ゲスト
(ka0000)
【郷祭】とっても痛い栗拾い
マスター:紡花雪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/11/07 19:00
- 完成日
- 2016/11/15 01:01
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●林業親方の栗
農耕推進地域「ジェオルジ」の内陸南、温暖な地域にあるとある村「ヴェルフィオーレ」。
この村では、園芸や造園、植林などを営んでおり、自分たちの村はもちろん、時には出張して造園や植栽整備を行なっている。
手間暇がかけられ、美しく整備された庭園広場や色とりどりの花畑は見ものではあるが、いささか観光事業としては派手さに欠ける部分もある。秋の郷祭のたびに課題となるのが、冬に向かいつつある景観の静かな美しさの他に、来訪者に提供できる何か——特に、食べ物についてである。
ヴェルフィオーレ村壮年部会長、ヴィジー・ペルティ。園芸と林業の情熱にあふれる彼は、村長たち老人会を敬い、若者たちからの人望も厚い。誰が呼んだか、ヴィジーは「林業親方」の愛称で親しまれている。
彼が植林を手がける中で秋に実りを迎えるものに、栗の木がある。栗の材木は耐朽性に優れているため建材としても優秀であり、重要な植林事業となっている。
「焼き栗を振る舞ってはどうだろう?」
秋の郷祭に向けて、誰かが言った。秋冬の街角に並ぶ焼き栗の屋台は、そう珍しいものではない。だがヴィジーや村人たちは、自分たちの村の栗が美味しいことを知っていた。
「焼き栗と、何か温かい飲み物……今年はこれで行こう!」
決まったからには、準備を始めなければならない。善は急げと、栗拾い部隊が結成されたのである——。
●トゲトゲ乱舞
「痛いいたいいたいッ——!」
栗林から上がった、悲鳴。それは、ひとりふたりのものではなかった。
何事かと駆けつけたヴィジーが目にしたのは、イガグリに襲われた栗拾い隊の姿だった。
跳び出した棘に刺され、ある者は麻痺で動けなくなり、またある者は裂傷で出血をしている。
「何があったッ!?」
「何が何だかわからねェ、棘の外皮を剥がそうと鉄バサミで掴んだら、攻撃してきやがった!」
「もちろん、全部じゃねェですぜ。ちゃんと収穫できた実もあるから、ところどころ、変なのが混じってやがんだ!」
「何だって……」
ヴィジーの頭をよぎったのは、雑魔の存在である。麻痺や怪我の程度は通常の棘とは比べものにならないが、それでもすぐに死に至るものでもなさそうだ。裂傷は応急処置で出血を止めることができたし、腕の麻痺を訴えた者も、次第に痺れが治ってきたと言っている。
だが、これ以上の栗拾いは困難——。
「引きあげろ! 俺はハンターオフィスに連絡してくる!」
これ以上の被害を出すことなく、無事に焼き栗を完成させ、郷祭に間に合わせることができるのか、ヴィジーの気がかりはふくらむばかりであった——。
農耕推進地域「ジェオルジ」の内陸南、温暖な地域にあるとある村「ヴェルフィオーレ」。
この村では、園芸や造園、植林などを営んでおり、自分たちの村はもちろん、時には出張して造園や植栽整備を行なっている。
手間暇がかけられ、美しく整備された庭園広場や色とりどりの花畑は見ものではあるが、いささか観光事業としては派手さに欠ける部分もある。秋の郷祭のたびに課題となるのが、冬に向かいつつある景観の静かな美しさの他に、来訪者に提供できる何か——特に、食べ物についてである。
ヴェルフィオーレ村壮年部会長、ヴィジー・ペルティ。園芸と林業の情熱にあふれる彼は、村長たち老人会を敬い、若者たちからの人望も厚い。誰が呼んだか、ヴィジーは「林業親方」の愛称で親しまれている。
彼が植林を手がける中で秋に実りを迎えるものに、栗の木がある。栗の材木は耐朽性に優れているため建材としても優秀であり、重要な植林事業となっている。
「焼き栗を振る舞ってはどうだろう?」
秋の郷祭に向けて、誰かが言った。秋冬の街角に並ぶ焼き栗の屋台は、そう珍しいものではない。だがヴィジーや村人たちは、自分たちの村の栗が美味しいことを知っていた。
「焼き栗と、何か温かい飲み物……今年はこれで行こう!」
決まったからには、準備を始めなければならない。善は急げと、栗拾い部隊が結成されたのである——。
●トゲトゲ乱舞
「痛いいたいいたいッ——!」
栗林から上がった、悲鳴。それは、ひとりふたりのものではなかった。
何事かと駆けつけたヴィジーが目にしたのは、イガグリに襲われた栗拾い隊の姿だった。
跳び出した棘に刺され、ある者は麻痺で動けなくなり、またある者は裂傷で出血をしている。
「何があったッ!?」
「何が何だかわからねェ、棘の外皮を剥がそうと鉄バサミで掴んだら、攻撃してきやがった!」
「もちろん、全部じゃねェですぜ。ちゃんと収穫できた実もあるから、ところどころ、変なのが混じってやがんだ!」
「何だって……」
ヴィジーの頭をよぎったのは、雑魔の存在である。麻痺や怪我の程度は通常の棘とは比べものにならないが、それでもすぐに死に至るものでもなさそうだ。裂傷は応急処置で出血を止めることができたし、腕の麻痺を訴えた者も、次第に痺れが治ってきたと言っている。
だが、これ以上の栗拾いは困難——。
「引きあげろ! 俺はハンターオフィスに連絡してくる!」
これ以上の被害を出すことなく、無事に焼き栗を完成させ、郷祭に間に合わせることができるのか、ヴィジーの気がかりはふくらむばかりであった——。
リプレイ本文
●栗の林で
今年もまた、この季節が巡ってきた。
農耕推進地域ジェオルジ、秋の郷祭――園芸と造園の村であるヴェルフィオーレでも、郷祭の準備が進んでいる。観光資源や目玉となる特産物に乏しいヴェルフィオーレだが、林業親方ことヴィジー・ペルティの尽力により、近年では観光向きの事業が試験的に行われるようになってきた。そのひとつが、木材として植林されていた栗林で採れる、栗の実である。
ハンターたちがヴェルフィオーレに到着すると、村役場前でヴィジーが出迎えてくれた。すぐにでも栗林の状況を確認して、対処してほしいとのことである。
「栗林で、雑魔が出現した位置を教えてもらえないだろうか」
地図を取り出してヴィジーへ差し出したのは、龍崎・カズマ(ka0178)である。彼はさらに、実際にイガグリ雑魔を目撃した村人にも話を聞きたいと伝えた。そのときの様子や怪我の程度を知ることで、得られる情報も大きいだろう。
「こんなときこそ、リアルブルーの人から聞いた探知方法を試すときなの」
かわいらしい口調で意気込んで見せたのは、ディーナ・フェルミ(ka5843)である。彼女は、イガグリの攻撃を吸収するため、猫のような妖精「ユグディラ」を模したかわいらしい着ぐるみに身を包んでいた。猫とふわもこが大好きな彼女にぴったりの装備である。
「とにかく全部潰さないと意味がないので、片っ端から地道にいきましょう」
徐々にハンターたちのもとへ集まってきた村人たちから栗拾いの範囲を聞いているのは、ソラス(ka6581)である。丁寧で柔らかい口調ではあるが、彼の真面目さが伝わってくる。
「棘は痛くて厄介ですけど、栗は美味しいですよね」
明るく朗らかに、以前食した栗の菓子について語っているのは、ノワ(ka3572)である。彼女もまた、雑魔の棘対策として、頭から足まで覆ううさぎの着ぐるみを身にまとっていた。唯一むき出しとなる顔部分にも仮面を装着している徹底ぶりである。
やがてハンターたちとヴィジー、そして村人数名は栗林まで移動することとなった。地図だけではなく、現地での状況確認だ。
「うわぁ、ここら一帯が全部栗林?」
見事に植林された栗林を前に、百々尻 うらら(ka6537)が驚きの声を上げた。ヴィジーと村人数人で見回りをしてみたところ、栗林全域で雑魔が発生しているわけではなく、栗拾いを行なっていた周辺だけで起こっている事象のようだが、何か別の切り口を見つけて早急な解決ができないかと、うららは考えを巡らしているようだ。
「秋にいただく栗はとっても美味しいものねえ。無事に収穫できるよぉに、気張らせて貰いますな?」
以前にもヴェルフィオーレ村での依頼を解決したことのある春日(ka5987)は、にこにこと優しい微笑みで村人たちと言葉を交わしていた。彼女が思案しているのは、普通の栗と雑魔のイガグリとの見分け方についてである。触って初めてイガグリ雑魔の反応が得られるため、棘には充分に注意しなければならない。
●イガグリとの戦い
ヴィジーや村人が地図に記した地点を中心にして、ハンターたちはイガグリ雑魔を見分けて排除するための行動に移った。
「近づかなきゃとりあえずは問題ないってだけ、大分ましかな」
カズマは、近くの地面から小枝や小石を拾い、それを投げつけて判断するようだ。
ディーナは何やら林の端に立ち、着ぐるみのまま準備の息を整えている。
「リアルブルーのひとから聞いた秘儀を今こそ試すときなの! 漢探知、発動なのっ」
小さなリボルバー拳銃を構えているのは、ソラスだ。銃口で触れてみて、反応があればそのまま撃ち抜く作戦だ。
ノワもまた、革紐を編んだ長い鞭で軽く叩いて、判断することにした。普通の栗であれ、イガグリ雑魔であれ、小さく軽いものであることに違いない。この方法ならば、本物の栗を傷つけることもないだろう。
「集中的に、現れるか……現れる? んんっ?」
黒レースのドレスに包まれた魅力的な曲線を揺らしながら、うららは考えていた。イガグリ雑魔はどこで発生し、どこからやってくるのだろうか、と。
「本物の栗が傷んだら大事やし、気ぃ付けんとねぇ」
春日は、符で吉方と凶方を占ったのち、棘の勢いを削ぐように布を被せて砂や石を投げてみることにしたようだ。
ヴィジーや村人はハンターたちの後ろに退がり、ハンターたちはお互いの息を合わせる。そして、とっても痛い栗拾いが幕を開けた――。
まず、春日が符を取り出し描かれた文字を輝かせると、襲いくる危難を感知する。そこかしこに敵が感じられると、仲間たちに伝えた。
そしてカズマは握った小石を地面のイガグリに投げつけ、弾けるように棘を飛ばしてくるイガグリ雑魔を魔導ガントレット「チャンドラヴァルマン」の拳で打ち叩いた。
林の端に立っていたディーナは、落ちたイガグリで埋まる林の道を全力疾走で駆け抜け始めた。ぽんぽんぽんっ、と面白いほどにイガグリ雑魔の怒りの棘が放たれ、ディーナが纏う柔らかな着ぐるみにぶすぶすと刺さっている。
ソラスは、手に収まる小さな拳銃の銃口でイガグリをつつき、イガグリ雑魔が棘を飛ばす瞬間を狙って引鉄を引き、撃退していく。
鞭でイガグリの反応を見たノワは、着ぐるみを纏っているとは思えない速度で反応し、棘を吹き飛ばしてきたイガグリ雑魔を鞭で叩き落とす。やはり、着ぐるみのうさぎには棘が突き刺さっていたが、その柔らかな布地に守られて痛くはない。
イガグリ雑魔の発生源について考え込んでいたうららの目の前に、ぽとりとイガグリが落下する。風に吹かれて落ちたようだ。
「あぁ、分かりました! イガグリ雑魔は人の気配に向かって投げ飛ばされてるんじゃないですかね?」
そう当たりをつけたうららは、イガグリ雑魔のひとつに試作溶断刀を振るってみせた。
跳ね上がるようにして棘を飛ばすイガグリ雑魔の群勢は、ハンターたちの気配に惹かれるようにして少しずつ集まってきているようだった。あるものは着ぐるみの布地によってその攻撃力を奪われ、またあるものは叩き落とされ、あるいは撃ち抜かれている。ハンターたちは、駆け回り跳ね回り、ひとつひとつのイガグリ雑魔を迅速に片付けていた。
だが相手は、どこから発生するのかわからないイガグリである。ハンターの背後から攻撃を仕掛けてくることもある。狙われたのは、うららだ。ぽんっと跳ね上がったイガグリ雑魔が、棘を吹き飛ばす。危険な間合い。だが、絶妙なタイミングで足を滑らせたうららは、それらを易々とかわしてしまった。地面に溜まった落ち葉と湿り気のある土のおかげだ。
だが、イガグリ雑魔の攻撃は緩まない。噴出する怒りのごとく、幾百もの小さな棘が風に乗ってハンターたちを襲う。さすがにすべてを避けきるのは難しいか、ソラスと春日を棘の裂傷が襲う。
すかさずカズマが体内にマテリアルを流しこんで移動力を上昇させ、大地を蹴った。傷ついた仲間ふたりをかばうように、チャンドラヴァルマンの腕を盾にして立ち塞がる。そして空隙を見極めてその拳を繰り出し、イガグリ雑魔を打ち砕いた。
聖導士であるディーナは、精霊に祈りを捧げてマテリアルの力を引き出し、ソラスと春日の裂傷を柔らかな光で包んで癒した。回復役であることに誇りを感じる彼女は、仲間を癒やすことに惜しみなく力を使う。
ディーナの癒しによって生命力をみなぎらせたソラスは、休むことなく迎撃に移る。離れたところにいるとはいえ、村人たちが控えているところにまで棘が流れていってはいけない。光るエネルギーの矢を発現させ、イガグリ雑魔に打ち当てて衝撃を与えた。
ノワは鞭を幅広の短剣へと持ち替えていた。過去の経験から痛みには慣れている彼女だが、痛いものは痛い。だが今回は着ぐるみと仮面でがっちり防御されている。襲いくる棘を着ぐるみに受けながら、さくさくとイガグリ雑魔を両断していった。
風が吹くたびに、ころりころりと転がってくるイガグリ。それらのほとんどが雑魔であると、うららは気が付いた。栗の木からの落下、もしくは風に転がって自然を装い、イガグリ雑魔は移動していたのだ。うららは火属性を持つ特殊な刀を轟音で響かせ、イガグリ雑魔に渾身の一撃を叩き込んだ。
そして裂傷から回復した春日は、慣れない盾でイガグリ雑魔の棘を受け流しながら、そして仲間に声をかけて敵の動向を確認する。そして符を切り、蝶のような光弾を呼び出してイガグリ雑魔を撃った。
やがて、棘の飛び交う数が激減し、ついには攻撃の手が止んだ。撃滅したイガグリ雑魔は消滅して跡形もなくなっており、地面に転がっているのは艶やかな実を隠した本物のイガグリだけとなった。討伐に成功したのか。まだ残っているのではないか。念のためと、カズマが栗林の中を歩き回って安全確認を始めたので、他のハンターたちもそれに倣った。
●あっつあつの栗だよ!
「――あっつあつの栗だよ! 焼き栗はいかがかね?」
この数年、秋が深まってくるとヴェルフィオーレではその呼び声が聴こえてくる。そして今年も、その季節が始まろうとしていた。
栗林の安全確認が終わり、あれだけ騒がしかった栗林に枯葉が舞う音だけが静かに流れる。少し冷たくなってきた風に、肌寒さを感じた者もいただろう。
村の広場に戻ると、そこは甘く香ばしい匂いで満たされていた。
「あっつあつの栗だよ! ほら、ハンターさんたち、食べて食べて!」
火にかけられた鉄鍋に大量の皮付き栗。それを村人の男性がかき混ぜるようにして栗に火を通していた。
「焼き栗に合う飲み物ってのがよくわからないんだが、ハンターさんたちは何かあるかい?」
焼き栗の火加減を見ていたヴィジーが、ハンターたちに問いかける。ヴェルフィオーレに焼き栗の習慣ができたのはこの数年のことであり、秋の郷祭の目玉として定着させていくには、焼き栗とともに美味しい飲み物を供したいと考えていた。
「俺は手持ちの茶があるから、それを使うとしようか?」
カズマは、自身の携行品から秋の香りを詰め込んだ茶葉を取り出した。栗の甘みを考えて、渋みの強い茶ではなく香りのよいものを選んだとのことだ。
「仕事のあとの一杯なの! ホットワインとフルーツティーはどうかなって思ったの」
ベリー、オレンジ、レモンなど多くの種類の果実を用意していたディーナは、温かいものが欲しくなるこの時期に合わせて、大人も子どももそれぞれ楽しめる飲み物を提案した。材料が同じで準備が楽だという理由もあるらしい。
「この村でどのような材料が揃えられるのか分からないのですが、お子さんでも楽しめるようにホットミルクやココアはいかがでしょうか」
そう提案したのは、ソラスだ。ほくほくの栗に、甘くてあたたかい飲み物は相性も良いだろう。彼自身は、ほろ苦く甘い生クリーム入りコーヒーが好きだということだ。
「ワインは定番みたいですけど、私はお酒が飲めないので、ミルクを希望します」
まだ十代半ばであるノワが言った。温めたミルクに、蜂蜜とジンジャーをほんの少し加えたミルクは、焼き栗にも合うだろう。
うららは、飲み物のことを忘れてしまったのか、熱々の焼き栗と格闘しながら、一足早くその柔らかく甘い実を頬張っていた。
「近頃すっかり寒いし、栗は甘いから、バランスええよぉに温かい緑茶なんかもあるとええかなぁて思います」
東方の小さな村で生まれた春日にとって、緑茶は馴染み深い飲み物なのだろう。甘い栗に温かい緑茶は、口当たりがさっぱりしてとても良いものだ。
「ふむ……どれもうまそうだ。ひとつにこだわってもいかんな。子どもから大人まで楽しめるよう、いろいろ試してみるとするか!」
得心したとばかりに満足げなヴィジーは村人たちに指示を出して、今ハンターたちから提案のあった飲み物を用意させていた。
それぞれの飲み物がテーブルに並ぶころには、少し黒く焼けて皮の裂けた焼き栗も温かく甘い匂いをさらに強めて漂わせていた。
甘く柔らかく、熱々の栗の実。そして、温かい茶やフルーツを使った飲み物、ミルク、秋から冬へ移ろいゆく冷たい空気を和らげる癒しの時間。
ああ、美味い。誰かが言った。それに呼応するように、楽しげな談笑がいつまでも続いていた。ヴェルフィオーレでの秋の郷祭り、その名物誕生まで、あとほんの少し――。
今年もまた、この季節が巡ってきた。
農耕推進地域ジェオルジ、秋の郷祭――園芸と造園の村であるヴェルフィオーレでも、郷祭の準備が進んでいる。観光資源や目玉となる特産物に乏しいヴェルフィオーレだが、林業親方ことヴィジー・ペルティの尽力により、近年では観光向きの事業が試験的に行われるようになってきた。そのひとつが、木材として植林されていた栗林で採れる、栗の実である。
ハンターたちがヴェルフィオーレに到着すると、村役場前でヴィジーが出迎えてくれた。すぐにでも栗林の状況を確認して、対処してほしいとのことである。
「栗林で、雑魔が出現した位置を教えてもらえないだろうか」
地図を取り出してヴィジーへ差し出したのは、龍崎・カズマ(ka0178)である。彼はさらに、実際にイガグリ雑魔を目撃した村人にも話を聞きたいと伝えた。そのときの様子や怪我の程度を知ることで、得られる情報も大きいだろう。
「こんなときこそ、リアルブルーの人から聞いた探知方法を試すときなの」
かわいらしい口調で意気込んで見せたのは、ディーナ・フェルミ(ka5843)である。彼女は、イガグリの攻撃を吸収するため、猫のような妖精「ユグディラ」を模したかわいらしい着ぐるみに身を包んでいた。猫とふわもこが大好きな彼女にぴったりの装備である。
「とにかく全部潰さないと意味がないので、片っ端から地道にいきましょう」
徐々にハンターたちのもとへ集まってきた村人たちから栗拾いの範囲を聞いているのは、ソラス(ka6581)である。丁寧で柔らかい口調ではあるが、彼の真面目さが伝わってくる。
「棘は痛くて厄介ですけど、栗は美味しいですよね」
明るく朗らかに、以前食した栗の菓子について語っているのは、ノワ(ka3572)である。彼女もまた、雑魔の棘対策として、頭から足まで覆ううさぎの着ぐるみを身にまとっていた。唯一むき出しとなる顔部分にも仮面を装着している徹底ぶりである。
やがてハンターたちとヴィジー、そして村人数名は栗林まで移動することとなった。地図だけではなく、現地での状況確認だ。
「うわぁ、ここら一帯が全部栗林?」
見事に植林された栗林を前に、百々尻 うらら(ka6537)が驚きの声を上げた。ヴィジーと村人数人で見回りをしてみたところ、栗林全域で雑魔が発生しているわけではなく、栗拾いを行なっていた周辺だけで起こっている事象のようだが、何か別の切り口を見つけて早急な解決ができないかと、うららは考えを巡らしているようだ。
「秋にいただく栗はとっても美味しいものねえ。無事に収穫できるよぉに、気張らせて貰いますな?」
以前にもヴェルフィオーレ村での依頼を解決したことのある春日(ka5987)は、にこにこと優しい微笑みで村人たちと言葉を交わしていた。彼女が思案しているのは、普通の栗と雑魔のイガグリとの見分け方についてである。触って初めてイガグリ雑魔の反応が得られるため、棘には充分に注意しなければならない。
●イガグリとの戦い
ヴィジーや村人が地図に記した地点を中心にして、ハンターたちはイガグリ雑魔を見分けて排除するための行動に移った。
「近づかなきゃとりあえずは問題ないってだけ、大分ましかな」
カズマは、近くの地面から小枝や小石を拾い、それを投げつけて判断するようだ。
ディーナは何やら林の端に立ち、着ぐるみのまま準備の息を整えている。
「リアルブルーのひとから聞いた秘儀を今こそ試すときなの! 漢探知、発動なのっ」
小さなリボルバー拳銃を構えているのは、ソラスだ。銃口で触れてみて、反応があればそのまま撃ち抜く作戦だ。
ノワもまた、革紐を編んだ長い鞭で軽く叩いて、判断することにした。普通の栗であれ、イガグリ雑魔であれ、小さく軽いものであることに違いない。この方法ならば、本物の栗を傷つけることもないだろう。
「集中的に、現れるか……現れる? んんっ?」
黒レースのドレスに包まれた魅力的な曲線を揺らしながら、うららは考えていた。イガグリ雑魔はどこで発生し、どこからやってくるのだろうか、と。
「本物の栗が傷んだら大事やし、気ぃ付けんとねぇ」
春日は、符で吉方と凶方を占ったのち、棘の勢いを削ぐように布を被せて砂や石を投げてみることにしたようだ。
ヴィジーや村人はハンターたちの後ろに退がり、ハンターたちはお互いの息を合わせる。そして、とっても痛い栗拾いが幕を開けた――。
まず、春日が符を取り出し描かれた文字を輝かせると、襲いくる危難を感知する。そこかしこに敵が感じられると、仲間たちに伝えた。
そしてカズマは握った小石を地面のイガグリに投げつけ、弾けるように棘を飛ばしてくるイガグリ雑魔を魔導ガントレット「チャンドラヴァルマン」の拳で打ち叩いた。
林の端に立っていたディーナは、落ちたイガグリで埋まる林の道を全力疾走で駆け抜け始めた。ぽんぽんぽんっ、と面白いほどにイガグリ雑魔の怒りの棘が放たれ、ディーナが纏う柔らかな着ぐるみにぶすぶすと刺さっている。
ソラスは、手に収まる小さな拳銃の銃口でイガグリをつつき、イガグリ雑魔が棘を飛ばす瞬間を狙って引鉄を引き、撃退していく。
鞭でイガグリの反応を見たノワは、着ぐるみを纏っているとは思えない速度で反応し、棘を吹き飛ばしてきたイガグリ雑魔を鞭で叩き落とす。やはり、着ぐるみのうさぎには棘が突き刺さっていたが、その柔らかな布地に守られて痛くはない。
イガグリ雑魔の発生源について考え込んでいたうららの目の前に、ぽとりとイガグリが落下する。風に吹かれて落ちたようだ。
「あぁ、分かりました! イガグリ雑魔は人の気配に向かって投げ飛ばされてるんじゃないですかね?」
そう当たりをつけたうららは、イガグリ雑魔のひとつに試作溶断刀を振るってみせた。
跳ね上がるようにして棘を飛ばすイガグリ雑魔の群勢は、ハンターたちの気配に惹かれるようにして少しずつ集まってきているようだった。あるものは着ぐるみの布地によってその攻撃力を奪われ、またあるものは叩き落とされ、あるいは撃ち抜かれている。ハンターたちは、駆け回り跳ね回り、ひとつひとつのイガグリ雑魔を迅速に片付けていた。
だが相手は、どこから発生するのかわからないイガグリである。ハンターの背後から攻撃を仕掛けてくることもある。狙われたのは、うららだ。ぽんっと跳ね上がったイガグリ雑魔が、棘を吹き飛ばす。危険な間合い。だが、絶妙なタイミングで足を滑らせたうららは、それらを易々とかわしてしまった。地面に溜まった落ち葉と湿り気のある土のおかげだ。
だが、イガグリ雑魔の攻撃は緩まない。噴出する怒りのごとく、幾百もの小さな棘が風に乗ってハンターたちを襲う。さすがにすべてを避けきるのは難しいか、ソラスと春日を棘の裂傷が襲う。
すかさずカズマが体内にマテリアルを流しこんで移動力を上昇させ、大地を蹴った。傷ついた仲間ふたりをかばうように、チャンドラヴァルマンの腕を盾にして立ち塞がる。そして空隙を見極めてその拳を繰り出し、イガグリ雑魔を打ち砕いた。
聖導士であるディーナは、精霊に祈りを捧げてマテリアルの力を引き出し、ソラスと春日の裂傷を柔らかな光で包んで癒した。回復役であることに誇りを感じる彼女は、仲間を癒やすことに惜しみなく力を使う。
ディーナの癒しによって生命力をみなぎらせたソラスは、休むことなく迎撃に移る。離れたところにいるとはいえ、村人たちが控えているところにまで棘が流れていってはいけない。光るエネルギーの矢を発現させ、イガグリ雑魔に打ち当てて衝撃を与えた。
ノワは鞭を幅広の短剣へと持ち替えていた。過去の経験から痛みには慣れている彼女だが、痛いものは痛い。だが今回は着ぐるみと仮面でがっちり防御されている。襲いくる棘を着ぐるみに受けながら、さくさくとイガグリ雑魔を両断していった。
風が吹くたびに、ころりころりと転がってくるイガグリ。それらのほとんどが雑魔であると、うららは気が付いた。栗の木からの落下、もしくは風に転がって自然を装い、イガグリ雑魔は移動していたのだ。うららは火属性を持つ特殊な刀を轟音で響かせ、イガグリ雑魔に渾身の一撃を叩き込んだ。
そして裂傷から回復した春日は、慣れない盾でイガグリ雑魔の棘を受け流しながら、そして仲間に声をかけて敵の動向を確認する。そして符を切り、蝶のような光弾を呼び出してイガグリ雑魔を撃った。
やがて、棘の飛び交う数が激減し、ついには攻撃の手が止んだ。撃滅したイガグリ雑魔は消滅して跡形もなくなっており、地面に転がっているのは艶やかな実を隠した本物のイガグリだけとなった。討伐に成功したのか。まだ残っているのではないか。念のためと、カズマが栗林の中を歩き回って安全確認を始めたので、他のハンターたちもそれに倣った。
●あっつあつの栗だよ!
「――あっつあつの栗だよ! 焼き栗はいかがかね?」
この数年、秋が深まってくるとヴェルフィオーレではその呼び声が聴こえてくる。そして今年も、その季節が始まろうとしていた。
栗林の安全確認が終わり、あれだけ騒がしかった栗林に枯葉が舞う音だけが静かに流れる。少し冷たくなってきた風に、肌寒さを感じた者もいただろう。
村の広場に戻ると、そこは甘く香ばしい匂いで満たされていた。
「あっつあつの栗だよ! ほら、ハンターさんたち、食べて食べて!」
火にかけられた鉄鍋に大量の皮付き栗。それを村人の男性がかき混ぜるようにして栗に火を通していた。
「焼き栗に合う飲み物ってのがよくわからないんだが、ハンターさんたちは何かあるかい?」
焼き栗の火加減を見ていたヴィジーが、ハンターたちに問いかける。ヴェルフィオーレに焼き栗の習慣ができたのはこの数年のことであり、秋の郷祭の目玉として定着させていくには、焼き栗とともに美味しい飲み物を供したいと考えていた。
「俺は手持ちの茶があるから、それを使うとしようか?」
カズマは、自身の携行品から秋の香りを詰め込んだ茶葉を取り出した。栗の甘みを考えて、渋みの強い茶ではなく香りのよいものを選んだとのことだ。
「仕事のあとの一杯なの! ホットワインとフルーツティーはどうかなって思ったの」
ベリー、オレンジ、レモンなど多くの種類の果実を用意していたディーナは、温かいものが欲しくなるこの時期に合わせて、大人も子どももそれぞれ楽しめる飲み物を提案した。材料が同じで準備が楽だという理由もあるらしい。
「この村でどのような材料が揃えられるのか分からないのですが、お子さんでも楽しめるようにホットミルクやココアはいかがでしょうか」
そう提案したのは、ソラスだ。ほくほくの栗に、甘くてあたたかい飲み物は相性も良いだろう。彼自身は、ほろ苦く甘い生クリーム入りコーヒーが好きだということだ。
「ワインは定番みたいですけど、私はお酒が飲めないので、ミルクを希望します」
まだ十代半ばであるノワが言った。温めたミルクに、蜂蜜とジンジャーをほんの少し加えたミルクは、焼き栗にも合うだろう。
うららは、飲み物のことを忘れてしまったのか、熱々の焼き栗と格闘しながら、一足早くその柔らかく甘い実を頬張っていた。
「近頃すっかり寒いし、栗は甘いから、バランスええよぉに温かい緑茶なんかもあるとええかなぁて思います」
東方の小さな村で生まれた春日にとって、緑茶は馴染み深い飲み物なのだろう。甘い栗に温かい緑茶は、口当たりがさっぱりしてとても良いものだ。
「ふむ……どれもうまそうだ。ひとつにこだわってもいかんな。子どもから大人まで楽しめるよう、いろいろ試してみるとするか!」
得心したとばかりに満足げなヴィジーは村人たちに指示を出して、今ハンターたちから提案のあった飲み物を用意させていた。
それぞれの飲み物がテーブルに並ぶころには、少し黒く焼けて皮の裂けた焼き栗も温かく甘い匂いをさらに強めて漂わせていた。
甘く柔らかく、熱々の栗の実。そして、温かい茶やフルーツを使った飲み物、ミルク、秋から冬へ移ろいゆく冷たい空気を和らげる癒しの時間。
ああ、美味い。誰かが言った。それに呼応するように、楽しげな談笑がいつまでも続いていた。ヴェルフィオーレでの秋の郷祭り、その名物誕生まで、あとほんの少し――。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/11/05 00:08:56 |
|
![]() |
相談卓・栗拾いファィッ(笑) ディーナ・フェルミ(ka5843) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/11/06 22:20:10 |