• 神森

【神森】Weiß Wald

マスター:稲田和夫

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/11/17 22:00
完成日
2016/12/11 20:01

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「第2小隊は、そのまま攪乱行動を継続。第6分隊は第15小隊の退却支援に回れ。敵の反撃が予想以上に激しい」
 エルフハイムと帝国の境界線にある森の奥でアイゼンハンダー(kz0109)は配下の歪虚に指示を出していた。
 普段は静寂に包まれる真夜中に近い時間帯であったが、森のそこかしこからは悲鳴や怒声が飛び交い、遠くには火の手が上がっている。
 それは、明確に帝国とエルフハイムの対立が激化していることを示していた。
『浮かぬ顔だなツィカーデ』
 義手が問う。
「……ゲリラ戦術も、敵を疲弊させ我が軍が勝利するためには必要な事。だけど、これは……」
 答えようとしたアイゼンハンダーの眼が、大きく見開かれた。
「なんで、村の中まで……!? 何処の部隊なの?」
 その歪虚は明らかに彼女の指揮下ではなかった。
 意志を持って動き回り人々を襲う巨木の怪物であるトレントのような姿をしたその歪虚は柵を破壊して村に侵入すると、見た目より遥かに素早い動きで村人が避難している大きな建物に侵入する。
「……!」
 思わずそちらに一歩踏み出すアイゼンハンダー。
 瞬く間に建物の中から悲鳴が上がり物が壊される音が響く。
「子供!? 非戦闘員を捕虜にしてどうするつもりなの!?」
 アイゼンハンダーが叫ぶ。
 建物から出て来たトレントはその触手のように蠢く木の枝に三人ほどのぐったりした子供を捕えていた。
 親や家族と思しき数名の人間が農具を構え必死に戦おうとするが、歪虚はその枝で容易く追い縋って来た人間たちを弾き飛ばす。
 そして、地面にたたきつけられた人々が動かなくなった時には既にアイゼンハンダーは走り出していた。
『何をするつもりだ? ツィカーデよ』
「友軍とはいえ、目に余る……! 止めさせてくるよ!」
『成程。確かに我々が『連中』に義理立てする必要も無いな。しかし、ツィカーデよ。どうせならもう少し静観してはどうだ? 面白い物が見られそうだぞ』
 義手にそう言われて、アイゼンハンダーは帝国領側から数名のハンターを引き連れた帝国兵が現場に急行して来るのに気付くのだった。


「止まれ、人間共! それ以上エルフハイムに踏み入ることは許さん!」
 剣を構えた男性のエルフが叫ぶ。
駐在の帝国兵と共に、村を襲撃した歪虚を追跡していたハンターたちはエルフハイムの入り口に当たる場所で、二人のエルフに行く手を阻まれていた。
「くそ……やはりエルフたちが人間の子供を攫っているという情報は本当だったんだな……!」
 ここまで貴方たちを先導して来た帝国兵の男性がやるせない表情城を浮かべる。
「何ですって……? 貴方たち人間の方こそ集落や森で山火事を起こそうとしている癖に!」
 後衛で弓を構えていた女性のエルフが言い返し、男性のエルフの方も剣を構える。
「なんだと……?」
 だが、ここで帝国兵の方が何かに気付いた。
「二人共待ってくれ! 俺は軍に入って以来、ずっとこの一体の警備を行って来た! だから解る! これは何かおかしいんじゃないか!? とにかく俺もハンターたちもエルフハイムを攻撃する意志は無い! 子供を助けるため、ここを通してくれ!」
 だが、この帝国兵と違いエルフの方は元々人間への御敵愾心が強い一派らしく、耳を貸す様子はない。
「騙されるものか! ここを通るというなら、私たちを倒す以外に方法は無いと知りなさい!」
「ならば、突破させて貰う」
 突然、響いた第三者の声に、一同に緊張が走る。そして、次の瞬間頭上高く覆い茂る木の枝の間から、突然アイゼンハンダーが現れ一同の真ん中に着地した。


「まさか、十三魔……?」
 思わず後退る帝国兵。
 だが、アイゼンハンダーの口をついて出て来たのは意外な言葉だった。
「子供たちを攫った素行不良の兵は現在も森をエルフハイムに向けて逃走中だ。追跡して子供を奪還しろ。軍紀の乱れは結局、我が軍にとっても弱体化につながるだけだ」
 意外な提案に動揺する帝国兵たちを他所に、アイゼンハンダーはこう続けた。
「このエルフたちは私が引き受ける。私の火力では非戦闘員の無事を保証するのが難しいからな」
 こうしている間にも子供たちを攫った歪虚との距離はどんどん離れている。選択の余地は無さそうだ、とハンターたちが判断した時、徐に帝国兵が口を開いた。
「待ってくれ! どうも様子がおかしいんだ! 子供たちも助けなければならないが、彼ら二人を傷つけても、取り返しのつかないことになってしまうかもしれない。だから……」
「図に乗るな。反乱軍の内紛にまでこの私が配慮する必要があるのか?」
 そう一蹴され、帝国兵は黙り込んだが、意を決したように剣を抜いてエルフた対峙する。
「ならば、俺にエルフと戦わせてくれ。ずっとこの土地を守って給料を貰って来たんだ。ここが戦場になるのを見過ごせない……!」
 アイゼンハンダーはじっと兵士を見つめた。
 彼女の負のマテリアルに充てられたのか立っているのも辛そうだが、決して剣を離そうとしない。
「覚醒者でもないのにその覚悟、反徒ながら軍人魂のある奴だ。良かろう。少しはお前の望みに配慮してやる。もっとも私の火力ではエルフがどの程度持つか保証は出来ないが……さあ、お前は退避しろ!」

リプレイ本文

 エルフとアイゼンハンダーが戦闘を始めようとした瞬間、角笛のけたたましい音色が戦場に響き渡った。
 咄嗟に戦闘を中断し、音のした方角を見た彼らの目に映ったのは燦然と輝く勲章を掲げたエヴァンス・カルヴィ(ka0639)の姿だった。
「エルフ、そしてアイゼンハンダーも! 双方一旦動きを止めて俺を見ろぉ!!」
 周囲を威圧するようにそう叫んだエヴァンスは、まずエルフたちに向かって語り掛ける。
「そこの聡明なエルフの戦士、あんたらは森に出入りする者を監視する為に配備された兵で間違いないな?」
「ならどうだと言うのだ!」
 エルフの女性が声を荒げる。
「なら、確認を行いたいんだが、上層部からこの勲章を持った一団は通すことを許可するよう伝達を受けてはいなかったか?」
「なに……?」
 女性は思わず勲章を見つめたが、すかさず男性がそれを制止した。
「相手にするな! ただのでまかせだ!」
 しかし、エヴァンスはそれにめげる事なく、今度は袋の中ら紅茶の箱とワインの瓶を取り出して見せる。
「俺達はユレイテル・エルフハイムより遣わされた、帝国とエルフハイムの間を取り持つ使者でな。もし、疑われた場合はこの勲章、そして長老方への貢ぎ物を兵に渡して確認をとるよう言われている」
「貴様、まだ言うか!」
 男性が剣を構える。しかし、エヴァンスは男性の視線がチラチラと紅茶の箱に注がれているのを見逃さなかった。
(いけるかもしれないな……)
 そう判断したエヴァンスは、箱を地面に置く。
「この紅茶が爆弾だとでも疑っているのなら外だな。なら、本物だという証拠を見せてやろう」
 エヴァンスは相手を見据えながらゆっくりと箱の梱包を解いていく。幾重にも包まれた紙が広げられていくにつれ森の中には場違いな芳香が漂い始めていた。
「この香り……ジェオルジュの風か……」
 男性が陶然となる。
「確かに、紅茶は本物のようだけど……」
 女性の方はあまり紅茶に興味が無いのか当惑を深めるだけであったが、突然その表情が強張った。
「貴様……何をしている!」
 その視線の先には伏射の姿勢を取り、森の中の一点に向けてライフルの銃口を構えた竜人――いや、シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)の姿があった。


「森に銃を向けるなど……撃つな!」
 女性はそう怒鳴ると咄嗟に弓を番えた。
 しかし、シルヴィアはそれを無視する。いや、彼女のスコープはトレントを捕えていた。狙撃の機会を逃す訳にはいかなかったのである。
「ならば、力尽くでも!」
 エルフの構えた矢が引き絞られる。
「シルヴィア!」
 咄嗟に、シルヴィアの援護に向かおうとするエヴァンス。しかし、その途端に全身を激痛が襲う。
「くそっ……この身体では無理か!」
 為す術のないエヴァンスの眼前で放たれた矢は、そのまま頭部に命中するかと思われた。
「……時間稼ぎの策に乗せられ、みすみす侵入者を素通りさせるとは」
 しかし、エルフの放った矢は、シルヴィアを守るようにに立ちはだかったアイゼンハンダーの、義手ではない方の腕でしっかりと掴み取られていた。
「……アイゼンハンダー!?」
 一瞬動揺するシルヴィア。しかし、次の瞬間にはシルヴィアは再度スコープに注意を戻すと引き金を引く。
 直後、森の木々の間を疾走していたトレントの根が銃声と共に根元から弾き飛ばされ、バランスを失ったトレントが横転する。
 その光景をスコープ越しに確認したシルヴィアは、改めてアイゼンハンダーの方へと向き直る。
「どういうつもりですか、アイゼンハンダー……いいえ、ツィカーデ」
「質問の意味を解しかねるな」
「何故、私を助けたのです……!」
「私の目的は、素行不良の兵の綱紀粛正だ。奴の脱走を止めるには貴様の狙撃が必要だと判断したまで」
「ですが……!」
「敵はまだ戦意を失っていないぞ。さっさと備えろ」
 自分の役目を思い出したシルヴィアは仕方なくライフルを構え、二人のエルフと対峙すする。
 しかし、その胸中にはやり切れない想いが未だに渦巻いていた。
(ツィカーデ……、あなたは何のために戦っているのですか? 憎しみ? 悲しみ? それとも……後悔?)


 一旦横転したトレントは即座に新しい根を生やし、再度体を起こすと、逃走を再開しようと全身を震わせた。
 だが、その途端、光輝く杭がトレントの動く根に次々と突き刺さり動きを封じてしまう。
「シルヴィアが間に合ったみてぇだな」
 声はトレントの進行方向の後ろではなく前から聞こえた。下生えや灌木を掻き分けてトレントの前に立ち塞がったのは火の点いていない煙草を咥えたシガレット=ウナギパイ(ka2884)である。
「さあ、子供たちを返して貰うゼ」
 シガレットはそう言い放って、もがくトレントに向けて一歩足を踏み出した。
 その時、トレントから伸びる無数の枯れ枝がまるで軟体動物の触手のように蠢き、その鋭い先端をシガレットの方へ向けて一斉に伸ばす。
「チッ、そう簡単にはいかねェか!」
 シガレットは全方位から迫る枝を、手に持った剣で斬り払い、切断できなかった分は素早く盾で受け流す。
 だが、枝による攻撃の密度は凄まじく、シガレットはトレントに近づくことが出来ない。
「この反応、自然発生した雑魔じゃねェな……!」
 シガレットが新たに迫って来た枝を剣で切り払いつつそう悪態をついた時、背後から迫って来た枝が背に突き刺さる。
「ぐっ……」
 シガレットが膝をつく。更に、トレントはシガレットに枝を巻き付けて持ち上げると、近くの大木に叩き付けた。
「がはっ!」
 血を吐くシガレット。しかし、そのまま倒れるかに見えた彼は、自らの傷をマテリアルで癒すと、ふらつきながらも再度立ち上がって剣を構える。
「何処の誰かは知りませんが、厄介な代物を用意してくれたものですね」
 そう溜息をつきながら、マッシュ・アクラシス(ka0771)も追いついて来た。
「やっぱ一人だとちとキツいぜェ。頼むわ」
「承知いたしました。……最も効いてくれるかどうかわ解りませんがね」
 そう答えたマッシュの全身がマテリアルの燃焼で発生した炎に包まれた。
 その輝きに魅せられたトレントは、枝をマッシュに向けて伸ばす。
 ただし、その枝はシガレットに向けられていた物ではなく、トレントが新たにその体から発芽させたものであった。
「こっちにも注意を向けてくれたのは良いのですが……」
 マッシュは、木々の間を飛び回って枝を回避しながら、手裏剣を放って次々と枝を迎撃する。しかし、敵の攻撃を凌ぐことはできても、接近の機会が見出せないのは、先ほどのシガレットと同様だ。
 しかし、このまま消耗戦が続くと思われた矢先、小枝を体当たりで折りながら、紫月・海斗(ka0788)がジェットブーツで突っ込んで来た。
「はい! つーことで追いかけてきましたクソウッド! めんどくせぇ動きしやがって!」
 トレントはすでにシガレットとマッシュを攻撃中ではあったが、まだまだ枝の数には余裕があった。
 真正面から突っ込んでくる海斗は狙いやすく、トレントは何本かの細い枝を絡み合わせて太い鞭のような物を作ると、海斗の顔面を真正面からカウンター気味に打ち据える。
「はい、殴られまぁーす……」
 何故か嬉しそうな表情で吹っ飛ばされる地面に倒れる海斗。しかし、そのままダウンするかと思いきや、彼の攻撃にはまだ続きがあった。
「――と、ここで攻性防壁展開だコラァ!」
 海斗が地面に倒れるのと同時に、トレントの触手の先端で、マテリアルによって作られた光の盾が砕け散った。そして、防壁に触れた触手の先端から電流がトレントの全身に伝わり激しく感電する。その衝撃でトレントの全身から伸びている枝もまた、痙攣してその動きを止めた。
「今だぜ、妹ちゃん!」
 海斗がそう叫ぶと同時に、トレントの頭上に張り出した大樹の枝の間から。Uisca Amhran(ka0754)こと、イスカが飛び降り、一気にトレントの胴体の上に降り立った。イスカはそのまま固く閉じた洞の隙間に手をかけると、それを左右にこじ開けようと力を籠める。
「くっ……!」
 だが、トレントの樹皮は固く、イスカの力をもってしても容易にこじ開けることは出来そうも無い。
 そして、イスカが洞をこじ開けようと必死になっている内に攻性防壁のダメージから復帰したトレントが枝を彼女に向けた。
「アブねェ!」
 咄嗟にシガレットが叫ぶ。その直後、海斗がイスカに覆い被さる様にして、背中でトレントの枝を受け止めた。
「海斗さん!」
「へっ、妹ちゃんを傷つけさせたらお嬢にぶっ殺されちまうからな……!」
 海斗は口の端から血を垂らしながらも不敵に笑うと、体を捩じって背中に突き刺さった枝を力任せに引き抜くと、それを纏めてへし折った
「オラオラ! オジサンまだまだ元気ですけどぉ!? もっと来いよクソウッド!」
「ごめんさい、海斗さん……今度こそ!」
 イスカは満身の力を籠めて洞に手をかける。
「お願い、開いてっ!」
 イスカの祈りが通じたのか。それとも、別の場所で彼女の無事を祈る仲間のマテリアルが力を貸したのか、遂にトレントの樹皮に割れ目が入り、洞の口が開く。そして、捕えられた子供の頭が覗いた。
「白竜よ……!」
 イスカが杖を掲げると、マテリアルが杖に収束し、細身の刀身を形作る。
「子供たちを返して貰いますっ!」
 細身の刀身は、見事にトレントの樹皮を削ぎ、捕えられた子供たちを剥き出しにすることに成功した。子供たちを助けようと、必死に手を伸ばすイスカ。
 だが、樹皮を削り取られた怒りか、トレント太い枝をしならせると、その尖った先端を容赦なくイスカに突き刺した。
「妹ちゃん!」
 だが、イスカは無事だった。
「大丈夫です……」
 イスカの言葉通り、枝はイスカの服に受け止められていた。
「そう言えば貰った絵ハガキを中に入れていたような……」
 訝しむイスカ。
 しかし、その直後、トレントの洞が再生し始めた。生木のような色合いの樹皮が生え、再び子供たちを覆っていく。
「しまった……!」
 思わず手を伸ばすイスカだったが、その後ろでシガレットが笑った。
「いや、コレで十分だぜ……二人共、準備は良いか?」
 次の瞬間、シガレットの全身から光の波動が放たれ、トレントに襲い掛かった。
 波動がもたらす衝撃は、瞬く間に再生していた樹皮を吹き飛ばし、更にトレントの身体を削り、洞を広げていく。
「返しやがれこのクソウッド!」
 そして、イスカと海斗が手を伸ばし、光の波動が収まった時には子供たちを洞の中から引きずり出していた。
 トレントは枝を伸ばして、それを奪還しようとする。
 しかし、その時にはマッシュがトレントの背後に回り込んでいた。
「人質がいないのなら、遠慮する必要はありませんからね」
 マッシュのマテリアルを流し込まれた刃がトレントの幹を横薙ぎに切断し、トレントの胴体が丸太のように地面に転がった。
 そして、トレントはそのまま黒い霧となって霧散したのだった。


 子供を救出して、森の入り口に戻った一行を待っていたのは薙ぎ倒された木と、地面に出来た巨大な爆発跡であった。
「派手にやってくれたものですねぇ……」
 マッシュは呆れたように呟き、視線を周囲にめぐらす。
 最初に目に入ったのは倒れた男性のエルフの口に、ワインを流し込んでいるエヴァンスだった。
「まさか、こんな使い方をすることになるとはな……」
 エヴァンスがそう苦笑した瞬間、げほげほとエルフが咳き込んだ。
「……酒!? 貴様、よくも……」
 弾かれたように起き上がり剣を構えるエルフだったが、シルヴィアがすかさず叫ぶ。
「お願いします、もう退いてください。あなた方を傷つけに来た訳ではないのです」
 エルフの方も自分が助けられたことを理解しているのか、迷っているような様子を見せた。
「子供たちは無事助けられました。もう戦わなくてもいいんです」
 そして、そのエルフの全身の傷を、イスカの歌声に乗せて放たれたマテリアルが癒す。
「騒がせてすまなかったなァ。だけど、俺たちとしてもあんたらが森を護りたかったのと同じで、子供らを護りたかっただけなんだ。ここは退いちゃくれねェか?」
 シガレットはそう言って、海斗が抱えた子供たちを指す。そして、重体で動けない女性のエルフを治療し始めた。
 エルフの男は暫く剣を構えたままだったが、ようやくその切っ先を地面に降ろすと、こう答えた。
「何と言われようと、この状況では貴様ら人間を信用出来ん。だが……我々もこの深手では戦えない。今すぐここを立ち去るなら、全てを忘れてやる」


 事態が収まったことを確認したアイゼンハンダーは無言で踵を返す。
 その背中に、まずマッシュが声を掛けた。
「随分と素っ気ないですね。まあ、貴方の方の手落ちは問わないとして……あの素行不良の兵とやらを作った者に心当たりはありませんか?」
「軍事機密だ。答えると思うか?」
 それを聞いたマッシュは肩を竦めた。
「それならこっちもこれ以上聞くことはありません。お勤めご苦労様でした。速やかにお引き取りください」
 しかし、今度こそ去ろうとするアイゼンハンダーに向かって今度はイスカが口を開いた。
「アイさん、私のことを覚えていらっしゃいますか?」
「いつかの従軍聖職者か」
 だが、イスカは少しだけ微笑んでこう訂正した。
「わたしは従軍聖職者ではなくイスカです」
「……だからどうした。敵の名前を覚えておくことに意味があるのか」
「いいえ。状況はどうあれ、私たちはアイさんに背中を預けました。だから私たちは戦友です」
 僅かではあるが、アイゼンハンダーが動揺したようにイスカは感じた。しかし、アイゼンハンダーはすぐにこう言い返した。
「覚えておいてやろう。……倒すべき敵としてな」
 それでも、イスカは微笑して受け流した。
「おかげで子供たちを救うことが出来ました。ご協力感謝します」
 最後に、シルヴィアがヘルメットを取り、アイゼンハンダーに向かって敬礼する。
「……!」
 アイゼンハンダーは絶句し、暫く戸惑っていたが、やがておずおずと手を上げ、一瞬だけシルヴィアに敬礼を返す。
 その一瞬、アイゼンハンダーとシルヴィアの視線が混じり合う。
「あなたとは……敵として出会いたくなかった」
 しかし、シルヴィアが思わずそう呟いた瞬間、さっとアイゼンハンダーの顔が強張り、彼女は最早ハンターたちを一顧だにすることなく森の奥へと跳躍して去って行く。
「あ……」
 シルヴィアはアイゼンハンダーの去って行った方向に手を伸ばそうとして、また降ろす。
「よくよく考えたら、彼女も護るという気持ちは人一倍強いんだよなァ……」
 その姿を見送るシガレットは、やるせないといった様子で煙草を深く吸い込むのだった。

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MVP一覧

  • 凶獣の狙撃手
    シルヴィア=ライゼンシュタインka0338
  • 紫煙の守護翼
    シガレット=ウナギパイka2884

重体一覧

参加者一覧

  • 凶獣の狙撃手
    シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338
    人間(蒼)|14才|女性|猟撃士
  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィ(ka0639
    人間(紅)|29才|男性|闘狩人
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • 無明に咲きし熾火
    マッシュ・アクラシス(ka0771
    人間(紅)|26才|男性|闘狩人
  • 自爆王
    紫月・海斗(ka0788
    人間(蒼)|30才|男性|機導師
  • 紫煙の守護翼
    シガレット=ウナギパイ(ka2884
    人間(紅)|32才|男性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/11/15 07:57:37
アイコン 相談卓
Uisca=S=Amhran(ka0754
エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2016/11/17 22:10:31
アイコン 質問卓
Uisca=S=Amhran(ka0754
エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2016/11/16 22:48:07