• 神森

【神森】無力と偽力ともう1つの襲撃者

マスター:朝臣あむ

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/11/19 07:30
完成日
2016/11/27 19:31

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●錬金術師組合・組合長執務室
 帝国の地下掃討作戦より数か月。己の研究と錬金術を広める講義にと、日々忙しく過ごしていたリーゼロッテ・クリューガー(kz0037)の元に1枚の書面が届いた。
 差出人は「ハイデマリー・アルムホルム」。
 魔導機械の義手を持つ組合員の1人で、現在はエルフハイムを目指して帝都を離れている人物だ。
「定期メンテナンスには来られない……ですか」
 溜息と共に零される声には落胆とも悲しともとれる音が滲む。
 彼女はエルフハイムに向かった浄化の器を追って旅立った。その際に定期メンテナンスには戻ると約束したのだが、やはり無理だったようだ。
「それでもメンテナンスを受けて欲しかったですね……」
 ふぅ。と再び溜息を零して外を見る。
「村を襲撃するエルフと、エルフハイム領で目撃された帝国兵……ですか……」
 報告書には現在の帝国とエルフハイムの状況も記されていたが、どう考えても現在の皇帝がエルフハイムを襲うように指示をするとは思えない。となればいったい誰が何の目的でそのような事をしているのか。
「まさか……誰かが戦争を起こそうと画策して、とかでしょうか?」
 そう考える方が筋だろう。
 何者かがエルフハイムと帝国を戦争に導こうとしている。そうする事で利益に繋がるのか。それとも双方の共倒れを狙っているのか。
「ペリド。ペリドはいますか?」
「はい、先生。何でしょうか?」
 顔を覗かせたペリドにリーゼロッテは素早く説明を始める。
「これから出かけますので準備をしてください。出来るようでしたらハンターの護衛も頼んでいただけますか?」
「これからですか? でもハンターを雇うってことは遠くに行くってことですよね。外は今危ないですよ?」
「承知しています。ですからハンターの皆さんに守っていただこうかと」
 にっこり笑ったリーゼロッテとて状況を理解していない訳ではない。
「向かう先が戦地になっている可能性は十分にあるでしょうが、それでも行かなければいけません。1度でも手を貸したものは、どんな事情があろうとも手を退いてはいけない……それに『彼』ならきっとそうするでしょうし」
 含みのある言い方をしたリーゼロッテは速攻で用意した依頼書をペリドに差し出すと、彼女が受け取るのを待った。
「……最近の先生は少し無茶が過ぎるような。いや、前からそうだった気がしないでもないけど……まあ、良いです。僕が戻るまで出発しちゃダメですからね?」
 ビシッと指を差して依頼書を受け取った彼女に笑みを深め、リーゼロッテは旅に出る準備を進めた。

●見なければいけない現実
 帰郷した浄化の器の後を追ってエルフハイムに向かっていたハイデマリーは、国境付近の村で組合からの一報を受けていた。
――錬金術師組合組合長がそちらへ向かった。待機せよ。
「……何であの人は」
 真面目にも程がある。そう言葉を呑み込み自らの腕に視線を落とす。
 突然エルフハイムに帰った浄化の器ことホリィに話を聞きたい。そう思ってここまで来たのだ。今更引き返すことも出来ない。
「嫌な予感ばかりしてる……この村を襲ったエルフのこともそう。……いったい、何が起きているの」
 幾度となく執行者と闘ったことのある彼女でさえ、今の状況に困惑を覚えている。だからこそ直接ホリィに聞きたい。
 彼女が何を考えてエルフハイムに帰ったのか。そしてエルフハイムでは何が起きているのか。
「組合長を待つのも大事だけど、私にはやりたいことがあるの。だから」
「おい。昨日来たエルフがまた来るかもしれないらしいぞ」
 不意に聞こえた声に振り返る。
 昨日、この村にエルフが襲撃してきた。その残党が何処かにいるというのだろうか。
「なんでも街道沿いで見たやつがいるって……ん?」
「ごめんなさい。それはどの辺りかしら」
 聞き出した情報によると、帝都へ向かう街道の途中らしい。という事は、リーゼロッテが向かってくるであろう方向になる。
「っ、私はそんなことしてる場合じゃないのに!」
 もう! そう叫んで組合から借りてきた魔導バイクに跨る。そうしてエンジンを起動させると一気に駆け出した。
 たぶんリーゼロッテはペリドと一緒だ。けれどもし複数の襲撃者に襲われたとなればペリド1人では守り切れない。
「――間に合わせる」
 ハイデマリーはリーゼロッテの無事を願うとバイクを更に加速させ街道を駆け抜けていった。

 一方、目的の村までもう少しと言う所でリーゼロッテの足は止められていた。
「これがエルフの襲撃者……こんな、幼い子供が……」
 感情も伺えない幼い体のエルフたち。顔をフードで隠し、常に戦闘態勢を取る彼女たちの狙いはリーゼロッテだ。
 その証拠にリーゼロッテを狙った一撃をペリドが受け止め、腕に負傷を追っている。
「何で先生を」
「たぶん、それは」
「先生、危ない!」
 突然目の前が暗くなった。
 気が付けばぺルドがリーゼロッテを押し倒して覆い被さっている。そして響いた衝撃に息を吞むとハンター達が動き出した。
「っ、いけません! この子たちを攻撃しては……この子たちは――」
「――甘いわ」
 不意に1人の子供の頭が弾け飛んだ。
 ペリドの肩越しに見えた惨劇にリーゼロッテの声が失われる。
「この子たちは自我もない、ただ闘うために用意された『人形』よ。このまま苦しみを与えるくらいなら一気に倒してあげるのが優しさと言うものよ」
 『人形』と自ら呼称にしてハイデマリーの胸が痛む。
 彼女は襲撃者とリーゼロッテの間に飛び降りると、彼女を守るように魔導銃を構えた。そして僅かに眉間に皺を寄せて呟く。
「組合長。貴女は自分が狙われている理由がわかっているようね。だったら貴女はエルフハイムの、そして帝国の真実を見るべきだわ。残酷な現状をその目に焼き付けて、その甘い考えを捨てるべきだと思う」
 もしかしたら、リーゼロッテにその必要はないのかもしれない。
 こんな残酷な現実を知らなくても彼女なら立派に錬金術師組合の組合長をやってのけてくれるだろう。
 でも願うならば。自分たちの上に立つのなら錬金術がどう思われているのか。そしてどう使われているのか。彼女には知ってほしい。
「貴女が愛する錬金術はこうして命を奪っているわ。貴女はその現実と向き合うべきよ。そうでなければ、本当に守りたいものさえも失うことになりかねない」
 これは偶然に訪れたチャンスだ。
 誰かがリーゼロッテに残酷な現実を見せないように動いていたのかもしれない。その誰かの苦労を無下にするのかもしれない。
 それでも、自らが狙われても「攻撃するな」と言った彼女には現実を見てもらうべきだ。
「組合長を守るわ。手伝ってちょうだい」
 ハイデマリーはそう言うと、告げた言葉を律儀に守り、目を逸らさずに背中を見ているであろうリーゼロッテを振り返らずに飛び出した。

リプレイ本文


「これが、闘うために用意された人形……ですか」
 真田 天斗(ka0014)はそう零すと、鉄甲を嵌める手を握り締めた。
 ハイデマリーはリーゼロッテを狙う少女達を浄化の器と呼んだ。そして彼女達を倒すようにとも。
「確かに彼女の言葉には甘さがある。それでも、現実を見たからこそ叶えたい甘さと言うのもあるのでは?」
 リーゼロッテは目の前の敵を「攻撃するな」「殺すな」と言った。はたしてこれは「甘い」と言う言葉だけで片付けて良いものなのだろうか。もし彼女の願いを叶えるのであればどちらが可能だろうか。
「……最初の注文は無理ですが、不殺の命は出来る限り従いましょう」
「何を!?」
 思わず声を上げた彼女に天斗は言う。
「貴女の言い分は良くわかります。自分も軍に所属していた過去がありますから」
 それなら! そう叫びそうになる彼女を静止して天斗は迫る敵に向けて構えを取った。
「それでも、現実を見たからこそ叶えたい甘さと言うのもあるのです」
 踏み込む天斗に不快気に眉を寄せるハイデマリー。そんな2人の声を後衛の位置から聞いていた夢路 まよい(ka1328)が呟いた。
「これ……お人形さん?」
「揶揄の一種だとは思いますが……どうかしましたか?」
「む~、私も昔はよくお人形さん壊してたけど、お人形さんは可愛がってあげなきゃいけないって、最近教えてもらったのに。こんなところに壊されに向かわせられるなんて」
 知識や感情の矛盾と向き合って首を捻るまよいに鳳城 錬介(ka6053)が鎮痛の表情を覗かせる。
「そう、ですね。貴女の言うように、人形は可愛がってあげるべきだと思います。彼女たちもきっと……」
「う~ん、難しいことはよくわからないけど、このままじゃずっとこんなことが続くから、壊してあげるしか、ないのかな?」
「それは……」
 錬介とて状況をよく呑み込めていない。
 エルフハイムの目的が何なのか。襲撃してきた彼女たちは何なのか。など……。
「……俺にはわからないですが、分からずとも今はこの火の粉を薙ぎ払うべきなのでしょうね」
 ごめんよ。そんな小さな囁きを零して錬介はまよいと共に戦闘に移った。
 こうして全ての味方が戦いに身を投じる中、ライフルの照準を合わせようと構えたJ・D(ka3351)が零す。
「――こいつァ、撃ち辛い」
 敵の数はこちらの半分。だが如何にも動きが速過ぎる。
 しかも防衛戦という性質故か、混戦に近い状態で仲間と敵が入り乱れている。このままだと仲間を間違えて撃つ事すらあるかもしれない。
「ふむ。これは早々に引き剥がすが吉だろう……真夕くん、出来るかい?」
 龍銃を構え、仲間の動きを目で追う久我・御言(ka4137)の言葉に七夜・真夕(ka3977)が神妙な表情で頷く。
「人がわざわざ人を形どる……この光景に君も多くを感じるのだろう。だが今は堪えるべきだ。一時の激情は判断を鈍らせるからね」
「……わかっているわ」
 だから憤るほどの激情が襲い掛かって来た時も堪えた。ここで怒りに任せて動くことがどれだけ危険かわかっているから。
「……躊躇ったらそれだけ自分や仲間に危害が及ぶ。それだけは、許されない……」
「良い顔だ。では行こう。君の一石が流れを変える」
 唇を噛み締めて意識を集中する。
 狙うのはJが狙いを定める戦域だ。素早い動きに翻弄されて攻撃を当てきれないでいる天斗と、彼を補佐するように氷の矢を放つまよい。
 その傍ではペリドにヒールを施した錬介が彼女を補佐するように立ち回っている。
「いきたまえ、本命。真夕くん!」
「みなさん、下がって!」
 勢い良く振り下ろした杖の先から雷撃が走る。
 僅かな隙間をぬって一直線に駆ける雷は、敵と味方の双方を綺麗に割った。
「なんつー無茶を……!」
 危うく当たりそうになった。そう声を潜ませるのは他の面々よりも前に出て敵を抑えに掛かっていた守原 有希遥(ka4729)だ。
 彼は仲間に仲間の後方で戦闘を見詰めるリーゼロッテを見やる。
「……リーゼさん、ごめん」
 彼女の傍を離れる時に彼女に言った言葉が頭を過る。
「うちは弱い。だから殺すしか方法がない……出来るならもっと別の方法があれば……」
 そうすれば彼女の悲しむ顔を見なくて済んだだろうか。
 否、戦うことを彼女は望んでいない。こうして刃を振るっている段階で彼女の望みは遠ざかっていると考えていいだろう。
「……この行動自体が意に添わないのなら、せめて武人として全力で挑む。彼女たち器が人であったと証明する為に――武人として守原有希遥、相手してやるよ!」
 駆け出す動きに合わせて銃弾が飛んでくる。これはJの弾だ。
 彼は有希遥の動きに合わせて変則的な動きをする弾を放ってくる。これに動きを乱されたのは器だ。
 当初は有希遥1人と対峙すれば問題なかった。だが別方向から攻撃が来るとなると状況が違ってくる。
「紅蓮の一撃、避けれるかな?」
 地面から足を離した器を追って更に接近する。そうして間髪入れずに腕を振ると、地面すれすれに刃を滑らせて赤い軌跡を敷いたまま胴へ切り込んだ。
 鈍い衝撃が掌全体に伝り鮮血が舞う。
 手応えは確かにあった。
 普通なら立つのも厳しい程の怪我だ。しかし器は一瞬よろけはしたものの直ぐに大地を踏みしめると有希遥に飛び掛かって来た。
「なに、を……」
 胴に腕を回してしがみ付いた器の体から触手のようなオーラが噴き出す。そして彼の体をホールドすると別の器が飛び込んで来た。
「――」
 器の胴と有希遥の胴。その双方を貫いた腕に誰もが息を呑む。だが驚いている暇はない。
「Jさん、狙撃を! 俺が守原さんの救助に向かいます!」
 他の器が一斉に有希遥を狙おうとしている。これに気付いた錬介が走り出した。
 そして彼が有希遥の元へ辿り着くと同時に新たな異変が起きる。
「何で……塩、に……」
 蒼白の表情でそう零したレホス・エテルノ・リベルター(ka0498)は、取り落としそうになる拳銃を必死に握り締めて一歩退いた。
 彼女が目にしたのは器が消える瞬間だ。
 別の器に貫かれた器が、まるで風化するように白い粉となって消えた。その消え方は人とは言い難いものだ。
「……戦った代償が、あの姿……なの? だとしたら、私は……」
 少し前まで軍人だったレホス。彼女が人に銃口を向けた経験はある。だが子供相手にと言えばそんなのはない。だから戸惑っていたのだ。
 こんな小さな子を撃てるのか、と。だが現実はもっと過酷なものを見せてきた。
 自分の意思とは別次元から与えられた死。仕組まれた死は少女達をただの道具としてしか見ていないことを意味する。
「私は……この世界の銃の方が好き。だって、自分の意志で握ったから……」
 ではあの子たちは? あの子たちは誰の意思で武器を手にした?
 そこまで考えて出てきた答えは『エルフハイム』だ。全てはエルフハイムで仕組まれた事。彼女達が戦う理由も、彼女達が死ぬ理由も、全てエルフハイムが仕組んだ。
「……エルフハイムがリーゼロッテさんを狙う理由。きっとそれは魔導機械……。魔導機械は、私にとって、前に進むためのチカラ。敵を倒すだけじゃない。機導術は、誰かを笑顔にできるチカラなんだ」
 そしてここにいる人は――リーゼロッテは戦うだけの魔導機械を作らない人。人々を笑顔に出来るそんな魔導機械を作り続けてきた人だ。
「きっと、子どもを撃つ理由にはならない……でも、守らないと……この拳銃で、あなたを。あなたは、もっとたくさん誰かを笑顔にできるはずだから」
 レホスは決意を固めると二丁の銃を前方に構えた。
 例え掲げた理由がただの言い訳だったとしても、今は戦うしかない。そう覚悟を決めたから。


 戦況は決して優位とは言えないものだった。
 その理由に挙げられるのが途中で増えた器と、防衛を敷いた事で長期戦にもつれこんでしまった事が挙げられる。
「リーゼロッテ、こっちよ!」
 まよいはリーゼロッテの腕を引くと土壁の後ろへ隠れた。
 彼女を含めた仲間の殆どは既にスキルを使い果たしかけている。幸いなのはアースウォールを使うだけの力がまだ残されている事だろうか。
「ぜったいに、ここから出たらダメだなんだからね?」
 まるで幼い子に言い聞かせるような言い方をするまよいにリーゼロッテの頬が少しだけ綻ぶ。それを見止めて幼い目が土壁の外へ向かう。
「……どうせならつかまえたかったな~」
「捕まえてどうするつもりだったのですか?」
「ん~、もしつかまえたら皆と決めるかな。あ、リーゼロッテ、ふせて!」
 ドリームメイズで眠らせてから捕獲しようとしたのは今から少し前。結局効果がなく捕まえる事は出来なかったが、今はその事を残念がっている場合ではない。
 土壁を物凄い勢いで叩く音がする。
 1度、2度……何度も繰り返される動きと同時にJの放つ銃弾の音もする。つまり敵はJの銃弾を避けるか受けるかしながら壁を攻撃している事になる。
「壁が崩れたら、私の後ろに隠れてね。大丈夫よ、かならず守るから」
 壁が徐々に崩れ始め、崩壊が間近だと予感させる。そしてまよいが前を向くのとほぼ同時に、土壁が崩れ落ちた。
「――お人形さんは、近づいたらダメよ!」
 再び土壁を形成する為に術を刻む。だがそれが唱え終わるよりも先に器が前に出た。
 彼女が狙うのはやはりリーゼロッテだ。
 手を伸ばし、腕を掴もうと駆け寄る。だが寸前の所で幼い体が吹き飛んだ。
 地面を転げ、土を巻き上げて後退する少女と入れ替わりに、別の少女が前に出る。それに気付いたレホスがリーゼロッテの前に飛び出した。
「させない!」
 守る対象の前に立った彼女の二丁拳銃が火を噴く。
 次々と撃ち込む弾丸は敵の足元を狙い、少なからずダメージを与えてゆく。それでも止まらない敵にまよいが杖を構え直した。
 これが彼女が射れる最後の一矢だ。
「もう、ダメだって言ってるのに!」
 光を反射して放たれた氷の矢が器の脚を止めた。
 驚くでもなく止まった事を受け入れた器は、次の手段に出る。
 土壁が作られる前に討つ事を優先させたのだ。
「――、っ」
 投げられたナイフを正面から受け止めたまよいとレホスにリーゼロッテの悲鳴が上がる。それでも2人は彼女の前から退かない。
 レホスに至ってはこの状況下で新たな弾を装填しようとしている。そんな彼女たちの行動に思わず声が漏れた。
「なんで……」
 そこまで自分は守られる存在ではない。
 そんな想いを口にしようとした時、彼女達を救う声が響いた。
「真夕くん……わかっているね?」
 眼前に降り注ぐ3点の光。それが動きを止めた器と、後方で飛び出そうと構えていた器に降り注ぐ。
 そしてそれらの動きを一瞬だが止め切ると、御言は更なる攻撃を見舞うために銃口を彼女達に向けた。
「少し休んでいたまえ」
 勝負どころを見極めるために取っておいた最後の一発。それを真夕を含めた仲間の為に使う。
 真夕はと言えば、既に大技を使う為の準備に掛かっている。精神を集中させ、最大限に力を発する為に全身からマテリアルを捻出する。
 そしてそんな彼女を視界端に留め、御言は改めて周囲に視線を飛ばした。
(有希遥くんと天斗くんは……?)
 真夕達の動きを見た天斗はハイデマリーと歩調を合わせてこちらへ向かっている最中だ。
 彼らは問題なく攻撃に間に合うだろう。後は負傷した有希遥が何処まで出来るか、だが……。
「これ以上は無理です!」
「……一生懸命助ける力探してんだ、リーゼさんは……そんな大事な人なら、幾らでも魂を張れる、だから」
 敵を前に静止の声を上げた錬介に有希遥は退く様子も見せずに刃を構える。
 鬼を斬ったとされる刃は彼の相棒だ。それを手に踏み込もうとする彼に「知りませんよ!」と声を上げて錬介は聖剣を構えた。
 そして彼に残り1度にして1回しか効果のない光の加護を贈る。
「……ありがとう」
 囁き、踏み込み飛び出した直後に太刀を勢いよく振り上げる。
 紅蓮を纏い鬼斬りの刃が器の胴を薙いだ。
「こっちだ!」
 自らを囮に駆け出す彼を器が追い掛けてゆく。
 そしてもう少しで目的地、と言う所で紫色の光が輝くのが見えた。
「いけない!」
 飛び出した錬介がタックルする形で有希遥の体を吹き飛ばす。
 突然目標が消えた事で戸惑う器。だが目標を見付けるよりも早く彼女には危機が迫っていた。
「ごめん、なさい……」
 悲痛に眉を寄せた真夕の視線の先で、紫の光に束ねられる器たちが見えた。そして次の瞬間、雷撃が彼女達の体を駆け抜ける。
 次々と地面に倒れる器。その殆どの体が白い粉へと変じてゆく。
 そして全ての器が彼らの前から消え去ると、辺りは先ほどの戦闘が嘘だったかのように静まり返った。


「弔うことも出来ないんだな……」
 ハイデマリーの話では、力を使い果たした器は風化して跡形もなく消えてしまうのだという。そう考えると当初浄化の器として名前の挙がっていた少女はかなり特別な存在なのだと思わされる。
「組合長、怪我はないかしら」
 不意に聞こえた声にリーゼロッテはただ頷く。
 やはり浄化の器の存在やその消え方は彼女にとって傷となった、と言ったところなのだろうか。だがそれはリーゼロッテに限った事ではない。
「……何やってるんだろ、私。何でこんなことしてるのかな。私はただ、帰りたいだけなのに。もう一度、あの場所に……」
 仲間と少し離れた場所で己の手を抱きしめて呟くレホスもまた、今回の出来事に心を痛める者の1人だ。どんな言葉を並べても、自身が犯した事への罪は消えない。そんな所だろう。
「少し休んだら村に戻るわ。一緒に来てちょうだい」
 ハイデマリーはそう言うとハンターに背を向けた。そこへ声が掛かる。
「貴女はリーゼロッテ様に『残酷な現状をその目に焼き付けて、その甘い考えを捨てるべきだと思う』と仰った。だからこそ貴女はリーゼロッテ様の傍らに居るのですか?」
 振り返った先にいたのは天斗だ。
「差し出がましい口を利いて済みませんでした。ただ、これだけは覚えて置いて下さい。光に向かって一歩でも進もうとしている限り、人間の魂が真に敗北する事は断じて有りません」
 彼は非礼を詫びるように頭を下げると彼女の側を去って行った。

 そして街道を出発する直前、リーゼロッテは有希遥に呼び止められていた。
「こんな状況で言うべきじゃないかもしれない。けど……リーゼさん、うち、あんたがずっと、そして今もこれからも大好きだ。返事は待つし断りも可、それで助力辞めたり態度変える程餓鬼じゃねえから」
 通常であれば動揺くらいはしたのかもしれない。
 けれど今のリーゼロッテには彼の言葉が酷く遠かった。
「……今は……ごめんなさい」
 そう囁き、リーゼロッテは全てに背を向けるようにして歩き出した。

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MVP一覧

  • 紅蓮の鬼刃
    守原 有希遥ka4729

重体一覧

  • 紅蓮の鬼刃
    守原 有希遥ka4729

参加者一覧

  • Pクレープ店員
    真田 天斗(ka0014
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 理由のその先へ
    レホス・エテルノ・リベルター(ka0498
    人間(蒼)|18才|女性|機導師
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • 交渉人
    J・D(ka3351
    エルフ|26才|男性|猟撃士
  • 轟雷の巫女
    七夜・真夕(ka3977
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • ゴージャス・ゴスペル
    久我・御言(ka4137
    人間(蒼)|21才|男性|機導師
  • 紅蓮の鬼刃
    守原 有希遥(ka4729
    人間(蒼)|19才|男性|舞刀士
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介(ka6053
    鬼|19才|男性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
夢路 まよい(ka1328
人間(リアルブルー)|15才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/11/13 17:43:40
アイコン 作戦相談卓
夢路 まよい(ka1328
人間(リアルブルー)|15才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/11/19 03:28:22
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/11/15 08:48:28