ゲスト
(ka0000)
【猫譚】少年、戦場において猫を抱く
マスター:狐野径

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/11/14 19:00
- 完成日
- 2016/11/21 18:17
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●音楽祭の方がいい
プエル(kz0127)はユグディラの島から帰って、べリアル(kz0203)の陣に向かう。
マエロルを討たれたことを涙ながらに語る。
音楽祭の阻止命令を受けるが、プエルは頬を膨らませる。音楽祭の開催理由はともかく、プエルは参加したいというのが本心だ。
「……うう、頑張るね。勝ったら、その……べリアル様、僕のお歌聞いてくださいね?」
はにかんだ笑顔を浮かべて言いながらその場を立ち去る。
「……はあ」
「……溜息をそっくり返してやりたい」
プエルは前に鎧の男がいる。傲慢に属する歪虚だとはわかるし、見た目は強そうだ。
プエルは傲慢そうな笑みを浮かべ、男を見下す。久しぶりに演じる、侮られないために。
「お前が余の下につくヒトだね?」
「そうだ。なぜ俺がお前のような者の下に」
「ははっ。君より使えると思ったんだろう」
プエルは鎧の人物が振るう槍を避け、軸を抑えた。
「余を倒せば別のヒトにつけると思った? 己が上に立てると思った? 傲慢である以上に愚かじゃないかい? 実力も見られないならね。でも、余は優しいから、不問に付してあげるよ。さて、行こうか。前線だし、考えようによっては手柄を立てやすいよ。それを望むのだろう?」
プエルは暗く笑う。
「ああ、お前の名前は何?」
「そんなのはどうでもいい」
「面倒だね。人間やめたときに忘れたんだね。お前の兄も同じことを言っていたから……面倒だな、ムータでいいかな」
「好きにすればいい」
「うん、好きにしたんだ」
クツクツとプエルは喉の奥で笑う。
●連絡にゃにゃり
前には人類軍の陣が見える。
プエルが敷いた場所の回りには猫の姿が見え隠れしている。捕獲に移りたいと考える輩もいるだろうが、それどころではないのだ。プエルは少しだけ幕で区切ったところに隠れて考える。
「大体、力で押せばいいってもんじゃない……さて、どうしたものかなぁ」
プエルは地形を見て首をひねる。生前、ニコラス・クリシスとして受けた用兵術の記憶を引っ張り出す。知識上でしかないことをどう生かすか、どうすればいいのか?
「うーん、情報がない」
双眼鏡で見つめる周囲はほぼ平地であり、ところどころに防風林のように林がある。それが区切りとなって他の部隊と別れる。
「見てくるか。レチタティーヴォ様みたいにフットワーク軽くないといけないね」
ブツブツ言いながら持ち込んだ荷物を開ける。高さ60センチほどの男の子の人形。布と綿と毛糸でできたそれは、三頭身のプエルと言っていい。
「みんな、起きて」
むくりと起き上がると、あくびをするようなしぐさをした。
「君たちはこの僕の城たる幕にいること。まー、進軍があると仕方がない」
箱の中からプエルはまるごとゆぐでぃらを取り出す。
「……僕はかっこいい大人になりたいけど、今は我慢だ……」
もそもそと着る。
「バタフライナイフは全員持った? 僕は出かけるよ」
人形たちはそれを見せたので、箱のふたを閉める。
プエルは単身出かける。羊歪虚に見つからない程度に離れつつも、己の陣から離れすぎない位置にある林までやってくる。
木に登ると双眼鏡で人類軍を見る。
「あー、やっぱりあれ、うちの紋章だ。なら、連絡つけやすいかな」
ずりずりと下りる途中、隠れているユグディラたちを発見する。一気に近づくが、散り散りに逃げる。
追いかけると逃げるがちょっとした岩に追い込んだ。一匹が仲間とプエルの間に立ち、「俺がここを守る、お前たち、行け」と言ったようだ。
「隙ありー」
「にゃーーーー」
プエルは飛びかかると捕まえ、ひっかかれながら必死に抑える。
「こいつを解放してほしければ、余のいうことを聞け!」
「にゃーーーー」
「にゅうう」
「みゅう」
「はっ! 余は……余は、ユグディラを抱っこしている!」
現実に気づいたためにしばらくプエルはユグディラを抱きしめ撫でまわした。この間にユグディラは元気を吸い取られたかの如く、ぐったりとなる。
「さて、余は、お前たちに用があるんだ」
きちんと説明をした。
「これを、この紋章の入っている天幕にもっていってほしい」
ユグディラはキョトンとする。
「お前たち、仲間も助けたいのだろう?」
「うにゃ」
「なら、これを言われたところにすぐに持って行ってくれ。絶対にすぐにだ! 人間から……連絡が来次第、この子は安全なところで解放する。もっとも余は害するつもりがないし、羊どもから守るつもりはある、君たちが頼まれたことをすれば」
捕まっているユグディラを残し、荷物を持って数匹が走り出したのだった。
●連絡
音楽祭の成功のために、王国の騎士団、エクラ教の聖堂戦士、貴族の出した兵そしてハンターたちが押し寄せるべリアル軍を前に陣を張る。
その中の1つにウィリアム・クリシスの姿はある。地方の元領主であり、息子の死に関しての偽りの報告の償いも兼ね兵を連れ、足りない分はハンターに頼む。跡を継いだ娘や領民にこれ以上迷惑はかけられないし、何よりも国のため。
「それにしても、なぜプエルがべリアルのところのものと一緒にいるのか?」
息子だったニコラスで現在のプエルの主はレチタティーヴォだった。すでにハンターに討伐されているのだから、プエルが別の歪虚についてもおかしくはない。
「音楽祭、好きそうだな」
フフッと思わず笑う。ニコラスは声が美しく、歌がうまかった。プエルになってもそれは健在だった。
笑ってばかりはいられない。
ニコラスだったころ劣等感を抱き、父と妹を殺そうと考えていたようだったから。この戦場で会ったらどうなるのか?
「どうにもならない。私が殺されてもマーロウ大公のところの者が指揮を執る、ただそれだけ」
そろそろ動かないとならない。
天幕の入り口が揺れたため、短刀の柄に手をかけた。数匹のユグディラが覗き込んでいる。
「おや、入り込んだのか……その手紙は?」
クリシス家の紋が入った封筒に驚く。ユグディラは風呂敷包と封筒をウィリアムに渡した。
署名のない手紙であるが、封筒と便箋および筆跡からプエルだと分かる。
「……何を考えているんだ?」
プエルがいる部隊の詳細や、近くにいる部隊のことも記されている。
額面通りとればプエルがべリアルを倒す協力をしてくれている。
裏を考えるとキリはなく、罠で危険が待っているということになる。
「にゃにゃにゃ」
ユグディラは説明する、身振り手振りで。ウィリアムは途方にくれた。包の中身はトランシーバーと猫用の餌の缶詰だった。
ハンターを呼び意見を募り行動を起こす。情報をもとにすれば裏をかくこともできるかもしれないのだから。
プエル(kz0127)はユグディラの島から帰って、べリアル(kz0203)の陣に向かう。
マエロルを討たれたことを涙ながらに語る。
音楽祭の阻止命令を受けるが、プエルは頬を膨らませる。音楽祭の開催理由はともかく、プエルは参加したいというのが本心だ。
「……うう、頑張るね。勝ったら、その……べリアル様、僕のお歌聞いてくださいね?」
はにかんだ笑顔を浮かべて言いながらその場を立ち去る。
「……はあ」
「……溜息をそっくり返してやりたい」
プエルは前に鎧の男がいる。傲慢に属する歪虚だとはわかるし、見た目は強そうだ。
プエルは傲慢そうな笑みを浮かべ、男を見下す。久しぶりに演じる、侮られないために。
「お前が余の下につくヒトだね?」
「そうだ。なぜ俺がお前のような者の下に」
「ははっ。君より使えると思ったんだろう」
プエルは鎧の人物が振るう槍を避け、軸を抑えた。
「余を倒せば別のヒトにつけると思った? 己が上に立てると思った? 傲慢である以上に愚かじゃないかい? 実力も見られないならね。でも、余は優しいから、不問に付してあげるよ。さて、行こうか。前線だし、考えようによっては手柄を立てやすいよ。それを望むのだろう?」
プエルは暗く笑う。
「ああ、お前の名前は何?」
「そんなのはどうでもいい」
「面倒だね。人間やめたときに忘れたんだね。お前の兄も同じことを言っていたから……面倒だな、ムータでいいかな」
「好きにすればいい」
「うん、好きにしたんだ」
クツクツとプエルは喉の奥で笑う。
●連絡にゃにゃり
前には人類軍の陣が見える。
プエルが敷いた場所の回りには猫の姿が見え隠れしている。捕獲に移りたいと考える輩もいるだろうが、それどころではないのだ。プエルは少しだけ幕で区切ったところに隠れて考える。
「大体、力で押せばいいってもんじゃない……さて、どうしたものかなぁ」
プエルは地形を見て首をひねる。生前、ニコラス・クリシスとして受けた用兵術の記憶を引っ張り出す。知識上でしかないことをどう生かすか、どうすればいいのか?
「うーん、情報がない」
双眼鏡で見つめる周囲はほぼ平地であり、ところどころに防風林のように林がある。それが区切りとなって他の部隊と別れる。
「見てくるか。レチタティーヴォ様みたいにフットワーク軽くないといけないね」
ブツブツ言いながら持ち込んだ荷物を開ける。高さ60センチほどの男の子の人形。布と綿と毛糸でできたそれは、三頭身のプエルと言っていい。
「みんな、起きて」
むくりと起き上がると、あくびをするようなしぐさをした。
「君たちはこの僕の城たる幕にいること。まー、進軍があると仕方がない」
箱の中からプエルはまるごとゆぐでぃらを取り出す。
「……僕はかっこいい大人になりたいけど、今は我慢だ……」
もそもそと着る。
「バタフライナイフは全員持った? 僕は出かけるよ」
人形たちはそれを見せたので、箱のふたを閉める。
プエルは単身出かける。羊歪虚に見つからない程度に離れつつも、己の陣から離れすぎない位置にある林までやってくる。
木に登ると双眼鏡で人類軍を見る。
「あー、やっぱりあれ、うちの紋章だ。なら、連絡つけやすいかな」
ずりずりと下りる途中、隠れているユグディラたちを発見する。一気に近づくが、散り散りに逃げる。
追いかけると逃げるがちょっとした岩に追い込んだ。一匹が仲間とプエルの間に立ち、「俺がここを守る、お前たち、行け」と言ったようだ。
「隙ありー」
「にゃーーーー」
プエルは飛びかかると捕まえ、ひっかかれながら必死に抑える。
「こいつを解放してほしければ、余のいうことを聞け!」
「にゃーーーー」
「にゅうう」
「みゅう」
「はっ! 余は……余は、ユグディラを抱っこしている!」
現実に気づいたためにしばらくプエルはユグディラを抱きしめ撫でまわした。この間にユグディラは元気を吸い取られたかの如く、ぐったりとなる。
「さて、余は、お前たちに用があるんだ」
きちんと説明をした。
「これを、この紋章の入っている天幕にもっていってほしい」
ユグディラはキョトンとする。
「お前たち、仲間も助けたいのだろう?」
「うにゃ」
「なら、これを言われたところにすぐに持って行ってくれ。絶対にすぐにだ! 人間から……連絡が来次第、この子は安全なところで解放する。もっとも余は害するつもりがないし、羊どもから守るつもりはある、君たちが頼まれたことをすれば」
捕まっているユグディラを残し、荷物を持って数匹が走り出したのだった。
●連絡
音楽祭の成功のために、王国の騎士団、エクラ教の聖堂戦士、貴族の出した兵そしてハンターたちが押し寄せるべリアル軍を前に陣を張る。
その中の1つにウィリアム・クリシスの姿はある。地方の元領主であり、息子の死に関しての偽りの報告の償いも兼ね兵を連れ、足りない分はハンターに頼む。跡を継いだ娘や領民にこれ以上迷惑はかけられないし、何よりも国のため。
「それにしても、なぜプエルがべリアルのところのものと一緒にいるのか?」
息子だったニコラスで現在のプエルの主はレチタティーヴォだった。すでにハンターに討伐されているのだから、プエルが別の歪虚についてもおかしくはない。
「音楽祭、好きそうだな」
フフッと思わず笑う。ニコラスは声が美しく、歌がうまかった。プエルになってもそれは健在だった。
笑ってばかりはいられない。
ニコラスだったころ劣等感を抱き、父と妹を殺そうと考えていたようだったから。この戦場で会ったらどうなるのか?
「どうにもならない。私が殺されてもマーロウ大公のところの者が指揮を執る、ただそれだけ」
そろそろ動かないとならない。
天幕の入り口が揺れたため、短刀の柄に手をかけた。数匹のユグディラが覗き込んでいる。
「おや、入り込んだのか……その手紙は?」
クリシス家の紋が入った封筒に驚く。ユグディラは風呂敷包と封筒をウィリアムに渡した。
署名のない手紙であるが、封筒と便箋および筆跡からプエルだと分かる。
「……何を考えているんだ?」
プエルがいる部隊の詳細や、近くにいる部隊のことも記されている。
額面通りとればプエルがべリアルを倒す協力をしてくれている。
裏を考えるとキリはなく、罠で危険が待っているということになる。
「にゃにゃにゃ」
ユグディラは説明する、身振り手振りで。ウィリアムは途方にくれた。包の中身はトランシーバーと猫用の餌の缶詰だった。
ハンターを呼び意見を募り行動を起こす。情報をもとにすれば裏をかくこともできるかもしれないのだから。
リプレイ本文
●不安
プエルの胸の中は不安で一杯だ。ユグディラに餌と水をやりながら隠してあるトランシーバーに触れる。
「お前をペットにできるなら嬉しいけど」
「……」
人質となっているユグディラは待遇は悪くないためプエルを観察していた。
●行動
羊型歪虚の群れが迫っている。作戦会議ではないが指揮官であるウィリアムはハンターに相談したかった、プエルが送ってきたトランシーバーと手紙や猫缶について。
「手伝ってくれるってんならなんだっていい。向こうの事情もあるだろうさ」
ミリア・エインズワース(ka1287)の心情吐露に夫のアルマ・A・エインズワース(ka4901)がうなずく。
「ミリアの言う通りです」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は手紙とウィリアム・クリシスを交互に見て頭をガシッと掻いた。プエルは父親を殺そうと考えているため、いろいろな可能性が浮かぶ。
「手の込んだ罠って可能性は残っちゃいるが、そうだったら罠事ブチ破るまでだ」
レイオスがトランシーバーに手を伸ばす。視線の先は仲間だが、誰も異議は唱えない。プエルに頼むことを確認しスイッチを入れた。
『連絡ないのかと思っちゃった。羊に捕まったとか』
プエルの声が響く。
「直接羊どもと戦えなんて言わないが、やるからには手を貸してもらうぞ?」
『レイオス君だね。ここで範囲魔法使えとか言うかと思ってびくびくしたよ。手短にね、羊たちは走りたがっている』
「……部隊を中央か北寄りにまとめられるか、『人類軍に抵抗するため』とか言って」
『できるはず』
ミリアがレイオスからトランシーバーを受け取る。
「ついでだ」
『あれ?』
「ボクはハンターでミリア・エインズワースという」
『よろしく』
「お前の副官を足止めしてほしい。それと、範囲攻撃を行うから巻き込まれないように注意してほしい」
『うわー、心配してくれてありがとう。副官は元人間でムータって名前つけてあげたんだ。槍と弓を持っているけど技能はよくわからない』
『にゃあ』
『時間』
一方的にプエルが電源を落とした。
猫の声が響いたことに沈黙が流れる。
やる気がないような、それでいてもやる気も感じさせる不思議さがあるアルスレーテ・フュラー(ka6148)が口を開いた。
「猫? だいたい、お祭りの楽しい気分に水を差されているんだし、歪虚にはさっさとお帰り願いましょう。プエルとかいうのが味方してくれるなら、それはそれでいいし、羊走るってことは戦いの時間ということでしょ」
その通りであり、行動を開始した。
●じわりと
リューリ・ハルマ(ka0502)は相棒のイェジドのレイノ(ka0502unit001)に乗る。レイノはリューリが迷った森で出会ってから一緒。毛並みは黒ぽくもあり深い紫にも見える。
レイノの背中から戦場を見ると、人間側に優位そうだが分からない。敵は数で勝るように見える。
「ユグディラをいじめる歪虚はぐーぱんち! 終わったらユグディラもふもふできると良いな」
ふとレイノが「ふーん」と言うように鼻を向けた。
「退路を断たれると怖いから、アルスレーテさんを目印にしよう」
敵の動きによって囲まれる危険性もあり、同じ方向に向かうアルスレーテを見て小さくこぶしを握った。アルスレーテを目印にするのは、治癒の技能も持っているため突出しないと言っていたからだ。
「じゃ、先陣切っていくよ!」
プエルが配置図で示した歪虚の集団がいるあたりに向かう。集団の切れ目があり入りやすい。
リューリの声により、レイノは軽やかに戦場に向かった。
「……あのガキが何をしたいのか知らんが、せっかくの狩りだ、楽しませてもらうぞ!」
不動シオン(ka5395)も北側から歪虚を討つ側に回る。馬に拍車を当て、レイノが作っていった道に続く。
「あー、やっぱり速いなぁ。馬の人にもおいていかれるわけにはいかないから」
アルスレーテは背中を追いつつ馬を走らる。前に出すぎず、本体と離れすぎず、前に出る仲間と離れずという絶妙な位置を探す。
小宮・千秋(ka6272)がそれらを見て「あっ」とつぶやくと慌てて追いかける。
「マルチーズさん、黒猫さん、はぐれないようにしてくださいね」
足元でそれらは「まかせて」と言うように声を返してきた。
「アルスレーテさんの近くを目指しましょう……プエルさんにお会いしたら挨拶ですかね……」
せっせと足を動しつつ、前回の最後を思い出す。プエルが部下として連れていた人物をハンターは討った。謝罪やお悔やみもよぎるが違う気がした。相手は歪虚である。それでも、何か挨拶しないといけないと幼い彼は必死に考える。
「あっ、でも、今は戦闘に集中ですねー」
非覚醒者である私兵とウィリアムには防御を固めてもらう。
その前にセレスティア(ka2691)がイェジド(ka2691unit001)に騎乗し凛々しく周囲を見渡す。乙女と騎士の気質の両方を垣間見せ安堵をもたらす。彼女は近くにいる仲間や兵士たちに対し声を掛ける。
「皆さま、勝ちましょうね。兵の方を強い力から守ります。しかし、皆様の力も頼りにしています。王国の方々と私たちハンターがあってこその戦線です」
乙女の声にイェジドが合わせるようにうなりを載せる。人への戦力鼓舞のようだ。
「プエルか……久しぶりになるな」
そのそばでリュー・グランフェスト(ka2419)は戦場の方を見てつぶやく。以前見たプエルは歪虚ぽくない行動をとる印象がある。
「警戒はしていたほうがいいな」
レイオスが言うように裏がないとは限らないし、本当にべリアルを討つつもりかもしれない。
「頼りにしている」
イェジドの紅狼刃(ka2419unit001)の首に振れる。いとこのセレスティアが王国の私兵の前に位置しているのを見て、自身もその鞍に乗る。
真紅の毛をまとう紅狼刃はリューを載せ、指示を待つ。歪虚を討つための行動のために。
使者となっていたユグディラの前に万歳丸(ka5665)はしゃがんだ。手元には猫の餌の缶詰。
「にゃーにゃー」
そわそわするユグディラは何か訴える。猫缶ではなく戦場のほうを気にしている。
身振り手振りで意味を取るのが難しい。プエルとの通信で猫の鳴き声がユグディラならば推測が浮かびやすくなる。
「人質?」
万歳丸の言葉にユグディラは激しく首を上下に振る。
「どこに」
プエルのよこした猫缶と羊の軍を指さす。
「お前らの仲間を猫質にしている?」
ユグディラはうなずいた。取り戻すにしても、羊歪虚たちを止めないとどうしようもない。トランシーバーで連絡して解放されてもそこは敵地真っただ中。
「お前たちは何かできるのか? 協力してくれるなら……敵の目をそらすような幻術を見せられるか?」
ユグディラたちは前足で胸をもふっとたたいた。
万歳丸は南下をし、ユグディラを回収しつつ回り込むこととなる。
●接敵
状況を見てアルマとミリアは待機する。アルマの魔法がここの戦闘の合図となるはずだ。
ミリアは相棒のイェジドのざんぎえふ(ka1287unit001)に乗り、見回す。半身たる夫を守るために目を光らせるのにざんぎえふもいるのは心強い。
「奴らは動いてくれるか」
独り言であるが質問と考えたのかざんぎえふは鼻を後ろに向け、前に戻した。しばらく後、小さくうなり声をあげる。
動きが鈍かった一団が北側に密集し始める。そちらには別の集団もいる為、下手をすれば身動きが取れなくなる。
「どういう説得をしたのか」
「それは終わったら聞いてみてもいいかもしれないですよ?」
アルマはちらりと上を見て戦場に目を戻す。
「さて、そろそろいいですか?」
「後少しかな……アルマ!」
「はいっ、ミリア! 【紺碧の流星】」
アルマの明るく、どこか冷めたような声が響き、機導を通じてマテリアルが発射される。力は星の姿をし、三体を貫いた。
「よし……ざんぎえふ、敵が来たら動く」
了解の旨を示され、ミリアも武器を構える。アルマを守ることが先に敵を通さないことにつながる。
プエルはムータを説得し、部隊を動かした。
「あーあー、またワイバーンほしいな」
「今、そんなこと言っている場合か」
プエルの足元で人形たちがバタフライナイフ片手にふらふらしている。
「こいつらは何だ」
「余のアイテム」
光が見えた瞬間、プエルの表情がすっと消える。
「本当に」
「向こうが待ってくれるかは別。あー、個別対応始めちゃった」
足元で人形たちがおろおろしている。表情は変わらないため、からかわれているようである。
「貴様は黙ってろ! 貴様は信用できん! 敵は少数だ、薙ぎ払え」
ムータの号令に羊歪虚たちは拒否を見せない。
「お手並み拝見」
プエルは肩をすくめて、人形たちと少し離れたのだった。
戦闘開始の光が走ったとき、リューリとレイノはちょうど敵の切れ目に回り込んだ。
「よしっ! 行くよ、レイノ!」
リューリは飛び降りる。接敵が早く強化できないままぶつかるが、好機は逃せない。
「技はまだ温存だね……見極めてからでも遅くはないし」
ギガースアックスを振うと白い羊はよけきれず食らった。
レイノも口にくわえ持つ刃を振った。命中し、歪虚は霧散する。
「ここから突っ込む……より、位置はそのままかな」
囲まれる危険性もあるが、いきなり突撃してくることはないようだった。
「うわ、始まったみたいね。前に出るつもりはないけれども、まとまっているなら」
アルスレーテは【青龍翔咬波】を放った。端っこの方にいるのが慌てて避けるのが見えたが、一直線にいた敵は吹き飛ばされ消えた。
「これは、病みつきになりそうなくらいだわ」
思わず前に出てまた使いたくなるほどだが、頭の中は冷静であり、自分の位置を維持する。
「それで終わりではないぞ!」
シオンは羊歪虚が残っているところに、技を乗せ突撃をした。それらは避ける気満々だったようで中央の陣に向かうようによける。
シオンは舌打ちしそうになるが、その逃げた先に追いついた千秋がいる。
「ここは足止めしますよー」
千秋は敵にこぶしを叩き込む。
羊歪虚は逃げ遅れ、立往生した。
レイオスは中央を抜け、プエルの監視をしたかった。行動が読めない上、殺すと宣言している父親を狙うことを危惧しているためだ。
敵は動き出しているが指揮官らしい姿がまだ見えない。
「単体じゃ手ごたえがねぇ、数がいるんだからまとめて来やがれ!」
向かってくる敵を武器で薙ぎ払うと、あっさりと無に還る。
「油断はしねーけど」
目指す敵を捜す。
「行くぜ、紅狼刃! おおおおっ!!」
リューは動き始めた敵をほんろうすべく紅狼刃に指示を出す。
密集できるならまとめるが、難しいならば切り崩し各個撃破に持ち込む。
私兵たちには直接戦うのが難しくとも弓で狙い撃ちさせればいいのだから。
紅狼刃は羊歪虚にかみついた。身を低くした瞬間、リューが敵に刃を突き出す。
紅狼刃はそのまま深追いはせず、身をひるがえす。襲われたことで苛立ちを募らせた羊歪虚の一部はついてくる。
盾を構え、弓を構える兵たちのそばで、イェジドに乗ったセレスティアは構える。
「リュー君の後ろ……皆さん、一部の敵は突破してきますが、弓でお願いします!」
すぐに戻れる位置でセレスティアはレイピアを振う。傷は負わせるが横を通られる。そこに矢が命中し、それは無に還る。
「これで良いのです。全員で勝利を勝ち取らないといけないのです」
呟くセレスティアにイェジドが何か言うように顔をちらりと向けた。考えに同意し、次の攻撃に備えるようにと促したのかもしれない。
万歳丸は途中にいたユグディラを拾いつつ、逃げるものには道を示す。
「今ならまとめていけるよなァ」
林の裏側に羊型歪虚がいるのを発見する。
「こちらに向かってェくれるといいんだが」
ユグディラたちがうにゃうにゃ言いながら、何かしたようだった。
沈黙。
前足で頭を掻くユグディラもいる。
待ってもいいが違うほうに動き出しそうである。
「失敗は仕方がねェが、好機は逃せられねェ。行くぜ」
万歳丸が放ったマテリアルは蒼い麒麟が駆け抜けるように見える。それは駆け抜け切ったところに歪虚はいなくなっていた。
●乱戦
敵も黙っているわけではなく、武器やこぶし、魔法で攻撃をしてくる。
リューリとレイノはたたかれるが鎧で何とか止める。
「これ、油断すると怖いパターンだよね」
戦場にいるユグディラも敵の魔法は容赦なく向かう。避けたり、幻術で避けたり、失敗したりしているようだ。
「……まずいかァ?」
万歳丸はユグディラをさげることも考え始める。彼の攻撃で敵の数は減っているが、まだまだ多い。ユグディラが討たれ弱いならば危険は大きい。
突然、敵の中に靄が広がり、羊歪虚の動きが鈍くなる。
「やったな。が、やばくなったら逃げる、隠れる、な?」
声を掛けるとユグディラが親指を立てる様なしぐさをしたのだった。
リューが行き来することで敵の伸びる前線が切れ切れになっていく。
「紅狼刃、いいぞ」
軽やかにそして、良い感触。セレスティアと協力し、離れず適度に敵を討っていく。彼女のイェジドもよく走り回る。
「リュー君、こちらは問題ないです」
非覚醒者が魔法を食らう事態は避けられないが、現状集中砲火はない。セレスティアは神に祈り治癒を施す。
「あと少しで、前に出るつもりだ」
「はい、そうですね。その時は私も一緒します」
羊歪虚の攻撃もぬるい。シオンは不満が募る。その不満を攻撃に載せ、羊歪虚を葬る。
「さあ、もっと楽しませろ! 行くぞ!」
近くでは千秋は隙なく構え、転がるように動きまわる。
「カウンターも併せて行きますよー」
足元のペットたちも元気よく動きまわっていた。
仲間を注意して見つつアルスレーテは近づいたモノを鉄扇で攻撃をした。確実に倒せている感触はある。
「怪我がないことはいいこと。ここ突破されるとまずいんだね」
後方には兵士たちの先に町が見えた。
ざんぎえふが近くに来た羊にかみつく。
アルマの魔法をつぶすためなのか、妙に敵が集まってきている。
そんな中、鋭い突きがミリアを襲う。
「ミリア!!」
アルマは嫌な予感がよぎり、まず敵を排除しようと機導を使う。業火が攻撃した歪虚を含め、巻き込まれたものも多数あり消える。
「……鋭かったが鎧で止まったんだ……が……」
結果敵は打ち払ったが、心配をかけたのは悲しくとぎれとぎれになる。
「わふっ! 良かったです」
「ああ……いたぞ、あれだな」
羊の角がある歪虚を見つけたのだ。
レイオスは地道な攻撃をしつつ前に出る。
「いた」
プエルは周りを見ながら用心をしている。その足元はプエルのような人形がうろちょろしている。
「あれが副官か」
それは弓を持つと矢をつがえたのだった。
●副官
ムータは弓をつがえて狙ったのはアルマだったが、若干ずれた。
「……なるほど! 僕が一番敵っていうことですかぁ。それはそれでいいですよぉ? それに鎧のヒト、あなたが一番骨がありそうですよねぇ」
アルマはミリアの後についていく。距離さえ詰めれば魔法は使える。
「なんで、そっちを狙うかな! まずはボクがいるのに」
ムータを狙うために前に出たミリアはいらだつ上、アルマが前に出てくるのも見える。
ざんぎえふが「いそぐ」と言うように短く鳴く。
「そうだ、次の攻撃の前にこちらが倒せばいい」
それに接敵すれば弓どころではなくなる。
敵の状況を見てムータははめられたと強く感じた。ハンターを前にプエルはずるずる下がっていくのだ
「貴様」
「なんでそんなに怒るかな? イスルダ島の住民で、兄弟でそこまで考え違うんだ」
プエルの言葉を問う余裕などムータにはない。
立て直しをするのも手遅れだと感じ取れる。
低位の羊たちを狩るだけでなく、指揮官クラスを狙うハンターがやってきている。
「戦うのみ。ガキは断罪をする」
プエルは背負い袋に片手を当て、ムータの動きを注視する。
「これを食らえ」
接敵前にプエルに向かって複数の矢を叩き込んだ後、弓を捨て槍に持ち返る。
プエルは空から降り注ぐ弓矢を慌てて避けた。
「無事?」
「にゃあ」
プエルはホッとした。
ミリアは魔力をも攻撃に載せてムータに叩き込んだ。指揮官であればそれなりに力もあるだろうから早く終わらせる。
非常に重い手ごたえはあった。
「俺に傷を負わせたことは罰するに値する」
不敵な声とともに、ミリアに傷が走る。
「ぐっ」
「ミリアっっっっ!」
アルマの悲痛な声が響く。魔法で攻撃するにはあと少したりない。
なんとか落ちなかったミリアを乗せてざんぎえふは離脱を選ぶ。
畳みかける予定のレイオスは瞬間躊躇したが、同じ攻撃が来る可能性、遠距離からアルマの攻撃、それに続くだろうリューたちを考える。
「理由は後だ!」
レイオスは倒すつもりで攻撃を叩き込んだ。
傷が深かったムータはあっけなく崩れ落ちる。
羊型歪虚は動揺し、ひとまず近くの人間を攻撃するもの、逃げ始めるモノが現れたのだった。
ざんぎえふの上を見て、セレスティアは息を飲む。イェジドが「早く」と促すころには祈りとともに傷がふさがる。ほぼ消えるが、すべてが治るわけではなく。
「……危なかった」
「無事で何よりです」
「まだ終わってはいないが」
近づいてくるアルマが途中の敵を盛大に焼き払ったのを二人は見ていた。
範囲魔法から外れた敵を的確にシオンは討っていく。
「一番強そうだが見掛け倒しか」
毛色の違う羊型歪虚がいたが、頑丈であり、攻撃の威力も感じられたがぬるいとしか言いようがなかった。
「数というのが暴力だとよくわかりましたー」
千秋は見える敵は減ったが、寄ってくる敵は減っていないためため息が漏れる。
「怪我より、こっちよね、今は」
アルスレーテは少し前に出て少しでも敵を減らすため技を使う。
「逃がさないほうがいいよね」
リューリのつぶやきにレイノは同意を示し、近くの一匹を狩った。
南側でユグディラの幻術のおかげか、万歳丸は技を使いきりつつも敵を壊滅に追い詰めている。
「まァおかげで助かったが……」
羊歪虚が逃げ始めた後、自陣から離れすぎない程度に追いかけて倒す。
この辺りの戦闘は終わったようでユグディラたちを連れて戻る。ケガをしている個体は少々いる為、万歳丸が抱きかかえる。
「戻れば、怪我の治療だ」
ふと気づく、見上げてくるユグディラのまなざしが信頼のようだということに。
●別れ
べリアルがどうなったのか不明だが、急激に勢いが消えていく。
ウィリアムが率いている部隊のあたりで歓喜の声が上がる。羊型歪虚の姿は周囲にはなくなっていた。
ハンターから逃げたいプエルはしきりにべリアルの動きも気にする。
「おい、その袋は?」
レイオスに指摘されて、プエルはうなずく。
「ああ、そうだね。もう安全だよ」
プエルは袋の入り口を開けて地面に置いた。
万歳丸のところにいたユグディラが走り寄り無事を確認し合っている。
セレスティアは怪我したユグディラを含み【ヒーリングスフィア】を使う。ケガをしていたユグディラがお礼を言うようにセレスティアの足をポンポンとしていった。
セレスティアはの表情もほころび「いえいえ」と返している。
リューリはレイノに乗って近づいている間、プエルの行動を見ていた。
「君はユグディラ好きなんだね、可愛いしね! ユグディラ好きに悪い人はいない思うんだよ」
「そうです! プエルさん、もふもふは至高で、可愛いは正義です。分かってくれます?」
リューリの言葉に続けるようにアルマが問いかける。笑顔で無警戒にも見えるような動きで、顔を覗き込まれる。
「う、うん?」
「そうですよね!」
アルマはプエルに握手を求め、勢いに押されてプエルは手を差し出している。
「僕らきっといいお友達になれますっ。……なってくれますか?」
「は、え、えええ?」
プエルは誰かに助けを求めるよう視線がさまようが、求める先はなかった。
「歪虚と人がお友達になっちゃいけない法律はないですよー。それに僕らのほうにくれば楽しいことたくさんですよ? 音楽祭とかもふもふとか」
プエルは何とも言えない顔をしている。
「アルマ、プエルが目を白黒させてる。」
「ああ、じっとしていないと」
「さっき、散々心配してくれたし、落ち着いて」
「わふっ」
ミリアに注意されてアルマは待てを言われた大型犬のようになる。
「音楽が好きだって聞いた。もし音楽祭に来るならこっそりもいいが、ハンターオフィスに連絡つけるといい」
「は?」
「なぁに、前にも歪虚からの依頼を受けたことがあるんだ、問題ないだろうさ」
ミリアがにやりと笑う。
「……ははっ」
プエルは疲れたように笑う。
「なんでこんなことをしたんだ?」
「なんでって言われても……嫌いだから」
「変わった」
「人間のころを思い出したしね」
リューの問いかけにプエルはそれだけ言う。
プエルはイェジドたちを見て不意に口をとがらせる。
「あーあー、僕も乗り物ほしいな」
「歪虚に乗り物?」
アレスレーテが首を傾げた。
「あー、馬。僕の馬は白だったな」
「いるの?」
「たぶん、もう死んでるんじゃない? 寿命」
プエルは首を傾げた後、周囲を見た。
「行くのか?」
「うん、今のうち」
プエルは万歳丸の頭の上を見るが遠い上、なぜかユグディラが乗っている。
「てめェは歪虚だが、歪虚の中ではマシな歪虚だ。良い劇を見せな。それまでは待ってやる。決着をつけるなら、そのあとだ」
こぶしを握りにやりと笑う。
「本当、君たちって面白いよね……本当……何だろうね……」
「今やられたいなら、相手してやってもいいぞ。羊どもは手ごたえが薄い」
シオンの言葉にプエルは首を横に振る。
「血の気多いね。僕はね、僕がしたいようにするんだ。遊びたいから遊ぶ。レチタティーヴォ様いないから、自分でどうにかしないといけないんだもの」
「プエルさん、お元気で」
千秋は散々悩んでこれだけ云う。プエルのそばにいた歪虚を倒したときにいて、お悔やみを申し上げるのも刺激しそうであるし、なんというか本当に悩んだ。
「あはは、バイバイ」
プエルは貴族のするお辞儀をして、立ち去った。バタフライナイフを折り畳み、プエル人形が「バイバイ」と手を振ってついていったのだった。
プエルの胸の中は不安で一杯だ。ユグディラに餌と水をやりながら隠してあるトランシーバーに触れる。
「お前をペットにできるなら嬉しいけど」
「……」
人質となっているユグディラは待遇は悪くないためプエルを観察していた。
●行動
羊型歪虚の群れが迫っている。作戦会議ではないが指揮官であるウィリアムはハンターに相談したかった、プエルが送ってきたトランシーバーと手紙や猫缶について。
「手伝ってくれるってんならなんだっていい。向こうの事情もあるだろうさ」
ミリア・エインズワース(ka1287)の心情吐露に夫のアルマ・A・エインズワース(ka4901)がうなずく。
「ミリアの言う通りです」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は手紙とウィリアム・クリシスを交互に見て頭をガシッと掻いた。プエルは父親を殺そうと考えているため、いろいろな可能性が浮かぶ。
「手の込んだ罠って可能性は残っちゃいるが、そうだったら罠事ブチ破るまでだ」
レイオスがトランシーバーに手を伸ばす。視線の先は仲間だが、誰も異議は唱えない。プエルに頼むことを確認しスイッチを入れた。
『連絡ないのかと思っちゃった。羊に捕まったとか』
プエルの声が響く。
「直接羊どもと戦えなんて言わないが、やるからには手を貸してもらうぞ?」
『レイオス君だね。ここで範囲魔法使えとか言うかと思ってびくびくしたよ。手短にね、羊たちは走りたがっている』
「……部隊を中央か北寄りにまとめられるか、『人類軍に抵抗するため』とか言って」
『できるはず』
ミリアがレイオスからトランシーバーを受け取る。
「ついでだ」
『あれ?』
「ボクはハンターでミリア・エインズワースという」
『よろしく』
「お前の副官を足止めしてほしい。それと、範囲攻撃を行うから巻き込まれないように注意してほしい」
『うわー、心配してくれてありがとう。副官は元人間でムータって名前つけてあげたんだ。槍と弓を持っているけど技能はよくわからない』
『にゃあ』
『時間』
一方的にプエルが電源を落とした。
猫の声が響いたことに沈黙が流れる。
やる気がないような、それでいてもやる気も感じさせる不思議さがあるアルスレーテ・フュラー(ka6148)が口を開いた。
「猫? だいたい、お祭りの楽しい気分に水を差されているんだし、歪虚にはさっさとお帰り願いましょう。プエルとかいうのが味方してくれるなら、それはそれでいいし、羊走るってことは戦いの時間ということでしょ」
その通りであり、行動を開始した。
●じわりと
リューリ・ハルマ(ka0502)は相棒のイェジドのレイノ(ka0502unit001)に乗る。レイノはリューリが迷った森で出会ってから一緒。毛並みは黒ぽくもあり深い紫にも見える。
レイノの背中から戦場を見ると、人間側に優位そうだが分からない。敵は数で勝るように見える。
「ユグディラをいじめる歪虚はぐーぱんち! 終わったらユグディラもふもふできると良いな」
ふとレイノが「ふーん」と言うように鼻を向けた。
「退路を断たれると怖いから、アルスレーテさんを目印にしよう」
敵の動きによって囲まれる危険性もあり、同じ方向に向かうアルスレーテを見て小さくこぶしを握った。アルスレーテを目印にするのは、治癒の技能も持っているため突出しないと言っていたからだ。
「じゃ、先陣切っていくよ!」
プエルが配置図で示した歪虚の集団がいるあたりに向かう。集団の切れ目があり入りやすい。
リューリの声により、レイノは軽やかに戦場に向かった。
「……あのガキが何をしたいのか知らんが、せっかくの狩りだ、楽しませてもらうぞ!」
不動シオン(ka5395)も北側から歪虚を討つ側に回る。馬に拍車を当て、レイノが作っていった道に続く。
「あー、やっぱり速いなぁ。馬の人にもおいていかれるわけにはいかないから」
アルスレーテは背中を追いつつ馬を走らる。前に出すぎず、本体と離れすぎず、前に出る仲間と離れずという絶妙な位置を探す。
小宮・千秋(ka6272)がそれらを見て「あっ」とつぶやくと慌てて追いかける。
「マルチーズさん、黒猫さん、はぐれないようにしてくださいね」
足元でそれらは「まかせて」と言うように声を返してきた。
「アルスレーテさんの近くを目指しましょう……プエルさんにお会いしたら挨拶ですかね……」
せっせと足を動しつつ、前回の最後を思い出す。プエルが部下として連れていた人物をハンターは討った。謝罪やお悔やみもよぎるが違う気がした。相手は歪虚である。それでも、何か挨拶しないといけないと幼い彼は必死に考える。
「あっ、でも、今は戦闘に集中ですねー」
非覚醒者である私兵とウィリアムには防御を固めてもらう。
その前にセレスティア(ka2691)がイェジド(ka2691unit001)に騎乗し凛々しく周囲を見渡す。乙女と騎士の気質の両方を垣間見せ安堵をもたらす。彼女は近くにいる仲間や兵士たちに対し声を掛ける。
「皆さま、勝ちましょうね。兵の方を強い力から守ります。しかし、皆様の力も頼りにしています。王国の方々と私たちハンターがあってこその戦線です」
乙女の声にイェジドが合わせるようにうなりを載せる。人への戦力鼓舞のようだ。
「プエルか……久しぶりになるな」
そのそばでリュー・グランフェスト(ka2419)は戦場の方を見てつぶやく。以前見たプエルは歪虚ぽくない行動をとる印象がある。
「警戒はしていたほうがいいな」
レイオスが言うように裏がないとは限らないし、本当にべリアルを討つつもりかもしれない。
「頼りにしている」
イェジドの紅狼刃(ka2419unit001)の首に振れる。いとこのセレスティアが王国の私兵の前に位置しているのを見て、自身もその鞍に乗る。
真紅の毛をまとう紅狼刃はリューを載せ、指示を待つ。歪虚を討つための行動のために。
使者となっていたユグディラの前に万歳丸(ka5665)はしゃがんだ。手元には猫の餌の缶詰。
「にゃーにゃー」
そわそわするユグディラは何か訴える。猫缶ではなく戦場のほうを気にしている。
身振り手振りで意味を取るのが難しい。プエルとの通信で猫の鳴き声がユグディラならば推測が浮かびやすくなる。
「人質?」
万歳丸の言葉にユグディラは激しく首を上下に振る。
「どこに」
プエルのよこした猫缶と羊の軍を指さす。
「お前らの仲間を猫質にしている?」
ユグディラはうなずいた。取り戻すにしても、羊歪虚たちを止めないとどうしようもない。トランシーバーで連絡して解放されてもそこは敵地真っただ中。
「お前たちは何かできるのか? 協力してくれるなら……敵の目をそらすような幻術を見せられるか?」
ユグディラたちは前足で胸をもふっとたたいた。
万歳丸は南下をし、ユグディラを回収しつつ回り込むこととなる。
●接敵
状況を見てアルマとミリアは待機する。アルマの魔法がここの戦闘の合図となるはずだ。
ミリアは相棒のイェジドのざんぎえふ(ka1287unit001)に乗り、見回す。半身たる夫を守るために目を光らせるのにざんぎえふもいるのは心強い。
「奴らは動いてくれるか」
独り言であるが質問と考えたのかざんぎえふは鼻を後ろに向け、前に戻した。しばらく後、小さくうなり声をあげる。
動きが鈍かった一団が北側に密集し始める。そちらには別の集団もいる為、下手をすれば身動きが取れなくなる。
「どういう説得をしたのか」
「それは終わったら聞いてみてもいいかもしれないですよ?」
アルマはちらりと上を見て戦場に目を戻す。
「さて、そろそろいいですか?」
「後少しかな……アルマ!」
「はいっ、ミリア! 【紺碧の流星】」
アルマの明るく、どこか冷めたような声が響き、機導を通じてマテリアルが発射される。力は星の姿をし、三体を貫いた。
「よし……ざんぎえふ、敵が来たら動く」
了解の旨を示され、ミリアも武器を構える。アルマを守ることが先に敵を通さないことにつながる。
プエルはムータを説得し、部隊を動かした。
「あーあー、またワイバーンほしいな」
「今、そんなこと言っている場合か」
プエルの足元で人形たちがバタフライナイフ片手にふらふらしている。
「こいつらは何だ」
「余のアイテム」
光が見えた瞬間、プエルの表情がすっと消える。
「本当に」
「向こうが待ってくれるかは別。あー、個別対応始めちゃった」
足元で人形たちがおろおろしている。表情は変わらないため、からかわれているようである。
「貴様は黙ってろ! 貴様は信用できん! 敵は少数だ、薙ぎ払え」
ムータの号令に羊歪虚たちは拒否を見せない。
「お手並み拝見」
プエルは肩をすくめて、人形たちと少し離れたのだった。
戦闘開始の光が走ったとき、リューリとレイノはちょうど敵の切れ目に回り込んだ。
「よしっ! 行くよ、レイノ!」
リューリは飛び降りる。接敵が早く強化できないままぶつかるが、好機は逃せない。
「技はまだ温存だね……見極めてからでも遅くはないし」
ギガースアックスを振うと白い羊はよけきれず食らった。
レイノも口にくわえ持つ刃を振った。命中し、歪虚は霧散する。
「ここから突っ込む……より、位置はそのままかな」
囲まれる危険性もあるが、いきなり突撃してくることはないようだった。
「うわ、始まったみたいね。前に出るつもりはないけれども、まとまっているなら」
アルスレーテは【青龍翔咬波】を放った。端っこの方にいるのが慌てて避けるのが見えたが、一直線にいた敵は吹き飛ばされ消えた。
「これは、病みつきになりそうなくらいだわ」
思わず前に出てまた使いたくなるほどだが、頭の中は冷静であり、自分の位置を維持する。
「それで終わりではないぞ!」
シオンは羊歪虚が残っているところに、技を乗せ突撃をした。それらは避ける気満々だったようで中央の陣に向かうようによける。
シオンは舌打ちしそうになるが、その逃げた先に追いついた千秋がいる。
「ここは足止めしますよー」
千秋は敵にこぶしを叩き込む。
羊歪虚は逃げ遅れ、立往生した。
レイオスは中央を抜け、プエルの監視をしたかった。行動が読めない上、殺すと宣言している父親を狙うことを危惧しているためだ。
敵は動き出しているが指揮官らしい姿がまだ見えない。
「単体じゃ手ごたえがねぇ、数がいるんだからまとめて来やがれ!」
向かってくる敵を武器で薙ぎ払うと、あっさりと無に還る。
「油断はしねーけど」
目指す敵を捜す。
「行くぜ、紅狼刃! おおおおっ!!」
リューは動き始めた敵をほんろうすべく紅狼刃に指示を出す。
密集できるならまとめるが、難しいならば切り崩し各個撃破に持ち込む。
私兵たちには直接戦うのが難しくとも弓で狙い撃ちさせればいいのだから。
紅狼刃は羊歪虚にかみついた。身を低くした瞬間、リューが敵に刃を突き出す。
紅狼刃はそのまま深追いはせず、身をひるがえす。襲われたことで苛立ちを募らせた羊歪虚の一部はついてくる。
盾を構え、弓を構える兵たちのそばで、イェジドに乗ったセレスティアは構える。
「リュー君の後ろ……皆さん、一部の敵は突破してきますが、弓でお願いします!」
すぐに戻れる位置でセレスティアはレイピアを振う。傷は負わせるが横を通られる。そこに矢が命中し、それは無に還る。
「これで良いのです。全員で勝利を勝ち取らないといけないのです」
呟くセレスティアにイェジドが何か言うように顔をちらりと向けた。考えに同意し、次の攻撃に備えるようにと促したのかもしれない。
万歳丸は途中にいたユグディラを拾いつつ、逃げるものには道を示す。
「今ならまとめていけるよなァ」
林の裏側に羊型歪虚がいるのを発見する。
「こちらに向かってェくれるといいんだが」
ユグディラたちがうにゃうにゃ言いながら、何かしたようだった。
沈黙。
前足で頭を掻くユグディラもいる。
待ってもいいが違うほうに動き出しそうである。
「失敗は仕方がねェが、好機は逃せられねェ。行くぜ」
万歳丸が放ったマテリアルは蒼い麒麟が駆け抜けるように見える。それは駆け抜け切ったところに歪虚はいなくなっていた。
●乱戦
敵も黙っているわけではなく、武器やこぶし、魔法で攻撃をしてくる。
リューリとレイノはたたかれるが鎧で何とか止める。
「これ、油断すると怖いパターンだよね」
戦場にいるユグディラも敵の魔法は容赦なく向かう。避けたり、幻術で避けたり、失敗したりしているようだ。
「……まずいかァ?」
万歳丸はユグディラをさげることも考え始める。彼の攻撃で敵の数は減っているが、まだまだ多い。ユグディラが討たれ弱いならば危険は大きい。
突然、敵の中に靄が広がり、羊歪虚の動きが鈍くなる。
「やったな。が、やばくなったら逃げる、隠れる、な?」
声を掛けるとユグディラが親指を立てる様なしぐさをしたのだった。
リューが行き来することで敵の伸びる前線が切れ切れになっていく。
「紅狼刃、いいぞ」
軽やかにそして、良い感触。セレスティアと協力し、離れず適度に敵を討っていく。彼女のイェジドもよく走り回る。
「リュー君、こちらは問題ないです」
非覚醒者が魔法を食らう事態は避けられないが、現状集中砲火はない。セレスティアは神に祈り治癒を施す。
「あと少しで、前に出るつもりだ」
「はい、そうですね。その時は私も一緒します」
羊歪虚の攻撃もぬるい。シオンは不満が募る。その不満を攻撃に載せ、羊歪虚を葬る。
「さあ、もっと楽しませろ! 行くぞ!」
近くでは千秋は隙なく構え、転がるように動きまわる。
「カウンターも併せて行きますよー」
足元のペットたちも元気よく動きまわっていた。
仲間を注意して見つつアルスレーテは近づいたモノを鉄扇で攻撃をした。確実に倒せている感触はある。
「怪我がないことはいいこと。ここ突破されるとまずいんだね」
後方には兵士たちの先に町が見えた。
ざんぎえふが近くに来た羊にかみつく。
アルマの魔法をつぶすためなのか、妙に敵が集まってきている。
そんな中、鋭い突きがミリアを襲う。
「ミリア!!」
アルマは嫌な予感がよぎり、まず敵を排除しようと機導を使う。業火が攻撃した歪虚を含め、巻き込まれたものも多数あり消える。
「……鋭かったが鎧で止まったんだ……が……」
結果敵は打ち払ったが、心配をかけたのは悲しくとぎれとぎれになる。
「わふっ! 良かったです」
「ああ……いたぞ、あれだな」
羊の角がある歪虚を見つけたのだ。
レイオスは地道な攻撃をしつつ前に出る。
「いた」
プエルは周りを見ながら用心をしている。その足元はプエルのような人形がうろちょろしている。
「あれが副官か」
それは弓を持つと矢をつがえたのだった。
●副官
ムータは弓をつがえて狙ったのはアルマだったが、若干ずれた。
「……なるほど! 僕が一番敵っていうことですかぁ。それはそれでいいですよぉ? それに鎧のヒト、あなたが一番骨がありそうですよねぇ」
アルマはミリアの後についていく。距離さえ詰めれば魔法は使える。
「なんで、そっちを狙うかな! まずはボクがいるのに」
ムータを狙うために前に出たミリアはいらだつ上、アルマが前に出てくるのも見える。
ざんぎえふが「いそぐ」と言うように短く鳴く。
「そうだ、次の攻撃の前にこちらが倒せばいい」
それに接敵すれば弓どころではなくなる。
敵の状況を見てムータははめられたと強く感じた。ハンターを前にプエルはずるずる下がっていくのだ
「貴様」
「なんでそんなに怒るかな? イスルダ島の住民で、兄弟でそこまで考え違うんだ」
プエルの言葉を問う余裕などムータにはない。
立て直しをするのも手遅れだと感じ取れる。
低位の羊たちを狩るだけでなく、指揮官クラスを狙うハンターがやってきている。
「戦うのみ。ガキは断罪をする」
プエルは背負い袋に片手を当て、ムータの動きを注視する。
「これを食らえ」
接敵前にプエルに向かって複数の矢を叩き込んだ後、弓を捨て槍に持ち返る。
プエルは空から降り注ぐ弓矢を慌てて避けた。
「無事?」
「にゃあ」
プエルはホッとした。
ミリアは魔力をも攻撃に載せてムータに叩き込んだ。指揮官であればそれなりに力もあるだろうから早く終わらせる。
非常に重い手ごたえはあった。
「俺に傷を負わせたことは罰するに値する」
不敵な声とともに、ミリアに傷が走る。
「ぐっ」
「ミリアっっっっ!」
アルマの悲痛な声が響く。魔法で攻撃するにはあと少したりない。
なんとか落ちなかったミリアを乗せてざんぎえふは離脱を選ぶ。
畳みかける予定のレイオスは瞬間躊躇したが、同じ攻撃が来る可能性、遠距離からアルマの攻撃、それに続くだろうリューたちを考える。
「理由は後だ!」
レイオスは倒すつもりで攻撃を叩き込んだ。
傷が深かったムータはあっけなく崩れ落ちる。
羊型歪虚は動揺し、ひとまず近くの人間を攻撃するもの、逃げ始めるモノが現れたのだった。
ざんぎえふの上を見て、セレスティアは息を飲む。イェジドが「早く」と促すころには祈りとともに傷がふさがる。ほぼ消えるが、すべてが治るわけではなく。
「……危なかった」
「無事で何よりです」
「まだ終わってはいないが」
近づいてくるアルマが途中の敵を盛大に焼き払ったのを二人は見ていた。
範囲魔法から外れた敵を的確にシオンは討っていく。
「一番強そうだが見掛け倒しか」
毛色の違う羊型歪虚がいたが、頑丈であり、攻撃の威力も感じられたがぬるいとしか言いようがなかった。
「数というのが暴力だとよくわかりましたー」
千秋は見える敵は減ったが、寄ってくる敵は減っていないためため息が漏れる。
「怪我より、こっちよね、今は」
アルスレーテは少し前に出て少しでも敵を減らすため技を使う。
「逃がさないほうがいいよね」
リューリのつぶやきにレイノは同意を示し、近くの一匹を狩った。
南側でユグディラの幻術のおかげか、万歳丸は技を使いきりつつも敵を壊滅に追い詰めている。
「まァおかげで助かったが……」
羊歪虚が逃げ始めた後、自陣から離れすぎない程度に追いかけて倒す。
この辺りの戦闘は終わったようでユグディラたちを連れて戻る。ケガをしている個体は少々いる為、万歳丸が抱きかかえる。
「戻れば、怪我の治療だ」
ふと気づく、見上げてくるユグディラのまなざしが信頼のようだということに。
●別れ
べリアルがどうなったのか不明だが、急激に勢いが消えていく。
ウィリアムが率いている部隊のあたりで歓喜の声が上がる。羊型歪虚の姿は周囲にはなくなっていた。
ハンターから逃げたいプエルはしきりにべリアルの動きも気にする。
「おい、その袋は?」
レイオスに指摘されて、プエルはうなずく。
「ああ、そうだね。もう安全だよ」
プエルは袋の入り口を開けて地面に置いた。
万歳丸のところにいたユグディラが走り寄り無事を確認し合っている。
セレスティアは怪我したユグディラを含み【ヒーリングスフィア】を使う。ケガをしていたユグディラがお礼を言うようにセレスティアの足をポンポンとしていった。
セレスティアはの表情もほころび「いえいえ」と返している。
リューリはレイノに乗って近づいている間、プエルの行動を見ていた。
「君はユグディラ好きなんだね、可愛いしね! ユグディラ好きに悪い人はいない思うんだよ」
「そうです! プエルさん、もふもふは至高で、可愛いは正義です。分かってくれます?」
リューリの言葉に続けるようにアルマが問いかける。笑顔で無警戒にも見えるような動きで、顔を覗き込まれる。
「う、うん?」
「そうですよね!」
アルマはプエルに握手を求め、勢いに押されてプエルは手を差し出している。
「僕らきっといいお友達になれますっ。……なってくれますか?」
「は、え、えええ?」
プエルは誰かに助けを求めるよう視線がさまようが、求める先はなかった。
「歪虚と人がお友達になっちゃいけない法律はないですよー。それに僕らのほうにくれば楽しいことたくさんですよ? 音楽祭とかもふもふとか」
プエルは何とも言えない顔をしている。
「アルマ、プエルが目を白黒させてる。」
「ああ、じっとしていないと」
「さっき、散々心配してくれたし、落ち着いて」
「わふっ」
ミリアに注意されてアルマは待てを言われた大型犬のようになる。
「音楽が好きだって聞いた。もし音楽祭に来るならこっそりもいいが、ハンターオフィスに連絡つけるといい」
「は?」
「なぁに、前にも歪虚からの依頼を受けたことがあるんだ、問題ないだろうさ」
ミリアがにやりと笑う。
「……ははっ」
プエルは疲れたように笑う。
「なんでこんなことをしたんだ?」
「なんでって言われても……嫌いだから」
「変わった」
「人間のころを思い出したしね」
リューの問いかけにプエルはそれだけ言う。
プエルはイェジドたちを見て不意に口をとがらせる。
「あーあー、僕も乗り物ほしいな」
「歪虚に乗り物?」
アレスレーテが首を傾げた。
「あー、馬。僕の馬は白だったな」
「いるの?」
「たぶん、もう死んでるんじゃない? 寿命」
プエルは首を傾げた後、周囲を見た。
「行くのか?」
「うん、今のうち」
プエルは万歳丸の頭の上を見るが遠い上、なぜかユグディラが乗っている。
「てめェは歪虚だが、歪虚の中ではマシな歪虚だ。良い劇を見せな。それまでは待ってやる。決着をつけるなら、そのあとだ」
こぶしを握りにやりと笑う。
「本当、君たちって面白いよね……本当……何だろうね……」
「今やられたいなら、相手してやってもいいぞ。羊どもは手ごたえが薄い」
シオンの言葉にプエルは首を横に振る。
「血の気多いね。僕はね、僕がしたいようにするんだ。遊びたいから遊ぶ。レチタティーヴォ様いないから、自分でどうにかしないといけないんだもの」
「プエルさん、お元気で」
千秋は散々悩んでこれだけ云う。プエルのそばにいた歪虚を倒したときにいて、お悔やみを申し上げるのも刺激しそうであるし、なんというか本当に悩んだ。
「あはは、バイバイ」
プエルは貴族のするお辞儀をして、立ち去った。バタフライナイフを折り畳み、プエル人形が「バイバイ」と手を振ってついていったのだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
質問卓 レイオス・アクアウォーカー(ka1990) 人間(リアルブルー)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/11/12 13:09:49 |
|
![]() |
相談卓 レイオス・アクアウォーカー(ka1990) 人間(リアルブルー)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/11/14 18:54:41 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/11/12 16:32:46 |