ゲスト
(ka0000)
誘拐犯を追え
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2016/12/03 19:00
- 完成日
- 2016/12/09 02:20
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
シルクハットを被りジャケットを羽織ったトイプードルが、肩掛け鞄を下げ、雑踏を行く。
鞄の中に入っているのは、クレヨン、スケッチブック、そして単語カード。
「わっしわっし、わしー」
彼こそは、コボルドコボちゃん。ハンターオフィス・ジェオルジ支局のマスコット。のどかな牧場の風景が広がる田舎住まい。でも本日はこの通り、リゼリオにいる。
彼は最近、コボルドにして希有なことに、字を覚えた。
その実験を行った動物学会は、このことに色めき立っている。もっとやれるんじゃないかと大いに期待し、継続して学習させることに決定。そのため定期的に、学会本部があるリゼリオにご招待。
とりあえず目下の目標は、書ける単語を増やすこと。
でも、いかに小さいと言ってもコボルドはコボルド、暴れだしたら素人では対処が難しいので、力の強い同伴が必須。
その任を受けたハンターたちは、コボちゃんがはぐれて行かないよう、鞄の紐を握って誘導。
「コボちゃん、よそ見しちゃ駄目ですよ」
「わしー、わしわしー」
しかしコボちゃん、落ち着かない。
「うーわし……うーわし」
珍しいものがたくさんあるし、人波はすごいし、おいしい匂いも漂ってきた。
我慢が出来なかったので鞄をほっぽり出し、そちらへ走って行く。
「あ、こら! 駄目ですったら!」
制止などなんのその、小柄な体を利用しておいしい匂いへ一直線。
大通りに面した赤のれん。そこに黒々と書かれた文字をコボちゃんは「読んだ」。
(ヤ・キ・ニ・ク・・・トー・ホウ・シキ?)
トー・ホウ・シキは意味が分からないが焼き肉のことは分かる。つまり、焼いた肉だ。
金網の上で肉の焼ける脂っぽい匂いが店内の熱気と交ざり会い、これでもかというくらいに漂ってくる。
ついつい流れ出るよだれ。
道行く人がコボちゃんを見て、興味深そうによってきた。
「あれ、なんだこいつ。立って歩いてるぞ」
「どこのワンちゃん?」
鼻の利くコボちゃんには分かった。彼らが食い物を持っていると。
早速それを寄越すよう書面で談判――何しろ人間というのはコボルド語が聞き分けられないほど耳が悪いから――しようと思ったが、筆記用具を入れた鞄がない。それを持っているだろう連中は、どこではぐれたのか姿が見えない。
仕方ないので被っていたシルクハットを脱ぎ、逆にして、人々にうりうりと突き付ける。
「うーわし、うーわし、わし」
「おお、こいつ芸達者だな」
「うまいうまい」
朗らかに笑い、代わる代わる頭を撫で去って行く人々。
違うそうじゃない。食べものをよこせと言うとるのだ。
不満のあまり顎を突き出すコボちゃん。
その時彼の目に、子供の姿が映った。
年の頃合いは3つか4つくらい。匂いからしてメス。帽子を目深にした大人のメス――風邪でも引いたかマスクをかけている――からホットドッグを渡されてる。
仕方ないあれを分捕ってやろう。
そう思って彼らの後を追う。
行き交うたくさんの足に邪魔されつつ。大路から脇道に入る。
そこにしけた馬車が一台停まっていた。
メスがひゅっ、と短く口笛を鳴らす。
馬車から大きなオスが1匹飛び出し、子供の顔に袋を被せ、中に引きずり込んだ。一瞬の早業。
メスがこちらの存在に気づき、石を投げてきた。
「シッ! シッ!」
コボちゃんはそれを避け、うー、と唸る。
「イヌなんざほっとけ!」
オスの声でメスが馬車に乗り込んだ。
馬が走りだす。
コボちゃんは真っ先に、連れ込まれる際子供が落としていったホットドッグに駆け寄った。
取り上げて口一杯にほお張る。
来た道を戻り、また大通りに出る。幸せな気持ちで。
●
ハンターたちは、はぐれたコボちゃんをやっと見つけた。
「いたいた! あそこ!」
「ああよかった。もう、本当に焦りましたよ」
「おい、どうしたんだそのホットドッグ……まさかどこかの店から勝手に取ってきたんじゃないよな?」
「わしー。わししー。わしわわし……」
喋る途中で『そうだこいつらコボルド語が分からないんだった。やれやれだぜ』的な顔をし、肩掛け鞄からスケッチブックとクレヨンを取り出すコボちゃん。
手にホットドッグを握った小さい棒人間。
それと手を繋ぐ第二の棒人間。
「親子連れに貰ったということらしいですね」
「らしいな。勝手に餌をやられちゃ困るんだけどなー」
穏当な解釈に落ち着くハンターたち。
しかしコボちゃんは、クレヨンを動かす手を止めなかった。
「あれ、続きがあるみたいですよ」
「ん? どれどれ」
多分馬車なんじゃないかなーという箱。
それに乗った第三の棒人間。
第三の棒人間、小さい棒人間の頭に何か被せ馬車の中へ入れる。
第二の棒人間馬車に乗る。
馬(マッチ棒を刺した箱に見える)に引かれて走っていく馬車。
地面に転がるホットドッグ。
それを拾うコボちゃん(なぜか自画像だけは棒でない)。
ハンターたちは顔を見合わせた。
それぞれ解釈の差はあれど共通しているのは「なにかおかしくないか」というもやもや感。
折も折、雑踏に紛れた会話が聞こえてきた。
「すいません、あの、この位の背丈の女の子を見かけませんでしたか? うちの子なんですけど……」
「いやー、見てないねえ。どうしたんだい」
「ええ、買い物に連れてきていたんですけどね、急に姿が見えなくなって……」
鞄の中に入っているのは、クレヨン、スケッチブック、そして単語カード。
「わっしわっし、わしー」
彼こそは、コボルドコボちゃん。ハンターオフィス・ジェオルジ支局のマスコット。のどかな牧場の風景が広がる田舎住まい。でも本日はこの通り、リゼリオにいる。
彼は最近、コボルドにして希有なことに、字を覚えた。
その実験を行った動物学会は、このことに色めき立っている。もっとやれるんじゃないかと大いに期待し、継続して学習させることに決定。そのため定期的に、学会本部があるリゼリオにご招待。
とりあえず目下の目標は、書ける単語を増やすこと。
でも、いかに小さいと言ってもコボルドはコボルド、暴れだしたら素人では対処が難しいので、力の強い同伴が必須。
その任を受けたハンターたちは、コボちゃんがはぐれて行かないよう、鞄の紐を握って誘導。
「コボちゃん、よそ見しちゃ駄目ですよ」
「わしー、わしわしー」
しかしコボちゃん、落ち着かない。
「うーわし……うーわし」
珍しいものがたくさんあるし、人波はすごいし、おいしい匂いも漂ってきた。
我慢が出来なかったので鞄をほっぽり出し、そちらへ走って行く。
「あ、こら! 駄目ですったら!」
制止などなんのその、小柄な体を利用しておいしい匂いへ一直線。
大通りに面した赤のれん。そこに黒々と書かれた文字をコボちゃんは「読んだ」。
(ヤ・キ・ニ・ク・・・トー・ホウ・シキ?)
トー・ホウ・シキは意味が分からないが焼き肉のことは分かる。つまり、焼いた肉だ。
金網の上で肉の焼ける脂っぽい匂いが店内の熱気と交ざり会い、これでもかというくらいに漂ってくる。
ついつい流れ出るよだれ。
道行く人がコボちゃんを見て、興味深そうによってきた。
「あれ、なんだこいつ。立って歩いてるぞ」
「どこのワンちゃん?」
鼻の利くコボちゃんには分かった。彼らが食い物を持っていると。
早速それを寄越すよう書面で談判――何しろ人間というのはコボルド語が聞き分けられないほど耳が悪いから――しようと思ったが、筆記用具を入れた鞄がない。それを持っているだろう連中は、どこではぐれたのか姿が見えない。
仕方ないので被っていたシルクハットを脱ぎ、逆にして、人々にうりうりと突き付ける。
「うーわし、うーわし、わし」
「おお、こいつ芸達者だな」
「うまいうまい」
朗らかに笑い、代わる代わる頭を撫で去って行く人々。
違うそうじゃない。食べものをよこせと言うとるのだ。
不満のあまり顎を突き出すコボちゃん。
その時彼の目に、子供の姿が映った。
年の頃合いは3つか4つくらい。匂いからしてメス。帽子を目深にした大人のメス――風邪でも引いたかマスクをかけている――からホットドッグを渡されてる。
仕方ないあれを分捕ってやろう。
そう思って彼らの後を追う。
行き交うたくさんの足に邪魔されつつ。大路から脇道に入る。
そこにしけた馬車が一台停まっていた。
メスがひゅっ、と短く口笛を鳴らす。
馬車から大きなオスが1匹飛び出し、子供の顔に袋を被せ、中に引きずり込んだ。一瞬の早業。
メスがこちらの存在に気づき、石を投げてきた。
「シッ! シッ!」
コボちゃんはそれを避け、うー、と唸る。
「イヌなんざほっとけ!」
オスの声でメスが馬車に乗り込んだ。
馬が走りだす。
コボちゃんは真っ先に、連れ込まれる際子供が落としていったホットドッグに駆け寄った。
取り上げて口一杯にほお張る。
来た道を戻り、また大通りに出る。幸せな気持ちで。
●
ハンターたちは、はぐれたコボちゃんをやっと見つけた。
「いたいた! あそこ!」
「ああよかった。もう、本当に焦りましたよ」
「おい、どうしたんだそのホットドッグ……まさかどこかの店から勝手に取ってきたんじゃないよな?」
「わしー。わししー。わしわわし……」
喋る途中で『そうだこいつらコボルド語が分からないんだった。やれやれだぜ』的な顔をし、肩掛け鞄からスケッチブックとクレヨンを取り出すコボちゃん。
手にホットドッグを握った小さい棒人間。
それと手を繋ぐ第二の棒人間。
「親子連れに貰ったということらしいですね」
「らしいな。勝手に餌をやられちゃ困るんだけどなー」
穏当な解釈に落ち着くハンターたち。
しかしコボちゃんは、クレヨンを動かす手を止めなかった。
「あれ、続きがあるみたいですよ」
「ん? どれどれ」
多分馬車なんじゃないかなーという箱。
それに乗った第三の棒人間。
第三の棒人間、小さい棒人間の頭に何か被せ馬車の中へ入れる。
第二の棒人間馬車に乗る。
馬(マッチ棒を刺した箱に見える)に引かれて走っていく馬車。
地面に転がるホットドッグ。
それを拾うコボちゃん(なぜか自画像だけは棒でない)。
ハンターたちは顔を見合わせた。
それぞれ解釈の差はあれど共通しているのは「なにかおかしくないか」というもやもや感。
折も折、雑踏に紛れた会話が聞こえてきた。
「すいません、あの、この位の背丈の女の子を見かけませんでしたか? うちの子なんですけど……」
「いやー、見てないねえ。どうしたんだい」
「ええ、買い物に連れてきていたんですけどね、急に姿が見えなくなって……」
リプレイ本文
猪川 來鬼(ka6539)はコボちゃんの絵を見て少し考えた後、意見を述べた。
「町に遊びに来ていたお母さんと子供を迎えに来たお父さん――ということじゃないかな。これ」
門垣 源一郎(ka6320)が愛想のない顔で突っ込む。
「迎えに来たと仮定して、頭に袋を被せる必要性はどこにあるんだ?」
砕牙(ka6650)は源一郎の意見を参考に、來鬼の解釈に、多少の変更を加える。
「お迎えじゃなくてよ、逃げた妻子を強引に連れ戻しに来たって感じなんじゃねえ? これ」
ロニ・カルディス(ka0551)は顎をこぶしに乗せ、言った。
「その疑いもなくはないが……そもそも本当に親子なのか、この3人。どうなんだ、コボ」
コボちゃんから戻ってきたのは、「わし?」という言葉と肩をすくめる仕草だけ。
來鬼が言う。
「親子かどうか聞かれても、コボちゃんわかんないんじゃない? 直に相手と話をしたわけでもなさそうだし。してもコボルド語じゃ通じないだろうけど」
天竜寺 舞(ka0377)も、棒人間が親子を表したものではないように思えてならない。
折りも折背後から、次の会話が聞こえてきた。
「すいません、あの、この位の背丈の女の子を見かけませんでしたか? うちの子なんですけど……」
「いやー、見てないねえ。どうしたんだい」
「ええ、買い物に連れてきていたんですけどね、急に姿が見えなくなって……」
振り向いた先にあったのは、おろおろしている母親らしき女性と、戸惑う露店主の姿。
舞はもう一度、絵を見直した。この3つの棒人間が親子でないとしたら、導き出される結論はひとつしかない。
(これ、まさか誘拐の場面?)
急いで女性の元へ行き、話を聞く舞。
「横入り失礼するよ。あたしはハンターの天王寺 舞っていう者なんだけど、もしよかったら、行方不明になった子の話をもう少し詳しく聞かせてもらえないかな? ひょっとしたら、心当たりがあるかも――」
不動シオン(ka5395)は確実にひと騒ぎ出来そうなことに、軽い高揚感を覚える。
「世の中何が起こるか分からんものだな。丁度いいタイミングで目星が付くとは」
手短に話を聞き終えた舞が戻ってきた。コボちゃんの前で膝をつき、目と目を合わせ言い聞かせる。
「コボ、この子と大人達の服装や特徴、それと馬車に何かマークみたいなのがついてたらそれも思い出して描いてくれない?」
それを聞いたコボちゃんはあからさまに、『メンドクセ』という顔をした。
しかし舞は、彼の操縦法を知っている。
「上手く子供を見つけられたら焼肉奢るよ」
コボちゃんの耳がピクリと動く。
「それだけじゃない。あんた『すき焼き』って知ってる? 牛肉を割り下で煮込んで卵を付けて食べるんだ。それも作ってあげる。先ずは手付にこれね」
と言って差し出すのは、コボちゃんの好きな干し肉。ブレナー ローゼンベック(ka4184)も、説得工作に参加した。
「この子を探すのに協力してくれたら、このあたりでコボちゃんが気になった食べ物を、1つプレゼントしてあげますよ?」
コボちゃんは、せっせと絵を描き始める。
細かな部分の描写力はいまいちだったが、とりあえずコボちゃんが見た子供と母親の娘とが同一人物だという確認は取れた。後、犯人たちの服装についても。
顔立ちについては……残念ながらよく分からなかった。帽子、マスク、サングラスといった小道具で隠されていたので。
●
「人攫いをのさばらせておくのは、今後を考えればよろしくないな。確実に追い詰めて、お縄につかせねばなるまい」
ロニは乗合馬車の停留所を回り、聞き込みを行った。同行するのは來鬼。停留所にいた人間に手当たり次第聞いて回る。あくまでも『知り合いを探している』といった風に。行方を捜していることを、犯人側に悟られないように。
「ここに二人連れが立ち寄らなかったか? 俺の兄夫婦なんだが、迎えを頼まれてて――」
そんな出だしから始めて「小さな子供連れ」又は「大きな荷物を持った」男女について聞き回る。
結果得られたのは『子供連れは知らないが、トランクを持った男女の旅行客なら見かけた……でもあんたたちの言うのとは風体が全然違ってたよ?』という証言ばかり。
來鬼はむーんと考え込む。
「やっぱりあの絵の情報だけで探すのは、限界があるんじゃないかなあ」
「そう言っても、他に確かな手掛かりがあるわけではないからな。地道にやるしかない……警察にもこの件を知らせているからな。必ずどこかで警戒網に引っ掛かるはずだ」
「警察がちゃんと仕事してくれればの話だけどねぇ。とりあえずこのまま『風体が違う二人』を追いかけてみる? どこからどう見ても旅行客にしか見えなかった、って言う」
「ああ、そうしよう」
そのとき、ロニの魔導短伝話が鳴った。出てみれば、舞だった。
●
昼中はほとんどの店が閉まっているので、さっぱり人通りがない飲み屋街。
コボちゃんが路肩に放置された馬車に鼻を押し付け、吠えている。
「わし、わし」
柴犬ゴエモンも一緒に吠えている。
「わん、わん」
舞は馬車に繋がれたままとなっている馬の鼻面を撫で、会話している。
「……そうなんだ、馬車を乗り捨てて行ってる……場所の番地はね……」
その間に砕牙は車体の戸を開き、中を見回した。
座席を探り血痕などないか確かめる。子供が何らかの危害を加えられた可能性を考慮して。
見た限り、そういうものはなさそうだった。しかし念のため、コボちゃんに確認を取らせる。
「コボ。血の匂いとかしてないか?」
コボちゃんは首を振った。
鼻をこすり馬車から降り、路上のゴミ箱を引き倒した。ぶちまけられるゴミ。ゴエモンが寄って来て、鼻を突っ込む。
慌てて止めに入る舞。
「こら! 二人ともゴミ漁りしない!」
コボちゃんがゴミの中から何かを引きずり出す。それは彼が絵に描いたとおりの衣装と、小道具だった。
●
「――なるほど……分かった。そちらも気をつけて」
砕牙からの伝話をいったん切ったシオンは、心中舌打ちした。
誘拐犯たちは服装を変えている。幸いロニたちが変装後の姿と思われるものを伝えてきたが、それもまた、いつ変えられてしまうことやら。
(いよいよ時間が勝負だな)
強く思う彼女は、源一郎に尋ねた。
「アタリが来そうなのはどこだ?」
源一郎は仲間から伝え聞いた情報を頭の中で突き合わせ、乗合馬車ギルドから入手した運行表付き路線図とにらめっこ。
最終的に彼は、2、3の場所を割り出す。
「舞がここで乗り捨てた馬車を見て……ロニがここで目撃情報を得た……とくるとこことここと……ここかな。都市外への乗り換え路線が集中している」
「市内に潜伏はしないと見るわけだな?」
「ああ。最近この市では警察が犯罪防止の観点から、部屋の貸し借りの規制や、空き家対策に力を入れているそうだからな。ついこの間も、犯罪組織の一団が潜むアジトを摘発したそうだ――残念ながら踏み込んだときは、もぬけの殻だったらしいが」
「いまいち頼りにならない探索力だな」
「だから俺たちが力を貸してやらないとな……奴らが取引を終える前に、見つけるんだ」
●
「はい、分かりました。幸い今僕がいる場所から近いですので、すぐにそこへ向かいます」
源一郎からの伝話を切ったブレナーは、彼から教えられた『アタリの来そうな場所』へと向かう。
幾つもの交差路。引っ切りなし人と馬車が行き交っている。
葉を隠すには森。そんなことを思いながら、都外への便が出る停車場に向かう。
そこもまた人でごった返してはいたが、外の通りほど移動が激しくないので、まだしも確認が取りやすい。
数多い二人連れの男女の中から、該当しそうなものを選ぶ……。
「!?」
ブレナーは固まった。疑わしい組み合わせを見つけはしたのだが、そこに、男女と同じように旅行者然としたいで立ちの男が数人加わっていた。
談笑しているその一団の足元には、2つのトランクがあった。形も柄も大きさも、まるで同じもの。
(……あれで間違いはなさそうだけど、えっと……どっちのトランクでしょうか?)
目を離さないようにしながらブレナーは、仲間に連絡する。
「もしもし……」
●
ブレナーから連絡を受け、現場に駆けつけたハンターたちは、彼同様戸惑った。
「たまたま似たトランクを持っていた――わけはないな。両方確保しといたほうが、間違いなさそうだ」
素早く片付けたシオンは、皆――ロニ、來鬼、源一郎、舞、砕牙に目配せする。
「囲もう」
舞はコボちゃんに聞いた。
「コボ、あれがあんたの見た人間で間違いないね?」
コボちゃんは眉間にしわを寄せ、頷いた。
たくさんの足に遮られ相手の姿は見えぬものの、自分に石を投げたにっくきメス人間、並びにオス人間の匂いはぷんぷんしてくる。
「わし」
コボの確認を終えたハンターたちは、それぞれ人込みに紛れ、対象から悟られぬよう展開して行く。
そのとき犯人たちが、急に動き出した。
逃げる気配を察した砕牙は、トランクに手をかけている男目がけ突進し、脇腹に一撃を入れた。
崩れ落ちた相手の手からトランクをもぎ取り、渾身の力でこじ開けた。結構な重みの袋が飛び出してきた。振ってみれば金貨のぶつかり合う、澄んだ音。
直後誘拐犯の女が、もう片方のトランクを蹴り飛ばす。重い車輪が行き交う車道目がけて。
「――!」
ロニはトランクに向かってホーリヴェールをかけた。
マテリアルの障壁はトランクが受けるはずだった車輪の衝撃を身代わりに引き受け、砕け散る。
舞と來鬼が車道に躍り出トランクをかっさらい、向かいの歩道に転がり込りこむ。
騒ぎで進行を妨げられた馬車同士が、軽い衝突事故を起こした。流れの止まった車道を横切ってブレナーは、彼女らのもとに駆け寄った。
「大丈夫ですか!」
『大丈夫』の対象が自分たちではないことを承知している舞と來鬼は、トランクをこじ開ける。
その中から出てきたのは袋詰めの子供。手足を縛られ、目隠しをされ、猿轡をかけられている。
「しっかり! 起きて!」
拘束を外してやっても、ぐったりとして動かない。よだれの出ている口元からは、甘たるい、妙な匂いがした。
來鬼が言う。
「一服盛られてるみたいだね」
ブレナーは応急処置として、子供にヒーリングをかけた。
舞は、近寄ってきたゴエモンとコボに言い聞かせる。
「いい、この子をしっかり見てて。あたしたちは悪党を捕まえてくるから」
●
犯罪者たちは四方八方、てんでばらばらに走りだす。
「止まれ!」
ロニは次々とジャッジメントを放つ。
動けなくなった輩にシオンが槍の柄で一撃食わせ追い打ちをかけた。
しかし子供を誘拐した男女は誰にも先んじて人込みに紛れ、逃げて行く。
「待て!」
追うシオン。
源一郎は彼女の脇を擦り抜けながら、言った。
「男は俺がやろう。お前は女の方を追ってくれ」
●
誘拐犯はシオンと源一郎が追いかけて行った。子供については舞たちが確保した。
残るはその他の悪党だけ。砕牙はそれを、馬で追う。
「ガキ狙って人攫いたァひどく性根の腐ったヤツもいたもんだ。ひとつ灸をすえてやらねぇとなぁ……」
犯罪者たちが待機させていた魔導トラックに乗り込むところを、追いかける。アナウンスしながら。
「みなさーん! そいつら誘拐犯ですからー! 極悪人ですからー! 警察にご連絡-!」
発進するトラックのフロントガラスに、螺旋突を撃ち込む。
トラックが急ブレーキをかけ、路肩の壁に激突。
そこへ舞と來鬼、ロニが応援に駆けつけてくる。
●
源一郎は、男が裏道に入り込んだところで追いついた。盾で壁に押し付ける。
「さて、お前には聞きたいことが山ほどあるんだが……答えてくれるだろうな? もちろん?」
男は口を歪め、唾を吐いた。
「はあ? 何様だお前。警察でもねえくせに職務質問が出来るとでも」
「残念だがこれは職質じゃない、尋問だ」
言いながら源一郎は、男の親指を握り、逆向きにへし曲げた。
「ぎゃああああ!」
「安心しろ、指は全部で10本。態度を考え直す時間はたっぷりあるぞ? で、お前達と取引をしていた相手についてだが……」
●
シオンは女を追う。
「待て!」
女は歩いていた通行人の腕を取り、懐から出した銃を突き付ける。
「動くな!」
シオンは槍を地面に目がけ、叩き降ろした。爆炎のような閃光がきらめく。
「人質を取っても無駄だ。素直に負けを認めろよ小悪党ども!」
音と光に女が怯んだ隙に脇へと回り込み、槍の柄で膝へ一撃。
くずおれた所に利き腕目がけ、更にひと突き。
取り落とした銃を蹴り飛ばし、捕縛する……。
●
東方焼き肉専門店『黄金の味』の一角。
ハンター7名と、コボルドが卓を囲んで座っている。
真ん中には網の上で焼ける肉。くつくつ煮えているすき焼き鍋。
「よくやった! 偉かったぞコボ!」
舞から頭をかき回されるコボは、初めてのすき焼きに興味津々。
ブレナーから買ってもらったホットドッグをむちゃむちゃしながら、肉をつつこうとする。
舞はそれを箸で押さえた。
「待て待て、まだ割り下をかけてない。さっと肉に火が通ったところをとき卵につけて食べ、肉そのもののおいしさを味わう……それこそが正しいすき焼きの味わい方なんだ」
來鬼はとろけるようなカルビをかみしめつつ、源一郎に尋ねた。
「そういえば源一郎、犯人の両手両足へし折ったんだって?」
「誰もそこまではせん。指を3本折って2枚生爪を剥がしただけだ」
焼き肉のたれをご飯にかけていた砕牙の手が止まる。
「えぐいなー。完全に拷問じゃん」
ロースを裏返し、シオンが言う。
「そのくらい当然だ。連中が子供を売ろうとしていた先を知っているか?」
「いや、聞いてねえっす。どこだったんすか」
「児童愛好者専門の売春組織だ。顧客から注文を受け、好みに合致した子供を提供するのだそうだ」
來鬼が膝を打った。
「あ、なるほど。だからか!」
「……何がだ」
「うち疑問だったんだよね。なんで親のいる子狙ってんだろうって。だってさ、孤児院とか襲った方がはるかに楽じゃない? たとえ子供が消えても、今回みたいに騒がれにくそうだし。でも顧客オーダー優先なら、そういう効率後回しでもおかしくないよねえー」
「ゲスい発想だな」
「何言ってるの、現実に犯罪犯してる人間の方がゲスじゃない。ブレナーちゃん、あの子は大丈夫だったの?」
ブレナーはスジを小皿に取り入れつつ、答える。気掛かりそうに。
「大丈夫だと思います。僕のマテリアルヒーリングに加えてロニさんが、キュアをかけてくれましたから……」
ロニは肉につける生卵をとく。念入りに。
「大事を取って医者にも見せたからな。まず心配要らないとは思う」
肉が焼けた。
コボちゃんは卵に絡めた焼けたお肉を大喜びで、パクリとひとのみ。一声吠える。
「おわっし!」
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/11/30 22:02:59 |
|
![]() |
相談卓 門垣 源一郎(ka6320) 人間(リアルブルー)|30才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/12/03 16:21:07 |