ゲスト
(ka0000)
輝け! 理想のお兄さん、妹コンテスト!
マスター:みみずく

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~15人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/12/03 09:00
- 完成日
- 2016/12/12 04:38
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
どこのどいつだ。妹がかわいいなんて言ったやつは。
「おにい!」
勢いよく扉が開かれる。もちろんノックなどされない。入り口に立ち塞がるのは、女性にしては長身の影、間違ってもツインテールの幼顔、思わずきゅんとなる甘い声ではなく、頭半分刈り上げの前衛的な髪形に釣り目が今日も鋭角的、思わず心臓がぎゅんっと痛くなる世にも恐ろしい胴間声、妹だ。
「なんだよ!」
ノックぐらいしろ、と言いたいところだが、一つ言い返すごとに100倍ぐらい反撃を食らうので、口にできない。
「ナニコレ」
丸まった靴下を手に、低い声が響く。
「く、靴下」
「なんで玄関で脱ぎ散らかすのよ! 洗濯カゴまで何歩でもないでしょ! つか、はっきりいって臭いんだけど! うちの洗濯物と一緒にしないでよね、洗うんなら自分で洗いな!」
言い終わるが早いか、顔面に件の靴下がヒットした。
「ふぎゃ!」
ひどい、洗ってない靴下顔に投げた、臭いって言った。兄虐待だ。自分の靴下だけど、たしかに玄関で脱ぎ散らかしたのは悪かったけども。
「あ、どうせ買い物出るよね、お菓子買ってきて、慰謝料、10分以内」
冷徹な言葉とともに、ガチャンと大きな音を立て、扉が閉まる。
「……すげぇな、お前の妹」
横から友人がボソッとつぶやいた。
「お前の家、妹いたっけ」
「や、姉貴」
「いいな……おねえさん、優しそうだな」
脳裏に微笑みながら優しそうに振り返る年上の女性が浮かぶ。きっとお姉さんは、靴下脱ぎ散らかしたごとき、こんなに理不尽に怒鳴ったりしない。洗濯物だって一緒でいいよって言ってくれる。臭いなんて差別しない。
「お前、なに姉貴に夢見てんだよ。弟なんてな、はっきり言って下僕だよ」
友人は沈痛な面持ちで、胸元のポケットからメモ紙を取りだした。食料の名前がずらりと書いてある。買い物メモだとしたらずいぶんな量だ。
「それ、全部買って帰るのか」
「男の子だものねって、言い方優しいけど、目がいっつも笑ってねんだよ。怖いんだよ」
男って、悲しい。そう思った瞬間、薄い壁の向こうで、妹とそのお友達の爆笑が轟いた。
「えー! かわいいじゃん! いいなぁ弟」
「良くないよ。顔がよければいいけどさぁ、ぶっさいくなんだもん。誰に似たんだかさぁ」
「顔はねぇ、不細工直しようもないよねぇ」
「ねぇ」
同じ家族なんだから、そんなに違いはないくせに、人の事ばっかり……二人は瞬間的に、会ったこともないその弟に同情した。
「あ、お菓子ちょっと待ってね、今兄貴に買いに行かせてるから」
「お兄さん優しい!」
「おにぃ! 早くしてー!」
壁の向こうから理不尽な声が聞こえる。兄は唇をぐっとかみしめた。
「ここで屈したら、兄の威厳は地に落ちる」
彼の呟きに、友人が立ち上がった。
「そうだ、ここで負けたら男じゃない」
「いざ、決戦の時」
二人は意を決し、隣の部屋の扉を叩いた。
「なに、お菓子、早くして」
戸口に立った妹が凍てつく波動を放つ。心の防御は鍋の蓋、しかし、今は負けられない。
「お、お前、なんなんだよ、いつも、俺をパシリに使いやがって」
「はぁ? なんなのいきなり。そっちこそ、いつもいつも洗濯物脱ぎ散らかして、年中脱皮してないと気が済まないの? 虫か?」
「お、お、お前だって、便所でマンガ読むのやめろよ! 長……いてぇ!」
妹のスリッパアタックが火を噴いた。
「どんっだけデリカシーないの! それ言うんだったら、そっちだって、風上でおならするのやめてよ!」
「しょうがないだろ! 自然現象なんだから!」
「空気よめ!」
「小さくなれ!」
「お前が育て!」
それは長きにわたる戦いであった。果てしなく続く、罵詈雑言。湧き上がる、日頃の不満。そして。
「輝け、理想のお兄さん、妹コンテスト……」
ハンターオフィスで対応に出た女性職員は半眼になりながら、手書きのポスターを音読した。
抑揚の乏しい声色であった。
「ハンターの皆さんって、素敵じゃないですか」
兄がきらきらと目を輝かせ、力説する。
「強きをくじき弱きを助く。俺は、いや、俺たちは、ハンターの皆さんに、妹かくあるべし、という理想を見出したいんです!」
「はぁ」
「イケメン紹介、じゃなくて、うちのおにいに、兄とは、ってところをバシッと見せてほしいんですよね。お前みたいなへっぽこ兄貴ばっかじゃないぞって」
兄と妹、二人の間に、目には見えない火花が散る。時まさに平日の昼下がり、どこかの町の町民会館にて、コンテストに名を借りた二人の仁義なき兄妹戦争の幕が切って落とされる。
「そういうわけで、参加してくださる皆さんを募集します! もちろん、一緒に審査してくださるハンターさんも大歓迎! 我こそは理想の兄、妹、または兄妹論には一家言あるという、あなたの鋭い一言もお待ちしています」
「おにい!」
勢いよく扉が開かれる。もちろんノックなどされない。入り口に立ち塞がるのは、女性にしては長身の影、間違ってもツインテールの幼顔、思わずきゅんとなる甘い声ではなく、頭半分刈り上げの前衛的な髪形に釣り目が今日も鋭角的、思わず心臓がぎゅんっと痛くなる世にも恐ろしい胴間声、妹だ。
「なんだよ!」
ノックぐらいしろ、と言いたいところだが、一つ言い返すごとに100倍ぐらい反撃を食らうので、口にできない。
「ナニコレ」
丸まった靴下を手に、低い声が響く。
「く、靴下」
「なんで玄関で脱ぎ散らかすのよ! 洗濯カゴまで何歩でもないでしょ! つか、はっきりいって臭いんだけど! うちの洗濯物と一緒にしないでよね、洗うんなら自分で洗いな!」
言い終わるが早いか、顔面に件の靴下がヒットした。
「ふぎゃ!」
ひどい、洗ってない靴下顔に投げた、臭いって言った。兄虐待だ。自分の靴下だけど、たしかに玄関で脱ぎ散らかしたのは悪かったけども。
「あ、どうせ買い物出るよね、お菓子買ってきて、慰謝料、10分以内」
冷徹な言葉とともに、ガチャンと大きな音を立て、扉が閉まる。
「……すげぇな、お前の妹」
横から友人がボソッとつぶやいた。
「お前の家、妹いたっけ」
「や、姉貴」
「いいな……おねえさん、優しそうだな」
脳裏に微笑みながら優しそうに振り返る年上の女性が浮かぶ。きっとお姉さんは、靴下脱ぎ散らかしたごとき、こんなに理不尽に怒鳴ったりしない。洗濯物だって一緒でいいよって言ってくれる。臭いなんて差別しない。
「お前、なに姉貴に夢見てんだよ。弟なんてな、はっきり言って下僕だよ」
友人は沈痛な面持ちで、胸元のポケットからメモ紙を取りだした。食料の名前がずらりと書いてある。買い物メモだとしたらずいぶんな量だ。
「それ、全部買って帰るのか」
「男の子だものねって、言い方優しいけど、目がいっつも笑ってねんだよ。怖いんだよ」
男って、悲しい。そう思った瞬間、薄い壁の向こうで、妹とそのお友達の爆笑が轟いた。
「えー! かわいいじゃん! いいなぁ弟」
「良くないよ。顔がよければいいけどさぁ、ぶっさいくなんだもん。誰に似たんだかさぁ」
「顔はねぇ、不細工直しようもないよねぇ」
「ねぇ」
同じ家族なんだから、そんなに違いはないくせに、人の事ばっかり……二人は瞬間的に、会ったこともないその弟に同情した。
「あ、お菓子ちょっと待ってね、今兄貴に買いに行かせてるから」
「お兄さん優しい!」
「おにぃ! 早くしてー!」
壁の向こうから理不尽な声が聞こえる。兄は唇をぐっとかみしめた。
「ここで屈したら、兄の威厳は地に落ちる」
彼の呟きに、友人が立ち上がった。
「そうだ、ここで負けたら男じゃない」
「いざ、決戦の時」
二人は意を決し、隣の部屋の扉を叩いた。
「なに、お菓子、早くして」
戸口に立った妹が凍てつく波動を放つ。心の防御は鍋の蓋、しかし、今は負けられない。
「お、お前、なんなんだよ、いつも、俺をパシリに使いやがって」
「はぁ? なんなのいきなり。そっちこそ、いつもいつも洗濯物脱ぎ散らかして、年中脱皮してないと気が済まないの? 虫か?」
「お、お、お前だって、便所でマンガ読むのやめろよ! 長……いてぇ!」
妹のスリッパアタックが火を噴いた。
「どんっだけデリカシーないの! それ言うんだったら、そっちだって、風上でおならするのやめてよ!」
「しょうがないだろ! 自然現象なんだから!」
「空気よめ!」
「小さくなれ!」
「お前が育て!」
それは長きにわたる戦いであった。果てしなく続く、罵詈雑言。湧き上がる、日頃の不満。そして。
「輝け、理想のお兄さん、妹コンテスト……」
ハンターオフィスで対応に出た女性職員は半眼になりながら、手書きのポスターを音読した。
抑揚の乏しい声色であった。
「ハンターの皆さんって、素敵じゃないですか」
兄がきらきらと目を輝かせ、力説する。
「強きをくじき弱きを助く。俺は、いや、俺たちは、ハンターの皆さんに、妹かくあるべし、という理想を見出したいんです!」
「はぁ」
「イケメン紹介、じゃなくて、うちのおにいに、兄とは、ってところをバシッと見せてほしいんですよね。お前みたいなへっぽこ兄貴ばっかじゃないぞって」
兄と妹、二人の間に、目には見えない火花が散る。時まさに平日の昼下がり、どこかの町の町民会館にて、コンテストに名を借りた二人の仁義なき兄妹戦争の幕が切って落とされる。
「そういうわけで、参加してくださる皆さんを募集します! もちろん、一緒に審査してくださるハンターさんも大歓迎! 我こそは理想の兄、妹、または兄妹論には一家言あるという、あなたの鋭い一言もお待ちしています」
リプレイ本文
紙の花で飾られた手作り感満載の看板が哀れを誘う。
しんと静まり返った会場、もう撤収と、誰ともなく立ち上がったその時だった。
カフカ・ブラックウェル(ka0794)が妹のアルカ・ブラックウェル(ka0790)を伴い現れた。
カフカの白いコートの脇から、アルカが顔を覗かせる。白皙の面を縁取る濃い金の髪、好奇心いっぱいに見開かれた大きな瞳はスカイブルー、スラリとした体躯にまとった赤いジャケットが活動的な印象を与える。
「こんにちは! ボクの名前はアルカ。アルカ・ブラックウェル、クラスは疾影士、駆け出しのハンターだよ!」
澄んだ美しい声で、はっきりと名乗る。そして、カフカを肘でちょんちょんとつついた。
「僕も? ……面倒くさいんだけど」
おざなりなカフカを、アルカが大きな瞳でものいいたげに見つめる。
「はいはい、分かったよ。名前はカフカ、カフカ・ブラックウェル。クラスは魔術師」
涼やかな声で名乗った後、
「あ、妹にちょっかい出す奴は問答無用でつぶすから。そこだけは覚えといて」
ドスの効いた低音で付け加えることも忘れなかった。少し青みがかったアッシュブロンド、静かな光を湛える翡翠の瞳は、躍動感漂うアルカと好対照である。
「ボクっ子、尊い」
「美少女の兄イコール美青年、そして妹溺愛、これぞまさに古来より伝わる様式美!」
兄と妹は目をキラキラさせて2人ににじり寄る。
「こんな娘が、お兄ちゃん、なんて呼んでくれた日にゃあ、もう、毒パルムに身ぐるみ剥がされてもいい! うちの妹と交換して……」
できるか! とカフカが一歩踏み出す前に、妹が掌底で兄の顎を吹き飛ばす。
「毒パルムだって断るわ! いい? 可愛い妹、美形の兄、ここまでワンセットで初めてシスコンが許されるの!」
「シスコン?」
カフカの口元が斜めにひきつる。
「人にはね、分相応ってもんがあるの! 鏡見て出直してきな!」
「お前だって、絶対人のこと言えないくせにぃ!」
だんだん危険な様相を呈してきた会場の空気に、
「とりあえず、飲み物とお菓子でも食べる?」
カフカは持参した茶と菓子の入った袋を、ずいっと差し出した。
「いいんですか!」
おいおい、コンテストはどうしたよ。アルカとカフカはジトッと見返したが、4人は現金だった。
「まずはボクら兄妹の事を話せば良いかな?」
アルカが口を開いた。
「ボクはカフカと双子なんだ。ボクが妹だよ」
「故郷の村から一緒に出てきて、今は同じ家に同居中」
美形の双子、ここで4人のボルテージは一気に上がった。
「ご兄弟の仲は」
「兄妹仲? ……仲は悪くないと思う」
カフカが答える。アルカも小首をかしげ、
「仲は良い方だと思う。今も夜は一緒に寝てるし、都合が合えばお風呂も一緒」
お風呂も、一緒。
4人の心によからぬ妄想が走る。
「……アルカ、そういうプライベートな情報はいちいち伝えなくて良いよ」
ブシッ!
勢い良く、4人の鼻から鮮血が噴き出る。心に100の夢と希望、鼻の粘膜に計り知れないダメージを負った。
「カフカは物知りでボクが知らない事を沢山知ってて、とっても頼りになるんだ」
アルカが『ねっ』と、傍らのカフカと視線を合わせた。
「アルカは時々突飛な事を聞くからね。いつだったか、珍しい花を見て『あの花は食べられるの』って聞いてきたし」
食べられたら食べてみるつもりだったんだろうか。グルメハンター、アルカの今後に乞うご期待である。
「買い物に行く時は何だかんだ文句言いつつ付いて来てくれて、荷物も殆ど持ってくれるし」
無言のカフカが、やや照れたようにそっぽを向いた。
「依頼で一緒の時は、カフカの魔法の援護があると思うからボクは安心して背中を預けられるよ」
アルカが追いかけるように顔を寄せる。そして、目が合うとニコッと笑った。
「買い物は、幾らハンターとはいっても年頃の女子だし、女子の買物は時間がかかるし量もそれなりって諦めてるから」
口をとがらせ、カフカが言い訳のように付け加える。頬が若干赤い。
ツンデレ。
人心を惑わす魔の存在である。
4人は心の雑記帳に、『ツンデレ最強』と書き込んだ。
「あ、でも喧嘩も勿論するよ? 腹立つ事だってある」
アルカがちょっと頬を膨らませ、
「お風呂が長いんだよね。一緒に入るのは良いけど、ボクのぼせちゃうよ!」
「アルカだって、大体毎晩寝相悪いんだよ。僕のお腹蹴ったりするのやめてくれる?」
同じ、布団で、寝てらっしゃる。
もうだめだ、メーデーメーデー、ここは焦土と化した。あとにはぺんぺん草一つ生えやしない。
「あと、カフカが料理当番の時って大体、茸とか野菜料理多いよね。ボクはお肉が好きなのに!」
料理男子。ツンデレだけは飽き足らず、更にウルトラC級の技がキマっていく。
「肉ばっかじゃ栄養が偏る。それにデザートはアルカの好きなフルーツ付けてるだろ」
もういい、みなまで言うな。羨ましくて鼻血しか出ない。
「ま、でもボクはカフカの事が大好き。もし生まれ変わって、お兄ちゃんが選べるならボクはカフカを選ぶよ」
「……妹はアルカだけで十分だ」
こうして2人の兄妹愛は結実し、後には出血多量の4人が残された。
「聞かせてもらったぜ、ここまでの話」
兄妹喧嘩も鼻血で決着かと思われた瞬間、入り口に新たなる影が現れた。長身にがっしりとした体躯、口調は荒いが、滑らかな体のラインで女性だと分かる。健康的に日焼けした顔に人好きのする笑みを浮かべ、ボルディア・コンフラムス(ka0796)は兄と妹の間にどっかと座った。
「あなたは……大丈夫ですか!」
体中いたるところに包帯が巻かれ、両腕両足はギブスで固定、ボルディアは、重体だった。こんな体で、よくぞここまで来てくれた、4人の心は感謝でいっぱいだった。
「兄ちゃんねぇ……俺んとこの下の兄ちゃんはなんでも言うこと聞いてくれたぜ」
それは恐怖政治ということか。言葉を待つ兄に緊張が走る。
「例えばぁ、一緒に断崖絶壁から飛び込んでくれたりとか、虫取りに森ん中入って三日三晩彷徨って救助されたりとか、近所のカミナリオヤジに悪戯仕掛けに行って危うく殺されかけたりとか」
「却下ぁ!」
兄の悲痛な叫びに、不思議そうな表情で、
「なんで?」
「だめだめだめ! 断崖も絶壁もムリ! らいふいずぷれしゃす! 命大事に!」
「そういうもんじゃん? 兄貴って。うだるような暑さの中、苦虫噛み潰したような顔してたけど、それでもしょうがねぇなぁつって、全部付き合ってくれたんだよな……懐かしいぜ」
感慨深げにギブス装着のまま腕組みをし、うんうんと1人頷く。
「あ、でも上の兄ちゃんは、俺らが馬鹿するといっつも怒ってばっかだったな。覚醒者じゃなかったけど、上の兄ちゃんのゲンコツはメチャメチャ痛かったんだ。でも殴った本人が一番泣きそうだから、俺も下の兄ちゃんも何も言えなくて。そしたら俺らをこう、ギュッて、抱きしめるんだ。なんつーか……愛されてるって、ああいうかんじなんだろうな」
兄が、抱きしめた方がいいかというジェスチャーを妹に送る。
立てた妹の親指が、間髪入れずまっすぐに地面を指した。
「あー、何の話だっけ? とにかく、まずは妹。兄ちゃんに頼み事したら満面の笑みでありがとうっつっとけ。それで世の兄は何でも言うこと聞くぜ」
なんでも、言うことを、聞く。妹が、にやっと満面の笑みを浮かべた。
「やめろ! むしろ怖い!」
浮かんだ笑みのあまりの邪悪さに、兄が慄きながら抗議する。
「んで兄」
2人のやり取りには目もくれず、ボルディアの兄妹論が炸裂する。
「妹の頼みは至上命令だから。逆らおうなんて歪虚王に刃向かうくらい無謀だから。大人しく従っとけ。んで、こっからが大事なんだが。妹の要求にプラスアルファして応えてやると、妹の見る目変わるぜ」
「ぷ、ぷらすあるふぁ? そんなの無理だ、俺にはできない!」
兄が親友の肩を揺さぶって訴えかける。親友は、しっかりしろ、と肩をつかみ返し、
「戦わなければ生き残れない!」
「戦わなくても生き残りたい!」
兄のライフがゼロになろうとしたとき、
「まったく……怪我をした上にそれを黙ってるなんてね。今日はお説教だよ。ねえ澪」
静玖(ka5980)を横抱きにして(人これをお姫様抱っこと呼ぶ)、傍らの澪(ka6002)に微笑みかけながら、雹(ka5978)が通りかかった。
「ウーチーハー無実やァァァァ」
静玖はじたばたと暴れるが、その度雹が優しくぎゅっと抱きしめる。澪はそんな2人を黙って見守っている。
砂を吐くほど甘い光景であった。
静玖が首を振るたび、夜明けを思わせる瑠璃色の豊かな髪が大きく揺れる。3人ともよく似た顔立ちであり、形の良い額からは、左に深紅、右に純白の小さな角が覗いていた。雹は大柄ではないが、静玖を抱えて歩く足取りは確かなもので、相当な腕力を擁していることが伺える。
「せ、せやってな? 依頼で怪我ぁするんは仕方ないことやぇ?! べ、別にそれ言わなあかんことは……」
甘い声で抗議の声を上がる静玖に顔を寄せ、雹が「だめ」と囁いて、さらに抱いた手に力を込める。
何気なく看板を見やった澪が、
「コンテスト……? なに?」
と首をかしげた。
妹の友達がコンテストの趣旨を説明すると、
「コンテスト? やぶさかではないよ。僕の妹はこんなにかわいいからね」
雹はそう言って、静玖と澪を優しいまなざしで見下ろした。
「いえ、一応理想のお兄さんコンテストでもあるんですが」
「理想の兄か。兄って言うのは妹を守るものだよ。少なくとも僕はそう思ってる」
というと、言葉を挟ませる隙もなく語りだした。
「これは義務であり、それ以上に僕が僕としてしたい事だから。自分は妹の為に生きている。そうしなきゃ、とか思ったことはないよ。だって僕の妹はこんなに可愛いんだからね」
力説する雹の背中を眺めながら、4人は新たなシスコンの台頭を予感した。
「前々回の依頼、中身を見たけど、なんて危ない真似をしているんだ! 静玖は自分を子供と安心しているかもしれないけど、女の子なんだからね、潜入なんて危ない真似をして、何かあったら僕は、僕たちはどうすればいいのか。そこのところ分かっているのかい、静玖!」
横抱きのまま叱りつける。椅子もあるし、降ろしていいですよと、兄は思ったが、愛ゆえの説教は止まらない。
「……心配した……」
澪も、涙目でじっと静玖を見て、ぼそりとつぶやく。
「せ、せやってな? お仕事やったからな?! ほ、ほらもう怪我ぁ治ってますぇ?! せやから大丈夫やぇ?!」
静玖は腕から逃れようともがくが、その度兄の抱擁に阻まれる。
「しかたがないな。分かっていないようだから、今日はもう一日中こうしてお説教しているしかないのかな」
涙目の静玖、脱走を試みては優しい抱擁が繰り返され……今日はもう一日中他人のイチャコラを見ているしかないのかな。
4人の顔はもう、砂を吐きすぎてかっぴかぴに乾燥を始めている。
「兄様と2人で、お説教。一日で終わるなんて思わないでね? 静玖……」
澪が傍らに立ち、目をそらそうとする静玖の頬を、両手で挟んで包み込む。薄い色の打掛が、小柄な体を幻想的に彩っている。向き合う横顔の2人は合わせ鏡のように、瞬間同じ表情を浮かべた。
「生まれたな」
「ああ、美しい」
兄と親友が呟いた。
姉妹萌えの誕生であった。
「えんとりーなんばー、5番! お名前は……あ、静玖さん……静玖ぅ! かもん!」
エントリーナンバーなんてもんがあったんかい、という皆の驚きをものともせず、1人テンションの上がった兄が、小さな舞台に躍り出る。
やっと自ら立つことを許され、おずおずと舞台中央に立った静玖だが、舞台袖では上手に澪、下手に雹がスタンバっている。
「何か、一言お願いします!」
「せやなぁ、上やから、下やから関係あらしまへん、部下でも下僕でもあらしまへん。思い思いやる、その気持がなかったらあきまへんぇ」
「よく聞いとけよ、妹」
兄がどや顔で妹を見下ろす。
「魂抜けるほどの説教も、大切やからや。なんやしてもろたらありがとうやぇ? なんかしてもらいたかったらお願いします、やぇ?」
そう言いながら、じりじりと下手側に後退していこうとする静玖だが、2人に取り押さえられ、
「だめだよ、静玖。まだ、お説教の途中なんだから」
雹が静玖の耳元で囁く。口調は優しいが、割と目が笑っていない。
「も、もう十分骨身にしみましたぇぇぇぇぇぇぇ」
静玖の絶叫がこだまする。お姫様抱っこが俵担ぎに変わった。
「あ、雹兄ぃは格好いいおすぇ? 気が付いたら先回りで色々やってくれはって、お礼言うたらそれぐらいってな?」
雹の背中をぺちぺちと叩きながらも、いかにも嬉しそうな笑みを浮かべ、
「大好きやぇ」
と雹の背中にそっと頬を寄せた。
ドスッ。
見えない矢が兄の胸を貫く。
胸を抑え、倒れる兄。
「どうした兄! 持病の癪か?」
妹と兄の親友が駆け寄る。
「こ……」
「こ?」
「恋の病に」
「寝てろ」
妹がすげなく言い放つ。そうこう言ううちにも鬼の3人兄妹、愛の劇場は止まらない。
「澪も、いっつも一緒におってくれてな? 何でも……」
静玖が澪に微笑みかける。澪は無言で心配オーラを放った。
「ごめんや、やからっ怪我したんはっ!!」
しばらく無言の抗議を続けていた澪だったが、ふっと表情を緩めると、
「よい事言ったね」
澪が柔らかく微笑んで、静玖の髪をゆっくりとなでた。しかし、
「でも、それとこれとは話が別だから」
説教は続くよどこまでも。
「あーれー」
姫から俵へとクラスチェンジした静玖の受難はまだまだ続く。
「えー、そんなこんなで、この度の、輝け! 理想のお兄さん、妹コンテスト! ですが」
妹が厳かに閉会の辞を述べる。
「理想の兄は、審査員全員を鼻血の海に突き落とした、ザ・最強ツンデレお兄さん、お菓子とお茶がフェイバリットなカフカ・ブラックウェルさんに決定!」
パチパチパチ、と疎らな拍手が起こる。
「そして、理想の妹は、敵も惑わす必殺微笑、1人何故だか京ことば、兄の心を矢で貫いた静玖さんに決定いたしました!」
しかし、4人以外、誰一人として耳を傾けるものはいない。
「今日、お風呂どうしよっか」
「やべぇ、傷開いたかも」
「今日は添い寝して、朝までお説教かな。もちろん、手をつないで、ね」
各々愛に包まれた家庭に生きる参加者たちを眺めながら、兄が呟く。
「みんなちがって、みんないい」
「んだんだ」
こうして、家庭の平和は守られた。またしても戦の狼煙があがることもあるかもしれないしないかもしれないが、それはおそらく、余人の知るところではない。
しんと静まり返った会場、もう撤収と、誰ともなく立ち上がったその時だった。
カフカ・ブラックウェル(ka0794)が妹のアルカ・ブラックウェル(ka0790)を伴い現れた。
カフカの白いコートの脇から、アルカが顔を覗かせる。白皙の面を縁取る濃い金の髪、好奇心いっぱいに見開かれた大きな瞳はスカイブルー、スラリとした体躯にまとった赤いジャケットが活動的な印象を与える。
「こんにちは! ボクの名前はアルカ。アルカ・ブラックウェル、クラスは疾影士、駆け出しのハンターだよ!」
澄んだ美しい声で、はっきりと名乗る。そして、カフカを肘でちょんちょんとつついた。
「僕も? ……面倒くさいんだけど」
おざなりなカフカを、アルカが大きな瞳でものいいたげに見つめる。
「はいはい、分かったよ。名前はカフカ、カフカ・ブラックウェル。クラスは魔術師」
涼やかな声で名乗った後、
「あ、妹にちょっかい出す奴は問答無用でつぶすから。そこだけは覚えといて」
ドスの効いた低音で付け加えることも忘れなかった。少し青みがかったアッシュブロンド、静かな光を湛える翡翠の瞳は、躍動感漂うアルカと好対照である。
「ボクっ子、尊い」
「美少女の兄イコール美青年、そして妹溺愛、これぞまさに古来より伝わる様式美!」
兄と妹は目をキラキラさせて2人ににじり寄る。
「こんな娘が、お兄ちゃん、なんて呼んでくれた日にゃあ、もう、毒パルムに身ぐるみ剥がされてもいい! うちの妹と交換して……」
できるか! とカフカが一歩踏み出す前に、妹が掌底で兄の顎を吹き飛ばす。
「毒パルムだって断るわ! いい? 可愛い妹、美形の兄、ここまでワンセットで初めてシスコンが許されるの!」
「シスコン?」
カフカの口元が斜めにひきつる。
「人にはね、分相応ってもんがあるの! 鏡見て出直してきな!」
「お前だって、絶対人のこと言えないくせにぃ!」
だんだん危険な様相を呈してきた会場の空気に、
「とりあえず、飲み物とお菓子でも食べる?」
カフカは持参した茶と菓子の入った袋を、ずいっと差し出した。
「いいんですか!」
おいおい、コンテストはどうしたよ。アルカとカフカはジトッと見返したが、4人は現金だった。
「まずはボクら兄妹の事を話せば良いかな?」
アルカが口を開いた。
「ボクはカフカと双子なんだ。ボクが妹だよ」
「故郷の村から一緒に出てきて、今は同じ家に同居中」
美形の双子、ここで4人のボルテージは一気に上がった。
「ご兄弟の仲は」
「兄妹仲? ……仲は悪くないと思う」
カフカが答える。アルカも小首をかしげ、
「仲は良い方だと思う。今も夜は一緒に寝てるし、都合が合えばお風呂も一緒」
お風呂も、一緒。
4人の心によからぬ妄想が走る。
「……アルカ、そういうプライベートな情報はいちいち伝えなくて良いよ」
ブシッ!
勢い良く、4人の鼻から鮮血が噴き出る。心に100の夢と希望、鼻の粘膜に計り知れないダメージを負った。
「カフカは物知りでボクが知らない事を沢山知ってて、とっても頼りになるんだ」
アルカが『ねっ』と、傍らのカフカと視線を合わせた。
「アルカは時々突飛な事を聞くからね。いつだったか、珍しい花を見て『あの花は食べられるの』って聞いてきたし」
食べられたら食べてみるつもりだったんだろうか。グルメハンター、アルカの今後に乞うご期待である。
「買い物に行く時は何だかんだ文句言いつつ付いて来てくれて、荷物も殆ど持ってくれるし」
無言のカフカが、やや照れたようにそっぽを向いた。
「依頼で一緒の時は、カフカの魔法の援護があると思うからボクは安心して背中を預けられるよ」
アルカが追いかけるように顔を寄せる。そして、目が合うとニコッと笑った。
「買い物は、幾らハンターとはいっても年頃の女子だし、女子の買物は時間がかかるし量もそれなりって諦めてるから」
口をとがらせ、カフカが言い訳のように付け加える。頬が若干赤い。
ツンデレ。
人心を惑わす魔の存在である。
4人は心の雑記帳に、『ツンデレ最強』と書き込んだ。
「あ、でも喧嘩も勿論するよ? 腹立つ事だってある」
アルカがちょっと頬を膨らませ、
「お風呂が長いんだよね。一緒に入るのは良いけど、ボクのぼせちゃうよ!」
「アルカだって、大体毎晩寝相悪いんだよ。僕のお腹蹴ったりするのやめてくれる?」
同じ、布団で、寝てらっしゃる。
もうだめだ、メーデーメーデー、ここは焦土と化した。あとにはぺんぺん草一つ生えやしない。
「あと、カフカが料理当番の時って大体、茸とか野菜料理多いよね。ボクはお肉が好きなのに!」
料理男子。ツンデレだけは飽き足らず、更にウルトラC級の技がキマっていく。
「肉ばっかじゃ栄養が偏る。それにデザートはアルカの好きなフルーツ付けてるだろ」
もういい、みなまで言うな。羨ましくて鼻血しか出ない。
「ま、でもボクはカフカの事が大好き。もし生まれ変わって、お兄ちゃんが選べるならボクはカフカを選ぶよ」
「……妹はアルカだけで十分だ」
こうして2人の兄妹愛は結実し、後には出血多量の4人が残された。
「聞かせてもらったぜ、ここまでの話」
兄妹喧嘩も鼻血で決着かと思われた瞬間、入り口に新たなる影が現れた。長身にがっしりとした体躯、口調は荒いが、滑らかな体のラインで女性だと分かる。健康的に日焼けした顔に人好きのする笑みを浮かべ、ボルディア・コンフラムス(ka0796)は兄と妹の間にどっかと座った。
「あなたは……大丈夫ですか!」
体中いたるところに包帯が巻かれ、両腕両足はギブスで固定、ボルディアは、重体だった。こんな体で、よくぞここまで来てくれた、4人の心は感謝でいっぱいだった。
「兄ちゃんねぇ……俺んとこの下の兄ちゃんはなんでも言うこと聞いてくれたぜ」
それは恐怖政治ということか。言葉を待つ兄に緊張が走る。
「例えばぁ、一緒に断崖絶壁から飛び込んでくれたりとか、虫取りに森ん中入って三日三晩彷徨って救助されたりとか、近所のカミナリオヤジに悪戯仕掛けに行って危うく殺されかけたりとか」
「却下ぁ!」
兄の悲痛な叫びに、不思議そうな表情で、
「なんで?」
「だめだめだめ! 断崖も絶壁もムリ! らいふいずぷれしゃす! 命大事に!」
「そういうもんじゃん? 兄貴って。うだるような暑さの中、苦虫噛み潰したような顔してたけど、それでもしょうがねぇなぁつって、全部付き合ってくれたんだよな……懐かしいぜ」
感慨深げにギブス装着のまま腕組みをし、うんうんと1人頷く。
「あ、でも上の兄ちゃんは、俺らが馬鹿するといっつも怒ってばっかだったな。覚醒者じゃなかったけど、上の兄ちゃんのゲンコツはメチャメチャ痛かったんだ。でも殴った本人が一番泣きそうだから、俺も下の兄ちゃんも何も言えなくて。そしたら俺らをこう、ギュッて、抱きしめるんだ。なんつーか……愛されてるって、ああいうかんじなんだろうな」
兄が、抱きしめた方がいいかというジェスチャーを妹に送る。
立てた妹の親指が、間髪入れずまっすぐに地面を指した。
「あー、何の話だっけ? とにかく、まずは妹。兄ちゃんに頼み事したら満面の笑みでありがとうっつっとけ。それで世の兄は何でも言うこと聞くぜ」
なんでも、言うことを、聞く。妹が、にやっと満面の笑みを浮かべた。
「やめろ! むしろ怖い!」
浮かんだ笑みのあまりの邪悪さに、兄が慄きながら抗議する。
「んで兄」
2人のやり取りには目もくれず、ボルディアの兄妹論が炸裂する。
「妹の頼みは至上命令だから。逆らおうなんて歪虚王に刃向かうくらい無謀だから。大人しく従っとけ。んで、こっからが大事なんだが。妹の要求にプラスアルファして応えてやると、妹の見る目変わるぜ」
「ぷ、ぷらすあるふぁ? そんなの無理だ、俺にはできない!」
兄が親友の肩を揺さぶって訴えかける。親友は、しっかりしろ、と肩をつかみ返し、
「戦わなければ生き残れない!」
「戦わなくても生き残りたい!」
兄のライフがゼロになろうとしたとき、
「まったく……怪我をした上にそれを黙ってるなんてね。今日はお説教だよ。ねえ澪」
静玖(ka5980)を横抱きにして(人これをお姫様抱っこと呼ぶ)、傍らの澪(ka6002)に微笑みかけながら、雹(ka5978)が通りかかった。
「ウーチーハー無実やァァァァ」
静玖はじたばたと暴れるが、その度雹が優しくぎゅっと抱きしめる。澪はそんな2人を黙って見守っている。
砂を吐くほど甘い光景であった。
静玖が首を振るたび、夜明けを思わせる瑠璃色の豊かな髪が大きく揺れる。3人ともよく似た顔立ちであり、形の良い額からは、左に深紅、右に純白の小さな角が覗いていた。雹は大柄ではないが、静玖を抱えて歩く足取りは確かなもので、相当な腕力を擁していることが伺える。
「せ、せやってな? 依頼で怪我ぁするんは仕方ないことやぇ?! べ、別にそれ言わなあかんことは……」
甘い声で抗議の声を上がる静玖に顔を寄せ、雹が「だめ」と囁いて、さらに抱いた手に力を込める。
何気なく看板を見やった澪が、
「コンテスト……? なに?」
と首をかしげた。
妹の友達がコンテストの趣旨を説明すると、
「コンテスト? やぶさかではないよ。僕の妹はこんなにかわいいからね」
雹はそう言って、静玖と澪を優しいまなざしで見下ろした。
「いえ、一応理想のお兄さんコンテストでもあるんですが」
「理想の兄か。兄って言うのは妹を守るものだよ。少なくとも僕はそう思ってる」
というと、言葉を挟ませる隙もなく語りだした。
「これは義務であり、それ以上に僕が僕としてしたい事だから。自分は妹の為に生きている。そうしなきゃ、とか思ったことはないよ。だって僕の妹はこんなに可愛いんだからね」
力説する雹の背中を眺めながら、4人は新たなシスコンの台頭を予感した。
「前々回の依頼、中身を見たけど、なんて危ない真似をしているんだ! 静玖は自分を子供と安心しているかもしれないけど、女の子なんだからね、潜入なんて危ない真似をして、何かあったら僕は、僕たちはどうすればいいのか。そこのところ分かっているのかい、静玖!」
横抱きのまま叱りつける。椅子もあるし、降ろしていいですよと、兄は思ったが、愛ゆえの説教は止まらない。
「……心配した……」
澪も、涙目でじっと静玖を見て、ぼそりとつぶやく。
「せ、せやってな? お仕事やったからな?! ほ、ほらもう怪我ぁ治ってますぇ?! せやから大丈夫やぇ?!」
静玖は腕から逃れようともがくが、その度兄の抱擁に阻まれる。
「しかたがないな。分かっていないようだから、今日はもう一日中こうしてお説教しているしかないのかな」
涙目の静玖、脱走を試みては優しい抱擁が繰り返され……今日はもう一日中他人のイチャコラを見ているしかないのかな。
4人の顔はもう、砂を吐きすぎてかっぴかぴに乾燥を始めている。
「兄様と2人で、お説教。一日で終わるなんて思わないでね? 静玖……」
澪が傍らに立ち、目をそらそうとする静玖の頬を、両手で挟んで包み込む。薄い色の打掛が、小柄な体を幻想的に彩っている。向き合う横顔の2人は合わせ鏡のように、瞬間同じ表情を浮かべた。
「生まれたな」
「ああ、美しい」
兄と親友が呟いた。
姉妹萌えの誕生であった。
「えんとりーなんばー、5番! お名前は……あ、静玖さん……静玖ぅ! かもん!」
エントリーナンバーなんてもんがあったんかい、という皆の驚きをものともせず、1人テンションの上がった兄が、小さな舞台に躍り出る。
やっと自ら立つことを許され、おずおずと舞台中央に立った静玖だが、舞台袖では上手に澪、下手に雹がスタンバっている。
「何か、一言お願いします!」
「せやなぁ、上やから、下やから関係あらしまへん、部下でも下僕でもあらしまへん。思い思いやる、その気持がなかったらあきまへんぇ」
「よく聞いとけよ、妹」
兄がどや顔で妹を見下ろす。
「魂抜けるほどの説教も、大切やからや。なんやしてもろたらありがとうやぇ? なんかしてもらいたかったらお願いします、やぇ?」
そう言いながら、じりじりと下手側に後退していこうとする静玖だが、2人に取り押さえられ、
「だめだよ、静玖。まだ、お説教の途中なんだから」
雹が静玖の耳元で囁く。口調は優しいが、割と目が笑っていない。
「も、もう十分骨身にしみましたぇぇぇぇぇぇぇ」
静玖の絶叫がこだまする。お姫様抱っこが俵担ぎに変わった。
「あ、雹兄ぃは格好いいおすぇ? 気が付いたら先回りで色々やってくれはって、お礼言うたらそれぐらいってな?」
雹の背中をぺちぺちと叩きながらも、いかにも嬉しそうな笑みを浮かべ、
「大好きやぇ」
と雹の背中にそっと頬を寄せた。
ドスッ。
見えない矢が兄の胸を貫く。
胸を抑え、倒れる兄。
「どうした兄! 持病の癪か?」
妹と兄の親友が駆け寄る。
「こ……」
「こ?」
「恋の病に」
「寝てろ」
妹がすげなく言い放つ。そうこう言ううちにも鬼の3人兄妹、愛の劇場は止まらない。
「澪も、いっつも一緒におってくれてな? 何でも……」
静玖が澪に微笑みかける。澪は無言で心配オーラを放った。
「ごめんや、やからっ怪我したんはっ!!」
しばらく無言の抗議を続けていた澪だったが、ふっと表情を緩めると、
「よい事言ったね」
澪が柔らかく微笑んで、静玖の髪をゆっくりとなでた。しかし、
「でも、それとこれとは話が別だから」
説教は続くよどこまでも。
「あーれー」
姫から俵へとクラスチェンジした静玖の受難はまだまだ続く。
「えー、そんなこんなで、この度の、輝け! 理想のお兄さん、妹コンテスト! ですが」
妹が厳かに閉会の辞を述べる。
「理想の兄は、審査員全員を鼻血の海に突き落とした、ザ・最強ツンデレお兄さん、お菓子とお茶がフェイバリットなカフカ・ブラックウェルさんに決定!」
パチパチパチ、と疎らな拍手が起こる。
「そして、理想の妹は、敵も惑わす必殺微笑、1人何故だか京ことば、兄の心を矢で貫いた静玖さんに決定いたしました!」
しかし、4人以外、誰一人として耳を傾けるものはいない。
「今日、お風呂どうしよっか」
「やべぇ、傷開いたかも」
「今日は添い寝して、朝までお説教かな。もちろん、手をつないで、ね」
各々愛に包まれた家庭に生きる参加者たちを眺めながら、兄が呟く。
「みんなちがって、みんないい」
「んだんだ」
こうして、家庭の平和は守られた。またしても戦の狼煙があがることもあるかもしれないしないかもしれないが、それはおそらく、余人の知るところではない。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/12/02 02:14:19 |