ゲスト
(ka0000)
気になるあのコとリンゴ狩り
マスター:紺堂 カヤ

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/11/22 07:30
- 完成日
- 2016/11/30 18:13
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
空は青く、そして高かった。
田畑の脇のくさっぱらに寝転がって、タイガはその空を見上げていた。
雲ひとつない空。きっと、勤勉な天使たちがぴかぴかに磨き上げていったんだろう、だなどと柄にもなくロマンチックなことを考えながら……、
「はあぁあ~~~~~」
大きな大きなため息をついた。
空は青く、そして高かった。
大きなため息などものともせず、ただ美しくそこにある。
「遠い空だなあ……。あの空のように、あの子も遠いなあ……」
目を細め、センチメンタルにタイガが呟くと。
「なーにやってんだお前」
上から覗き込んだ笑顔が、タイガの視界から空を奪った。
「うわっ、なんだよイサト! せっかく人が物思いにふけっていたというのにだなあ!」
「物思い? タイガが?」
幼馴染のイサトが面白そうに笑いを滲ませながら、タイガの隣に腰掛けた。タイガも寝転んでいた姿勢を起こす。
「もしかして、ミカちゃんのこと?」
「みみみみみみみミカちゃん? いやいやいや、どうしてだよなんでだよ俺がミカちゃんの何を思い悩むって言うんだよいやいやいや!」
「わかりやすいなあ、タイガは」
眼球ってそんなに激しく動かせるものなのか、と感心してしまうほど盛大に目を泳がせたタイガを見て、イサトはけらけらと笑う。
実にわかりやすい恋わずらいだった。ミカちゃん、とはタイガとイサトの村のリンゴ農家の娘であった。年頃は、タイガと同じくらいであるらしい。実におとなしい娘で、人前でおしゃべりしているのをほとんど見たことがない。
「ミカちゃん、可愛いしなあ」
イサトがしみじみそう言ったように、ミカはふわふわの金髪に真っ白な肌、澄んだ泉のような緑色の瞳の美少女だった。お人形のような上品な容姿で、家業である果樹園の仕事を手伝う様子は、かなりファンタジックに見えた。
「まさかイサトもミカちゃんに恋を!?」
「違うよ。っていうか、イサトも、ってなんだよ、も、って」
イサトがニヤニヤ笑うと、タイガは観念したようにため息をついた。もともと特に抵抗らしい抵抗はできていなかったのではあるが。
「俺はさ~、ミカちゃんが可愛いから好きってわけじゃないんだよ、信じて貰えないかもしれないけどさ~」
膝をさんかくにして抱え込み、語り出すタイガ。
「あんなに可愛いからさ、どうやらさ、舞台女優のスカウトとか随分来てたらしいんだよな。だけどさ、全部自分で断ったんだって。リンゴが大好きな私は、果樹園の仕事こそが私の仕事だ、ってさ。俺、そういうの、強いな、って思うんだ。見習わなきゃな、って思うんだよ」
「……そっか。じゃあさ、折角だから、そのリンゴの力に頼ってみたら?」
「リンゴの力? あっ、もしかしてあれか!? この村の恋は果物にあやかると叶うらしい、っていう噂のことか!?」
「は? 噂?」
タイガは急に顔を輝かせ、反対に、イサトは怪訝そうな表情を作る。
「なんかさ、夏にさ、スイカ割りで告白して恋が叶った人がいるってとこから始まったらしいんだけどさ」
「へえ? ああ、それもしかしてシェイマスさんのことじゃない?」
「何!? イサト知ってるのか! じゃあ噂は本当なんだな!!」
「果物にあやかって恋が叶うかどうかは知らないけど……、まあ、確かに、あやかるところまでは、簡単だよ。とりあえず」
「どういうことだ?」
イサトはにっこり笑って説明を始めた。
なんでも、ミカの父親がぎっくり腰になってしまい、動けないという。リンゴはちょうど収穫時期で、果樹園は忙しい。それでも、家族総出で頑張ればなんとか父の穴も埋められるだろう、と思っていたのだが、そこへ王都・イルダーナのとある宝石商から大口の注文が入った。それも急ぎの。支払う金額に糸目はつけないから、とにかくたくさんのリンゴを売って欲しい、と言われたのだ。
「家族だけじゃとても間に合わない、っていうんで、臨時のアルバイトを募集してるらしいぜ。村人はそれぞれ忙しいし、ハンターにも依頼を出すって話だ」
「えっ、それは」
「ミカちゃんとお近づきになる、チャンスなんじゃね?」
タイガはさんかくに折った自分の脚を抱え込むようにして顔を伏せ、イサトはそれを覗き込んだ。
「ほら、迷ってる場合か? アルバイト、行くだろ?」
「……行くっ!」
恥ずかしそうに、しかし力強く返事をしたタイガの頬は、リンゴのように真っ赤だった。
田畑の脇のくさっぱらに寝転がって、タイガはその空を見上げていた。
雲ひとつない空。きっと、勤勉な天使たちがぴかぴかに磨き上げていったんだろう、だなどと柄にもなくロマンチックなことを考えながら……、
「はあぁあ~~~~~」
大きな大きなため息をついた。
空は青く、そして高かった。
大きなため息などものともせず、ただ美しくそこにある。
「遠い空だなあ……。あの空のように、あの子も遠いなあ……」
目を細め、センチメンタルにタイガが呟くと。
「なーにやってんだお前」
上から覗き込んだ笑顔が、タイガの視界から空を奪った。
「うわっ、なんだよイサト! せっかく人が物思いにふけっていたというのにだなあ!」
「物思い? タイガが?」
幼馴染のイサトが面白そうに笑いを滲ませながら、タイガの隣に腰掛けた。タイガも寝転んでいた姿勢を起こす。
「もしかして、ミカちゃんのこと?」
「みみみみみみみミカちゃん? いやいやいや、どうしてだよなんでだよ俺がミカちゃんの何を思い悩むって言うんだよいやいやいや!」
「わかりやすいなあ、タイガは」
眼球ってそんなに激しく動かせるものなのか、と感心してしまうほど盛大に目を泳がせたタイガを見て、イサトはけらけらと笑う。
実にわかりやすい恋わずらいだった。ミカちゃん、とはタイガとイサトの村のリンゴ農家の娘であった。年頃は、タイガと同じくらいであるらしい。実におとなしい娘で、人前でおしゃべりしているのをほとんど見たことがない。
「ミカちゃん、可愛いしなあ」
イサトがしみじみそう言ったように、ミカはふわふわの金髪に真っ白な肌、澄んだ泉のような緑色の瞳の美少女だった。お人形のような上品な容姿で、家業である果樹園の仕事を手伝う様子は、かなりファンタジックに見えた。
「まさかイサトもミカちゃんに恋を!?」
「違うよ。っていうか、イサトも、ってなんだよ、も、って」
イサトがニヤニヤ笑うと、タイガは観念したようにため息をついた。もともと特に抵抗らしい抵抗はできていなかったのではあるが。
「俺はさ~、ミカちゃんが可愛いから好きってわけじゃないんだよ、信じて貰えないかもしれないけどさ~」
膝をさんかくにして抱え込み、語り出すタイガ。
「あんなに可愛いからさ、どうやらさ、舞台女優のスカウトとか随分来てたらしいんだよな。だけどさ、全部自分で断ったんだって。リンゴが大好きな私は、果樹園の仕事こそが私の仕事だ、ってさ。俺、そういうの、強いな、って思うんだ。見習わなきゃな、って思うんだよ」
「……そっか。じゃあさ、折角だから、そのリンゴの力に頼ってみたら?」
「リンゴの力? あっ、もしかしてあれか!? この村の恋は果物にあやかると叶うらしい、っていう噂のことか!?」
「は? 噂?」
タイガは急に顔を輝かせ、反対に、イサトは怪訝そうな表情を作る。
「なんかさ、夏にさ、スイカ割りで告白して恋が叶った人がいるってとこから始まったらしいんだけどさ」
「へえ? ああ、それもしかしてシェイマスさんのことじゃない?」
「何!? イサト知ってるのか! じゃあ噂は本当なんだな!!」
「果物にあやかって恋が叶うかどうかは知らないけど……、まあ、確かに、あやかるところまでは、簡単だよ。とりあえず」
「どういうことだ?」
イサトはにっこり笑って説明を始めた。
なんでも、ミカの父親がぎっくり腰になってしまい、動けないという。リンゴはちょうど収穫時期で、果樹園は忙しい。それでも、家族総出で頑張ればなんとか父の穴も埋められるだろう、と思っていたのだが、そこへ王都・イルダーナのとある宝石商から大口の注文が入った。それも急ぎの。支払う金額に糸目はつけないから、とにかくたくさんのリンゴを売って欲しい、と言われたのだ。
「家族だけじゃとても間に合わない、っていうんで、臨時のアルバイトを募集してるらしいぜ。村人はそれぞれ忙しいし、ハンターにも依頼を出すって話だ」
「えっ、それは」
「ミカちゃんとお近づきになる、チャンスなんじゃね?」
タイガはさんかくに折った自分の脚を抱え込むようにして顔を伏せ、イサトはそれを覗き込んだ。
「ほら、迷ってる場合か? アルバイト、行くだろ?」
「……行くっ!」
恥ずかしそうに、しかし力強く返事をしたタイガの頬は、リンゴのように真っ赤だった。
リプレイ本文
ぴかぴかの晴れ模様という恵まれた状況で、リンゴ狩りは行われることとなった。
果樹園に集まった人々は、すでに周囲に漂っているリンゴの良い香りにそわそわしている。その中でもひときわ落ち着きなくきょろきょろしているのは、タイガであった。
「イサトのやつ、本当に来ないつもりなのかなー」
俺はいろいろと忙しいから行けるかどうかわからないよー、などとニヤニヤしながら言っていた友人は、気を利かせているのか面白がっているのか、リンゴ狩りはタイガだけに任せるつもりでいるようだ。
「皆さん、お集まりいただきましてありがとうございます!」
快活な挨拶をして、果樹園のおかみさんが、三人の娘たちを連れてやってきた。一番小柄なのがミカだ。タイガの胸がドキリと跳ね上がった。
おかみさんやミカが軍手や脚立の貸し出しをし、リンゴのもぎ方について簡単に説明をする。
「だいたい20個くらいずつ収穫して頂けると有難いですが、無理はしないでください。私たちも一緒に収穫作業をしていますから、何かわからないことがあればどうぞその都度、私や娘たちに質問を」
おかみさんが自慢の娘たちを紹介し、リンゴ狩りがスタートした。
やる気充分なハンターばかりだったが、その中でもことに張り切っていたのは、エルバッハ・リオン(ka2434)だ。
「今回の依頼の最低ラインは20個ということですが、やるからには最低ラインをはるかに上回る数を達成したいですね」
優雅な微笑みで言うことは非常に好戦的だ。その言葉を裏付けるように、装備も戦闘モード。無駄のない俊敏な動きでリンゴをもいでいく。彼女のカゴは、みるみるうちに、つやつやしたリンゴでいっぱいになっていった。
エルに負けないくらいのやる気をほとばしらせているのは、ディーナ・フェルミ(ka5843)だ。キラキラ輝く両目もさることながら、可愛らしい小さな鼻からふんすふんすと大きく息を吹きだしている。
「20個なんてみみっちいこと言わないの100個採ってアップルパイリターンズなの!リンゴジャムも素敵なの夢が広がりまくりなの~」
張りまくった食い意地を隠すこともなく、かなりのハイペースでリンゴを収穫していく。それでも熟れ具合の良いものを丁寧に扱うバランスの良さは、さすがは元辺境開拓民の覚醒状態、といったところだ。それだけでなく、ディーナは周囲のハンターにもニコニコと笑顔を向けていた。
「腰が痛かったり疲れた人は言ってほしいの、ヒールでも指圧でもじゃんじゃん大盤振る舞いするの~」
「ありがと~! あとでお願いするかもなの~!」
ディーナに手を振って、アルス・テオ・ルシフィール(ka6245)が飛び跳ねた。
「りんご、りんご♪ はぅ。いい匂いなの」
うきうきリンゴの木を見上げるアルスを、花(ka6246)が目を細めて見守っていた。
「はぁちゃん! 紅いにゃ」
「ああ、本当だね。アルスはそれをもぐといい。私は、こっちをもぐとしようか」
花は剪定ばさみを器用に使って丁寧にリンゴを収穫した。そのすぐそばで、タイガが真剣な面持ちでリンゴをもいでいる。真剣な眼差しはリンゴだけでなく、ときおり、果樹園の奥で作業をしているミカにも注がれていた。
「ミカくん、さすがに手際が良いね。アドバイスをもらったらいいかもしれないな」
「えっ」
花がタイガに話しかけると、タイガはわかりやすくうろたえた。しかし花は、ミカを手招きしてコツを尋ねる。さりげなく、タイガの手元を示しながら質問すると、ミカはタイガの手を補助してハサミを使った。
「熟したリンゴは重くなっていますから、まず下を支えて……、そう、そうです、上手です」
話すことが苦手らしいミカは、言葉少なに、しかし的確にアドバイスをした。タイガはすっかり緊張してしまっている。タイガの隣でミカのアドバイスを熱心に見ていたアルスがやる気を増したように、ようし、と高い所のリンゴに狙いを定めた。それに気が付いた花が両手を差し出す。
「ん?……届くかい?」
「届かないの。だっこして?」
花の力強い両腕が、アルスの身体を持ち上げた。そのおかげでリンゴを手に取ることができたアルスは、満足げに頷く。ミカとタイガにも見せようとすると、ミカの姿はすでになく、タイガがひとりで黙々とリンゴを収穫していた。
「あらら」
アルスが思わずそう言うと、花も苦笑して頷く。やはりミカはタイガよりも果樹園の仕事の方が大切のようだ。けれど、タイガがそれに落胆した様子がないのを見て、アルスと花はタイガのことをますます応援する気になった。うふふ、とアルスは笑う。
「ミカちゃんラブなタイガちゃんに、こっそり美味しいりんごの蜂蜜煮のレシピを伝授にゃん♪」
ジーナ(ka1643)は、なるべく赤いリンゴを『鋭敏視覚』で判断し、一つ一つ慎重に採っていた。実に的確で丁寧な、きっちりした仕事であった。一つの木で仕事を終えたら次に移動。
「リンゴと言えば、食べて良し、酒にして良し。本によれば健康にも良い品だ」
それをすぐそばで偶然聞いていたマリィア・バルデス(ka5848)は、淡々と作業していた手を止め、微笑んで頷いた。彼女はリンゴの加工に関していろいろと考えも持っていた。
「リンゴはいろんなものに加工できるわ。それも、取れたてを加工した方が美味しいのよ?」
ノルマの後は料理に専念させて貰おう、と考えていたマリィアは、そろそろ20個を達成した頃だろうか、と自分のカゴを覗き込んだ。隣にあったジーナのカゴには、すでに20個などゆうに超える数が入っている。
「倍の40個以上はとっておきたい所だ」
ジーナが言うのに微笑んでマリィアは、自分はそろそろ切り上げようと考えた。これだけノルマを悠々とクリアしてくれる人がいるのならば、他のアプローチをしてもよさそうだ、とカゴを持ち上げる。果樹園のおかみさんにキッチンを使う許可をもらい、ジャムとワイン煮を作りにかかった。
「産地が儲かる提案をしたいの」
マリィアのその言葉におかみさんは大層喜んで、是非とも詳細なレシピを教えて欲しい、と申し出た。マリィアもこころよく請け負って、完成品とともにレシピを渡すことを約束した。
「林檎はまず8等分に。8等分を横切り半分。5mm角を2:1:1の割合になるよう切る……」
エプロン姿に変身したマリィアは、丁寧な手つきで正確な大きさにリンゴを切っていった。自分が作るにも、レシピには忠実でなければならない。
「8等分の半分と5mm角はジャム、残りの8等分はワイン煮に、と」
キッチンから美味しそうな香りが漂い始めるのは、きっとすぐのことだろう。
ソレル・ユークレース(ka1693)は、相棒であり親友であるリュンルース・アウイン(ka1694)とともに快調に収穫をしていた。
「一人当たり20個が最低ラインってことだが、それ以上収穫出来て悪いことないだろ!俺的には30個くらい行けそうな気がするんだがね」
ソレルが笑うと、リュンルースも微笑んで頷いた。力に自信のないリュンルースでも、20個ならば達成できそうだった。
「リンゴのカゴ、結構重いよな。俺が運んでやろうか、ルース」
「うん、頼むよ」
ソレルはカゴを果樹園のトラックへ運ぶ。その道すがら、いくつもいっぱいになっているカゴを見つけた。
「あ、そっちのカゴも運ぼうか。あとで戻って来るよ」
「お願いしますなの~」
「助かります」
声をかけられたディーナやエルが嬉しそうに頷く。その様子を見て、リュンルースはちょっと複雑な微笑を浮かべて呟いた。
「ちょっと妬けちゃうかな」
その表情に気が付いたソレルが慌てて駆け寄ってくる。
「別にナンパのつもりは無いからな?」
リュンルースはソレルのその様子に思わず笑った。
「なんて、ね」
「本当だぞ? なあ、ルース?」
ソレルの必死の顔がおかしくて嬉しくて、リュンルースはますます笑いを深くする。
かけがえのない大切な人。これからを共に過ごしていきたいと、そう願っている。
果樹園にたちこめる甘いリンゴの香りに負けないくらい、甘くて華やいだ雰囲気を醸し出している一団があった。時音 ざくろ(ka1250)とその恋人たちだ。
「一緒に林檎狩り楽しめたらって、そう思って」
頬を染めてそう言うざくろに、恋人たちは皆嬉しそうに微笑んだ。デートとはいえ、お仕事だ。そこのところは全員、きちんとわきまえていて、協力して収穫にあたる。
アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)がまずぐるりと果樹園を見回す。
「ふむ、これは中々広大ですね……効率よく行きませんと中々終わらないかもしれません。とりあえず、ノルマを優先していきましょうか」
「高いところはジェットブーツで行こう、菊理!」
ざくろが白山 菊理(ka4305)に声をかけ、ふたりで高く跳び上がった。
「頑張ってー!」
舞桜守 巴(ka0036)が樹の下から手を振ると、ざくろはそれに応えてぶんぶんと手を振りかえす。さあ、リンゴを、と前に向き直ると、目の前には菊理のスカートがふわりと広がっていた。
「リンゴリンゴ……って、菊理、スカート! スカート!」
「え?」
ばっちり中が見えてしまって真っ赤になったざくろは、菊理のスカートから遠ざかるどころか、反対に猛接近してしまい、スカートの中に見事に顔を突っ込んでしまった。
「ざ、ざざ、ざくろ!?」
「わーっ、ごめん!!」
真っ赤になったまま、バランスを崩し、ざくろは地面へと落ちていく。したたかに体を打ちつけるかと思うと、どさり、という音と、柔らかな感触。
「はわわわ…ごっ、ごめん、大じょ……」
「あいたたた……。ざくろ……! まあこんなことだろうと思ったけど」
しっかりと胸に恋人を受け止めたのはカイナ(ka3407)。ますます真っ赤になるざくろと目を合わせると、ふたりでくすくすと笑った。寝そべってしまっている状態のふたりに、アルラウネ(ka4841)が手を差し出した。
「ほーら、ふたりとも」
「あ、ありがと……」
差し出された手をつかんだざくろは、ちょうど覗き込める位置に輝いているアルラウネの谷間にたちまち目を奪われた。
「はわわ……」
またまた顔を赤くするざくろに、アルラウネもカイナも苦笑した。
「リンゴにも負けないくらいの赤面ぶりだね、ざくろん」
「本当に。……ああしかし、皆でこうするのは私は久しぶりですね、やっぱりいいものです」
巴も楽しそうに笑う。
「はいはい、頑張らないとリンゴ食べられませんよ?」
アデリシアが声をかけるのとほぼ同時に、菊理が綺麗な着地を決めて地上へリンゴを持ってきた。
「ざくろ、もう一回行くよ!」
「うん! こ、今度はスカート気を付けるから……」
えへへ、と照れながらざくろは体勢を整える。アデリシアが、低い所のリンゴを収穫しながらざくろにアドバイスした。
「ざくろさん、余波で周りのリンゴが落ちるかもしれません、跳び上がる位置、気を付けてください」
「うん、わかった!」
恋人の言葉に素直に頷いて、ざくろはもう一度高く跳び上がった。
地上では、ざくろが取ってくるリンゴを受け止めようと、巴やアルラウネ、カイナが毛布の準備をして手を振った。
高いところに軽々届くざくろや菊理とは反対に、高いところへ手を届かせようと必死になっているのが、アルマ(ka3330)とユウキ (ka5861)だ。
「林檎…あの赤く丸い滑らかなフォルム。そして姿形だけでなく、蜜も滴る禁断の味……たまらんのじゃ! ほれ、ユウキ。意気揚々と行こうではないか!!」
「うん、意気揚々と頑張ろう!」
気合充分なアルマだったが、つやつやと美しい赤みのリンゴに手を伸ばしても届かないとわかると、顔をしかめた。
「……む。この高さ……アルマへの挑戦じゃな?! よし、受けて立とうではないか」
と、背伸びをするが一向に届かない。
「アルマちゃん全然背が届かないね。……と言ったものの、ボクもあんまり……」
ユウキもジャンプをしてみるが届く気配はなかった。そこへ、ちょうど通りかかったミカが、脚立を差し出す。
「あの、よければ使ってください」
「あっ、脚立! ありがとう、ミカさん!」
ユウキがお礼を言って脚立を受け取る。
「ちびっこアルマちゃんの為に召喚されたみたいだね、脚立」
ユウキが笑いながらお目当てのリンゴの前に脚立をセットすると、アルマは少し不満げではありつつも脚立にあがる。ユウキを見下ろせるくらいのところまであがると、ユウキはアルマを見守りつつ、カゴを準備した。
「ボクはアルマちゃんの採った林檎を下で受けて手伝うね」
脚立をのぼったアルマは、高い位置で美しく輝く、美味しそうな赤い果実に、今度こそ手を触れさせたのだった。
アルマとユウキに脚立を差し出したように、ミカは自らも収穫をしつつ、ハンターたちの様子をよく見ていた。困っている様子はないか、怪我はないか、と実にこまやかだ。タイガに(正確には花に、だが)教えを請われたように、雨を告げる鳥(ka6258)や浅緋 零(ka4710)にも収穫のコツを尋ねられ、丁寧に教授した。
収穫をしながら、零は果樹園をきょろきょろと見回す。
「果樹園、広い……ね。迷子に、ならないよう……に」
うむ、と頷いて同じく果樹園やリンゴを眺め、虹心・アンクリッチ(ka4948)とちとせ(ka4855)が目を細める。
「大切に育てられたのが伝わる林檎じゃのう。沢山採って爺への土産にせねばな!」
「この様に作られておるのじゃな……」
ちとせは言葉少なに感心し、広大で美しい果樹園の様子と大切に育てられている果実を眺めた。
四人は穏やかに、けれど楽しげに、そして連携した動きでリンゴを収穫して行った。脚立の上で鳥が収穫したリンゴを零やちとせが受け取り、カゴにおさめてゆき、重いカゴを、虹心が運ぶ。
「私は納得する。これは重労働であると」
普段の果樹園の人々の仕事に感心する意味もあるのか、鳥がしみじみと言う。虹心も同意して、高い所で作業をする鳥を労うように声をかけた。
「そう、重労働じゃからな。無理せず怪我なく、が大事じゃぞ!」
ふと、作業の手を止めた鳥が、脚立の上から友人たちに声をかけた。
「浅緋零。ちとせ。虹心・アンクリッチ。貴方たちも登ってくるといい。良い景色だ」
皆、顔を輝かせ、かわるがわる脚立にのぼって景色を楽しんだ。
「今度は花を見に一緒するのも良いのう。花も可愛いのじゃぞ」
花もこうして高くから眺めたらさぞ壮観であろう、と虹心は思った。脚立からおりてくると、零が目をこすっている。どうやら、疲労から眠くなってきてしまったようだ。ふらり、と傾きそうな肩を、ちとせがそっと支えていた。
「もったいない……から、……ねない……もん……」
そう言って必死に瞼を押し上げている零に鳥が語りかける。
「もう少しだ。提案しよう。収穫が終わったら、お茶会をして、写真を撮ろう、と」
「うん……。レイ、みんなとお写真、とりたい……な」
ちとせも黙って頷いて、もうひと頑張り、とリンゴの樹を見上げた。
さて。タイガは、というと。ミカに手を取られ、直接収穫の方法を教わってから、それはもう真剣なまなざしでリンゴを扱い、カゴをどんどんいっぱいにしていった。けれど、ときどき、ふっと手を止めて、はーっとため息をつく。
それをしばらく眺めてから、声をかけたのはアーク・フォーサイス(ka6568)だった。集中してもくもくと収穫をしていたアークだったが、タイガの様子が気にかかったのだ。
「何か、悩み事?」
タイガは話しかけられて少し驚いたようだが、穏やかなアークの口調に安心したのか、ぽつぽつと話をしはじめた。ミカへの想いのこと。将来のこと。
「そうかあ……」
アークはとても熱心にタイガの話を聞いた。そして、話すのが苦手なりに、言葉を探す。
「将来のことは、無理に今決めなくてもいいんじゃないかな。したいこと、まだまだ見つけれるはずだから」
「そう、かな。俺、今日、このリンゴ狩りしてて、果樹園の仕事って大変だけどやりがいがあるな、って思ったんだ。……み、ミカちゃん目当てだったけどっ、それとは別にしてさ!! 言い訳じゃないんだぞ!?」
顔を真っ赤にして言いつのるタイガは、真剣そのものだったので、アークは笑ったりせずにただ頷いた。タイガの言葉に嘘偽りはないように見える。
「ミカちゃんへの想いが、恋なのかどうなのか、またわかんなくなっちゃったよ」
「恋は…………よく、わからないかな、俺も。俺はそういうの、考えたことないから」
アークはそこで少し困ったように眉を下げる。
「そっか。そうだよなあ。本人である俺がわかってないんだしなあ」
タイガも、困ったように笑ったので、アークも釣られて笑い、静かに言葉を繋げた。
「ただ、行動しないと何も変わらないと、思う」
そのひとことに、タイガはハッとしたようだった。そして、真っ直ぐな視線を、ミカに向けるのだった。
「良い稼ぎになりそうだ!」
という率直な理由で目を輝かせていたリコ・ブジャルド(ka6450)は、他のハンターのカゴも率先して運び、とにかくくるくるとよく働いた。
リンゴを初めて見た、という友人のセラエノ・ロバエル・カリイエ(ka6483)も、果樹園の様子や赤い果実にはしゃぎつつ、かなりたくさんの実を収穫していた。
「ねえ、リコ君。もしリンゴを頂けることになったら、2人で一緒に美味しく食べたいね」
「そうだな! セラはリンゴ、食べるのももちろん初めてだろ? 楽しみだな。そのためにもどんどん収穫しねえと! はしゃぐのはいいケド、仕事忘れんなよー?」
けっけっけ、と笑うリコに笑って頷き、セラエノはいっぱいになったカゴをリコに差し出した。よしきた、とカゴを持ち上げて運ぶリコは、同じ方向へ歩いていくミカを見つけた。ふと視線を移せば、そのミカに熱視線を送っている少年が。……もちろん、タイガである。リコは、ニヤリと笑うと、タイガに近寄り、自分が持っていたカゴを持たせてミカの前へ引っ張っていった。
「え? え!?」
困惑するタイガを無視して、リコはミカに声をかける。
「おーい、ミカ。タイガのコト労ってやんなよ。ほら、両手塞がってるみてえだしさ。リンゴをあーんってやったりとかさー!」
「え?」
突然のことにミカも驚いたようだが、たちまち顔を赤くするタイガを見て、何か察したのだろうか、小首をかしげつつ、小さく「お疲れ様です、タイガくん」と言った。確かに、労わっていることに変わりはない。
セラエノはリコにからかわれているタイガとミカのふたりを気の毒そうに見て、小さく笑った。
「リコ君、面白がってるね。でもあのふたり、なかなかいい感じになるかもね」
「そろそろ、終了の目途をつけてくださーい!」
果樹園に、おかみさんの声が響いた。ふたり仲良く睦まじく、収穫作業をしていた七夜・真夕(ka3977)と雪継・紅葉(ka5188)は、ふう、と同時に息をついて手を止める。
「目標は達成できたよね。余分もありそう」
紅葉がにこっりすると、真夕も笑顔で頷いた。
「お土産を持ち帰りたいわね。アップルパイでも作ろうかしら?」
「真夕のアップルパイ、食べたいなあ。ジャムやジュースもいいよね」
紅葉はそう言ってはしゃいだあと、ふと気が付いて真夕の背に手を伸ばした。そのまま抱き寄せる。
「ん……真夕の身体、冷えてる……」
「えっ、紅葉、」
「暫くこのまま。リンゴみたいな真っ赤にしちゃう、よ」
うろたえる真夕にくすくす笑う紅葉だったが、そんな紅葉も実は照れているのだった。
「ボクの素敵な恋人さん」
紅葉は真夕の耳元に優しく囁きつつ、ジャムもジュースもアップルパイもいいけれど、やっぱりまずはシンプルにリンゴの食べさせ合いをしよう、と心に決めた。
脚立などの道具を片付け、収穫したリンゴの山を見て、全員が目を白黒させた。一番驚いていたのは、おかみさんである。
「これはすごいね、500個なんて目じゃないよ!」
余裕を持っての目標達成だ、と聞いて、拍手が巻き起こった。
「自己満足ですが、達成感がありますね。では、この意気で次の依頼もがんばりましょうか」
エルがしとやかに微笑み、リンゴの山を誇らしげに眺めて呟く。
おかみさんは、続けて皆が期待していた言葉をくれた。
「とりあえず、そっちの一山は確実に余分だから、皆さん、好きに持って行ってくださいな!」
トラックに乗りきらなかったばかりか、箱やカゴさえ足らなくなってしまったリンゴが、ブルーシートの上にこんもりと積まれていた。ハンターたちから歓声があがる。ひときわ喜んでいたのはディーナである。
「販路に回せないものは胃袋直行なの~!」
ジーナはいくつかリンゴを手に取りながら、どうやって食べようかと思案を巡らし始めた。ソレルとリュンルースもリンゴを手に取り、ふたりでどれが美味しそうかと選んでいる。
鳥、零、ちとせ、虹心の四人はそそくさとお茶会の支度をはじめ、すぐに温かいアップルティーの香りが立ちのぼり始める。零はなんとか眠らずにリンゴ狩りをクリアできたらしく、ティーカップを片手にピースサインを出して写真に写っていた。シャッターを切る役目を申し出たのは、アークだ。
料理を終えたらしいマリィアが、美しく薔薇模様のリンゴを飾り付けたパンケーキを持って現れると、周囲から拍手が巻き起こった。ジャムの瓶を手渡され、おかみさんが喜んでいる。
真夕と紅葉のカップルはさっそくリンゴを剥いて食べさせ合っているし、アルマとユウキも美しいリンゴの実を山ほど抱えている。アルマは涎を垂らさんばかりで、ユウキはそれをいつでも拭けるようにスタンバイしていた。
「アップルパイにするのじゃ!」
「アルマちゃん、そのリンゴ全部食べるの? やっぱり食欲大王さまだね!」
リンゴを初めて食べるというセラエノは、リコが器用にするするとリンゴの皮を剥いていくのを興味深そうに熱心に見ていた。
そうした中でももっともわいわいいちゃいちゃとピンク色の空気を作り出していたのは……、やはり、ざくろとその恋人たちであった。
「ん、あーん♪」
巴がざくろの口にリンゴを差し出すと、あーん、と食べて嬉しそうに頬を緩ませるざくろ。
「ほれ、ざくろ。あ~ん」
次はカイナ。ざくろもお返しに、とカイナや巴、アルラウネや菊理の口にリンゴを差し出す。
「人数が多いと、こういうのって楽しいわよね~。あ、ざくろん、また谷間見て~」
「えへへへへ」
ざくろは笑ってごまかし、アデリシアに剥いていないリンゴを差し出した。
「これ、パイに向くかな?」
「ああ、よさそうですよ」
アデリシアが受け取り、持ち帰り用のカゴに入れた。
「帰ったら、パイを作ってね、アデリシア」
「気合を入れて焼きますよ」
「オレも、リンゴ料理作ろっかな」
カイナがそう呟くと、ざくろは顔を輝かせてうんうん、と頷いた。
「作って作って!」
今も幸せだけれど、帰ってからも幸せがある、と恋人たちに囲まれたざくろは、ますます笑顔になるのだった。
収穫していたときも賑やかだったけれど、さらに賑やかに湧いている果樹園。それを穏やかな目で見守りながら、早くも出荷用のリンゴの選別に入っていたのが、ミカだった。タイガは、それを見て、そっとハンターたちの輪から抜け出した。
静かにミカの隣に並ぶと、ひとつ深呼吸をしてから声をかける。
「あの……、リンゴの選別のやり方、教えて貰えないかな。俺、もっとちゃんと、果樹園の仕事勉強したい、って、今日一日やってみて思ったんだ」
「……はい。是非。嬉しいです」
ミカは、穏やかにそう言って、滅多に見せることのない笑顔を、タイガに向けた。
尊敬が恋心に変わったタイガだったが、それがまた、もう一段階、尊いものになった。と、そっと遠くで見守っていた友人・イサトが、思ったのだった……。
果樹園に集まった人々は、すでに周囲に漂っているリンゴの良い香りにそわそわしている。その中でもひときわ落ち着きなくきょろきょろしているのは、タイガであった。
「イサトのやつ、本当に来ないつもりなのかなー」
俺はいろいろと忙しいから行けるかどうかわからないよー、などとニヤニヤしながら言っていた友人は、気を利かせているのか面白がっているのか、リンゴ狩りはタイガだけに任せるつもりでいるようだ。
「皆さん、お集まりいただきましてありがとうございます!」
快活な挨拶をして、果樹園のおかみさんが、三人の娘たちを連れてやってきた。一番小柄なのがミカだ。タイガの胸がドキリと跳ね上がった。
おかみさんやミカが軍手や脚立の貸し出しをし、リンゴのもぎ方について簡単に説明をする。
「だいたい20個くらいずつ収穫して頂けると有難いですが、無理はしないでください。私たちも一緒に収穫作業をしていますから、何かわからないことがあればどうぞその都度、私や娘たちに質問を」
おかみさんが自慢の娘たちを紹介し、リンゴ狩りがスタートした。
やる気充分なハンターばかりだったが、その中でもことに張り切っていたのは、エルバッハ・リオン(ka2434)だ。
「今回の依頼の最低ラインは20個ということですが、やるからには最低ラインをはるかに上回る数を達成したいですね」
優雅な微笑みで言うことは非常に好戦的だ。その言葉を裏付けるように、装備も戦闘モード。無駄のない俊敏な動きでリンゴをもいでいく。彼女のカゴは、みるみるうちに、つやつやしたリンゴでいっぱいになっていった。
エルに負けないくらいのやる気をほとばしらせているのは、ディーナ・フェルミ(ka5843)だ。キラキラ輝く両目もさることながら、可愛らしい小さな鼻からふんすふんすと大きく息を吹きだしている。
「20個なんてみみっちいこと言わないの100個採ってアップルパイリターンズなの!リンゴジャムも素敵なの夢が広がりまくりなの~」
張りまくった食い意地を隠すこともなく、かなりのハイペースでリンゴを収穫していく。それでも熟れ具合の良いものを丁寧に扱うバランスの良さは、さすがは元辺境開拓民の覚醒状態、といったところだ。それだけでなく、ディーナは周囲のハンターにもニコニコと笑顔を向けていた。
「腰が痛かったり疲れた人は言ってほしいの、ヒールでも指圧でもじゃんじゃん大盤振る舞いするの~」
「ありがと~! あとでお願いするかもなの~!」
ディーナに手を振って、アルス・テオ・ルシフィール(ka6245)が飛び跳ねた。
「りんご、りんご♪ はぅ。いい匂いなの」
うきうきリンゴの木を見上げるアルスを、花(ka6246)が目を細めて見守っていた。
「はぁちゃん! 紅いにゃ」
「ああ、本当だね。アルスはそれをもぐといい。私は、こっちをもぐとしようか」
花は剪定ばさみを器用に使って丁寧にリンゴを収穫した。そのすぐそばで、タイガが真剣な面持ちでリンゴをもいでいる。真剣な眼差しはリンゴだけでなく、ときおり、果樹園の奥で作業をしているミカにも注がれていた。
「ミカくん、さすがに手際が良いね。アドバイスをもらったらいいかもしれないな」
「えっ」
花がタイガに話しかけると、タイガはわかりやすくうろたえた。しかし花は、ミカを手招きしてコツを尋ねる。さりげなく、タイガの手元を示しながら質問すると、ミカはタイガの手を補助してハサミを使った。
「熟したリンゴは重くなっていますから、まず下を支えて……、そう、そうです、上手です」
話すことが苦手らしいミカは、言葉少なに、しかし的確にアドバイスをした。タイガはすっかり緊張してしまっている。タイガの隣でミカのアドバイスを熱心に見ていたアルスがやる気を増したように、ようし、と高い所のリンゴに狙いを定めた。それに気が付いた花が両手を差し出す。
「ん?……届くかい?」
「届かないの。だっこして?」
花の力強い両腕が、アルスの身体を持ち上げた。そのおかげでリンゴを手に取ることができたアルスは、満足げに頷く。ミカとタイガにも見せようとすると、ミカの姿はすでになく、タイガがひとりで黙々とリンゴを収穫していた。
「あらら」
アルスが思わずそう言うと、花も苦笑して頷く。やはりミカはタイガよりも果樹園の仕事の方が大切のようだ。けれど、タイガがそれに落胆した様子がないのを見て、アルスと花はタイガのことをますます応援する気になった。うふふ、とアルスは笑う。
「ミカちゃんラブなタイガちゃんに、こっそり美味しいりんごの蜂蜜煮のレシピを伝授にゃん♪」
ジーナ(ka1643)は、なるべく赤いリンゴを『鋭敏視覚』で判断し、一つ一つ慎重に採っていた。実に的確で丁寧な、きっちりした仕事であった。一つの木で仕事を終えたら次に移動。
「リンゴと言えば、食べて良し、酒にして良し。本によれば健康にも良い品だ」
それをすぐそばで偶然聞いていたマリィア・バルデス(ka5848)は、淡々と作業していた手を止め、微笑んで頷いた。彼女はリンゴの加工に関していろいろと考えも持っていた。
「リンゴはいろんなものに加工できるわ。それも、取れたてを加工した方が美味しいのよ?」
ノルマの後は料理に専念させて貰おう、と考えていたマリィアは、そろそろ20個を達成した頃だろうか、と自分のカゴを覗き込んだ。隣にあったジーナのカゴには、すでに20個などゆうに超える数が入っている。
「倍の40個以上はとっておきたい所だ」
ジーナが言うのに微笑んでマリィアは、自分はそろそろ切り上げようと考えた。これだけノルマを悠々とクリアしてくれる人がいるのならば、他のアプローチをしてもよさそうだ、とカゴを持ち上げる。果樹園のおかみさんにキッチンを使う許可をもらい、ジャムとワイン煮を作りにかかった。
「産地が儲かる提案をしたいの」
マリィアのその言葉におかみさんは大層喜んで、是非とも詳細なレシピを教えて欲しい、と申し出た。マリィアもこころよく請け負って、完成品とともにレシピを渡すことを約束した。
「林檎はまず8等分に。8等分を横切り半分。5mm角を2:1:1の割合になるよう切る……」
エプロン姿に変身したマリィアは、丁寧な手つきで正確な大きさにリンゴを切っていった。自分が作るにも、レシピには忠実でなければならない。
「8等分の半分と5mm角はジャム、残りの8等分はワイン煮に、と」
キッチンから美味しそうな香りが漂い始めるのは、きっとすぐのことだろう。
ソレル・ユークレース(ka1693)は、相棒であり親友であるリュンルース・アウイン(ka1694)とともに快調に収穫をしていた。
「一人当たり20個が最低ラインってことだが、それ以上収穫出来て悪いことないだろ!俺的には30個くらい行けそうな気がするんだがね」
ソレルが笑うと、リュンルースも微笑んで頷いた。力に自信のないリュンルースでも、20個ならば達成できそうだった。
「リンゴのカゴ、結構重いよな。俺が運んでやろうか、ルース」
「うん、頼むよ」
ソレルはカゴを果樹園のトラックへ運ぶ。その道すがら、いくつもいっぱいになっているカゴを見つけた。
「あ、そっちのカゴも運ぼうか。あとで戻って来るよ」
「お願いしますなの~」
「助かります」
声をかけられたディーナやエルが嬉しそうに頷く。その様子を見て、リュンルースはちょっと複雑な微笑を浮かべて呟いた。
「ちょっと妬けちゃうかな」
その表情に気が付いたソレルが慌てて駆け寄ってくる。
「別にナンパのつもりは無いからな?」
リュンルースはソレルのその様子に思わず笑った。
「なんて、ね」
「本当だぞ? なあ、ルース?」
ソレルの必死の顔がおかしくて嬉しくて、リュンルースはますます笑いを深くする。
かけがえのない大切な人。これからを共に過ごしていきたいと、そう願っている。
果樹園にたちこめる甘いリンゴの香りに負けないくらい、甘くて華やいだ雰囲気を醸し出している一団があった。時音 ざくろ(ka1250)とその恋人たちだ。
「一緒に林檎狩り楽しめたらって、そう思って」
頬を染めてそう言うざくろに、恋人たちは皆嬉しそうに微笑んだ。デートとはいえ、お仕事だ。そこのところは全員、きちんとわきまえていて、協力して収穫にあたる。
アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)がまずぐるりと果樹園を見回す。
「ふむ、これは中々広大ですね……効率よく行きませんと中々終わらないかもしれません。とりあえず、ノルマを優先していきましょうか」
「高いところはジェットブーツで行こう、菊理!」
ざくろが白山 菊理(ka4305)に声をかけ、ふたりで高く跳び上がった。
「頑張ってー!」
舞桜守 巴(ka0036)が樹の下から手を振ると、ざくろはそれに応えてぶんぶんと手を振りかえす。さあ、リンゴを、と前に向き直ると、目の前には菊理のスカートがふわりと広がっていた。
「リンゴリンゴ……って、菊理、スカート! スカート!」
「え?」
ばっちり中が見えてしまって真っ赤になったざくろは、菊理のスカートから遠ざかるどころか、反対に猛接近してしまい、スカートの中に見事に顔を突っ込んでしまった。
「ざ、ざざ、ざくろ!?」
「わーっ、ごめん!!」
真っ赤になったまま、バランスを崩し、ざくろは地面へと落ちていく。したたかに体を打ちつけるかと思うと、どさり、という音と、柔らかな感触。
「はわわわ…ごっ、ごめん、大じょ……」
「あいたたた……。ざくろ……! まあこんなことだろうと思ったけど」
しっかりと胸に恋人を受け止めたのはカイナ(ka3407)。ますます真っ赤になるざくろと目を合わせると、ふたりでくすくすと笑った。寝そべってしまっている状態のふたりに、アルラウネ(ka4841)が手を差し出した。
「ほーら、ふたりとも」
「あ、ありがと……」
差し出された手をつかんだざくろは、ちょうど覗き込める位置に輝いているアルラウネの谷間にたちまち目を奪われた。
「はわわ……」
またまた顔を赤くするざくろに、アルラウネもカイナも苦笑した。
「リンゴにも負けないくらいの赤面ぶりだね、ざくろん」
「本当に。……ああしかし、皆でこうするのは私は久しぶりですね、やっぱりいいものです」
巴も楽しそうに笑う。
「はいはい、頑張らないとリンゴ食べられませんよ?」
アデリシアが声をかけるのとほぼ同時に、菊理が綺麗な着地を決めて地上へリンゴを持ってきた。
「ざくろ、もう一回行くよ!」
「うん! こ、今度はスカート気を付けるから……」
えへへ、と照れながらざくろは体勢を整える。アデリシアが、低い所のリンゴを収穫しながらざくろにアドバイスした。
「ざくろさん、余波で周りのリンゴが落ちるかもしれません、跳び上がる位置、気を付けてください」
「うん、わかった!」
恋人の言葉に素直に頷いて、ざくろはもう一度高く跳び上がった。
地上では、ざくろが取ってくるリンゴを受け止めようと、巴やアルラウネ、カイナが毛布の準備をして手を振った。
高いところに軽々届くざくろや菊理とは反対に、高いところへ手を届かせようと必死になっているのが、アルマ(ka3330)とユウキ (ka5861)だ。
「林檎…あの赤く丸い滑らかなフォルム。そして姿形だけでなく、蜜も滴る禁断の味……たまらんのじゃ! ほれ、ユウキ。意気揚々と行こうではないか!!」
「うん、意気揚々と頑張ろう!」
気合充分なアルマだったが、つやつやと美しい赤みのリンゴに手を伸ばしても届かないとわかると、顔をしかめた。
「……む。この高さ……アルマへの挑戦じゃな?! よし、受けて立とうではないか」
と、背伸びをするが一向に届かない。
「アルマちゃん全然背が届かないね。……と言ったものの、ボクもあんまり……」
ユウキもジャンプをしてみるが届く気配はなかった。そこへ、ちょうど通りかかったミカが、脚立を差し出す。
「あの、よければ使ってください」
「あっ、脚立! ありがとう、ミカさん!」
ユウキがお礼を言って脚立を受け取る。
「ちびっこアルマちゃんの為に召喚されたみたいだね、脚立」
ユウキが笑いながらお目当てのリンゴの前に脚立をセットすると、アルマは少し不満げではありつつも脚立にあがる。ユウキを見下ろせるくらいのところまであがると、ユウキはアルマを見守りつつ、カゴを準備した。
「ボクはアルマちゃんの採った林檎を下で受けて手伝うね」
脚立をのぼったアルマは、高い位置で美しく輝く、美味しそうな赤い果実に、今度こそ手を触れさせたのだった。
アルマとユウキに脚立を差し出したように、ミカは自らも収穫をしつつ、ハンターたちの様子をよく見ていた。困っている様子はないか、怪我はないか、と実にこまやかだ。タイガに(正確には花に、だが)教えを請われたように、雨を告げる鳥(ka6258)や浅緋 零(ka4710)にも収穫のコツを尋ねられ、丁寧に教授した。
収穫をしながら、零は果樹園をきょろきょろと見回す。
「果樹園、広い……ね。迷子に、ならないよう……に」
うむ、と頷いて同じく果樹園やリンゴを眺め、虹心・アンクリッチ(ka4948)とちとせ(ka4855)が目を細める。
「大切に育てられたのが伝わる林檎じゃのう。沢山採って爺への土産にせねばな!」
「この様に作られておるのじゃな……」
ちとせは言葉少なに感心し、広大で美しい果樹園の様子と大切に育てられている果実を眺めた。
四人は穏やかに、けれど楽しげに、そして連携した動きでリンゴを収穫して行った。脚立の上で鳥が収穫したリンゴを零やちとせが受け取り、カゴにおさめてゆき、重いカゴを、虹心が運ぶ。
「私は納得する。これは重労働であると」
普段の果樹園の人々の仕事に感心する意味もあるのか、鳥がしみじみと言う。虹心も同意して、高い所で作業をする鳥を労うように声をかけた。
「そう、重労働じゃからな。無理せず怪我なく、が大事じゃぞ!」
ふと、作業の手を止めた鳥が、脚立の上から友人たちに声をかけた。
「浅緋零。ちとせ。虹心・アンクリッチ。貴方たちも登ってくるといい。良い景色だ」
皆、顔を輝かせ、かわるがわる脚立にのぼって景色を楽しんだ。
「今度は花を見に一緒するのも良いのう。花も可愛いのじゃぞ」
花もこうして高くから眺めたらさぞ壮観であろう、と虹心は思った。脚立からおりてくると、零が目をこすっている。どうやら、疲労から眠くなってきてしまったようだ。ふらり、と傾きそうな肩を、ちとせがそっと支えていた。
「もったいない……から、……ねない……もん……」
そう言って必死に瞼を押し上げている零に鳥が語りかける。
「もう少しだ。提案しよう。収穫が終わったら、お茶会をして、写真を撮ろう、と」
「うん……。レイ、みんなとお写真、とりたい……な」
ちとせも黙って頷いて、もうひと頑張り、とリンゴの樹を見上げた。
さて。タイガは、というと。ミカに手を取られ、直接収穫の方法を教わってから、それはもう真剣なまなざしでリンゴを扱い、カゴをどんどんいっぱいにしていった。けれど、ときどき、ふっと手を止めて、はーっとため息をつく。
それをしばらく眺めてから、声をかけたのはアーク・フォーサイス(ka6568)だった。集中してもくもくと収穫をしていたアークだったが、タイガの様子が気にかかったのだ。
「何か、悩み事?」
タイガは話しかけられて少し驚いたようだが、穏やかなアークの口調に安心したのか、ぽつぽつと話をしはじめた。ミカへの想いのこと。将来のこと。
「そうかあ……」
アークはとても熱心にタイガの話を聞いた。そして、話すのが苦手なりに、言葉を探す。
「将来のことは、無理に今決めなくてもいいんじゃないかな。したいこと、まだまだ見つけれるはずだから」
「そう、かな。俺、今日、このリンゴ狩りしてて、果樹園の仕事って大変だけどやりがいがあるな、って思ったんだ。……み、ミカちゃん目当てだったけどっ、それとは別にしてさ!! 言い訳じゃないんだぞ!?」
顔を真っ赤にして言いつのるタイガは、真剣そのものだったので、アークは笑ったりせずにただ頷いた。タイガの言葉に嘘偽りはないように見える。
「ミカちゃんへの想いが、恋なのかどうなのか、またわかんなくなっちゃったよ」
「恋は…………よく、わからないかな、俺も。俺はそういうの、考えたことないから」
アークはそこで少し困ったように眉を下げる。
「そっか。そうだよなあ。本人である俺がわかってないんだしなあ」
タイガも、困ったように笑ったので、アークも釣られて笑い、静かに言葉を繋げた。
「ただ、行動しないと何も変わらないと、思う」
そのひとことに、タイガはハッとしたようだった。そして、真っ直ぐな視線を、ミカに向けるのだった。
「良い稼ぎになりそうだ!」
という率直な理由で目を輝かせていたリコ・ブジャルド(ka6450)は、他のハンターのカゴも率先して運び、とにかくくるくるとよく働いた。
リンゴを初めて見た、という友人のセラエノ・ロバエル・カリイエ(ka6483)も、果樹園の様子や赤い果実にはしゃぎつつ、かなりたくさんの実を収穫していた。
「ねえ、リコ君。もしリンゴを頂けることになったら、2人で一緒に美味しく食べたいね」
「そうだな! セラはリンゴ、食べるのももちろん初めてだろ? 楽しみだな。そのためにもどんどん収穫しねえと! はしゃぐのはいいケド、仕事忘れんなよー?」
けっけっけ、と笑うリコに笑って頷き、セラエノはいっぱいになったカゴをリコに差し出した。よしきた、とカゴを持ち上げて運ぶリコは、同じ方向へ歩いていくミカを見つけた。ふと視線を移せば、そのミカに熱視線を送っている少年が。……もちろん、タイガである。リコは、ニヤリと笑うと、タイガに近寄り、自分が持っていたカゴを持たせてミカの前へ引っ張っていった。
「え? え!?」
困惑するタイガを無視して、リコはミカに声をかける。
「おーい、ミカ。タイガのコト労ってやんなよ。ほら、両手塞がってるみてえだしさ。リンゴをあーんってやったりとかさー!」
「え?」
突然のことにミカも驚いたようだが、たちまち顔を赤くするタイガを見て、何か察したのだろうか、小首をかしげつつ、小さく「お疲れ様です、タイガくん」と言った。確かに、労わっていることに変わりはない。
セラエノはリコにからかわれているタイガとミカのふたりを気の毒そうに見て、小さく笑った。
「リコ君、面白がってるね。でもあのふたり、なかなかいい感じになるかもね」
「そろそろ、終了の目途をつけてくださーい!」
果樹園に、おかみさんの声が響いた。ふたり仲良く睦まじく、収穫作業をしていた七夜・真夕(ka3977)と雪継・紅葉(ka5188)は、ふう、と同時に息をついて手を止める。
「目標は達成できたよね。余分もありそう」
紅葉がにこっりすると、真夕も笑顔で頷いた。
「お土産を持ち帰りたいわね。アップルパイでも作ろうかしら?」
「真夕のアップルパイ、食べたいなあ。ジャムやジュースもいいよね」
紅葉はそう言ってはしゃいだあと、ふと気が付いて真夕の背に手を伸ばした。そのまま抱き寄せる。
「ん……真夕の身体、冷えてる……」
「えっ、紅葉、」
「暫くこのまま。リンゴみたいな真っ赤にしちゃう、よ」
うろたえる真夕にくすくす笑う紅葉だったが、そんな紅葉も実は照れているのだった。
「ボクの素敵な恋人さん」
紅葉は真夕の耳元に優しく囁きつつ、ジャムもジュースもアップルパイもいいけれど、やっぱりまずはシンプルにリンゴの食べさせ合いをしよう、と心に決めた。
脚立などの道具を片付け、収穫したリンゴの山を見て、全員が目を白黒させた。一番驚いていたのは、おかみさんである。
「これはすごいね、500個なんて目じゃないよ!」
余裕を持っての目標達成だ、と聞いて、拍手が巻き起こった。
「自己満足ですが、達成感がありますね。では、この意気で次の依頼もがんばりましょうか」
エルがしとやかに微笑み、リンゴの山を誇らしげに眺めて呟く。
おかみさんは、続けて皆が期待していた言葉をくれた。
「とりあえず、そっちの一山は確実に余分だから、皆さん、好きに持って行ってくださいな!」
トラックに乗りきらなかったばかりか、箱やカゴさえ足らなくなってしまったリンゴが、ブルーシートの上にこんもりと積まれていた。ハンターたちから歓声があがる。ひときわ喜んでいたのはディーナである。
「販路に回せないものは胃袋直行なの~!」
ジーナはいくつかリンゴを手に取りながら、どうやって食べようかと思案を巡らし始めた。ソレルとリュンルースもリンゴを手に取り、ふたりでどれが美味しそうかと選んでいる。
鳥、零、ちとせ、虹心の四人はそそくさとお茶会の支度をはじめ、すぐに温かいアップルティーの香りが立ちのぼり始める。零はなんとか眠らずにリンゴ狩りをクリアできたらしく、ティーカップを片手にピースサインを出して写真に写っていた。シャッターを切る役目を申し出たのは、アークだ。
料理を終えたらしいマリィアが、美しく薔薇模様のリンゴを飾り付けたパンケーキを持って現れると、周囲から拍手が巻き起こった。ジャムの瓶を手渡され、おかみさんが喜んでいる。
真夕と紅葉のカップルはさっそくリンゴを剥いて食べさせ合っているし、アルマとユウキも美しいリンゴの実を山ほど抱えている。アルマは涎を垂らさんばかりで、ユウキはそれをいつでも拭けるようにスタンバイしていた。
「アップルパイにするのじゃ!」
「アルマちゃん、そのリンゴ全部食べるの? やっぱり食欲大王さまだね!」
リンゴを初めて食べるというセラエノは、リコが器用にするするとリンゴの皮を剥いていくのを興味深そうに熱心に見ていた。
そうした中でももっともわいわいいちゃいちゃとピンク色の空気を作り出していたのは……、やはり、ざくろとその恋人たちであった。
「ん、あーん♪」
巴がざくろの口にリンゴを差し出すと、あーん、と食べて嬉しそうに頬を緩ませるざくろ。
「ほれ、ざくろ。あ~ん」
次はカイナ。ざくろもお返しに、とカイナや巴、アルラウネや菊理の口にリンゴを差し出す。
「人数が多いと、こういうのって楽しいわよね~。あ、ざくろん、また谷間見て~」
「えへへへへ」
ざくろは笑ってごまかし、アデリシアに剥いていないリンゴを差し出した。
「これ、パイに向くかな?」
「ああ、よさそうですよ」
アデリシアが受け取り、持ち帰り用のカゴに入れた。
「帰ったら、パイを作ってね、アデリシア」
「気合を入れて焼きますよ」
「オレも、リンゴ料理作ろっかな」
カイナがそう呟くと、ざくろは顔を輝かせてうんうん、と頷いた。
「作って作って!」
今も幸せだけれど、帰ってからも幸せがある、と恋人たちに囲まれたざくろは、ますます笑顔になるのだった。
収穫していたときも賑やかだったけれど、さらに賑やかに湧いている果樹園。それを穏やかな目で見守りながら、早くも出荷用のリンゴの選別に入っていたのが、ミカだった。タイガは、それを見て、そっとハンターたちの輪から抜け出した。
静かにミカの隣に並ぶと、ひとつ深呼吸をしてから声をかける。
「あの……、リンゴの選別のやり方、教えて貰えないかな。俺、もっとちゃんと、果樹園の仕事勉強したい、って、今日一日やってみて思ったんだ」
「……はい。是非。嬉しいです」
ミカは、穏やかにそう言って、滅多に見せることのない笑顔を、タイガに向けた。
尊敬が恋心に変わったタイガだったが、それがまた、もう一段階、尊いものになった。と、そっと遠くで見守っていた友人・イサトが、思ったのだった……。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
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林檎園にて(雑談卓) 雨を告げる鳥(ka6258) エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/11/21 18:33:46 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/11/22 05:07:31 |