ゲスト
(ka0000)
魂の米酒 ~新年早々アンタも好きね~
マスター:葉槻
オープニング
●竹林の雑魔×米蔵=奇蹟のCOLLABORATION
年末、東方のとある農村。
憤怒王・獄炎の恐怖から解放され、今年ようやく米を収穫することが出来た。
今まで誰も見た事が無いほどに黄金の稲穂はたわわに実り、さららさと手のひらからこぼれ落ちるその一粒一粒は籾から剥けばつややかに光り、炊けばふっくらと甘みがあり、村中が歓喜で湧いた。
そんな彼らを絶望の底に追いやる物が現れた。
近所のおおよそ10×10mの竹林そのものが雑魔化したのだ。
その上、それらが米蔵の米を食い荒らした。
直ぐ様オフィスから派遣された駆け出しのハンター達6人は大変良く奮闘した。
そして、ついに雑魔の息の根を止め、竹林雑魔は竹林へと返った……ように見えた。
米蔵から突き出た竹、竹、竹。
雑魔が食い荒らした米は見る影も無い。
しかし、鼻の利く1人が竹を切ると、その中からは金色に輝く幼女……ではなく、清水のように透明で豊潤な香りを放つ見事な米酒が流れ出たのだ。
「……まさか、これ全部が……?」
「……お酒に変わったのか……!?」
6人は唖然としながら顔を見合わせた。何しろ6人ともが下戸で酒は一滴も飲めないので嬉しくも何ともない。
報告を受けた村人達も愕然とした。
何しろ村の住人達で分け合うはずの1年分の米が全て竹の中で酒に変わってしまったとなれば、さもありなん。
「正月に食う米すら無いだなんて……」
村人達は膝から崩れ落ち、おいおいと泣き始める。
しかし、とんでも無く酒豪な姉を持つハンターの1人がぽんと手を打った。
「よし、ハンターオフィスに相談してみよう」
●米酒を浴びるほど呑んでみないか
「そんな事情がありまして、お一人様3000Gで米酒飲み放題という企画が持ち上がりました。
食料などは各自持ち込み。提供して貰えるのは場所と米酒と、食器や調理用具ぐらいです」
ハンターオフィスの説明係の女性はテーブルの上にチラシを置いた。
「新年早々ではありますが、逆にお酒飲める人にはめでたい企画。3000G払えばお酒飲めるんですからね。
お支払い頂いたお金は全てこの農村に寄附して、今年1年の食費や、農具の購入代金などに充てて貰います。
お酒も飲めて人助けも出来ると思って、是非ご参加下さい」
なお、お酒が飲めなくてももちろん参加は可能だ。
だが、呑めなくても参加費3000Gは徴収される。何故か? まぁ、この村の住人を助ける為の寄附だと思って欲しい。
「飲み過ぎて住民の皆さんに迷惑をかけない程度に、楽しんで来たら良いんじゃないでしょうか? 新年ですし。
そうそう、すぐ傍に小さな神社もあるそうなので、初詣を兼ねるのも良いかもしれませんね」
女性はにこにこと微笑みながら人差し指を立てた。
「何だか、ぐっと冷え込みましたから、もしかしたら雪が降るかも知れませんが……雪見酒もまたいいですよね。
それでは、いってらっしゃいませ」
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
■解説出張板
【重要】
この依頼に参加すると所持金から3000Gがまず引かれます。
3000Gが手元に無い人はアイテム売って3000G作ってきて下さい。
この農村の住民達の生活費がかかっておりますので、無銭飲食はお断りします。
万が一所持金が3000Gに満たなかった場合、所持しているアイテムが喪われることもあります事をご了承下さい。
このイベントは新年早々酒に呑まれようぜという主旨に基づき企画されています。
ゆえにいちいち成人済みかの確認はしませんが、むしろ下戸で呑めないという方はそのアピールをしっかりして下さい。
一人静かに淡々と呑みたい人も、乱痴気騒ぎに巻き込まれる可能性があります。
キャラクター崩壊が絶対に嫌だという方はオヒトリサマゾーンを設けますので、【独】のタグをプレイング冒頭に明記して下さい。
ご一緒に参加される方が居る場合は【同行者のIDと名前】か【グループ名】をプレイング冒頭に明記して下さい。
なお、このシナリオは夢シナリオではありません。お取り扱いには十分お気を付け下さい。
年末、東方のとある農村。
憤怒王・獄炎の恐怖から解放され、今年ようやく米を収穫することが出来た。
今まで誰も見た事が無いほどに黄金の稲穂はたわわに実り、さららさと手のひらからこぼれ落ちるその一粒一粒は籾から剥けばつややかに光り、炊けばふっくらと甘みがあり、村中が歓喜で湧いた。
そんな彼らを絶望の底に追いやる物が現れた。
近所のおおよそ10×10mの竹林そのものが雑魔化したのだ。
その上、それらが米蔵の米を食い荒らした。
直ぐ様オフィスから派遣された駆け出しのハンター達6人は大変良く奮闘した。
そして、ついに雑魔の息の根を止め、竹林雑魔は竹林へと返った……ように見えた。
米蔵から突き出た竹、竹、竹。
雑魔が食い荒らした米は見る影も無い。
しかし、鼻の利く1人が竹を切ると、その中からは金色に輝く幼女……ではなく、清水のように透明で豊潤な香りを放つ見事な米酒が流れ出たのだ。
「……まさか、これ全部が……?」
「……お酒に変わったのか……!?」
6人は唖然としながら顔を見合わせた。何しろ6人ともが下戸で酒は一滴も飲めないので嬉しくも何ともない。
報告を受けた村人達も愕然とした。
何しろ村の住人達で分け合うはずの1年分の米が全て竹の中で酒に変わってしまったとなれば、さもありなん。
「正月に食う米すら無いだなんて……」
村人達は膝から崩れ落ち、おいおいと泣き始める。
しかし、とんでも無く酒豪な姉を持つハンターの1人がぽんと手を打った。
「よし、ハンターオフィスに相談してみよう」
●米酒を浴びるほど呑んでみないか
「そんな事情がありまして、お一人様3000Gで米酒飲み放題という企画が持ち上がりました。
食料などは各自持ち込み。提供して貰えるのは場所と米酒と、食器や調理用具ぐらいです」
ハンターオフィスの説明係の女性はテーブルの上にチラシを置いた。
「新年早々ではありますが、逆にお酒飲める人にはめでたい企画。3000G払えばお酒飲めるんですからね。
お支払い頂いたお金は全てこの農村に寄附して、今年1年の食費や、農具の購入代金などに充てて貰います。
お酒も飲めて人助けも出来ると思って、是非ご参加下さい」
なお、お酒が飲めなくてももちろん参加は可能だ。
だが、呑めなくても参加費3000Gは徴収される。何故か? まぁ、この村の住人を助ける為の寄附だと思って欲しい。
「飲み過ぎて住民の皆さんに迷惑をかけない程度に、楽しんで来たら良いんじゃないでしょうか? 新年ですし。
そうそう、すぐ傍に小さな神社もあるそうなので、初詣を兼ねるのも良いかもしれませんね」
女性はにこにこと微笑みながら人差し指を立てた。
「何だか、ぐっと冷え込みましたから、もしかしたら雪が降るかも知れませんが……雪見酒もまたいいですよね。
それでは、いってらっしゃいませ」
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■解説出張板
【重要】
この依頼に参加すると所持金から3000Gがまず引かれます。
3000Gが手元に無い人はアイテム売って3000G作ってきて下さい。
この農村の住民達の生活費がかかっておりますので、無銭飲食はお断りします。
万が一所持金が3000Gに満たなかった場合、所持しているアイテムが喪われることもあります事をご了承下さい。
このイベントは新年早々酒に呑まれようぜという主旨に基づき企画されています。
ゆえにいちいち成人済みかの確認はしませんが、むしろ下戸で呑めないという方はそのアピールをしっかりして下さい。
一人静かに淡々と呑みたい人も、乱痴気騒ぎに巻き込まれる可能性があります。
キャラクター崩壊が絶対に嫌だという方はオヒトリサマゾーンを設けますので、【独】のタグをプレイング冒頭に明記して下さい。
ご一緒に参加される方が居る場合は【同行者のIDと名前】か【グループ名】をプレイング冒頭に明記して下さい。
なお、このシナリオは夢シナリオではありません。お取り扱いには十分お気を付け下さい。
リプレイ本文
●Bee達の歓声
「お酒ね、お酒よ、お酒だわぁぁ!! なんって素敵な光景なのかしらぁ」
次々と切り倒されて蔵から運び出される竹とその酒の雫を見てNon=Bee(ka1604)が歓声を上げる。
「仲間のみんなと酒盛りだよー。3000G飲み放題お得だねぇー。あ、族長ゴチでーす」
「昼間からタダ酒万歳じゃ…え? 3000G? お金取るじゃん?」
Hachi=Bee(ka2450)の言葉にGon=Bee(ka1587)はさぁっと顔色を蒼くする。
お金貸してー! と叫ぶGonにKuro=Bee(ka6360)が困ったように財布を取り出そうとするのをNonがすかさず止め、Hachiがうっかり転んだ拍子にGonが隠し持っていた財布を叩き落とす。
ぎゃいのぎゃいのと騒ぐ一族を後ろに、顎に人差し指を添えて考え込んでいたDon=Bee(ka1589)はカッと目を見開いた。
「冬……新春……宴……! つまりはUDONで御座るな!!」
「「「どうしてそうなった???」」」
「『ウドン』? ウドンとはなんデショウ? 少しだけ興味がありマス」
Kuroの言葉に稲妻で打たれたようなショックのポーズを取ったまま固まるDon。
「Kuro殿、まさか、食べたことが……?」
「あー……ハイ、ないデス」
何とかの叫びもびっくりな叫び声を上げたDonが、つかつかとKuroに対峙するとその細すぎる両肩を掴んだ。
酒の肴に
宴の締めに
小腹が空いた時に
UDONは常に其処に居てくれる掛け替えのない存在
それは世界の真理
神より授けられし恩寵
Donの高らかな演説(?)に、「はぁ……」と気のない返事を返すKuro。
その間にも他のBeeの一族は竹酒をいただきに蔵の中へ。
「あー、皆サン、待ってクダサイ……!」
「こうなったらUDON神の教えをKuro殿にもお教えすべく、UDONを打ち湯でるで御座るよ」
Kuroの細腕をむずんずと掴むと、Donは掘っ立て小屋の中へと入っていったのだった。
「酒といえば呑兵衛、つまりNon殿の出番じゃん! Non殿の! ちょっといいとこ見てみたい! じゃん!」
「よーし! GonちゃんからIKKIコールが入ったし飲み初めだもの、はっちゃん! 一番大きいの頂戴!」
「あいよーっ!!」
取り出したのは直径1mはありそうなでっかい盃。むしろどこから出した。
そこへHachiが根元から切り取った竹一本を豪快に縦に割って酒を流し込む。
「一気? それともまったり?」
「はっちゃん、女には戦わなきゃならない時があるの。Bee一族がアイドル、いっくわよぉ!」
決して良い子が真似をしてはいけない飲み方で一気に盃を傾けぐいぐいと飲み干していく。
「いぇーい! Non殿オットコじゃない、女前ー! じゃん!」
「おぅ、任しとけや!」
Non、酔っ払いにジョブチェンジ。素のワイルドさが出始めている。なお、この時点で辞めておけば良かったのに、さらにこの調子のままガンガン呑んだNonは二日酔い確定となる。
「おっと族長の分がまだだねー任せろばりばりー私の秘書魂が火を吹くぜー」
Hachiはもう一つ同じ大きさの盃を取り出し、だばーっと竹一本分を注ぎ込む。それを抱え……おっと、うっかり足が滑ったー!
「わーっ!」
「これはうっかりだね」
てへぺろ☆ と舌をチラ見せしながら頭をコツン、なんてやっているHacchi。
一方見事頭から酒を被ったGonは酒も滴るまるごとぜんらないい男である。(※Non視点)
「皆サン、あまり飲み過ぎないでクダサイね。……どうせ運ぶのは私なんデショウ?」
Donが麺を打ち始めたので蔵の方へやってきたKuroが既に酔っ払い集団となりつつある面々を見て困ったように言う。
「Kuroさんも飲め飲めー」
「……そこまで強い訳じゃあないデスが、お二人に着いていけるよう頑張りたいっがぼっ!?」
節で切り落としただけの竹をKuroの口に突っ込むHachi。
なお、彼女はまだ一滴も飲んでいない。見事に場酔いしているだけである。
幸いにして度数の低い酒だったので、それを何とか飲みきり、Kuroは首を傾げる。
「……あー、……美味しいのが飲みたいデスかね、いきなり辛いのとかトラウマになってしまいそうデス」
「こっちの竹が甘口多いみたいよ」
Hachiから受け取った竹筒の匂いを嗅ごうとして、唐突に漂ううどん出汁の良い匂い。
「うどん出来たよー」
「「「早くね???」」」
覚醒したDonからは芳醇な出汁の香りが漂う。
その匂いにつられて、Beeの一族はようやく蔵から小屋へと移動したのであった。
●Give me alcohol!
「あ、適当に米や野菜なんか売って戴けませんか。多少割高で構いませんので」
そう村人に交渉していた初月 賢四郎(ka1046)は隣家で同じように交渉している榊 兵庫(ka0010)と目が合った。
「おや」
「あれ」
結論から言えば、この村は米がなくなり野菜を対価に近隣の村から米を融通して貰っているような状態だったので、譲れる野菜も無かった。結局2人はさらに足を延ばし近隣の村から野菜を調達してきた。
また忘れがちだが、ハンターの持つゴールドはつまり金貨だ。片田舎では滅多に見る事の出来ない代物である。これを提供した事により、結果的にこの地域全体の活性化に繋がった、何て言うのはまた別の話。
玄間 北斗(ka5640)は三本の竹筒を持って神社へと向かう。
神社ではセルゲン(ka6612)が賽銭箱にじゃらじゃらとお金を突っ込み、お菓子を供えると柏手を打って……首を捻りつつ何やら祈っている。
そして振り返り、そこで初めて北斗の存在に気付いたらしく、目を見開いて驚いた後、ダッシュで走り去る。
「いい鬼さんなのだぁ~」
小さな賽銭箱はセルゲンのお賽銭(という名の寄附)で既に満杯だったので、その奥のご神体の傍に寄付金と枡を並べると、そこに酒を注ぐ。
(神前で、今年一年 村人達が安寧の中で過ごせますように。あと、ささやかだけど、村の復興の足しにして下さい)
北斗と入れ違いに参拝に来たのは米本 剛(ka0320)。
トンビは着たままだが、被っていた帽子は取ってご神体に向かう。
(本年の目標『金剛不壊』が達成されますよう、見守って下さい)
男らしい柏手が小さな境内に響き渡った。
参拝を終え、北斗が蔵へと帰ると、お猪口を片手に竹を真剣な眼差しで吟味している明王院 蔵人(ka5737)がいた。
「どうしたのだぁ~?」
「調理に合う酒を探している」
具体的に作りたい内容を聞いた北斗は超嗅覚ですんすんとかぎ分けながら、5本の竹を切り倒す。
さらにそれを節で切り分けつつ、なるべく溢れる酒も捨てずに済むよう大きめのコップに受ける。
「これとこれが甘口なのだぁ~。こっちは辛口だけど、酸味があって、こっちは純米酒でもちょっとアルコール低めでこっちは高めなのだぁ~」
差し出された竹筒から一口ずつ試飲し、北斗の嗅覚による見当がほぼ合っていることに驚嘆する。
「ではこれ全部を頂いていこう、助かった」
「頑張って欲しいのだぁ~」
蔵人は北斗から受け取った酒を使って調理に取りかかる。
調理と入っても蔵人のそれは酒の肴ではない。
持参した様々な調理道具と食材を使って、折角の酒を村の復興に生かせられるよう加工しようという考えだ。
程度の低い酒は、そのまま発酵を進めて酢にし、調味料として。
それ以外にはゼリー、たらこの酒漬けなど土産物として扱える食品に加工、販売して現金収入と出来るようにと量産していく。
「それは、あの、もしかして、酒饅頭、ですか……?」
羊谷 めい(ka0669)が蔵人が手元で餡を詰めている饅頭を見て目を輝かせた。
「あぁ、お嬢さんはリアルブルー人か」
「はい。あの、前に食べたことがあって、ふかふかでおいしかったのです」
だが、めい1人では作り方がわからなくて今回調理に挑戦するのは断念したのだ。
「そうか……じゃぁ、蒸し上がったら食べると良い」
「え、でも……」
「酒も飲めないのに、ここに来たお嬢さんに、ご褒美だ」
ぶっきらぼうな言い方だが、その言葉と目元は優しくて、めいは嬉しさを隠さずに破顔した。
「はい、ありがとうございます」
「あ、あんたはさっきの……」
「おやぁ~? さっきの鬼さんなのだぁ~? どうしたのだぁ~?」
北斗は超嗅覚で蔵中の酒をざっくりと利き酒し、竹を切り、竹筒を仕分け、参加者が希望する味に近い酒を勧めていた。
気分はすっかり蔵の番人である。
セルゲンは並べられた大量の竹筒を見て、驚きつつ問う。
「辛口大吟醸を探してる」
「それなら、ここから大体大吟醸で、辛口なら端の方なのだぁ~」
そう言われて、セルゲンは礼を言い手近な筒を3つ程取って小屋へと入って行った。
「【初代☆酔いどれ女王】な私が酒飲みイベントを見逃すなんてあり得ないですぅ。じゃんじゃんバリバリ飲みますよぅ」
星野 ハナ(ka5852)は腕まくりすると、簡易燻製を作り始める。
ダッチオーブンの中にチップとザラメ、それに触らないように網、その上に味付茹卵、練物、一口ハンバーグ、むしった干物等置き蓋はほんの少しずらして置いて下からダッチオーブンを火にかける。
ハナの手によりこれらが10~15分で見事な燻製へと早変わり。
「今回は日本酒に合うおつまみ限定ですからぁ、お酒もつまみもガンガン進みますよぅ。みなさんもどうぞですぅ?」
純米酒の香りを楽しみつつ、一人静かに飲んでいた春陰(ka4989)の元にも燻製が回って来て、春陰は丁寧に礼を言うと、燻玉を一つ皿に取った。
この場で生まれる喧噪もすべてが酒宴。場の雰囲気ごと味わいながら米酒を口へ運び、ちびり。
「竹の香り爽やかですね。とても優しい、少し早い春風のような……」
軽い口当たりの酒に当たれたことが嬉しくて、自然とまなじりが下がる。
「あはは、楽しいねぇ~♪」
無雲(ka6677)がニコニコと笑いながら酌をして周り、セルゲンを見つけて飛び掛かった。
「あぁ、無雲か」
「どんどん呑め呑め~、あ、そこのおねーさんも!」
「我か? 良いぞ、のまのまいえいじゃ!」
無雲に注がれ、注ぎ返し、通りかかったヴィルマ・ネーベル(ka2549)を巻き込み3人は米酒を喉へと流し込み楽しげに笑い合う。
……その後、楽しく飲み歩く無雲と別れたセルゲンは好みの辛口大吟醸を求めてた結果ひっくり返るハメになるのだが、それはそれ。
その横では、ダグマス(ka6527)と碓葉(ka3559)が盃を交わし同時に空杯を机の上に置くとニヤリと笑い合う。
「見た目にそぐわぬ良い飲みっぷりじゃ!」
「ダグマスは見た目通り良い飲みっぷりじゃの!」
2人は喉の奥で笑った後、幾つもの竹筒を並べて少しずつ飲み比べていく。
「大吟醸、純米吟醸、純米……おやこれは俗にいう『すぱぁくりんぐ』というものかぇ? ふっふっふ……余が勝つかあるこぉるが勝つか……見物じゃ」
「わははは! 新年酒始めじゃ! 飲んで飲んで呑みまくるぞ!」
碓葉は様々な酒の味を楽しむべく次から次へと新しい竹筒に手を伸ばし、ダグマスは振る舞われた食事やおつまみをつまみながら陽気に笑って周囲の人々と乾杯をして回るのだった。
「おーぅ、寒いねぇ」
と、シャツにビキニ水着姿という季節感が迷子な格好のハスキー(ka2447)はちろりからとっくりへと酒を注ぐと背を丸めてフラフラと空いている席に座った。
「ここぉ、いーかい?」
「あぁ、構わない」
少し驚いたように目を見張った鞍馬 真(ka5819)だが、ハスキーがとっくりを掲げたのを見て、杯を空け酌を受ける。
「いいねぇ」
「どれ、私が注ごう」
真が口元を持ってハスキーの杯へ静かに注ぐ。そして2人は軽くお猪口を上げて乾杯した。
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は1人雉鍋とおせちを広げていた。
「同じ竹でも味が変わるなんて面白いことになってるな。こいつは楽しめそうだ。……お、このキレのある飲み口、雉の脂を流してサッパリさせてくれるな」
雉鍋を突きながら、別の筒を取って空の杯に注ぐ。
「……ん、こっちの甘口はだし巻きや栗きんとんにピッタリだ」
もう一度注いでだし巻きを咀嚼した後、くいっと……うん、うまい。
そんなレイオスに降り注ぐ視線。
無雲である。
「……あー、魚の干物しか残ってないが炙って食う?」
「食うーっ!」
喜んで隣に座ると干物を分けて貰う。代わりに無雲は持ってきたスパークリングをレイオスの杯に注ぐ。
「……これ、干物には合わなくね?」
「んぅ~……お~い~し~い~♪」
「オレは干物には辛口がいいなぁ」
幸せそうな無雲を見て、レイオスは「ま、いっか」と苦笑して杯を空けると、手酌ですっかり醒めてしまったぬる燗の入っていたとっくりを傾けた。
「まさかこちらの世界で本格的な日本酒を飲めるとは思わなかった」
兵庫の言葉に「まったくですな」と剛の声が返る。
「これも日頃の行いに対する報いかも、な。せっかくの機会だ。存分に堪能させて貰おう」
「えぇ、折角の機会です、思う存分に酒を飲みましょう」
「この出逢いに」
賢四郎の声に囲炉裏端に陣取った3人は杯を掲げ、一気に呷った。
兵庫は純米酒には干物、というこだわりを披露する中、剛は持参したおせちを広げ、賢四郎は手に入れた野菜と持参した肉で鍋をこしらえて皆に振る舞っていた。
「鍋は良いですな、締めに雑炊やうどんを入れても美味い」
「でも正月に日本酒におせちがあるのはリアルブルーっぽくていいな」
「そして、キンと冷えた冷酒というのもオツでしょう」
「あぁ、生酒か、いいな」
スパーリングに次いでレアな生酒を北斗から受け取った賢四郎が2人に酌をし、賢四郎は持参したミネラルウォーターで口直しをしつつ、男3人穏やかに楽しく酒を楽しんだのだった。
「待て! それ以上はいけない!!」
「だぁってぇ、あつぅい」
「熱いなら外に行こう! 私が付き合うから!!」
何やら騒がしいと窓際に目を向けると、上下共にビキニ姿になったハスキー(しかも長い髪は器用にお団子に結い上げられて、白いうなじが眩しい)と、彼女の来ていたシャツを手に慌てている真がいた。
「えー、ほんとぉに~? 真、付き合ってくれるのかぁ~?」
いつもの気怠げな雰囲気にアルコールのせいで妙な色気が醸し出されているが、真はそれには惑わされない。
「あぁ、とにかく1回外に出よう。そうすれば涼しくなるから」
「……あの、お水、持ってきました」
騒ぎを聞きつけためいが水の入ったコップを真に渡す。
「有り難う。よし、ハスキー、これは美味いぞ、呑んでおけ」
「やったぁ、お酒~♪ んくんくっ……あんまりお酒っぽくない……水みたい」
……いえ、水そのものです、とは言えず、めいは困惑した表情で真を見る。
「とりあえず、外で! 雪見酒するぞ!」
「はぁ~い」
雪見酒と聞いて、素足のまま外へと飛び出していったハスキーを追って真も外へと飛び出す。
……その後、寒さで我を取り戻したハスキーが再び小屋へと戻り、シャツを羽織って酒を呑み、再び脱ぎだして真に連れ出されて……というやりとりを5回以上繰り返すことになるが、その辺りは割愛する。
春陰は途方に暮れていた。
酒の流れに任せて何故ハンターとして戦うのかを聞いてみたいと思っていたのだが、1人静かに酒を楽しんでいたら予想以上に早い段階で皆が皆酔っ払いになってしまっていた。
「そんなもん、美味い酒を呑むために決まっておるじゃろー!」
「お金が好きなのじゃ! あと、老い先短い人生、旨いものを食らって生きていくのもまた一興じゃ」
……それもまた一面なのだろうが、春陰としてはそれ以外の答えも聞いてみたかった。
「どうしてあなたはここに?」
1人、お酒も飲まずに酔い潰れた者の介抱に奔走していためいを捕まえて春陰は問うた。
「わたしにもなにかできないかな、と」
少し気恥ずかしそうにそうめいは答えると、ずだーんと誰かがすっ転んだ音に顔を上げて「すみません」と断ると走って行ってしまった。
それを見送って、春陰は小さく微笑むと「俺もまだまだですね」と独りごちて酒を呷った。
●【華水来】
「……よもや、日本酒を此方の世界で飲める機会がくるとは、な」
オウカ・レンヴォルト(ka0301)の呟きに、赤い振袖姿のイレーヌ(ka1372)は付き合う前にもこんな風に飲み比べをしたことがあったな、と懐かしく思い出しながら新しい竹筒を取り出し酌をする。
「!」
一口飲んだオウカが盛大にむせ、慌ててイレーヌが背をさする。
「……これならいけるんじゃないか?」
お酒に強くないという箍崎 来流未(ka2219)に差し出されたのは、今、オウカが口を付けた酒が入っていた竹筒。
最初に飲んでいたのが大吟醸のどっしり系辛口だったのに、次に注がれたのがアルコールの殆どしない超甘口ではオウカの舌も混乱するというものだ。
「あ、ホントです、美味しい……♪」
恐る恐る口を付けた来流未は嬉しそうに笑う。それを見た二人も微笑み返す。
……そう、この時はこの後こんな事になるなんて思っていなかったのだ。
「あつくにゃいです~?」
随分と杯が進んだ頃。イレーヌにしなだれかかって甘えていた来流未がむくりと起き上がると、ばっさばっさとロングスカートで仰ぎ始める。
「これ、やめないか」
イレーヌがその手を取って止めるが、むぅ、とむくれた来流未は、イレーヌの豪奢な帯に手をかけた。
「ねーさんもっ!」
……一応世間の皆様のために断っておくと、普通の着物はちょいと帯を引っ張ったぐらいでは解けない。
だが、その着付けを間近で見ていた来流未は、どういう順番で着付けていたかを覚えていた。
「やめ、ちょ、くるみっ!?」
帯だけでなく腰紐まで解かれては溜まらない。イレーヌは慌てて前を押さえてしゃがみ込んだ。
「くるみ、ぬぎまぁっす♪」
「くるみ、待て……っぷ」
オウカの顔面に押しつけられたのは今で来流未が来ていたニット。視線を前に戻すとクルミがブラジャーと下はショーツ一枚に靴下という何とも破廉恥な格好になっていた。
イレーヌが素早く来流未のコートをオウカに投げ、オウカがそれを前から着せにかかる……が。
「兄さんったら……ダ・イ・タ・ン♪」
がばりと抱擁されてオウカは足を滑らせて後ろ向きにひっくり返った。
「オ~ウ~カぁ~?」
「待て、イレーヌ、これは違う、事故で」
「ずるい!」
「は?」
「私もー!」
オウカと来流未の上にイレーヌがダイヴ。
そういえば、ここに来る前に寄った神社のおみくじに『末吉:女難の相あり』とあったな……と思い出しながら後頭部を強打したオウカはそのまま意識を手放し。
そんなオウカの体温に抱かれたイレーヌと来流未も酔いが極まってそのまますやすやと眠りに就いたのだった。
●縁
丑(ka4498)は酒宴の喧噪を抜けて、神社へと足を運んでいた。
しゃくしゃくと雪を踏む感覚は酒が入って浮ついた心をさらに愉快にする。
神社のご神体周りには様々な物が――現金だったり、食べ物だったり――山のように置かれているが、丑もまた白い懐紙の包みを懐から出すと、そっと供えた。
「雪が溶けて消えても、俺は傍に居ますよ。……なんてね」
「ほぅ、それは心強いのぅ」
返ってくると思っていなかった声に驚いて振り向くと、蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)が静かに微笑み、丑の横に立つと蜜鈴は持ち込んだ根菜類を神社へ供えて手を合わせた。
「おんしは妾の神では無いが…この村の者達にとっては愛しき神じゃ。おんしの民が、健やかに暮らせる様にと……願おうて」
蜜鈴が顔を上げたとき、さぁっと雲が切れ陽が射した。
陽の光は一瞬にして温もりを注ぎ、降る雪は空中でキラキラと煌めき、周囲一面が白く輝いた。
「ほぉ、これは」
「あぁ、美しいですね」
暫し、声を失って光景に見とれていたが、また陽は厚い雲に隠れ、輝きは失われると寒風が吹いた。
「まるで木々にダイヤが実った様だったが……一瞬であったな」
2人は顔を見合わせると「戻りますか」と酒宴へと戻っていく。
――丑の置いた懐紙の中では本物のダイヤモンドが輝いていた。
「お久し振りに鵤さんとご一緒出来るなんてとっても嬉しいです~♪ あっ! これもとっても美味しそうですよぉ? 鵤さんもどうぞ~♪」
「っとっと。目指せ全味制覇ってかぁ? やーんおっさん超しあわせぇー」
桐壱(ka1503)と差しつ差されつしながら鵤(ka3319)もすいすいと杯を空けていく。
「辛口も甘口もボクにとっては美味しい命のお水です~♪」
「あ、おっさんこれ好みだわー、これと似たヤツがいいわー」
「わかりました-、貰って来ますねー」
鵤に頼まれれば桐壱は笑顔で蔵へと走って行く。
「おー、鵤発見じゃー! 何、オヒトリサマかー? 寂しいのぅ」
そのタイミングでヴィルマに見つかり声を掛けられる。
「いやいや、今、酒取りに行ってくれてるから」
ヒラヒラと手を振りつつ、ヴィルマが注いでくれた酒を呑む。
「……甘っ」
今まで辛口を飲んでいた鵤には味醂かと思う程の甘さに思わず眉を顰めた。
「何じゃ、鵤、1人か?」
そこに様々な料理を抱えた蜜鈴と同じく皿を持った丑が近寄る。
「お久しぶりです」
「おー、蜜鈴ちゃんに丑君じゃないの。久しぶり」
「おぉ、美味そうじゃの」
「よかったら召し上がれ」
蜜鈴の手料理をつまみ、ヴィルマが目を輝かせる。
「美味しい……!」
「あら、蜜鈴ちゃんったら若いのに料理美味いのね。いいお嫁さんになれるんじゃない?」
「ママー、おかわりー」
「誰がママか」
蜜鈴が苦笑しつつ丑を見て、丑もまた微笑みながら皿をヴィルマの前に置いた。
「鵤さーん、貰って来たよー!」
「おや、お相手が帰ってきたようじゃの、では妾達は下がろうか」
じゃぁの、と蜜鈴と丑が去り、帰ってきた桐壱は首を傾げる。
「お友達?」
「そ。前に依頼で一緒になったの」
「じゃぁ、我も行くとするかの」
「あら、そーぉ……って、食べて行けよ!」
「我、お腹いっぱいじゃ」
そう言って、ふらりふらりと去って行くヴィルマを鵤と桐壱は見送る。
「……大丈夫でしょうかぁ。少し心配ですねぇ……」
「まー大丈夫でしょ。さ、ガンガン回していこうじゃないのぉ」
「はい! あ、これ、さっきのよりちょっと濃くていい感じでしたよ~」
桐壱は元気よく応え、鵤の杯に竹筒を傾ける。
実のところ鵤はどれほど飲んでも酔えない体質なのだが、場の空気と楽しそうな桐壱の表情に楽しく酔っ払いの気分を満喫したのだった。
蜜鈴と丑は窓際に席を確保すると、静かに飲み始めた。
緋盃を満たす酒に空を映し、降る雪を眺め。
賑わう皆を見渡し、調子の外れた歌を聞き、踊りを眺め。
「郷が健在であれば斯様な様であったか」
「何か?」
静かな独り言を聞き逃した丑に蜜鈴は「いや」と微笑み盃に口付ける。
その後、うわばみの蜜鈴のペースで飲み明かした丑は見事な二日酔いとなるのだが、この時はまだ知るよしも無い。
●アイと兎と月とイロ
「酒が飲める飲めるぞー酒が飲めるぞー」
玉兎 小夜(ka6009)は歌いながら刀で竹を切ると、席を整えていた遠藤・恵(ka3940)に後ろから抱きついた。
「恵ぃ、お酌お願いー?」
「はい、旦那様。……竹からお酒ですかー、輝夜姫ですね」
竹筒の節を切り抜くと、小夜の持つ杯に中身を注いだ。
「恵も」
「……じゃぁ、少しだけ」
お酒に弱いという自覚はある恵は、それでも小夜の誘いは断らない。
「あれー、うさぎさんに遠藤さん!」
声に振り返ればそこには既知である葛音 水月(ka1895)と十色 乃梛(ka5902)が立っていた。
「これも何かの縁ですね」
「二人はお酒飲めるのー?」
「もちろん。じゃ、一緒に飲んじゃいましょー」
そんなわけで、4人は相席して飲むことにした。
「これよかったらどうぞー。出来はそこそこ自信あり、ですよ?」
水月が弁当箱を取り出せば、中には様々なおつまみ類。
これを肴に盛り上がる。
「ふにゃぁ……小夜がいっぱい……小夜、大好き♪」
「ふふふ、恵は可愛いなぁ」
最初に酔っ払ったのは恵。とろんとした色っぽい表情で小夜の顔にぺたぺた触ったり頬を摺り寄せたり。
それを目の前で見た水月はドキマギしながら「あははー、ラブラブですねー」なんてお酒をぐびぐび、おつまみぱくぱく。
「ねー、十色さん……十色さん?」
横を見れば、乃梛は「熱い……」なんて言いながらスカートは太腿まで捲り上がり、胸元をはだけさせ、手団扇で扇いでいる。
なお、乃梛。外見年齢こそガッツリ未成年だが立派に成人済みな女性である。とってもスレンダーだけど!
「ちょ、十色さん」
「あ、それちょーだい♪」
十色は水月のお箸からこんにゃくを奪おうとして身を寄せる。慌てた水月の箸からこんにゃくが滑り落ち……乃梛の太腿を滑って落ちた。
「ひゃぁん♪」
びくんと身体を跳ねさせて、こんにゃくの滑る感触にあられもない声を上げる乃梛。
そんな二人を見て、自分の腕の中で寝入ってしまった恵を見て、小夜もそっと席を立った。
「っと」
酔うほど飲んだつもりはなかったが、どうやら頭より先に足腰に来たらしい。
そういえば恵に勧められるままにすいすい飲んでしまった事を思い出す。
「あれ~? うさぎさんもどこ行くの~?」
「あぁ、ちょっと酔いが回ってしまったから」
「吐いたら呑めるぞ~ぉ!」
帰ろうかと、という言葉を小夜が紡ぐことは出来なかった。
何故なら、乃梛による聖導士的応急手当(物理)が小夜に炸裂したからである。
小夜は膝から崩れ落ち床に質量を伴う水たまりを形成。
「あ~うさぎさん……大丈夫ですかぁ~?」
返事はない。水月は通りかかっためいの力を借りつつそのまま意識を失ってしまった小夜を引き上げて、すやすやと眠っている恵の横に寝かせてあげた。
「水月さん……どこ、行くの~?」
水月の腕に押しつけられる乃梛の胸(ただしスレンダー)。
「もっと……ね?」
耳元にかかる熱い吐息に思わず水月はごくりと生唾を飲み込んで――
なお、この後何とか自力で目覚めた小夜はまさか自分が“記憶を失うほどに酔い潰れたこと”に衝撃を受け、まるで腹部にストライクブロウ(LV10)を喰らった様な痛みを抱えつつも恵を這々の体でお持ち帰りし、水月は乃梛が酔い潰れて寝てしまうまで相手をさせられたのであった。
●染み入るように
「あれ? ルイトガルトさん? どうしたんです、その怪我」
一人窓際で雪見酒に杯を傾けていたルイトガルト・レーデル(ka6356)が呼ばれ振り向けば、そこには竹筒と有志による肴を乗せた皿を抱えた金目(ka6190)が立っていた。
「あぁ、ちょっとな。金目こそどうしてここに?」
「歪虚が醸したという奇怪な酒と、そこに集った人々と。このとき限りの味を、存分に愉しませて頂こうと思いまして」
酒との出会いも一期一会。でしょう? と笑う金目にルイトガルトも口角を上げて相席を許した。
しんしんと降る雪は美しい。だが吹く風は骨にまで響くような冷徹さを伴う。
簡素な掘っ立て小屋とはいえ、大きな囲炉裏を囲み、並ぶように設えられた竈は常に誰かの手によって火が焚かれている為、室内はかなり暖かい。
もともと金目は自分からグイグイと会話をするタイプではないし、ルイトガルトもそれは同じ。
ワイワイと盛り上がる囲炉裏側を見ながらそこで二人静かに傾ける熱燗は、五臓六腑に染み入るように溶けていく。
「燻製は如何ですか-?」
「ありがとうございます、では頂きます」
ハナお手製のチーズと干物の燻製を貰うと、金目はチーズを囓りながらまたちびりと呑む。
それを見てルイトガルトは少し首を傾げた。
「一期一会はいいのか?」
「もうあらかた挨拶は済ませましたから」
「そうか」
時折「飲んでいるか-!」と回ってくるダグマスや無雲と乾杯をし、「誰か、スパークリング飲めるヒトー!」という声に金目が挙手をして、じゃんけん大会で勝ち取った酒を二人で分け合ったり。
「余り賑やかな席は好きではないが、偶にはこう言う雰囲気に浸るのは悪くない」
ルイトガルトの言葉に金目は微笑って「それはよかった」と、空いていた杯に酌をした。
●LIKE&PRECIOUS
「仕事で酒が飲めるっつーのはいいな!」
リュンルース・アウイン(ka1694)にお酌してもらった酒をくいっと一息に飲み干すと、ソレル・ユークレース(ka1693)は幸せそうに息を吐いた。
「もう、ソルったらあまりはしゃいで潰れたりしないでね? 宴会でも飲み会でもないからね。……似たようなものかもしれないけど」
そう釘を刺しつつも、ソレルに注いで貰った酒をちびりちびりと舐めるように呑みながらほぅ、と熱い息を吐いた。
果実酒以外はあまり飲んだことがないリュンルースには竹酒は少々アルコールがキツイ。
それでもグイグイと呑んでいくソレルのペースに飲まれて、気がつけば杯を重ねてしまっていた。
どっ、と囲炉裏端にいるグループの楽しそうな笑い声が響いてきて、ソレルは何事かとそちらをじっと見る。
それを見てリュンルースはぽそっと呟いた。
「ソルって知らない人でもすぐに一緒に飲もうとするんだよね……。楽しく飲むのはいいこととは思うけど、私も一緒にいるって忘れてはいないよね……?」
酔いのせいか拗ねた様子のリュンルースにソレルは笑いながら首を振る。
「……いや、一応仕事だしな? やめとく。だから膨れるなって、な? ルース」
「別にいいよ」なんてむすっと膨れているリュンルースを見て、ソレルは「よいせっ」とリュンルースを膝の上に乗せた。
「わ、子どもじゃないんだから、ちょっと……! 一緒に居てくれるのは嬉しいけど、これ……恥ずかしいから……!」
じたばたともがくリュンルースに無理矢理杯を持たせると、こつん、と杯をぶつけて囁いた。
「他の所には行かねえから、お前が相手してくれよ?」
リュンルースは目を見張ってソレルを見た後、耳まで真っ赤に染め上げながら小さく頷いたのだった。
●口説き口説かれ
巡間 切那(ka0583)は自前で軽く焼いたパンに溶かしたチーズを絡めた物をアテにしながら、竹筒から直接酒を呷った。
リアルブルーで呑んだ味を思い出し、しみじみと懐かしさを噛み締める。
「支給品は缶ビールばっかだし、3000Gぽっちで飲めるんなら有り難い」
アテが洋風なのが心残りだが……ま、いいかと笑う。
「あー、凄い綺麗。すっごい美人さんがいる」
まさか自分じゃないだろうと切那が無視をしていると、隣に腰掛ける気配。
「なん……」
「俺はアーク。初対面だけど、同席させてもらおうかなと。その……刀が気になって」
「……は? 刀?」
傍らに置いていた絡繰刀「一文字」を掲げると、「そう、それ」とアーク・フォーサイス(ka6568)は嬉しそうに笑った。
「見せて下さい」という声に少し逡巡してから「抜くなよ」と釘を刺して渡した。
「わぁ……柄に魔導機械がついてる。あぁここの細工珍しい……はぁ……なんて色っぽい曲線……」
アークは素面のような顔をしているが、呼気からは隠せぬ酒の香り。
……いや、素面でうっそりと刀を見つめてべた褒めする男というのも怖いが。
「凄く丁寧に扱われているんだね……。良かったね、いい持ち主に巡り会えて」
変な坊主だな、と思いつつも追っ払う程迷惑を被っているわけでもない(ちょっと何やらくすぐったい気はするが)。結局、「やれやれ」と諦めて飲みを進めることにする。
暫く経って、唐突に切那の膝の上に頭が振ってきた。
「おい!?」
そこには大事そうに一文字を抱いて眠りこけているアーク。
「ったく、子守しに来たんじゃねーんだがな」
あまりにも幸せそうなその寝顔を見たら毒気を抜かれてしまって、「適当に寝かしとくか」とそのまま置いておくことにした。
……なお、目が覚めたアークはこの時の記憶が殆ど無くなっているのだが……それはまた後の話。
●POWDER SNOW
「準備できました!! 酒につまみ、しばらくテントから出る必要ないっすよ」
持参したつまみ類を広げ、ヴァージル・シャーマン(ka6585)が暖かなテントの出入口から雪景色を眺めて待っていたフローレンス・レインフォード(ka0443)を呼ぶ。
「ありがと」
では、と二人は静かに盃を掲げて乾杯する。
「こうした場所でお酒を飲むのも、なかなか良いものね」
フローレンスの言葉にヴァージルが「そうっすね」と頷き、ちびりちびりと舐めるように呑む。
二人の出逢いはフローレンスの物が壊れ、困っていたところを通りかかったヴァージルが修理したことに始まる。
以来、ヴァージルの人となりを気に入ったフローレンスは何か修理品は全てヴァージルに任せるようになった。
「いつもお世話になっているから、お礼も兼ねて」
そう言われ誘われれば悪い気はしない。実際には準備要員かもしれないが、女性相手の接待なればむしろ喜んで参加した。
「ふふっ、まだいけるわよね? ほら、もう1杯」
とっくりを傾けられて、「おっとっと」と空の杯で受ける。
「ふふふ、表面張力♪」
前屈みでなみなみと注いで、フローレンスは色っぽく笑う。これはもう、完全にほろ酔いモードで色々と無防備状態だ。
ヴァージルは目の前のたわわと、艶めかしく赤い唇を舐める舌使いにドキドキしつつも『あくまで接待!』と気を引き締め直す。
「そりゃ飲めますけどね。片付け誰がやると思ってるんすか」
わざと渋面を作りながら杯を呷る。
「あぁ、本当に、いい景色」
テントの入口を少し開け、外の雪景色を楽しみながら、二人きりの酒宴はお互いに寝落ちるまで続いたのだった。
●締めの一本
全員が撤収し、レイオスは酔い覚ましに帰りがけに神社へ初詣にやってきた。
「今年も気持ち良く酒が飲めるように」
そう高らかに願いを声に出すと、柏手を打とうとして……首をカクンと横に折った。
「……アレ? 拍手って何回だっけ?」
んー、んー、と首を捻った結果、ぽん、と手を打った。
「よぉーーーーーお!」
たんたんたん、たんたんたん、たんたんたんたんたんたんたん!
「よろしくおねがいしまぁーーーーーっす!」
応援団もびっくりな三三七拍子が高らかに境内に響いたのだった。
●その後の村では
ハンター達が全員引き上げた後を見て、村人達は唖然呆然愕然としていた。
何しろ、蔵から飛び出して生えていた竹が全て刈られ、溢れた酒の香りは凄かったが、既にもう一本の竹も生えていなかった。
仮設の掘っ立て小屋の中は、有志達により綺麗に掃除がされ、どんちゃん騒ぎがあったような形跡は纏められたゴミ(主に山のような竹筒)にしか見られない。
さらに1番村人達が驚いたのは神社の賽銭箱、及びご神体周囲にお供えされたお金や物資の数々だった。
その寄附金額総額104000G+食材+菓子+酒を加工して造られた食品類。
それはこの村の村人達が一生かかっても手に入れられないほどの金額で有り、村人達は膝を付いて涙を流して感謝した。
そして、知った。
『お酒は、お金になる』
この村が後に『杜氏の村』と呼ばれるようになるのは……まだまだ先の未来の話しである。
●リザルト~運試し結果~
【酔っ払い重体賽の目】
05、06、14、22、24、27、31、33、37、41、
48、66、68、69、77、87、92、96、97、99。
&プレイング中に『重体OK』と明記のあった人
「お酒ね、お酒よ、お酒だわぁぁ!! なんって素敵な光景なのかしらぁ」
次々と切り倒されて蔵から運び出される竹とその酒の雫を見てNon=Bee(ka1604)が歓声を上げる。
「仲間のみんなと酒盛りだよー。3000G飲み放題お得だねぇー。あ、族長ゴチでーす」
「昼間からタダ酒万歳じゃ…え? 3000G? お金取るじゃん?」
Hachi=Bee(ka2450)の言葉にGon=Bee(ka1587)はさぁっと顔色を蒼くする。
お金貸してー! と叫ぶGonにKuro=Bee(ka6360)が困ったように財布を取り出そうとするのをNonがすかさず止め、Hachiがうっかり転んだ拍子にGonが隠し持っていた財布を叩き落とす。
ぎゃいのぎゃいのと騒ぐ一族を後ろに、顎に人差し指を添えて考え込んでいたDon=Bee(ka1589)はカッと目を見開いた。
「冬……新春……宴……! つまりはUDONで御座るな!!」
「「「どうしてそうなった???」」」
「『ウドン』? ウドンとはなんデショウ? 少しだけ興味がありマス」
Kuroの言葉に稲妻で打たれたようなショックのポーズを取ったまま固まるDon。
「Kuro殿、まさか、食べたことが……?」
「あー……ハイ、ないデス」
何とかの叫びもびっくりな叫び声を上げたDonが、つかつかとKuroに対峙するとその細すぎる両肩を掴んだ。
酒の肴に
宴の締めに
小腹が空いた時に
UDONは常に其処に居てくれる掛け替えのない存在
それは世界の真理
神より授けられし恩寵
Donの高らかな演説(?)に、「はぁ……」と気のない返事を返すKuro。
その間にも他のBeeの一族は竹酒をいただきに蔵の中へ。
「あー、皆サン、待ってクダサイ……!」
「こうなったらUDON神の教えをKuro殿にもお教えすべく、UDONを打ち湯でるで御座るよ」
Kuroの細腕をむずんずと掴むと、Donは掘っ立て小屋の中へと入っていったのだった。
「酒といえば呑兵衛、つまりNon殿の出番じゃん! Non殿の! ちょっといいとこ見てみたい! じゃん!」
「よーし! GonちゃんからIKKIコールが入ったし飲み初めだもの、はっちゃん! 一番大きいの頂戴!」
「あいよーっ!!」
取り出したのは直径1mはありそうなでっかい盃。むしろどこから出した。
そこへHachiが根元から切り取った竹一本を豪快に縦に割って酒を流し込む。
「一気? それともまったり?」
「はっちゃん、女には戦わなきゃならない時があるの。Bee一族がアイドル、いっくわよぉ!」
決して良い子が真似をしてはいけない飲み方で一気に盃を傾けぐいぐいと飲み干していく。
「いぇーい! Non殿オットコじゃない、女前ー! じゃん!」
「おぅ、任しとけや!」
Non、酔っ払いにジョブチェンジ。素のワイルドさが出始めている。なお、この時点で辞めておけば良かったのに、さらにこの調子のままガンガン呑んだNonは二日酔い確定となる。
「おっと族長の分がまだだねー任せろばりばりー私の秘書魂が火を吹くぜー」
Hachiはもう一つ同じ大きさの盃を取り出し、だばーっと竹一本分を注ぎ込む。それを抱え……おっと、うっかり足が滑ったー!
「わーっ!」
「これはうっかりだね」
てへぺろ☆ と舌をチラ見せしながら頭をコツン、なんてやっているHacchi。
一方見事頭から酒を被ったGonは酒も滴るまるごとぜんらないい男である。(※Non視点)
「皆サン、あまり飲み過ぎないでクダサイね。……どうせ運ぶのは私なんデショウ?」
Donが麺を打ち始めたので蔵の方へやってきたKuroが既に酔っ払い集団となりつつある面々を見て困ったように言う。
「Kuroさんも飲め飲めー」
「……そこまで強い訳じゃあないデスが、お二人に着いていけるよう頑張りたいっがぼっ!?」
節で切り落としただけの竹をKuroの口に突っ込むHachi。
なお、彼女はまだ一滴も飲んでいない。見事に場酔いしているだけである。
幸いにして度数の低い酒だったので、それを何とか飲みきり、Kuroは首を傾げる。
「……あー、……美味しいのが飲みたいデスかね、いきなり辛いのとかトラウマになってしまいそうデス」
「こっちの竹が甘口多いみたいよ」
Hachiから受け取った竹筒の匂いを嗅ごうとして、唐突に漂ううどん出汁の良い匂い。
「うどん出来たよー」
「「「早くね???」」」
覚醒したDonからは芳醇な出汁の香りが漂う。
その匂いにつられて、Beeの一族はようやく蔵から小屋へと移動したのであった。
●Give me alcohol!
「あ、適当に米や野菜なんか売って戴けませんか。多少割高で構いませんので」
そう村人に交渉していた初月 賢四郎(ka1046)は隣家で同じように交渉している榊 兵庫(ka0010)と目が合った。
「おや」
「あれ」
結論から言えば、この村は米がなくなり野菜を対価に近隣の村から米を融通して貰っているような状態だったので、譲れる野菜も無かった。結局2人はさらに足を延ばし近隣の村から野菜を調達してきた。
また忘れがちだが、ハンターの持つゴールドはつまり金貨だ。片田舎では滅多に見る事の出来ない代物である。これを提供した事により、結果的にこの地域全体の活性化に繋がった、何て言うのはまた別の話。
玄間 北斗(ka5640)は三本の竹筒を持って神社へと向かう。
神社ではセルゲン(ka6612)が賽銭箱にじゃらじゃらとお金を突っ込み、お菓子を供えると柏手を打って……首を捻りつつ何やら祈っている。
そして振り返り、そこで初めて北斗の存在に気付いたらしく、目を見開いて驚いた後、ダッシュで走り去る。
「いい鬼さんなのだぁ~」
小さな賽銭箱はセルゲンのお賽銭(という名の寄附)で既に満杯だったので、その奥のご神体の傍に寄付金と枡を並べると、そこに酒を注ぐ。
(神前で、今年一年 村人達が安寧の中で過ごせますように。あと、ささやかだけど、村の復興の足しにして下さい)
北斗と入れ違いに参拝に来たのは米本 剛(ka0320)。
トンビは着たままだが、被っていた帽子は取ってご神体に向かう。
(本年の目標『金剛不壊』が達成されますよう、見守って下さい)
男らしい柏手が小さな境内に響き渡った。
参拝を終え、北斗が蔵へと帰ると、お猪口を片手に竹を真剣な眼差しで吟味している明王院 蔵人(ka5737)がいた。
「どうしたのだぁ~?」
「調理に合う酒を探している」
具体的に作りたい内容を聞いた北斗は超嗅覚ですんすんとかぎ分けながら、5本の竹を切り倒す。
さらにそれを節で切り分けつつ、なるべく溢れる酒も捨てずに済むよう大きめのコップに受ける。
「これとこれが甘口なのだぁ~。こっちは辛口だけど、酸味があって、こっちは純米酒でもちょっとアルコール低めでこっちは高めなのだぁ~」
差し出された竹筒から一口ずつ試飲し、北斗の嗅覚による見当がほぼ合っていることに驚嘆する。
「ではこれ全部を頂いていこう、助かった」
「頑張って欲しいのだぁ~」
蔵人は北斗から受け取った酒を使って調理に取りかかる。
調理と入っても蔵人のそれは酒の肴ではない。
持参した様々な調理道具と食材を使って、折角の酒を村の復興に生かせられるよう加工しようという考えだ。
程度の低い酒は、そのまま発酵を進めて酢にし、調味料として。
それ以外にはゼリー、たらこの酒漬けなど土産物として扱える食品に加工、販売して現金収入と出来るようにと量産していく。
「それは、あの、もしかして、酒饅頭、ですか……?」
羊谷 めい(ka0669)が蔵人が手元で餡を詰めている饅頭を見て目を輝かせた。
「あぁ、お嬢さんはリアルブルー人か」
「はい。あの、前に食べたことがあって、ふかふかでおいしかったのです」
だが、めい1人では作り方がわからなくて今回調理に挑戦するのは断念したのだ。
「そうか……じゃぁ、蒸し上がったら食べると良い」
「え、でも……」
「酒も飲めないのに、ここに来たお嬢さんに、ご褒美だ」
ぶっきらぼうな言い方だが、その言葉と目元は優しくて、めいは嬉しさを隠さずに破顔した。
「はい、ありがとうございます」
「あ、あんたはさっきの……」
「おやぁ~? さっきの鬼さんなのだぁ~? どうしたのだぁ~?」
北斗は超嗅覚で蔵中の酒をざっくりと利き酒し、竹を切り、竹筒を仕分け、参加者が希望する味に近い酒を勧めていた。
気分はすっかり蔵の番人である。
セルゲンは並べられた大量の竹筒を見て、驚きつつ問う。
「辛口大吟醸を探してる」
「それなら、ここから大体大吟醸で、辛口なら端の方なのだぁ~」
そう言われて、セルゲンは礼を言い手近な筒を3つ程取って小屋へと入って行った。
「【初代☆酔いどれ女王】な私が酒飲みイベントを見逃すなんてあり得ないですぅ。じゃんじゃんバリバリ飲みますよぅ」
星野 ハナ(ka5852)は腕まくりすると、簡易燻製を作り始める。
ダッチオーブンの中にチップとザラメ、それに触らないように網、その上に味付茹卵、練物、一口ハンバーグ、むしった干物等置き蓋はほんの少しずらして置いて下からダッチオーブンを火にかける。
ハナの手によりこれらが10~15分で見事な燻製へと早変わり。
「今回は日本酒に合うおつまみ限定ですからぁ、お酒もつまみもガンガン進みますよぅ。みなさんもどうぞですぅ?」
純米酒の香りを楽しみつつ、一人静かに飲んでいた春陰(ka4989)の元にも燻製が回って来て、春陰は丁寧に礼を言うと、燻玉を一つ皿に取った。
この場で生まれる喧噪もすべてが酒宴。場の雰囲気ごと味わいながら米酒を口へ運び、ちびり。
「竹の香り爽やかですね。とても優しい、少し早い春風のような……」
軽い口当たりの酒に当たれたことが嬉しくて、自然とまなじりが下がる。
「あはは、楽しいねぇ~♪」
無雲(ka6677)がニコニコと笑いながら酌をして周り、セルゲンを見つけて飛び掛かった。
「あぁ、無雲か」
「どんどん呑め呑め~、あ、そこのおねーさんも!」
「我か? 良いぞ、のまのまいえいじゃ!」
無雲に注がれ、注ぎ返し、通りかかったヴィルマ・ネーベル(ka2549)を巻き込み3人は米酒を喉へと流し込み楽しげに笑い合う。
……その後、楽しく飲み歩く無雲と別れたセルゲンは好みの辛口大吟醸を求めてた結果ひっくり返るハメになるのだが、それはそれ。
その横では、ダグマス(ka6527)と碓葉(ka3559)が盃を交わし同時に空杯を机の上に置くとニヤリと笑い合う。
「見た目にそぐわぬ良い飲みっぷりじゃ!」
「ダグマスは見た目通り良い飲みっぷりじゃの!」
2人は喉の奥で笑った後、幾つもの竹筒を並べて少しずつ飲み比べていく。
「大吟醸、純米吟醸、純米……おやこれは俗にいう『すぱぁくりんぐ』というものかぇ? ふっふっふ……余が勝つかあるこぉるが勝つか……見物じゃ」
「わははは! 新年酒始めじゃ! 飲んで飲んで呑みまくるぞ!」
碓葉は様々な酒の味を楽しむべく次から次へと新しい竹筒に手を伸ばし、ダグマスは振る舞われた食事やおつまみをつまみながら陽気に笑って周囲の人々と乾杯をして回るのだった。
「おーぅ、寒いねぇ」
と、シャツにビキニ水着姿という季節感が迷子な格好のハスキー(ka2447)はちろりからとっくりへと酒を注ぐと背を丸めてフラフラと空いている席に座った。
「ここぉ、いーかい?」
「あぁ、構わない」
少し驚いたように目を見張った鞍馬 真(ka5819)だが、ハスキーがとっくりを掲げたのを見て、杯を空け酌を受ける。
「いいねぇ」
「どれ、私が注ごう」
真が口元を持ってハスキーの杯へ静かに注ぐ。そして2人は軽くお猪口を上げて乾杯した。
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は1人雉鍋とおせちを広げていた。
「同じ竹でも味が変わるなんて面白いことになってるな。こいつは楽しめそうだ。……お、このキレのある飲み口、雉の脂を流してサッパリさせてくれるな」
雉鍋を突きながら、別の筒を取って空の杯に注ぐ。
「……ん、こっちの甘口はだし巻きや栗きんとんにピッタリだ」
もう一度注いでだし巻きを咀嚼した後、くいっと……うん、うまい。
そんなレイオスに降り注ぐ視線。
無雲である。
「……あー、魚の干物しか残ってないが炙って食う?」
「食うーっ!」
喜んで隣に座ると干物を分けて貰う。代わりに無雲は持ってきたスパークリングをレイオスの杯に注ぐ。
「……これ、干物には合わなくね?」
「んぅ~……お~い~し~い~♪」
「オレは干物には辛口がいいなぁ」
幸せそうな無雲を見て、レイオスは「ま、いっか」と苦笑して杯を空けると、手酌ですっかり醒めてしまったぬる燗の入っていたとっくりを傾けた。
「まさかこちらの世界で本格的な日本酒を飲めるとは思わなかった」
兵庫の言葉に「まったくですな」と剛の声が返る。
「これも日頃の行いに対する報いかも、な。せっかくの機会だ。存分に堪能させて貰おう」
「えぇ、折角の機会です、思う存分に酒を飲みましょう」
「この出逢いに」
賢四郎の声に囲炉裏端に陣取った3人は杯を掲げ、一気に呷った。
兵庫は純米酒には干物、というこだわりを披露する中、剛は持参したおせちを広げ、賢四郎は手に入れた野菜と持参した肉で鍋をこしらえて皆に振る舞っていた。
「鍋は良いですな、締めに雑炊やうどんを入れても美味い」
「でも正月に日本酒におせちがあるのはリアルブルーっぽくていいな」
「そして、キンと冷えた冷酒というのもオツでしょう」
「あぁ、生酒か、いいな」
スパーリングに次いでレアな生酒を北斗から受け取った賢四郎が2人に酌をし、賢四郎は持参したミネラルウォーターで口直しをしつつ、男3人穏やかに楽しく酒を楽しんだのだった。
「待て! それ以上はいけない!!」
「だぁってぇ、あつぅい」
「熱いなら外に行こう! 私が付き合うから!!」
何やら騒がしいと窓際に目を向けると、上下共にビキニ姿になったハスキー(しかも長い髪は器用にお団子に結い上げられて、白いうなじが眩しい)と、彼女の来ていたシャツを手に慌てている真がいた。
「えー、ほんとぉに~? 真、付き合ってくれるのかぁ~?」
いつもの気怠げな雰囲気にアルコールのせいで妙な色気が醸し出されているが、真はそれには惑わされない。
「あぁ、とにかく1回外に出よう。そうすれば涼しくなるから」
「……あの、お水、持ってきました」
騒ぎを聞きつけためいが水の入ったコップを真に渡す。
「有り難う。よし、ハスキー、これは美味いぞ、呑んでおけ」
「やったぁ、お酒~♪ んくんくっ……あんまりお酒っぽくない……水みたい」
……いえ、水そのものです、とは言えず、めいは困惑した表情で真を見る。
「とりあえず、外で! 雪見酒するぞ!」
「はぁ~い」
雪見酒と聞いて、素足のまま外へと飛び出していったハスキーを追って真も外へと飛び出す。
……その後、寒さで我を取り戻したハスキーが再び小屋へと戻り、シャツを羽織って酒を呑み、再び脱ぎだして真に連れ出されて……というやりとりを5回以上繰り返すことになるが、その辺りは割愛する。
春陰は途方に暮れていた。
酒の流れに任せて何故ハンターとして戦うのかを聞いてみたいと思っていたのだが、1人静かに酒を楽しんでいたら予想以上に早い段階で皆が皆酔っ払いになってしまっていた。
「そんなもん、美味い酒を呑むために決まっておるじゃろー!」
「お金が好きなのじゃ! あと、老い先短い人生、旨いものを食らって生きていくのもまた一興じゃ」
……それもまた一面なのだろうが、春陰としてはそれ以外の答えも聞いてみたかった。
「どうしてあなたはここに?」
1人、お酒も飲まずに酔い潰れた者の介抱に奔走していためいを捕まえて春陰は問うた。
「わたしにもなにかできないかな、と」
少し気恥ずかしそうにそうめいは答えると、ずだーんと誰かがすっ転んだ音に顔を上げて「すみません」と断ると走って行ってしまった。
それを見送って、春陰は小さく微笑むと「俺もまだまだですね」と独りごちて酒を呷った。
●【華水来】
「……よもや、日本酒を此方の世界で飲める機会がくるとは、な」
オウカ・レンヴォルト(ka0301)の呟きに、赤い振袖姿のイレーヌ(ka1372)は付き合う前にもこんな風に飲み比べをしたことがあったな、と懐かしく思い出しながら新しい竹筒を取り出し酌をする。
「!」
一口飲んだオウカが盛大にむせ、慌ててイレーヌが背をさする。
「……これならいけるんじゃないか?」
お酒に強くないという箍崎 来流未(ka2219)に差し出されたのは、今、オウカが口を付けた酒が入っていた竹筒。
最初に飲んでいたのが大吟醸のどっしり系辛口だったのに、次に注がれたのがアルコールの殆どしない超甘口ではオウカの舌も混乱するというものだ。
「あ、ホントです、美味しい……♪」
恐る恐る口を付けた来流未は嬉しそうに笑う。それを見た二人も微笑み返す。
……そう、この時はこの後こんな事になるなんて思っていなかったのだ。
「あつくにゃいです~?」
随分と杯が進んだ頃。イレーヌにしなだれかかって甘えていた来流未がむくりと起き上がると、ばっさばっさとロングスカートで仰ぎ始める。
「これ、やめないか」
イレーヌがその手を取って止めるが、むぅ、とむくれた来流未は、イレーヌの豪奢な帯に手をかけた。
「ねーさんもっ!」
……一応世間の皆様のために断っておくと、普通の着物はちょいと帯を引っ張ったぐらいでは解けない。
だが、その着付けを間近で見ていた来流未は、どういう順番で着付けていたかを覚えていた。
「やめ、ちょ、くるみっ!?」
帯だけでなく腰紐まで解かれては溜まらない。イレーヌは慌てて前を押さえてしゃがみ込んだ。
「くるみ、ぬぎまぁっす♪」
「くるみ、待て……っぷ」
オウカの顔面に押しつけられたのは今で来流未が来ていたニット。視線を前に戻すとクルミがブラジャーと下はショーツ一枚に靴下という何とも破廉恥な格好になっていた。
イレーヌが素早く来流未のコートをオウカに投げ、オウカがそれを前から着せにかかる……が。
「兄さんったら……ダ・イ・タ・ン♪」
がばりと抱擁されてオウカは足を滑らせて後ろ向きにひっくり返った。
「オ~ウ~カぁ~?」
「待て、イレーヌ、これは違う、事故で」
「ずるい!」
「は?」
「私もー!」
オウカと来流未の上にイレーヌがダイヴ。
そういえば、ここに来る前に寄った神社のおみくじに『末吉:女難の相あり』とあったな……と思い出しながら後頭部を強打したオウカはそのまま意識を手放し。
そんなオウカの体温に抱かれたイレーヌと来流未も酔いが極まってそのまますやすやと眠りに就いたのだった。
●縁
丑(ka4498)は酒宴の喧噪を抜けて、神社へと足を運んでいた。
しゃくしゃくと雪を踏む感覚は酒が入って浮ついた心をさらに愉快にする。
神社のご神体周りには様々な物が――現金だったり、食べ物だったり――山のように置かれているが、丑もまた白い懐紙の包みを懐から出すと、そっと供えた。
「雪が溶けて消えても、俺は傍に居ますよ。……なんてね」
「ほぅ、それは心強いのぅ」
返ってくると思っていなかった声に驚いて振り向くと、蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)が静かに微笑み、丑の横に立つと蜜鈴は持ち込んだ根菜類を神社へ供えて手を合わせた。
「おんしは妾の神では無いが…この村の者達にとっては愛しき神じゃ。おんしの民が、健やかに暮らせる様にと……願おうて」
蜜鈴が顔を上げたとき、さぁっと雲が切れ陽が射した。
陽の光は一瞬にして温もりを注ぎ、降る雪は空中でキラキラと煌めき、周囲一面が白く輝いた。
「ほぉ、これは」
「あぁ、美しいですね」
暫し、声を失って光景に見とれていたが、また陽は厚い雲に隠れ、輝きは失われると寒風が吹いた。
「まるで木々にダイヤが実った様だったが……一瞬であったな」
2人は顔を見合わせると「戻りますか」と酒宴へと戻っていく。
――丑の置いた懐紙の中では本物のダイヤモンドが輝いていた。
「お久し振りに鵤さんとご一緒出来るなんてとっても嬉しいです~♪ あっ! これもとっても美味しそうですよぉ? 鵤さんもどうぞ~♪」
「っとっと。目指せ全味制覇ってかぁ? やーんおっさん超しあわせぇー」
桐壱(ka1503)と差しつ差されつしながら鵤(ka3319)もすいすいと杯を空けていく。
「辛口も甘口もボクにとっては美味しい命のお水です~♪」
「あ、おっさんこれ好みだわー、これと似たヤツがいいわー」
「わかりました-、貰って来ますねー」
鵤に頼まれれば桐壱は笑顔で蔵へと走って行く。
「おー、鵤発見じゃー! 何、オヒトリサマかー? 寂しいのぅ」
そのタイミングでヴィルマに見つかり声を掛けられる。
「いやいや、今、酒取りに行ってくれてるから」
ヒラヒラと手を振りつつ、ヴィルマが注いでくれた酒を呑む。
「……甘っ」
今まで辛口を飲んでいた鵤には味醂かと思う程の甘さに思わず眉を顰めた。
「何じゃ、鵤、1人か?」
そこに様々な料理を抱えた蜜鈴と同じく皿を持った丑が近寄る。
「お久しぶりです」
「おー、蜜鈴ちゃんに丑君じゃないの。久しぶり」
「おぉ、美味そうじゃの」
「よかったら召し上がれ」
蜜鈴の手料理をつまみ、ヴィルマが目を輝かせる。
「美味しい……!」
「あら、蜜鈴ちゃんったら若いのに料理美味いのね。いいお嫁さんになれるんじゃない?」
「ママー、おかわりー」
「誰がママか」
蜜鈴が苦笑しつつ丑を見て、丑もまた微笑みながら皿をヴィルマの前に置いた。
「鵤さーん、貰って来たよー!」
「おや、お相手が帰ってきたようじゃの、では妾達は下がろうか」
じゃぁの、と蜜鈴と丑が去り、帰ってきた桐壱は首を傾げる。
「お友達?」
「そ。前に依頼で一緒になったの」
「じゃぁ、我も行くとするかの」
「あら、そーぉ……って、食べて行けよ!」
「我、お腹いっぱいじゃ」
そう言って、ふらりふらりと去って行くヴィルマを鵤と桐壱は見送る。
「……大丈夫でしょうかぁ。少し心配ですねぇ……」
「まー大丈夫でしょ。さ、ガンガン回していこうじゃないのぉ」
「はい! あ、これ、さっきのよりちょっと濃くていい感じでしたよ~」
桐壱は元気よく応え、鵤の杯に竹筒を傾ける。
実のところ鵤はどれほど飲んでも酔えない体質なのだが、場の空気と楽しそうな桐壱の表情に楽しく酔っ払いの気分を満喫したのだった。
蜜鈴と丑は窓際に席を確保すると、静かに飲み始めた。
緋盃を満たす酒に空を映し、降る雪を眺め。
賑わう皆を見渡し、調子の外れた歌を聞き、踊りを眺め。
「郷が健在であれば斯様な様であったか」
「何か?」
静かな独り言を聞き逃した丑に蜜鈴は「いや」と微笑み盃に口付ける。
その後、うわばみの蜜鈴のペースで飲み明かした丑は見事な二日酔いとなるのだが、この時はまだ知るよしも無い。
●アイと兎と月とイロ
「酒が飲める飲めるぞー酒が飲めるぞー」
玉兎 小夜(ka6009)は歌いながら刀で竹を切ると、席を整えていた遠藤・恵(ka3940)に後ろから抱きついた。
「恵ぃ、お酌お願いー?」
「はい、旦那様。……竹からお酒ですかー、輝夜姫ですね」
竹筒の節を切り抜くと、小夜の持つ杯に中身を注いだ。
「恵も」
「……じゃぁ、少しだけ」
お酒に弱いという自覚はある恵は、それでも小夜の誘いは断らない。
「あれー、うさぎさんに遠藤さん!」
声に振り返ればそこには既知である葛音 水月(ka1895)と十色 乃梛(ka5902)が立っていた。
「これも何かの縁ですね」
「二人はお酒飲めるのー?」
「もちろん。じゃ、一緒に飲んじゃいましょー」
そんなわけで、4人は相席して飲むことにした。
「これよかったらどうぞー。出来はそこそこ自信あり、ですよ?」
水月が弁当箱を取り出せば、中には様々なおつまみ類。
これを肴に盛り上がる。
「ふにゃぁ……小夜がいっぱい……小夜、大好き♪」
「ふふふ、恵は可愛いなぁ」
最初に酔っ払ったのは恵。とろんとした色っぽい表情で小夜の顔にぺたぺた触ったり頬を摺り寄せたり。
それを目の前で見た水月はドキマギしながら「あははー、ラブラブですねー」なんてお酒をぐびぐび、おつまみぱくぱく。
「ねー、十色さん……十色さん?」
横を見れば、乃梛は「熱い……」なんて言いながらスカートは太腿まで捲り上がり、胸元をはだけさせ、手団扇で扇いでいる。
なお、乃梛。外見年齢こそガッツリ未成年だが立派に成人済みな女性である。とってもスレンダーだけど!
「ちょ、十色さん」
「あ、それちょーだい♪」
十色は水月のお箸からこんにゃくを奪おうとして身を寄せる。慌てた水月の箸からこんにゃくが滑り落ち……乃梛の太腿を滑って落ちた。
「ひゃぁん♪」
びくんと身体を跳ねさせて、こんにゃくの滑る感触にあられもない声を上げる乃梛。
そんな二人を見て、自分の腕の中で寝入ってしまった恵を見て、小夜もそっと席を立った。
「っと」
酔うほど飲んだつもりはなかったが、どうやら頭より先に足腰に来たらしい。
そういえば恵に勧められるままにすいすい飲んでしまった事を思い出す。
「あれ~? うさぎさんもどこ行くの~?」
「あぁ、ちょっと酔いが回ってしまったから」
「吐いたら呑めるぞ~ぉ!」
帰ろうかと、という言葉を小夜が紡ぐことは出来なかった。
何故なら、乃梛による聖導士的応急手当(物理)が小夜に炸裂したからである。
小夜は膝から崩れ落ち床に質量を伴う水たまりを形成。
「あ~うさぎさん……大丈夫ですかぁ~?」
返事はない。水月は通りかかっためいの力を借りつつそのまま意識を失ってしまった小夜を引き上げて、すやすやと眠っている恵の横に寝かせてあげた。
「水月さん……どこ、行くの~?」
水月の腕に押しつけられる乃梛の胸(ただしスレンダー)。
「もっと……ね?」
耳元にかかる熱い吐息に思わず水月はごくりと生唾を飲み込んで――
なお、この後何とか自力で目覚めた小夜はまさか自分が“記憶を失うほどに酔い潰れたこと”に衝撃を受け、まるで腹部にストライクブロウ(LV10)を喰らった様な痛みを抱えつつも恵を這々の体でお持ち帰りし、水月は乃梛が酔い潰れて寝てしまうまで相手をさせられたのであった。
●染み入るように
「あれ? ルイトガルトさん? どうしたんです、その怪我」
一人窓際で雪見酒に杯を傾けていたルイトガルト・レーデル(ka6356)が呼ばれ振り向けば、そこには竹筒と有志による肴を乗せた皿を抱えた金目(ka6190)が立っていた。
「あぁ、ちょっとな。金目こそどうしてここに?」
「歪虚が醸したという奇怪な酒と、そこに集った人々と。このとき限りの味を、存分に愉しませて頂こうと思いまして」
酒との出会いも一期一会。でしょう? と笑う金目にルイトガルトも口角を上げて相席を許した。
しんしんと降る雪は美しい。だが吹く風は骨にまで響くような冷徹さを伴う。
簡素な掘っ立て小屋とはいえ、大きな囲炉裏を囲み、並ぶように設えられた竈は常に誰かの手によって火が焚かれている為、室内はかなり暖かい。
もともと金目は自分からグイグイと会話をするタイプではないし、ルイトガルトもそれは同じ。
ワイワイと盛り上がる囲炉裏側を見ながらそこで二人静かに傾ける熱燗は、五臓六腑に染み入るように溶けていく。
「燻製は如何ですか-?」
「ありがとうございます、では頂きます」
ハナお手製のチーズと干物の燻製を貰うと、金目はチーズを囓りながらまたちびりと呑む。
それを見てルイトガルトは少し首を傾げた。
「一期一会はいいのか?」
「もうあらかた挨拶は済ませましたから」
「そうか」
時折「飲んでいるか-!」と回ってくるダグマスや無雲と乾杯をし、「誰か、スパークリング飲めるヒトー!」という声に金目が挙手をして、じゃんけん大会で勝ち取った酒を二人で分け合ったり。
「余り賑やかな席は好きではないが、偶にはこう言う雰囲気に浸るのは悪くない」
ルイトガルトの言葉に金目は微笑って「それはよかった」と、空いていた杯に酌をした。
●LIKE&PRECIOUS
「仕事で酒が飲めるっつーのはいいな!」
リュンルース・アウイン(ka1694)にお酌してもらった酒をくいっと一息に飲み干すと、ソレル・ユークレース(ka1693)は幸せそうに息を吐いた。
「もう、ソルったらあまりはしゃいで潰れたりしないでね? 宴会でも飲み会でもないからね。……似たようなものかもしれないけど」
そう釘を刺しつつも、ソレルに注いで貰った酒をちびりちびりと舐めるように呑みながらほぅ、と熱い息を吐いた。
果実酒以外はあまり飲んだことがないリュンルースには竹酒は少々アルコールがキツイ。
それでもグイグイと呑んでいくソレルのペースに飲まれて、気がつけば杯を重ねてしまっていた。
どっ、と囲炉裏端にいるグループの楽しそうな笑い声が響いてきて、ソレルは何事かとそちらをじっと見る。
それを見てリュンルースはぽそっと呟いた。
「ソルって知らない人でもすぐに一緒に飲もうとするんだよね……。楽しく飲むのはいいこととは思うけど、私も一緒にいるって忘れてはいないよね……?」
酔いのせいか拗ねた様子のリュンルースにソレルは笑いながら首を振る。
「……いや、一応仕事だしな? やめとく。だから膨れるなって、な? ルース」
「別にいいよ」なんてむすっと膨れているリュンルースを見て、ソレルは「よいせっ」とリュンルースを膝の上に乗せた。
「わ、子どもじゃないんだから、ちょっと……! 一緒に居てくれるのは嬉しいけど、これ……恥ずかしいから……!」
じたばたともがくリュンルースに無理矢理杯を持たせると、こつん、と杯をぶつけて囁いた。
「他の所には行かねえから、お前が相手してくれよ?」
リュンルースは目を見張ってソレルを見た後、耳まで真っ赤に染め上げながら小さく頷いたのだった。
●口説き口説かれ
巡間 切那(ka0583)は自前で軽く焼いたパンに溶かしたチーズを絡めた物をアテにしながら、竹筒から直接酒を呷った。
リアルブルーで呑んだ味を思い出し、しみじみと懐かしさを噛み締める。
「支給品は缶ビールばっかだし、3000Gぽっちで飲めるんなら有り難い」
アテが洋風なのが心残りだが……ま、いいかと笑う。
「あー、凄い綺麗。すっごい美人さんがいる」
まさか自分じゃないだろうと切那が無視をしていると、隣に腰掛ける気配。
「なん……」
「俺はアーク。初対面だけど、同席させてもらおうかなと。その……刀が気になって」
「……は? 刀?」
傍らに置いていた絡繰刀「一文字」を掲げると、「そう、それ」とアーク・フォーサイス(ka6568)は嬉しそうに笑った。
「見せて下さい」という声に少し逡巡してから「抜くなよ」と釘を刺して渡した。
「わぁ……柄に魔導機械がついてる。あぁここの細工珍しい……はぁ……なんて色っぽい曲線……」
アークは素面のような顔をしているが、呼気からは隠せぬ酒の香り。
……いや、素面でうっそりと刀を見つめてべた褒めする男というのも怖いが。
「凄く丁寧に扱われているんだね……。良かったね、いい持ち主に巡り会えて」
変な坊主だな、と思いつつも追っ払う程迷惑を被っているわけでもない(ちょっと何やらくすぐったい気はするが)。結局、「やれやれ」と諦めて飲みを進めることにする。
暫く経って、唐突に切那の膝の上に頭が振ってきた。
「おい!?」
そこには大事そうに一文字を抱いて眠りこけているアーク。
「ったく、子守しに来たんじゃねーんだがな」
あまりにも幸せそうなその寝顔を見たら毒気を抜かれてしまって、「適当に寝かしとくか」とそのまま置いておくことにした。
……なお、目が覚めたアークはこの時の記憶が殆ど無くなっているのだが……それはまた後の話。
●POWDER SNOW
「準備できました!! 酒につまみ、しばらくテントから出る必要ないっすよ」
持参したつまみ類を広げ、ヴァージル・シャーマン(ka6585)が暖かなテントの出入口から雪景色を眺めて待っていたフローレンス・レインフォード(ka0443)を呼ぶ。
「ありがと」
では、と二人は静かに盃を掲げて乾杯する。
「こうした場所でお酒を飲むのも、なかなか良いものね」
フローレンスの言葉にヴァージルが「そうっすね」と頷き、ちびりちびりと舐めるように呑む。
二人の出逢いはフローレンスの物が壊れ、困っていたところを通りかかったヴァージルが修理したことに始まる。
以来、ヴァージルの人となりを気に入ったフローレンスは何か修理品は全てヴァージルに任せるようになった。
「いつもお世話になっているから、お礼も兼ねて」
そう言われ誘われれば悪い気はしない。実際には準備要員かもしれないが、女性相手の接待なればむしろ喜んで参加した。
「ふふっ、まだいけるわよね? ほら、もう1杯」
とっくりを傾けられて、「おっとっと」と空の杯で受ける。
「ふふふ、表面張力♪」
前屈みでなみなみと注いで、フローレンスは色っぽく笑う。これはもう、完全にほろ酔いモードで色々と無防備状態だ。
ヴァージルは目の前のたわわと、艶めかしく赤い唇を舐める舌使いにドキドキしつつも『あくまで接待!』と気を引き締め直す。
「そりゃ飲めますけどね。片付け誰がやると思ってるんすか」
わざと渋面を作りながら杯を呷る。
「あぁ、本当に、いい景色」
テントの入口を少し開け、外の雪景色を楽しみながら、二人きりの酒宴はお互いに寝落ちるまで続いたのだった。
●締めの一本
全員が撤収し、レイオスは酔い覚ましに帰りがけに神社へ初詣にやってきた。
「今年も気持ち良く酒が飲めるように」
そう高らかに願いを声に出すと、柏手を打とうとして……首をカクンと横に折った。
「……アレ? 拍手って何回だっけ?」
んー、んー、と首を捻った結果、ぽん、と手を打った。
「よぉーーーーーお!」
たんたんたん、たんたんたん、たんたんたんたんたんたんたん!
「よろしくおねがいしまぁーーーーーっす!」
応援団もびっくりな三三七拍子が高らかに境内に響いたのだった。
●その後の村では
ハンター達が全員引き上げた後を見て、村人達は唖然呆然愕然としていた。
何しろ、蔵から飛び出して生えていた竹が全て刈られ、溢れた酒の香りは凄かったが、既にもう一本の竹も生えていなかった。
仮設の掘っ立て小屋の中は、有志達により綺麗に掃除がされ、どんちゃん騒ぎがあったような形跡は纏められたゴミ(主に山のような竹筒)にしか見られない。
さらに1番村人達が驚いたのは神社の賽銭箱、及びご神体周囲にお供えされたお金や物資の数々だった。
その寄附金額総額104000G+食材+菓子+酒を加工して造られた食品類。
それはこの村の村人達が一生かかっても手に入れられないほどの金額で有り、村人達は膝を付いて涙を流して感謝した。
そして、知った。
『お酒は、お金になる』
この村が後に『杜氏の村』と呼ばれるようになるのは……まだまだ先の未来の話しである。
●リザルト~運試し結果~
【酔っ払い重体賽の目】
05、06、14、22、24、27、31、33、37、41、
48、66、68、69、77、87、92、96、97、99。
&プレイング中に『重体OK』と明記のあった人
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 13人 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/01/07 01:49:31 |