猫とマゴイと迷宮と

マスター:KINUTA

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
6日
締切
2016/12/13 19:00
完成日
2016/12/19 22:46

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 カチャはベッドから飛び起きた。いきなり顔に小さなものがくっついてきたので。
 何事かと朝日に目をこらしてみれば、先日手に入れたパルムだった。

「むい、むいー」

「もう、びっくりさせないでくださいよ……」

 ぶつくさ言って再び布団を被ろうとするカチャ。
 パルムはその端を引っ張り、時計を指さした。
 現在6時45分。

「……まずい寝過ごしたー!」

 慌てて布団を跳ね飛ばし、着替えにかかる。部屋主であり同居人であり後見人であるアレックスの声が聞こえてきた。

「おーい、いつまで寝てんだ。トースト冷めるぞ」

「はいはーい」

 着替えてから洗面台に向かい、顔を洗う。

「わー、水冷たっ」

 タオルを取って顔を拭きかけた彼女は、吹いた。鏡の中に別人の顔が映っていたので。
 長い黒髪をだらりと垂らした、白い細面の女……。

「ええっ! え、マゴイ? なんで?」

 狼狽する彼女にマゴイは、声をかけてきた。

『ああ……丁度いい……ちょっと……手伝って……』

「嫌です」

『……まだ何を手伝ってもらうか……説明もしてないわよ……』

「説明されなくても大体察しがつきますよ。どうせあれでしょう、また指輪にまつわる話とか指輪に関する話とか指輪にからんだ話とか話なんでしょう?」

『……違うわよ……随分考えたんだけど……私は……彼に……やはり本当のことを……言っておくべきだと思うのよね……だから……まあ……細かい話は後にして……とにかく借りるわ……その体……』





 起きたらしき気配がしたのに、リビングに出てこない。
 一体どうしたのだろうと訝しがるアレックスの耳に、玄関のドアが開く音が聞こえた。続けて階段を下りて行く音。
 窓を開け見下ろせば、カチャが通りをすたすた歩いて行くところ。

「おい、カチャ? 飯食わないのかー?」

 パルムを肩に乗せたカチャが、ちらりとアレックスを見上げる。

『……いらない……』

 そう言い残し、通りの向こうに消えた。
 アレックスは窓から身を引き、一人ごちる。

「あいつ……なんか額に描いてなかったか?」

 声も少し変だったような気がするが、風邪でも引いたのだろうか。





「腹立つわ。腹立つわー。どいつもこいつも俺をなんやと思うてんねん、猫やないぞ、人やぞ!」

 スペットは腹を立てていた。指輪が勝手に使用制限をかけられたのもさることながら、それでも自分に返そうとしない魔術師協会の対応に、納得いかなくて。
 そんな彼のなだめ役は、魔術協会職員のタモン。

「ええ、そこは十分分かっています。間違いなく刑期が明けてから返却しますので、ご辛抱いただけますと」

「やかましわ! 刑期明けるのに後何年かかると思うとんねん!」

「とりあえず差し入れを持参いたしましたので……どうぞひとつお納めを」

「そないなもんで誤魔化されへんぞ! 指輪返せ指輪!」

「まあまあそう言わずに。ウナギパイです」

「……くれるというならもろとこか」

 菓子折りで機嫌を取り結びつつ、奉仕活動の依頼。

「妙な事件が起きましてね。ハンターオフィスのほうから魔術師協会に、助力依頼が来ました。ご協力いただけますか?」

「どんな事件やねん。また歪虚か」

「いいえ。そうではなくて……」





 突如町中に現れた異変。
 現場に訪れたハンターたちは、目をこする。
 彼らの目に映るのは一つの建物。
 横長の四階建て。一階が商店、二階から上が借間。最上階の上には屋根裏部屋。屋根の上には煙突が何本も立ち並ぶという、ごくありふれた作りの建物。
 しかし今それは、三次元空間に対し反逆を起こしていた。
 一階部分が屋根と青空。
 商店部分が最上階。。
 煙突は壁から横向きに突き出、横向きに煙を吐き出す。
 窓も扉も上下左右勝手な方向を向いて、てんでばらばらに張り付いている。

「なんかこれ、見てると酔ってくるな……」

「中の人はどうなってるのかが心配ですねー」

「魔術師協会から、専門家が来るはずだったな?」

 噂をすれば、スペットがやって来た。

「うおっ、なんやこれ!」

 そこで横向きになった窓の一つが開き、住人が顔を出した――横向きに。

「おい、助けてくれ! 一体全体どうなっているんだ!」

 どうやら見かけばかりでなく内部も、天地の法則が無視されているらしい。





 ハンターたちは開いた窓にハシゴをかけ、住民を救出した。それから、中に入ってみた。
 外から見た以上に空間がこんがらがっている。下り階段かと思ったら上っていたり、上り階段かと思ったら下っていたり、ドアを開ければ室内のはずなのに青空だったり。まるで、だまし絵の世界に迷い込んだみたい。
 今自分たちは上下左右どの方向に向け立っているのか……という疑問は早々に投げ捨てた。キリがなくなるので。
 スペットを先導役にして、進む。
 建物内部で身動きが取れずにいた住人が、ハンターたちの姿を見て、助けを求めてきた。

「すいません、私も一緒に連れてってください!」

「どこから出ればいいんだね!」

 そんな人たちを見つけるたび、通ってきたルートを引き返し、外に出させる。

「おい、スペット。結界ならお手の物だろ。どうにかならんのか」

「待てや。目茶苦茶複雑な結界やねんぞこれ。誰やこんな因業なもん作りよったんは……」

 と言いかけてスペットは、はっと首を巡らせた。つられて皆も首を巡らせる。
 カチャが壁にもたれて立っていた。額に目玉のような模様が浮き出ている――彼女がいつからそこにいたのか、誰にもまるで分からなかった。
 スペットが、ぶわっと顔の毛を膨らませる。

「マゴイ、マゴイやなお前!」

『……その通り……』

「その通りやあらへんわ! 俺を人間の顔に戻せや!」

『……それは……出来ない相談……前の顔のデータは……もう……どこにも存在しない……完全消去された……』

「ななななん何やとぉ! お前人のこと勝手にこないな顔にしたくせにふざけんなや!」

 いきりたつスペットにカチャは、いやマゴイは言った。

『……なるほど……自分がそうされた理由も……忘れてるわけね……これは……話が長くなりそう……』

 とりあえずね、と彼女は続ける。

『……まず大前提として……あなた……この世界の人間じゃ……ないのよね……私と同じで……エバーグリーンの……住人よ……』

 その目は、鏡のようにまっ平らだった。

『……あなたは共同体生活に……適合出来ない人間だった……そういう人には……動物の顔を……与えて……共同体から切り離すのが……私たちの国の……決まり……』



リプレイ本文

「催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃ断じてない。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ~♪」

「遊ぶなや」

「遊んでないよ。この階段本当に上に行けないの。ほら、ス・ペットもこの通り戻ってきちゃう」

「……猫に俺の名前をつける意図は何や」

「まあまあ、カリカリするな。どれ、ちこっと背をかがめてミグになでなでされるがよい」

「触んなや」

 

●マゴイあらわる


 ミグ・ロマイヤー(ka0665)はマゴイの口から出た言葉に、さほど驚いていない。さもありなん、と思うばかり。
 ソラス(ka6581)も同じく。

(……エバーグリーンとはね。道理で二人とも、不思議な術を使う)

 アルス・テオ・ルシフィール(ka6245)は彼らと違い、素直に驚きを見せた。

「はぅ。スペちゃん。にゃんこじゃないにゃ?」

 スペット当人は――マゴイの話を信じていない。

「お前作り話も大概にさらせや!」

 その時マゴイが、歌うような節回しで言った。それまでと違う声色で。

《落ち着いて、落ち着いて》

 スペットが突然口を閉じ、姿勢を正す。
 マルカ・アニチキン(ka2542)は一瞬、マゴイが魔法を使ったのかと思った。しかし、それらしきマテリアルの動きは感じられない。

『……それでは……』

 マゴイが話を進める前に、先手を打って質問するリナリス・リーカノア(ka5126)。

「えーと、スペットと話す為に、この建物こんなにしちゃったの?」

『そうよ……』

「なら目的は達せられた訳だし……不具合出ない様ならこれ元に戻してくれない?」

 マルカもマゴイに、恐る恐る話しかける。

「あの、私のこと、覚えておいでですか?」

『……おー……いつぞやの……借りた人……』

「あのときは貴重な体験をどうも……非覚醒者が不安定な空間に長居していたら、影響がありそうですから……結界を解いて戴けませんか?」

 そこでスペットが我に返った。目をぱちくりさせた後、ふうっと唸る。

「何や今の! お前何しおったんや!」

 ソラスは、それを宥めた。

「スペットさん、早まってはいけませんよ――マゴイさんも、唐突に核心から話し始めても、スペットさんに聴く準備ができていませんから――」

 そこへ繰り返される、先程と同じ言葉。

《落ち着いて、落ち着いて》

 スペットはまたしても即座に姿勢を正す。まるで『待て』をされた犬のようだと、天竜寺 詩(ka0396)は思った。
 ソラスがマゴイに向き直る。

「……先にこの家を元に戻していただけませんか?」

『……それは……駄目……囲いは……閉じておく……彼には最後まで話を……聞いてもらう……』

 メイム(ka2290)は、はたと四方を見回した。いつのまにか扉が消えている。窓も。
 ディヤー・A・バトロス(ka5743)は、慌ててマゴイに駆け寄った。

「『ハンター』のディヤーじゃ、『マゴイ』殿。何はさておきこのー、結界かの? 解いてくれんか。ワシらこの建物の中にいる人を、救出しに来とるのよ」

『……あなたたちは……出られるわよ……留め置く必要もないし……』

「出るって……どうやってじゃ?」

『……直進……』

 ディヤーは、言われた通りやってみる。
 さすれば、するっと壁を通過することが出来た。

「お!? おお!? 何じゃこれ!」

 面白がって何度も出たり入ったりするディヤー。
 リナリスはマゴイに、追加の頼み事をする。

「結界内の人間大の生命体の個数を把握してるなら、教えてくれないかな? これまで16人ばかり見つけたんだけど、まだいるかな?」

『……20程……』

「どのあたりにいるか、分かる?」

 マゴイの手の中からサイコロ状の光球が複数生まれた。それは宙に浮き、ふよふよ動き始める。

『……それに……ついていったら……いいわよ……』

 探索に協力してくれる気はあるらしい。それだけでもよしとしよう。
 そう決めてソラスは、光球の後を追う。ミグ、マルカ、ディヤーも。
 残りの4人――詩、リナリス、メイム、アルスはその場に残った。

『……あなたたち……一緒に行かないの……?』

「いちゃ駄目かな? 話の邪魔はしないから~」

 両手を合わせ拝み倒すリナリス。
 マゴイは少し考え、言った。

『……まあ……いいけど……』

 スペットのことについて、特に秘密にしようという意識はないらしい。
 メイムは携帯品の中からマカロンを取り出し、彼女に渡す。

「カチャ・マゴイ~、これ食べて。カチャさん朝食べてないからあとで倒れたら大変」

 マゴイはマカロンを一口噛むや、呻いた。その後はもう食べず、メイムに返す。
 好きではない味だったらしい。


●人助け


 光球。来る途中つけてきた道しるべ。その2つにより屋内遭難者の探索は、順調に進んだ。
 ミグはトランシーバーで、別方面を捜索するディヤーに連絡を取る。

「もしもーし、こちらただ今7名確保したぞい。そっちはどうじゃ?」

『今3名じゃー。あ、ソラス殿が今もう1名連れて来たで、4名ー』

「なんじゃ、もっと頑張らんかえ。はよせんとマゴイの講演が終わってしまうぞ」

 マルカは見つけた人々を、ロープを繋いで作った輪の中に入れる。散らばらないように移動した方が安全だと踏んで。

「皆さん、もう大丈夫ですよ。さあ、こっちに」

「やれやれ、助かりました」「ありがとうございます」

 見た目は完全に電車ごっこ。運転手がマルカ、車掌がミグ。

「それでは、出発進行-」


●マゴイ語る


 詩が聞いた。

「エバーグリーンって、どんな世界?」

 それは本当なら一番に、スペットが聞くことだったかもしれない。だが彼は口を閉じ続けているのだ。喋りたいのに喋れない、動きたいのに動けない、そんな感情をありありと目に出して。

『……一口には……言えない……社会の形態は……場所によって……異なるから……でもどこも……あなたたちの世界より……はるかに進んだ……技術を有していた……科学と魔法の相互補完……完全なる融合……私たちの国ではその技術を……アーキテクチャーと呼んでいた……』

 マゴイは後ろに手を組み、その場を行ったり来たりする。教壇に立つ教授のように。

『恒久的な安定を……作り出すためには……あらゆる努力が惜しまれなかった……共同体規範の……条件反射的刷り込み……同一化の促進……ワーカー……ソルジャー……ステーツマン……マゴイ……全階級が……各自しなければならないことを……最良の形で……なんらの負担も覚えず……出来るようにする……求められるのは……能力の均質化……』

 アルスは、つい最近知ったエバーグリーンの光景について思いを馳せる。
 無人都市。徘徊する歪虚。枯れた大樹。

『……その前提として……家族の撤廃……胎外生殖による均等な出生……均等な教育……衣食住は完全に保証され……皆が皆を必要とする環境の中で……不安に悩まされることなく……一生を送れる……』

 リナリスは前々から『マゴイ』という名前に引っ掛かっていた。『賢者。博士』の複数形を意味する単語を個人名として使う意味は、一体何なのかと。
 今、その理由が分かった気がする。かなり極端な推測だと思うが、でも、もしかして。

(マゴイの社会って、個の概念がすごく希薄な……ディストピアっぽい社会なんじゃ……)

 詩が、ぽつりと呟いた。

「多分それは理想的な世界なんだろうとは思うけど、私は住みたくないな」

『あら……どうして……とてもいい所だったわよ……』

「だって、私はお姉ちゃんが好きだし、家族も……それに――」

 メイムは頭の中で話を整理する。

(社会の形態が場所により異なるってことは、別の文化を持っていた国もあるってことだよね。この間のエバーグリーン探索では、親子を扱った書物も回収されたらしいし……マゴイたちの社会形態はエバーグリーンにおいてオーソドックスなものなのか、そうでもないのか……)

 そこでトランシーバーに通信が入ってきた。マルカだ。

『こちらの作業は完了しました。そちらのお話は終わりましたか?』

「ううん、続いてる」

『そうですか。今から私たちもそこに戻ります』

「はーい。気をつけて」

 鋭い猫の叫び声がした。
 振り向くとリナリスがスペットの右手をねじり、押さえている――マゴイにつかみ掛かろうとしたらしい。

「どこが『いい所』や! 俺こないな面にされてるやんけ!」

 アルスはスペットの背に張り付き、一所懸命なだめている。

「そのお顔だって、すてきなのに~。スペットちゃん、おとこまえさんなの~♪」

 マゴイは再びあの言葉を口にしようとする。

《落ち着いて――》

 詩がそれを遮り問いかけた。

「スペットは一体どういう罪で、こんな姿にされちゃったの?」

『……彼は……ただ1人の女性と……関係を持つことを……望み……相手にも……そうするよう……そそのかした……』


●マゴイ帰る


 壁を通過したソラスが真っ先に耳にしたのは、リナリスの言葉。

「マゴイの世界では、恋愛が認められてないの?」

『……いいえ……性欲は……発散されるべき……社会の緊張感を低下させる……大いに結構……だけど……彼のは……相手を限定している……しかも相手にも……同じことを求めている……これはもう……性欲とは呼べない……私的所有欲……共同体にとって……危険……』

 後から来たミグが、メイムに尋ねる。

「どういう話の流れじゃい」

「んー、スペットが猫にされたのは、色恋沙汰が原因みたいな感じ?」

 頭を突っ込んでくるディヤー。

「ほー、ドラマチックじゃな」

「いやそれが……あたしたちの常識とはベクトルが逆っていうか異次元に向いてる話で」

 マルカも加わる。

「一体どういうことなんですか?」

「つまり――」

 マゴイは淡々と話し続ける。

『通報を受け……成人再訓練所へ入所させても……芳しい回復は無く……だから……エバーグリーンから……追放ということに……なってね……しかしこの人が……暴れて……異界転送装置が暴走……場所ばかりか……時間も飛び越え……ここに着地……ちなみも……そのときの事故に私も……巻き込まれ……こんな感じに……なっているという……」

 いったん言葉を切って、スペットに目を向ける。

『……ことなんだけど……少しは思い出した……?』

 スペットはかすれ声を出した。

「思い出せへん……何も……」

『……それはお気の毒……』

 皮肉に聞こえなくもないが、マゴイの表情からして、特に嫌みを言っているのではないらしい。
 この機会にミグは、聞きたくてしょうがなかったことを聞いてみた。

「のう、スペットの猫頭、どうみてもシームレスに繋がっとるように見えるのじゃが、どうやって被せたんじゃ?」

『……被せてるんじゃなくて……作り替えてるの……もとのままなのは……脳だけ……』

 ディヤーは思わずスペットを二度見し、呟いた。

「えぐい話よのお……」

 ソラスはマゴイに向き合う。

「元に戻せないのですか?」

『……さっきも言ったけど……データは完全消去されてる……』

「では、それがあれば元に戻せますか?」

 詩も議論に参加した。スペットがあまりにも気の毒に思えて。

「別の顔でもいいから、戻す事はできない?」

『出来ない……その設備がこの世界にはない……仮に設備があったとして……共同体を脅かすものの処遇を……決めるのは……マゴイではなく……ステーツマン……しかしてそのステーツマンは……もうどこにもいないから……うん……どっちにしても……戻せない……』

 決める人間が存在しないから自分で決めるという考えは、彼女のうちに存在しないようだ。
 スペットがぶるぶる震えている。その口から出た声は、怒号ではなく悲鳴に近いものだった。

「なんやそれ! ほしたら俺はこないな面で一生生きていくんか!」

『その通り』

 絶句するスペット。
 アルスは懸命に慰めた。

「あたしはスペットちゃんのお顔、好きよ~?」

 詩も彼を抱き締め、サルヴェイションをかけた。この場だけでも気持ちが押し潰されないように。

「エバーグリーンがスペットを否定しても、私は、私達はスペットを否定しないよ。だから大丈夫。大丈夫だよ」

 リナリスが横から口を挟んだ。

「マゴイって、どういう職種?」

「……社会がより完全なものとなるよう……世界のあらゆる事象について……研究し……実験する……」

 ディヤーはそれを聞いて羨ましく思った。一切に煩わされず好きな研究だけしていればいいなんて、研究者にとって願ってもない環境ではないか。

「ええのう、わしも『マゴイ』になって世の謎に取り組みたいのう!……が、そこでは役は生まれが決めるのかの?」

『……そうよ………そうなるように生まれつき……そうなるように育成されるのでなかったら……最良の結果は……生み出せないから……」

 リナリスは再び問う。核心的なところを。

「ねえ、エバーグリーンは、リアルブルー、クリムゾンとどういう関係にあるの? エバーグリーンは、どうして滅んだの?」

『……なかなか……興味深い質問ね……それに答えるためには……うん……少し時間がいりそう……考えないと……考えよう……これは楽しいこと……』

 壁に窓が現れる。扉が現れる。結界が解けていく。
 帰る気なのだ。察してソラスは最後の質問をした。

「マゴイさん、あの指輪についてのことなんですが……”身の安全保障”とはどういう意味ですか?」

『……そのままよ……あれはね……追放者が……異世界のどこに飛ばされても……最低限身を守れるように……作った……一種の救命道具……質問に……答えるのは……また後で……ゆっくり……考えないと……』

 マゴイの声が遠ざかる。
 紋様が消えたと同時に膝を折り倒れこむカチャの体を、リナリスが受け止める。


●カチャ戻る


「おはよ、カチャ」

「――あれ? リナリスさん? え? ここどこなんですか?」

「や、カチャ」

「ああ、メイムさっ!?」

 口の中に食べかけのマカロンを突っ込まれたカチャはむせた。でも食べた。食べてから文句を言った。

「何するんですか!」

「おいしかった?」

「そりゃおいしいですよ」

「そ。よかった」

 にこりと笑むメイムに、首をかしげるカチャ。
 その鼻先にディヤーが、パンとチーズをぶら下げる。

「カチャ殿、遊びに来たぞー? 朝食食べとらんのじゃろー?」

「――え、あー、そういえば食べてない……かも?」

 スペットはアルスと詩に励まされつつも、茫然自失といった体。元に戻れないことをあそこまで断言されては、当然だろう。
 ソラスは彼に歩み寄り、肩を叩く。

「スペットさん、刑務所に戻る前に、皆で何かおいしい物でも食べていきませんか?」

 ミグも歩み寄り、頭を撫でてやる。

「背脂たっぷりのラーメンとかどうじゃ? ム所ではなかなか食えんもんじゃろ。そうしょげるな。人生は長いのじゃから、色んなことがある。顔が猫になったくらいで自棄になってはならん」






 後日魔術師協会はマルカから、多数の資料写真を受け取った。


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MVP一覧

  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩ka0396
  • ジルボ伝道師
    マルカ・アニチキンka2542
  • また、あなたと
    リナリス・リーカノアka5126

重体一覧

参加者一覧

  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士
  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • タホ郷に新たな血を
    メイム(ka2290
    エルフ|15才|女性|霊闘士
  • ジルボ伝道師
    マルカ・アニチキン(ka2542
    人間(紅)|20才|女性|魔術師
  • また、あなたと
    リナリス・リーカノア(ka5126
    人間(紅)|14才|女性|魔術師
  • 鉄壁の機兵操者
    ディヤー・A・バトロス(ka5743
    人間(紅)|11才|男性|魔術師
  • 魅惑のぷにぷにほっぺ
    アルス・テオ・ルシフィール(ka6245
    エルフ|10才|女性|霊闘士
  • 知るは楽しみなり
    ソラス(ka6581
    エルフ|20才|男性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
マルカ・アニチキン(ka2542
人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/12/13 17:26:19
アイコン 【質問卓】
メイム(ka2290
エルフ|15才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/12/11 16:30:42
アイコン ▼プレイング
メイム(ka2290
エルフ|15才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/12/12 20:51:41
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/12/11 00:12:29