ゲスト
(ka0000)
【HW】無害奇天烈!格芸マーが行く!
マスター:奈華里

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2016/11/03 12:00
- 完成日
- 2016/11/13 02:54
このシナリオは2日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
店を入ると煩い程の電子音が聴こえ、学生やカップルの姿が目につく。
ここはとある世界の比較的大きなゲームセンター…大手のゲーム会社が運営しているから最新のアーケードからレトロな筐体までが所狭しと並べられたカオスな場所だ。入り口に並ぶのはやはり景品をアームの付いたUFOで掴む一般向けのプライズモノ。お菓子やアイスが取れるものには子供連れの家族がお好みの景品を狙い、硬貨をつぎ込んでいる。
だが、青年の狙いは違った。
階段を上がりコインゲームのコーナーを抜けてさらに進んだ場所。
そこにある対戦型のゲーム機が彼の今最も注目している筐体だ。
既にそこには多くのギャラリーが集まり、壁のメイン画面には対戦の様子が映し出されている。
「今日のトップは?」
画面を横目に見ながら短髪(一部)メッシュの青年が仲間に問う。
「お、来たかキサイ。今のところ、連勝してんのはアイツだな」
「あいつ? あぁ、ヘキか」
キサイと呼ばれた青年はプレーヤーネームを確認して、ハァと息を吐いた。
ヘキ――それは彼も知っている名だ。というのも彼の近所に住んでいて、彼のゲームの師である人の孫弟子にあたる。最近めきめきと力をつけてきているようだが、それでも最後の一押しが足りず彼にとってはまだまだライバル視する相手ではないと思っている。
「ちょっと逃げるのか! やってけよっ!」
短く切られた髪を揺らせて、ヘキは彼を見つけると筐体の前で立ち上がる。
「チッ、見つかったかよ…けど、やるからには手加減はしないぜ?」
青年が試すように言う。
「構わないぜ。ってか女だと思って甘くみんなっ」
男勝りな言葉遣いでヘキは彼をかなり敵視しているらしい。
彼女に負けたプレイヤーが席を開けると、渋々キサイは席につきボタンとレバーの具合を確かめる。
「おっ、あいつって確か…」
「年間チャンプだろ? 生で見ンの初めてだぜ」
ギャラリーで囁かれる声――それは紛れもなくキサイの事だ。彼はこのゲームの強者だ。
(さ~て、じゃあいっちょ叩き潰してやるか)
青年が硬貨を投入する。その確認音が響くと共に画面には【MKBT】の文字。
カッコよくデザインされたそのロゴはこのゲームのタイトルの頭文字でもある。
無害(M)、奇天烈(K)、バトル(B)、トライアル(T)……それがこのゲームのタイトルだ。
それはともかく彼は手慣れた動きで画面にカードを翳して、自キャラを筐体に読み込む。
彼の分身、それは忍者だった。
真っ黒の忍び装束に身を包み、何故だか設定武器にはバナナの皮が設定させている。
しかし、それを不審に思う者はいなかった。何故ならこのゲームの売りがここにあるからだ。
画面には設定し終えた二人のキャラが向かい合う。そして、始まりまでのカウントが終わると両者一斉に動き出す。弾かれるボタンから繰り出される技の数々、それに見惚れるのかと思えば会場は――どっと笑いの渦に巻き込まれる。
「あっ、すげっ! あのタイミングでバナナかよっ」
「いつの間に潜り込だんだ!…って雑巾か!?」
格闘ゲームの筈であるが、飛び交う言葉だけを聞いていると全く訳が分からない。
というのもこのゲームの勝敗を決めるのはハプニングゲージというもので、ステージ内に設置されている日用品および食品を使って相手を脅かせたり転倒させる事でこのゲージは溜るシステム。そうして、先に相手のゲージをMAXにしたほうが勝ちなのだ。そこで必要とされるのは相手の繰り出してくるハプニングをうまく予測し避けていける能力。回避する事で必殺ゲージと使えるモノが増えていく。
つまりはこのゲーム、いかに耐え奇抜なものを繰り出すかがネックとなる。
「これで終わりだぜ!」
キサイの声――彼が目にも止まらぬ速さでコマンドを打ち込む。
すると、画面の分身は巨大な鍋を取り出して、ヘキのバケツインク攻撃を鍋で受け止め…。
「秘儀、鍋返し…ってな。まだまだだぜ」
それで勝負はついたようだった。大画面にはヘキの小柄なくのいちがペンキ塗れになった姿が映り、一方では登場時と変わらない忍者が不敵な笑みに『WIN』の文字が輝いている。
「ま、ざっとこんなもんだぜ。ってかもっと歯ごたえのある奴はいないのかよ?」
周囲呼びかけるが、流石にチャンプに挑む勇気ある挑戦者はいない。
それにつまらなさを感じ、青年は勝ったにも関わらずあっさりと席を立つ。
(もっと強い奴と戦いてぇな)
彼が心中で呟く。『罠師キサイ』…彼を倒すのは?
ここはとある世界の比較的大きなゲームセンター…大手のゲーム会社が運営しているから最新のアーケードからレトロな筐体までが所狭しと並べられたカオスな場所だ。入り口に並ぶのはやはり景品をアームの付いたUFOで掴む一般向けのプライズモノ。お菓子やアイスが取れるものには子供連れの家族がお好みの景品を狙い、硬貨をつぎ込んでいる。
だが、青年の狙いは違った。
階段を上がりコインゲームのコーナーを抜けてさらに進んだ場所。
そこにある対戦型のゲーム機が彼の今最も注目している筐体だ。
既にそこには多くのギャラリーが集まり、壁のメイン画面には対戦の様子が映し出されている。
「今日のトップは?」
画面を横目に見ながら短髪(一部)メッシュの青年が仲間に問う。
「お、来たかキサイ。今のところ、連勝してんのはアイツだな」
「あいつ? あぁ、ヘキか」
キサイと呼ばれた青年はプレーヤーネームを確認して、ハァと息を吐いた。
ヘキ――それは彼も知っている名だ。というのも彼の近所に住んでいて、彼のゲームの師である人の孫弟子にあたる。最近めきめきと力をつけてきているようだが、それでも最後の一押しが足りず彼にとってはまだまだライバル視する相手ではないと思っている。
「ちょっと逃げるのか! やってけよっ!」
短く切られた髪を揺らせて、ヘキは彼を見つけると筐体の前で立ち上がる。
「チッ、見つかったかよ…けど、やるからには手加減はしないぜ?」
青年が試すように言う。
「構わないぜ。ってか女だと思って甘くみんなっ」
男勝りな言葉遣いでヘキは彼をかなり敵視しているらしい。
彼女に負けたプレイヤーが席を開けると、渋々キサイは席につきボタンとレバーの具合を確かめる。
「おっ、あいつって確か…」
「年間チャンプだろ? 生で見ンの初めてだぜ」
ギャラリーで囁かれる声――それは紛れもなくキサイの事だ。彼はこのゲームの強者だ。
(さ~て、じゃあいっちょ叩き潰してやるか)
青年が硬貨を投入する。その確認音が響くと共に画面には【MKBT】の文字。
カッコよくデザインされたそのロゴはこのゲームのタイトルの頭文字でもある。
無害(M)、奇天烈(K)、バトル(B)、トライアル(T)……それがこのゲームのタイトルだ。
それはともかく彼は手慣れた動きで画面にカードを翳して、自キャラを筐体に読み込む。
彼の分身、それは忍者だった。
真っ黒の忍び装束に身を包み、何故だか設定武器にはバナナの皮が設定させている。
しかし、それを不審に思う者はいなかった。何故ならこのゲームの売りがここにあるからだ。
画面には設定し終えた二人のキャラが向かい合う。そして、始まりまでのカウントが終わると両者一斉に動き出す。弾かれるボタンから繰り出される技の数々、それに見惚れるのかと思えば会場は――どっと笑いの渦に巻き込まれる。
「あっ、すげっ! あのタイミングでバナナかよっ」
「いつの間に潜り込だんだ!…って雑巾か!?」
格闘ゲームの筈であるが、飛び交う言葉だけを聞いていると全く訳が分からない。
というのもこのゲームの勝敗を決めるのはハプニングゲージというもので、ステージ内に設置されている日用品および食品を使って相手を脅かせたり転倒させる事でこのゲージは溜るシステム。そうして、先に相手のゲージをMAXにしたほうが勝ちなのだ。そこで必要とされるのは相手の繰り出してくるハプニングをうまく予測し避けていける能力。回避する事で必殺ゲージと使えるモノが増えていく。
つまりはこのゲーム、いかに耐え奇抜なものを繰り出すかがネックとなる。
「これで終わりだぜ!」
キサイの声――彼が目にも止まらぬ速さでコマンドを打ち込む。
すると、画面の分身は巨大な鍋を取り出して、ヘキのバケツインク攻撃を鍋で受け止め…。
「秘儀、鍋返し…ってな。まだまだだぜ」
それで勝負はついたようだった。大画面にはヘキの小柄なくのいちがペンキ塗れになった姿が映り、一方では登場時と変わらない忍者が不敵な笑みに『WIN』の文字が輝いている。
「ま、ざっとこんなもんだぜ。ってかもっと歯ごたえのある奴はいないのかよ?」
周囲呼びかけるが、流石にチャンプに挑む勇気ある挑戦者はいない。
それにつまらなさを感じ、青年は勝ったにも関わらずあっさりと席を立つ。
(もっと強い奴と戦いてぇな)
彼が心中で呟く。『罠師キサイ』…彼を倒すのは?
リプレイ本文
●M
本日MKBTサービスディ。
アップデート直後という事で低価格で遊べるといつも以上の賑わいを見せている。
「うーん、何でしょうかぁ? 人が凄く集まってるんですよぉ」
そこへ何も知らない小宮・千秋(ka6272)登場。
コスプレなのかメイド服に犬耳と尻尾という服装で彼は中を覗こうと頑張る。
「あのー店員さん、この騒ぎは一体?」
そんな彼を店員と間違えたのはディーナ ウォロノフ(ka6530)だ。
こういう場所に慣れていなかったから仕方がない。
「えと、店員ではないですが…折角ですし一緒に確かめましょう」
千秋がディーナの手を取り前へと進む。
「そうですね、何事も勉強ですっ!」
ディーナもそれに応じて、二人はMKBTと出会う。
「へえ、威力は下がるけど双子の人形も設定できるのですね」
その近くではゲーセンには似つかわしくない外見の金髪さんが武器の豊富さに目を丸くしていたりして。
「おっ、MKBTか! こんな所にもあるんだな…流石は人気作」
とそこへやってきたのは元PLのグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)だった。
学生時代はかなりやり込んだ口だが、今は仕事でご無沙汰気味。腕が鈍ってそうだとまずは様子見中。
「やはり年間チャンプ…手強いですね」
その横でそんな呟きが聴こえて、ふと視線を向ければそこには華奢な少女が手帳を開いていた。
一方筐体の方ではチュートリアルを終えたディーナと女子高生のエーミ・エーテルクラフト(ka2225)の対戦が始まる。まず先制を取ったのはディーナだ。開始直後に口笛を吹いて、後に続いたのは聞き慣れぬ奇声。
「ヒャッハ―!」
画面上には一台のバイクが現れて、エーミの動揺を誘う。
「うふふうふふふふうふうふ」
それに続いて繰り出されたのは彼女の特有の持ち技で、走ってきたバイクに全力でハンマーを入れる荒唐無稽な荒業に出る。そうして、停止したバイクをひたすら解体。PL自体が機械いじりが趣味みたいなものであり、それがPCにも反映されているらしい。
「やっふー、これは解体し甲斐がありますねー」
眼を輝かせて、一心不乱に。その姿はもはやメカニックというよりは壊し屋だ。
「えっ、ちょっ…これが技なのっ!?」
エーミがディーナのへんてこ技に目を見開く。けれど、辛うじて飛んでくる部品を避けている。
「うふふふふっ、機械はいいですねー、機械は裏切りませんもんのー」
あやしい笑みに、悪寒を感じるエーミ。どこか少しいっちゃっている気がしてならない。
「ねぇ、そう思いますよね、先輩v 先輩ももっと機械を愛しましょうよー」
そして更にはゆらりと立ち上がって、彼女に詰め寄ってくるその表情が普通に怖い。
(フフッ、先輩か…いい響きよね)
がエーミは『先輩』という言葉によって、冷静さを取り戻していた。
(そうよ、あれが後輩だと思えば何の事はないのよ)
さっきとは別人のような指裁きを見せ、エーミが反撃する。
「そらっ、食らいなさい! エンピツよ! 次はルーラー!」
そして、次々とくり出される物の応酬に今度はディーナが素直な悲鳴が上げる。
「あっ、はうっ…ひどいですー!」
最初のそれは何だったのか。エーミがディーナを逆転したようだ。
(こうなったら、上から…)
そう思いジャンプしたディーナであったが、エーミが取り出した『テブクロ』。別名・鍋掴みによってはたき落とされる。
「うー…あざとくって何がいけないんですかー!」
がディーナもまだ負けてはいなかった。はたかれてもめげずに詰め寄る姿勢…纏わりつく事で動揺を狙う。
「ねー、先輩! 痛いじゃないですかー!」
「知らないわよ、そんな事!」
近寄るディーナにフライ返しで掬い追い返すミーナ。だが、彼女のこの攻撃はフラグに過ぎなかった。
(後少し…後少しで最終奥義が)
今まで地道に当ててきた小さな攻撃、それはただ闇雲に投げていた訳ではない。
全ての雑貨の頭文字が揃った時、彼女の必殺技は完成する。
「これで終わりよっ」
そこでエーミが急速に動いた。口にはトーストを銜えて、ディーナに激突する。それは少女漫画の冒頭によくある光景だった。すでにすっ転んでいたディーナに足を取られる形で綺麗に転びふわりとスカートが空気をはらんで…。
「ひゅ~う♪」
ギャラリーからの口笛――彼女のアレは紫の縞柄だ。
「…揃ってしまった…ってあれ?」
そうして最終奥義の発動に笑みを浮かべていた彼女であったが、画面には大きく彼女勝利の文字が出ていて、
「嘘でしょ! ここまで来たのに不発なの…」
勝負に勝って戦いの見せ場を奪われたミーナが落胆する。
一方では散々な負けを体験し、お菓子ゲットに逃げるディーナの姿があった。
●K
さて、今回のアップデートにより新たに加わった機能、それはビギナー向けの短縮設定。
レベルに応じて、技を出すコマンド数が変更でき、これによりレベル差なく、戦う事が可能となる。
「宜しくお願いしますよー」
筐体越しにぺこりとお辞儀までしながら千秋が挨拶する。
「ああ、こちらこそな」
そういうのはグリムバルドだ。年季の入ったカードを読み込むと画面には鍋蓋装備の重騎士が映し出される。
「おっ、なかなか面白いチョイスだな」
「はははっ、そう言って貰えると嬉しいな。アンタみたいに戦い方は出来ないが…これが俺のスタイルだ」
キサイの言葉に彼はそう返して画面が切り替わるのを待つ。
彼の相手、それはPLによく似たメイドさんでどうやらドジっ子設定の様だった。
「おおっと、滑る滑る~」
千秋のPCはまさにドジっ子のお手本といえる。モップ片手にお掃除開始と駆け出して、水を含み過ぎたモップですいーとグリムバルドの方へと接近する。その行動にハッとする彼であるが、重量級の鎧であるから突っ込んで来られても押し倒される事は少ない。更に鍋蓋を盾代わりに突き出して、カウンターを狙う。
「そんなもので動じると思ったか!」
そう返して鍋蓋の相方・鍋を手に取り、彼のバケツとすり合える。
「あうぅ~、これじゃあお掃除できない~って、あわわっ!」
そこで次に千秋が繰り出したのはポルターガイスト――当たれば大きい技であるが、これは一度しか使えない制限付きだ。日用品が次から次へとグリムバルドに向かって飛び始める。
「はっ、なかなかやるなっ。しかし耐え凌いで見せるっ!」
が彼もブランクありとはいえ熟練者。大きく仰け反る事なく、ひらりとかわして最終的にはちゃぶ台の下へと滑り込む。
「あー、ずるいのですよぉ」
そこで千秋は彼を追撃。ここで普通なら罠を疑うものだが、彼は気付いていない様だ。
(フフッ、かかったな)
そこで打って出ようとちゃぶ台ごとひっくり返そうとしたその時だった。
「あややっ!」
さっきのモップで濡れた床…それに足を取られて、千秋はお尻からすっ転ぶ。加えて、すっ転んだ先にはあの時の鍋があって、すっぽりお尻がはまってそのまますいー。果ては――。ちゃぶ台の下にいたグリムバルドを巻き込む形でジャストミート! 絶妙の天然ボケを見せてくれる。
「ッたた…これはやられたな」
暫し混乱するPCを見つめて彼が言う。
「あはは、わたくしもこんなに綺麗に決まるとは…」
向こうでは千秋がそう呟いていて、ゲージは互いに満タンになりドローの文字。数秒後の延長戦開始を待つ。
(やっぱり面白いな。また再開するか?)
このワクワクに心が躍る。が、その後は割と呆気なかった。
千秋が持ち出したのは金魚鉢。その鉢は例によって彼の前でぶちまけられ水対鍋蓋。優勢なのはもちろん水だ。
「お、おい馬鹿、それは無理だから―!」
鍋蓋では水は受け切れず加えて水ものは鎧には相性が悪い。錆びて動けなくなった彼に勝ち目はなかった。
●B
鍋蓋使いに刺激されて、キサイも今日は参戦する。
「音羽 美沙樹(ka4757)と申しますわ。宜しくお願いしますわね」
彼の相手はどうやら初心者らしい。彼をチャンプとは知らないようだ。
「…あぁ、宜しく」
彼は素っ気なくそう言って、相手のデータに目を通す。
対戦前の画面に映し出された美沙樹のPC、それを一言で言うと女騎士だった。銀色の胸甲に金属製のロングブーツ、そして腕には大きなタワーシールド。エメラルドの耳飾りを揺らしつつ、何故だか武器にはパティシエナイフが装備されている。
(ん、シーラ? 名前まで付けてるのか…割と美人なPCだな)
PLとはまるで違う容姿…この手のゲームでは大体PC設定自分寄せか否かに分かれるが、ここまで違うとイメージは憧れの人とかだろうか。
それはさておき、読み込みが終わって舞台はどうやら和を模したエリアなようだ。
(うっしゃ、いくぜ!)
開始と同時にキサイが得意のバナナを仕掛ける。攻撃重視で向かってくる美沙樹はものの見事にそれを踏んずけすってんころりん。手にしたナイフが宙へ舞う。これは危ないが、その辺は御安心。キサイのPCが鍋蓋で受け止め、その場から除外する。
『あら、優しいのね』
その声にキサイはびくりとした。
(今確か画面のPCがそう言葉していなかったか?)
対面に座っている美沙樹は黙ったままだ。それにさっき聞いた声とは明らかに違った筈だ。
(ギャラリーからか?)
ちらりと周りに視線を送ってみるものの、前列にはそれらしい人物はいない。気を取り直して、キサイの優勢。
ただ、ゲージが半分を超えた頃美沙樹のPCが武器を二体の人形へと持ち替えて…。
『行きましょう、千紗、紗智』
まただった。PCが意志を持ったように言葉し動き始める。
「……あの、操作を受け付けないのですけれど? 特殊イベント発生なのかしら?」
美沙樹が言う。しかし、バクだったとしてもPCが意志を持つなんてありえない。
それに驚いているキサイに向けて、シーラという名のPCはごく自然に攻撃を仕掛けてくる。
『とーちゃん、これ…ってわぁ!』
人形の一人が小麦粉の入ったボールをキサイにぶちまける。続いてもう一体がメレンゲ作りを手伝わせようとかき混ぜながら近付いて、キサイを汚していく。そこで彼は我に返って、たとえバグだろうが初心者に負けるのは彼のプライドが許さない。
「やったるぜ!」
小気味のいい音を響かせボタンを連打し、次の策を考える。
『あら、逃げるのね…だったらこれよ』
そこでシーラが取り出したのは一枚の紙だった。紙面には判りやすく離婚届と書かれている。
「なんだなんだぁ?」
画面を見ていたギャラリーがどよめく。
「はぁ、そんなもん俺に効くか…ッ、て何で動かねぇんだ!」
回避コマンドを打つ彼であるが、PCは微動だにせず。背景の動きが止まっているからどうやらフリーズしたらしい。店員がやってきて、筐体裏を暫し弄る事となる。
「一体何なんだ、あれ…」
「さあ、あたしも存じません」
これによって試合は無効となり、二人には返金措置が入り再開してみたものの、また途中で同様の事が起こってしまいカード異常として美沙樹のカードは一旦回収される事となる。
「残念ですわ」
ぽつりと美沙樹が呟く。筐体の方は試運転を兼ねて、もう一度キサイが席に着く。
「宜しくお願いしますね」
そんな彼に挑むのは魔法少女のPCを持つエルことエルバッハ・リオン(ka2434)だった。
●T
美沙樹同様丁寧な挨拶から始まったこの一戦。あっさりと勝負がつくかと思いきや、なかなかの好勝負となる。
「お、おい…あれ圧されてないか?」
パッと見技を出しているのはキサイなのだが、その尽くをエルが華麗な身のこなしによって回避している。
(ずっと研究してきた甲斐がありました)
彼がチャンプだと知った時から…日夜観察と分析を繰り返してきたのだ。それはひとえに彼に勝つ。特に恨みはないが、やるからには勝ちたいと思う彼女である。
「チッ、ちょこまかと逃げやがって!」
短気ではないにしろ、キサイにもチャンプとしての意地がある。早々恥ずかしい姿は見せられないとエルの意図を悟って、キサイはぱたりと手を止め暫しの休憩か。画面にはBGMだけが流れ、二人のPCは全く微動だにしない。
「またバグか?」
そう思う者もいたが、そうではない。
「流石はチャンプ…お見通しですか」
もう少しで必殺ゲージが溜まるという所で止まったキサイにエルが言う。
「まあ、あれだけ攻撃してこなけりゃなぁ」
キサイがわざとらしく答える。現在ハプニングゲージだけ見れば五分と五分。だが、必殺技を出す為のゲージをみると、キサイの劣勢は明らかだ。
「このままいたらタイムアウトで私の勝利ですよね」
表情を崩さぬまま、エルが呟く。それは勿論彼も承知していて…彼は密かに待っていた。
それはギリギリのライン――タイムアウト前の一撃に全てをかける。
(焦るな、焦った方が負けだ…)
幾度も修羅場を潜りぬけてきた彼がふぅーと息を吐く。エルもエルで自分の戦法を変える気はないらしく、後一回でゲージが溜まるというのに、自分から仕掛けるつもりはないらしい。
そうして、終了のカウント五秒前でキサイが動いた。明後日の方向を指差してエルを促す。だかしかし、彼女はそれには乗らず逆方向へと視線を逃がして、
(溜まったわ)
黒服の魔女っ娘が杖を振る。ふわりと身が宙に浮き、地面からは大きなプレゼント箱が出現する。
「ッ、しまった!」
それは発動してしまうと回避できぬ必殺技だった。キサイがレバーを入れるもトリモチが仕掛けられたかのように動けない。そんな彼の前でぱかりと箱が開いて…。
「ナイトメア・ドール…私の勝ちですね」
エルの分身がにやりと微笑む。すると次の瞬間、箱からは不気味な人形が飛び出し、キサイを驚かせにかかる。
「……ったく、やられたぜ」
すとんと尻餅をついて、そこでタイムアップ。エル画面に勝利の文字が輝く。
「チャンプが負けた…」
ぼそりと誰が言葉した。それと同時に周りがわぁーと声を上げ、エルの勝利を称える。
「すごいすごい! 僕にもその技教えてよー」
ヘキが彼女の手を取り、弟子入りを志願する。
「いえ、まぐれですわ。あの時もしキサイさんが別の技を出していたらきっと対処できなかった筈ですし」
敵に背を向けるエルの勇気の勝利。あそこでもし向いた先にバナナをやられていたら、きっと回避は難しかっただろう。
「お前、少し前からここに来てたよな? データでも取ってたのかよ?」
キサイが尋ねる。
「はい、それ位しないと敵わないと思っていたので…」
そういう彼女であるが、いくらデータがあれどそれを即座予測し実行する能力がなければ意味はない。
「はっ、謙遜すんなよ。エルだったっけ…お前は十分強い! いい試合だった。サンキューだぜ」
彼が言う。こうして、この試合は不思議な出来事と共に後々へと語り継がれる事になるのだった。
本日MKBTサービスディ。
アップデート直後という事で低価格で遊べるといつも以上の賑わいを見せている。
「うーん、何でしょうかぁ? 人が凄く集まってるんですよぉ」
そこへ何も知らない小宮・千秋(ka6272)登場。
コスプレなのかメイド服に犬耳と尻尾という服装で彼は中を覗こうと頑張る。
「あのー店員さん、この騒ぎは一体?」
そんな彼を店員と間違えたのはディーナ ウォロノフ(ka6530)だ。
こういう場所に慣れていなかったから仕方がない。
「えと、店員ではないですが…折角ですし一緒に確かめましょう」
千秋がディーナの手を取り前へと進む。
「そうですね、何事も勉強ですっ!」
ディーナもそれに応じて、二人はMKBTと出会う。
「へえ、威力は下がるけど双子の人形も設定できるのですね」
その近くではゲーセンには似つかわしくない外見の金髪さんが武器の豊富さに目を丸くしていたりして。
「おっ、MKBTか! こんな所にもあるんだな…流石は人気作」
とそこへやってきたのは元PLのグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)だった。
学生時代はかなりやり込んだ口だが、今は仕事でご無沙汰気味。腕が鈍ってそうだとまずは様子見中。
「やはり年間チャンプ…手強いですね」
その横でそんな呟きが聴こえて、ふと視線を向ければそこには華奢な少女が手帳を開いていた。
一方筐体の方ではチュートリアルを終えたディーナと女子高生のエーミ・エーテルクラフト(ka2225)の対戦が始まる。まず先制を取ったのはディーナだ。開始直後に口笛を吹いて、後に続いたのは聞き慣れぬ奇声。
「ヒャッハ―!」
画面上には一台のバイクが現れて、エーミの動揺を誘う。
「うふふうふふふふうふうふ」
それに続いて繰り出されたのは彼女の特有の持ち技で、走ってきたバイクに全力でハンマーを入れる荒唐無稽な荒業に出る。そうして、停止したバイクをひたすら解体。PL自体が機械いじりが趣味みたいなものであり、それがPCにも反映されているらしい。
「やっふー、これは解体し甲斐がありますねー」
眼を輝かせて、一心不乱に。その姿はもはやメカニックというよりは壊し屋だ。
「えっ、ちょっ…これが技なのっ!?」
エーミがディーナのへんてこ技に目を見開く。けれど、辛うじて飛んでくる部品を避けている。
「うふふふふっ、機械はいいですねー、機械は裏切りませんもんのー」
あやしい笑みに、悪寒を感じるエーミ。どこか少しいっちゃっている気がしてならない。
「ねぇ、そう思いますよね、先輩v 先輩ももっと機械を愛しましょうよー」
そして更にはゆらりと立ち上がって、彼女に詰め寄ってくるその表情が普通に怖い。
(フフッ、先輩か…いい響きよね)
がエーミは『先輩』という言葉によって、冷静さを取り戻していた。
(そうよ、あれが後輩だと思えば何の事はないのよ)
さっきとは別人のような指裁きを見せ、エーミが反撃する。
「そらっ、食らいなさい! エンピツよ! 次はルーラー!」
そして、次々とくり出される物の応酬に今度はディーナが素直な悲鳴が上げる。
「あっ、はうっ…ひどいですー!」
最初のそれは何だったのか。エーミがディーナを逆転したようだ。
(こうなったら、上から…)
そう思いジャンプしたディーナであったが、エーミが取り出した『テブクロ』。別名・鍋掴みによってはたき落とされる。
「うー…あざとくって何がいけないんですかー!」
がディーナもまだ負けてはいなかった。はたかれてもめげずに詰め寄る姿勢…纏わりつく事で動揺を狙う。
「ねー、先輩! 痛いじゃないですかー!」
「知らないわよ、そんな事!」
近寄るディーナにフライ返しで掬い追い返すミーナ。だが、彼女のこの攻撃はフラグに過ぎなかった。
(後少し…後少しで最終奥義が)
今まで地道に当ててきた小さな攻撃、それはただ闇雲に投げていた訳ではない。
全ての雑貨の頭文字が揃った時、彼女の必殺技は完成する。
「これで終わりよっ」
そこでエーミが急速に動いた。口にはトーストを銜えて、ディーナに激突する。それは少女漫画の冒頭によくある光景だった。すでにすっ転んでいたディーナに足を取られる形で綺麗に転びふわりとスカートが空気をはらんで…。
「ひゅ~う♪」
ギャラリーからの口笛――彼女のアレは紫の縞柄だ。
「…揃ってしまった…ってあれ?」
そうして最終奥義の発動に笑みを浮かべていた彼女であったが、画面には大きく彼女勝利の文字が出ていて、
「嘘でしょ! ここまで来たのに不発なの…」
勝負に勝って戦いの見せ場を奪われたミーナが落胆する。
一方では散々な負けを体験し、お菓子ゲットに逃げるディーナの姿があった。
●K
さて、今回のアップデートにより新たに加わった機能、それはビギナー向けの短縮設定。
レベルに応じて、技を出すコマンド数が変更でき、これによりレベル差なく、戦う事が可能となる。
「宜しくお願いしますよー」
筐体越しにぺこりとお辞儀までしながら千秋が挨拶する。
「ああ、こちらこそな」
そういうのはグリムバルドだ。年季の入ったカードを読み込むと画面には鍋蓋装備の重騎士が映し出される。
「おっ、なかなか面白いチョイスだな」
「はははっ、そう言って貰えると嬉しいな。アンタみたいに戦い方は出来ないが…これが俺のスタイルだ」
キサイの言葉に彼はそう返して画面が切り替わるのを待つ。
彼の相手、それはPLによく似たメイドさんでどうやらドジっ子設定の様だった。
「おおっと、滑る滑る~」
千秋のPCはまさにドジっ子のお手本といえる。モップ片手にお掃除開始と駆け出して、水を含み過ぎたモップですいーとグリムバルドの方へと接近する。その行動にハッとする彼であるが、重量級の鎧であるから突っ込んで来られても押し倒される事は少ない。更に鍋蓋を盾代わりに突き出して、カウンターを狙う。
「そんなもので動じると思ったか!」
そう返して鍋蓋の相方・鍋を手に取り、彼のバケツとすり合える。
「あうぅ~、これじゃあお掃除できない~って、あわわっ!」
そこで次に千秋が繰り出したのはポルターガイスト――当たれば大きい技であるが、これは一度しか使えない制限付きだ。日用品が次から次へとグリムバルドに向かって飛び始める。
「はっ、なかなかやるなっ。しかし耐え凌いで見せるっ!」
が彼もブランクありとはいえ熟練者。大きく仰け反る事なく、ひらりとかわして最終的にはちゃぶ台の下へと滑り込む。
「あー、ずるいのですよぉ」
そこで千秋は彼を追撃。ここで普通なら罠を疑うものだが、彼は気付いていない様だ。
(フフッ、かかったな)
そこで打って出ようとちゃぶ台ごとひっくり返そうとしたその時だった。
「あややっ!」
さっきのモップで濡れた床…それに足を取られて、千秋はお尻からすっ転ぶ。加えて、すっ転んだ先にはあの時の鍋があって、すっぽりお尻がはまってそのまますいー。果ては――。ちゃぶ台の下にいたグリムバルドを巻き込む形でジャストミート! 絶妙の天然ボケを見せてくれる。
「ッたた…これはやられたな」
暫し混乱するPCを見つめて彼が言う。
「あはは、わたくしもこんなに綺麗に決まるとは…」
向こうでは千秋がそう呟いていて、ゲージは互いに満タンになりドローの文字。数秒後の延長戦開始を待つ。
(やっぱり面白いな。また再開するか?)
このワクワクに心が躍る。が、その後は割と呆気なかった。
千秋が持ち出したのは金魚鉢。その鉢は例によって彼の前でぶちまけられ水対鍋蓋。優勢なのはもちろん水だ。
「お、おい馬鹿、それは無理だから―!」
鍋蓋では水は受け切れず加えて水ものは鎧には相性が悪い。錆びて動けなくなった彼に勝ち目はなかった。
●B
鍋蓋使いに刺激されて、キサイも今日は参戦する。
「音羽 美沙樹(ka4757)と申しますわ。宜しくお願いしますわね」
彼の相手はどうやら初心者らしい。彼をチャンプとは知らないようだ。
「…あぁ、宜しく」
彼は素っ気なくそう言って、相手のデータに目を通す。
対戦前の画面に映し出された美沙樹のPC、それを一言で言うと女騎士だった。銀色の胸甲に金属製のロングブーツ、そして腕には大きなタワーシールド。エメラルドの耳飾りを揺らしつつ、何故だか武器にはパティシエナイフが装備されている。
(ん、シーラ? 名前まで付けてるのか…割と美人なPCだな)
PLとはまるで違う容姿…この手のゲームでは大体PC設定自分寄せか否かに分かれるが、ここまで違うとイメージは憧れの人とかだろうか。
それはさておき、読み込みが終わって舞台はどうやら和を模したエリアなようだ。
(うっしゃ、いくぜ!)
開始と同時にキサイが得意のバナナを仕掛ける。攻撃重視で向かってくる美沙樹はものの見事にそれを踏んずけすってんころりん。手にしたナイフが宙へ舞う。これは危ないが、その辺は御安心。キサイのPCが鍋蓋で受け止め、その場から除外する。
『あら、優しいのね』
その声にキサイはびくりとした。
(今確か画面のPCがそう言葉していなかったか?)
対面に座っている美沙樹は黙ったままだ。それにさっき聞いた声とは明らかに違った筈だ。
(ギャラリーからか?)
ちらりと周りに視線を送ってみるものの、前列にはそれらしい人物はいない。気を取り直して、キサイの優勢。
ただ、ゲージが半分を超えた頃美沙樹のPCが武器を二体の人形へと持ち替えて…。
『行きましょう、千紗、紗智』
まただった。PCが意志を持ったように言葉し動き始める。
「……あの、操作を受け付けないのですけれど? 特殊イベント発生なのかしら?」
美沙樹が言う。しかし、バクだったとしてもPCが意志を持つなんてありえない。
それに驚いているキサイに向けて、シーラという名のPCはごく自然に攻撃を仕掛けてくる。
『とーちゃん、これ…ってわぁ!』
人形の一人が小麦粉の入ったボールをキサイにぶちまける。続いてもう一体がメレンゲ作りを手伝わせようとかき混ぜながら近付いて、キサイを汚していく。そこで彼は我に返って、たとえバグだろうが初心者に負けるのは彼のプライドが許さない。
「やったるぜ!」
小気味のいい音を響かせボタンを連打し、次の策を考える。
『あら、逃げるのね…だったらこれよ』
そこでシーラが取り出したのは一枚の紙だった。紙面には判りやすく離婚届と書かれている。
「なんだなんだぁ?」
画面を見ていたギャラリーがどよめく。
「はぁ、そんなもん俺に効くか…ッ、て何で動かねぇんだ!」
回避コマンドを打つ彼であるが、PCは微動だにせず。背景の動きが止まっているからどうやらフリーズしたらしい。店員がやってきて、筐体裏を暫し弄る事となる。
「一体何なんだ、あれ…」
「さあ、あたしも存じません」
これによって試合は無効となり、二人には返金措置が入り再開してみたものの、また途中で同様の事が起こってしまいカード異常として美沙樹のカードは一旦回収される事となる。
「残念ですわ」
ぽつりと美沙樹が呟く。筐体の方は試運転を兼ねて、もう一度キサイが席に着く。
「宜しくお願いしますね」
そんな彼に挑むのは魔法少女のPCを持つエルことエルバッハ・リオン(ka2434)だった。
●T
美沙樹同様丁寧な挨拶から始まったこの一戦。あっさりと勝負がつくかと思いきや、なかなかの好勝負となる。
「お、おい…あれ圧されてないか?」
パッと見技を出しているのはキサイなのだが、その尽くをエルが華麗な身のこなしによって回避している。
(ずっと研究してきた甲斐がありました)
彼がチャンプだと知った時から…日夜観察と分析を繰り返してきたのだ。それはひとえに彼に勝つ。特に恨みはないが、やるからには勝ちたいと思う彼女である。
「チッ、ちょこまかと逃げやがって!」
短気ではないにしろ、キサイにもチャンプとしての意地がある。早々恥ずかしい姿は見せられないとエルの意図を悟って、キサイはぱたりと手を止め暫しの休憩か。画面にはBGMだけが流れ、二人のPCは全く微動だにしない。
「またバグか?」
そう思う者もいたが、そうではない。
「流石はチャンプ…お見通しですか」
もう少しで必殺ゲージが溜まるという所で止まったキサイにエルが言う。
「まあ、あれだけ攻撃してこなけりゃなぁ」
キサイがわざとらしく答える。現在ハプニングゲージだけ見れば五分と五分。だが、必殺技を出す為のゲージをみると、キサイの劣勢は明らかだ。
「このままいたらタイムアウトで私の勝利ですよね」
表情を崩さぬまま、エルが呟く。それは勿論彼も承知していて…彼は密かに待っていた。
それはギリギリのライン――タイムアウト前の一撃に全てをかける。
(焦るな、焦った方が負けだ…)
幾度も修羅場を潜りぬけてきた彼がふぅーと息を吐く。エルもエルで自分の戦法を変える気はないらしく、後一回でゲージが溜まるというのに、自分から仕掛けるつもりはないらしい。
そうして、終了のカウント五秒前でキサイが動いた。明後日の方向を指差してエルを促す。だかしかし、彼女はそれには乗らず逆方向へと視線を逃がして、
(溜まったわ)
黒服の魔女っ娘が杖を振る。ふわりと身が宙に浮き、地面からは大きなプレゼント箱が出現する。
「ッ、しまった!」
それは発動してしまうと回避できぬ必殺技だった。キサイがレバーを入れるもトリモチが仕掛けられたかのように動けない。そんな彼の前でぱかりと箱が開いて…。
「ナイトメア・ドール…私の勝ちですね」
エルの分身がにやりと微笑む。すると次の瞬間、箱からは不気味な人形が飛び出し、キサイを驚かせにかかる。
「……ったく、やられたぜ」
すとんと尻餅をついて、そこでタイムアップ。エル画面に勝利の文字が輝く。
「チャンプが負けた…」
ぼそりと誰が言葉した。それと同時に周りがわぁーと声を上げ、エルの勝利を称える。
「すごいすごい! 僕にもその技教えてよー」
ヘキが彼女の手を取り、弟子入りを志願する。
「いえ、まぐれですわ。あの時もしキサイさんが別の技を出していたらきっと対処できなかった筈ですし」
敵に背を向けるエルの勇気の勝利。あそこでもし向いた先にバナナをやられていたら、きっと回避は難しかっただろう。
「お前、少し前からここに来てたよな? データでも取ってたのかよ?」
キサイが尋ねる。
「はい、それ位しないと敵わないと思っていたので…」
そういう彼女であるが、いくらデータがあれどそれを即座予測し実行する能力がなければ意味はない。
「はっ、謙遜すんなよ。エルだったっけ…お前は十分強い! いい試合だった。サンキューだぜ」
彼が言う。こうして、この試合は不思議な出来事と共に後々へと語り継がれる事になるのだった。
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相談?卓 ディーナ ウォロノフ(ka6530) 人間(リアルブルー)|18才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2016/11/02 15:06:22 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/11/03 03:38:30 |