いしている。
「ちょうどいい。決着だ!」
レイオスも走った。
結果!
――ガキッ!
ガクルックスはわざと隙を作っていたのだが、乗ったハナも負ける気満々。
このフェイントの応酬の割を食ったのがマリィアで、ガクルックスの本命の攻撃と相打ちに。さらにそこにレイオスが捨て身にダイブでもろともダウン。レイオスとしては自分だけ立ち上がる予定が……。
「チャンスですぅ」
ぼすっ、と三人の上にハナがダイブしてきた。
これが止めのボディプレスとなる。
「あれ?」
「優勝は、ハナさんで~す!」
一人立ち上がるハナ。司会から腕を高々と上げられる。
わあっ、と観客が沸いて帽子などが舞うのだった。
●リザルト
星野 ハナ=15(優勝者)
マリィア・バルデス=21(第二位)
レイオス・アクアウォーカー=28(第三位)
Gacrux=33(最高酩酊度)
<以下、リタイア>
マルカ・アニチキン=8
アリア・セリウス=9
サクラ・エルフリード=10
ボルディア・コンフラムス=13
十色 乃梛=16
メルクーア=19
霧雨 悠月=19
鞍馬 真=20
ディーナ・フェルミ=22
御酒部 千鳥=26
真田 天斗=31
●酒の酩酊度
A)女神の騎行=酩酊進行+1(※1)
B)紳士の矜持=酩酊進行+5
C)宵闇鎮魂歌=酩酊進行+2(&※2とセットで+9)
D)文豪の書斎=酩酊進行+2(※2)
E)鍛冶屋気質=酩酊進行+9
F)深窓の令嬢=酩酊進行+3
G)蝶衣の演舞=強制敗北(敗北フラグ)(着衣はだけ)
H)妖精果樹園=酩酊進行+4
I)勝利の歓喜=酩酊進行+1(&※1とセットで+15)
J)友情交響曲=直前に飲んだ酒の効果が二倍(友情効果)
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/10/25 23:56:37 |