ファイヤーレスキュー

マスター:真太郎

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/11/02 15:00
完成日
2016/11/09 18:46

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 辺境の山間の町フーディンではフルディン族の新族長の就任式がやり直されていた。
 新族長となるはずだったフェグルが病気で倒れたため、元族長ヴィブの次男のヴィオルを新たな族長として就任させるためだ。
「汝を次代族長と成す」
 式は粛々と進み、ヴィブの手でヴィオルの頭に儀礼冠が被せられようとした。
「異議あり!」
 しかし異議を唱える者がいた。
 皆が声を上げた者に目を向けると、そこにいたのはフェグルであった。
「フェグル!」
「フェグ兄!」
「フェグ兄様!」
 部族の皆が驚きの面持ちでフェグルを見る。
 なぜならフェグルはベッドから起き上がれないほど弱っていたはずだからだ。
 しかし今は血色のよい顔で背筋をピンと伸ばし、しっかりした足取りをしている。
「父さん、病ならもう完治しました。心配いりません」
「なに!? いったいどうやって?」
「腕の良い錬金術師が治してくれたんです」
「錬金術師?」
 俄かに信じられないが、目の前のフェグルは確かに健康そのものだ。
「本当に大丈夫なのかフェグ兄?」
「僕が大丈夫だったら困るかヴィオル? そうだな。僕が健康だとお前は族長になれないものな」
「なっ!? 俺はそんなこと考えていない!」
 思いもかけぬ事を言われたヴィオルは弁解したが、フェグルは聞く耳持たずに剣を抜く。
「兄上、何を……」
「剣を抜けヴィオル。僕の族長としての器量を見せてやる」
「止めて兄様!」
 フェグルは妹のスズリを無視すると剣でヴィオルを突いた。
(速い!)
 想像以上に鋭い突きで、ヴィオルは間一髪剣で受けた。
 しかし予想以上に重い一撃で、受けた腕が痺れる程だった。
「ハッ!」
 フェグルが手首を返して剣先を跳ね上げると、ヴィオルの手から剣が弾かれた。
 床に落ちた剣がカランと乾いた音を立て、フェグルの剣がヴィオルの眼前に突きつけられる。
(この力はなんだ? 本当に兄上なのか?)
 ヴィオルは呆然とフェグルを見つめた。
 病弱で身体をほとんど鍛えていないフェグルの腕であれほどの力を出せるのが信じられなかったからだ。
 フェグルを冷笑でヴィオルを見返すと剣を収め、壇上へ向かった。
「皆さん、僕はこの通り大丈夫です。族長はこの僕にお任せください」
 病弱だったフェグルの変貌振りに不気味なものを感じるが、今の器量を見せられては文句を言える者もおらず、族長はフェグルが続投する事に決まった。

「これから鉄の値が急騰するので備蓄を増やす」
 フルディン族の新族長となったフェグルは急にそう言って鉄の増産と鉄の輸出の停止を行った。
 それに伴い鉱山での労働時間も大幅に増加し、鉱夫は重労働を強いられる事になった。
 住人も最初は素直に従っていたものの、日々悪化する労働環境に不満を漏らすようになっていった。
 その不満の声は族長一家も耳にしていた。

「兄様どうされたのかしら、まるで人が変わったよう……」
 家族での夕食の最中、スズリが寂しそうに言った。
 だがここにフェグルの姿はない。
 フェグルは族長になって以後は執務室に篭りきりで、家族と食事を取る事すらしなくなったのだ。
「病気で死に淵を垣間見たせいで生き方が変わってしまったのかもしれないな」
 ヴィオルが難しい顔をしながら言う。
「元気になった事が奇跡のようなものだ。少々人が変わってもワシはフェグルが生きていてくれる事が嬉しいよ」
 ヴィブは寂しさと安堵の混じった複雑な表情をしていた。

 しかしフェグルは坑道の増設まで決行し、鉱夫達には今までの採掘業務に加えて坑道掘りの仕事まで課せられるようになった。
「今でも十分重労働だってのに、まだ働かせるつもりかっ!!」
「日の出から晩まで働いて、俺たちゃ何時寝て何時休めばいいんだよ!!」
 もちろん鉱夫達から不満の声が上がった。
 見かねたヴィブは鉱夫達の不満を聞き入れ、フェグルに直訴した。
「フェグルよ。流石にこれはやり過ぎじゃ」
「父さん。これはフルディン族の将来のためにやっている事です」
「そうだとしても限度がある。少し仕事量を減らせ。これではみんなが持たん」
「……分かりました。労働時間を少し短くしましょう」
「分かってくれたか」
 ヴィブは深く安堵した。
「それより父さん。そろそろクズリ石の製法を教えてくれませんか? これを使えばフルディン族で一大事業を起こせるはずですよ」
 フェグルは首から下げていたペンダントに埋め込まれたクズリ石を握り、掌で弄んだ。
「クズリ石はまだ実証実験段階の代物じゃ。デルの町の次郎殿にも協力してもらっておるが、効果時間は龍鉱石と変わりないが効果範囲が段違いに狭いらしい。効果範囲をもう少し広げられないか実験してからお前には教えるつもりじゃ」
「分かりました」
 こうして鉱夫たちの労働環境は若干改善したものの、重労働が課せられているのは以前変わりなかった。
「この先に鉄鉱脈があるのは確かなんじゃ。そこまで掘り進めれば重労働からも開放される。それまでは皆頑張ってくれ」
 ヴィブは現場に鉱夫達にそう触れ回り、なんとか義憤を抑えていた。

 そんな折、掘り進めていた新坑道で爆発事故が起きた。
 掘削中に天然ガスが吹き出し、それが引火したのだ
 その衝撃で坑道の一部が崩れ、鉱夫が何人か坑内に閉じ込められる事態となった。
 しかし災害はそれで収まらなかった。
 爆発の炎は周囲の森にも飛び、枯れ葉に引火していたのだ。
 しかも鉱夫達は坑道に閉じ込められた仲間の救出に気を取られていたため、森の火事の発見が遅れた。
 そのため気づいた時には火の手は木々を焼くほど大きなっていたのだった。
「なんてこったぁ!!」
「に、逃げようぜ」
「バッキャロー!! 仲間見捨てて逃げられるかよ!! 今すぐ消せ!」
「坑道はどうすんだ?」
「そっちも同時にやる」
「人手が足りないぞ」
「誰か人を集めて来い。大至急だ!」
 鉱山から足の速い鉱夫が走り、急報がフェグルに伝えられる。
「山火事ですか……分かりました。ヴィオルを呼べ」
 急報を受けたフェグルはヴィオルを呼び、状況を話した。
「対処を任せます。できますか?」
「もちろんだ! 任せて兄上!」
 ヴィオルはすぐに私設軍隊を動員して現場に向かった。
 しかし山の火の回りは早く。坑道の周囲は既に火の海だ。
「まさかここまで広がっていたとは……。最近全く雨が降っておらんかったから、木々が完全に乾燥し切っていたか」
 この火を消してから坑道の救助に向かったのでは到底間に合わないと思われた。
「この火を突破して救助に行ける者が必要だな……」
 普通の人間では不可能だ。
 それが可能なのは覚醒者ぐらいである。
 ヴィオルは至急ハンターオフィスと連絡を取ってハンターの募集を行ったのだった。

リプレイ本文

 火災現場に着いたアルマ・A・エインズワース(ka4901)はヴィオルの姿を見つけると顔を綻ばせた。
「ヴィオルさん! お久しぶりですー」
「おぉ! アルマ殿。また助けに来てくれたのか」
「わふ……なんていうか、呼ばれた気がしたですからー……」
「他の者達もよく来てくれた。感謝する」
 ヴィオルはハンター達に深々と頭を下げた。
「む……これは相当なものだな……」
 アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)は木々が燃え盛り、山がまるで炎を覆い尽くしているかのような光景に顔をしかめた。
「こんな中に取り残された人がいるなんて……これは放ってはおけないね。誰一人、死なせはしない!」
 時音 ざくろ(ka1250)は炎の先で待っているだろう救援者の事を思って気合を入れる。
「火勢は強いが躊躇している暇はなさそうだ。しかしその前に、怪我人はいないか?」
 アデリシアがヴィオルに尋ねる。
「ここには軽い火傷程度の者しかおらん。気遣いは無用だ」
「アデリシアさん。すみませんがミリアにヒールをお願いします」
 アルマは、重傷の身を圧して来ている妻のミリア・エインズワース(ka1287)のために願い出た。
「アルマ、僕なら大丈夫だ」
 ミリアは強がったが顔色が明らかに悪い。
「ミリア。無理はダメです」
「……ごめん。頼めるかアデリシア」
「はい」
 極端に減少していたミリアの生命力がアデリシアの『ヒール』で幾分回復する。
「他の者はいいか? では、その桶を貸してほしい」
 アデリシアは桶を借りて軍馬に積めるだけ積んだ。
「それで、崩落現場はどのあたりなんだい?」
「この道の先を真っ直ぐだ」
 ミリアに尋ねられたヴィオルが指差した道にも炎は逆巻いていた。
「こりゃあ炎の中を突っ切っていくしかないね。水場はどこだい」
 ミリアは持ってきた毛布を水で濡らし始めた。
 保・はじめ(ka5800)は纏っているマントに水を含ませ、愛馬と自身に水を被せる。
 ざくろも愛馬と自分に水を被せた。
「こんな身じゃなければ僕も行くんだが……頼んだぞアルマ」
 ミリアは重傷の我が身を呪わしく思いながら、水を含んだ布をアルマに纏わせた。
「はいっ、ミリア! それじゃ、行ってきますね?」
「あ、少し待って下さい」
 保は魔導バイクにまたがったアルマを止めると符を抜いた。
「少しでも火勢を弱められればよいのですが……」
 そして火の燃え盛る道の上に符を放つと『五色光符陣』を発動。展開した結界内の草木を光で焼き払ってゆく。 
 すると燃える物がなくなった分、火の勢いは弱まったように見えた。
「うむ、良い手じゃ。火事は燃える物が無くなれば自然に沈下するものじゃからな。リアルブルーの極東神話では、野火に焼かれそうになった古代の英雄もこちら側から火を放つ事で鎮火せしめている故事があるそうじゃぞ」
 いきなりリアルブルーの極東神話を紐解くミグ・ロマイヤー(ka0665)。
 今日のミグは、背中に『め』と大書した全身甲冑「スキューマ」をまとい、何やら宇宙服めいた異様な扮装をしていた。
 一見、耐火性は高そうに見える装備だが耐火性能はまったくない。
 なので見せかけだけなのだが周囲のドワーフ達は頼もしそうに見ており、士気の向上には一応役に立っているようである。
「もう一度」
 保は手持ちの符の残りで再び『五色光符陣』を放ち、火勢の弱い範囲を更に広くした。
「よし! 皆の者よ、疾く急ぐがいい。帰路はこちらで作っておくから安心せい」
 そしてミグとミリアに見送られ、アルマがバイクで、ざくろとアデリシアと保が馬で炎の中に飛び込んでゆく。
「こちらはまず避難のための防火帯を設けて火がこれ以上広がらないようにしなければならぬ。生半可な消火などこの規模の火事には役に立たぬゆえ、火事の最先端部分の木々を伐採して防火帯を作るのじゃ!」
 ミグは坑道から逃げる事が出来ていた鉱夫達に命じた。
「よっしゃあ! やるぞお前ら!」
「おぅ! 斧取ってくらぁ」
 役割を与えられた鉱夫達は奮い立ったが、手元に伐採道具がないため準備に少々時間がかかった。
「ミグ達は道を作るぞ。何人かついて来るのじゃ」
 その間にミグはミリアと兵士を何人か連れて『五色光符陣』で火勢の弱まった場所に踏み込んだ。
「切り開くならやはりここじゃな」
 そして道の先の炎に向かって『ファイアスロワー』を放射。炎の属性を宿したマテリアルが進路上の草木を破壊してゆく。
 『ファイアスロワー』で爆発は起きないため爆風消火のような効果は及ぼさなかったが、燃焼物の絶えた場所の火勢は確実に弱まった。
「この道を確保するぞ」
 ミリアは兵士達と共に火勢の弱まった現場に飛び込み、周囲に水や砂を撒いてゆく。
 周囲はまだ炎が燃え盛っているため、火の粉は飛んでくるし火で身体が炙られる。
「怪我にも火にも負けるかぁ!」
 ミリアは傷の痛みを我慢し、小さな火傷を幾つも負って煤まみれになりながらも消火活動を続けた。
 その後もミグが『ファイアスロワー』で焼き払って場所の確保を繰り返し、徐々に通れる道を構築していった。
 
 一方、坑道では5人のドワーフ達が仲間を救うために穴を掘り続けていた。
「くっそ! なかなか貫通しねぇ」
「人手を呼びに行ったヤツはまだ戻らねーのか?」
「この火事じゃぞ。本当に来るのか?」
「それは……」
 皆が考えまいとしていた事を口に出された途端、場の雰囲気が重くなった。
「ん? 何か聞こえないか」
 不意に鉱夫の一人が耳を澄ました。
 他の者も耳を澄ませると、確かに何かエンジン音のようなものが聞こえてくる。
「誰か来ようとしてるじゃねーか?」
「まさか!」
「ちょっと見てくる」
 1人の鉱夫が坑道から外に出た時、一台のバイクが炎を突き破って現れた。
「うぉおっ!?」
「ドワーフさん達無事ですかー?」
 火に炙られて少し焦げたアルマが驚いている鉱夫に笑みを向ける。
 少し遅れてざくろとアデリシアと保の馬も炎を突き破って現れた。
「あはは、水かぶっててもやっぱり熱いねー」
 ざくろは服や鎧に引火した火を叩いて消しながら苦笑いする。
「よく頑張ってくれたね。さ、これを飲んで」
 保は火に炙られて消耗している愛馬にヒーリングポーションを飲ませた。
「火傷の酷い者はいないか? いるなら私が治療を」
「そう言うアデリシアが一番酷いと思うよ」
 ざくろの言うように、水を被るなどの耐火対策を行わなかったアデリシアが最も火傷を負っていた。
「私なら平気だ。すぐに救助活動を始めよう」
「助けに来てくれたのか!?」
「はい。どこかに水はありますか?」
「あるぞ。そっちだ」
 アデリシアは桶を持って、教えられた水場に向かう。
「坑道の崩落で閉じ込められた人がいるんですよね。その人達はどうなりましたか?」
「それが……まだ掘り出せてない」
 保の質問に鉱夫が悔しげに答える。
「なら、ざくろ達も穴掘り手伝うよー」
「僕も手伝います……けど筋力には自信ないんですよねぇ」
 ざくろが張り切る一方、アルマはやや弱気だ。
「2人は先に行ってて下さい」
 保はマントを脱ぐと木の枝と組み合わせ、即席のモッコを作り始めた。
「おーい! 助けが来たぞ!」
 鉱夫が坑道の奥へ声をかける。
「本当か!」
「あの炎の中をか?」
「すげぇな」
 奥の鉱夫達が出てきて感嘆の声で迎えてくれた。
「僕はアルマといいます。エルフですけど。ドワーフさん達皆さん、とってももふもふしててかわいいですー。だいすきですっ」
「え?」
「は?」
 嬉しくなったアルマがいきなりの大好き発言すると、鉱夫達は一斉に戸惑った。
「あ、今はそんな場合じゃありませんでしたね。閉じ込めれたドワーフさんは何処ですか?」
「あ……あぁ、こっちじゃ」
 鉱夫達は気を取り直して3人を坑道の奥へ連れて行った。
「この先だ」
 現場に着くと保は『生命感知』を発動。展開した結界内の生命反応を探る。
「……居ました。確かにこの先ですね。2人ともまだ生きています」
「本当か!」
「よっしゃあやるぞ!」
「おぉ!!」
 仲間の生存が確認できた事で鉱夫達はやる気を漲らせた。
「蒼断で掘れればいいのですが……」
 筋力に自信のないアルマは試しに『禁じ手《蒼断》』で岩壁を斬りつけた。
 すると大きな裂け目を入れる事はできたが、岩の重みで裂け目はすぐに閉じてしまう。
 掘削に必要なのは砕く力と掘る力なため、一瞬だけ剣が構築される『禁じ手《蒼断》』は掘削には不向きであった。
「ダメですか……」
「ここはざくろに任せてよ」
 アルマに代わってざくろが進み出る。
「一刻も早く道を通す。貫けドリル!」
 右腕に装着された魔導ドリル「ドゥンケルハイト」が唸りを上げて猛回転し、岩壁を砕き割ってゆく。
「うおぉ!」
「もうあんなに掘れた」
「ドリルすげぇ!!」
「シンクロンドライブマキシマム!」
 更に『超重錬成』でバケットクローを巨大化させ、土砂を掻き出していく。
「なんだあの腕!?」
「デケェ!」
「なんてパワーじゃ!」
「スゲェぞ兄ちゃん!!」
「いや、姉ちゃんか?」
 ざくろの猛烈な堀りっぷりに鉱夫達が喝采を上げる。
「ワシらも負けてられんぞ!」
 鉱夫達もシャベルやツルハシを岩壁に打ち込んでいった。
 アルマもツルハシを借りて打ちつける。
「ひー! ひー! 明日は筋肉痛確定ですね」
 砕けた岩も逐次回収して排出。
 保も自作のモッコでせっせと運び、更には掘り進んだ分の坑道の補強も手伝った。
「掘っても崩れちまったら意味ねーからな。そこに気づくとは、鬼の兄ちゃん才能あるぜ」
 ハンター達が手伝った事により作業スピードは格段に上がり、保の『生命感知』で位置を探りつつ慎重に掘ってゆく。
「もう少し。後1メートル程です」
 そして遂に人が抜けられるだけの穴が空いた。
「ゲンジー! グマー! どこだー!」
 暗がりの中を明かりで照らしながら呼びかける。
「ここだー……」
 弱々しい声がした方に向かうと、そこには片足が岩の下敷きになっているドワーフがいた。
「助けに来てくれたのか……」
「すぐ出してやるからなゲンジ」
 皆で協力して岩をどける。
「お待たせ、もう大丈夫だよ」
 ざくろは安心させるために微笑みかけると、足の容態を診た。
 かなり酷いが『サバイバル』のスキルで応急手当をする。
「そっちにグマが……」
 助けられたドワーフが指差す先で別のドワーフが倒れていた。
 診ると、目立った外傷はないが意識がない。
「ここじゃ満足な治療もできません。一旦出ましょう」
 保はロープを輪にして8の字を作り、背負子にしたものを使って、意識不明者をしっかり背負う。
 ざくろとアルマは骨折者に肩を貸した。

 その頃、アデリシアはたった1人で炎と立ち向かっていた。
 髪は焦げ、顔は煤け、身体は熱で焼け、指先には幾つもの火ぶくれができた。
 それでもアデリシアは水場と火事場を何度も往復し、桶で水を撒く。
 一瞬火の勢いは弱まるものの、既に大火となっている炎を完全に抑える事はできない。
 火災は徐々に範囲を広げ、坑道の入口近くまで迫っていた。
(もう後がない……)
 アデリシアの顔に焦りが滲む。
「お待たせアデリシア」
「ざくろさん!」
 坑道の奥から鉱夫達を連れてざくろを見た途端、アデリシアの顔に安堵と歓喜が浮かぶ。
「うお! すんげー燃えてるじゃねーか!」
「消せ! 早く消せぇ!」
 眼前まで迫っている火事を見た鉱夫達が慌てて消火活動を始める。
「その人は足を怪我しているのか?」
「うん。診てあげてくれる」
 アデリシアは骨折者の診断を始めた。
「……骨折か。複雑骨折していた場合『フルリカバリー』で治すと骨が変にくっついて後遺症が残る可能性があるが、どうする?」
「え! あの……それはちょっと……」
 骨折者の顔が青褪める。
「なら、添え木に包帯で安静が安定だな」
「こっちの人は意識がないんです」
 続いて保が意識不明者を見せる。
「……すまない。私では原因が分からない。もし脳内出血なら『フルリカバリー』でも治らない。一刻も早く医者に診せるべきだ」
「おい。治療より逃げる方が先じゃねーか? 火の勢いがヤベぇ!」
 鉱夫の1人が焦った様子で促してくる。
 その時、炎の向こう側から巨大な斧が突き出た。
 巨大な斧は地面に叩きつけれ、その勢いで土砂が炎ごと飛び散る。
「な……なんだぁ?」
 斧はすぐに縮み。そこには炎をバックに『め』の文字を背負った全身甲冑がいた。
「皆の者! 迎えに来たぞ!」
 それは、『ファイヤースロワー』が尽きたため、最後は『超重練成』で強引に道を切り開いたミグだった。
「う……嘘だろ」
「道だ!」
「炎の中に道がある!」
 ミグの後ろでモーゼの十戒のごとく炎が分かれている光景を見た鉱夫達がどよめく。
 それはミグだけでなく、ミリアや兵達が身を焦がして作り上げた命の道だ。
「ほれ、さっさと走れぇ!」
 ミグが走り出すと鉱夫達も一斉に駆け出した。
 ハンター達も馬やバイクに乗って後に続く。
 そして。
「おかえり!」
「よく無事だった!」
「はは、死ぬかと思ったわい」
「助けてくれて本当ありがとう!」
「バカ、泣くなよ」
「だってよぉ……」
 帰還と再会を果たした鉱夫達が熱い抱擁を交わした。
「皆さん無事でよかったですぅー!」
 そのどさくさに紛れてアルマもドワーフ達と抱擁を交わす。
(あぁ……たくさんのもふもふが……)
 大勢のドワーフともふもふできたアルマは至福であった。
 
「怪我人は私の所に来てくれー」
 アデリシアはすぐに臨時治療院を始め、怪我をした者は全員治療してもらえた。
 しかし意識不明者はやはり目を覚まさない。
 ミリアがヒーリングポーションを飲ませたが、飲み込んでくれない。
「仕方ない」
 ミリアはヒーリングポーションを口に含もうとしたが、その前に瓶をアルマに取られた。
「口移しなら僕がやります」
「お前……ドワーフとキスまでしたいのか?」
 アルマの過剰なドワーフ愛にミリアが若干引く。
「違います。ミリアの唇は僕だけのものだからです」
 不意打ちな言葉だった。
「え?」
 何も身構えていなかったミリアは思わず顔を赤くしてしまう。
 その間にアルマは口移しでヒーリングポーションを飲ませた。
「……やっぱり目を覚ましませんね」
「そ、そうか。じゃあ医者に診せるしかないな」
 まだ少し照れの残るミリアだが、骨折者と意識不明者の搬送の準備を始める。

 保は鉱夫達に何やら思うところがありそうな様子なので話を聞いてみる事にした。 
「鉱山に事故は付き物とはいえ、災難でしたね」
「まったくじゃ。これも新族長が掘削を急がせたせいじゃ」
 どうやら無理な工期で現場の者は相当疲弊していたらしい。
(何か、人間関係の不協和音がありそうですね……)


 後日、意識不明者は目を覚まし、骨折者の足も無事治ったとハンター達に知らされた。
 未曾有の山火事ではあったが、死者は0で抑えられたのである。

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参加者一覧

  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • 戦神の加護
    アデリシア・R・時音(ka0746
    人間(紅)|26才|女性|聖導士
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 英雄譚を終えし者
    ミリア・ラスティソード(ka1287
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • ユグディラの準王者の従者
    保・はじめ(ka5800
    鬼|23才|男性|符術師

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/10/29 14:28:52
アイコン 相談卓
保・はじめ(ka5800
鬼|23才|男性|符術師(カードマスター)
最終発言
2016/11/01 20:07:14