• 郷祭1016

【郷祭】路地裏工房コンフォートと指輪

マスター:佐倉眸

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/11/08 07:30
完成日
2016/11/17 01:30

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 極彩色の街ヴァリオスの路地裏を少し歩いたところにひっそりと佇む小さな宝飾工房。一時期閉められていたこの店は今、1人の少女の手で再び動き始めている。

 閉められていた頃、亡き職人の義理の息子にあたるエーレンフリートは、フマーレで営んでいた喫茶店を孫娘に任せ、諸諸の道具の片付けを行おうとしていた。
 エーレンフリートが出会った少女、モニカは幼い弟を負ぶって店のドアを叩き、弟子入りしたいと言った。
 エーレンフリートは事情を説明し、行く宛の無いモニカは弟のピノと共に、フマーレの喫茶店で働くことになった。
 モニカとピノはフマーレで暮らしていたが、前の冬にエーレンフリートが体調を崩し、一旦ヴァリオスに戻っていた。彼の体調は歳の所為もあってか回復が望めず、モニカは彼を助けるため本格的にヴァリオスで暮らすと決め、支度のために春にフマーレへ向かった。
 フマーレで歪虚絡みの事件があり、モニカが頼っていたエーレンフリートの孫娘がその被害を受けた。
 事件の後酷く衰弱した孫娘は喫茶店を閉めて、民間の警邏組織の詰め所に身を寄せていた。
 その組織に所属するシオという男には何度か顔を合わせており、ヴァリオスへと発つ時にも挨拶をした。
 それから、暫く。
 フマーレからヴァリオスへ向かう街道に雑魔が出て、郵便の馬車が襲われた。偶然にもその件に遭遇し、回収と移送のため出動したハンターに守られた彼から直接届けられた彼女の訃報。
 エーレンフリートは、そうかと一言呟いて、それきり部屋に籠もっている。


 その日から工房の店はずっと閉めていた。
 秋晴れの心地良い陽差しが心地良い今日くらいは開けようと、モニカはドアのプレートをOPENに向ける。
 ピノを寝かせるベッドは窓際、カーテン越しに昼下がりの温かな陽光が照らす。
 彼女の死もよくは分かっていないようだが、エーレンフリートやモニカが悲しんでいるのは分かるらしく、円らな目でじっと見詰めてくる。
 その瞳に大丈夫だよとぎこちなくも笑ってあやせる程度にはモニカも落ち着きを取り戻していた。

 開くのを待っていたかのように1人の女性がドアをノックした。
 カウンターに置いた天鵞絨の上に指輪を乗せる。
「随分古い物ですね」
 筋張る指で指輪を撫でて女性は溜息を吐く。
「母の遺品なの。父が言うには若い頃は気に入って着けていて、太って抜けなくなったのをどうにか外してから仕舞い込んでたらしいのよ。……それが、色色片付けていたら見付かって、多分良い物だろうから、私にくれるって言うのよ」
 女性はもう一度溜息を吐いた。指輪は着けないのにと自身の手を見て呟いた。
「でも、このままじゃ石も落ちそうだし、何か汚れてるし。綺麗になるなら、そうしてあげた方が良いのかなって」
 モニカは白い手袋を着けてルーペを覗く。
 石は気に入ってずっと着けていただろう細かな傷が多いが、透明で濁りは無くきらきらと煌めいていた。指輪自体の汚れとメッキが剥がれた跡が斑になった様子とは対照的だ。
 それでも、カットやデザインの凡庸さ、金属の質からは元々良い物では無かったと察せられる。
「見たこと無い石……何だろう、硝子、クリスタル、でも……」
 それなら留め金で砕けてしまっているだろう。
 ダイアモンドでは無いけれど、凄く綺麗できらきらしている。
 ルーペを覗き込んで黙るモニカに女性は言い辛そうに声を掛けた。
「……母は、リアルブルーから来たの。だから、それも、……その時に着けていた物で……だから、ここには無い物かも」
 ルーペごと顔を上げたモニカの、拡大された目が女性を見てぱちくりと瞬いた。
「――そう、だったんですか……それじゃあ、多分。そう、ですね。……お父様の仰ったように良い物、……若い頃に日常的に気軽に身に着けていらっしゃったようですし、メッキも剥がれてますし、高価な物では無くて……お母様のあちらでの思い出が沢山詰まった物だと思います。だから、指輪を着けなくとも、あなたにと仰ったのではないでしょうか?」
 少し綺麗にして、石のぐらつきは直しますね。

 数日後、指輪を受け取りに来た女性は、見違えた様に煌めくそれに喜び、節で止まるまで指を通して戯れている。
「きっと、お母さんもこんな気分だったのかな……」
 子供の様にはしゃぎながら。亡き母の追憶に浸る。
 女性の様子にモニカもほっと胸を撫で下ろした。
 ところで、と女性は困ったように首を傾げた。
「ジェオルジに行きたいんだけど、……ほら今お祭りでしょ。荷物が多くて、乗り合いの馬車は難しいの。馭者とか、護衛とか、全部やってくれるとこって、心当たり無い?」
「……ハンターオフィスは駄目なんですか?」

 姉は、正確には姉と慕っているだけの年上の女性は、喫茶店でハンターさんの常連も居て、店の中で地図を置いたり話し合い中にコーヒーを差し入れたり、そんなことをしていたの。
 でも私は、オフィスまでの道を教えてあげるだけ。

 そう笑ったモニカに女性はそれで充分と笑顔で手を振りオフィスへ向かった。


 馬車は用意したらしい。
 一頭立ての小さな荷馬車。けれど立派な幌が掛けられて、中には大きなスーツケースとチェロのケース。
 赤いリボンで指輪が括り付けられていた。

「今日はよろしく。大切な楽器だから揺らさないでね。あと、私も。付いたらすぐに演奏なの」
 だから大事に運んで頂戴。そう言って笑った女性は馬車の助手席で、ハンター達を見渡した。

リプレイ本文


 快晴の心地良い空に秋の涼しい風が渡っていく。
 荷物を積み込んだ馬車の回りにハンター達は集まっていた。
「よろしくね、おねーさん!」
 カリアナ・ノート(ka3733)がにこやかに声を掛け、星野 ハナ(ka5852)とラムピリカ(ka6313)も興味深げに楽器のケースを見詰めている。
「着くなり演奏会ってことはぁ、もしかして着替えも馬車内だったりしますぅ?」
 星野が笑顔で尋ねると、依頼人は真逆と肩を竦めた。くすくすと笑いながら、何事も無く街道を越えれば時間は充分有ると言う。それに安堵しながらも、受けた依頼は到着してすぐに演奏出来るように送り届けることだと言うと、依頼人は頼もしいのねと星野を見詰める目を瞬かせる。
 ひらりとラムピリカが手を挙げた。
「あたしも聴きたい!」
 歌を愛する澄んだ橙を輝かせ、弦楽器の大きなケースとその奏者たる依頼人を見た。
 惹かれて止まない音楽に弾む声、真摯で情熱さえ感じるそれに気押されたように見えた依頼人が、しかし嬉しそうに微笑んで是非と応えた。
 楽しげな声に僅かに頬を緩めて鞍馬 真(ka5819)は依頼人に声を掛ける。
「到着してすぐに演奏か、可能な限り急がなければな」
 しかし、と荷台を一瞥する。
 鞍馬自身が楽器を嗜むため、積まれたケースが気に掛かった。街道は平坦な道ばかりでは無い。
 同じく、その街道に慣れているマキナ・バベッジ(ka4302)も、毛布を片手にスーツケースへ手を伸ばした。
「……衝撃で、開いてしまうかも知れませんね。そちらはお任せ出来ますか?」
 広げる毛布でスーツケースを包みながら鞍馬に尋ねる。
 鞍馬が頷き、カリアナと星野もそれを手伝う。
「少しでも、衝撃を抑えられたらいいが……」
「ん! これでいいかしら、ね……よしっ、と」
 鞍馬が毛布で覆い、固定し直すロープに手を添えるとカリアナは状態を確かめて頷く。
 荷馬車の支度を進める中、バベッジさん、とカイン・マッコール(ka5336)が呼んだ。
 マキナは頷いて、魔導バイクを押してスタンドを跳ね上げ、その所作にカインも鐙を踏み込んだ。
「馬車とゴブリンが出会う前に、ゴブリンをすべて殺せばいい」
 楽器を気にする依頼人を一瞥しカインは暫し考える。ゴブリンに奪われた命を知っている。楽器より彼女の命を優先したい。ゴブリンは殺す。
 ぽつりと独り言のように零れた結論に、簡単じゃないかと口角を僅かに上げた。
「こちらも、もう準備は整います。……出られるようにしておきましょう」
 マキナが馬車を振り返る。先行する2人へ依頼人が不安そうな目を向けた。
「この道は慣れていますので、ご安心くださいね……」
 依頼人にそう声を掛け、マキナとカインは街道へと駆った。


 先行する2人の背が覗える距離で馬車はゆっくりと走り出す。
 空の運転席を見て手綱をと尋ねる星野に、依頼人はその手に引かれた馬を見ると、妬かれてしまいそうだと笑って首を横に揺らした。
「そんなこと無いですよぉ。でも、雑魔が出たらすぐ馬車に入って良いというまで出てこないで下さいねぇ?」
 鬣を撫でて星野が微笑む。馬車を見て、近くでの戦闘から依頼人の視界を庇えそうな幌の影を示して言う。
 依頼人が頷くと傍と後ろを守るように鞍馬と馬を並べ、カリアナとラムピリカが依頼人の傍らを歩く。
 周囲を警戒しながら不意に向けられた青い瞳に目が合うと、依頼人はカリアナの方へと身を乗り出して空いている席へと招いた。
 依頼人の横顔を見詰め、カリアナはその行き先に思い出される人の面影に口を噤んだ。
 不意に訪れる沈黙を裂く様に、ラムピリカが幌の内を覗く。
 この大きさの弦楽器は見慣れない。チェロですよね、と朗らかに尋ねる。
「あたし、歌が好きだから、興味あるの」
 警戒は怠らず、けれど和やかに馬車は進む。
 鞍馬も馬の歩調を合わせながら、今回はどんな曲をと尋ねる。
「――答えは、後で聞かせてくれるか?」
 先行からの連絡にハンター達に緊張が走った。

 街道を奔りだして暫く、見通しが悪くなる事に、周囲を眺めながら問題ないと連絡を続けた。
 カムイが何度目かの通信を終えたところ、先を覗っていたマキナが片足を突いてバイクを止め、先の茂みのざわめきを見た目を擦った。
 距離を詰めてバイクを止めると、マキナは再度それを覗う。
「気のせいでは無さそうですね……」
「……ああ、見付けた」
 竜の尾を象った重たい妖剣。鞘を払う刃には刃こぼれが目立ち、カインの少年らしい丈に迫る大きさの刀身を持つ。
 それを軽く操って馬上で構えると、気を量って馬の横腹を蹴る。蹄の蹴り上げた土埃が舞い、叩き込まれた一撃に、接近に気付いて身を庇ったゴブリンをその手に握る得物ごと叩き潰す。
 別の1匹へ鞭を放ち、マキナは状況を確かめる。
 確認出来たのは今斃された物を含めて3匹、鞭の一撃を受けた1匹が吠えるように声を上げて棍棒を振り回した。マキナとの間に割り入るようにカインが剣を振り下ろす。
 続けざまに2匹が斃されたゴブリンは、弾かれたように走り出す。その先が馬車の方へ向いていると、マキナが背に向けて鞭を放った。カインが馬を返し追い、マキナはトランシーバーを取って接近を告げる通信を行う。
 受け取った鞍馬の強張った声、ハンター達の緊張を知る。

 鞍馬が通信を終え、拳銃に手を掛ける。
 通信を聞いたカリアナも大鎌を構えて馬車の前に出る。
 手負いの敵影を射程に捉えると、マテリアルを巡らせて掲げた銀の刃を翻して氷の矢を放つ。
 動きを鈍らせたゴブリンに向けて引鉄を引き、その腹をひょうと音を立てた弾丸が貫くと、鞍馬はグリップを柄に持ち替えてハンター達の前に出る。
 木陰に、茂みにと見回し、金色に染まった目が青く戻っていく。
「1匹だけだったんですかぁ?」
 ふわりと髪を棚引かせ、札を構えた星野がその手を下ろさずに尋ね、ラムピリカもショルダーキーボードの鍵に指を掛け、魔導機械のマイクを握って周囲の影を睨んでいる。
「おねーさん、大丈夫だったかしら?」
 やがてその静けさに軽く息を吐いたカリアナが依頼人の側に戻る。
 何が起きたのと尋ねて、依頼人は首を傾げた。
「この先も、出てきそうだな」
 前に出ていた方が良さそうだと、鞍馬は手綱を執って馬を進める。
 話しの続きは後でと依頼人を振り返った。


 それから暫くは無事に進んだ。
 警戒は保ちながらも、馬車を守るハンター達は依頼人と話す程度の余裕が戻り、積荷の揺れない速度を保って走って行く。
「あいつらは斥候かそれとも囮か? 本命が馬車の後ろから来る可能性もあるけど」
 逃げた1匹を撃破した報せを受けて、カインは馬上から肩越しに振り返る。
 背を気に掛けなくていい安堵感に静かに瞬いて、仄暗い色を持った青の双眸が先を睨む。
 亡骸を茂みに押し遣ってバイクを走らせ、マキナがラムピリカへ連絡を取る。
「――敵の姿は見えませんが……少し陰が多いので気を付けて下さい」
 ラムピリカからの応答にハンター達の声が混ざり、気に掛けた依頼人に応じる声で通信が途切れる。
 トランシーバーを仕舞って、マキナはハンドルを握り締めた。伝えた通り、この先は張り出した枝や伸びた草が多いようだ。

 次の群に遭遇したのはその通信の少し後だった。
 先程よりも少し多いかも知れないと、カインが伝え、マキナは影に潜む姿に目を凝らした。
「足止めして護衛を減らして横とか後とかから別働隊って結構セオリーだと思いますぅ」
 馬車を止め、星野は後方を警戒する。囲むようにハンターを配して、敵が馬車までは至っていないことを確かめながら、先行に状況を問う。
 鞍馬は剣を抜いてトランシーバーの声に耳を澄ませた。
 曰く、そう多くは無いが、2人では手が足りないらしい。
「そうですねぇ、敵が多勢なら下がりながら戦って下さる方が安全だと思いますぅ」
 距離に余裕が有る内に馬車周囲の配置を再度確認し、札を構えた星野の茶色の瞳は蒼く輝いた。微風に揺れた柔らかな髪は、その風が凪いでも揺らしたまま、札にマテリアルを込めていく。
 音階に指を滑らせ、ラムピリカの周囲に丸いスピーカーが浮かび上がる。
 音を響かせているように、淡く明滅するその幻影を背負って、鍵に指を滑らせながら、マイクを構えて静かに息を吸い込んだ。
 仕込みのモーターも今はまだ静かな刀を抜き放つ。鞍馬は敵の気配を探りながらマテリアルに介して握る得物に魔力を込める。
 馬を進ませればすぐに先行の2人と、彼等と対峙する敵に遭遇した。

 敵を射程に、馬車を近付けながらも、守れる距離を保って留まり、カリアナは鎌を振るって敵を見据える。
 星野が構えた札を1枚引き抜いてマテリアルを込め依頼人に貼るように差し出した。
「言った通りに、していて下さいねぇ」
 札で視界は遮れないと、幌の影へ促すと、次の札にもマテリアルを込める。敵との距離を推し量り、騒ぎに暴れてしまわないようにと馬車に繋いだ馬にも札を貼った。
 ラムピリカの歌が響く。
「馬車なんか襲ってないで、あたしの歌を聴きなさい!」
 歌の力を信じて、牙を剥いて棍棒を振り回す彼等さえ宥めることが出来ると、信じて歌い、そして。
 歌にマテリアルを込めてマキナに届ける。
 撓った鞭が踏み込んでくるゴブリンを叩き、絡め取るように地面へと倒す。
「助かりました……あと、5匹です」
 茂みから覗く影に次を放ってマキナは告げる。
 馬車までは至らせまいと、鞍馬も魔力を込めた刀を振るい、それがゴブリンを裂く瞬間には更にマテリアルを込めようと柄を強く握った。
 手応えを得て、返された棍棒は鎬でいなす。弾かれた得物の代わりに向けられた爪を捉えて切り伏せると、次へと視線を走らせる。
「馬車には近付けさせない」
 断つ瞬間に震える刃の切れ味は血を巻いて鈍ることもなく、構えれば艶やかに光が写る。
 前に出たハンターに倒される仲間を見たゴブリンがそれを越そうと握っていた棍棒を置き手近な石を拾う。
 それが馬車へ投じられる前に自身へ落とされた石礫の衝撃に、ゴブリンは呻いて暴れる。
「……ふぅ、まだいるわね、行かないと」
 動かなくなるまで鎌を振り翳し、宝玉の流線を描いて礫を放つ。斃れたゴブリンを一瞥すると、戦況に目を移した。
「悪いが、一匹たりとも逃がす気はない」
 重い大剣がゴブリンの骨を砕く手応えを感じる。
 逃走を試みた背を断って、カインは小さく息を吐いた。
 近くでまた1匹斃れるのが見える。前方からの攻撃はこれで最後、後方や横、馬車の周囲に敵は見えない。
 1つ頷いて、抜き身のまま馬を走らせて先の様子を眺めに向かう。
 新たな敵や、逃げ延びたのもはいないらしい。

「流石にこのままは……馬車が走れませんから」
 戦闘を終え、息を吐く間も無くマキナが肩を竦めて言う。
 戦いの音にハンターの無事を尋ね、荷物を気に掛けた依頼人をカリアナと星野が止める間に亡骸を茂みに隠し、血の跡を暈かす。
 跡を越えると、マキナも先行に戻り、広い道に出て積荷の無事を確かめた。
 依頼人の謝辞に目的地まではもう暫く掛かるからと笑って、ハンター達はジェオルジを目指す。


 街に到着したところでカインは足を止めた。
 依頼人は馬車に座り続けだった身体を伸ばし、ハンター達も一息吐いている。
 同じ目的で来たらしい馬車が他にも停まり、道中の話しが断片的に聞こえ、辺りは俄に賑やかになった。
 依頼人は街道の警備に目的と荷物を伝え、街に設けられたステージへの道を尋ねている。
 自身の客としてと笑ってハンター達を紹介しようと振り返った視線から逃れるように踵を返した。
「もしかしたら偵察のみで近寄ってきていないゴブリンが、仲間を連れてきて襲撃してくる可能性があるかもしれないので偵察してきます」
 告げてそのまま見回りへ向かったカインの言葉に警備の男はゴブリンが出たのかと問う。
 戦闘の様子を知らぬ依頼人に代わってハンター達が状況を説明すると、またかというように警備の男達は溜息を零し、無事で良かったとハンター達を労った。

「何か手伝えることはあるか?」
 控え室にと設けられたテントの傍へ馬車を運び、荷物を解いてそれを運び込むと、依頼人は改めてハンター達にここまでの礼を告げて頭を下げる。
 客席への道順を聞きながら鞍馬が尋ねた。
「音合わせなり何なりお手伝いしますよぅ」
 星野が頷き、ラムピリカも片目を瞑って華やかに笑む。
「人手は多い方がいいでしょ? 安心して! あたしは歌で世界を変えるのを目指してるのよ、チューニングだってお手の物なんだからね!」
 チェロのケースに括られた指輪が煌めいている。
 それをじっと見詰めるマキナに依頼人が気になるのと声を掛けた。
「演奏が届くといいですね……いえ。きっと届くでしょうか……指輪を通じて。物には人の想いが籠められているものですから……」
 穏やかな声が告げる。依頼人がそうだといいと少し寂しげに微笑んで、指輪を撫でて頷いた。
「演奏は僕も楽しみにさせていただきます……」
 会場へ向かうマキナにカリアナも続く、若い様相に驚いたウェイターだが、2人の出てきたテントを見ると護衛のハンターかと尋ねた。
 会場へ向かうまでの祭の空気は、ジェオルジの春と秋の独特な物。初めてあの人に出会ったのは春だったと亡き友人を思い瞼を伏せた。

 鞍馬が会場に合流し、着替えも手伝った2人がその後に近くのテーブルでオードブルを摘まむ。
 秋の実りを祝う祭に相応しい酒と料理を楽しみながら、何度目かの拍手の後、ステージに椅子が運ばれた。
 次は、エリーヌ・エルマンと、司会の声。
「あ、エリーヌさんですねぇ」
 星野がグラスを手に顔を上げる。やがてドレスの裾を引き摺って依頼人が現れた。
 客席にハンター達の姿を見付けて静かに微笑み、ドレスに埋まるようにチェロを抱える。
「――わぁ……」
 カリアナが感嘆の声を零す。
 赤い目を静かに伏せて、マキナもその音色に聞き入った。
 ラムピリカはじっとその音に耳を澄ませて、奏でる手を見詰め。息を止める程その音楽に没頭している。
 広がる音色に沸く宴を見守るように、鞍馬も葡萄酒の杯を傾けた。
 その夜は盛況の内に宴は幕を下ろしたという。

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重体一覧

参加者一覧

  • 真白き抱擁
    カリアナ・ノート(ka3733
    人間(紅)|10才|女性|魔術師
  • 時の守りと救い
    マキナ・バベッジ(ka4302
    人間(紅)|16才|男性|疾影士
  • イコニアの夫
    カイン・A・A・カーナボン(ka5336
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師

  • ラムピリカ(ka6313
    鬼|17才|女性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ラムピリカ(ka6313
鬼|17才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2016/11/06 23:09:04
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/11/03 21:18:44
アイコン ミリアさんへの質問卓
星野 ハナ(ka5852
人間(リアルブルー)|24才|女性|符術師(カードマスター)
最終発言
2016/11/05 08:33:31