ゲスト
(ka0000)
心狂いし異形の復讐
マスター:鳴海惣流

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/11/17 07:30
- 完成日
- 2016/11/21 18:03
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●とある町の近く
人けのない場所に、鴉の顔に角を生やした頭部を持つ異形が降り立った。獣のような足も含めれば明らかに人間ではない。
それもそのはず、異形はリアンと名乗る歪虚であった。
「やれやれ。遊び過ぎていらない傷を負ってしまいました」
そうは言うものの、ハンターとの戦闘で受けたダメージはすでに大半が自然治癒している。
「貴方もダメージを負ったみたいですね。大丈夫ですか?」
視線を上げた先には、オークに似た巨大な怪物が立っていた。
怪物はリアンに構わず、真っ直ぐに前を見据えている。
「おや。人間の町に恨みでもあるのですか? 面白い。なら思う存分に暴れなさい。せっかくです。野にいるコボルドを探して、適当に町へ放り込むとしましょう。登場人物が一人では劇としての面白みに欠けますからね。貴方もそう思うでしょう?」
やはり怪物は答えない。巨体を揺らし、地鳴りのごとき足音を響かせ歩く。
「堕落者となったにもかかわらず、言語や己を見失うほどの怒りに飲まれたまま。フフ。実に面白い対象です。私の演出する舞台に相応しい」
同行するのではなく、リアンは木の上に立つ。
「元は人間だった者が復讐心を抱えて堕落者となり、恨みを持つ人間を襲う。そしてその元人間の堕落者を人間が退治する。これほど面白い見世物はありません。まさしく喜劇。ああ……自分の演出家としての才能が怖くなりますね」
酔いしれるように言ったあと、リアンはこの場から飛び去る。堕落者が向かう町に、大きな混乱をもたらすために。
●少女の怒り
「どうして譲ってあげなかったんですか!」
声を張り上げたのは十代半ば程度の少女。睨まれた老齢の男性が嫌味な笑みを浮かべる。隣には客らしき裕福そうな男がいる。
「当たり前だろ。誰だって高く値をつけてくれた方に売るさ」
少女はカレン。老齢の男性はロウエンといった。
ダンダという男に憧れて、カレンは商人を志した。
しかし久しぶりにあったダンダは、以前とは変わり果てた金がすべての商人になっていた。
説得に失敗したカレンは、自分が世の為人の為に働いている姿を見せて、いつかダンダに元の心優しき商人に戻ってもらおうと決意していた。
「だからといって、常備するためだけに求めた人に売るなんて……!」
「うん?」
裕福そうな男が何かに気づいたように声を上げた。
「聞き覚えのある話だと思ったら、私に薬草を売ってくれと頼んだみずぼらしい男のことか。あれは災難だったよ。高級なズボンに土をつけられてしまってね。まあ、代わりにそいつの持ってたお金を慰謝料として貰ったから、護衛に袋叩きにさせる程度で許してやったがね」
「貴方が……! なんて酷い……」
カレンは唇をかみしめる。
商人として経験を積む途中、近くの村でダンダの名前を耳にした。頼んで教えてもらった内容は衝撃的だった。
娘の命を救うために薬草を求めたダンダに対し、カレンの前にいる老齢の男性は常識外の価格をつけたのだ。
その後、薬草を買った裕福な男に譲ってほしいと頼むも、結末は最悪以外の何でもなかった。
「酷いのはその男の方だろう。このポエロ様に不愉快な思いをさせたのだからね」
「貴方はもう口を開かないでください! ロウエンさん! 以前にダンダさんに助けられたのでしょう? 恩には恩で報いるべきではないですか!」
結果としてダンダは薬草を手に入れられずに娘を失い、裕福な男に売り払ったロウエンは現在の豪邸を建てるに至った。
「甘いことを言う娘だな。そんなことだと、お前もあの商人みたいに落ちぶれてしまうぞ」
あまりな言い分にカレンは頭に血を上らせ、激情のままに叫ぶ。
「ダンダさんを悪く言わないでください! あの人が変わってしまったのは全部、貴方のせいじゃないですか!」
「人に罪をなすりつけるな。自業自得だろ。より得をする選択肢を選んで何が悪いんだ。さあ、帰った帰った」
ロウエンの雇う護衛に背中を押され、強引にカレンは屋敷から追い出される。
その時だった。
二人の頭上だけ夜になったみたいに暗さを増す。見上げた先にあったのは大きな足の裏。慌てて転がるカレンの背後、大きな物音と共に強烈な振動が発生した。
地面に腕をつき、音のした方をカレンが見る。巨大な足によって、ロウエンの屋敷が瞬く間に半壊していた。
「ひ、ひいいっ」
泣き顔を晒しながら、這いつくばるようにして瓦礫からロウエンとポエロが逃れる。それを見下ろす異形。話に聞くオークみたいな外見だった。
だが奇妙な点がある。明らかに人間とは違う生物なのに、その異形は下半身に商人が好みそうな白いズボンをはいていた。
「な、何なの、あれ!?」
恐怖と驚愕で腰を抜かすカレン。けれど異形は彼女には目もくれない。
壊れた屋敷から木の柱を持ち、武器代わりにして振り回す。その真下にいるのは、泣きべそをかいているロウエンとポエロだった。
彼らご自慢の護衛は、異形が現れたあの一瞬ですでに全滅してしまっていた。
「た、助けてくれぇ」
「か、金ならやる。早く私を助けないか!」
許せない相手ではあるが、必死に勇気を奮い立たせ、カレンはロウエンを助けようとする。
しかし、それを妨害するかのように町のあちこちに、まるで空から降ってでもきたように凶悪なコボルドが姿を現した。
渦巻く悲鳴。壊される家の音。絶望のオーケストラが響く町中で、カレンは懸命にロウエンとポエロ、そして住民を助けようとする。
●傍観者
適当に連れてきたコボルドを町中に放り投げたあと、高い木の天辺に座ってリアンは人間の町の混乱を傍観する。
「人間が逃げ惑う様はいつ見ても愉快ですね。さて、今回の舞台の終幕はいかようになるでしょうか」
ニタリと邪悪な笑みを見せる歪虚は、町に近づく数人の存在に気づく。
「おや。あれは私に傷をつけてくれた連中と同じハンターと呼ばれる人間どもですか。フフフ。さてさて、元は人間の堕落者を相手に、どのように対応するでしょうか。しばしここで観劇といきましょう。せいぜい私を楽しませてください」
高所からリアンが見下ろす中、偶然に訪れたハンターたちが喧騒の町に足を踏み入れる。
人けのない場所に、鴉の顔に角を生やした頭部を持つ異形が降り立った。獣のような足も含めれば明らかに人間ではない。
それもそのはず、異形はリアンと名乗る歪虚であった。
「やれやれ。遊び過ぎていらない傷を負ってしまいました」
そうは言うものの、ハンターとの戦闘で受けたダメージはすでに大半が自然治癒している。
「貴方もダメージを負ったみたいですね。大丈夫ですか?」
視線を上げた先には、オークに似た巨大な怪物が立っていた。
怪物はリアンに構わず、真っ直ぐに前を見据えている。
「おや。人間の町に恨みでもあるのですか? 面白い。なら思う存分に暴れなさい。せっかくです。野にいるコボルドを探して、適当に町へ放り込むとしましょう。登場人物が一人では劇としての面白みに欠けますからね。貴方もそう思うでしょう?」
やはり怪物は答えない。巨体を揺らし、地鳴りのごとき足音を響かせ歩く。
「堕落者となったにもかかわらず、言語や己を見失うほどの怒りに飲まれたまま。フフ。実に面白い対象です。私の演出する舞台に相応しい」
同行するのではなく、リアンは木の上に立つ。
「元は人間だった者が復讐心を抱えて堕落者となり、恨みを持つ人間を襲う。そしてその元人間の堕落者を人間が退治する。これほど面白い見世物はありません。まさしく喜劇。ああ……自分の演出家としての才能が怖くなりますね」
酔いしれるように言ったあと、リアンはこの場から飛び去る。堕落者が向かう町に、大きな混乱をもたらすために。
●少女の怒り
「どうして譲ってあげなかったんですか!」
声を張り上げたのは十代半ば程度の少女。睨まれた老齢の男性が嫌味な笑みを浮かべる。隣には客らしき裕福そうな男がいる。
「当たり前だろ。誰だって高く値をつけてくれた方に売るさ」
少女はカレン。老齢の男性はロウエンといった。
ダンダという男に憧れて、カレンは商人を志した。
しかし久しぶりにあったダンダは、以前とは変わり果てた金がすべての商人になっていた。
説得に失敗したカレンは、自分が世の為人の為に働いている姿を見せて、いつかダンダに元の心優しき商人に戻ってもらおうと決意していた。
「だからといって、常備するためだけに求めた人に売るなんて……!」
「うん?」
裕福そうな男が何かに気づいたように声を上げた。
「聞き覚えのある話だと思ったら、私に薬草を売ってくれと頼んだみずぼらしい男のことか。あれは災難だったよ。高級なズボンに土をつけられてしまってね。まあ、代わりにそいつの持ってたお金を慰謝料として貰ったから、護衛に袋叩きにさせる程度で許してやったがね」
「貴方が……! なんて酷い……」
カレンは唇をかみしめる。
商人として経験を積む途中、近くの村でダンダの名前を耳にした。頼んで教えてもらった内容は衝撃的だった。
娘の命を救うために薬草を求めたダンダに対し、カレンの前にいる老齢の男性は常識外の価格をつけたのだ。
その後、薬草を買った裕福な男に譲ってほしいと頼むも、結末は最悪以外の何でもなかった。
「酷いのはその男の方だろう。このポエロ様に不愉快な思いをさせたのだからね」
「貴方はもう口を開かないでください! ロウエンさん! 以前にダンダさんに助けられたのでしょう? 恩には恩で報いるべきではないですか!」
結果としてダンダは薬草を手に入れられずに娘を失い、裕福な男に売り払ったロウエンは現在の豪邸を建てるに至った。
「甘いことを言う娘だな。そんなことだと、お前もあの商人みたいに落ちぶれてしまうぞ」
あまりな言い分にカレンは頭に血を上らせ、激情のままに叫ぶ。
「ダンダさんを悪く言わないでください! あの人が変わってしまったのは全部、貴方のせいじゃないですか!」
「人に罪をなすりつけるな。自業自得だろ。より得をする選択肢を選んで何が悪いんだ。さあ、帰った帰った」
ロウエンの雇う護衛に背中を押され、強引にカレンは屋敷から追い出される。
その時だった。
二人の頭上だけ夜になったみたいに暗さを増す。見上げた先にあったのは大きな足の裏。慌てて転がるカレンの背後、大きな物音と共に強烈な振動が発生した。
地面に腕をつき、音のした方をカレンが見る。巨大な足によって、ロウエンの屋敷が瞬く間に半壊していた。
「ひ、ひいいっ」
泣き顔を晒しながら、這いつくばるようにして瓦礫からロウエンとポエロが逃れる。それを見下ろす異形。話に聞くオークみたいな外見だった。
だが奇妙な点がある。明らかに人間とは違う生物なのに、その異形は下半身に商人が好みそうな白いズボンをはいていた。
「な、何なの、あれ!?」
恐怖と驚愕で腰を抜かすカレン。けれど異形は彼女には目もくれない。
壊れた屋敷から木の柱を持ち、武器代わりにして振り回す。その真下にいるのは、泣きべそをかいているロウエンとポエロだった。
彼らご自慢の護衛は、異形が現れたあの一瞬ですでに全滅してしまっていた。
「た、助けてくれぇ」
「か、金ならやる。早く私を助けないか!」
許せない相手ではあるが、必死に勇気を奮い立たせ、カレンはロウエンを助けようとする。
しかし、それを妨害するかのように町のあちこちに、まるで空から降ってでもきたように凶悪なコボルドが姿を現した。
渦巻く悲鳴。壊される家の音。絶望のオーケストラが響く町中で、カレンは懸命にロウエンとポエロ、そして住民を助けようとする。
●傍観者
適当に連れてきたコボルドを町中に放り投げたあと、高い木の天辺に座ってリアンは人間の町の混乱を傍観する。
「人間が逃げ惑う様はいつ見ても愉快ですね。さて、今回の舞台の終幕はいかようになるでしょうか」
ニタリと邪悪な笑みを見せる歪虚は、町に近づく数人の存在に気づく。
「おや。あれは私に傷をつけてくれた連中と同じハンターと呼ばれる人間どもですか。フフフ。さてさて、元は人間の堕落者を相手に、どのように対応するでしょうか。しばしここで観劇といきましょう。せいぜい私を楽しませてください」
高所からリアンが見下ろす中、偶然に訪れたハンターたちが喧騒の町に足を踏み入れる。
リプレイ本文
●喧騒の町
町に入ったカイン・マッコール(ka5336)は、中央でそびえるように立つ巨大な異形を視界に収めて目を瞬かせた。
周囲にはコボルドも複数存在しており、家から出て町の奥へと逃げる住民たちを睨みつけるように見ている。
「オーク? ゴブリンかアレは? コボルド退治の邪魔だな、アレは……確か前にも見たような?」
記憶を手繰り寄せようとしたが、最終的にカインは思考よりも敵の排除を優先させる。
人命に関しては助けられるならと割り切り、異形の横へ回り込むようにゴースロンで駆けていく。
「たまたまこの町を通りすがって、よかったのか悪かったのか……人によって、判断は分かれるでしょうね」
馬上で周囲を見渡し、敵の配置を確認するリン・フュラー(ka5869)は、呟いた後に手綱を緩める。
狙うのは離れた位置にいる一体のコボルドだ。
「私の場合は……よかった、でしょうか。殺されそうな人を助けることができるかもしれないので」
悲鳴が木霊する町の中でも冷静さを失わず、ハンターたちは次々と行動を開始する。
ディーナ・フェルミ(ka5843)もその一人だ。
「私は人を守り、歪虚を滅するの。例え相手にどのような理由があろうとも」
全力で愛馬を走らせたディーナは、いまだ巨大な異形の眼下にいる二人の男に声をかける。
「貴方達、早く下がるの。のろのろしていたら、責任は持てないの」
謎の異形に接敵しつつ、町の奥へ避難中の住民を狙いかねないコボルドの一体をディーナは注視する。
指示に従って、あたふたと逃げるロウエンとポエロは現れたハンターたちへ助けを要求する。
「ダンダさんが助けを求めた時は無視したくせに……!」
激昂し、二人の男の所業を告発するように叫ぶカレン。
それでもなお、ロウエンとポエロは泣き喚くようにハンターへ救いの手を求める。
「助けろと? ん~、個人的にはNOですが、社会的にはOKです」
不服そうではあるが、百々尻 うらら(ka6537)は腰に手を当て、大きな胸を揺らしつつ応じる姿勢を見せた。
二人の男やカレンの様子を横目で眺めていたソティス=アストライア(ka6538)も同様の決断をしたみたいだが、さほど乗り気でないのは呆れを含んだ息を吐いたことからもわかる。
「してきたことを考えれば、本来なら殺されても文句は言えん、が……仕方ない。助けてやるか」
「あの二人には生き残って欲しいですね~。他人を苦しめた以上、自分達も人生に苦しむ義務があるはずなので」
「ならば、あの者達にはでかぶつの餌になってもらうのがいいような気もするが……そうもいかんかね」
二人には生きて償わせたい。会話を聞いていたらしいカレンの懇願を受け、うららとソティスも動き出す。
カレンのそばには、ブラウ(ka4809)だけが残った。
「カレンさん。わたし達は一緒に、町の人の避難誘導をするわよ」
「は、はいっ」
「戦いは行わないから、大丈夫よ。何かあったら、わたしが貴女を守るから。……信じて」
■
必死に逃げるロウエンとポエロを、憤怒に支配された異形が狙う。持っていた木の柱を放り投げ、近くにあった石を拾う。
咆哮と共に放たれた石が迫り、ロウエンが悲鳴を上げる。
そこへ素早く割り込み――かけたところで、盛大にうららが転んだ。
手にしていた盾が宙を舞い、うららが顔を上げた直後に、絶妙なタイミングでぶつかった石を跳ね返した。
「……計算通りです。コレが聖盾コギトの力です!」
疑惑の目を向けるロウエン。体を起こしたうららは彼を睨もうとして、その背後、高くそびえる木の頂点に立つ者を発見する。
何かいるとうららが叫ぶと同時に、黒いマントで全身を覆うような何者かがふわりと町へ降り立った。
「見つかってしまいましたか。勘が鋭いのですね。ところで、この堕落者はそちらの人間を恨んでいるようです。好きにさせてみては?」
「堕落者? そうですか。コボルドとの繋がりが見えないと思っていたら、貴方が裏で動いていたんですね!」
提案も拒絶し、うららは謎の存在を指差す。
すると相手は、薄い口を裂くように左右へ伸ばした。
「私は舞台を作っただけです。今回は演者ではありませんので、そろそろ失礼しますよ」
ハンターが堕落者と判明した異形や、コボルドの対応に回っている間に、謎の存在はどこかへ飛び去った。
■
「なるほど。堕落者だったのか。だからといって方針は変わらないが」
呟くカインの目の前では、ロウエンの殺害を防がれた堕落者が激怒の咆哮を放っていた。
「コボルド退治の邪魔だな、なら此処で排除する」
横から接近したカインは、チャージングにより上昇した威力の一撃を堕落者に叩きつける。
濁った水晶玉のような目玉がギョロリと動き、カインの姿を捕らえようとするも、その前に彼は体を深く沈ませていた。
飛び跳ねるようにレガースを装備した足での蹴りを、敵の股間目掛けて見舞った。
かなりの激痛となるはずが、堕落者は微かに顔を歪めただけだった。
「一撃で駄目なら、バランスを崩すまで繰り返せばいい」
短く言い、カインは両手に持つ大剣を構え直した。
■
戦闘が激しさを増す中、ブラウはもどかしさを抱えながらも、カレンを伴って逃げ遅れた住民がいないかを見回っていた。
「こんなボロボロの状態で、皆に迷惑しかかけてなくて、情けないったらないわね」
それでもできる限りのことはやろうと歩くブラウは、親とはぐれたらしい男児を見つけた。
歩み寄り、他の住民もいる奥へ連れて行こうとした矢先、同行中のカレンが緊迫した声を上げる。
「ブラウさん。コボルドがこっちに来てますっ」
すぐにブラウは男児から離れ、自身の手に刀を布でグルグル巻きでくくりつけた。
「こんな身体のわたしに出来る事は、これしかないから!」
傷を負った肉体であってもハンターとしての務めを果たそうと、固定した刀を振る。
ズキンとした痛みが全身に走るも、ブラウは奥歯を噛んで堪える。
「わたしの身体はどうなったっていい。ただ、町の人は護りたいの……!!」
決死の覚悟を見せるブラウへ、コボルドがさらに歩を進めようとする。
だがその足が止まる。回避こそされたが、地面に輝く光の弾が直撃したからだ。
ホーリーライトを放ったのはディーナだった。
「そこより先には進ませない。攻撃されて怒ったなら、先に私をどうにかすればいいの」
不意を突かれた格好になったコボルドは、迷った末に狙いをディーナに変えた。
ディーナにお礼を言って、ブラウはこの隙に避難済みの住民と合流した。
■
他の地点でも、戦いが繰り広げられている。
リンもまた、別のコボルドの前に立ち塞がっていた。
「貴方の相手は私です。気軽に通り抜けられるとは思いませんように」
繰り出されるコボルドの爪を受け流し、隙を窺う。
敵が荒く息を吐き出したタイミングで距離を詰め、低い体勢から腰を捻る。
防御を捨てた斬撃が摩擦の炎をまとい、色鮮やかな真紅の軌道を残してコボルドの胴を鋭く裂いた。
強烈な威力にコボルドはのたうち回るも、まだかろうじて命は残っていた。
牙に苦悶と恨みの涎を滴らせながら、瀕死の敵はやりかえすべくリンへ挑みかかる。
■
集中して威力を高めたエネルギーにより輝く矢が、脚に直撃するなり、その圧倒的な衝撃でコボルドを絶命させた。
「初陣ゆえ勝手がわからんが……存外何とかなるな」
物言わぬ肉塊となったコボルドから目を離し、ソティスは規格外の存在感を放つ堕落者を見る。
すると、その近くでまだのろのろと逃げているロウエンとポエロを発見した。
「ほら、とっとと走れ! 死にたいのか? それとも撃たれたいのか?」
悲鳴を上げながら忙しなく足を動かす二人の男を薄く笑ってから、ソティスは現状を確認する。
生存中のコボルドには味方が対応しているのもあり、彼女は堕落者を次の相手に決める。
再び精神を集中させ、ブレイズウルフ―ハンティングで、カインやディーナに攻撃を仕掛けようとしていた堕落者を撃った。
「歪虚は歪虚だ、焼かれて死ぬがいい……!」
胴に魔力の矢を食らった堕落者は、ギロリとソティスを睨むなり、雄叫びを上げた。
だがソティスは抵抗し、総身が恐怖でおののくのを防いだ。
「対策をしておいて正解だったな。耳栓だ」
耳から外した栓を見せつけるようにして笑うソティスに対し、堕落者はいらつきを見せる。
しかし、そこに今度は横からカインが痛烈な攻撃を膝に命中させた。
「ずいぶんと硬いな。だがいつかは壊れる」
徹底してカインは堕落者の膝や脛足首を砕くように狙う。そこには巨大な敵を倒れさせたいという狙いがあった。
「理性が無く、怒りで暴れている分だけ、小賢しく立ち回るゴブリンの方が余程やっかいか」
■
うららも、対峙するコボルドと戦っていた。
「私はまだまだ駆け出しですので、コボルドを一匹足止めさせられれば上出来ですかね? でもやるからには倒しにいきます」
踏込からの渾身撃が、コボルドの脚に大怪我を負わせる。
脚の傷で俊敏さを失ったコボルドの反撃を、うららは軽やかに回避する。
その足で敵の懐へ入り込み、とどめの刃を敵の頭部に突き立てた。
命の輝きを失った目が天を向き、背中からコボルドが大地に倒れた。
ふうとひと息ついたあと、うららも堕落者との戦闘へ合流するために移動を開始する。
「私は堕落者にも容赦はしませんよー。正直、同情はしますけど、その人だけが特別不幸なのではありませんからね」
■
風を切って振り下ろされる爪を受け流し、涼しい顔でリンは髪の毛を揺らす。
「何度やっても結果は同じです。私にあなたの攻撃は通じません」
俊敏な動作で敵を翻弄し、重心を崩させたところに二度目の紅蓮斬で致命傷を与えた。
「住民を守るためにも、好き勝手は許しません。そこで永遠の眠りについてください」
コボルドを倒し、リンもまた標的を堕落者へと切り替える。
「堕落者……ということは、元々は真っ当な心を持った人間であったはず。いえまあ、私みたいにエルフかもしれませんが」
■
ディーナは堕落者との対峙を続けながら、撃ち漏らしたコボルドへ再度のホーリーライトを放った。
敵頭部に命中した高威力の一撃が、コボルドの命を奪う。
「二度目の奇跡は起きない。これでコボルドは全滅。あとは……貴方だけなの」
見据えるのは堕落者。憎悪を宿した瞳を向けられても、ディーナは決して臆さない。
「それが正当な怒りでも私は止めるの。堕落者は二度と人に戻れない。死んで、転化した。存在するだけで世界を無に帰す存在となった。還りなさい……貴方の怒りは私が覚えておくの」
暴れ回る堕落者の攻撃をかわし、直線距離を取ってセイクリッドフラッシュで胴を捉える。
間違いなく直撃したはずなのに、それでも堕落者は倒れない。血走った目をハンターや、いまだ逃げる二人の男に向ける。
「まだ動きが鈍らない。もの凄い生命力なの」
あくまでもロウエンやポエロを狙おうと、堕落者は石を拾おうとするが、そこへソティスの追撃が入る。
「離れたところから失礼。だが、遠くからも狙われてるのを忘れてもらっては困るのでな」
コボルドを仕留め終えたリンも、堕落者との戦闘に合流する。
「斬る、というのは可哀想な気もしますが、手加減をして戦えるほど私は強くもないし、見ず知らずの人にかける言葉を持つほど豊富な人生経験もありません。ですので……こうなってしまった以上、斬ります」
紅蓮斬により腕から血を噴き上げる堕落者が、悲鳴のような絶叫を町に響かせる。
周囲への注意が疎かになった堕落者と、今度はうららが距離を詰める。彼女もコボルドを始末して、一直線にやってきた。
「人として越えちゃいけない一線を越えてしまえば、背景、事情に関係なくただのアウトなんですよ」
哀しいけれど、コレが現実ってヤツです。心の中で告げ、踏み込んだうららは渾身の一撃を繰り出した。
■
一方で、逃げてきたロウエンとポエロの前にはブラウが立っていた。
「この二人をロープで縛り上げてください」
避難中の住民男性に告げると、すかさすポエロが抗議する。
「なんだと、小娘が生意気な!」
「小さいからってバカにしないで。この刀を貴方達の身体に刺す事位、造作もないわ」
プラウの迫力に押され、二人は観念したように肩を落とす。
「これで逃げられないわよ。……覚悟しておくことね」
■
堕落者とハンターの長い戦いにも、そろそろ終止符が打たれようとしていた。
絶え間なく各ハンターが連動して攻撃を仕掛け続けた結果、ついに堕落者の巨体がダウンした。
「起き上がると厄介だから、このまま倒れているこいつにとどめをさそう」
大剣による渾身撃をカインが頭部へぶつけるも、堕落者はなおも手足を振り回して暴れる。
「抵抗はもうやめておけ。逆転はさせない。一気に勝負をつける」
カインに続いて、リンとうららが近接攻撃を食らわせ、さらにはソティスの魔法も命中する。
ディーナのセイクリッドフラッシュも追加され、とうとう堕落者の腕が地面に落ちた。
「恨んで怒って。それでも終わったのなら、きちんと埋葬されるべきだと思うの。この人もきっと苦しかったの……苦しくない歪虚なんて居ないの」
命尽きた魂に祈りを捧げるようにディーナが言った瞬間、堕落者の瞼が勢いよく持ち上げられた。
「クルシイ……? グルジイィィィ!!」
手足が引き千切れそうになろうとも暴れ、堕落者は叫び、喚き、狂い、そして走り去った。
●戦い終わって
堕落者には逃げられたが、町と住民は守られた。そしてロウエンとポエロは縛られたまま、カレンの前に座らせられていた。
「ハンターの方々から、堕落者について聞きました。あれは、ダンダさんなのでは!?」
「そんなのは知らん!!」
反省するどころか、唾を吐きかねないポエロ。
それまで黙って状況を見守っていたソティスが、目つきを鋭くして凄む。
「貴様らのした事はわかる……が、同時に恨みも買う。次は夜道にでも気を付けることだな」
露骨に怯える二人の男の肩に、ディーナが手を置く。
「恨まれるだけの事をしたの、貴方達は。次はきっと誰も間に合わない……反省した方がいいの」
「今回のはどう考えても自業自得ですよね? そこんとこどう思ってるんでしょうか」
うららにもジト目を向けられ、さしものロウエンとポエロも俯いて黙り込んだ。
■
ハンター達の説得がきき、今回の件で財産を失ったのあってロウエンは小さな村へ隠居を決めた。
ポエロは親のいない子供たちのためにと、渋々ながらも財産の半分を寄付することになった。
そして、ハンターにお礼を言ったあと、商人の少女は姿を消した。
町の外。くぼみのような大きな足跡が、血混じりで残されている。
そのそばには、追いかけるような小さな足跡が続いていた。
町に入ったカイン・マッコール(ka5336)は、中央でそびえるように立つ巨大な異形を視界に収めて目を瞬かせた。
周囲にはコボルドも複数存在しており、家から出て町の奥へと逃げる住民たちを睨みつけるように見ている。
「オーク? ゴブリンかアレは? コボルド退治の邪魔だな、アレは……確か前にも見たような?」
記憶を手繰り寄せようとしたが、最終的にカインは思考よりも敵の排除を優先させる。
人命に関しては助けられるならと割り切り、異形の横へ回り込むようにゴースロンで駆けていく。
「たまたまこの町を通りすがって、よかったのか悪かったのか……人によって、判断は分かれるでしょうね」
馬上で周囲を見渡し、敵の配置を確認するリン・フュラー(ka5869)は、呟いた後に手綱を緩める。
狙うのは離れた位置にいる一体のコボルドだ。
「私の場合は……よかった、でしょうか。殺されそうな人を助けることができるかもしれないので」
悲鳴が木霊する町の中でも冷静さを失わず、ハンターたちは次々と行動を開始する。
ディーナ・フェルミ(ka5843)もその一人だ。
「私は人を守り、歪虚を滅するの。例え相手にどのような理由があろうとも」
全力で愛馬を走らせたディーナは、いまだ巨大な異形の眼下にいる二人の男に声をかける。
「貴方達、早く下がるの。のろのろしていたら、責任は持てないの」
謎の異形に接敵しつつ、町の奥へ避難中の住民を狙いかねないコボルドの一体をディーナは注視する。
指示に従って、あたふたと逃げるロウエンとポエロは現れたハンターたちへ助けを要求する。
「ダンダさんが助けを求めた時は無視したくせに……!」
激昂し、二人の男の所業を告発するように叫ぶカレン。
それでもなお、ロウエンとポエロは泣き喚くようにハンターへ救いの手を求める。
「助けろと? ん~、個人的にはNOですが、社会的にはOKです」
不服そうではあるが、百々尻 うらら(ka6537)は腰に手を当て、大きな胸を揺らしつつ応じる姿勢を見せた。
二人の男やカレンの様子を横目で眺めていたソティス=アストライア(ka6538)も同様の決断をしたみたいだが、さほど乗り気でないのは呆れを含んだ息を吐いたことからもわかる。
「してきたことを考えれば、本来なら殺されても文句は言えん、が……仕方ない。助けてやるか」
「あの二人には生き残って欲しいですね~。他人を苦しめた以上、自分達も人生に苦しむ義務があるはずなので」
「ならば、あの者達にはでかぶつの餌になってもらうのがいいような気もするが……そうもいかんかね」
二人には生きて償わせたい。会話を聞いていたらしいカレンの懇願を受け、うららとソティスも動き出す。
カレンのそばには、ブラウ(ka4809)だけが残った。
「カレンさん。わたし達は一緒に、町の人の避難誘導をするわよ」
「は、はいっ」
「戦いは行わないから、大丈夫よ。何かあったら、わたしが貴女を守るから。……信じて」
■
必死に逃げるロウエンとポエロを、憤怒に支配された異形が狙う。持っていた木の柱を放り投げ、近くにあった石を拾う。
咆哮と共に放たれた石が迫り、ロウエンが悲鳴を上げる。
そこへ素早く割り込み――かけたところで、盛大にうららが転んだ。
手にしていた盾が宙を舞い、うららが顔を上げた直後に、絶妙なタイミングでぶつかった石を跳ね返した。
「……計算通りです。コレが聖盾コギトの力です!」
疑惑の目を向けるロウエン。体を起こしたうららは彼を睨もうとして、その背後、高くそびえる木の頂点に立つ者を発見する。
何かいるとうららが叫ぶと同時に、黒いマントで全身を覆うような何者かがふわりと町へ降り立った。
「見つかってしまいましたか。勘が鋭いのですね。ところで、この堕落者はそちらの人間を恨んでいるようです。好きにさせてみては?」
「堕落者? そうですか。コボルドとの繋がりが見えないと思っていたら、貴方が裏で動いていたんですね!」
提案も拒絶し、うららは謎の存在を指差す。
すると相手は、薄い口を裂くように左右へ伸ばした。
「私は舞台を作っただけです。今回は演者ではありませんので、そろそろ失礼しますよ」
ハンターが堕落者と判明した異形や、コボルドの対応に回っている間に、謎の存在はどこかへ飛び去った。
■
「なるほど。堕落者だったのか。だからといって方針は変わらないが」
呟くカインの目の前では、ロウエンの殺害を防がれた堕落者が激怒の咆哮を放っていた。
「コボルド退治の邪魔だな、なら此処で排除する」
横から接近したカインは、チャージングにより上昇した威力の一撃を堕落者に叩きつける。
濁った水晶玉のような目玉がギョロリと動き、カインの姿を捕らえようとするも、その前に彼は体を深く沈ませていた。
飛び跳ねるようにレガースを装備した足での蹴りを、敵の股間目掛けて見舞った。
かなりの激痛となるはずが、堕落者は微かに顔を歪めただけだった。
「一撃で駄目なら、バランスを崩すまで繰り返せばいい」
短く言い、カインは両手に持つ大剣を構え直した。
■
戦闘が激しさを増す中、ブラウはもどかしさを抱えながらも、カレンを伴って逃げ遅れた住民がいないかを見回っていた。
「こんなボロボロの状態で、皆に迷惑しかかけてなくて、情けないったらないわね」
それでもできる限りのことはやろうと歩くブラウは、親とはぐれたらしい男児を見つけた。
歩み寄り、他の住民もいる奥へ連れて行こうとした矢先、同行中のカレンが緊迫した声を上げる。
「ブラウさん。コボルドがこっちに来てますっ」
すぐにブラウは男児から離れ、自身の手に刀を布でグルグル巻きでくくりつけた。
「こんな身体のわたしに出来る事は、これしかないから!」
傷を負った肉体であってもハンターとしての務めを果たそうと、固定した刀を振る。
ズキンとした痛みが全身に走るも、ブラウは奥歯を噛んで堪える。
「わたしの身体はどうなったっていい。ただ、町の人は護りたいの……!!」
決死の覚悟を見せるブラウへ、コボルドがさらに歩を進めようとする。
だがその足が止まる。回避こそされたが、地面に輝く光の弾が直撃したからだ。
ホーリーライトを放ったのはディーナだった。
「そこより先には進ませない。攻撃されて怒ったなら、先に私をどうにかすればいいの」
不意を突かれた格好になったコボルドは、迷った末に狙いをディーナに変えた。
ディーナにお礼を言って、ブラウはこの隙に避難済みの住民と合流した。
■
他の地点でも、戦いが繰り広げられている。
リンもまた、別のコボルドの前に立ち塞がっていた。
「貴方の相手は私です。気軽に通り抜けられるとは思いませんように」
繰り出されるコボルドの爪を受け流し、隙を窺う。
敵が荒く息を吐き出したタイミングで距離を詰め、低い体勢から腰を捻る。
防御を捨てた斬撃が摩擦の炎をまとい、色鮮やかな真紅の軌道を残してコボルドの胴を鋭く裂いた。
強烈な威力にコボルドはのたうち回るも、まだかろうじて命は残っていた。
牙に苦悶と恨みの涎を滴らせながら、瀕死の敵はやりかえすべくリンへ挑みかかる。
■
集中して威力を高めたエネルギーにより輝く矢が、脚に直撃するなり、その圧倒的な衝撃でコボルドを絶命させた。
「初陣ゆえ勝手がわからんが……存外何とかなるな」
物言わぬ肉塊となったコボルドから目を離し、ソティスは規格外の存在感を放つ堕落者を見る。
すると、その近くでまだのろのろと逃げているロウエンとポエロを発見した。
「ほら、とっとと走れ! 死にたいのか? それとも撃たれたいのか?」
悲鳴を上げながら忙しなく足を動かす二人の男を薄く笑ってから、ソティスは現状を確認する。
生存中のコボルドには味方が対応しているのもあり、彼女は堕落者を次の相手に決める。
再び精神を集中させ、ブレイズウルフ―ハンティングで、カインやディーナに攻撃を仕掛けようとしていた堕落者を撃った。
「歪虚は歪虚だ、焼かれて死ぬがいい……!」
胴に魔力の矢を食らった堕落者は、ギロリとソティスを睨むなり、雄叫びを上げた。
だがソティスは抵抗し、総身が恐怖でおののくのを防いだ。
「対策をしておいて正解だったな。耳栓だ」
耳から外した栓を見せつけるようにして笑うソティスに対し、堕落者はいらつきを見せる。
しかし、そこに今度は横からカインが痛烈な攻撃を膝に命中させた。
「ずいぶんと硬いな。だがいつかは壊れる」
徹底してカインは堕落者の膝や脛足首を砕くように狙う。そこには巨大な敵を倒れさせたいという狙いがあった。
「理性が無く、怒りで暴れている分だけ、小賢しく立ち回るゴブリンの方が余程やっかいか」
■
うららも、対峙するコボルドと戦っていた。
「私はまだまだ駆け出しですので、コボルドを一匹足止めさせられれば上出来ですかね? でもやるからには倒しにいきます」
踏込からの渾身撃が、コボルドの脚に大怪我を負わせる。
脚の傷で俊敏さを失ったコボルドの反撃を、うららは軽やかに回避する。
その足で敵の懐へ入り込み、とどめの刃を敵の頭部に突き立てた。
命の輝きを失った目が天を向き、背中からコボルドが大地に倒れた。
ふうとひと息ついたあと、うららも堕落者との戦闘へ合流するために移動を開始する。
「私は堕落者にも容赦はしませんよー。正直、同情はしますけど、その人だけが特別不幸なのではありませんからね」
■
風を切って振り下ろされる爪を受け流し、涼しい顔でリンは髪の毛を揺らす。
「何度やっても結果は同じです。私にあなたの攻撃は通じません」
俊敏な動作で敵を翻弄し、重心を崩させたところに二度目の紅蓮斬で致命傷を与えた。
「住民を守るためにも、好き勝手は許しません。そこで永遠の眠りについてください」
コボルドを倒し、リンもまた標的を堕落者へと切り替える。
「堕落者……ということは、元々は真っ当な心を持った人間であったはず。いえまあ、私みたいにエルフかもしれませんが」
■
ディーナは堕落者との対峙を続けながら、撃ち漏らしたコボルドへ再度のホーリーライトを放った。
敵頭部に命中した高威力の一撃が、コボルドの命を奪う。
「二度目の奇跡は起きない。これでコボルドは全滅。あとは……貴方だけなの」
見据えるのは堕落者。憎悪を宿した瞳を向けられても、ディーナは決して臆さない。
「それが正当な怒りでも私は止めるの。堕落者は二度と人に戻れない。死んで、転化した。存在するだけで世界を無に帰す存在となった。還りなさい……貴方の怒りは私が覚えておくの」
暴れ回る堕落者の攻撃をかわし、直線距離を取ってセイクリッドフラッシュで胴を捉える。
間違いなく直撃したはずなのに、それでも堕落者は倒れない。血走った目をハンターや、いまだ逃げる二人の男に向ける。
「まだ動きが鈍らない。もの凄い生命力なの」
あくまでもロウエンやポエロを狙おうと、堕落者は石を拾おうとするが、そこへソティスの追撃が入る。
「離れたところから失礼。だが、遠くからも狙われてるのを忘れてもらっては困るのでな」
コボルドを仕留め終えたリンも、堕落者との戦闘に合流する。
「斬る、というのは可哀想な気もしますが、手加減をして戦えるほど私は強くもないし、見ず知らずの人にかける言葉を持つほど豊富な人生経験もありません。ですので……こうなってしまった以上、斬ります」
紅蓮斬により腕から血を噴き上げる堕落者が、悲鳴のような絶叫を町に響かせる。
周囲への注意が疎かになった堕落者と、今度はうららが距離を詰める。彼女もコボルドを始末して、一直線にやってきた。
「人として越えちゃいけない一線を越えてしまえば、背景、事情に関係なくただのアウトなんですよ」
哀しいけれど、コレが現実ってヤツです。心の中で告げ、踏み込んだうららは渾身の一撃を繰り出した。
■
一方で、逃げてきたロウエンとポエロの前にはブラウが立っていた。
「この二人をロープで縛り上げてください」
避難中の住民男性に告げると、すかさすポエロが抗議する。
「なんだと、小娘が生意気な!」
「小さいからってバカにしないで。この刀を貴方達の身体に刺す事位、造作もないわ」
プラウの迫力に押され、二人は観念したように肩を落とす。
「これで逃げられないわよ。……覚悟しておくことね」
■
堕落者とハンターの長い戦いにも、そろそろ終止符が打たれようとしていた。
絶え間なく各ハンターが連動して攻撃を仕掛け続けた結果、ついに堕落者の巨体がダウンした。
「起き上がると厄介だから、このまま倒れているこいつにとどめをさそう」
大剣による渾身撃をカインが頭部へぶつけるも、堕落者はなおも手足を振り回して暴れる。
「抵抗はもうやめておけ。逆転はさせない。一気に勝負をつける」
カインに続いて、リンとうららが近接攻撃を食らわせ、さらにはソティスの魔法も命中する。
ディーナのセイクリッドフラッシュも追加され、とうとう堕落者の腕が地面に落ちた。
「恨んで怒って。それでも終わったのなら、きちんと埋葬されるべきだと思うの。この人もきっと苦しかったの……苦しくない歪虚なんて居ないの」
命尽きた魂に祈りを捧げるようにディーナが言った瞬間、堕落者の瞼が勢いよく持ち上げられた。
「クルシイ……? グルジイィィィ!!」
手足が引き千切れそうになろうとも暴れ、堕落者は叫び、喚き、狂い、そして走り去った。
●戦い終わって
堕落者には逃げられたが、町と住民は守られた。そしてロウエンとポエロは縛られたまま、カレンの前に座らせられていた。
「ハンターの方々から、堕落者について聞きました。あれは、ダンダさんなのでは!?」
「そんなのは知らん!!」
反省するどころか、唾を吐きかねないポエロ。
それまで黙って状況を見守っていたソティスが、目つきを鋭くして凄む。
「貴様らのした事はわかる……が、同時に恨みも買う。次は夜道にでも気を付けることだな」
露骨に怯える二人の男の肩に、ディーナが手を置く。
「恨まれるだけの事をしたの、貴方達は。次はきっと誰も間に合わない……反省した方がいいの」
「今回のはどう考えても自業自得ですよね? そこんとこどう思ってるんでしょうか」
うららにもジト目を向けられ、さしものロウエンとポエロも俯いて黙り込んだ。
■
ハンター達の説得がきき、今回の件で財産を失ったのあってロウエンは小さな村へ隠居を決めた。
ポエロは親のいない子供たちのためにと、渋々ながらも財産の半分を寄付することになった。
そして、ハンターにお礼を言ったあと、商人の少女は姿を消した。
町の外。くぼみのような大きな足跡が、血混じりで残されている。
そのそばには、追いかけるような小さな足跡が続いていた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/11/14 22:39:59 |
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相談卓 リン・フュラー(ka5869) エルフ|14才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2016/11/17 03:16:03 |