• 神森

【神森】グリーン・グリーン3

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/11/19 07:30
完成日
2016/11/23 23:50

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「ダメか」
「そりゃダメだろ。何考えてんだお前さんは」
 帝都バルトアンデルス城内。ヴィルヘルミナは執務机で首をひねる。
 オズワルドの手には、出した筈の親書がきれいにそっくりそのまま残っている。つまり、お目当ての人に届かなかったということだ。
 森都で不穏な動きがあり、それらを諌めねばならぬと立ち上がって数日。
 あくまでも帝国皇帝の立場からすれば、これは森都が始めた争い。不可侵条約を破ろうとしているのは向こうという言い分になる。
 だが、何も最初から戦争などしようというつもりは毛頭ない。故にまずは話し合いの場を設ける為に一筆認めたのだが……。
「連中の言い分じゃ“先に仕掛けてきたのは帝国”って話だからな」
「長老会に会って話が出来ればと思ったのだがな……。カミラやロルフが森都を攻撃する理由がない。帝国軍が森都を襲っているというのはデマだ」
「しかし、師団の監視が緩まっているのも事実だろう。なにせ森都側があちこちに攻撃を仕掛けてやがるからな」
 腕組み思案するヴィルヘルミナを見やり、オズワルドは息を吐く。
「ところで確認だが、お前さん記憶戻ってないんだよな?」
「ん? 何だ今更? そもそも私の記憶はどうせもう戻らん」
 あっけらかんと言って、ヴィルヘルミナは新たな書を認める。
 そう。ヴィルヘルミナ・ウランゲルの記憶はきっともう戻らない。
 あの日、あの時、その身に宿った歪虚はきっと記憶とも同化していたのだ。
 マテリアルで浄化し尽くしてしまったのだから、記憶もきれいさっぱり焼却済みというわけだ。
 それに気づき、認め、戻るか戻らないかわからない記憶の事などどうでもいいと出した答え。
 “記憶が戻ったという嘘を突き通せばいい”――。
「オズワルド、この書をもう一度森都へ。私自身が直接赴くと緊張が高まるからな」
「無駄だとは思うがね。手配はしておこう」
 ヴィルヘルミナは記憶を失ったまま、しかし過去と同じ答えに辿り着いた。
 人々を守護することこそ帝国の使命であり、そして自らの運命なのだと。
「さて、では私も森都に向かうとしよう」
「オイ、話が矛盾してるぞ」
「皇帝としてではなく、ただのヴィルヘルミナとして偵察に向かうだけだ。実際に何が起きているのかなど、王座に座っているだけではわからん」
 そう言って颯爽と肩で風を切る姿を見ていると、記憶喪失など本当になかったかのように思える。
 だが、彼女はこの僅かな期間に必死に政務を学び、剣の腕を取り戻そうと鍛錬した。
 見ず知らずの“自分”に課せられた重責の全てを受け入れ、前に進もうとしている。
 戦乱の世界で傷ついたこの国をまとめるには、どうしても誰かが柱となる必要があったのだ。

「ここが奴らのハイムか……」
 しみじみとした様子で腕を組む大男、ブラトン。その視線の先には広大な森林地帯が広がっている。
 私服のヴィルヘルミナに護衛としてついてきた仮面の男、ブラトン。その正体はヴィルヘルミナの父親、先帝ヒルデブラント・ウランゲルである。
 ……という話を、男は暗黒海域の遠征から戻って直ぐに娘にコッソリ打ち明けたのだが、二人の関係性は何も変わっていなかった。
「無駄とわかって訊くのだが、前回はどうやって長老会に話をつけたんだい?」
「記憶にないが、オレのすることだ。恐らく真っ向から押し入って、話を通さないとここから帰らないとでも言ったんじゃないか?」
「なるほど。だいたい私も今同じことを考えていたのだが、この状況では良くないな」
 親子はウンウンと頷き、それからため息を一つ。
 今はただでさえ帝国と森都が剣呑な状態にある。様子を見るのはいいが、勝手に潜入でもしたら揉めるに決まっている。
「貴様ら、何者だ!?」
 そこへ正面から声が響いた。見れば帝国軍の軍服を纏った男が数名歩いてくる。
「通りすがりのハンターだ。君達は帝国軍か?」
「うむ。最近エルフハイム周辺に怪しい輩が現れるというので警備に当たっていたのだ。森都にもしものことがあれば、帝国軍の威信に関わるからな」
「それはそうなんだろうけどよ、あんま森都の周辺をウロつかねぇほうがいいんじゃねーか?」
 帝国兵の言い分は正しい。森都を外敵から守るのも帝国軍の仕事である。
 だがブラトンの言う通り、近辺をうろついていれば、少なくとも今時は森都を刺激してしまう。
「しかしだ! 帝国軍を装った無法者が森都を襲い、帝国に濡れ衣を着せようとしているそうではないか! このような侮辱、許せるものか!」
 隊長らしい中年男が息巻く姿にヴィルヘルミナは思案する。
 なるほど、よく出来ている。帝国が身の潔白を証明するためには森都を守るしかなく、それは物理的な森都の封鎖を意味している。
 当然、帝国は外側に向けて包囲を敷いてエルフハイムを守っているつもりだ。だが、内側から見た場合、受け取り方は真逆となる。
 森の周りをうろつき、出入りを封鎖しようとする帝国軍を見れば、自分たちが襲われていると錯覚するだろう。
「なんも考えてねーなぁこいつら。何師団よ?」
「まいったな。これは、帝国軍はじっとしていたほうがいいんじゃないか?」
 溜め息混じりにヴィルヘルミナが呟いたその直後だ。頭上に大きな影が差したのは。
 それは翼を羽ばたかせ、空中からコンテナを投下する。もう散々見かけたリンドヴルムによる剣機部隊の投下である。
「思いっきり歪虚じゃねーかオイ。隠す気ゼロだろあいつら」
「いや……見ろ。コンテナから出現したゾンビが帝国軍の軍服を着ている」
 リンドヴルムを見つめ、ヴィルヘルミナは肩を落とす。
 森都周辺の警戒にあたっているのは第五師団のグリフォン部隊だ。
 森は広大で、日々の警戒にはどうしてもグリフォンが必要になる。
 細心の注意を払い、森都を刺激しないようにパトロールを行っているが、住人にしてみれば“空を飛んでいるのは帝国軍”なのだ。
 森都の事を帝国が知らないように、森都もまた帝国を理解していない。
 空中から攻撃されたらそれはもう、自動的に帝国軍の仕業というわけだ。
「うまい手だ。誰がどうあがいても誤解ばかりが深まる仕組みになっている」
「つーか歪虚はぶっ潰さないと拙いぜ。このままじゃ連中、森都に入っちまう」
「ああ。君達は部隊を引き上げろ。その後の指示は追って行う」
 きょとんとした帝国軍を残し、ハンターらは駆け出した。
 まだ森都の外周部、森林地帯に歪虚がいる間に片付け、可能ならばそれをエルフに目撃される前に立ち去りたい。
「やれやれ。こんな連中と一緒にされるとは……困ったものだね」
 ヴィルヘルミナは剣を抜き、咆哮するリンドヴルムを睨んだ。

リプレイ本文

「この騒動によりにもよって歪虚が絡んでるのかよ。くそ、アイに早く会いに行かなきゃいけないっていうのに……!」
 拳銃を抜き、リンドヴルムへと突きつけるキヅカ・リク(ka0038)。その隣にヴィルヘルミナが並び立つ。
「あまり時間をかけている余裕はないな。リク、一気に決めるぞ」
「わかってるよ。速攻で叩き潰す!」
 一方、もう一体の大物であるプラッツェンにはカナタ・ハテナ(ka2130)とブラトンが向かう。
「しかし、父親であることを打ち明けた割には親子らしからぬ雰囲気じゃの?」
「いやぁ、オレは親って性分でもねぇしなあ。あいつももうガキじゃねーんだ、そんなもんだろ」
 ぽりぽりと頬を掻き、ブラトンは絶火剣を長柄に変形させる。
「あれこれ口で言うのは苦手だ。オレはこいつをぶん回してる方が向いてるってもんよ」
「やれやれ、そのようじゃな」
 そして残りはゾンビ六体。こちらには神楽(ka2032)とフェリア(ka2870)が対処にあたる。
「歪虚に帝国軍を騙られるなんてね……」
 ワンドに集束させたマテリアルは雷光へと変化し、バチバチと威嚇するように音を立てる。
「不愉快です。今すぐ消えてもらいましょうか」
 放たれた雷撃の本流がゾンビの群れを食い破る。この衝撃にゾンビらはフェリアに狙いを定めるが、放たれる銃弾は神楽によって阻止されていた。
「今更ゾンビのあてずっぽうな銃撃くらい、余裕っすね~」
 かすり傷程度は放っておいても自己回復できる。神楽は余裕しゃくしゃくな様子でライフルを構え、発砲。
 傷ついたゾンビの胴体が吹き飛び、これであっさりと動きを止めた。
「よわっ! まあ、こんなもんっすか。俺が適当にかき回すんで、フェリアさんは後ろから攻撃するっすよ」
「わかったわ。大丈夫、ライトニングボルトは味方には当たらないから」
「あ、遠慮する気ゼロっすね」
 リンドヴルムは咆哮し、ガトリングを掃射。これにキヅカとヴィルヘルミナは左右に分かれ、迷わず接近を試みる。
 魔導銃を発砲しながら走るヴィルヘルミナに先行し距離を詰めたキヅカは翼の下に潜り込むと、封印されし魔腕に纏った豪炎を解き放つ。
「お前ら……邪魔だよ!」
 至近距離で火炎の放射を浴びたリンドヴルムが悲鳴を上げる。同時に翼は炭化し、ボロボロと崩れ落ちた。
 反撃にと振るわれた尾の剣を盾でキヅカが受けると、ヴィルヘルミナが飛び込んでその尾を剣で斬りつける。
「フ……ぬるいな」
 背後へ跳んだリンドヴルムは再びガトリングを発砲。ヴィルヘルミナはこれを長剣であっさりと切り払い、銃で反撃。
「リク、今だ!」
 そうしている間に魔法のチャージを終えたキヅカはの放った炎の海がリンドヴルムの体を一瞬で包み込んだ。
 悲鳴を上げてのたうつリンドヴルム。燃え盛るその身体にキヅカとヴィルヘルミナは二人で銃を構え、止めの弾丸を放った。
 一方、プラッツェン型。こちらは高い機動力を持つプラッツェンが森の中を走り、カナタへと飛び掛かる。
 しかしこれをカナタは猫盾で防御。大猫打による“にゃ~ん”と同時にプラッツェンを押しのける。
「どうした犬っころ。オレが相手になってやるぜ?」
 ブラトンは炎のオーラを纏い、頭上でシャイターンを回転させ構える。
 プラッツェンはこれに反応し、ブラトンにかみつく。しかしこの一撃を長刀で受けると、体を回転させ反撃の一撃を放った。
「見事な体捌き、流石じゃのっ!」
 側面に回り込み、鞘に納めたままの龍刀棍を叩きつけるカナタ。
 ブラトンは長刀で薙ぎ払うような一撃でプラッツェンを大きく怯ませる。その様子にはかなりの余裕が感じられた。
「今時の歪虚ってのはこうメカメカしいもんなのかねぇ?」
「用心するのじゃ、ブラトンどん。剣機型は個体によっては自爆性能を持っておるからの」
「ほ~、そういうのもあンのか」
 咆哮し、プラッツェンは鋭い爪でブラトンを狙う。が、ブラトンの守りは鉄壁。武器を受けやすい剣状に変えると、まるで犬か猫をじゃらすかのように片手でいなしている。
 攻撃をいなしてからのカウンターがプラッツェンの体を深く切り裂く。そこでカナタはワイヤーウィップを繰、プラッツェンの首を切り裂いた。
 これがとどめの一撃となったが、幸いプラッツェンは自爆する気配はなかった。その場に倒れこむと、塵となって消えるのみだった。
 ゾンビ兵の方もこれといって苦戦の様子は見えない。銃撃を神楽はあっさりとかわし、反撃に繰り出す槍の一撃がゾンビの肉を簡単に貫く。
 そしてそこへフェリアがライトニングボルトを連発。味方に誤射の心配がないのをいいことに、その攻撃は実に一方的だ。
 他のハンターが一応の大物を撃破し終わる頃には、既にゾンビ兵の姿は軍服だけを残し消え去っていた。
「もう傷も全快っすね~。楽な仕事だったっす」
「あははー、みんなお疲れ様ー。それじゃあ、残骸のお片づけをしよっか」
 木陰に隠れていたラン・ヴィンダールヴ(ka0109)がひょっこりと姿を現し、落ちていた帝国軍の軍服などを拾い始める。
「敵さんが弱かったのか、みんなが強かったのか、僕があれこれ言うこともなく終わっちゃったねー」
 彼はここに至るまでにすでに重い傷を受けていた。故に戦闘に加わらず、様子を見ていたのだ。その間、周囲の警戒も怠ってはいない。
 何かあれば伝えるつもりだったが、基本的にハンターは歪虚を圧倒していたので、安心して見ているだけでよかった。
「まだエルフさんは集まってないみたいだねー」
「うむ。じゃがこの残骸……特に剣機を運んで来たコンテナはどうしたものかの」
「とりあえず壊して運ぶしかないんじゃないかな?」
 苦笑を浮かべるカナタ。プラッツェン一体とゾンビ6体を詰め込んだコンテナだ。その大きさはざっくり縦横4m近い。当然、手で運べるようなものではなかった。
 カナタとキヅカは協力してコンテナを攻撃する。少し手間取ったが、ひとまず分解には成功したようだ。
 その間にせっせとほかの遺留物を回収するラン。と、そのすぐそばにあった木の幹に音もなく矢が突き刺さった。
「わあー、びっくりしたー」
「これは……エルフの警備隊っすか?」
 ハンターらは確かに素早く敵の撃破には成功した。しかし、その場に留まって戦っていれば、どうしてもこの結果は避けられなかっただろう。
 ましてや今、キヅカのバイクにコンテナの残骸をくっつけて立ち去ろうと準備している最中。これが戦うより時間をロスしてしまった。
「ここまで接近されるまで気付かなんだとは……流石にペットではわからんかったか……」
 カナタは一応、ペットを見張りに立たせていたが、特に戦闘用に訓練されたわけでもない普通のペット。気配を消して接近する者に反応しろというのはやや荷が重い。
 さらに続け、無数の矢が放たれる。問答無用の攻撃に対し、ハンターらはそれぞれ対応するが、反撃はしない。
「人とエルフの未来の為にも頑張なのじゃ」
 物陰に隠れながら応援するカナタの声に神楽は両手を挙げたまま叫ぶ。
「俺は味方っす! 丸腰っすよ! 話聞けっす! ほら、前に森都が襲われた時に一緒戦ったっすよね?」
「君は……そうか、君たちはハンターか」
 面をつけた男の一人が片手を挙げ部下を下がらせる。
「証拠もあるっす! ほら!」
 神楽は手を挙げたまま懐から取り出した写真を投げる。そこには歪虚と戦うハンターの姿、そして以前神楽が森都を訪れた時の様子が映し出されていた。
 写真をじっと見つめる男。そこへ先ほど分かれた帝国兵らを引き連れ、シェリル・マイヤーズ(ka0509)が走ってくる。
「森を騒がせて……ゴメンなさい……。でも、歪虚が森に入るのを……止めようとしただけ……」
「その話は本当だ。私達からも説明させてほしい。誤解を招いたのであれば、謝罪しよう!」
 帝国兵達も武器を置き、両手を上げる。本当はシェリルは彼らを森から引き揚げさせようとしたのだが、シェリルの負っている重傷を見るや、放っては置けないとついてきてしまったのだ。
(いいおじさんたち……なんだよね……)
 それからハンターらは現状を説明する。
 帝国と森都を仲違いさせようとする動きがあること。そして歪虚が関与している事。
 一連の説明を受け、エルフは面を外すとハンターらに歩み寄る。
「君たちの言い分を信じよう。そして、歪虚を始末してくれた事に感謝する。だが、一刻も早くこの森を立ち去ってもらいたい」
「どうして……」
「それが君たちの為なのだ。森都を覆う不穏な影は、私達にはどうすることもできない。私は君たちに救われたことがあるから信じられもしよう。だが、他の者にそれを強いることはできんのだ」
 事実、話を理解してくれているのはこの男だけで、部下たちは納得のいかない様子で殺気を抑えている。
「……わかった。では、我々はここを引き上げよう。それがこの少女との約束だからな」
 帝国軍の隊長がそう言ってシェリルに目配せする。
「だが、君たちは帝国にとって守るべき友だ。歪虚に襲われた時、それを見殺しにすることを許せそうにない」
「心遣いは感謝する。お互い、踊らされているままと知りながら、耐える時がしばし続くだろう」
 エルフの男は仮面をつけ小さく息を吐く。
「さあ、もう行ってくれ。他の隊が来たら、私でも止められん」
 シェリルはそんなエルフの男に歩み寄り、手紙を差し出す。
「これ……わかっていること、書いたから……」
 エルフはその手紙を受け取り懐に仕舞う。
「帝国とエルフハイムを争わせようとする奴の事は帰って調べてみるっすよ。そういや、巫女のカリンちゃんたちは元気っすか?」
「カリン殿か……。実は、巫女らは今我らと行動を共にしていないのだ。少し前から、オプストハイムに集められていてな」
 歯切れ悪く応えると、警備隊は去っていく。遅れ、ハンターたちも剣機の残骸を抱え、森を後にするのだった。

「やはり、現場にモノを言ったところで解決にはならぬか……」
 森を出た帰り道、ヴィルヘルミナは思案しつつそう零した。
「エルフハイムに関わる兵隊の隊服、変更するとかできたらいいんだけどねー? 特別部隊、みたいな感じでさー?」
 ランの言葉にヴィルヘルミナは頷く。
「実際、私もこの格好に着替えていれば皇帝とは思われなかったようだしな」
「そしたらまた真似されるまでの間は、今の服着てるのは敵って明確にわかるし、帝国とは別の敵がいる、ってわかりそうだよねーって」
「そうだな。まあ、問題はエルフ側がそこまで理解はしてくれなさそうな事か」
 今回も最初は問答無用で撃ってきた。森都が帝国領にある以上、基本的には近づいてくるのはみな帝国人という括りなのだ。
「俺はこの間死者の声を聴いたっすけど、連中が作ってる“神”はブラストエッジの時と同じようなものっす」
 何百年も血を重ねて作った、ヒトに復讐する神――。その目覚めは数多の犠牲を伴うだろう。
「森都を制圧して神の誕生を止めれば犠牲は最小限ですむっす。多数の為に少数を殺す。記憶を失う前から繰り返してた事っすよね?」
「確かに、今となっては戦いは避けられないだろう。話し合いをしている間に戦況は悪化する。長老会に踏み込むしかない、か」
「長老会にも、御自ら乗り込まれるおつもりですか?」
 フェリアの言葉に視線を挙げる。フェリアは複雑な表情でヴィルヘルミナを見つめていた。
「無礼を承知で申し上げますが……敵の手に落ちたのはどんな事情があっても、王としての資質を疑わざるを得ません。陛下は守られるべき立場のお方なのです」
 闇光作戦の最中、ヴィルヘルミナは戦場の真っただ中で十三魔テオフィルスに憑依され、世界の敵となった。
 それはハンターらの作戦で挽回されたが、記憶喪失だけではなく、帝国には未だ皇帝への不信感が残り、世情が安定したとは言い難い。
「我々は陛下の信頼をいただけていないのでしょうか……?」
「……すまないな。返す言葉もない。正味なところ、私は“王の器”にあらずと自負している。だが、今はまだ仮初の王が必要なのだ」
 やがて、世界が進化すれば王など不要の時代が来る。民が己が頭で考え、議論し、答えを導き出す。王は選ばれる時代がきっとくる。
「それまで私は皇帝を騙り続ける。しかし私は、王座にふんぞり返って兵の命をモノとしか数えぬ様にはなりたくないのだ」
「そのお考えは尊敬していますが……」
「確かに僕も不安なんだ。ルミナちゃんは何時だって前だけを見てるからね。またあの時みたいに自分を犠牲にする日が来るんじゃないかって」
 キヅカはそう言って空を見上げる。だが、すぐに笑顔を浮かべ。
「でもいいんだ。もしそんな日が来るのなら、その時もまた助けに行くから」
「ああ。頼りにしているよ、リク」
「へーか……記憶、消して……ゴメン」
 胸の前で左右の人差し指を合わせながら俯くシェリル。
「記憶ないまま選んだなら……どれだけの覚悟がいるのか……」
「確かに私は“偽物”かもしれない。だが、この想いは本物だ。君たちがいてくれたから今の私がある。謝る必要がどこにある?」
 シェリルの傍で腰を落とし、その頭をそっと撫で、微笑む。
「まだ……出来る事……あるよ、ね? 戦禍が……広がらないように。あのおじさんたち、誰も死なないように……」
「無論だとも。その為に力を貸してくれるね?」
 力強く頷くシェリル。その様子を遠巻きに眺め、カナタは息を吐く。
「やはりこの道を歩むのじゃな。ルミナどんらしいの」
「まったくだぜ。流石オレ様の娘ってとこかね?」
「記憶喪失でよく言うのじゃ。そういえば、まだ剣豪どんの事も思い出してはおらぬのじゃろう?」
 不破の剣豪。四霊剣の一体、ナイトハルトの名を持つ最強の亡霊型。その狙いこそヒルデブラントである。
「剣豪は……叔父様を探している。気をつけて……ね……」
「おう。よくわからんが、なんかそいつとは決着をつけなきゃなんねー気もするしなあ」
 鼻をほじりながら面倒くさそうに話を聞くブラトンに呆れた様子のカナタとシェリル。そこへにゅっとランが顔を出す。
「ブラトン君は初めましてだっけー? ラン・ヴィンダールヴだよー? よろしくねー?」
「おう。よくわからんがよろしくな!」
「なんか、仲良くしておいたほうがいいのかなーと思ってー」
 皆で歩きながら、ヴィルヘルミナはもう一度森を振り返る。
 戦いを止めるには、どうしても犠牲が必要になる。それは神楽の言う通りだ。
「また……血を流すのだな」
 小さな呟きは、強く吹いた風にかき消され、誰の耳にも届かない。
 戦いが始まる。きっと血で血でを洗うような、なんの意味もない戦争が――。

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MVP一覧

  • 大悪党
    神楽ka2032

重体一覧

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 皇帝を口説いた男
    ラン・ヴィンダールヴ(ka0109
    人間(紅)|20才|男性|霊闘士
  • 約束を重ねて
    シェリル・マイヤーズ(ka0509
    人間(蒼)|14才|女性|疾影士
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 猫の守り神
    カナタ・ハテナ(ka2130
    人間(蒼)|12才|女性|聖導士
  • 【Ⅲ】命と愛の重みを知る
    フェリア(ka2870
    人間(紅)|21才|女性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン ルミナちゃんへの質問卓
神楽(ka2032
人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/11/17 22:35:30
アイコン 偽帝国軍(歪虚)殲滅相談卓
神楽(ka2032
人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/11/19 02:32:39
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/11/15 19:51:33