ゲスト
(ka0000)
【剣機】血は対価、贖うは凱歌
マスター:稲田和夫

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/10/05 12:00
- 完成日
- 2014/10/16 14:19
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「報告いたします、カッテ殿下!」
ゾンネンシュトラール帝国・バルトアンデルス城。
慌しく執務室へ入って来た武官は、此方に背を向け、帝都を一望できる大窓からじっと外を眺めるカッテに報告を行う。
「伝令によると、剣機リンドブルムは輸送していたコンテナから展開させた歪虚の群れと共に南進! 現在、帝都北部の街道から外れた荒野にて、わが軍の主力と交戦中!」
少年は、およそその年齢には不釣り合いな落ち着いた声で応じる。
「第一師団は引き続き市内の避難誘導を最優先に。城壁の外に展開している師団は敵集団から先行した歪虚が市内へ浸透しないよう、警戒を怠らないでください」
敬礼した武官が退出すると、カッテは沈痛な面持ちで景色から目を逸らした。
「皇帝選挙の実施、剣機の出現、そして帝都への襲来……姉上、貴女は……」
しかし、少年はそれ以上暗くなる事無く、少しだけ笑うと改めて窓の外を、今まさに兵士たちが血を流しているであろう方角を見て力強く呟いた。
「そうですね……今は只、信じる時です。陛下、師団長と兵士の皆さん、そして……ハンターの方たち……どうか、ご無事で」
カッテはそっと、目を閉じた。
●
「ヴァルファー家の娘は良くやっているようだな」
第一師団副長エイゼンシュテインは、前線へと走る機導トラックの中で呟いた。
帝都に迫る歪虚の群れの多くは、現在戦意高揚のためグリューエリンが同行している第一、第十師団の一般兵が、多数のハンターと共に迎撃に当たっている。
「シグルドの隊は期せずして剣機と直衛を分断する形となったな。多少は判断が身について来たか」
彼にとっては同僚に当たるもう一人の第一師団副長シグルドは、途中まで剣機が帯同していた大型の歪虚との交戦に入っていた。
つまり、現在剣機を囲む群れはグリューエリンの隊との交戦で分散しており、剣機の直衛も引き離されている。剣機そのものを討ち取るには唯一無二の好機であった。
「だが、まだ万全ではない」
まず、最大の戦力であるヴィルヘルミナとゼナイド、それにハンターからなる部隊が、現時点では剣機からかなり離れた位置にいる。
更に、剣機自体に飛行能力がある事が問題だ。今回の防衛戦には帝国が誇る航空戦力であるグリフォンライダー……第五師団が参加しているが、剣機の強さを考えると、彼らしか戦えない空中戦で仕留めることは困難であり、多大な犠牲を出すだろう。
また、追い詰めても空を飛んで逃げられたら目も当てられない。ここで剣機を完全に滅ぼすにはその飛行能力を喪失させるのが必須なのだ。
「我々の役目はヒンメルリッターの航空支援を受けつつ剣機をヴィルヘルミナ皇帝陛下とゼナイド師団長率いる本隊の到着まで足止めしつつ、剣機の飛行能力の源である部位……以後便宜上『主翼』と『バーニア』と呼ぶ器官を破壊することにある」
その時、爆発音がトラックを揺らした。
「総員降車。戦闘準備」
●
剣機はその巨体を着地させ、何としても動きを止めようと空中から執拗な対地攻撃を行うグリフォンライダーたちに、ガトリングによる分厚い対空砲火を浴びせていた。
その銃火と閃光に晒されながら、サラリーマン風の背広の上に無理やり胸当てや盾をつけた、眼鏡に出っ歯の師団員は狂喜していた。
「あ、あはは! さ、最高です! て、転移者になってワタシは本当に幸せですっ! どんな大作ゲームでもこんなエキサイティングな光景はありませんでしたっ!」
だが、他の師団員は全く気にする様子もない。
「妙だな。事前の情報では双頭とあったが」
エイゼンシュテインも平然と敵を確認している。
その時、突然一行の頭上に巨大な影が覆いかぶさった。それは、負傷した仲間を守って不時着したヒンメルリッターの一人だった。
「カワベさん、酷いヨ! 実際にあれに晒されてるボクたちはどうなるの? このままじゃあっという間に全員落とされちゃうヨ!」
そうグリフォンの上からきいきいと怒鳴った第五師団兵はまだ少年と言って良い容姿であった。まるで、少女のように髪を二つに分けて束ねている。ただ、手に握った弩と背中の巨大な戟は彼が紛れも無く兵士であることを示していた。
「ガタガタ騒ぐんじゃねえ、シャオユウ」
応じたのは、モヒカン頭にだらしなく軍服を着崩した、チンピラにしか見えない師団兵のゲロルトだ。
「俺たちが参加したら攻撃はバラける。キツいのは囮になる俺たちだ……やれやれ、俺はあんな物騒なのより雑魚を痛めつけて楽に楽しむのが趣味なんだがな!」
「楽しめるとも」
事も無げに、エイゼンシュテインは言った。
「決戦前に敵を最大限弱体化させるのは戦闘の鉄則だ。我々が奴に損傷を加えれば加えるほど陛下とゼナイド、そして後続のハンターたちが楽になる」
ゲロルトは黙って肩を竦めると、愛用のナイフを引き抜き真っ先に飛び出していった。
「さ、さあ! 狩の時間ですっ!」
カワベも、剣機の側面に回るべく後に続く。浮ついた態度とは裏腹に、その動きには無駄も隙も無い。
「もう! 知らないヨ!」
シャオシュウも再びグリフォンを飛翔させる。
「隊に参加しているハンターたちは、予定通りに分散して、師団員と共に作戦を遂行せよ」
エイゼンシュテインはそう述べると、剣機に近づく兵士たちとあなたたちを援護すべく投げ槍を握る手に力を込めた。
ゾンネンシュトラール帝国・バルトアンデルス城。
慌しく執務室へ入って来た武官は、此方に背を向け、帝都を一望できる大窓からじっと外を眺めるカッテに報告を行う。
「伝令によると、剣機リンドブルムは輸送していたコンテナから展開させた歪虚の群れと共に南進! 現在、帝都北部の街道から外れた荒野にて、わが軍の主力と交戦中!」
少年は、およそその年齢には不釣り合いな落ち着いた声で応じる。
「第一師団は引き続き市内の避難誘導を最優先に。城壁の外に展開している師団は敵集団から先行した歪虚が市内へ浸透しないよう、警戒を怠らないでください」
敬礼した武官が退出すると、カッテは沈痛な面持ちで景色から目を逸らした。
「皇帝選挙の実施、剣機の出現、そして帝都への襲来……姉上、貴女は……」
しかし、少年はそれ以上暗くなる事無く、少しだけ笑うと改めて窓の外を、今まさに兵士たちが血を流しているであろう方角を見て力強く呟いた。
「そうですね……今は只、信じる時です。陛下、師団長と兵士の皆さん、そして……ハンターの方たち……どうか、ご無事で」
カッテはそっと、目を閉じた。
●
「ヴァルファー家の娘は良くやっているようだな」
第一師団副長エイゼンシュテインは、前線へと走る機導トラックの中で呟いた。
帝都に迫る歪虚の群れの多くは、現在戦意高揚のためグリューエリンが同行している第一、第十師団の一般兵が、多数のハンターと共に迎撃に当たっている。
「シグルドの隊は期せずして剣機と直衛を分断する形となったな。多少は判断が身について来たか」
彼にとっては同僚に当たるもう一人の第一師団副長シグルドは、途中まで剣機が帯同していた大型の歪虚との交戦に入っていた。
つまり、現在剣機を囲む群れはグリューエリンの隊との交戦で分散しており、剣機の直衛も引き離されている。剣機そのものを討ち取るには唯一無二の好機であった。
「だが、まだ万全ではない」
まず、最大の戦力であるヴィルヘルミナとゼナイド、それにハンターからなる部隊が、現時点では剣機からかなり離れた位置にいる。
更に、剣機自体に飛行能力がある事が問題だ。今回の防衛戦には帝国が誇る航空戦力であるグリフォンライダー……第五師団が参加しているが、剣機の強さを考えると、彼らしか戦えない空中戦で仕留めることは困難であり、多大な犠牲を出すだろう。
また、追い詰めても空を飛んで逃げられたら目も当てられない。ここで剣機を完全に滅ぼすにはその飛行能力を喪失させるのが必須なのだ。
「我々の役目はヒンメルリッターの航空支援を受けつつ剣機をヴィルヘルミナ皇帝陛下とゼナイド師団長率いる本隊の到着まで足止めしつつ、剣機の飛行能力の源である部位……以後便宜上『主翼』と『バーニア』と呼ぶ器官を破壊することにある」
その時、爆発音がトラックを揺らした。
「総員降車。戦闘準備」
●
剣機はその巨体を着地させ、何としても動きを止めようと空中から執拗な対地攻撃を行うグリフォンライダーたちに、ガトリングによる分厚い対空砲火を浴びせていた。
その銃火と閃光に晒されながら、サラリーマン風の背広の上に無理やり胸当てや盾をつけた、眼鏡に出っ歯の師団員は狂喜していた。
「あ、あはは! さ、最高です! て、転移者になってワタシは本当に幸せですっ! どんな大作ゲームでもこんなエキサイティングな光景はありませんでしたっ!」
だが、他の師団員は全く気にする様子もない。
「妙だな。事前の情報では双頭とあったが」
エイゼンシュテインも平然と敵を確認している。
その時、突然一行の頭上に巨大な影が覆いかぶさった。それは、負傷した仲間を守って不時着したヒンメルリッターの一人だった。
「カワベさん、酷いヨ! 実際にあれに晒されてるボクたちはどうなるの? このままじゃあっという間に全員落とされちゃうヨ!」
そうグリフォンの上からきいきいと怒鳴った第五師団兵はまだ少年と言って良い容姿であった。まるで、少女のように髪を二つに分けて束ねている。ただ、手に握った弩と背中の巨大な戟は彼が紛れも無く兵士であることを示していた。
「ガタガタ騒ぐんじゃねえ、シャオユウ」
応じたのは、モヒカン頭にだらしなく軍服を着崩した、チンピラにしか見えない師団兵のゲロルトだ。
「俺たちが参加したら攻撃はバラける。キツいのは囮になる俺たちだ……やれやれ、俺はあんな物騒なのより雑魚を痛めつけて楽に楽しむのが趣味なんだがな!」
「楽しめるとも」
事も無げに、エイゼンシュテインは言った。
「決戦前に敵を最大限弱体化させるのは戦闘の鉄則だ。我々が奴に損傷を加えれば加えるほど陛下とゼナイド、そして後続のハンターたちが楽になる」
ゲロルトは黙って肩を竦めると、愛用のナイフを引き抜き真っ先に飛び出していった。
「さ、さあ! 狩の時間ですっ!」
カワベも、剣機の側面に回るべく後に続く。浮ついた態度とは裏腹に、その動きには無駄も隙も無い。
「もう! 知らないヨ!」
シャオシュウも再びグリフォンを飛翔させる。
「隊に参加しているハンターたちは、予定通りに分散して、師団員と共に作戦を遂行せよ」
エイゼンシュテインはそう述べると、剣機に近づく兵士たちとあなたたちを援護すべく投げ槍を握る手に力を込めた。
リプレイ本文
剣機リンドヴルムと呼ばれる存在は自らに向かって来るボルディア・コンフラムス(ka0796)を感情のない機械のレンズで凝視する。
「よう、剣機ィ。聞いたぜ、テメェ四霊剣の中じゃいっちばん弱ぇんだってな! つまり雑魚って事だ! オラ、来いよ雑魚。相手してやっからかかってきな!?」
その人間は何やら罵詈雑言を吐き散らしながら間合いへと踏み入って来る。内容を剣機が理解しているかは不明だ。理解していたとしても感情を抱く事は無かったであろう。
故に、剣機は敵との距離が狭まった時点で騒音を発し続ける生命体の物理的排除を実行すべく、その尾をしならせる。
「来やがった……!」
ボルディアが大剣を構える。事前に仲間から聞いた情報で、この攻撃の傾向はほぼ把握している――筈であった。
「ぐぅ……!?」
だが、剣機の刃は彼女が話を元に想定していたのを遥かに上回る速度で彼女の大剣に食い込んだ。百聞は一見に如かず、やはり情報だけでは限界があったのだろうか。
必死に歯を食い縛って持ち堪えようとするが剣機の刃は火花を散らしながら、大剣を押し退けて胴に食い込まんとする。
「今日は中ボス退治なんだよ、やっぱり燃えるよね~」
銃のスコープ越しにその光景を眺めながら、柊崎 風音(ka1074)は鼻歌交じりにライフルを構えた。愛好するFPSゲームのワンシーンであるかのような気楽さである。
「……でもこれはリアルだし皆さんに迷惑をかけないようにしないと」
風音は実に落ち着いて、剣機の最重要攻撃部位であるバーニアに照準を合わせる。
「部位破壊はきっとボーナスポイントだし、がんばるんだよ♪」
細い指が引き金に掛かる。銃声が響き、朽ち果てた肉体に歪に溶接された鋼鉄のバーニアに穴が穿たれた。
剣機は恐らく痛みなど感じない。だが、重要な部位に不穏な一撃を受けた事は自覚しているのか、ボルディアへの攻撃を止め、即座にガトリング砲を弾丸の飛来した方向に撃ちまくり始めた。
「助かったぜ……!」
素早く飛び退いたボルディアは、この隙に防御を固めるべく、堅牢な皮膚を持つ動物の霊に助力を乞う。
一方、剣機の弾丸は荒野の向こうの風音に向かって容赦なく降り注いだ。
「当たらないんだよ~♪」
しかし、風音は素早く地面に身を伏せつつ、ぺろりと舌を出す。剣機の弾丸は風音の前に着弾して地面を抉るが、風音には届かない。
「は、範囲外からの攻撃は強敵攻略の常套手段ですねっ!」
弾丸の巻き添えを食わないよう伏せたカワベが興奮も顕わに呟く。
「……帝国兵の癖に随分とお気楽だな」
カワベと共に剣機に向かいながら、ロクス・カーディナー(ka0162)が相槌を打つ。
「仕事は楽しんでやるべきです」
真顔で返すカワベ。
「私は別に帝国自体には……ヴィタリー副「部」長と、この第一師団は別ですがね。そういう貴方は?」
「……俺だって国が好きなわけじゃねェ、散々な目に遭ってきた。家族も恋人も帝都にゃ居ねェし、其の場付き合いの連中ばっかだ」
やがて、剣機は風音への攻撃を諦め今度はガトリングを上空へと向けたので、ロクスは素早く立ち上がる。
「だがよ、皇帝連中を見て……ちィっと国の行く先を、見たくなっちまった。俺が立つ理由は、今ンとこそれだけだ」
二人に、それ以上会話の時間は無かった。第五師団と剣機が銃撃戦を開始した隙に二人は走り出す。狙いの甘くなった弾幕を潜り抜け、まずカワベがバーニアの装甲を叩き斬る。
剣機は自らの間合いに入った目障りな生命体を叩き潰すべく、攻撃態勢に入る。
「かははっ、死にぞこないの大型より、よっぽど歯ごたえがありそうだな!」
だが、剣機の知覚は再び耳障りな雑音を捕える。巨大なドリルを構えたアーサー・ホーガン(ka0471)が、一直線に突撃して来たのだ。
「強敵が現れたね。でも、引く訳には行かない。何としても此処で手負いに……」
一方、アーサーの後では鈴木悠司(ka0176)が銃を構える。正面から見る剣機は想像していた以上に大きく、禍々しい。
「真正面……気を惹くには良い場所だけど、ね」
ごくりと、唾を飲み込む悠司。それでも銃を構え、相手を睨み据えた。
「最後まで、翼を折るまで、耐えてみせる……! アーサーさんっ、今だよ!」
悠司の放った弾丸が次々と剣機に着弾。それに合わせて空中の第五師団が総攻撃を行う。その弾丸が巻き上げた土煙越しに剣機の目が不気味に光り、周囲の人間の内どれを優先して排除するべきかを判断する。
剣機は、既に一旦引き始めているロクスとカワベや、剣で一蹴出来るアーサーよりも、銃撃を繰り返す悠司を最初に排除すべく機導砲を内蔵した口を開いた。
「それを待っていたぜ!」
その瞬間、アーサーはドリルの刃を頭上の剣機の下顎へと叩きつけた。剣機の口に収束した光が弾け、一条の閃光が戦場の上空に向かって放たれた。
「へっ! ざまあ見やがれ!」
狙い通り剣機の攻撃を凌いだアーサーがガッツポーズを決める。
「何するんだヨ!」
だが、上空から響いて来たきいきい声にアーサーは頭上を見上げる。
そこには小鷲(シャオシュウ)他、数騎のヒンメルリッターがアーサーを睨みつけながら旋回していた。
「あ……わ、悪ィ……」
気付いて、冷や汗を浮かべるアーサー。今回の作戦では、彼らが常に空中から地上を支援している。アーサーの行動が彼らを危険に晒してしまったのだ。
「気をつけてヨ!」
小鷲の声を最後に、彼らは再び散開した。
しかし、仲間が危険に晒されたのは事実だが、剣機の注意が一時的に逸れたのも事実だ。
「翼だけじゃ無く、全部スクラップにしてやる、です」
ロクスやカワベと共に攻撃の機会を伺っていた八城雪(ka0146)は巨大な斧を両手で携えながら、剣機へと突進する。
剣機の弾丸が身体を掠めるが、雪は怖気づくどころかその幼い顔を喜悦に歪める。
「これです……このビリビリ来るのがたまらねえ、です!」
「ススギさん、無茶は……!」
雪に追随して走りながら、シメオン・E・グリーヴ(ka1285)が叫ぶ。彼の構える盾にも弾丸は間断なく命中して火花を散らす。
「ヒーラーがいるんだから、ダメージなんか気にしてらんねー、です!」
カワベと風音のゲーム脳に当てられたのか、雪は叫ぶと大地を蹴って跳躍。空中から勢いをつけて大斧をバーニアに叩きつけた。
金属がひしゃげる耳障りな音と共に、刃が食い込む。雪はそのまま斧を振り抜こうとするが、それ以上刃が動かない。
「これ、阿呆みてーにかてー、です。一体、何で出来てやがる、です?」
両足を踏ん張って斧を引き抜こうとする雪。だが、そこに剣機の尾が迫る。
「危ない!」
シメオンは叫んだ。
「マテリアルキャノン、セット!」
その時、鳴神 真吾(ka2626)がシメオンの傍らで叫び、ライフルで剣機を狙う。
「蒼き故郷を、この紅き大地を、貴様らヴォイドの好きにはさせん!」
彼の放った弾丸は、雪が斧を突き刺した箇所に着弾。バーニアは爆発し、雪は何とか斧を引き抜いたが、直後に剣機の尾が飛び下がろうとした雪を掠める。そのまま弾き飛ばされ地面に叩きつけられる雪。
「大丈夫ですか!?」
シメオンは雪を助け起こすと、己のマテリアルで雪を癒す。真吾の援護が間に合ったおかげか傷は浅い。
その間に、剣機は集中攻撃を受けた片方のバーニアから煙を出しつつも、無事な方のバーニアで離陸しようとする。
雪は呆れたように呟いた。
「何か、航空機みてー、です」
「此処で最大の脅威である飛行能力を落としたい所ですね」
シメオンも同意する。やがて、第五師団の猛攻を受けながらも巨体が宙に浮かんだ。
●強行突破
剣機の弾丸が周囲に降り注ぐ中、悠司は必死に敵の目を狙う。しかし、敵が宙に浮いている状況では、中々上手く命中しない。
一方、巨体はバーニアを破壊された影響か、高度が上がらず大きく傾いていた。
「絶対に飛ばしちゃ駄目だヨ!」
小鷲の号令一下、第五師団が火力を集中させる。更に剣機の高度が下がった時、ロクスが一歩踏み出した。
「――よォ、腐れ竜、相棒はどうした、見限られたか?」
そう毒づくと、一気に跳躍する。
「悪ィがね……てめェのケツから向かう先がよォ、野良猫の縄張りなんだわ」
ロクスの包丁が陽光を受け、煌めいた。
「足ィ止めて「くださりやがりませ?」……まだまだ、たぁっぷり御持て成し、してやるからよォ!」
そのままロクスは全体重をかけて、包丁を剣機の翼の根元に叩きつけた。
「く……! 固ェな……」
だが、包丁の刃は半ばまで食い込んだ所で、止まってしまう――かに見えた。
――君の片腕は、確たる力を以て雷光の如く敵を穿つ。頑張ってくださいね、ロクス
ロクスの脳裏に、遠い場所にいる筈の友人の言葉が甦る。同時に、彼の身に着けていた猫目石のお守りが微かな光を放つ。
――ロクスが困難を突破する助けとなるように。共に戦った仲間として、無事を……
「全く……」
ロクスは少し照れくさそうに笑い、もう一度包丁を握る手に力を込める。
「お節介な連中だぜっ!」
ロクスは、自分の持つ以上のマテリアルを感じつつ、包丁を本来の用途の如く思いっ切り「引いた」。それにより、遂に剣機の翼は根元を一刀のもとに断ち割られ、荒野へ落下する。
ハンターたちと兵士の双方から歓声が上がる中、剣機本体もゆっくりと荒野に墜落――する直前、生きている方のバーニアをフルパワーで噴射し、まるでホバーのように荒野を滑空し始めた。
「片方だけであんなに動けるなんて、ズルいんだよ~」
風音が口を尖らせる。
「ここから先は行かせん!」
叫ぶ真吾
「く……止まってよ」
と悠司。
側面から風音と真吾、正面から悠司。そして上空の第五師団が猛射を浴びせるが剣機は止まらない。
「強行突破、という訳か」
副長がそう呟いた直後、土煙と共に滑空する剣機の進路にイーディス・ノースハイド(ka2106)が立ち塞がる。
「なるほど……随分とリアルブルー的な姿と能力を持っていると聞くけれど、歪虚も節操が無いものだね」
ちらりと後ろを振り向くイーディス。配下に指示を出しつつ、次の投擲の準備をする副長が目に入る。
「帝国軍人の前で元とはいえ王国騎士団に属した従騎士が無様を晒す訳には行かない、王国騎士の闘技しかと見届けて貰おう。さて、腐竜相手に名乗っても意味は無いかもしれないが……イーディス・ノースハイド、推して参る!」
仲間の猛攻にも怯まない剣機をどう止めるか? イーディスにとって、それは単純な問題だった。彼女は自身の戦闘スタイルに忠実に、盾を構えて正面から剣機と相対する。
「最初から受け止めるつもりで盾を構えていた方が多少はマシだろうからね……来ると分かっているなら防ぐのは容易さ」
イーディスは自身の盾を大地に突き立て、更に剣を楔の様に大地に深く突き刺す。彼女がそうして体勢を整えた直後、まず風圧が、そして前方に長く突き出された機械の頭部がイーディスのシールドに激突する。
「ぐぅぅぅぅっ!?」
やはり、剣機の質量は圧倒的であった。イーディスは固定した剣と盾ごと押され、荒野に溝が出来た。
「こ、このままではっ!」
苦悶するイーディス。身体がそのまま跳ね飛ばされそうになる直前、感触だけで女性のものと解る豊満な肉体がイーディスの背中を受け止めた。
「護りきってみせます! それが私の為すべき事……この名前に懸けて! 意地でも!」
イーディスを抱き止めた聖盾(ka2154)は、そのまま両足に力を込めて剣機を押し返そうと試みる。
「おい、他所見してんじゃねぇ。俺だって、まだ倒れちゃいねぇぜ! そっちがそう来るなら、こっちも体ごとだ! 聖、すまねえ!」
「お願いします、アーサーさん!」
更にその背後から、アーサーがぶつかるようにして聖盾を支える。これで屈強な力を持つ覚醒者が三人。だが、やはり最弱かつ特殊、更に通常より弱体化しているとは言え暴食の頂点に立つ四霊剣の名は伊達では無く三人はじわじわと押される。
「止まってぇぇぇ!」
聖盾が目を閉じ、歯を食い縛って叫んだ瞬間、彼女の耳に逞しくも優しい男性の声が響いた。
――栗ご飯用意して待ってるからな
直後、イーディスとアーサーは聖盾が限界以上の力で剣機の体当たりに抵抗するのを感じた。
「はて? 今一瞬、日本のTVでよく見かける髪型と格好の方が居たような」
遠巻きに見ていたカワベが呟く。
僅かにではあるが、押し返された剣機はたまらず脚を地面に着くと、イーディスらを排除すべく刃を振り上げる。
「オラァァァァァ! これ以上好きにやらせるかよ!」
だが、そこに咆哮を上げてボルディアが突っ込んで来る。実際に、一度攻撃を受けた事で、見切ったとまでは行かなくても攻撃の呼吸はある程度見極められる。動物霊を纏ったボルディアは不動の姿勢のまま大剣を構え、今度は見事に剣を受け止めた。
「やっぱりお前は雑魚なんだよっ!」
決して、ボルディアの罵倒に反応したのではないのだろう。それでも、剣機は腹の底に響くような声で、腐った横隔膜を振るわせて、吠えた。それは予想外の抵抗を見せるハンターたちに対する苛立ちか。
しかし、この邪悪な大音声に押し切られ、マテリアルの行使を阻害されたハンターはいなかった。
「これが、私の出来る最善の事……!」
マテリアルの限界まで、抵抗力を高める魔法を行使したシメオンが荒い息を吐きながら呟く。
と、剣機の開かれた口に再びマテリアルの輝きが光った。怒りに任せて二発目の機導砲を放とうと、首を伸ばす剣機。
「しゃらくせぇ!」
すかさずその頭部にゲロルトがナイフを投げる。剣機がぐるりとそちらを向いた瞬間、悠司は駆けだした。
「オイ、何をするつもりだ!?」
ゲロルトの叫び声に悠司は振り返り、にっこりと笑った。
「援護ありがとうね。これであいつの頭を狙える!」
悠司は大地を蹴ると、果敢にも剣機の顎に飛び込んだ。そして、開かれた口内に向けてゼロ距離からありったけの弾丸を撃ちまくる。
「これなら……!」
引き金がカチリと鳴ったのを確認して、悠司は剣機の顎を蹴って飛び退こうとする。だが、悠司は唐突に気付いた。
「え……」
鋭い牙が無残に彼の足を貫いて、鮮血が飛び散る。
間に合わない。
溢れる閃光を浴びながら悠司がそう確信した瞬間――。
「手間掛けさせやがって! ヒーローごっこは余所でやれってんだよォ!」
汚い罵声と共に突き出された腕が、力強く悠司を引っ張る――同時に閃光が二つの人影を飲み込んだ。
●そして、凱歌の歌い手は来たる。
二人の人間にブレスを浴びせた直後、剣機は無事な方のバーニアが損傷を受けたのを感じた。
そこには、バーニアに最初の一撃を加えたロクスの姿が。
剣機は再び咆哮して尾を振り上げる。だが、今度はその尾に背後から雪が斧を叩きつける。
「余所見してんじゃ、ねー、です」
雪の攻撃によるダメージは殆ど無かった。
しかし、二方向から攻撃された事で剣機の判断に迷いが生じる。それでも、残ったバーニアを守ろうと剣機がロクスに狙いを定めた瞬間、今度は真吾と風音の弾丸が既に翼とバーニアを失った側の体に命中した。
「ロクスとカワベはそのままバーニアを叩いてくれ! 雪もシメオンを守りつつバーニアへ! 風音、もう一度援護射撃を!」
大声で指示を飛ばす真吾。その光景に副長は目を細めた。
「中々見所がある」
主翼破壊に回った五人のハンターの動きは、副長の目から見ても十分に練られていた。
片側を破壊した後、一斉に反対側に移動するのではなく、少人数ずつ回り込む。
これにより、敵の攻撃で一網打尽になる事を避けるのみならず、このように包囲しての攻撃も行える。
「カワベの奴もやり易かったろうよ……へっ、それに比べてコッチは……」
「ゲロルトさん、気付かれたんですかっ!?」
副長の傍らで、聖盾の盾に庇われ聖盾に治療を受けていた重体のゲロルトが体を起こして毒づく。
「実戦でしか学べぬ事はある。お前とて多くの古強者に助けられた筈だ。私の下に来た時から一人前だった訳ではあるまい」
そう答えた副長の目に、剣機のバーニアが上げる黒煙が映った。
「副長! アレ!」
近くに着地した小鷲が指差した方向には、土煙を上げて迫るトラックが見えた。
「待たせてしまったな。調子はどうだね?」
「無様ですわね! 後は私と陛下に任せてくださってよろしいのよ?」
風に乗ってそんな声が聞こえて来る。
「全力を出し尽くしました……本隊の方々、後は頼みましたよ」
聖盾は安心したのか、気が抜けたように呟く。
「私達の役割はここまでだね。後の事は信じて任せよう。彼らの武威を見物でもさせてもらいたい所だが、この傷ではね……」
そのイーディスの弁に答えるように、副長が命令を下す。
「総員、主翼の破壊を確認次第、速やかに後退。ヒンメルリッターはハンターらを救出して離脱せよ」
副長はゲロルトと聖盾を小鷲に託し、自身は殿を務めるべく槍を握った手に力を込める。
「やれるだけのことはやれたと思いたいが……後は続く者に託す! みな、引こう!」
同時に、真吾の放った弾丸が、剣機の翼を根元から吹き飛ばした。
「よう、剣機ィ。聞いたぜ、テメェ四霊剣の中じゃいっちばん弱ぇんだってな! つまり雑魚って事だ! オラ、来いよ雑魚。相手してやっからかかってきな!?」
その人間は何やら罵詈雑言を吐き散らしながら間合いへと踏み入って来る。内容を剣機が理解しているかは不明だ。理解していたとしても感情を抱く事は無かったであろう。
故に、剣機は敵との距離が狭まった時点で騒音を発し続ける生命体の物理的排除を実行すべく、その尾をしならせる。
「来やがった……!」
ボルディアが大剣を構える。事前に仲間から聞いた情報で、この攻撃の傾向はほぼ把握している――筈であった。
「ぐぅ……!?」
だが、剣機の刃は彼女が話を元に想定していたのを遥かに上回る速度で彼女の大剣に食い込んだ。百聞は一見に如かず、やはり情報だけでは限界があったのだろうか。
必死に歯を食い縛って持ち堪えようとするが剣機の刃は火花を散らしながら、大剣を押し退けて胴に食い込まんとする。
「今日は中ボス退治なんだよ、やっぱり燃えるよね~」
銃のスコープ越しにその光景を眺めながら、柊崎 風音(ka1074)は鼻歌交じりにライフルを構えた。愛好するFPSゲームのワンシーンであるかのような気楽さである。
「……でもこれはリアルだし皆さんに迷惑をかけないようにしないと」
風音は実に落ち着いて、剣機の最重要攻撃部位であるバーニアに照準を合わせる。
「部位破壊はきっとボーナスポイントだし、がんばるんだよ♪」
細い指が引き金に掛かる。銃声が響き、朽ち果てた肉体に歪に溶接された鋼鉄のバーニアに穴が穿たれた。
剣機は恐らく痛みなど感じない。だが、重要な部位に不穏な一撃を受けた事は自覚しているのか、ボルディアへの攻撃を止め、即座にガトリング砲を弾丸の飛来した方向に撃ちまくり始めた。
「助かったぜ……!」
素早く飛び退いたボルディアは、この隙に防御を固めるべく、堅牢な皮膚を持つ動物の霊に助力を乞う。
一方、剣機の弾丸は荒野の向こうの風音に向かって容赦なく降り注いだ。
「当たらないんだよ~♪」
しかし、風音は素早く地面に身を伏せつつ、ぺろりと舌を出す。剣機の弾丸は風音の前に着弾して地面を抉るが、風音には届かない。
「は、範囲外からの攻撃は強敵攻略の常套手段ですねっ!」
弾丸の巻き添えを食わないよう伏せたカワベが興奮も顕わに呟く。
「……帝国兵の癖に随分とお気楽だな」
カワベと共に剣機に向かいながら、ロクス・カーディナー(ka0162)が相槌を打つ。
「仕事は楽しんでやるべきです」
真顔で返すカワベ。
「私は別に帝国自体には……ヴィタリー副「部」長と、この第一師団は別ですがね。そういう貴方は?」
「……俺だって国が好きなわけじゃねェ、散々な目に遭ってきた。家族も恋人も帝都にゃ居ねェし、其の場付き合いの連中ばっかだ」
やがて、剣機は風音への攻撃を諦め今度はガトリングを上空へと向けたので、ロクスは素早く立ち上がる。
「だがよ、皇帝連中を見て……ちィっと国の行く先を、見たくなっちまった。俺が立つ理由は、今ンとこそれだけだ」
二人に、それ以上会話の時間は無かった。第五師団と剣機が銃撃戦を開始した隙に二人は走り出す。狙いの甘くなった弾幕を潜り抜け、まずカワベがバーニアの装甲を叩き斬る。
剣機は自らの間合いに入った目障りな生命体を叩き潰すべく、攻撃態勢に入る。
「かははっ、死にぞこないの大型より、よっぽど歯ごたえがありそうだな!」
だが、剣機の知覚は再び耳障りな雑音を捕える。巨大なドリルを構えたアーサー・ホーガン(ka0471)が、一直線に突撃して来たのだ。
「強敵が現れたね。でも、引く訳には行かない。何としても此処で手負いに……」
一方、アーサーの後では鈴木悠司(ka0176)が銃を構える。正面から見る剣機は想像していた以上に大きく、禍々しい。
「真正面……気を惹くには良い場所だけど、ね」
ごくりと、唾を飲み込む悠司。それでも銃を構え、相手を睨み据えた。
「最後まで、翼を折るまで、耐えてみせる……! アーサーさんっ、今だよ!」
悠司の放った弾丸が次々と剣機に着弾。それに合わせて空中の第五師団が総攻撃を行う。その弾丸が巻き上げた土煙越しに剣機の目が不気味に光り、周囲の人間の内どれを優先して排除するべきかを判断する。
剣機は、既に一旦引き始めているロクスとカワベや、剣で一蹴出来るアーサーよりも、銃撃を繰り返す悠司を最初に排除すべく機導砲を内蔵した口を開いた。
「それを待っていたぜ!」
その瞬間、アーサーはドリルの刃を頭上の剣機の下顎へと叩きつけた。剣機の口に収束した光が弾け、一条の閃光が戦場の上空に向かって放たれた。
「へっ! ざまあ見やがれ!」
狙い通り剣機の攻撃を凌いだアーサーがガッツポーズを決める。
「何するんだヨ!」
だが、上空から響いて来たきいきい声にアーサーは頭上を見上げる。
そこには小鷲(シャオシュウ)他、数騎のヒンメルリッターがアーサーを睨みつけながら旋回していた。
「あ……わ、悪ィ……」
気付いて、冷や汗を浮かべるアーサー。今回の作戦では、彼らが常に空中から地上を支援している。アーサーの行動が彼らを危険に晒してしまったのだ。
「気をつけてヨ!」
小鷲の声を最後に、彼らは再び散開した。
しかし、仲間が危険に晒されたのは事実だが、剣機の注意が一時的に逸れたのも事実だ。
「翼だけじゃ無く、全部スクラップにしてやる、です」
ロクスやカワベと共に攻撃の機会を伺っていた八城雪(ka0146)は巨大な斧を両手で携えながら、剣機へと突進する。
剣機の弾丸が身体を掠めるが、雪は怖気づくどころかその幼い顔を喜悦に歪める。
「これです……このビリビリ来るのがたまらねえ、です!」
「ススギさん、無茶は……!」
雪に追随して走りながら、シメオン・E・グリーヴ(ka1285)が叫ぶ。彼の構える盾にも弾丸は間断なく命中して火花を散らす。
「ヒーラーがいるんだから、ダメージなんか気にしてらんねー、です!」
カワベと風音のゲーム脳に当てられたのか、雪は叫ぶと大地を蹴って跳躍。空中から勢いをつけて大斧をバーニアに叩きつけた。
金属がひしゃげる耳障りな音と共に、刃が食い込む。雪はそのまま斧を振り抜こうとするが、それ以上刃が動かない。
「これ、阿呆みてーにかてー、です。一体、何で出来てやがる、です?」
両足を踏ん張って斧を引き抜こうとする雪。だが、そこに剣機の尾が迫る。
「危ない!」
シメオンは叫んだ。
「マテリアルキャノン、セット!」
その時、鳴神 真吾(ka2626)がシメオンの傍らで叫び、ライフルで剣機を狙う。
「蒼き故郷を、この紅き大地を、貴様らヴォイドの好きにはさせん!」
彼の放った弾丸は、雪が斧を突き刺した箇所に着弾。バーニアは爆発し、雪は何とか斧を引き抜いたが、直後に剣機の尾が飛び下がろうとした雪を掠める。そのまま弾き飛ばされ地面に叩きつけられる雪。
「大丈夫ですか!?」
シメオンは雪を助け起こすと、己のマテリアルで雪を癒す。真吾の援護が間に合ったおかげか傷は浅い。
その間に、剣機は集中攻撃を受けた片方のバーニアから煙を出しつつも、無事な方のバーニアで離陸しようとする。
雪は呆れたように呟いた。
「何か、航空機みてー、です」
「此処で最大の脅威である飛行能力を落としたい所ですね」
シメオンも同意する。やがて、第五師団の猛攻を受けながらも巨体が宙に浮かんだ。
●強行突破
剣機の弾丸が周囲に降り注ぐ中、悠司は必死に敵の目を狙う。しかし、敵が宙に浮いている状況では、中々上手く命中しない。
一方、巨体はバーニアを破壊された影響か、高度が上がらず大きく傾いていた。
「絶対に飛ばしちゃ駄目だヨ!」
小鷲の号令一下、第五師団が火力を集中させる。更に剣機の高度が下がった時、ロクスが一歩踏み出した。
「――よォ、腐れ竜、相棒はどうした、見限られたか?」
そう毒づくと、一気に跳躍する。
「悪ィがね……てめェのケツから向かう先がよォ、野良猫の縄張りなんだわ」
ロクスの包丁が陽光を受け、煌めいた。
「足ィ止めて「くださりやがりませ?」……まだまだ、たぁっぷり御持て成し、してやるからよォ!」
そのままロクスは全体重をかけて、包丁を剣機の翼の根元に叩きつけた。
「く……! 固ェな……」
だが、包丁の刃は半ばまで食い込んだ所で、止まってしまう――かに見えた。
――君の片腕は、確たる力を以て雷光の如く敵を穿つ。頑張ってくださいね、ロクス
ロクスの脳裏に、遠い場所にいる筈の友人の言葉が甦る。同時に、彼の身に着けていた猫目石のお守りが微かな光を放つ。
――ロクスが困難を突破する助けとなるように。共に戦った仲間として、無事を……
「全く……」
ロクスは少し照れくさそうに笑い、もう一度包丁を握る手に力を込める。
「お節介な連中だぜっ!」
ロクスは、自分の持つ以上のマテリアルを感じつつ、包丁を本来の用途の如く思いっ切り「引いた」。それにより、遂に剣機の翼は根元を一刀のもとに断ち割られ、荒野へ落下する。
ハンターたちと兵士の双方から歓声が上がる中、剣機本体もゆっくりと荒野に墜落――する直前、生きている方のバーニアをフルパワーで噴射し、まるでホバーのように荒野を滑空し始めた。
「片方だけであんなに動けるなんて、ズルいんだよ~」
風音が口を尖らせる。
「ここから先は行かせん!」
叫ぶ真吾
「く……止まってよ」
と悠司。
側面から風音と真吾、正面から悠司。そして上空の第五師団が猛射を浴びせるが剣機は止まらない。
「強行突破、という訳か」
副長がそう呟いた直後、土煙と共に滑空する剣機の進路にイーディス・ノースハイド(ka2106)が立ち塞がる。
「なるほど……随分とリアルブルー的な姿と能力を持っていると聞くけれど、歪虚も節操が無いものだね」
ちらりと後ろを振り向くイーディス。配下に指示を出しつつ、次の投擲の準備をする副長が目に入る。
「帝国軍人の前で元とはいえ王国騎士団に属した従騎士が無様を晒す訳には行かない、王国騎士の闘技しかと見届けて貰おう。さて、腐竜相手に名乗っても意味は無いかもしれないが……イーディス・ノースハイド、推して参る!」
仲間の猛攻にも怯まない剣機をどう止めるか? イーディスにとって、それは単純な問題だった。彼女は自身の戦闘スタイルに忠実に、盾を構えて正面から剣機と相対する。
「最初から受け止めるつもりで盾を構えていた方が多少はマシだろうからね……来ると分かっているなら防ぐのは容易さ」
イーディスは自身の盾を大地に突き立て、更に剣を楔の様に大地に深く突き刺す。彼女がそうして体勢を整えた直後、まず風圧が、そして前方に長く突き出された機械の頭部がイーディスのシールドに激突する。
「ぐぅぅぅぅっ!?」
やはり、剣機の質量は圧倒的であった。イーディスは固定した剣と盾ごと押され、荒野に溝が出来た。
「こ、このままではっ!」
苦悶するイーディス。身体がそのまま跳ね飛ばされそうになる直前、感触だけで女性のものと解る豊満な肉体がイーディスの背中を受け止めた。
「護りきってみせます! それが私の為すべき事……この名前に懸けて! 意地でも!」
イーディスを抱き止めた聖盾(ka2154)は、そのまま両足に力を込めて剣機を押し返そうと試みる。
「おい、他所見してんじゃねぇ。俺だって、まだ倒れちゃいねぇぜ! そっちがそう来るなら、こっちも体ごとだ! 聖、すまねえ!」
「お願いします、アーサーさん!」
更にその背後から、アーサーがぶつかるようにして聖盾を支える。これで屈強な力を持つ覚醒者が三人。だが、やはり最弱かつ特殊、更に通常より弱体化しているとは言え暴食の頂点に立つ四霊剣の名は伊達では無く三人はじわじわと押される。
「止まってぇぇぇ!」
聖盾が目を閉じ、歯を食い縛って叫んだ瞬間、彼女の耳に逞しくも優しい男性の声が響いた。
――栗ご飯用意して待ってるからな
直後、イーディスとアーサーは聖盾が限界以上の力で剣機の体当たりに抵抗するのを感じた。
「はて? 今一瞬、日本のTVでよく見かける髪型と格好の方が居たような」
遠巻きに見ていたカワベが呟く。
僅かにではあるが、押し返された剣機はたまらず脚を地面に着くと、イーディスらを排除すべく刃を振り上げる。
「オラァァァァァ! これ以上好きにやらせるかよ!」
だが、そこに咆哮を上げてボルディアが突っ込んで来る。実際に、一度攻撃を受けた事で、見切ったとまでは行かなくても攻撃の呼吸はある程度見極められる。動物霊を纏ったボルディアは不動の姿勢のまま大剣を構え、今度は見事に剣を受け止めた。
「やっぱりお前は雑魚なんだよっ!」
決して、ボルディアの罵倒に反応したのではないのだろう。それでも、剣機は腹の底に響くような声で、腐った横隔膜を振るわせて、吠えた。それは予想外の抵抗を見せるハンターたちに対する苛立ちか。
しかし、この邪悪な大音声に押し切られ、マテリアルの行使を阻害されたハンターはいなかった。
「これが、私の出来る最善の事……!」
マテリアルの限界まで、抵抗力を高める魔法を行使したシメオンが荒い息を吐きながら呟く。
と、剣機の開かれた口に再びマテリアルの輝きが光った。怒りに任せて二発目の機導砲を放とうと、首を伸ばす剣機。
「しゃらくせぇ!」
すかさずその頭部にゲロルトがナイフを投げる。剣機がぐるりとそちらを向いた瞬間、悠司は駆けだした。
「オイ、何をするつもりだ!?」
ゲロルトの叫び声に悠司は振り返り、にっこりと笑った。
「援護ありがとうね。これであいつの頭を狙える!」
悠司は大地を蹴ると、果敢にも剣機の顎に飛び込んだ。そして、開かれた口内に向けてゼロ距離からありったけの弾丸を撃ちまくる。
「これなら……!」
引き金がカチリと鳴ったのを確認して、悠司は剣機の顎を蹴って飛び退こうとする。だが、悠司は唐突に気付いた。
「え……」
鋭い牙が無残に彼の足を貫いて、鮮血が飛び散る。
間に合わない。
溢れる閃光を浴びながら悠司がそう確信した瞬間――。
「手間掛けさせやがって! ヒーローごっこは余所でやれってんだよォ!」
汚い罵声と共に突き出された腕が、力強く悠司を引っ張る――同時に閃光が二つの人影を飲み込んだ。
●そして、凱歌の歌い手は来たる。
二人の人間にブレスを浴びせた直後、剣機は無事な方のバーニアが損傷を受けたのを感じた。
そこには、バーニアに最初の一撃を加えたロクスの姿が。
剣機は再び咆哮して尾を振り上げる。だが、今度はその尾に背後から雪が斧を叩きつける。
「余所見してんじゃ、ねー、です」
雪の攻撃によるダメージは殆ど無かった。
しかし、二方向から攻撃された事で剣機の判断に迷いが生じる。それでも、残ったバーニアを守ろうと剣機がロクスに狙いを定めた瞬間、今度は真吾と風音の弾丸が既に翼とバーニアを失った側の体に命中した。
「ロクスとカワベはそのままバーニアを叩いてくれ! 雪もシメオンを守りつつバーニアへ! 風音、もう一度援護射撃を!」
大声で指示を飛ばす真吾。その光景に副長は目を細めた。
「中々見所がある」
主翼破壊に回った五人のハンターの動きは、副長の目から見ても十分に練られていた。
片側を破壊した後、一斉に反対側に移動するのではなく、少人数ずつ回り込む。
これにより、敵の攻撃で一網打尽になる事を避けるのみならず、このように包囲しての攻撃も行える。
「カワベの奴もやり易かったろうよ……へっ、それに比べてコッチは……」
「ゲロルトさん、気付かれたんですかっ!?」
副長の傍らで、聖盾の盾に庇われ聖盾に治療を受けていた重体のゲロルトが体を起こして毒づく。
「実戦でしか学べぬ事はある。お前とて多くの古強者に助けられた筈だ。私の下に来た時から一人前だった訳ではあるまい」
そう答えた副長の目に、剣機のバーニアが上げる黒煙が映った。
「副長! アレ!」
近くに着地した小鷲が指差した方向には、土煙を上げて迫るトラックが見えた。
「待たせてしまったな。調子はどうだね?」
「無様ですわね! 後は私と陛下に任せてくださってよろしいのよ?」
風に乗ってそんな声が聞こえて来る。
「全力を出し尽くしました……本隊の方々、後は頼みましたよ」
聖盾は安心したのか、気が抜けたように呟く。
「私達の役割はここまでだね。後の事は信じて任せよう。彼らの武威を見物でもさせてもらいたい所だが、この傷ではね……」
そのイーディスの弁に答えるように、副長が命令を下す。
「総員、主翼の破壊を確認次第、速やかに後退。ヒンメルリッターはハンターらを救出して離脱せよ」
副長はゲロルトと聖盾を小鷲に託し、自身は殿を務めるべく槍を握った手に力を込める。
「やれるだけのことはやれたと思いたいが……後は続く者に託す! みな、引こう!」
同時に、真吾の放った弾丸が、剣機の翼を根元から吹き飛ばした。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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質問卓 鳴神 真吾(ka2626) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/10/02 10:54:23 |
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剣機討伐作戦卓 ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2014/10/05 05:02:33 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/10/01 16:13:35 |