咲き誇れニャンシングフラワー

マスター:ムジカ・トラス

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~7人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/09/29 12:00
完成日
2014/10/06 02:06

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 散り散りになった雲が薄く広がっている。遠景には野山。草原には人の姿はない。幾星霜もこの世界に描かれている絶景。微細な色彩が陽光を返している。立秋。恵みの季節が、生き物たちに生きる糧を送り届けようとしていた。
 そこに。
『ナンだか良い天気だナァ』
『そうだニャァ」
 伸びをして空を仰ぐ二つの影があった。
 ユグディラ、である。小柄な身体で、まるでヒトのように器用に歩く。彼らは時に人間たちの畑などを食い荒らし、時に亜人や雑魔や魔獣などに襲われる。弱肉強食の世界の片隅で生きる幻獣である。最初に口を開いたのは全身真っ黒の毛で覆われたユグディラであった。黒毛の中に浮かぶ金眼が、宝石のように輝いている。
『そろそろ秋がくるらしいニャァ』
 野生動物にあるまじき調子で返したのは、片割れとは対照的に真っ白なユグディラである。白毛赤眼。しなやかな動作で、辺りを見渡す。獲物の気配も、脅威の気配も無い。
『そろそろコイツも出来上がるといいナァン……』
 草原に、ユグディラが二匹。彼らが何をしていたか、というと。
『立派に育つンだニャ……』

 植物を、育てていた。今しがた猫っぽい身体で小器用に水をかけたばかりの葉葉が艷やかな光を返している。それなりに太い茎の先で、それに見合う程に大きい蕾が、今にも開こうとしていた。

『僕らの実験が成功すれば、きっと一大事だナァ』
『そうだニャ!』
 黒猫の言葉に、したり顔で頷く白猫。
『これさえあれば、ニンゲン達を煙にまいて食べ物が取り放題祭りだニャ!』
『だナァ〜』
 じぃ、と、万感を籠めた目線で蕾を見つめるユグディラ達であった。


 なお。会話はイメージである。
 実際にこのような会話が成されていたかは不明だが――後に、ある事件が起こることとなる。



「お。エリー、居た居た」
「……ヘクス。また屋敷から離れたのか」
 王都内に在る騎士団の本部に顔を出したヘクス・シャルシェレット(kz0015)を、エリオット・ヴァレンタイン(kz0025)は渋面で迎えた。
「僕がフラフラと遊び回るのはいつもの事だから、今更目くじら立て無くてもいいじゃないか」
 ヘラヘラと笑いながら、ヘクス。
「それとも、『忙しい所に何をしに来た』とか『どうせ碌でもないことなんだろうな』とか、思ってる?」
「……」
 今度こそ、エリオットは慨嘆した。
「そうだな。忙しくない、と言ったら嘘になる」
 騎士団長は眼前に積み上がった書類を見て、更に深く息を吐いた。
「団内の決裁に加えて、今は帝国での歪虚の騒動の動向に留意する必要もある。それに……国内で見られる歪虚の不審な動きが、どうにも気になる」
「お。そろそろ何かするのかい」
「……そうしろと言っていたのはお前だったと記憶しているが?」
「あれは『商人たちが気にしてるよ』って言っただけだけど?」
「……」
「騎士団にしてはだいぶ早い動き出しだったね」
 そこまで推察が回らない事に、疲れているな、とエリオットは苦笑を落とした。
「……だから今、こうして手が回らなくなってきている」
「みたいだね」
 ヘクスはくすくすと笑う。
「それで、本題は?」
「ああ、それなんだけどね……」



「演習、だって?」
「詳細は通達されていないけど、そういう事みたい」
 騎士団員が十四人程、一団となって王都を発っていた。いずれも最近従騎士になったばかりの者達だ。街道に入り、人の眼が無くなるとほつれるように会話が生まれ始めた。
「訓練の為とはいえ、馬も無いとはね」
「決められた期限を考えると、さして余裕はない」
 ただの行軍とはいえ、新米の集団にお目付け役が付かないのは異例だと言えたが、そんな事は露ほども思わずに、言葉を転がしながら彼らは歩む。
「この装備でこの距離を踏破するのだけでもかなりの労苦だ」
「荷引きの馬でも入れば違うんだろうけどなあ」
「そんな甘えを廃する、地獄の教練があるという団長からの無言の圧力かな……」
 一様に深く、溜息を吐いた。
「俺はそんな団長、好きだぜ」
「え?」
「……」
「騎士団員になっても訓練から離れられないとは」
「そりゃそうだろう。僕らなんて……ん?」
「どうしたの?」
「いや、あれ」
 先頭を歩いていた従騎士の一人が、遠方を指し示した。
「……人影? それがどうかしたの?」
 ゆらゆらと、ふらふらと揺れるように見える人影が、どこか。
「踊ってるように見えないか?」
「まさかぁ」
 相対速度で縮まる距離。次第に、影の正体がはっきりと解るようになってきた。
「ユグディラじゃない!」
「……ただのユグディラじゃないぞ」
「踊ってるな」「踊ってるね」「楽しそう……」
 黒と白。二匹のユグディラが、踊りながら街道を進んでいた。満面の笑顔で仲良く拍子をとってゆるやかに、舞っている。
 王国民であれば餌を奪っては走り回り、亜人や歪虚から逃げるために走り回る彼らを見たことは一度や二度ではない。その時の機敏な動きと比べると、この舞いはどこか牧歌的に見えた。特に危害のない生き物なので、従騎士達は一様に笑顔になってユグディラ達を迎える。
「なんか良い物みれたねー」
「ん?」
「何か、聞こえない……」
「どうした、ステ」
「……あ、れ……?」

『にゃーマン、にゃーマン』
『ナーマン、ナーマン』

 次の瞬間には、従騎士たちは綺麗さっぱりと演習や行軍のことを忘れていた。



 それからまもなくして完全装備の従騎士達が踊りながら街道を進んでいる姿が目撃された。何事かと近づいた行商人や農民達の一部が次々とその環に加わる。その様を見て、良識ある王国民が通報し、騎士団に報告が届いた。
 曰く。ユグディラ混じりの一団が、踊りながら王都に向かっていっている、と。
「……」
 報告を受けたエリオットは、その日一番の渋面でハンターズオフィスに依頼を出すように告げた。何かあれば自分自身で事態の解決に乗り出しがちなエリオットであったが、それをするには眼前の仕事を片付け無くてはならず。
「ヘクス、恨むぞ……」
 間違いなく偶発的な事件だと確信はしていたが、エリオットはそう零さずには居られなかった。



 踊りの輪の中心で、ユグディラ二匹は困っているようだった。
 黒い方のユグディラは、一輪の、向日葵に似た風情の花を掲げて、おろおろと鳴き声をあげた。
『ナ、ナァんだこれ!?』
『あ、ありのままに今起こったことを話すニャ!』
『漸く花が開いたから早速それを抜いて近くの畑で食べ物を貰おうと思っていたら……』
『いつの間にか暑苦しい騎士達に周りを囲まれて動けないニャァ……!?』
『……どうしよっかナァン……?』
『……』
 白いユグディラは暫し黙考したが、首を振った。周りでは、騎士達が鎧姿で三々五々に踊り狂っている。小柄なユグディラ達だが、そこを抜けるには密度故に一筋縄では行かなそう。
 何より。
『……踏まれたら痛そうだナァ……』
『……だニャァ……』

 繰り返すが、会話はイメージである。

リプレイ本文



 ――絡みOK、あるいは歓迎。
 その言葉、時と場合によっては倫理的にNGかもしれない。



 遠景に見えるは、密集し、街道を踊り狂いながら進む一団。甲冑が高らかに鳴り、陽気な調子で歩む。団子のように固まった人の最中に、奇妙な空隙が見えた。
「あン?」
 馬上で双眸を細めたナハティガル・ハーレイ(ka0023)が言う。従騎士や商人たちの真ん中に、周囲に怯えるように進む二本足の猫――ユグディラ。
「ありゃあ……ユグディラを中心とした一団が踊り狂いながら王都に向かってる、ってか? 従騎士達が混じってるって事は抗議デモの類じゃな無ぇよな」
「……なんだか凄い絵面だな」
 須藤 要(ka0167)は気圧されたように呟く。中心に居る――と思われる――ユグディラは、はっきりとしない。漠然と、白と黒の毛皮がふわふわと揺れて見えるのみ。
 ――行かないの?
 赤目の少女、エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)が、嘆息をした要に問うような視線を投げた。
「あんまり突撃したくないかな」
 従騎士の甲冑に限らず、いやに陽気な行商人だとか、通行人だとかは軒並み少年よりも大柄だった。突入しても、あまりいい気分にはならなそう。
 エヴァも、同感なのだろう。スケッチブックを片手に、はてどうなるかなと静観を決め込んでいた。自分一人がサボ――静観するわけではないと知れて、返って堂々と絵筆を構える。
「魔術的なモンで操られてる可能性が高ェが、ユグディラにそんな特殊能力ってあったか?」
「さぁ……」
 ナハティガルの言葉に、首をひねる要。
 実際の所、ユグディラに幻術を仕掛ける力が無いわけではないのだが、此程までに強力なものは知られていない。
 その傍ら。
「おォ……」
 ずしゃぁ、と膝を折る男が居た。クランクハイト=XIII(ka2091)だ。要は怪訝そうな顔で彼を見つめたが、クランクハイトはいやに早口で――
「な、なな何ですかあの可愛いの」
「?」
 祈祷の如き厳かさを滲ませながら、そう呟いたかと思いきや。
「お持ち帰り、じゃない誘拐、じゃなくて保護、保護しなければ……!」
「な、待っ」
 突然、駈け出した。一団を厳しい目付きで見つめていたナハティガルが慌てて静止の声を駆けるが、聞きもしない。大人げない全力疾走で神父は駆けて行った。
「……まさか、もう幻術が?」
 彼は呆気にとられる要を他所に手綱を返して少し距離を離すことにした。

「……新手のアイドル集団でしょうか?」
「嬢ちゃん、エルフなのにアイドルとか知ってるンだな」
「?」
 小首を傾げたチョココ(ka2449)の言葉に、転移人である鮫島 群青(ka3095)は思わず言葉を挟んでしまった。幼女の頭上ではパルムも同じように小首を傾げている。
「アイドルと言ったらゼナお姉さま……はっ、まさかゼナお姉さまのライバル!?」
「ゼナ……?」
「これは親衛隊員として、確認せねばなりませんわー!」
 幼女はそう言って、小走りにで集団へと駆けて行った。
「……」
 あっという間に置いて行かれた群青は、というと。
「そいつは違うぜ、嬢ちゃん」
 男は渋く言うと、ニィ、と歯を剥いて笑った。キャップを指で押し上げて、言う。
「こりゃ間違いなく念仏踊りだ」
 鮫島。お前もか。
「阿弥陀聖の教えが時代も時空も超えて、人々に影響を与える。こりゃロマンだ」
 ロマンという免罪符であらゆるツッコミを許さない男、鮫島は独語する。
「異世界間の交流ができた。ってーこたァ、新たな宗教観が根付いてもおかしくはねぇ。緩やかに世界が変わっていく、この瞬間。歴史の分岐点に立っているという、リアル感! この行軍にゃロマンが詰まりまくっている……!!」
 ただ一つ言えることは、彼はきっと、この世界に転移してよかった側の人間、ということだろう。
「だが、まだ足りねェ……念仏踊りに必要なのはもちろん踊り……そして、楽器だ!」
 タンバリンを片手に走りだした群青に、この言葉を贈ろう。

 ようこそ、クリムゾンウェストへ。



 そんな喧騒を他所に、ケダモノの眼で敵を見つめるオカマが居た。日浦・知々田・雄拝(ka2796)である。
「あら~これまた……スゴイ光景ね」
 ――知ってるわよ……リアルブルーの言葉で『踊る阿呆に観る阿呆…同じ阿呆なら襲わな損々』っていう言葉があるのをね!
 一人だけ、『ヤル』気マンマンだった。



 疾駆する影は四つ。クランクハイト、チョココ、群青――そして、雄拝である。エヴァと要はマスクや耳栓を付けて、遅れて続く。ナハティガルは、というと風上まで移動している。
 チャンカチャンカと甲冑が鳴るコメディ空間に四人が突入。
「ファッ?!」
 ――真っ先に突っ込んだクランクハイトが悲鳴を上げた。
「これは」
 うねり、とぐろを巻く、数多もの背徳的な触手的なナニかが、彼を迎えていた。
「ものすごく……大きいです」
 ゴクリ、と生唾を飲む。
 そこに。
「たのしそうですのっ!」
「たの?」
 唐突に響いた声は――幼女の声をしていた。生唾モノの光景を楽しげだと言いきったチョココは、陽気に唄い出した。
「ニャーマーン♪ ナーマーン♪」
「足りねェ……!」
 紗蘭と、金属質な音が響く。
「オレは鳴らすぜタンバリン!」
 快活な打音と、それに続く優雅な音。それらを貫いて響く群青の声。
 群青はそのまま、一団の最前列へと進んだ。ひらひらと和風の舞いをしながら、先頭で一団を率いて進む。
「タンバリンを鳴らすぜオレは……オレがこの念仏踊りに、新たな風を吹き込む!」

「……これは」
 タンバリンを振り鳴らして触手の一団を先導する群青に。横を歩いては楽しげなチョココ。
 その中心にはザ・触手的な何者か。それは時折群青だったりチョココだったり伸びたり伸びなかったり――。
「これは……幻覚でなければ倫理的に不味いシロモノですね、色々な意味で――そう、まるで●●」
 そう言った、瞬後の事だった。
「ハァァァァンっ!」
 黄色い声を上げて、雄拝が横合いから突っ込んだ。
「狭いわッ! 狭いせいよねッ! ねッ!? ゴチ……ごめんなさいねッ!?」
 言いながら、触手とくんずほぐれつの格闘戦を演じ始めた――ようにクランクハイトには見えた。
「……」
 絵面があまりによろしくない。
「――はっ。そうでした、お持ち帰り……!」
 クランクハイトもまた、その触手に身を躍らせた。身体全体を触手――のようにクランクハイトには見えている――に嬲られながら、進む。
「待っていて……ふぁ、そこは……下さい……ッ!」



「……これは、幻覚?」
 ――残念ながら、違うと思う。
 ナチュラルに生じた混沌を前に零れた要の言葉に、エヴァは首を振った。
 目の前で繰り広げられているのを絵に残すのは、何となく倫理的によろしくない気がしてエヴァは絵筆をしまった。
 クランクハイトは怪しい汗を掻きながら、人波を掻き分けるのに必死。時々変な声を挙げている。
 鮫島はタンバリンを鳴らしながら踊り、チョココはチョココで楽しげに歌ってばかり。
 雄拝は倫理的に割愛。積極的にクランクハイトに手を伸ばしているのは気のせいだろうか。
 ――幻覚よりも濃い病気に掛かっている人は大丈夫なのかも。
 見れば、馬に乗ったナハティガルも辛そうな顔で一団を見ていた。馬で突破するには人が多過ぎるために暫し静観の構えの様子。
「行くしかないか……」
 かたや、要は諦観を滲ませて言う。エヴァも激しく同感だった。今、曲がりなりにも今回の問題の中心――ユグディラへと突き進んでいるのは、クランクハイトだけだった。
 ――行こう。
 ぐ、と。覚悟を決めて、進んだ。狙いは、雄拝のおかげで軽装になった従騎士の一部分。そこからなら――。
 無理だった。掻き分けて進んだ先で「やだ……ッ、躓いちゃったわっ!」とルパンダイブする雄拝が、従騎士を押しのけていた。天地の構えで胸板と■■に手が伸びているようにエヴァには見えたが、それどころじゃない。
「ま……そこは……ッ!」
「キャァァッ!」
 ――痛っ、……痛ぇっ!?
 謎の嬌声の只中、舞う従騎士達の甲冑がカンカンと身体の随所に当たる。その拍子にはらり、と口元の布が解けた。
 ――ッ!
 エヴァは布に手を伸ばすが、人の波に飲まれて消えてしまった。
「あだだ……ッ!」
 要の声が聞こえる。あちらはあちらで大変なようだ。
 ――あれ?
 要は、どうやら混乱極まっている様子の雄拝を助けようとしているようだった。クランクハイトは中心に向かっていたし、一番手近な位置にいたのが雄拝だったからなのだが。彼は疾影士の早業で素早く近づき、手を伸ばし――。
「シャアアアアアッ! 来たワァァァッ!!」
「えっ、あ、っ、ちょっ!?」
 まさか、引っ張りだそうとした相手に引き釣りこまれるとは思っていなかったのだろう。要はあっという間に人並みに飲まれて見えなくなった。
 ――喰われたわね。
 エヴァは祈り手を切って、要の貞操の危機を見送った。
 なぜなら。
 エヴァの視界には、沢山の――肌色。鍛え上げられた大胸筋から腹直筋。それを脇から支える腹斜筋の陰影が、キュンキュンと胸を締め上げていた。
 ――いいじゃない、筋肉!



 ナハティガルは渋い顔で見守っていた。自分一人が行った所で、肉の壁に弾かれる予感しかしない。
「あははー、ニャーマーン♪ ナーマーン♪」
「平癒を祈ろうぜ、皆の衆ゥゥゥ!」
「はァァ……そこは……その■はちが……じゃなくて……●●……はッ!」
「ちょ、まって、だ、だれか! 誰かたすけ……ッ!」
「イヤァァン! 手が……滑っちゃう……!」
「……!」
 一人、声はないものの、喜悦の表情で従騎士達の間でキョロキョロと辺りを見渡している。
「……“花粉”にゃ要注意ってことだな」
 ナハティガルは重く深い息を吐いた。乗用馬が、ちらりと乗り手である彼を見た。
 ――行きたくねェか。
「……解ってる。少しだけ、待つさ」
 醜態を晒すつもりはなかったし、貞操を危機に晒す気もさらさらなかった。



 ――んっ……汗臭……いや、これは……※※のにお……。
 真っ先に我に帰ったのはエヴァだった。視線の先、中央に近しい所では、困憊しているクランクハイトが真っ白けになっていた。発言の伏せ字成分が徐々に増えていて、掲載にすら危機が見えた。
「●●……んは、必ず……持ち帰って……■■■を……」
「……」
 クランクハイトに落ちる昏い影にド偉いものを見た、と思いながら、エヴァは眼を逸らして自分の身体を眺めた。彼方此方に赤い打身が見える。
 ――………。
 当然のように、周囲にあるのは甲冑を着込んだ従騎士――他数名。
 肉欲にまみれた結果が、ひどく、疼いた。
「――ッ!」
 カッと眼を見開いたエヴァがマテリアルを練り上げると虚空に陰気な気配が満ちた。次いで青白いガスが顕現し、急速に広がった。魔術師の異能、スリープクラウドの現出だ。周囲の人間を一息に包み込んだその魔術は、必死に進もうとするクランクハイト、絶賛交戦中の雄拝と要、楽しげに歌うチョココと、体全身で念仏踊りを表現する鮫島を飲み込んだ。

 エヴァの身体も、また。

 一同に、安らかな眠りが訪れた――。



 その機を見逃す男ではなかった。馬を駆り、行く。倒れ伏し、眠りに落ちた従騎士達の間を馬は器用に避け――彼らの中心、ユグディラ達の元へと、たどり着く。
「はぁ……ハァ、もっ……もう大丈夫れすからね……ちゃああああんと、安全なとこ、連れてってあげますからぁ……私の家とか、※※※とか……」
 白と黒、ユグディラ二匹は至近で異彩豊かな寝言を放つクランクハイトに心底怯えているようだった。まるで、聖職者の仮面が剥がれたかのよう――普段のアレは、偽りの姿だったということなのだろうか?
「……もう大丈夫だ」
 憐れみを抱かないでもなくて、ナハティガルはそう言った後。
「悪いが『花』は頂いて行くぜ?」
 白いユグディラが抱えていた花を奪い取ると、一部をちぎり取り、革袋へと収めた。
 素早く火にかけ――ようと思ったが、火種が無かった。
「……そこを動くなよ」
 言いおいて、少し離れた位置で火を起こし、改めてその花を炎に投じた。肉厚な花は、軽く弾けた音の中、縮むように燃える。
「これで騒ぎが鎮静化すると良いんだが……さて」
 視線を、転じた。
「んっふふーっ! もふもふですのー♪ 可愛いですのー♪」
 パルムを載せた幼女、チョココが、ユグディラ二匹をがっちりと掴んで自らの頬で味わっていた。
「……と、まあ」
 ナハティガルは死屍累々の様を見つめて、こう零した。
「一件落着、か?」



「……ん……」
 要が眼を覚ますと、全てが終わっていた。
「よぅ、眼ェ覚めたか」
 群青がニィ、と笑って水を差し出す。
「ありがとう……これは?」
「騒ぎに巻き込まれた商人から、だとよ。アレも」
 群青が指さした先。

「ニャァァァ……」
「ナァァァァ……」
「ふああ……かわいいですの……皆様は普段何処にいて、どうしたらあえるのでしょうか……」
「……!」
 チョココとエヴァが、ユグディラ達を全力で愛でていた。ユグディラ達の眼前には干し肉だったり魚の干物だったりが並べられている。
「あんまりやりすぎんなよ……」
 餌を食べやすいサイズに解しているナハティガルは、苦笑しながら、言う。
「どうせ食うに困って何かしでかしたんだろうが……暫くは大人しくしてろよ?」
「ニャァァァ……」「ナァァァ……」

「あの干物だとかも、商人から助けられたお礼で置いていく、だとさ」
「へえ……あれ?」
 ふと、我に返る。
「俺、は……?」
 ――記憶が、ない。
「どうした?」
「い、いや……」
 ちらり、と。周りを見渡した。ぴたり、と。その動きが止まる。
 雄拝が、要を見ていた。ひらひらと手を振っているその姿が、どこか引っかかり――。
「痛……」
「大丈夫か? 頭でも打ったんじゃねェか?」
「――」
 頭痛がする。やけに艶やかな雄拝の姿が、要の脳裏にこびり着いて離れなかった。
「要っ…くん、ほら…一緒に猫さんたちと遊びましょ? すっごく気持ちいいですよ……♪」
 これまた、いやに悩ましげなクランクハイトの誘いに、要は腰をあげる。
 身体が、毛皮の感触を求めていた。無性に。何故か。

 その背を、見送りながら。
「平癒を祈るのが、念仏踊りだ」
 ――今は傷を癒やせよ、坊主。
 ウンウンと頷きながら、群青は頷いていた。
「これがすべての始まりだ。近い将来、万に達する大行列の――確かな、ロマンの……!」
 預言者の如き厳かな声色で、そう告げる群青の声が、重く大地に響いた。

 続くんですか。これ。



 なお、これは余談だが。
 この騒ぎに巻き込まれた従騎士達は、皆仲良く搬送された。
 完全装備で数時間に渡って踊り続けたのだから、宜なるかなであった。

 決して、アレとかアレが影響していたわけでは、ない――筈だ。きっと。

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MVP一覧

  • 死の訓戒者
    クランクハイト=XIIIka2091
  • 美ドワ同盟
    日浦・知々田・雄拝ka2796
  • 浪漫人・鮫
    鮫島 群青ka3095

重体一覧

参加者一覧

  • 一刀必滅
    ナハティガル・ハーレイ(ka0023
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • 雄弁なる真紅の瞳
    エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029
    人間(紅)|18才|女性|魔術師

  • 須藤 要(ka0167
    人間(蒼)|13才|男性|疾影士
  • 死の訓戒者
    クランクハイト=XIII(ka2091
    人間(紅)|28才|男性|聖導士
  • 光森の太陽
    チョココ(ka2449
    エルフ|10才|女性|魔術師
  • 美ドワ同盟
    日浦・知々田・雄拝(ka2796
    ドワーフ|20才|男性|疾影士
  • 浪漫人・鮫
    鮫島 群青(ka3095
    人間(蒼)|30才|男性|霊闘士

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アイコン 相談用スレッド
鮫島 群青(ka3095
人間(リアルブルー)|30才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2014/09/29 07:48:22
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/09/29 07:38:38