ゲスト
(ka0000)
【剣機】拠点都市緊急援護要請
マスター:墨上古流人

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/10/06 19:00
- 完成日
- 2014/10/14 21:44
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
◆
帝国某所道中。
舗装された長い道のりを蟻のように行く大隊の列。
道行く者は軽重種々の武装を身に纏い、多くの積荷を乗せた馬車が点々と隊列の間に配置されていた。
この大隊は帝国第九師団、フリデンルーエンのものである。
暴食の歪虚の眷属、不壊の剣機が出没し、帝国各地に脅威をもたらしている事案に対処すべく、
救援部隊である第九師団は、今まさに戦闘中の兵に対する救護及び被害にあった国民の支援の為に、
師団が拠点を構える都市から、帝都へ向けて出動しているところだった。
中には、APVに依頼をして協力を要請したハンターも確認できる。
「第三部隊が少し遅れてる。剣機が落としてったゾンビとの交戦によるものだが、被害は極軽微で予定通りの帝都到着には問題ないはずだ」
「了解。僕らの仕事はあるのかなぁ」
長身の無精髭の若者が、フードをかぶった薄幸そうな青年に報告をする。
「サボりたいだとか、寧ろ働きたいだとか、そういう話じゃないからね? 僕らの仕事なんて、本当は無い方がいいんだから」
「仰る通りで師団長殿。とはいえ、今回はちょっと規模がでかいぜ。早めに回って被害おさえねぇとな」
微笑を顔に残す師団長のユウに対し、副師団長のリベルトが整理した進捗を報告する。
パンパンに詰まった要員輸送用の荷台に無理やり割り込み、揺れる手元に気を付けながら煙草に火をつけた。
「剣機ってどんなのなんだっけ?」
「双頭の龍ゾンビがなんかいろんなガジェットつけて機械的に強化されたタイプだ」
「見た目はカッコよさそうというか、ロマン感じちゃうコンセプトだね」
「頼むからそれ、公の場では言わないでくれよ。お前の事理解してる奴じゃねーと誤解されかねん」
煙草の煙に隠れるユウの顔は、きっといつも通りののほほんとした顔をしてるに違いない。
俺の苦労はいつ軽くなるのやら……紫煙交じりのため息はそれは深いものであった。
「リベルト、火を消して」
「あ? 大丈夫だよ。俺が移動中に吸いたくて馬車は喫煙者と非喫煙者に分けてんだから」
「違う。9時の方向45度。何か飛んでくるよ」
ユウの言葉に、急ぎ隣の団員が飲んでいた炭酸飲料の缶の中へ火を放り込むリベルト。
何かを訴えたそうなその団員の顔を余所に、リベルトはハンドサインで音を出さずに、師団員へ戦闘に移れる体制を取らせてから、上空へ目を凝らした。
「あー……? ありゃヒンメルリッターのグリフォン兵だぞ」
暗い雲を割き、素人が撃った矢のようによろよろと第九師団の元へと向かってくるのは、
航空部隊を備えている帝国第五師団の者のようだった。
警戒を続けさせたまま、その挙動を見守っていると、ユウ達の荷台の傍へとそのグリフォンは降りたった。
人馬――人鳥だろうか――共々、その姿はぼろぼろに傷を負っていた。
「落ち着いて。ここはとりあえず安全だから、息を整えてから話して」
グリフォンから落ちた女性は、言葉を紡ごうとするも喉に絡まった血を吐きだして倒れ込んでしまう。
肩を貸すようにユウが抱き留め、そのままゆっくり地面へ降ろし、傷の手当てを始める。
肩でしていた息が収まった頃にリベルトが水を差しだす。一息に飲みほしてから、兵士はやっと喋ることが出来た。
「伝令です……! 剣機が……分裂しました……! 片割れが……ヒンメルリッタ―の……拠点都市……グライシュタットに……!」
一瞬で回りがどよめきだした。
師団の拠点都市に、まさかのこれから倒しにいくであろう大ボスが現れた、しかも予想外の事態で、というのだから混乱は免れない。
「そうか、戦力ほとんど帝都に割かれてるからな、その隙突かれたらさすがに師団の拠点都市とはいえまずいか……!」
「今、剣機はどうしてるの?」
「グライシュタット内の……グリフォンを育成する牧場がありまして……そこなら広くて被害も少ないと……墜落させたそうです……」
「マジかよ一応落ちたのか、すげーな」
「ということは、帝都は大丈夫そうなのかな。復興支援とかがあるから、どっちにせよまだ帝都行きは選択肢なんだけど……どれだけ割くか……」
グリフォンの手当てをしながらユウが言葉を促す。
「帝都だろ? オズワルドのおっさんもいたわけだし、何よりあの皇帝の御膝元だ。国民のピンチも力とパワーで全て解決! ってなもんだと思うがね」
「はい……第一師団長オズワルド様より、第九師団は至急グラウシュタットの応援に全力を注ぐようにと……それが、伝令です……」
「なるほどな。確かにここからだとすぐ動けるのは俺らだ」
リベルトが地図を広げ、状況を確認する。
グライシュタットは、国境要塞を隣接させた都市で、第五師団はその要塞に常駐している。
北西部にはエルフハイムが広がり、南西部にはドワーフが採掘に従事する鉱山も広がっている。
また、国境という事もあり、都市自体は宿場町として栄えている帝国民のみならず様々な人が普通に生活をしている場所だ。
「あそこの師団長、シュトラウトだっけか。無愛想でちょっと苦手な奴だがよ……ヒンメルリッタ―は航空部隊だし、奴らのウリは機動力だ。守勢には弱いし、さっさと行ってやらねーとまずいぞ」
「そうだね、少なくとも街中は今頃、剣機の放ったコンテナからわんさか出てくるゾンビで溢れかえってると思うよ。トラちゃん困ってるだろうし助けてあげないと」
「街中には……混乱に乗じて……眷属の『剣妃』に属する吸血鬼も……いるようです……」
「合コンじゃねーんだぞちくしょう……ユウ、ここまで聞ければ充分だ。拠点都市壊滅とか、皇帝選挙の後に後味悪すぎだろ」
「あれ、一応ミナちゃんのメンツの心配? リベルト意外にツンデレなんだね」
「緊張感ねーな相変わらずお前は」
ユウの茶化しは軽く流して、リベルトが師団に再度の移動の準備を促す。
「さて……トラちゃんのピンチなら、急がないとね。あんまりオズさんにも心配させたらいけないし。お年寄りは労わらないと」
「その言葉、労わってねーだろ」
「そんなことはないよ。オズさんのお仕事は書類仕事だけになるように、血に汚れる仕事は僕たちで頑張るとしよう」
「多分、あのおっさんはその書類仕事に一番頭抱えてんじゃねーか?」
「それは僕はノータッチだもん」
ふふ、と微笑んでからユウがフードを取る。
師団全員、豆粒のような後方までも見えるように、細い馬車の屋根組に立つ。
普段の掴みどころのない雰囲気から一転、凛とした空気がユウの周りに張り詰める。
「フリデンルーエン総員に次ぐ。これより至急、進路を変えて第五師団拠点都市、グライシュタットへ救援に向かう。帝国の『盾』の名の下に、両に振るえる腕にて、倒れるものを支えて抱き、襲いくる者の牙を折れ!」
言葉と同時に屋根を降り、馬を急がせる。
やっぱりこういうの慣れないや、というユウの目は、笑ってはいなかった。
帝国某所道中。
舗装された長い道のりを蟻のように行く大隊の列。
道行く者は軽重種々の武装を身に纏い、多くの積荷を乗せた馬車が点々と隊列の間に配置されていた。
この大隊は帝国第九師団、フリデンルーエンのものである。
暴食の歪虚の眷属、不壊の剣機が出没し、帝国各地に脅威をもたらしている事案に対処すべく、
救援部隊である第九師団は、今まさに戦闘中の兵に対する救護及び被害にあった国民の支援の為に、
師団が拠点を構える都市から、帝都へ向けて出動しているところだった。
中には、APVに依頼をして協力を要請したハンターも確認できる。
「第三部隊が少し遅れてる。剣機が落としてったゾンビとの交戦によるものだが、被害は極軽微で予定通りの帝都到着には問題ないはずだ」
「了解。僕らの仕事はあるのかなぁ」
長身の無精髭の若者が、フードをかぶった薄幸そうな青年に報告をする。
「サボりたいだとか、寧ろ働きたいだとか、そういう話じゃないからね? 僕らの仕事なんて、本当は無い方がいいんだから」
「仰る通りで師団長殿。とはいえ、今回はちょっと規模がでかいぜ。早めに回って被害おさえねぇとな」
微笑を顔に残す師団長のユウに対し、副師団長のリベルトが整理した進捗を報告する。
パンパンに詰まった要員輸送用の荷台に無理やり割り込み、揺れる手元に気を付けながら煙草に火をつけた。
「剣機ってどんなのなんだっけ?」
「双頭の龍ゾンビがなんかいろんなガジェットつけて機械的に強化されたタイプだ」
「見た目はカッコよさそうというか、ロマン感じちゃうコンセプトだね」
「頼むからそれ、公の場では言わないでくれよ。お前の事理解してる奴じゃねーと誤解されかねん」
煙草の煙に隠れるユウの顔は、きっといつも通りののほほんとした顔をしてるに違いない。
俺の苦労はいつ軽くなるのやら……紫煙交じりのため息はそれは深いものであった。
「リベルト、火を消して」
「あ? 大丈夫だよ。俺が移動中に吸いたくて馬車は喫煙者と非喫煙者に分けてんだから」
「違う。9時の方向45度。何か飛んでくるよ」
ユウの言葉に、急ぎ隣の団員が飲んでいた炭酸飲料の缶の中へ火を放り込むリベルト。
何かを訴えたそうなその団員の顔を余所に、リベルトはハンドサインで音を出さずに、師団員へ戦闘に移れる体制を取らせてから、上空へ目を凝らした。
「あー……? ありゃヒンメルリッターのグリフォン兵だぞ」
暗い雲を割き、素人が撃った矢のようによろよろと第九師団の元へと向かってくるのは、
航空部隊を備えている帝国第五師団の者のようだった。
警戒を続けさせたまま、その挙動を見守っていると、ユウ達の荷台の傍へとそのグリフォンは降りたった。
人馬――人鳥だろうか――共々、その姿はぼろぼろに傷を負っていた。
「落ち着いて。ここはとりあえず安全だから、息を整えてから話して」
グリフォンから落ちた女性は、言葉を紡ごうとするも喉に絡まった血を吐きだして倒れ込んでしまう。
肩を貸すようにユウが抱き留め、そのままゆっくり地面へ降ろし、傷の手当てを始める。
肩でしていた息が収まった頃にリベルトが水を差しだす。一息に飲みほしてから、兵士はやっと喋ることが出来た。
「伝令です……! 剣機が……分裂しました……! 片割れが……ヒンメルリッタ―の……拠点都市……グライシュタットに……!」
一瞬で回りがどよめきだした。
師団の拠点都市に、まさかのこれから倒しにいくであろう大ボスが現れた、しかも予想外の事態で、というのだから混乱は免れない。
「そうか、戦力ほとんど帝都に割かれてるからな、その隙突かれたらさすがに師団の拠点都市とはいえまずいか……!」
「今、剣機はどうしてるの?」
「グライシュタット内の……グリフォンを育成する牧場がありまして……そこなら広くて被害も少ないと……墜落させたそうです……」
「マジかよ一応落ちたのか、すげーな」
「ということは、帝都は大丈夫そうなのかな。復興支援とかがあるから、どっちにせよまだ帝都行きは選択肢なんだけど……どれだけ割くか……」
グリフォンの手当てをしながらユウが言葉を促す。
「帝都だろ? オズワルドのおっさんもいたわけだし、何よりあの皇帝の御膝元だ。国民のピンチも力とパワーで全て解決! ってなもんだと思うがね」
「はい……第一師団長オズワルド様より、第九師団は至急グラウシュタットの応援に全力を注ぐようにと……それが、伝令です……」
「なるほどな。確かにここからだとすぐ動けるのは俺らだ」
リベルトが地図を広げ、状況を確認する。
グライシュタットは、国境要塞を隣接させた都市で、第五師団はその要塞に常駐している。
北西部にはエルフハイムが広がり、南西部にはドワーフが採掘に従事する鉱山も広がっている。
また、国境という事もあり、都市自体は宿場町として栄えている帝国民のみならず様々な人が普通に生活をしている場所だ。
「あそこの師団長、シュトラウトだっけか。無愛想でちょっと苦手な奴だがよ……ヒンメルリッタ―は航空部隊だし、奴らのウリは機動力だ。守勢には弱いし、さっさと行ってやらねーとまずいぞ」
「そうだね、少なくとも街中は今頃、剣機の放ったコンテナからわんさか出てくるゾンビで溢れかえってると思うよ。トラちゃん困ってるだろうし助けてあげないと」
「街中には……混乱に乗じて……眷属の『剣妃』に属する吸血鬼も……いるようです……」
「合コンじゃねーんだぞちくしょう……ユウ、ここまで聞ければ充分だ。拠点都市壊滅とか、皇帝選挙の後に後味悪すぎだろ」
「あれ、一応ミナちゃんのメンツの心配? リベルト意外にツンデレなんだね」
「緊張感ねーな相変わらずお前は」
ユウの茶化しは軽く流して、リベルトが師団に再度の移動の準備を促す。
「さて……トラちゃんのピンチなら、急がないとね。あんまりオズさんにも心配させたらいけないし。お年寄りは労わらないと」
「その言葉、労わってねーだろ」
「そんなことはないよ。オズさんのお仕事は書類仕事だけになるように、血に汚れる仕事は僕たちで頑張るとしよう」
「多分、あのおっさんはその書類仕事に一番頭抱えてんじゃねーか?」
「それは僕はノータッチだもん」
ふふ、と微笑んでからユウがフードを取る。
師団全員、豆粒のような後方までも見えるように、細い馬車の屋根組に立つ。
普段の掴みどころのない雰囲気から一転、凛とした空気がユウの周りに張り詰める。
「フリデンルーエン総員に次ぐ。これより至急、進路を変えて第五師団拠点都市、グライシュタットへ救援に向かう。帝国の『盾』の名の下に、両に振るえる腕にて、倒れるものを支えて抱き、襲いくる者の牙を折れ!」
言葉と同時に屋根を降り、馬を急がせる。
やっぱりこういうの慣れないや、というユウの目は、笑ってはいなかった。
リプレイ本文
◆
帝国第五師団拠点都市、グライシュタット。
天から剣機が落ち、その眷属である歪虚が放たれたこの街は、
外から見た限りでは、思いのほか静かで、肌を舐めるように不気味さが醸し出されていて、
まるで街全体が蠢いて、新しくこの静寂に取り込まれる者を、手をこまねいてまっているかのような、
悪い意味で新しい命が吹き込まれているかのようだった。
「ユウ、拠点の準備が完了した。時間的にも余裕、なんならとシャンデリアでもぶら下げるぐらいはできそうだぜ」
第九師団副師団長、リベルトが数人の配下を連れて師団長、ユウの下へと報告に来る。
所々返り血のようなものを浴びているのは、拠点設営予定地に徘徊していたゾンビ型歪虚を始末した為だ。
「了解、そろそろ突入はできそうかな?」
「えぇ、これ以上街を蹂躙される前にと、急ピッチで仕上げました」
ユウの視線の先では、J(ka3142)が睨んでいた地図から顔をあげて、ひと息ついた所だった。
街の地図の上には、ハンターの班分けと複数刺された色つきピンと付箋、
傍らには別で纏めた要員一覧表等が備えてあった。
「それにしても、ここまで情報が集まると私も仕事がしやすかったです」
「当然だ、俺と部下は本気出せば王国の姫のスリーサイズからうちの皇帝のへそくりの額まで調べられるぜ」
リベルト達は、予め街を行ける範囲で跳びまわり、ある程度の情報収集に努めていた。
胸を張るリベルトの傍らでは、サーシャ・V・クリューコファ(ka0723)が手の中で通信機を弄び、
作戦開始の指示を待つ。
ユウが静かに頷くと、それをゴングと捉えてサーシャが魔導短伝話とトランシーバーのスイッチを同時に入れた。
「ララーラー 我々の美声を聞き給え」
『ねぇDJ……もしかして私はチャンネルを間違えたかしら?』
サーシャの軽口のような第一声に、トランシーバーの向こうの坂斎 しずる(ka2868)が返す。
まるでマイクの向こうの肩を崩した様子も見て取れるような感じだ。
「気が抜けるか? 何、緊張を解すのが目的だ。なぜなら――我々は救援隊だ、勇猛果敢に突撃するのも結構だが、気を張り過ぎて躍起になって、血眼で迎えに来る白衣の天使では救われる方も困るというものだ」
本部へ戻りすがらの偵察員の声、街の外から見てとれる様子、その凄惨さは既にハンター達にも漏れ始めていた。
この地図を見せたら……もしかしたら、統率などあったものではなくなるかもしれない。だからこそ、それを司る役目が必要だ。
調味料も、情報も、最大でなくていい。最適な時に、最適なものを、最適なだけ使えば、結果は最適に近づいていく。
「さぁ諸君、情報は任せてくれ。鮮度抜群のトピックスをどんどん流していくぞ」
◆
『正面街入口、まだ半径500m以上クリア出来ていません。逃げ込んできている人もいるかもしれないので最優先で確保を、次に、近くの宿に数人立てこもっているようです。場所は……』
隣のトランシーバーからノイズ混じりで流れてくる情報に耳を立てながら、エアルドフリス(ka1856)が辺りを見回す。
正面入り口には既に数人逃げ込んできている市民と第五師団員がおり、突入した際のA班と師団員数名で要救助民を追いかけていたゾンビを相当したところだ。
「厭な眺めだ、14年前を思い出す……だが俺はもう無力な餓鬼じゃあない」
傍らに焦げ落ちたゾンビをよそに街を見直し、マギスタッフを構え直す。
「護り救うのはあんたの役目だ、アルヴィン」
声をかけられたアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)は、意識を向けていたトランシーバーからエアルドフリスへと
「フフ、ルールー頼モシイネ」
「義務は果たさないとな―――道は拓こう」
最早摂理か理不尽か曖昧な戦いだ……だが、やることは決まっている。
欠伸交じり、頭上へピンと伸ばした腕は、勢いよく振り下ろされると、
突き破るように駆け抜ける風の刃が、帽子を押さえるアルヴィンの背後から顔を出した屍の額を潰した。
エアルドフリスの手際の良さ、頼りがいに思わず口笛でも吹きたくなるぐらいだ。
(魂の煌きを見届ける為、ハンターとなったケレド、ココに魂への敬意等ナク……)
倒れる歪虚を一瞥した後、風でずれた帽子の位置を整えながら、アルヴィンはエアルドフリスの背中を追いかけた。
「あぁー! 待って! 置いてかないでよー!」
デリンジャーのチャンバーをパチンと収めて、サトコ・ロロブリジーダ(ka2475)が二人の後を慌てて追いかける。
目も当てられない状況下でも、決して暗くならず、サトコはきびきびと敵を屠り、懸命に救助活動に励む。
少し装備が豪華な第五師団員の手当てを手厚く行い、必ず助かりますからと手を両手でぎゅっと握って力強く見つめる。
少し顔が赤くなったけが人を、第九師団の者が運んでいく。その献身的な姿に第九師団の者も思わず感心していた。
(師団の拠点を救ったってなりゃー、多少はお偉方のポイントも稼げるだろ。考えようによっちゃ美味しい仕事だ)
ふぅ、とため息の後に
決して下心の為に他の者をおざなりにしているワケではないが、彼女は彼女なりのモチベーションで手を差し伸べていた。
『A班、現時点を動いていないか? 敵多数そちらへ向かっている報告を受けた、警戒しろ』
サーシャの無線を受けて、倒れた少女と、ヒールをかけるアルヴィン、2人を背中に隠すようにエアルドフリスが警戒する。
倒れていた少女が、目を見開き叫ぶ。視線と声の先には、屋根から零れるように落ちてくるゾンビの群れ。
怯える少女を宥めるようにアルヴィンが掌で頭を包むようにひと撫で、立ちはだかる背中は迸る炎に照らされていた。
(っチ、またクソ面倒なコトになっちまったが仕方ねぇ……)
サトコがエアルドフリスの元へ駆けつける。一体たりとも抜かせる訳にはいかない――飛びかかり横から殴りつけるようにデリンジャーを突き出してゾンビの側頭部を撃ちぬく。
勢いでしゃがんだ頭上を、エアルドフリスの火矢が飛び越えてゆく。
倒れたゾンビの背後には、牙を向いた別のゾンビが既にサトコに覆いかぶさろうとして―――
ソフィア =リリィホルム(ka2383)割り込む。ゾンビの牙は、ソフィアが横に構えたアサルトライフルに微かに傷をつけただけだ。
「―――」
散れ、と聞こえたような気がしたが、下から振り上げた銃床の一撃が敵の顎を砕き、良く聞き取れなかった。
振り上げた反動でガンプレイのように1回転させて持ち直すと、ソフィアのライフルが火を噴き、何重にも巻いた包帯のように折り重なり襲いかかるゾンビを次々と凪ぎ屠っていった。
拳から迸る焔の幻影も相まり、見上げるサトコには、さながら炎の化身のようにも映り……
「フィーリ君」
アルヴィンのかけた声の後、サトコが援護で横に並ぶ。
そこには、懸命に、護る為に血で汚れ、汗を流す健気な少女の横顔があった。覗き込むサトコに気づき、にこっと微笑んでみせる。
「さぁて、まだまだ始まったばかりですよっ、助けを待つ人をお迎えに行きましょう!」
空いた道を閉ざさないように、駆け付けた師団員が戦況を維持しようと敵を倒し、その道をアルヴィンとエアルドフリスが進んでいく。
ぽかんとした後サトコはハッとしたように気づき慌てて3人を追いかける。
「ま、負けないんだからねーっ!!」
路地でいきなりびしっとソフィアを指さすサトコに、きょと、と首を傾げるソフィア。
くつくつとアルヴィンが笑い、エアルドフリスが軽いため息を吐いた。
◆
「あの部屋だ! 急げ!!」
大通りに面した大きな宿、クレイモアでドアごと敵を叩き切り、吹き抜けのフロアに入るヴァイス(ka0364)
階段を駆け上がり、2階の廊下を埋め尽くすゾンビに臆せず切りかかり、群れの中を立ち回る。
「俺が引き付ける、今のうちに!」
大剣を振り回し斬りつけながら廊下の端まで突撃して注意をひきつけ、
近づいてきたゾンビには強撃交じりで確実な一撃を叩き込んでゆく。
「おいおい、1人で全部やっちまうんじゃないか……」
ヴァイスに気を取られて横や後ろを向いたゾンビを、柊 真司(ka0705)が処理していく。
リズムよくタップするアサルトライフルが鋭い弾丸を吐きだし、的確にゾンビの頭へ、髄へ喰らいついてゆく。
「リロー……っと!?」
下がってマガジンを取り換えようとしたところで、群れの中から一匹跳躍して飛びかかってくるゾンビがいた。
急ぎシールドを掲げて防ぎ、そのまま相手の勢いを利用して後ろへ叩きつける。
敵の肩を踏みつけ、リロードしたての銃を後頭部に突きつけた。
出来た道を進み、部屋に近づいていくイェルバート(ka1772)
両手で構えたハンドガンを、扉の前で全体重を乗せて叩いていたゾンビの側頭部へと放つ。
崩れおちるゾンビからノブを奪い取り、急ぎ部屋の中に入る。
「助けにきましたよ!」
第九師団と一緒に助けに来たことを告げれば、中にいた者達に安堵の表情が浮かぶ。
「あと少しの辛抱だ! 立てる奴はついてこい! イェルバート、怪我人の傷を見てくれ!」
ヴァイスが味方を鼓舞しながら、廊下の安全を確保する。
体を張っていたのだろうか、第五師団員らしき兵士のみが怪我を負って肩で息をしていた。怪我は足だけだが、血を失い酸素が回っていないのだろう。
通信機で応援を要請すると、宿の外まで第九師団員がやってくるとのことだった。肩を貸そうとしゃがみこむ。
その後ろ、窓には大量の腐敗した手が音を立ててはりつき―――
弾き返されるように、その手は離れていく。
ガラスに反射して鈍く光る刀身、シャルラッハ・グルート(ka0508)のツヴァイハンダーの剣圧が、
窓に群がるゾンビを一蹴した。
「どこにでも現れやがるなこいつらは……1匹見たら30匹はいると思えってか?」
シャルラッハの援護と共に、イェルバートと兵士は吹き抜けの1階へと降りることが出来た。
突如、壁を突き破る轟音と共に飛び込んでくる影、
イェルバートと兵士を突き飛ばし、防御障壁を展開する真司。
光の防御壁は砕け散り、胴を抉らんとする一撃はシャルラッハが叩き付けるように振り下ろした渾身撃で逸らされる。
地面にめり込んだ杭のようなものが、一瞬で引っ込んでゆく。
壁に空いた大きな穴の向こうには、腕から蒸気を迸らせながら呻く大きなゾンビが立ちふさがっていた。
「救助者は外の師団員とB班に任せるんだ! こいつはここで止めるぞ!」
「乗ったぜ。強い奴が相手だと余計に燃えてくらあ……死ぬまでとことん殺り合おうぜ!」
真司の放った弾を追いかけるように、ヴァイスとシャルラッハが両サイドから走り込み、1対の牙のような渾身撃を放つ。
その隙にイェルバートが外で待っていたマルカ・アニチキン(ka2542)へと兵士の身柄を引き渡す。
「あなたも一緒についていきますか?」
マルカの言葉に、剣戟を背にしたイェルバートは首を横に振る。
「……置き去りにされる怖さは、何となく分かるから。第五師団と、街の人達。それに、一緒に頑張ってるハンターの皆も……一人でも多く助けるんだ……! 後はお願い!」
ハンドガンを強く握り直し、マルカへと背を向ける。機導型へ集中している味方の背中から襲い掛かるゾンビへ、
アイアンサイトを覗きながら、引き金を3回。
続く銃声を聞きながら、B班と第九師団はその場を後にして要救助者の護送に急ぐことにした。
◆
「っと、あそこにも救護要請か。行くぞ!」
大通りを駆けるエヴァンス・カルヴィ(ka0639)が、無線を受けて路地へと進行方向を曲げる。
行き止まりに追いつめられていた一般人を補足すると、両で逆手に振りかぶったツヴァイハンダーをゾンビの延髄に突き刺し、
そのまま割き切るように振りぬいてと隣のゾンビにも一閃を浴びせる。
「救護はもちろんだが、俺はゾンビの殲滅を徹底的にやらせてもらうぜぇ!」
窓から、屋根の上から、次々と逃がさんとばかりにゾンビが溢れ、
エヴァンスが大立ち回りを繰り広げているうちに、マルカが一般人の手を引いて大通りへとかけていくと、
フラヴィ・ボー(ka0698)が崩れたゾンビの横で佇み、伸びていた機動剣の光を静かに収めていた。
(街で暴れる歪虚を見ると酷い嫌悪感に襲われるのは何故だろう……LH404を思い出すからか?)
少し静かになった通りを見渡し、目を細める。
(ま、それ以前の記憶はないけれど)
エヴァンスとマルカが合流し、E班から託された救助民10名ほどを連れてフラヴィも通りを駆け出した。
走れるものは走り、怪我人は第九師団員が運んでいく。
途中道を濁流のように阻むゾンビの群れへ、エヴァンスが先陣を切っていく。
踏み込んで前傾姿勢で跳躍、肩の後ろへ思いきり振りかぶり、道ごと砕かんとする一撃でゾンビ達を蹴散らしていく。
討ち逃したゾンビはフラビィが光の刃で突き崩す。
そのまま、伸ばした機導剣が縮まり、根本まで戻ってきたところで一気に膨張する。
要救助者へ近づいたゾンビに放たれた機導砲、一条の光が浄化するようにゾンビを消し飛ばした。
救護キャンプまではとっくに半分を過ぎた。
戦況を聞けば、入口付近は既に厚い味方の展開が確立できてきている。
もう少しで安全圏、もう少しで味方と合流できる……焦燥に支配されないように、はやる気持ちを抑えながら道を急ぐ。
ゾンビをかき分けた所で現れる新しい人影。
味方か―――そう思った矢先、こちらへ放たれる炎の矢、
マルカが一般人を庇い、その前にエヴァンスが入り込み斜めに構えたツヴァイハンダーの鎬で炎を防ぐ。
「さて、厄介事ですか」
クリス・ガードナー(ka1622)がアルケミストタクトを構えて前に出ると、
そこには2体の、今のこの町には似つかわしくない黒く豪奢な様相をした人が現れた。
「楽しそうなことしてるじゃない、僕たちにも一口噛ませてくれよ♪」
「推定吸血鬼……やることは、変わらないですが――敵を殲滅します」
軽妙な態度を見せる吸血鬼1体から、高速で鋭利な石が連続で飛ばされてくる。
クリスが横に飛んで回避し、転がり起き上がりざまに機導砲を放つ。
体制を崩された吸血鬼、その石弾を放った吸血鬼と別の者がクリスに迫っていた。突き出した槍が眼前に――
クリスの目の前で横に回転するようにはじけ飛ぶ吸血鬼。
「援護は任せて、そのまま走り出しなさい」
マルカのトランシーバーにしずるからの無線が入る。
長距離の屋根の先で、アサルトライフルのマガジンを取り換えると、
視線の先にフィル・サリヴァン(ka1155)が現れ、同じくマルカ達に先に行くよう促す。
『私も協力致しますよ、貴方たちが吸っていい血は、ここには一滴も流れません』
ハルバードを振り回して槍の吸血鬼に切りかかる。
柄で斧部をいなすと地面に刺さるが、腕に力を込めて地面から槍部で突き上げる。
後方で魔法を詠唱し出した吸血鬼には、しずるがマテリアルの恩恵により得た視界で遠距離狙撃。
直接手て掴めるような距離に認識した喉元へ、しずるの弾丸が食らいつく。
相方が倒れた事で分が悪いと見たか、魔法を発していた吸血鬼は踵を返し始める。
フィルが急ぎ追いかけ、ハルバードを横に凪ぐが紙一重のところで掠る程度に留めてしまう。
だが、しずるの目と指は、留まってはいなかった。
フィルの振り切ったハルバードの鎬めがけて、研ぎ澄まされた感覚を信じて引き金を弾く。
跳弾の恩恵を得た弾丸は、鈍く光る平たい斧部を滑り、逃げる吸血鬼の背中を貫いた。
十字架を立てるように突きたてられるハルバード、結果は見ずもがな。
ひとまずは安全になったB班の進む背中を、静かに屋根の上から見送っていた。
救護キャンプへ駆け込み、怪我人は手厚く手当を施され、動ける者も師団の守備布陣の後ろへと下げられる。
護送を完了したB班メンバーへ水が渡され、マルカが汗を腕で拭いながら仲間にヒーリングを駆けていく。
「さて……」
「もういくのか?」
大剣を振り回し酷使していた肩の具合を回してみてから、再度突入しようとするエヴァンスへ師団員が声をかける。
「休めるうちに休んだし、動けるうちに、動いておかないとな」
あの時とは違う、今のボクは助ける側の人間だ……決意の視線で、嫌悪感を払う為にまた街を睨む。
「救助者は恐らくあと少し、敵の方が多少多いです。油断はしませんよう……」
「報告、連絡、相談……今回の依頼成功の要ですね……! まだまだがんばりますっ……!!」
ぞろぞろ歩くB班の背中へJが声をかけると、マルカが気を威勢を張りなおす。
戦場に赴く彼らの勇姿ある姿は、街の要塞にも引けを取らずに大きく見えた。
◆
拠点都市商店街、商店と言うよりは、宿に卸す商品を扱う市場的な店が立ち並ぶ通り。
剣機による被害が出るまでは、人々の喧噪で活気づいていたであろうこの場所も、
既に軒は崩れ、一部では火の手が立ち、歪虚との戦闘の痕跡が生々しく残されていた。
メトロノーム・ソングライト(ka1267)が膝を折り、自身のレトリバーであるプリンの頭を包み込むように撫でる。
プリンの後ろには、商店の中から出てきた第五師団員と一般人、怪我については軽度のようだ。
「他の方はもういませんか?」
狼狽している第五師団員と、焦りの顔を浮かべている一般人に顔をあげて問う。
「恐らくこの辺りは俺達で最後だ。早く逃げよう、危険すぎる」
愛犬の鼻も、自身の鋭敏感覚も、確かに他には何も捉えてはいないようだった。
「私達はまだ下がれません。この子についていけば、程なく第九師団の方と合流出来ますので……」
プリンが通路の先を行くと、既に恐怖で限界を感じていた一般人を鑑みて、第五師団の者は剣を抜き、すまない、と一言その場を後にする。
「……引くわけには、いかないな」
オウカ・レンヴォルト(ka0301)が銃のスライドを動かし、薬室へ弾を滑らせる。
避難した2人の後方、そしてオウカの視線の先では、けたたましくドリルの音を響かせて、
機導による強化を施されたゾンビがクレール(ka0586)へ襲いかかっている所だった。
「避難は?!」
「ひとまず逃がした。このエリアの捜索を続けるぞ」
クレールが防御障壁を展開するが、容易く貫かれ弾かれる。
地面に転がった所へ螺旋の衝撃が絶え間なく襲い掛かるが、ムーバブルシールドで回転しながら盾がクレールの脇腹へと飛び込み、
致命傷を免れる。
重圧に苦悶の顔を浮かべるクレールを助けるべく、オウカがドリルの付け根めがけて射撃を行う。
「よそ見してんじゃねぇ!」
リュー・グランフェスト(ka2419)が閃光が如く鋭い突撃で機導型へ向かっていく。
斜めに突き上げたエストックは機導型の素の腕の方へと突き刺さる。
痛みに反応した機導型は腕をがむしゃらに振り回し、無理やりエストックを振り抜く。
体制を崩したリューへ丸太のような拳が迫るが、盾で受け止めると体を90度回転させていなし、腕の上を転がるように受け身を取る。
そのまま揺れる腕を踏み込んで跳躍、強く突き出したエストックは、機導型の熟れすぎた果実のような右目を突きつぶした。
「『高度に発達した科学は魔法と区別がつかない』……ナントカの第三法則と言うらしいがね」
久延毘 大二郎(ka1771)が、片目を抑えながら、がむしゃらに駆動音の大きくなったドリルを振り回すゾンビに対して、
アースバレットを撃ち込んでゆく。ゾンビは体にあたった石弾の方向に反応してドリルを振り回していく、これで、
なるべく被害を最小限に済ませるよう誘導していた。
「あのゾンビ君達はどちらの技術によってあのような変貌を遂げたのか……クク、全く興味が尽きんよ」
「それでも……人を悲しませる進歩なんて許せない! 私の目の前で……機導術に、技術に! 一方的な殺戮なんか、させない!」
大二郎の放つファイアアローを追いかけるようにクレールが駆け、ゾンビの胸元に弾ける火の矢と同時に股下を滑りこみ、振り向きざまに背中から機導剣で切りつける。
ぎょろと片目を向けて振り向く機導型、だが、その視線はクレールに向けられているものではなかった。
「まずい、後ろだ!」
オウカの声と共に振り向けば、そこには崩れた瓦礫の下で泣いている少年がいた。
動けないのだろう、クレールを大股で飛び越えるようにして、一目散に機導型が駆けていく。
振り下ろされる轟音、怯えて泣き叫び、頭を抱える少年へ被せられた影がだんだん大きくなって―――
衝突音と共に、少年が顔をあげれば、濃くなった影の上にはクレールの背中が見えた。
「見せてやる……! 機導術は、人を助けるんだぁぁぁっ!!」
障壁も割られ、盾も既にぼろぼろ。クレールは突き下ろされたドリルを盾で地面に押さえつけていた。
駆動しようと無理やり回そうとするが、鈍い音が断続的になり、その度ゆっくり螺旋を描こうとしてはクレールの力で止められてしまう。
その隙にオウカが横から走りこみ、ギアブレイドでドリルのついた腕に切りかかる。
瞬間、剣から腕に放たれた雷撃はゾンビの肉体に作用し、竦み上がったかのうに動きを止める。
その隙にリューが駆けよる。クレールが機導剣で瓦礫を取り払い、リューと共に子供を助け出す。どうやら怪我は大きくないようだ。
機導型が再び動き出そうとした頃には、メトロノームが近づいており、狭い延髄を魔導拳銃で狙っていた。
暴れている時は狙えなかった急所。だが、今なら――祈るように、引き金に力を込める。
骨を砕く衝撃と共に、今度はゾンビの全身の力が抜ける。
「ま……少し大人しくして頂かないと、興味も調査もあったものではないかもしれないがね」
味方の肉薄した戦闘のおかげで、満足の行く集中を行う事が出来た大二郎、
ワンドの先端に溜まるマテリアルが眩く灯り、それが徐々に焔へ変化していたかと思うと、
水を抑えていたホースのように、激しく、太い焔がゾンビへと飛びかかる。
渾身のファイアアローは、機導型の左上半身をその獄炎でゾンビを雄叫びごと包み込んでいった。
「今度こそ、この辺りは大丈夫なようですね」
機動型撃退の後、帰ってきていた愛犬の鼻を頼るが、特にめぼしい反応はなく、
彼らも情報と照らし合わせて、クリアであると判断した。
合流した第九師団へ救出した少年を託し、大声でお礼を叫ぶ彼の声を聞き、
クレールは肩で息をしつつ、満足そうな安堵の表情を浮かべていた。
そして、C班は他班との合流の為また駆ける。
既に、戦局は終盤へと移っていた。
◆
「救援はあとどれくらいですか……!」
『一部をC班の救助者護送に割き、残った方が戦闘中だ、少し遅れているから持ちこたえてくれ』
アリオーシュ・アルセイデス(ka3164)が轟音の中短伝話とやりとりをする。
傍らには、脇腹に血を滲ませている第五師団員が乱れる呼吸を整えるように倒れていた。
「気を強く持って下さい、必ず助かります……!」
応急処置は既に施してあるが傷が深い。流し過ぎた血による体力の低下に、
少しでも足しになるよう重ねてヒールをかけていく。
アリオーシュの視線の先では、神代 誠一(ka2086)がチェーンソーからの一撃を辛うじて避けていた所だった。
「人命は任せます。アリオーシュさん達が救護に徹することが出来るよう、俺は攻撃に専念します」
「はい……! 一人でも多くの人を救いましょう……!」
眼鏡を引き上げ、地面から鎖鋸を抜いている隙を突き勢いよく距離を詰める。
ゾンビの背後、ケーキのように断面をカットされた家屋の2階部にイグレーヌ・ランスター(ka3299)がいるのを確認し、
狙いやすいよう、その場に固定する為に接戦を挑む。
振り抜かれた拳を加速で避け、懐に飛び込みヌンチャクを鳩尾に突きこむ。
「光りあれ」
ゾンビがよろけた拍子に、膝裏を狙い矢を放つ。
二本の強弾が最も防ぎにくい関節部へ突き立つと、ゾンビは姿勢を崩して膝をつく。
「さすが先生、いいとこ教えてくれる。でも大丈夫か? そんなに動き回ってて」
「ふふ、闇雲にぶつかるようなことはしてませんから安心して下さい」
声が通っていた訳ではないが、視線にお互いを捉えながら聞こえているように言葉を零す。
これ以上動かないか調べようとしたところ、チェーンソーだけが駆動する。
チェーンソーは鋸としてではなく、まるで地面を滑るキャタピラのように、ゾンビの胴体を引きずって神代へと迫っていた。
急ぎヌンチャクで鋸を受け止めるが、巨大な鎖鋸とヌンチャクでは分が悪い。ヌンチャクの鎖にヒビが入り始め、
その止められていた刃は柔らかい肉体を引き裂かんとしてじりじりと神代へと迫る。
「そのままで!」
下がろうとしたところ、クロ・トゥインクル(ka1468)の声と共に眩い光が神代の視界の横から飛び込んでくる。
ホーリーライトがゾンビの肩を襲い、地面からずれた鎖鋸は動力の赴くままに地の上を遊びまわる。
「素晴らしい……!」
冷静にチェーンソーの動きを読み、ランアウトで一気に近づく。
機導部、鎖鋸の根本部分へカードのようにチャクラムを挟みこむと、ガチン、と鈍い音と共に脅威の刃が動きを止める。
「私も手伝ってやるよ!」
イグレーヌの矢の連撃が機導部を狙い、チェーンソーの隙間隙間に楔のように矢が入りこむ。
既に本体の方は虫の息、落ち着いて、幕を下ろすようにゾンビの頭部へと神代はヌンチャクを振り下ろした。
回復はボクにもまかせてください、とクロがアリオーシュの下へと駆けより第五師団員へヒールを駆ける。
神代とイグレーヌも合流し、護送に移しても良い状態を待って周りを警戒していた。
「そろそろデザートはいかがかな? 食べるのは、僕達だけど」
埃っぽい空気の中を透き通るように通る美麗な声。
神代が振り返れば、そこには路地裏から出てきたと思わしき吸血鬼が佇んでいた。
「おや、デザートは勝手に選ばずに、まず女性に選ばせてあげた方が好感度あがりますよ」
「そうだね、ではビュッフェ形式にしようと思うんだ」
落ち着いて返す神代に対して、パチンと指を鳴らす吸血鬼。
その音と共に、いつの間にか8体程の吸血鬼が、D班を取り囲んでいた。
思わず武器を構えるが、怪我人を抱えて且つ主な攻撃要員は2人、少々分が悪いか……
この手を止めたらこの人は――アリオーシュの手に力が籠り、守るように3人が吸血鬼に対して立ちはだかる。
「――コレ以上のオイタは、イケナイネ」
1人の吸血鬼の胸に咲く薔薇、人と同じ赤いそれをパッと見せると、吸血鬼は地面へと熱いキスをするように倒れ込んだ。
その後ろからは、アルヴィンと銃口から煙を上げているソフィアが現れた。
「お待たせしました! すぐ片づけちゃいますんで待っててくださいねっ!」
言葉と共にソフィアは吸血鬼達へ向けて弾幕を張っていく。
「私もホンキ出しちゃうよ! もう許さないんだから!」
(美味しいとこ全部持ってかれてたまるかっての!)
本音と建前を咀嚼して、サトコもアースバレットを次々に放っていく。
奇襲に混乱した吸血鬼達の統率は、既に取れてはいなかった。
その隙に神代がよそ見をしていた吸血鬼の背中をヌンチャクで砕く。
「そうだ……二度と悲劇は繰り返させない、だから歪虚は全て射殺す。私はそう誓ったんだ!」
イグレーヌも矢を番えて逃げる吸血鬼の足を地面に縫い付けるように打ち込む。
「知恵がある分、ゾンビより達が悪かったが……相手も悪かったな」
イグレーヌが食い止めた吸血鬼に組みつき、首筋へメイルブレイカーを突きたてるエアルドフリス。
刃を抜く瞬間、かりっ、と咥えたパイプに思わず歯が立つと、
固まっていた微かなヤニの香りが鼻を突いて抜けていった。
「間ニ合ッタネ、アトハココガ最後ダッテイウカラ、皆デ駆ケツケテ来たンダヨ」
アルヴィンの屈託のない顔を見ていると、沸き立っていた血の気もどこか落ち着きを取り戻してしまう。
披露困憊のD班も今一度力を振り絞り立ち上がると、通りの向こうに大人数の人影を確認する。
それは、嫌になるほど見てきたゾンビではなく、れっきとした戦場を共にした者達の生気の籠った顔ぶれだった。
◆
「ユウ、報告だ」
撤収を始める救護キャンプ、最後に残った司令テントの下で、
纏めた書類を師団長に差し出すリベルト。
「やぁ、最後まで凄く綺麗にまとめられてるね。書類仕事専門でハンターを雇いたいところだよ」
「俺も師団長殿がもう少し頑張ってくれたら汚い字をお披露目せずに済むんだがな」
「まぁ、街はちょっと今後次第ってところだけど、人的被害は最小限ってところかな」
「街も政治も作るのは人だ。人さえいれば後はどうとでもなる。上々なもんだろう」
「そうだよね。さて、じゃあその為にも被害状況と照らし合わせた必要物資の調達と、輸送の手配を行わないとね」
「そこまでがうちの仕事だもんなぁ、わかっちゃいるけどようユウ……」
「ふんぞり返ってた僕らが今度は動く番だよ、ハンター達への感謝の気持ちも込めて、最後まで頑張ろうと思わない?」
「司令所にいたのはほとんどお前だけだろ! 俺はあっちゃこっちゃ切っては跳び、飛んでは斬ってたっつーの!」
まるで巨人でも暴れたかのように荒らされてしまった街。だが、それでも今後に希望を抱けるのは、
作戦中所々で懸命に血と汗を流した者たちを見てきたから、その者達が何かを背負って戦ってくれたからに違いなかった。
帝国第五師団拠点都市、グライシュタット。
天から剣機が落ち、その眷属である歪虚が放たれたこの街は、
外から見た限りでは、思いのほか静かで、肌を舐めるように不気味さが醸し出されていて、
まるで街全体が蠢いて、新しくこの静寂に取り込まれる者を、手をこまねいてまっているかのような、
悪い意味で新しい命が吹き込まれているかのようだった。
「ユウ、拠点の準備が完了した。時間的にも余裕、なんならとシャンデリアでもぶら下げるぐらいはできそうだぜ」
第九師団副師団長、リベルトが数人の配下を連れて師団長、ユウの下へと報告に来る。
所々返り血のようなものを浴びているのは、拠点設営予定地に徘徊していたゾンビ型歪虚を始末した為だ。
「了解、そろそろ突入はできそうかな?」
「えぇ、これ以上街を蹂躙される前にと、急ピッチで仕上げました」
ユウの視線の先では、J(ka3142)が睨んでいた地図から顔をあげて、ひと息ついた所だった。
街の地図の上には、ハンターの班分けと複数刺された色つきピンと付箋、
傍らには別で纏めた要員一覧表等が備えてあった。
「それにしても、ここまで情報が集まると私も仕事がしやすかったです」
「当然だ、俺と部下は本気出せば王国の姫のスリーサイズからうちの皇帝のへそくりの額まで調べられるぜ」
リベルト達は、予め街を行ける範囲で跳びまわり、ある程度の情報収集に努めていた。
胸を張るリベルトの傍らでは、サーシャ・V・クリューコファ(ka0723)が手の中で通信機を弄び、
作戦開始の指示を待つ。
ユウが静かに頷くと、それをゴングと捉えてサーシャが魔導短伝話とトランシーバーのスイッチを同時に入れた。
「ララーラー 我々の美声を聞き給え」
『ねぇDJ……もしかして私はチャンネルを間違えたかしら?』
サーシャの軽口のような第一声に、トランシーバーの向こうの坂斎 しずる(ka2868)が返す。
まるでマイクの向こうの肩を崩した様子も見て取れるような感じだ。
「気が抜けるか? 何、緊張を解すのが目的だ。なぜなら――我々は救援隊だ、勇猛果敢に突撃するのも結構だが、気を張り過ぎて躍起になって、血眼で迎えに来る白衣の天使では救われる方も困るというものだ」
本部へ戻りすがらの偵察員の声、街の外から見てとれる様子、その凄惨さは既にハンター達にも漏れ始めていた。
この地図を見せたら……もしかしたら、統率などあったものではなくなるかもしれない。だからこそ、それを司る役目が必要だ。
調味料も、情報も、最大でなくていい。最適な時に、最適なものを、最適なだけ使えば、結果は最適に近づいていく。
「さぁ諸君、情報は任せてくれ。鮮度抜群のトピックスをどんどん流していくぞ」
◆
『正面街入口、まだ半径500m以上クリア出来ていません。逃げ込んできている人もいるかもしれないので最優先で確保を、次に、近くの宿に数人立てこもっているようです。場所は……』
隣のトランシーバーからノイズ混じりで流れてくる情報に耳を立てながら、エアルドフリス(ka1856)が辺りを見回す。
正面入り口には既に数人逃げ込んできている市民と第五師団員がおり、突入した際のA班と師団員数名で要救助民を追いかけていたゾンビを相当したところだ。
「厭な眺めだ、14年前を思い出す……だが俺はもう無力な餓鬼じゃあない」
傍らに焦げ落ちたゾンビをよそに街を見直し、マギスタッフを構え直す。
「護り救うのはあんたの役目だ、アルヴィン」
声をかけられたアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)は、意識を向けていたトランシーバーからエアルドフリスへと
「フフ、ルールー頼モシイネ」
「義務は果たさないとな―――道は拓こう」
最早摂理か理不尽か曖昧な戦いだ……だが、やることは決まっている。
欠伸交じり、頭上へピンと伸ばした腕は、勢いよく振り下ろされると、
突き破るように駆け抜ける風の刃が、帽子を押さえるアルヴィンの背後から顔を出した屍の額を潰した。
エアルドフリスの手際の良さ、頼りがいに思わず口笛でも吹きたくなるぐらいだ。
(魂の煌きを見届ける為、ハンターとなったケレド、ココに魂への敬意等ナク……)
倒れる歪虚を一瞥した後、風でずれた帽子の位置を整えながら、アルヴィンはエアルドフリスの背中を追いかけた。
「あぁー! 待って! 置いてかないでよー!」
デリンジャーのチャンバーをパチンと収めて、サトコ・ロロブリジーダ(ka2475)が二人の後を慌てて追いかける。
目も当てられない状況下でも、決して暗くならず、サトコはきびきびと敵を屠り、懸命に救助活動に励む。
少し装備が豪華な第五師団員の手当てを手厚く行い、必ず助かりますからと手を両手でぎゅっと握って力強く見つめる。
少し顔が赤くなったけが人を、第九師団の者が運んでいく。その献身的な姿に第九師団の者も思わず感心していた。
(師団の拠点を救ったってなりゃー、多少はお偉方のポイントも稼げるだろ。考えようによっちゃ美味しい仕事だ)
ふぅ、とため息の後に
決して下心の為に他の者をおざなりにしているワケではないが、彼女は彼女なりのモチベーションで手を差し伸べていた。
『A班、現時点を動いていないか? 敵多数そちらへ向かっている報告を受けた、警戒しろ』
サーシャの無線を受けて、倒れた少女と、ヒールをかけるアルヴィン、2人を背中に隠すようにエアルドフリスが警戒する。
倒れていた少女が、目を見開き叫ぶ。視線と声の先には、屋根から零れるように落ちてくるゾンビの群れ。
怯える少女を宥めるようにアルヴィンが掌で頭を包むようにひと撫で、立ちはだかる背中は迸る炎に照らされていた。
(っチ、またクソ面倒なコトになっちまったが仕方ねぇ……)
サトコがエアルドフリスの元へ駆けつける。一体たりとも抜かせる訳にはいかない――飛びかかり横から殴りつけるようにデリンジャーを突き出してゾンビの側頭部を撃ちぬく。
勢いでしゃがんだ頭上を、エアルドフリスの火矢が飛び越えてゆく。
倒れたゾンビの背後には、牙を向いた別のゾンビが既にサトコに覆いかぶさろうとして―――
ソフィア =リリィホルム(ka2383)割り込む。ゾンビの牙は、ソフィアが横に構えたアサルトライフルに微かに傷をつけただけだ。
「―――」
散れ、と聞こえたような気がしたが、下から振り上げた銃床の一撃が敵の顎を砕き、良く聞き取れなかった。
振り上げた反動でガンプレイのように1回転させて持ち直すと、ソフィアのライフルが火を噴き、何重にも巻いた包帯のように折り重なり襲いかかるゾンビを次々と凪ぎ屠っていった。
拳から迸る焔の幻影も相まり、見上げるサトコには、さながら炎の化身のようにも映り……
「フィーリ君」
アルヴィンのかけた声の後、サトコが援護で横に並ぶ。
そこには、懸命に、護る為に血で汚れ、汗を流す健気な少女の横顔があった。覗き込むサトコに気づき、にこっと微笑んでみせる。
「さぁて、まだまだ始まったばかりですよっ、助けを待つ人をお迎えに行きましょう!」
空いた道を閉ざさないように、駆け付けた師団員が戦況を維持しようと敵を倒し、その道をアルヴィンとエアルドフリスが進んでいく。
ぽかんとした後サトコはハッとしたように気づき慌てて3人を追いかける。
「ま、負けないんだからねーっ!!」
路地でいきなりびしっとソフィアを指さすサトコに、きょと、と首を傾げるソフィア。
くつくつとアルヴィンが笑い、エアルドフリスが軽いため息を吐いた。
◆
「あの部屋だ! 急げ!!」
大通りに面した大きな宿、クレイモアでドアごと敵を叩き切り、吹き抜けのフロアに入るヴァイス(ka0364)
階段を駆け上がり、2階の廊下を埋め尽くすゾンビに臆せず切りかかり、群れの中を立ち回る。
「俺が引き付ける、今のうちに!」
大剣を振り回し斬りつけながら廊下の端まで突撃して注意をひきつけ、
近づいてきたゾンビには強撃交じりで確実な一撃を叩き込んでゆく。
「おいおい、1人で全部やっちまうんじゃないか……」
ヴァイスに気を取られて横や後ろを向いたゾンビを、柊 真司(ka0705)が処理していく。
リズムよくタップするアサルトライフルが鋭い弾丸を吐きだし、的確にゾンビの頭へ、髄へ喰らいついてゆく。
「リロー……っと!?」
下がってマガジンを取り換えようとしたところで、群れの中から一匹跳躍して飛びかかってくるゾンビがいた。
急ぎシールドを掲げて防ぎ、そのまま相手の勢いを利用して後ろへ叩きつける。
敵の肩を踏みつけ、リロードしたての銃を後頭部に突きつけた。
出来た道を進み、部屋に近づいていくイェルバート(ka1772)
両手で構えたハンドガンを、扉の前で全体重を乗せて叩いていたゾンビの側頭部へと放つ。
崩れおちるゾンビからノブを奪い取り、急ぎ部屋の中に入る。
「助けにきましたよ!」
第九師団と一緒に助けに来たことを告げれば、中にいた者達に安堵の表情が浮かぶ。
「あと少しの辛抱だ! 立てる奴はついてこい! イェルバート、怪我人の傷を見てくれ!」
ヴァイスが味方を鼓舞しながら、廊下の安全を確保する。
体を張っていたのだろうか、第五師団員らしき兵士のみが怪我を負って肩で息をしていた。怪我は足だけだが、血を失い酸素が回っていないのだろう。
通信機で応援を要請すると、宿の外まで第九師団員がやってくるとのことだった。肩を貸そうとしゃがみこむ。
その後ろ、窓には大量の腐敗した手が音を立ててはりつき―――
弾き返されるように、その手は離れていく。
ガラスに反射して鈍く光る刀身、シャルラッハ・グルート(ka0508)のツヴァイハンダーの剣圧が、
窓に群がるゾンビを一蹴した。
「どこにでも現れやがるなこいつらは……1匹見たら30匹はいると思えってか?」
シャルラッハの援護と共に、イェルバートと兵士は吹き抜けの1階へと降りることが出来た。
突如、壁を突き破る轟音と共に飛び込んでくる影、
イェルバートと兵士を突き飛ばし、防御障壁を展開する真司。
光の防御壁は砕け散り、胴を抉らんとする一撃はシャルラッハが叩き付けるように振り下ろした渾身撃で逸らされる。
地面にめり込んだ杭のようなものが、一瞬で引っ込んでゆく。
壁に空いた大きな穴の向こうには、腕から蒸気を迸らせながら呻く大きなゾンビが立ちふさがっていた。
「救助者は外の師団員とB班に任せるんだ! こいつはここで止めるぞ!」
「乗ったぜ。強い奴が相手だと余計に燃えてくらあ……死ぬまでとことん殺り合おうぜ!」
真司の放った弾を追いかけるように、ヴァイスとシャルラッハが両サイドから走り込み、1対の牙のような渾身撃を放つ。
その隙にイェルバートが外で待っていたマルカ・アニチキン(ka2542)へと兵士の身柄を引き渡す。
「あなたも一緒についていきますか?」
マルカの言葉に、剣戟を背にしたイェルバートは首を横に振る。
「……置き去りにされる怖さは、何となく分かるから。第五師団と、街の人達。それに、一緒に頑張ってるハンターの皆も……一人でも多く助けるんだ……! 後はお願い!」
ハンドガンを強く握り直し、マルカへと背を向ける。機導型へ集中している味方の背中から襲い掛かるゾンビへ、
アイアンサイトを覗きながら、引き金を3回。
続く銃声を聞きながら、B班と第九師団はその場を後にして要救助者の護送に急ぐことにした。
◆
「っと、あそこにも救護要請か。行くぞ!」
大通りを駆けるエヴァンス・カルヴィ(ka0639)が、無線を受けて路地へと進行方向を曲げる。
行き止まりに追いつめられていた一般人を補足すると、両で逆手に振りかぶったツヴァイハンダーをゾンビの延髄に突き刺し、
そのまま割き切るように振りぬいてと隣のゾンビにも一閃を浴びせる。
「救護はもちろんだが、俺はゾンビの殲滅を徹底的にやらせてもらうぜぇ!」
窓から、屋根の上から、次々と逃がさんとばかりにゾンビが溢れ、
エヴァンスが大立ち回りを繰り広げているうちに、マルカが一般人の手を引いて大通りへとかけていくと、
フラヴィ・ボー(ka0698)が崩れたゾンビの横で佇み、伸びていた機動剣の光を静かに収めていた。
(街で暴れる歪虚を見ると酷い嫌悪感に襲われるのは何故だろう……LH404を思い出すからか?)
少し静かになった通りを見渡し、目を細める。
(ま、それ以前の記憶はないけれど)
エヴァンスとマルカが合流し、E班から託された救助民10名ほどを連れてフラヴィも通りを駆け出した。
走れるものは走り、怪我人は第九師団員が運んでいく。
途中道を濁流のように阻むゾンビの群れへ、エヴァンスが先陣を切っていく。
踏み込んで前傾姿勢で跳躍、肩の後ろへ思いきり振りかぶり、道ごと砕かんとする一撃でゾンビ達を蹴散らしていく。
討ち逃したゾンビはフラビィが光の刃で突き崩す。
そのまま、伸ばした機導剣が縮まり、根本まで戻ってきたところで一気に膨張する。
要救助者へ近づいたゾンビに放たれた機導砲、一条の光が浄化するようにゾンビを消し飛ばした。
救護キャンプまではとっくに半分を過ぎた。
戦況を聞けば、入口付近は既に厚い味方の展開が確立できてきている。
もう少しで安全圏、もう少しで味方と合流できる……焦燥に支配されないように、はやる気持ちを抑えながら道を急ぐ。
ゾンビをかき分けた所で現れる新しい人影。
味方か―――そう思った矢先、こちらへ放たれる炎の矢、
マルカが一般人を庇い、その前にエヴァンスが入り込み斜めに構えたツヴァイハンダーの鎬で炎を防ぐ。
「さて、厄介事ですか」
クリス・ガードナー(ka1622)がアルケミストタクトを構えて前に出ると、
そこには2体の、今のこの町には似つかわしくない黒く豪奢な様相をした人が現れた。
「楽しそうなことしてるじゃない、僕たちにも一口噛ませてくれよ♪」
「推定吸血鬼……やることは、変わらないですが――敵を殲滅します」
軽妙な態度を見せる吸血鬼1体から、高速で鋭利な石が連続で飛ばされてくる。
クリスが横に飛んで回避し、転がり起き上がりざまに機導砲を放つ。
体制を崩された吸血鬼、その石弾を放った吸血鬼と別の者がクリスに迫っていた。突き出した槍が眼前に――
クリスの目の前で横に回転するようにはじけ飛ぶ吸血鬼。
「援護は任せて、そのまま走り出しなさい」
マルカのトランシーバーにしずるからの無線が入る。
長距離の屋根の先で、アサルトライフルのマガジンを取り換えると、
視線の先にフィル・サリヴァン(ka1155)が現れ、同じくマルカ達に先に行くよう促す。
『私も協力致しますよ、貴方たちが吸っていい血は、ここには一滴も流れません』
ハルバードを振り回して槍の吸血鬼に切りかかる。
柄で斧部をいなすと地面に刺さるが、腕に力を込めて地面から槍部で突き上げる。
後方で魔法を詠唱し出した吸血鬼には、しずるがマテリアルの恩恵により得た視界で遠距離狙撃。
直接手て掴めるような距離に認識した喉元へ、しずるの弾丸が食らいつく。
相方が倒れた事で分が悪いと見たか、魔法を発していた吸血鬼は踵を返し始める。
フィルが急ぎ追いかけ、ハルバードを横に凪ぐが紙一重のところで掠る程度に留めてしまう。
だが、しずるの目と指は、留まってはいなかった。
フィルの振り切ったハルバードの鎬めがけて、研ぎ澄まされた感覚を信じて引き金を弾く。
跳弾の恩恵を得た弾丸は、鈍く光る平たい斧部を滑り、逃げる吸血鬼の背中を貫いた。
十字架を立てるように突きたてられるハルバード、結果は見ずもがな。
ひとまずは安全になったB班の進む背中を、静かに屋根の上から見送っていた。
救護キャンプへ駆け込み、怪我人は手厚く手当を施され、動ける者も師団の守備布陣の後ろへと下げられる。
護送を完了したB班メンバーへ水が渡され、マルカが汗を腕で拭いながら仲間にヒーリングを駆けていく。
「さて……」
「もういくのか?」
大剣を振り回し酷使していた肩の具合を回してみてから、再度突入しようとするエヴァンスへ師団員が声をかける。
「休めるうちに休んだし、動けるうちに、動いておかないとな」
あの時とは違う、今のボクは助ける側の人間だ……決意の視線で、嫌悪感を払う為にまた街を睨む。
「救助者は恐らくあと少し、敵の方が多少多いです。油断はしませんよう……」
「報告、連絡、相談……今回の依頼成功の要ですね……! まだまだがんばりますっ……!!」
ぞろぞろ歩くB班の背中へJが声をかけると、マルカが気を威勢を張りなおす。
戦場に赴く彼らの勇姿ある姿は、街の要塞にも引けを取らずに大きく見えた。
◆
拠点都市商店街、商店と言うよりは、宿に卸す商品を扱う市場的な店が立ち並ぶ通り。
剣機による被害が出るまでは、人々の喧噪で活気づいていたであろうこの場所も、
既に軒は崩れ、一部では火の手が立ち、歪虚との戦闘の痕跡が生々しく残されていた。
メトロノーム・ソングライト(ka1267)が膝を折り、自身のレトリバーであるプリンの頭を包み込むように撫でる。
プリンの後ろには、商店の中から出てきた第五師団員と一般人、怪我については軽度のようだ。
「他の方はもういませんか?」
狼狽している第五師団員と、焦りの顔を浮かべている一般人に顔をあげて問う。
「恐らくこの辺りは俺達で最後だ。早く逃げよう、危険すぎる」
愛犬の鼻も、自身の鋭敏感覚も、確かに他には何も捉えてはいないようだった。
「私達はまだ下がれません。この子についていけば、程なく第九師団の方と合流出来ますので……」
プリンが通路の先を行くと、既に恐怖で限界を感じていた一般人を鑑みて、第五師団の者は剣を抜き、すまない、と一言その場を後にする。
「……引くわけには、いかないな」
オウカ・レンヴォルト(ka0301)が銃のスライドを動かし、薬室へ弾を滑らせる。
避難した2人の後方、そしてオウカの視線の先では、けたたましくドリルの音を響かせて、
機導による強化を施されたゾンビがクレール(ka0586)へ襲いかかっている所だった。
「避難は?!」
「ひとまず逃がした。このエリアの捜索を続けるぞ」
クレールが防御障壁を展開するが、容易く貫かれ弾かれる。
地面に転がった所へ螺旋の衝撃が絶え間なく襲い掛かるが、ムーバブルシールドで回転しながら盾がクレールの脇腹へと飛び込み、
致命傷を免れる。
重圧に苦悶の顔を浮かべるクレールを助けるべく、オウカがドリルの付け根めがけて射撃を行う。
「よそ見してんじゃねぇ!」
リュー・グランフェスト(ka2419)が閃光が如く鋭い突撃で機導型へ向かっていく。
斜めに突き上げたエストックは機導型の素の腕の方へと突き刺さる。
痛みに反応した機導型は腕をがむしゃらに振り回し、無理やりエストックを振り抜く。
体制を崩したリューへ丸太のような拳が迫るが、盾で受け止めると体を90度回転させていなし、腕の上を転がるように受け身を取る。
そのまま揺れる腕を踏み込んで跳躍、強く突き出したエストックは、機導型の熟れすぎた果実のような右目を突きつぶした。
「『高度に発達した科学は魔法と区別がつかない』……ナントカの第三法則と言うらしいがね」
久延毘 大二郎(ka1771)が、片目を抑えながら、がむしゃらに駆動音の大きくなったドリルを振り回すゾンビに対して、
アースバレットを撃ち込んでゆく。ゾンビは体にあたった石弾の方向に反応してドリルを振り回していく、これで、
なるべく被害を最小限に済ませるよう誘導していた。
「あのゾンビ君達はどちらの技術によってあのような変貌を遂げたのか……クク、全く興味が尽きんよ」
「それでも……人を悲しませる進歩なんて許せない! 私の目の前で……機導術に、技術に! 一方的な殺戮なんか、させない!」
大二郎の放つファイアアローを追いかけるようにクレールが駆け、ゾンビの胸元に弾ける火の矢と同時に股下を滑りこみ、振り向きざまに背中から機導剣で切りつける。
ぎょろと片目を向けて振り向く機導型、だが、その視線はクレールに向けられているものではなかった。
「まずい、後ろだ!」
オウカの声と共に振り向けば、そこには崩れた瓦礫の下で泣いている少年がいた。
動けないのだろう、クレールを大股で飛び越えるようにして、一目散に機導型が駆けていく。
振り下ろされる轟音、怯えて泣き叫び、頭を抱える少年へ被せられた影がだんだん大きくなって―――
衝突音と共に、少年が顔をあげれば、濃くなった影の上にはクレールの背中が見えた。
「見せてやる……! 機導術は、人を助けるんだぁぁぁっ!!」
障壁も割られ、盾も既にぼろぼろ。クレールは突き下ろされたドリルを盾で地面に押さえつけていた。
駆動しようと無理やり回そうとするが、鈍い音が断続的になり、その度ゆっくり螺旋を描こうとしてはクレールの力で止められてしまう。
その隙にオウカが横から走りこみ、ギアブレイドでドリルのついた腕に切りかかる。
瞬間、剣から腕に放たれた雷撃はゾンビの肉体に作用し、竦み上がったかのうに動きを止める。
その隙にリューが駆けよる。クレールが機導剣で瓦礫を取り払い、リューと共に子供を助け出す。どうやら怪我は大きくないようだ。
機導型が再び動き出そうとした頃には、メトロノームが近づいており、狭い延髄を魔導拳銃で狙っていた。
暴れている時は狙えなかった急所。だが、今なら――祈るように、引き金に力を込める。
骨を砕く衝撃と共に、今度はゾンビの全身の力が抜ける。
「ま……少し大人しくして頂かないと、興味も調査もあったものではないかもしれないがね」
味方の肉薄した戦闘のおかげで、満足の行く集中を行う事が出来た大二郎、
ワンドの先端に溜まるマテリアルが眩く灯り、それが徐々に焔へ変化していたかと思うと、
水を抑えていたホースのように、激しく、太い焔がゾンビへと飛びかかる。
渾身のファイアアローは、機導型の左上半身をその獄炎でゾンビを雄叫びごと包み込んでいった。
「今度こそ、この辺りは大丈夫なようですね」
機動型撃退の後、帰ってきていた愛犬の鼻を頼るが、特にめぼしい反応はなく、
彼らも情報と照らし合わせて、クリアであると判断した。
合流した第九師団へ救出した少年を託し、大声でお礼を叫ぶ彼の声を聞き、
クレールは肩で息をしつつ、満足そうな安堵の表情を浮かべていた。
そして、C班は他班との合流の為また駆ける。
既に、戦局は終盤へと移っていた。
◆
「救援はあとどれくらいですか……!」
『一部をC班の救助者護送に割き、残った方が戦闘中だ、少し遅れているから持ちこたえてくれ』
アリオーシュ・アルセイデス(ka3164)が轟音の中短伝話とやりとりをする。
傍らには、脇腹に血を滲ませている第五師団員が乱れる呼吸を整えるように倒れていた。
「気を強く持って下さい、必ず助かります……!」
応急処置は既に施してあるが傷が深い。流し過ぎた血による体力の低下に、
少しでも足しになるよう重ねてヒールをかけていく。
アリオーシュの視線の先では、神代 誠一(ka2086)がチェーンソーからの一撃を辛うじて避けていた所だった。
「人命は任せます。アリオーシュさん達が救護に徹することが出来るよう、俺は攻撃に専念します」
「はい……! 一人でも多くの人を救いましょう……!」
眼鏡を引き上げ、地面から鎖鋸を抜いている隙を突き勢いよく距離を詰める。
ゾンビの背後、ケーキのように断面をカットされた家屋の2階部にイグレーヌ・ランスター(ka3299)がいるのを確認し、
狙いやすいよう、その場に固定する為に接戦を挑む。
振り抜かれた拳を加速で避け、懐に飛び込みヌンチャクを鳩尾に突きこむ。
「光りあれ」
ゾンビがよろけた拍子に、膝裏を狙い矢を放つ。
二本の強弾が最も防ぎにくい関節部へ突き立つと、ゾンビは姿勢を崩して膝をつく。
「さすが先生、いいとこ教えてくれる。でも大丈夫か? そんなに動き回ってて」
「ふふ、闇雲にぶつかるようなことはしてませんから安心して下さい」
声が通っていた訳ではないが、視線にお互いを捉えながら聞こえているように言葉を零す。
これ以上動かないか調べようとしたところ、チェーンソーだけが駆動する。
チェーンソーは鋸としてではなく、まるで地面を滑るキャタピラのように、ゾンビの胴体を引きずって神代へと迫っていた。
急ぎヌンチャクで鋸を受け止めるが、巨大な鎖鋸とヌンチャクでは分が悪い。ヌンチャクの鎖にヒビが入り始め、
その止められていた刃は柔らかい肉体を引き裂かんとしてじりじりと神代へと迫る。
「そのままで!」
下がろうとしたところ、クロ・トゥインクル(ka1468)の声と共に眩い光が神代の視界の横から飛び込んでくる。
ホーリーライトがゾンビの肩を襲い、地面からずれた鎖鋸は動力の赴くままに地の上を遊びまわる。
「素晴らしい……!」
冷静にチェーンソーの動きを読み、ランアウトで一気に近づく。
機導部、鎖鋸の根本部分へカードのようにチャクラムを挟みこむと、ガチン、と鈍い音と共に脅威の刃が動きを止める。
「私も手伝ってやるよ!」
イグレーヌの矢の連撃が機導部を狙い、チェーンソーの隙間隙間に楔のように矢が入りこむ。
既に本体の方は虫の息、落ち着いて、幕を下ろすようにゾンビの頭部へと神代はヌンチャクを振り下ろした。
回復はボクにもまかせてください、とクロがアリオーシュの下へと駆けより第五師団員へヒールを駆ける。
神代とイグレーヌも合流し、護送に移しても良い状態を待って周りを警戒していた。
「そろそろデザートはいかがかな? 食べるのは、僕達だけど」
埃っぽい空気の中を透き通るように通る美麗な声。
神代が振り返れば、そこには路地裏から出てきたと思わしき吸血鬼が佇んでいた。
「おや、デザートは勝手に選ばずに、まず女性に選ばせてあげた方が好感度あがりますよ」
「そうだね、ではビュッフェ形式にしようと思うんだ」
落ち着いて返す神代に対して、パチンと指を鳴らす吸血鬼。
その音と共に、いつの間にか8体程の吸血鬼が、D班を取り囲んでいた。
思わず武器を構えるが、怪我人を抱えて且つ主な攻撃要員は2人、少々分が悪いか……
この手を止めたらこの人は――アリオーシュの手に力が籠り、守るように3人が吸血鬼に対して立ちはだかる。
「――コレ以上のオイタは、イケナイネ」
1人の吸血鬼の胸に咲く薔薇、人と同じ赤いそれをパッと見せると、吸血鬼は地面へと熱いキスをするように倒れ込んだ。
その後ろからは、アルヴィンと銃口から煙を上げているソフィアが現れた。
「お待たせしました! すぐ片づけちゃいますんで待っててくださいねっ!」
言葉と共にソフィアは吸血鬼達へ向けて弾幕を張っていく。
「私もホンキ出しちゃうよ! もう許さないんだから!」
(美味しいとこ全部持ってかれてたまるかっての!)
本音と建前を咀嚼して、サトコもアースバレットを次々に放っていく。
奇襲に混乱した吸血鬼達の統率は、既に取れてはいなかった。
その隙に神代がよそ見をしていた吸血鬼の背中をヌンチャクで砕く。
「そうだ……二度と悲劇は繰り返させない、だから歪虚は全て射殺す。私はそう誓ったんだ!」
イグレーヌも矢を番えて逃げる吸血鬼の足を地面に縫い付けるように打ち込む。
「知恵がある分、ゾンビより達が悪かったが……相手も悪かったな」
イグレーヌが食い止めた吸血鬼に組みつき、首筋へメイルブレイカーを突きたてるエアルドフリス。
刃を抜く瞬間、かりっ、と咥えたパイプに思わず歯が立つと、
固まっていた微かなヤニの香りが鼻を突いて抜けていった。
「間ニ合ッタネ、アトハココガ最後ダッテイウカラ、皆デ駆ケツケテ来たンダヨ」
アルヴィンの屈託のない顔を見ていると、沸き立っていた血の気もどこか落ち着きを取り戻してしまう。
披露困憊のD班も今一度力を振り絞り立ち上がると、通りの向こうに大人数の人影を確認する。
それは、嫌になるほど見てきたゾンビではなく、れっきとした戦場を共にした者達の生気の籠った顔ぶれだった。
◆
「ユウ、報告だ」
撤収を始める救護キャンプ、最後に残った司令テントの下で、
纏めた書類を師団長に差し出すリベルト。
「やぁ、最後まで凄く綺麗にまとめられてるね。書類仕事専門でハンターを雇いたいところだよ」
「俺も師団長殿がもう少し頑張ってくれたら汚い字をお披露目せずに済むんだがな」
「まぁ、街はちょっと今後次第ってところだけど、人的被害は最小限ってところかな」
「街も政治も作るのは人だ。人さえいれば後はどうとでもなる。上々なもんだろう」
「そうだよね。さて、じゃあその為にも被害状況と照らし合わせた必要物資の調達と、輸送の手配を行わないとね」
「そこまでがうちの仕事だもんなぁ、わかっちゃいるけどようユウ……」
「ふんぞり返ってた僕らが今度は動く番だよ、ハンター達への感謝の気持ちも込めて、最後まで頑張ろうと思わない?」
「司令所にいたのはほとんどお前だけだろ! 俺はあっちゃこっちゃ切っては跳び、飛んでは斬ってたっつーの!」
まるで巨人でも暴れたかのように荒らされてしまった街。だが、それでも今後に希望を抱けるのは、
作戦中所々で懸命に血と汗を流した者たちを見てきたから、その者達が何かを背負って戦ってくれたからに違いなかった。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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面白かった! | 23人 |
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MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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プレイング公開 サーシャ・V・クリューコファ(ka0723) 人間(リアルブルー)|15才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/10/05 17:39:49 |
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都市防衛の為に リュー・グランフェスト(ka2419) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/10/06 18:17:04 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/10/04 08:43:19 |
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師団長殿に質問。 アルヴィン = オールドリッチ(ka2378) エルフ|26才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/10/06 19:24:08 |