ゲスト
(ka0000)
宵闇蒸気街1~くるみ割り人形
マスター:深夜真世

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2016/12/07 22:00
- 完成日
- 2016/12/19 22:16
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
蒸気工業都市「フマーレ」には、夢がある。
多く運び込まれる物の大半は鉄だったり材木だったり、あるいはただの石だったりといった資材で特段目を見張るものではない。
それがどうだろう。
多く運び出されるものは、魔導トラックだったり精密な秤だったり、石橋の要石や馬車の軸受け、果ては人形から懐中時計と様々な製品となって人々の営みや暮らしを彩る。
そのさま、魔法もかくや。……もちろん労働者の働きによるものであるが。
フマーレには夢がある。
そして、仕事も。
もしかしたら、フマーレの住人は夢に夢見た人たちなのかもしれしれない。
多くの出稼ぎが単身、石造りのアパートに住み朝には階段を下り工場まで通い、夜には階段を上り一日の疲れを癒やし安らぐ。農家のように明日の天気を気にすることなく、抜いても抜いても追いつかない雑草や日照り続きの水やりなどを心配することなく、安定した生産を繰り返す。豊作を願い畑で汗する故郷の家族の身を案じながら――。
フマーレの住民は今晩も眠る。
明日の勤務に備えて。
「ううう、さぶさぶ……」
深夜のフマーレの通りに、カンテラの明かりが一つ。
「あいつ、送ってやるとか男らしいこと言ってたのに一人先に帰っちゃうとか……」
霧が出て見通しの悪い石畳にカツカツ鋭い硬質な足音。ハイヒールを履いた飲み屋の女性が一人歩いている。
「最低っ! もし結婚してくれって言われても踵でぎゅーしちゃうんだから」
よほど頭にきているのだろう。大人びた装いとは裏腹に子供っぽい言葉が漏れる。というか、肩をいからせ実際にその場で石畳道をハイヒールの踵でグリグリしたり。どうもいい感じに酔ってるようで。
そこに、ぽすんぽすんという音が。
はっと顔を上げる女性。カンテラの明かりで霧の中に人影が浮かぶ。
ぱぁっ、と喜色を浮かべる女性。
「なによもう。戻ってきてくれたの? まったく。こんな夜にか弱い女性一人残して自分だけ……でも今回だけは許してあげるわ」
ぽすん、ぽすん……。
「え……あんた、いつからそんなに背が低く……しかもそんなに飛び跳ねて……ちょ、ちょっと!」
ぽすん、ぽすん……ぽすん!
「ちょ……あいた! きゃぁぁぁーーーーー!」
霧の中、絹を裂くような女性の悲鳴が響き渡った。
「出たみたいよ」
チョコレート専門店「チョコレート・ハウス」の客席でオーナーのシエラ・エバンスが優雅に言った。
「霧の夜限定、か……」
向かいに座る隠者のジル・コバルトが紅茶に口を付けつぶやく。
「噂が出始めて実際に死者が出たのは一人だけ。殺しの手口といい、身を隠しつつゴシップとして情報が出回るように手加減してる感じね」
「子どもくらいの大きさのあるくるみ割り人形に頭を砕かれる、か。センセーショナルでショッキングじゃの」
さらりと言うシエラに、ため息のジル。
「自警団が集団で回れば姿を見せず。人がいなくなったら大手を振って霧の夜に動き回る。……最初の被害者は泥酔した背の低い男性で、その後の遭遇情報は女性ばかりらしいわ」
「おそらく、背の低い女性じゃろう?」
「あたり。理由は?」
「跳躍して襲うんじゃろうから、背の低いほうがかわされにくい」
にま、と微笑するシエラ。ジルは自らの上体を横にずらしてみる。ジルは背が低い。
「さすがね」
シエラも同じように。彼女の方が背が高いので、頭部の動いた距離が長い。
ちなみに、先述の女性もハイヒールの踵が運良く折れ転倒仕しかけたことでジャンプした巨大くるみ割り人形から逃れることができた。腹部にある破砕装置に頭を突っ込まれることはなかった。
「で、背の低いハンターで討伐隊を組むって話で自警団から予算を引き出したわ」
「フラの知り合いにそういうのは多いの。もちろん、背が低すぎると警戒されるかもしれん。酔っ払いもターゲットの可能性がある。身長関係なく、酔っても強いハンターも欲しいところ」
そんなわけで、背の低いハンターかアルコールを飲んでも強いハンター、求ム。
「フラちゃんも戦わせるの?」
「もちろん。くるみ割り人形が囮で別の事件が起こっとる可能性もある」
「なる……。人形も一体とは限らないし、ミステリ・クラブの情報じゃ『フリルドレスのお化け』の噂も出たのよね?」
うーん、と考え込むシエラだが、すぐにハッとした。
「なんでフマーレの噂がジェオルジなんかで詳しく出てくるのよ!」
「地元じゃ絶対に話せん噂なんざ山ほどあろうに。この件も地元で広くバレると飲み屋なんか大打撃じゃろ?」
確かにフマーレでは「霧の深夜は治安が悪い」としか言われておらす、言われるまでもなく注意して然るべき状況なので知らない者が詳しく調べることもなかったという。
多く運び込まれる物の大半は鉄だったり材木だったり、あるいはただの石だったりといった資材で特段目を見張るものではない。
それがどうだろう。
多く運び出されるものは、魔導トラックだったり精密な秤だったり、石橋の要石や馬車の軸受け、果ては人形から懐中時計と様々な製品となって人々の営みや暮らしを彩る。
そのさま、魔法もかくや。……もちろん労働者の働きによるものであるが。
フマーレには夢がある。
そして、仕事も。
もしかしたら、フマーレの住人は夢に夢見た人たちなのかもしれしれない。
多くの出稼ぎが単身、石造りのアパートに住み朝には階段を下り工場まで通い、夜には階段を上り一日の疲れを癒やし安らぐ。農家のように明日の天気を気にすることなく、抜いても抜いても追いつかない雑草や日照り続きの水やりなどを心配することなく、安定した生産を繰り返す。豊作を願い畑で汗する故郷の家族の身を案じながら――。
フマーレの住民は今晩も眠る。
明日の勤務に備えて。
「ううう、さぶさぶ……」
深夜のフマーレの通りに、カンテラの明かりが一つ。
「あいつ、送ってやるとか男らしいこと言ってたのに一人先に帰っちゃうとか……」
霧が出て見通しの悪い石畳にカツカツ鋭い硬質な足音。ハイヒールを履いた飲み屋の女性が一人歩いている。
「最低っ! もし結婚してくれって言われても踵でぎゅーしちゃうんだから」
よほど頭にきているのだろう。大人びた装いとは裏腹に子供っぽい言葉が漏れる。というか、肩をいからせ実際にその場で石畳道をハイヒールの踵でグリグリしたり。どうもいい感じに酔ってるようで。
そこに、ぽすんぽすんという音が。
はっと顔を上げる女性。カンテラの明かりで霧の中に人影が浮かぶ。
ぱぁっ、と喜色を浮かべる女性。
「なによもう。戻ってきてくれたの? まったく。こんな夜にか弱い女性一人残して自分だけ……でも今回だけは許してあげるわ」
ぽすん、ぽすん……。
「え……あんた、いつからそんなに背が低く……しかもそんなに飛び跳ねて……ちょ、ちょっと!」
ぽすん、ぽすん……ぽすん!
「ちょ……あいた! きゃぁぁぁーーーーー!」
霧の中、絹を裂くような女性の悲鳴が響き渡った。
「出たみたいよ」
チョコレート専門店「チョコレート・ハウス」の客席でオーナーのシエラ・エバンスが優雅に言った。
「霧の夜限定、か……」
向かいに座る隠者のジル・コバルトが紅茶に口を付けつぶやく。
「噂が出始めて実際に死者が出たのは一人だけ。殺しの手口といい、身を隠しつつゴシップとして情報が出回るように手加減してる感じね」
「子どもくらいの大きさのあるくるみ割り人形に頭を砕かれる、か。センセーショナルでショッキングじゃの」
さらりと言うシエラに、ため息のジル。
「自警団が集団で回れば姿を見せず。人がいなくなったら大手を振って霧の夜に動き回る。……最初の被害者は泥酔した背の低い男性で、その後の遭遇情報は女性ばかりらしいわ」
「おそらく、背の低い女性じゃろう?」
「あたり。理由は?」
「跳躍して襲うんじゃろうから、背の低いほうがかわされにくい」
にま、と微笑するシエラ。ジルは自らの上体を横にずらしてみる。ジルは背が低い。
「さすがね」
シエラも同じように。彼女の方が背が高いので、頭部の動いた距離が長い。
ちなみに、先述の女性もハイヒールの踵が運良く折れ転倒仕しかけたことでジャンプした巨大くるみ割り人形から逃れることができた。腹部にある破砕装置に頭を突っ込まれることはなかった。
「で、背の低いハンターで討伐隊を組むって話で自警団から予算を引き出したわ」
「フラの知り合いにそういうのは多いの。もちろん、背が低すぎると警戒されるかもしれん。酔っ払いもターゲットの可能性がある。身長関係なく、酔っても強いハンターも欲しいところ」
そんなわけで、背の低いハンターかアルコールを飲んでも強いハンター、求ム。
「フラちゃんも戦わせるの?」
「もちろん。くるみ割り人形が囮で別の事件が起こっとる可能性もある」
「なる……。人形も一体とは限らないし、ミステリ・クラブの情報じゃ『フリルドレスのお化け』の噂も出たのよね?」
うーん、と考え込むシエラだが、すぐにハッとした。
「なんでフマーレの噂がジェオルジなんかで詳しく出てくるのよ!」
「地元じゃ絶対に話せん噂なんざ山ほどあろうに。この件も地元で広くバレると飲み屋なんか大打撃じゃろ?」
確かにフマーレでは「霧の深夜は治安が悪い」としか言われておらす、言われるまでもなく注意して然るべき状況なので知らない者が詳しく調べることもなかったという。
リプレイ本文
●
フマーレの空に、満月に近い月が低く姿を現した。
「さてと、ちょいとばかりあそこに行って来るぜ?」
レザーハットのつばを上げてトリプルJ(ka6653)が酒場を指差していた。
「じゃ、ボクたちはこの子と外で待ってるね」
フラ・キャンディ(kz0121)は酒場には行かない。この子というのは……。
「もうちょっと散歩ですよぉ」
弓月・小太(ka4679)がトリプルJの連れてきたダックスフンドを預かっている。
「すまねぇな。さすがに連れてはいるわけにゃいかねぇし」
「ざくろも行ってくるね……その子、よろしくだよ」
ぐ、とつばを引き下げて酒場に向かうJを背に、時音 ざくろ(ka1250)もにこりと連れてきた何かを仲間に託した。
「はぅー、その子じゃなくてくまさんなのですー」
ざくろに指差されたネプ・ヴィンダールヴ(ka4436)は納得できないのですー、な感じでがおーポーズ。まるごとくまさん着用である。色はピンク。
「……さすがにこれを連れて酒場に入るわけにはいかないわねー」
なんだかなー、な感じで胸の前で腕を組んだままネプを見ているキーリ(ka4642)がぽそり。
「コミックバンドのメンバーとか言えば大丈夫かもだけど……」
一応、前向きなことを言う霧雨 悠月(ka4130)。
が、しかし。
「言っとくけど、ユッキーも酒場に入るわけにはいかないわよ?」
ぐるん、と悠月の方に向いて冷たく言うキーリ。
「え? お酒は少し飲み始めたけど……」
「違うわよ。銀狐を酒場に連れて行くわけにはいかないでしょ?」
ぴしゃりとキーリは酷いことを言う。
「銀狐は酷いなぁ。これでも『猛き銀狼』って二つ名が……」
「余計酒場に入れちゃいけないじゃない」
そんなこんなでずりずりとキーリに連行される悠月。
「はう、犬と狼さんがいるならこっちなのですー♪」
動物万歳、とばかりにネプもついて行く。
「だ、大丈夫ですかねぇ?」
「大丈夫。こっちは私に任せてくださいね~」
不安がる小太に、黒髪ショートの百々尻 うらら(ka6537)がのんびりにっこり。Jとざくろについて酒場に入って行く。
「……大丈夫じゃないのはこっちのような気もするよね」
フラ、キーリと悠月、ネプに続き、小太とともに外に待機する。
で、酒場に入ったJとざくろ、うらら。
「背の低いのを好んで襲うんだったな」
席に座りつつ確認するJ。
「そうですねー。Jさん背が高いから酔ったふりが必要かもです」
うらら、誰か客から情報収集したいなぁと周りを見ながら席に着こうとする。
「酔っ払いの振りでいいのか? 酔っ払いでもいいんだぜ、クククッ」
「……きゃん!」
どしーん、と尻餅を付くうらら。しっかりと椅子を見てなかったためドジを踏んだようで。
「……酔っ払いのふり、うまいなぁ」
「いや、わざとじゃねぇだろう」
感心するざくろに、なんか天然ばかりが集まったみてぇだなぁとか呆れるJだったり。
ここで店員がやって来た。
「いらっしゃいませ、何になさいます?」
「アルコール度の高い酒を頼むぜ。……ざくろもいくか?」
「ざくろは……オレンジジュースで!」
「わ、私もオレンジジュース……」
どうやらJ、酔っぱらう気満々のようで。
この時、外の五人組。
「霧の深い夜の街。そこに起こる怪事件……リアルブルーではきっと探偵が活躍する舞台だね」
花壇の縁石に立ち空を見上げていた悠月が、背中越しに振り返りふふふと微笑した。雰囲気に酔ったのか、瞳が細められ蠱惑的だ。
「怪事件ならちょうど犯人もここにいるわね~」
キーリ、横を見る。
「どうして僕が犯人なのですか。がおー」
ネプ、キーリの方に両腕を上げてがおーポーズ。
「言ってるそばから襲ってますねぇ」
「くるみ割り人形対ピンクベア、って感じだよね」
小太とフラがダックスフンドをよしよしと可愛がりながらぽそり。
「それより、ちょっと」
キーリ、改めてちょいちょいと皆を手招き。よっ、と縁石から下りる悠月に、しゃがんだ姿勢から立ち上がる小太とフラ。
「背が低いと狙いやすい、ねー……」
呟きつつ皆を見るキーリ。
「こう、改めて意識してみると私達ってちんまいわよねー……」
「うん。……男の子としては複雑だヨ」
悠月、少し傷心気味。
「そ、それを言ったら僕の方が背が低くて……」
「小太さんはボクより背が高いから大丈夫っ」
落ち込む小太に励ますフラ。そのようすに少し救われた気分のする悠月だったり。
「はぅ、くまさんの耳の部分も考慮に入れてほしいのです!」
「まぁ頭齧られたら傷薬くらいは塗ってあげるわよ……ネプの場合は『縫って』だけど」
「それならいいのです」
「いいの?」
抗議するもキーリの一言で納得するネプ。悠月が、そういえばキーリさんの裁縫の腕、どうだっけ、と一瞬心配したのは内緒だ。
とにかく、こちらはJと違い敵と出会いさえすれば狙われるだろう。
場面は再び酒場に。
「ちょっといいかな? ……夜の噂を小耳にはさんだんだけど。あっ、これは奢りだよ」
ざくろが地元の客とお近づきになって情報を得ようと奮起している。
ところがッ!
「あ? お姉ェちゃんに酒をおごってもらうわけにゃいかんなぁ。ほら、奢ってやるからこっちで飲もう。可愛がってやるぜ~」
ぐいっ、と腰に手を回される。
「あの……ざくろ男、男っ」
「お? 自分に自信のない子かい? しょうがねぇ。今夜はオレっちらと飲んで女の自信を取り戻そうぜぃ」
大変な目に遭っているざくろの姿が遠く映る席では。
「……気のせいとは思うんですが、若干の違和感があるんですよ」
テーブルに身を乗り出し、うららが鋭く……あっと、肘をついたのでテーブルががたんと傾いた。あわわ、とまたドジを踏みそうになって危うく踏みとどまるうらら。
「違和感~?」
強い酒を飲んで出来上がりつつあるJが聞く。
「昼間はざくろさんと市場で聞き込みましたが、本当に目撃とか襲われた体験はあっても、犠牲者が少ないんですよね。霧の中でも攻撃対象を捕捉する能力はあっても攻撃対象を自ら選別するオツムがあるタイプに思えないんです」
「それで?」
Jの言葉は少ないが、逆に目は真剣になっている。
「背後に攻撃対象を選別し、攻撃手段として『くるみ割り人形』を霧の中へ放ってる存在が居るって考える方がしっくりするんですよねー」
「だとしたら……」
ぷはー、と酒臭い息を吐いてJが一呼吸置いた。
「だとしたら?」
「……今回は手遅れだな。今から霧の中に放る奴を探そうとしても遅い」
ま、それするにしてもどこで放るかとかの情報が少ないから難しいがな、とまた酒を飲むJだった。
すでに夜は更けている。
●
深夜。
銀色の髪を月明かりにさらして石段に立つ人影があった。
「突き刺さった月明りは、まるで舞台のスポットライト……」
「そして舞台は整った、と」
隣にひらりと銀髪女性が立つ。赤い瞳が見つめ合う。
月は、霧のオペラカーテンに包まれるように姿を消していた。
「幻想的な雰囲気だね」
「霧がかった夜の街。ひんやりしてて良いわね」
悠月とキーリだ。
「霧が私達を切り取ったみたい」
キーリが先に下りてくるくるダンス。
「行こうか」
悠月も下りてランタンに火を灯す。これで、狙われる背の低さになった。
「お昼のうちに目撃地点を集めておいたわ。……あとは、チョコ酒」
「チョコレート・ハウスの? 用意がいいね」
こうして夜の霧に紛れる二人。チョコの酒を口に含みながら。
「そ、それじゃあフラさん行きましょうかぁ? ただでさえ夜で暗いのに霧が出てて余計に周囲が見づらいですねぇ…」
小太はフラと共に巡回。
「明かりは、これ?」
おっと。小太の手からハンディLEDライトを奪ったぞ?
「あ、フラさん。ダメですよぅ」
「どうして? いつもボクが前で小太さんに助けてもらってるじゃない?」
フラ、素直な笑顔を見せる。
一瞬、納得しかけた小太だが、毅然とフラの横に付いた。
「そうですけどぉ……怪しい気配は分かるようですから、それまでは離れずに行きましょう」
「それじゃ、そうしよう。でも、どっちにいくの?」
「昼間にちゃんと目撃情報を調べてますよぉ。いくつかありますので、キーリさんたちと分担です」
「うん」
こうして小さなカップルが霧に消える。
こちら、トリプルJ。
「おい、俺ぁてめぇは治せねぇからな? ヤバいのが来たら吠えてほしいし多少の手助けもしてほしいが、大怪我しそうになったらとっとと逃げるんだぞ?」
小太から戻してもらった愛犬のダックスフンドの顔を正面から見ながら、しゃがみこんで話し込む。わふ、と横を向くが、ぐいいと両頬に手を添えて前を向かせる。
「いいか? 死ぬまで戦えなんざかけらも思ってねぇからな、相棒?」
頼むぞ、と覗き込むとぺろりと顔を舐められた。不意打ちを食らったが、愛犬の方はそれで満足したようだ。
「ま、安いもんだが……酒臭い顔を舐めて酔っぱらうとかよしてくれよ? じゃ、行くぜ?」
乱暴に相棒の頭をわしゃわしゃ撫でて、出発だ。
●
ざくろはネプと一緒に霧の中を巡回している。
「昼間に聞き込んで出そうな場所は分かってるけど……」
ざくろ、月うさぎのぬいぐるみを抱きおどおどしている。
「敵は特徴的な足音あるらしいから、きをつ……」
「ある日 街の中 くまさんに 出会った♪ なのですー! がおー!」
同行者に声を掛けたところ、大きな歌声とがしゃんがしゃんという金属音。
「わわわわ、大声で歌……」
「がおー!」
ネプと一緒だから、合わせてぬいぐるみを抱く少女の格好をしていたのである。
というか、もう襲ってくださいと言わんばかりの騒がしさ。ネプったらカンテラ持ったまま勢い良く両手を上げてがおーポーズを取っている。
そこで霧が一層濃くなった。
「はぅー。霧がすごいのですー。ざくろさん、迷子になっちゃダメなのですよー?」
さすがに真面目になったネプがざくろに一声掛ける。
が、しかしッ!
「ぷるる……がちゃ。はい、私くるみ割り人形、今あなたの後ろにいるの……」
ざくろ、魔導短電話を手にそんなことを呟いている。
「はう!」
「……って聞こえてきたりして……あっ、ネプ!」
冗談を真に受けたネプ、ざくろの背後に突っ走った!
そこにぽすんぽすんという足音。敵が二人の間に割り込んできた!
「やらせないよ……これでもくらえ」
ざくろ、スーパー光線銃を抜いて拡散ヒートレイ。扇状だ外れるわけないよねと大胆に。
「はぅ! くまさんパワーなのですー!」
ネプを振り向いて魔導機械「くまんてぃーぬ」がくまさんビーム発射。デルタレイの一本が二人の間に入った人形を穿つ。
……なんか、二人のノリに敵が誘われた形になったようで。
別の場所で、J。
「う~い、ひっく、と……」
千鳥足で一人行く。愛犬は足元について来ている。
と、この時愛犬の足が止まった。
そして後ろを振り向くと一目散に横に逃げた。
――ぽすん、ぽすん。
「あぁ? 飲みが足りねぇのか、後ろから変な音が聞こえるぜぇ?」
手にした酒をぐびりと煽る。
――ぽすん、ぽすん!
背後からの音がさらに大きくなり、殺気さえ伝わって来た!
「へ……」
振り向くJ。素早い。
そして霧の中から飛びかかって来た兵隊風の巨大くるみ割り人形の顔。
「やーっと引っ掛かったか。本気で酔っ払いになるかと思ったぜ……『こっちも出たぜ!』」
トランシーバーに叫んで腕を引く。
――どしーん。
J、人形の突っ込みをかわした。というか、人形の軌道がズレていた。
「ダックスフンドはただ逃げただけじゃねぇんだよ」
逃げた方に魔導ワイヤーの先を伸ばしていたのだ。飛びかかると同時に引いて引っ掛け、軌道を強引に変えていた。
それだけではない!
「ある意味初陣なんでな……きっちり決めるぜ?」
ぐいんと引いて、機械脚甲「モートル」を履いた膝蹴りでぶっ潰した。
こちら、悠月。
「さて、奇妙なお客さんのお出ましだ」
いち早く背後からの敵の足音に気付いて呟いた。
瞬間、振り向いて霧を巻き込んだつむじ風になる。
「……とにかくお腹を壊せば無力化するのよね?」
キーリも振り向きバックステップして距離を取りつつファイヤボール。
どぅん、と霧の中で炎の爆発。
その勢いが収まった時、先ほど消えたつむじ風が姿を現した。
「巻き込まれたくはないからね」
背後に回った悠月、日本刀「白狼」でくるみ割りギミックをぶち壊しつつ叩きつけた。
「胡桃でなく頭蓋を割る人形なんて愛されないよ」
はじけた破片を食らいつつも足元を見下ろし手向けの言葉を残す。
「……遅いわよ。黒幕でも探してたの?」
「お腹に愛刀を突っ込んで折られたら『たまらない』だろ?」
いつもの言葉をいつもと違う風に言って肩をすくめる悠月だった。
――ぽすん、ぽすん。
「ふぇ、今何か音がしたようなぁ?」
小太、不穏な音に振り向いた。
見ると、霧の中跳ねて近寄る人影が。
「小太さん、下がってて!」
フラ、ライトを敵に照らし立ち向かう。
もう敵は目の前。
「あっ……ダメ!」
叫んだのは、突こうとしたアックスブレードがクルミを割る口に入りそうになったから。
「射線通らなくても街中ならなんとかなるのですよぉ!」
同時に背後から小太がリボルバー「ヴィテス」と「トリスト」を抜き撃ち。
が、構えたのは明後日の方向で撃った方向もそちら。
当たるわけがないッ!
――ちゅいん、ちゅいん……。
いや、跳弾だ。
石造りの建物に当たって横から巨大くるみ割り人形に命中。体の中心は外れなので手堅い選択だ。
――かしゃん。
「うわっ……巨大化してたのは膨らんでたんだね」
フラ、敵が倒れた時にはじけた破片を食らっていた。
「か、かばえなくてごめんなさいですよぅ」
「ううん。今のは無理」
「ね、念のためもう少しみて回りましょうかぁ?」
トランシーバーで仲間と連絡を取り、もうちょっと歩く。
「夜の街、神秘的ですねぇ…」
「うん。素敵だよね」
身を寄せ合いドキドキの二人だった。
「……くるみ割り人形がフリルドレス型なんだろうと思ってましたよ~」
うららは、くるみ割り人形ではなく宙に浮くフリルドレスと遭遇していた。
酒場でもう遅いと言われたものの、誰かが霧の中に歪虚くるみ割り人形を投入していると想定してくるみ割り人形の目撃例のない場所を巡回していたのだ。
「さあ。裁縫の時間ですよ~」
試作溶断刀「ブレイジングKAGUTUCHI」で切り掛かるがひらりとかわされた。
そして首に袖が絡みそうになるが……。
「きゃん!」
ドジを踏んだ。
足をくじいて尻餅を付いたのだ。
フリルドレサー、そのまま諦めてどこかに漂っていく。
とにかく、くるみ割り人形は全滅させた。
「R」と鷹の刻印のある大きな釘が人形に刺さっていて、倒されて発見されると消えたという。
フマーレの空に、満月に近い月が低く姿を現した。
「さてと、ちょいとばかりあそこに行って来るぜ?」
レザーハットのつばを上げてトリプルJ(ka6653)が酒場を指差していた。
「じゃ、ボクたちはこの子と外で待ってるね」
フラ・キャンディ(kz0121)は酒場には行かない。この子というのは……。
「もうちょっと散歩ですよぉ」
弓月・小太(ka4679)がトリプルJの連れてきたダックスフンドを預かっている。
「すまねぇな。さすがに連れてはいるわけにゃいかねぇし」
「ざくろも行ってくるね……その子、よろしくだよ」
ぐ、とつばを引き下げて酒場に向かうJを背に、時音 ざくろ(ka1250)もにこりと連れてきた何かを仲間に託した。
「はぅー、その子じゃなくてくまさんなのですー」
ざくろに指差されたネプ・ヴィンダールヴ(ka4436)は納得できないのですー、な感じでがおーポーズ。まるごとくまさん着用である。色はピンク。
「……さすがにこれを連れて酒場に入るわけにはいかないわねー」
なんだかなー、な感じで胸の前で腕を組んだままネプを見ているキーリ(ka4642)がぽそり。
「コミックバンドのメンバーとか言えば大丈夫かもだけど……」
一応、前向きなことを言う霧雨 悠月(ka4130)。
が、しかし。
「言っとくけど、ユッキーも酒場に入るわけにはいかないわよ?」
ぐるん、と悠月の方に向いて冷たく言うキーリ。
「え? お酒は少し飲み始めたけど……」
「違うわよ。銀狐を酒場に連れて行くわけにはいかないでしょ?」
ぴしゃりとキーリは酷いことを言う。
「銀狐は酷いなぁ。これでも『猛き銀狼』って二つ名が……」
「余計酒場に入れちゃいけないじゃない」
そんなこんなでずりずりとキーリに連行される悠月。
「はう、犬と狼さんがいるならこっちなのですー♪」
動物万歳、とばかりにネプもついて行く。
「だ、大丈夫ですかねぇ?」
「大丈夫。こっちは私に任せてくださいね~」
不安がる小太に、黒髪ショートの百々尻 うらら(ka6537)がのんびりにっこり。Jとざくろについて酒場に入って行く。
「……大丈夫じゃないのはこっちのような気もするよね」
フラ、キーリと悠月、ネプに続き、小太とともに外に待機する。
で、酒場に入ったJとざくろ、うらら。
「背の低いのを好んで襲うんだったな」
席に座りつつ確認するJ。
「そうですねー。Jさん背が高いから酔ったふりが必要かもです」
うらら、誰か客から情報収集したいなぁと周りを見ながら席に着こうとする。
「酔っ払いの振りでいいのか? 酔っ払いでもいいんだぜ、クククッ」
「……きゃん!」
どしーん、と尻餅を付くうらら。しっかりと椅子を見てなかったためドジを踏んだようで。
「……酔っ払いのふり、うまいなぁ」
「いや、わざとじゃねぇだろう」
感心するざくろに、なんか天然ばかりが集まったみてぇだなぁとか呆れるJだったり。
ここで店員がやって来た。
「いらっしゃいませ、何になさいます?」
「アルコール度の高い酒を頼むぜ。……ざくろもいくか?」
「ざくろは……オレンジジュースで!」
「わ、私もオレンジジュース……」
どうやらJ、酔っぱらう気満々のようで。
この時、外の五人組。
「霧の深い夜の街。そこに起こる怪事件……リアルブルーではきっと探偵が活躍する舞台だね」
花壇の縁石に立ち空を見上げていた悠月が、背中越しに振り返りふふふと微笑した。雰囲気に酔ったのか、瞳が細められ蠱惑的だ。
「怪事件ならちょうど犯人もここにいるわね~」
キーリ、横を見る。
「どうして僕が犯人なのですか。がおー」
ネプ、キーリの方に両腕を上げてがおーポーズ。
「言ってるそばから襲ってますねぇ」
「くるみ割り人形対ピンクベア、って感じだよね」
小太とフラがダックスフンドをよしよしと可愛がりながらぽそり。
「それより、ちょっと」
キーリ、改めてちょいちょいと皆を手招き。よっ、と縁石から下りる悠月に、しゃがんだ姿勢から立ち上がる小太とフラ。
「背が低いと狙いやすい、ねー……」
呟きつつ皆を見るキーリ。
「こう、改めて意識してみると私達ってちんまいわよねー……」
「うん。……男の子としては複雑だヨ」
悠月、少し傷心気味。
「そ、それを言ったら僕の方が背が低くて……」
「小太さんはボクより背が高いから大丈夫っ」
落ち込む小太に励ますフラ。そのようすに少し救われた気分のする悠月だったり。
「はぅ、くまさんの耳の部分も考慮に入れてほしいのです!」
「まぁ頭齧られたら傷薬くらいは塗ってあげるわよ……ネプの場合は『縫って』だけど」
「それならいいのです」
「いいの?」
抗議するもキーリの一言で納得するネプ。悠月が、そういえばキーリさんの裁縫の腕、どうだっけ、と一瞬心配したのは内緒だ。
とにかく、こちらはJと違い敵と出会いさえすれば狙われるだろう。
場面は再び酒場に。
「ちょっといいかな? ……夜の噂を小耳にはさんだんだけど。あっ、これは奢りだよ」
ざくろが地元の客とお近づきになって情報を得ようと奮起している。
ところがッ!
「あ? お姉ェちゃんに酒をおごってもらうわけにゃいかんなぁ。ほら、奢ってやるからこっちで飲もう。可愛がってやるぜ~」
ぐいっ、と腰に手を回される。
「あの……ざくろ男、男っ」
「お? 自分に自信のない子かい? しょうがねぇ。今夜はオレっちらと飲んで女の自信を取り戻そうぜぃ」
大変な目に遭っているざくろの姿が遠く映る席では。
「……気のせいとは思うんですが、若干の違和感があるんですよ」
テーブルに身を乗り出し、うららが鋭く……あっと、肘をついたのでテーブルががたんと傾いた。あわわ、とまたドジを踏みそうになって危うく踏みとどまるうらら。
「違和感~?」
強い酒を飲んで出来上がりつつあるJが聞く。
「昼間はざくろさんと市場で聞き込みましたが、本当に目撃とか襲われた体験はあっても、犠牲者が少ないんですよね。霧の中でも攻撃対象を捕捉する能力はあっても攻撃対象を自ら選別するオツムがあるタイプに思えないんです」
「それで?」
Jの言葉は少ないが、逆に目は真剣になっている。
「背後に攻撃対象を選別し、攻撃手段として『くるみ割り人形』を霧の中へ放ってる存在が居るって考える方がしっくりするんですよねー」
「だとしたら……」
ぷはー、と酒臭い息を吐いてJが一呼吸置いた。
「だとしたら?」
「……今回は手遅れだな。今から霧の中に放る奴を探そうとしても遅い」
ま、それするにしてもどこで放るかとかの情報が少ないから難しいがな、とまた酒を飲むJだった。
すでに夜は更けている。
●
深夜。
銀色の髪を月明かりにさらして石段に立つ人影があった。
「突き刺さった月明りは、まるで舞台のスポットライト……」
「そして舞台は整った、と」
隣にひらりと銀髪女性が立つ。赤い瞳が見つめ合う。
月は、霧のオペラカーテンに包まれるように姿を消していた。
「幻想的な雰囲気だね」
「霧がかった夜の街。ひんやりしてて良いわね」
悠月とキーリだ。
「霧が私達を切り取ったみたい」
キーリが先に下りてくるくるダンス。
「行こうか」
悠月も下りてランタンに火を灯す。これで、狙われる背の低さになった。
「お昼のうちに目撃地点を集めておいたわ。……あとは、チョコ酒」
「チョコレート・ハウスの? 用意がいいね」
こうして夜の霧に紛れる二人。チョコの酒を口に含みながら。
「そ、それじゃあフラさん行きましょうかぁ? ただでさえ夜で暗いのに霧が出てて余計に周囲が見づらいですねぇ…」
小太はフラと共に巡回。
「明かりは、これ?」
おっと。小太の手からハンディLEDライトを奪ったぞ?
「あ、フラさん。ダメですよぅ」
「どうして? いつもボクが前で小太さんに助けてもらってるじゃない?」
フラ、素直な笑顔を見せる。
一瞬、納得しかけた小太だが、毅然とフラの横に付いた。
「そうですけどぉ……怪しい気配は分かるようですから、それまでは離れずに行きましょう」
「それじゃ、そうしよう。でも、どっちにいくの?」
「昼間にちゃんと目撃情報を調べてますよぉ。いくつかありますので、キーリさんたちと分担です」
「うん」
こうして小さなカップルが霧に消える。
こちら、トリプルJ。
「おい、俺ぁてめぇは治せねぇからな? ヤバいのが来たら吠えてほしいし多少の手助けもしてほしいが、大怪我しそうになったらとっとと逃げるんだぞ?」
小太から戻してもらった愛犬のダックスフンドの顔を正面から見ながら、しゃがみこんで話し込む。わふ、と横を向くが、ぐいいと両頬に手を添えて前を向かせる。
「いいか? 死ぬまで戦えなんざかけらも思ってねぇからな、相棒?」
頼むぞ、と覗き込むとぺろりと顔を舐められた。不意打ちを食らったが、愛犬の方はそれで満足したようだ。
「ま、安いもんだが……酒臭い顔を舐めて酔っぱらうとかよしてくれよ? じゃ、行くぜ?」
乱暴に相棒の頭をわしゃわしゃ撫でて、出発だ。
●
ざくろはネプと一緒に霧の中を巡回している。
「昼間に聞き込んで出そうな場所は分かってるけど……」
ざくろ、月うさぎのぬいぐるみを抱きおどおどしている。
「敵は特徴的な足音あるらしいから、きをつ……」
「ある日 街の中 くまさんに 出会った♪ なのですー! がおー!」
同行者に声を掛けたところ、大きな歌声とがしゃんがしゃんという金属音。
「わわわわ、大声で歌……」
「がおー!」
ネプと一緒だから、合わせてぬいぐるみを抱く少女の格好をしていたのである。
というか、もう襲ってくださいと言わんばかりの騒がしさ。ネプったらカンテラ持ったまま勢い良く両手を上げてがおーポーズを取っている。
そこで霧が一層濃くなった。
「はぅー。霧がすごいのですー。ざくろさん、迷子になっちゃダメなのですよー?」
さすがに真面目になったネプがざくろに一声掛ける。
が、しかしッ!
「ぷるる……がちゃ。はい、私くるみ割り人形、今あなたの後ろにいるの……」
ざくろ、魔導短電話を手にそんなことを呟いている。
「はう!」
「……って聞こえてきたりして……あっ、ネプ!」
冗談を真に受けたネプ、ざくろの背後に突っ走った!
そこにぽすんぽすんという足音。敵が二人の間に割り込んできた!
「やらせないよ……これでもくらえ」
ざくろ、スーパー光線銃を抜いて拡散ヒートレイ。扇状だ外れるわけないよねと大胆に。
「はぅ! くまさんパワーなのですー!」
ネプを振り向いて魔導機械「くまんてぃーぬ」がくまさんビーム発射。デルタレイの一本が二人の間に入った人形を穿つ。
……なんか、二人のノリに敵が誘われた形になったようで。
別の場所で、J。
「う~い、ひっく、と……」
千鳥足で一人行く。愛犬は足元について来ている。
と、この時愛犬の足が止まった。
そして後ろを振り向くと一目散に横に逃げた。
――ぽすん、ぽすん。
「あぁ? 飲みが足りねぇのか、後ろから変な音が聞こえるぜぇ?」
手にした酒をぐびりと煽る。
――ぽすん、ぽすん!
背後からの音がさらに大きくなり、殺気さえ伝わって来た!
「へ……」
振り向くJ。素早い。
そして霧の中から飛びかかって来た兵隊風の巨大くるみ割り人形の顔。
「やーっと引っ掛かったか。本気で酔っ払いになるかと思ったぜ……『こっちも出たぜ!』」
トランシーバーに叫んで腕を引く。
――どしーん。
J、人形の突っ込みをかわした。というか、人形の軌道がズレていた。
「ダックスフンドはただ逃げただけじゃねぇんだよ」
逃げた方に魔導ワイヤーの先を伸ばしていたのだ。飛びかかると同時に引いて引っ掛け、軌道を強引に変えていた。
それだけではない!
「ある意味初陣なんでな……きっちり決めるぜ?」
ぐいんと引いて、機械脚甲「モートル」を履いた膝蹴りでぶっ潰した。
こちら、悠月。
「さて、奇妙なお客さんのお出ましだ」
いち早く背後からの敵の足音に気付いて呟いた。
瞬間、振り向いて霧を巻き込んだつむじ風になる。
「……とにかくお腹を壊せば無力化するのよね?」
キーリも振り向きバックステップして距離を取りつつファイヤボール。
どぅん、と霧の中で炎の爆発。
その勢いが収まった時、先ほど消えたつむじ風が姿を現した。
「巻き込まれたくはないからね」
背後に回った悠月、日本刀「白狼」でくるみ割りギミックをぶち壊しつつ叩きつけた。
「胡桃でなく頭蓋を割る人形なんて愛されないよ」
はじけた破片を食らいつつも足元を見下ろし手向けの言葉を残す。
「……遅いわよ。黒幕でも探してたの?」
「お腹に愛刀を突っ込んで折られたら『たまらない』だろ?」
いつもの言葉をいつもと違う風に言って肩をすくめる悠月だった。
――ぽすん、ぽすん。
「ふぇ、今何か音がしたようなぁ?」
小太、不穏な音に振り向いた。
見ると、霧の中跳ねて近寄る人影が。
「小太さん、下がってて!」
フラ、ライトを敵に照らし立ち向かう。
もう敵は目の前。
「あっ……ダメ!」
叫んだのは、突こうとしたアックスブレードがクルミを割る口に入りそうになったから。
「射線通らなくても街中ならなんとかなるのですよぉ!」
同時に背後から小太がリボルバー「ヴィテス」と「トリスト」を抜き撃ち。
が、構えたのは明後日の方向で撃った方向もそちら。
当たるわけがないッ!
――ちゅいん、ちゅいん……。
いや、跳弾だ。
石造りの建物に当たって横から巨大くるみ割り人形に命中。体の中心は外れなので手堅い選択だ。
――かしゃん。
「うわっ……巨大化してたのは膨らんでたんだね」
フラ、敵が倒れた時にはじけた破片を食らっていた。
「か、かばえなくてごめんなさいですよぅ」
「ううん。今のは無理」
「ね、念のためもう少しみて回りましょうかぁ?」
トランシーバーで仲間と連絡を取り、もうちょっと歩く。
「夜の街、神秘的ですねぇ…」
「うん。素敵だよね」
身を寄せ合いドキドキの二人だった。
「……くるみ割り人形がフリルドレス型なんだろうと思ってましたよ~」
うららは、くるみ割り人形ではなく宙に浮くフリルドレスと遭遇していた。
酒場でもう遅いと言われたものの、誰かが霧の中に歪虚くるみ割り人形を投入していると想定してくるみ割り人形の目撃例のない場所を巡回していたのだ。
「さあ。裁縫の時間ですよ~」
試作溶断刀「ブレイジングKAGUTUCHI」で切り掛かるがひらりとかわされた。
そして首に袖が絡みそうになるが……。
「きゃん!」
ドジを踏んだ。
足をくじいて尻餅を付いたのだ。
フリルドレサー、そのまま諦めてどこかに漂っていく。
とにかく、くるみ割り人形は全滅させた。
「R」と鷹の刻印のある大きな釘が人形に刺さっていて、倒されて発見されると消えたという。
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相談ですよぉー 弓月・小太(ka4679) 人間(クリムゾンウェスト)|10才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2016/12/07 12:21:09 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/12/06 02:09:30 |