ゲスト
(ka0000)
【初心】残された島
マスター:紫月紫織

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- LV1~LV20
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/12/06 09:00
- 完成日
- 2016/12/13 04:24
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●一枚の権利書
長らく放置されてうっすら埃まで積もった大量の書類を見分しながら、彼女は溜まった疲れを吐き出すように溜息を吐いた。
この大量にあるほとんど権利の切れた書類をすべて見分しなければならないなど、なんという置き土産か……。
昨月の末、風邪をこじらせてそのまま眠るように息を引き取った祖父。
子供の頃からかわいがってくれて好きではあったが、晩年は会うことも減っていたなとほんの僅かな後悔が胸中にわだかまっている。
もう少し頻繁に訪ねても良かったのではないだろうか。
生活感の薄くなった祖父の屋敷で一人過ごしながらそんなことを思う。
この遺品の整理も、言ってみれば私の懺悔なのかもしれない。
まだ手を付けていない袖机の引き出しを開ける、そこには何も入っていなかった……いや。
「……底がずれてる、隠し棚?」
そっと外してみると、その奥から出てきたのは白地に銀の箔押しで彩りの施された綺麗な封筒だった。
贈り物なのだろう、裏返してみると祖父の癖のある字で"愛しい孫娘へ"と宛名されていた。
嗚呼、そうか……来月は私の誕生日だった。
忙しさにかまけてそんなことも忘れていたなと、思わず涙が滲む。
少し早いが、構わないだろう……そう思って封を開けると、そこから出てきたのは離島の権利証だった。
どんな所なのだろうか、それを聞ける相手はすでに居ない。
調べる必要があるなと、そう考えながら彼女は封筒ごとそれを抱きしめた。
●ハンターオフィスにて説明会
「小さいとは言え島をプレゼントとは、いやはや……お金持ちは凄いですね」
銀縁のアンダーリムをかけ直しながら依頼書に改めて目を通し、ハンターオフィス職員の女性は世界が違うなぁとばかりにしみじみと呟いた。
「それでは、説明させていただきますと、依頼の内容は離島の調査。最低限、危険の有無を確認してほしいとのことです。ただまぁ、孫娘への贈り物であるためその可能性は低いでしょう。危険な地形、凶暴な肉食獣が存在しないかと言ったところですね。それ以外では、島の資源調査。専門家を連れていく前に無駄足にならないよう、最低限の可能性を洗っておきたいそうです」
そう言って女性職員は依頼書を貴方達へと向ける。
依頼主の情報は19歳実業家、貴金属を中心に女性向けの商品を扱う商売を手がけているという。
また、離島の権利証には島の大まかな情報が記されていたとあり、その旨が転載されている。
「島の大きさはそれほどではないですね、一般人でも三時間あれば一週できてしまう程度です。期間は日帰りの調査という形ですね。今回、ソサエティの方から調査に慣れたハンターの方が二名同行していただくことになっています。なので経験がない、とかで足踏みする必要はありませんよ。いかがでしょう、この依頼……蹴るも受けるも貴方次第です」
長らく放置されてうっすら埃まで積もった大量の書類を見分しながら、彼女は溜まった疲れを吐き出すように溜息を吐いた。
この大量にあるほとんど権利の切れた書類をすべて見分しなければならないなど、なんという置き土産か……。
昨月の末、風邪をこじらせてそのまま眠るように息を引き取った祖父。
子供の頃からかわいがってくれて好きではあったが、晩年は会うことも減っていたなとほんの僅かな後悔が胸中にわだかまっている。
もう少し頻繁に訪ねても良かったのではないだろうか。
生活感の薄くなった祖父の屋敷で一人過ごしながらそんなことを思う。
この遺品の整理も、言ってみれば私の懺悔なのかもしれない。
まだ手を付けていない袖机の引き出しを開ける、そこには何も入っていなかった……いや。
「……底がずれてる、隠し棚?」
そっと外してみると、その奥から出てきたのは白地に銀の箔押しで彩りの施された綺麗な封筒だった。
贈り物なのだろう、裏返してみると祖父の癖のある字で"愛しい孫娘へ"と宛名されていた。
嗚呼、そうか……来月は私の誕生日だった。
忙しさにかまけてそんなことも忘れていたなと、思わず涙が滲む。
少し早いが、構わないだろう……そう思って封を開けると、そこから出てきたのは離島の権利証だった。
どんな所なのだろうか、それを聞ける相手はすでに居ない。
調べる必要があるなと、そう考えながら彼女は封筒ごとそれを抱きしめた。
●ハンターオフィスにて説明会
「小さいとは言え島をプレゼントとは、いやはや……お金持ちは凄いですね」
銀縁のアンダーリムをかけ直しながら依頼書に改めて目を通し、ハンターオフィス職員の女性は世界が違うなぁとばかりにしみじみと呟いた。
「それでは、説明させていただきますと、依頼の内容は離島の調査。最低限、危険の有無を確認してほしいとのことです。ただまぁ、孫娘への贈り物であるためその可能性は低いでしょう。危険な地形、凶暴な肉食獣が存在しないかと言ったところですね。それ以外では、島の資源調査。専門家を連れていく前に無駄足にならないよう、最低限の可能性を洗っておきたいそうです」
そう言って女性職員は依頼書を貴方達へと向ける。
依頼主の情報は19歳実業家、貴金属を中心に女性向けの商品を扱う商売を手がけているという。
また、離島の権利証には島の大まかな情報が記されていたとあり、その旨が転載されている。
「島の大きさはそれほどではないですね、一般人でも三時間あれば一週できてしまう程度です。期間は日帰りの調査という形ですね。今回、ソサエティの方から調査に慣れたハンターの方が二名同行していただくことになっています。なので経験がない、とかで足踏みする必要はありませんよ。いかがでしょう、この依頼……蹴るも受けるも貴方次第です」
リプレイ本文
●島へ向けて
ハンター達を乗せて船は進む。
出発した頃まだ暗かった空は薄っすらと白みはじめ、水平線の向こうに小さな島がその姿を表しつつあった。
「誕生日に島をプレゼントとは……壮大すぎて夢物語のようですね。私も石油王に油田を突然プレゼントされてみたいものです」
見えてくる島影を見ながら、メアリ・ロイド(ka6633)はそんなことを口にする。
「てめぇのそれは素なのか冗談なのかどっちなんだ?」
メアリのその無表情っぷりにすぐ隣に座っていたクリアン(ka6654)が思わず口を開く、その表情には若干の困惑が浮かんでいた。
本音なのだろうか……いや、貰えるならほしいが。
そんな風に考える二人の向かいに座る南護 炎(ka6651)はこれからの調査の事に考えを巡らせていた。
「『島を1個』遺したのはきっと『金持ちの道楽』だけじゃない『何か特別な意図』があって遺したんじゃないか? その線で調べてみるか」
などと時々その心情が口に漏れている。
「そうかもしれませんね……あるいは島で寛いでもらいたいとか、そういった気持ちだったのかもしれません。随分と忙しそうな方のようですし」
南護の言葉にソラス(ka6581)が同意するように返す。
「さて、どうだろうな」
近づいてくる島影に読んでいた本を閉じながら、リズレット・ウォルター(ka3580)はぽつりとつぶやいた。
その言葉に二人の視線が向く。
「何か意図があったのか、それとも孫娘をいたわってか、どちらであっても故人の意図はもはやわからん。我々にできるのは推測することと、依頼をこなすことだけだ」
「そうかもしれませんね」
「もしかしたら、『孫娘ともっと遊んでやりたかった……』『孫娘ならば、家族で楽しい思い出を作れる場を、子供に寂しい想いをさせないようにする場を作ってくれるのでは……』と期待を込めて遺したのかもな」
「せやったら素敵やね」
島に接岸された船から降りゆっくりと周りを見渡したあと、優しい笑みを浮かべながら、レナード=クーク(ka6613)はそう口にした。
「兎にも角にも、僕らの調査がその第一歩、せやろ?」
朝焼けに照らされながら、こうしてハンターたちは島に上陸したのだった。
●南の砂浜
海岸は大きく弧を描くような形になっていた、そのためか打ち寄せる波はやや穏やかだ。
足を踏み出す度に音をたてる砂に、ソラスとリズレット、二人の足跡が続く。
「この海岸の形からすると、思ったよりこの島の面積は小さいかもしれませんね」
「そうであればより密に調査ができるな」
答えながら足元の貝殻やサンゴを拾い上げて、ふむとリズレットは小さく唸る。
隣から覗き込んだソラスがそれに気づいて別の貝殻を拾い上げる。
掌ほどのその貝殻は大きさに負けないぐらいに肉厚で、しっかりとした存在感を放っている。
「サンゴも貝もそれほど珍しいものではないな。リゼリオの海でもよく見かけるものと変わりない」
「ええ、でもこの貝殻は見事です。これだけ肉厚で大きさもあればまた違った加工品にできるかもしれません」
ソラスはいそいそと魔導カメラを取り出して写真に収める、角度を変えて数枚、取り終えたものをバックパックにしまい込んだ。
「このあたりの海は豊かなのだろうな」
その言葉に二人して海へと視線を向ける。
綺麗で豊かな海が育む恵みといったところだろうか。
少し離れた場所から聞こえた水音に視線を向ければ、魚の群れが水面から飛ぶように跳ねていた。
「釣りもできそ──」
リズレットが言いかけた矢先、巨大な影が魚の群れを追うように跳ねた。
ざばん、という大きな音と共に影は海の中へと潜り消え、ほんの少しの沈黙の後、ソラスはメモに無言でそれを書き残した。
──サメに注意。
海岸沿いをあるきながら、獣の痕跡がないか探す二人だが、しばらくしてその可能性は低いのではないかという結論に互いに達していた。
時折ソラスが足を止めて魔導カメラを構える、納められていく景色は海辺をPRするのにも使えそうだった。
「これと言って雑魔の気配などもないですね、なんとも平和なものです」
「そうだな。仕事でなければ休暇に訪れたいぐらいだ」
「そうですね、そんな機会があれば──おや?」
はたと足を止めたソラスに合わせて足を止めるリズレット、何に気づいたのかと周囲を見て、違和感を覚えながらもその原因がはっきりとわからなかった。
「どうしたソラス殿、何か見つけたのか?」
「いえ、このあたりだけ漂着物が少なくありませんか?」
そう言って周りを示すソラスに、再度見回してから同意する、たしかに流木やらがこのあたりだけ漂着していない。
「運んだような様子もありませんし、なぜでしょう?」
「発想をかえて……もともとこの近辺には漂着していない、と見るのはどうだろうか」
前提をくるりと変えたリズレットの言葉に、少し考え込む。
そういうものもあるのかもしれない、だとしたら興味深い話であった。
「でしたら、試してみるのが一番手っ取り早いですね」
ソラスの言葉に頷いて返すリズレット、早速とばかりに二人は少し離れた場所にある流木を幾つも拾い上げ、海へと投げ入れ始めた。
望遠鏡を覗き流木の動きを追うソラスの目が驚きに見開かれるまでに時間はかからなかった。
流木のうち幾つかが海面をさーっと沖まで流されていったのである、離岸流だ。
「どうやら、リズレットさんの発想で正解のようですね」
「ここの海は少々危険な地形のようだな」
「気づくことが出来て良かったですね」
メモに書き残しながら、互いに同意して次の調査へと向かうのだった。
●島中央部
ばさばさと生い茂る低木と草をかき分けながら、レナードとクリアンは雑木林の中を進んでいた。
切り払う必要があるほどではないものの、少々足を取られるのは厄介で走るのは難しそうである。
「バイクを置いてきたのは正解だったぜ」
「せやね、これじゃあ乗り入れるのは無理やったやろ」
林の奥へと進む傍ら、目についた木々の肌を確認しながら慎重に歩みをすすめる。
花畑まで半分ぐらいの距離を進んだ頃合いになっても木肌に巨獣の爪痕なども見当たらなければ、糞や食べ残しといったものも見当たらず、危険のきの字も見つからない、なんとも平和な調査となっていた。
「なんちゅうか、ほんとに平和な楽園って感じやねぇ」
「だなぁ、小動物なんかはそこそこいるけども、デケェ個体はいないっていうか……」
クリアンが木肌を検分し、細かい爪痕を一応とカメラに収めるものの、サイズからしてリスやモモンガといった程度だろう。
気が緩みそうになるのを引き締めながら目的地を目指す、その途中にそれを見つけたのはレナードだった。
「なーなー、クリアンさん。あそこ、あの暗がりなんか奥がありそうとちがう?」
彼の指差す方を見れば確かに若干影の出来方が違うように見えた、運良く意識を向けていなければそのまま見落としていただろうぐらいの僅かな違和感である。
「洞窟とかやったら、奥になんかあるかもしれへんくないかい?」
レナードの言葉に、にっと笑って返す。
「へぇ、そりゃいい。調べてみる価値は十分にあんな」
クリアンとともに進路を変更し、足元に注意しながら進む。
たどり着いた暗がりをクリアンがランタンで照らして見れば、そこはゴツゴツとした岩が露出する洞窟となっていた。
「んー、なんかきらきらと光っとるね」
「だな、銀の鉱脈とかだったらあたりなんだが」
レナードが壁面のキラキラした部分を魔導カメラに納めたあと、足元を確認しつつ採取に向かう。
奥はそれほど深くないようで程なくして戻った彼の手の上には、鉱石と思わしきものが握られていた。
「明かりおおきにな、たすかったわ」
「いいってことよ、何かわかるか?」
「いやぁ、見ただけじゃちょっと判断つかんねえ。写真もとったし、これも持って帰って報告ってとこかなぁ」
「ま、しかたねーな。とりあえず当初の目的どおり花畑に向かおうぜ」
前を進んでいたクリアンが足を止め、すぐ後ろに続いていたレナードがそれに習う。
彼女の視線の先を追ってそれを見つけ、思わずレナードが息を呑んだ。
「でけぇ蜂の巣だなぁ、おい」
「でかいってレベルとちゃうで……人の丈ぐらいあるやん」
「巣を壊されるような外敵が居ないってこったろうな。花畑も近いんだろ、向こうから回ろうぜ」
巨大な蜜蜂の巣を横目に木々をかき分けて抜けた先は、色とりどりの花が咲き誇る自然の生み出すキャンバスだった。
風に乗ってやってくる花の香りに調査のために引き締めてあった緊張がすっとほぐされる、そんな気がする。
「こら見事なもんやねぇ」
「だな、あんだけでけぇ蜂の巣ができるわけだ」
早速花畑をカメラに収めようとするレナードの視線を避け、周囲を警戒するクリアンだったが、花畑に隠れるようにしていた小鳥たちを見つけ、その警戒を緩めるのだった。
●北西の岩場
降り立った場所からいえば、目的地が一番遠いメアリと南護の二人は海岸沿いに北西の岩場へ向けて足早に進んでいた。
先頭を進む柴犬を追いかけるように、けれど警戒は決して怠っていない。
「そんなに心配する必要は、今のところ多分ないぜ」
時々メアリが林の側を気にするように視線を向けるのに対して、南護は柴犬の様子を見てそう口にする。
「警戒は必要ない、ということですか?」
「そういうわけじゃないけど、こいつが怯えてないからな。獣がいるにしても今のところ縄張りには入ってないと思う」
南護の答えになるほどと頷いて、メアリは視線を前へと戻した。
次第に足元の砂が岩に変わり、草木も減り始めたところで二人は歩調を緩める、そろそろ調査予定の岩場である。
「それほどではないですが、高台になっているようですね」
「落っこちないように少し海沿いから離れたほうがいいな」
「そうですね、うっかり落ちてしまうと事です(場合によっては南護さんが殺害犯として疑われ一悶着、とかドラマっぽいですね)」
「岩礁地帯は色々と危ないからな」
無表情なメアリが内心で考えていることなど、南護は気づくよしもないのだった。
「そろそろ降りて海岸沿いに調べてみるか?」
「そうですね、残念ながらこちらは何もなさそうです。獣の痕跡すらありませんでしたし」
「獣がいそうな様子、ないもんな。やっぱり何か他の意図が……うわっ!?」
話しながら歩く南護の足元が突如崩れ落ちた。
地下に空洞が出来て脆くなっていたのだろう、地割れの中に飲まれる南護の手を咄嗟に掴んだメアリだったが、体格差を支えることは出来ず共に崩れた岩場の中へと引きずり込まれた。
僅かな浮遊感の後に訪れたのは大きな水音、落下した場所が水場だというのは幸運だっただろう。
直後こそ慌てたものの、すぐに足が付くことが分かり落ち着きを取り戻す。
「一緒に落ちちまったら助け呼べないだろ……でも、ありがとうな」
「わりぃ、咄嗟に手がでちまった」
「……へ?」
「……トランシーバーを持っているのはあなたでしょう?」
「あ、ああ……そうだったな」
突然変わった口調をごまかすように言って、メアリは道具の中からライトを取り出して辺りを照らす。
その光に呼応するかのように壁面がキラキラと光を反射し始めるに至って、そこが何かの鉱床のようだと二人は気づいた。
「これは……壁面に何か結晶があるのですね。小さなものばかりですけど、まるで星空のようです」
「何かの宝石か? いや、それにしても綺麗だ─うわっ!?」
同じようにライトを取り出して壁面の確認をしに行こうとした南護の隣で、メアリが突然水の中に潜った。
その音に慌てて振り返ると、彼女は少しして浮かび上がってきた。
「おい、ちょっと水の中見てみろ! すげーぞ!」
「え、えぇ?」
突然また口調の変わったメアリに促されて水の中に潜る南護、そこに広がっていたのは、水面と水中にある結晶、そして色とりどりの綺麗な魚達によって生み出される乱反射する光のオーケストラだった。
思わず息をするのも忘れて見とれるほどの光景に、南護はもしかしたら依頼主の祖父はこれを孫娘に遺したかったのではないかと、そう考えるのだった。
●報告会
酒屋の一室にて、それぞれの前に並んだ飲み物を前にハンターたちは依頼主との報告会を行っていた。
「皆さん、まずは調査ご苦労様でした。報酬とは別として今日の会計は私が持ちますので、どうぞ存分に。それで早速ですが、料理が来る前に報告を聞いてしまいたいのですが」
促す依頼主に、ソラスとリズレットの組から手が挙がる。
「それではまずは私達から。南の砂浜の調査でしたが、大型の獣の生息は確認出来ませんでした」
「海にはサメが居たがな。あと、強めの離岸流が発生している」
「貝殻やサンゴが多く流れ着いていました。珍しいものではなかったですが、貝殻は大ぶりで肉厚なものでしたよ」
そう言ってソラスが差し出した写真を見て、依頼主はほうと唸った。
その目が光っているところから、何か案がすでに巡っている様子が見て取れた。
「そいじゃ、次はうちらやな」
続いて挙手するのはレナードとクリアンの組だった。
「ですね、花畑はそれはもう見事なものでしたわ。側に大きな蜂の巣もたくさんありましたが」
「お、おう……せやな、とりあえず危険そうな大型の獣はおらんと思う。それらしき痕跡は見当たらんかったよ」
目の前に依頼主がいるせいか、口調の変わったクリアンに困惑するレナードだったが、撮ってきた写真と摘んできた花とともに依頼主に差し出した。
「……これは、見事な花畑ですね。この花の香り、不思議な心地よさがあります」
「あとはこれやな、小さめの洞窟で取れたんやけど」
「何かの鉱石のようですね……後ほど鑑定に回させていただきます」
「それでは最後は私達ですね」
メアリの言葉に、その場の視線が集まる。
「北西の岩場ですが、これと言った危険な生物の痕跡は見られませんでした。岩場は亀裂の入っているところがあります。海につながっていました」
メアリがLEDライトと魔導カメラで取った写真を手渡すと、依頼主は言葉もなくそれに魅入ってしまった。
地に落ちた星々、差し込む陽の光、泳ぐ魚達が生み出す幻想的な一枚だ。
「もしかしたらお爺さんは、これを娘さんに遺したかったんじゃないかなって思うんです、整えれば家族が遊びに来る素敵なリゾート地にだってなると思います」
南護の言葉に、まだ見ぬ島の姿を想って少しの間想像を巡らせた依頼主は、小さく微笑みを返した。
「そうかもしれませんね……お祖父様が何を想っていたかはわかりませんが、何かあったのだとしても、もはや想像するしか無い。だから──約束します。無駄にはしない、と」
報告を聞き終えて満足そうな依頼主の笑顔に、調査に対する確かな手応えを感じるのだった。
ハンター達を乗せて船は進む。
出発した頃まだ暗かった空は薄っすらと白みはじめ、水平線の向こうに小さな島がその姿を表しつつあった。
「誕生日に島をプレゼントとは……壮大すぎて夢物語のようですね。私も石油王に油田を突然プレゼントされてみたいものです」
見えてくる島影を見ながら、メアリ・ロイド(ka6633)はそんなことを口にする。
「てめぇのそれは素なのか冗談なのかどっちなんだ?」
メアリのその無表情っぷりにすぐ隣に座っていたクリアン(ka6654)が思わず口を開く、その表情には若干の困惑が浮かんでいた。
本音なのだろうか……いや、貰えるならほしいが。
そんな風に考える二人の向かいに座る南護 炎(ka6651)はこれからの調査の事に考えを巡らせていた。
「『島を1個』遺したのはきっと『金持ちの道楽』だけじゃない『何か特別な意図』があって遺したんじゃないか? その線で調べてみるか」
などと時々その心情が口に漏れている。
「そうかもしれませんね……あるいは島で寛いでもらいたいとか、そういった気持ちだったのかもしれません。随分と忙しそうな方のようですし」
南護の言葉にソラス(ka6581)が同意するように返す。
「さて、どうだろうな」
近づいてくる島影に読んでいた本を閉じながら、リズレット・ウォルター(ka3580)はぽつりとつぶやいた。
その言葉に二人の視線が向く。
「何か意図があったのか、それとも孫娘をいたわってか、どちらであっても故人の意図はもはやわからん。我々にできるのは推測することと、依頼をこなすことだけだ」
「そうかもしれませんね」
「もしかしたら、『孫娘ともっと遊んでやりたかった……』『孫娘ならば、家族で楽しい思い出を作れる場を、子供に寂しい想いをさせないようにする場を作ってくれるのでは……』と期待を込めて遺したのかもな」
「せやったら素敵やね」
島に接岸された船から降りゆっくりと周りを見渡したあと、優しい笑みを浮かべながら、レナード=クーク(ka6613)はそう口にした。
「兎にも角にも、僕らの調査がその第一歩、せやろ?」
朝焼けに照らされながら、こうしてハンターたちは島に上陸したのだった。
●南の砂浜
海岸は大きく弧を描くような形になっていた、そのためか打ち寄せる波はやや穏やかだ。
足を踏み出す度に音をたてる砂に、ソラスとリズレット、二人の足跡が続く。
「この海岸の形からすると、思ったよりこの島の面積は小さいかもしれませんね」
「そうであればより密に調査ができるな」
答えながら足元の貝殻やサンゴを拾い上げて、ふむとリズレットは小さく唸る。
隣から覗き込んだソラスがそれに気づいて別の貝殻を拾い上げる。
掌ほどのその貝殻は大きさに負けないぐらいに肉厚で、しっかりとした存在感を放っている。
「サンゴも貝もそれほど珍しいものではないな。リゼリオの海でもよく見かけるものと変わりない」
「ええ、でもこの貝殻は見事です。これだけ肉厚で大きさもあればまた違った加工品にできるかもしれません」
ソラスはいそいそと魔導カメラを取り出して写真に収める、角度を変えて数枚、取り終えたものをバックパックにしまい込んだ。
「このあたりの海は豊かなのだろうな」
その言葉に二人して海へと視線を向ける。
綺麗で豊かな海が育む恵みといったところだろうか。
少し離れた場所から聞こえた水音に視線を向ければ、魚の群れが水面から飛ぶように跳ねていた。
「釣りもできそ──」
リズレットが言いかけた矢先、巨大な影が魚の群れを追うように跳ねた。
ざばん、という大きな音と共に影は海の中へと潜り消え、ほんの少しの沈黙の後、ソラスはメモに無言でそれを書き残した。
──サメに注意。
海岸沿いをあるきながら、獣の痕跡がないか探す二人だが、しばらくしてその可能性は低いのではないかという結論に互いに達していた。
時折ソラスが足を止めて魔導カメラを構える、納められていく景色は海辺をPRするのにも使えそうだった。
「これと言って雑魔の気配などもないですね、なんとも平和なものです」
「そうだな。仕事でなければ休暇に訪れたいぐらいだ」
「そうですね、そんな機会があれば──おや?」
はたと足を止めたソラスに合わせて足を止めるリズレット、何に気づいたのかと周囲を見て、違和感を覚えながらもその原因がはっきりとわからなかった。
「どうしたソラス殿、何か見つけたのか?」
「いえ、このあたりだけ漂着物が少なくありませんか?」
そう言って周りを示すソラスに、再度見回してから同意する、たしかに流木やらがこのあたりだけ漂着していない。
「運んだような様子もありませんし、なぜでしょう?」
「発想をかえて……もともとこの近辺には漂着していない、と見るのはどうだろうか」
前提をくるりと変えたリズレットの言葉に、少し考え込む。
そういうものもあるのかもしれない、だとしたら興味深い話であった。
「でしたら、試してみるのが一番手っ取り早いですね」
ソラスの言葉に頷いて返すリズレット、早速とばかりに二人は少し離れた場所にある流木を幾つも拾い上げ、海へと投げ入れ始めた。
望遠鏡を覗き流木の動きを追うソラスの目が驚きに見開かれるまでに時間はかからなかった。
流木のうち幾つかが海面をさーっと沖まで流されていったのである、離岸流だ。
「どうやら、リズレットさんの発想で正解のようですね」
「ここの海は少々危険な地形のようだな」
「気づくことが出来て良かったですね」
メモに書き残しながら、互いに同意して次の調査へと向かうのだった。
●島中央部
ばさばさと生い茂る低木と草をかき分けながら、レナードとクリアンは雑木林の中を進んでいた。
切り払う必要があるほどではないものの、少々足を取られるのは厄介で走るのは難しそうである。
「バイクを置いてきたのは正解だったぜ」
「せやね、これじゃあ乗り入れるのは無理やったやろ」
林の奥へと進む傍ら、目についた木々の肌を確認しながら慎重に歩みをすすめる。
花畑まで半分ぐらいの距離を進んだ頃合いになっても木肌に巨獣の爪痕なども見当たらなければ、糞や食べ残しといったものも見当たらず、危険のきの字も見つからない、なんとも平和な調査となっていた。
「なんちゅうか、ほんとに平和な楽園って感じやねぇ」
「だなぁ、小動物なんかはそこそこいるけども、デケェ個体はいないっていうか……」
クリアンが木肌を検分し、細かい爪痕を一応とカメラに収めるものの、サイズからしてリスやモモンガといった程度だろう。
気が緩みそうになるのを引き締めながら目的地を目指す、その途中にそれを見つけたのはレナードだった。
「なーなー、クリアンさん。あそこ、あの暗がりなんか奥がありそうとちがう?」
彼の指差す方を見れば確かに若干影の出来方が違うように見えた、運良く意識を向けていなければそのまま見落としていただろうぐらいの僅かな違和感である。
「洞窟とかやったら、奥になんかあるかもしれへんくないかい?」
レナードの言葉に、にっと笑って返す。
「へぇ、そりゃいい。調べてみる価値は十分にあんな」
クリアンとともに進路を変更し、足元に注意しながら進む。
たどり着いた暗がりをクリアンがランタンで照らして見れば、そこはゴツゴツとした岩が露出する洞窟となっていた。
「んー、なんかきらきらと光っとるね」
「だな、銀の鉱脈とかだったらあたりなんだが」
レナードが壁面のキラキラした部分を魔導カメラに納めたあと、足元を確認しつつ採取に向かう。
奥はそれほど深くないようで程なくして戻った彼の手の上には、鉱石と思わしきものが握られていた。
「明かりおおきにな、たすかったわ」
「いいってことよ、何かわかるか?」
「いやぁ、見ただけじゃちょっと判断つかんねえ。写真もとったし、これも持って帰って報告ってとこかなぁ」
「ま、しかたねーな。とりあえず当初の目的どおり花畑に向かおうぜ」
前を進んでいたクリアンが足を止め、すぐ後ろに続いていたレナードがそれに習う。
彼女の視線の先を追ってそれを見つけ、思わずレナードが息を呑んだ。
「でけぇ蜂の巣だなぁ、おい」
「でかいってレベルとちゃうで……人の丈ぐらいあるやん」
「巣を壊されるような外敵が居ないってこったろうな。花畑も近いんだろ、向こうから回ろうぜ」
巨大な蜜蜂の巣を横目に木々をかき分けて抜けた先は、色とりどりの花が咲き誇る自然の生み出すキャンバスだった。
風に乗ってやってくる花の香りに調査のために引き締めてあった緊張がすっとほぐされる、そんな気がする。
「こら見事なもんやねぇ」
「だな、あんだけでけぇ蜂の巣ができるわけだ」
早速花畑をカメラに収めようとするレナードの視線を避け、周囲を警戒するクリアンだったが、花畑に隠れるようにしていた小鳥たちを見つけ、その警戒を緩めるのだった。
●北西の岩場
降り立った場所からいえば、目的地が一番遠いメアリと南護の二人は海岸沿いに北西の岩場へ向けて足早に進んでいた。
先頭を進む柴犬を追いかけるように、けれど警戒は決して怠っていない。
「そんなに心配する必要は、今のところ多分ないぜ」
時々メアリが林の側を気にするように視線を向けるのに対して、南護は柴犬の様子を見てそう口にする。
「警戒は必要ない、ということですか?」
「そういうわけじゃないけど、こいつが怯えてないからな。獣がいるにしても今のところ縄張りには入ってないと思う」
南護の答えになるほどと頷いて、メアリは視線を前へと戻した。
次第に足元の砂が岩に変わり、草木も減り始めたところで二人は歩調を緩める、そろそろ調査予定の岩場である。
「それほどではないですが、高台になっているようですね」
「落っこちないように少し海沿いから離れたほうがいいな」
「そうですね、うっかり落ちてしまうと事です(場合によっては南護さんが殺害犯として疑われ一悶着、とかドラマっぽいですね)」
「岩礁地帯は色々と危ないからな」
無表情なメアリが内心で考えていることなど、南護は気づくよしもないのだった。
「そろそろ降りて海岸沿いに調べてみるか?」
「そうですね、残念ながらこちらは何もなさそうです。獣の痕跡すらありませんでしたし」
「獣がいそうな様子、ないもんな。やっぱり何か他の意図が……うわっ!?」
話しながら歩く南護の足元が突如崩れ落ちた。
地下に空洞が出来て脆くなっていたのだろう、地割れの中に飲まれる南護の手を咄嗟に掴んだメアリだったが、体格差を支えることは出来ず共に崩れた岩場の中へと引きずり込まれた。
僅かな浮遊感の後に訪れたのは大きな水音、落下した場所が水場だというのは幸運だっただろう。
直後こそ慌てたものの、すぐに足が付くことが分かり落ち着きを取り戻す。
「一緒に落ちちまったら助け呼べないだろ……でも、ありがとうな」
「わりぃ、咄嗟に手がでちまった」
「……へ?」
「……トランシーバーを持っているのはあなたでしょう?」
「あ、ああ……そうだったな」
突然変わった口調をごまかすように言って、メアリは道具の中からライトを取り出して辺りを照らす。
その光に呼応するかのように壁面がキラキラと光を反射し始めるに至って、そこが何かの鉱床のようだと二人は気づいた。
「これは……壁面に何か結晶があるのですね。小さなものばかりですけど、まるで星空のようです」
「何かの宝石か? いや、それにしても綺麗だ─うわっ!?」
同じようにライトを取り出して壁面の確認をしに行こうとした南護の隣で、メアリが突然水の中に潜った。
その音に慌てて振り返ると、彼女は少しして浮かび上がってきた。
「おい、ちょっと水の中見てみろ! すげーぞ!」
「え、えぇ?」
突然また口調の変わったメアリに促されて水の中に潜る南護、そこに広がっていたのは、水面と水中にある結晶、そして色とりどりの綺麗な魚達によって生み出される乱反射する光のオーケストラだった。
思わず息をするのも忘れて見とれるほどの光景に、南護はもしかしたら依頼主の祖父はこれを孫娘に遺したかったのではないかと、そう考えるのだった。
●報告会
酒屋の一室にて、それぞれの前に並んだ飲み物を前にハンターたちは依頼主との報告会を行っていた。
「皆さん、まずは調査ご苦労様でした。報酬とは別として今日の会計は私が持ちますので、どうぞ存分に。それで早速ですが、料理が来る前に報告を聞いてしまいたいのですが」
促す依頼主に、ソラスとリズレットの組から手が挙がる。
「それではまずは私達から。南の砂浜の調査でしたが、大型の獣の生息は確認出来ませんでした」
「海にはサメが居たがな。あと、強めの離岸流が発生している」
「貝殻やサンゴが多く流れ着いていました。珍しいものではなかったですが、貝殻は大ぶりで肉厚なものでしたよ」
そう言ってソラスが差し出した写真を見て、依頼主はほうと唸った。
その目が光っているところから、何か案がすでに巡っている様子が見て取れた。
「そいじゃ、次はうちらやな」
続いて挙手するのはレナードとクリアンの組だった。
「ですね、花畑はそれはもう見事なものでしたわ。側に大きな蜂の巣もたくさんありましたが」
「お、おう……せやな、とりあえず危険そうな大型の獣はおらんと思う。それらしき痕跡は見当たらんかったよ」
目の前に依頼主がいるせいか、口調の変わったクリアンに困惑するレナードだったが、撮ってきた写真と摘んできた花とともに依頼主に差し出した。
「……これは、見事な花畑ですね。この花の香り、不思議な心地よさがあります」
「あとはこれやな、小さめの洞窟で取れたんやけど」
「何かの鉱石のようですね……後ほど鑑定に回させていただきます」
「それでは最後は私達ですね」
メアリの言葉に、その場の視線が集まる。
「北西の岩場ですが、これと言った危険な生物の痕跡は見られませんでした。岩場は亀裂の入っているところがあります。海につながっていました」
メアリがLEDライトと魔導カメラで取った写真を手渡すと、依頼主は言葉もなくそれに魅入ってしまった。
地に落ちた星々、差し込む陽の光、泳ぐ魚達が生み出す幻想的な一枚だ。
「もしかしたらお爺さんは、これを娘さんに遺したかったんじゃないかなって思うんです、整えれば家族が遊びに来る素敵なリゾート地にだってなると思います」
南護の言葉に、まだ見ぬ島の姿を想って少しの間想像を巡らせた依頼主は、小さく微笑みを返した。
「そうかもしれませんね……お祖父様が何を想っていたかはわかりませんが、何かあったのだとしても、もはや想像するしか無い。だから──約束します。無駄にはしない、と」
報告を聞き終えて満足そうな依頼主の笑顔に、調査に対する確かな手応えを感じるのだった。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 7人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼相談卓 レナード=クーク(ka6613) エルフ|17才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/12/06 09:08:25 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/12/02 07:27:31 |