ゲスト
(ka0000)
足がつかない子供たち
マスター:からた狐

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~20人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2016/11/02 07:30
- 完成日
- 2016/11/28 19:43
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
冬の訪れも感じる昨今。それでも、各地では祭りがおこなわれている。
ゾンネンシュトラール帝国でも、豊穣祭だ、月見だ、南瓜だ、ビール祭りだ、と。探せば毎日のように賑やかさを味わうこともできる。
祭りで欠かせないのが催し物。何かしらの芸人が祭りに呼ばれ、客を喜ばせる。いや、芸人たちは呼ばれなくても行く。大勢の客が集まるならば、そこは絶好の稼ぎ場所。日銭だろうが大金だろうが、手に入れる機会は逃せない。
どこからか来て、どこかへ行く。それを気にする者はほとんどいない。
●
とある祭りの会場に呼ばれた芸一座。
しかし、公演準備にかかろうとした親方は所属団員が足りないと気付く。最年少のアーベル。歪虚の襲撃により家族を失い、縁があって芸一座に身を寄せた子だ。
アーベルは最早身寄りも帰る場所も無いと、子供ながらに理解していた。仕事は雑用が主だが、自分も舞台に立ちたいと他の団員たちの芸も覚えていった。
筋はいいようで。親方としても、今回ちょっとぐらい客前で演じさせてみるかと考えていたのだが……。
「――逃げたか」
親方は肩を落とす。団員がいなくなるのはわりとある。売り上げを持って逃げた奴すらいる。勿論、アーベルがそんな奴とは思っていない。
しかし、街から街への移動が多いのは確か。多くの人に触れ合う楽しさはあるが、その分誘惑に触れる機会も多い。日銭を稼ぐ程度の芸を持てば、団を抜け出しても何とか食いつないでいくぐらいはできる。子供というのも利点だ。
私物は残っているが、元々旅から旅への根無し草。本当に大事な物は普段から身に着けているはず。
「昨夜も抜け出して芸の練習とかやってたみたいだからねぇ。探したけどいないし、事故でもないようだし。やっぱり出て行ったのかねぇ」
「けっ。最近のガキは辛抱が無いだけだろ。さっき出会った旅の劇団でも子役がすぐいなくなるとぼやいていたさ」
団員たちの感情は様々。けれど、わりと淡々とアーベルがいなくなったことを受け入れていた。
滞在した街で、警備兵に事情を話して失踪届は一応出したものの、誰も期待はしていない。兵士側にしても、流れの旅芸人が一人いなくなったというだけでは、通り一遍の調査はしても行方を追うということはあまりしない。
状況が変わったのは数日後。日程通りに一座が次の街についた時だった。
「アーベル! お前、何してるんだ!?」
いなくなったはずのアーベルが何故かそこにいた。何があったのか、あちこち怪我をしている。
「親方! よかった。お願い、皆を助けてよ」
驚く一座を前に、アーベルはほっと息をつくとそのまま泣きながらすがり付いてきた。
曰く。
いなくなった日の夜。アーベルはいつも通りこっそりと、一座から隠れて芸の練習をしていた。練習に集中する為と下手を笑われたくなかったからで、失踪する気などさらさらなかった。
しかし。一人で練習を続けていると、夜の暗さに紛れ、近付いてきた人に気付かず。いきなり袋詰めにされて連れ去られたのだという。
連れて行かれたのはどこかの山奥。洞窟を利用したらしい粗末なアジトに連れ込まれると、枷をつけられ鎖でつながれた。アーベル以外にも十人ほど子供ばかりが捕まっていた。
アーベルは覚えた芸で運良く枷を解き、自由になれた。
他の子供たちも助けようとしたが、一斉に逃げてはまた捕まる。なので、アーベルが一人抜け出して助けを呼ぶことになった。いなくなったことがばれないよう、身代わり人形を作り、他の子供らの協力の下、アーベルは逃げ出した。
誘拐犯たちは、誰もが屈強で野卑で暴力的な気配を撒き散らしている。が、いるのは子供ばかりと油断もしていた。
「もう数日もすれば取引相手が来る。今日捕まえたガキで充分だろ。お前らもそろそろおとなしくして、ここの警備を固めろ。見つかるようなへまをした奴はいないだろうな」
「いてもこんな山奥まで探しには来ないだろうよ。わざわざ帝国中を巡ってそういうガキばかり選んだしな。……しかし、ガキばかり集めて一体何するんだか」
「それは詮索しないこった。こっちは言われた通りの商品を出せば、取引成立さ」
「しかし、大丈夫ですかねぇ。あっしが言うのもナンですが、全身隠してどうもうさんくさい連中でさぁ」
「なぁに、隠したところで華奢な奴らばかりだったじゃねぇか。女には見えなかったが……何にせよ、難癖つけるならこっちの腕っ節を見せるだけさ」
一仕事終えて酒を飲み、浮かれているそばをアーベルはなんとか潜り抜け。入口にいた見張りも交代の隙をついて脱出すると、後はうろ覚えの地形や星を元に、一座がいる街を目指した。
●
そして、ハンターオフィスに依頼が出される。
アーベルの証言を元に誘拐犯のアジトを割り出し、近隣から兵を集め包囲は完了している。
犯人たちは二十名。全員が弓や剣で武装。銃を持つ者も確認されている。半数が常に入口中心に周辺を見張っていて、迂闊に近寄れない。
内部の様子がつかめない以上、不用意に突入すれば犯人は子供たちを人質に取るだろうし、洞窟内に抜け道ぐらい作ってあると思われる。
「なので、まずは少人数がアジトに近付き、とらわれた子供たちの無事を確保する算段を整えるべきとなりました。臨機応変な対応も必要なので、これはむしろハンターの方がいいだろうとこちらに話が回って来ました」
子供たちの数は九名。全員が枷と鎖にとらわれ、洞窟の奥でつながれている。
周辺から駆けつけている兵は三十名ほど。そもそも配置されている街の警備も必要なので、これ以上の増員も難しい。
「最重要は子供たちの安全と救出。犯人たちは必要に応じて、拘束なり制圧なり好きにして下さい。生死問わず、です」
兵士たちはハンターたちに従い、子供らの安全を確保次第、合図をくれたら突入するという。その他、何か作戦があるようなら従うと申し出てくれていた。
ゾンネンシュトラール帝国でも、豊穣祭だ、月見だ、南瓜だ、ビール祭りだ、と。探せば毎日のように賑やかさを味わうこともできる。
祭りで欠かせないのが催し物。何かしらの芸人が祭りに呼ばれ、客を喜ばせる。いや、芸人たちは呼ばれなくても行く。大勢の客が集まるならば、そこは絶好の稼ぎ場所。日銭だろうが大金だろうが、手に入れる機会は逃せない。
どこからか来て、どこかへ行く。それを気にする者はほとんどいない。
●
とある祭りの会場に呼ばれた芸一座。
しかし、公演準備にかかろうとした親方は所属団員が足りないと気付く。最年少のアーベル。歪虚の襲撃により家族を失い、縁があって芸一座に身を寄せた子だ。
アーベルは最早身寄りも帰る場所も無いと、子供ながらに理解していた。仕事は雑用が主だが、自分も舞台に立ちたいと他の団員たちの芸も覚えていった。
筋はいいようで。親方としても、今回ちょっとぐらい客前で演じさせてみるかと考えていたのだが……。
「――逃げたか」
親方は肩を落とす。団員がいなくなるのはわりとある。売り上げを持って逃げた奴すらいる。勿論、アーベルがそんな奴とは思っていない。
しかし、街から街への移動が多いのは確か。多くの人に触れ合う楽しさはあるが、その分誘惑に触れる機会も多い。日銭を稼ぐ程度の芸を持てば、団を抜け出しても何とか食いつないでいくぐらいはできる。子供というのも利点だ。
私物は残っているが、元々旅から旅への根無し草。本当に大事な物は普段から身に着けているはず。
「昨夜も抜け出して芸の練習とかやってたみたいだからねぇ。探したけどいないし、事故でもないようだし。やっぱり出て行ったのかねぇ」
「けっ。最近のガキは辛抱が無いだけだろ。さっき出会った旅の劇団でも子役がすぐいなくなるとぼやいていたさ」
団員たちの感情は様々。けれど、わりと淡々とアーベルがいなくなったことを受け入れていた。
滞在した街で、警備兵に事情を話して失踪届は一応出したものの、誰も期待はしていない。兵士側にしても、流れの旅芸人が一人いなくなったというだけでは、通り一遍の調査はしても行方を追うということはあまりしない。
状況が変わったのは数日後。日程通りに一座が次の街についた時だった。
「アーベル! お前、何してるんだ!?」
いなくなったはずのアーベルが何故かそこにいた。何があったのか、あちこち怪我をしている。
「親方! よかった。お願い、皆を助けてよ」
驚く一座を前に、アーベルはほっと息をつくとそのまま泣きながらすがり付いてきた。
曰く。
いなくなった日の夜。アーベルはいつも通りこっそりと、一座から隠れて芸の練習をしていた。練習に集中する為と下手を笑われたくなかったからで、失踪する気などさらさらなかった。
しかし。一人で練習を続けていると、夜の暗さに紛れ、近付いてきた人に気付かず。いきなり袋詰めにされて連れ去られたのだという。
連れて行かれたのはどこかの山奥。洞窟を利用したらしい粗末なアジトに連れ込まれると、枷をつけられ鎖でつながれた。アーベル以外にも十人ほど子供ばかりが捕まっていた。
アーベルは覚えた芸で運良く枷を解き、自由になれた。
他の子供たちも助けようとしたが、一斉に逃げてはまた捕まる。なので、アーベルが一人抜け出して助けを呼ぶことになった。いなくなったことがばれないよう、身代わり人形を作り、他の子供らの協力の下、アーベルは逃げ出した。
誘拐犯たちは、誰もが屈強で野卑で暴力的な気配を撒き散らしている。が、いるのは子供ばかりと油断もしていた。
「もう数日もすれば取引相手が来る。今日捕まえたガキで充分だろ。お前らもそろそろおとなしくして、ここの警備を固めろ。見つかるようなへまをした奴はいないだろうな」
「いてもこんな山奥まで探しには来ないだろうよ。わざわざ帝国中を巡ってそういうガキばかり選んだしな。……しかし、ガキばかり集めて一体何するんだか」
「それは詮索しないこった。こっちは言われた通りの商品を出せば、取引成立さ」
「しかし、大丈夫ですかねぇ。あっしが言うのもナンですが、全身隠してどうもうさんくさい連中でさぁ」
「なぁに、隠したところで華奢な奴らばかりだったじゃねぇか。女には見えなかったが……何にせよ、難癖つけるならこっちの腕っ節を見せるだけさ」
一仕事終えて酒を飲み、浮かれているそばをアーベルはなんとか潜り抜け。入口にいた見張りも交代の隙をついて脱出すると、後はうろ覚えの地形や星を元に、一座がいる街を目指した。
●
そして、ハンターオフィスに依頼が出される。
アーベルの証言を元に誘拐犯のアジトを割り出し、近隣から兵を集め包囲は完了している。
犯人たちは二十名。全員が弓や剣で武装。銃を持つ者も確認されている。半数が常に入口中心に周辺を見張っていて、迂闊に近寄れない。
内部の様子がつかめない以上、不用意に突入すれば犯人は子供たちを人質に取るだろうし、洞窟内に抜け道ぐらい作ってあると思われる。
「なので、まずは少人数がアジトに近付き、とらわれた子供たちの無事を確保する算段を整えるべきとなりました。臨機応変な対応も必要なので、これはむしろハンターの方がいいだろうとこちらに話が回って来ました」
子供たちの数は九名。全員が枷と鎖にとらわれ、洞窟の奥でつながれている。
周辺から駆けつけている兵は三十名ほど。そもそも配置されている街の警備も必要なので、これ以上の増員も難しい。
「最重要は子供たちの安全と救出。犯人たちは必要に応じて、拘束なり制圧なり好きにして下さい。生死問わず、です」
兵士たちはハンターたちに従い、子供らの安全を確保次第、合図をくれたら突入するという。その他、何か作戦があるようなら従うと申し出てくれていた。
リプレイ本文
賊の脱出路探しは芳しくなかった。アジトの洞窟からどちらに向かって伸びているのか、その距離はどの程度なのか。外からうかがうのは難しい。分かったのは、この近辺にそれらしい場所はない、という程度。引き続き探してもらっているが、その結果を待ってからでは時間がかかりすぎる。
「奴らに気取られては意味ないからな。短時間の探索の結果としては十分か」
仕方がない、と、エアルドフリス(ka1856)は気持ち切り替え、アジトを見つめる。脱出路を塞いだなら、犯人たちを押さえやすくなるが、仕方ない。
洞窟周辺に散らばる人影。目立たない恰好で手には武器を持ち、周囲をうろついている。とはいえ、山奥で気も抜けているのだろう。真剣に隠れようという気配はなく、その為少し離れた位置からでも動きを掴めている。ただ、周囲を気にしてどこか苛立っている様子にも見えた。
「……。誰かを待っているようだね」
「取引相手、という所では。子供をさらって人身売買ですかね? 許せないもののオンパレードですよ!」
首を傾げるジュード・エアハート(ka0410)に、ディーナ ウォロノフ(ka6530)は推測する。こんな山の中に賊を尋ねる輩と言えば限られる。
商品は子供たち。非道な犯罪にハンターたちは不快感しかない。
「人身売買の時点で情状酌量の余地無し。論外だが。……特に子供はダメだ、子供は」
メンカル(ka5338)も表情には出さないが、相手に容赦する気は無い。
「……。見張りの交代終了。警戒はしているが、誰も来ないとなめてもいる。――しかし。歪虚の脅威を前にしても、今だ同じヒトを傷つけるか。獣の縄張り争いよりもひどい業だな」
「他人の子供を食い物にするというのは理に叶っているな。同族殺しは動物もする。……何、人としてそれが許されるかどうかは別問題だ」
超聴覚で周囲を探っていたリュカ(ka3828)が、不愉快そうに状況を説明。
門垣 源一郎(ka6320)の意見は皮肉にも聞こえるが、賊に対する感情は皆と全く変わらない。
樹木にも似たリュカの傍では、戻って来たふくろうが眠そうに羽繕いをしている。ファミリアズアイで敵の伏兵探しなど手伝ってもらったが、周囲に潜んでいるのは味方の兵士ばかりだ。
この状況を察して、さっさと賊たちを切り捨てたのか。それとも、単に日を考えているのか。
ともあれ、敵に加勢が無いならチャンスだ。
種を越えた安寧も遠い夢か。ただ今は、捕らわれた若い芽を傷つけずに取り返して守ることを望み、行動を開始する。
●
外をうろつく見張りは十名ほど。たまに人が入れ替わる。
周囲に気を配る人数が多い分、近寄るのは大変だが、そこは百戦錬磨のハンターたち。距離をあっという間に詰めていた。
それぞれで有利な位置を取ると、まず動いたのはエアルドフリスだった。集中できる場所を確保すると、雨音と共に濡れた姿で、エクステンドキャストでマテリアルを練り上げる。
青みが入った目で見張りたちの位置を確認すると、円環成就弐を放つ。淡い蒼色の燐光が広がれば、包まれた敵は声も無く倒れ、そのまま大地を枕に高いびき。……眠った後の方がうるさいかもしれない。
「お、おい。どうし――」
範囲から漏れた賊は突然倒れた仲間に狼狽したが、それもつかの間。用意していたジュードが無言のまま短弓「ハラーツァイ」で引く。
源一郎も相手の口を塞いで黙らせると、一撃で急所を狙い短剣を突き立てる。
残っていたわずかな賊たちも、何が起きたか分からない内に永遠の眠りへと誘われていた。
リュカが待機していた兵士たちを呼びよせる。三人組三班が変わらず脱出路を探しているが、残りは短い時間の後に駆けつけてきた。
十名の兵が眠った見張りたちを取り押さえ、そのまま外を警備。十名がハンターと共に中に入り、残る一人は外と中をつなぐ連絡係として入口待機する。
「通路に侵入者感知のトラップとか無いですよね」
こっそりと洞窟を覗いたディーナが、内心の不安を口にする。
蛇からの目と超聴覚で探りを入れていたリュカも断言はできない。
「子供のアーベルが抜け出せたのだし、監視はザルね。でも、通路は落としやすそうにしてある――誰か出てくるよ。騒がれる前に突入開始!」
指示する間も無く、中から人が現れる。
「おい、何かあったか? ……なんだ、てめぇら!」
異変を察し、何の気無く様子見に来たらしい賊が、ハンターたちを見つけて声を上げた。即座にディーナから飛んだ青霜が賊の動きを阻害する。
だが、異変は感じたらしい。腐臭がする洞窟内で、くつろいでいた他の連中の気配が変わった。
「ちっ! いつの間に来やがったか!!」
続々と賊が臨戦態勢に入り、武器を向けてくる。
こうなると、もう密かに動く必要もない。
エアルドフリスが挨拶代わりに、ライトニングボルトを放った。一直線に伸びる雷撃が斜線上の敵を撃ち倒すと共に、賊が事態を説明するには十分な行為だった。
乱入してきたハンターたちに、賊たちが矢を放ち、銃声すら響かせる。さすがのハンターたちもこれらを真正面から受ける気は無く、手近な家具を盾に身を隠すしかない。
「限られた場所で飛び道具を使っても、使い手の位置がすぐにばれる。……子供たちにこんなひどいことをする悪党への思いやりなんて、これっぽっちも持ち合わせちゃいないんだから!!」
幻影の翼が羽ばたくと、金の瞳に怒りを燃やしてジュードの弓から次々と矢が放たれる。弾幕として放たれる矢の数に、賊の方も身動きが制限される。
「やっぱり飛び道具は怖いですね」
ほのかに姫茴香の香りを漂わせつつ、ディーナは魔導銃「狂乱せしアルコル」を撃つ。撃つ際、ついは目を閉じてしまうが、それでも賊の誰かがひっくり返るのだから大したものか。
仲間が防衛している間に、賊一人がそっと壁際に近付いていた。壁につけられた不自然なレバーに手を伸ばすが、その賊に対して伸びた手が口を塞ぎ、暗がりに引き込む。
「やはりこれが崩落の仕掛けか。ああ、声は出さなくていい。目で合図でもしろ」
源一郎は賊に短剣「バティル」を突き当て、声を出さないよう指示しつつ尋ねる。
賊はいつの間に回り込んだのか、と言わんばかりの目をしているが、それに源一郎から答える気は無い。
いかに粗野でも単なる賊が相手。隠の徒で気配を消せば、動き回るのは造作もない。
別の場所でも、賊が突入者たちに向けて声を荒げているが、
「動くんじゃねぇぞ! こっちには人質が……」
「そんなのはいない」
暗がりから、鞭として竜尾刀「ディモルダクス」がしなり、賊を斬りつけていた。
蛇のような緑色の炎をまとい、そこにいたのはメンカル。
外の見張りを片付けた時点で、やはり隠の徒で気配を絶って内部に侵入。散らかるゴミやガラクタに隠れながら奥へと進み、子供らと接触に成功。密かにその枷も解き放って、待機していたのだ。
メンカルの背後で子供らは震えてはいるが、信頼した目を向けている。
賊の方は、まさかそんなアジトの奥まで入り込まれているとは思わず、動揺が態度に出ていた。
その賊の体が、メンカルの前で突然跳ねて倒れる。魔導拳銃剣「エルス」を抜いたジュードの籠鳥は障害物だらけの室内では、本当にどこから来るのか分からない。
子供たちを狙われ、静かな怒りの目を向けているジュードをエアルドフリスが宥めている。一応落ち着いた様子でジュードは制圧射撃を行っているが、賊に向ける感情には変化がない。
撃たれた賊は息があったが、その幸運を感謝するでもなく剣を振るおうとする。
「子供たちの前だ。命は勘弁しておこう」
あくまで子供たちの為に、メンカルはさらにしなる刀を振るい、賊の武器を叩き落とす程度に留まる。
もっとも、暴れられても困る。少なくとも戦闘できないよう、相手を昏倒させるのは忘れない。
●
制圧は瞬く間。子供たちの無事さえ確保できれば、後は盛大に暴れられる。兵士たちもいるので数でも負けるはずはない。
隠し通路から逃げようとした賊もいたが、その後を追った兵士によって、すぐに連行されてきた。
多少兵士に怪我人も出たが、たいした傷でもなく、自分たちで手当てもしている。
「はあ。心配は杞憂でしたねぇ。相手が弱くてよかったです」
改めて入口のからくりを点検して、ディーナはほっと胸をなでおろす。
入口が潰されていたら、出口は隠し通路しかない。そちらも潰されたなら中に閉じ込められていた可能性は十分あった。実際、賊としてはそのつもりで入口にこんな仕掛けを作ったのだろうが、ハンター相手にそこまで俊敏に動けなかった。
子供たちは、捕まっていた恐怖と解放された安堵で泣き騒いでいる。枷を解いたとはいえ、間近で戦闘に巻き込まれては大人でも腰を抜かすものだ。
「よし、いい子だ……大丈夫か?」
涙が止まらない子供たちを、メンカルは宥め、動けないなら抱きかかえて洞窟の外へと逃がす。
眠りこけていた者たちも含めて、賊は兵士たちが頑丈に縛り上げる。
後は連行されるのみ……だが、その前に聞きたいことがあると、ハンターたちは賊と顔を合わせていた。
「いい? こちらには、殺しても記憶を覗く術があるよ。おとなしく投降して」
リュカからの勧告に、賊たちは不貞腐れている。ただ暴れる者はいなかった。
「この子たちを一体どうするつもりだったんだ? 誰と取引するつもりだった」
油断せずにエアルドフリスが尋ねると、案外あっさりと賊は吐いた。
「知らねぇや。ある日、いきなりやってきてとにかくたくさん子供が欲しいと頼まれたんだよ。人であればどんな奴でもいいってなぁ。身分男女問わず、ただ数を集めればよくて、金も良かったのになぁ」
揶揄するような言い草に、源一郎が睨む。手を出したりなどする気は無いが、賊の方は不穏な気配を感じてか一旦口を閉じる。
「取引相手か……。一体何者なんだ。兵士たちにも警戒してもらっていたけど」
考え込むジュードに、賊が吐き捨てる。
「正体は隠していたが、あれは多分エルフだ。子供らをどうすんのか? そんなことまで知るかよ」
自分たちを捨てた相手などもうどうでもいい様子。だが、聞いた内容にハンターたちは顔を見合わせるしかない。
子供たちは、元の場所に戻せる者はその通りに。そうでない者はこれも縁だとアーベルのいる一座が預かることになった。
ハンターたちはオフィスに報告を済ませると、いろいろ心配しながらも依頼は解散とする。
ゾンネンシュトラール帝国で、エルフたちの人さらいが明るみに出るのはそれから間もなくだった。
「奴らに気取られては意味ないからな。短時間の探索の結果としては十分か」
仕方がない、と、エアルドフリス(ka1856)は気持ち切り替え、アジトを見つめる。脱出路を塞いだなら、犯人たちを押さえやすくなるが、仕方ない。
洞窟周辺に散らばる人影。目立たない恰好で手には武器を持ち、周囲をうろついている。とはいえ、山奥で気も抜けているのだろう。真剣に隠れようという気配はなく、その為少し離れた位置からでも動きを掴めている。ただ、周囲を気にしてどこか苛立っている様子にも見えた。
「……。誰かを待っているようだね」
「取引相手、という所では。子供をさらって人身売買ですかね? 許せないもののオンパレードですよ!」
首を傾げるジュード・エアハート(ka0410)に、ディーナ ウォロノフ(ka6530)は推測する。こんな山の中に賊を尋ねる輩と言えば限られる。
商品は子供たち。非道な犯罪にハンターたちは不快感しかない。
「人身売買の時点で情状酌量の余地無し。論外だが。……特に子供はダメだ、子供は」
メンカル(ka5338)も表情には出さないが、相手に容赦する気は無い。
「……。見張りの交代終了。警戒はしているが、誰も来ないとなめてもいる。――しかし。歪虚の脅威を前にしても、今だ同じヒトを傷つけるか。獣の縄張り争いよりもひどい業だな」
「他人の子供を食い物にするというのは理に叶っているな。同族殺しは動物もする。……何、人としてそれが許されるかどうかは別問題だ」
超聴覚で周囲を探っていたリュカ(ka3828)が、不愉快そうに状況を説明。
門垣 源一郎(ka6320)の意見は皮肉にも聞こえるが、賊に対する感情は皆と全く変わらない。
樹木にも似たリュカの傍では、戻って来たふくろうが眠そうに羽繕いをしている。ファミリアズアイで敵の伏兵探しなど手伝ってもらったが、周囲に潜んでいるのは味方の兵士ばかりだ。
この状況を察して、さっさと賊たちを切り捨てたのか。それとも、単に日を考えているのか。
ともあれ、敵に加勢が無いならチャンスだ。
種を越えた安寧も遠い夢か。ただ今は、捕らわれた若い芽を傷つけずに取り返して守ることを望み、行動を開始する。
●
外をうろつく見張りは十名ほど。たまに人が入れ替わる。
周囲に気を配る人数が多い分、近寄るのは大変だが、そこは百戦錬磨のハンターたち。距離をあっという間に詰めていた。
それぞれで有利な位置を取ると、まず動いたのはエアルドフリスだった。集中できる場所を確保すると、雨音と共に濡れた姿で、エクステンドキャストでマテリアルを練り上げる。
青みが入った目で見張りたちの位置を確認すると、円環成就弐を放つ。淡い蒼色の燐光が広がれば、包まれた敵は声も無く倒れ、そのまま大地を枕に高いびき。……眠った後の方がうるさいかもしれない。
「お、おい。どうし――」
範囲から漏れた賊は突然倒れた仲間に狼狽したが、それもつかの間。用意していたジュードが無言のまま短弓「ハラーツァイ」で引く。
源一郎も相手の口を塞いで黙らせると、一撃で急所を狙い短剣を突き立てる。
残っていたわずかな賊たちも、何が起きたか分からない内に永遠の眠りへと誘われていた。
リュカが待機していた兵士たちを呼びよせる。三人組三班が変わらず脱出路を探しているが、残りは短い時間の後に駆けつけてきた。
十名の兵が眠った見張りたちを取り押さえ、そのまま外を警備。十名がハンターと共に中に入り、残る一人は外と中をつなぐ連絡係として入口待機する。
「通路に侵入者感知のトラップとか無いですよね」
こっそりと洞窟を覗いたディーナが、内心の不安を口にする。
蛇からの目と超聴覚で探りを入れていたリュカも断言はできない。
「子供のアーベルが抜け出せたのだし、監視はザルね。でも、通路は落としやすそうにしてある――誰か出てくるよ。騒がれる前に突入開始!」
指示する間も無く、中から人が現れる。
「おい、何かあったか? ……なんだ、てめぇら!」
異変を察し、何の気無く様子見に来たらしい賊が、ハンターたちを見つけて声を上げた。即座にディーナから飛んだ青霜が賊の動きを阻害する。
だが、異変は感じたらしい。腐臭がする洞窟内で、くつろいでいた他の連中の気配が変わった。
「ちっ! いつの間に来やがったか!!」
続々と賊が臨戦態勢に入り、武器を向けてくる。
こうなると、もう密かに動く必要もない。
エアルドフリスが挨拶代わりに、ライトニングボルトを放った。一直線に伸びる雷撃が斜線上の敵を撃ち倒すと共に、賊が事態を説明するには十分な行為だった。
乱入してきたハンターたちに、賊たちが矢を放ち、銃声すら響かせる。さすがのハンターたちもこれらを真正面から受ける気は無く、手近な家具を盾に身を隠すしかない。
「限られた場所で飛び道具を使っても、使い手の位置がすぐにばれる。……子供たちにこんなひどいことをする悪党への思いやりなんて、これっぽっちも持ち合わせちゃいないんだから!!」
幻影の翼が羽ばたくと、金の瞳に怒りを燃やしてジュードの弓から次々と矢が放たれる。弾幕として放たれる矢の数に、賊の方も身動きが制限される。
「やっぱり飛び道具は怖いですね」
ほのかに姫茴香の香りを漂わせつつ、ディーナは魔導銃「狂乱せしアルコル」を撃つ。撃つ際、ついは目を閉じてしまうが、それでも賊の誰かがひっくり返るのだから大したものか。
仲間が防衛している間に、賊一人がそっと壁際に近付いていた。壁につけられた不自然なレバーに手を伸ばすが、その賊に対して伸びた手が口を塞ぎ、暗がりに引き込む。
「やはりこれが崩落の仕掛けか。ああ、声は出さなくていい。目で合図でもしろ」
源一郎は賊に短剣「バティル」を突き当て、声を出さないよう指示しつつ尋ねる。
賊はいつの間に回り込んだのか、と言わんばかりの目をしているが、それに源一郎から答える気は無い。
いかに粗野でも単なる賊が相手。隠の徒で気配を消せば、動き回るのは造作もない。
別の場所でも、賊が突入者たちに向けて声を荒げているが、
「動くんじゃねぇぞ! こっちには人質が……」
「そんなのはいない」
暗がりから、鞭として竜尾刀「ディモルダクス」がしなり、賊を斬りつけていた。
蛇のような緑色の炎をまとい、そこにいたのはメンカル。
外の見張りを片付けた時点で、やはり隠の徒で気配を絶って内部に侵入。散らかるゴミやガラクタに隠れながら奥へと進み、子供らと接触に成功。密かにその枷も解き放って、待機していたのだ。
メンカルの背後で子供らは震えてはいるが、信頼した目を向けている。
賊の方は、まさかそんなアジトの奥まで入り込まれているとは思わず、動揺が態度に出ていた。
その賊の体が、メンカルの前で突然跳ねて倒れる。魔導拳銃剣「エルス」を抜いたジュードの籠鳥は障害物だらけの室内では、本当にどこから来るのか分からない。
子供たちを狙われ、静かな怒りの目を向けているジュードをエアルドフリスが宥めている。一応落ち着いた様子でジュードは制圧射撃を行っているが、賊に向ける感情には変化がない。
撃たれた賊は息があったが、その幸運を感謝するでもなく剣を振るおうとする。
「子供たちの前だ。命は勘弁しておこう」
あくまで子供たちの為に、メンカルはさらにしなる刀を振るい、賊の武器を叩き落とす程度に留まる。
もっとも、暴れられても困る。少なくとも戦闘できないよう、相手を昏倒させるのは忘れない。
●
制圧は瞬く間。子供たちの無事さえ確保できれば、後は盛大に暴れられる。兵士たちもいるので数でも負けるはずはない。
隠し通路から逃げようとした賊もいたが、その後を追った兵士によって、すぐに連行されてきた。
多少兵士に怪我人も出たが、たいした傷でもなく、自分たちで手当てもしている。
「はあ。心配は杞憂でしたねぇ。相手が弱くてよかったです」
改めて入口のからくりを点検して、ディーナはほっと胸をなでおろす。
入口が潰されていたら、出口は隠し通路しかない。そちらも潰されたなら中に閉じ込められていた可能性は十分あった。実際、賊としてはそのつもりで入口にこんな仕掛けを作ったのだろうが、ハンター相手にそこまで俊敏に動けなかった。
子供たちは、捕まっていた恐怖と解放された安堵で泣き騒いでいる。枷を解いたとはいえ、間近で戦闘に巻き込まれては大人でも腰を抜かすものだ。
「よし、いい子だ……大丈夫か?」
涙が止まらない子供たちを、メンカルは宥め、動けないなら抱きかかえて洞窟の外へと逃がす。
眠りこけていた者たちも含めて、賊は兵士たちが頑丈に縛り上げる。
後は連行されるのみ……だが、その前に聞きたいことがあると、ハンターたちは賊と顔を合わせていた。
「いい? こちらには、殺しても記憶を覗く術があるよ。おとなしく投降して」
リュカからの勧告に、賊たちは不貞腐れている。ただ暴れる者はいなかった。
「この子たちを一体どうするつもりだったんだ? 誰と取引するつもりだった」
油断せずにエアルドフリスが尋ねると、案外あっさりと賊は吐いた。
「知らねぇや。ある日、いきなりやってきてとにかくたくさん子供が欲しいと頼まれたんだよ。人であればどんな奴でもいいってなぁ。身分男女問わず、ただ数を集めればよくて、金も良かったのになぁ」
揶揄するような言い草に、源一郎が睨む。手を出したりなどする気は無いが、賊の方は不穏な気配を感じてか一旦口を閉じる。
「取引相手か……。一体何者なんだ。兵士たちにも警戒してもらっていたけど」
考え込むジュードに、賊が吐き捨てる。
「正体は隠していたが、あれは多分エルフだ。子供らをどうすんのか? そんなことまで知るかよ」
自分たちを捨てた相手などもうどうでもいい様子。だが、聞いた内容にハンターたちは顔を見合わせるしかない。
子供たちは、元の場所に戻せる者はその通りに。そうでない者はこれも縁だとアーベルのいる一座が預かることになった。
ハンターたちはオフィスに報告を済ませると、いろいろ心配しながらも依頼は解散とする。
ゾンネンシュトラール帝国で、エルフたちの人さらいが明るみに出るのはそれから間もなくだった。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
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面白かった! | 4人 |
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子どもたちを救い出せ! ジュード・エアハート(ka0410) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2016/11/02 05:40:09 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/10/29 15:11:36 |