ゲスト
(ka0000)
【郷祭】石に願いを
マスター:樹シロカ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/11/17 12:00
- 完成日
- 2016/12/02 01:49
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●すてきな発見
ジェオルジ領内にバチャーレという小さな村がある。
「手をつなぐ」という意味を持つ村は、「その昔大地が穢れ、住民は皆死に絶えた」などという不吉な言い伝えにより廃村となっていた。
ジェオルジの若き領主、セスト・ジェオルジ(kz0034)はこの地でサルヴァトーレ・ロッソの移民を受け入れるべくハンターたちに調査を依頼。結果、”穢れ”の原因が近くの間欠泉から噴き出るガスであることが分かった。
原因が分かれば、対処もできる。
問題がすべて解決したわけではないが、村はロッソの移民たちにとって今や第二の故郷となりつつあった。
「やあ、こんにちは。今日はどうしました?」
バチャーレ村のそばを流れるキアーラ川のほとりで、サイモン・小川は見知った男に手を振った。
「村長さん、今日も見回りですか? お疲れ様です」
感じのいい笑顔を見せるのは、近くのシニストラ村の村長の息子、アンジェロである。
バチャーレ村が近隣の村に受け入れられるよう、なにかと手助けしてくれる頼もしい青年だ。
サイモンは苦笑いを浮かべる。
「村長さんかあ……どうも慣れないですね」
サイモンは移民団のリーダーであり、今はバチャーレ村の実質的な村長だ。
リアルブルー出身だが、開拓魂を持った人物で、このクリムゾンウェストに骨をうずめる覚悟を決めている。
「でも代表がいないと困りますからね」
そう言いながら、アンジェロの視線は何かを探すように動いていた。
サイモンがそれに気づいて世間話のつもりで尋ねる。
「なにかお探しですか?」
「え? ええ……まあ……」
アンジェロは顔を赤らめながら頭を掻いた。
川向うは柔らかな草が揺れているが、川のこちら側は温泉の影響であまり植物が生えない。河原には大小さまざまな石が転がっているばかりだ。
「あっ……!」
突然、アンジェロがサイモンの少し後ろに駆け出して屈みこむ。
「あった!!」
「何がですか?」
興味津津で覗き込むと、アンジェロは小さな丸い石を手のひらに乗せて見せてくれた。
「キアーラ石です。いい色だ!」
半透明の薄紅色をした、親指の爪ほどの大きさの石だ。温かみのある色あいで、なんともいえない優しい光をたたえている。
「珍しいものなのですか?」
「ええ。宝石とまではいきませんが、それなりに。問題は大きさと色合いなんです」
アンジェロが言うには、いろんな色合いの石があり、ふたつとして同じ色はないといわれているらしい。
また柔らかく加工に向かないためカットは困難で、あまり大きなものは見つからず、おおむね見つかったそのままの形で使われるのだという。
「そうなんですか……」
温和で人当たりの良いサイモンだが、抜け目ない性格だ。心なしか、眼鏡の奥で目が光ったようだ。
アンジェロはそんなことには気づかなかったが、嬉しそうに続ける。
「実は婚約者にプレゼントしようと思って……」
「おや、それは素敵ですね」
「この石は好みの色や大きさを見つけるのが大変なので、自分で探したものを贈ると、相手が幸せになれるといわれているんです。いいものが見つかってよかったですよ」
サイモンがそれはそれはいい笑顔で頷いていた。
●燃えろ商魂
「というわけで。チャンスだ、諸君」
バチャーレ村に戻ったサイモンは、仲間を集めて言った。
「幸い、今は郷祭の真っ最中だ。土産品にこれほど最適なものはない。領主にお願いして、商機につなげよう!」
ロッソ以来の仲間は、どんどん逞しくなっていくサイモンに、畏怖のような感情を抱くのだった。
ジェオルジ領内にバチャーレという小さな村がある。
「手をつなぐ」という意味を持つ村は、「その昔大地が穢れ、住民は皆死に絶えた」などという不吉な言い伝えにより廃村となっていた。
ジェオルジの若き領主、セスト・ジェオルジ(kz0034)はこの地でサルヴァトーレ・ロッソの移民を受け入れるべくハンターたちに調査を依頼。結果、”穢れ”の原因が近くの間欠泉から噴き出るガスであることが分かった。
原因が分かれば、対処もできる。
問題がすべて解決したわけではないが、村はロッソの移民たちにとって今や第二の故郷となりつつあった。
「やあ、こんにちは。今日はどうしました?」
バチャーレ村のそばを流れるキアーラ川のほとりで、サイモン・小川は見知った男に手を振った。
「村長さん、今日も見回りですか? お疲れ様です」
感じのいい笑顔を見せるのは、近くのシニストラ村の村長の息子、アンジェロである。
バチャーレ村が近隣の村に受け入れられるよう、なにかと手助けしてくれる頼もしい青年だ。
サイモンは苦笑いを浮かべる。
「村長さんかあ……どうも慣れないですね」
サイモンは移民団のリーダーであり、今はバチャーレ村の実質的な村長だ。
リアルブルー出身だが、開拓魂を持った人物で、このクリムゾンウェストに骨をうずめる覚悟を決めている。
「でも代表がいないと困りますからね」
そう言いながら、アンジェロの視線は何かを探すように動いていた。
サイモンがそれに気づいて世間話のつもりで尋ねる。
「なにかお探しですか?」
「え? ええ……まあ……」
アンジェロは顔を赤らめながら頭を掻いた。
川向うは柔らかな草が揺れているが、川のこちら側は温泉の影響であまり植物が生えない。河原には大小さまざまな石が転がっているばかりだ。
「あっ……!」
突然、アンジェロがサイモンの少し後ろに駆け出して屈みこむ。
「あった!!」
「何がですか?」
興味津津で覗き込むと、アンジェロは小さな丸い石を手のひらに乗せて見せてくれた。
「キアーラ石です。いい色だ!」
半透明の薄紅色をした、親指の爪ほどの大きさの石だ。温かみのある色あいで、なんともいえない優しい光をたたえている。
「珍しいものなのですか?」
「ええ。宝石とまではいきませんが、それなりに。問題は大きさと色合いなんです」
アンジェロが言うには、いろんな色合いの石があり、ふたつとして同じ色はないといわれているらしい。
また柔らかく加工に向かないためカットは困難で、あまり大きなものは見つからず、おおむね見つかったそのままの形で使われるのだという。
「そうなんですか……」
温和で人当たりの良いサイモンだが、抜け目ない性格だ。心なしか、眼鏡の奥で目が光ったようだ。
アンジェロはそんなことには気づかなかったが、嬉しそうに続ける。
「実は婚約者にプレゼントしようと思って……」
「おや、それは素敵ですね」
「この石は好みの色や大きさを見つけるのが大変なので、自分で探したものを贈ると、相手が幸せになれるといわれているんです。いいものが見つかってよかったですよ」
サイモンがそれはそれはいい笑顔で頷いていた。
●燃えろ商魂
「というわけで。チャンスだ、諸君」
バチャーレ村に戻ったサイモンは、仲間を集めて言った。
「幸い、今は郷祭の真っ最中だ。土産品にこれほど最適なものはない。領主にお願いして、商機につなげよう!」
ロッソ以来の仲間は、どんどん逞しくなっていくサイモンに、畏怖のような感情を抱くのだった。
リプレイ本文
●
一団を迎え、サイモン・小川は目を見開いた。
「また来てくださったんですか! 嬉しいですね」
ウェスペル・ハーツ(ka1065)とルーキフェル・ハーツ(ka1064)の双子は、息を切らせて駆けてくる。
「畑が緑色! お野菜たくさんできそうですなの!」
「サイモンも元気そうですお!」
トルステン=L=ユピテル(ka3946)も軽く片手を挙げる。
「よ。なーんかサイモン、商売っ気出してんだってな。同盟人らしくなったってコトか?」
「ははは、まあちょっとは逞しくなれたかもしれませんね」
そう言って笑う顔は以前より日に焼けている。
学者である彼が村を率いるのは気苦労も多いだろうし、多少は図太くもなるだろう。
そうでないとやっていけないことは、トルステンにも容易に想像がついた。
「ま、移住が順調みてーでちょっと安心した」
「ありがとうございます」
「そんちょーさんっ、お久しぶりーなんダヨっ♪」
パトリシア=K=ポラリス(ka5996)の声も弾んでいた。
さびしかった畑には新しい植物が風に揺れている。
その光景を見るだけで、パトリシアは嬉しくなる。
「村長には、まだ慣れないのですがね。でもみんな、ここに来られてよかったと言っていますよ」
照れ笑いを浮かべるサイモンの背中を、 天王寺茜(ka4080)がぽんと叩いた。
「がんばってるんだものね。バチャーレ村のためになるなら、今回も喜んで協力させてもらうわ」
同じ船でやってきた人々が、こうして土地に馴染んでいくのをみると安心する。
きっとさびしい思いをしている人もいるだろうけれど、少しでも居心地よくしてあげたいと、茜は心から思うのだ。
と、同時に、好奇心が茜の目をキラキラさせる。
「それに、『キアーラ石』の習慣も素敵だしね」
「ま、とにかく。全部石を拾ってからの話やで」
冬樹 文太(ka0124)が皆を促した。石を集めてからが彼の本番だ。ぐずぐずしていてはもったいない。
「そうですね。では、石集めの方は僕といっしょに。他の準備の方は、彼女と相談を進めてください」
愛想よく手を振るのは、サイモンの同僚の女性学者だ。
●
キアーラ川のほとりは、まったく普通の河原だった。
大小さまざまな石が転がり、ところどころに草が生えている。
しばらくあたりを見回していたサイモンが、あったと声をあげて屈みこんだ。
「ちょっと見つけるのが難しいですが、ほら。これが『キアーラ石』ですよ」
皆が一斉に覗き込む。
淡い桃色、緑色、黄色の、小さな丸い石だった。
イスフェリア(ka2088)はそっとつまみ上げてみた。不透明な石は優しく光っている。
「本来なら『自分で探して』『大切な人に贈る』っていう習慣なんだあ……とてもロマンチックだね」
春日(ka5987)もイスフェリアから受け取って眺める。
「ほんま、素敵やねぇ。商売繁盛は勿論やけど、こんないわれのある石やったら、単純に素敵やからお勧めしとうなりますわなぁ」
「すみません、私にも見せてください!」
ちょっと遠慮していたノワ(ka3572)だったが、実際に石を目にしたら止まらない。
いつか鉱物の力を利用し、病や怪我の治療に役立てたいと願うのだから、当然興味がある。
「ふむ、色合いも豊富、と……不純物を多く含むようですね」
ぶつぶつ独り言をつぶやきながら石を観察している。
雪都(ka6604)が少し遠慮勝ちに、ノワの横から石を眺めた。
「リアルブルーにも似たような石があったと思う」
鉱石は詳しくないが、事前に少し勉強はしてきたのだ。付け焼刃だと自覚しているが、何も準備しないよりはましだろう。
「どんなふうに使ってたんですか!」
ノワが食いついた。
雪都は身体に当てて使うなど、おまじないに近いものであったなどと、本の知識を思い出しながら説明した。
パトリシアはサイモンにどのぐらい採るべきかを尋ねる。
「売り物にするニハ、少なすぎテも困るんダヨ」
「そうですね。場所を決めようと思います」
サイモンは少し先に見える大きな岩を指差した。
「捜索範囲は、ここからあの岩までにしましょう」
「ハーイ! 可愛い子たちを探すんダヨー♪ 自然の恵み。精霊さんの落し物。ありがたし♪」
「……精霊さんの落とし物、ですか」
サイモンが何やら考え込む。
パトリシアはその隣で、楽しそうに石を拾いながら何気なく呟いた。
「この子たちハ、どこから来たんでしょか?」
「僕もそれは気になっていました」
河原に転がっているということは、川の上流からきたと考えられる。
ということは、どこかに原石が含まれる鉱脈があるのだろう。
「そのうち探しに行こうかと思っているんです。もちろん、領主様の許可を得てね」
「探検ですネ! 面白そう!」
パトリシアは、もう走って行きそうに目を輝かせた。
トルステンは少し離れたところで屈みこむ。
「あー、結構見つかるもんだな。でも採りすぎ注意かー」
それほど高価でないことは知られている。しかもジェオルジでこの村だけの特産品とアピールすることはできない。
「大きさにも制限ありか。案外難しいお題よなー」
いくつかを拾って、袋に入れた。
「ところでパティはどこ行ったんだよ。遊んでんじゃねーだろーなアイツ… …」
首をめぐらせたトルステンは、目にしたものに思わず顔をしかめる。
「ステン、ここ! あったかくて気持ちいいんダヨー!!」
パトリシアはすぐに石拾いに飽きたらしい。
靴を脱いで、間欠泉から流れ出たお湯が溜まっている場所で足をばちゃばちゃさせていたのだ。
「あのなあ……!」
「えっと、ココも何か、村のイベントに使えたらいいナー? とか?」
笑ってごまかしながら、いそいで仕事に戻る。
ノワは真剣そのものという表情で、すっかり石集めに没頭していた。
「丸い石だけじゃないんですね!」
形の整った物だけでなく、ハート型や星型に見える石があれば面白そうだ。
「色は赤・橙・黄・緑・青・藍・紫……んんー、目安は七色の虹色でしょうか」
採りすぎ注意は頭に入れつつ、店で並べた時の見栄えを考えれば綺麗な色を揃えたいところ。
「何か手伝う事あるかな」
雪都はノワが詳しそうだと思ったのだ。
「えっ! あの、私が決めることでも……?」
「指示に従って動くだけの方が余計な時間使わな……いや、その……協力したほうが早い」
「あ、そうですよね! じゃあこの袋に形の面白い物を……」
後で使いやすいように、分類しながら集めることにする。
●
村に残った面々は、手のあいた移民たちを集めて計画を説明する。
「私の考えた売り方はこんな感じですね」
茜は小さめの空き瓶をもってきてもらった。標本収集用らしく、手のひらに収まるサイズだ。
「形が悪くて使いにくい石ってけっこうありますよね? でもこんな風にすれば……」
先に見本としてサイモンが見せた石を三つ、瓶に入れる。それから水を入れて蓋をした。
「デスクや窓辺に置けば、光の加減で色の変化を楽しめると思うんです。瓶は……確か、瓶詰に使うものもありますよね」
以前に特産品の販売を手伝ったこともあり、そこは大丈夫だとふんでのことだ。
「素敵だね。照れ屋さんでもインテリア小物として売るのなら、屋台で見つけたからって言い訳つけて贈ることができそう」
イスフェリアが茜の案に賛同する。
堂々と素直に、自分の気持ちを表せる人ばかりではないだろう。
相手が受け取ってくれたなら、後で「実は……」と打ち明けるチャンスだってあるかもしれない。
じゃあ、と春日がお守りを提案する。
「素敵ないわれのある石やしねぇ。こう、小さな袋を作って、石と一緒に祈り事を書いた紙を入れるのはどうやろなぁて」
試作した小袋を見せながら、いたずらっぽくくすりと笑う。
「祈り事はなんでもええとおもうけども。こっそり自分を好きになってくれますよぉに、なんて忍ばせるのもええかもしれんねぇ」
袋は布を用意してもらえるならみんなで作ってもいいだろう。
そこで文太が口を挟んだ。
「どうせやったら、ワークスペースなんかどうや」
「ワークスペース……です?」
「せや。屋台の奥に、自分で好きなようにお守りを作るスペースを作って、そこで俺らがやり方教えながら自分で作ってもらうんや。材料さえ調達できたら、ほんまの意味で『世界でただひとつ』が作れるで」
「瓶に詰める石も自分で選ぶんだね。それ、いいかも!」
茜が身を乗り出すと、イスフェリアが何かを考え込む。
「そうだね。袋も布製だけじゃなくて、レースで編んでみたり。……あと、じゃあ、もし石が余ったらちょっとだけもらってもいいかな。試してみたいことがあるんだ」
そこで、皆の話を大きな目を見開いて聞いていた双子が、ぴょいと手を挙げる。
「あのですね! 自分で探して贈ると相手が幸せになる、ここは大事ですなの!」
ウェスペルが紫の瞳をキラキラさせて言うと、ルーキフェルも金の瞳を大きく見開く。
「それはとっても大事ですお!」
ふたりは口々に、身振り手振りを交えて、自分たちの提案を説明する。
屋台に運んだ砂や砂利の中にキアーラ石を隠しておき、手に入った石を加工してもらうという趣向だ。
「誰かを想って探すことになりますお! それに宝探しみたいで、きっと楽しいですお! 」
「川に行ってなくても、自分で探したことになりますなの!」
春日がクスッと笑う。
「それはいい考えやと思いますわぁ。うちらはほな、宝物を隠すのを楽しめますわなぁ」
「ふおー! 山賊みたいですお!! すごく隠しますお!!」
「るー、見つけてもらうための石ですなの……」
こうして、仕掛ける側もドキドキの計画が進んでいく。
●
そして当日。
朝早くから屋台を組み立て、布を張り、作業台を据え付ける。
文太は「ちょっと行ってくる」と言い置いて、他の屋台を一巡りし、なめした革やワイヤーなどを買い集めてきた。
「ま、うまいこと行ったら、お互いにええ収入源になるかもしれんやろ?」
……相当値切ったようだ。
屋台の見える場所には、ルーキフェルががんばって作成した「しあわせさがし」の文字とピカピカの石の絵が踊る看板を据え付けた。
「ふぅ。いい仕事をしたですお……」
本人的には満足そうだ。
ウェスペルは必死の形相で運んできた砂をシートに広げ、キアーラ石を真剣な顔で置いていく。
「もう砂をかけてもいいか」
「おねがいするなの!!」
雪都があまり深くならないよう、調整しながら砂をかぶせていく。
「他に何か力仕事があれば、遠慮なく言ってくれ。その代わり接客は任せる」
「まかされますなの!!」
ふんと鼻息荒く、ウェスペルが胸を張った。
ノワがふと思いつき、サイモンに尋ねた。
「そういえば、石の名前は『キアーラ石』でよかったのです?」
販売するのに名前がいるかもしれないが、キアーラ石では場所が特定できる。
ジェオルジではすでに名前の知れた石とはいえ、売り物になると分かれば少々問題が起きるかもしれない。
サイモンはノワの懸念に頷く。
「それなんですがね。ポラリスさんの命名が素敵だと思ったので、領主さまに確認して『キラキラの落し物』にしようかと思います」
ウェスペルがぱちぱちと手を叩く。
「かわいい名前ですなの!」
「ですよね。これならバチャーレ村以外の場所で拾った物も、特別な感じになるでしょう?」
「えへへ。パティがつけちゃったみたいなんダヨ、ステン」
「あー、よかったな」
トルステンの言い方は少しそっけないが、パティは嬉しそうに笑う。
「なあサイモン、こんな感じでどうだ」
広げたのは、カラーセラピーの観点を入れた薀蓄シートだった。
青は知的で誠実、ピンクは恋愛や優しさ、黄色は健康や転機、紫は美と神秘……などなど。
「あくまでも参考ってことで。面白いと思って貰えたら勝ちだろ」
「面白いと思います。リアルブルー人はキアーラ石に馴染みがないですから、こういうアプローチなら手に取ってもらえそうです」
「んじゃこれ、この辺りに貼っとくぞ」
石探しの砂山の傍と、通りに見える場所にそれぞれ貼りだす。
「ディスプレイはこんな感じでどうかな?」
イスフェリアが屋台から少し離れて、様子を確認しながら尋ねた。
きれいな布を敷いた台の上に、色とりどりの見本が並ぶ。
「ちょっとだけ手を加えてみたものもあるんだけど。採りつくしたらダメだし、参考用に、かな」
形の悪い物をいくつか選んで、グラスに入れて観葉植物をさしたもの。
軽く火で炙ってすぐに水で冷やし、ヒビ加工をいれてみたもの。
そして村の人たちと一緒に作ったレース編みの小袋に、石が見えるように入れたもの。
「かわいいね! これならきっと足をとめてもらえると思うよ!」
茜が軽くウィンク。
「んじゃ始めちゃいますか! バチャーレ村がこれからもがんばれるように!」
すでに会場のあちこちから、威勢のいい掛け声が上がりつつあった。
●
茜のよく通る声に、そぞろ歩きの人が振り返る。
「いらっしゃいませー! きれいな石を使った商品を、色々と取り揃えておりまーす♪ ハンドメイドスペースもありますよー!」
イスフェリアは遠巻きに様子をうかがう人に、おだやかに微笑みかける。
「どんなものが作れるか、見本だけでもご覧になりませんか?」
声をかけられて、足を向ける人も。
パティはここぞとばかり、キラキラ輝く小瓶を見せた。女性には女性の好きそうなかわいい色を選んでみる。
「人に幸せ届ける星の石。郷祭の為に、特別に、此処まで連れて来たんダヨ♪」
イスフェリアの作った見本に見入る人も。
「かわいいわね。簡単にできるの?」
「もちろんダヨ! あ、でも、石と出会うのは運次第。大切なヒトへのお土産に。郷祭の思い出に。どーぞ、自分の色のお星様、見つけて帰ってくださいナ♪」
「こっちで石をみつけてくださいですお!」
ルーキフェルが飛び出てきて、おなじぐらいの年の男の子を砂山に引っ張る。
「贈りたい人のことを思い浮かべながら探してみてくださいお! きっとぴったりの石がみつかりますお!」
「でも欲張ってはだめですなの。ちいさくてもぎゅぎゅっと気持ちをこめたらちゃんと相手にも伝わるの!」
恐る恐る手を突っ込んだ子供が、やがて歓声を上げる。
手には小粒の石がいくつか。
「自分のものにしてもいいけど、プレゼントも素敵ですなの」
男の子はお守り袋をじっと見ているが、少し自信がなさそうだ。
茜は屈みこんで、女の子に笑いかける。
「大丈夫よ、まかせて! 文太さーん。ハンドメイド希望のお客さまでーす」
「っし、久々に腕が鳴るわ」
にやりと笑って、文太が手招きする。
さまざまな形にカットして、簡単に縫いあわせられるようにした革は、色合いも各種用意した。
「自分のか? それとも誰かにあげるんか?」
「おかあさんにあげるの」
文太のちょっといかつい顔が、くしゃりと笑顔に変わる。
「よっしゃ。大切な人に贈るっちゅう物やから、しっかり想いを込めて作ってや」
子供は頷き、小瓶につける革製のタグを作り始める。
文太はつきっきりで見守り、思う形になるように削ってやった。
最後に磨き上げ、四つ葉のクローバーのタグが石を入れた小瓶に付けられた。男の子の名前も裏に刻んである。
「おかあさん、よろこんでくれるとええな」
「うん!」
男の子は大事そうに小瓶を抱えて、お小遣いと思われるお金を置いて行った。
それからもお客は次々とやってくる。
「布は裁断しときましたから、後は縫うだけやしねぇ」
春日がお守り袋を作ろうという猛者(!)に優しくてほどき。
どうやらキアーラ石のことを知っているジェオルジ民らしい。
「そのまま持っていると、割れることがあるって聞いたから……」
ごつい体格の若者は、子供のような真剣さで針を使う。
隣では石を握りしめたまま、カラーセラピーの張り紙をにらんでいる人。
「るーなら大好きな人が『たのしい』でいっぱいになりますよーに、だおー!」
助け船を出すルシフェルに、ウェスペルが重々しく頷く。
「いんすぴれーしょんというやつなの、うー知ってるの」
願いはシンプルで構わない、なにも思いつかなければ相手の名前を書くだけでも。
紙を折りたたんで、綺麗に洗った石とともにお守り袋へ。
店を出ていく人はみんな、わくわくとドキドキで顔を輝かせていた。
●
こうして忙しい一日が終わる。
「なんやかんやで売り切ったか……」
文太の言う通り、石はほとんどがさばけていった。
「皆さんお疲れ様でした! 大成功のようですね」
店を離れていたサイモンが戻ってくる。村長たちの寄り合いに顔を出して、それとなく今回の企画を伝えてきたらしい。
お互いに採りすぎないことに気をつけて、うまく活用していこうとなったそうだ。
「あの、な。ちょっと頼みたいことがあるんやけど」
文太が少し遠慮勝ちに切り出す。
「余った分でええから、石を少し分けてもらえんかな。ちゃんと代金は払うから……」
ああ、とサイモンが笑う。
「そうですね、皆さんが想いをこめて拾ってくださった石ですから。少しお土産にどうぞ」
「お土産ですお!」
「あげたい人がいるですなの!」
ハンターたちの顔がぱっと明るくなった。
それぞれの思いをこめたキラキラの石を、少しだけ。
贈った相手の笑顔が、今日の一番の思い出になるだろう。
<了>
一団を迎え、サイモン・小川は目を見開いた。
「また来てくださったんですか! 嬉しいですね」
ウェスペル・ハーツ(ka1065)とルーキフェル・ハーツ(ka1064)の双子は、息を切らせて駆けてくる。
「畑が緑色! お野菜たくさんできそうですなの!」
「サイモンも元気そうですお!」
トルステン=L=ユピテル(ka3946)も軽く片手を挙げる。
「よ。なーんかサイモン、商売っ気出してんだってな。同盟人らしくなったってコトか?」
「ははは、まあちょっとは逞しくなれたかもしれませんね」
そう言って笑う顔は以前より日に焼けている。
学者である彼が村を率いるのは気苦労も多いだろうし、多少は図太くもなるだろう。
そうでないとやっていけないことは、トルステンにも容易に想像がついた。
「ま、移住が順調みてーでちょっと安心した」
「ありがとうございます」
「そんちょーさんっ、お久しぶりーなんダヨっ♪」
パトリシア=K=ポラリス(ka5996)の声も弾んでいた。
さびしかった畑には新しい植物が風に揺れている。
その光景を見るだけで、パトリシアは嬉しくなる。
「村長には、まだ慣れないのですがね。でもみんな、ここに来られてよかったと言っていますよ」
照れ笑いを浮かべるサイモンの背中を、 天王寺茜(ka4080)がぽんと叩いた。
「がんばってるんだものね。バチャーレ村のためになるなら、今回も喜んで協力させてもらうわ」
同じ船でやってきた人々が、こうして土地に馴染んでいくのをみると安心する。
きっとさびしい思いをしている人もいるだろうけれど、少しでも居心地よくしてあげたいと、茜は心から思うのだ。
と、同時に、好奇心が茜の目をキラキラさせる。
「それに、『キアーラ石』の習慣も素敵だしね」
「ま、とにかく。全部石を拾ってからの話やで」
冬樹 文太(ka0124)が皆を促した。石を集めてからが彼の本番だ。ぐずぐずしていてはもったいない。
「そうですね。では、石集めの方は僕といっしょに。他の準備の方は、彼女と相談を進めてください」
愛想よく手を振るのは、サイモンの同僚の女性学者だ。
●
キアーラ川のほとりは、まったく普通の河原だった。
大小さまざまな石が転がり、ところどころに草が生えている。
しばらくあたりを見回していたサイモンが、あったと声をあげて屈みこんだ。
「ちょっと見つけるのが難しいですが、ほら。これが『キアーラ石』ですよ」
皆が一斉に覗き込む。
淡い桃色、緑色、黄色の、小さな丸い石だった。
イスフェリア(ka2088)はそっとつまみ上げてみた。不透明な石は優しく光っている。
「本来なら『自分で探して』『大切な人に贈る』っていう習慣なんだあ……とてもロマンチックだね」
春日(ka5987)もイスフェリアから受け取って眺める。
「ほんま、素敵やねぇ。商売繁盛は勿論やけど、こんないわれのある石やったら、単純に素敵やからお勧めしとうなりますわなぁ」
「すみません、私にも見せてください!」
ちょっと遠慮していたノワ(ka3572)だったが、実際に石を目にしたら止まらない。
いつか鉱物の力を利用し、病や怪我の治療に役立てたいと願うのだから、当然興味がある。
「ふむ、色合いも豊富、と……不純物を多く含むようですね」
ぶつぶつ独り言をつぶやきながら石を観察している。
雪都(ka6604)が少し遠慮勝ちに、ノワの横から石を眺めた。
「リアルブルーにも似たような石があったと思う」
鉱石は詳しくないが、事前に少し勉強はしてきたのだ。付け焼刃だと自覚しているが、何も準備しないよりはましだろう。
「どんなふうに使ってたんですか!」
ノワが食いついた。
雪都は身体に当てて使うなど、おまじないに近いものであったなどと、本の知識を思い出しながら説明した。
パトリシアはサイモンにどのぐらい採るべきかを尋ねる。
「売り物にするニハ、少なすぎテも困るんダヨ」
「そうですね。場所を決めようと思います」
サイモンは少し先に見える大きな岩を指差した。
「捜索範囲は、ここからあの岩までにしましょう」
「ハーイ! 可愛い子たちを探すんダヨー♪ 自然の恵み。精霊さんの落し物。ありがたし♪」
「……精霊さんの落とし物、ですか」
サイモンが何やら考え込む。
パトリシアはその隣で、楽しそうに石を拾いながら何気なく呟いた。
「この子たちハ、どこから来たんでしょか?」
「僕もそれは気になっていました」
河原に転がっているということは、川の上流からきたと考えられる。
ということは、どこかに原石が含まれる鉱脈があるのだろう。
「そのうち探しに行こうかと思っているんです。もちろん、領主様の許可を得てね」
「探検ですネ! 面白そう!」
パトリシアは、もう走って行きそうに目を輝かせた。
トルステンは少し離れたところで屈みこむ。
「あー、結構見つかるもんだな。でも採りすぎ注意かー」
それほど高価でないことは知られている。しかもジェオルジでこの村だけの特産品とアピールすることはできない。
「大きさにも制限ありか。案外難しいお題よなー」
いくつかを拾って、袋に入れた。
「ところでパティはどこ行ったんだよ。遊んでんじゃねーだろーなアイツ… …」
首をめぐらせたトルステンは、目にしたものに思わず顔をしかめる。
「ステン、ここ! あったかくて気持ちいいんダヨー!!」
パトリシアはすぐに石拾いに飽きたらしい。
靴を脱いで、間欠泉から流れ出たお湯が溜まっている場所で足をばちゃばちゃさせていたのだ。
「あのなあ……!」
「えっと、ココも何か、村のイベントに使えたらいいナー? とか?」
笑ってごまかしながら、いそいで仕事に戻る。
ノワは真剣そのものという表情で、すっかり石集めに没頭していた。
「丸い石だけじゃないんですね!」
形の整った物だけでなく、ハート型や星型に見える石があれば面白そうだ。
「色は赤・橙・黄・緑・青・藍・紫……んんー、目安は七色の虹色でしょうか」
採りすぎ注意は頭に入れつつ、店で並べた時の見栄えを考えれば綺麗な色を揃えたいところ。
「何か手伝う事あるかな」
雪都はノワが詳しそうだと思ったのだ。
「えっ! あの、私が決めることでも……?」
「指示に従って動くだけの方が余計な時間使わな……いや、その……協力したほうが早い」
「あ、そうですよね! じゃあこの袋に形の面白い物を……」
後で使いやすいように、分類しながら集めることにする。
●
村に残った面々は、手のあいた移民たちを集めて計画を説明する。
「私の考えた売り方はこんな感じですね」
茜は小さめの空き瓶をもってきてもらった。標本収集用らしく、手のひらに収まるサイズだ。
「形が悪くて使いにくい石ってけっこうありますよね? でもこんな風にすれば……」
先に見本としてサイモンが見せた石を三つ、瓶に入れる。それから水を入れて蓋をした。
「デスクや窓辺に置けば、光の加減で色の変化を楽しめると思うんです。瓶は……確か、瓶詰に使うものもありますよね」
以前に特産品の販売を手伝ったこともあり、そこは大丈夫だとふんでのことだ。
「素敵だね。照れ屋さんでもインテリア小物として売るのなら、屋台で見つけたからって言い訳つけて贈ることができそう」
イスフェリアが茜の案に賛同する。
堂々と素直に、自分の気持ちを表せる人ばかりではないだろう。
相手が受け取ってくれたなら、後で「実は……」と打ち明けるチャンスだってあるかもしれない。
じゃあ、と春日がお守りを提案する。
「素敵ないわれのある石やしねぇ。こう、小さな袋を作って、石と一緒に祈り事を書いた紙を入れるのはどうやろなぁて」
試作した小袋を見せながら、いたずらっぽくくすりと笑う。
「祈り事はなんでもええとおもうけども。こっそり自分を好きになってくれますよぉに、なんて忍ばせるのもええかもしれんねぇ」
袋は布を用意してもらえるならみんなで作ってもいいだろう。
そこで文太が口を挟んだ。
「どうせやったら、ワークスペースなんかどうや」
「ワークスペース……です?」
「せや。屋台の奥に、自分で好きなようにお守りを作るスペースを作って、そこで俺らがやり方教えながら自分で作ってもらうんや。材料さえ調達できたら、ほんまの意味で『世界でただひとつ』が作れるで」
「瓶に詰める石も自分で選ぶんだね。それ、いいかも!」
茜が身を乗り出すと、イスフェリアが何かを考え込む。
「そうだね。袋も布製だけじゃなくて、レースで編んでみたり。……あと、じゃあ、もし石が余ったらちょっとだけもらってもいいかな。試してみたいことがあるんだ」
そこで、皆の話を大きな目を見開いて聞いていた双子が、ぴょいと手を挙げる。
「あのですね! 自分で探して贈ると相手が幸せになる、ここは大事ですなの!」
ウェスペルが紫の瞳をキラキラさせて言うと、ルーキフェルも金の瞳を大きく見開く。
「それはとっても大事ですお!」
ふたりは口々に、身振り手振りを交えて、自分たちの提案を説明する。
屋台に運んだ砂や砂利の中にキアーラ石を隠しておき、手に入った石を加工してもらうという趣向だ。
「誰かを想って探すことになりますお! それに宝探しみたいで、きっと楽しいですお! 」
「川に行ってなくても、自分で探したことになりますなの!」
春日がクスッと笑う。
「それはいい考えやと思いますわぁ。うちらはほな、宝物を隠すのを楽しめますわなぁ」
「ふおー! 山賊みたいですお!! すごく隠しますお!!」
「るー、見つけてもらうための石ですなの……」
こうして、仕掛ける側もドキドキの計画が進んでいく。
●
そして当日。
朝早くから屋台を組み立て、布を張り、作業台を据え付ける。
文太は「ちょっと行ってくる」と言い置いて、他の屋台を一巡りし、なめした革やワイヤーなどを買い集めてきた。
「ま、うまいこと行ったら、お互いにええ収入源になるかもしれんやろ?」
……相当値切ったようだ。
屋台の見える場所には、ルーキフェルががんばって作成した「しあわせさがし」の文字とピカピカの石の絵が踊る看板を据え付けた。
「ふぅ。いい仕事をしたですお……」
本人的には満足そうだ。
ウェスペルは必死の形相で運んできた砂をシートに広げ、キアーラ石を真剣な顔で置いていく。
「もう砂をかけてもいいか」
「おねがいするなの!!」
雪都があまり深くならないよう、調整しながら砂をかぶせていく。
「他に何か力仕事があれば、遠慮なく言ってくれ。その代わり接客は任せる」
「まかされますなの!!」
ふんと鼻息荒く、ウェスペルが胸を張った。
ノワがふと思いつき、サイモンに尋ねた。
「そういえば、石の名前は『キアーラ石』でよかったのです?」
販売するのに名前がいるかもしれないが、キアーラ石では場所が特定できる。
ジェオルジではすでに名前の知れた石とはいえ、売り物になると分かれば少々問題が起きるかもしれない。
サイモンはノワの懸念に頷く。
「それなんですがね。ポラリスさんの命名が素敵だと思ったので、領主さまに確認して『キラキラの落し物』にしようかと思います」
ウェスペルがぱちぱちと手を叩く。
「かわいい名前ですなの!」
「ですよね。これならバチャーレ村以外の場所で拾った物も、特別な感じになるでしょう?」
「えへへ。パティがつけちゃったみたいなんダヨ、ステン」
「あー、よかったな」
トルステンの言い方は少しそっけないが、パティは嬉しそうに笑う。
「なあサイモン、こんな感じでどうだ」
広げたのは、カラーセラピーの観点を入れた薀蓄シートだった。
青は知的で誠実、ピンクは恋愛や優しさ、黄色は健康や転機、紫は美と神秘……などなど。
「あくまでも参考ってことで。面白いと思って貰えたら勝ちだろ」
「面白いと思います。リアルブルー人はキアーラ石に馴染みがないですから、こういうアプローチなら手に取ってもらえそうです」
「んじゃこれ、この辺りに貼っとくぞ」
石探しの砂山の傍と、通りに見える場所にそれぞれ貼りだす。
「ディスプレイはこんな感じでどうかな?」
イスフェリアが屋台から少し離れて、様子を確認しながら尋ねた。
きれいな布を敷いた台の上に、色とりどりの見本が並ぶ。
「ちょっとだけ手を加えてみたものもあるんだけど。採りつくしたらダメだし、参考用に、かな」
形の悪い物をいくつか選んで、グラスに入れて観葉植物をさしたもの。
軽く火で炙ってすぐに水で冷やし、ヒビ加工をいれてみたもの。
そして村の人たちと一緒に作ったレース編みの小袋に、石が見えるように入れたもの。
「かわいいね! これならきっと足をとめてもらえると思うよ!」
茜が軽くウィンク。
「んじゃ始めちゃいますか! バチャーレ村がこれからもがんばれるように!」
すでに会場のあちこちから、威勢のいい掛け声が上がりつつあった。
●
茜のよく通る声に、そぞろ歩きの人が振り返る。
「いらっしゃいませー! きれいな石を使った商品を、色々と取り揃えておりまーす♪ ハンドメイドスペースもありますよー!」
イスフェリアは遠巻きに様子をうかがう人に、おだやかに微笑みかける。
「どんなものが作れるか、見本だけでもご覧になりませんか?」
声をかけられて、足を向ける人も。
パティはここぞとばかり、キラキラ輝く小瓶を見せた。女性には女性の好きそうなかわいい色を選んでみる。
「人に幸せ届ける星の石。郷祭の為に、特別に、此処まで連れて来たんダヨ♪」
イスフェリアの作った見本に見入る人も。
「かわいいわね。簡単にできるの?」
「もちろんダヨ! あ、でも、石と出会うのは運次第。大切なヒトへのお土産に。郷祭の思い出に。どーぞ、自分の色のお星様、見つけて帰ってくださいナ♪」
「こっちで石をみつけてくださいですお!」
ルーキフェルが飛び出てきて、おなじぐらいの年の男の子を砂山に引っ張る。
「贈りたい人のことを思い浮かべながら探してみてくださいお! きっとぴったりの石がみつかりますお!」
「でも欲張ってはだめですなの。ちいさくてもぎゅぎゅっと気持ちをこめたらちゃんと相手にも伝わるの!」
恐る恐る手を突っ込んだ子供が、やがて歓声を上げる。
手には小粒の石がいくつか。
「自分のものにしてもいいけど、プレゼントも素敵ですなの」
男の子はお守り袋をじっと見ているが、少し自信がなさそうだ。
茜は屈みこんで、女の子に笑いかける。
「大丈夫よ、まかせて! 文太さーん。ハンドメイド希望のお客さまでーす」
「っし、久々に腕が鳴るわ」
にやりと笑って、文太が手招きする。
さまざまな形にカットして、簡単に縫いあわせられるようにした革は、色合いも各種用意した。
「自分のか? それとも誰かにあげるんか?」
「おかあさんにあげるの」
文太のちょっといかつい顔が、くしゃりと笑顔に変わる。
「よっしゃ。大切な人に贈るっちゅう物やから、しっかり想いを込めて作ってや」
子供は頷き、小瓶につける革製のタグを作り始める。
文太はつきっきりで見守り、思う形になるように削ってやった。
最後に磨き上げ、四つ葉のクローバーのタグが石を入れた小瓶に付けられた。男の子の名前も裏に刻んである。
「おかあさん、よろこんでくれるとええな」
「うん!」
男の子は大事そうに小瓶を抱えて、お小遣いと思われるお金を置いて行った。
それからもお客は次々とやってくる。
「布は裁断しときましたから、後は縫うだけやしねぇ」
春日がお守り袋を作ろうという猛者(!)に優しくてほどき。
どうやらキアーラ石のことを知っているジェオルジ民らしい。
「そのまま持っていると、割れることがあるって聞いたから……」
ごつい体格の若者は、子供のような真剣さで針を使う。
隣では石を握りしめたまま、カラーセラピーの張り紙をにらんでいる人。
「るーなら大好きな人が『たのしい』でいっぱいになりますよーに、だおー!」
助け船を出すルシフェルに、ウェスペルが重々しく頷く。
「いんすぴれーしょんというやつなの、うー知ってるの」
願いはシンプルで構わない、なにも思いつかなければ相手の名前を書くだけでも。
紙を折りたたんで、綺麗に洗った石とともにお守り袋へ。
店を出ていく人はみんな、わくわくとドキドキで顔を輝かせていた。
●
こうして忙しい一日が終わる。
「なんやかんやで売り切ったか……」
文太の言う通り、石はほとんどがさばけていった。
「皆さんお疲れ様でした! 大成功のようですね」
店を離れていたサイモンが戻ってくる。村長たちの寄り合いに顔を出して、それとなく今回の企画を伝えてきたらしい。
お互いに採りすぎないことに気をつけて、うまく活用していこうとなったそうだ。
「あの、な。ちょっと頼みたいことがあるんやけど」
文太が少し遠慮勝ちに切り出す。
「余った分でええから、石を少し分けてもらえんかな。ちゃんと代金は払うから……」
ああ、とサイモンが笑う。
「そうですね、皆さんが想いをこめて拾ってくださった石ですから。少しお土産にどうぞ」
「お土産ですお!」
「あげたい人がいるですなの!」
ハンターたちの顔がぱっと明るくなった。
それぞれの思いをこめたキラキラの石を、少しだけ。
贈った相手の笑顔が、今日の一番の思い出になるだろう。
<了>
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バチャーレ村相談室 天王寺茜(ka4080) 人間(リアルブルー)|18才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/11/15 23:46:24 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/11/14 11:42:40 |