ゲスト
(ka0000)
歳末人間模様
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2016/12/23 19:00
- 完成日
- 2016/12/28 01:13
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
年の瀬の近づく町には、雪がちらついている。
コボルドコボちゃんはハンターオフィス・ジェオルジ支部から花屋さんへ、お手伝いに来ていた。クリスマスローズやポインセチア、ヒイラギといった品が目白押し。リボンやベルを飾りつけたリースなんかも販売中。
「わし、わしわし!」
コボちゃんは全身もこもこしているので、この位の寒さなんかへっちゃら。店の案内看板にチョークでヤキニク、スキヤキ、ホットドグと好きな食べ物の名を書き連ね、店主のベムブルに叱られている。
「こらっ、落書きしない!」
そこへ、背の高い女性が通りがかった。褐色の肌に切れ長の瞳。長い黒髪を後ろで一つに束ねている。
彼女はコボちゃんを見て、言った。
「あらかわいい。坊や、幾つ?」
コボちゃん、鼻をひくひくさせる。
このメスの匂い、嗅ぎ覚えのある奴に似ているような……。
●
ハンターオフィス・ジェオルジ支部。
今日はコボちゃんが不在なので静か。もとよりお客も少ないし。
「明日は積もりそうね……」
呟きながら職員マリーは、窓から壁のカレンダーへと視線を移した。
(……今年も後わずかで終わってしまう。彼氏の一人も出来ないままだったわ……)
いつもならここで叫び声の一つも上げ、壁を殴りつけるところだ。
でも、今のマリーはそうしない。
同僚のジュアン(♂)が最近彼氏と喧嘩したことに、たとえようもない喜びを感じている真っ最中なので。
性格が悪いというなかれ。ほぼ毎週、いや毎日のようにいちゃいちゃぶりを見せつけてきたジュアンにも、責任があるのである――不注意すぎる、という。
「……何なの、ニヤニヤして」
「ううん、別になんでも? 雪景色って素敵よねジュアン。この世の汚いものを何もかも覆い尽くしてくれるから。ウフフ」
マリーは今、果てしなくストレスフリー。いつになく穏やか。
その逆にジュアンは、もやもや抱えて憂い顔。時折ペンの手を止めて、ため息なんかついている。
●
東方式焼肉屋『黄金の味』。
二階座敷席では、ビールのジョッキをぶつけ合っているハンターたちの姿。
「それでは、ちょっと早いけど今年もお疲れさまー!」
「来年もよろしくー!」
「い、えーぃ!」
彼らはこれから忘年会を行うところ。
時期がちょっと早いけれども、仕方ない。皆の休みが重なるのが、今日しかなかったのだから。
とことん騒ごう――そう思って飲み始める八橋杏子。
しかし、隣の席のアレックスは、ずっとさえない顔をしている。
こういうときは率先してノリ始める人間のはずなのに、一体どういうことか。
「アレックス、どうしたの?」
「……いや、別に……」
何度聞いても要領を得ない答えしか返ってこないので、杏子は、彼の同居人であるカチャに聞いてみることにした。
「ねえ、アレックス、何かあった?」
すでに出来あがりかけているカチャは、口が軽かった。
「えー? たいしたことじゃないんですよ。アレックスさん、いま、ジュアンさんにくちきいてもらえないじょうたいでー、ないしょでー、おみせであそんでてー、それがばれちゃってー、ジュアンさんめちゃくちゃおこってー、まどうじゅうもちだしてきてー」
そのとき、不意に座敷のふすまが開いた。
見知らぬ女が入ってくる。褐色の肌に黒い目、黒い髪。
「お楽しみのところ、失礼しますね。アレックス坊ちゃん、お久しぶり」
「あ、おお……久しぶりだな、ケチャ」
カチャの酔いはにわかに醒め果てた。声が裏返る。
「お、お母さん!? なんでここに!?」
「急遽里帰りさせによ。今年はうちの家が年末祭礼の総代を受け持つことになったの。あなた、神子役務めなさい」
「なんで!? あれ長男がやることでしょう!? うちにはキクルがいるじゃない! キクルにやらせてよ!」
「もちろんやらせたわよ。そしたらあの子、初日の滝下りでダウンして、そのまま起き上がれなくなってねえ」
「つっ……使えない奴っ……」
「弟に対してそんなこというものじゃないわ。さあ、帰りましょう。神子が集落全戸の餅つきをして狼の出る雪深い山を踏破し絶壁の上の鐘を108回鳴らさないと、うちの部族の守護精霊が怒り狂い、いい新年が迎えられなくなるのよ」
「そんなの絶対迷信だから!! 帰りたくないからっ!!」
「それでは皆さん、アレックス坊ちゃん、失礼致しますね。よいお年を」
「いやああああー!!」
カチャ、母に引きずられて宴席から強制退場。
彼女は今年の年末年始を、故郷で迎えることになりそうだ。
リプレイ本文
「いーやーだー! 絶対いやー!」
「この子はまた、柱にしがみついたりして……友達が折角ハンドベルトと盾を貸してくれたんでしょう。厚意を無にするのはよくないわよ」
「カチャ殿、伝統と言う物は受け継いでいかなければならんものじゃ。途絶えさせることは容易成れど後世に禍根を残すようではいかんぞ」
「あんな伝統いらな……いだだだだ指もげる指折れるお母さん止めていだだだ」
「ねえカチャ、物事はいい面も見ないと。今回は家の手伝いだから今月の仕送りは許してくれそうだし、成功させれば氏子の皆がご祝儀くれるよ、きっと♪」
「初めまして、カチャのお母様。あたしはカチャの大友人で、リナリスと言います。よろしければあたしも、儀式に参加させてもらってよろしいですか? 手助けしてあげたいんです♪」
「差し支えなければ、私も儀式に参加せてもらえませんか。この前、変な夢を見てから、ある衝動が止まらなくて困っていまして、ここは精神修養も兼ねて参加してみようかと思いました……ええ、カチャさんを快楽で滅茶苦茶にして、私なしでは生きられない体にしたくてたまらないんですよね」
「なんだなんだ。面白そうなことが起きてんじゃねえか。俺も交ぜてくれよ」
「む? 貴殿はどこのどなたじゃ?」
カチャ、ケチャ、ミグ・ロマイヤー(ka0665)、メイム(ka2290)、リナリス・リーカノア(ka5126)、エルバッハ・リオン(ka2434)、南護 炎(ka6651)、ディヤー・A・バトロス(ka5743)。以上8名の集団が、『黄金の味』から出て行く。
天竜寺 詩(ka0396)と鵤(ka3319)は座敷の窓から身を乗り出し、手を振って見送った。
「カチャ、頑張ってね~。儀式が終わったら盾とハンドベル返してね~」
「おーおー元気な連中ですことぉ。まー気ぃ付けていってらっしゃいよー」
ジョッキ片手に杏子が言った。
「2人は行かないんだ?」
鵤はそそくさ窓を閉め、もといた席に座り直す。
「あ? 当然よ。わざわざくっそ寒い中儀式だ何だするような元気はございませぇーんってなぁ? ところで詩ちゃん、ベルに反応するのは熊じゃねえの?」
「あれ? そうだっけ?……まぁいいか」
間違いをあっさり片付け席に戻った詩は、手酌酒をしているアレックスに話しかける。
「所でアレックスさん、浮気は良くないよ、浮気は。まぁ私はお父さんの浮気で出来た子供だけどね」
アレックスはお銚子を置いた。嘆息し、詩の顔を見る。
「そうか。じゃあ、これまでなかなか大変だったろ」
「うん。でも、不幸ってわけじゃないから。家族仲はいいの、とっても。よすぎて時々鬱陶しくなるけど」
鵤は中座した人々が残して行った肉を、自分以外の皿に盛りまくる。
「誰しも色々あらあな。ほぅら遠慮せずにガンガン行きなさいよガンガン……で、なんだ? アレックス君、その愛しのジュアンちゃんがどうしたってぇ?」
それに片端から手をつけて行く杏子。
「ちゃん、じゃないわよ。君よ。ジュアンは男」
「……あ? んなもんどっちでも変わらんだろ」
「……まあ確かに。使うところがちょっと違うだけよね」
「おー、きわどい発言だねぇ。おっさんその手のワイ談超好きよー」
ぐだぐだやってる大人達を放置し、詩は、事態の解決に乗り出る。
「ちゃんと謝ってジュアンさんに許してもらわないと。そうだ、持っていく手土産を作ろう!」
●
轟々音を立てる落差20メートルの滝。
「ちょっと待ってちょっと待って滝下りキクルがしたんだから私はもうしなくてもいいはっ」
激流にぶん投げられたカチャがあっと言う間に流れに飲まれ姿を消す。
投げた張本人であるケチャは断崖から身を乗り出し、はるか下の滝壺に叫んだ。
「早く出てらっしゃい!」
一部始終を間近で見ていた炎は、拳をぐっと握り締める。
「こんなイカレタ……もとい、珍しい祭りなんてリアルブルーでも無かったな……なんだか楽しそうだ」
対しディヤーは神妙な面持ち。辺境出身の彼にとってこの種の通過儀礼は、馴染み深いものなのだ。
「変な慣わしとも思わんが? 強くあらねば部族は生き残れぬ。しかしこれ、滝下りと言うより滝落としではないかの」
ミグはケチャの横に並び、両手を口に当て呼びかける。
「うぉーい、生きとるかー?」
激しい水音と咳き込む声が聞こえてきた。
「おうぇ! げほげげほ! かはっ!」
滝壺の周囲に陣取るのは部族の人々、リナリス、リオン。
自力で這い上がってきたカチャを拍手で迎える。
「よかったね、近年まれに見る好タイムだって!」
「これまでの記録で5本の指に入るらしいですよ」
「ああそうですか……私寒くて死にそうなんですけど」
そこにメイムが近づいてきて、杵を贈呈。
「餅つきやってれば、服も体も乾くよ。だいじょーぶ、合いの手はお任せ♪」
滝の上から縄梯子を伝い降りてきた炎が、背中を叩きアドバイス。
「いいかい。餅をこねる担当が手を入れた瞬間を狙って杵を振り下ろすんだ」
それを聞いたメイムは、にっこりして付け加える。
「ここであたしの手を打つと後で助けの手が減るからね?」
カチャがどっちの助言を選ぶかは、考えるまでもなかった。
●
『黄金の味』の店先。
鵤はツマヨウジを咥え、満足げに腹をさする。
「いやー。タダ飯タダ酒は最高だな」
アレックスと詩の手には、保冷箱がある。中に詰められているのは、詩お手製の冷しゃぶ――店の人に頼み作らせてもらったのだ。
「じゃ、しっかりね」
「おお、悪いな、世話になって」
「困ったときはお互い様だよ」
詩に背を押され一人離れて行くアレックス。
杏子が詩に耳打ちする。
「大丈夫かしらね?」
「大丈夫だよ。反省してるみたいだし。そうだ、杏子さん、鵤さん、ついでだからコボちゃんに会っていかない?」
●
「戸数結構あったね。100軒だったっけ?」
額の汗を拭うメイム。
餅つきを終えたカチャは、彼女に感謝の意を述べた。杵を体の支えにしつつ。
「101軒ですよ……手伝ってくれてありがとうございますメイムさぐおっ」
「あー、腰やっちゃった? セルフ回復かけたほうがいいかもよ?」
「そうしまず……」
そこにリナリスが現れた。
「カチャ、着替えしよ♪」
その手に持つのは、部族に伝わる神子衣装。極彩色の糸で織られたあでやかな物。翡翠の飾りもついている。
「え、いや、ちょっと休憩……」
「大丈夫大丈夫、マッサージもしてあげるからー」
●
詩がベムブルに冷しゃぶのお歳暮を渡している間、杏子と鵤はコボちゃんをしげしげ眺め回す。
「へー、変わった品種だな」
「わし!」
「何コボルドって言うのかしらね、これは」
「わしわし!」
眺めるだけで何もくれない連中に、コボちゃんちょっと苛々。
そこに詩が来て、頭を撫でる。
「お姉ちゃんに聞いたよ。コボちゃん字が書けるようになったんだって? 凄いね~♪」
冷しゃぶ入り保冷箱を渡され、コボちゃん大満足。眉間のしわが消える。
「わしー」
「ポン酢とゴマだれどっちがいい?」
案内板にコボルドが字を書く。『ゴマダレ』と。
「そっか、私はポン酢派かなー」
●
山登りを始めてほんの数分後。星空にわかにかき曇り雪が降り、猛烈な風が吹きおろしてきた。冷たい飛礫がびしばし顔に当たってくる。
ディヤーは思わず悲鳴を上げた。
「うおおおおおお! さっぶいいいいいい!」
メイムは偵察に出していた妖精を呼び戻す。
「あんず、戻っておいで!」
水中鎧を着たミグは、バイザーをこすって視界確保。
「これはまた、随分手荒い歓迎じゃのう!」
メイムが持つランタンの光を借り、地図を確認しようとするリナリス。
しかしあまりに風が強くもって行かれそうなので、広げるのを断念。
「絶対意図的だよねー!」
見た目に寒そうな戦闘用ドレスを着たリナリスは、毛皮マントの前を掻き合わせ、盾を背負うカチャ。
「昔、両親から受けた訓練の数々を思い出しますね。さすがに子供の頃ですから、安全対策はきちんとされていましたが」
「……対策されてたなんて、聞くだに羨ましい話ですよ……」
「戦闘の邪魔になる羞恥心をなくす訓練として、裸同然の服装を着させられたりもしましたね」
「……」
返事がしないなと思って振り向けば、カチャが雪に伏し寝ていた。
リナリスは急いで駆け寄り、その体を起こす。
「カチャ、寝ちゃ駄目だよ。起きて起きて」
と言いながら服の下に手を突っ込む。
メイムはブランデーの栓を開け、カチャの口に注いでやった。
「寝るな、寝ると剥かれるよ」
ディヤーは手を袖に突っ込んで暖めつつ、足踏み。
「まあしかしこういう天候であればじゃな、狼どもも出てこんじゃろ」
彼がそう言ったとき、凶暴そうな唸り声が四方八方から聞こえてきた。
メイムはガントレットを構える。
「噂をすればじゃな。どれ、軽く炙ってやろうかのぅ」
リナリスは、それに待ったをかけた。
「儀式の最中に殺生はよくないよ」
ディヤーもしたり顔で言った。
「うむ。たかが狼ごときに本気となるのも大人げないからのう」
台詞の途中で風が弱まった。
狼たちが姿を現す。
どれもこれも通常より2回り以上大きく、はち切れんばかりに筋骨隆々。何か入れてるのかと疑うくらい、肩が盛り上がっている。
ディヤーは三歩ほど下がり、起きてきたカチャに聞いた。
「……このあたりの狼はドーピングでもやっとるのかの?」
カチャは陰鬱そうに答える。
「いえ、精霊の加護による影響だそうです。言い伝えによれば」
●
カチャたちが狼と一戦交えている間、炎は村で『お雑煮』の伝導を行っていた。
「ニホン式お雑煮は出汁が命です!」
当地に存在しないものは、それっぽい代用品で補う。
アゴダシは鶏ガラ、醤油は岩塩と薬味。カマボコは干し肉、白菜は――何故かあったのでそのまま使う。
「ほお、こういう食べ方もあるのか」
「これはいいな。今度から祭りの席に加えるか」
評判は上々。そこに聞こえてくる鐘の音。炎は、しみじみ手を合わせる。
「来年も良い年でありますように」
●
狼の後、(カチャ目がけて)転げ落ちてくる巨大な雪玉、(カチャを)狙いすましたように連続投下するツララ、そして(カチャに向けての)雪崩。
あまたの試練を乗り越えた神子一行は、ようやく目的地にたどり着く。
鐘は絶壁の七合目あたりに、突き出るような形で設置されていた。―足場も何もなしで。
絶壁の頂に作られたかまくらの中、メイムは暖めたブランデーをちびちびやりながら、たき火に枝をくべる。
外から聞こえてくるのは吹き荒れる風の中鳴らされる鐘の音と、やけくそなカチャの叫び声。
「絶対・二度と・田舎には・帰らないーっ!」
メイムはかまくらの入り口から顔を出し、励ましの言葉を贈る。
「カチャさーん、ここは暖かいよーあと98回頑張ってキノコも見てる~♪」
カチャとの命綱その1を支えているリナリスは、崖の間近で足を踏ん張り声かけに余念が無い。
「カチャー! 後96回だよー!」
カチャとの命綱その2を腰に結び付けているディヤーは、綱引き状態になりながら肉鍋をつつこうとしている。
「ぐおお、箸が、箸が届かぬ……!」
それをいいことに横から箸を入れるミグとリオン。
「うむ、実に楽しい神事じゃなあ。ミグも後で一つほど、突かせてもらおうかの。エル殿はどうされる?」
「そうですねえ……私も突いていきましょうか。いい記念になりますし」
「おおおい、それワシの餅、肉うっ!」
そんなこんなの揚げ句、108回を打ち終えるカチャ。
その途端暴風が止む。
楽しそうな笑い声が山に響き渡った。
『わっはははははははははは……ははははははは……』
垂れ込めていた雲がにわかに晴れ、星空が戻った。オーロラが燃え上がる。
リナリスとディヤーはぐてぐてになっているカチャを引っ張り上げ、健闘をねぎらった。
「ミッションお疲れさま! よかったね、祖霊様もお喜びだよ♪」
「実に分かりやすくバカウケされておった」
「……さいですか……いやなんかもう……どうでもいいです……」
メイムは、座り込んだカチャの尻を叩く。
「ほらほら、立って。家に帰りつくまでが祭事だよ~」
そうだそれがあるんだった、とめげそうになるカチャ。
ディヤーがぽんと手を叩く。
「のう、倒木を使って川下りというのはどうじゃな? さすればあの太マッチョ集団に再会する事なく、楽に戻れそうじゃが」
その提案がもたらしたものは、参加者全員による滝下りであった。
●
「ではー、歳末儀式の成功を祝しー、お手を拝借! よーお!」
燃え盛る焚き火を前に、盛大な宴会が行われている。中心にいるのはミグとケチャ。両者樽から直にぐい飲みし、ウワバミぶりを遺憾なく発揮している。
メイムは炎手製のお雑煮に舌鼓。ディヤーは、リナリスが持ってきたケーキをほお張っている。
「疲れには甘いものが最適じゃのう。ところでカチャ殿はどこに行ったかの?」
リオンは静かに熱燗をたしなみつつ、言った。
「着替えではないですかね」
「さよか。勿体ない気もするの。あんな格好滅多にせんのに――そういやリナリス殿もおらんな」
「そのようですね。さてどこに行ったのやら……」
ほろ酔い加減のカチャは、控えの間に入った。
「はなしってなんです、リナリスさん」
ふわふわ調子の彼女にリナリスは、いつになく真剣な表情を向けた。素早く扉側に回ることを忘れずに。
「あたしは気にいったら誰とでも、が信条だったけど」
「ふあ?」
「貴女に出会ってから、そうは思えなくなってるんだ」
「はあ」
「ずっと貴女に夢中なの♪ 愛してるよ、カチャ」
「……………」
一周遅れて台詞の意味を解したカチャは、反射的に飛び下がろうとした。
が、いつもの動きやすい格好ではなかったため、裾を踏み尻餅をつく。
すかさずマウントを取るリナリス。
「あたしたちが結ばれれば祖霊もお喜びになり、この地の一層の繁栄疑いなし♪」
「聞いたことないんですけどそんな話! タンマ、待っ」
そこで前触れ無く扉が開いた。
ケチャである。
「カチャ、いつまで着替えして――」
目と目が合うタホ母娘。
一拍置いた後、ケチャは扉を閉めた。
「――1時間後にまた来るから、それまでには終わらせるのよ」
「お母さん!? ちょ、どういうことなの! ちょっとー!」
●
忘年会後日。
アレックスの首尾が気になった詩は、ジェオルジ支局へ出掛けた。
近づいて行くと、なにやら重い音が聞こえてきた。
バスン!
もう一度。
バスン!
どうやら支所の裏手が音源。
なんだろうと思って足を運んでみれば、マリーが、木に吊るしたサンドバッグを殴っていた。
「なんなのあいつらー! 一週間もたたずよりを戻しやがってー! ど畜生ー!」
「…………」
詩はマリーに近づき、ぽんと肩を叩いた。次の台詞を添えて。
「一緒にしゃぶしゃぶ、食べに行く?」
皆様、どうぞよいお年を。
「この子はまた、柱にしがみついたりして……友達が折角ハンドベルトと盾を貸してくれたんでしょう。厚意を無にするのはよくないわよ」
「カチャ殿、伝統と言う物は受け継いでいかなければならんものじゃ。途絶えさせることは容易成れど後世に禍根を残すようではいかんぞ」
「あんな伝統いらな……いだだだだ指もげる指折れるお母さん止めていだだだ」
「ねえカチャ、物事はいい面も見ないと。今回は家の手伝いだから今月の仕送りは許してくれそうだし、成功させれば氏子の皆がご祝儀くれるよ、きっと♪」
「初めまして、カチャのお母様。あたしはカチャの大友人で、リナリスと言います。よろしければあたしも、儀式に参加させてもらってよろしいですか? 手助けしてあげたいんです♪」
「差し支えなければ、私も儀式に参加せてもらえませんか。この前、変な夢を見てから、ある衝動が止まらなくて困っていまして、ここは精神修養も兼ねて参加してみようかと思いました……ええ、カチャさんを快楽で滅茶苦茶にして、私なしでは生きられない体にしたくてたまらないんですよね」
「なんだなんだ。面白そうなことが起きてんじゃねえか。俺も交ぜてくれよ」
「む? 貴殿はどこのどなたじゃ?」
カチャ、ケチャ、ミグ・ロマイヤー(ka0665)、メイム(ka2290)、リナリス・リーカノア(ka5126)、エルバッハ・リオン(ka2434)、南護 炎(ka6651)、ディヤー・A・バトロス(ka5743)。以上8名の集団が、『黄金の味』から出て行く。
天竜寺 詩(ka0396)と鵤(ka3319)は座敷の窓から身を乗り出し、手を振って見送った。
「カチャ、頑張ってね~。儀式が終わったら盾とハンドベル返してね~」
「おーおー元気な連中ですことぉ。まー気ぃ付けていってらっしゃいよー」
ジョッキ片手に杏子が言った。
「2人は行かないんだ?」
鵤はそそくさ窓を閉め、もといた席に座り直す。
「あ? 当然よ。わざわざくっそ寒い中儀式だ何だするような元気はございませぇーんってなぁ? ところで詩ちゃん、ベルに反応するのは熊じゃねえの?」
「あれ? そうだっけ?……まぁいいか」
間違いをあっさり片付け席に戻った詩は、手酌酒をしているアレックスに話しかける。
「所でアレックスさん、浮気は良くないよ、浮気は。まぁ私はお父さんの浮気で出来た子供だけどね」
アレックスはお銚子を置いた。嘆息し、詩の顔を見る。
「そうか。じゃあ、これまでなかなか大変だったろ」
「うん。でも、不幸ってわけじゃないから。家族仲はいいの、とっても。よすぎて時々鬱陶しくなるけど」
鵤は中座した人々が残して行った肉を、自分以外の皿に盛りまくる。
「誰しも色々あらあな。ほぅら遠慮せずにガンガン行きなさいよガンガン……で、なんだ? アレックス君、その愛しのジュアンちゃんがどうしたってぇ?」
それに片端から手をつけて行く杏子。
「ちゃん、じゃないわよ。君よ。ジュアンは男」
「……あ? んなもんどっちでも変わらんだろ」
「……まあ確かに。使うところがちょっと違うだけよね」
「おー、きわどい発言だねぇ。おっさんその手のワイ談超好きよー」
ぐだぐだやってる大人達を放置し、詩は、事態の解決に乗り出る。
「ちゃんと謝ってジュアンさんに許してもらわないと。そうだ、持っていく手土産を作ろう!」
●
轟々音を立てる落差20メートルの滝。
「ちょっと待ってちょっと待って滝下りキクルがしたんだから私はもうしなくてもいいはっ」
激流にぶん投げられたカチャがあっと言う間に流れに飲まれ姿を消す。
投げた張本人であるケチャは断崖から身を乗り出し、はるか下の滝壺に叫んだ。
「早く出てらっしゃい!」
一部始終を間近で見ていた炎は、拳をぐっと握り締める。
「こんなイカレタ……もとい、珍しい祭りなんてリアルブルーでも無かったな……なんだか楽しそうだ」
対しディヤーは神妙な面持ち。辺境出身の彼にとってこの種の通過儀礼は、馴染み深いものなのだ。
「変な慣わしとも思わんが? 強くあらねば部族は生き残れぬ。しかしこれ、滝下りと言うより滝落としではないかの」
ミグはケチャの横に並び、両手を口に当て呼びかける。
「うぉーい、生きとるかー?」
激しい水音と咳き込む声が聞こえてきた。
「おうぇ! げほげげほ! かはっ!」
滝壺の周囲に陣取るのは部族の人々、リナリス、リオン。
自力で這い上がってきたカチャを拍手で迎える。
「よかったね、近年まれに見る好タイムだって!」
「これまでの記録で5本の指に入るらしいですよ」
「ああそうですか……私寒くて死にそうなんですけど」
そこにメイムが近づいてきて、杵を贈呈。
「餅つきやってれば、服も体も乾くよ。だいじょーぶ、合いの手はお任せ♪」
滝の上から縄梯子を伝い降りてきた炎が、背中を叩きアドバイス。
「いいかい。餅をこねる担当が手を入れた瞬間を狙って杵を振り下ろすんだ」
それを聞いたメイムは、にっこりして付け加える。
「ここであたしの手を打つと後で助けの手が減るからね?」
カチャがどっちの助言を選ぶかは、考えるまでもなかった。
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『黄金の味』の店先。
鵤はツマヨウジを咥え、満足げに腹をさする。
「いやー。タダ飯タダ酒は最高だな」
アレックスと詩の手には、保冷箱がある。中に詰められているのは、詩お手製の冷しゃぶ――店の人に頼み作らせてもらったのだ。
「じゃ、しっかりね」
「おお、悪いな、世話になって」
「困ったときはお互い様だよ」
詩に背を押され一人離れて行くアレックス。
杏子が詩に耳打ちする。
「大丈夫かしらね?」
「大丈夫だよ。反省してるみたいだし。そうだ、杏子さん、鵤さん、ついでだからコボちゃんに会っていかない?」
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「戸数結構あったね。100軒だったっけ?」
額の汗を拭うメイム。
餅つきを終えたカチャは、彼女に感謝の意を述べた。杵を体の支えにしつつ。
「101軒ですよ……手伝ってくれてありがとうございますメイムさぐおっ」
「あー、腰やっちゃった? セルフ回復かけたほうがいいかもよ?」
「そうしまず……」
そこにリナリスが現れた。
「カチャ、着替えしよ♪」
その手に持つのは、部族に伝わる神子衣装。極彩色の糸で織られたあでやかな物。翡翠の飾りもついている。
「え、いや、ちょっと休憩……」
「大丈夫大丈夫、マッサージもしてあげるからー」
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詩がベムブルに冷しゃぶのお歳暮を渡している間、杏子と鵤はコボちゃんをしげしげ眺め回す。
「へー、変わった品種だな」
「わし!」
「何コボルドって言うのかしらね、これは」
「わしわし!」
眺めるだけで何もくれない連中に、コボちゃんちょっと苛々。
そこに詩が来て、頭を撫でる。
「お姉ちゃんに聞いたよ。コボちゃん字が書けるようになったんだって? 凄いね~♪」
冷しゃぶ入り保冷箱を渡され、コボちゃん大満足。眉間のしわが消える。
「わしー」
「ポン酢とゴマだれどっちがいい?」
案内板にコボルドが字を書く。『ゴマダレ』と。
「そっか、私はポン酢派かなー」
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山登りを始めてほんの数分後。星空にわかにかき曇り雪が降り、猛烈な風が吹きおろしてきた。冷たい飛礫がびしばし顔に当たってくる。
ディヤーは思わず悲鳴を上げた。
「うおおおおおお! さっぶいいいいいい!」
メイムは偵察に出していた妖精を呼び戻す。
「あんず、戻っておいで!」
水中鎧を着たミグは、バイザーをこすって視界確保。
「これはまた、随分手荒い歓迎じゃのう!」
メイムが持つランタンの光を借り、地図を確認しようとするリナリス。
しかしあまりに風が強くもって行かれそうなので、広げるのを断念。
「絶対意図的だよねー!」
見た目に寒そうな戦闘用ドレスを着たリナリスは、毛皮マントの前を掻き合わせ、盾を背負うカチャ。
「昔、両親から受けた訓練の数々を思い出しますね。さすがに子供の頃ですから、安全対策はきちんとされていましたが」
「……対策されてたなんて、聞くだに羨ましい話ですよ……」
「戦闘の邪魔になる羞恥心をなくす訓練として、裸同然の服装を着させられたりもしましたね」
「……」
返事がしないなと思って振り向けば、カチャが雪に伏し寝ていた。
リナリスは急いで駆け寄り、その体を起こす。
「カチャ、寝ちゃ駄目だよ。起きて起きて」
と言いながら服の下に手を突っ込む。
メイムはブランデーの栓を開け、カチャの口に注いでやった。
「寝るな、寝ると剥かれるよ」
ディヤーは手を袖に突っ込んで暖めつつ、足踏み。
「まあしかしこういう天候であればじゃな、狼どもも出てこんじゃろ」
彼がそう言ったとき、凶暴そうな唸り声が四方八方から聞こえてきた。
メイムはガントレットを構える。
「噂をすればじゃな。どれ、軽く炙ってやろうかのぅ」
リナリスは、それに待ったをかけた。
「儀式の最中に殺生はよくないよ」
ディヤーもしたり顔で言った。
「うむ。たかが狼ごときに本気となるのも大人げないからのう」
台詞の途中で風が弱まった。
狼たちが姿を現す。
どれもこれも通常より2回り以上大きく、はち切れんばかりに筋骨隆々。何か入れてるのかと疑うくらい、肩が盛り上がっている。
ディヤーは三歩ほど下がり、起きてきたカチャに聞いた。
「……このあたりの狼はドーピングでもやっとるのかの?」
カチャは陰鬱そうに答える。
「いえ、精霊の加護による影響だそうです。言い伝えによれば」
●
カチャたちが狼と一戦交えている間、炎は村で『お雑煮』の伝導を行っていた。
「ニホン式お雑煮は出汁が命です!」
当地に存在しないものは、それっぽい代用品で補う。
アゴダシは鶏ガラ、醤油は岩塩と薬味。カマボコは干し肉、白菜は――何故かあったのでそのまま使う。
「ほお、こういう食べ方もあるのか」
「これはいいな。今度から祭りの席に加えるか」
評判は上々。そこに聞こえてくる鐘の音。炎は、しみじみ手を合わせる。
「来年も良い年でありますように」
●
狼の後、(カチャ目がけて)転げ落ちてくる巨大な雪玉、(カチャを)狙いすましたように連続投下するツララ、そして(カチャに向けての)雪崩。
あまたの試練を乗り越えた神子一行は、ようやく目的地にたどり着く。
鐘は絶壁の七合目あたりに、突き出るような形で設置されていた。―足場も何もなしで。
絶壁の頂に作られたかまくらの中、メイムは暖めたブランデーをちびちびやりながら、たき火に枝をくべる。
外から聞こえてくるのは吹き荒れる風の中鳴らされる鐘の音と、やけくそなカチャの叫び声。
「絶対・二度と・田舎には・帰らないーっ!」
メイムはかまくらの入り口から顔を出し、励ましの言葉を贈る。
「カチャさーん、ここは暖かいよーあと98回頑張ってキノコも見てる~♪」
カチャとの命綱その1を支えているリナリスは、崖の間近で足を踏ん張り声かけに余念が無い。
「カチャー! 後96回だよー!」
カチャとの命綱その2を腰に結び付けているディヤーは、綱引き状態になりながら肉鍋をつつこうとしている。
「ぐおお、箸が、箸が届かぬ……!」
それをいいことに横から箸を入れるミグとリオン。
「うむ、実に楽しい神事じゃなあ。ミグも後で一つほど、突かせてもらおうかの。エル殿はどうされる?」
「そうですねえ……私も突いていきましょうか。いい記念になりますし」
「おおおい、それワシの餅、肉うっ!」
そんなこんなの揚げ句、108回を打ち終えるカチャ。
その途端暴風が止む。
楽しそうな笑い声が山に響き渡った。
『わっはははははははははは……ははははははは……』
垂れ込めていた雲がにわかに晴れ、星空が戻った。オーロラが燃え上がる。
リナリスとディヤーはぐてぐてになっているカチャを引っ張り上げ、健闘をねぎらった。
「ミッションお疲れさま! よかったね、祖霊様もお喜びだよ♪」
「実に分かりやすくバカウケされておった」
「……さいですか……いやなんかもう……どうでもいいです……」
メイムは、座り込んだカチャの尻を叩く。
「ほらほら、立って。家に帰りつくまでが祭事だよ~」
そうだそれがあるんだった、とめげそうになるカチャ。
ディヤーがぽんと手を叩く。
「のう、倒木を使って川下りというのはどうじゃな? さすればあの太マッチョ集団に再会する事なく、楽に戻れそうじゃが」
その提案がもたらしたものは、参加者全員による滝下りであった。
●
「ではー、歳末儀式の成功を祝しー、お手を拝借! よーお!」
燃え盛る焚き火を前に、盛大な宴会が行われている。中心にいるのはミグとケチャ。両者樽から直にぐい飲みし、ウワバミぶりを遺憾なく発揮している。
メイムは炎手製のお雑煮に舌鼓。ディヤーは、リナリスが持ってきたケーキをほお張っている。
「疲れには甘いものが最適じゃのう。ところでカチャ殿はどこに行ったかの?」
リオンは静かに熱燗をたしなみつつ、言った。
「着替えではないですかね」
「さよか。勿体ない気もするの。あんな格好滅多にせんのに――そういやリナリス殿もおらんな」
「そのようですね。さてどこに行ったのやら……」
ほろ酔い加減のカチャは、控えの間に入った。
「はなしってなんです、リナリスさん」
ふわふわ調子の彼女にリナリスは、いつになく真剣な表情を向けた。素早く扉側に回ることを忘れずに。
「あたしは気にいったら誰とでも、が信条だったけど」
「ふあ?」
「貴女に出会ってから、そうは思えなくなってるんだ」
「はあ」
「ずっと貴女に夢中なの♪ 愛してるよ、カチャ」
「……………」
一周遅れて台詞の意味を解したカチャは、反射的に飛び下がろうとした。
が、いつもの動きやすい格好ではなかったため、裾を踏み尻餅をつく。
すかさずマウントを取るリナリス。
「あたしたちが結ばれれば祖霊もお喜びになり、この地の一層の繁栄疑いなし♪」
「聞いたことないんですけどそんな話! タンマ、待っ」
そこで前触れ無く扉が開いた。
ケチャである。
「カチャ、いつまで着替えして――」
目と目が合うタホ母娘。
一拍置いた後、ケチャは扉を閉めた。
「――1時間後にまた来るから、それまでには終わらせるのよ」
「お母さん!? ちょ、どういうことなの! ちょっとー!」
●
忘年会後日。
アレックスの首尾が気になった詩は、ジェオルジ支局へ出掛けた。
近づいて行くと、なにやら重い音が聞こえてきた。
バスン!
もう一度。
バスン!
どうやら支所の裏手が音源。
なんだろうと思って足を運んでみれば、マリーが、木に吊るしたサンドバッグを殴っていた。
「なんなのあいつらー! 一週間もたたずよりを戻しやがってー! ど畜生ー!」
「…………」
詩はマリーに近づき、ぽんと肩を叩いた。次の台詞を添えて。
「一緒にしゃぶしゃぶ、食べに行く?」
皆様、どうぞよいお年を。
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【そうだんたく】 メイム(ka2290) エルフ|15才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2016/12/23 13:58:34 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/12/22 03:15:32 |