ゲスト
(ka0000)
黒い獣
マスター:まれのぞみ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/11/21 19:00
- 完成日
- 2016/11/30 01:12
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
街――とだけ呼ばれる土地がある。
故郷には住みつづけることができなくなった者たちが集まりできた土地である。
根無し草が集まって、いつのまにか草原ができあがっていたと言っていい。だからであろう。そこに愛情をもつ者がいなかったからこそ、そこはただ街とだけ呼ばれていた。
その外見も中も異様で、まるで木でできた城塞都市のヘタな模倣品のようだ。設計もないまま、接ぎ木、接ぎ木で伸びている未完の都市は迷宮のようでもある。
そのどこかで、空気が動いた。
空気がゆらめき、オーロラのように空間がいっとき輝くと大気の狭間から、ぽとりと産み落とされたものがある。
かがやく物体だ。
「なんだこりゃあ?」
酒気をおびた男がやってきて、それを拾った。
まずしい身なりをした男は、きらきらとしたものをまじまじとのぞき込んで、仰天した。
「こりゃあ宝石だぁ!?」
これを元手に飲める酒のことを想像して、男は驚喜した。そして、一転、あわてて周囲を用心するような目で見回し、一安心。他者に見られたら何をされるか、わかったものではない。こんな物騒なものをさっさと売ってしまうに限る。
何かが指先に当たった。
「なんだ?」
あわてて見直すと、みるみるうちに黒い霧のようなものが宝石からあふれ出してきて、男の目の前でぐにゃぐにゃとなりながら、やがて形をなした。
闇をまとう一体の獣となった。
「ひぃぃぃ」
余りの怪異に男は宝石を投げ捨てた。
ころころ――
ちょうど橋のようになっていたので、かがやく石は、そのまま転がって街のどこかへと落ちていった。
背中でなにかがうごめいて、黒い猛獣がうなり声をあげる。
まるで主を見失った動物のように悲鳴に似た叫び声をあげて、それは怒りの矛先を、不幸な被害者へと向けたのであった。
●
「巡察官殿、いかがなさいましたか?」
「うん……あいかわらずイヤな臭いがする街だと思ってな」
「血の臭いですかね?」
小太りの従者が鼻をくんくんとする。
「いやなことを言うな……といっても、ここではそれが日常か」
髪をかきながら、青年たちは街を踏み入れた。
いまさら住んでいる者たちをすべて追放することもできず――やってみたところで、近隣の町々へ分散して流入してきて現在以上に面倒である――だからこそ、目をつぶっているわけだが、だからといって何も手をつけないようでは世間体は悪いし、あからさまな悪党の巣窟になることも避けねばならなかった。
それゆえ、形のうえでも巡察官が派遣される。
言い換えれば、外部には、最低限の仕事をしていることを示すべく定期的に生け贄が街へ放り込まれていたということになる。そして、ここしばらくその難役を押しつけられているのが、この見た目も麗しくも、美しくもない青年だったわけである。
なんにしろ、こんなところに長居は無用とばかりに、二人は足早に守衛たちのいる宿へと向かった。
そこで報告を聞けば仕事は終わりだ。
数人が横に並ぶこともできないような狭い路地を行く。
やはり、異臭が鼻につく。
(なんだ?)
ふだんから死体が転がっていても、子供すら道ばたの石ころのように踏み越えていく街ではあるにしても、きょうはやけに血の臭いが満ちている。
(なにか抗争でもあったか?)
ふと、疑問が浮かんだ。
と、そのとき、幼い子供が、青年にぶつかって、そのまま走り去っていった。
はっとして胸にやれば、
「やれらた……」
財布をとられた。
しかも恋人に送るつもりで手にいれた宝石が入っている!?
ここでは子供すら用心しなくてはいけないということか。
あわてて振り返ると、まだ半身だけ角を曲がっているのが見えた。
「追うぞ!」
「はいですだ」
とりあえず幾つかの角を曲がって追いかけっこをすると、街の深いところまで来てしまったか――見失った!?
五本にわかれた小道が目の前にある。
さすがに、ここで引くべきだろうか。
そう思った時、子供の甲高い悲鳴がした。
(見つけた!)
角を曲がった。
追いつい――うッ――!?
子供が腰を抜かしている。
眼前にいたのは巨大な黒猫だ。
それも、人よりも大きな黒猫で、背中でうごめく鞭のような複数の触手がただの動物でないことを告げている。
まずい――
本能が叫ぶ。
「ど、どうします?」
「どうしますってな、決まっているだろ!」
「どうするんですか!?
「逃げるんだよぉ!?」
知らず、子供の手をとって青年は従者とともに一目さん、逃げ出した。
ところで、この青年を領主が巡察官に選んだのには理由がある。
それは運がよいのである――。
●
くっ――
青年たちは走り続けた。
運命の同伴者となった子供が案内してくれるのが幸いした。
こんな迷宮、案内人がなければ迷子になってしまう。
「腹でも空かせているのかよ!?」
振り返ると、黒かったはずの獣の姿から色が消えかかっていて、いまでは白……というよりも透明に近い色になっている。
(なんだ?)
疑問が頭をよぎったが、それも一時。なんにしろ、生涯で、これほどまじめにかけっこをしたことはないのだ。
なかば消えかかった獣が、それでも追いかけている。
「見て!」
あそこは――
街と外の境界だ。
だからなんだと――ふだんならば言うだろうが、いまではそこに救いがあるような気がする。
その時、なにかに足を取られてしまった。
子供に盗まれた財布からこぼれ落ちた宝石だ!
転がる。
そのまま回転しながら、身体は街の外へと出た。
しかし、それどころではない。
立ち上がろうと顔をあげたとき、獣の開いた口が目の前あった。
終わった――
「えッ?」
青年の寸前で、獣の姿は完全に消えた。
街の外へ、文字どおり一歩でたとたん、黒い魔物は、まるで姿を消したのだ。
「大丈夫?」
子供が聞く。
なにが起きたのかわからなかった。
ぜぇぜぇと肩で息をしながらうなづく。
まだ街の中にいた従者が、安心したように主人に向かって手をふりあげ――体が腹からまっぷたつに裂かれた。
血しぶきがあがる。
巡察官は、反射的に子供の目元に手をあてていた。
目の前に、あの姿が再び顕われた。
刃のように変わった、その化け物の半身が、従者の半身を切り裂いたのだ。
そして、血と肉をすする。
人の身たる巡察官は、なにもすることができず、ただ見ているだけであった
やがて食欲を満たしたのか、うなり声をあげると、その黒い獣は背中の黒い鞭を宝石へ向かって弦を鳴らすようにふるったが、やがて向きを変えると、主人をさがしに街の中へと向かうのだった。
故郷には住みつづけることができなくなった者たちが集まりできた土地である。
根無し草が集まって、いつのまにか草原ができあがっていたと言っていい。だからであろう。そこに愛情をもつ者がいなかったからこそ、そこはただ街とだけ呼ばれていた。
その外見も中も異様で、まるで木でできた城塞都市のヘタな模倣品のようだ。設計もないまま、接ぎ木、接ぎ木で伸びている未完の都市は迷宮のようでもある。
そのどこかで、空気が動いた。
空気がゆらめき、オーロラのように空間がいっとき輝くと大気の狭間から、ぽとりと産み落とされたものがある。
かがやく物体だ。
「なんだこりゃあ?」
酒気をおびた男がやってきて、それを拾った。
まずしい身なりをした男は、きらきらとしたものをまじまじとのぞき込んで、仰天した。
「こりゃあ宝石だぁ!?」
これを元手に飲める酒のことを想像して、男は驚喜した。そして、一転、あわてて周囲を用心するような目で見回し、一安心。他者に見られたら何をされるか、わかったものではない。こんな物騒なものをさっさと売ってしまうに限る。
何かが指先に当たった。
「なんだ?」
あわてて見直すと、みるみるうちに黒い霧のようなものが宝石からあふれ出してきて、男の目の前でぐにゃぐにゃとなりながら、やがて形をなした。
闇をまとう一体の獣となった。
「ひぃぃぃ」
余りの怪異に男は宝石を投げ捨てた。
ころころ――
ちょうど橋のようになっていたので、かがやく石は、そのまま転がって街のどこかへと落ちていった。
背中でなにかがうごめいて、黒い猛獣がうなり声をあげる。
まるで主を見失った動物のように悲鳴に似た叫び声をあげて、それは怒りの矛先を、不幸な被害者へと向けたのであった。
●
「巡察官殿、いかがなさいましたか?」
「うん……あいかわらずイヤな臭いがする街だと思ってな」
「血の臭いですかね?」
小太りの従者が鼻をくんくんとする。
「いやなことを言うな……といっても、ここではそれが日常か」
髪をかきながら、青年たちは街を踏み入れた。
いまさら住んでいる者たちをすべて追放することもできず――やってみたところで、近隣の町々へ分散して流入してきて現在以上に面倒である――だからこそ、目をつぶっているわけだが、だからといって何も手をつけないようでは世間体は悪いし、あからさまな悪党の巣窟になることも避けねばならなかった。
それゆえ、形のうえでも巡察官が派遣される。
言い換えれば、外部には、最低限の仕事をしていることを示すべく定期的に生け贄が街へ放り込まれていたということになる。そして、ここしばらくその難役を押しつけられているのが、この見た目も麗しくも、美しくもない青年だったわけである。
なんにしろ、こんなところに長居は無用とばかりに、二人は足早に守衛たちのいる宿へと向かった。
そこで報告を聞けば仕事は終わりだ。
数人が横に並ぶこともできないような狭い路地を行く。
やはり、異臭が鼻につく。
(なんだ?)
ふだんから死体が転がっていても、子供すら道ばたの石ころのように踏み越えていく街ではあるにしても、きょうはやけに血の臭いが満ちている。
(なにか抗争でもあったか?)
ふと、疑問が浮かんだ。
と、そのとき、幼い子供が、青年にぶつかって、そのまま走り去っていった。
はっとして胸にやれば、
「やれらた……」
財布をとられた。
しかも恋人に送るつもりで手にいれた宝石が入っている!?
ここでは子供すら用心しなくてはいけないということか。
あわてて振り返ると、まだ半身だけ角を曲がっているのが見えた。
「追うぞ!」
「はいですだ」
とりあえず幾つかの角を曲がって追いかけっこをすると、街の深いところまで来てしまったか――見失った!?
五本にわかれた小道が目の前にある。
さすがに、ここで引くべきだろうか。
そう思った時、子供の甲高い悲鳴がした。
(見つけた!)
角を曲がった。
追いつい――うッ――!?
子供が腰を抜かしている。
眼前にいたのは巨大な黒猫だ。
それも、人よりも大きな黒猫で、背中でうごめく鞭のような複数の触手がただの動物でないことを告げている。
まずい――
本能が叫ぶ。
「ど、どうします?」
「どうしますってな、決まっているだろ!」
「どうするんですか!?
「逃げるんだよぉ!?」
知らず、子供の手をとって青年は従者とともに一目さん、逃げ出した。
ところで、この青年を領主が巡察官に選んだのには理由がある。
それは運がよいのである――。
●
くっ――
青年たちは走り続けた。
運命の同伴者となった子供が案内してくれるのが幸いした。
こんな迷宮、案内人がなければ迷子になってしまう。
「腹でも空かせているのかよ!?」
振り返ると、黒かったはずの獣の姿から色が消えかかっていて、いまでは白……というよりも透明に近い色になっている。
(なんだ?)
疑問が頭をよぎったが、それも一時。なんにしろ、生涯で、これほどまじめにかけっこをしたことはないのだ。
なかば消えかかった獣が、それでも追いかけている。
「見て!」
あそこは――
街と外の境界だ。
だからなんだと――ふだんならば言うだろうが、いまではそこに救いがあるような気がする。
その時、なにかに足を取られてしまった。
子供に盗まれた財布からこぼれ落ちた宝石だ!
転がる。
そのまま回転しながら、身体は街の外へと出た。
しかし、それどころではない。
立ち上がろうと顔をあげたとき、獣の開いた口が目の前あった。
終わった――
「えッ?」
青年の寸前で、獣の姿は完全に消えた。
街の外へ、文字どおり一歩でたとたん、黒い魔物は、まるで姿を消したのだ。
「大丈夫?」
子供が聞く。
なにが起きたのかわからなかった。
ぜぇぜぇと肩で息をしながらうなづく。
まだ街の中にいた従者が、安心したように主人に向かって手をふりあげ――体が腹からまっぷたつに裂かれた。
血しぶきがあがる。
巡察官は、反射的に子供の目元に手をあてていた。
目の前に、あの姿が再び顕われた。
刃のように変わった、その化け物の半身が、従者の半身を切り裂いたのだ。
そして、血と肉をすする。
人の身たる巡察官は、なにもすることができず、ただ見ているだけであった
やがて食欲を満たしたのか、うなり声をあげると、その黒い獣は背中の黒い鞭を宝石へ向かって弦を鳴らすようにふるったが、やがて向きを変えると、主人をさがしに街の中へと向かうのだった。
リプレイ本文
タダで教えてくれないのなら――
ユウキ(ka5861)の様子が変わった。
まるで空気まで変わってしまったかのようだ。
「血と宝石。どっちが好みだ?」
身なりの卑しい人間にドワーフがドスをきかせる。
少女の内に秘められた情熱――暴力が顔をのぞかせたのだ。
兼業ヤクザの情報屋がまっさおになる。
「血や両方だったら仕方ないね。武力行使で何が何でも協力して貰うよ」
指先に力が込められ槍先が、ぎりぎりと男の首に迫る。
汗が浮かぶ。
「宝石が良いなら、情報先に貰うよ。ま、タダとは行かなければ手付金位なら許しても良いけど。さあ、じっくり話し合おうかね?」
笑顔とは警告の意味でもある。
「さっさと吐かねーと、手元が狂うかもな」
ついに情報屋は口を割った――とは言っても、今回の場合はふるえる指先が、その返答ではあったが――と、その時、その方向から女の悲鳴がした。
●
「この血生臭さは……――」
ユナイテル・キングスコート(ka3458)が眉をひそめながら、奇妙な塊となった死体――らしきものを見ていた。
さきほどの悲鳴から、まだそれほどたってはいないが、すでに死体であったものからは生命の残滓はもちろん、人としての尊厳すら奪われている。
詰め所で、ある噂、あらぬ話と真偽たしからならざる情報は得ていたが、街の人々のよからぬ態度は、まさに噂に違わぬというところであろう。
情報にあった入墨のおかげで判別ができたが、街の実力者と呼ばれた者も死んでしまっては、ただのモノだ。
側近として妖術を使う女がいたはずだが、その姿は見えない。
新しい街のボスのもとにでも行ったのだろうか。
「あるいは街の中に溶け込んでいったか――」
ユウキにしてはめずらしい詩的な表現で状況を述べながら、死体の脇に片膝をつき、ぼろ布をかけてやる。
新鮮な血の匂いが鼻腔をつく。
ユナイテルはあいかわらず眉をひそめている。騎士なれば、このような惨劇も見慣れたものだが、それにしても人のやった業にはとても見えない。ならば、例の獣の襲撃があったと考えるべきだろう。
「それにしても、まとめ役さんが、こうも早くいなくなるとはね」
獣関連の死亡事件の情報を得るつもりだったが、本人がさっそく被害者になってしまうのは予定外だ。
と――
「お客さんかね」
いまさら分け前を取り損ねた連中がやってきた。
目はおびえながら、そのくせ屈折した悪意を浮かべている。
胸元に光るモノが見えた。
その瞬間。目にも止まらぬ早さで騎士が剣の束を、狼藉者たちの鳩尾に叩き込んだ。口からゲロをはいて暴徒たちが両膝をついて、そのまま前のめりに倒れこむ。
「この街の民はどうにも油断なりませんね」
騎士としての思いとは別に、個人としての弱音がこぼれてしまう。
「――にしても、ひどいものだな」
ユウキがあいかわらず死体の検視をしている。
装飾品が奪われるのは予想の内だし、服飾品を持って行かれるのもわかるが、いくらかの金になるといっても、歯や髪すら奪っていく様は、気分のいいものではない。
「いやはや闇は深いね」
●
エリ・ヲーヴェン(ka6159)はすっかりあきれて肩をすくめていた。
「………――こんな所、早く終わらせて帰ろう……」
事前に手にいれた地図が、ほぼ役にたたないのだ。
地図にはあるとされている小道は昨日には張りぼてのような店ができて消え、隣の角にはないとされた小道が、今日、住人がいなくなくなったといって家が壊されては生まれる。
時々刻々と変化する。
ここには、昨日の記憶はなく、明日への希望はない。
ただ現在という時間だけが横たわっている。
蜃気楼の中を迷っているのではないかとさえ思えてくる。
情報もまた幻のゆらめきのようだ。
「妙な獣」「人がやったとは思えないような事件」「この数日で羽振りが妙に良くなった人」――キーワードをつないで集めてみても、そこから生まれてくるのは、まるで曖昧模糊とした影芝居。
「情報の真贋の判断基準を、住民同士で口裏を合わせる意識が薄いという予想の元、他班の情報と照らし合わせて被りがあれば、より正確である」と、No.0(ka4640)は考えたが、その常識的な判断が徒となっている。
素直に語るならばと、はずんだチップは、はずんだだけ真実から離れていく。重ねられた黄金に比例して増え続ける虚言の数と大きさ。
ここでは本当なるものは砂漠の砂にまぎれこんだ宝石のように貴重だ。
No.0は、それでもあきらめない。
(場所がどこであれ歪虚の被害が出てることに変わりはない。きっちり仕留めてしまおう)
そんな思いを抱きながら、紳士的な態度で街の人々に接し、あるいはここがじきに戦場――ハンターと歪虚の戦いの舞台――になるから、できるだけ注意しろと言って回る。
「失礼――」
No.0がローブ姿の女を見かけたのは、そんな中でのことだった。
なにかもめ事にまきこまれたのだろうか。素足は血でぬれている。
「怪我などはありませんか?」
軽く礼をしたNo.0に向かい、女は、きりっと睨んで、そのまま去っていった。
ただ、彼は見逃していた。
女の目は、ある種の妄執につかれ、そして、なによりも、その胸には輝く石を隠していたことを――ココ二相応シクナイ奴ラガイル……
●
No.0の紳士的な態度も交渉としては、ひとつの解であろう。
だが、時と場合によっては、むしろ腹にすえかねたエリの実力をともなった高度なコミュニケーション能力――つまり、説得と書いて物理と読むという例の態度だ――の方が正しいこともある。
気分転換が終わってハートをクールダウンすると、いつもの彼女が戻ってくる。
(……ちょっと探偵みたいで……たのしいかも……)
そんなことがあってから情報がいくらか集まりだすと物事が回転しはじめる。
地図の件も、頭を冷やして再挑戦。
詳細な変化は見ないこととして、仲間たちの情報から獣の関連したと思わしき事件を記載し、殺人事件の場所と日付をしるしていく。
(遺体の一部分が欠損している事件に限る、普通の死体は関係ない可能性が高いから)
と、やがて文字と絵は答えを暗示する。
(地図に記した「場所、色、時間」の情報を素に化物の場所を予想。またその行動範囲に規則性があるのか、「中心」が存在するのか、合わせて考察する。仮に「中心」が存在しているならば、目撃された時の色がグラデーションのように地図に浮かび上がってくるはず)
偶然なのか街の中央へと螺旋状に向かっていることがわかった。
●
ならば先回りをしてみる。
別班からの連絡に従いラスティ(ka1400)たちも動いた。
どうやら事件の全貌が、うっすらとながら見えてきたのかもしれない。
宝石は次々と持ち主を変え、代替わりするごとに前代の持ち主が殺されているという案配だ。なんの采配かは知らぬが、
「こうなると呪いの宝石だね。だが、宝石が鍵になることはわかった!」
そう盛り上がってたディヤー・A・バトロス(ka5743)が、ぶるっと身体を震わせて、ある大切なことに気がついた。
「……うむ! ワシの剣は宝石だらけじゃし、道中、住民の目も怖いのでナイナイしておくぞ!」
あわてて、剣を布に巻きローブの下に隠した。
「どうにも危なっかしい感じがするぜ」
ラスティは同伴者に不安を覚えながら、あごをくいっとやって街の中央部へと向かう。
「正直、悪い予感しかせん」
「そりゃあそうだ。名前もない、無法の街だぜ。あんまり長居はしたくないもんだ。黒い獣の歪虚を倒すだけでなく、後顧の憂いも断つ――と言いたいが、どんなものかな」
マント姿のラスティが用心したように歩みをゆるめ、ディヤーの足も、それにならう。
「フリーズ!」
近づいてきた男――懐には、得物が見える!――に素早く拳銃をつきつける。
「凍える?」
盗賊が、なにを言っているという顔をする。
どうやらセカイの翻訳システムがうまく作動しなかったらしい。
「巾着切りは相方が対応じゃが――」
あたりから友好的とは言い難い視線を感じる。
先手必勝!
窃盗団制圧にはオカリナでスリープクラウドだ!
あたりからばたり、ばたりと倒れいく音がする。
「お主らでは役者不足じゃ。それに今は逃げたほうがよい」
まだ残っている気配に呼びかける。
「行き場を失い、この街に生き場を求めた人々の意志のようなものを感じるかも知れぬからな。獣は宝石のようなものを探しておる! 貴殿らが街に生き場を求めるなら、一銭の価値にもならぬその石を探し、叩き割ってみせよ」
無意味な被害がでるのではないかという相棒の顔に、ディヤーはうそぶく。
「……別段、街人と上手くやろうとは思うておらぬ」
しかし、その挑発が意外な返答となってかえってきた。
●
歌声がした。
どこからか風にのって女の悲鳴にも似た歌声がする。
ラスティの背筋にすさまじい寒気が走った。
「まじぃぜ」
死に睨まれたような恐怖と、興奮だ。
「どうもいらぬモノを呼んでしまったようじゃな。すまぬ、すまぬ」
まるで悪びれもしないディヤーの笑顔。
だが、その笑みは好戦的なもの。
上からきた!
背後に二人は跳んで、その攻撃はよけた。
地面に穴が開く。
土煙があがり、そこには黒い獣の影があった。
「きなすったな!」
まずはあいさつ代わりの銃弾の嵐をくらわせる。
獣は、とっさに背中の鞭を展開して、銃弾をはじく。
「やる――ならば、これならどうだ!?」
銃撃にフェイントを加える。
跳弾ねらいの壁打ちをまぜた攻撃だ。
だが、鞭がふたたび躍動する。
「盾!?」
鞭がゴムのように拡がり、まるで黒い傘のようになって銃撃を受け止めると、ぱらぱらと銃弾が地面に落ちる。
ふん――どうやら、二人では荷の重い敵だ。
背後に合図を送る。
ラスティに前衛を任せ、後衛は味方に檄をとばした。
「――……。場所は……空を見よ!」
腕を上に向かって突き上げ、信号弾としてファイヤアローを空に放つ。
空に一輪の火の花が咲くと、動物の勘か獣は用心深く、うなり声をあげ、じりじりと後退をしはじめる。
襲うか、襲われるか――
そんな空気がしばらく流れ、化け物が背後へ逃走した。
「ユウキ、どうやらお出ましの様です」
しかし、角から、すっとあらわれた二人が歪虚の動きを阻むと、そのまま突っ込んできて正面から化け物の頭上に向かって一撃を加える。
鞭が、剣のような形状になってその太刀筋を受け止める。
しかし、それはフェイント。
「いただき!」
ユウキが槍を横に払い、顔にしたたかなダメージを与える。
くらりとした。
チャンスだ。
ラスティがジェットブーツで突撃をしてみせる。
超重練成を使用した拳に勢いをのせ、叩き付ける。
「これが機導式格闘術だッ!」
獣の身体が、ごろごろと転がっていくが、ふいにのびた鞭に足をとられ、ラスティもまた回転して、一匹と一人は建物の壁に衝突した。
ラスティがくらくらとして立てない中、獣はよろよろと立ち上がり、咆吼する。
「炎!?」
まずい!
その口内に燃える黒い火のような塊が見える。
ユナイテルとユウキが左右に散る。間合いを保ちながら獣に目標を絞らせづらくさせたのだ。
ドワーフの手にはソウルトーチが見える。
獣は、それに反応する。
口から幾筋もの黒い炎が槍となってユウキを襲う。
炎で身体を焼きながら叫ぶ。
「ユナイテル、やって!?」
「いきます?!」
獣から攻撃されなかった者はすかさず一撃を加える。
獣の注意が逸れた片割れが攻撃を加える。
連携を活かした攻撃で獣を追い詰めよう。
喉に一撃。
「態々デカイ口、更にデカくしてんじゃねーよっ!」
槍を口内に突き刺し、さらに喉奥へユナイテルも剣を突っ込む。
「なんとぉ まだ動けるのかです!」
歪虚が、こんどはアメーバのようになってユナイテルの身体にまとわりつくと、黒い蛇のような姿となって女騎士にまきついた。
太ももに、胴体に、そして首にと軟体の身体が、ぎりぎりと食い込んでいく。騎士の表情が赤く、青く、そして、ぐったりとして瞼が落ちかけた。
あとすこしで逝く――その時、黒い蛇は首をもちあげ、別の獲物を見た。
そして、それを確認すると、飛びかかる。
エリがハンマーで黒い物体を払った。
「あなたがどんな形にもなれるなんてお見通し! かたちをかえて攻撃してきてもわたしはだまされないわ!」
はたして、それが口数の少なかった彼女なのだろうか。
髪は白く、目は赤と黒に染まっている。
金剛石の指輪をつけた腕をふりあげ、あたかもリアルブルーの伝説で語られるアマゾネスのように雄々しくおたけびをあげる。
「いいかげんにしろ!?」
けたたましく笑いながら戦う姿は、あたかも狂気に落ちた戦乙女というところか。
「覚醒したのかのぅ? だが、なんじゃ?」
ディヤーが首をひねった。
なにかが、ひっかかる。
そこへ、「逃げろ! 逃げろ!?」という声がしてきたかと思うとNo.0がようやく戦場にたどり着いた。
No.0が状況をさっと把握する。
その灰色のまなざしが青くなったかと思うと、まよわずにデルタレイを発動した。
三角の物体から放たれた光が形容不能な形となった敵の足を止めようとする。しかし、歪虚はすばやい。
「すばしっこいのは嫌いだよ。色がかわるなんておもしろいけど、おなかの中の色も気になるわ♪」
獲物を前に、エリが舌なめずりするが、どうしたらよいか。
ようやく戦線に復活してきたラスティが、後衛の相棒をちらりと見た。
その視線に気がつき、なにやら、にんまりと笑って無言の返答を送ってくる。
苦笑いしながら、傷ついた仲間たちに告げる。
「準備しておけ――」
足なき獣の動きが突然、止まった。
ディヤーが懐に隠していた宝石の剣の封印を解いたのだ。
「やはり、これが欲しいのかのぅ?」
それも動物の習性なのだろうか。
動きを止めると身体から鞭がでてきてふるえはじめる。
これで歪虚は、しばらく行動が不能だ。
「周りのにんげんなんかどうでもいいけど、わたしはこのたたかいが楽しめればそれで満足よ、フフッ……」
エリの得物が天にかざされたのを合図に、仲間のハンターたちが、一斉に動いた。
こと、ここにいたって、ついに勝敗は決したのだった。
●
黒い獣は滅んだ。
しかし、宝石をどうするかということは解決されぬままとなった。
この異界への小さな門との決着は、また、いずれ違う時と場を得たときに語られる物語となろう――
ユウキ(ka5861)の様子が変わった。
まるで空気まで変わってしまったかのようだ。
「血と宝石。どっちが好みだ?」
身なりの卑しい人間にドワーフがドスをきかせる。
少女の内に秘められた情熱――暴力が顔をのぞかせたのだ。
兼業ヤクザの情報屋がまっさおになる。
「血や両方だったら仕方ないね。武力行使で何が何でも協力して貰うよ」
指先に力が込められ槍先が、ぎりぎりと男の首に迫る。
汗が浮かぶ。
「宝石が良いなら、情報先に貰うよ。ま、タダとは行かなければ手付金位なら許しても良いけど。さあ、じっくり話し合おうかね?」
笑顔とは警告の意味でもある。
「さっさと吐かねーと、手元が狂うかもな」
ついに情報屋は口を割った――とは言っても、今回の場合はふるえる指先が、その返答ではあったが――と、その時、その方向から女の悲鳴がした。
●
「この血生臭さは……――」
ユナイテル・キングスコート(ka3458)が眉をひそめながら、奇妙な塊となった死体――らしきものを見ていた。
さきほどの悲鳴から、まだそれほどたってはいないが、すでに死体であったものからは生命の残滓はもちろん、人としての尊厳すら奪われている。
詰め所で、ある噂、あらぬ話と真偽たしからならざる情報は得ていたが、街の人々のよからぬ態度は、まさに噂に違わぬというところであろう。
情報にあった入墨のおかげで判別ができたが、街の実力者と呼ばれた者も死んでしまっては、ただのモノだ。
側近として妖術を使う女がいたはずだが、その姿は見えない。
新しい街のボスのもとにでも行ったのだろうか。
「あるいは街の中に溶け込んでいったか――」
ユウキにしてはめずらしい詩的な表現で状況を述べながら、死体の脇に片膝をつき、ぼろ布をかけてやる。
新鮮な血の匂いが鼻腔をつく。
ユナイテルはあいかわらず眉をひそめている。騎士なれば、このような惨劇も見慣れたものだが、それにしても人のやった業にはとても見えない。ならば、例の獣の襲撃があったと考えるべきだろう。
「それにしても、まとめ役さんが、こうも早くいなくなるとはね」
獣関連の死亡事件の情報を得るつもりだったが、本人がさっそく被害者になってしまうのは予定外だ。
と――
「お客さんかね」
いまさら分け前を取り損ねた連中がやってきた。
目はおびえながら、そのくせ屈折した悪意を浮かべている。
胸元に光るモノが見えた。
その瞬間。目にも止まらぬ早さで騎士が剣の束を、狼藉者たちの鳩尾に叩き込んだ。口からゲロをはいて暴徒たちが両膝をついて、そのまま前のめりに倒れこむ。
「この街の民はどうにも油断なりませんね」
騎士としての思いとは別に、個人としての弱音がこぼれてしまう。
「――にしても、ひどいものだな」
ユウキがあいかわらず死体の検視をしている。
装飾品が奪われるのは予想の内だし、服飾品を持って行かれるのもわかるが、いくらかの金になるといっても、歯や髪すら奪っていく様は、気分のいいものではない。
「いやはや闇は深いね」
●
エリ・ヲーヴェン(ka6159)はすっかりあきれて肩をすくめていた。
「………――こんな所、早く終わらせて帰ろう……」
事前に手にいれた地図が、ほぼ役にたたないのだ。
地図にはあるとされている小道は昨日には張りぼてのような店ができて消え、隣の角にはないとされた小道が、今日、住人がいなくなくなったといって家が壊されては生まれる。
時々刻々と変化する。
ここには、昨日の記憶はなく、明日への希望はない。
ただ現在という時間だけが横たわっている。
蜃気楼の中を迷っているのではないかとさえ思えてくる。
情報もまた幻のゆらめきのようだ。
「妙な獣」「人がやったとは思えないような事件」「この数日で羽振りが妙に良くなった人」――キーワードをつないで集めてみても、そこから生まれてくるのは、まるで曖昧模糊とした影芝居。
「情報の真贋の判断基準を、住民同士で口裏を合わせる意識が薄いという予想の元、他班の情報と照らし合わせて被りがあれば、より正確である」と、No.0(ka4640)は考えたが、その常識的な判断が徒となっている。
素直に語るならばと、はずんだチップは、はずんだだけ真実から離れていく。重ねられた黄金に比例して増え続ける虚言の数と大きさ。
ここでは本当なるものは砂漠の砂にまぎれこんだ宝石のように貴重だ。
No.0は、それでもあきらめない。
(場所がどこであれ歪虚の被害が出てることに変わりはない。きっちり仕留めてしまおう)
そんな思いを抱きながら、紳士的な態度で街の人々に接し、あるいはここがじきに戦場――ハンターと歪虚の戦いの舞台――になるから、できるだけ注意しろと言って回る。
「失礼――」
No.0がローブ姿の女を見かけたのは、そんな中でのことだった。
なにかもめ事にまきこまれたのだろうか。素足は血でぬれている。
「怪我などはありませんか?」
軽く礼をしたNo.0に向かい、女は、きりっと睨んで、そのまま去っていった。
ただ、彼は見逃していた。
女の目は、ある種の妄執につかれ、そして、なによりも、その胸には輝く石を隠していたことを――ココ二相応シクナイ奴ラガイル……
●
No.0の紳士的な態度も交渉としては、ひとつの解であろう。
だが、時と場合によっては、むしろ腹にすえかねたエリの実力をともなった高度なコミュニケーション能力――つまり、説得と書いて物理と読むという例の態度だ――の方が正しいこともある。
気分転換が終わってハートをクールダウンすると、いつもの彼女が戻ってくる。
(……ちょっと探偵みたいで……たのしいかも……)
そんなことがあってから情報がいくらか集まりだすと物事が回転しはじめる。
地図の件も、頭を冷やして再挑戦。
詳細な変化は見ないこととして、仲間たちの情報から獣の関連したと思わしき事件を記載し、殺人事件の場所と日付をしるしていく。
(遺体の一部分が欠損している事件に限る、普通の死体は関係ない可能性が高いから)
と、やがて文字と絵は答えを暗示する。
(地図に記した「場所、色、時間」の情報を素に化物の場所を予想。またその行動範囲に規則性があるのか、「中心」が存在するのか、合わせて考察する。仮に「中心」が存在しているならば、目撃された時の色がグラデーションのように地図に浮かび上がってくるはず)
偶然なのか街の中央へと螺旋状に向かっていることがわかった。
●
ならば先回りをしてみる。
別班からの連絡に従いラスティ(ka1400)たちも動いた。
どうやら事件の全貌が、うっすらとながら見えてきたのかもしれない。
宝石は次々と持ち主を変え、代替わりするごとに前代の持ち主が殺されているという案配だ。なんの采配かは知らぬが、
「こうなると呪いの宝石だね。だが、宝石が鍵になることはわかった!」
そう盛り上がってたディヤー・A・バトロス(ka5743)が、ぶるっと身体を震わせて、ある大切なことに気がついた。
「……うむ! ワシの剣は宝石だらけじゃし、道中、住民の目も怖いのでナイナイしておくぞ!」
あわてて、剣を布に巻きローブの下に隠した。
「どうにも危なっかしい感じがするぜ」
ラスティは同伴者に不安を覚えながら、あごをくいっとやって街の中央部へと向かう。
「正直、悪い予感しかせん」
「そりゃあそうだ。名前もない、無法の街だぜ。あんまり長居はしたくないもんだ。黒い獣の歪虚を倒すだけでなく、後顧の憂いも断つ――と言いたいが、どんなものかな」
マント姿のラスティが用心したように歩みをゆるめ、ディヤーの足も、それにならう。
「フリーズ!」
近づいてきた男――懐には、得物が見える!――に素早く拳銃をつきつける。
「凍える?」
盗賊が、なにを言っているという顔をする。
どうやらセカイの翻訳システムがうまく作動しなかったらしい。
「巾着切りは相方が対応じゃが――」
あたりから友好的とは言い難い視線を感じる。
先手必勝!
窃盗団制圧にはオカリナでスリープクラウドだ!
あたりからばたり、ばたりと倒れいく音がする。
「お主らでは役者不足じゃ。それに今は逃げたほうがよい」
まだ残っている気配に呼びかける。
「行き場を失い、この街に生き場を求めた人々の意志のようなものを感じるかも知れぬからな。獣は宝石のようなものを探しておる! 貴殿らが街に生き場を求めるなら、一銭の価値にもならぬその石を探し、叩き割ってみせよ」
無意味な被害がでるのではないかという相棒の顔に、ディヤーはうそぶく。
「……別段、街人と上手くやろうとは思うておらぬ」
しかし、その挑発が意外な返答となってかえってきた。
●
歌声がした。
どこからか風にのって女の悲鳴にも似た歌声がする。
ラスティの背筋にすさまじい寒気が走った。
「まじぃぜ」
死に睨まれたような恐怖と、興奮だ。
「どうもいらぬモノを呼んでしまったようじゃな。すまぬ、すまぬ」
まるで悪びれもしないディヤーの笑顔。
だが、その笑みは好戦的なもの。
上からきた!
背後に二人は跳んで、その攻撃はよけた。
地面に穴が開く。
土煙があがり、そこには黒い獣の影があった。
「きなすったな!」
まずはあいさつ代わりの銃弾の嵐をくらわせる。
獣は、とっさに背中の鞭を展開して、銃弾をはじく。
「やる――ならば、これならどうだ!?」
銃撃にフェイントを加える。
跳弾ねらいの壁打ちをまぜた攻撃だ。
だが、鞭がふたたび躍動する。
「盾!?」
鞭がゴムのように拡がり、まるで黒い傘のようになって銃撃を受け止めると、ぱらぱらと銃弾が地面に落ちる。
ふん――どうやら、二人では荷の重い敵だ。
背後に合図を送る。
ラスティに前衛を任せ、後衛は味方に檄をとばした。
「――……。場所は……空を見よ!」
腕を上に向かって突き上げ、信号弾としてファイヤアローを空に放つ。
空に一輪の火の花が咲くと、動物の勘か獣は用心深く、うなり声をあげ、じりじりと後退をしはじめる。
襲うか、襲われるか――
そんな空気がしばらく流れ、化け物が背後へ逃走した。
「ユウキ、どうやらお出ましの様です」
しかし、角から、すっとあらわれた二人が歪虚の動きを阻むと、そのまま突っ込んできて正面から化け物の頭上に向かって一撃を加える。
鞭が、剣のような形状になってその太刀筋を受け止める。
しかし、それはフェイント。
「いただき!」
ユウキが槍を横に払い、顔にしたたかなダメージを与える。
くらりとした。
チャンスだ。
ラスティがジェットブーツで突撃をしてみせる。
超重練成を使用した拳に勢いをのせ、叩き付ける。
「これが機導式格闘術だッ!」
獣の身体が、ごろごろと転がっていくが、ふいにのびた鞭に足をとられ、ラスティもまた回転して、一匹と一人は建物の壁に衝突した。
ラスティがくらくらとして立てない中、獣はよろよろと立ち上がり、咆吼する。
「炎!?」
まずい!
その口内に燃える黒い火のような塊が見える。
ユナイテルとユウキが左右に散る。間合いを保ちながら獣に目標を絞らせづらくさせたのだ。
ドワーフの手にはソウルトーチが見える。
獣は、それに反応する。
口から幾筋もの黒い炎が槍となってユウキを襲う。
炎で身体を焼きながら叫ぶ。
「ユナイテル、やって!?」
「いきます?!」
獣から攻撃されなかった者はすかさず一撃を加える。
獣の注意が逸れた片割れが攻撃を加える。
連携を活かした攻撃で獣を追い詰めよう。
喉に一撃。
「態々デカイ口、更にデカくしてんじゃねーよっ!」
槍を口内に突き刺し、さらに喉奥へユナイテルも剣を突っ込む。
「なんとぉ まだ動けるのかです!」
歪虚が、こんどはアメーバのようになってユナイテルの身体にまとわりつくと、黒い蛇のような姿となって女騎士にまきついた。
太ももに、胴体に、そして首にと軟体の身体が、ぎりぎりと食い込んでいく。騎士の表情が赤く、青く、そして、ぐったりとして瞼が落ちかけた。
あとすこしで逝く――その時、黒い蛇は首をもちあげ、別の獲物を見た。
そして、それを確認すると、飛びかかる。
エリがハンマーで黒い物体を払った。
「あなたがどんな形にもなれるなんてお見通し! かたちをかえて攻撃してきてもわたしはだまされないわ!」
はたして、それが口数の少なかった彼女なのだろうか。
髪は白く、目は赤と黒に染まっている。
金剛石の指輪をつけた腕をふりあげ、あたかもリアルブルーの伝説で語られるアマゾネスのように雄々しくおたけびをあげる。
「いいかげんにしろ!?」
けたたましく笑いながら戦う姿は、あたかも狂気に落ちた戦乙女というところか。
「覚醒したのかのぅ? だが、なんじゃ?」
ディヤーが首をひねった。
なにかが、ひっかかる。
そこへ、「逃げろ! 逃げろ!?」という声がしてきたかと思うとNo.0がようやく戦場にたどり着いた。
No.0が状況をさっと把握する。
その灰色のまなざしが青くなったかと思うと、まよわずにデルタレイを発動した。
三角の物体から放たれた光が形容不能な形となった敵の足を止めようとする。しかし、歪虚はすばやい。
「すばしっこいのは嫌いだよ。色がかわるなんておもしろいけど、おなかの中の色も気になるわ♪」
獲物を前に、エリが舌なめずりするが、どうしたらよいか。
ようやく戦線に復活してきたラスティが、後衛の相棒をちらりと見た。
その視線に気がつき、なにやら、にんまりと笑って無言の返答を送ってくる。
苦笑いしながら、傷ついた仲間たちに告げる。
「準備しておけ――」
足なき獣の動きが突然、止まった。
ディヤーが懐に隠していた宝石の剣の封印を解いたのだ。
「やはり、これが欲しいのかのぅ?」
それも動物の習性なのだろうか。
動きを止めると身体から鞭がでてきてふるえはじめる。
これで歪虚は、しばらく行動が不能だ。
「周りのにんげんなんかどうでもいいけど、わたしはこのたたかいが楽しめればそれで満足よ、フフッ……」
エリの得物が天にかざされたのを合図に、仲間のハンターたちが、一斉に動いた。
こと、ここにいたって、ついに勝敗は決したのだった。
●
黒い獣は滅んだ。
しかし、宝石をどうするかということは解決されぬままとなった。
この異界への小さな門との決着は、また、いずれ違う時と場を得たときに語られる物語となろう――
依頼結果
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作戦相談場 No.0(ka4640) 人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/11/21 18:18:54 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/11/17 07:28:22 |