野生の葡萄 ~廃墟の集落~

マスター:天田洋介

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/11/05 19:00
完成日
2016/11/14 07:20

みんなの思い出

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オープニング

 グラズヘイム王国・古都【アークエルス】東方の森に、かつてナガケと呼ばれる集落が存在した。
 集落で行われていた畜産は幻獣の獅子鷹『メニュヨール』によって崩壊させられる。家畜の仔攫いが激増したからだ。
 集落解散の憂き目に遭い、青年ガローア・ラグアは父親のマガンタと共に放浪の身となる。父が亡くなってからも根無し草な生き方をしてきたガローアだが、覚悟を決めた。ハンターの力を借りてメニュヨール退治に成功する。
 その後、ガローアは古都でドワーフの青年『ベッタ』と出会う。意気投合した二人は集落の復興に動きだす。
 二人はベッタの故郷に棲息していた幻獣『幻の青』を家畜として育てることにした。その味がリアルブルーの高級和牛霜降り肉を彷彿させたところから、『シモフリ』と呼称することとなる。
 シモフリ六頭はオークの樹木が並ぶ放牧場へと放たれた。樹木の上で暮らす生態と思われたが、危険がなければ地表で暮らすことがわかる。好物は木の実だが玉蜀黍の粒にも旺盛な食欲をみせた。
 他に乳牛一頭と鶏の雌鳥六羽も飼うことで、毎日新鮮な牛乳と鶏卵が手に入るようになった。
 荒れ地を畑として開墾しだした頃、紅の兎のような幻獣二体が出没。柵を壊されてしまう。それが過ぎ去ると雑魔の巨大蜂が飛来。雑魔蜂はハンターによって巣ごと退治された。
 森が紅葉に染まる秋、ある商人一家が集落に泊まった。シモフリ料理を味わった商人一家はいたく気に入ってくれる。シモフリ肉を市場へだす際には是非に声をかけてくれと約束を交わした。
 シモフリの仔が産まれて日々が過ぎ去る。ある寒い日の早朝、以前に柵を壊して姿を消した赤い兎二羽が放牧場の片隅に倒れていた。放ってはおけずに看病すると、二羽は元気を取り戻して二人に懐く。
 賊が森で迷った一団を装って集落を奪おうとしたときもある。滞在中のハンターの機転で正体を看破して事なきを得た。
 仔シモフリは順調に育つ。仔が乳離れをした頃にガローアとベッタは気づく。甘くてクセの少ないシモフリの乳を使えば素晴らしい乳製品が作れるのではないかと。
 ハンターの協力もあってシモフリ乳を使ったチーズ、バター、ヨーグルトが完成。しかし売り捌くには古都での商売が不可欠だった。
 春が到来。一部玉蜀黍の粒が熊に食べられてしまったものの、ハンターが退治。開墾した畑での粒蒔きは無事に行われる。
 シモフリ乳を使った乳製品の販売路にも光明が差す。商人タリアナの協力によって古都で『パン屋シモフリ堂』が開店することとなった。
 店は新たに雇った女性三人に任せられる。
 マリーシュは店長兼事務会計。セリナとチナサはパン焼き職人兼売り子として働いてもらう。ハンターの協力のおかげで、シモフリ堂は好スタートを切った。
 夏の前に機導術式冷蔵庫が馬車と厨房に設置される。売りだされたシモフリ乳のアイスクリームは大好評。そしてシモフリ肉の出荷も始まった。まずはシモフリ堂でのバーガーやドッグ用の肉として使われる。
 以前の牛肉や豚肉使用のときよりも大好評を博す。一枚肉をつかったシモフリステーキバーガーも好調に売れた。
 そして秋。荒れた大地を掘り起こし、畑作りから始めた玉蜀黍畑の収穫時期が訪れる。人用の甘い品種と家畜用の品種、二種類が育てられていた。それぞれが混ざらないように収穫し、玉蜀黍の一部はコーンスープとして加工。冷凍保存して冬の販売に備えた。また乾燥させてコーン粉にも。
 輸送用の人員、そして古都にあるシモフリ堂の従業員も補充されて、商売の手は広がりつつある。
 古都のシモフリ堂の冷凍庫に保存していたモツの扱いに悩んだものの、普通の鍋物として提供することとなった。


 冬を控えた晩秋の季節。
「ガローア、どこや。どこにおるんやー!」
 森から戻ってきたドワーフの青年ベッタは集落中を駆け回ってガローアを探す。住まいの小屋周辺にはおらず、集落の外れにある飼料倉庫でその姿を見つける。
「どうしたんだ。そんなに息を切らせて」
 ガローアはオークの実入り麻袋を台車から降ろす手を止めた。
「これ見てや」
「……葡萄だよね。どうやって手に入れたの?」
「集落からそれほど離れとらんところに野生の葡萄が仰山なっていたんや」
「ばかな。そんなの知らないぞ」
 ベッタは疑うガローアを現地へと案内する。
「……本当だ。こんなところがあったなんて」
 ガローアはたくさんの野生葡萄の樹木に目を見張った。どれにもたくさんの実がなっている。
「ここ、回りよりも小高くなっとるんでわからなかったんや。野鳥がやけに降りてくんで不思議に思うてな。ちょうど死角になっておったんやな。そこらのでかい樹木のせいで隠れてたんもあるやないか」
 ベッタがもいだばかりの葡萄の実を口へと放り込んだ。ガローアも同じように食べてみる。
「充分に甘いね」
「奥の方は自然に乾燥して干し葡萄になっとるんやで。生のやつは収穫して葡萄酒にしてみるのはどうやろか?」
「いい考えだね。明日からハンターのみんなが手伝いに来てくれる予定だから、ベッタのいうとおり葡萄酒を造ろうか」
「これで決まりや。しかし道具があらへんな」
 ガローアとベッタは急遽、集落へと戻った。そして葡萄酒造り用の道具を拵えようとする。
 大樽の内側に入る落とし蓋のような木板を用意。重しを載せれば詰めた葡萄の実が潰れる仕組みだ。下部に栓で塞げる穴を開けて、樽をひっくり返さなくても果汁を取りだせるようにしておく。
 使われていなかった大きな水桶も改良して栓で塞ぐ穴を作っておいた。こちらは足の裏で踏んでもらう。
 二人の道具作りは深夜まで行われたのだった。

リプレイ本文


 冬空の下、ハンター一行は古都との間を往復している荷馬車に乗り込んでナガケ集落へと到着した。
 ガローアとベッタに出迎えられた一行は一晩を過ごす。そして翌朝、野生の葡萄が育つ高台に向かう。
「大丈夫ですか?」
「平気だ。ちょっと怪我の養生を兼ねてきたんだ。服の下は包帯まみれだけど頭は元気だよ」
 ガローアが最後の一登りをするザレム・アズール(ka0878)に手を貸して引き上げる。背の高い木々の間を抜けると枝から葡萄の房がぶら下がる一帯が見えてきた。
「アーくん、ほらっ! 葡萄がたくさんなっているよ!」
 レム・フィバート(ka6552)が葡萄の木に近づいて指さす。頭上を仰いだアーク・フォーサイス(ka6568)が実った葡萄の房を眺める。
「戦うだけじゃなくて、人助けもハンターの努め……だね?」
「えー……ハンターたるもの戦うだけじゃなくうんぬんかんぬんってシショーも言ってたしね♪」
 アークの呟きにレムが大きく頷く。
 ミオレスカ(ka3496)はシモフリのアオタロウを連れてきていた。
「実は誰か、昔の住人の葡萄畑だったりするのでしょうか。少しミステリー、ですね?」
 ミオレスカ(ka3496)に懐いているので荷運びを手伝ってもらう。取りつけられた籠の中には鋏などの道具類が収まっている。
「そこのお願いや」
 ベッタが示した葡萄の一房を明王院 雫(ka5738)が鋏で切り取る。それをみんなで味見してみた。
「この世界のワインマイスター、ワイン通になりたいと思っていたのよね。ただの知識が実践になる機会を貰えてうれしいわ。こういう仕事に誘ってくれてありがとう、ベッタ、ガローア」
 野生の葡萄粒を味わったマリィア・バルデス(ka5848)が笑みを浮かべる。
「そんな、こちらこそありがたいです」
「手伝どうてもろて、ごっつう助かるで」
 ガローアとベッタは恐縮するのだった。


「そういえば、師匠も葡萄酒を飲んでたこともあったっけ。懐かしいね」
「そうだったねっ。葡萄の収穫や酒造りのことは軽く下調べしてきたよっ! これ全部取るんだよねっ。レムさんに任せておきなさーい!」
 アークの前でレムはどんと自分の胸を叩く。そういいながらも近くにいたガローアに鋏でどの部分を伐ったらよいのか教えてもらった。
 踏み台の木箱を持ってきていたが、それでも届かない場合はアークがレムを肩車する。
「アーくん、もうちょっと右ねっ」
「これでいいか?」
 レムが摘んだ葡萄の房をアークが受け取って地面の籠の中へ。葡萄粒を啄む野鳥と競争しているかのように収穫していく。
 マリィアはベッタと一緒に葡萄を集めていた。
「今年は無理だろうけど、ワイン造りとシモフリステーキツアーなんて銘打ったら、結構人が集まりそうよね?」
「そやな。ここに手を入れて葡萄園にするのもよさそうや」
「そうそう。美味しいワインときれいな衣装とブドウ踏みを組み合わせたら充分目玉になりそうな気がするわ」
「なるほどやな」
 マリィアとベッタは収穫しながら集落の未来を語り合う。
 ミオレスカとザレムは一緒に収穫を始めた。
「ともかく程よく実っているようですし、ありがたく頂きましょう。ザレムさんは、低いところのを採ってくださいね。上のは私が頑張りますので」
「酷そうな怪我に見えるだろうが結構大丈……痛たったた!」
 ミオレスカと話していたザレムが蹌踉けて岩陰の大地を踏んだ。すると小気味よい音が鳴る。
「霜柱か。ってことはもしかして」
 ザレムが周辺の葡萄粒を確かめると一部が凍っていた。急いでガローアを探す。
「あの辺りの葡萄は明日の朝に収穫しないか? そうすれば特別なアイスワインが造れるはずなんだ。価格も高いから利益率が凄いんだ。味も独特だから、一度飲んだら虜になる事請け合いさ。飲み口も優しいし菓子にも合う、女性にも――」
 ザレムの蘊蓄は止まらない。それはそれとしてガローアはザレムの案を受け入れる。
 雫は一人先行して干し葡萄を摘んでいた。一粒だけ食べてみると非常に甘い。手が届きやすいところのは粒のみを収穫。そうでないのは房ごと切り取って、後でばらした。
 葡萄でいっぱいになった籠は人力で平地へ下ろす。それらはすべて荷車へと載せられる。
「では行きましょうか」
 ミオレスカが青い毛を撫でてアオタロウの歩みを促す。葡萄はシモフリが牽く荷車で集落の小屋へと運び込まれるのだった。


 改造された水槽が紫水晶のようなたくさんの葡萄粒で満たされる。
「気をつけてはいってや」
 ベッタが用意した簡易階段で踏み役が一人ずつ水槽内へ。直前の足拭きは雫がやってくれた。
「思ったより甘い匂いが凄いのね……」
 水槽内で立つマリィアが瞳を閉じて深呼吸。これまでもほのかに漂っていたものの、粒を踏みつけた瞬間に果実の香りが溢れだす。
「これはちょっと楽しいです」
 ミオレスカが水槽の縁を掴んで足踏みを繰り返してみた。くすぐったいようで、それでいて心地よい感触に笑みが零れる。
「こうすればよいのかなっ? 種は潰さないように優しくだよね? 後で取り除くみたいだし」
 踏んでいるうちにノッてきたレムが足を滑らす。尻餅がつかれようとした瞬間、アークが全身で抱き留めて彼女の転倒を阻止した。
「あ、ありがとう、アーくん」
「……いやなんというか。種は取り除いたほうがいいと思う。俺も、あんまり渋いのは好きじゃないなあ……」
 照れ隠しなのかアークが呟いた言葉はどこか的を射ていない。それからのレムは慎重に足踏みをした。
「マリィアやミオレスカ達も楽しそうだ」
 ザレムは女性陣が葡萄を踏む艶やかな様子を眺めて、ほのぼのとした気分に浸る。だが心象風景は違う。脳裏に描いていたのは心寄せている女性が葡萄踏みをしている姿だった。
「どないかしたんか?」
「ああ、うん、なんでもない一寸傷が……な」
 ベッタの不思議そうな表情に、ザレムは自身が無意識に独り言を呟いていたのに気づいて誤魔化そうとする。
「男が踏んでも構わないのか?」
 そう訊ねてみるとベッタが「もちろんや」というのでザレムも参加することに。水槽内に立って葡萄の種を潰さないよう優しく踏んでいく。
 雫が水槽の栓を抜くと葡萄果汁が流れでて、布張り桶へと注がれる。漉された葡萄果汁は大きな漏斗に吸い込まれていく。その漏斗は樽の上口に差し込まれていた。
 葡萄皮には発酵に必要な菌がついているので、布張り桶に溜まった一部も樽に混ぜ込んだ。その際、渋みに繋がる種はなるべく混ざらないよう雫が取り除いてくれた。
 ガローアは改造した樽を使って葡萄を絞る。
 三度収穫と絞りが繰り返されて五樽が完成。そして翌朝、ザレムの勧めで凍った葡萄粒を使って一樽分を仕込んだ。
 残るめぼしい葡萄を収穫して三樽分が完成したところで昼食をとる。そして午後からは干し葡萄の収穫となった。
「一体どこに……あそこか?」
 ザレムは先行して干し葡萄を採っていた雫から気になる情報を得る。干し葡萄化した周辺の中央付近には、カビ付きの葡萄が実っていた。
「これ、ほんまに葡萄酒にするんか?」
「とても甘いワインになるんだ。ま、騙されたと思ってやってみないか?」
 首を傾げるベッタの肩をザレムがポンポンと叩いた。二人はカビ付き葡萄の粒を選別しながら摘んでいく。
「変わったワインも面白いわね」
 マリィアもザレムに賛同してカビ付きの葡萄を収穫した。これは貴腐葡萄酒として一樽分が醸造される。
 すべて合わせて葡萄酒は大樽十樽分になった。他の者達は干し葡萄を収穫する。
「少しなら味見してもええで」
 ベッタが干し葡萄を摘まんでいたのでレムも一粒食べてみた。隣にいたアークの口にも一粒放り込んであげる。
「甘くて美味しいねっ!」
「これはちょうどよい塩梅だね。あちらにあるのは、ちょっと生気味かな」
 アークとレムが食べた干し葡萄はとても大きかった。元々の葡萄が大粒なので、干からびて縮んでも食べ応えがある。
 このまま放置しておくと野鳥に食べられてしまうので、半乾きの干し葡萄も別途収穫しておく。網を被せて三日ほど天日にさらせば程よい干し葡萄になるはずである。
「干しブドウはすっかり甘くなっていますね。とても美味しくかったです。シモフリのヨーグルトと合いそうです」
 ミオレスカが話しかけるとアオタロウが返事をするように小さく啼いた。
「アオタロウにも美味しものあげますから。それにしても紅葉が綺麗ですね」
 色鮮やかな景色を楽しみつつ、生の葡萄のときと同じように荷車を使って干し葡萄を集落へと運び込む。
「今日は特別ですから」
 ミオレスカは頑張ってくれたご褒美として、アオタロウにたくさんのオークの実を食べさせたのだった。


 干し葡萄の収穫は四日間に及んだ。その間にもやるべき別作業はいろいろとある。
 半乾き干し葡萄の天日干し。朝と夕方に樽を動かして葡萄果汁の攪拌等。ガローアとベッタは畜産も行わなければならなかった。
 ただ忙しいだけでなく、時折嬉しい機会も訪れる。ザレムの発案で発酵し始めて数日しか経っていない葡萄果汁を味わうことに。
「これがベビーワイン……」
「これを楽しめるのは醸造している者の特権なんだよ。う~ん、この香り」
 まずはマリィアが試飲して、ザレムも口に含んだ。果汁から酒精含みのなりかけで、ビールのようにシュワシュワと泡立っていた。丁度冷蔵庫付き荷馬車が来ていたので、冷やして頂く。
「なかなかのものね。葡萄で醸造したエールといったところかしら?」
「うまい! なんだか身体の傷が早く治るような気がしてきたような」
 マリィアとザレムはあっと言う間に飲み干してしまう。
「へぇ、こういうのがあるんだ」
「こりゃええで。世の中には知らんことが仰山あるもんやな」
 ガローアとベッタもその味に感心仕切り。他のみんなもほんの少しだけ味見。大人の世界を垣間見る。
 干し葡萄はパン生地に塗されてオーブンの中へ。やがて葡萄パンが焼き上がった。
 レムがガローアからもらった葡萄パンを半分に千切ってアークに手渡す。
「これ、おいしいよっ。もう一個、いい? アーくんも食べるでしょ」
「食べたいね。焼きたては特に美味しいな」
 干し葡萄パンの味にレムとアークの会話が弾む。
 ミオレスカはシモフリ乳で作ったヨーグルトに干し葡萄を混ぜてみた。
「うん。想像した通りの味、程よい酸っぱさと甘さで美味しいですね」
「飲むと健康になりそうなや。いっそ毎朝のメニューにしてしまおか」
 ミオレスカが作った干し葡萄入りヨーグルトをベッタが気に入る。
 収穫した干し葡萄は消費しきれないだけの量がある。一部は古都のシモフリ堂に卸そうとガローアとベッタは考えるのだった。


 そして最初の葡萄酒造りから一週間が経過する。
 樽の中から葡萄果汁を抜きだして布で濾す。そしてもう一度樽の中へ。三日ほど経ったところでフレッシュな葡萄酒が完成した。こちらはベビーワインと違って酒精の濃度が完成品に近い。更に三ヶ月ほど熟成させるのだが、瓶数本分の量だけ晩食用として別にされる。
 こうして今回の依頼における滞在最後の晩食となった。
「頑張ってもろたし、ええ酒もある。せっかくやからな、今夜は豪勢やで」
「焼くときに葡萄酒も使ってみたよ」
 ベッタとガローアが運んできた料理は極上シモフリ肉のステーキである。
 木皿の上で立ちのぼる湯気に混じり、空腹を促す暴力的なにおいが各人の胃袋を揺さぶった。冷めないうちにと早速頂く。
「自分で作ったワインを持ち帰って楽しむってワイン好きの夢だと思うのよね……。是非商業ベースにのせて欲しいわ」
 マリィアは所有していたデュニクスワイン「ロッソフラウ」も提供。両方を飲み比べつつ、シモフリ肉も味わう。
 濃厚な旨味の肉片を食してから、葡萄酒の喉ごし。その取り合わせは魔法のようなもので、夢の中を漂っているような気分に。卓のバスケットに収まっていたのは干し葡萄パン。自由に手にとって芳醇な味わいと共に楽しんだ。
「どれ、俺も葡萄酒の飲み比べを…………どちらもいけるな」
「村興しならぬ集落興しが上手く回っていて、本当にここは素敵だと思うわ」
 ザレムが飲み干したグラスにマリィアが葡萄酒を注いでくれた。トクトクと鳴る音が晩食の華やかさをさらに盛り上げてくれる。
「美味しい♪ たくさんの葡萄が穫れましたけど、あの樹木の数ならもっと摘めてもよさそうでしたね」
 ステーキを堪能するミオレスカがガローアへと視線を注いだ。
「野鳥に啄まれてしまった分がかなりあるからね。見つけてからは紅い兎の一羽が追い払ってくれてたんだけど、それにも限界があって。もっと前から知っていたら違っていたと思う」
 あの高台に手を入れて葡萄畑へと変えたのなら、軽く五倍の収穫量になるのではとガローアとベッタは想定していた。
 レムとアークも美味しい料理に舌鼓を打つ。
「このお肉おいしーよっ。信じられないくらい」
「いくらでも食べられそうだ。師匠にも食べさせてあげたいぐらいだ」
 レムとアークも分厚いシモフリ肉をぺろりと平らげる。ベッタも食べ足りないとのことなので、追加で焼いてもらう。手伝いは二人がやって、それぞれの二皿目が完成。ゆっくり味わっても甘い脂と柔らかな赤身のハーモニーは絶妙だった。
 雫も充分に集落の料理を味わった。フレッシュな葡萄酒は熟成後が楽しみな味に仕上がっている。干し葡萄のパンはどこか懐かしさが感じられた。
「熟成が楽しみだなあ。ブランド名は決めたのか? ナガケワインはどうだろう?」
「それ、ええかもな。決まりやで!」
 赤ら顔のザレムとベッタが肩を組んで揺れながら大いに唄う。
 食べ終わった後もお喋りは止まらない。一同は夜遅くまで楽しく過ごしたのだった。


 そして翌朝。ハンター一行は帰路へ就くために古都との間を往復している冷蔵庫付き荷馬車へと乗り込んだ。
「葡萄酒造り、ありがとうございました!」
「干し葡萄もや。ほんま、助かったで。ありがとな!」
 ガローアとベッタは去っていく荷馬車を見送る。森の木々の向こうに消えるまで二人は手を振り続けたのだった。

依頼結果

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • 撫子の花
    明王院 雫(ka5738
    人間(蒼)|34才|女性|闘狩人
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • キャスケット姐さん
    レム・フィバート(ka6552
    人間(紅)|17才|女性|格闘士
  • 決意は刃と共に
    アーク・フォーサイス(ka6568
    人間(紅)|17才|男性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓・干しブドウとワイン作り
マリィア・バルデス(ka5848
人間(リアルブルー)|24才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2016/11/05 18:27:13
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/11/05 12:30:32