ゲスト
(ka0000)
ベルのかわりに鳴らすもの
マスター:紺堂 カヤ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/12/21 09:00
- 完成日
- 2016/12/28 05:02
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
日に日に寒さが増し、冬らしくなっていた。
寒さは歓迎できないが、この季節に待ち受けているイベントのことを思えば、気分は浮き立つもの。宝石商モンド氏の一人娘ダイヤは、毎年この時期、うきうきと聖輝節のプレゼントや料理について考えていた。
しかし、今年は少々様子が違う。
気温が下がるのに比例して、ダイヤのテンションも下がる一方なのである。
「お嬢様~、お茶にいたしましょう。パティシエが美味しいドーナツを作ったそうですわ」
「今日はいらないわ……、皆でおあがりなさいよ」
仲良しのメイドたちが呼んでも、お菓子に見向きもしない。いつもなら、多少ヘコんでいても形状記憶合金のごとくすぐに元気になるダイヤだったが、今回は相当にダメージが大きいようだった。
(まあ、それはそうでしょうね)
ダイヤの世話係である使用人・クロスは、ダイヤの先日の失敗を思い出してため息をついた。
ここのところ、自分の将来の生き方について模索していたダイヤは、父・モンド氏の仕事を手伝ってみたいと言い出していた。ハンターになってみる、と言い出した時にはクロスも気をもんだが、家業の手伝いならば心配なかろうと安心していた。何せ、おおらかではあるが実は敏腕経営者であるモンド氏がついているのだから。
と、思っていたのだが、ダイヤはその予想を大きく裏切ってくれた。
モンド氏が主催するチャリティーマーケットの企画のため、お客に振舞うためのお菓子の発注を任されたダイヤは、何をどう間違ったものだか、アップルパイを200枚も用意する約束で取引をしてしまったのである。モンド氏気が付いたときにはすでに遅く、キャンセルは不可能な事態に。モンド氏は大急ぎで国内屈指の果樹園に連絡を取り、大量のリンゴを仕入れてなんとか事なきを得た。
事なきを得た、が。
手伝うどころか大迷惑をかけてしまったダイヤの落ち込みぶりは凄まじく、いくらモンド氏が「気にすることはない」と励ましても回復することがなかった。
「ねえ、クロスー、何とかしてよ。お嬢様の元気がないとお屋敷全体が暗いんだから」
「そうよそうよ」
メイドたちがしきりに言うのを聞いて、クロスは顔をしかめた。
「なぜ私に言うんです」
「だって、なんだかんだ言ってお嬢様と一番仲がいいのはクロスじゃないの」
「まさか。ご冗談を。私がいつもお嬢様に無礼な態度を取っているのは見ているじゃないですか」
「見てるわよ? だからこそ言うんじゃないの。クロスの態度は使用人としては無礼かもしれないけど、友人としてはわりと自然よ」
「友人、ねえ」
クロスは渋い顔をした。友人がどうこう、というメイドの意見はともかくとして、このままダイヤが落ち込んでいるとそのうちモンド氏からも深刻な顔で相談されかねない。大事になる前に動き出しておくのは得策であるように思われた。
(とはいえ、いい加減落ち込むのはよしたらどうです、なんて正面からはっきり言えばますますへそを曲げそうだからな……)
「お嬢様、今年の聖輝節について提案があるのですが」
「提案? クロスから?」
ぼんやりした顔で、ダイヤがクロスを見た。
「ええ。今年は、盛大にパーティでも催したらいかがかと思いまして」
モンド家の聖輝節は、実は毎年とても静かだ。モンド氏が「聖輝節は家族で過ごすもの」という考えを持っているため、使用人たちはたっぷりのボーナスと休暇をもらってそれぞれ実家へ帰り、ダイヤたちも親子三人だけでゆっくりした時間を過ごすのだ。実家、というもののないクロスは、毎年モンド邸に留まっているのだが。
「お友だちも呼んで、楽しく過ごしてはいかがですか。シェフには、休暇前に料理をたくさん仕込んでもらうように頼みますから」
「……やめておくわ」
ダイヤは表情を変えることなく、沈鬱な様子でそう返した。
「なぜです。お嬢様、憧れていらっしゃったじゃないですか。お友だちとパーティ」
「そうだけど……。今はとてもそんな気になれないんだもの」
ダイヤはそう言うと、もうこの話はここまで、とばかりにクロスに背を向けてしまった。
「いっ……」
いい加減にしなさい、という怒鳴り声を、クロスはすんでのところで飲み込んだ。
「そうですか。わかりました。では私も今年はしっかり休暇をいただきますので」
強い調子で言い捨てて、クロスもダイヤに背を向けた。
(休暇中、何をするかは私の自由ですからね)
目を吊り上げたクロスは、その足でモンド氏の部屋へと向かったのであった。
寒さは歓迎できないが、この季節に待ち受けているイベントのことを思えば、気分は浮き立つもの。宝石商モンド氏の一人娘ダイヤは、毎年この時期、うきうきと聖輝節のプレゼントや料理について考えていた。
しかし、今年は少々様子が違う。
気温が下がるのに比例して、ダイヤのテンションも下がる一方なのである。
「お嬢様~、お茶にいたしましょう。パティシエが美味しいドーナツを作ったそうですわ」
「今日はいらないわ……、皆でおあがりなさいよ」
仲良しのメイドたちが呼んでも、お菓子に見向きもしない。いつもなら、多少ヘコんでいても形状記憶合金のごとくすぐに元気になるダイヤだったが、今回は相当にダメージが大きいようだった。
(まあ、それはそうでしょうね)
ダイヤの世話係である使用人・クロスは、ダイヤの先日の失敗を思い出してため息をついた。
ここのところ、自分の将来の生き方について模索していたダイヤは、父・モンド氏の仕事を手伝ってみたいと言い出していた。ハンターになってみる、と言い出した時にはクロスも気をもんだが、家業の手伝いならば心配なかろうと安心していた。何せ、おおらかではあるが実は敏腕経営者であるモンド氏がついているのだから。
と、思っていたのだが、ダイヤはその予想を大きく裏切ってくれた。
モンド氏が主催するチャリティーマーケットの企画のため、お客に振舞うためのお菓子の発注を任されたダイヤは、何をどう間違ったものだか、アップルパイを200枚も用意する約束で取引をしてしまったのである。モンド氏気が付いたときにはすでに遅く、キャンセルは不可能な事態に。モンド氏は大急ぎで国内屈指の果樹園に連絡を取り、大量のリンゴを仕入れてなんとか事なきを得た。
事なきを得た、が。
手伝うどころか大迷惑をかけてしまったダイヤの落ち込みぶりは凄まじく、いくらモンド氏が「気にすることはない」と励ましても回復することがなかった。
「ねえ、クロスー、何とかしてよ。お嬢様の元気がないとお屋敷全体が暗いんだから」
「そうよそうよ」
メイドたちがしきりに言うのを聞いて、クロスは顔をしかめた。
「なぜ私に言うんです」
「だって、なんだかんだ言ってお嬢様と一番仲がいいのはクロスじゃないの」
「まさか。ご冗談を。私がいつもお嬢様に無礼な態度を取っているのは見ているじゃないですか」
「見てるわよ? だからこそ言うんじゃないの。クロスの態度は使用人としては無礼かもしれないけど、友人としてはわりと自然よ」
「友人、ねえ」
クロスは渋い顔をした。友人がどうこう、というメイドの意見はともかくとして、このままダイヤが落ち込んでいるとそのうちモンド氏からも深刻な顔で相談されかねない。大事になる前に動き出しておくのは得策であるように思われた。
(とはいえ、いい加減落ち込むのはよしたらどうです、なんて正面からはっきり言えばますますへそを曲げそうだからな……)
「お嬢様、今年の聖輝節について提案があるのですが」
「提案? クロスから?」
ぼんやりした顔で、ダイヤがクロスを見た。
「ええ。今年は、盛大にパーティでも催したらいかがかと思いまして」
モンド家の聖輝節は、実は毎年とても静かだ。モンド氏が「聖輝節は家族で過ごすもの」という考えを持っているため、使用人たちはたっぷりのボーナスと休暇をもらってそれぞれ実家へ帰り、ダイヤたちも親子三人だけでゆっくりした時間を過ごすのだ。実家、というもののないクロスは、毎年モンド邸に留まっているのだが。
「お友だちも呼んで、楽しく過ごしてはいかがですか。シェフには、休暇前に料理をたくさん仕込んでもらうように頼みますから」
「……やめておくわ」
ダイヤは表情を変えることなく、沈鬱な様子でそう返した。
「なぜです。お嬢様、憧れていらっしゃったじゃないですか。お友だちとパーティ」
「そうだけど……。今はとてもそんな気になれないんだもの」
ダイヤはそう言うと、もうこの話はここまで、とばかりにクロスに背を向けてしまった。
「いっ……」
いい加減にしなさい、という怒鳴り声を、クロスはすんでのところで飲み込んだ。
「そうですか。わかりました。では私も今年はしっかり休暇をいただきますので」
強い調子で言い捨てて、クロスもダイヤに背を向けた。
(休暇中、何をするかは私の自由ですからね)
目を吊り上げたクロスは、その足でモンド氏の部屋へと向かったのであった。
リプレイ本文
夜には雪が降るかもしれない、とのことだった。やけに寒いはずだ、とクロスは肩を震わせる。
ダイヤは今日も朝から自室に閉じこもっている。もう昼過ぎだというのに、広間にも食堂にも顔を出さないままだ。彼女がここまで長く、深く落ち込んでいるのは、極めて珍しかった。
(それだけ、成長なさったということではあるけれど)
クロスは広間のテーブルを整えながらため息をついた。使用人たちが里帰りして、いつになくがらんとしたモンド家の屋敷に、それは思いのほか大きく響いてしまう。
「おいおい、ダイヤが落ち込んでる、とは聞いたけど、まさかクロスも落ち込んでんのか?」
広間の入り口から声がして、クロスが驚き振り向くと、大伴 鈴太郎(ka6016)渋い顔をして立っていた。その後ろから、他のハンターたちも広間へ入ってくる。
「おや、皆さま。お揃いでありがとうございます。しかし、まだ、パーティの時間には随分早いですが……」
クロスは客人たちに丁寧な礼をしつつも、困惑していると、鞍馬 真(ka5819)がパーティで予定している出し物の件を説明した。
「音楽をやろうと思っているのだが、こちらの聖輝節でよくやる曲を、教えて貰えないかな」
「なるほど、そういうことでございましたか。いろいろと考えていただいて、ありがとうございます」
クロスは深々と頭を下げた。そして、少し俯くようにして曲について考える。
「聖輝節の定番曲……ですか。何曲か存じ上げておりますが……、よろしければ『モンド家の聖輝節』の定番曲、をお願いしても?」
「モンド家の?」
真の隣で、骸香(ka6223)が首をかしげた。
「ええ。昔からありふれたことが嫌いだったお嬢さまのために、奥様がお作りになられたのです。小さな子どもでもすぐ歌える、簡単なものですが、ちゃんと楽譜を作っておいででしたから、持ってきましょう」
図書室にしまってあったはずだ、とクロスが広間から出ようとすると、可憐な声に呼び止められた。桜憐りるか(ka3748)だ。
「んと、良ければケーキの飾り付けもお手伝いさせて頂けたら嬉しいの」
「ケーキ、ですか。しかし、お客様を手伝わせるわけには」
クロスが申し訳なさそうにすると、小宮・千秋(ka6272)がにこにこと言った。
「お気遣いには及びませんよー。私も普段はご主人様のもとで働く身ですからー。こういうことには慣れておりますー」
「今のお屋敷には、使用人の方が少ないのでしょう? 是非、協力させてください」
クローディア(ka6666)もそう言って柔らかく微笑んだ。クロスはホッと息を吐いて微笑み返すと、また深々とお辞儀をした。
「よろしくお願いします」
りるかと千秋がケーキの飾り付けをし、クローディアはテーブルセッティングを手伝った。札抜 シロ(ka6328)は出し物の手品の準備と最終練習をしている。
「へー、すごいなあ」
鈴太郎が手元を覗き込む。
「あ、わりぃ、見ちゃいけなかったか?」
「ううん、大丈夫。楽しみにしていてね」
シロが慣れた手つきでカードを扱いながら微笑む。鈴太郎は再び感嘆の声を上げた。
「すげー。オレ、特に芸がないからなあ」
「そんなことないだろう? アイドルをやってた、って聞いたけど?」
真が笑ってそう言うと、鈴太郎はわたわたと首や手を振った。
「いや、それはさ! 違うんだよ、やってたっていうか、まあ、やってたんだけどさ……。いーじゃん、そのことは! 歌、練習しようぜ!」
鈴太郎は取り繕うように、広げられた楽譜を覗き込んだ。真と骸香が、先に歌の確認を始めていたのである。
「あら……?」
ケーキの飾り付けを終えたりるかが、歌の練習の輪に加わろうとしたとき、広間の入り口で誰かが動いたような気配がした。だが、振り向いたときには誰の姿もない。
「気のせい、でしょうか」
りるかが呟いたとき、料理をテーブルに並べ始めていたクロスも、同じ方向を見ていた。
(お部屋からどう連れ出そうかと思っていましたが、これなら案外あっさりパーティに出てくれるかもしれませんね)
パーティの準備が整い、それぞれの出し物の練習も申し分なくできたころには、日も暮れかけ窓の外は夜の気配が漂っていた。
「皆さま、お待たせいたしました。ダイヤお嬢様をお連れいたしました」
クロスが広間の入り口に押し出すようにして、栗色の髪の少女を紹介した。その少女──ダイヤは、ぎこちない笑みでぺこりとお辞儀をする。
「よぉ、ダイヤ!」
鈴太郎が明るく声をかけると、ダイヤのぎこちなさは少し解消されたようだった。
「ほいほーい! 楽しいパーティの始まりですよー! ダイヤさーん、是非このケーキを見てくださいー。私とりるかさんが飾り付けをしましたー」
千秋が美しくデコレーションされた大きなケーキを指差し、入り口に立ったままのダイヤの手を引いてテーブルへと誘った。
「ほらほら、まずは乾杯でしょ」
シロがそう言って、クロスがすかさず、ジュースの入ったグラスを配る。
「「「かんぱーい!!!」」」
グラスが打ち鳴らされ、食事が始まると、広間の雰囲気は一気に明るくなった。あれが美味しい、こっちも美味しい、と料理の感想が飛び交う中、骸香が皿を手にダイヤに近付く。
「楽しんでる?」
「え、はい」
ダイヤは微笑んで返事をした。だが、その微笑みはまだどこかわざとらしい。皆が集まってくれていて沈んだ顔はさすがにできない、といったところだろうか。そこへ、千秋がやってきて声をかけた。
「ダイヤさんは将来のことで悩んでいるとかー。そこで私、こんなものを用意して参りましたー」
千秋が、じゃーん、と取り出したのは、一冊の本であった。将来の道に迷う若者のために、様々な職業を紹介しているものだ。
「えっ」
ぽかん、としているダイヤの前で、千秋は本を開く。
「ああ、とてもいい本だね、それ」
呆気に取られているダイヤにくすくす笑いながら、真も近付いてきた。
「世の中にはたくさんの職がある。パティシエや料理人、演奏者とか、そんな感じのね」
「クロスさんや私のような従者も立派な職業の一つですねー」
ダイヤは驚いた顔からすぐに真面目な表情になって、千秋と真の言葉に頷きながら本を覗き込んだ。
「すごい。こんなにたくさんあるのね、職業って」
「そう。だから、悩むのはもっと色々なことを知ってからでも遅くないのではないかな?」
真の優しい言葉に、ダイヤは頷いた。
「そうね。私、知るところから始めないといけないわ」
「……そうだ、お嫁さん、という職もあるね。副業みたいなものだけど」
「えっ」
真がクロスの方を横目で見ながら言うので、ダイヤは赤くなって固まった。真の恋人である骸香が悪戯っぽい視線でダイヤに笑いかけると、ますます赤くなる。話題を変えてあげよう、と助け舟に入ったのは、シロだった。
「こうやって人を楽しませることを仕事にしてる人もいるの」
こうやって、を実演で見せようと、シロは何も入っていないグラスを右手に持って、パッと消して見せる。かと思うと、一瞬ののちに左手に先ほどのグラスが現れた。
「すごーい!」
ダイヤの顔が輝いた。本日初めての、本物の笑顔だった。
「では、このまま、あたしの出し物のお時間とさせてもらうの」
シロは軽やかにお辞儀をすると、トランプの箱を取り出した。箱からトランプを出し、箱は「後から使うの」と言って無造作に料理のテーブルへ置く。
「まずはこのデックを誰かにシャッフルしてほしいの」
シロは皆の顔をぐるりと眺め、パチリと目が合った、りるかにデックを差し出した。デック、とはトランプまるごと一組のことだ。
「あたし、ですか? えと、わかりました」
りるかは慎重な手つきでシャッフルした。
「じゃあ、そのデックの中から一枚だけカードを引いて。これは、ダイヤさんにやってもらうの」
「わ、わかりました!」
ダイヤはわくわくした目で裏向きのトランプをじっと眺め、一枚だけをりるかの手から引いた。
「りるかさん、余ったデックはあたしに返して。うん、ありがとう。じゃ、ダイヤさん、あたしは後ろを向いて目を閉じているから、引いたカードをあたし以外の皆に見せてほしいの」
「はい!」
ダイヤは、シロが後ろを向いたのを確認してから、カードを全員に見えるよう、上に上げた。カードは「ダイヤのクイーン」。全員がその絵柄を見たところで、シロが前に向き直り、ダイヤから裏向きにされたカードを受け取った。そして、デックの真ん中くらいにそのカードを半分くらい差し込んだ状態にし、デックを扇状に広げる。
「これが、ダイヤさんが選んだカードで間違いないよね」
絵柄を皆に見えるようにすると、全員、半分飛び出したカードを確認して頷いた。それを見て、シロは半分飛び出たカードを完全に差し込む。
「じゃ、誰かもう一度シャッフルしてほしいの」
「今度はオレがやるよ」
鈴太郎が挙手して、シャッフルした。
「さて。ここで、さっき置いた箱を使うの。あれ? どこに置いたっけ?」
皆がきょろきょろ箱を探すと、テーブルの皿を片付けていたクロスが見つけ、差し出した。
「こちらにございますよ」
シロはそれを受け取り、デックを箱に戻して蓋をした。
「よーく見ててね!」
シロは箱を右手で持って宙に放り投げた。それを左手でキャッチする。と。
「あっ!」
最初に箱を持っていた右手には、なんと。
「ダイヤのクイーン! 私が引いたカード!」
手を叩いて歓声を上げるダイヤに、シロはにっこりして軽やかにお辞儀をした。
「すごーい!!」
全員が、盛大に拍手をした。
「手品師も素敵な職業ね。……私は、失敗ばかりしてしまいそうだけど」
ダイヤの口元にふっと自嘲がのぼる。
「あのさ、ダイヤ。オレ、実はさ、将来看護師になる為に勉強を始めてさ」
鈴太郎が、神妙な顔をして話しはじめた。
「で、その切っ掛けがさ、ある依頼での失敗だったンだ」
「え? 失敗が?」
ダイヤが目を丸くすると、りるかも話に加わった。
「んと……、まちがいを経験すればこそという事もあるの」
「まちがいを経験すればこそ……」
ダイヤが復唱すると、りるかは優しく微笑む。
「何をするにしても落ち着いて、もしまちがえてしまったら何が良くなかったかを考えるのが大切だと思い……ます。どうすれば今後まちがえないかを考えたり、まちがえた時に対処をする方法を考えられるようになると良いの。そうすれば自分だけではなく、ほかの方に何かあった時に助ける事ができるの……です」
りるかの話をダイヤは一言も漏らさぬようにと真剣に聞く。いつの間にか、鈴太郎も同じように聞き入っている。
「オレも落ち着きねぇからなー。気を付けねぇと」
「うん、そうね、鈴さん」
「そうね、ってことないだろ、ダイヤー!」
鈴太郎が憤慨する。その後ろで、クロスはこっそり息を吐いた。ダイヤが少しずついつもの調子に戻ってきたようでホッとしたのだ。
その様子を微笑ましげに眺めていたクローディアが、リュートを持って前へ進み出た。
「僕もパフォーマンスをさせていただきますね」
クローディアがリュートを逆にして構えた。おもしろそうなことが始まる、とダイヤが期待する目で見る。
逆の構えにもかかわらず、クローディアは滑らかにリュートを弾いた。しかし、それは簡単な旋律の部分のみで、複雑になるとつっかえつっかえになってしまった。
「おっと、上手くいきませんね」
クローディアは失敗しつつもなんとか一曲を演奏し、照れ笑いをしながらお辞儀した。
「今度は成功してみせますから、また聴いてくれますか?」
「もちろん! 今度はクロスじゃなくて私がパーティを企画するから、また来てね!」
ダイヤはそう返事をしながら、クローディアが言い、自分も言った「また」と「今度」が胸に響くのを感じていた。
「さあ。残すは私たちの出し物だな。クローディア君、よければそのまま一緒に演奏してくれないか?」
真がフルートを手に、クローディアの隣へ立った。クローディアはもちろん、と頷く。鈴太郎とりるかも前へ出て、準備は整った。真は、演奏を始める前にケーキを切り分けているクロスに声をかける。
「クロス君も、楽しんでね」
パーティは終始裏方に徹しようと思っていたクロスだが、客人にそう言われれば仕方がない。手を止めてダイヤの隣へ立った。
「じゃ、始めっか!」
鈴太郎のハンドベルの音を合図に、曲が始まった。リアルブルーでは有名な曲「赤鼻のトナカイ」だ。愉快な曲でありつつも、「誰だって輝ける」という意味にも取れる歌詞が、今のダイヤにぴったりだと思っての選曲だった。
あえて客側の、ダイヤの近くに残っていた骸香は、歌が始まるとコーラスを歌いながら四人の方へ進み出た。ダイヤににこり、と目配せしながら。ダイヤも釣られて笑顔になる。
コミカルなリズムになんとも上手くあわせているりるかの枚に見惚れつつ手拍子をしていると、楽しい曲はあっという間に終わってしまった。ダイヤはクロスと千秋、シロと共に大きく拍手をする。鈴太郎が照れて耳を赤くした。
「次は皆も一緒に! ほら、ダイヤも!」
「え!?」
鈴太郎から突然ハンドベルを投げ渡され、ダイヤは戸惑った。しかし、それにはおかまいなく、演奏が始まる。
「あれっ、この曲、お母さまの」
ダイヤが驚いてクロスを見ると、クロスは少し笑って頷いた。
『ベルを鳴らそう 楽しげに
空に 夜に 響かせよう
みんなで笑顔になるために』
短いフレーズを繰り返す、簡単な歌。ダイヤにとっては、思い出の歌。
ハンドベルを持ったまま立ち尽くすダイヤの手を、骸香が引いた。
「今宵は、煌びやかな宴でございます。歌って踊って共に楽しみませんか?」
骸香の艶っぽい言い回しにダイヤは微笑んで、歌に加わった。そこからはもう、広間をすべて使っての大合唱と円舞になった。
全員でひとしきり歌って騒いでから、ダイヤはしげしげとハンドベルを眺めた。
「どうしたんだよ?」
鈴太郎が怪訝そうな顔をすると、ダイヤは唇を尖らせた。
「ベルを鳴らす曲に、本当にベルを鳴らすなんて普通すぎて面白くないわ! 次は違うものにしましょ!」
ダイヤ完全復活の、瞬間だった。
客人が帰った後、ダイヤは広間の片隅でクマのぬいぐるみを見つけた。くすくすと笑いながら、ダイヤはクマを抱き上げる。実は、鈴太郎が帰り際にこっそり置いていくのが見えていたのである。
クマを一旦椅子に座らせて、ダイヤはクロスの隣に立つと、黙って皿やグラスを片付ける手伝いを始めた。そして、クロスの顔を見ないまま、穏やかに言った。
「クロス、ありがとう」
「……お皿、割らないでくださいよ。ベルのかわりだとか言って」
皮肉を言いつつも、クロスの口調は嬉しそうであった。
ダイヤは今日も朝から自室に閉じこもっている。もう昼過ぎだというのに、広間にも食堂にも顔を出さないままだ。彼女がここまで長く、深く落ち込んでいるのは、極めて珍しかった。
(それだけ、成長なさったということではあるけれど)
クロスは広間のテーブルを整えながらため息をついた。使用人たちが里帰りして、いつになくがらんとしたモンド家の屋敷に、それは思いのほか大きく響いてしまう。
「おいおい、ダイヤが落ち込んでる、とは聞いたけど、まさかクロスも落ち込んでんのか?」
広間の入り口から声がして、クロスが驚き振り向くと、大伴 鈴太郎(ka6016)渋い顔をして立っていた。その後ろから、他のハンターたちも広間へ入ってくる。
「おや、皆さま。お揃いでありがとうございます。しかし、まだ、パーティの時間には随分早いですが……」
クロスは客人たちに丁寧な礼をしつつも、困惑していると、鞍馬 真(ka5819)がパーティで予定している出し物の件を説明した。
「音楽をやろうと思っているのだが、こちらの聖輝節でよくやる曲を、教えて貰えないかな」
「なるほど、そういうことでございましたか。いろいろと考えていただいて、ありがとうございます」
クロスは深々と頭を下げた。そして、少し俯くようにして曲について考える。
「聖輝節の定番曲……ですか。何曲か存じ上げておりますが……、よろしければ『モンド家の聖輝節』の定番曲、をお願いしても?」
「モンド家の?」
真の隣で、骸香(ka6223)が首をかしげた。
「ええ。昔からありふれたことが嫌いだったお嬢さまのために、奥様がお作りになられたのです。小さな子どもでもすぐ歌える、簡単なものですが、ちゃんと楽譜を作っておいででしたから、持ってきましょう」
図書室にしまってあったはずだ、とクロスが広間から出ようとすると、可憐な声に呼び止められた。桜憐りるか(ka3748)だ。
「んと、良ければケーキの飾り付けもお手伝いさせて頂けたら嬉しいの」
「ケーキ、ですか。しかし、お客様を手伝わせるわけには」
クロスが申し訳なさそうにすると、小宮・千秋(ka6272)がにこにこと言った。
「お気遣いには及びませんよー。私も普段はご主人様のもとで働く身ですからー。こういうことには慣れておりますー」
「今のお屋敷には、使用人の方が少ないのでしょう? 是非、協力させてください」
クローディア(ka6666)もそう言って柔らかく微笑んだ。クロスはホッと息を吐いて微笑み返すと、また深々とお辞儀をした。
「よろしくお願いします」
りるかと千秋がケーキの飾り付けをし、クローディアはテーブルセッティングを手伝った。札抜 シロ(ka6328)は出し物の手品の準備と最終練習をしている。
「へー、すごいなあ」
鈴太郎が手元を覗き込む。
「あ、わりぃ、見ちゃいけなかったか?」
「ううん、大丈夫。楽しみにしていてね」
シロが慣れた手つきでカードを扱いながら微笑む。鈴太郎は再び感嘆の声を上げた。
「すげー。オレ、特に芸がないからなあ」
「そんなことないだろう? アイドルをやってた、って聞いたけど?」
真が笑ってそう言うと、鈴太郎はわたわたと首や手を振った。
「いや、それはさ! 違うんだよ、やってたっていうか、まあ、やってたんだけどさ……。いーじゃん、そのことは! 歌、練習しようぜ!」
鈴太郎は取り繕うように、広げられた楽譜を覗き込んだ。真と骸香が、先に歌の確認を始めていたのである。
「あら……?」
ケーキの飾り付けを終えたりるかが、歌の練習の輪に加わろうとしたとき、広間の入り口で誰かが動いたような気配がした。だが、振り向いたときには誰の姿もない。
「気のせい、でしょうか」
りるかが呟いたとき、料理をテーブルに並べ始めていたクロスも、同じ方向を見ていた。
(お部屋からどう連れ出そうかと思っていましたが、これなら案外あっさりパーティに出てくれるかもしれませんね)
パーティの準備が整い、それぞれの出し物の練習も申し分なくできたころには、日も暮れかけ窓の外は夜の気配が漂っていた。
「皆さま、お待たせいたしました。ダイヤお嬢様をお連れいたしました」
クロスが広間の入り口に押し出すようにして、栗色の髪の少女を紹介した。その少女──ダイヤは、ぎこちない笑みでぺこりとお辞儀をする。
「よぉ、ダイヤ!」
鈴太郎が明るく声をかけると、ダイヤのぎこちなさは少し解消されたようだった。
「ほいほーい! 楽しいパーティの始まりですよー! ダイヤさーん、是非このケーキを見てくださいー。私とりるかさんが飾り付けをしましたー」
千秋が美しくデコレーションされた大きなケーキを指差し、入り口に立ったままのダイヤの手を引いてテーブルへと誘った。
「ほらほら、まずは乾杯でしょ」
シロがそう言って、クロスがすかさず、ジュースの入ったグラスを配る。
「「「かんぱーい!!!」」」
グラスが打ち鳴らされ、食事が始まると、広間の雰囲気は一気に明るくなった。あれが美味しい、こっちも美味しい、と料理の感想が飛び交う中、骸香が皿を手にダイヤに近付く。
「楽しんでる?」
「え、はい」
ダイヤは微笑んで返事をした。だが、その微笑みはまだどこかわざとらしい。皆が集まってくれていて沈んだ顔はさすがにできない、といったところだろうか。そこへ、千秋がやってきて声をかけた。
「ダイヤさんは将来のことで悩んでいるとかー。そこで私、こんなものを用意して参りましたー」
千秋が、じゃーん、と取り出したのは、一冊の本であった。将来の道に迷う若者のために、様々な職業を紹介しているものだ。
「えっ」
ぽかん、としているダイヤの前で、千秋は本を開く。
「ああ、とてもいい本だね、それ」
呆気に取られているダイヤにくすくす笑いながら、真も近付いてきた。
「世の中にはたくさんの職がある。パティシエや料理人、演奏者とか、そんな感じのね」
「クロスさんや私のような従者も立派な職業の一つですねー」
ダイヤは驚いた顔からすぐに真面目な表情になって、千秋と真の言葉に頷きながら本を覗き込んだ。
「すごい。こんなにたくさんあるのね、職業って」
「そう。だから、悩むのはもっと色々なことを知ってからでも遅くないのではないかな?」
真の優しい言葉に、ダイヤは頷いた。
「そうね。私、知るところから始めないといけないわ」
「……そうだ、お嫁さん、という職もあるね。副業みたいなものだけど」
「えっ」
真がクロスの方を横目で見ながら言うので、ダイヤは赤くなって固まった。真の恋人である骸香が悪戯っぽい視線でダイヤに笑いかけると、ますます赤くなる。話題を変えてあげよう、と助け舟に入ったのは、シロだった。
「こうやって人を楽しませることを仕事にしてる人もいるの」
こうやって、を実演で見せようと、シロは何も入っていないグラスを右手に持って、パッと消して見せる。かと思うと、一瞬ののちに左手に先ほどのグラスが現れた。
「すごーい!」
ダイヤの顔が輝いた。本日初めての、本物の笑顔だった。
「では、このまま、あたしの出し物のお時間とさせてもらうの」
シロは軽やかにお辞儀をすると、トランプの箱を取り出した。箱からトランプを出し、箱は「後から使うの」と言って無造作に料理のテーブルへ置く。
「まずはこのデックを誰かにシャッフルしてほしいの」
シロは皆の顔をぐるりと眺め、パチリと目が合った、りるかにデックを差し出した。デック、とはトランプまるごと一組のことだ。
「あたし、ですか? えと、わかりました」
りるかは慎重な手つきでシャッフルした。
「じゃあ、そのデックの中から一枚だけカードを引いて。これは、ダイヤさんにやってもらうの」
「わ、わかりました!」
ダイヤはわくわくした目で裏向きのトランプをじっと眺め、一枚だけをりるかの手から引いた。
「りるかさん、余ったデックはあたしに返して。うん、ありがとう。じゃ、ダイヤさん、あたしは後ろを向いて目を閉じているから、引いたカードをあたし以外の皆に見せてほしいの」
「はい!」
ダイヤは、シロが後ろを向いたのを確認してから、カードを全員に見えるよう、上に上げた。カードは「ダイヤのクイーン」。全員がその絵柄を見たところで、シロが前に向き直り、ダイヤから裏向きにされたカードを受け取った。そして、デックの真ん中くらいにそのカードを半分くらい差し込んだ状態にし、デックを扇状に広げる。
「これが、ダイヤさんが選んだカードで間違いないよね」
絵柄を皆に見えるようにすると、全員、半分飛び出したカードを確認して頷いた。それを見て、シロは半分飛び出たカードを完全に差し込む。
「じゃ、誰かもう一度シャッフルしてほしいの」
「今度はオレがやるよ」
鈴太郎が挙手して、シャッフルした。
「さて。ここで、さっき置いた箱を使うの。あれ? どこに置いたっけ?」
皆がきょろきょろ箱を探すと、テーブルの皿を片付けていたクロスが見つけ、差し出した。
「こちらにございますよ」
シロはそれを受け取り、デックを箱に戻して蓋をした。
「よーく見ててね!」
シロは箱を右手で持って宙に放り投げた。それを左手でキャッチする。と。
「あっ!」
最初に箱を持っていた右手には、なんと。
「ダイヤのクイーン! 私が引いたカード!」
手を叩いて歓声を上げるダイヤに、シロはにっこりして軽やかにお辞儀をした。
「すごーい!!」
全員が、盛大に拍手をした。
「手品師も素敵な職業ね。……私は、失敗ばかりしてしまいそうだけど」
ダイヤの口元にふっと自嘲がのぼる。
「あのさ、ダイヤ。オレ、実はさ、将来看護師になる為に勉強を始めてさ」
鈴太郎が、神妙な顔をして話しはじめた。
「で、その切っ掛けがさ、ある依頼での失敗だったンだ」
「え? 失敗が?」
ダイヤが目を丸くすると、りるかも話に加わった。
「んと……、まちがいを経験すればこそという事もあるの」
「まちがいを経験すればこそ……」
ダイヤが復唱すると、りるかは優しく微笑む。
「何をするにしても落ち着いて、もしまちがえてしまったら何が良くなかったかを考えるのが大切だと思い……ます。どうすれば今後まちがえないかを考えたり、まちがえた時に対処をする方法を考えられるようになると良いの。そうすれば自分だけではなく、ほかの方に何かあった時に助ける事ができるの……です」
りるかの話をダイヤは一言も漏らさぬようにと真剣に聞く。いつの間にか、鈴太郎も同じように聞き入っている。
「オレも落ち着きねぇからなー。気を付けねぇと」
「うん、そうね、鈴さん」
「そうね、ってことないだろ、ダイヤー!」
鈴太郎が憤慨する。その後ろで、クロスはこっそり息を吐いた。ダイヤが少しずついつもの調子に戻ってきたようでホッとしたのだ。
その様子を微笑ましげに眺めていたクローディアが、リュートを持って前へ進み出た。
「僕もパフォーマンスをさせていただきますね」
クローディアがリュートを逆にして構えた。おもしろそうなことが始まる、とダイヤが期待する目で見る。
逆の構えにもかかわらず、クローディアは滑らかにリュートを弾いた。しかし、それは簡単な旋律の部分のみで、複雑になるとつっかえつっかえになってしまった。
「おっと、上手くいきませんね」
クローディアは失敗しつつもなんとか一曲を演奏し、照れ笑いをしながらお辞儀した。
「今度は成功してみせますから、また聴いてくれますか?」
「もちろん! 今度はクロスじゃなくて私がパーティを企画するから、また来てね!」
ダイヤはそう返事をしながら、クローディアが言い、自分も言った「また」と「今度」が胸に響くのを感じていた。
「さあ。残すは私たちの出し物だな。クローディア君、よければそのまま一緒に演奏してくれないか?」
真がフルートを手に、クローディアの隣へ立った。クローディアはもちろん、と頷く。鈴太郎とりるかも前へ出て、準備は整った。真は、演奏を始める前にケーキを切り分けているクロスに声をかける。
「クロス君も、楽しんでね」
パーティは終始裏方に徹しようと思っていたクロスだが、客人にそう言われれば仕方がない。手を止めてダイヤの隣へ立った。
「じゃ、始めっか!」
鈴太郎のハンドベルの音を合図に、曲が始まった。リアルブルーでは有名な曲「赤鼻のトナカイ」だ。愉快な曲でありつつも、「誰だって輝ける」という意味にも取れる歌詞が、今のダイヤにぴったりだと思っての選曲だった。
あえて客側の、ダイヤの近くに残っていた骸香は、歌が始まるとコーラスを歌いながら四人の方へ進み出た。ダイヤににこり、と目配せしながら。ダイヤも釣られて笑顔になる。
コミカルなリズムになんとも上手くあわせているりるかの枚に見惚れつつ手拍子をしていると、楽しい曲はあっという間に終わってしまった。ダイヤはクロスと千秋、シロと共に大きく拍手をする。鈴太郎が照れて耳を赤くした。
「次は皆も一緒に! ほら、ダイヤも!」
「え!?」
鈴太郎から突然ハンドベルを投げ渡され、ダイヤは戸惑った。しかし、それにはおかまいなく、演奏が始まる。
「あれっ、この曲、お母さまの」
ダイヤが驚いてクロスを見ると、クロスは少し笑って頷いた。
『ベルを鳴らそう 楽しげに
空に 夜に 響かせよう
みんなで笑顔になるために』
短いフレーズを繰り返す、簡単な歌。ダイヤにとっては、思い出の歌。
ハンドベルを持ったまま立ち尽くすダイヤの手を、骸香が引いた。
「今宵は、煌びやかな宴でございます。歌って踊って共に楽しみませんか?」
骸香の艶っぽい言い回しにダイヤは微笑んで、歌に加わった。そこからはもう、広間をすべて使っての大合唱と円舞になった。
全員でひとしきり歌って騒いでから、ダイヤはしげしげとハンドベルを眺めた。
「どうしたんだよ?」
鈴太郎が怪訝そうな顔をすると、ダイヤは唇を尖らせた。
「ベルを鳴らす曲に、本当にベルを鳴らすなんて普通すぎて面白くないわ! 次は違うものにしましょ!」
ダイヤ完全復活の、瞬間だった。
客人が帰った後、ダイヤは広間の片隅でクマのぬいぐるみを見つけた。くすくすと笑いながら、ダイヤはクマを抱き上げる。実は、鈴太郎が帰り際にこっそり置いていくのが見えていたのである。
クマを一旦椅子に座らせて、ダイヤはクロスの隣に立つと、黙って皿やグラスを片付ける手伝いを始めた。そして、クロスの顔を見ないまま、穏やかに言った。
「クロス、ありがとう」
「……お皿、割らないでくださいよ。ベルのかわりだとか言って」
皮肉を言いつつも、クロスの口調は嬉しそうであった。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/12/20 09:15:14 |
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相談卓 大伴 鈴太郎(ka6016) 人間(リアルブルー)|22才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2016/12/20 22:21:57 |