ゲスト
(ka0000)
【剣機】勝利を我が手に
マスター:朝臣あむ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/10/05 19:00
- 完成日
- 2014/10/13 23:29
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●帝都バルトアンデルス・北側
「3階層第3部隊、砲撃用意!!」
帝都を目指して進み来る頭を鋼の装甲に覆われた竜――剣機リンドヴルム。
複数の傷跡と戦闘痕を刻んだ存在は、己に向けられる無数の砲台に気付くと、大きく口を開いて隠されていた円筒を覗かせた。そして容赦ない閃光を向かい来る者たちに向かって放つ。
「ッ――、3階層第2部隊砲台損傷確認、急ぐんじゃ! 3階層第4部隊は前へ!」
舞い上がる砂塵に目を眇め、帝国第十師団の指揮をとるマンゴルトが叫ぶ。この声に統率のとれた動きを見せる兵の傍らで、ハンターらも負けじと剣機に向けて刃を掲げていた。
「尻尾に気を付けろ! 来るぞッ!」
ドォォオオオンッ!
振り上げられた剣の尾が凄まじい勢いで落ちてくると、それを寸前の所で交わしたハンターが、飛び散った土と岩に視界を遮られた。
「クッ」
慌てて後方に退こうとするも視界が奪われた状態で上手くいかない。そんな中、ハンターの耳にカチカチと何かを準備する音が響いた。
(この音はさっきのガトリング……か?)
剣機の脇にあったガトリング砲が頭を掠める。そうしてようやく見え始めたハンターの目に、己に真っ直ぐ向けられているガトリング砲が飛び込んで来た。
(駄目だ、死――)
死んでしまう。そう覚悟して目を瞑った彼の耳に思わぬ声が届く。
「ボサッとするなよ」
クツリ。
耳を突いた笑い声に目を見開いた瞬間、地面に叩き付けられるような衝撃が襲った。
「ゼナイド、マンゴルトに支援強化の指示を出せ。なんなら死神を使っても構わんぞ」
「死神ならば既に剣機の後方に向かわせましたわ。それよりも陛下、兵よりも前に出るなとオズワルド様に言われてませんでしたかしら?」
「バレなければ問題ない」
「速攻でバレると思いますけれど……」
ゼナイド(kz0052)は呆れた様子で普段とは違う、顔の露出すらない黄金の鎧に身を纏うヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)を見た。
たぶん、登場初っ端でガトリング砲の射程に飛び込んだと言う情報は、瞬く間に戦場を駆け抜けてオズワルド(kz0027)の元に届くだろう。
「……帰ったら大目玉ですわね」
クスリ。そう笑ったゼナイドは、ヴィルヘルミナがガトリング掃射より庇うために放ったハンターに目を向けた。
「早く持ち場に戻りなさい。ここはわたくしたちが引き受けますわ」
言って顎で示した先には、魔導トラックの荷台から降りてくるハンターや兵士の姿がある。
「援軍?」
「援軍だなんて、そんなチープな物ではありませんわ。真打登場ですわよ」
ドーンッと胸を張ったゼナイドに、ハンターが呆然と瞬く。だがこうした遣り取りはここまでだった。
「ほう、これは面白い」
ニイッと仮面の下で笑んだヴィルヘルミナは、竜の姿が報告と違う事に気付いた。
本来は双頭であるはずの竜の首が1本しかない上、尾の剣も同様に1本に減っている。
だが敵がいる以上闘わない謂われはない。
「ゼナイド、わかっているな?」
「……本当に、よろしいんですの?」
声を潜めて問う声に「何が」を問う気配がする。
「彼等、死ぬかもしれませんわよ」
チラリと見遣った先には、剣機の姿を目にして思い思いの体勢を取るハンターの姿がある。
(剣機の体力はだいぶ消耗してますわ。ですが、彼等の力が剣機を越えているとは思えませんもの……もし越えていなければ――)
「そうはならんさ」
そう言い切ったヴィルヘルミナは、己が盾を掲げて見せると何処か楽しげに刃を抜いた。
「私には彼等が負けるとは思えん。ゾンネンシュトラール帝国皇帝ヴィルヘルミナ・ウランゲルとして断言しても良い。彼等はこの強敵、剣機リンドヴルムに勝利するだろう!」
勇ましく、自信に満ちた声で言い切った彼女は、周囲の引き留める声も聞かずに剣機に向かって突っ込んでゆく。その姿にゼナイドの背がゾクリと震えた。
「うふ……うふふふふ……流石陛下ですわぁ。力無き者を鼓舞するためにその様なことを……!」
身悶えながら巨大ハンマーを持ち上げたゼナイドの目の前に、剣機の剣の尾が振り下ろされる。
ガキィイィィィンッ!
巨大なハンマーと剣がぶつかり合う音が響き、砂塵を纏う衝撃が周囲に向かう。
本来であればここで苦痛の表情を浮かべるのだが、陛下大好き人間は先の言葉の余韻に浸るのに夢中だった。
彼女は唇を笑みの形にして、ゼナイドとは反対の頭と対峙するヴィルヘルミナを見詰める。
「わかりましたわ、陛下! わたくしも陛下のお心に従い闘いますっ!」
小柄な体のどこにそんな力があるのか。
重なり合う刃を力の限り振り解くと、彼女は前方で新たな攻撃に移るべく体勢を整える剣機を見据えた。
そうして後方に控えるハンターに言い放つ。
「陛下がここまで仰るんですもの。貴方がた、負けたら承知しませんわよ!」
さあ、お行きなさい! そうハンマーを振り降ろして敵の攻撃を惹き付ける姿に戸惑いはあるがやるしかない。
「面白くなりそうだな」
ヴィルヘルミナは闘うべく踏み出したハンターを視界に囁くと、剣機が吐き出そうとしている機導砲に向けて盾を構えた。
「3階層第3部隊、砲撃用意!!」
帝都を目指して進み来る頭を鋼の装甲に覆われた竜――剣機リンドヴルム。
複数の傷跡と戦闘痕を刻んだ存在は、己に向けられる無数の砲台に気付くと、大きく口を開いて隠されていた円筒を覗かせた。そして容赦ない閃光を向かい来る者たちに向かって放つ。
「ッ――、3階層第2部隊砲台損傷確認、急ぐんじゃ! 3階層第4部隊は前へ!」
舞い上がる砂塵に目を眇め、帝国第十師団の指揮をとるマンゴルトが叫ぶ。この声に統率のとれた動きを見せる兵の傍らで、ハンターらも負けじと剣機に向けて刃を掲げていた。
「尻尾に気を付けろ! 来るぞッ!」
ドォォオオオンッ!
振り上げられた剣の尾が凄まじい勢いで落ちてくると、それを寸前の所で交わしたハンターが、飛び散った土と岩に視界を遮られた。
「クッ」
慌てて後方に退こうとするも視界が奪われた状態で上手くいかない。そんな中、ハンターの耳にカチカチと何かを準備する音が響いた。
(この音はさっきのガトリング……か?)
剣機の脇にあったガトリング砲が頭を掠める。そうしてようやく見え始めたハンターの目に、己に真っ直ぐ向けられているガトリング砲が飛び込んで来た。
(駄目だ、死――)
死んでしまう。そう覚悟して目を瞑った彼の耳に思わぬ声が届く。
「ボサッとするなよ」
クツリ。
耳を突いた笑い声に目を見開いた瞬間、地面に叩き付けられるような衝撃が襲った。
「ゼナイド、マンゴルトに支援強化の指示を出せ。なんなら死神を使っても構わんぞ」
「死神ならば既に剣機の後方に向かわせましたわ。それよりも陛下、兵よりも前に出るなとオズワルド様に言われてませんでしたかしら?」
「バレなければ問題ない」
「速攻でバレると思いますけれど……」
ゼナイド(kz0052)は呆れた様子で普段とは違う、顔の露出すらない黄金の鎧に身を纏うヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)を見た。
たぶん、登場初っ端でガトリング砲の射程に飛び込んだと言う情報は、瞬く間に戦場を駆け抜けてオズワルド(kz0027)の元に届くだろう。
「……帰ったら大目玉ですわね」
クスリ。そう笑ったゼナイドは、ヴィルヘルミナがガトリング掃射より庇うために放ったハンターに目を向けた。
「早く持ち場に戻りなさい。ここはわたくしたちが引き受けますわ」
言って顎で示した先には、魔導トラックの荷台から降りてくるハンターや兵士の姿がある。
「援軍?」
「援軍だなんて、そんなチープな物ではありませんわ。真打登場ですわよ」
ドーンッと胸を張ったゼナイドに、ハンターが呆然と瞬く。だがこうした遣り取りはここまでだった。
「ほう、これは面白い」
ニイッと仮面の下で笑んだヴィルヘルミナは、竜の姿が報告と違う事に気付いた。
本来は双頭であるはずの竜の首が1本しかない上、尾の剣も同様に1本に減っている。
だが敵がいる以上闘わない謂われはない。
「ゼナイド、わかっているな?」
「……本当に、よろしいんですの?」
声を潜めて問う声に「何が」を問う気配がする。
「彼等、死ぬかもしれませんわよ」
チラリと見遣った先には、剣機の姿を目にして思い思いの体勢を取るハンターの姿がある。
(剣機の体力はだいぶ消耗してますわ。ですが、彼等の力が剣機を越えているとは思えませんもの……もし越えていなければ――)
「そうはならんさ」
そう言い切ったヴィルヘルミナは、己が盾を掲げて見せると何処か楽しげに刃を抜いた。
「私には彼等が負けるとは思えん。ゾンネンシュトラール帝国皇帝ヴィルヘルミナ・ウランゲルとして断言しても良い。彼等はこの強敵、剣機リンドヴルムに勝利するだろう!」
勇ましく、自信に満ちた声で言い切った彼女は、周囲の引き留める声も聞かずに剣機に向かって突っ込んでゆく。その姿にゼナイドの背がゾクリと震えた。
「うふ……うふふふふ……流石陛下ですわぁ。力無き者を鼓舞するためにその様なことを……!」
身悶えながら巨大ハンマーを持ち上げたゼナイドの目の前に、剣機の剣の尾が振り下ろされる。
ガキィイィィィンッ!
巨大なハンマーと剣がぶつかり合う音が響き、砂塵を纏う衝撃が周囲に向かう。
本来であればここで苦痛の表情を浮かべるのだが、陛下大好き人間は先の言葉の余韻に浸るのに夢中だった。
彼女は唇を笑みの形にして、ゼナイドとは反対の頭と対峙するヴィルヘルミナを見詰める。
「わかりましたわ、陛下! わたくしも陛下のお心に従い闘いますっ!」
小柄な体のどこにそんな力があるのか。
重なり合う刃を力の限り振り解くと、彼女は前方で新たな攻撃に移るべく体勢を整える剣機を見据えた。
そうして後方に控えるハンターに言い放つ。
「陛下がここまで仰るんですもの。貴方がた、負けたら承知しませんわよ!」
さあ、お行きなさい! そうハンマーを振り降ろして敵の攻撃を惹き付ける姿に戸惑いはあるがやるしかない。
「面白くなりそうだな」
ヴィルヘルミナは闘うべく踏み出したハンターを視界に囁くと、剣機が吐き出そうとしている機導砲に向けて盾を構えた。
リプレイ本文
「グライシュタットの事はこっちじゃどうにもなんねぇっす。ここは目の前の剣機に集中するっすよ!」
移動途中で受けた報告に無限 馨(ka0544)が零した言葉はこれから戦場に立つ彼等が胸に刻む言葉だ。
「ここが目的地――」
魔導トラックが停車するのと同時に飛び込んで来た剣機リンドヴルムの姿。それにヴィルヘルミナとゼナイドが飛び出してゆくと、剣機は巨大な剣の尾を振り上げて襲い掛かって来た。
ガキイィィンッ!
響く金属音と共に舞い上がった砂塵にCharlotte・V・K(ka0468)が唇に笑みを刻む。
「剣機リンドヴルム……こんな美味しい戦いを、この少ない人数で出来るのは運がいい」
クツリと笑って銃に装填してある弾を確認する。その姿を見やって、フェルム・ニンバス(ka2974)は呆れたように目を細めた。
「運が良いってこの状況で言うか?」
「見た感じ聞いてた形状と随分違うか……でも、かなりの損傷を受けている様子……言われずとも見逃す手はないね」
フェルムに「まあまあ」と声を掛けつつ鳳 覚羅(ka0862)は剣機の現状を目で確かめた。
見た限り、剣機の背にあったとされる翼は消えている。これは先鋒隊の成果の賜物だろう。
他にも敵が分離した事で戦闘能力が落ちたのだろうが、それに関しては結局脅威が2つに増えたという点を考えると良いのか悪いのか判断しかねる事案だ。
「それにしても……」
チラリと見遣った先には黄金の鎧を纏って剣を振るうヴィルヘルミナの姿がある。
「フフ、威風堂々って感じだね……只者ではないとは思ってはいたけど流石だ」
覚羅の声を拾ったGacrux(ka2726)が目を細める。
先の言葉は勿論、率先して戦場に立つ姿は兵士の士気を高め、着いて行こうと言う意思を高めさせる。
「これが帝国の皇帝……噂に違わぬカリスマ性ですね。皇帝の人間性を見定めるには良い機会ですよ……」
「つーか分離できるってすげーな。帝国もこういうのあればいいんじゃね?」
「あれば百人力でしょうが……」
如何でしょう。そう苦笑したGacruxにフェルムが首を傾げる。
「機械の部分だけでもなんか使えねえかな……となると部分破壊をして部品を――」
「部品採取を目的とするかは別として、部位破壊を目指すのは賛成かな」
覚羅やGacruxと同じくヴィルヘルミナを見ていた結城綾斗(ka2092)は柔らかな笑みを唇に湛えて囁く。
その上で「食えない人だな」と陛下に対して零すと、腰に帯びた刀に手を伸ばした。
「破壊を目指す箇所は尻尾の剣と脇にあるガトリングで良いかな? それで良いなら俺はガトリングに行こう」
「ん? ああ。なら俺は皇帝の支援に行くか」
あんたはどうする? そう振り返ったフェルムの後ろでは、「ふ、ふふん」と引き攣った笑みを浮かべるアイヴィー アディンセル(ka2668)が居た。
「また現れたわね。そう、そんなにこの可憐な私に興味があるのね!」
「そう言いながら腰が引けてるぞ」
ボソッと呟きながら細身の杖の状態を確認するフェルム。その姿に眉を寄せると、自身の杖を握り締めてトラックから飛び降りた。
「仕方が無いわね……いいわ、折角だから相手をしてあげる! それに、そっちの貴方!」
ビシッと指を指した先にはゼナイドが居る。
「貴方に言われずともこの私が負ける訳無いわ!」
「ええ。巨大な歪虚……それがもたらす悲劇など、私は許しはしない! 歪虚滅ぼすべし!」
キッと視線を上げて見据えた先に居る剣機の頭はヴィルヘルミナに釘付けだ。それを視界に納めながらセリス・アルマーズ(ka1079)は胸の前で手を組んだ。
「エクラの加護を」
スウッと息を吸い込んで瞼を伏せ、それを開けた時彼女は動き出していた。
「援護するよー♪」
短杖を手の中で回したユノ(ka0806)もまた駆け出す。彼が目指すのはゼナイドが剣機を相手にする後方部だ。
それと同じく後方に駆けて行くのは毛皮の鎧を纏うミリア・コーネリウス(ka1287)だ。
彼女は身の丈以上の剣を両手に握り締めると、ゼナイドと剣機のいる領域に一気に踏み込んだ。
「支援はお任せします。ゼナイド師団長、勝手ながら助力させていただきますっ!」
踏み込みと同時に渾身の力を振り絞って剣を振り下げる。そして空を仰ぐように剣を振り上げると、ゼナイドに向かって振り下ろされる剣機の尾を叩いた。
(重い!)
腕に掛かった衝撃と痺れに目を見開く。だが何より驚くべくは、これが剣機の尾を叩いただけだと言う事だ。
「おい、下がんな!」
触れただけだった剣を不快に思ったのだろうか。剣機が自らの尾を横に反し、凄まじい勢いで振り薙いできた。
これに一瞬だけ間を開けてしまったミリアの目が更に見開かれる。
「?!」
首根っこを掴まれるのと同時に地面に叩き付けられる衝撃で目を閉じそうになる。だが閉じる事は出来なかった。
「クロイツァーさん!」
「ッ、ぅッ!」
衝撃を受けた瞬間、ミリアの視界ではガラスのような防護壁が飛び散った。それと同時にCharlotteが盾ごと剣に吹き飛ばされるのも見えてしまった。
「……これで、掠った程度か」
ふふっと笑いを零しながら額から零れる血を拭う。そうして盾を杖代わりにして立ち上がると、同じように立ち上がったミリアを見た。
「無事かね?」
「はい。クロイツァーさんのお蔭です」
そう言いながら埃を被った髪を横に流す。その脳裏に一瞬だけ別の戦場で闘う仲間の姿が過るが、今は闘いに集中すべきだろう。
「第2打来るわよ!」
後方支援に杖を振り上げたアイヴィーが警戒を促しながら、ミリアとCharlotte、Gacruxに緑の風を放つ。
「攻撃が落ちてきた瞬間に動きます。後は任せましたよ」
トントンっと地面を蹴って飛び出す準備をするGacruxが目指すのは剣機の尾そのもの。
「あら、まだ立ち向かいますの? 根性だけはありますのね」
「このまま終わらせるのは、私としても面白くはないからねぇ」
改めて構えた盾には若干の罅が伺える。
「……仕方ありませんわね」
ゼナイドはCharlotteの構えを見るや否や、ハンマーを斜めに構えて同じく防御の構えを取った。
そこに軽やかな風が流れてくる。
「師団長さんもがんばれー!」
ぶんぶんと小さな杖を振るユノに黒の唇が吊り上る。そしてそれが納まる間もなく、アイヴィーの言葉通り、剣機の第2打が迫った。
何の抵抗も無く真上から振り降ろされる剣にCharlotteもゼナイドも受け止める気満々だ。だが――
「そう何度も普通に攻撃させると思わない方が良い」
射程ギリギリから覚羅が痛烈な一打を放つ。それが剣機の刃にぶつかると、ほんの僅かだが起動が逸れた。
ドォオォォオンッ!
砂塵を舞い上げながら地面に叩き落とされた一撃。傍には先程と同じく防御障壁を砕かれたCharlotteの姿がある。
「苦しい、辛いの我慢している姿って素敵ね。そんなの誰にでも見せるだなんて……一体どうされたいの?」
直撃は免れたとはいえありとあらゆる場所から血を流すCharlotteにアイヴィーは恍惚とした表情で囁きかける。
「さて、ね……だが1つだけ言える事があるぞ。私はあの化け物を壊したい。今はそれ以上もそれ以下も無い」
「ふふ、それは同感♪」
クルリと回した手の中でアイヴィーの杖が躍ると、ゼナイドが引き留める尾の剣に風の刃が襲い掛かった。
それと同時にGacruxが駆け出す。
「あと何秒抑えてられますかね……まあ、やるしかないですか……」
素早い身のこなしで尾の剣に向かって飛び上がる。そして携えていた剣を尾の付け根に向かって振り下ろした。
キィィィインッ!
「っ……もう1度!」
弾かれた反動に自身の力を上乗せして振り下ろす。と、尾の付け根に剣が当る直前、彼の耳に金属の弾ける音がした。
(今のは、銃弾?)
チラリと見た先に居たのはライフルを構える覚羅の姿だ。
「有り難い……っ!」
軌道修正の時間などない。振り下ろしていた刃が凄まじい勢いで剣機の尾に突き刺さる。
ガキィィイィーーッ!
耳を裂くような金属音と共にGacruxの剣が尾に刺さった。
「ついでにこれも貰ってくれるっすかね!」
Gacruxの影から飛び上がるようにして現れた馨が、重いドリルを手に剣が突き刺さる尾を目指して襲い掛かる。
キュィィィンッ!
「ひぃいっ、固いっすよぉ!」
手に伝わる振動に涙目になりながら叫ぶ馨を他所に、ミリアが先の屈辱を果たす為に剣を取る。
「静かだから指をくわえて見ているのかと思いましたわ」
「……下がるぐらいならその一手、この一撃に使わせてもらいます」
ハンマーの鎖で剣機の尾を引き止めているゼナイドの脇を通り過ぎながらミリアが零す。それに口角を上げると、ゼナイドはミリアが成すであろう攻撃を見届けるために目を動かした。
「ガクルックスさん、この好機を感謝します!」
体を反る様にして振り上げた刃。奥歯を噛み締め、全身の力を送り込み振り降ろす。
「一刀両断、させていただきます!」
ガッ――キィーンッ!
「やった――きゃあああっ!」
尾は割れた。だが、いつまでも尾を封じられていた剣機は、尾が折れた勢いのままミリアを、そしてGacruxを、馨を振り払った。
「お尻に飛ばされ……って、無限危ないですよ……!」
転がった剣を拾い上げてGacruxが一気に駆け出す。そして未だダメージから立ち直っていない馨の腕を掴むと、飛ぶようにして地面に転がり込んだ。
「っ、ぅ……」
「てて……すみません」
抱え込まれるようにして転がった馨の横に折られた尾が突き刺さる。それに顔を蒼く染めていると、アイヴィーが得意気に腕を組んで彼らの隣に立った。
「ふふん♪ この、明敏な私に感謝する事ね!」
「……なにもしてもらってませんけど」
思わず零したGacruxにアレっと首を傾げるアイヴィー。
何はともあれ剣機の尾は折れた。残す武器は脇にあるガトリング砲と陛下の対峙する頭だ。
「まだまだ、いけるっすよ!」
そう言って立ち上がった馨は、既にガトリング砲と対峙している仲間を視界に納めていた。
●
「支援を送るよー」
舞い散る石の礫を頬に受けながら、前に出ようと動き出した綾斗に向かってユノが緑の風を放つ。
「近付けば有利とは思うんだが、なかなか巧くいかないな……」
頬を伝う血を親指の腹で拭って呟くと、綾斗は改めて刀に手を伸ばした。そして何度目かの挑戦で一歩を踏み出す。
「まったく、落ち着きのない獣だな」
尾で攻撃したりガトリング砲で攻撃したり、あちらこちらへ攻撃を飛ばす剣機に陛下が楽しげに零す。
「セリス、彼が動き易いようにもう少し派手に動くぞ。出来るな?」
「も、勿論よ!」
陛下に合せて剣機の頭と対峙していたセリスは既に息が上がっている。それもその筈、この位置にいるのは陛下とセリス、そして若干呆れたように支援を繰り出すフェルムだけだかだ。
「セリスのねーちゃん大丈夫か?」
申し訳程度に構えた盾で、飛んでくる弾を避けつつ声を掛ける。それに苦笑いを向けてから、セリスは陛下の言った派手を実践すべく息を吸い込んだ。
そして――
「我が信仰は盾であり、鎧であり、この身そのもの。我が信仰は砕けず、折れず、滅びない。故に、我は砕けぬ盾、壊れぬ壁。既に壊れている貴様に本当の不壊を見せてくれよう!」
剣を掲げて口上を述べる姿は神々しく、陛下も感心して口角を吊り上げる程。とは言え、彼女の場合は単純な関心と言うより口上への興味の方が強いのだろうが……。
「我はエクラの加護を受けし盾! この聖なる輝きを恐れぬなら……かかってこい!!」
グォオッ、と唸りを上げた剣機の口が大きく開かれる。そして中に納まった丸い筒が丸見えになると、セリスは微かに息を呑んだ。
「せ、セリスお姉さん、大丈夫かな?」
そう零したユノはハラハラした面持ちでブレスに備えるセリスを見詰める。と、そこに金属同士がぶつかる音がした。
「……、なるほど、確かに固い」
剣機の懐に飛び込んだ綾斗の一撃がガトリング砲に触れたのだ。だがその攻撃は難なく弾かれてしまう。
しかし彼は慌てない。
「こういうのは接続部分が弱いと相場が決まってるんだ」
冷静に分析しながら見ること僅か。彼の片足が後方に下がり、そしてもう片方の足が一気に前に出た。
「壊れるとは思っていない。寧ろ切っ掛けになれば良い」
後方に控える仲間ならきっとわかってくれる。そう心に秘めて渾身の一撃を放つ。
――ギュィィィイッ!
火花が散り、手には電流が走っているかのような衝撃が駆け抜ける。だが力を緩める気はない。
「グライシュタット攻撃は恐れ入ったよ。だがつまりそれって、お前は俺らの目を引く囮ってことだろ? なら、やられに来てるようなものなんだから、殺しても問題ないよなぁ?」
先には切っ掛けになれば良いと言った。だが壊れるなら壊れれば良い。寧ろ、壊れろ!
「うぉぉおおっ!」
ガチガチと日本刀の刃が軋み限界に近付く。そしてもう少しで折れる――そう思った時、援軍が到着した。
(弾、それに炎……あいつらか)
思わず唇滲んだ笑み。
攻撃の援護に加わったのは覚羅とユノだ。
「綾斗お兄さんが頑張ってるのに、ボクが何もしない訳にはいかないよー! くらえー、炎の玉ー!」
もう1つオマケにと放った炎が日本刀で押され気味になっているガトリング砲に直撃する。それに合わせて覚羅が死角から接続部を攻撃すると、綾斗はトドメとばかりに腕に力を込めた。
「折れるなよ……ッ!」
グッと力を込めた直後、
バキィイィンッ!
ドキッとするような音が響いて地面にガトリング砲が落ちた。それを見止めた陛下が声を上げる。
「さあ、今が好機だ! 一気に攻めろ!」
盾を、剣を掲げてハンターに行けと促す。そんな中、セリスは驚いた様に陛下の姿を見上げた。
「な、なんて頑丈なの……っ!」
放たれたブレス砲を盾を構える事で抑えようとしたセリスと同様に、陛下もまた盾を構えて攻撃を受け止めた。
だがそのダメージは目に見て明らかに違う。
「ふはは、この程度の攻撃で私が倒れる訳がなかろう! 無論、君もそうだろうがな?」
顔が見えなくても分かる。
不敵に笑った姿が鮮明に頭を過り、彼女の頬がかあっと赤くなった。そして何かを噛み締めるように剣を握り締めると、新たなブレス砲を放とうとする剣機に向けた。
「貴女が倒れれば、数多くの悲劇が起こる。1人のシスターとして、悲しい涙は見たくない……そう思ってた。でもまだ……っ」
力の差は歴然。それでもこの人は自分に……否、ハンターに期待している。
「私がここに居る限り! 歪虚の好きにさせはしないわ!!」
セリスは前を向くと脇目もふらずに駆け出した。
「ったく、しょうがねぇな」
ヒラリと手を動かしてセリスに再度ウィンドガストを放つ。そうして口を開いている剣機に目を向けると、フェルムは杖を弓代わりにして構えた。
「機械なら理屈で構成されてるはずだ。素体の力を増幅するにしても、効率よく出力に変換する部分がどっかしらにあるはず……動力は重装甲で覆った胴か、それとも……」
瞳を眇めて捉えた巨大な首。もしあの中に動力源があり弱点があるのなら狙ってみる価値はある。
フェルムは杖を持たない手の中に光の矢を形成すると、剣機に飛び込んでゆくセリスの動向に注視した。
「ほら、お前の相手はこっちにもいるぜ!」
迫るセリスにばかり目を向けるな。そう言わんばかりに綾斗が斬り掛かる。それに煩わしそうに首を揺らした剣機に、セリスが足を止めた。そして剣に自らの意識を傾ける。
「エクラの加護を……」
祈りを捧げ、剣を掲げ、そこに光を集中させる。そして自分に向かって首を戻してきた剣機に鋭い眼を向けると、集まった光を剣機目掛けて放った。
「神様の名の元に滅びなさいっ!」
激しく輝く光の玉が剣機の顔面目掛けて飛んでゆく。それに合わせるように剣機が溜めたブレスを放とうとした時、別の方角からも光が飛んで来た。
「ほう……これは見事だな」
剣機の口の中でぶつかった2つの弾、それが中に溜まっていたブレスを巻き込んで弾けた。
『グォォオオオッ!』
口から長い首、そして胴に到るまでに爆発しているのが見える。だが、それでも尚、剣機は自らの意思を見せるように足を動かした。
「往生際が悪いっすね。お前がいくら強くても、これだけの人間が力を合わせたんだから負ける訳にはいかないんすよ!」
部位を破壊するために攻撃をしていた馨が、素早く足の裏に回り込む。そうして手にしていたドリルを起動させると、勢いよく突き立てた。
ドォオオンッ!
砂を巻き上げながら倒れた剣機を待っていたかのように突き入れられる剣。それはセリスが最期に放った、渾身の一撃だった。
●
「せっかく選んだのに皇帝が空位になったら、税金の無駄じゃないか……」
紫煙を吐き出しながら呟くCharlotteの隣では、フェルムが陛下に問い掛けていた。
「皇帝ってなら後ろでふんぞり返ってていいんじゃねえの? てか、あんたこれ来るの知ってたんじゃねえだろうな」
「さて、どうだろうな」
陛下は不敵にそう答えると、剣機を討伐し疲れ切ったように地面に座り込むハンターを誇らしげに見下ろした。
移動途中で受けた報告に無限 馨(ka0544)が零した言葉はこれから戦場に立つ彼等が胸に刻む言葉だ。
「ここが目的地――」
魔導トラックが停車するのと同時に飛び込んで来た剣機リンドヴルムの姿。それにヴィルヘルミナとゼナイドが飛び出してゆくと、剣機は巨大な剣の尾を振り上げて襲い掛かって来た。
ガキイィィンッ!
響く金属音と共に舞い上がった砂塵にCharlotte・V・K(ka0468)が唇に笑みを刻む。
「剣機リンドヴルム……こんな美味しい戦いを、この少ない人数で出来るのは運がいい」
クツリと笑って銃に装填してある弾を確認する。その姿を見やって、フェルム・ニンバス(ka2974)は呆れたように目を細めた。
「運が良いってこの状況で言うか?」
「見た感じ聞いてた形状と随分違うか……でも、かなりの損傷を受けている様子……言われずとも見逃す手はないね」
フェルムに「まあまあ」と声を掛けつつ鳳 覚羅(ka0862)は剣機の現状を目で確かめた。
見た限り、剣機の背にあったとされる翼は消えている。これは先鋒隊の成果の賜物だろう。
他にも敵が分離した事で戦闘能力が落ちたのだろうが、それに関しては結局脅威が2つに増えたという点を考えると良いのか悪いのか判断しかねる事案だ。
「それにしても……」
チラリと見遣った先には黄金の鎧を纏って剣を振るうヴィルヘルミナの姿がある。
「フフ、威風堂々って感じだね……只者ではないとは思ってはいたけど流石だ」
覚羅の声を拾ったGacrux(ka2726)が目を細める。
先の言葉は勿論、率先して戦場に立つ姿は兵士の士気を高め、着いて行こうと言う意思を高めさせる。
「これが帝国の皇帝……噂に違わぬカリスマ性ですね。皇帝の人間性を見定めるには良い機会ですよ……」
「つーか分離できるってすげーな。帝国もこういうのあればいいんじゃね?」
「あれば百人力でしょうが……」
如何でしょう。そう苦笑したGacruxにフェルムが首を傾げる。
「機械の部分だけでもなんか使えねえかな……となると部分破壊をして部品を――」
「部品採取を目的とするかは別として、部位破壊を目指すのは賛成かな」
覚羅やGacruxと同じくヴィルヘルミナを見ていた結城綾斗(ka2092)は柔らかな笑みを唇に湛えて囁く。
その上で「食えない人だな」と陛下に対して零すと、腰に帯びた刀に手を伸ばした。
「破壊を目指す箇所は尻尾の剣と脇にあるガトリングで良いかな? それで良いなら俺はガトリングに行こう」
「ん? ああ。なら俺は皇帝の支援に行くか」
あんたはどうする? そう振り返ったフェルムの後ろでは、「ふ、ふふん」と引き攣った笑みを浮かべるアイヴィー アディンセル(ka2668)が居た。
「また現れたわね。そう、そんなにこの可憐な私に興味があるのね!」
「そう言いながら腰が引けてるぞ」
ボソッと呟きながら細身の杖の状態を確認するフェルム。その姿に眉を寄せると、自身の杖を握り締めてトラックから飛び降りた。
「仕方が無いわね……いいわ、折角だから相手をしてあげる! それに、そっちの貴方!」
ビシッと指を指した先にはゼナイドが居る。
「貴方に言われずともこの私が負ける訳無いわ!」
「ええ。巨大な歪虚……それがもたらす悲劇など、私は許しはしない! 歪虚滅ぼすべし!」
キッと視線を上げて見据えた先に居る剣機の頭はヴィルヘルミナに釘付けだ。それを視界に納めながらセリス・アルマーズ(ka1079)は胸の前で手を組んだ。
「エクラの加護を」
スウッと息を吸い込んで瞼を伏せ、それを開けた時彼女は動き出していた。
「援護するよー♪」
短杖を手の中で回したユノ(ka0806)もまた駆け出す。彼が目指すのはゼナイドが剣機を相手にする後方部だ。
それと同じく後方に駆けて行くのは毛皮の鎧を纏うミリア・コーネリウス(ka1287)だ。
彼女は身の丈以上の剣を両手に握り締めると、ゼナイドと剣機のいる領域に一気に踏み込んだ。
「支援はお任せします。ゼナイド師団長、勝手ながら助力させていただきますっ!」
踏み込みと同時に渾身の力を振り絞って剣を振り下げる。そして空を仰ぐように剣を振り上げると、ゼナイドに向かって振り下ろされる剣機の尾を叩いた。
(重い!)
腕に掛かった衝撃と痺れに目を見開く。だが何より驚くべくは、これが剣機の尾を叩いただけだと言う事だ。
「おい、下がんな!」
触れただけだった剣を不快に思ったのだろうか。剣機が自らの尾を横に反し、凄まじい勢いで振り薙いできた。
これに一瞬だけ間を開けてしまったミリアの目が更に見開かれる。
「?!」
首根っこを掴まれるのと同時に地面に叩き付けられる衝撃で目を閉じそうになる。だが閉じる事は出来なかった。
「クロイツァーさん!」
「ッ、ぅッ!」
衝撃を受けた瞬間、ミリアの視界ではガラスのような防護壁が飛び散った。それと同時にCharlotteが盾ごと剣に吹き飛ばされるのも見えてしまった。
「……これで、掠った程度か」
ふふっと笑いを零しながら額から零れる血を拭う。そうして盾を杖代わりにして立ち上がると、同じように立ち上がったミリアを見た。
「無事かね?」
「はい。クロイツァーさんのお蔭です」
そう言いながら埃を被った髪を横に流す。その脳裏に一瞬だけ別の戦場で闘う仲間の姿が過るが、今は闘いに集中すべきだろう。
「第2打来るわよ!」
後方支援に杖を振り上げたアイヴィーが警戒を促しながら、ミリアとCharlotte、Gacruxに緑の風を放つ。
「攻撃が落ちてきた瞬間に動きます。後は任せましたよ」
トントンっと地面を蹴って飛び出す準備をするGacruxが目指すのは剣機の尾そのもの。
「あら、まだ立ち向かいますの? 根性だけはありますのね」
「このまま終わらせるのは、私としても面白くはないからねぇ」
改めて構えた盾には若干の罅が伺える。
「……仕方ありませんわね」
ゼナイドはCharlotteの構えを見るや否や、ハンマーを斜めに構えて同じく防御の構えを取った。
そこに軽やかな風が流れてくる。
「師団長さんもがんばれー!」
ぶんぶんと小さな杖を振るユノに黒の唇が吊り上る。そしてそれが納まる間もなく、アイヴィーの言葉通り、剣機の第2打が迫った。
何の抵抗も無く真上から振り降ろされる剣にCharlotteもゼナイドも受け止める気満々だ。だが――
「そう何度も普通に攻撃させると思わない方が良い」
射程ギリギリから覚羅が痛烈な一打を放つ。それが剣機の刃にぶつかると、ほんの僅かだが起動が逸れた。
ドォオォォオンッ!
砂塵を舞い上げながら地面に叩き落とされた一撃。傍には先程と同じく防御障壁を砕かれたCharlotteの姿がある。
「苦しい、辛いの我慢している姿って素敵ね。そんなの誰にでも見せるだなんて……一体どうされたいの?」
直撃は免れたとはいえありとあらゆる場所から血を流すCharlotteにアイヴィーは恍惚とした表情で囁きかける。
「さて、ね……だが1つだけ言える事があるぞ。私はあの化け物を壊したい。今はそれ以上もそれ以下も無い」
「ふふ、それは同感♪」
クルリと回した手の中でアイヴィーの杖が躍ると、ゼナイドが引き留める尾の剣に風の刃が襲い掛かった。
それと同時にGacruxが駆け出す。
「あと何秒抑えてられますかね……まあ、やるしかないですか……」
素早い身のこなしで尾の剣に向かって飛び上がる。そして携えていた剣を尾の付け根に向かって振り下ろした。
キィィィインッ!
「っ……もう1度!」
弾かれた反動に自身の力を上乗せして振り下ろす。と、尾の付け根に剣が当る直前、彼の耳に金属の弾ける音がした。
(今のは、銃弾?)
チラリと見た先に居たのはライフルを構える覚羅の姿だ。
「有り難い……っ!」
軌道修正の時間などない。振り下ろしていた刃が凄まじい勢いで剣機の尾に突き刺さる。
ガキィィイィーーッ!
耳を裂くような金属音と共にGacruxの剣が尾に刺さった。
「ついでにこれも貰ってくれるっすかね!」
Gacruxの影から飛び上がるようにして現れた馨が、重いドリルを手に剣が突き刺さる尾を目指して襲い掛かる。
キュィィィンッ!
「ひぃいっ、固いっすよぉ!」
手に伝わる振動に涙目になりながら叫ぶ馨を他所に、ミリアが先の屈辱を果たす為に剣を取る。
「静かだから指をくわえて見ているのかと思いましたわ」
「……下がるぐらいならその一手、この一撃に使わせてもらいます」
ハンマーの鎖で剣機の尾を引き止めているゼナイドの脇を通り過ぎながらミリアが零す。それに口角を上げると、ゼナイドはミリアが成すであろう攻撃を見届けるために目を動かした。
「ガクルックスさん、この好機を感謝します!」
体を反る様にして振り上げた刃。奥歯を噛み締め、全身の力を送り込み振り降ろす。
「一刀両断、させていただきます!」
ガッ――キィーンッ!
「やった――きゃあああっ!」
尾は割れた。だが、いつまでも尾を封じられていた剣機は、尾が折れた勢いのままミリアを、そしてGacruxを、馨を振り払った。
「お尻に飛ばされ……って、無限危ないですよ……!」
転がった剣を拾い上げてGacruxが一気に駆け出す。そして未だダメージから立ち直っていない馨の腕を掴むと、飛ぶようにして地面に転がり込んだ。
「っ、ぅ……」
「てて……すみません」
抱え込まれるようにして転がった馨の横に折られた尾が突き刺さる。それに顔を蒼く染めていると、アイヴィーが得意気に腕を組んで彼らの隣に立った。
「ふふん♪ この、明敏な私に感謝する事ね!」
「……なにもしてもらってませんけど」
思わず零したGacruxにアレっと首を傾げるアイヴィー。
何はともあれ剣機の尾は折れた。残す武器は脇にあるガトリング砲と陛下の対峙する頭だ。
「まだまだ、いけるっすよ!」
そう言って立ち上がった馨は、既にガトリング砲と対峙している仲間を視界に納めていた。
●
「支援を送るよー」
舞い散る石の礫を頬に受けながら、前に出ようと動き出した綾斗に向かってユノが緑の風を放つ。
「近付けば有利とは思うんだが、なかなか巧くいかないな……」
頬を伝う血を親指の腹で拭って呟くと、綾斗は改めて刀に手を伸ばした。そして何度目かの挑戦で一歩を踏み出す。
「まったく、落ち着きのない獣だな」
尾で攻撃したりガトリング砲で攻撃したり、あちらこちらへ攻撃を飛ばす剣機に陛下が楽しげに零す。
「セリス、彼が動き易いようにもう少し派手に動くぞ。出来るな?」
「も、勿論よ!」
陛下に合せて剣機の頭と対峙していたセリスは既に息が上がっている。それもその筈、この位置にいるのは陛下とセリス、そして若干呆れたように支援を繰り出すフェルムだけだかだ。
「セリスのねーちゃん大丈夫か?」
申し訳程度に構えた盾で、飛んでくる弾を避けつつ声を掛ける。それに苦笑いを向けてから、セリスは陛下の言った派手を実践すべく息を吸い込んだ。
そして――
「我が信仰は盾であり、鎧であり、この身そのもの。我が信仰は砕けず、折れず、滅びない。故に、我は砕けぬ盾、壊れぬ壁。既に壊れている貴様に本当の不壊を見せてくれよう!」
剣を掲げて口上を述べる姿は神々しく、陛下も感心して口角を吊り上げる程。とは言え、彼女の場合は単純な関心と言うより口上への興味の方が強いのだろうが……。
「我はエクラの加護を受けし盾! この聖なる輝きを恐れぬなら……かかってこい!!」
グォオッ、と唸りを上げた剣機の口が大きく開かれる。そして中に納まった丸い筒が丸見えになると、セリスは微かに息を呑んだ。
「せ、セリスお姉さん、大丈夫かな?」
そう零したユノはハラハラした面持ちでブレスに備えるセリスを見詰める。と、そこに金属同士がぶつかる音がした。
「……、なるほど、確かに固い」
剣機の懐に飛び込んだ綾斗の一撃がガトリング砲に触れたのだ。だがその攻撃は難なく弾かれてしまう。
しかし彼は慌てない。
「こういうのは接続部分が弱いと相場が決まってるんだ」
冷静に分析しながら見ること僅か。彼の片足が後方に下がり、そしてもう片方の足が一気に前に出た。
「壊れるとは思っていない。寧ろ切っ掛けになれば良い」
後方に控える仲間ならきっとわかってくれる。そう心に秘めて渾身の一撃を放つ。
――ギュィィィイッ!
火花が散り、手には電流が走っているかのような衝撃が駆け抜ける。だが力を緩める気はない。
「グライシュタット攻撃は恐れ入ったよ。だがつまりそれって、お前は俺らの目を引く囮ってことだろ? なら、やられに来てるようなものなんだから、殺しても問題ないよなぁ?」
先には切っ掛けになれば良いと言った。だが壊れるなら壊れれば良い。寧ろ、壊れろ!
「うぉぉおおっ!」
ガチガチと日本刀の刃が軋み限界に近付く。そしてもう少しで折れる――そう思った時、援軍が到着した。
(弾、それに炎……あいつらか)
思わず唇滲んだ笑み。
攻撃の援護に加わったのは覚羅とユノだ。
「綾斗お兄さんが頑張ってるのに、ボクが何もしない訳にはいかないよー! くらえー、炎の玉ー!」
もう1つオマケにと放った炎が日本刀で押され気味になっているガトリング砲に直撃する。それに合わせて覚羅が死角から接続部を攻撃すると、綾斗はトドメとばかりに腕に力を込めた。
「折れるなよ……ッ!」
グッと力を込めた直後、
バキィイィンッ!
ドキッとするような音が響いて地面にガトリング砲が落ちた。それを見止めた陛下が声を上げる。
「さあ、今が好機だ! 一気に攻めろ!」
盾を、剣を掲げてハンターに行けと促す。そんな中、セリスは驚いた様に陛下の姿を見上げた。
「な、なんて頑丈なの……っ!」
放たれたブレス砲を盾を構える事で抑えようとしたセリスと同様に、陛下もまた盾を構えて攻撃を受け止めた。
だがそのダメージは目に見て明らかに違う。
「ふはは、この程度の攻撃で私が倒れる訳がなかろう! 無論、君もそうだろうがな?」
顔が見えなくても分かる。
不敵に笑った姿が鮮明に頭を過り、彼女の頬がかあっと赤くなった。そして何かを噛み締めるように剣を握り締めると、新たなブレス砲を放とうとする剣機に向けた。
「貴女が倒れれば、数多くの悲劇が起こる。1人のシスターとして、悲しい涙は見たくない……そう思ってた。でもまだ……っ」
力の差は歴然。それでもこの人は自分に……否、ハンターに期待している。
「私がここに居る限り! 歪虚の好きにさせはしないわ!!」
セリスは前を向くと脇目もふらずに駆け出した。
「ったく、しょうがねぇな」
ヒラリと手を動かしてセリスに再度ウィンドガストを放つ。そうして口を開いている剣機に目を向けると、フェルムは杖を弓代わりにして構えた。
「機械なら理屈で構成されてるはずだ。素体の力を増幅するにしても、効率よく出力に変換する部分がどっかしらにあるはず……動力は重装甲で覆った胴か、それとも……」
瞳を眇めて捉えた巨大な首。もしあの中に動力源があり弱点があるのなら狙ってみる価値はある。
フェルムは杖を持たない手の中に光の矢を形成すると、剣機に飛び込んでゆくセリスの動向に注視した。
「ほら、お前の相手はこっちにもいるぜ!」
迫るセリスにばかり目を向けるな。そう言わんばかりに綾斗が斬り掛かる。それに煩わしそうに首を揺らした剣機に、セリスが足を止めた。そして剣に自らの意識を傾ける。
「エクラの加護を……」
祈りを捧げ、剣を掲げ、そこに光を集中させる。そして自分に向かって首を戻してきた剣機に鋭い眼を向けると、集まった光を剣機目掛けて放った。
「神様の名の元に滅びなさいっ!」
激しく輝く光の玉が剣機の顔面目掛けて飛んでゆく。それに合わせるように剣機が溜めたブレスを放とうとした時、別の方角からも光が飛んで来た。
「ほう……これは見事だな」
剣機の口の中でぶつかった2つの弾、それが中に溜まっていたブレスを巻き込んで弾けた。
『グォォオオオッ!』
口から長い首、そして胴に到るまでに爆発しているのが見える。だが、それでも尚、剣機は自らの意思を見せるように足を動かした。
「往生際が悪いっすね。お前がいくら強くても、これだけの人間が力を合わせたんだから負ける訳にはいかないんすよ!」
部位を破壊するために攻撃をしていた馨が、素早く足の裏に回り込む。そうして手にしていたドリルを起動させると、勢いよく突き立てた。
ドォオオンッ!
砂を巻き上げながら倒れた剣機を待っていたかのように突き入れられる剣。それはセリスが最期に放った、渾身の一撃だった。
●
「せっかく選んだのに皇帝が空位になったら、税金の無駄じゃないか……」
紫煙を吐き出しながら呟くCharlotteの隣では、フェルムが陛下に問い掛けていた。
「皇帝ってなら後ろでふんぞり返ってていいんじゃねえの? てか、あんたこれ来るの知ってたんじゃねえだろうな」
「さて、どうだろうな」
陛下は不敵にそう答えると、剣機を討伐し疲れ切ったように地面に座り込むハンターを誇らしげに見下ろした。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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作戦会議 結城綾斗(ka2092) 人間(リアルブルー)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/10/05 18:53:14 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/09/30 21:48:56 |