ゲスト
(ka0000)
【CF】ヤドリギの下で幸福なキスを
マスター:韮瀬隈則

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~6人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/12/08 07:30
- 完成日
- 2016/12/15 06:15
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
リゼリオ港湾部外れ。
聖輝節準備に沸く中心部とは違う静けさでありながら、伝説のモノトーン教会を岩陰向こうに臨む好立地。穴場であるここが閑散としているのは、海水浴場という固定イメージのせいだろう。
そこの某コテージに、大きな箱を幾つも抱えて運ぶ3人の若い男達がいた。
「難色を示されたけど借りられたよ! この素敵コテージ! 頼るものは伝手のあるオジサンだねぇ!」
ふふふん! と得意気な若者が鼻の穴を大きく膨らませる。
「二人っきりのコテージでプロポーズはいいけど、ここ見事に盛夏仕様じゃねぇかよ」
「今、リゼリオは不審者出没で飾り付けに難儀してるって一部の噂、知ってるだろ? 下手にデコっても荒らされそうだし、かといって間際に調達できるアテもないだろうがよ」
素晴らしいほどに夏って感じのコテージを前に、どうすんのよ? と残る2人は若者を見やる。
「ふはは……抜かりはないよ! 目指すのは『ナチュラル』──必要最小限のオーナメント以外は自然の恵みを使うことで懸念は払拭される寸法さ。ほら、運んでる箱の中身もだよ!」
ますます得意気な若者がコテージの扉をズババンッ! と開ける。
なるほど──
コテージまるまる1部屋となっている室内は、中央にそびえる白銀のツリーをはじめとして、壁のリースは蔓草と松ぼっくり、足元にポインセチアにヒイラギの鉢が茂り、花瓶に白樺と金銀に塗られたサラシミツマタとコットンツリーが華やかさを増して、成る程なかなかロマンチックだ。家具は申し訳程度のキッチンとダイニング以外、キングサイズベッド1台しかないのは苦笑すべきだろうか。
──その中で。
中央のツリーに吊るされた、異様に目立つ巨大なヤドリギの球状の団塊があった。
「ヤドリギの下で争いはならず、ただ、愛に満ちた幸せな口づけを交わすのみ」
目を瞑った若者が厳かに呟いて、我と我が身を抱きしめムチューっとやって笑う。……キモい。
ってわけで頑張って採取飾り付けし、毎晩抱きしめてキスの千本ノック。これで落ちる。と、皮算用を開陳する。……超キモい。
「いやそれにしてもデカくね?」
「直径3mのヤドリギなんて見たことないぞ、おい」
……
…………
「は? 3m?」
慌てて上を見る若者が、ぅわらヴァっ! と形容しがたい悲鳴を上げる。
知らん、俺は知らないぞこんなにでかいの飾ってない……と必死に頭を振っているので本当に心当たりはないらしい……
直径3mのヤドリギ──
ツリーを侵食するほどのソレの中心に、古く錆びた剣のようなシルエット。
「なんだあれ?」
「いや……十字架の形に固まったヤドリギが素敵だから飾っただけなんだけど、なんでこんなにでかく成長してんだ?」
よせばいいのに近づき良く観察しようとする若者達。もう不吉な予感しかしない。
──そして。
●
「うわぁぁ! 早く! 早くあいつらを助け出してくださいぃっ!」
若者達の1人──仮に若者Cとしよう──が、手近なオフィス派出所に駆け込んだのが数分前。ダベっていたハンター達が、偶然異常を察知したパルムから送信された、コテージの窓という窓から植物性の触手を蠢かせている映像に釘付けになった直後、である。
即座に現地に向かいながら、事情徴収にあたったのはよい判断だった。
荷馬車の上で涙目の若者Cから、コテージから蠢く触手の材質は植物の雑魔であること。要救助者の人数とおおまかなコテージの配置も判明した。
問題なのは──状況と敵の行動原理、である。
「アレは俺達を捕まえると、ツリーの下……ベッドの辺りまで引き寄せて……俺達同士でのキスを迫ったんだ!!」
……?
かくり、と首を傾げたのが伝わったのか、こうです、と若者Cが拘束された身振りをしながら手近なハンターに抵抗しながらキス寸前まで顔を近づけた。
「俺は解放されたんだけれど、AとBが激しく抵抗してそのまま触手に締め付けられて……あのままじゃ絞め殺されるか窒息するかだ」
助けに行こうにも密集した触手相手では、また元の木阿弥になるのは必定だろう。
「ちくしょう! なにが『ヤドリギの下で争いはならず、ただ、愛に満ちた幸せな口づけを交わすのみ』だよ! そんな千本ノックやるからだ!」
えー。あー。つまり?
近づくと触手に引きずり込まれて、幸せなキスをしないと、離してもらえない……らしいと。こういうこと?
若者Cの乱れた服に付着する粘液からして、向こうに自主的に離して貰わないと面倒そうだと算段し、しかしキスかぁ……と、ハンター達は思案する。
やがてぽつんと建つコテージからうぞうぞと、ヤドリギの粘液まみれの触手がはみ出している現地に着く。
……キモい。
そのあまりのキモさに、若者Cが開放された因果関係は深く追求されることはなかった。
リゼリオ港湾部外れ。
聖輝節準備に沸く中心部とは違う静けさでありながら、伝説のモノトーン教会を岩陰向こうに臨む好立地。穴場であるここが閑散としているのは、海水浴場という固定イメージのせいだろう。
そこの某コテージに、大きな箱を幾つも抱えて運ぶ3人の若い男達がいた。
「難色を示されたけど借りられたよ! この素敵コテージ! 頼るものは伝手のあるオジサンだねぇ!」
ふふふん! と得意気な若者が鼻の穴を大きく膨らませる。
「二人っきりのコテージでプロポーズはいいけど、ここ見事に盛夏仕様じゃねぇかよ」
「今、リゼリオは不審者出没で飾り付けに難儀してるって一部の噂、知ってるだろ? 下手にデコっても荒らされそうだし、かといって間際に調達できるアテもないだろうがよ」
素晴らしいほどに夏って感じのコテージを前に、どうすんのよ? と残る2人は若者を見やる。
「ふはは……抜かりはないよ! 目指すのは『ナチュラル』──必要最小限のオーナメント以外は自然の恵みを使うことで懸念は払拭される寸法さ。ほら、運んでる箱の中身もだよ!」
ますます得意気な若者がコテージの扉をズババンッ! と開ける。
なるほど──
コテージまるまる1部屋となっている室内は、中央にそびえる白銀のツリーをはじめとして、壁のリースは蔓草と松ぼっくり、足元にポインセチアにヒイラギの鉢が茂り、花瓶に白樺と金銀に塗られたサラシミツマタとコットンツリーが華やかさを増して、成る程なかなかロマンチックだ。家具は申し訳程度のキッチンとダイニング以外、キングサイズベッド1台しかないのは苦笑すべきだろうか。
──その中で。
中央のツリーに吊るされた、異様に目立つ巨大なヤドリギの球状の団塊があった。
「ヤドリギの下で争いはならず、ただ、愛に満ちた幸せな口づけを交わすのみ」
目を瞑った若者が厳かに呟いて、我と我が身を抱きしめムチューっとやって笑う。……キモい。
ってわけで頑張って採取飾り付けし、毎晩抱きしめてキスの千本ノック。これで落ちる。と、皮算用を開陳する。……超キモい。
「いやそれにしてもデカくね?」
「直径3mのヤドリギなんて見たことないぞ、おい」
……
…………
「は? 3m?」
慌てて上を見る若者が、ぅわらヴァっ! と形容しがたい悲鳴を上げる。
知らん、俺は知らないぞこんなにでかいの飾ってない……と必死に頭を振っているので本当に心当たりはないらしい……
直径3mのヤドリギ──
ツリーを侵食するほどのソレの中心に、古く錆びた剣のようなシルエット。
「なんだあれ?」
「いや……十字架の形に固まったヤドリギが素敵だから飾っただけなんだけど、なんでこんなにでかく成長してんだ?」
よせばいいのに近づき良く観察しようとする若者達。もう不吉な予感しかしない。
──そして。
●
「うわぁぁ! 早く! 早くあいつらを助け出してくださいぃっ!」
若者達の1人──仮に若者Cとしよう──が、手近なオフィス派出所に駆け込んだのが数分前。ダベっていたハンター達が、偶然異常を察知したパルムから送信された、コテージの窓という窓から植物性の触手を蠢かせている映像に釘付けになった直後、である。
即座に現地に向かいながら、事情徴収にあたったのはよい判断だった。
荷馬車の上で涙目の若者Cから、コテージから蠢く触手の材質は植物の雑魔であること。要救助者の人数とおおまかなコテージの配置も判明した。
問題なのは──状況と敵の行動原理、である。
「アレは俺達を捕まえると、ツリーの下……ベッドの辺りまで引き寄せて……俺達同士でのキスを迫ったんだ!!」
……?
かくり、と首を傾げたのが伝わったのか、こうです、と若者Cが拘束された身振りをしながら手近なハンターに抵抗しながらキス寸前まで顔を近づけた。
「俺は解放されたんだけれど、AとBが激しく抵抗してそのまま触手に締め付けられて……あのままじゃ絞め殺されるか窒息するかだ」
助けに行こうにも密集した触手相手では、また元の木阿弥になるのは必定だろう。
「ちくしょう! なにが『ヤドリギの下で争いはならず、ただ、愛に満ちた幸せな口づけを交わすのみ』だよ! そんな千本ノックやるからだ!」
えー。あー。つまり?
近づくと触手に引きずり込まれて、幸せなキスをしないと、離してもらえない……らしいと。こういうこと?
若者Cの乱れた服に付着する粘液からして、向こうに自主的に離して貰わないと面倒そうだと算段し、しかしキスかぁ……と、ハンター達は思案する。
やがてぽつんと建つコテージからうぞうぞと、ヤドリギの粘液まみれの触手がはみ出している現地に着く。
……キモい。
そのあまりのキモさに、若者Cが開放された因果関係は深く追求されることはなかった。
リプレイ本文
●
「低俗にも程があるだろうッ! 貴様らそれでも歪虚の端くれかッ!?」
不動シオン(ka5395)がわなわなと震えながら睨む先にはもちろん読者諸兄の想像通り、コテージから盛大にはみ出ししゅるしゅると触手を蠢かせたヤドリギが。だが彼女の怒りの矛先はヤドリギそのものにではなく、ソレに絡められている神楽(ka2032)の痴態に向いていた。
「触手には厭な思い出があるっすけど、ここで行かなきゃ男が廃るってモンすよ。大丈夫……っ! 俺の花は未だウテナに咲いてるっすぅ」
──数分前。ぺちぺちと己の頬を叩き奮起した神楽は、俺が先陣を切るっすよー、とばかりに勇ましく触手に向かって吶喊し、そして今──ご想像通りの惨状をコテージ前に曝しているのである。
(触手! 美女! 粘液! そして百合ん百合んキッス! こんなパワーワードが揃っちゃっていいンすか? 倫理問題ないンすかぁ? これはもう俺にシャッターの鬼になれとそゆことっすかー!?)
「……神楽さん。独白のつもりでしょうがダダ洩れです」
事態を観測していたアシェ-ル(ka2983)が思わず突っ込んだが、愛機──三下魔導カメラを構えた神楽のお調子は上昇のまま止まらない。
神楽の吶喊とほぼ時を同じくして、寄り添い触手に絡めとられコテージに消えていった玉兎 小夜(ka6009)と遠藤・恵(ka3940)を追って激写し情報収集するのが神楽の役割であったが、当然、ここで事故発生である。
「我が愛するパルムの加護とこの愛機。カメラマン魂の前に触手なんぞkiss my assっすよ!」
男と歪虚にばかり愛される男、神楽。欲jy……もとい博愛には限りがない男、神楽。吶喊直前の神楽の愛の対象は、股間に突っ込んだパルムであり三下魔導カメラであった。
「むごっ!」
涙目の神楽の上の口には触手によって愛機が捻じ込まれ、パシャッパシャッと印画紙を吐き出している。下の口は触手に巻かれたパルムが攻防を繰り広げているらしいが、一部で実在が噂されるハンターズソサエティ報告書倫理規定要綱──略してソサ倫的配慮により服の下のことなので詳細は不明である。暫くして埒が明かないと感じたらしい触手が、神楽を連れてコテージに消えていくのは、中の若者AかBとかけ合わせてみるつもりだろうか?
「カメラマンと照明さんは探検隊の先に入ると聞いていたのですが……」
神楽と突入セルを組むエルバッハ・リオン(ka2434)が魔法発動の発光待機をやめ、自分も追うべく触手に突っ込んで絡めとられていく。
「幸せなキス……幸せなキス……幸せなキス……」
ぶつぶつエンチャントしているのは自己暗示だろう。時折、実験とか下僕とか勝利のためなら脱ぐとか聞こえるが、やがてコテージ内部に消える。
「エル師匠がんばー!」
両手にパルムと桜妖精をとまらせて、管制はわたくし一人体制になっちゃったなぁと、見送るアシェールが憤慨中のシオンを振り向く。
「くだらん! えぇいこんなもの!」
げしげし地面に散った写真を踏みつけていたシオンは、いきなり真顔になると、アシェールを庇うよう手を引いて「行くぞ」とコテージに向かっていく。
「戦力の逐次投入は悪手。我々も戦力温存を最優先に、中心部目標に到達し集結を急ぐぞ」
凛! と。戦士の面構えでシオンが行く。はい、と答えアシェールが続いて、ふとみればシオンの目に涙の煌き。
芳紀25歳。戦に生き強敵とまみえることが悦びなシオンにとり、口内写生という微妙にセウトな響きの写真は怖気を奮う難敵であったらしい。
●
「うん。流石に当たらないですよね」
……ほぅ。恵はみっしりと雑魔ヤドリギの触手が詰まったコテージ内で、愛用の虹の弓を構えては降ろし溜息をつく。先ほどから何度か中心部に射掛けてはいるが、当然のことながら届く気配などない。迂闊に射掛けまくって中心に届いたとしても、救出対象に流れ矢が当たったら元も子もないし?
「距離なんかすぐそこなのに見えもしないなんて、ちょっと詰まりすぎじゃなではないの?」
ねぇ?
体をずらして困ったような顔で見上げる相手は、一緒に絡めとられた小夜だ。
「ん……恵。抱きなおすから羽織緩めるね」
これで少しは弓が操作しやすいだろう。もぞ……と動いて、小夜は恵を後ろから抱きかかえるように、二人羽織で包みなおす。
キスを拒んでるように感じたのだろう。ヤドリギの触手が批難するように襲いかかったが、小夜が一睨みとともに魔腕を振るう。絡みつきかけた先端が反り、弾かれた実が白い粘液質を飛ばした。
「邪魔しないでくれる? 『争いはならず』なんじゃなかったのかな? 忘れるなよ。事情が事情じゃなかったら、お前らなんかここからでも壊せるんだ」
なんなのこいつら。フンと鼻を鳴らして、一転。甘えるように、甘やかすように、小夜は腕の中の恵に囁く。
「……恵ぃ。キス、してもいい……かな?」
わざと。ゆっくり熱い吐息まじりに擦れ声で、耳にかかるかかからないかの距離で。
「なんです? 小夜……そんな改まっ……」
ぞくぅ──!
ひっ……と悲鳴を上げそうになるのを堪えて、恵は小さく頷くことしかできなかった。耳の後ろにかかる小夜の吐息だけでキスを施された錯覚に陥る。そう。許可なんて要らない。小夜になら、恵となら、二人はキスを拒むことなんてありはしない。
──けれども。
答えはわかっている癖に、意地悪なご主人様みたいに小夜は恵の言葉を封じるように。
(小夜、焦らしながら中心に確実に到達するよう仕向けてる……しかも、私の弓の取り回しまで考えて!)
だから私はこの人が大好きなのだ!
甘い声で肯定の喘ぎを発しかけた恵の唇を、しーっと戒めるように小夜の人差し指が塞ぎ、その後小夜自身の唇に移る。二人だけの秘め事にして間接キス。戦力の集結まで本番はおあずけ。ベッドが見えてきたから、そこで待とう。
火力分散厳禁が作戦だから皆を待つのはほんの少しの時間なのに、きっと永く永く刻は流れるのだろう。恵は胸がつぶれそうな溜息をつく──
ちなみに、このときの小夜の心境は
「役得役得。十字架風味の直下までくれば一捻りだけど、仕事中堂々とイチャこける機会を逃す手はないよ。……あ、これ高級ベッドじゃない。ネトネト我慢して吶喊した甲斐があったよね! ぐへへ☆」
である。
●
ん゛も゛ー!
例えるなら牛の断末魔。そんな不気味な呻きがコテージ中心部、正確にはベッド上に響いている。なにか? 人騒がせな元凶、若者AとBが目を白黒させながら放つ悲鳴にならない悲鳴だ。
そこに新しく、カエルを踏んづけた悲鳴が追加投入された。もちろん小夜と恵の甘美な喘ぎではない。神楽である。
「ぶげぼっ」
三下魔導カメラを口に激しく出し入れされたのち吐き出した神楽に、今度はABの唇が迫る。涙目なのは口腔責めのせいだけではないだろう。このままあえなく男か歪虚とのキス記録を更新してしまうのか。
「待ちなさい! その下僕は私の獲物です」
高らかに、しかし粘液に塗れ触手に絡まれて、エルバッハが次に神楽とキスするのは私だと宣言を放つ。
「エ……エルちゃぁん、来てくれたっすか! 解ってるっす任務の為だって……でも記録更新阻止してもらって俺は……神楽は幸福者っすよー!」
涙と鼻水と粘液塗れの神楽の顔を向けられて、一瞬エルバッハのこめかみが引き攣ったが、更に若者ABとの間接キスが上塗りされるよりマシだと考えたのだろう。
「寄越さないなら私から奪いに行くが宜しいですね?」
大胆なセリフが、絡みつく粘液塗れの触手を払いのけたことで倍増した。バサリと道士風の外套が外れれば、その下には輝くエルバッハの半裸があった。特注ドレス、カプリチョーザ。透ける生地は鋼の強さを保ち、包む肢体を全裸より淫靡に飾る。
「エルちゃん! それ凄いっす大胆すぎるっす!」
ざば!
神楽のシズル感あふれる噴出音と鉄臭に反応したのか。それとも若者ABの呻きに異常を感じたのか。
低いモーター駆動音と共に、切り開かれた触手の壁からシオンとアシェールがコテージ中央にまろび出る。
「……間に合った、か」
息をつくシオンに抱えられたアシェールの感嘆の眼差し。
「はいっ! これでエル師匠のお宝動画見放題……じゃない! 視界と武器取り回し空間確保です。それとAさんかBさんどちらか鼻炎持ちで危険な兆候の呼吸音!」
あとは幸せなキスをして、一気呵成に十字架っていうか偽ミスティルテインまで切り開くですよ。
アシェールが管制を行うが、しかし彼女の視線はエルバッハの肢体に釘付けである。
「師匠……なんて妖艶な……」
周囲の空気に新たな鉄臭さが追加された。
一方のシオンは無様に転がっている若者ABの様子を窺った一瞬の隙に、粘液質に固定され、彼らの口元に運ばれている。
「覚悟? ああ、弱いものを助ける為に汚れに塗れる覚悟はいつだってできているとも」
あれほど嫌悪した強制キス。それを振り切ったのは、アシェールが感知した彼らの生命の危険であり、それを救わんとする己の戦士としての矜持、である。形振りなど構っていられはしない。
唇と唇のインパクトの瞬間。シオンの掌底が白目を剥く若者の胸を打つ。はずみで開いた唇に、瞬間素早く息を吸い込んだシオンの唇が深く重なる。怒りに満ちて荒々しい──しかし、これほど愛に満ちたキスはないだろう。何度も何度も胸を打ち唇から愛の息吹を口移しにして。戦場にしか居場所のないシオンの、不器用な愛──。
「オマエは自力で立ち上がれ。こうだ。ヒッヒッフーヒッヒッフー」
もう一人の若者に、キスの合間を縫って声かける。大丈夫、強い子だろう?
シオン。戦場に生きる心優しき一匹狼。その献身がとったキスとは、もしかしなくても人工呼吸である。
(しゅごい……エル師匠あんなことまでっ!)
アシェールの流血は止まる気配を見せず。桃色オーラが周囲にダダ洩れている。
「ちょ、邪魔しないでくださいよもうっ! えいっえいっ」
煩悩のなせる業か、つんつん突く触手をナイフを握った片手でいなしているあたりが只者ではない。
「あ、あのエルちゃん、胸が当たってるンすけど……」
「当ててるんですが?」
こういうときの定型文的会話を営みながら、舐めるように、咬みつくように、全てを吸い尽くすように、エルバッハは激しいキスを神楽に与えていく。
つぅ──と糸を引いて唇を離し、密着した互いの下肢の違和感に目をやり、困ったような問いかけの顔でエルバッハは神楽を睨む。
「暴れん坊のくせにまだ愛が足りませんか?」
テントのように張り出した神楽の昂ぶり。なのに一向に触手は引かず、この男──神楽の求める幸福への渇望を、エルバッハは奪いつくしてみたい欲に駆られてゆく。もっと過激に? そっと手を添えジッパーを引き下げる。神楽も危ういがソサ輪も危うくオフィス出張所所長は生薬無しでは生きられない体になること必至の状況だ!
「ゃめっ、出……出るな」
焦る神楽の悲鳴とともに──「ぷふぁ!」とボトムの中で神楽の貞操を護っていたパルムが顔を出す。死闘をやりとげた男の顔で周りを見回し、絶句したエルバッハとあちゃーって顔の神楽に気付いて「うきゅ?」と可愛く小首をかしげる。
……。
…………。
「貴方はっ! 魔術研究の下僕としてのっ! 自覚がないのですかっ!?」
ビシバシッ!
折角の自己暗示が丸々無駄になった腹いせに、エルバッハの杖アブルリーが神楽を襲う。鈍器として。
「エルちゃん許して……いやお許しくださいエルさま……あっ」
おい。あっ、って何だ?
「神楽さん目覚めたんですね。神楽さんにとって師匠のキスは王子様のキスだったんですね……」
アシェールがうっとり目を閉じ寝ぼけた台詞を吐いているのは、出血多量による意識錯乱かもしれない。いいなぁ王子様。わたくしも覚醒する時は王子様に起こしてほしいなぁ。
ふぅわり。締め付けていた触手が緩み、多幸感がアシェールの周囲を満たしてゆく。
「おい大丈夫か? 呼吸しろ呼吸!」
気がつけば──
心配そうに息を吹き込んでは覗き込むシオンの顔。
「王子……様?」
「は? いや束縛が解けた。総攻撃だ」
……!! アシェールは慌てて管制にかかる。緩んでもなお分厚く阻む触手を切り開いて、十字架──雑魔化ミスティルテインを撃ち砕かねばならぬ。
●
そこから先は速かった。
「下僕は一般人保護にその身を挺するのです」
「うぃっす! エル様」
エルバッハに蹴りやられた神楽が、緩んでなお若者達に絡み付く触手を戦槍ボロフグイで払い、ブヒりながら彼らに覆いかぶさる。
男同士で庇うのはキモいっすけど、エル様のお役に立てるなら本望っす、ハァハァ。と恍惚し呟く辺り一気に調教が進んだ感がある。
「よろしい。遠慮なくブチまけられるというもの……」
エルバッハの炎の矢が束となり、焼き払った道筋の向こうには十字架の団塊。
慌ててしゅるしゅると射線妨害に押し寄せる触手に、今度はアシェールの複数詠唱が放たれた。桃色に凍てつく槍が凍結させた触手を砕く疾風。
「リカバリの詰めが甘い、お砂糖みたいな雑魔さんですね」
「ねぇ。キスしながら撃てる?」
くすくす。小夜が抱きしめたままの恵に悪戯っぽく提案する。
戒めが緩んだとはいえ胸が苦しい。恵は溜息をつき返答の代わりにキスで返す。
知っているのだ。恵には小夜の誘いを断るなんてできはしないことを。
「右から狙いますね」
「じゃあ私は左だね」
時間稼ぎ中、恵を庇って触手に苛まれた小夜。恵は気付いてないと思ってた。けれど鞭のように強硬手段に出た一枝を素手で受けたのは恵。互いに庇って庇われて同じことを考えていた。だから二重螺旋のように進む二人の心壊とレイターコールドショットは、狙い過たずツリーから雑魔化ミスティルテインを叩き落す。
粉々に粉砕するべきだろう。
堕ちてくる古の剣の成れの果てへ、シオンの一刀両断。更に一閃。また一閃。最後は渾身の力で転がる残骸を爆炎とともに砕いて、そして朽ちて消える有様を最後まで凝視する。
「恥をかかせた報いだ」
「え、と……気にすることないですよ?」
「私に対して、だけではない」
ぽん、と気遣うアシェールの肩を叩くシオンは、やっぱり王子様っぽいなーと思う。
●
さて──
「他にヤバいもの拾ってきてないでしょうね?」
と締め上げられた若者ABCが指差した箱を取り上げてみれば、散逸した戦略物資が詰まっていたのは余談である。
報告を受けたオフィスの受付嬢が、物資に雑魔が混ざる案件事例多発を憂慮して天を仰いだとかなんとか。
「低俗にも程があるだろうッ! 貴様らそれでも歪虚の端くれかッ!?」
不動シオン(ka5395)がわなわなと震えながら睨む先にはもちろん読者諸兄の想像通り、コテージから盛大にはみ出ししゅるしゅると触手を蠢かせたヤドリギが。だが彼女の怒りの矛先はヤドリギそのものにではなく、ソレに絡められている神楽(ka2032)の痴態に向いていた。
「触手には厭な思い出があるっすけど、ここで行かなきゃ男が廃るってモンすよ。大丈夫……っ! 俺の花は未だウテナに咲いてるっすぅ」
──数分前。ぺちぺちと己の頬を叩き奮起した神楽は、俺が先陣を切るっすよー、とばかりに勇ましく触手に向かって吶喊し、そして今──ご想像通りの惨状をコテージ前に曝しているのである。
(触手! 美女! 粘液! そして百合ん百合んキッス! こんなパワーワードが揃っちゃっていいンすか? 倫理問題ないンすかぁ? これはもう俺にシャッターの鬼になれとそゆことっすかー!?)
「……神楽さん。独白のつもりでしょうがダダ洩れです」
事態を観測していたアシェ-ル(ka2983)が思わず突っ込んだが、愛機──三下魔導カメラを構えた神楽のお調子は上昇のまま止まらない。
神楽の吶喊とほぼ時を同じくして、寄り添い触手に絡めとられコテージに消えていった玉兎 小夜(ka6009)と遠藤・恵(ka3940)を追って激写し情報収集するのが神楽の役割であったが、当然、ここで事故発生である。
「我が愛するパルムの加護とこの愛機。カメラマン魂の前に触手なんぞkiss my assっすよ!」
男と歪虚にばかり愛される男、神楽。欲jy……もとい博愛には限りがない男、神楽。吶喊直前の神楽の愛の対象は、股間に突っ込んだパルムであり三下魔導カメラであった。
「むごっ!」
涙目の神楽の上の口には触手によって愛機が捻じ込まれ、パシャッパシャッと印画紙を吐き出している。下の口は触手に巻かれたパルムが攻防を繰り広げているらしいが、一部で実在が噂されるハンターズソサエティ報告書倫理規定要綱──略してソサ倫的配慮により服の下のことなので詳細は不明である。暫くして埒が明かないと感じたらしい触手が、神楽を連れてコテージに消えていくのは、中の若者AかBとかけ合わせてみるつもりだろうか?
「カメラマンと照明さんは探検隊の先に入ると聞いていたのですが……」
神楽と突入セルを組むエルバッハ・リオン(ka2434)が魔法発動の発光待機をやめ、自分も追うべく触手に突っ込んで絡めとられていく。
「幸せなキス……幸せなキス……幸せなキス……」
ぶつぶつエンチャントしているのは自己暗示だろう。時折、実験とか下僕とか勝利のためなら脱ぐとか聞こえるが、やがてコテージ内部に消える。
「エル師匠がんばー!」
両手にパルムと桜妖精をとまらせて、管制はわたくし一人体制になっちゃったなぁと、見送るアシェールが憤慨中のシオンを振り向く。
「くだらん! えぇいこんなもの!」
げしげし地面に散った写真を踏みつけていたシオンは、いきなり真顔になると、アシェールを庇うよう手を引いて「行くぞ」とコテージに向かっていく。
「戦力の逐次投入は悪手。我々も戦力温存を最優先に、中心部目標に到達し集結を急ぐぞ」
凛! と。戦士の面構えでシオンが行く。はい、と答えアシェールが続いて、ふとみればシオンの目に涙の煌き。
芳紀25歳。戦に生き強敵とまみえることが悦びなシオンにとり、口内写生という微妙にセウトな響きの写真は怖気を奮う難敵であったらしい。
●
「うん。流石に当たらないですよね」
……ほぅ。恵はみっしりと雑魔ヤドリギの触手が詰まったコテージ内で、愛用の虹の弓を構えては降ろし溜息をつく。先ほどから何度か中心部に射掛けてはいるが、当然のことながら届く気配などない。迂闊に射掛けまくって中心に届いたとしても、救出対象に流れ矢が当たったら元も子もないし?
「距離なんかすぐそこなのに見えもしないなんて、ちょっと詰まりすぎじゃなではないの?」
ねぇ?
体をずらして困ったような顔で見上げる相手は、一緒に絡めとられた小夜だ。
「ん……恵。抱きなおすから羽織緩めるね」
これで少しは弓が操作しやすいだろう。もぞ……と動いて、小夜は恵を後ろから抱きかかえるように、二人羽織で包みなおす。
キスを拒んでるように感じたのだろう。ヤドリギの触手が批難するように襲いかかったが、小夜が一睨みとともに魔腕を振るう。絡みつきかけた先端が反り、弾かれた実が白い粘液質を飛ばした。
「邪魔しないでくれる? 『争いはならず』なんじゃなかったのかな? 忘れるなよ。事情が事情じゃなかったら、お前らなんかここからでも壊せるんだ」
なんなのこいつら。フンと鼻を鳴らして、一転。甘えるように、甘やかすように、小夜は腕の中の恵に囁く。
「……恵ぃ。キス、してもいい……かな?」
わざと。ゆっくり熱い吐息まじりに擦れ声で、耳にかかるかかからないかの距離で。
「なんです? 小夜……そんな改まっ……」
ぞくぅ──!
ひっ……と悲鳴を上げそうになるのを堪えて、恵は小さく頷くことしかできなかった。耳の後ろにかかる小夜の吐息だけでキスを施された錯覚に陥る。そう。許可なんて要らない。小夜になら、恵となら、二人はキスを拒むことなんてありはしない。
──けれども。
答えはわかっている癖に、意地悪なご主人様みたいに小夜は恵の言葉を封じるように。
(小夜、焦らしながら中心に確実に到達するよう仕向けてる……しかも、私の弓の取り回しまで考えて!)
だから私はこの人が大好きなのだ!
甘い声で肯定の喘ぎを発しかけた恵の唇を、しーっと戒めるように小夜の人差し指が塞ぎ、その後小夜自身の唇に移る。二人だけの秘め事にして間接キス。戦力の集結まで本番はおあずけ。ベッドが見えてきたから、そこで待とう。
火力分散厳禁が作戦だから皆を待つのはほんの少しの時間なのに、きっと永く永く刻は流れるのだろう。恵は胸がつぶれそうな溜息をつく──
ちなみに、このときの小夜の心境は
「役得役得。十字架風味の直下までくれば一捻りだけど、仕事中堂々とイチャこける機会を逃す手はないよ。……あ、これ高級ベッドじゃない。ネトネト我慢して吶喊した甲斐があったよね! ぐへへ☆」
である。
●
ん゛も゛ー!
例えるなら牛の断末魔。そんな不気味な呻きがコテージ中心部、正確にはベッド上に響いている。なにか? 人騒がせな元凶、若者AとBが目を白黒させながら放つ悲鳴にならない悲鳴だ。
そこに新しく、カエルを踏んづけた悲鳴が追加投入された。もちろん小夜と恵の甘美な喘ぎではない。神楽である。
「ぶげぼっ」
三下魔導カメラを口に激しく出し入れされたのち吐き出した神楽に、今度はABの唇が迫る。涙目なのは口腔責めのせいだけではないだろう。このままあえなく男か歪虚とのキス記録を更新してしまうのか。
「待ちなさい! その下僕は私の獲物です」
高らかに、しかし粘液に塗れ触手に絡まれて、エルバッハが次に神楽とキスするのは私だと宣言を放つ。
「エ……エルちゃぁん、来てくれたっすか! 解ってるっす任務の為だって……でも記録更新阻止してもらって俺は……神楽は幸福者っすよー!」
涙と鼻水と粘液塗れの神楽の顔を向けられて、一瞬エルバッハのこめかみが引き攣ったが、更に若者ABとの間接キスが上塗りされるよりマシだと考えたのだろう。
「寄越さないなら私から奪いに行くが宜しいですね?」
大胆なセリフが、絡みつく粘液塗れの触手を払いのけたことで倍増した。バサリと道士風の外套が外れれば、その下には輝くエルバッハの半裸があった。特注ドレス、カプリチョーザ。透ける生地は鋼の強さを保ち、包む肢体を全裸より淫靡に飾る。
「エルちゃん! それ凄いっす大胆すぎるっす!」
ざば!
神楽のシズル感あふれる噴出音と鉄臭に反応したのか。それとも若者ABの呻きに異常を感じたのか。
低いモーター駆動音と共に、切り開かれた触手の壁からシオンとアシェールがコテージ中央にまろび出る。
「……間に合った、か」
息をつくシオンに抱えられたアシェールの感嘆の眼差し。
「はいっ! これでエル師匠のお宝動画見放題……じゃない! 視界と武器取り回し空間確保です。それとAさんかBさんどちらか鼻炎持ちで危険な兆候の呼吸音!」
あとは幸せなキスをして、一気呵成に十字架っていうか偽ミスティルテインまで切り開くですよ。
アシェールが管制を行うが、しかし彼女の視線はエルバッハの肢体に釘付けである。
「師匠……なんて妖艶な……」
周囲の空気に新たな鉄臭さが追加された。
一方のシオンは無様に転がっている若者ABの様子を窺った一瞬の隙に、粘液質に固定され、彼らの口元に運ばれている。
「覚悟? ああ、弱いものを助ける為に汚れに塗れる覚悟はいつだってできているとも」
あれほど嫌悪した強制キス。それを振り切ったのは、アシェールが感知した彼らの生命の危険であり、それを救わんとする己の戦士としての矜持、である。形振りなど構っていられはしない。
唇と唇のインパクトの瞬間。シオンの掌底が白目を剥く若者の胸を打つ。はずみで開いた唇に、瞬間素早く息を吸い込んだシオンの唇が深く重なる。怒りに満ちて荒々しい──しかし、これほど愛に満ちたキスはないだろう。何度も何度も胸を打ち唇から愛の息吹を口移しにして。戦場にしか居場所のないシオンの、不器用な愛──。
「オマエは自力で立ち上がれ。こうだ。ヒッヒッフーヒッヒッフー」
もう一人の若者に、キスの合間を縫って声かける。大丈夫、強い子だろう?
シオン。戦場に生きる心優しき一匹狼。その献身がとったキスとは、もしかしなくても人工呼吸である。
(しゅごい……エル師匠あんなことまでっ!)
アシェールの流血は止まる気配を見せず。桃色オーラが周囲にダダ洩れている。
「ちょ、邪魔しないでくださいよもうっ! えいっえいっ」
煩悩のなせる業か、つんつん突く触手をナイフを握った片手でいなしているあたりが只者ではない。
「あ、あのエルちゃん、胸が当たってるンすけど……」
「当ててるんですが?」
こういうときの定型文的会話を営みながら、舐めるように、咬みつくように、全てを吸い尽くすように、エルバッハは激しいキスを神楽に与えていく。
つぅ──と糸を引いて唇を離し、密着した互いの下肢の違和感に目をやり、困ったような問いかけの顔でエルバッハは神楽を睨む。
「暴れん坊のくせにまだ愛が足りませんか?」
テントのように張り出した神楽の昂ぶり。なのに一向に触手は引かず、この男──神楽の求める幸福への渇望を、エルバッハは奪いつくしてみたい欲に駆られてゆく。もっと過激に? そっと手を添えジッパーを引き下げる。神楽も危ういがソサ輪も危うくオフィス出張所所長は生薬無しでは生きられない体になること必至の状況だ!
「ゃめっ、出……出るな」
焦る神楽の悲鳴とともに──「ぷふぁ!」とボトムの中で神楽の貞操を護っていたパルムが顔を出す。死闘をやりとげた男の顔で周りを見回し、絶句したエルバッハとあちゃーって顔の神楽に気付いて「うきゅ?」と可愛く小首をかしげる。
……。
…………。
「貴方はっ! 魔術研究の下僕としてのっ! 自覚がないのですかっ!?」
ビシバシッ!
折角の自己暗示が丸々無駄になった腹いせに、エルバッハの杖アブルリーが神楽を襲う。鈍器として。
「エルちゃん許して……いやお許しくださいエルさま……あっ」
おい。あっ、って何だ?
「神楽さん目覚めたんですね。神楽さんにとって師匠のキスは王子様のキスだったんですね……」
アシェールがうっとり目を閉じ寝ぼけた台詞を吐いているのは、出血多量による意識錯乱かもしれない。いいなぁ王子様。わたくしも覚醒する時は王子様に起こしてほしいなぁ。
ふぅわり。締め付けていた触手が緩み、多幸感がアシェールの周囲を満たしてゆく。
「おい大丈夫か? 呼吸しろ呼吸!」
気がつけば──
心配そうに息を吹き込んでは覗き込むシオンの顔。
「王子……様?」
「は? いや束縛が解けた。総攻撃だ」
……!! アシェールは慌てて管制にかかる。緩んでもなお分厚く阻む触手を切り開いて、十字架──雑魔化ミスティルテインを撃ち砕かねばならぬ。
●
そこから先は速かった。
「下僕は一般人保護にその身を挺するのです」
「うぃっす! エル様」
エルバッハに蹴りやられた神楽が、緩んでなお若者達に絡み付く触手を戦槍ボロフグイで払い、ブヒりながら彼らに覆いかぶさる。
男同士で庇うのはキモいっすけど、エル様のお役に立てるなら本望っす、ハァハァ。と恍惚し呟く辺り一気に調教が進んだ感がある。
「よろしい。遠慮なくブチまけられるというもの……」
エルバッハの炎の矢が束となり、焼き払った道筋の向こうには十字架の団塊。
慌ててしゅるしゅると射線妨害に押し寄せる触手に、今度はアシェールの複数詠唱が放たれた。桃色に凍てつく槍が凍結させた触手を砕く疾風。
「リカバリの詰めが甘い、お砂糖みたいな雑魔さんですね」
「ねぇ。キスしながら撃てる?」
くすくす。小夜が抱きしめたままの恵に悪戯っぽく提案する。
戒めが緩んだとはいえ胸が苦しい。恵は溜息をつき返答の代わりにキスで返す。
知っているのだ。恵には小夜の誘いを断るなんてできはしないことを。
「右から狙いますね」
「じゃあ私は左だね」
時間稼ぎ中、恵を庇って触手に苛まれた小夜。恵は気付いてないと思ってた。けれど鞭のように強硬手段に出た一枝を素手で受けたのは恵。互いに庇って庇われて同じことを考えていた。だから二重螺旋のように進む二人の心壊とレイターコールドショットは、狙い過たずツリーから雑魔化ミスティルテインを叩き落す。
粉々に粉砕するべきだろう。
堕ちてくる古の剣の成れの果てへ、シオンの一刀両断。更に一閃。また一閃。最後は渾身の力で転がる残骸を爆炎とともに砕いて、そして朽ちて消える有様を最後まで凝視する。
「恥をかかせた報いだ」
「え、と……気にすることないですよ?」
「私に対して、だけではない」
ぽん、と気遣うアシェールの肩を叩くシオンは、やっぱり王子様っぽいなーと思う。
●
さて──
「他にヤバいもの拾ってきてないでしょうね?」
と締め上げられた若者ABCが指差した箱を取り上げてみれば、散逸した戦略物資が詰まっていたのは余談である。
報告を受けたオフィスの受付嬢が、物資に雑魔が混ざる案件事例多発を憂慮して天を仰いだとかなんとか。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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面白かった! | 9人 |
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MVP一覧
- ルル大学魔術師学部教授
エルバッハ・リオン(ka2434)
重体一覧
参加者一覧
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/12/07 13:25:41 |
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ヨゴレ?相談卓 玉兎 小夜(ka6009) 人間(リアルブルー)|17才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2016/12/07 05:13:49 |