ゲスト
(ka0000)
【蒼乱】ジョバンニの落日
マスター:葉槻

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/12/12 09:00
- 完成日
- 2016/12/25 22:42
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●リゼリオ 亜人人権問題およびゲート対策会議~南方大陸~
議会は紛糾していた。
こと南方大陸。一難去ったところでそこは人が生きて行くには非常に厳しい環境であることに変わりはない。
今後も続々と浄化装置を置き、転移門を設えたとしても、覚醒者以外の“ただの人”が生活出来るようになるにはどれほどの年月がかかるのか、またその莫大な費用は誰がどこから準備するのかという問題がある。
何より、南方大陸はマテリアル火山である“竜の巣”という爆弾を抱えている。
今は浄化術を重ね、ヴォイドゲートを破壊した事により再び落ち着きを取り戻したが、元々の星の産物であるあの火山の噴火そのものを止める術は現在のところ見つかっていない。
今はまだいい。あの噴火を抑えられるほどのイニシャライザーが手に入るからだ。しかし、何時かはこれも枯渇する日がくる。そうすれば噴火を抑える術など人類にはない。
そんな地域の為に私財をなげうってもいい、等という物好きな好事家は皆無に等しい。
「だから、コボルド達に武術訓練を施し、ゲートの番人となって貰う必要がある」
「確かに亜人である彼らは負のマテリアルにも強く、今日まで雑魔化せずに生きてきたという点は驚愕に値する。
しかし、これから先も彼らが雑魔化しないという保証はどこにもなく、また、雑魔化せずとも、彼らが武器の扱いに長けるようになれば、我々西方に牙を剥く日も来るかも知れない」
「そんないつ来るかも分からない“いつか”などより、噴火に対する備え、ゲートの監視の方が最優先されるべきだ」
「確かに貴殿のおっしゃることはもっともだが、それは西方から人を派遣して基地を作り、我々で行えば良いこと。
今から言葉も通じない亜人を使えるように育てるなど、どれほどの時間と金を浪費することになるのか」
喧々囂々と意見が飛び交うだけ、まだマシなのか。
事なかれと口を閉じている者も多いが、一方で亜人――ここでいうコボルド達への差別感情や拭いきれない不信感などから、決して彼らに聴かれたくないような暴言が飛び出ることもある。
イズン・コスロヴァ(kz0144)は南方へ行った帝国軍代表と言うことでこの議会に出席していたが、かれこれ3時間以上この不毛な議論を聞き続けていた。
(ケン王をここにお連れしなくて良かった)
慣れない船旅と人(彼らにとってのメシア)の多さに目を回し、疲労困憊の体で宿屋に入った彼らは、ベッドの柔らかさと布団の温もりにいたく感動していた様子を思い出し、イズンは少し柳眉を下げた。
従者コボルド達がお布団の魔力に取り憑かれ気を失うように眠っていく中、ケンだけが話があるとイズンを引き留めた。
「凄いな、救世主様達の拠点は。人間の多さにも驚いたが、家も綺麗だし、食べる物も沢山ある。飲み水に困ることも無い。
……まるで楽園のようだ」
楽園――エデン――とケンが窓の桟に手をかけ外を見つめながら告げる。しかし、その声には興奮の色は見られない。どちらかと言えば、静かで淡々とした口調だった。
「恐らく我々がどれほど憧れ、目指しても届かない所に救世主様達は到達していらっしゃるのだろうな」
ケンは聡い王だ。幸いパレードや宴会中にコボルドを狙うような不埒者は現れなかったが、彼らを値踏みするような視線、あるいは苦手感情を隠さない者の不躾な視線などに気付いたのだろう。
「イズン殿。一つお伺いしたい。
こちらにもコボルドはいると聞いたが、彼らはどのような生活をしているのだろうか」
それは言い逃れや言い繕うことを許さない、王の威厳に満ちた問いだった。
大きな濡れたように光る黒い瞳が真っ直ぐにイズンを見つめ、それを受け止めたイズンは静かに瞳を閉じ、そっと息を吐いた。
「イズン殿!」
大声で名を呼ばれ、イズンはぎくりと顔を上げた。
「すみません、資料に目を通しておりました。もう一度お願いします」
明らかな嘘だったが、男は鼻を鳴らして追求を堪える。
「南方大陸で主にコボルド達を相手にしていたのは貴殿であろう。
報告書に記載してある事、それ以外に貴殿の率直な意見を伺いたい」
「意見……ですか。彼らは勤勉で努力家という印象を私は持っています。
王は個体として優れている者しかなれないという彼らのルールもまた、ピラミッド組織を形成する上で非常にわかりやすく、誰もが従う理由たる点であると言えるでしょう」
イズンは私情を挟まないよう、抑揚を抑えた声で報告する。
――『歴史を繰り返させない為に』
それでも決意を込めたイズンの瞳は、その表情や声色に反し、何よりも雄弁に議会の出席者達に語りかけたのだった。
●リゼリオ ハンターオフィス
「コボルド達は、南方大陸は今後どうなるんだ?!」
ハンターの1人がイズンの姿を見つけた途端駆け寄った。
「ひとまず彼らが南方大陸から出ないのであれば自治権は今まで通り彼らにあります。
ハンターの出入りもこれまで通り禁止されるようなことはありません」
その言葉に相貌を崩した者は多い。一同を見回しながらイズンは続けた。
「これまで通り、ソサエティを通し、転移門の設営やその周囲の警護などに協力いただけるコボルド達には対価として食料の提供も行われます」
それを聞いてコボルド達と過ごしたことのあるハンター達は安堵を口にする。
「遺跡群に関しては今後南方大陸の歴史を紐解く上で重要であること、また地下資源に一部貴重な鉱物が見つかりましたのでその発掘に協力いただけるコボルド達にも対価として食料や衣服などが提供されます。
ですが、こちらに詰めるハンターが減るというのも事実です。なので、彼らに武器の扱いを指導することになりました」
その一言に、一部のハンター達は動きを止めてイズンを見た。
「どうして……?」
「“竜の巣”のヴォイドゲートの破壊に成功しましたが、強欲竜達の殲滅に成功したわけでも、この地の浄化に成功したわけでもありません。
コボルド達にはこれからはゲートの門番として竜の巣も行動範囲内にして貰わなければならなくなりました。
今までのように『いざとなったら逃げる』だけでは済まない状況になることも出るでしょう。
……少なくとも、転移門のある地点などが襲撃されることがあればハンターが到着するまで持ち堪えて貰う必要もあります」
ハンターの中には、今までにコボルドの襲撃に遭った者もいただろう。
武器を持った彼らは無辜の人々にとっては脅威以外の何物でもなく、“亜人”ではなく明確な“敵”だ。
「元々、ケン王やその従者達など一部のコボルド達は武器を扱えていました。その武器の質を高め、希望するコボルド全員に武器を渡し、扱い方を覚えて貰う必要があります」
しん、と室内が静まりかえった。
「どうか、武器を扱うというその心構えと共に彼らを導いて下さい、お願いします」
イズンは深々とあなた達へと頭を下げた。
議会は紛糾していた。
こと南方大陸。一難去ったところでそこは人が生きて行くには非常に厳しい環境であることに変わりはない。
今後も続々と浄化装置を置き、転移門を設えたとしても、覚醒者以外の“ただの人”が生活出来るようになるにはどれほどの年月がかかるのか、またその莫大な費用は誰がどこから準備するのかという問題がある。
何より、南方大陸はマテリアル火山である“竜の巣”という爆弾を抱えている。
今は浄化術を重ね、ヴォイドゲートを破壊した事により再び落ち着きを取り戻したが、元々の星の産物であるあの火山の噴火そのものを止める術は現在のところ見つかっていない。
今はまだいい。あの噴火を抑えられるほどのイニシャライザーが手に入るからだ。しかし、何時かはこれも枯渇する日がくる。そうすれば噴火を抑える術など人類にはない。
そんな地域の為に私財をなげうってもいい、等という物好きな好事家は皆無に等しい。
「だから、コボルド達に武術訓練を施し、ゲートの番人となって貰う必要がある」
「確かに亜人である彼らは負のマテリアルにも強く、今日まで雑魔化せずに生きてきたという点は驚愕に値する。
しかし、これから先も彼らが雑魔化しないという保証はどこにもなく、また、雑魔化せずとも、彼らが武器の扱いに長けるようになれば、我々西方に牙を剥く日も来るかも知れない」
「そんないつ来るかも分からない“いつか”などより、噴火に対する備え、ゲートの監視の方が最優先されるべきだ」
「確かに貴殿のおっしゃることはもっともだが、それは西方から人を派遣して基地を作り、我々で行えば良いこと。
今から言葉も通じない亜人を使えるように育てるなど、どれほどの時間と金を浪費することになるのか」
喧々囂々と意見が飛び交うだけ、まだマシなのか。
事なかれと口を閉じている者も多いが、一方で亜人――ここでいうコボルド達への差別感情や拭いきれない不信感などから、決して彼らに聴かれたくないような暴言が飛び出ることもある。
イズン・コスロヴァ(kz0144)は南方へ行った帝国軍代表と言うことでこの議会に出席していたが、かれこれ3時間以上この不毛な議論を聞き続けていた。
(ケン王をここにお連れしなくて良かった)
慣れない船旅と人(彼らにとってのメシア)の多さに目を回し、疲労困憊の体で宿屋に入った彼らは、ベッドの柔らかさと布団の温もりにいたく感動していた様子を思い出し、イズンは少し柳眉を下げた。
従者コボルド達がお布団の魔力に取り憑かれ気を失うように眠っていく中、ケンだけが話があるとイズンを引き留めた。
「凄いな、救世主様達の拠点は。人間の多さにも驚いたが、家も綺麗だし、食べる物も沢山ある。飲み水に困ることも無い。
……まるで楽園のようだ」
楽園――エデン――とケンが窓の桟に手をかけ外を見つめながら告げる。しかし、その声には興奮の色は見られない。どちらかと言えば、静かで淡々とした口調だった。
「恐らく我々がどれほど憧れ、目指しても届かない所に救世主様達は到達していらっしゃるのだろうな」
ケンは聡い王だ。幸いパレードや宴会中にコボルドを狙うような不埒者は現れなかったが、彼らを値踏みするような視線、あるいは苦手感情を隠さない者の不躾な視線などに気付いたのだろう。
「イズン殿。一つお伺いしたい。
こちらにもコボルドはいると聞いたが、彼らはどのような生活をしているのだろうか」
それは言い逃れや言い繕うことを許さない、王の威厳に満ちた問いだった。
大きな濡れたように光る黒い瞳が真っ直ぐにイズンを見つめ、それを受け止めたイズンは静かに瞳を閉じ、そっと息を吐いた。
「イズン殿!」
大声で名を呼ばれ、イズンはぎくりと顔を上げた。
「すみません、資料に目を通しておりました。もう一度お願いします」
明らかな嘘だったが、男は鼻を鳴らして追求を堪える。
「南方大陸で主にコボルド達を相手にしていたのは貴殿であろう。
報告書に記載してある事、それ以外に貴殿の率直な意見を伺いたい」
「意見……ですか。彼らは勤勉で努力家という印象を私は持っています。
王は個体として優れている者しかなれないという彼らのルールもまた、ピラミッド組織を形成する上で非常にわかりやすく、誰もが従う理由たる点であると言えるでしょう」
イズンは私情を挟まないよう、抑揚を抑えた声で報告する。
――『歴史を繰り返させない為に』
それでも決意を込めたイズンの瞳は、その表情や声色に反し、何よりも雄弁に議会の出席者達に語りかけたのだった。
●リゼリオ ハンターオフィス
「コボルド達は、南方大陸は今後どうなるんだ?!」
ハンターの1人がイズンの姿を見つけた途端駆け寄った。
「ひとまず彼らが南方大陸から出ないのであれば自治権は今まで通り彼らにあります。
ハンターの出入りもこれまで通り禁止されるようなことはありません」
その言葉に相貌を崩した者は多い。一同を見回しながらイズンは続けた。
「これまで通り、ソサエティを通し、転移門の設営やその周囲の警護などに協力いただけるコボルド達には対価として食料の提供も行われます」
それを聞いてコボルド達と過ごしたことのあるハンター達は安堵を口にする。
「遺跡群に関しては今後南方大陸の歴史を紐解く上で重要であること、また地下資源に一部貴重な鉱物が見つかりましたのでその発掘に協力いただけるコボルド達にも対価として食料や衣服などが提供されます。
ですが、こちらに詰めるハンターが減るというのも事実です。なので、彼らに武器の扱いを指導することになりました」
その一言に、一部のハンター達は動きを止めてイズンを見た。
「どうして……?」
「“竜の巣”のヴォイドゲートの破壊に成功しましたが、強欲竜達の殲滅に成功したわけでも、この地の浄化に成功したわけでもありません。
コボルド達にはこれからはゲートの門番として竜の巣も行動範囲内にして貰わなければならなくなりました。
今までのように『いざとなったら逃げる』だけでは済まない状況になることも出るでしょう。
……少なくとも、転移門のある地点などが襲撃されることがあればハンターが到着するまで持ち堪えて貰う必要もあります」
ハンターの中には、今までにコボルドの襲撃に遭った者もいただろう。
武器を持った彼らは無辜の人々にとっては脅威以外の何物でもなく、“亜人”ではなく明確な“敵”だ。
「元々、ケン王やその従者達など一部のコボルド達は武器を扱えていました。その武器の質を高め、希望するコボルド全員に武器を渡し、扱い方を覚えて貰う必要があります」
しん、と室内が静まりかえった。
「どうか、武器を扱うというその心構えと共に彼らを導いて下さい、お願いします」
イズンは深々とあなた達へと頭を下げた。
リプレイ本文
●でもんすとれーしょん
「逃げる能力が高い? そりゃいいな! 足速くって勘がいいって事だろ」
イズン・コスロヴァ(kz0144)からコボルド達の特徴を聞いた岩井崎 旭(ka0234)が爽やかに笑う。
「うん。逃げ特化ってのは活かしたいな。逃げ態勢から攻撃が来た時にカウンター、とかさ。いざという時の反撃を身につければ、自身も、大切なものも守りやすくなるだろうし」
「俺達もずっと傍にいるわけにいかないし、逃げ切れない事もあるだろう。コボルド達の命を守る為に力が必要なら、俺の知ってる事は何でも教えるぜ」
何度かこの南方大陸に住むコボルト達と生活を共にして来た央崎 枢(ka5153)が大きく頷きながら意見を述べると、枢同様幾度もコボルト達と交流を重ねてきたグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)も剣を手に口角を上げた。
「新しく仲良くできる、仲間が増えるのはとってもいいことだわ。頑張りましょう。まずはデモンストレーションが必要ね」
「選ぶ権利は彼等にあり、僕たちには彼等の友情が必要だ」
イリアス(ka0789)が微笑めば、金目(ka6190)も頷いてそれに続く。
「では、各自が担当する武器の長所短所を交えつつ簡単な演舞でも披露するとしよう」
門垣 源一郎(ka6320)がとりまとめ、各々は武器を持ちコボルト達の前に立った。
●一番槍
「移動こそ力だ! いち早く敵が来たのを知らせられる! 先に戦場に隠れて奇襲も出来る! 何より、勝てない相手から逃げて次の戦いの準備に備えられる!」
旭の説明に、コボルド達はふんふんと聞き入っている。
「それじゃ、走るかッ!!」
早朝、朝焼けに砂漠一面が黄金に色づく中、軽装鎧に身を包み、保存食や水筒などを入れた小さなバックパックを背負ったコボルド達が旭の後に付いて走り出す。
一つ旭にとって誤算だったことは、彼等は何世代にも渡りこの精霊の庇護の乏しい南方大陸の砂漠の中で生き抜いてきた種族だということだ。
最初こそ慣れない装備と荷物を持って走ることに窮屈そうにしていたコボルト達だったが、ほぼ一日で慣れた。
翌日には旭が定めたコースを軽々と完走。流石に日中の砂漠で走る事は自殺行為以外の何物でもないが、元々陽が沈んでからの方が活動がしやすい砂漠に暮らす彼等には日没後に走る事は全く障害にならないようだった。
「はー、お前ら凄いな!」
一緒に走っている旭の方が汗だくで息が上がっている。
「じゃ、槍の扱いに移ろうか」
旭の声にコボルド達は『待ってました!』と言わんばかりに目を輝かせて槍を構えた。
槍は突いて良し、払って良し、振り上げて叩き付けて良しという優れた武器だ。
柄の部分を使えば攻撃を受けたり逸らしたりすることも出来る。
その分習得には時間がかかる武器でもある。
旭はまず、数人並んで鋭く突いて引くことと、長さと重さを活かした叩き付けを主に練習を開始することにした。
歪虚のような強力な敵を相手にすることを想定して、複数人で単一の目標を狙う戦法だった。これならば、一人一人の力は弱くとも、敵に大ダメージを与える事が可能になる。
また、走る訓練と併せて起伏に潜んでからの奇襲と一撃離脱を想定して行うことで、戦ってから逃げる、という選択肢をコボルド達に与えた。
コボルド達は旭に教えられた型を一生懸命練習し、最終日には1対1での模擬戦まで何とか型にそって出来るようになったのだった。
●的を射る
唯一の飛び道具を教える事になったイリアスは、まず30m離れたところにあるサボテンに矢を放った。
風切り音の直後、サボテンを見ると見事に矢が刺さっているのを見て、コボルド達は目を見張り、サボテンとイリアスを交互に見る。
「弓を扱えるようになれば狩りや生活にも使えるわ」
銃もあるが、銃はマメなメンテナンスが必要な武器の一つでもある。
転移門を使えるわけでもないコボルド達は基本、自分達で手入れをしなければならない点を考えると、銃はハードルが高い。
その点、弓は矢も折れなければ再利用出来るし、手入れもコツを覚えてしまえば多少不器用でも扱える。
「じゃあ、まずは弦の調整から始めましょうか」
イリアスの言葉にコボルド達は深く頷いて、各々弓を手にしたのだった。
「まずは、弓の形を覚えるのが大事よ」
本拠地の地下都市の室内。自由に使っていいと言われた部屋の床に、イリアスは弓を寝かせて置いた。
「今、あなた達が手にしている弓の形が一番良い形。でもお手入れをするときに弦を外した後、この形に戻らなくなっても困るから、まず、この形を覚える為に、各自書き写します」
体格差によって弓の形や大きさが異なる為、まずは自分の弓の形を覚えさせる事からスタートしたイリアスの指導にコボルド達は困惑しながらも従っていく。
こうしてきっちりと手入れの方法から始まった指導の結果、どのコボルドも自分の弓に愛着を持ち、たとえ的に当たらなくても地道に練習を重ねる粘り強さを身につけたのだった。
●受けて躱す
源一郎は片手斧を手に持つと、呼気と共に投げた。
斧は回転しながら的代わりに地面に刺した丸太に刺さる。
「では、やってみろ」
コボルド達は、左手に円形盾を構えたまま、大きく斧を振りかぶって投げた。
しかし、その斧は軽快な音を立てて近くの砂漠に突き刺さった。
それを見たコボルド達は首を傾げ、互いに顔を見合わせている。
逃げる際に投擲が出来ればと思っていたが、どうやら彼等には斧を回転させて投げる、ということが良くわからないらしい。
「……まずは基本を叩き込むべきか」
斧の取り扱い方をしっかり身につけてからでなければ難しそうだと気付いた源一郎は、この一週間で投擲を学ばせるのは諦め、斧と盾の基本的な扱いを教え込むことにシフトした。
2日教えてわかったことは、コボルド達は動体視力がいいという点だった。
ゆえに、その身のこなしと合わせて回避力も高い者が多い。そこに盾が加われば、避けきれない場合でも高確率で受け止めることが出来た。
一方で片手斧とはいえ、普段武器を手にしてこなかった者には重たいらしく、まずは握力を含めた身体作りを徹底する必要があった。
源一郎がコボルド達に合わせ試行錯誤を繰り返しながら教えた結果、基本的な片手斧の構えと狙ったところに振り下ろす事、そして何より盾で攻撃を受ける事を覚えた彼等の生存率を上昇させることに繋がったのだった。
●岩をも砕く
激しい打撃音が響き、叩かれた岩がパラパラと崩れたのを見て、コボルド達は尻尾をピンッと伸ばした。
「僕も武器を扱うようになってからはまだ日が浅いんだけど、槌ならこんな感じかな。じゃぁ、やってみましょう」
金目の言葉に、コボルド達は神妙な顔で頷くと槌を振り上げた。
槌を希望した10体は比較的がっしりとした体つきのコボルド達が多く、スタンダードな槌で十分間に合った為、調整という点では殆ど苦労しなかった。
しかしながら、槌はどうしても慣れるまでそのヘッドの重さに振り廻されることが多い。
「そうそう、手はこの位置」
そして重い槌を振り回す事になれていないコボルド達の腕はすぐに悲鳴を上げた。
「焦らなくていい。まずは基本の持ち手と構え方をしっかり身につけましょう」
コボルド達を休憩させながら、どう振れば衝撃が大きく、逆に小さくなるか。柄の握り方、スピードを変え素振りの動作を見せ、休憩を終えたらやらせてみる。
「無闇に振るうのではなく、狙った箇所へ正しく打ち込むんだ。……そうそう、腰を落として、そう!」
また槌を振るうために使う筋力の強化トレーニングも金目は忘れず、訓練の開始前と終了後には必ず武器の点検と手入れも取り入れた。
結果、皆自分の槌を大切に扱うようになり、槌に振り廻されることなく振るうことが出来るようになったのだった。
●神の化身
一週間の段取りをきちっと決めてきたのは枢だった。
「よーし、休憩!」
4日目。枢のかけ声にコボルド達は棒を砂に刺ししゃがみ込むと、手に出来た肉刺を互いに見せ合いっこしていたりする。
雲梯や鉄棒などで手のひらに出来た肉刺を見せ合う小学生を見ているようで、枢はそれを微笑ましく見ていた。
「どうだ? 調子は」
「ケン王」
「ケンでいいと言っているのに、救世主様は皆聴きわけがないな」
とはいえ、出会った頃とは違い一族を率いる王となり、何より神霊樹の翻訳機能が復活してからの口調の変化に戸惑ってしまって、既知の者でもケンとの会話にはどこかぎこちなくなっている。
「えーと、じゃぁお言葉に甘えて。ケンの一族のみんなは凄く一生懸命頑張ってるよ。ケンは最近調子どう?」
「問題無いな。やるべきことが多くて自由時間がないくらいか」
ケンの端正な横顔を見ていて思い出した。
「アヌビス」
「?」
「あー、いや、俺の知ってる国の神様に似てるなーって」
青い布を纏っているが、そのシャープな面立ちとピンと尖った耳、『王』という威厳、さらに砂漠という環境がリアルブルーでの砂漠の国の神を連想させる。
「ほぅ、では神に恥じぬ王にならねばな」
そうケン王は告げると「宜しく頼む」と告げ颯爽と去って行く。
その後ろ姿を見送ると、枢は号令をかけ、再び訓練へと戻った。
鬼ごっこを取り入れた丁寧な指導の下、褒められて長所を伸ばした10体のコボルド達はそれぞれに個性を伸ばしつつ棒の扱いを覚えたのだった。
●連係攻撃
グリムバルドはコボルド達と同じ木剣と盾を手に立っていた。
その周囲を3体のコボルド達がじりじりと円を描くように、いつ飛び掛かろうかとタイミングを計っていた。
まず一体が飛び掛かり、振り上げられた剣をグリムバルドは盾で受け流すと、その後ろからもう一体が突きの構えで走り寄る。が、左脚を引き身体の向きを変えることで躱すついでに盾で軽く押して転がし、もう一体が反対側から走ってきたを察し顔を向けたが、その瞬間コボルドが視界から消えた。
「どわっ!?」
実際には消えた訳では無くコボルドが転んだだけだったのだが、その衝撃で木剣だけが地表すれすれを飛び、グリムバルドの左右の足の間に入り込み見事グリムバルドを転ばせた。
「うーん、事故っちゃ事故なんだけど……まぁいいか、ご褒美」
グリムバルドの声に転んだお陰で顔面を砂だらけにしたコボルドがきょとんと目を瞬かせたが、意味がわかると3体が同時に爛々と瞳を輝かせ尻尾を大きく振った。
しかし、すぐに転んだ一体は耳を倒すと尻尾を力なく落とし、きゅぅんと鳴きながらグリムバルドに近寄った。
「大丈夫大丈夫。俺頑丈だから!」
そう笑って顔に付いた砂を払うとその頭を撫でる。
グリムバルドは基本の構えや、斬る・突く・払う等の動作を素振りで徹底的に訓練し、出来なければ根気よく付き合って教え、出来た時にはめいっぱい褒めた。
そしてコボルド達との模擬戦の中で連携の取り方を学ばせ、干し肉というご褒美を用意することで彼等のやる気をアップさせた。
結果、連携を取れば敵にうまく攻撃を当てることが出来る事を学んだコボルド達は、仲間同士切磋琢磨し剣の上達に励むことが出来たのだった。
●武器を手に
最終日。
ハンター達は各々の教え子達を前に最後の訓練をしていた。
「リアルブルーじゃ、武器なんて必要ない、使わないのが一番だなんて言うやつもいたけどさ。軽々しく武器を突き出さずに済むようにするためにはさ、もっと鍛えなきゃって思うぜ」
旭はハルバードを見つめ、それからコボルド達に視線を移した。
「でも、今は。自分自身や、家族や、友達や、その未来を守るために。こいつが必要なんだ。だから鍛えなきゃならねぇ」
旭の言葉にコボルド達は深く頷いた。
そして、最後のランに出掛けたのだった。
「……わたしにとっての戦う……そうね。私は、まだ主義を持って戦うってことがどういうことかまだわかってないかもしれないけど、これは生活の延長、かしらね」
そう静かに口を開いたのはイリアス。
「暮らしていくための技術でも戦うための技術になる。逆に戦うための技術も暮らしを豊かにすることもできる。
平和な生活を守る為に、心持ち次第で誰でも手に持ってるもので戦うことはできるから、その気持ちが大切。なんじゃないかしら」
イリアスのその心の在り方に触れ、コボルド達は大きく頷くと、各自黙々と弓を番え、矢を放つ。
まだ的には上手く当てられないが、構えは綺麗になった。きっと彼等が一流の狩人になる日もそう遠くはないだろうとイリアスは微笑みながらそれを見守った。
「戦いは、戦う相手を見定めることがなにより難しい。一歩間違えれば多くの人を不幸にする」
源一郎は精神修養――武の道をコボルド達に説いていた。
「なので『歪虚に対抗する場合』『命を守るためやむを得ない場合』を除き、今まで通り戦わない選択肢を取っていい」
特に彼等は逃げることに加え盾を使った受けも備えた。
「軽々しく武器を振るえば身を亡ぼす」
それはまだ武器を持ったばかりのコボルド達には想像が付かない事だ。だからこそ、源一郎は繰り返した。
「逃げていい。武器は命を守るために使え」
「君たちは、何の為に戦う? ヒトや王に言われたから? 家族や生活を護りたいから?」
金目の言葉にコボルド達は濡れた宝石のような瞳を真っ直ぐに向ける。
「僕は元来、戦いなんでものには関わりたくない方でね。それでも降りかかる火の粉は払わなくっちゃぁいけない。戦いの興奮や怖さに捕われること無く、淡々と居ることだ」
それは金目自身がそうありたいと思う心の在り方だった。
「じゃぁ訓練を再開しようか」
金目の号令に、この一週間でかなり精悍な顔つきになったコボルド達は一斉に動き始めた。
「逃げるだけではなんともならないこともある」
枢はコボルド達の肉刺の潰れた手のひらを見る。
「そういうときに武器を取る。自分や大切なものをあくまで守るための手段だ。それを忘れないでね」
今ある痛みと、決意をどうか忘れないでと枢は一体一体に呼びかけた。
コボルド同士にチーム戦をさせながら、グリムバルドはケン王とそれを見守っていた。
「出来れば戦うための力、何てものとは無縁でいて欲しいと思ってた」
グリムバルドがそう呟けば、ケン王は小首を傾げながら彼を見た。
「でもやっぱり故郷と家族は出来るだけ自分で守れた方が良い、よな」
「今までは逃げて逃げて仲間が死んでも振り返らず逃げるしか出来なかった。でも、これからは守る事も出来るようになる。我々はあなた達の教えを守り、仲間を守るだろう」
ケン王にそう言われ、グリムバルドは「そうか」と目を伏せた。
真っ赤に染まった夕日が沈んで行く中、最終日の訓練が終わった。
彼等の進む未来が誰の支配も受けませんよう、とイズンは心から祈り、転移門を潜り去った。
「逃げる能力が高い? そりゃいいな! 足速くって勘がいいって事だろ」
イズン・コスロヴァ(kz0144)からコボルド達の特徴を聞いた岩井崎 旭(ka0234)が爽やかに笑う。
「うん。逃げ特化ってのは活かしたいな。逃げ態勢から攻撃が来た時にカウンター、とかさ。いざという時の反撃を身につければ、自身も、大切なものも守りやすくなるだろうし」
「俺達もずっと傍にいるわけにいかないし、逃げ切れない事もあるだろう。コボルド達の命を守る為に力が必要なら、俺の知ってる事は何でも教えるぜ」
何度かこの南方大陸に住むコボルト達と生活を共にして来た央崎 枢(ka5153)が大きく頷きながら意見を述べると、枢同様幾度もコボルト達と交流を重ねてきたグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)も剣を手に口角を上げた。
「新しく仲良くできる、仲間が増えるのはとってもいいことだわ。頑張りましょう。まずはデモンストレーションが必要ね」
「選ぶ権利は彼等にあり、僕たちには彼等の友情が必要だ」
イリアス(ka0789)が微笑めば、金目(ka6190)も頷いてそれに続く。
「では、各自が担当する武器の長所短所を交えつつ簡単な演舞でも披露するとしよう」
門垣 源一郎(ka6320)がとりまとめ、各々は武器を持ちコボルト達の前に立った。
●一番槍
「移動こそ力だ! いち早く敵が来たのを知らせられる! 先に戦場に隠れて奇襲も出来る! 何より、勝てない相手から逃げて次の戦いの準備に備えられる!」
旭の説明に、コボルド達はふんふんと聞き入っている。
「それじゃ、走るかッ!!」
早朝、朝焼けに砂漠一面が黄金に色づく中、軽装鎧に身を包み、保存食や水筒などを入れた小さなバックパックを背負ったコボルド達が旭の後に付いて走り出す。
一つ旭にとって誤算だったことは、彼等は何世代にも渡りこの精霊の庇護の乏しい南方大陸の砂漠の中で生き抜いてきた種族だということだ。
最初こそ慣れない装備と荷物を持って走ることに窮屈そうにしていたコボルト達だったが、ほぼ一日で慣れた。
翌日には旭が定めたコースを軽々と完走。流石に日中の砂漠で走る事は自殺行為以外の何物でもないが、元々陽が沈んでからの方が活動がしやすい砂漠に暮らす彼等には日没後に走る事は全く障害にならないようだった。
「はー、お前ら凄いな!」
一緒に走っている旭の方が汗だくで息が上がっている。
「じゃ、槍の扱いに移ろうか」
旭の声にコボルド達は『待ってました!』と言わんばかりに目を輝かせて槍を構えた。
槍は突いて良し、払って良し、振り上げて叩き付けて良しという優れた武器だ。
柄の部分を使えば攻撃を受けたり逸らしたりすることも出来る。
その分習得には時間がかかる武器でもある。
旭はまず、数人並んで鋭く突いて引くことと、長さと重さを活かした叩き付けを主に練習を開始することにした。
歪虚のような強力な敵を相手にすることを想定して、複数人で単一の目標を狙う戦法だった。これならば、一人一人の力は弱くとも、敵に大ダメージを与える事が可能になる。
また、走る訓練と併せて起伏に潜んでからの奇襲と一撃離脱を想定して行うことで、戦ってから逃げる、という選択肢をコボルド達に与えた。
コボルド達は旭に教えられた型を一生懸命練習し、最終日には1対1での模擬戦まで何とか型にそって出来るようになったのだった。
●的を射る
唯一の飛び道具を教える事になったイリアスは、まず30m離れたところにあるサボテンに矢を放った。
風切り音の直後、サボテンを見ると見事に矢が刺さっているのを見て、コボルド達は目を見張り、サボテンとイリアスを交互に見る。
「弓を扱えるようになれば狩りや生活にも使えるわ」
銃もあるが、銃はマメなメンテナンスが必要な武器の一つでもある。
転移門を使えるわけでもないコボルド達は基本、自分達で手入れをしなければならない点を考えると、銃はハードルが高い。
その点、弓は矢も折れなければ再利用出来るし、手入れもコツを覚えてしまえば多少不器用でも扱える。
「じゃあ、まずは弦の調整から始めましょうか」
イリアスの言葉にコボルド達は深く頷いて、各々弓を手にしたのだった。
「まずは、弓の形を覚えるのが大事よ」
本拠地の地下都市の室内。自由に使っていいと言われた部屋の床に、イリアスは弓を寝かせて置いた。
「今、あなた達が手にしている弓の形が一番良い形。でもお手入れをするときに弦を外した後、この形に戻らなくなっても困るから、まず、この形を覚える為に、各自書き写します」
体格差によって弓の形や大きさが異なる為、まずは自分の弓の形を覚えさせる事からスタートしたイリアスの指導にコボルド達は困惑しながらも従っていく。
こうしてきっちりと手入れの方法から始まった指導の結果、どのコボルドも自分の弓に愛着を持ち、たとえ的に当たらなくても地道に練習を重ねる粘り強さを身につけたのだった。
●受けて躱す
源一郎は片手斧を手に持つと、呼気と共に投げた。
斧は回転しながら的代わりに地面に刺した丸太に刺さる。
「では、やってみろ」
コボルド達は、左手に円形盾を構えたまま、大きく斧を振りかぶって投げた。
しかし、その斧は軽快な音を立てて近くの砂漠に突き刺さった。
それを見たコボルド達は首を傾げ、互いに顔を見合わせている。
逃げる際に投擲が出来ればと思っていたが、どうやら彼等には斧を回転させて投げる、ということが良くわからないらしい。
「……まずは基本を叩き込むべきか」
斧の取り扱い方をしっかり身につけてからでなければ難しそうだと気付いた源一郎は、この一週間で投擲を学ばせるのは諦め、斧と盾の基本的な扱いを教え込むことにシフトした。
2日教えてわかったことは、コボルド達は動体視力がいいという点だった。
ゆえに、その身のこなしと合わせて回避力も高い者が多い。そこに盾が加われば、避けきれない場合でも高確率で受け止めることが出来た。
一方で片手斧とはいえ、普段武器を手にしてこなかった者には重たいらしく、まずは握力を含めた身体作りを徹底する必要があった。
源一郎がコボルド達に合わせ試行錯誤を繰り返しながら教えた結果、基本的な片手斧の構えと狙ったところに振り下ろす事、そして何より盾で攻撃を受ける事を覚えた彼等の生存率を上昇させることに繋がったのだった。
●岩をも砕く
激しい打撃音が響き、叩かれた岩がパラパラと崩れたのを見て、コボルド達は尻尾をピンッと伸ばした。
「僕も武器を扱うようになってからはまだ日が浅いんだけど、槌ならこんな感じかな。じゃぁ、やってみましょう」
金目の言葉に、コボルド達は神妙な顔で頷くと槌を振り上げた。
槌を希望した10体は比較的がっしりとした体つきのコボルド達が多く、スタンダードな槌で十分間に合った為、調整という点では殆ど苦労しなかった。
しかしながら、槌はどうしても慣れるまでそのヘッドの重さに振り廻されることが多い。
「そうそう、手はこの位置」
そして重い槌を振り回す事になれていないコボルド達の腕はすぐに悲鳴を上げた。
「焦らなくていい。まずは基本の持ち手と構え方をしっかり身につけましょう」
コボルド達を休憩させながら、どう振れば衝撃が大きく、逆に小さくなるか。柄の握り方、スピードを変え素振りの動作を見せ、休憩を終えたらやらせてみる。
「無闇に振るうのではなく、狙った箇所へ正しく打ち込むんだ。……そうそう、腰を落として、そう!」
また槌を振るうために使う筋力の強化トレーニングも金目は忘れず、訓練の開始前と終了後には必ず武器の点検と手入れも取り入れた。
結果、皆自分の槌を大切に扱うようになり、槌に振り廻されることなく振るうことが出来るようになったのだった。
●神の化身
一週間の段取りをきちっと決めてきたのは枢だった。
「よーし、休憩!」
4日目。枢のかけ声にコボルド達は棒を砂に刺ししゃがみ込むと、手に出来た肉刺を互いに見せ合いっこしていたりする。
雲梯や鉄棒などで手のひらに出来た肉刺を見せ合う小学生を見ているようで、枢はそれを微笑ましく見ていた。
「どうだ? 調子は」
「ケン王」
「ケンでいいと言っているのに、救世主様は皆聴きわけがないな」
とはいえ、出会った頃とは違い一族を率いる王となり、何より神霊樹の翻訳機能が復活してからの口調の変化に戸惑ってしまって、既知の者でもケンとの会話にはどこかぎこちなくなっている。
「えーと、じゃぁお言葉に甘えて。ケンの一族のみんなは凄く一生懸命頑張ってるよ。ケンは最近調子どう?」
「問題無いな。やるべきことが多くて自由時間がないくらいか」
ケンの端正な横顔を見ていて思い出した。
「アヌビス」
「?」
「あー、いや、俺の知ってる国の神様に似てるなーって」
青い布を纏っているが、そのシャープな面立ちとピンと尖った耳、『王』という威厳、さらに砂漠という環境がリアルブルーでの砂漠の国の神を連想させる。
「ほぅ、では神に恥じぬ王にならねばな」
そうケン王は告げると「宜しく頼む」と告げ颯爽と去って行く。
その後ろ姿を見送ると、枢は号令をかけ、再び訓練へと戻った。
鬼ごっこを取り入れた丁寧な指導の下、褒められて長所を伸ばした10体のコボルド達はそれぞれに個性を伸ばしつつ棒の扱いを覚えたのだった。
●連係攻撃
グリムバルドはコボルド達と同じ木剣と盾を手に立っていた。
その周囲を3体のコボルド達がじりじりと円を描くように、いつ飛び掛かろうかとタイミングを計っていた。
まず一体が飛び掛かり、振り上げられた剣をグリムバルドは盾で受け流すと、その後ろからもう一体が突きの構えで走り寄る。が、左脚を引き身体の向きを変えることで躱すついでに盾で軽く押して転がし、もう一体が反対側から走ってきたを察し顔を向けたが、その瞬間コボルドが視界から消えた。
「どわっ!?」
実際には消えた訳では無くコボルドが転んだだけだったのだが、その衝撃で木剣だけが地表すれすれを飛び、グリムバルドの左右の足の間に入り込み見事グリムバルドを転ばせた。
「うーん、事故っちゃ事故なんだけど……まぁいいか、ご褒美」
グリムバルドの声に転んだお陰で顔面を砂だらけにしたコボルドがきょとんと目を瞬かせたが、意味がわかると3体が同時に爛々と瞳を輝かせ尻尾を大きく振った。
しかし、すぐに転んだ一体は耳を倒すと尻尾を力なく落とし、きゅぅんと鳴きながらグリムバルドに近寄った。
「大丈夫大丈夫。俺頑丈だから!」
そう笑って顔に付いた砂を払うとその頭を撫でる。
グリムバルドは基本の構えや、斬る・突く・払う等の動作を素振りで徹底的に訓練し、出来なければ根気よく付き合って教え、出来た時にはめいっぱい褒めた。
そしてコボルド達との模擬戦の中で連携の取り方を学ばせ、干し肉というご褒美を用意することで彼等のやる気をアップさせた。
結果、連携を取れば敵にうまく攻撃を当てることが出来る事を学んだコボルド達は、仲間同士切磋琢磨し剣の上達に励むことが出来たのだった。
●武器を手に
最終日。
ハンター達は各々の教え子達を前に最後の訓練をしていた。
「リアルブルーじゃ、武器なんて必要ない、使わないのが一番だなんて言うやつもいたけどさ。軽々しく武器を突き出さずに済むようにするためにはさ、もっと鍛えなきゃって思うぜ」
旭はハルバードを見つめ、それからコボルド達に視線を移した。
「でも、今は。自分自身や、家族や、友達や、その未来を守るために。こいつが必要なんだ。だから鍛えなきゃならねぇ」
旭の言葉にコボルド達は深く頷いた。
そして、最後のランに出掛けたのだった。
「……わたしにとっての戦う……そうね。私は、まだ主義を持って戦うってことがどういうことかまだわかってないかもしれないけど、これは生活の延長、かしらね」
そう静かに口を開いたのはイリアス。
「暮らしていくための技術でも戦うための技術になる。逆に戦うための技術も暮らしを豊かにすることもできる。
平和な生活を守る為に、心持ち次第で誰でも手に持ってるもので戦うことはできるから、その気持ちが大切。なんじゃないかしら」
イリアスのその心の在り方に触れ、コボルド達は大きく頷くと、各自黙々と弓を番え、矢を放つ。
まだ的には上手く当てられないが、構えは綺麗になった。きっと彼等が一流の狩人になる日もそう遠くはないだろうとイリアスは微笑みながらそれを見守った。
「戦いは、戦う相手を見定めることがなにより難しい。一歩間違えれば多くの人を不幸にする」
源一郎は精神修養――武の道をコボルド達に説いていた。
「なので『歪虚に対抗する場合』『命を守るためやむを得ない場合』を除き、今まで通り戦わない選択肢を取っていい」
特に彼等は逃げることに加え盾を使った受けも備えた。
「軽々しく武器を振るえば身を亡ぼす」
それはまだ武器を持ったばかりのコボルド達には想像が付かない事だ。だからこそ、源一郎は繰り返した。
「逃げていい。武器は命を守るために使え」
「君たちは、何の為に戦う? ヒトや王に言われたから? 家族や生活を護りたいから?」
金目の言葉にコボルド達は濡れた宝石のような瞳を真っ直ぐに向ける。
「僕は元来、戦いなんでものには関わりたくない方でね。それでも降りかかる火の粉は払わなくっちゃぁいけない。戦いの興奮や怖さに捕われること無く、淡々と居ることだ」
それは金目自身がそうありたいと思う心の在り方だった。
「じゃぁ訓練を再開しようか」
金目の号令に、この一週間でかなり精悍な顔つきになったコボルド達は一斉に動き始めた。
「逃げるだけではなんともならないこともある」
枢はコボルド達の肉刺の潰れた手のひらを見る。
「そういうときに武器を取る。自分や大切なものをあくまで守るための手段だ。それを忘れないでね」
今ある痛みと、決意をどうか忘れないでと枢は一体一体に呼びかけた。
コボルド同士にチーム戦をさせながら、グリムバルドはケン王とそれを見守っていた。
「出来れば戦うための力、何てものとは無縁でいて欲しいと思ってた」
グリムバルドがそう呟けば、ケン王は小首を傾げながら彼を見た。
「でもやっぱり故郷と家族は出来るだけ自分で守れた方が良い、よな」
「今までは逃げて逃げて仲間が死んでも振り返らず逃げるしか出来なかった。でも、これからは守る事も出来るようになる。我々はあなた達の教えを守り、仲間を守るだろう」
ケン王にそう言われ、グリムバルドは「そうか」と目を伏せた。
真っ赤に染まった夕日が沈んで行く中、最終日の訓練が終わった。
彼等の進む未来が誰の支配も受けませんよう、とイズンは心から祈り、転移門を潜り去った。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/12/10 00:25:58 |
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相談卓 門垣 源一郎(ka6320) 人間(リアルブルー)|30才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/12/12 03:32:42 |