ゲスト
(ka0000)
【猫譚】メイドのお仕事「羊狩り~救出~」
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/11/14 12:00
- 完成日
- 2016/11/22 19:39
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「兵は拙速を尊ぶ……ですか」
フィオ・ドランドは、戦場を馬で駆けながら歯噛みしていた。喧騒の間を抜け、複数の部隊とともに大きく左舷から回り込む。彼女たちの役割は、奇襲――敵左翼を叩くというものだ。
その途中、フィオはとある違和感を覚えた。速度を緩め、違和感の原因を探る。戦場において、勘所を信じたほうがよい場面がいくつか存在する。フィオは、今がその時と考えていた。
フィオは、とある貴族に仕えるメイド長である。かつては傭兵であり、現在はメイド長の職に暇をもらって名声を得る機会を淡々と狙っている。今回の戦線参加も、こうした功績づくりの一環である。
屋敷にチリひとつ残さないメイドとしての矜持、傭兵として培った経験が、警鐘を鳴らしていた。
におい――そうにおいだ。
獣臭さが左翼の分厚い場所とは別に、もう一つあるのだ。おそらく別の部隊でも気づいた者はいるはずだ。左翼の喧騒にまぎれても、功績は薄まるのは必死。
ここは、一か八か。
フィオはすかさず大隊長へ報告を済ます。大隊長も違和感に気づいていたのか、判断は早かった。フィオを中心に二、三の部隊を別働隊として送ることにした。鼻の利く者を先頭に、においの出処を探る。
茂みの深い場所に、そいつらはいた。二足歩行をする羊の兵隊――いうまでもなくベリアル配下の歪虚である。近接戦闘を行うと思しき装備の者、弓を持つものやワンドをもつものもいた。
数は多く見積もっても20体前後――今いる部隊でも、対処はできるだろう。問題は奴らが何をしているか、である。
茂みを剣や槍で払い除け、深い草むらに広がるようにして駆け回っている。リーダー格と思しき、やや体格の大きな歪虚ががなるような声を上げていた。何かを探しているのかと思った時、
「……ユグディラ」
誰かがぽつりと告げた。急いでフィオも双眼鏡を覗く。茂みの間を歪虚から逃れるように、複数の猫が走っていた。フィオはユグディラを直接見たことはなかったが、知っているものは口々にユグディラだと告げていた。
つまり、あの歪虚はユグディラを追って別れた部隊ということだ。その歪虚を叩くべく、別れたのがフィオ達である。ならば、やることは一つだ。
「ここで奴らを叩き、ユグディラを救い出します。本隊と合流あるいは報告される前に、一気に叩き潰しましょう」
兵は拙速を尊ぶ。
フィオはその言葉を再度、呟いた。ライフルのスコープ越しに、ユグディラの姿を捉える。疲労の色が見て取れる。
「さぁ、今助けますよ」
「兵は拙速を尊ぶ……ですか」
フィオ・ドランドは、戦場を馬で駆けながら歯噛みしていた。喧騒の間を抜け、複数の部隊とともに大きく左舷から回り込む。彼女たちの役割は、奇襲――敵左翼を叩くというものだ。
その途中、フィオはとある違和感を覚えた。速度を緩め、違和感の原因を探る。戦場において、勘所を信じたほうがよい場面がいくつか存在する。フィオは、今がその時と考えていた。
フィオは、とある貴族に仕えるメイド長である。かつては傭兵であり、現在はメイド長の職に暇をもらって名声を得る機会を淡々と狙っている。今回の戦線参加も、こうした功績づくりの一環である。
屋敷にチリひとつ残さないメイドとしての矜持、傭兵として培った経験が、警鐘を鳴らしていた。
におい――そうにおいだ。
獣臭さが左翼の分厚い場所とは別に、もう一つあるのだ。おそらく別の部隊でも気づいた者はいるはずだ。左翼の喧騒にまぎれても、功績は薄まるのは必死。
ここは、一か八か。
フィオはすかさず大隊長へ報告を済ます。大隊長も違和感に気づいていたのか、判断は早かった。フィオを中心に二、三の部隊を別働隊として送ることにした。鼻の利く者を先頭に、においの出処を探る。
茂みの深い場所に、そいつらはいた。二足歩行をする羊の兵隊――いうまでもなくベリアル配下の歪虚である。近接戦闘を行うと思しき装備の者、弓を持つものやワンドをもつものもいた。
数は多く見積もっても20体前後――今いる部隊でも、対処はできるだろう。問題は奴らが何をしているか、である。
茂みを剣や槍で払い除け、深い草むらに広がるようにして駆け回っている。リーダー格と思しき、やや体格の大きな歪虚ががなるような声を上げていた。何かを探しているのかと思った時、
「……ユグディラ」
誰かがぽつりと告げた。急いでフィオも双眼鏡を覗く。茂みの間を歪虚から逃れるように、複数の猫が走っていた。フィオはユグディラを直接見たことはなかったが、知っているものは口々にユグディラだと告げていた。
つまり、あの歪虚はユグディラを追って別れた部隊ということだ。その歪虚を叩くべく、別れたのがフィオ達である。ならば、やることは一つだ。
「ここで奴らを叩き、ユグディラを救い出します。本隊と合流あるいは報告される前に、一気に叩き潰しましょう」
兵は拙速を尊ぶ。
フィオはその言葉を再度、呟いた。ライフルのスコープ越しに、ユグディラの姿を捉える。疲労の色が見て取れる。
「さぁ、今助けますよ」
リプレイ本文
●
背の高い草の生い茂る草原に、二足歩行をする羊型歪虚が屯していた。それらは手に持つ剣やワンドで草を払い、何かを探している。
ふと、歪虚たちが顔を上げた時、異形の存在が目に入った。三角錐の形をした巨大な金属兜、それもフルヘルムを着用した人物だった。
彼は、No.0(ka4640)。その特徴ある姿を活用すべく、囮として先行すると告げていた。レイヴェンの思惑は概ね当たり、弓を持った歪虚が立て続けに矢を放った。
ヘルム部分の防御は固く、損傷は軽微である。腕や脚部に痛みはあるが、まだ問題はない。レイヴェンもまた、弓をひき対抗する。
レイヴェンが動き出してすぐ、龍崎・カズマ(ka0178)も気合を入れて駆け出していた。
「やってやろうじゃねえか」
時間に限りある戦闘、兵は拙速を尊ぶという。カズマに合わせて、レム・フィバート(ka6552)とアーク・フォーサイス(ka6568)も動き出した。
「ちょーっと不安だけど、イケるいける……いけるよね?」
「そのためにも、目の前の戦闘に集中しよう」
レムの言葉に、アークが応じる。草むらの中でカズマと別れ、二人はコンビで敵影との接近を狙う。
「よーし、ぶっ飛ばしてこー!」
レムの気合が空回りしないよう、アークは気を引き締める。レムはレムで、しっかりと連携しないとと意気込んでいるのだった。
「ユグディラの危機を見逃すわけにはいきません!」
気合で負けていないのは、アシェ-ル(ka2983)だ。
「異界の大魔導師は二つの魔法を同時に扱えたとか……私だって、やれます!」
射程距離に前衛を担う歪虚を捉えると、同時に二つの魔法を唱え始めた。声が重なるようにしてアシェールの周囲に響く。
一つ目の魔法は、超弩級雷撃砲。桃色が混じった雷撃が、真っ直ぐに歪虚へと伸びていく。レイヴェンに気を取られていた歪虚が巻き込まれ、雷撃に焼かれる。
続けざまにアシェールは、氷凍榴弾を桃色のリボルバーから射出した。銃弾もまた桃色に染まっており、軌跡を残して敵中心部に着弾する。途端に冷気と氷の爆発が起き、逃れきれなかった数体が肌を裂いた。
「ユグディラと私、狙うなら、どっちか、一つだけですよ!」
一部の弓使い歪虚が、狙いをアシェールに変える。赤と桃色の全身鎧が、矢を捌く。アシェールはそっと、草原へと視線をくべる。
アシェールの視線の先、蠢く草むらがあった。そのうちの一つでは、ライラ = リューンベリ(ka5507)が敵陣営へ走っていた。
「敵の後衛に近づくなら、こちらに意識が向いていない……今ですわね」
ひとりごち、裏をかくように回り込む。ライラが視線をアシェールに向ける一体へ近づいた時、ふと風が疾走った。視線を送れば、カズマの……残像が見えた。
カズマは体内のマテリアルを加速に注ぎ込み、一気に草むらを駆け抜けていた。気づいた歪虚が咄嗟に身体を向けるが、視線は追いつかない。
走りながら、五芒星の武器を投擲する。瞬間、カズマの身体は色をなくしたように思えた。弓兵が彼に狙いを向けるが、すでに姿はなく。
「――っ!?」
痛烈な痛みが脚部を襲った。懐に潜り込んだカズマを撃ちやろうと矢を放つが、至近距離にも関わらず避けられる。
他にも斬られた者がいるらしく、部隊は混乱の兆しを見せる。この機に乗じて、ライラもまた弓兵の一体に迫っていた。
「これだけ近くにいれば、弓も使いにくいでしょう。次の矢を構える暇はあげませんわ」
眼下から突き出された剣を腕に受け、表情が歪む。ライラは背後に迫る槍持ちの一撃を避けると、素早く転身した。
「剣と鞭だけが、私の得意な作法ではございません」
ふわりと裾を落とし、降り立ったのは敵陣の中央。手にはコウモリと呼ばれる投擲武器。マテリアルを用いて、敵陣へと投げ込めば、混乱は必至である。
だが、まばらに動き出した歪虚を制するように咆哮が入った。
「あれがリーダーなの?」
混乱に乗じて茂みに分け入っていたアルス・テオ・ルシフィール(ka6245)は、声の主を見定めて小さく唸った。リーダーがいるのであれば、統率を取ってユグディラを追いかけているはずだ。
「行こう」
行動をともにするイレーヌ(ka1372)が先導し、ルシフィールと草を払いながら進む。イレーヌは開始直後から、前衛の視線や動きをつぶさに観察していた。歪虚の視線の先に逃げているはずだと当たりを付けていた。
そして、ルシフィールも自分にできる方法でユグディラを探る。
「にゃ、この匂いはぁ?」
歪虚ともハンター仲間とも異なるにおいを感じ、ルシフィールはイレーヌに目配せをする。今、ルシフィールの嗅覚は動物霊の力を借りて大幅に強まっていた。
「あのあたりだにゃ」
「よし、なら……敵影から距離を取りつつ」
歪虚の動きは、重ねて放たれたアシェールの雷撃によって再び乱されていた。合わせるようにレイヴェンがデルタレイを用いて、リーダーの一体を狙い撃つ。
怒号と爆音が重なる中で、イレーヌは声を響かせた。
「私達は味方だ。聞こえているなら顔は見せず、羊共に見つからないよう姿勢を低くして此方に来て欲しい」
まっすぐにルシフィールが示した場所へ声を飛ばす。
「私の位置は、匂いでわかるはずだ」
イレーヌは足に触れ、まだ猫缶が落ちていないことを確認する。ユグディラを誘い出すべく脚部に塗りつけたのだ。
自分の猫缶も開けようか問いかけるルシフィールに、大丈夫とイレーヌは告げた。
――刹那、茂みから音を立てて、数匹のユグディラが飛び出し、真っ直ぐにイレーヌの足をなめた。
「む……無事でなにより」
「でも、ないかもにゃ!」
ルシフィールが高めていた視力で敵の接近に気づいた。即座に魔導銃を抜き去り、引き金を引く。
「敵にも鼻がいいのがいたようだ」
囲うような歪虚の動きを確認し、イレーヌがすっと腕を上に伸ばした。腕の先、手をくるりと回すようにして指を鳴らす。訝しげな表情を羊たちが見せた次の瞬間、その身体が揺らいだ。
「ふむ、倒れはしないか」
仏頂面になりつつ、イレーヌはユグディラを連れて後退する。飛来する矢をユグディラに当たらないようイレーヌとルシフィールは体を張って止める。
心配そうに見上げるユグディラに、イレーヌとルシフィールはそれぞれ大丈夫と告げた。
「それより、私たちの側を離れないで」
「これぐらいなんてことないにゃん」
特にルシフィールはおどけてみせて、マテリアルを全身に巡らせた。傷が修復されるのを感じながら、改めて戦場を見渡すのだった。
●
戦場の各所でぶつかり合いが始まっていた。ライラやカズマと少し距離を取り、前衛に詰めるのはレムとアークだ。
「れんけー重視でいくよ!」
対峙したのは二体の剣使いの羊だ。そのうち一体に肉薄すると、レムはすかさず鉄拳を打ち込んだ。練り上げた気を用いて最短距離からの一撃が、歪虚の身体を揺るがす。
視線がレムへと移ったのを見て、アークが素早く切り結ぶ。一気に間合いを詰めて、脚部を狙い斬撃を繰り出した。すんでのところで身を捩るも、歪虚は腹を割かれる。
「……すぅ」
残身するとともに、息を大きく吸い込む。二体がそれぞれに剣を振りかぶる。腕部に一撃を受けながら、アークはレムに目配せをした。
レムもまた腕に創傷ができていたが、気にすることなくアークの目配せに頷きを返した。
今度はアークが疾風剣を先に放つ。切っ先を合わせて、歪虚は斬線から逃れようとするが、逃げた先にレムが踏み込んでいた。
「アーくんナイス!」
十分に気を練り込んだところで、羊の脇腹へと抉りこむように拳を突き入れる。手甲が羊毛の内側へとのめり込み、肉を穿つ。苦しみに耐えかね、歪虚が全ての息を吐いた。
「レム!」
アークの声に機敏に反応し、レムは冥土の土産にと振り下ろされた剣を避ける。最後はアークが首を刎ねて、とどめをさした。
実質初討伐を果たし、レムは興奮に胸が高鳴る。周囲を見渡せば、敵の数は減ってきていた。だが、最後まで油断はできない。
「さて、もう一体……逃さないよ」
●
レイヴェンは、戦況が変わりつつあるのを感じていた。歪虚側の弓兵が一人、また一人とライラとカズマによって倒されていく。
魔法を用いる三体の歪虚は、レイヴェンとアシェールに狙いを定めていた。レイヴェンがデルタレイで撃ち合いに応じ、アシェールは氷凍榴弾で援護する。
「豚羊の下僕に群がられるのは、とっても不快ですけど!」
煽るような物言いをするアシェールとは対照的に、レイヴェンは淡々と攻撃を加える。中でも、一際目立つ一体に焦点を絞る。
魔法弾を光の衝撃で弾きながら、逃げられぬよう距離を詰める。すかさず光の三角形を生み出し、光を奔らせる。一体がワンドを落とし、横に倒れた。
「やっぱり、豚羊の部下は根性ないです!」
ここぞとばかりにアシェールが煽るが、歪虚のリーダー格は冷静だった。一人が咆哮を発し、答える形で唸り声が飛び交う。転身する素振りが見え、レイヴェンは地を蹴った。
「……逃がさない」
「ゆ、ユグディラちゃん! 後でいっぱい美味しいのごちそうしてもふもふするから手伝って!」
イレーヌたちがいる場所へ、アシェールが声をかける。了承るかのように、歪虚の一部が千鳥足となった。
●
「守るべきものに頼り続けるわけにもいかないな」
イレーヌはひとりごちると、逃亡を先導するリーダー格の一人に標準を定めた。すかさず、光の杭を対象へ向けて放つ。
「悪いが逃さないぞ。お仕置きの時間だ」
確固たる意志で放たれた杭は、歪虚をその場に縫い止める。統率者が止められたことで、撤退にも一時的なラグが生じた。
「仕留めるよ」
アルスが銃口を向け、リーダー格の頭を狙い撃つ。角が根本から破砕し、虚のような目がアルスを睨む。再度狙いをつけようとして、その身体がずれているのに気づいた。
蛇腹のような刃が風切り音を奏で、歪虚の身体を薙いだ。竜尾刀を引き戻したのは、ライラだ。
敵が地に沈むと同時に転身し、カズマとすれ違う。逃亡を仕掛けた魔法使いの羊へとカズマは滑り込む。
「行かせるかよ」
中でも狙うは、レイヴェンが削っていた大角の歪虚だ。回り込むように駆け抜けざま、全員を切りつけ、彼の者の前へ躍り出た。
闇の深い瞳と視線が交差する。至近距離で魔法弾が放たれるが、堅牢な鎧は打ち破れない。袈裟斬りにカズマが切り伏せ、レイヴェンが背後から機導砲で撃ち貫いた。
「慌てるなよ。すぐに道連れにしてやるからな」
配下であった二体が逃げようとするが、逃げ道を塞がれる。後ろから追いついたレイヴェンが、草むらからホーリーパニッシャーを繰り出して不意を打つ。
満身創痍のそれらに、打つ手はもはやなかった。
逃げ場を塞いで、断つ。
この基本戦法をアークとレムも踏襲していた。電光石火の早業でアークが逃げ場を防ぎつつ、足の腱を狙う。くしくもスネに傷を負わせる程度で終わり、反撃になりふり構わず放たれた一撃を見舞う。
「アーくん!」
レムの声に大丈夫と微笑みを向け、すぐに表情を引き締める。次の一撃より早くレムが追いつき、死角から震撃を繰り出した。
悪あがきにと振り回される斬撃をいなし、アークは逃げ道を消し続ける。多少反撃を食らうも、レムに怪我をさせるよりかはマシだと思っていた。
「こっちを見ろぉ!」
だが、レムは見かねて無理くり歪虚の頭に一撃を見舞った。歪虚の首が鈍い音を立てて動き、視線がレムに向く。だが、向いただけだ。どっと音を立てて、その体躯は地面へと落ちるのだった。
「アーくんは私より打たれ弱いんだから、無茶しないでよね!」
一瞬目を丸くしたアークだったが、
「……ごめん」
と小さく告げる。
「でも、助かったよ」
レムはありがとうと返して、そっぽを向く。まだ戦いの途中だったと、気を引き締める。だが、終わりは近づいていた。
再びイレーヌのジャッジメント、そして、フィオが足止めに牽制を放つ。足止めを食らった羊たちを、牧羊犬のごとくライラやカズマが追い立てる。
勝敗はすでに決していた。
フィオは時計を確認し、よし、と一人頷いた。
「これなら、問題はないでしょう。ユグディラを保護して、この場を離れます」
手早く指示を出す。部隊は、深い草むらから脱するのだった。
●
「にゃんこ! 無事だった?」
アルスは連れ出したユグディラに問いかけるように、身をかがめる。
「はい、お水なの~」
そういいながら、水筒から水を分け与える。猫缶もあけて、十分に休ませてあげる。見る限り怪我はなさそうだが、念のため、カズマが見て回る。
「よし、怪我はない。疲れてはいるようだから、休息はいるかな」
「よく頑張ったな」
イレーヌが優しい笑みを浮かべて、ユグディラの頭を撫でる。
「お手伝い、ありがとうございました」とアシェールも便乗して撫でる……というよりもふもふと撫で回していた。その間も、ユグディラたちは猫缶と水の恩恵に預かっていた。
「人間が食べても大丈夫なのかなぁ」
ふと、遠巻きに見ていたアークが呟きを漏らし、隣にいたレムにえっという顔をされた。
「いや……少し興味はあるよね、美味しさとか」
「止はしないよ?」
そんな二人の会話が聞こえたのかユグディラが低く唸って、アークを睨んでいた。
「……いや、取らないよ」
「散って逃げていたところを見つかったとのことです」
ユグディラから情報を得たライラが、フィオへ報告に来た。どうやら散開していたところを狙われたらしい。となれば、あれは遊撃部隊ということか。
「本隊はどうなっているかな」
フィオが主戦場の方角へと視線を向ける。哨戒に当たっていたレイヴェンとライラが釣られて、視線を動かした。だが、今はここにいるユグディラたちの平穏を守ろう。
後ろから聞こえてくる鳴き声に、そう思うのだった。
背の高い草の生い茂る草原に、二足歩行をする羊型歪虚が屯していた。それらは手に持つ剣やワンドで草を払い、何かを探している。
ふと、歪虚たちが顔を上げた時、異形の存在が目に入った。三角錐の形をした巨大な金属兜、それもフルヘルムを着用した人物だった。
彼は、No.0(ka4640)。その特徴ある姿を活用すべく、囮として先行すると告げていた。レイヴェンの思惑は概ね当たり、弓を持った歪虚が立て続けに矢を放った。
ヘルム部分の防御は固く、損傷は軽微である。腕や脚部に痛みはあるが、まだ問題はない。レイヴェンもまた、弓をひき対抗する。
レイヴェンが動き出してすぐ、龍崎・カズマ(ka0178)も気合を入れて駆け出していた。
「やってやろうじゃねえか」
時間に限りある戦闘、兵は拙速を尊ぶという。カズマに合わせて、レム・フィバート(ka6552)とアーク・フォーサイス(ka6568)も動き出した。
「ちょーっと不安だけど、イケるいける……いけるよね?」
「そのためにも、目の前の戦闘に集中しよう」
レムの言葉に、アークが応じる。草むらの中でカズマと別れ、二人はコンビで敵影との接近を狙う。
「よーし、ぶっ飛ばしてこー!」
レムの気合が空回りしないよう、アークは気を引き締める。レムはレムで、しっかりと連携しないとと意気込んでいるのだった。
「ユグディラの危機を見逃すわけにはいきません!」
気合で負けていないのは、アシェ-ル(ka2983)だ。
「異界の大魔導師は二つの魔法を同時に扱えたとか……私だって、やれます!」
射程距離に前衛を担う歪虚を捉えると、同時に二つの魔法を唱え始めた。声が重なるようにしてアシェールの周囲に響く。
一つ目の魔法は、超弩級雷撃砲。桃色が混じった雷撃が、真っ直ぐに歪虚へと伸びていく。レイヴェンに気を取られていた歪虚が巻き込まれ、雷撃に焼かれる。
続けざまにアシェールは、氷凍榴弾を桃色のリボルバーから射出した。銃弾もまた桃色に染まっており、軌跡を残して敵中心部に着弾する。途端に冷気と氷の爆発が起き、逃れきれなかった数体が肌を裂いた。
「ユグディラと私、狙うなら、どっちか、一つだけですよ!」
一部の弓使い歪虚が、狙いをアシェールに変える。赤と桃色の全身鎧が、矢を捌く。アシェールはそっと、草原へと視線をくべる。
アシェールの視線の先、蠢く草むらがあった。そのうちの一つでは、ライラ = リューンベリ(ka5507)が敵陣営へ走っていた。
「敵の後衛に近づくなら、こちらに意識が向いていない……今ですわね」
ひとりごち、裏をかくように回り込む。ライラが視線をアシェールに向ける一体へ近づいた時、ふと風が疾走った。視線を送れば、カズマの……残像が見えた。
カズマは体内のマテリアルを加速に注ぎ込み、一気に草むらを駆け抜けていた。気づいた歪虚が咄嗟に身体を向けるが、視線は追いつかない。
走りながら、五芒星の武器を投擲する。瞬間、カズマの身体は色をなくしたように思えた。弓兵が彼に狙いを向けるが、すでに姿はなく。
「――っ!?」
痛烈な痛みが脚部を襲った。懐に潜り込んだカズマを撃ちやろうと矢を放つが、至近距離にも関わらず避けられる。
他にも斬られた者がいるらしく、部隊は混乱の兆しを見せる。この機に乗じて、ライラもまた弓兵の一体に迫っていた。
「これだけ近くにいれば、弓も使いにくいでしょう。次の矢を構える暇はあげませんわ」
眼下から突き出された剣を腕に受け、表情が歪む。ライラは背後に迫る槍持ちの一撃を避けると、素早く転身した。
「剣と鞭だけが、私の得意な作法ではございません」
ふわりと裾を落とし、降り立ったのは敵陣の中央。手にはコウモリと呼ばれる投擲武器。マテリアルを用いて、敵陣へと投げ込めば、混乱は必至である。
だが、まばらに動き出した歪虚を制するように咆哮が入った。
「あれがリーダーなの?」
混乱に乗じて茂みに分け入っていたアルス・テオ・ルシフィール(ka6245)は、声の主を見定めて小さく唸った。リーダーがいるのであれば、統率を取ってユグディラを追いかけているはずだ。
「行こう」
行動をともにするイレーヌ(ka1372)が先導し、ルシフィールと草を払いながら進む。イレーヌは開始直後から、前衛の視線や動きをつぶさに観察していた。歪虚の視線の先に逃げているはずだと当たりを付けていた。
そして、ルシフィールも自分にできる方法でユグディラを探る。
「にゃ、この匂いはぁ?」
歪虚ともハンター仲間とも異なるにおいを感じ、ルシフィールはイレーヌに目配せをする。今、ルシフィールの嗅覚は動物霊の力を借りて大幅に強まっていた。
「あのあたりだにゃ」
「よし、なら……敵影から距離を取りつつ」
歪虚の動きは、重ねて放たれたアシェールの雷撃によって再び乱されていた。合わせるようにレイヴェンがデルタレイを用いて、リーダーの一体を狙い撃つ。
怒号と爆音が重なる中で、イレーヌは声を響かせた。
「私達は味方だ。聞こえているなら顔は見せず、羊共に見つからないよう姿勢を低くして此方に来て欲しい」
まっすぐにルシフィールが示した場所へ声を飛ばす。
「私の位置は、匂いでわかるはずだ」
イレーヌは足に触れ、まだ猫缶が落ちていないことを確認する。ユグディラを誘い出すべく脚部に塗りつけたのだ。
自分の猫缶も開けようか問いかけるルシフィールに、大丈夫とイレーヌは告げた。
――刹那、茂みから音を立てて、数匹のユグディラが飛び出し、真っ直ぐにイレーヌの足をなめた。
「む……無事でなにより」
「でも、ないかもにゃ!」
ルシフィールが高めていた視力で敵の接近に気づいた。即座に魔導銃を抜き去り、引き金を引く。
「敵にも鼻がいいのがいたようだ」
囲うような歪虚の動きを確認し、イレーヌがすっと腕を上に伸ばした。腕の先、手をくるりと回すようにして指を鳴らす。訝しげな表情を羊たちが見せた次の瞬間、その身体が揺らいだ。
「ふむ、倒れはしないか」
仏頂面になりつつ、イレーヌはユグディラを連れて後退する。飛来する矢をユグディラに当たらないようイレーヌとルシフィールは体を張って止める。
心配そうに見上げるユグディラに、イレーヌとルシフィールはそれぞれ大丈夫と告げた。
「それより、私たちの側を離れないで」
「これぐらいなんてことないにゃん」
特にルシフィールはおどけてみせて、マテリアルを全身に巡らせた。傷が修復されるのを感じながら、改めて戦場を見渡すのだった。
●
戦場の各所でぶつかり合いが始まっていた。ライラやカズマと少し距離を取り、前衛に詰めるのはレムとアークだ。
「れんけー重視でいくよ!」
対峙したのは二体の剣使いの羊だ。そのうち一体に肉薄すると、レムはすかさず鉄拳を打ち込んだ。練り上げた気を用いて最短距離からの一撃が、歪虚の身体を揺るがす。
視線がレムへと移ったのを見て、アークが素早く切り結ぶ。一気に間合いを詰めて、脚部を狙い斬撃を繰り出した。すんでのところで身を捩るも、歪虚は腹を割かれる。
「……すぅ」
残身するとともに、息を大きく吸い込む。二体がそれぞれに剣を振りかぶる。腕部に一撃を受けながら、アークはレムに目配せをした。
レムもまた腕に創傷ができていたが、気にすることなくアークの目配せに頷きを返した。
今度はアークが疾風剣を先に放つ。切っ先を合わせて、歪虚は斬線から逃れようとするが、逃げた先にレムが踏み込んでいた。
「アーくんナイス!」
十分に気を練り込んだところで、羊の脇腹へと抉りこむように拳を突き入れる。手甲が羊毛の内側へとのめり込み、肉を穿つ。苦しみに耐えかね、歪虚が全ての息を吐いた。
「レム!」
アークの声に機敏に反応し、レムは冥土の土産にと振り下ろされた剣を避ける。最後はアークが首を刎ねて、とどめをさした。
実質初討伐を果たし、レムは興奮に胸が高鳴る。周囲を見渡せば、敵の数は減ってきていた。だが、最後まで油断はできない。
「さて、もう一体……逃さないよ」
●
レイヴェンは、戦況が変わりつつあるのを感じていた。歪虚側の弓兵が一人、また一人とライラとカズマによって倒されていく。
魔法を用いる三体の歪虚は、レイヴェンとアシェールに狙いを定めていた。レイヴェンがデルタレイで撃ち合いに応じ、アシェールは氷凍榴弾で援護する。
「豚羊の下僕に群がられるのは、とっても不快ですけど!」
煽るような物言いをするアシェールとは対照的に、レイヴェンは淡々と攻撃を加える。中でも、一際目立つ一体に焦点を絞る。
魔法弾を光の衝撃で弾きながら、逃げられぬよう距離を詰める。すかさず光の三角形を生み出し、光を奔らせる。一体がワンドを落とし、横に倒れた。
「やっぱり、豚羊の部下は根性ないです!」
ここぞとばかりにアシェールが煽るが、歪虚のリーダー格は冷静だった。一人が咆哮を発し、答える形で唸り声が飛び交う。転身する素振りが見え、レイヴェンは地を蹴った。
「……逃がさない」
「ゆ、ユグディラちゃん! 後でいっぱい美味しいのごちそうしてもふもふするから手伝って!」
イレーヌたちがいる場所へ、アシェールが声をかける。了承るかのように、歪虚の一部が千鳥足となった。
●
「守るべきものに頼り続けるわけにもいかないな」
イレーヌはひとりごちると、逃亡を先導するリーダー格の一人に標準を定めた。すかさず、光の杭を対象へ向けて放つ。
「悪いが逃さないぞ。お仕置きの時間だ」
確固たる意志で放たれた杭は、歪虚をその場に縫い止める。統率者が止められたことで、撤退にも一時的なラグが生じた。
「仕留めるよ」
アルスが銃口を向け、リーダー格の頭を狙い撃つ。角が根本から破砕し、虚のような目がアルスを睨む。再度狙いをつけようとして、その身体がずれているのに気づいた。
蛇腹のような刃が風切り音を奏で、歪虚の身体を薙いだ。竜尾刀を引き戻したのは、ライラだ。
敵が地に沈むと同時に転身し、カズマとすれ違う。逃亡を仕掛けた魔法使いの羊へとカズマは滑り込む。
「行かせるかよ」
中でも狙うは、レイヴェンが削っていた大角の歪虚だ。回り込むように駆け抜けざま、全員を切りつけ、彼の者の前へ躍り出た。
闇の深い瞳と視線が交差する。至近距離で魔法弾が放たれるが、堅牢な鎧は打ち破れない。袈裟斬りにカズマが切り伏せ、レイヴェンが背後から機導砲で撃ち貫いた。
「慌てるなよ。すぐに道連れにしてやるからな」
配下であった二体が逃げようとするが、逃げ道を塞がれる。後ろから追いついたレイヴェンが、草むらからホーリーパニッシャーを繰り出して不意を打つ。
満身創痍のそれらに、打つ手はもはやなかった。
逃げ場を塞いで、断つ。
この基本戦法をアークとレムも踏襲していた。電光石火の早業でアークが逃げ場を防ぎつつ、足の腱を狙う。くしくもスネに傷を負わせる程度で終わり、反撃になりふり構わず放たれた一撃を見舞う。
「アーくん!」
レムの声に大丈夫と微笑みを向け、すぐに表情を引き締める。次の一撃より早くレムが追いつき、死角から震撃を繰り出した。
悪あがきにと振り回される斬撃をいなし、アークは逃げ道を消し続ける。多少反撃を食らうも、レムに怪我をさせるよりかはマシだと思っていた。
「こっちを見ろぉ!」
だが、レムは見かねて無理くり歪虚の頭に一撃を見舞った。歪虚の首が鈍い音を立てて動き、視線がレムに向く。だが、向いただけだ。どっと音を立てて、その体躯は地面へと落ちるのだった。
「アーくんは私より打たれ弱いんだから、無茶しないでよね!」
一瞬目を丸くしたアークだったが、
「……ごめん」
と小さく告げる。
「でも、助かったよ」
レムはありがとうと返して、そっぽを向く。まだ戦いの途中だったと、気を引き締める。だが、終わりは近づいていた。
再びイレーヌのジャッジメント、そして、フィオが足止めに牽制を放つ。足止めを食らった羊たちを、牧羊犬のごとくライラやカズマが追い立てる。
勝敗はすでに決していた。
フィオは時計を確認し、よし、と一人頷いた。
「これなら、問題はないでしょう。ユグディラを保護して、この場を離れます」
手早く指示を出す。部隊は、深い草むらから脱するのだった。
●
「にゃんこ! 無事だった?」
アルスは連れ出したユグディラに問いかけるように、身をかがめる。
「はい、お水なの~」
そういいながら、水筒から水を分け与える。猫缶もあけて、十分に休ませてあげる。見る限り怪我はなさそうだが、念のため、カズマが見て回る。
「よし、怪我はない。疲れてはいるようだから、休息はいるかな」
「よく頑張ったな」
イレーヌが優しい笑みを浮かべて、ユグディラの頭を撫でる。
「お手伝い、ありがとうございました」とアシェールも便乗して撫でる……というよりもふもふと撫で回していた。その間も、ユグディラたちは猫缶と水の恩恵に預かっていた。
「人間が食べても大丈夫なのかなぁ」
ふと、遠巻きに見ていたアークが呟きを漏らし、隣にいたレムにえっという顔をされた。
「いや……少し興味はあるよね、美味しさとか」
「止はしないよ?」
そんな二人の会話が聞こえたのかユグディラが低く唸って、アークを睨んでいた。
「……いや、取らないよ」
「散って逃げていたところを見つかったとのことです」
ユグディラから情報を得たライラが、フィオへ報告に来た。どうやら散開していたところを狙われたらしい。となれば、あれは遊撃部隊ということか。
「本隊はどうなっているかな」
フィオが主戦場の方角へと視線を向ける。哨戒に当たっていたレイヴェンとライラが釣られて、視線を動かした。だが、今はここにいるユグディラたちの平穏を守ろう。
後ろから聞こえてくる鳴き声に、そう思うのだった。
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そうだんてーぶる アルス・テオ・ルシフィール(ka6245) エルフ|10才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2016/11/14 11:54:37 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/11/10 07:46:04 |