• 郷祭1016

【郷祭】出店、三人娘の焼パスタ☆

マスター:奈華里

シナリオ形態
イベント
難易度
やや易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
少なめ
相談期間
7日
締切
2016/11/13 15:00
完成日
2016/11/24 01:54

このシナリオは2日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「おかしいわね…今回は来ないのかしら?」
 ここはとある村の作業場だ。彼女達はここでいつも収穫した野菜を仕分けし出荷している。
 で彼女らがいう『今回』とは、もちろん郷祭の事である。
「いつもならもうイケメンさんの実行委員がやってきて依頼してくるのにね~」
「流石に四度目はやりにくかったとか?」
 郷祭に出店した事をきっかけに、彼女達は実行委員に気に入られここ何度が彼等を手伝っている。
 スタッフ向けの仕出し弁当を作り、それが一般販売もされるようになり収益を上げたのはまだ記憶に新しい。だから今回も新しいメニューをと依頼が来ると思っていたのだが、それが今のところ全くなのだ。
「うーん、どうしたのかなぁ?」
 今度も手伝えるとばかり思っていた村娘が少しがっかりした様子で呟く。
「ちょっと偵察に行ってくるわ」
 そこで一人がすくりと立ち上がって…彼女が開催会場で見たのは残念な現実――。

「うそ…もう、新しいのできちゃってるの?!」
 既に祭りは後半戦と言っていい。村々の会議が終わって、街では各地の特産物が集まり紹介する催しを行おうと会場は既に急ピッチで仕上げられている。そんな中で配られている弁当を見て、彼女はあ然とした。
 彼女らが以前作った弁当のほかに新たに提供されていたのは温かなシチューやリゾットの類。リアルブルーで言うケータリングというシステムを利用して、近くで作り温かなものを配っているらしい。冷めてしまう弁当に比べて、やはり温もりのある料理はスタッフらにも人気なようだ。
「うぅ…もう物珍しさはないって事なのね…」
 頑張って作ったお弁当――別に販売の方は売れていない訳ではないのだが、ここだけをみれば準備期間中の事。流石に毎日となればやはり飽きが来てしまうのだろう。
「やあ、君は確かいつぞやの…」
 立ち尽くす彼女の姿を見つけて、いつも依頼に来ていた実行委員の青年が彼女に声をかける。
「こんにちは、あの今年は…」
「ごめんね~、依頼しても良かったんだけどさっ。春夏秋と作って貰ってるだろ? だから種類も豊富でもう十分かなと思って」
 驚くほど気さくな言葉遣いで青年が言う。
「十分、ですか」
 だが、村娘達にとってそれは重大な事だった。
 なぜなら彼女らの村には特筆すべき野菜は存在しない。立地がいい分、色々栽培は出来ている為年中それなりの収入はあるのだが、それだけに頼っていくという事はつまり、いつまで経っても『とある村』止まりなのだ。
(もっともっと有名になって、沢山稼いで独自野菜を作りたいのに…)
 ぎゅっと下ろした手を握りしめる。そして、自分の甘さを痛感する。
「大丈夫かい?」
 黙ってしまった彼女に青年は尋ねて…そこで村娘は決意する。
「あの、今からでも参加OKですよね! 今年は私達裏方じゃなくてまた表でやらせて下さい!」
 弁当の開発費が見込めない今、やる事は一つだ。
 彼女はそう思い参加登録を済ませると一目散に村へと戻るのだった。

「で、どうだった?」
 足早に帰ってきた一人に残りの二人が尋ねる。
 すると、彼女はいつかのように闘志を瞳に滾らせて、
「やるわよ、二人共っ! 今度は屋台で他の皆の度肝を抜いてやるわ!」
 と一人だけヤル気モードに突入しているではないか。
『ええっ!? どういうこと?』
 彼女の言葉に慌てる二人であるが、事情を聞いて…彼女らも黙ってはいられない。
「そうね、苗木を買う為にもいっちょやりますかっ」
 腕まくりしてサイドポニーの娘が言う。
「でメニューは決めてるの?」
 そう問うもう一人に、にやり顔のリーダーちゃん。
「それはね」
「それは?」
「焼きパスタよっ!!」
『へ? 焼きぱすたぁ?』
 自信満々に言い切った彼女であるが、別の二人はそれについてはいけない。
 それもその筈、焼きパスタとはリーダーである彼女が勝手に命名した料理である。
「ええーと、それは一体…パスタってスパゲッティとかなら一応焼いてると思うけど…」
「ノンノン、あんなもんじゃないのよ。もっと熱く! 鉄板の上でどっさりと! こないだ街に行った時に聞いたんだけど、もう一つの世界では焼きそばってのが人気らしいの。だから、きっとこっちでもいけるわよ!」
 根拠のない自信であるが、それでもやる気があれば自ずと道は開けていくものだ。
 彼女らは早速茹でた細麵パスタを鉄板にぶちまける。
「で、確か味付けはこうで…」
 後は野となれ山となれ。試行錯誤を繰り返す彼女等であるが、噂だけではさすがに味が定まらない。
 そこで頼りにするのはやはり現地人の記憶だ。
 リアルブルーからの知識を得るべく、ハンターオフィスを尋ね協力者を募集する。
「ついでに当日の手伝いも宜しく…っと、この内容でお願いします」
 さあ、果たして焼きパスタは成功するのか? その全てはハンター達にかかっているのだった。

リプレイ本文

●ソース
 今度のメニューは焼きパスタという事でハンター達もどんなものに仕上がるか興味津々。
 料理好きならば尚の事。
「新しい試みと聞いては居ても立ってもいられませんからね!」
 そう言って、村娘達の作業場にやってきたのは”技”の料理人・アリソン・メープルウッド(ka2772)だった。
 元は下級貴族の出であるが、今は訳あって旅する料理人ハンターをやっている。
「ではまずオーソドックスなものを作るんだよ」
 そんなアリソンであったが、リアルブルーの料理についてはまだまだ知識が及ばないので、天竜寺 詩(ka0396)がまずは基本を。元々焼きそば自体は基本に忠実に作るつもりであったから都合がいい。
『よろしくお願いします』
 アリソン含め村娘達が見守る中、彼女がリアブルを代表し焼きそばの作り方のレクチャーする。
 ちなみにこの場にいるハンターでリアブル出身者は詩を含め計五名。
 うちメニュー開発に手を上げているのは四人もいるから心強い。
「えーと、ソースはあるのかな?」
 材料を丁寧に切りながら詩が問う。
「そこは抜かりないわ」
 そう言ってドンッと瓶を机に置いたのは勿論リーダーちゃん。
 街に出た折に、何軒か回ってそれらしいものを買ってきていたらしい。
「へえ、こっちでもソースがあったとは驚きだな」
 鬼塚 雷蔵(ka3963)が皿に少し出し味見する。
(ん…これは?)
 そこで彼は眉をしかめて…他のリアブル出身者も気付いたらしい。
「もしかして、これって?」
「何か違いますか?」
 様子を見て問う村娘にマリィア・バルデス(ka5848)が己が舌で分析を開始する。
 その隣では星野 ハナ(ka5852)も確認して違和感に首を傾げる。
「私にもくれない?」
 そこで試食担当の浪風 白露(ka1025)も手を伸ばしてソースをぺろり。
 様々な野菜が使われているようで深みはあった。
 しかし、どちらかといえばすっきりしていてとろみにかけているようだ。
「なんつーか、この味はウスターじゃないか?」
「うすたー?」
 村娘の一人が言葉を復唱する。
「ああ、成程。確かに! 焼きそばにはもっと絡みやすい感じのソースを使いますからねぇ」
 ハナも思い出したように手を打つ。
「えっ、じゃあこれだと焼きそばは出来ないの?」
 せっかく購入して来たソースであったが、明らかになった事実にリーダーちゃんがへたり込む。
「まあ、何とかなるわよ。どうせそのまま再現するつもりはないんでしょ?」
 マリィアのその言葉にこくりと頷く彼女。割とこの娘の立ち直りは早い。
「本当はオイスターがいいんだけど、とりあえずやってみるんだよ」
 そこで詩は気を取り直して、焼きそば作りを再開。
 作り方は定番のそれでやるつもりだが、材料はこの後使えるように彼女がチョイスしたものを。豚肉、キャベツの順に炒め、次に舞茸・エリンギを投入する。麺は勿論今回はパスタを使用するが、スパゲッテーニよりも生パスタの方がそれらしく出来るかもとのことで生の中太麺を採用し、予め軽く茹でたものを加える。
 そして、ソースに向かおうとした時、
「ちょっと待った」
 と雷蔵が彼女の手を止める。
「えと、何か?」
「いや、どこかで聞いた事なんだが、ここで出汁を入れて麺をほぐしておくとソースを吸いやすくなって美味く出来る筈なんだ。って事で入れてみないか?」
 意外にも家庭料理が得意だという雷蔵が提案する。
「ほえ~美味しくなるなら構わないんだよ!」
 詩はその言葉を素直に受け入れて、試作用に作られたスープストックを出汁代わりに使い仕上げにかかる。
「成程、ようはパスタのゆで汁と同じでしょうか…」
 密かに飲食店経営を夢見る村娘がそう分析する。
「ですね。私も今後の参考にします」
 そう言ってメモを取るアリソン。
 リアブルの料理を知れるいい機会だとメモを取る手に力が入っている。
「そう言えばお祭りの屋台で入れてるとこ見た事がある気がしますぅ~」
 ハナも今思い出したようで、雷蔵の一言はまさにファインプレーと言えよう。
 そんな彼の活躍を嬉しく思いつつも、複雑なのは雷蔵の嫁候補である白露だった。
(ん~…なんで女子ばかりなんだろ。納得がいかないね)
 確かに料理好きには女子が多い気がするが、世の中を見てみればコックになっているのは男が多いではないか。ならば、もう少しメニュー提案の場に男がいてもいいのにと思う彼女である。
(これじゃあ両手に花どころじゃないし…でも私が嫉妬して割り込むなんて柄でもないし)
 実際当人らに彼女の思う感情があるとは思えないが、それでもやはり気になってしまう。
「出来たんだよ♪」
 そうこうするうちに詩の基本焼きそばは完成した。
 鉄板の火力によりソースの香ばしい香りが漂い、村娘達にとっては初の焼きそば試食会となる。
 硬過ぎず柔らか過ぎずの麺、程よく絡むソースの味。
 本家と違うソースを使っていてもそれなりの味には仕上がっていた。しかし、
「やっぱウスターソースだと水っぽさが残るね。食べれなくはないけど」
 白露が率直な感想を述べる。
「だったらこうすればどうかな? ソースはもう少し煮詰め気味にして、更にこうするの」
 そう言って詩はここに来るまでに買っていたらしいコッペパンに切り込みを入れ麺を詰める。
「おおっ、焼きそばパンか」
「懐かしいですぅ~」
 雷蔵とハナが言う。リアブルでは定番であるが、こちらでは珍しく映るようで…。
「おおっ、なんかバーガーとは違う凄さがある…」
 炭水化物×炭水化物の凶悪コンボにたじろぐクリムゾン勢。
 賛否両論あるだろうが、リアブルの学生に人気だと話せば何となく理解する村娘達。
「うーん、でもホットドッグがある以上インパクトに欠けるのよねぇ。色も地味だし」
 リーダーちゃんがもぐもぐしながら厳しい感想を漏らす。
「だったら、挟むモノを塩味の焼きそばにしてみてはどうだ? パプリカやブロッコリーを使えば彩りも良くなるだろう。色が気になるなら焼きナポリタンもありだと思うが?」
 焼きそばパンを推す訳ではないが、ともあれ色々試してみる事が重要だと雷蔵の援護射撃が飛ぶ。
「面白そうですね。やってみましょう」
 それに乗ってアリソンがナポリタンを、雷蔵が塩焼きそばを調理にかかる。だが、
「んー…残念だけれど、やっぱりちょっと女子には重いわね」
 これはマリィアの言葉。男子受けはいいだろうが、ヘルシー志向の女子には向かないかもしれない。
「うぅ…そうですね。お三人さんが目指す『度肝を抜く』には少し厳しいかもです…」
 依頼書を思い出したアリソン――彼女達の希望は、あくまで皆の注目を集められるくらいの焼きパスタなのだ。
「フッフッフッ…でしたら、ここは私にお任せなんですぅ」
 不敵な笑みを浮かべてハナが言う。彼女の発想は今までも皆を助けていたが…今回は如何に。

●昼食
 一方その頃、同時進行で会場の設営が始まり、三名のハンターと一人の村娘はそちらで作業を行っていた。
「あぁ、思い出しますねー…ピザ窯作りの設営を手伝って頂いた時の事」
 隣りにいる鳳凰院ひりょ(ka3744)との作業を思い出しつつ、村娘が言う。
「へえ、あの日は前日から大変だったんだろ? 後からウタに聞いたよ」
 そう言うのは天竜寺 舞(0377)だ。
 彼女はピッツァ店を出した郷祭の折は当日参加であり、準備には彼女の妹・詩しか出てはいなかったからその時の様子を詳しくは知りえず後から聞いたようだ。
「あの時の作業は徹夜に近かったんだよね。でも、その後の笑顔を思えば…」
 苦労ではなかった。三基のピザ窯を組み立てたあの時に比べれば、今の作業など何の事はない。
 火元は前回同様煉瓦を積んで、簡易的なコンロを作ってその上に鉄板を乗せる手筈だ。
 煉瓦運びには力がいるが台車もあるし、以前の事を思えば数も少なく組み上げに頭を使わない。
 そう、前と違うのは妹がいない事だけ。お土産でも買って帰れば喜んでくれるだろうか。
「すまない。カウンターは必要かね?」
 そこへ黙々とテント張りに精を出していた花(ka6246)が現れて、村娘に指示を仰ぐ。
「あっ、はい。宜しく願いします。イートインと持ち帰りを作るのですが…会計は一所でやってしまうので」
 そこで村娘はぱたぱたとそちらへ向かって、やはり作業が減ったとはいえまだまだやる事は多そうだ。
「あんた、当日は何するんだい?」
 舞が手を動かしながら問う。
「宣伝をするつもりだが」
「だったらチラシも必要かも…いや、そんな暇ないか。でも看板はいるだろう? そもそも店の名前って…」
「問題は山済みだね」
 ふぅと息を吐いてひりょが言う。
「ははっ、問題っていうか楽しいじゃん」
 その言葉に対して舞は笑顔を返し楽しむ姿勢。
「そうだね。何だか学園祭みたいかも」
 こちらに来て学生だった面子はその生活からも引き剥がされた。
 それでも懸命に生きている彼等がこんな場でその頃を思い出す事くらいは許される。
「さ、早く仕上げて…そろそろ飯だろ! ウタの試作品が食べられるかも♪」
 うきうきを隠そうともせず、彼女が言う。
「お昼か…それは少し楽しみだね」
 商品を宣伝する為には試食は欠かせない。
 実はこれをカナリ楽しみにしていた彼であるが、返す言葉は子供っぽくならないよう自然を装う。
「さて、届いたようだよ」
 それから暫くしてお昼が届けられ…ふたを開けた彼らは目を丸くする。
『これは…バーガー?』
 円形の奇妙な姿に皆が呟く。しかし、よく見ればそのバンズはパンではないようだ。
「何なに、軽く蒸して食べて下さい…か」
 添えられていたメモを読んで花が早速作った煉瓦のコンロに火を入れ、鍋に水を張って入れて来た笊をセットする。
(何か変わったものが届いたけど、味はどうなんだろう?)
 それに目を向けつつ、ひりょは傍にあった水を飲む。
 彼らに届けられたそれは、焼きパスタメニュー決定第一号のハナ考案、『ヌードルバーガー』だった。

「とう、ぽいっ、たぁ!」
 何故だかオーバーリアクションで、どこぞの料理漫画かという動きでハナが調理始めたのは少し前の事。
 それでも彼女の凄い所はそんなでもちゃんとした料理になっているし、へたな料理人よりは断然美味いという事だ。というのも彼女は何でもとことん突き詰めるタイプだから。料理は食べる事が大好きだという理由から自炊で得た能力がこれである。
「パスタはかた焼きにしたいのでスパゲッティーニで問題ないのですぅ」
 じゅうじゅうヘラで麺を圧し潰しながら彼女が言う。
「で、こっちのは?」
「八宝菜ですよぉ。リアルブルーの皆さんはご存知でしょぉ…最強中華! 餡かけの定番!」
 少しもったり気味に片栗粉を多めに使っているのは意図している所か。手際よく麺を焼き上げる隣りで、混ぜた卵を準備している。
「うーん…何か出来るのかわくわくですね」
 その様子をアリソンはじっと観察中。料理への興味はまだまだ尽きる所を知らず楽しそうだ。
「そこでこれをこうしてっと…とっておきですよぉ」
 人の目があるとやる気も上がるのか、ハナは手際よく軽く焼いた半熟卵の上に麺を乗せる。
『おおーっ』
 その声に気分をよく彼女はフィニッシュを迎える。
「はいっ、後はこれを乗せて、一気に挟んで完成ですぅ」
 ハナ提案のそのメニュ――それはひと呼んで『ヌードルバーガー』。
 カリッと焼き上げた麺からは八宝菜の餡がのぞく。但し、そのままでは流れてしまうので、バンズ代わりとなる麺に卵をコーティングして火が入り切る前に餡を挟んで一気に閉じこめる。これこそが、彼女の『焼きパスタ』に他ならない。
「美味しそうね」
 熱々の湯気が立ち昇る中、白露がそれに手を伸ばす。が、
「ッ!?」
「大丈夫か!」
 鉄板で直に焼いていた麺は思いの外熱かった。慌てて水で冷やす白露に雷蔵が付き添う。
「このままでは出せそうにないわね」
 その光景を前にマリィアが言う。
「しまったのですぅ…」
 ハナもその事に気付かされて、しばし反省。
 アイデアの事ばかりを優先させて、食べる時の事まで考えていなかった彼女である。
「いや、でも味はなかなかだよ!」
 詩が冷めてきたのを頬張り感想を述べる。
「俺も餡かけはありだと思っていたからな。いいんじゃないか?」
 雷蔵もこっそりフォロー。白露もぽそりと「美味しい」の声。
「手間はかかるけど、これは度肝を抜けるわね!」
 リーダーが確信めいたセリフで立ち上がる。
「なら、この熱さをどうにかしないとですね…」
 かた焼きは冷やしてしまうと更にかたくなってしまう。しかし、出来立ては火傷の恐れ…これは難題である。
 しかし、それはアリソンが解決する。
(かたくなったお米を戻すには温める事が重要…麺も同じだとするとつまりは)
「一度冷まして作り置きをしておいて、出す前に蒸したらどうでしょうか?」
 アリソンが言う。
「それです!」
 その意見に皆が賛成した。

●時短
 一つ目の焼きパスタの決定は早かったのだが、もう一つが決まらない。
「こういうのはどうかしら?」
 そう言ってラタトゥユを持参し、マリィアが仕上げたのはリゾッタータという一部でポピュラーな麺料理だ。
 というのもこのリゾッタータ。別名そのもの『焼きパスタ』と言える一品。
 何故かといえば、本当に焼いて仕上げるから。一般的にパスタと言うと茹でるものだが、これは違う。リゾットの要領でパスタに水分を吸わせ、焼きつつ火を通していく。彼女はソースを絡みやすいようルテーオという名の車輪型パスタを用意し、あらかじめ水に浸しておいたものを鉄板に広げモチモチになるまで丁寧に焼き上げる。
「勉強になるんだよ」
 詩がその作り方に感心する。
「これだと焼き上げるのにあまり時間がかからないしね」
 そう話をしているうちにもさっと出来上がってゆくマリィアのメニュー。
 本当は別のものを考えていたようだが、他の仲間が同じものを提案しているのに気付いて急遽変更したらしい。
 それでもこの早さで、この出来は大したものである。
「ポークチョップまで…」
 短時間で仕上がったそれに村娘も驚きの顔を見せる。
 ただ、しいてあげれば村娘達の思い描くものとは少し違う点。
 それにラタトゥユは以前弁当に近いものを入れている為、珍しさに欠けている。
「という事はこっちもダメですかねぇ」
 ハナのもう一つのメニューであった焼きラザニア。しかしこれも同じ理由で却下となる。
「うーん、場所はそこそこの広さを確保しているんですが、やっぱり屋台ですらね―。手軽さは欲しいかと」
 リゾッタータにしても、ラザニアにしても割と手間がかかるし持ち運びに難がある。彼女自身もお祭りのジャンク感を出したかったらしいが、少しばかり村娘達の希望と方向性がずれてしまったのが勿体ない。それにイートインスペースを作るとはいえ、余り時間がかかるものだとお客さんを待たせる結果となってしまい、果ては収益の低下にも繋がりかねないと制限も多い。
「ヌードルバーガーは仕込みで何とかできますから鉄板自体はある程度広く使えると思うのですが…」
 作業が多いと広くても意味がない。一同の頭を悩ませる。
「でも、出来る事なら彼女達の野菜を沢山使ったメニューにしたいわよね」
 最終目的は彼女達の村が有名になる事だとすれば、屋台の料理に使うものはやはり彼女達の作っているものに絞りたいとマリィアは思う。
 そんな気遣いを嬉しく思うからメニュー決定は慎重にならざる負えない。
「時短の方法はいいと思うので、活かしたいですよね」
 息詰まる作業場――少し重い空気がその場を包む。
「すまない。だったら原点に返ってさっきの焼きナポリタンを卵で包んだオムナポはどうだろうか?」
 雷蔵がこの空気をどうにかしようと意見する。
 だが、オムナポと言えば…知っている者はピンとくる組み合わせ。
 雷蔵はいなかったから無理もないが、春弁当のメインメニューはこれに他ならない。
 加えて余談であるが、商品化が進んでいた筈の弁当なのだが、時期を逃した事もありどういう手違いか一般向けの発売がズレて未だに一部のスタッフと店にしか流れていないのは秘密である。
「…いや、でも原点に返るのはいい事かもしれないです」
 アリソンが閃く。
「というと?」
「オーソドックスなパスタでも種類があれば食べ比べる楽しみも生まれますし…鉄板を広く使えるならいっその事、さっきの方法で時短を実現しつつ二種類を一つにして出すのはどうでしょう?」
 二色パスタの食べ比べ…以前ピザ屋として出店した時もこの案は大盛況だったのだ。
「私は白のカルボナーラを担当します。そのつもりで来ていたので」
 アリソンがそう言い、早速考えてきた試作カルボナーラを作り始める。
 まずはスパゲッテーニをリゾッタータの要領で調理。白身魚のスープを小まめに入れてほぐして混ぜ表面をかりっかりにすれば食感のアクセントが出来、風味付けにはガーリックオイルを使用する。そこへ生クリーム、牛乳、卵黄のクリームソースを薄く絡めて、最後に加えるのは濃厚なモッツァレラ。
「いい香り~」
 思わず白露から言葉が漏れる。
 既に許容量以上を試食している気がするのだが、匂いにやられてまだいける気がしてくる。
「始めに作ったナポリタンと合わせれば紅白でいいかもしれないわね」
 マリィアの意見に皆も賛同する。
「食べやすいようにレタスの上に乗せたらどうだ? 焼き肉の時みたいに」
 それを聞いて雷蔵が提案すれば、なかなかもってありかもしれない。
「じゃあ早速やってみましょう!」
 村娘の一声で余っていたナポリタンを軽く温め直す。そして、レタスに巻いて…いざ。
「うんっ、普通においしいね」
 もぐもぐと咀嚼し白露が言う。
「チーズが多く皿が汚れがちなカルボナーラだが、これだと洗うのも楽だ。店の回転率も上がるだろうさ」
 雷蔵がほっとしつつ言う。
「ですね。お野菜が少なめに見えてたけど、これだとヘルシー感もばっちりだよ」
 頬に手を置き微笑みながら詩も満足げに言う。
「持ち帰りの方にはロールキャベツみたいに巻き切った方がよいですよね、これ」
「賛成~!」
 かくて、もう一つの出品メニューが決まり、彼等は当日目指して下準備に取りかかる。
「ちょっと、雷蔵……こっちこっち」
 そんな中、いてもたってもいられなくなって手招きするのは白露さん。
「なんだ、急に?」
 それに気付いて雷蔵が彼女の許に近寄ってくると透かさず一言。
「ダメだからな」
「は?」
「目移りしたら怒るから」
 少し頬を膨らませてそう言う白露を可愛く思う雷蔵であった。

●行列
 今年も秋の郷祭会場は大賑わい。
 各地の名産品が特設会場に並び、それを求めて多くの人々が集まっている。
 中でも各地のお酒を試飲販売している場所は人気が高いようだ。
 それを知って宣伝担当のひりょは早速そこでの御客獲得に乗り出す事にする。
(流石にパスタとなるとお酒のお供は厳しいかな…)
 呼び文句はどうするか、辺りの人々の様子を観察しつつ考える。
(そう言えば村娘達のピザは結構人気だった筈だよね…だとするともしかしたら)
 この祭りは毎年行われている。ならばリピーターもそこそこいる筈だ。
 そこに目をつけて、彼はふぅと息を吸い、いつになく声を張り上げて――。
「去年はピザで、今年春は弁当を手がけた絶品村娘達の屋台第二弾は焼きパスタ! 普段とは一味違うパスタの触感もさることながら、食べ歩きに配慮した工夫でお手軽に頂ける一品です! 二度美味しい二種類の紅白焼きパスタと、新作ヌードルバーガー…ここでしか食べられない一品をぜひどうぞ」
 超特急で作ったチラシを配りつつ、ひりょが言う。
「おい、絶品だってよ」
「そういや、前のピザもうまかったよな」
 すると案の定以前来ていた者達がそれを聞きつけて、店の方へと人が流れ始める。
 加えて、彼は道行く人によっても声かけ文句を変化させて、
「カップルさんだよね? 二人の記念にどう? 今ならまだ席も空いてるし、丁度いいサイズですよ」
 と相手の心を擽る言葉で御客獲得を狙う。
 そんな彼の言葉に乗ってお客は徐々に増加し、昼前には既に列ができ始めていて、
「ごめんなー。もう少し待っててな」
 フロアを駆けつつも、子供の姿を見つけて舞が声をかける。
「あっ、あの時のおねーちゃん!」
 そんな彼女がたまたま対応したのがいつぞやの男の子。兄が思い出したようにぺこりと頭を下げる。
「えーと、確か…」
「芋栗のピザを頂きました。その後も色々あったし…」
 その後の事はさておいて、今年も二人はやって来ていたらしい。
 知っている顔が見えると、弟の方は嬉々とした表情を見せ喜んでいたがふと去年を思い出して、
「今年は風船くれないの?」
 弟君が尋ねる。
「あー…そう言えば去年は配ってたっけ。けど、今年はもっとすごいよ?」
 残念がる彼に舞はそう言って呼び出したのはペットの柴犬ゴエモンだった。
 元気よく駆けてきて、その場でくるくる回り彼等にとびきりの芸を披露する。
「フフッ、凄いだろ?」
 セーラー服に猫耳姿の舞がにやりと笑う。
「うわー、かわいい~! すごいすごーい!」
 弟君はそのわんこが気に入った様で今年の列待ちも何とか切り抜けられそうだ。
「さすが経験者だね。扱いなれてる」
 列整備やクレーム対応に回っていた花が彼女を見つけて言う。
「何、折角だからな。うちのゴエモンも喜んでるし一石二鳥って…あ」
 そう言いかけて、店内が一人になっている事に気付き舞が視線を向けた先には一点を見つめる白露の姿。
「おやおや、ちょっと行ってきます」
 花もそれで察して、丁寧な言葉遣いを心掛けつつ中へと向かうのだった。

(うー…あのお客さん、絶対雷蔵に見惚れてる…)
 フロア担当の白露であるが、店頭で焼きナポリタンを調理する雷蔵から…否、調理する雷蔵を見る女性客から目が離せない。イートインスペースからもよく見える位置に実演販売宜しくパフォーマンスを組み込んで作られた鉄板の配置に気が気でない彼女である。雷蔵の横にはアリソンが自前のコック服で焼きカルボナーラ作りに精を出している。
「あのー、お水欲しいんだけど?」
 立ち止まってしまっている彼女にお客から声がかかって、しかし彼女の耳にはどうも届いていないらしい。
「えと、お水…」
 困り顔でお客が呟く。
「失礼しました。すぐお持ちしますね」
 そんな彼女に代わり、空気を読めないと言われ続けた男・花が立ち上がる。
 微笑みを心掛け、少しでも皆の役に立てるよう努力する。
(祭りは楽しく…これが一番だよね)
 そう思い立ち止まったままの白露にこそりと一言。
「何でしたらこちらは任せて貰ってキッチンに行きますか?」
 気を利かせた筈の一言だった。しかしながら、白露は自分の気持ちがばれていると錯覚したらしい。
「いっ、いいから。そんなんじゃないからっ!」
 恥ずかしかったのかムッとして慌てて仕事に戻る彼女。女心は秋の空とはよく言ったものだ。
(本当に難しいな)
 まだまだ空気が読めるようになるには至らない彼である。だが、そんな彼は割とフロアでは人気があるようで。
「イケメン店員さん、こっちもお願いしまーす」
「はいはい、ただいま」
 女性客からはさながら執事のようだと注目され、御用を申しつけられていたり。

 一方キッチンは人数がかつかつでフル回転。休憩時間をなかなか取れないのが実状だった。
「提案したからにはちゃんと最後までやるのですよぉ」
(例え他を見て回れなくても…)
 かた焼き麺バンズを地道に量産しながらハナが呟く。
「ピザの時よりも凄いかもね」
 そう言うのはマリィアだ。あの時は生地をひたすら捏ねていた記憶があるが、今日は餡作りに集中する。
「あの時はあの時で大変だったけど、今日もそれに負けてないんだよぉ~」
 詩は材料をひたすら切る係になり、既にどれだけの野菜を切ったか判らない程だ。
「そうよね。あの時は人もいたものね…」
「ですねぇ」
 思い出にしばし浸りつつも手を動かす娘達――村娘とて休んでいる訳にはいかず、仕上げ兼会計を続けている。
 それでも頑張れるのは、やはりお客の笑顔があるからだろう。

●笑顔
 村で出来た野菜を使って、頭を捻り試行錯誤して出来た焼きパスタ――。
 それを食べて喜ぶ顔は何ものにも代え難い。
「おねーちゃんたち、おいしかったよー!」
「ごちそうさまでしたっ」
 キッチンを覗いて、そんな声がかかると自然と疲れは抜けていく。
 祭り前に量産していた麺バンズはあっという間になくなって、裏で追加して作るも一進一退の攻防となった。
 ダブル焼きパスタの方は常に焼き続けるという前代未聞の状態であり、店頭に立つ二人は交代制に途中から変更した位だ。そうして、用意していた材料は夕方を迎える前に消化してしまい、終了を前にして閉店せざる負えなくなっていたりする。
『ふえぇ~、お疲れ様でしたぁ~~~』
 嵐のような一日を過ごして、村娘達がハンターらに告げる。
「きゅ、休憩を…あまり出せなかったので…今のうちにどぞ…」
 くたくたになりつつも村娘の一人が最後の力を振り絞り、ハンター達に祭り会場を見て回りたい者はどうぞと促す。
「疲れてなければ、いくか?」
 白露を気遣いながら雷蔵が問う。
「…大丈夫」
 そう言う白露は彼の方が疲れているはずなのにと思うも、お誘いを断る事は出来なくて…こっそり店を抜け出す。
「私達も行ってみる?」
「楽しそう♪」
 そう言うのは天竜寺姉妹――他の店も力作は多い。野菜を使ったクッキーや珍しいパンが並んでいるらしい。
 学園祭を楽しむように…祭りの屋台を女同士はしゃぎながら見て回る。
 そんな道中でも彼等にとっては嬉しい声が聞こえて…。
「あのモチモチ触感、美味かったなぁ~帰りに買って帰りたかったのに残念だぜ」
 味を反芻しながら通りすがりの男性が連れに話す。
「餡かけって懐かしかったよな」
「こっちでも食べられるとは思わなかったよねぇ」
 とこれはカップルだろうか。ヌードルバーガーの餡がお気に召した様だ。
「そういえばさ、あの店考案の弁当も出てるんだろ? だったら買って帰ろうぜ」
「そうだな。絶対旨そうだもんなっ」
 まだ学生らしいグループからはそんな声も聞こえていたりで、携わった者達はひそかに笑顔になる。

 そうして時は過ぎて今年も閉幕の時。
 早くに完売したものだから片付けも割と早めに終わって、残るは売上確認のみ。
「どうかな?」
 花が売上を数える村娘に尋ねる。
「上々ですよ。皆様のおかげで新たな苗木を買う資金が出来そうですっ」
 諸経費を差し引いても余りある利益にホクホク顔の村娘達。
「加えて、朗報だよ」
 とそこへいつぞやの実行委員の青年がやって来て…皆が首を傾げる。
(もしかして、場所代か! 売上から天引きとかなのかっ!)
 そう思いリーダーちゃんが身構える。だけど、そうではなくて…。
「おめでとう。今年から売上一位の店には助成金を進呈する事になったんだ。という訳で、はいこれ」
 それは小さな封筒だった。
 しかし、中には彼女達には十分過ぎる程の助成金が入っている。
「本当は今年もお弁当って思ってたんだけどさ。君達が村の野菜を増やそうとしているの知ってたから、裏方のお願いはしなかったんだ。そして、見事これを掴んだのは君達だったって訳だ」
 何かとってつけたような気もしないでもないが、ともあれ嬉しい事に変わりはない。
「良かったじゃないか、君達」
 花が言う。
「いえ、皆さんが手伝ってくれたからです。休憩時間もろくに出せなくて本っっっ当にすみませんでした!」
 それにリーダーちゃんがそう答えて、お詫びに打ち揚げ開催を宣言する。
「それ程豪華には出来ませんけど…でもお礼がしたいので」
 そうして、翌日ハンターらと共に村娘達は街の焼き肉店で打ち上げパーティーを開いて、存分に祭りの疲れを癒すのだった。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 9
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • いなせな
    鬼塚 雷蔵ka3963
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナka5852

重体一覧

参加者一覧

  • 行政営業官
    天竜寺 舞(ka0377
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士
  • 比翼連理・その手を取って
    浪風 白露(ka1025
    人間(蒼)|16才|女性|疾影士
  • “技”の料理人
    アリソン・メープルウッド(ka2772
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • うら若き総帥の比翼
    ひりょ・ムーンリーフ(ka3744
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • いなせな
    鬼塚 雷蔵(ka3963
    人間(蒼)|20才|男性|猟撃士
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 仕事が丁寧
    花(ka6246
    鬼|42才|男性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/11/12 18:35:57
アイコン 相談卓だよ
天竜寺 詩(ka0396
人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2016/11/13 14:47:51