ゲスト
(ka0000)
あの指輪はどこかしら
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2016/11/13 19:00
- 完成日
- 2016/11/20 01:23
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●世界の隙間から
帳の下りた部屋。
壁に沿ってずらりとベッドが並んでいる。
どのベッドにも幼い子供が眠っていた。皆ひどく似通った顔立ちをしている。
倦むことを知らない人工の声がどこからともなく囁き続ける。子供たちの眠りを覚まさせない絶妙な音量で。
『私はこの階級に生まれてきてとても幸せだ。ワーカーは労働をしなくてはいけないけどマゴイはそうではない。ソルジャーは戦わなくてはいけないけどマゴイはそうではない。ステーツマンは他の階級の面倒を見なければいけないけどマゴイはそうではない。私の階級は勉強をしているだけでいい。勉強は私の大好きなことだ。私は色々なことを学び、色々なことを考える。それは私の大好きなことだ。私の階級はマゴイだ。私はこの階級に生まれてきてとても幸せだ。ワーカーは労働をしなくてはいけないけど――』
社会の完全なる安定は完全なる分業があってこそ。完全なる分業は完全なる均等があってこそ。完全なる均等は完全なる出生によってこそ。
胎生生殖は不揃いな存在を生み出してしまう。出生は胎外生殖によるものでなければならない。
養育は階級に沿った最良のものが一律に公から与えられる。親子の関係、家庭の存在は、社会不安定の要因となるだけだ。そういうものは存在していてはならない。
男女問わず誰かを好きになるのはいい。関係を持つのもいい。性欲の発露は何らやましいことではない。
だが特定の相手と結びつき過ぎることは許されない。
市民、あなたがたは『たった一人の大事な人』が存在するなどという妄想を抱いてはならない。
皆は皆にとって大事だ。皆は皆のものだ。皆は皆のために生きるのだ。
だから出来るだけたくさんの人と関係を持たなければならない。たくさんの相手を持つのは、ちっとも嫌なことではない。むしろ愉快なことだ。
市民、あなたがたには最後まで楽しく人生を送る権利が保証されている。これは人類が、今までどの時代にもなしえなかったことだ。科学と魔法の融合がそれを可能にした。
どの階級にも十分な衣食住。どの階級にも幸福感。どの階級にも自負心。どの階級にも達成感。
必要なのは安定だ。凪いだ水面の安定だ。永久に続く緑のような――。
マゴイは薄く目を開いた。
色も形も定かならない空間が周囲に広がっているのを確認する。
「……随分昔のことを……夢に見たものね……」
呟いた彼女はしばらく思索の森に迷い込んだ。
そうしているうちにふと、思い出した。
「……そういえば指輪は……どうなったのかしら……」
持ち主に返すように伝えておいたが、ちゃんとそうしているだろうか。
ちょっとその点が気になってきたマゴイは、確認をしてみようかなという気になった。
しかし、そこでまた考え込んだ。
不定空間にリアルブルーへの穴を空けるまでは簡単なのだ。
しかし、この空間にいるのは自分だけではない。あちこちから落ちたり飛ばされたりしてきた様々な存在がいる。
彼らの中には元の場所に戻りたがっているものが多い。穴が空いたら先を争って殺到してくるだろう。この前みたいに。
「……そうなったら面倒……では……どうしようかしら……」
呟いた後彼女は、再度思索にふける。
しばらくしてから、また呟く。
「……ああ……そうだ……何も私が直に……向こうへ出現する必要はないんだったわ……」
●端末機きみに決めた。
夜半。とある家の物置小屋。
食べ物を求めネズミが動き回っている。
くんくん鼻を動かし壁沿いに移動していた1匹が、ぴたりと動きを止めた。
目の前にはひびの入った鏡が無造作に立て掛けられていたのだが、その中に女の顔が浮かんでいたのだ。
『……これがいいわね……数も多いから……』
直後ネズミの額に、目玉のような幾何学模様が浮かび上がる。
『……さあ……仲間を呼んできて……』
●捜索中……。
数知れないほどのネズミが建物の一棟全体を覆い尽くし、蠢いている。
それを目の前にした八橋杏子は全身に鳥肌を立てた――何を隠そう彼女、細かいものが大量にもぞもぞ動いているという光景が、この世で一番苦手なのである。
「……で、何が起きたんです?」
魔術師協会の性質上怪異現象には慣れているのか、職員は、冷静な受け答えをした。
「昨日の晩方から急にネズミが集まってきたんです。わたしたちも総力を挙げ侵入を極力排除しているのですが、次から次に押し寄せてきまして、どうにも追いつくものではなくて」
「こういう場合には駆除業者に連絡するものじゃないんですか?」
「いえ、これはハンター案件です。もっと近づいて、ネズミをよく見てください」
言われたとおり近づいてみたハンターたちは、ネズミ1匹1匹の額に奇妙な模様が浮き出しているのを見る。
職員が手に火球を作り出し、ネズミにぶつけた。
しかしネズミは燃える事なく平気で動き回っている。
「この通りです。どうやら何者かがこのネズミどもに、攻撃への耐性を付与し、操っているらしいのです」
「……操るって、これだけの数を一度に?」
どうも信じがたい話だ。しかし現実に起きていることなのだからして、認めなければなるまい。しかし一体誰が。
「さあ、そこは分かりませんが、とにかくあなたがたにお願いしたいのは地下庫資料の確保です。古今東西から集められた貴重なアイテムが盗まれたり壊されたりしようものなら、魔術界全体の、大きな損失となりますので」
帳の下りた部屋。
壁に沿ってずらりとベッドが並んでいる。
どのベッドにも幼い子供が眠っていた。皆ひどく似通った顔立ちをしている。
倦むことを知らない人工の声がどこからともなく囁き続ける。子供たちの眠りを覚まさせない絶妙な音量で。
『私はこの階級に生まれてきてとても幸せだ。ワーカーは労働をしなくてはいけないけどマゴイはそうではない。ソルジャーは戦わなくてはいけないけどマゴイはそうではない。ステーツマンは他の階級の面倒を見なければいけないけどマゴイはそうではない。私の階級は勉強をしているだけでいい。勉強は私の大好きなことだ。私は色々なことを学び、色々なことを考える。それは私の大好きなことだ。私の階級はマゴイだ。私はこの階級に生まれてきてとても幸せだ。ワーカーは労働をしなくてはいけないけど――』
社会の完全なる安定は完全なる分業があってこそ。完全なる分業は完全なる均等があってこそ。完全なる均等は完全なる出生によってこそ。
胎生生殖は不揃いな存在を生み出してしまう。出生は胎外生殖によるものでなければならない。
養育は階級に沿った最良のものが一律に公から与えられる。親子の関係、家庭の存在は、社会不安定の要因となるだけだ。そういうものは存在していてはならない。
男女問わず誰かを好きになるのはいい。関係を持つのもいい。性欲の発露は何らやましいことではない。
だが特定の相手と結びつき過ぎることは許されない。
市民、あなたがたは『たった一人の大事な人』が存在するなどという妄想を抱いてはならない。
皆は皆にとって大事だ。皆は皆のものだ。皆は皆のために生きるのだ。
だから出来るだけたくさんの人と関係を持たなければならない。たくさんの相手を持つのは、ちっとも嫌なことではない。むしろ愉快なことだ。
市民、あなたがたには最後まで楽しく人生を送る権利が保証されている。これは人類が、今までどの時代にもなしえなかったことだ。科学と魔法の融合がそれを可能にした。
どの階級にも十分な衣食住。どの階級にも幸福感。どの階級にも自負心。どの階級にも達成感。
必要なのは安定だ。凪いだ水面の安定だ。永久に続く緑のような――。
マゴイは薄く目を開いた。
色も形も定かならない空間が周囲に広がっているのを確認する。
「……随分昔のことを……夢に見たものね……」
呟いた彼女はしばらく思索の森に迷い込んだ。
そうしているうちにふと、思い出した。
「……そういえば指輪は……どうなったのかしら……」
持ち主に返すように伝えておいたが、ちゃんとそうしているだろうか。
ちょっとその点が気になってきたマゴイは、確認をしてみようかなという気になった。
しかし、そこでまた考え込んだ。
不定空間にリアルブルーへの穴を空けるまでは簡単なのだ。
しかし、この空間にいるのは自分だけではない。あちこちから落ちたり飛ばされたりしてきた様々な存在がいる。
彼らの中には元の場所に戻りたがっているものが多い。穴が空いたら先を争って殺到してくるだろう。この前みたいに。
「……そうなったら面倒……では……どうしようかしら……」
呟いた後彼女は、再度思索にふける。
しばらくしてから、また呟く。
「……ああ……そうだ……何も私が直に……向こうへ出現する必要はないんだったわ……」
●端末機きみに決めた。
夜半。とある家の物置小屋。
食べ物を求めネズミが動き回っている。
くんくん鼻を動かし壁沿いに移動していた1匹が、ぴたりと動きを止めた。
目の前にはひびの入った鏡が無造作に立て掛けられていたのだが、その中に女の顔が浮かんでいたのだ。
『……これがいいわね……数も多いから……』
直後ネズミの額に、目玉のような幾何学模様が浮かび上がる。
『……さあ……仲間を呼んできて……』
●捜索中……。
数知れないほどのネズミが建物の一棟全体を覆い尽くし、蠢いている。
それを目の前にした八橋杏子は全身に鳥肌を立てた――何を隠そう彼女、細かいものが大量にもぞもぞ動いているという光景が、この世で一番苦手なのである。
「……で、何が起きたんです?」
魔術師協会の性質上怪異現象には慣れているのか、職員は、冷静な受け答えをした。
「昨日の晩方から急にネズミが集まってきたんです。わたしたちも総力を挙げ侵入を極力排除しているのですが、次から次に押し寄せてきまして、どうにも追いつくものではなくて」
「こういう場合には駆除業者に連絡するものじゃないんですか?」
「いえ、これはハンター案件です。もっと近づいて、ネズミをよく見てください」
言われたとおり近づいてみたハンターたちは、ネズミ1匹1匹の額に奇妙な模様が浮き出しているのを見る。
職員が手に火球を作り出し、ネズミにぶつけた。
しかしネズミは燃える事なく平気で動き回っている。
「この通りです。どうやら何者かがこのネズミどもに、攻撃への耐性を付与し、操っているらしいのです」
「……操るって、これだけの数を一度に?」
どうも信じがたい話だ。しかし現実に起きていることなのだからして、認めなければなるまい。しかし一体誰が。
「さあ、そこは分かりませんが、とにかくあなたがたにお願いしたいのは地下庫資料の確保です。古今東西から集められた貴重なアイテムが盗まれたり壊されたりしようものなら、魔術界全体の、大きな損失となりますので」
リプレイ本文
「魔術協会がっ……ねずみに占拠されている……?」
貴重な魔道具が害獣に蹂躙されているかもしれない。思うとマルカ・アニチキン(ka2542)は、泣けてきそうだった。ぐっとこらえはしたものの。
常のとおり半睡状態であるドゥアル(ka3746)は、迷惑そうに耳を押さえる。
「……小動物の音と声がうるさくて眠れな……静かにさせてきましょ……」
ソラス(ka6581)は魔術師としての興味を隠さない。ネズミをつつきいじりまわし、額の模様をじっくり眺める。
「ああ、これはすごい。耐性付与と操作ができるとは」
ネズミはひたすら蠢いているだけで、刺激してくる相手を襲おうとしない。
ロニ・カルディス(ka0551)はその点に着目する。
(こうもピンポイントに出てきたということは、明確な目的があると思うのだが……)
とりあえず、復讐とか腹いせとかいった攻撃的な動機では無さそうだ。もしそうだとしたら人に対する攻撃もさせるはず。
(とくると物取り、か? しかし、それにしちゃ目立ち過ぎだよな……)
思案を続けているところ、叱責が飛んできた。
「こら、ロニ。止めなさい」
声がした方へ顔を向ければ、メイム(ka2290)が、猫の尻尾を押さえていた――ネズミを捕ろうとしていたのだ。
ロニが自分を見ているのに気づいた彼女は、にこっと笑って言う。
「ん、ロニさんじゃなくて、この子の事だよー♪」
彼女の飼い猫とドワーフは、偶然にも名前がかぶっていた。
エルバッハ・リオン(ka2434)は建物を見上げる。
(今回の事件を起こしている者が誰かは分かりませんが、貴重品を確保しないといけないことを考えると、まずは説得からした方がいいでしょうか)
ザレム・アズール(ka0878)は窓のネズミを何匹か引きはがし、ガラスに顔を押し付けた。
照明が落ちているので細かくは見えないが、ネズミは確実に内部まで侵入している。
地下保管庫まで到達していないことを望むばかりだ。職員によれば全面封鎖しカギをかけたそうだが……数が数、楽観視は出来ない。
「資料が齧られたりしたら大変だな。あと、糞とか。ノミやダニもついてきてるかも知れないし」
当然そういうことも有り得る。何者かの統制下にあるとは言っても、所詮ネズミはネズミ。普段何を食べどこに住んでいるものやら……。
あれこれ想像しマルカは、ちょっと身震いする。
(後で絶対掃除しないと……)
天竜寺 詩(ka0396)はふと、気掛かりなことを思い出す。
(魔術師協会の倉庫って言うと、スペットの指輪も保管されてるんだっけ?)
いまいち確信が持てなかったので職員のところへ行き、確認を取ってみる。
「指輪――? ああ、それも保管庫の中です。この区画に収納されているはずで……」
まずい、と詩は思った。
誰が襲ってきているのか知らないが、あれをうっかり盗まれでもしたら、また困ったことになる。
「絶対阻止しないと! 皆、早く入ろう!」
杏子は額に手を当て、天を仰ぐ。
「勘弁してよ……」
ネズミの群れがどこでどうなっているか分からないので、ハンターたちは二手に別れ、建物内に侵入して行く。
●
建物の中へ足を踏み入れてみると、予想以上のネズ密度。前後左右上下から聞こえるちいちい声。
「……隠れるだけムダだな」
早々に隠密行動を諦めるザレム。ひとまずネズミがどの程度いるのかはっきりさせておこうと、ドゥアルと一緒に壁の照明を探す。
だがそこにもネズミが張り付いていて、手探りでは何が何やら。
仕方ないので両者、ランタンに火を灯した。惨状が明るみにさらされる。
「いいいいいいいいゃああああ!」
死にそうな声を上げる杏子。
詩も胃の中がむずむずしてしょうがない。
「うわぁ……」
リオンは動揺を見せず呟く。
「これは壮観ですね」
ザレムはネズミの動きを見極めることに集中した。
急に明るくなったことについて、さしたる反応を示そうとしていない。詩がチーズをまき始めたについても。隙間に頭を突っ込み、鼻をくんくんさせ、何かを探している。全体として一方向に動いている――ように見える。
「どうも操り手は、ここにいないようだな」
言って彼は足元にネズミを1匹手に取り、試しに話しかけてみる。
「おい、お前を動かしているのは、どこの誰だ?」
ネズミは頭を右に傾げる。
続けてリオンも、聞く。
「すみませんが、ネズミたちを操っている方、聞こえていますでしょうか」
ネズミは頭を左に傾げる。
詩は、暗い廊下の奥に向け、怒鳴った。
「鼠達を操ってるのは誰? 名乗りなさい!」
直後周囲のネズミが、一斉に声を発した。
『『……イチド……イエバ……キコエテル……』』
●
ソラスはランタン片手に猫を抱くメイムに話しかける。
「……近くにいるのでないとしたら、透視もできるということでしょうけれど、どういう風に術を使っているのかも気になるところですね」
メイムは、少し不機嫌そうな顔。獣が意に反し使役される姿を見るのは、彼女にとって気持ちのいいことではない。
「あーこれは、ファミリアズアイの類だね。多数同時なあたりかなり高度なアレンジ、いい感じのマテリアルじゃないけど」
言ってから彼女は、大きく息を吸い込んだ。
「ふりぃぃず!」
急に発せられた大音声にびくっとし、LEDライトを取り落としかけるマルカ。
ネズミたちが一斉に動きを止め、ハンターに視線を注ぐ。
圧を感じ思わず身構えるロニ。
ネズミたちは合わせて声を発した。
『『……アラ……コッチニモ……ミタヨウナカオ……』』
もそりもそりした喋り方を聞いた途端、マルカは、既視感を覚えた。
ネズミの口から出ているせいか声のキーが高くなっているが、恐らく以前聞いたのと同じもの……。
「メイムさん、この声、私知っているかも――」
●
声の主について心当たりがあった詩は、その名前を口にした。
「マゴイ? もしかしてスペットの指輪を狙ってるの!?」
詩の指摘にネズミたちは、また声を揃える。
『『……ア……ヤッパリココニ……ユビワガアルノ……』』
余計な情報を与えてしまったのではないかと危惧しつつ、本題に入るリオン。
「マゴイさんでしたか。今回は何が目的なのでしょうか?」
『『……ユビワヲ……モチヌシニ……カエスノ……』』
随分あっさり手の内を明かすあなと、寝ぼけ眼に思うドゥアル。
ザレムは相手の素性について、今一度確かめた。
「始めまして、オレはザレム・アズールだ。あんたはマゴイということで間違いないか?」
『『……ソウ……ワタシハマゴイ……』』
「そうか。それならマゴイ、とりあえず、彼女らの話を聞いてくれないか。あんたが言う「持ち主」について、何かと詳しく知って――」
ネズミたちはゆらゆら頭を振りながら、彼の言葉を遮る。
『『……アナタタチ……イッカショニアツマッテ……ジュンバンニ……ハナシテクレナイ?』』
●
『『……アナタタチ……イッカショニアツマッテ……ジュンバンニ……ハナシテクレナイ?』』
これだけの数の動物と知覚を共有しているのだ。膨大な量の情報が逐一流れ込んでくるだろうことは想像が付く。そんな状態で散らばった一人一人と会話のやり取りをするのは、なるほど煩わしいかも知れない。
思いながらロニは、ネズミの向こうにいる相手に言った。
「なるほど分かった。ではマゴイとやら、ネズミを少し下がらせてくれないか。この混みあいようじゃ俺たちも、仲間と合流しづらいんだ。今どの辺りにいるかもよく分からんしな」
床を埋め尽くしていた群れが左右に退き、道が出来る。
喋る役を担っていたネズミたちが一団となって、その空いた道を進み始めた。
『『コッチ』』
ソラスはメイムに囁く。
「意外と話が分かりそうな人ですよね」
メイムは首をひねった。
「さあ、どうかな」
すぐマルカは、行く手に明かりを見つけた。ザレムたちのランタンだ。
●
メンバーが揃ったところで詩は、改めてマゴイに説いた。指輪をスペットに渡すと明言した以上、阻止しないわけにはいかない。
「スペットは貴方の助手をしてたんでしょ? なら彼がどういう人が解ってるでしょ? スペットを猫頭にしたのも指輪を渡そうとしてるのも何か理由があるのかもしれないけど、今スペットは更生の為の道を歩き始めたばかりなの。でも今指輪を渡したらきっとまた悪い事をしちゃうよ。だからお願い。スペットが誘惑に負けなくなるまで少し待って欲しい。私は彼はきっとそうなれるって信じてるから!」
感情の高ぶるあまり目から一滴涙をこぼす。
それに対しネズミたちは、ぽかんとしていた。声を揃えて一斉に。
『『……ソレ、ナンノコト……?』』
(……あ……この人……スペットが何をしたのか……まだ知らないわけですね……)
そこに気づいたドゥアルは、話して聞かせる。
スペットが色々悪さをし、逮捕投獄されたこと。そのせいで指輪が市井に流れ、前回の騒ぎが起きたこと。あの後指輪はこの協会に預けられていること。そして現在スペットが、更生中であることも。
「……そんな訳で……スペットに指輪を返すと……碌な事にならな……」
ぐう、といびきで締めくくるデュアル。
ネズミたちは、揃って頭を傾けた。
『『……ドウヤラカレハ……イロイロ……オモイチガイヲ……シテイルヨウナ……』』
ソラスは問いかける。
「なぜ指輪を渡さないといけないのか、渡さなかったらどんな重大なことがあるのか等をお聞かせいただけませんか?」
『『……ナゼッテ……アレハ……カレノ……ミノアンゼンヲ……ホショウスルタメノモノ……』』
ロニは猫の顔を思い出しつつ、頭をかく。
(スペットは指輪に安全を保障されなきゃならん程、弱くないと思うが……)
ザレムは何よりもまず、ネズミを退散させて欲しいと頼む。
「ネズミの代わりに俺が探すってのでどうかな? その方が貴方の目的達成も早くなる……どうだろうか?」
リオンとソラスが続けて言う。
「強引なやり方をしますと、後々厄介ごとの原因になるかもしれません。ですので、いったん引いて頂けませんか」
「とにかく指輪は、今は魔術師協会の預かり品ですから、戻してほしいなら協会の方とお話合いをするしかないと思います」
マルカはここにどれだけ貴重なものがあるかということを、熱を込め訴える。
「どれも魔術師協会にとって、いや魔法にとって、失ったら取り返しがつかないものばかりなんです、歳月を経て劣化してるものもありますし……」
ネズミたちは揃って頭を傾けたまま。まだ思案にふけっているらしい。
メイムは大きく息を吸い、吠えた。
「ねえ、聞いてるぅううううううう!」
ネズミたちは今夢から覚めたように目をしばしばさせ、首を戻した。
『『……アー……ジジョウハ……ダイタイワカッタワ……ソレナラ……キョーカイノヒト……トヤラト……ハナシヲシマショウカ……』』
ネズミたちはくるりと方向転換した。潮が引くように退散して行く。
最後に残った一匹が、杏子の体に駆け登る。
『……ジャア、キョーカイノヒト、ノトコロニ……』
杏子は反射的に腕を振った。
振り落とされたネズミは不服そうな声を上げる。
『……ナニヲスルノヨ……』
「何って! いきなりネズミに飛びつかれたら嫌に決まってるでしょおお!」
声を裏返らせる杏子の気持ちが分からないでもないマルカは、マゴイに聞いてみた。
「あのー、ネズミ以外のものには乗り移れませんか?」
ネズミは後足で立ち上がり、じっとマルカを見返した。それから小さな手で、コンパクトを指さした。
『……ナラ……ソレアケテ……』
マルカはコンパクトを開いた。
彼女の顔が映るべきそこに、全く別の女の顔が――いつか見たのとそっくり同じ顔が――映る。
次の瞬間、マルカの意識は飛んだ。
●
地下保管庫。
目玉模様を額に浮き上がらせたマルカが、もそりもそりと問いかける。
『……指輪の力を借りた……魔法を……行使されるのが問題だから……彼に返さないというわけね……?』
協会職員は戦々恐々としながら答えた。
「は、はあ、そうです。そういうことです」
『……なら……この指輪で……そういうことが出来なくなれば……本人に返してもいいということね……?』
「え? えー、まあ、理屈ではそうなりますか……刑期が終わればですけど」
マゴイマルカは、納得したように頷いた。そして厳重に封をされた箱に手をかざした。
音もなく箱が開き、指輪が姿を現す。
職員は居並ぶハンターたちへ、不安げに念を押した。
「大丈夫なんでしょうね、本当に」
半分寝ながら答えるドゥアル。
「大丈夫……いきなりあれを持って逃げたりはしない……多分……」
ザレムはマゴイの一挙手一投足を見守る。
兎にも角にもマゴイに一旦指輪を開示してくれと協会に頼み込んだ手前、もし職員が懸念するような事態が起きれば、面目ないどころではない。
メイムは指輪をためつすがめつしているマゴイに、こそっと話しかける。
「スペットのこと、なんだけどね――彼は人間の顔を取り戻したがっていたけど、それは可能かな?」
『……取り戻せる顔……彼には……ないはずだけど……ねえ……』
呟きに続けてマゴイは、聞いたこともない言葉を発した。
『■■――■■――■■――■■■』
指輪がまばゆい緑色の光を発する。
その場にあったありとあらゆる品々が浮き上がった。人さえも。
「わ、わ、わ!?」
手にしていたスタッフが離れて行きそうになるのを引きとどめる詩。
光は唐突に収束した。同時に浮き上がっていたものも地に落ちた。
ぐちゃぐちゃになった周囲を気にすることもなく、マゴイが言う。
『……機能最小限になるよう……鍵かけたから……時期が来たら返しておいて……彼に……』
次の瞬間マルカの額から目玉模様が消えた。リオンはよろめいた彼女の体を、後ろから支える。
我に返った彼女は、目をぱちぱち。
「な、何? 何がどうなったんですか?」
ザレムとソラスはため息混じりに周囲を見回す。
「とりあえず大掃除しなくちゃな」
「整理整頓も、ですね」
メイムは猫を腕から降ろす。
「行ってロニ。まだネズミの残りがいるかもしれないからね」
ドゥアルは肩をすくめた。
「まぁ……わざとじゃないな……今回は許しましょ……」
と言いかけたところで腕をぽりぽり。
「……かゆい……」
ロニも脚を掻く。
「くそ、俺もやられた」
詩も、杏子も。
「やだもう」
「蚤?」
それを聞いたマルカは即刻家事スキルを発揮する。
ネズミに引き寄せられてきた害虫を虫取りボトルで駆除。脱いだ衣類と手ぬぐい、その他もろもろを燃やすという徹底的な消毒を行う。
「ファイアルォ!」
後日、ハンターたちと協会員との話し合いにより、この件がスペットに報告された。
指輪が機能しなくなったについて彼が不満を覚えたのは、言うまでもないことである。
貴重な魔道具が害獣に蹂躙されているかもしれない。思うとマルカ・アニチキン(ka2542)は、泣けてきそうだった。ぐっとこらえはしたものの。
常のとおり半睡状態であるドゥアル(ka3746)は、迷惑そうに耳を押さえる。
「……小動物の音と声がうるさくて眠れな……静かにさせてきましょ……」
ソラス(ka6581)は魔術師としての興味を隠さない。ネズミをつつきいじりまわし、額の模様をじっくり眺める。
「ああ、これはすごい。耐性付与と操作ができるとは」
ネズミはひたすら蠢いているだけで、刺激してくる相手を襲おうとしない。
ロニ・カルディス(ka0551)はその点に着目する。
(こうもピンポイントに出てきたということは、明確な目的があると思うのだが……)
とりあえず、復讐とか腹いせとかいった攻撃的な動機では無さそうだ。もしそうだとしたら人に対する攻撃もさせるはず。
(とくると物取り、か? しかし、それにしちゃ目立ち過ぎだよな……)
思案を続けているところ、叱責が飛んできた。
「こら、ロニ。止めなさい」
声がした方へ顔を向ければ、メイム(ka2290)が、猫の尻尾を押さえていた――ネズミを捕ろうとしていたのだ。
ロニが自分を見ているのに気づいた彼女は、にこっと笑って言う。
「ん、ロニさんじゃなくて、この子の事だよー♪」
彼女の飼い猫とドワーフは、偶然にも名前がかぶっていた。
エルバッハ・リオン(ka2434)は建物を見上げる。
(今回の事件を起こしている者が誰かは分かりませんが、貴重品を確保しないといけないことを考えると、まずは説得からした方がいいでしょうか)
ザレム・アズール(ka0878)は窓のネズミを何匹か引きはがし、ガラスに顔を押し付けた。
照明が落ちているので細かくは見えないが、ネズミは確実に内部まで侵入している。
地下保管庫まで到達していないことを望むばかりだ。職員によれば全面封鎖しカギをかけたそうだが……数が数、楽観視は出来ない。
「資料が齧られたりしたら大変だな。あと、糞とか。ノミやダニもついてきてるかも知れないし」
当然そういうことも有り得る。何者かの統制下にあるとは言っても、所詮ネズミはネズミ。普段何を食べどこに住んでいるものやら……。
あれこれ想像しマルカは、ちょっと身震いする。
(後で絶対掃除しないと……)
天竜寺 詩(ka0396)はふと、気掛かりなことを思い出す。
(魔術師協会の倉庫って言うと、スペットの指輪も保管されてるんだっけ?)
いまいち確信が持てなかったので職員のところへ行き、確認を取ってみる。
「指輪――? ああ、それも保管庫の中です。この区画に収納されているはずで……」
まずい、と詩は思った。
誰が襲ってきているのか知らないが、あれをうっかり盗まれでもしたら、また困ったことになる。
「絶対阻止しないと! 皆、早く入ろう!」
杏子は額に手を当て、天を仰ぐ。
「勘弁してよ……」
ネズミの群れがどこでどうなっているか分からないので、ハンターたちは二手に別れ、建物内に侵入して行く。
●
建物の中へ足を踏み入れてみると、予想以上のネズ密度。前後左右上下から聞こえるちいちい声。
「……隠れるだけムダだな」
早々に隠密行動を諦めるザレム。ひとまずネズミがどの程度いるのかはっきりさせておこうと、ドゥアルと一緒に壁の照明を探す。
だがそこにもネズミが張り付いていて、手探りでは何が何やら。
仕方ないので両者、ランタンに火を灯した。惨状が明るみにさらされる。
「いいいいいいいいゃああああ!」
死にそうな声を上げる杏子。
詩も胃の中がむずむずしてしょうがない。
「うわぁ……」
リオンは動揺を見せず呟く。
「これは壮観ですね」
ザレムはネズミの動きを見極めることに集中した。
急に明るくなったことについて、さしたる反応を示そうとしていない。詩がチーズをまき始めたについても。隙間に頭を突っ込み、鼻をくんくんさせ、何かを探している。全体として一方向に動いている――ように見える。
「どうも操り手は、ここにいないようだな」
言って彼は足元にネズミを1匹手に取り、試しに話しかけてみる。
「おい、お前を動かしているのは、どこの誰だ?」
ネズミは頭を右に傾げる。
続けてリオンも、聞く。
「すみませんが、ネズミたちを操っている方、聞こえていますでしょうか」
ネズミは頭を左に傾げる。
詩は、暗い廊下の奥に向け、怒鳴った。
「鼠達を操ってるのは誰? 名乗りなさい!」
直後周囲のネズミが、一斉に声を発した。
『『……イチド……イエバ……キコエテル……』』
●
ソラスはランタン片手に猫を抱くメイムに話しかける。
「……近くにいるのでないとしたら、透視もできるということでしょうけれど、どういう風に術を使っているのかも気になるところですね」
メイムは、少し不機嫌そうな顔。獣が意に反し使役される姿を見るのは、彼女にとって気持ちのいいことではない。
「あーこれは、ファミリアズアイの類だね。多数同時なあたりかなり高度なアレンジ、いい感じのマテリアルじゃないけど」
言ってから彼女は、大きく息を吸い込んだ。
「ふりぃぃず!」
急に発せられた大音声にびくっとし、LEDライトを取り落としかけるマルカ。
ネズミたちが一斉に動きを止め、ハンターに視線を注ぐ。
圧を感じ思わず身構えるロニ。
ネズミたちは合わせて声を発した。
『『……アラ……コッチニモ……ミタヨウナカオ……』』
もそりもそりした喋り方を聞いた途端、マルカは、既視感を覚えた。
ネズミの口から出ているせいか声のキーが高くなっているが、恐らく以前聞いたのと同じもの……。
「メイムさん、この声、私知っているかも――」
●
声の主について心当たりがあった詩は、その名前を口にした。
「マゴイ? もしかしてスペットの指輪を狙ってるの!?」
詩の指摘にネズミたちは、また声を揃える。
『『……ア……ヤッパリココニ……ユビワガアルノ……』』
余計な情報を与えてしまったのではないかと危惧しつつ、本題に入るリオン。
「マゴイさんでしたか。今回は何が目的なのでしょうか?」
『『……ユビワヲ……モチヌシニ……カエスノ……』』
随分あっさり手の内を明かすあなと、寝ぼけ眼に思うドゥアル。
ザレムは相手の素性について、今一度確かめた。
「始めまして、オレはザレム・アズールだ。あんたはマゴイということで間違いないか?」
『『……ソウ……ワタシハマゴイ……』』
「そうか。それならマゴイ、とりあえず、彼女らの話を聞いてくれないか。あんたが言う「持ち主」について、何かと詳しく知って――」
ネズミたちはゆらゆら頭を振りながら、彼の言葉を遮る。
『『……アナタタチ……イッカショニアツマッテ……ジュンバンニ……ハナシテクレナイ?』』
●
『『……アナタタチ……イッカショニアツマッテ……ジュンバンニ……ハナシテクレナイ?』』
これだけの数の動物と知覚を共有しているのだ。膨大な量の情報が逐一流れ込んでくるだろうことは想像が付く。そんな状態で散らばった一人一人と会話のやり取りをするのは、なるほど煩わしいかも知れない。
思いながらロニは、ネズミの向こうにいる相手に言った。
「なるほど分かった。ではマゴイとやら、ネズミを少し下がらせてくれないか。この混みあいようじゃ俺たちも、仲間と合流しづらいんだ。今どの辺りにいるかもよく分からんしな」
床を埋め尽くしていた群れが左右に退き、道が出来る。
喋る役を担っていたネズミたちが一団となって、その空いた道を進み始めた。
『『コッチ』』
ソラスはメイムに囁く。
「意外と話が分かりそうな人ですよね」
メイムは首をひねった。
「さあ、どうかな」
すぐマルカは、行く手に明かりを見つけた。ザレムたちのランタンだ。
●
メンバーが揃ったところで詩は、改めてマゴイに説いた。指輪をスペットに渡すと明言した以上、阻止しないわけにはいかない。
「スペットは貴方の助手をしてたんでしょ? なら彼がどういう人が解ってるでしょ? スペットを猫頭にしたのも指輪を渡そうとしてるのも何か理由があるのかもしれないけど、今スペットは更生の為の道を歩き始めたばかりなの。でも今指輪を渡したらきっとまた悪い事をしちゃうよ。だからお願い。スペットが誘惑に負けなくなるまで少し待って欲しい。私は彼はきっとそうなれるって信じてるから!」
感情の高ぶるあまり目から一滴涙をこぼす。
それに対しネズミたちは、ぽかんとしていた。声を揃えて一斉に。
『『……ソレ、ナンノコト……?』』
(……あ……この人……スペットが何をしたのか……まだ知らないわけですね……)
そこに気づいたドゥアルは、話して聞かせる。
スペットが色々悪さをし、逮捕投獄されたこと。そのせいで指輪が市井に流れ、前回の騒ぎが起きたこと。あの後指輪はこの協会に預けられていること。そして現在スペットが、更生中であることも。
「……そんな訳で……スペットに指輪を返すと……碌な事にならな……」
ぐう、といびきで締めくくるデュアル。
ネズミたちは、揃って頭を傾けた。
『『……ドウヤラカレハ……イロイロ……オモイチガイヲ……シテイルヨウナ……』』
ソラスは問いかける。
「なぜ指輪を渡さないといけないのか、渡さなかったらどんな重大なことがあるのか等をお聞かせいただけませんか?」
『『……ナゼッテ……アレハ……カレノ……ミノアンゼンヲ……ホショウスルタメノモノ……』』
ロニは猫の顔を思い出しつつ、頭をかく。
(スペットは指輪に安全を保障されなきゃならん程、弱くないと思うが……)
ザレムは何よりもまず、ネズミを退散させて欲しいと頼む。
「ネズミの代わりに俺が探すってのでどうかな? その方が貴方の目的達成も早くなる……どうだろうか?」
リオンとソラスが続けて言う。
「強引なやり方をしますと、後々厄介ごとの原因になるかもしれません。ですので、いったん引いて頂けませんか」
「とにかく指輪は、今は魔術師協会の預かり品ですから、戻してほしいなら協会の方とお話合いをするしかないと思います」
マルカはここにどれだけ貴重なものがあるかということを、熱を込め訴える。
「どれも魔術師協会にとって、いや魔法にとって、失ったら取り返しがつかないものばかりなんです、歳月を経て劣化してるものもありますし……」
ネズミたちは揃って頭を傾けたまま。まだ思案にふけっているらしい。
メイムは大きく息を吸い、吠えた。
「ねえ、聞いてるぅううううううう!」
ネズミたちは今夢から覚めたように目をしばしばさせ、首を戻した。
『『……アー……ジジョウハ……ダイタイワカッタワ……ソレナラ……キョーカイノヒト……トヤラト……ハナシヲシマショウカ……』』
ネズミたちはくるりと方向転換した。潮が引くように退散して行く。
最後に残った一匹が、杏子の体に駆け登る。
『……ジャア、キョーカイノヒト、ノトコロニ……』
杏子は反射的に腕を振った。
振り落とされたネズミは不服そうな声を上げる。
『……ナニヲスルノヨ……』
「何って! いきなりネズミに飛びつかれたら嫌に決まってるでしょおお!」
声を裏返らせる杏子の気持ちが分からないでもないマルカは、マゴイに聞いてみた。
「あのー、ネズミ以外のものには乗り移れませんか?」
ネズミは後足で立ち上がり、じっとマルカを見返した。それから小さな手で、コンパクトを指さした。
『……ナラ……ソレアケテ……』
マルカはコンパクトを開いた。
彼女の顔が映るべきそこに、全く別の女の顔が――いつか見たのとそっくり同じ顔が――映る。
次の瞬間、マルカの意識は飛んだ。
●
地下保管庫。
目玉模様を額に浮き上がらせたマルカが、もそりもそりと問いかける。
『……指輪の力を借りた……魔法を……行使されるのが問題だから……彼に返さないというわけね……?』
協会職員は戦々恐々としながら答えた。
「は、はあ、そうです。そういうことです」
『……なら……この指輪で……そういうことが出来なくなれば……本人に返してもいいということね……?』
「え? えー、まあ、理屈ではそうなりますか……刑期が終わればですけど」
マゴイマルカは、納得したように頷いた。そして厳重に封をされた箱に手をかざした。
音もなく箱が開き、指輪が姿を現す。
職員は居並ぶハンターたちへ、不安げに念を押した。
「大丈夫なんでしょうね、本当に」
半分寝ながら答えるドゥアル。
「大丈夫……いきなりあれを持って逃げたりはしない……多分……」
ザレムはマゴイの一挙手一投足を見守る。
兎にも角にもマゴイに一旦指輪を開示してくれと協会に頼み込んだ手前、もし職員が懸念するような事態が起きれば、面目ないどころではない。
メイムは指輪をためつすがめつしているマゴイに、こそっと話しかける。
「スペットのこと、なんだけどね――彼は人間の顔を取り戻したがっていたけど、それは可能かな?」
『……取り戻せる顔……彼には……ないはずだけど……ねえ……』
呟きに続けてマゴイは、聞いたこともない言葉を発した。
『■■――■■――■■――■■■』
指輪がまばゆい緑色の光を発する。
その場にあったありとあらゆる品々が浮き上がった。人さえも。
「わ、わ、わ!?」
手にしていたスタッフが離れて行きそうになるのを引きとどめる詩。
光は唐突に収束した。同時に浮き上がっていたものも地に落ちた。
ぐちゃぐちゃになった周囲を気にすることもなく、マゴイが言う。
『……機能最小限になるよう……鍵かけたから……時期が来たら返しておいて……彼に……』
次の瞬間マルカの額から目玉模様が消えた。リオンはよろめいた彼女の体を、後ろから支える。
我に返った彼女は、目をぱちぱち。
「な、何? 何がどうなったんですか?」
ザレムとソラスはため息混じりに周囲を見回す。
「とりあえず大掃除しなくちゃな」
「整理整頓も、ですね」
メイムは猫を腕から降ろす。
「行ってロニ。まだネズミの残りがいるかもしれないからね」
ドゥアルは肩をすくめた。
「まぁ……わざとじゃないな……今回は許しましょ……」
と言いかけたところで腕をぽりぽり。
「……かゆい……」
ロニも脚を掻く。
「くそ、俺もやられた」
詩も、杏子も。
「やだもう」
「蚤?」
それを聞いたマルカは即刻家事スキルを発揮する。
ネズミに引き寄せられてきた害虫を虫取りボトルで駆除。脱いだ衣類と手ぬぐい、その他もろもろを燃やすという徹底的な消毒を行う。
「ファイアルォ!」
後日、ハンターたちと協会員との話し合いにより、この件がスペットに報告された。
指輪が機能しなくなったについて彼が不満を覚えたのは、言うまでもないことである。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/11/09 22:13:46 |
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相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/11/13 17:47:16 |