ゲスト
(ka0000)
【初心】帝国第二師団合同実戦形式対人訓練
マスター:T谷

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- LV1~LV20
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/12/22 12:00
- 完成日
- 2016/12/30 15:54
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
帝国第二師団都市カールスラーエ要塞。
戦闘部隊とも呼ばれる帝国第二師団の取り仕切るこの都市は、歪虚の巣窟である北狄から帝国領内に至る要衝として名高い。いつ何時、帝国を襲う敵が現れるか分からず、そして現れれば最前線となるこの場所で今日、新しく正式に師団へと入団する新兵達が集められていた。
新兵とは言っても、彼らの多くは兵士に成り立ての素人ではない。他の師団や部隊において、規則違反や義務違反、命令無視や隊内での喧嘩沙汰など、数々の問題を起こし素行不良としてここに送られてきた者達だ。
第二師団は、そういった他の部隊で手に余るやんちゃ共を積極的に受け入れることで人員の確保を行っている。これは、過去の内戦により一時期壊滅状態にまで陥った経験からくる非常手段であったのだが、それなりに戦力の整ってきた昨今でも、この習慣は何となく続いていた。
壁内北部、北壁に沿って浩々と広がる練兵場に、二五人の筋骨隆々な男達が立ち並ぶ。眼光鋭く傷だらけでガラの悪い彼らは、ぱっと見、山賊か何かに間違われそうな風貌だ。
「おーし、サボろうとしてた奴らは全部とっ捕まえたな? んじゃ、はじめっか」
そんな兵士に相応しい体格を有する新兵達よりも、更に熊やオークに近い肉体を誇るベテラン師団員達。それらに引き摺られた数人が隊列に放り込まれるのを見て、第二師団師団長であるシュターク・シュタークスン(kz0075)が面倒そうな顔を隠しもせず前に立った。
初めて目にした団長の姿に、兵達が僅かにどよめく。
「え、何あれ背ぇでか……」
「つか、男? 女?」
「声は女っぽい……ような?」
身長二メートルを超える体躯を前に、私語厳禁は難しい。
誰もが意図せず声を漏らすが、シュタークは全く気にせずメモ用紙片手に規則やら心得やらと堅苦しい内容を淡々と読み上げていった。
「んな訳でだ、てめえらにはこれからすぐに訓練に入ってもらう。なんせ、いつどこで戦いに巻き込まれるかなんて分からねえからな。出来るときに出来ることをしといた方がいい、ってことだ」
そして最後にそう締めると、シュタークは手を上げ合図を送る。すると、近くにあった備品小屋のドアを、そこに立っていた別の師団員がトントンと叩き。
「――最初にてめえらにやってもらうのは、実戦形式の対人訓練だ。簡単に死ぬんじゃねえぞ?」
何故か隠れさせられ二時間以上待機させられていたハンター達が、何とも言えない表情で現れた。
●
第二師団本部に、一人の女性が訪れる。
度の強い丸い眼鏡に、きっちりと真ん中で分けられた前髪。後ろ髪は邪魔にならないようしっかりと一つにまとめられ、衣服に乱れは一つもなく、その立ち姿には一切の隙が見当たらない。ぱっと見は真面目一直線であるがその眼光は刃のように鋭く、本部一階の来客受付に座る師団員は、目のあった瞬間にびくりと肩を震わせた。
「すみません、ハンターズソサエティの者ですが」
その女性は、真冬の風のような声でそう言った。
「へぇ、元々うちの兵長? 見たことねえな」
師団長用の机の上に足を投げ出しながら、シュタークは女性の持ってきた資料に目を通す。もちろん、細かいところはほとんど見ていない。主題さえ分かれば、別の人間に丸投げするつもりだ。
「はい、アーダと申します。私が軍を抜けたのとシュターク様の入団が同じ時期ですので、知らなくて当然かと」
「結構強そうなのにもったいねえなあ。ああ、スザナに見つかるなよ? 殺されんぞー」
「承知しております。昔、二度ほど叩きのめされましたので」
「そうなのか。あいつ、急に襲いかかってくるからおっかねえよなぁ」
「……いえ、私から決闘を申し込みまして」
除隊後、ハンターズソサエティに就職したはいいものの、結局戦いのことが忘れられずに危険地域であるカールスラーエ要塞への転勤を自ら希望したとのことだ。どうやら、生真面目に見ても結局は元第二師団所属だということらしい。
「まあいいや。んで新人の訓練? それを合同でやりたいと」
「はい。通常よりも多めの報酬を用意し、中、長期的に見た新たな戦力の育成を――」
「よし、やろう。明日でいいか? 明日ならスザナもいねえし」
「え……いやそんな簡単に」
「いや最近暇でよ、あたしも見学して大丈夫か?」
「それは、構いませんが……」
「じゃ、決まりだな。――おい、誰かジジイ呼んできてくれ!」
びりびりと建物全体を揺らすような大声に少し耳を痛めながら、アーダは呆気にとられていた。
戦闘部隊とも呼ばれる帝国第二師団の取り仕切るこの都市は、歪虚の巣窟である北狄から帝国領内に至る要衝として名高い。いつ何時、帝国を襲う敵が現れるか分からず、そして現れれば最前線となるこの場所で今日、新しく正式に師団へと入団する新兵達が集められていた。
新兵とは言っても、彼らの多くは兵士に成り立ての素人ではない。他の師団や部隊において、規則違反や義務違反、命令無視や隊内での喧嘩沙汰など、数々の問題を起こし素行不良としてここに送られてきた者達だ。
第二師団は、そういった他の部隊で手に余るやんちゃ共を積極的に受け入れることで人員の確保を行っている。これは、過去の内戦により一時期壊滅状態にまで陥った経験からくる非常手段であったのだが、それなりに戦力の整ってきた昨今でも、この習慣は何となく続いていた。
壁内北部、北壁に沿って浩々と広がる練兵場に、二五人の筋骨隆々な男達が立ち並ぶ。眼光鋭く傷だらけでガラの悪い彼らは、ぱっと見、山賊か何かに間違われそうな風貌だ。
「おーし、サボろうとしてた奴らは全部とっ捕まえたな? んじゃ、はじめっか」
そんな兵士に相応しい体格を有する新兵達よりも、更に熊やオークに近い肉体を誇るベテラン師団員達。それらに引き摺られた数人が隊列に放り込まれるのを見て、第二師団師団長であるシュターク・シュタークスン(kz0075)が面倒そうな顔を隠しもせず前に立った。
初めて目にした団長の姿に、兵達が僅かにどよめく。
「え、何あれ背ぇでか……」
「つか、男? 女?」
「声は女っぽい……ような?」
身長二メートルを超える体躯を前に、私語厳禁は難しい。
誰もが意図せず声を漏らすが、シュタークは全く気にせずメモ用紙片手に規則やら心得やらと堅苦しい内容を淡々と読み上げていった。
「んな訳でだ、てめえらにはこれからすぐに訓練に入ってもらう。なんせ、いつどこで戦いに巻き込まれるかなんて分からねえからな。出来るときに出来ることをしといた方がいい、ってことだ」
そして最後にそう締めると、シュタークは手を上げ合図を送る。すると、近くにあった備品小屋のドアを、そこに立っていた別の師団員がトントンと叩き。
「――最初にてめえらにやってもらうのは、実戦形式の対人訓練だ。簡単に死ぬんじゃねえぞ?」
何故か隠れさせられ二時間以上待機させられていたハンター達が、何とも言えない表情で現れた。
●
第二師団本部に、一人の女性が訪れる。
度の強い丸い眼鏡に、きっちりと真ん中で分けられた前髪。後ろ髪は邪魔にならないようしっかりと一つにまとめられ、衣服に乱れは一つもなく、その立ち姿には一切の隙が見当たらない。ぱっと見は真面目一直線であるがその眼光は刃のように鋭く、本部一階の来客受付に座る師団員は、目のあった瞬間にびくりと肩を震わせた。
「すみません、ハンターズソサエティの者ですが」
その女性は、真冬の風のような声でそう言った。
「へぇ、元々うちの兵長? 見たことねえな」
師団長用の机の上に足を投げ出しながら、シュタークは女性の持ってきた資料に目を通す。もちろん、細かいところはほとんど見ていない。主題さえ分かれば、別の人間に丸投げするつもりだ。
「はい、アーダと申します。私が軍を抜けたのとシュターク様の入団が同じ時期ですので、知らなくて当然かと」
「結構強そうなのにもったいねえなあ。ああ、スザナに見つかるなよ? 殺されんぞー」
「承知しております。昔、二度ほど叩きのめされましたので」
「そうなのか。あいつ、急に襲いかかってくるからおっかねえよなぁ」
「……いえ、私から決闘を申し込みまして」
除隊後、ハンターズソサエティに就職したはいいものの、結局戦いのことが忘れられずに危険地域であるカールスラーエ要塞への転勤を自ら希望したとのことだ。どうやら、生真面目に見ても結局は元第二師団所属だということらしい。
「まあいいや。んで新人の訓練? それを合同でやりたいと」
「はい。通常よりも多めの報酬を用意し、中、長期的に見た新たな戦力の育成を――」
「よし、やろう。明日でいいか? 明日ならスザナもいねえし」
「え……いやそんな簡単に」
「いや最近暇でよ、あたしも見学して大丈夫か?」
「それは、構いませんが……」
「じゃ、決まりだな。――おい、誰かジジイ呼んできてくれ!」
びりびりと建物全体を揺らすような大声に少し耳を痛めながら、アーダは呆気にとられていた。
リプレイ本文
「……もういいの? そう、良かった」
待つのは苦手ではないはずの鍛島 霧絵(ka3074)は、知らず待ちくたびれたように呟いていた。
普段は物静かな彼女も、内心昂ぶっているのかもしれない。そしてそれは、目の前に並ぶ彼らも同様だ。
小屋から現れたハンター達を見据える、五十の瞳。
「リーリアというわ。よろしく」
リーリア・プラトーネ(ka4270)が、彼らに声をかける。
「……ハンターってのは、色々いるもんだな」
「まあね、面白いでしょ?」
体格差か性差か。半笑いの視線を軽く流して、リーリアは小さく微笑んだ。
「お手合わせ、お願いします」
シルヴィア・オーウェン(ka6372)はそう言って、静かに辺りを見渡した。相手も、仲間も、そして自分も。全員に、得るものが多くあるようにと。
「集団戦か…数の暴力で圧倒されては敵わん、な」
目を細めて、ソティス=アストライア(ka6538)は師団員達を見ながら警戒を強めていく。
およそ三倍の数。囲まれれば、そのまま殲滅されかねない。
「出来るだけ不殺は心がけるけどさ、加減なんてしてる余裕あるかね?」
セレス・フュラー(ka6276)は、携えたダガーの切れ味を思い出していた。
とはいえ、新人からの卒業という区切りを自分の中で付けるには、それくらい出来なければ満足とは言えない。
「新兵とは言え『帝国兵』である以上、油断は出来ないでしょうね」
帝国軍兵士を相手取るというのは、得難い戦闘経験となるだろう。フィアリス・クリスティア(ka6334)は、改めて自分の持っている戦いの知識を頭の中に並べていく。
「でも折角の機会だもん、全力で行きたいよね!」
そしてシエル・ユークレース(ka6648)は、元気よく手にしたトンファーを振り上げた。久しぶりの対人戦、楽しまなければ損というものだ。
「ええ、当然全力です。……でないと、正確なデータは取れないからな」
仙堂 紫苑(ka5953)は、着込んだパワードスーツのチェックを終えた。あとは実際に戦って、自分の今の実力を試すだけだ。
●
「よし、じゃあ始め!」
顔合わせも終わって間もなく、唐突にシュタークが手を叩いた。ほんの一瞬、師団員達の表情が「え、もう?」の形に固まる。
その一瞬が、紫苑の接近を容易く許した。
「いきなり襲いかかったくらいでガタガタ言うなよ?」
身を低く杖を片手に、マテリアルの噴射で一息に地面を滑る。
「ちっ、んなこと言うかよ! 全員急いで散開っ、何か来るぞ!」
紫苑がマテリアルを集中していることを看破し、先頭に立つ師団員が背後に叫ぶ。その声に、慌て男達がとにかく散ろうと一歩を踏み出し、
「さぁ、踊りましょうか」
その足元を、鼻先を、無数の弾丸が擦過音を残して掠めていった。
下手に動けば撃ち抜かれる、その判断が刹那、彼らの動きを鈍らせた。霧絵により制圧された集団は、開始時点と同じく一塊のままに足踏み。
次の瞬間、オレンジの光が迸る。紫苑のマテリアルが、炎の波と化して師団員に襲いかかった。
「やっべ……っ!」
咄嗟に、二人の闘狩人団員が剣を盾に炎の前に躍り出た。炎に巻かれ、苦しげに顔を歪める。
次いでカツン、と、庇われた一般兵達の中に小さく金属音が響く。音の正体を確認する暇もなく、辺りは発煙手榴弾から吹き出る白い煙に覆われた。
「群を相手にするには、相応の策が必要でしょう」
シルヴィアの声は、師団員達には届かない。この状況に混乱を来し、慌てふためきとにかくその場から離れようとする喧噪に掻き消される。
「落ち着け馬鹿共!」
収拾を図ろうと闘狩人が叫ぶも、
「出来れば、急所は避けてね」
いつの間にか近づいていたセレスが、白煙に向けて投具を放っていた。マテリアルを纏い、自由自在に飛び回る蝙蝠の刃が幾人かの肌を裂く。
なおも続く制圧射撃に、思うような回避が取れない。
「クソがっ、どっから!」
「割と、効果のあるものね」
忌々しげに叫ぶ師団員の側面に、いつの間にかリーリアはいた。仲間の攻撃と、場を支配する混乱。それに紛れれば、マテリアルによる隠行も十分に可能らしい。
リーリアは一気に肉薄。完全な奇襲のタイミングで以て思い切り拳を振るった。
師団達は、ハンター達の姿を完全に見失っている。そこにシエルは、
「鬼さん、こーちら!」
敢えて声を上げながら、集団の中に飛び込んでいった。
「さあさあ、こっちだよ!」
「てめぇ!」
即座に気付いた団員達が、シエルに向けて剣を振る。迫る無数の剣戟をシエルは、思い切りしゃがみ、跳び、時には近くの団員の背中を蹴りリズムをずらして回避する。そして素早く振り返ると同時に、手にした飛剣を投げ放った。
「てめえら落ち着け! 何人かで固まって――うおおっ!」
ほんの一瞬で数を減らされ、何とか立て直そうと声を上げた闘狩人を青白い炎を纏った狼が襲う。
牙を剥き、喉元に食いつかんと迫るエネルギーの塊は、ソティスの放った魔法だ。
「そんな大声を出せば、いい的だな?」
闘狩人を早々に見つけられたのは僥倖だった。
「さて……狩りの時間だ、大人しく焼かれるがいい!」
更にいくつかの影が、煙の中から這い出した。獲物を見つけたソティスは、眼前に魔法陣を作り出す。
拳が奔った。咄嗟に師団員は地面を転がる。何とか煙から抜け出した矢先だ、師団員は急いで顔を上げる。
「ちっ、当たらねえか」
語気も強く、フィアリスが拳を構えていた。
「こっちとしても、追い付きたい……ってーか超えたい人が居るんで、ちょっと俺の研鑽積みに付き合ってもらおうか!」
「はっ、んなこと知るかよ!」
負けず師団員も立ち上がり、剣を構えた。
迫る刃を躱し、返し撃ち込んだ拳を受け止められ、一進一退の攻防に火花が散る。
――だが、師団員には煙の中で受けたダメージが残っていた。その痛みが剣を鈍らせ、フィアリスの一撃が刀身の側面を叩き大きく隙を作り出す。
フィアリスは、ただ一直線に渾身の剛打を放った。マテリアルを循環させ、生まれた力を注いだ一撃だ。
「ク、ソが……!」
腹部を打ち抜かれ、師団員が沈む。
「うし、次ぃっ!」
それを横目に、フィアリスは次の相手を探した。
やがて煙幕も風に流され、戦いは乱戦へと移っていく。
体勢を立て直した師団員の数は、三分の二ほどに減っている。しかしだからこそか、ハンター達を強敵と認めた彼らの動きは兵士のそれと化す。
「後衛狙え! 遠くからちまちまうざってえ!」
先頭に立つ闘狩人が、紫苑に斬りかかりながら指示を飛ばす。
大太刀を構えた紫苑の相手は、一般兵では務まらない。紫苑としては一般兵の数を減らしたかったが、執拗に狙ってくるのならば相手せざるを得なかった。
だが、紫苑に向かう闘狩人の剣先を、飛来した銃弾が叩いた。
「……統率されるのは厄介ね。悪いけど、狙わせて貰うわ」
「助かる!」
紫苑はそのまま緩んだ剣を受け流し、返す刀で斬りかかる。長大な刃が翻り、相手の肩を強く叩いた。
一般兵は、指示の通りにハンター達の後衛を狙う。前衛を闘狩人が抑えている内に、回り込むように背後へと向かい、
「ああもうちょこまかと!」
「ふふっ、捕まえてみてよ!」
しかしリーリアがそれを阻んでいた。
武器の間合いの内側に飛び込み、極至近距離からの攻撃を叩き込む。反撃にと振るわれた刃も、マテリアルを込めた舞うような動きに翻弄され空を切った。
その翻弄される背中を、セレスはすれ違いざまに斬り付けた。そのまま駆け抜け、次々と短刀を振るう。その動きは非常に素早く、師団員達がダメージに呻き振り向いた頃には既にそこには誰もいない。
「連携されると、厄介だからね」
残った闘狩人を中心に、その周りを走り抜けてセレスは振り返る。そして振り向きざまに、マテリアルを込めた投具を放った。
真正面から、策もなくぶつかれば数に押し潰されていたかもしれない。
「……こうなれば、軍とは脆いものですね」
攻め手を緩めることなく、シルヴィアは中心になる闘狩人へと素早く近づく。リーリアやセレスに気を取られていた師団員が気配に振り向くが、その姿勢が整う前に。マテリアルを込めて、武器を大きく振り回した。
咄嗟に鍔で受けた師団員は、思わずたたらを踏む。シルヴィアは追って更に一撃、もう一撃と叩き込んでいった。
「こりゃ、いい鍛錬になりそうだ……!」
フィリアスの拳が師団員の剣と打ち合う。ほぼ互角、一歩を引けばすぐさま切り裂かれる緊張感。互いに息も切れ、ダメージも嵩んでいる。
「隙ありぃっ!」
しかしこれは、一対一の戦いではない。飛び込んできたシエルのトンファーが、風の如く師団員の脇腹に叩き込まれた。
「ぐっ……!」
「終わりだ!」
思わず呻く師団員。その鼻面に、フィリアスは強烈な一撃を叩き込んだ。
「さ、次行くよ!」
「おうっ!」
鼻から血を吹き、崩れ落ちるその姿を見届けて、二人は再び気合いを入れた。
「ほらどうした、そのままではいい的だぞ?」
「出来れば、近づかれたくないのだけど」
ソティスと霧絵の目の前には、数人の師団員が立っている。しかし彼らは、剣を構えど攻めあぐねていた。銃撃と魔法に、怯んでいるのだ。
「狼たる我が力、恐れているだけでは、私は倒せんぞ」
「び、びびってねえし!」
師団員達が、意を決して二人に飛びかかった。その距離は数メートル。肉薄までは二秒もかからないが――その瞬間に、光の矢と銃撃が真正面から師団員を打ち据えた。
しかし、それでも強引に弾幕を突破した師団員がいた。その目の前には霧絵の姿。
「捉えたぜ!」
「……それほど、得意でも無いけど」
呟いて、霧絵は迫る剣を銃床で受け流す。ただの後衛だと侮った師団員は、呆気にとられる。
「なっ……!」
「向こうの格闘術で良ければ、楽しんでいってね」
そのまま無数の打撃が、師団員の知らない技術で打ち込まれた。
始めの攻防で、戦いの流れはハンター達に傾いた。その時点で、勝敗は決していたのかもしれない。
最後の師団員が膝をつく。
「……参った」
そして剣を下ろして、両手を挙げた。悔しさに歪んだ表情は、彼らの無念さを十分に物語っていたが。
「はっはっは、完敗じゃねえかうちの新人共! 情けねえなぁ」
呆れながら、しかし楽しげに笑うシュタークに頭を叩かれて、そのまま意識を失った。
「――勝者、ハンターチーム!」
ここにハンターと師団の合同訓練は、ハンター達の勝利で幕を閉じた。
●
はずだった。
「へえ、あたしと?」
シュタークは愉快そうに、ハンター達を見渡した。
「はい、お手合わせをお願いします。――帝国の、オーウェンとして」
シルヴィアが、黒いコートを脱ぎながら真っ直ぐにその目を見る。
「あ、ボクもボクも!」
はいはいと、シエルが元気よく手を挙げた。
それに紫苑とソティスが続き、彼らは再び覚醒して武器を構えた。
「ああ、いいね楽しそうだ。んじゃ」
シュタークも笑いながら、脇に置いた大剣を手に取り、
「かかってこい」
――次の瞬間、莫大なオーラが空間を埋め尽くした。
「こりゃ、まさしくツワモノだな……!」
「やめるかい?」
「誰が。師団長相手でも、引かねえからな!」
ソティスの問いかけに、紫苑は大太刀を構えて吐き捨てた。
「そうだろうな」
呟いて、ソティスは眼前に魔法陣を描き出した。
紫苑とシルヴィア、シエルが一斉にシュタークへと疾駆する。太刀に長剣、根が次々に、互いの軌跡を描いて打ち込まれる――が、その全てを追い抜く暴風のような一撃が、それらをまとめて吹き飛ばした。
ただの一刀で、三人は大きく弾き飛ばされる。武器に受けた強烈な衝撃に、全身が悲鳴を上げる。
味方の背後から、ソティスの魔法が飛んだ。召喚するは蒼白の狼。その口から、燃え盛る火球が放たれる。
「おらぁっ!」
シュタークはそれに、真正面から拳を叩きつけた。直後、衝撃と爆風が迸る。
「どうした、そんなもんか!」
挑発と共にその向こうで、シュタークは地面を蹴る。刃を伴って襲いかかるは、空気を破るような二メートル口径の砲撃。
「行きます!」
シルヴィアはそれを目の前に、全力を込めて剣を振った。強く踏み込み、小細工なくひたすら真っ直ぐ。人を愛し守護する矜持を刃に乗せて。
二つの刃がぶつかる、だが止まらない。尋常でない一撃に踏みとどまることすら難しく、シルヴィアは遙か数十メートル地面を転がった。
そこに側面から紫苑とシエルが挟撃を仕掛ける。白刃と旋棍が、シュタークの急所を狙って翻る。さらには遠方からはソティスの魔法が、狙撃の如く飛来する。
手応えはあった。
しかし、それは思ったものとは違う。刃は素手に握り止められ、棍はその根元を肘で叩かれ弾かれた。火球は頭突きの要領で、叩きつけた額が衝撃を相殺する。
距離を取らねば。そう思うが早いか二人は地面を蹴るが、
「おせえ!」
剛剣が、彼らを一瞬で薙ぎ払っていた。同時に大剣は彼女の手を離れ――弾丸の如くソティスの顔横を掠めて消えた。
――セレスの投具が背後からシュタークへ襲いかかったのは、それと同時だった。
弧を描いて頭部を狙う刃は、しかし唐突に振り向いたシュタークに噛み付かれ止まる。そのままシュタークは髪を振り乱し頭を回すと、さらに側面から奇襲を試みたリーリアに向けて首の力で投げ放った。
リーリアはそれを咄嗟に弾くが、
「お前ら、やりそうな目ぇしてたからな」
高速に撃ち出されたシュタークの大きな拳が、瞬く間もなくリーリアのすぐ眼前で空気を叩いた。
●
霧絵とフィアリスは、その戦いを今後の糧にするために眺めていた。
「……あの人と勝負するなら、地形を使って狙撃かしら」
「たぶん、初撃で仕留めないと危ないでしょうね」
繰り広げられる目まぐるしい攻防を、二人は脳裏に焼き付ける。
●
「ねね、戦い方のアドバイスとかない?」
「まず筋肉付けろ筋肉、お前細すぎんだよー」
男のくせにあたしより女らしいじゃねえかと、笑いながらシュタークはシエルの頭に手を乗せる。
戦いも終わり、新兵達が練兵場を片づけるのを眺めながらハンター達とシュタークはのんびりと過ごしていた。
「強くなるために必要なことや、心構えなどありますか? ……えと、筋肉以外で」
フィアリスの質問に、シュタークは悩ましげに首を傾げる。
「んー……特に大層なもんはねえなぁ。生きようとしてただけだし」
そして返ってきたのは、そんな答えだった。
「今日はありがとうございました。私の名、覚えて頂けたらよいのですが……」
シルヴィアは、再び黒いコートを纏って丁寧に頭を下げた。
シュタークは任せろと親指を立てる。名前を覚えることが極端に苦手な彼女に、どれほど期待していいのか微妙だが。
日の落ちていく練兵場の景色を見ながら、それから暫く、彼らは談笑に花を咲かせていた。
待つのは苦手ではないはずの鍛島 霧絵(ka3074)は、知らず待ちくたびれたように呟いていた。
普段は物静かな彼女も、内心昂ぶっているのかもしれない。そしてそれは、目の前に並ぶ彼らも同様だ。
小屋から現れたハンター達を見据える、五十の瞳。
「リーリアというわ。よろしく」
リーリア・プラトーネ(ka4270)が、彼らに声をかける。
「……ハンターってのは、色々いるもんだな」
「まあね、面白いでしょ?」
体格差か性差か。半笑いの視線を軽く流して、リーリアは小さく微笑んだ。
「お手合わせ、お願いします」
シルヴィア・オーウェン(ka6372)はそう言って、静かに辺りを見渡した。相手も、仲間も、そして自分も。全員に、得るものが多くあるようにと。
「集団戦か…数の暴力で圧倒されては敵わん、な」
目を細めて、ソティス=アストライア(ka6538)は師団員達を見ながら警戒を強めていく。
およそ三倍の数。囲まれれば、そのまま殲滅されかねない。
「出来るだけ不殺は心がけるけどさ、加減なんてしてる余裕あるかね?」
セレス・フュラー(ka6276)は、携えたダガーの切れ味を思い出していた。
とはいえ、新人からの卒業という区切りを自分の中で付けるには、それくらい出来なければ満足とは言えない。
「新兵とは言え『帝国兵』である以上、油断は出来ないでしょうね」
帝国軍兵士を相手取るというのは、得難い戦闘経験となるだろう。フィアリス・クリスティア(ka6334)は、改めて自分の持っている戦いの知識を頭の中に並べていく。
「でも折角の機会だもん、全力で行きたいよね!」
そしてシエル・ユークレース(ka6648)は、元気よく手にしたトンファーを振り上げた。久しぶりの対人戦、楽しまなければ損というものだ。
「ええ、当然全力です。……でないと、正確なデータは取れないからな」
仙堂 紫苑(ka5953)は、着込んだパワードスーツのチェックを終えた。あとは実際に戦って、自分の今の実力を試すだけだ。
●
「よし、じゃあ始め!」
顔合わせも終わって間もなく、唐突にシュタークが手を叩いた。ほんの一瞬、師団員達の表情が「え、もう?」の形に固まる。
その一瞬が、紫苑の接近を容易く許した。
「いきなり襲いかかったくらいでガタガタ言うなよ?」
身を低く杖を片手に、マテリアルの噴射で一息に地面を滑る。
「ちっ、んなこと言うかよ! 全員急いで散開っ、何か来るぞ!」
紫苑がマテリアルを集中していることを看破し、先頭に立つ師団員が背後に叫ぶ。その声に、慌て男達がとにかく散ろうと一歩を踏み出し、
「さぁ、踊りましょうか」
その足元を、鼻先を、無数の弾丸が擦過音を残して掠めていった。
下手に動けば撃ち抜かれる、その判断が刹那、彼らの動きを鈍らせた。霧絵により制圧された集団は、開始時点と同じく一塊のままに足踏み。
次の瞬間、オレンジの光が迸る。紫苑のマテリアルが、炎の波と化して師団員に襲いかかった。
「やっべ……っ!」
咄嗟に、二人の闘狩人団員が剣を盾に炎の前に躍り出た。炎に巻かれ、苦しげに顔を歪める。
次いでカツン、と、庇われた一般兵達の中に小さく金属音が響く。音の正体を確認する暇もなく、辺りは発煙手榴弾から吹き出る白い煙に覆われた。
「群を相手にするには、相応の策が必要でしょう」
シルヴィアの声は、師団員達には届かない。この状況に混乱を来し、慌てふためきとにかくその場から離れようとする喧噪に掻き消される。
「落ち着け馬鹿共!」
収拾を図ろうと闘狩人が叫ぶも、
「出来れば、急所は避けてね」
いつの間にか近づいていたセレスが、白煙に向けて投具を放っていた。マテリアルを纏い、自由自在に飛び回る蝙蝠の刃が幾人かの肌を裂く。
なおも続く制圧射撃に、思うような回避が取れない。
「クソがっ、どっから!」
「割と、効果のあるものね」
忌々しげに叫ぶ師団員の側面に、いつの間にかリーリアはいた。仲間の攻撃と、場を支配する混乱。それに紛れれば、マテリアルによる隠行も十分に可能らしい。
リーリアは一気に肉薄。完全な奇襲のタイミングで以て思い切り拳を振るった。
師団達は、ハンター達の姿を完全に見失っている。そこにシエルは、
「鬼さん、こーちら!」
敢えて声を上げながら、集団の中に飛び込んでいった。
「さあさあ、こっちだよ!」
「てめぇ!」
即座に気付いた団員達が、シエルに向けて剣を振る。迫る無数の剣戟をシエルは、思い切りしゃがみ、跳び、時には近くの団員の背中を蹴りリズムをずらして回避する。そして素早く振り返ると同時に、手にした飛剣を投げ放った。
「てめえら落ち着け! 何人かで固まって――うおおっ!」
ほんの一瞬で数を減らされ、何とか立て直そうと声を上げた闘狩人を青白い炎を纏った狼が襲う。
牙を剥き、喉元に食いつかんと迫るエネルギーの塊は、ソティスの放った魔法だ。
「そんな大声を出せば、いい的だな?」
闘狩人を早々に見つけられたのは僥倖だった。
「さて……狩りの時間だ、大人しく焼かれるがいい!」
更にいくつかの影が、煙の中から這い出した。獲物を見つけたソティスは、眼前に魔法陣を作り出す。
拳が奔った。咄嗟に師団員は地面を転がる。何とか煙から抜け出した矢先だ、師団員は急いで顔を上げる。
「ちっ、当たらねえか」
語気も強く、フィアリスが拳を構えていた。
「こっちとしても、追い付きたい……ってーか超えたい人が居るんで、ちょっと俺の研鑽積みに付き合ってもらおうか!」
「はっ、んなこと知るかよ!」
負けず師団員も立ち上がり、剣を構えた。
迫る刃を躱し、返し撃ち込んだ拳を受け止められ、一進一退の攻防に火花が散る。
――だが、師団員には煙の中で受けたダメージが残っていた。その痛みが剣を鈍らせ、フィアリスの一撃が刀身の側面を叩き大きく隙を作り出す。
フィアリスは、ただ一直線に渾身の剛打を放った。マテリアルを循環させ、生まれた力を注いだ一撃だ。
「ク、ソが……!」
腹部を打ち抜かれ、師団員が沈む。
「うし、次ぃっ!」
それを横目に、フィアリスは次の相手を探した。
やがて煙幕も風に流され、戦いは乱戦へと移っていく。
体勢を立て直した師団員の数は、三分の二ほどに減っている。しかしだからこそか、ハンター達を強敵と認めた彼らの動きは兵士のそれと化す。
「後衛狙え! 遠くからちまちまうざってえ!」
先頭に立つ闘狩人が、紫苑に斬りかかりながら指示を飛ばす。
大太刀を構えた紫苑の相手は、一般兵では務まらない。紫苑としては一般兵の数を減らしたかったが、執拗に狙ってくるのならば相手せざるを得なかった。
だが、紫苑に向かう闘狩人の剣先を、飛来した銃弾が叩いた。
「……統率されるのは厄介ね。悪いけど、狙わせて貰うわ」
「助かる!」
紫苑はそのまま緩んだ剣を受け流し、返す刀で斬りかかる。長大な刃が翻り、相手の肩を強く叩いた。
一般兵は、指示の通りにハンター達の後衛を狙う。前衛を闘狩人が抑えている内に、回り込むように背後へと向かい、
「ああもうちょこまかと!」
「ふふっ、捕まえてみてよ!」
しかしリーリアがそれを阻んでいた。
武器の間合いの内側に飛び込み、極至近距離からの攻撃を叩き込む。反撃にと振るわれた刃も、マテリアルを込めた舞うような動きに翻弄され空を切った。
その翻弄される背中を、セレスはすれ違いざまに斬り付けた。そのまま駆け抜け、次々と短刀を振るう。その動きは非常に素早く、師団員達がダメージに呻き振り向いた頃には既にそこには誰もいない。
「連携されると、厄介だからね」
残った闘狩人を中心に、その周りを走り抜けてセレスは振り返る。そして振り向きざまに、マテリアルを込めた投具を放った。
真正面から、策もなくぶつかれば数に押し潰されていたかもしれない。
「……こうなれば、軍とは脆いものですね」
攻め手を緩めることなく、シルヴィアは中心になる闘狩人へと素早く近づく。リーリアやセレスに気を取られていた師団員が気配に振り向くが、その姿勢が整う前に。マテリアルを込めて、武器を大きく振り回した。
咄嗟に鍔で受けた師団員は、思わずたたらを踏む。シルヴィアは追って更に一撃、もう一撃と叩き込んでいった。
「こりゃ、いい鍛錬になりそうだ……!」
フィリアスの拳が師団員の剣と打ち合う。ほぼ互角、一歩を引けばすぐさま切り裂かれる緊張感。互いに息も切れ、ダメージも嵩んでいる。
「隙ありぃっ!」
しかしこれは、一対一の戦いではない。飛び込んできたシエルのトンファーが、風の如く師団員の脇腹に叩き込まれた。
「ぐっ……!」
「終わりだ!」
思わず呻く師団員。その鼻面に、フィリアスは強烈な一撃を叩き込んだ。
「さ、次行くよ!」
「おうっ!」
鼻から血を吹き、崩れ落ちるその姿を見届けて、二人は再び気合いを入れた。
「ほらどうした、そのままではいい的だぞ?」
「出来れば、近づかれたくないのだけど」
ソティスと霧絵の目の前には、数人の師団員が立っている。しかし彼らは、剣を構えど攻めあぐねていた。銃撃と魔法に、怯んでいるのだ。
「狼たる我が力、恐れているだけでは、私は倒せんぞ」
「び、びびってねえし!」
師団員達が、意を決して二人に飛びかかった。その距離は数メートル。肉薄までは二秒もかからないが――その瞬間に、光の矢と銃撃が真正面から師団員を打ち据えた。
しかし、それでも強引に弾幕を突破した師団員がいた。その目の前には霧絵の姿。
「捉えたぜ!」
「……それほど、得意でも無いけど」
呟いて、霧絵は迫る剣を銃床で受け流す。ただの後衛だと侮った師団員は、呆気にとられる。
「なっ……!」
「向こうの格闘術で良ければ、楽しんでいってね」
そのまま無数の打撃が、師団員の知らない技術で打ち込まれた。
始めの攻防で、戦いの流れはハンター達に傾いた。その時点で、勝敗は決していたのかもしれない。
最後の師団員が膝をつく。
「……参った」
そして剣を下ろして、両手を挙げた。悔しさに歪んだ表情は、彼らの無念さを十分に物語っていたが。
「はっはっは、完敗じゃねえかうちの新人共! 情けねえなぁ」
呆れながら、しかし楽しげに笑うシュタークに頭を叩かれて、そのまま意識を失った。
「――勝者、ハンターチーム!」
ここにハンターと師団の合同訓練は、ハンター達の勝利で幕を閉じた。
●
はずだった。
「へえ、あたしと?」
シュタークは愉快そうに、ハンター達を見渡した。
「はい、お手合わせをお願いします。――帝国の、オーウェンとして」
シルヴィアが、黒いコートを脱ぎながら真っ直ぐにその目を見る。
「あ、ボクもボクも!」
はいはいと、シエルが元気よく手を挙げた。
それに紫苑とソティスが続き、彼らは再び覚醒して武器を構えた。
「ああ、いいね楽しそうだ。んじゃ」
シュタークも笑いながら、脇に置いた大剣を手に取り、
「かかってこい」
――次の瞬間、莫大なオーラが空間を埋め尽くした。
「こりゃ、まさしくツワモノだな……!」
「やめるかい?」
「誰が。師団長相手でも、引かねえからな!」
ソティスの問いかけに、紫苑は大太刀を構えて吐き捨てた。
「そうだろうな」
呟いて、ソティスは眼前に魔法陣を描き出した。
紫苑とシルヴィア、シエルが一斉にシュタークへと疾駆する。太刀に長剣、根が次々に、互いの軌跡を描いて打ち込まれる――が、その全てを追い抜く暴風のような一撃が、それらをまとめて吹き飛ばした。
ただの一刀で、三人は大きく弾き飛ばされる。武器に受けた強烈な衝撃に、全身が悲鳴を上げる。
味方の背後から、ソティスの魔法が飛んだ。召喚するは蒼白の狼。その口から、燃え盛る火球が放たれる。
「おらぁっ!」
シュタークはそれに、真正面から拳を叩きつけた。直後、衝撃と爆風が迸る。
「どうした、そんなもんか!」
挑発と共にその向こうで、シュタークは地面を蹴る。刃を伴って襲いかかるは、空気を破るような二メートル口径の砲撃。
「行きます!」
シルヴィアはそれを目の前に、全力を込めて剣を振った。強く踏み込み、小細工なくひたすら真っ直ぐ。人を愛し守護する矜持を刃に乗せて。
二つの刃がぶつかる、だが止まらない。尋常でない一撃に踏みとどまることすら難しく、シルヴィアは遙か数十メートル地面を転がった。
そこに側面から紫苑とシエルが挟撃を仕掛ける。白刃と旋棍が、シュタークの急所を狙って翻る。さらには遠方からはソティスの魔法が、狙撃の如く飛来する。
手応えはあった。
しかし、それは思ったものとは違う。刃は素手に握り止められ、棍はその根元を肘で叩かれ弾かれた。火球は頭突きの要領で、叩きつけた額が衝撃を相殺する。
距離を取らねば。そう思うが早いか二人は地面を蹴るが、
「おせえ!」
剛剣が、彼らを一瞬で薙ぎ払っていた。同時に大剣は彼女の手を離れ――弾丸の如くソティスの顔横を掠めて消えた。
――セレスの投具が背後からシュタークへ襲いかかったのは、それと同時だった。
弧を描いて頭部を狙う刃は、しかし唐突に振り向いたシュタークに噛み付かれ止まる。そのままシュタークは髪を振り乱し頭を回すと、さらに側面から奇襲を試みたリーリアに向けて首の力で投げ放った。
リーリアはそれを咄嗟に弾くが、
「お前ら、やりそうな目ぇしてたからな」
高速に撃ち出されたシュタークの大きな拳が、瞬く間もなくリーリアのすぐ眼前で空気を叩いた。
●
霧絵とフィアリスは、その戦いを今後の糧にするために眺めていた。
「……あの人と勝負するなら、地形を使って狙撃かしら」
「たぶん、初撃で仕留めないと危ないでしょうね」
繰り広げられる目まぐるしい攻防を、二人は脳裏に焼き付ける。
●
「ねね、戦い方のアドバイスとかない?」
「まず筋肉付けろ筋肉、お前細すぎんだよー」
男のくせにあたしより女らしいじゃねえかと、笑いながらシュタークはシエルの頭に手を乗せる。
戦いも終わり、新兵達が練兵場を片づけるのを眺めながらハンター達とシュタークはのんびりと過ごしていた。
「強くなるために必要なことや、心構えなどありますか? ……えと、筋肉以外で」
フィアリスの質問に、シュタークは悩ましげに首を傾げる。
「んー……特に大層なもんはねえなぁ。生きようとしてただけだし」
そして返ってきたのは、そんな答えだった。
「今日はありがとうございました。私の名、覚えて頂けたらよいのですが……」
シルヴィアは、再び黒いコートを纏って丁寧に頭を下げた。
シュタークは任せろと親指を立てる。名前を覚えることが極端に苦手な彼女に、どれほど期待していいのか微妙だが。
日の落ちていく練兵場の景色を見ながら、それから暫く、彼らは談笑に花を咲かせていた。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/12/21 12:56:07 |
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相談卓 通りすがりのSさん(ka6276) エルフ|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/12/22 10:37:51 |