ゲスト
(ka0000)
大きな少女と一大決心
マスター:春野紅葉

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/12/09 12:00
- 完成日
- 2016/12/18 19:11
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ある日、ユリアは町の入り口あたりに設置されている椅子に座って空を眺めていた。時刻は午前の4時ごろであろうか。もうすぐしたらいつものユリアなら仕事をすべく家を出ている頃だ。
「誰が……どうして。あんな思いを私はしたくないのに。誰かはあんな生活をしたいって思ってるの……?」
つい最近分かった、自分の故郷で行なわれていた歪虚崇拝が、また行われている。それと同時に、同じ村出身の人たちが頻繁に外に出ているらしい事実。
もしこの町に来なければ、この町の人たちに迷惑を掛けなかったのではないか。信じたいけれど怪しいとしか言えない事実は、不安で仕方がなかった。だから夜が眠れなくなって、自然と外に出てしまう。そのせいで、仕事も身が入らず、ここ数日は休みがちだった。
「うん……やっぱり誰も来ないんだ。やっぱり噂は嘘……だったのかな」
今いる入り口は、普段ユリアが町の外に仕事に行く出入り口とは正反対に位置している。普段使っている道のほうへは、ここ数日を見る限り、村の出身者たちは出入りしていなかった。
誰も来ないことに安堵しつつ、立ち上がろうとしたその時だった。ふと、ユリアは視線の先に人影を見た。人数にして、4人ほどであろうか。1つの目的を目指しているかのようにまっすぐにこちらに歩いてきている。ユリアは思わず椅子の陰に身体を隠した。
「あれは……ツェザールさんと……それに他の人もみんな村の……」
息を殺して4人を待っていると、彼らは町の外へと歩いて行った。放牧の仕事をしているわけでも、外に畑があるわけでもなさそうだった。彼らの装備は仕事をしに行くにしてはどこまでも軽装であり、それでいてどこか襟を正しているような印象を受けた。
一緒に行くべきか、止めておくべきか。ユリアはごくりと唾をのんだ。ただ外に出て行っているだけかもしれない。そんな思いがもたげる。それなら、良い。けれど追った結果、彼らが歪虚を崇拝している現場など見たら、ユリアは冷静でいられる自信がなかった。
落ち着こうと、深呼吸する。ふと様子を見ると、ツェザールが門をくぐって戻ってきていた。彼はそのまま門の縁に体を預けて少したたずむ。すると、やがて一人の男が姿を現した。
見覚えは、ばっちりある。あれは――町長の秘書だ。
「おはようございます。南にある森での進捗のほうはいかがですか?」
「はい。先日、何体か増えているのを見ました。ありがとうございます」
「これからですよ。私どもとしても、あなた方の崇めているアレが増えてくれれば良い」
「秘書さんのおかげで私はもちろん、同志の心も休まります。本当にありがとうございます」
「いいえ。私どもとしてはユリア嬢の首を獲れなかったことは心残りですが。まぁ仕方ありません。大型の眠りを妨げぬよう気を付けながら、獣の遺体を放り込むのです。以前と同じであれば、あれは日中に眠り、夜に動く生き物ですから」
ユリアは息を潜め、じっと小さくなってその会話を聞いていた。秘書の言う大型とは、前に仕留め損ねてしまった例の大型歪虚なのだろうか。
もしそうなら――そうやって敢えて歪虚の下にあんな地下室を作って、雑魔を増やす速度を上げていたのなら、垂れ流される負のマテリアルを地下室に籠らせていたのなら。ぽとりと、雫がひとつ手に落ちてくる。それが涙だと気づいた時、ユリアは嗚咽を必死にこらえようと口をふさぐ。
「ユリアは、我々を必死に導こうとしてくれた子です。もしも討った時は」
「ええ、分かっておりますよ。あなた方のおっしゃっていた通り、大切に地下室に安置してご神体として崇めればよろしい」
「ありがとうございます」
「ぇっ……」
思わず、堪えようとしていた口からそんな声が漏れた。一瞬、何を言っているのか分からなかった。何を言っているのかと聞き直そうと身体が動くのを咄嗟に抑え込む。
「では、行ってらっしゃいませ」
秘書が言うと、ツェザールは礼を言ってどうやら門の外に向けて歩き出したようだった。
「……私を殺す理由は、ご神体にするため……? 私も、あんなのになるの?」
気付いた時にはユリアは吐瀉していた。げほげほと咳き込み、口いっぱいに広がった酸っぱさと虚しいのか悲しいのか怖いのかよく分からない感情を抱えたまま、ふらふらと歩き出す。
●
どうやって家まで帰って来たのか分からなかった。気付いた時には自分の部屋でぼうっと天井を見ていた。何度も吐いたのか、酸っぱい臭いが部屋中に充満し、捨てられている袋にはその痕跡が見受けられる。
「なんで……私。直接感謝された事なんかなかったから知らなかった。でも、なんで? なんで殺さないといけないの?」
震える声で呟くと、再び涙があふれてきた。
「ユリアちゃん……起きましたか?」
小さな悲鳴と共に扉から離れようと自然に体が後ろへ下がって行き、壁にぶつかって壁のひんやりとした冷たさに少し我を取り戻す。
「お母さん……?」
「晩御飯、食べれますか?」
「うっ、うん」
ベッドから降りようとした瞬間、ふらりと身体が倒れた。バシッと言う強い音とともに床に倒れ込む。母の悲鳴混じりの心配そうな声がする。それにか細くなる声で何とか答えて、這うように扉の前まで進む。
「今……行くから」
「……そうですか。悩みでもあるの? お母さんじゃあ力になれないだろうけど、お母さん、お話だけは聞くから」
「ううん。良いの」
扉にもたれかかるようにして言うと、深く息をひとつ吐いて、扉を背で押すようにしてよろよろと立ちあがり、扉を開けた。
扉の先で待っていた母に何とか笑いかけながら、そろそろと扉の外へと足を踏み出した。
●
その日の早朝、ユリアは居並ぶハンター達の前に立っていた。
「皆さん。お願いします。村の人達を説得する――いいえ。止める手伝いをしてください」
そう言ってユリアは頭を下げた。
「追跡は難しくないと思います。ただ、あるのは草原ばかりなので工夫は必要だと思います」
小さな地図を広げて、地図の南方方向を指で指し示しながらユリアは告げる。
「私も、村の人達が本当に歪虚を崇めているなんて思いたくないんです。だから――本当にそうなんだって知るまで、耐えてください」
顔を地図に落としながら、ユリアは縋るように語っていた。少女の目から一筋の涙がこぼれて地図に落ちる。
ある日、ユリアは町の入り口あたりに設置されている椅子に座って空を眺めていた。時刻は午前の4時ごろであろうか。もうすぐしたらいつものユリアなら仕事をすべく家を出ている頃だ。
「誰が……どうして。あんな思いを私はしたくないのに。誰かはあんな生活をしたいって思ってるの……?」
つい最近分かった、自分の故郷で行なわれていた歪虚崇拝が、また行われている。それと同時に、同じ村出身の人たちが頻繁に外に出ているらしい事実。
もしこの町に来なければ、この町の人たちに迷惑を掛けなかったのではないか。信じたいけれど怪しいとしか言えない事実は、不安で仕方がなかった。だから夜が眠れなくなって、自然と外に出てしまう。そのせいで、仕事も身が入らず、ここ数日は休みがちだった。
「うん……やっぱり誰も来ないんだ。やっぱり噂は嘘……だったのかな」
今いる入り口は、普段ユリアが町の外に仕事に行く出入り口とは正反対に位置している。普段使っている道のほうへは、ここ数日を見る限り、村の出身者たちは出入りしていなかった。
誰も来ないことに安堵しつつ、立ち上がろうとしたその時だった。ふと、ユリアは視線の先に人影を見た。人数にして、4人ほどであろうか。1つの目的を目指しているかのようにまっすぐにこちらに歩いてきている。ユリアは思わず椅子の陰に身体を隠した。
「あれは……ツェザールさんと……それに他の人もみんな村の……」
息を殺して4人を待っていると、彼らは町の外へと歩いて行った。放牧の仕事をしているわけでも、外に畑があるわけでもなさそうだった。彼らの装備は仕事をしに行くにしてはどこまでも軽装であり、それでいてどこか襟を正しているような印象を受けた。
一緒に行くべきか、止めておくべきか。ユリアはごくりと唾をのんだ。ただ外に出て行っているだけかもしれない。そんな思いがもたげる。それなら、良い。けれど追った結果、彼らが歪虚を崇拝している現場など見たら、ユリアは冷静でいられる自信がなかった。
落ち着こうと、深呼吸する。ふと様子を見ると、ツェザールが門をくぐって戻ってきていた。彼はそのまま門の縁に体を預けて少したたずむ。すると、やがて一人の男が姿を現した。
見覚えは、ばっちりある。あれは――町長の秘書だ。
「おはようございます。南にある森での進捗のほうはいかがですか?」
「はい。先日、何体か増えているのを見ました。ありがとうございます」
「これからですよ。私どもとしても、あなた方の崇めているアレが増えてくれれば良い」
「秘書さんのおかげで私はもちろん、同志の心も休まります。本当にありがとうございます」
「いいえ。私どもとしてはユリア嬢の首を獲れなかったことは心残りですが。まぁ仕方ありません。大型の眠りを妨げぬよう気を付けながら、獣の遺体を放り込むのです。以前と同じであれば、あれは日中に眠り、夜に動く生き物ですから」
ユリアは息を潜め、じっと小さくなってその会話を聞いていた。秘書の言う大型とは、前に仕留め損ねてしまった例の大型歪虚なのだろうか。
もしそうなら――そうやって敢えて歪虚の下にあんな地下室を作って、雑魔を増やす速度を上げていたのなら、垂れ流される負のマテリアルを地下室に籠らせていたのなら。ぽとりと、雫がひとつ手に落ちてくる。それが涙だと気づいた時、ユリアは嗚咽を必死にこらえようと口をふさぐ。
「ユリアは、我々を必死に導こうとしてくれた子です。もしも討った時は」
「ええ、分かっておりますよ。あなた方のおっしゃっていた通り、大切に地下室に安置してご神体として崇めればよろしい」
「ありがとうございます」
「ぇっ……」
思わず、堪えようとしていた口からそんな声が漏れた。一瞬、何を言っているのか分からなかった。何を言っているのかと聞き直そうと身体が動くのを咄嗟に抑え込む。
「では、行ってらっしゃいませ」
秘書が言うと、ツェザールは礼を言ってどうやら門の外に向けて歩き出したようだった。
「……私を殺す理由は、ご神体にするため……? 私も、あんなのになるの?」
気付いた時にはユリアは吐瀉していた。げほげほと咳き込み、口いっぱいに広がった酸っぱさと虚しいのか悲しいのか怖いのかよく分からない感情を抱えたまま、ふらふらと歩き出す。
●
どうやって家まで帰って来たのか分からなかった。気付いた時には自分の部屋でぼうっと天井を見ていた。何度も吐いたのか、酸っぱい臭いが部屋中に充満し、捨てられている袋にはその痕跡が見受けられる。
「なんで……私。直接感謝された事なんかなかったから知らなかった。でも、なんで? なんで殺さないといけないの?」
震える声で呟くと、再び涙があふれてきた。
「ユリアちゃん……起きましたか?」
小さな悲鳴と共に扉から離れようと自然に体が後ろへ下がって行き、壁にぶつかって壁のひんやりとした冷たさに少し我を取り戻す。
「お母さん……?」
「晩御飯、食べれますか?」
「うっ、うん」
ベッドから降りようとした瞬間、ふらりと身体が倒れた。バシッと言う強い音とともに床に倒れ込む。母の悲鳴混じりの心配そうな声がする。それにか細くなる声で何とか答えて、這うように扉の前まで進む。
「今……行くから」
「……そうですか。悩みでもあるの? お母さんじゃあ力になれないだろうけど、お母さん、お話だけは聞くから」
「ううん。良いの」
扉にもたれかかるようにして言うと、深く息をひとつ吐いて、扉を背で押すようにしてよろよろと立ちあがり、扉を開けた。
扉の先で待っていた母に何とか笑いかけながら、そろそろと扉の外へと足を踏み出した。
●
その日の早朝、ユリアは居並ぶハンター達の前に立っていた。
「皆さん。お願いします。村の人達を説得する――いいえ。止める手伝いをしてください」
そう言ってユリアは頭を下げた。
「追跡は難しくないと思います。ただ、あるのは草原ばかりなので工夫は必要だと思います」
小さな地図を広げて、地図の南方方向を指で指し示しながらユリアは告げる。
「私も、村の人達が本当に歪虚を崇めているなんて思いたくないんです。だから――本当にそうなんだって知るまで、耐えてください」
顔を地図に落としながら、ユリアは縋るように語っていた。少女の目から一筋の涙がこぼれて地図に落ちる。
リプレイ本文
●始まりの夜に
時刻にして午後8時。ハンターオフィスの一角に8人はいた。丸テーブルを囲うようにして立ち、上には周辺を含めた大雑把な地図が広げられている。
「貴女は明け方に他の人が外に行くのに気付いたのよね? つまりその時間以降は歪虚が活動せず襲われなくなる時間帯だと思うのよ。」
そう語るのはマリィア・バルデス(ka5848)である。緑色の双眸をやや細めてそう言う彼女は、ユリアに向けて森のある周辺に行ったことはあるかと問いかけていた。
「歪虚に襲われる可能性があっても先行した方が、大勢で一度に移動するよりは見つかり難いかと思うのだけれど。逆側の入り口から出て森に行けるとしたらどれくらいかかるかしら?」
「……おそらく普通に出るより2時間くらいかかると思います」
「それなら私は先に出発して、あなたが村人に気付いた時刻の1時間前ぐらいに着くように調整しながら移動しようと思うわ」
マリィアは言うと地図へと視線を落とし、ルートの確認を始めた。
「うちらに言いに来れたのが幸いだよ」
笑いながら言うのは猪川 來鬼(ka6539)だ。彼女はユリアをじっと見ると、やがて何かお願いでもするように目をやわらげる。
「聞きたいことがあるのだけど良い? 言える範囲で全然構わないの」
「はい! 私が分かる事なら」
そうユリアが言うと特徴的な頭をした鬼の男、銀(ka6662)がユリアの方へ向いて問いかける。
「なら聞きたいんだが、以前にもこういうことがあったらしいが、その際、宣教師のような歪虚崇拝のきっかけとなるような人物はいなかったか?」
「分かりません。村にいたときの人ならいるのかもしれませんけど知りません。ごめんなさい」
「なら、実際にこの件に未だにかかわってる人間はどれくらい残ってるんだ?」
「ごめんなさい。それもわかりません。私の見た限りでは4人でしたけど、それ以上いるのかはまでは……」
「ならその4人の中でユリアの名前で呼び出せそうな村民はいるか?」
「……たぶん、いると思います」
「ならそいつを呼び出してくれ。そのあとあんたは全力で逃げてくれればいい」
「はっ、はい」
「それで、歪虚崇拝って実際はどんなものなの?」
銀に不安げに頷いていたユリアに向けて、優しい笑みを浮かべた來鬼が問い掛ける。
「スケルトンやゾンビみたいな亡くなった方の身体をそのまま動かしているような歪虚を崇拝する物……でした。一度死に、不死を得て蘇る、それこそが救世主である……みたいなことでした」
「そう……」
やや俯きなりながら語るユリアに対して、來鬼はもう1つ聞きたいけどと言って優しく笑いながら問いを続けた。
「ご神体っていうのはどういうことなのかな?」
「ご神体は……ただの遺体です。それ以上もそれ以下もありません。昔は知り合いや血族にご神体になる人を殺させることで罪悪感と恐怖を植え付けることにしようとしてましたけど、もしかしたらあの人達にはあの人達で別の意味合いがあるのかも……しれません」
「無理に聞いちゃってごめんね」
穏やかに慰めるように言って、來鬼は笑う。
「い、いえ」
「それじゃあ、明日から始めましょう。私は先行するからその日には出立して、その日は野営するわ。ユリアが以前に村人たちを見つけたって時刻の1時間ほど前に到着しておく。どうかしら?」
マリィアの提案に、否定の意見は出なかった。その後、他の面々がどう動くか、詳細な話し合いが行われ、その日は一度、解散となった。各々がその場から立ち去る中、火艶 静 (ka5731)はユリアの下へと歩み寄っていた。
「ユリアちゃん……」
「はい……」
「村の人達はあの”異常”な村の在りようが日常として続きすぎて、あれが”普通”になってしまい、平穏な日常という世界への変化についてこれなかったのかもしれません……」
少し項垂れるようにして椅子に座っているユリアの隣に寄り添って、その手を取り、出来る限り優しい声で静はユリアに話しかけていく。
「そんな人達だから、自分達の価値観の中でしか感謝を示すことが出来なかったのでしょう。例え、それが感謝される立場にとって、どんなに苦しいこと、悲しいことであっても……感謝する側にしてみれば、光栄なことだったのでしょうから……」
だからと、そこで一度、呼吸をして、ユリアの眼を見つめた。
「だから、村の人達に平穏な暮らしを……と奔走した想いと行動を悔やんだりしないでくださいね」
「……はい。ありがとうございます。ちょっとだけ、元気が出ました」
疲れた様子を見せながらも顔を上げてユリアが頷くのを見て、静はそっと笑み、優しく抱き寄せた。
●追走前日
翌日、他のハンター達に先行する形でマリィアが出立したのとほぼ同時刻、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は、ユリアが以前に村人を見つけた時間よりも早くに目撃した場所の付近で隠れる場所を見つけて息を潜めていた。
またやっているのかという思いと、その行為を見逃せぬという気持ちでじっと待ち続けるアルトの横では、ロニ・カルディス(ka0551)がじっとその時を待っていた。
どれくらい経っただろうか。やがて白んできた空の下、4人の男が現れた。
4人ともきびきびとした或いは気持ちがいいしっかりと足取りである。
「あれか……まさか、本当にこんなことが行なわれているとは……過ちを悟らせるのも信徒の務めだな」
双眼鏡でその5人を見たロニがぽつりと呟く。4人の写真をアルトが抑えたところで、もう一人、違う男がどこからか現れる。身なりの良いその男が、恐らくはこの町の町長秘書であろう。
気配を消して周辺に紛れるアルトであれば、その場面を写真に抑えて置くことに造作もなかった。数枚の写真を撮り、秘書と村人がその場を後にするのを待って、2人は一旦その場を後にした。
星野 ハナ(ka5852)はユリアを町の中にある喫茶店の1つに呼んでいた。
「ユリアちゃん……唐突かなぁとは私も思いますけどぉ、私の妹になりますぅ?」
「妹……ですか?」
不思議そうに首をかしげるユリアの前にいるハナの表情は優しい笑みを浮かべている。
「ユリアちゃんが今回のことでお母さんと向き合って一緒に居られないと思ったらぁ、わたしと一緒に暮らしませんかぁ? 私はハンターとして飛びまわってるから居ない夜もありますけどぉ、うちは動物いっぱいいるから寂しくないんじゃないかと思いますぅ。私、結構腕のいい方なのでぇ、お金の心配は全然いらないですよぉ?」
「ありがとうございます」
零すように、ユリアは笑った。何処かまだぎこちないようにもみえるが、ハナはそっと立ち上がってユリアを優しく抱きしめ、ポンポンと背中を優しく叩く。
「私ね、頑張った子が寂しくなるのは嫌なんですよぅ。頑張った分幸せになってほしいんですぅ。そのためにハンターやってるんですぅ。……ユリアちゃんの居場所はあるから、いつでも来ていいからね?」
出来る限り優しくハナが語り掛けていると、ユリアの声が何かに耐えるようなソレになっていく。
「……ありがとうございます。でも私、私なりに頑張ってきたから。もう少し頑張ってみます」
「そうですかぁ……」
ぎこちなく笑いながらも、力強く言い切ったユリアを見ながら、ハナは微笑みを浮かべた。
●決行の日
それから更に翌日、銀は來鬼と共にユリアを連れて町の一角にいた。ひっそりと息を潜めて待っていると、公園で一人佇むユリアの所へ、男が一人、近づいて行く。
年の頃はユリアよりやや年上と言った所だろうか。少し警戒しているように見える男と話しているユリアを見て、銀は物陰から躍り出ると、男を來鬼と共に囲い込む。
「ユリアは逃げろ」
「はっ、はい」
驚いたようなユリアの声と、足音を感じながら、銀は敢えてにぃっと笑った。男を素早く縛り上げ、建物同士の影へと連れ込むと縛り上げた男を無理矢理に座らせ、鉄パイプを片手に笑む。
「うちらはとっても聞きたい事があるの」
すぐ隣にいる來鬼が悪い笑みを浮かべてしゃがみ、男の瞳に目を合わせていた。
「なんですか!何で縛るんですか!」
「歪虚崇拝とは物騒物騒。生贄なんぞで救われるかぁ? 救われないから凝りもせず生贄に捧げてるんじゃねーの?」
カンカンと音を立ててパイプで地面を叩きながら音を当てて男の周りを周回しながら、足を軽く叩いて行く。怯えた様子を見せる男を見て、銀は楽しそうに笑う。
「本当はしたくないが、言ってくれないなら実力行使も仕方ないな。うん、仕方ない仕方ない」
ひときわ大きく音を立てて地面を殴ると、男が悲鳴を上げた。
「分かった! 言うから! 助けてくれ!!」
「なら聞くが、崇拝者の名前を教えろ」
男は銀の言葉に少し逡巡するが、銀が男の足を叩いてみせると、震えながら自分を含む4人の名前を漏らしていく。
「それで、ご神体ってどんな物なのかな?」
「へっ?」
「ユリアちゃんをご神体にするって話なんだよね?」
「なんですかそれは?」
驚愕に揺れる双眸で男が言う。その様子にはどうにも嘘は見受けられなかった。來鬼が銀から借りたトランシーバーで得た情報を他の面々に伝えていく。
●追走と追想と
ロニとアルト、それに静とアナの4人は、トランシーバーから受け取った情報を共有すると、昨日のアルトとロニが撮った写真から一人減り、3人になった男を物陰から見据えていた。
男達は門の前で少しの間、何かを相談した後、やがて門の外へと消えていく。ちょうど彼らの姿が消えた時、ユリアが後ろから4人に合流する。
「大丈夫ですか?」
汗ばむユリアに静が問いかける。ユリアが息を整えるように深呼吸をして頷くと、5人は目で合図を出し、門の外へと歩み始める。門を出た後すぐ、アルトは妖精を空に上げた。もしも見失った時のためである。
周囲には低い草しかなく、見晴らしも抜群だった。5人は各々の用意してきた方法を以って自らの身体を隠しながら、恐る恐る歩み出す。
幾度か村人が振り返り、それをやり過ごすという事を続けていると、やがて森が姿を現した。村人たちは迷うことなくその森の中へと入って行く。森の入り口にあと数歩と言ったところで、不意にトランシーバーから声がした。
「後続はなさそうよ。そのまま進んでいて……合流する」
先行していたマリィアの声。ロニがそれに了承する言葉を紡ぐと、5人はいよいよ森の中へと足を踏み入れた。
「森の中に入りましたし、もう少し近づいて追った方が良いわよね?」
木の上から降りてきたマリィアの提案に応じる形で、メンバーがやや足早に歩きだそうとした時だった。森の奥から、獣の遠吠えが聞こえてくる。ハッとして走り出した先、そこにあったのは、地面に開いた長方形の穴だった。
「以前に見た地下室への入り口と似た物ですね……この奥に祭壇か何かがあるのでしょう」
静が口を開く。穴の奥から聞こえてくる、獣の声と男の怒号のような物。頷き合い、中へと入って行くと、声の理由はすぐに見えてきた。
「酷い……」
そう漏らしたのは誰だっただろうか。視線の先、各々の獲物を手に、狩猟用の罠にかかった狼に襲い掛かる3人の男は、その声に気づいて顔を上げる。
「……やはりばれてしまいましたか」
「ツェザールさん……なにをしてるんですか?」
ユリアが言うと、男は不思議そうに口を開いた
「何って……新しい私達の守護をして下さる方を作っているのですよ」
「なぜこんなことをしているのかな?」
アルトがそう問いかけながらも、動けば捕縛出来るようワイヤーを握った。
「……そう焦らずとも。もう抵抗する気はありません。大方、もう一人の同志はそちらの手の内なのでしょう」
男から漏れるのは、もう疲れた、そう言わんばかりのやつれた声であった。
「ちょっと待ってくれ! それじゃあ話が違う! それなら俺は逃げさせてもらうぞ!」
いきり立つように言うのは30代と思しき男だ。男は狼の首元を突いている銛のような引き抜くと、一番前にいたロニの方へと走り出す。雄叫びを上げる男をロニは軽くかわすと、すぐさま縛り上げた。
「さぁ、きりきり吐いて貰いましょぉかぁ」
いつもの笑顔に少し威圧を籠めて語るハナに残り2人の男はすぐに跪いた。
「どうして歪虚を崇拝するんだ? 歪虚に過度な期待をするものではない。話を聞かせてもらおうか」
ロニが詰め寄るのに始まり、他の面々も3人を囲うようにして尋問を開始する。
「歪虚を作るという事は、間接的に人殺しをしているのと変わらない。いつ自分や大切な人に牙をむくか分からないんだぞ?」
続けて言うアルトの言葉に、ツェザールと先程ユリアが呼んでいた男は、どこまでも不思議そうに眼を開いて首をかしげた。
「何をおっしゃるんですか。最初に……私の祖父を殺してご神体としたあの日から、私はずっとそうです。この30年。私はそうやって生きてきたのですよ」
そこまで言うと、ツェザールは少し疲れた様子を見せながら首を振って、ちらりとユリアを見る。
「ユリアさん……あなたはやはり変わる方を選ぶんだね。私達は無理です。あなたとは違う。私達は――もう何年もそうやって生きてきた。そちら側からすれば、私達は悪でしょう。私が崇めた者はあってはならないモノでしょう。私だってここまで来るのに、それぐらいは知りました」
そこで再び口を閉ざし、少しだけツェザールは目を閉じた。
「けれど、私はそうやって30年生きてきた。私にはそれが正しい事だ。あなた達に、私の人生の全てを否定するようなことを言われる筋合いはない!!」
ここに来て叫ぶように大きな声でツェザールは言い放った。真っ直ぐに言って、視線を上げる。一切の迷いも何もない瞳。ようやくハンター達は理解した。説得も何もない。彼、彼らの価値観と、自分達のソレはあまりにも違い過ぎる。
「……私がやってきたことは、迷惑だったってことですか?」
震える声で、ユリアが言って、ふらつきながらツェザールの前に出ると、崩れるように膝立ちになる。
「……さぁ、どうだろう。私は何も言うつもりはないよ」
それだけ言うと、ツェザールは視線を落とす。最早なにも語るつもりはなさそうだった。その後、ハンター達は縛り上げた3人を連れて、地下室の状況をまとめ、その場所を後にした。
●終結の刻
町に残って秘書を探っていた銀の眼に、その集団は現れた。
「……見た限り、帝国軍の制服みたいだよね」
隣にいる來鬼の言葉に頷く。10人ほどで構成された帝国の制服を着た集団が町長屋敷に入って行くと、やがてすぐに町長屋敷から喧騒が聞こえてきた。やがて、町長屋敷から出てきた10人の集団は、円陣を描くような中に、町長とその秘書を囲っていた。
「なんだ?」
銀が横を見ると、來鬼も不思議そうに去りゆく集団を見ているだけだった。
時刻にして午後8時。ハンターオフィスの一角に8人はいた。丸テーブルを囲うようにして立ち、上には周辺を含めた大雑把な地図が広げられている。
「貴女は明け方に他の人が外に行くのに気付いたのよね? つまりその時間以降は歪虚が活動せず襲われなくなる時間帯だと思うのよ。」
そう語るのはマリィア・バルデス(ka5848)である。緑色の双眸をやや細めてそう言う彼女は、ユリアに向けて森のある周辺に行ったことはあるかと問いかけていた。
「歪虚に襲われる可能性があっても先行した方が、大勢で一度に移動するよりは見つかり難いかと思うのだけれど。逆側の入り口から出て森に行けるとしたらどれくらいかかるかしら?」
「……おそらく普通に出るより2時間くらいかかると思います」
「それなら私は先に出発して、あなたが村人に気付いた時刻の1時間前ぐらいに着くように調整しながら移動しようと思うわ」
マリィアは言うと地図へと視線を落とし、ルートの確認を始めた。
「うちらに言いに来れたのが幸いだよ」
笑いながら言うのは猪川 來鬼(ka6539)だ。彼女はユリアをじっと見ると、やがて何かお願いでもするように目をやわらげる。
「聞きたいことがあるのだけど良い? 言える範囲で全然構わないの」
「はい! 私が分かる事なら」
そうユリアが言うと特徴的な頭をした鬼の男、銀(ka6662)がユリアの方へ向いて問いかける。
「なら聞きたいんだが、以前にもこういうことがあったらしいが、その際、宣教師のような歪虚崇拝のきっかけとなるような人物はいなかったか?」
「分かりません。村にいたときの人ならいるのかもしれませんけど知りません。ごめんなさい」
「なら、実際にこの件に未だにかかわってる人間はどれくらい残ってるんだ?」
「ごめんなさい。それもわかりません。私の見た限りでは4人でしたけど、それ以上いるのかはまでは……」
「ならその4人の中でユリアの名前で呼び出せそうな村民はいるか?」
「……たぶん、いると思います」
「ならそいつを呼び出してくれ。そのあとあんたは全力で逃げてくれればいい」
「はっ、はい」
「それで、歪虚崇拝って実際はどんなものなの?」
銀に不安げに頷いていたユリアに向けて、優しい笑みを浮かべた來鬼が問い掛ける。
「スケルトンやゾンビみたいな亡くなった方の身体をそのまま動かしているような歪虚を崇拝する物……でした。一度死に、不死を得て蘇る、それこそが救世主である……みたいなことでした」
「そう……」
やや俯きなりながら語るユリアに対して、來鬼はもう1つ聞きたいけどと言って優しく笑いながら問いを続けた。
「ご神体っていうのはどういうことなのかな?」
「ご神体は……ただの遺体です。それ以上もそれ以下もありません。昔は知り合いや血族にご神体になる人を殺させることで罪悪感と恐怖を植え付けることにしようとしてましたけど、もしかしたらあの人達にはあの人達で別の意味合いがあるのかも……しれません」
「無理に聞いちゃってごめんね」
穏やかに慰めるように言って、來鬼は笑う。
「い、いえ」
「それじゃあ、明日から始めましょう。私は先行するからその日には出立して、その日は野営するわ。ユリアが以前に村人たちを見つけたって時刻の1時間ほど前に到着しておく。どうかしら?」
マリィアの提案に、否定の意見は出なかった。その後、他の面々がどう動くか、詳細な話し合いが行われ、その日は一度、解散となった。各々がその場から立ち去る中、火艶 静 (ka5731)はユリアの下へと歩み寄っていた。
「ユリアちゃん……」
「はい……」
「村の人達はあの”異常”な村の在りようが日常として続きすぎて、あれが”普通”になってしまい、平穏な日常という世界への変化についてこれなかったのかもしれません……」
少し項垂れるようにして椅子に座っているユリアの隣に寄り添って、その手を取り、出来る限り優しい声で静はユリアに話しかけていく。
「そんな人達だから、自分達の価値観の中でしか感謝を示すことが出来なかったのでしょう。例え、それが感謝される立場にとって、どんなに苦しいこと、悲しいことであっても……感謝する側にしてみれば、光栄なことだったのでしょうから……」
だからと、そこで一度、呼吸をして、ユリアの眼を見つめた。
「だから、村の人達に平穏な暮らしを……と奔走した想いと行動を悔やんだりしないでくださいね」
「……はい。ありがとうございます。ちょっとだけ、元気が出ました」
疲れた様子を見せながらも顔を上げてユリアが頷くのを見て、静はそっと笑み、優しく抱き寄せた。
●追走前日
翌日、他のハンター達に先行する形でマリィアが出立したのとほぼ同時刻、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は、ユリアが以前に村人を見つけた時間よりも早くに目撃した場所の付近で隠れる場所を見つけて息を潜めていた。
またやっているのかという思いと、その行為を見逃せぬという気持ちでじっと待ち続けるアルトの横では、ロニ・カルディス(ka0551)がじっとその時を待っていた。
どれくらい経っただろうか。やがて白んできた空の下、4人の男が現れた。
4人ともきびきびとした或いは気持ちがいいしっかりと足取りである。
「あれか……まさか、本当にこんなことが行なわれているとは……過ちを悟らせるのも信徒の務めだな」
双眼鏡でその5人を見たロニがぽつりと呟く。4人の写真をアルトが抑えたところで、もう一人、違う男がどこからか現れる。身なりの良いその男が、恐らくはこの町の町長秘書であろう。
気配を消して周辺に紛れるアルトであれば、その場面を写真に抑えて置くことに造作もなかった。数枚の写真を撮り、秘書と村人がその場を後にするのを待って、2人は一旦その場を後にした。
星野 ハナ(ka5852)はユリアを町の中にある喫茶店の1つに呼んでいた。
「ユリアちゃん……唐突かなぁとは私も思いますけどぉ、私の妹になりますぅ?」
「妹……ですか?」
不思議そうに首をかしげるユリアの前にいるハナの表情は優しい笑みを浮かべている。
「ユリアちゃんが今回のことでお母さんと向き合って一緒に居られないと思ったらぁ、わたしと一緒に暮らしませんかぁ? 私はハンターとして飛びまわってるから居ない夜もありますけどぉ、うちは動物いっぱいいるから寂しくないんじゃないかと思いますぅ。私、結構腕のいい方なのでぇ、お金の心配は全然いらないですよぉ?」
「ありがとうございます」
零すように、ユリアは笑った。何処かまだぎこちないようにもみえるが、ハナはそっと立ち上がってユリアを優しく抱きしめ、ポンポンと背中を優しく叩く。
「私ね、頑張った子が寂しくなるのは嫌なんですよぅ。頑張った分幸せになってほしいんですぅ。そのためにハンターやってるんですぅ。……ユリアちゃんの居場所はあるから、いつでも来ていいからね?」
出来る限り優しくハナが語り掛けていると、ユリアの声が何かに耐えるようなソレになっていく。
「……ありがとうございます。でも私、私なりに頑張ってきたから。もう少し頑張ってみます」
「そうですかぁ……」
ぎこちなく笑いながらも、力強く言い切ったユリアを見ながら、ハナは微笑みを浮かべた。
●決行の日
それから更に翌日、銀は來鬼と共にユリアを連れて町の一角にいた。ひっそりと息を潜めて待っていると、公園で一人佇むユリアの所へ、男が一人、近づいて行く。
年の頃はユリアよりやや年上と言った所だろうか。少し警戒しているように見える男と話しているユリアを見て、銀は物陰から躍り出ると、男を來鬼と共に囲い込む。
「ユリアは逃げろ」
「はっ、はい」
驚いたようなユリアの声と、足音を感じながら、銀は敢えてにぃっと笑った。男を素早く縛り上げ、建物同士の影へと連れ込むと縛り上げた男を無理矢理に座らせ、鉄パイプを片手に笑む。
「うちらはとっても聞きたい事があるの」
すぐ隣にいる來鬼が悪い笑みを浮かべてしゃがみ、男の瞳に目を合わせていた。
「なんですか!何で縛るんですか!」
「歪虚崇拝とは物騒物騒。生贄なんぞで救われるかぁ? 救われないから凝りもせず生贄に捧げてるんじゃねーの?」
カンカンと音を立ててパイプで地面を叩きながら音を当てて男の周りを周回しながら、足を軽く叩いて行く。怯えた様子を見せる男を見て、銀は楽しそうに笑う。
「本当はしたくないが、言ってくれないなら実力行使も仕方ないな。うん、仕方ない仕方ない」
ひときわ大きく音を立てて地面を殴ると、男が悲鳴を上げた。
「分かった! 言うから! 助けてくれ!!」
「なら聞くが、崇拝者の名前を教えろ」
男は銀の言葉に少し逡巡するが、銀が男の足を叩いてみせると、震えながら自分を含む4人の名前を漏らしていく。
「それで、ご神体ってどんな物なのかな?」
「へっ?」
「ユリアちゃんをご神体にするって話なんだよね?」
「なんですかそれは?」
驚愕に揺れる双眸で男が言う。その様子にはどうにも嘘は見受けられなかった。來鬼が銀から借りたトランシーバーで得た情報を他の面々に伝えていく。
●追走と追想と
ロニとアルト、それに静とアナの4人は、トランシーバーから受け取った情報を共有すると、昨日のアルトとロニが撮った写真から一人減り、3人になった男を物陰から見据えていた。
男達は門の前で少しの間、何かを相談した後、やがて門の外へと消えていく。ちょうど彼らの姿が消えた時、ユリアが後ろから4人に合流する。
「大丈夫ですか?」
汗ばむユリアに静が問いかける。ユリアが息を整えるように深呼吸をして頷くと、5人は目で合図を出し、門の外へと歩み始める。門を出た後すぐ、アルトは妖精を空に上げた。もしも見失った時のためである。
周囲には低い草しかなく、見晴らしも抜群だった。5人は各々の用意してきた方法を以って自らの身体を隠しながら、恐る恐る歩み出す。
幾度か村人が振り返り、それをやり過ごすという事を続けていると、やがて森が姿を現した。村人たちは迷うことなくその森の中へと入って行く。森の入り口にあと数歩と言ったところで、不意にトランシーバーから声がした。
「後続はなさそうよ。そのまま進んでいて……合流する」
先行していたマリィアの声。ロニがそれに了承する言葉を紡ぐと、5人はいよいよ森の中へと足を踏み入れた。
「森の中に入りましたし、もう少し近づいて追った方が良いわよね?」
木の上から降りてきたマリィアの提案に応じる形で、メンバーがやや足早に歩きだそうとした時だった。森の奥から、獣の遠吠えが聞こえてくる。ハッとして走り出した先、そこにあったのは、地面に開いた長方形の穴だった。
「以前に見た地下室への入り口と似た物ですね……この奥に祭壇か何かがあるのでしょう」
静が口を開く。穴の奥から聞こえてくる、獣の声と男の怒号のような物。頷き合い、中へと入って行くと、声の理由はすぐに見えてきた。
「酷い……」
そう漏らしたのは誰だっただろうか。視線の先、各々の獲物を手に、狩猟用の罠にかかった狼に襲い掛かる3人の男は、その声に気づいて顔を上げる。
「……やはりばれてしまいましたか」
「ツェザールさん……なにをしてるんですか?」
ユリアが言うと、男は不思議そうに口を開いた
「何って……新しい私達の守護をして下さる方を作っているのですよ」
「なぜこんなことをしているのかな?」
アルトがそう問いかけながらも、動けば捕縛出来るようワイヤーを握った。
「……そう焦らずとも。もう抵抗する気はありません。大方、もう一人の同志はそちらの手の内なのでしょう」
男から漏れるのは、もう疲れた、そう言わんばかりのやつれた声であった。
「ちょっと待ってくれ! それじゃあ話が違う! それなら俺は逃げさせてもらうぞ!」
いきり立つように言うのは30代と思しき男だ。男は狼の首元を突いている銛のような引き抜くと、一番前にいたロニの方へと走り出す。雄叫びを上げる男をロニは軽くかわすと、すぐさま縛り上げた。
「さぁ、きりきり吐いて貰いましょぉかぁ」
いつもの笑顔に少し威圧を籠めて語るハナに残り2人の男はすぐに跪いた。
「どうして歪虚を崇拝するんだ? 歪虚に過度な期待をするものではない。話を聞かせてもらおうか」
ロニが詰め寄るのに始まり、他の面々も3人を囲うようにして尋問を開始する。
「歪虚を作るという事は、間接的に人殺しをしているのと変わらない。いつ自分や大切な人に牙をむくか分からないんだぞ?」
続けて言うアルトの言葉に、ツェザールと先程ユリアが呼んでいた男は、どこまでも不思議そうに眼を開いて首をかしげた。
「何をおっしゃるんですか。最初に……私の祖父を殺してご神体としたあの日から、私はずっとそうです。この30年。私はそうやって生きてきたのですよ」
そこまで言うと、ツェザールは少し疲れた様子を見せながら首を振って、ちらりとユリアを見る。
「ユリアさん……あなたはやはり変わる方を選ぶんだね。私達は無理です。あなたとは違う。私達は――もう何年もそうやって生きてきた。そちら側からすれば、私達は悪でしょう。私が崇めた者はあってはならないモノでしょう。私だってここまで来るのに、それぐらいは知りました」
そこで再び口を閉ざし、少しだけツェザールは目を閉じた。
「けれど、私はそうやって30年生きてきた。私にはそれが正しい事だ。あなた達に、私の人生の全てを否定するようなことを言われる筋合いはない!!」
ここに来て叫ぶように大きな声でツェザールは言い放った。真っ直ぐに言って、視線を上げる。一切の迷いも何もない瞳。ようやくハンター達は理解した。説得も何もない。彼、彼らの価値観と、自分達のソレはあまりにも違い過ぎる。
「……私がやってきたことは、迷惑だったってことですか?」
震える声で、ユリアが言って、ふらつきながらツェザールの前に出ると、崩れるように膝立ちになる。
「……さぁ、どうだろう。私は何も言うつもりはないよ」
それだけ言うと、ツェザールは視線を落とす。最早なにも語るつもりはなさそうだった。その後、ハンター達は縛り上げた3人を連れて、地下室の状況をまとめ、その場所を後にした。
●終結の刻
町に残って秘書を探っていた銀の眼に、その集団は現れた。
「……見た限り、帝国軍の制服みたいだよね」
隣にいる來鬼の言葉に頷く。10人ほどで構成された帝国の制服を着た集団が町長屋敷に入って行くと、やがてすぐに町長屋敷から喧騒が聞こえてきた。やがて、町長屋敷から出てきた10人の集団は、円陣を描くような中に、町長とその秘書を囲っていた。
「なんだ?」
銀が横を見ると、來鬼も不思議そうに去りゆく集団を見ているだけだった。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/12/08 19:06:56 |
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作戦相談場 銀(ka6662) 鬼|30才|男性|符術師(カードマスター) |
最終発言 2016/12/09 06:44:05 |