ゲスト
(ka0000)
【女神】上がった船と幻の在処
マスター:奈華里

- シナリオ形態
- シリーズ(新規)
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/12/10 19:00
- 完成日
- 2016/12/22 00:57
このシナリオは2日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●冒険家
「うそでしょ…まさか、実在したの?」
イズがその船と出会ったのは少し前の事だった。
嵐の後に打ち上がった沈没船――その船を調査に行った調査船が戻ってこなくなりハンターと共に向かったのが、ついこないだの事である。そして、彼等が持ち帰った魔導カメラによる船内写真と残されていた滲んだ日誌、そして乗船者が持っていたとされる懐中時計を手掛かりに彼女が行きついた先はその船がある冒険家のものだったのではないかという結論である。
「あの船が二百年以上前の船だとすると暗黒海域に出る様な無謀な人って数える程しかいないもの…」
今でも暗黒海域と言えば歪虚の巣窟と化していて、普通の人間なら近付こうとはしない。
イズでさえ海運業を営んではいるが、父からはあそこには近付くなと教えられ、比較的安全とされている陸地の見える沿岸に船を走らせている事が多い。だが、もしあの海域が使えるようになれば貿易はグンッとやりやすくなる事だろう。辺境や東方への道筋が開ければ今よりぐんと彼女の仕事は明るくなるはずだ。
「とは言え、そんなの夢物語よね…」
ハンターを乗せて進んだとしても途中で歪虚にやられるのが落ち…浪漫はあるものの現実的ではない。
けれど、
(本当にあの船がその冒険家のもので、日誌に書いてある通りだとしたら?)
見つかった日誌の言葉の断片。それを合わせるとあの船の持ち主は何か見つけたのだ。
「危険、暗黒海域、しかしこれさえあれば……渡れるとでもいうの?」
彼女の推測が正しければ冒険家の名はルコ・ポマーロで間違いないだろう。
但し、彼女の知る彼の情報は少し日誌のそれとは異なっている。
「また考えてるんですかい、船長?」
父の代からの乗組員の一人が彼女に尋ねる。
「だって気になるじゃない。あの、大法螺吹きで有名なルコ・ポマーロの船かもしれないのよ。ただの作り話だと思っていたのに、本当にあったとなるともしかしたら」
「もしかしたら、何なんです?」
イズの続きの言葉を促すように彼が問う。だが、彼女はその後を続けられない。
(私、何を期待しているのかしら…でも、やっぱり)
ルコ・ポマーロとは――船乗りに伝わる彼の話はこうだ。
昔々あるところに一人の青年がいました。彼は海に憧れて、せっせとお金を稼ぎました。
そして、数十年かけて貯めた金で船を買います。それはそれは大きな船…彼はその船に自分の名をつけました。
それからの旅は彼にとって危険の連続です。
ですが、信頼のおける水夫達の協力により彼はあちこちを巡り、新たな発見を沢山します。
見た事のない魚や生き物に遭遇したり、行った土地で商人のまねごとをしてみたり。
その時々で必要最低限の金を稼いでは航海を続けて…最愛の妻も見つけ、順風満帆に思えたその時です。
彼は何を思ったかあの海域に手を出してしまったのです。
禁断の場所へと…妻は止めましたが、彼は聞きません。
「大丈夫、秘策はあるから」
彼はそう言い残して、船を頑丈に改築して船の名を妻の名前に直すと旅立ちます。
それから十数年後、もう死んだのではと思われていた頃彼は帰ってきました。
船はありません。水夫もたった数名のみ。ですが彼らは言うのです。
「渡れた…あの海域を渡れたんだ。これできっと新たな道が開ける」と。
けれど、船なしに帰ってきた彼らを到底信じる事が出来る筈はありません。
あの海域に踏み込んで気を病んでしまったのだと、馬鹿な事をした報いだと彼らを非難します。
その声に耐えられなくなったのか、彼はその後姿を消しました。最後にこう残して――。
「信じないならそれでいい。しかし、私は確かに渡った。証拠もあった。けれど奪われてしまったのだ」
と…。
そんな彼の言葉は戯言とされて、昔は馬鹿な事するなという教訓譚として語られていたが、今ではもうそれを語る者も少ない。
「あなたはどう思うの? あの船、乗組員の遺体がなかったでしょ…変だと思わない」
話を現実に戻して、イズが問う。
「それは…歪虚にやられたんでは?」
そういう彼に、腑に落ちない彼女。
(もし物語が本当なら奪われた…つまりは海賊とかかしら?)
イズが立ち上がる。そして、彼女はある場所へと歩を進めて…。
●情報源
「ねえ、何か聞いてない。海賊なんでしょ」
彼女がやってきたのは以前彼女の能力をかいストーカーを繰り返していた海賊・シルバーバレットの収容されている所謂刑務所の面会室だった。彼女は彼に海賊ならではの情報網でそれらしい事を聞いてはいないかを尋ねる。
「嬢ちゃんが来てくれんのは嬉しいけどなぁ。他の男の話とはつまらんなぁ」
「教えてくれたら、そうね。何か差し入れしてあげてもいいわよ?」
残念がる海賊のキャプテンに彼女は交渉する。
「ほう、して何を?」
「そうねぇ…煙草とか欲しくない?」
その答えにキャプテンは上機嫌だ。差し入れ目的というよりも彼女が来た事に好感を持っているらしい。
「まあいいさ。教えてやろう…ここだけの話、そいつの話は俺もよーく知っている」
勿体ぶった様子が彼が言う。
「いいか、よく聞け…そいつは本物だァ…ポマーロの海図。海賊にゃ有名な話だが、あれだけじゃあ意味がねぇ」
「意味がない? どういう事?」
彼女が彼との距離を詰め問う。
「さあな。持ってるっていう海賊は知ってるぜ。けど、奴らがあの海域に踏み込んでいないってんなら何か理由があるに決まってんだろ。何たってあそこは歪虚の巣窟だしな」
「そうね…だったらその海賊の名を教えて」
強い意志を秘めた眼で彼女が言う。
「ハハッ、そう言うと思ったぜ。流石に俺が見込んだ女だ。奴らの名は『デス・オルカ』…最近は成りを潜めているようだが、少し前の代では結構海を荒らしてたらしい。今はどこぞの街で裏酒場をやってるだの、海から離れられずに漁師を隠れ蓑にしてるだのって話だぜ?」
キャプテンはそう言って楽し気に笑う。
(ポマーロの海図……それが本当なら)
イズの心に好奇心という名の火が灯る。
「止めても無駄だとは思うが、気をつけろよ…嬢ちゃん。奴らはアンタ同様海を味方につけてるって話だ」
(海を、味方に?)
意味深な言葉に首を傾げる。だが、彼女はこの件から手を引くつもりはないようだった。
「うそでしょ…まさか、実在したの?」
イズがその船と出会ったのは少し前の事だった。
嵐の後に打ち上がった沈没船――その船を調査に行った調査船が戻ってこなくなりハンターと共に向かったのが、ついこないだの事である。そして、彼等が持ち帰った魔導カメラによる船内写真と残されていた滲んだ日誌、そして乗船者が持っていたとされる懐中時計を手掛かりに彼女が行きついた先はその船がある冒険家のものだったのではないかという結論である。
「あの船が二百年以上前の船だとすると暗黒海域に出る様な無謀な人って数える程しかいないもの…」
今でも暗黒海域と言えば歪虚の巣窟と化していて、普通の人間なら近付こうとはしない。
イズでさえ海運業を営んではいるが、父からはあそこには近付くなと教えられ、比較的安全とされている陸地の見える沿岸に船を走らせている事が多い。だが、もしあの海域が使えるようになれば貿易はグンッとやりやすくなる事だろう。辺境や東方への道筋が開ければ今よりぐんと彼女の仕事は明るくなるはずだ。
「とは言え、そんなの夢物語よね…」
ハンターを乗せて進んだとしても途中で歪虚にやられるのが落ち…浪漫はあるものの現実的ではない。
けれど、
(本当にあの船がその冒険家のもので、日誌に書いてある通りだとしたら?)
見つかった日誌の言葉の断片。それを合わせるとあの船の持ち主は何か見つけたのだ。
「危険、暗黒海域、しかしこれさえあれば……渡れるとでもいうの?」
彼女の推測が正しければ冒険家の名はルコ・ポマーロで間違いないだろう。
但し、彼女の知る彼の情報は少し日誌のそれとは異なっている。
「また考えてるんですかい、船長?」
父の代からの乗組員の一人が彼女に尋ねる。
「だって気になるじゃない。あの、大法螺吹きで有名なルコ・ポマーロの船かもしれないのよ。ただの作り話だと思っていたのに、本当にあったとなるともしかしたら」
「もしかしたら、何なんです?」
イズの続きの言葉を促すように彼が問う。だが、彼女はその後を続けられない。
(私、何を期待しているのかしら…でも、やっぱり)
ルコ・ポマーロとは――船乗りに伝わる彼の話はこうだ。
昔々あるところに一人の青年がいました。彼は海に憧れて、せっせとお金を稼ぎました。
そして、数十年かけて貯めた金で船を買います。それはそれは大きな船…彼はその船に自分の名をつけました。
それからの旅は彼にとって危険の連続です。
ですが、信頼のおける水夫達の協力により彼はあちこちを巡り、新たな発見を沢山します。
見た事のない魚や生き物に遭遇したり、行った土地で商人のまねごとをしてみたり。
その時々で必要最低限の金を稼いでは航海を続けて…最愛の妻も見つけ、順風満帆に思えたその時です。
彼は何を思ったかあの海域に手を出してしまったのです。
禁断の場所へと…妻は止めましたが、彼は聞きません。
「大丈夫、秘策はあるから」
彼はそう言い残して、船を頑丈に改築して船の名を妻の名前に直すと旅立ちます。
それから十数年後、もう死んだのではと思われていた頃彼は帰ってきました。
船はありません。水夫もたった数名のみ。ですが彼らは言うのです。
「渡れた…あの海域を渡れたんだ。これできっと新たな道が開ける」と。
けれど、船なしに帰ってきた彼らを到底信じる事が出来る筈はありません。
あの海域に踏み込んで気を病んでしまったのだと、馬鹿な事をした報いだと彼らを非難します。
その声に耐えられなくなったのか、彼はその後姿を消しました。最後にこう残して――。
「信じないならそれでいい。しかし、私は確かに渡った。証拠もあった。けれど奪われてしまったのだ」
と…。
そんな彼の言葉は戯言とされて、昔は馬鹿な事するなという教訓譚として語られていたが、今ではもうそれを語る者も少ない。
「あなたはどう思うの? あの船、乗組員の遺体がなかったでしょ…変だと思わない」
話を現実に戻して、イズが問う。
「それは…歪虚にやられたんでは?」
そういう彼に、腑に落ちない彼女。
(もし物語が本当なら奪われた…つまりは海賊とかかしら?)
イズが立ち上がる。そして、彼女はある場所へと歩を進めて…。
●情報源
「ねえ、何か聞いてない。海賊なんでしょ」
彼女がやってきたのは以前彼女の能力をかいストーカーを繰り返していた海賊・シルバーバレットの収容されている所謂刑務所の面会室だった。彼女は彼に海賊ならではの情報網でそれらしい事を聞いてはいないかを尋ねる。
「嬢ちゃんが来てくれんのは嬉しいけどなぁ。他の男の話とはつまらんなぁ」
「教えてくれたら、そうね。何か差し入れしてあげてもいいわよ?」
残念がる海賊のキャプテンに彼女は交渉する。
「ほう、して何を?」
「そうねぇ…煙草とか欲しくない?」
その答えにキャプテンは上機嫌だ。差し入れ目的というよりも彼女が来た事に好感を持っているらしい。
「まあいいさ。教えてやろう…ここだけの話、そいつの話は俺もよーく知っている」
勿体ぶった様子が彼が言う。
「いいか、よく聞け…そいつは本物だァ…ポマーロの海図。海賊にゃ有名な話だが、あれだけじゃあ意味がねぇ」
「意味がない? どういう事?」
彼女が彼との距離を詰め問う。
「さあな。持ってるっていう海賊は知ってるぜ。けど、奴らがあの海域に踏み込んでいないってんなら何か理由があるに決まってんだろ。何たってあそこは歪虚の巣窟だしな」
「そうね…だったらその海賊の名を教えて」
強い意志を秘めた眼で彼女が言う。
「ハハッ、そう言うと思ったぜ。流石に俺が見込んだ女だ。奴らの名は『デス・オルカ』…最近は成りを潜めているようだが、少し前の代では結構海を荒らしてたらしい。今はどこぞの街で裏酒場をやってるだの、海から離れられずに漁師を隠れ蓑にしてるだのって話だぜ?」
キャプテンはそう言って楽し気に笑う。
(ポマーロの海図……それが本当なら)
イズの心に好奇心という名の火が灯る。
「止めても無駄だとは思うが、気をつけろよ…嬢ちゃん。奴らはアンタ同様海を味方につけてるって話だ」
(海を、味方に?)
意味深な言葉に首を傾げる。だが、彼女はこの件から手を引くつもりはないようだった。
リプレイ本文
●船長
闇雲に探すのは無謀過ぎる。
そこで彼らはイズの聞いて来た話を頼り酒場を当たるが、それでもやはり港の数は多くて絞り様がない。
「これでは埒が明かんな」
とりあえずは近くの街を巡り、人通りの少ない道を通ってオウカ・レンヴォルト(ka0301)が情報集めに奔走する。
時にガラの悪い連中に絡まれる事もあったが、それは覚醒者の強みを生かして適当にいなす。それはそうだ。大事にしてしまえば、相手に警戒され避けられてしまう。生かさず殺さず…とまではいかないまでも重要そうな情報を持っている奴がいないか、気にしつつ淡々と事を進める。加えてジャック・エルギン(ka1522)やゼクス・シュトゥルムフート(ka5529)もそれぞれ当たりをつけて動いているからそろそろ少し位は情報が入ってもよさそうだが…未だ朗報は0だ。
(まあ、すぐ見つかるようなものではないだろうが、な)
調査を始めて早数日。進展しないのはどうも今のやり方が悪いのだろうか。
そこでラジェンドラ(ka6353)が゛別のアプローチを敢行すべく、ある人物の許を訪れる。
「なんだ、今度は野郎か」
面会室の扉を開き、姿を確認して男が言葉を漏らす。
ここはイズも訪れたシルバーバレットの頭のいる刑務所だ。中は殺風景な程何もない部屋に椅子が二つ。扉の先には監視員がいるようだが、それ以上はこれと言ったものは存在しない。
「まあ、そう言うな。折角いいもの持ってきたんだからな」
ラジェンドラが静かな笑みを見せ、手にしていた包みを開ける。
とそこには一本のワインがあった。王国領で作られているものだがベリアル襲来後流通が激減した代物だ。
「ほう…取引でもするつもりか? ハンターさんよぉ」
男が試す様な視線を向け彼に尋ねる。
「そう言うという事は俺の事を覚えてくれているようで光栄だな。俺はラジェンドラ…少し気になる事があってきた」
以前の捕縛依頼の折、彼もイズの船に同乗していた。その時の事を男も覚えていたらしい。
「敵の顔は忘れんさ…とはいえ、もう海賊でもないがな」
皮肉染みた言い方で男が綺麗に笑う。やはりこの海賊、何処か悪党らしくない。
「そうか…でも嬉しいよ。大将みたいな大物に覚えられていたんだからな」
それは彼の素直な言葉だ。本当に彼はこの海賊の射撃術に一目置いている。
「そりゃ言い過ぎだぜ。腕が良けりゃあの嬢ちゃんは俺のもんだったしな」
男が言う。
「いやいや、あの精度はなかなか出せんさ。それで少し聞きたくてな。あんな大きな船でどうやって…」
今までナリを潜めていたのか。海賊と判れば警備船や場合によっては海軍も出てくる。それなのに今まで捕まらなかったのは彼等がうまく船を隠していたからに違いない。話すうちに地図を開いて、彼等の行動を追って聞いてゆく。
「まぁ、ああ見えて機動力もあるのが俺の船だったからな。それに奴らも細かくはチェックしねぇ」
自分の話であるからかすっかり警戒を解いて、男は思いの外饒舌に話す。
「と、そういうあんたもその口振りからして船乗りなんだろう? どこを荒らしてたね?」
雰囲気で悟ったのか続けて男が尋ねる。
「俺か、俺は…宇宙だな」
それには少しの懐かしみを乗せて…彼の場合は捕縛側であるが、その辺は有耶無耶にしておく。
「ほお…宇宙か。考えた事もなかったぜ」
今は檻の中――出た後飛べたとしても男の知る海との差は計り知れない。
「まあ、機会があれば案内するさ。っともうこんな時間か…すまない。長居してしまったな」
ラジェンドラが立ち上がる。それにつられて男も腰を上げ独房と言う名の檻へと戻っていく。
(やはり来て正解だったな。蛇の道は蛇だ)
シルバーバレット…伊達に名の通った海賊ではなかったと彼は思う。
他の海賊の動向もそれなりに調べ上げていたらしく、話してはくれなかったがアジトの位置まで割と特定していたと見える。直接的な話は聞けなかったものの、海賊オルカの規模がどの位だったかが判れば、船の隠し場所や潜伏先の目星はつきそうだ。
「さて、一度戻るとするか」
収穫有。彼の情報に加えて、もう一人有力な位置情報を得た人物がいた。それは…。
●足跡
「きっとここやっ!」
りり子(ka6114)が音を立てて立ち上がる。
彼女は他のメンバーに比べて歳が若い。従って酒場の聞き込みを諦めて、水夫や元漁師だった人をターゲットに学校の課題という名目でルコに関する事を聞き込み、教えられた資料や本を探し今に至る。そして、図書館の資料室を借りて、イズと共に港の利用者名簿を当たっていた所ヒットしたようだ。
「この港で登録して初めて航海に出でる。って事はこの港がルコさんの地元ちゃうやろか!」
船を初めて造るなら地元で作るに決まっている。そう推理する彼女にイズも同意する。
そこでその頃のものに絞って更に調べを進めれば、停泊した日数や場所が徐々に明らかになってくる。
「やっぱり本当に渡ったのかも」
ルコ・ポマーロ。写真こそ残っていないものの冒険家に相応しく、各地に彼の足跡が垣間見えて期待が膨らむ。
「なあ、イズさん。ここ、これが最後の航海ちゃうやろか?」
冊子を数枚捲って、りり子が指差す。するとその先には船の名前を改めた記録が残っていて、昔話では暗黒海域に出る時に改名を行ったとあった筈だ。
「ルコ・ポマーロ号改めサント・アリエンヌ号…確かにこれね。とするとこの名って…」
「奥さんの名前ちゃうかな」
「それね!」
ルコの最愛の人――何故旧姓を使ったかは判らないが、船で拾った懐中時計のイニシャルもA・Pだった事から名前の頭文字が一致する。
「これで港が絞れるんちゃう? もしこれが本当なら故郷の港って事になるし、身内の人がいるかもしれへん」
りり子が嬉しげに言う。
(そうよ。誰か知っている人がいれば、少しでも手掛かりになるかもしれないわ)
イズも逸る心を宥めつつ、皆の帰りを待つ。
(お墓があれば、うちの深淵の声で何かが探れるかもしれんし…よかった。役に立てて)
大人は大人の、子供は子供なりの進め方がある。この時それを大きく感じたりり子なのだった。
そうして、調査は進展する。
ルコの地元に場所を移してラジェンドラの得た話を元にすると船を隠していそうな場所の検討はついてくる。
「もしかしたら堂々と港に置いている可能性もあるか」
オルカの船についての型はまだはっきりとはしていない。だがガレオンの様な大きな船だったとすると寧ろ隠した方が怪しまれる。堂々と観覧船として営業していたりすれば、それはもう海賊船と言う見方はされなくなるし、船の名を改めればそれがそうであったかどうかなど判り様がない。
「っしゃ、じゃあちょっくら行ってくるぜ」
ジャックが酒場へとくり出す。
「俺も行こう」
それに続いてゼクスも彼の後を追う。
「しかし、凄いのです! あの見聞録の人がクリムゾンウエストに来ていたなんて!」
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が興奮しながら言う。
「いや…ルコ・ポマーロだからな。確かに文字を入れ替えればそうだが…」
そんな彼女にリアルブルー出身のオウカがツッコミを入れる。
「っとそうでした。聞き間違えちゃいました~」
顔を赤くして彼女が笑う。
「さてでは、気を取り直して私は漁師さんの所に行ってきますねー」
そんなやり取りもそこそこにまた皆が動き出した。だがやはりここまでくると郷に入っては郷に従えか?
●酒場
ならず者の行きそうな酒場がこの町にはあった。
港からすぐ近く、奥まった所にあるから地元の者でさえ気付かない者もいるだろう。そんな場所であるから一般では集まらない情報も入るというものだ。酒と煙草、西部劇にでも出てきそうな荒くれ者が居そうな匂いがプンプンする。
(ハンターになる前は、こういうトコでよく喧嘩やらに首を突っ込んでたなぁ)
ジャックが心中でぽつりと呟き、戸を開ける。突如現れた余所者に周囲の視線が自然と集まるも彼は動じない。一直線にカウンターに向かうと少し高めの椅子に腰掛ける。その後ろでまた扉が開いた。今度は赤髪、ここではやはり見慣れぬ顔――ゼクスだ。金髪のジャックが注目を集めて、後に入るゼクスへの警戒と視線を軽減する作戦らしい。
「マスター、少し聞きたい事があるんだけど?」
黙ってグラスを拭く店主にジャックが話しかける。その間にゼクスは隅に座って、周囲への警戒は忘れない。誰がどのような動きをするか見て取れるよう視界のいい場所にさりげなく座る。店には真昼間からカードや酒に浸る男達が多かった。漁師であればこの時間は一仕事終えて帰ってきている時間でもあるから遊んでいても咎められる事はないのだろう。だが、漁師には見えない者もちらほらと存在して…ゼクスの勘が当たりを知らせる。
例えばカードを嗜む四人組――金を賭けてやっているようだが、ジャックの来訪と同時にカードへの視線がずさんになっていて、ただ単に短気という線もあるが確かめてみる価値はありそうだ。
(さて、どうしたモノかな)
ゼクスがどう切り出すか思案する。その間ジャックは単刀直入に店主に質問をぶつけて探りを入れてみる。
「デス・オルカって海賊の事なんだけど聞いた事ねぇ?」
「さて、何の事でしょう。存じませんが」
初手の反応はどうも白か。けれど、こんな所の店主ならばそれも出来て当たり前かもしれない。
そう返して彼はただ黙々とグラスを磨く。
(やっぱり正攻法は無理ってか)
ジャックが店主を見つめて考える。その後も質問を変えて色々尋ねてみるも彼の口は堅いようだ。
そこで出直しを考え始めたその時、ジャックの下に一杯のグラスが届いて、
「あちらのお客様からです」
店主の示す先にはいかにも小物な男。どうやらジャックの話を聞いていたらしい。小さく会釈した後、コースターを指差してみせる。
(なんか胡散臭いけど乗ってみるか?)
彼はそう決意してコースターを捲る。するとそこには『情報一万』とだけ記されていた。
「ストレート…俺の勝ちだな」
一方ゼクスはカードの輪に入って常連客を探る。
参加時に何か言われるかと思ったが、案外いいメンバーだったようで快く参加を了承してくれて、表情の読み取りを不審がられる事なく観察に集中できるのは非常に有難い。回数を重ねるうちにそれぞれの癖も見えてきて、徐々に勝ち星が増えてゆく。
「けっ、あんた強いな。ついてねぇ…もうやめだ」
一人の男が掛け金を失って投げやりに身体を椅子に預ける。
「今日ツイてるだけだ。明日にはすっからかんって事もありうるし」
ゼクスはそう言って、皆に酒を奢る。
「おいおい、随分太っ腹だな。何か裏があるんじゃねえのかい?」
もう一人がその行動に冗談めかした言葉で尋ねてくる。
「そんな事はないぜ。ただ、これだけ勝ちが続いてるとそれなりにいい事しないと後が怖そうだしな。これも縁、好きに飲んでくれ」
そこでにこりと笑顔を返して、ゼクスもプレイヤーの者達と一頻り飲む。
そうして程よく酔いが回り始めたのを見計らって、本題をごく自然に切り出してみる。
「ところで小耳に挟んだ話なんだが、『とある海賊が持ってるっていう、伝説の大法螺吹きが遺した地図』って本当にあると思うか?」
自分も少し酔った振りをして同じテーブルの者達に問う。
「あぁ、あんなもん探してここに来たのか? あれは作り話だろう?」
一人の男がそう答える。
「だな…大冒険家の一世一代の賭けがあの海だったとかで…馬鹿なことやったよなぁ」
もう一人もルコの事は知っているようだが、至って反応は普通だ。
けれどもう一人はその話を聞くや否や少しだけ眉を揺らして、徐々に口数を減らしていて、
「なあ、あんたはどう思う?」
ゼクスが彼に待ったをかけるよう尋ねてみる。
「さ、さあ…俺もそんな海図知らないなぁ……それにもう眠くて…」
残りの酒をぐいっと煽って、男は立ち上がる。
(こいつ、何か知っているのか? 今、海図といったよな)
その言葉にゼクスの彼に対する不審感が生まれる。
(よし、こいつをつけてみるか)
そこで適当に理由を作るとゼクスは酒場を先に出て、彼が出てくるのを物影で待つ。
すると暫くの後男が向かった先は家とは思えない舟屋であり、何らかの関わりがある事を確信する。
「くそっ、一体何を話しているんだ?」
戸口に立つ男と中の者との会話が聞こえずゼクスが苦虫を噛む。そこへふらりとルンルンがやって来て、
「こういう時は私にお任せですよ。ルンルン忍法~壁に耳ありニンジャに目アリ」
彼女の式符が闇夜にすぅっと消えた。そうして、それは舟屋の扉の隙間を利用して中へと入っていく。
「何でここが?」
「いえね、漁師の皆さんに聞き込みをしていたら、少し前に漁師でもないのに舟屋が欲しいっていう依頼があったと聞きまして。忍び込んでも良かったんですが生憎鍵がかかっていましたし、どうせなら行くならニンジャらしく夜かなっと」
意識は式符に残したまま、彼女は会話する。
「あぁもうこっちは外れじゃん。大枚はたいて骨折り損かよぉ」
そう言うのはジャック。あの後路地裏に案内されて身ぐるみ剥がされそうになったのだが、オウカと共に返り討ちにしてきたらしい。この町にはそれらしい酒場はあそこしかなく、オウカもあちらへ向かい出会ったようだ。その後大元の所に案内してもらったが、ただのチンピラだったという落ちでは目も当てられない。
「まあ、こっちが正解に当たっているならいいじゃないか」
物影から舟屋の様子を伺いながらオウカが言う。
「明かりが消えたら突入してみようぜ。鍵開けなら任せとけ」
シープスツールを取り出し今度こそはと、実家が鍛冶屋のジャックが言う。
「では、頼むとするか」
とこれはラジェルト。連絡を受けて徐々に仲間が集まっていく。そして中を把握しに行こうとして、
「あれ、イズはどこだ? りり子もいないようだけど…」
「それはだな。ある人物に出会ったようで、今詳しく話を聞いてるそうだ」
ジャックが問いにオウカが答える。
「ある人物?」
その正体を知るのはもう少し後の事で、まずは中だが…式符のおかげでスムーズな潜入が可能となるも突入には至らない。何故なら、さっきの男の進言が効いたのかどうも警備が強化されてしまったらしい。
「まあ、大丈夫ですよー。あの中の様子は図面におこしておきますから」
ルンルンが言う。それに警備が増えたという事はつまりあそこにあると言っているようなものだ。
「くそ~ここまで来て…ってそういやイズはこの後どうするつもりなんだ? まさか海賊相手に海賊する訳じゃねえよな?」
若干のストレスを抱えつつまたもジャックが言う。
けれど、その問題はある人物との出会いがすでに解決しているのだった。
闇雲に探すのは無謀過ぎる。
そこで彼らはイズの聞いて来た話を頼り酒場を当たるが、それでもやはり港の数は多くて絞り様がない。
「これでは埒が明かんな」
とりあえずは近くの街を巡り、人通りの少ない道を通ってオウカ・レンヴォルト(ka0301)が情報集めに奔走する。
時にガラの悪い連中に絡まれる事もあったが、それは覚醒者の強みを生かして適当にいなす。それはそうだ。大事にしてしまえば、相手に警戒され避けられてしまう。生かさず殺さず…とまではいかないまでも重要そうな情報を持っている奴がいないか、気にしつつ淡々と事を進める。加えてジャック・エルギン(ka1522)やゼクス・シュトゥルムフート(ka5529)もそれぞれ当たりをつけて動いているからそろそろ少し位は情報が入ってもよさそうだが…未だ朗報は0だ。
(まあ、すぐ見つかるようなものではないだろうが、な)
調査を始めて早数日。進展しないのはどうも今のやり方が悪いのだろうか。
そこでラジェンドラ(ka6353)が゛別のアプローチを敢行すべく、ある人物の許を訪れる。
「なんだ、今度は野郎か」
面会室の扉を開き、姿を確認して男が言葉を漏らす。
ここはイズも訪れたシルバーバレットの頭のいる刑務所だ。中は殺風景な程何もない部屋に椅子が二つ。扉の先には監視員がいるようだが、それ以上はこれと言ったものは存在しない。
「まあ、そう言うな。折角いいもの持ってきたんだからな」
ラジェンドラが静かな笑みを見せ、手にしていた包みを開ける。
とそこには一本のワインがあった。王国領で作られているものだがベリアル襲来後流通が激減した代物だ。
「ほう…取引でもするつもりか? ハンターさんよぉ」
男が試す様な視線を向け彼に尋ねる。
「そう言うという事は俺の事を覚えてくれているようで光栄だな。俺はラジェンドラ…少し気になる事があってきた」
以前の捕縛依頼の折、彼もイズの船に同乗していた。その時の事を男も覚えていたらしい。
「敵の顔は忘れんさ…とはいえ、もう海賊でもないがな」
皮肉染みた言い方で男が綺麗に笑う。やはりこの海賊、何処か悪党らしくない。
「そうか…でも嬉しいよ。大将みたいな大物に覚えられていたんだからな」
それは彼の素直な言葉だ。本当に彼はこの海賊の射撃術に一目置いている。
「そりゃ言い過ぎだぜ。腕が良けりゃあの嬢ちゃんは俺のもんだったしな」
男が言う。
「いやいや、あの精度はなかなか出せんさ。それで少し聞きたくてな。あんな大きな船でどうやって…」
今までナリを潜めていたのか。海賊と判れば警備船や場合によっては海軍も出てくる。それなのに今まで捕まらなかったのは彼等がうまく船を隠していたからに違いない。話すうちに地図を開いて、彼等の行動を追って聞いてゆく。
「まぁ、ああ見えて機動力もあるのが俺の船だったからな。それに奴らも細かくはチェックしねぇ」
自分の話であるからかすっかり警戒を解いて、男は思いの外饒舌に話す。
「と、そういうあんたもその口振りからして船乗りなんだろう? どこを荒らしてたね?」
雰囲気で悟ったのか続けて男が尋ねる。
「俺か、俺は…宇宙だな」
それには少しの懐かしみを乗せて…彼の場合は捕縛側であるが、その辺は有耶無耶にしておく。
「ほお…宇宙か。考えた事もなかったぜ」
今は檻の中――出た後飛べたとしても男の知る海との差は計り知れない。
「まあ、機会があれば案内するさ。っともうこんな時間か…すまない。長居してしまったな」
ラジェンドラが立ち上がる。それにつられて男も腰を上げ独房と言う名の檻へと戻っていく。
(やはり来て正解だったな。蛇の道は蛇だ)
シルバーバレット…伊達に名の通った海賊ではなかったと彼は思う。
他の海賊の動向もそれなりに調べ上げていたらしく、話してはくれなかったがアジトの位置まで割と特定していたと見える。直接的な話は聞けなかったものの、海賊オルカの規模がどの位だったかが判れば、船の隠し場所や潜伏先の目星はつきそうだ。
「さて、一度戻るとするか」
収穫有。彼の情報に加えて、もう一人有力な位置情報を得た人物がいた。それは…。
●足跡
「きっとここやっ!」
りり子(ka6114)が音を立てて立ち上がる。
彼女は他のメンバーに比べて歳が若い。従って酒場の聞き込みを諦めて、水夫や元漁師だった人をターゲットに学校の課題という名目でルコに関する事を聞き込み、教えられた資料や本を探し今に至る。そして、図書館の資料室を借りて、イズと共に港の利用者名簿を当たっていた所ヒットしたようだ。
「この港で登録して初めて航海に出でる。って事はこの港がルコさんの地元ちゃうやろか!」
船を初めて造るなら地元で作るに決まっている。そう推理する彼女にイズも同意する。
そこでその頃のものに絞って更に調べを進めれば、停泊した日数や場所が徐々に明らかになってくる。
「やっぱり本当に渡ったのかも」
ルコ・ポマーロ。写真こそ残っていないものの冒険家に相応しく、各地に彼の足跡が垣間見えて期待が膨らむ。
「なあ、イズさん。ここ、これが最後の航海ちゃうやろか?」
冊子を数枚捲って、りり子が指差す。するとその先には船の名前を改めた記録が残っていて、昔話では暗黒海域に出る時に改名を行ったとあった筈だ。
「ルコ・ポマーロ号改めサント・アリエンヌ号…確かにこれね。とするとこの名って…」
「奥さんの名前ちゃうかな」
「それね!」
ルコの最愛の人――何故旧姓を使ったかは判らないが、船で拾った懐中時計のイニシャルもA・Pだった事から名前の頭文字が一致する。
「これで港が絞れるんちゃう? もしこれが本当なら故郷の港って事になるし、身内の人がいるかもしれへん」
りり子が嬉しげに言う。
(そうよ。誰か知っている人がいれば、少しでも手掛かりになるかもしれないわ)
イズも逸る心を宥めつつ、皆の帰りを待つ。
(お墓があれば、うちの深淵の声で何かが探れるかもしれんし…よかった。役に立てて)
大人は大人の、子供は子供なりの進め方がある。この時それを大きく感じたりり子なのだった。
そうして、調査は進展する。
ルコの地元に場所を移してラジェンドラの得た話を元にすると船を隠していそうな場所の検討はついてくる。
「もしかしたら堂々と港に置いている可能性もあるか」
オルカの船についての型はまだはっきりとはしていない。だがガレオンの様な大きな船だったとすると寧ろ隠した方が怪しまれる。堂々と観覧船として営業していたりすれば、それはもう海賊船と言う見方はされなくなるし、船の名を改めればそれがそうであったかどうかなど判り様がない。
「っしゃ、じゃあちょっくら行ってくるぜ」
ジャックが酒場へとくり出す。
「俺も行こう」
それに続いてゼクスも彼の後を追う。
「しかし、凄いのです! あの見聞録の人がクリムゾンウエストに来ていたなんて!」
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が興奮しながら言う。
「いや…ルコ・ポマーロだからな。確かに文字を入れ替えればそうだが…」
そんな彼女にリアルブルー出身のオウカがツッコミを入れる。
「っとそうでした。聞き間違えちゃいました~」
顔を赤くして彼女が笑う。
「さてでは、気を取り直して私は漁師さんの所に行ってきますねー」
そんなやり取りもそこそこにまた皆が動き出した。だがやはりここまでくると郷に入っては郷に従えか?
●酒場
ならず者の行きそうな酒場がこの町にはあった。
港からすぐ近く、奥まった所にあるから地元の者でさえ気付かない者もいるだろう。そんな場所であるから一般では集まらない情報も入るというものだ。酒と煙草、西部劇にでも出てきそうな荒くれ者が居そうな匂いがプンプンする。
(ハンターになる前は、こういうトコでよく喧嘩やらに首を突っ込んでたなぁ)
ジャックが心中でぽつりと呟き、戸を開ける。突如現れた余所者に周囲の視線が自然と集まるも彼は動じない。一直線にカウンターに向かうと少し高めの椅子に腰掛ける。その後ろでまた扉が開いた。今度は赤髪、ここではやはり見慣れぬ顔――ゼクスだ。金髪のジャックが注目を集めて、後に入るゼクスへの警戒と視線を軽減する作戦らしい。
「マスター、少し聞きたい事があるんだけど?」
黙ってグラスを拭く店主にジャックが話しかける。その間にゼクスは隅に座って、周囲への警戒は忘れない。誰がどのような動きをするか見て取れるよう視界のいい場所にさりげなく座る。店には真昼間からカードや酒に浸る男達が多かった。漁師であればこの時間は一仕事終えて帰ってきている時間でもあるから遊んでいても咎められる事はないのだろう。だが、漁師には見えない者もちらほらと存在して…ゼクスの勘が当たりを知らせる。
例えばカードを嗜む四人組――金を賭けてやっているようだが、ジャックの来訪と同時にカードへの視線がずさんになっていて、ただ単に短気という線もあるが確かめてみる価値はありそうだ。
(さて、どうしたモノかな)
ゼクスがどう切り出すか思案する。その間ジャックは単刀直入に店主に質問をぶつけて探りを入れてみる。
「デス・オルカって海賊の事なんだけど聞いた事ねぇ?」
「さて、何の事でしょう。存じませんが」
初手の反応はどうも白か。けれど、こんな所の店主ならばそれも出来て当たり前かもしれない。
そう返して彼はただ黙々とグラスを磨く。
(やっぱり正攻法は無理ってか)
ジャックが店主を見つめて考える。その後も質問を変えて色々尋ねてみるも彼の口は堅いようだ。
そこで出直しを考え始めたその時、ジャックの下に一杯のグラスが届いて、
「あちらのお客様からです」
店主の示す先にはいかにも小物な男。どうやらジャックの話を聞いていたらしい。小さく会釈した後、コースターを指差してみせる。
(なんか胡散臭いけど乗ってみるか?)
彼はそう決意してコースターを捲る。するとそこには『情報一万』とだけ記されていた。
「ストレート…俺の勝ちだな」
一方ゼクスはカードの輪に入って常連客を探る。
参加時に何か言われるかと思ったが、案外いいメンバーだったようで快く参加を了承してくれて、表情の読み取りを不審がられる事なく観察に集中できるのは非常に有難い。回数を重ねるうちにそれぞれの癖も見えてきて、徐々に勝ち星が増えてゆく。
「けっ、あんた強いな。ついてねぇ…もうやめだ」
一人の男が掛け金を失って投げやりに身体を椅子に預ける。
「今日ツイてるだけだ。明日にはすっからかんって事もありうるし」
ゼクスはそう言って、皆に酒を奢る。
「おいおい、随分太っ腹だな。何か裏があるんじゃねえのかい?」
もう一人がその行動に冗談めかした言葉で尋ねてくる。
「そんな事はないぜ。ただ、これだけ勝ちが続いてるとそれなりにいい事しないと後が怖そうだしな。これも縁、好きに飲んでくれ」
そこでにこりと笑顔を返して、ゼクスもプレイヤーの者達と一頻り飲む。
そうして程よく酔いが回り始めたのを見計らって、本題をごく自然に切り出してみる。
「ところで小耳に挟んだ話なんだが、『とある海賊が持ってるっていう、伝説の大法螺吹きが遺した地図』って本当にあると思うか?」
自分も少し酔った振りをして同じテーブルの者達に問う。
「あぁ、あんなもん探してここに来たのか? あれは作り話だろう?」
一人の男がそう答える。
「だな…大冒険家の一世一代の賭けがあの海だったとかで…馬鹿なことやったよなぁ」
もう一人もルコの事は知っているようだが、至って反応は普通だ。
けれどもう一人はその話を聞くや否や少しだけ眉を揺らして、徐々に口数を減らしていて、
「なあ、あんたはどう思う?」
ゼクスが彼に待ったをかけるよう尋ねてみる。
「さ、さあ…俺もそんな海図知らないなぁ……それにもう眠くて…」
残りの酒をぐいっと煽って、男は立ち上がる。
(こいつ、何か知っているのか? 今、海図といったよな)
その言葉にゼクスの彼に対する不審感が生まれる。
(よし、こいつをつけてみるか)
そこで適当に理由を作るとゼクスは酒場を先に出て、彼が出てくるのを物影で待つ。
すると暫くの後男が向かった先は家とは思えない舟屋であり、何らかの関わりがある事を確信する。
「くそっ、一体何を話しているんだ?」
戸口に立つ男と中の者との会話が聞こえずゼクスが苦虫を噛む。そこへふらりとルンルンがやって来て、
「こういう時は私にお任せですよ。ルンルン忍法~壁に耳ありニンジャに目アリ」
彼女の式符が闇夜にすぅっと消えた。そうして、それは舟屋の扉の隙間を利用して中へと入っていく。
「何でここが?」
「いえね、漁師の皆さんに聞き込みをしていたら、少し前に漁師でもないのに舟屋が欲しいっていう依頼があったと聞きまして。忍び込んでも良かったんですが生憎鍵がかかっていましたし、どうせなら行くならニンジャらしく夜かなっと」
意識は式符に残したまま、彼女は会話する。
「あぁもうこっちは外れじゃん。大枚はたいて骨折り損かよぉ」
そう言うのはジャック。あの後路地裏に案内されて身ぐるみ剥がされそうになったのだが、オウカと共に返り討ちにしてきたらしい。この町にはそれらしい酒場はあそこしかなく、オウカもあちらへ向かい出会ったようだ。その後大元の所に案内してもらったが、ただのチンピラだったという落ちでは目も当てられない。
「まあ、こっちが正解に当たっているならいいじゃないか」
物影から舟屋の様子を伺いながらオウカが言う。
「明かりが消えたら突入してみようぜ。鍵開けなら任せとけ」
シープスツールを取り出し今度こそはと、実家が鍛冶屋のジャックが言う。
「では、頼むとするか」
とこれはラジェルト。連絡を受けて徐々に仲間が集まっていく。そして中を把握しに行こうとして、
「あれ、イズはどこだ? りり子もいないようだけど…」
「それはだな。ある人物に出会ったようで、今詳しく話を聞いてるそうだ」
ジャックが問いにオウカが答える。
「ある人物?」
その正体を知るのはもう少し後の事で、まずは中だが…式符のおかげでスムーズな潜入が可能となるも突入には至らない。何故なら、さっきの男の進言が効いたのかどうも警備が強化されてしまったらしい。
「まあ、大丈夫ですよー。あの中の様子は図面におこしておきますから」
ルンルンが言う。それに警備が増えたという事はつまりあそこにあると言っているようなものだ。
「くそ~ここまで来て…ってそういやイズはこの後どうするつもりなんだ? まさか海賊相手に海賊する訳じゃねえよな?」
若干のストレスを抱えつつまたもジャックが言う。
けれど、その問題はある人物との出会いがすでに解決しているのだった。
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ゼクス・シュトゥルムフート(ka5529)
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相談スレッド ジャック・エルギン(ka1522) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/12/10 12:40:21 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/12/06 20:33:53 |