その頃、大型ヒツジさんは……

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/11/30 22:00
完成日
2016/12/07 01:49

みんなの思い出

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オープニング

 港町ガンナ・エントラータ郊外にて、王国軍とベリアル軍が激突している時。そこから遠く離れたリベルタース地方──

 一面に枯草の広がる、風荒ぶ草原に…… 巨大な大型ヒツジが、ポツンと。一人きりで立っていた。

 それは酷く、心に寂しい風景だった。
 『二階建ての大型バスを二台並べて、さらにそれぞれ一台ずつ乗っけた』くらいに大きな身体が、まるでネズミの様に小さく見えた。空にも厚い曇天が広がるばかり。自慢の金属製の巻き毛──スチールウールも、まるで艶をなくした様だ。

 全ては、決戦に先んじての前哨戦──このリベルタースに上陸後に彼、大型ヒツジがやらかした敗走が原因だった。
 今回の侵攻に際し、大型ヒツジは黒大公ベリアルから、人間たちがハルトフォートと呼ぶ砦に対する牽制攻撃を命じられていた。大型ヒツジにはその城壁を破壊できるだけの攻撃手段があったからだ。……決して、今回の黒大公の真の目的──『ユグディラの皮集め』には何の役にも立たないからとか、そういう理由ではない。……多分。
 まぁ、何にしろ、意気揚々と命じられた仕事を果たそうと砦に向かった大型ヒツジは、人間たちに──砲戦ゴーレムの実験隊に二度もその進軍を阻まれた。
 粘着弾による集中砲火を浴び、自慢の巻き毛をまるでポマードを塗ったくったかの様にべっちょりと台無しにされた挙句、怒って二本足で立ち上がったところを転されて。全身、土塗れ、泥まみれになって戦意を喪失。泣きながら帰ってしまったのだ。……二度も(←重要)
 報告を聞いたベリアルは激怒しかけた。うん、ちょっと平手(?)で叩いただけなので、激怒では決してない。
 そして、ベリアルは大型ヒツジに自分についてくる事を禁じ、この場に置き去りにした。ユグディラ狩りには邪魔だからとかそんな理由では(以下略)

「仕方がないメェ。ご自慢の毛並みがそんなことになってしまっては、お洒落に並々ならぬ矜持を持つ傲慢の歪虚としてはすぐに洗い落としたくなって当然だメェ」
 ズボッ、という音と共に、大型ヒツジの背中の毛の中から1体の、執事の格好をした羊が現れ、大型ヒツジを慰める様にポンポンと頭を撫でた。陽光が差したように、大型ヒツジの表情が明るくなった。
「仕方がないメェ。そんな理由で使命も果たせず、雪辱もせずに逃げ帰ったとあっては…… 誇り高き傲慢の歪虚の風上にもおけないメェ」
 もう一匹の執事羊がズボッと現れ、大型ヒツジを責める様にポンポンと頭を叩いた。大型ヒツジはガクリと肩を落とし、目に涙を溜めて身体を震わせた。

 日が落ちて、月が出た。どうせ曇天なので見えはしないが。
 大型ヒツジはその日も一歩も動くこともなく。外界の全てを遮断するかの様に、その場で涙に暮れながら丸くなった。


 日が落ちた。周囲に闇が訪れた。
 月明りも星明りもない闇の中、僅かに生えた草の中に、ひょこりと一対の耳が揺れた。
 カサカサという微かな草ずれの音の中に、同様の耳が現れ…… やがて、闇夜を見通す猫の目が。
「誰も……誰もいない、ニャね?」
 恐る恐るといった感じで頭を上げる猫の影──最初の1匹に続き、ひょこん、ひょこん、と次から次へと顔を出す。
 それは草間に潜んだユグディラたちの影だった。彼らは歪虚の多いこのリベルタースにおいて非常に珍しい、『地元』のユグディラたちだった。
 この地でベリアル配下の歪虚たちによるユグディラ狩りが始まった時、彼らは地元の地の利を活かし、見事にその魔の手から逃れることに成功していた。だが、そうこうしている内に、ベリアル本隊上陸に伴う歪虚の大量出現や、それを迎え撃つ為に武装した人間たちがわんさと現れ、挙句、動く岩の塊やらドカンドカンと轟音を発する筒やらまでもが出て来て、ここから一歩も動けなくなっていた。
 だが、それも、その日はひっそりと鳴りを潜めて、ここ数日の喧騒が嘘の様に静かになった。隠れ潜んでいたユグディラたちは、夜を待ってようやくこの場を離れることにしたのだった。
「さあ、ようやく誰もいなくなったニャ。今の内に安全な所へ逃げるニャ(お腹が空いたニャ)」
「……でも、安全な所ってどこニャ? 逃げた先でもあいつらがいたら……(お腹は空いたニャ)」
「こんな見晴らしの良い所…… 一旦、見つかったら、とても逃げきれないニャよ……? (お腹も空いてるし……)」
「ニャ…… ニャら、少しずつ移動して、隠れながら森へと向かうニャ(お腹が空いたし……)」
「あそこに丁度いい小山があるニャ。あそこで様子を窺って、行けるようニャら一気に逃げるニャ(お腹も空いたし……)」


 夜が明けた。周囲が明るくなったことに気付いて、大型ヒツジは顔を上げた。
 顔の表面に残った涙の跡(←気のせい)を前肢でそっと擦って、よっこらせと四つ足で立ち上がる。
 瞬間、背中の上の方で、ニャんだ!? とか、山が動いた! とか、ニャー、絡まったニャー! とか騒ぐ声がした。
 何事だろう、と思っていると、ズボッと執事羊たちが頭の上に現れた。
「なんか、知らない内に大量のユグディラたちを捕まえたみたいだメェ」
「大量メェ、大量メェ。これならベリアル様もきっと許して下さるメェ!」
 ホントに? と聞き返す大型ヒツジ。ホントに。と返す執事羊。
 大型ヒツジはパァ……! とその表情を輝かせた。それまでにない軽い足取りで、彼は南へと走り始めた。


 四半刻後。ハルトフォート砦──
 大型ヒツジが動いたとの報告が、警戒の為に張り付いていた一分隊からもたらされた。
「ようやく動いたか!」
 叫ぶ幕僚。憔悴し、落ち込んでいた1体の大型ヒツジは、ハルトフォートの注意を惹くという本来の任を奇しくも果たしていた。
「進路は!?」
 尋ねるもう一人。報告は、大型ヒツジがこちらにではなく、南へ移動していると報せていた。
 よしっ、と幕僚たちは叫んだ。こちらに来るなら迎撃しなければならないが、南へ向かうというのなら、わざわざ迎撃する必要はない。
「いや、ダメでしょう」
 また別の幕僚の一人が言った。南、ということは、ベリアル本隊と合流するつもりだろう。あんなデカブツが合流しては、戦の趨勢にも関わる。
「ダメかな?」
 ……このまま見なかったふりをするというのは?
「ダメでしょ」
 普通に考えて。
 最初の幕僚たちは大きく溜息を吐くと、未だ調整途中の砲戦ゴーレムたちに出撃の準備をさせるよう命じようとした。
 そこへ警戒班から続報が入った。曰く、大型ヒツジはその背に大量のユグディラを捕らえている模様──
 幕僚たちが、幕僚を見た。
「ユグディラたちごと吹き飛ばしてしまうというのは……?」
「えぇー……?」

リプレイ本文

「初めてのお仕事なんだ。ユグディラたちを助けに行くんだよ!」
 別件で滞在していたハルトフォート── 初の依頼を受けて来たという弟、シエル・ユークレース(ka6648)が興奮気味にそう話すのを聞いて、兄、ソレル・ユークレース(ka1693)は「ほう?」と食後のエールの杯を置いた。
 ユグディラたちを助けたら、仲良くなっちゃったりしないかなあ! ──はしゃぐ弟のその姿に多少の危うさを感じ、同行を決めたのが一刻前。
「心配? もー、ボクだって頑張れば出来るんだからねっ!」
 ぷりぷりと怒って見せながら、それでもどこか嬉しそうなシエルと共に、砦が用意した馬車で現場へ赴いて…… 今、彼は、偶々その場を旅していた葛音 水月(ka1895)とステラ=ライムライト(ka5122)、恋人同士のハンターたちと共に、道の傍の岩の陰に身を隠しながら。道の上を迫り来る目標──大型ヒツジを遠目に見ながら、呆れた様に呟いた。
「大型歪虚っつーから、どんなやばい奴かと思えば……」
 うーん、と難しい表情で眉をひそめる。いや、あのデカさとか確かにやばいっちゃあやばいに違いねえんだが、なんか思ってたのと違うというか…… 一見、まぁるくもこもこな羊(←巨大)が鼻歌すら歌いかねない勢いでスキップ(地響き付き)しながらこちらに迫り来る図というのは、恐怖を感じるべきなのか、ほのぼのとするべきなのか……
「……地震!? いえ、こ、これは……まさか、あのでっかい羊ですか!?」
「何事でありやがりますかあ?! 全部毟りやがりますよ、あ"ぁ"っ!?」
 遠くぐわんぐわんと揺れるヒツジの背から、何やら悲鳴のようなものが微かに風に乗ってそこはかとなく。だが、ヒツジのファンシーな姿に目を輝かせるステラと彼女に見惚れる水月の耳には入らない。
「ユグディラってもふもふなんだよね? もふもふがもふもふにくっついちゃったんだよね? 終わったらもふもふしていいんだよね?」
「もう、ステラ、もっふもふに夢中ですねー。しょうがないなー(もふもふのユグディラを抱くもふもふのステラきっともふかわいい)」
 大型ヒツジとその体毛に捕まっているユグディラたちを想像して瞳を輝かせるステラをにこにこと見守りつつ。水月がソレルを振り返り、檄を飛ばす。
「さぁ、早くユグディラたちをもふりに行きましょー」
「救助に、な。……で、どうやって『アレ』に上る?」
 ソレルが尋ねると、水月はにっこり笑い、岩陰に身を潜めながら覚醒し、黒猫の様な耳と尻尾を生やした。
「お兄ちゃん!」
「……なんだ?」
「水月さんって実はユグディラ……」
「うん、違うぞ?」
 そんな兄弟のやり取りをよそに、水月は迫り来る大型ヒツジ(のスキップと地響きと悲鳴と鳴き声)を隠れてやり過ごし……通り過ぎた瞬間にヒツジの尻へと手裏剣を投擲した。そして、その間に張り渡したマテリアルの糸を手繰って、跳躍。ヒツジの尻尾から尻へと上がり。登攀用のロープを結び付けた。
「なるほど」
 頷くソレルを殿に、ステラとシエルが後へと続き。全員、無事に大型ヒツジの上へと上がった。
 大型ヒツジがその違和感に足を止め。だが、尻側のハンターたちを見つけられず(もこり過ぎなのだ)に「?」と小首を傾げる。

 そうやって上ったヒツジの上には、ユグディラ以外にも先客がいた。
「旅の途中、日が暮れたので小山の上で休んでいたら、そこはでっかい羊の上でした。……何を言っているのか分からないと思いますが、我々の身に起こった事をありのままに話してみました」
 その一人、サクラ・エルフリード(ka2598)が、上がって来たハンターたちにそう事情を説明する。
「……いや、俺たちが知りたいのは、むしろ、どうしてお前が今、そんな状態になっているのか、なんだが……」
 ソレルがサクラを指して言う。……彼女は、今、ヒツジのスチールウールに身体中を雁字搦めに囚われ、ひっくり返ったままの姿勢で動けなくなっていた。寝巻代わりにでも着ていたのであろう彼女のレジェールウェアも、スチールウールの鋭利な刃に切り裂かれたのかそこかしこに穴が開き、衣服の下の地肌があられもなく覗いている(なぜか肌には傷一つついてないが)
「お兄ちゃん……!」
 シエルがごくりと唾を飲み込み……サクラの付けた猫耳カチューシャ(そっちか)を見て興奮気味に兄を振り返り。ソレルが間髪入れず「違うぞ?」とツッコミを返す。
「あ、この格好はお気になさらず。普段の方が露出は多いですから」
「はあ……」
 ともあれ、早く助けなくては。シエルは実戦で初めての覚醒をした。シエルの右半身に浮かび上がる黒光のトライバル──兄のそれと色違い・対照でおそろいの自身を見て「えへへ」と笑みを浮かべ。意気昂然と足にマテリアルを込めてダッシュして……
「あ」
 二歩目でスチールウールに足を引っかけて盛大に転げ、頭からヒツジの体毛に突っ込んだ。
「わっ、わっ、何コレ、早く解かなきゃ……って、うわー! もがけばもがくほど絡まって…… ひゃー! 切れてる! ボクのレザーアーマー切れてるう! 嘘でしょーっ!? なけなしのお金で買ったのにー!」
 手足をバタつかせる度にビリビリと裂かれ破れていくシエルの鎧と服。彼を助けんと慎重に近づいて来る兄の姿に己の醜態(痴態?)に思い至り。目の端に涙を浮かべて「見ないで、お兄ちゃん……」と懇願する。
(なぜ頬を染める……)
 大きく溜息を吐きながら、弟の救助を始めるソレル。「ごめんなさい」と謝る弟に「怪我がないならいい」と返す。
「どうして私がこんな状態なのか、理由は分かっていただけましたか?」
「ああ、弟が余すとこ無く再現したしな」
 サクラの言葉に返していると、そこにもう一人の『先客』が──サクラの相棒、シレークス(ka0752)がその場に姿を現した。
 少し離れた所でスチールウールに拘束されていたところを、自力で脱出してきた所だった。そのカソック(聖衣)は御多分に漏れず、あちこち切り裂かれ、ズタボロに破れていたが、本人はまるで気にしなかった。今も、こちらに来る途中で聖衣の裾が引っ掛かり、引っ張られた聖衣の下に身体のラインが露わになっても、服に圧迫されて窮屈そうにしていたその豊かな胸部が、逆に破れかけていた箇所(下乳部)を引き裂いてたゆんとその存在を主張しても。シレークスは「面倒くせぇ……」と溜息を吐いただけで、ただ歩き易いように、とその裾を大きく捲り上げ、腿の所でギュッと結んだ。既に履いていた鉄靴は脱いで(スチールウールと擦れて酷い音が鳴るからだろう)靴紐同士で結んで肩に掛けていた為、爪先から大腿部の際どい所まで生足が露わになったが、やっぱり気にする様子はない。
「おっ? なんですか、サクラ。また随分とエロい格好で絡まって」
「今のあなたがそれを言いますか……って、エロい、ですか? 私が? 普段(ビキニアーマー)よりよっぽど肌の露出は少ないですよ?」
「露出が多けりゃエロいってもんじゃねーです。むしろ見えそうで見えない──今の格好の方がエロスを掻き立てるってもんです」
 確信犯か。確信犯なのか。シレークスにそうツッコむ余裕もなく。ギギギ……と周囲を見渡したサクラがカアーッ! とその顔中を真っ赤に染めて。目ぇグルグル巻きで頭からピュー! と湯気を出しながら、スチールウールと身体の間に隙間を作ってナイフを捻じ込み、一刻も早く拘束から抜け出すべくキコキコと断ち切っていく……
 その間にシレークスはソレルたちから事情を聞いて、ユグディラ救出を手伝うことにした。
「あっ、こら、暴れるんじゃねです」
 ハンターたちが近づくと、事情を知らない妖猫らは暴れた。その場から逃れようと身を捩って却って毛に絡まりつつ。伸ばして来たハンターたちの手に爪を立て、必死の抵抗を試みる。
「ごめんね。でも、ちょーっと大人しくしててね……っ!」
 罪悪感を押し殺しつつ、ステラが未動作の振動刀でコーン! とユグディラを峰打ちにした。クラクラと目を回し、キュー、っと意識を失う一匹。ステラは再度ごめんね、と謝りながら、その妖猫を拘束するスチールを解いていく……
 そうして助け出したユグディラを慰める様にステラはギュッと抱きしめた。そして、想像と違わぬもこもこ具合にほっこりとした笑みを浮かべた。
「ねえ、水月! この子、すっごいもふもふだよ!」
 にこにこと笑う彼女に、(ステラやっぱり可愛いステラ)とうんうん頷く水月。一方、ユグディラたちはその同じ光景に別の色を見た。──気を失い、全く抵抗できなくなったユグディラを両腕で完全に拘束し、邪悪な笑みを浮かべる人種の悪魔の姿を──!(注:ユグディラ視点)
 ピクリと水月の肩が動いた。彼の最愛の女性が悪魔呼ばわりされた侮辱をキュピ~ン! と察して、妖猫たちを振り返るその表情──目の部分は前髪で陰になって見えず。口だけが笑みを形作っている……
「ユグディラさーん。危ないからあんまり動かないでくださいねー?」
 ゆらりと超重刀を鞘から抜いて、ギラリとその刃を光らせる水月。一瞬、動きを止めた妖猫たちが、ギニャー! と今にも殺されそうな悲鳴を上げて、再びバタバタと暴れ出す。
「困ったな……」
 呟く水月の表情は変わらない。「なら、斬れてしまってもしかたないですよね」とかボソリと零しつつ。ユグディラたちを拘束しているスチールを刀の重さとパワーに任せて断ち切ろうと……
「ダメだよ、水月。そんな力任せにしたら、毛がギューッとなって、スパーッって切れて、血がブシャーッってなっちゃうよ!」
 寸でのところで水月を止めると、ステラは刀の柄に手をやってスッとその表情を消し…… 次の瞬間、目にも留まらぬ速さで刃を鞘走らせた。チィン! と甲高い音と火花と共にユグディラたちを拘束していたスチールが振動刀に断ち切られ。ハラリと落ちたスチールに、自分たちが助けられたと知ったユグディラたちが(水月から離れて)ステラに殺到する。
 水月はその光景を少し寂しそうに見やり、自分ももこもこ触りたかったなー、と感じながら。それでも、ステラが妖猫たちに嫌われるよりずっといい(というかユグディラ塗れのステラ可愛いやっぱり可愛い)
「あ、人間ども! いつの間に!」
 そこでようやく、2体の執事羊が人間たちの『侵入』に気が付いた。瞬間、水月がその一体に手裏剣を投げつけて瞬間的に肉薄し、超重刀で横薙ぎにする。
「執事羊B-!」
「(くの字に横に折れ曲がりながら)俺はもうダメめぇ。後は任せたメェ……」
「嘘メェ! そんな事言ってお前だけサボるつもりだメェー!?」
 残された執事羊Aはズボッとヒツジの体毛の下に隠れると、そのまま毛の下を絡まることなく移動し、真っ赤に腫れた大型ヒツジのおでき(?)に己の角を叩きつけた。
 数瞬の静寂──後、ピギャー! と悲鳴を上げながらぴょんぴょんのたうち、身体をくねらせる大型ヒツジ。その背の上に乗っていた皆がバランスを崩し、転げて毛に突っ込んだ。
「キャー! 私の防寒着がー!」
 サクサクと上着を切り裂かれ、中身のウール(本物)をボワッと噴き出すステラ(羊みたいにもこもこになったステラ可愛い)。
「えぇい、面倒くせぇー! 最初からこーしていれば良かったんです!」
 癇癪を起したシレークスが、スチールに絡み取られた聖衣を自らビリビリ破いて拘束から抜け出した。聖職者にあるまじき大胆な毛皮下着姿で自慢のスタイルを惜しげもなく晒しつつ、棘付き鉄球を手に立ち上がる。
「お兄ちゃん、やっぱり都会のシスターは違うね! それとも、ボクらが知らないだけで、故郷のシスターステラもそうだったのかな!?」
「待て。俺の記憶が確かならば、シスターステラは俺が故郷を発った時点で既に70過ぎのばあさまだったはずだが……」
 兄弟のやり取りをよそに、サクラ、おめーも恥ずかしがってる場合じゃねーです、と脱衣()を勧めるシレークス。サクラもまた「そーですよね。脱いだ方がエロくないですものね……」と上着を捨てて(普段の)ビキニアーマー姿になる。
「む」
 ズボッと近くに羊Aが顔を出した。ソレルは剣形態のアックスブレードを手にいつもの様にそちらへ踏み込み……瞬間、ズボリと足を取られた。反撃が来る直前、シエルが投じたチャクラムが羊の眼前を通り過ぎ。思わず羊が多々良を踏む間に、斧形態に得物を操作したソレルが羊をぶん殴る……
「やっと『殴れる』敵が出たです!」
 そこへ突撃していくシレークス。彼女は聖職者故に刃物を持っていなかった。それは8面体や20面体を振ってた昔からの決まり事(違

 やがて、執事羊Aもシレークスにぼっこぼこにされ…… 自慢の体毛のあちこちをざんぎりにされた大型ヒツジは泣きながら走って帰っていった。
 ハンターたちは全てのユグディラたちを助け出し、ヒツジの背から飛び降りた。
「……大人しくしやがれですよ。こらっ、ア……ッ! もうっ、くすぐってーから舐めるんじゃねーですよ」
 助け出したユグディラを頭や肩に乗せたまま。最後に助け出されて暴れるユグディラをそっと自分の胸に抱き……落ち着きを取り戻した妖猫に自身が引っ掻いた傷をペロペロ舐められ、くすぐったそうに身を捩るシレークス。
 寒さ対策の為、またボロボロの服を纏わざるを得なくなったサクラが再び頬を染め、「懐いてくれるならとりあえず……身体を隠すのを手伝ってもらっていいですかね……(///)」と持ち上げたユグディラに頼んでいたり。

「うぅぅ、やっぱりこの格好はちょっと寒いかな……」
 シレークスの言に従い、絡まった袴を捨てて生足(見えそで見えない)になっていたステラが暖ともふもふを求めてユグディラをしゃがんだ膝の上に抱え上げた。その肩にそっとロングコートを掛ける水月。ありがとうと笑顔で振り返ったステラは、水月のちょっと拗ねた様な、ムスッとした表情に目をぱちくりさせる。
「今のステラのその格好は……ちょっと他人には見せたくないですねー。それに……」
 ステラにギュッとされた妖猫に恨めし気な視線を向けつつ、水月。ステラはしょうがないなぁ、と言った風に微笑み……抱いていたユグディラを水月の顔に押し付けた。
「ステラが嬉しそうですし、可愛いので僕は構わな……わぅっ!?」
「ほら、水月も! この子、すっごいもふもふなんだから!」

 リアルブルー出身のハンターの伝手を頼って入手していたツナ缶を地面に置いて、ユグディラたちに集られているソレルに歩み寄り……
「ごめんね」
 と謝り、落ち込むシエルに、兄は「いや、最後の円月輪には助けられた」と礼を言い、頭の上に手を乗せ、褒めてやった。
 えへへ、とはにかむ弟に微笑みを返しながら。今夜は美味い酒が飲めそうだ、と、彼は夕日を見上げて息を吐いた。

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重体一覧

参加者一覧

  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • White Wolf
    ソレル・ユークレース(ka1693
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人
  • 黒猫とパイルバンカー
    葛音 水月(ka1895
    人間(蒼)|19才|男性|疾影士
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 甘苦スレイヴ
    葛音 ステラ(ka5122
    人間(蒼)|19才|女性|舞刀士
  • なにごとも楽しく♪
    シエル・ユークレース(ka6648
    人間(紅)|15才|男性|疾影士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/11/29 21:44:48
アイコン 相談です・・・
サクラ・エルフリード(ka2598
人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2016/11/30 08:04:01