【初夢】異星人カンベアノ

マスター:西尾厚哉

シナリオ形態
イベント
難易度
易しい
オプション
  • duplication
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/01/03 19:00
完成日
2017/01/16 12:55

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「観光でいらっしゃいますか?」
 聞かれてごそごそと足の間を探り、急いで額にぽつりと翻訳機をつけた。
「缶コーヒーハ、持ッテ来テオリマセン」
「いえ、ええと、観光……」
 相手はひそひそと『観光って別の言葉で何て言うの』と尋ねている。
 これはしまった、言語を間違えたか。付け替えねば。ぽち。
「ご旅行でいらっしゃいますね?」
「イエース、旅行、オーケー、カモーン、ウエルカム」
「かしこまりました。良い一日を」
 ハンコを押してもらった。
「あ、それとですね、あの、一応、何かお召しになられたほうがよろしいかと」
 なにっ?
「飯食ウアルカ?」
「いえ、あの、そうではなくて、こちらでは全裸ですとちょっと、その……」
「全裸、ノー、全裸、ウチラ、コレ、普通」
「全裸、イエス、それ、全裸」
 なんて面倒臭いんだろう。
 この星はどうして皮膚の上にまた布を被せねばならないのだ。


「仕方ないですねえ。私らはちょいと何かが当たるとすぐに出血しちゃうんですよ。着衣は保護のためもあるんです」
 良かった、今度はちゃんと会話できそうだ。
 助けを得ながら、この星の着衣を身に着ける。
「旦那さん、どちらから?」
「ヤシンシウツクコイテから」
「はあ……まあ、遠くからいらしたんですね。そちらはあれですか、季節とかはないんですか? いくら皮膚が丈夫でも困ることもあるでしょう」
「寒暖差ナイネン」
「まあねえ、旦那さんはボクらみたいに服着ないとなんか、こうスース―するってか、ぶらぶらするもんもないんで、それで着衣の習慣がないのかもしれないですけどねえ」
「スース―ぶらぶら? ナニそれ」
「旦那さん、そこは文章で書くわけにいかないんです」
 はい?
「ま、いいじゃないですか。はい、どうでしょう、これで」
 姿が映る壁の前に立たせてもらった。
「……」
「なかなか、男前になりましたよ」
「オトコマエ?」
「かっこいいってことです」
 なるほど。こういうのをかっこいいというのか。
 それにしても苦しいなあ。
「あ、それ、ネクタイですから。慣れないとアレですね。ノーネクタイにしますか」
「ねくたい」
「取りましょうね。はいっと……では、全部で20万Gです」
 高えな、おい?!
 俺をモノ知らぬ観光客だと思ってぼったくってないか?!

 
 自己紹介が遅くなった。
 俺はカンベアノ。
 ヤシンシウツクコイテというところから来た。
 まあ、言うなれば、この星ではない別の星ということだ。
 一応、観光、ということになっているが、実は俺には大事な任務がある。
 それは俺が持って来たこのガイドブックだ。
 ヤシンシウツクコイテとこの星の交流ができて、この星で言うところのはや十数年。
 文化交流と経済潤沢化を目指して始まった星交だが、唯一詳しいと言われている俺の組織が作ったこのガイドブックが最近、事実に即していないと苦情を受けることが多くなった。
 察するに、取材をした奴がきちんとした情報を仕入れず、自らの感覚や判断のみで作成したからだと思える。
 例えば、今回のように入星するために着衣が必要だという情報すらない。
 スース―ぶらぶらも何のことか分からない。
 オトコマエ然り。
 こういうことはひとつひとつきちんと調べなければいけないのだ。
 この「ホテル」とかいう場所に辿り着くまでにも妙なことはいろいろあった。
 なぜ、この星の者は、あっちこっちで平べったくて小さいボードを眺めているのか。
 この小さなボタンが並んだ細長いものはなんだ。
 わっ!
 モニターがついたぞ!
 なんて古風なんだ!
 これ何。うわっ、あっちちちち……熱い液体が出た!
 しかし腹減った……どこに行こう。
 らあめん、てなんだ。
 いた……いた、りあん? 痛いのか?
 なんで痛い思いをして飯を食わねばならん。
 ぐぎゅるるる……
 ええと……『おーこ……まりの……ことは……0を押してください……』
 押してみよう。
 ……
 もう一回押してみよう。
 ……
 何にもならない。仕方ないなあ。
 さっきの人のところに行くか。

「腹減りータ。ドウスレバイイ?」
「ルームサービスをお取りになりますか? こちらにメニューが」
 うわっ、高っ!
 でもまあ、いいか。
「ふぉあぐら……これクレ」
「承知いたしました。お部屋にお運びいたしますのでお待ちください」
 部屋に運んでくれるのか。それはいいかも。
「お客様、この星は初めてでいらっしゃいますか?」
「ウン、ソウ。案内、ヒト、イル?」
「生憎季節柄ガイドは出払っておりまして。ガイドという存在ではございませんが、ハンターさんなら助けをしてくださるかもしれませんよ?」
「狩人?」
「ああ、いえ、そうではありませんが、お困りでしたらこちらからお話を繋ぎますが」
「お金、たくさん?」
「いえ、それはお客様のご予算で」
 いい話だ、それ乗った。
「ジャ、頼む」
「承知いたしました。では明日8時ちょうどに参りますのでその頃こちらまで降りて来てくださいませ」
 8時ちょうどか。よし。
「8ジ、チョウドノぉ~、狩人サーンガ~」
 なんかそんな鼻歌まじりで部屋に戻った。
 アレ?
 どうしてドアがあかないのーーーー!?

リプレイ本文

 マリィア・バルデス(ka5848)と星野 ハナ(ka5852)は約束通り8時ジャストにホテルに迎えに来た。
 だからカンベアノは嬉しくて例の鼻歌交じりに意気揚々とフロントに降りて来たのだが
「おっ、お客様っ、ち、ちょっと……」
「……!」
 何やら慌てた声に振り返り、マリィアが近くの客が持っていたコートをふわりと投げた。
 あれ? と頭に落ちたコートにカンベアノが立ち止ったところでホテルマンが持っていたシーツで彼をぐるぐる巻きにする。
「失礼いたしました」
 シーツと入れ替わりに落ちたコートを着地前に拾い、マリィアは埃を払って客に丁重に返す。
「傷、しみがございましたらホテルまでご連絡を。あの異星人が弁償いたします」
「い、いえ、大丈夫だと思います……」
 少し呆気にとられつつ引き攣った笑いで答える客は、恐らくハンターの動きを見たことがなかったのだろう。
「狩人、狩人、ナニアッタ」
 何あった、じゃねーよ、と思いつつ、シーツから顔だけ出しているカンベアノを再び引き摺るようにして部屋に連れ戻った。

 30分後、「早く服着ろ」と急かしてホテルをあとにする。
「この星では定められた場所以外で服を着用しないのは反社会的とか犯罪行為とか見做されるのよ。逮捕されて旅行できなくなったらつまらないでしょう」
 マリィアが呆れたように首を振る。
「スミマセーン。ウッカリぽっくり、狩人サン、会える、嬉しかったネ、今も嬉しいネ、狩人サン、とても美シイ。ビューティフル、サンキューベリマッチ」
「お礼を言われるほどでもぉ」
 星野がいやぁんと顔を赤らめて身をよじる。
「でも、タイホ、なんですか?」
 走り去る車をめずらしそうに見送りながらカンベアノは尋ねる。
「悪いことしたから、体を拘束されちゃうことですよぉ。カンベさんの星ではそういうの、ないですかぁ?」
「アリマス。どのくらいコーソクですか」
「んー、でもまあ、よくて一晩くらいで……罰金かなぁ?」
 星野はマリィアに助けを求め、マリィアも『そうねえ』と首を傾げる。
「なんと……! 一晩もかけて、バッキン!……」
「ちょっと待って」
 カンベアノがメモしようとするのをマリィアは止めた。
「今のは忘れて?」
 絶対彼の理解は違うと思う。
「それより行きたいところ計画立てましょう? 何かご希望はあります?」
 いそいそとカンベアノは懐から分厚い本を取り出して開く。
「ばすてい」
「はあ?」
 星野とマリィアで横からそれを覗き込む。何が書いてあるかわからないが、横の写真を見ると『バス停』らしい。
「バス停見てどうするの……」
 すごいガイドブックだなと思いつつマリィアはカンベアノの顔を見る。
「もぬめんと?」
「ええと、ええとぉ……これはぁ、ただ、ここにバスが停まりますぅっていう目印でぇ、モニュメントとは違いますぅ」
「ばす」
 星野の返事にもカンベアノは怪訝な顔をする。
「まあ、いいわ、行って見てみればわかるんじゃない?」
 マリィアが近くのバス停を探すために手のひらサイズの端末を取り出した。案の定、カンベアノが覗き込む。
「これは携帯情報端末よ。貴方でも購入できると思うけど貴方の星で使えるかは分からないわ」
 答えながら細い指で画面をスクロールし
「んー……タブレットを持ってきたほうが分かりやすかったしら……」
「たぶれっちょ」
 星野がカンベアノの顔をじーっと見て、ちょっと貸してと彼の額についた翻訳機をとって自分の額につけた。
「あ、あっちょんぶりぶり、1キロてくてく、行くアルカ?」
 星野がきゃーきゃー喜び、マリィアが「なによ」という顔で星野を見る。
「この翻訳機、だめだわぁ」
 自分の額からマリィアの額にぴと、とつける。
「マリマリ、どーん、聞こえどすこい?」
「ふっ……」
 マリィアは身をのけぞらせた。
「マリマリ、どよどよ、おもろぴっちょん」
 違うの、ハナさん、その口調、あなた妙に似合うのよ……とは言えないマリィアだった。


 バス停の場所まで歩き時刻表を見る。5分後に次のバスが来るらしい。
 星野がカンベアノの胸に小さなバッジをぴとりと貼った。
「これつけてると異星人さんだと分かってもらえますからぁ、少し丁寧に説明してくれるんですぅ……お店に行くと足元見られる時もあるかもですけどぉ」
 カンベアノがふーん、というように自分の足元に目を向け、星野とマリィアは見て見ぬふりをして彼が持っていたガイドブックをめくる。
 細かいところをいちいち説明しているととてつもなく時間がかかりそうだ。
「これ、広場の噴水ですよねぇ?」
 星野が絵を見て呟く。下から水が噴き出している風に描かれているから間違いないのだろうが、どうして人が水槽に入っているのだろう。
「ヌーヨク」
「ノー、入浴」
 速攻でマリィアが一喝し、自分の言葉に思わず顔を赤らめた。
 やだわ、うつっちゃうじゃない……
「来ましたよぉ、バス。乗ってくださぁい」
「ヌーヨク、ダメ。デモ、水あると、すぐワシら、入る」
 星野に背を押されてバスに乗り込みながらカンベアノは答えた。
「どうして?」
 はいはい、座って、と促しつつマリィア。
「ボデー熱いの。オシメモノあつい」
 きょろきょろとバスの中を見回しながらカンベアノは自分のスーツを指し示す。
「お召し物ですよぉ」
「オシメモノ」
「うだっちゃうってことですかぁ?」
 ま、いいか、と思いつつ尋ねるが、彼の興味はもはや噴水でもオシメモノでもない。
「箱入ル、なぜ、おっ」
 バスが動き出した。
「決まった道を決まった時間で行き来してくれるんですぅ。途中でさっきのバス停と同じ場所がいくつかあるので、自分の行きたい場所に近いところで降りるんですよぉ」
 理解したのかどうかは怪しいが、カンベアノはなるほどという顔をして窓の外を眺め始めた。
 通路を挟んで彼と反対側に座り、マリィアがカンベアノのガイドブックを開く。
「このバス、4つ先の停留所で美術館の前に停まるわ。図書館も近くにある。公共施設なら最低限のマナーも学べるし、この星の文化にも触れられるんじゃないかしら」
「二つ巡ったらちょうどお昼時ですねぇ。カフェ・グランツ行きましょうよぉ。あそこのシュニッツェルとジャガイモ料理は最高ですぅ」
「午後はどうする? ハーゲルパークがあるわ」
「あ、行きたいですぅ~! 話題のアミューズメントパークですよねぇ? 私もまだ行ったことないんですぅ」
「それにしてもこれ、情報が古いわよね……。この博物館なんてもう無くなってると思うし……」
「どうしてトイレの写真があるんでしょうかぁ?」
「そりゃ、やっぱりどうやって使うのか知るためでしょ?」
「ないのにですかぁ?」
「なくったって排泄は必要なんじゃないの? 生物学的に」
「それもそぉですねぇ」
 2人でああだこうだと相談して
「カンベさん、美術館に行ってみ……」
 カンベアノが『カンベさん』で定着していることに気づかず顔をあげたマリィアは
「あっ……!」
 声をあげ、星野も振り向く。横に座っていたはずのカンベアノがいない。
「あっ……!」
 窓の外に彼の姿を見つけて、2人揃って声をあげた。
「降りますー! 停めてーーー!」


「案内役を置いてきぼりにしてどうするんですか」
 急いで走り寄るマリィアの声に、カンベアノは無言で上を指差した。
 指の先を追って星野とふたりで上を見る。
 男女が今にもキスしそうな表情で向かい合った横に『恋と野望の選択』と書かれている。
「ナンデスか?」
「看板よ。ここ、映画館。……分かるかしら……キーノ。ええと……ムービーシアター」
 こういう時、何をどう言えば彼に伝わるのかマリィアも迷う。
「きのむびし、あたー」
「おっきなスクリーンに映像が映るんですぅ。カンベさんの星にはないですかぁ?」
 星野が両手をぐるんと回しながら教え、カンベアノは、ああ、という顔をした。
「アリマス。スクリーン、ノー。空、ぐるっと」
 え。空間360度型スクリーンなのかっ。
「何か悔しい」
 マリィアが呟いた。
「アレ、ナニしてルですか」
 カンベアノは看板のほうに興味があるらしい。
「あれは、んー……きっと恋人同士なのですぅ。お互いが好きなのでキスしようとしてるのですぅ」
 言ってキャハッと両手で頬を押さえる星野。
「ちす」
「愛情の挨拶よ。あなたの星にも挨拶はあるでしょう?」
 それを聞いたカンベアノはマリィアの目を見てもちろんと頷いた。
 いきなり両腕をばっと体の横に水平に伸ばしたので、星野とマリィアは本能的に飛び退る。カンベアノはそのまま胸を張って片足にぐぐっと重心をかけた。
「……何してるの」
「アイさーツ。これは、ふつーの」
「……」
「エライ人ニハ、コウしまース」
 今度は腕を後ろに組んで片足にぐぐっ。
「か、変わった挨拶ですねぇ……」
 どうリアクションすれば良いものかと星野が引き攣った笑みを浮かべる。
 途端に今度は2人揃ってカンベアノにがばっと抱きつかれた。
「きゃーっ」
「何するんですかぁっ」
「アイさーツ。これでショウ?」
「親し過ぎよ」
 マリィアはぐいとカンベアノを引き離した。
「最初はせいぜいここから!」
 彼の手をとって握る。
「ヤッパリ、コノ星、シアワセね」
 カンベアノは言った。どうして? と尋ねようとする前に彼が先に口を開く。
「ツギ、行きまショウ。缶コーヒー、楽しい、アリマスか?」
「缶コーヒー?」
「観光ですねぇ?」
「ソウ、缶コーヒー、楽しいトコロ」
「じゃあ、ハーゲルパークに行きましょうか」
 どう? とマリィアは星野の顔を見る。
「行きましょう! 行きましょうっ!」
 星野はうわーい、と喜んでカンベアノの腕を引き走り出した。


 巷で人気のアミューズメントパーク、ハーゲルパークは天気の良さもあって人でごった返していた。
 カンベアノが一番に興味を示したのは5回転半するジェットコースター。
「アレ、乗りマショウ」
「いいわよ」
 3人でコースターに乗り込む。
 ゴトンと動き始めてワクワクした表情の彼に星野は
「速度が速くなったら両腕をあげるんですぅ。空中を舞ってるみたいで楽しいですよぉ」
 言われてカンベアノは早速両腕をあげる。
「まだ早いですぅ」
 と、彼女が返事をする前に既にコースターは超高速になっていた。
「ひゃっはー!」
「ひゃっはー!」
「はっはー!」
 5回転半でもあっという間に戻ってきてしまう。
「あげん、あげん」
 カンベアノは人差し指を立てて言う。よほど気に入ったらしい。
「いいわよ」
 再び乗り込み、
「ひゃっはー!」
「はっはー!」
「わんすあげん」
「いいですよぉ」
 三度乗り込み
「ひゃっはー」
「はっはー!」
 10回乗ったところで、マリィアが「私、パスします」とドロップアウトした。
 25回目、星野がうぷ、と少しこらえてドロップアウト。
「楽しいのはわかるけれど、どこがそんなにツボなのかしら……」
 前のほうの席で既に両腕をあげているカンベアノを見送ってマリィアはげんなりした様子で呟いた。
「カンベさん、回転するところじゃなくて、カーブするところが好きみたいですぅ」
 うっと口元を押さえつつ星野。
「これが帰って来たら無理にでも次のアトラクションに行きましょ。コースターで一日が終わってしまうわ」
 マリィアはゴウゥッと音を立てて通り過ぎるジェットコースターを見送って溜息をついた。

 少し名残惜しそうなカンベアノを促して次のアトラクションを探す。
「コレハ何デスか」
 彼が立ち止ったのは『戦慄! 怨念歪虚集団』。
「亡霊型歪虚がいるっていうお話の、まあ、お化け屋敷みたいなものですぅ。人気あるみたいですよぉ? ひやっと怖くて、でも歩くだけだし、本物の歪虚がいるわけじゃないから大丈夫ですぅ」
 ね、マリィアさん、と振り向いた星野は彼女の姿がないことに気づく。
「マリィアさん?」
 周囲を見回して、星野は向こうで仁王立ちにになっているマリィアの姿を発見する。
「マリィアさーん、どうしたんですかぁ?」
 近づくとマリィアは、はっしと目の前の建物を指差した。
 『シューティング・ソルジャーゲーム』
「これがいいわ」
 毅然とした口調で彼女は言う。
「でも、カンベさんには難しいかもですよぉ?」
 振り向いてカンベアノの顔を見ると、彼は目の前のアトラクションとさっきの『怨念歪虚集団』を見比べ、『アッチ』と無言で指差す。
「いいえ、カンベさん、刺激とスリルを求めるならシューティングを私はお勧めします」
 マリィアきっぱり。
「アッチ」
 なぜかこちらもムキになる。
「両方行けばいいと思いますぅ。ジャンケンで順番決めましょうかぁ」
 なだめる星野の提案に
「オォ、三スクーミ、ザッツグレイト」
 なんでそんな言葉だけは知ってるんだ、と思うが、とりあえずジャンケン。
「絶対負けないわ」
 マリィア、拳を握りしめ
「ジャンケンポン!」
 マリィア、チョキ、カンベアノ、パー。
「こっちが先よ」
 不敵な笑みを浮かべて踵を返すマリィアを星野が慌てて追いかける。
「マリィアさん、マリィアさん、どうしちゃったんですかぁ? カンベさんにグー見せて勝負したでしょぉ?」
「勝負の世界は厳しいのよ」
 マリィアは答え、マシンガンを構える。
「遂に思う存分この子を使う時が来たわ」
「お客さん、お客さん、それはこっちで預かります」
 すぐに係員に呼び止められる。
「当たり前デショ、マリサン」
 既にゲーム仕様の装備万全のカンベアノがふっふっふとマリィアに負けず劣らずの不敵な笑みを浮かべたのだった。

 キュウゥン、キュウゥン、と光線が発射される中を3人ばらばらで動く。
 体のあちこちについた的を射てポイントを得るのだが、マリィアと星野はそもそもが覚醒者。だからこんなゲームはずっと生き残ってしまうのだが、予想外だったのがカンベアノで、他の客がどんどん脱落して入れ替わるのに結局3人だけがずーっとゲームを続けることになった。
 彼が脱落したら途中で止めて外に出ようと思っていた2人は面食らう。
「これは奴を倒すしか……!」
「マリィアさん、そうじゃなくてぇ……」
 ジャキリと光線銃を構えていきりたつマリィアを星野が止める。
「俺ハ、負けネエゼ!」
「あっ……!」
 ぴこーん、とマリィアの頭上のランプがついてしまう。カンベアノの一撃が命中してしまったのだ。
「もうっ、だめじゃない、ハナさんったら!」
「いや、ここはやっぱり依頼主に花を持たせてぇ……」
 怒るマリィアをなだめようとした星野の頭上のランプがぴこーん。
「なにするんですかぁっ!」
 依頼主に花の言葉はどこへやら。
 結局三人どもえで戦いつくして三人揃ってゲームオーバーとなった。
「楽しい、デスネエ」
 カンベアノはすっかりご満悦でメモを書く。
「コウいうノ、書くベキデース」
「じゃあ……次は怨念歪虚集団に行きますか?」
 約束だし、とマリィアが言うと、カンベアノは首を振った。
「何か食べマショウ、腹減っタネ」
 確かに、と思う。運動してお腹がすいた。
「フードエリアに行きましょうかぁ。いろいろあると思いますぅ」
 園の地図看板を見て星野が言った。

 お昼時ということもあって、フードエリアは人でいっぱいだ。
「何食べたいですかぁ?」
 星野が目を輝かせながらカンベアノの顔を見る。
「何、タベル、美味しいカ? 痛いハ、ノー」
「この星の主食は小麦や米や玉蜀黍なんだけど…ブレッドやヌードルならだいたいどこでも食べられるわね」
 痛いって? と思いつつマリィアが答える。
「ヌード、る」
 マリィアの言葉にカンベアノがちょっと顔を赤らめた。
 普段ヌーディスト的なあなたが顔赤らめる理由がわかんないわ、と突っ込みたいのを我慢して
「そういえばこのエリアのヌードルは独自の調味料をスープに使っていて少し変わってるのよね……入ってみる?」
「オー、イエース、ヌード、スー!」
 理解したのかどうかは怪しいが、カンベアノが賛成したので『La・a・mens』と書いてある看板を目指す。
 店の中は空腹に沁み入る美味しそうな匂いに満ちていた。
「私なににしようかなぁ。カンベさん、こってり系? あっさり系?」
 席につくなり早速メニューを眺める星野。
「こてり?」
「カンベさんは経験ないんだから分からないわよ。3つ色々頼んで小鉢でシェアしない?」
「あ、そうしましょぉ!」
 うふん、と星野が顔を上気させ、塩、醤油、味噌の王道3点を注文する。
「カンベさん、ほかに何かこの星で食べましたぁ?」
 待っている間の話題にと尋ねると、カンベアノはメモを取り出し
「ふぉ、ふぉあぐら」
「ずいぶん豪華なものを食べたわね」
 マリィアがびっくりする。
「ほてる、頼んだネ。超高え」
「ルームサービスでフォアグラ……ルームサービスは割高ですしぃ、フォアグラは世界三大珍味でやっぱり高価ですぅ。旅の思い出ならありかもですけどぉ」
「チン、ミ?」
「珍味です。なかなか味わうことができない高級な食材ってことですよ」
 コホンと咳払いしつつマリィア。
 なるほど、と頷きつつカンベアノはメモを取るが、この人の理解度はとにかく怪しい。
 そっと手元を覗きこんでみるのだが、見たこともないような文字が並んでいるばかり。
「へい、お待ち!」
 特製ヌードルが運ばれて来る。
「このヌードルのお値段は普通ですけどぉ、この星では物価変動で貨幣の価値がどんどん変わっていきますからぁ、ガイドブックは年1回更新の方がいいかと思いますぅ」
 ヌードルを受け取ってテーブルに置き、小鉢と箸も皆の前に並べながら星野は言う。
「昔の笑い話じゃ珈琲飲み終わる間に値段が2倍になったっていうのもありましたぁ」
「もっと、高ぇ?!」
 めずらしそうにヌードルを眺めていたカンベアノが目を見開いた。
「冗談のお話しですよぉ。でも、それくらい物価の変動は大きいと思いますぅ」
 星野は笑った。
「カンベさんのところは情報端末はないの? そのほうが最新情報を知らせやすくなると思うけれど」
 パキンと箸を割りながらマリィア。
 カンベアノも見よう見まねで箸を割って「おぉ」とちょっと喜ぶ。
「最初は塩から食べてみますぅ?」
 星野はカンベアノの小鉢に麺とスープを入れてやる。
「イロイロ……情報、むずかしネ、俺ノ星だと」
 カンベアノは言いかけて考え込む。たぶん言葉を探しているのだろう。
「じゃあ、こっちでレンタルできるようにするといいかも。やりかた次第で可能かもしれないわよ?」
「連樽?」
「貸出しすることよ。この星だって、便利になって観光客が増えると有難いと思うわ。でもまあ……それでもベース情報はそちらでも必要かもしれないけど」
 ふむふむ、とカンベアノはメモを書き、そして、はっと思い出したように持っていたペンをぐるっとヌードルの器の上で回し始めた。
「……? なにしてるんですかぁ?」
 星野がレンゲでスープをこくんと飲んで尋ねる。
「ほと、です」
「ほと?」
「フォト……写真じゃないの? ペンで撮影できるの?」
 と、マリィア。
「デキますネ、これ、スキャニャー、デスネ」
 カンベアノの星は進んでるのか遅れてるのか、本当によくわからない。
「撮ったやつ、見ることできますぅ?」
 へー、という顔で星野は彼の手からペンをとって興味深そうに眺める。見せて、とマリィアも手を伸ばした。
「ホテル、戻ると分かるネ」
「でも、それじゃあうまく撮れたかどうか確認できないじゃない?」
 どこをどう見ても普通のペンにしか見えない。
「全然、オケー。間違いないシ。狩人サンも撮ったネ」
「えっ、いつ?」
「ひゃっはー!」
 カンベアノは両手をあげて叫んだ。
「ノー!」
 マリィアと星野で同時に叫んだのだった。

 ヌードルはとりあえず『ふぉあぐら』よりは遙かに美味しかったらしい。
 カンベアノは塩と醤油と味噌を順繰りに喜んで食べたのだが、彼の大変だったところは「麺をすすることができない」という点だった。
 そもそも箸自体も使えないので2本まるごと握るのみで
「ほら、こうやってぇ……」
 星野がつるんと吸い込んでみせても、半ば突き刺すようにして絡めとった麺が全然吸い込まれない。
 口だけが、さあ、吸い込むぞの気迫に満ちて尖り、目は見開かれて麺を睨みつける。
 やっとうまくいくか、と思いかけると麺はぽとりとスープに落ちる。
 落ちると悔しいのでまた突き刺すのだが、口を尖らし目を見開くばかり。
 面白がって星野がその顔を彼のペン型スキャナーで撮った。
「カンベさん、口から息を吸い込まないと麺が入らないわよ」
 マリィアが言うと今度は口ではあはあと息をし、そのうち過呼吸で目を回しかけたので慌てて店主に頼んでフォークを出してもらった。
「美味しネ、美味しネ」
 嬉しそうなカンベアノの顔を見ると、麺がすすり込めないくらいは、ま、いいか、と思えなくもない。
「お箸使えなかったらフォークもらうといいですよぉ。私達だって普段はナイフとフォークですからぁ」
 ごめんねと思いつつ星野は言ったが、カンベアノはあまり気にしていない風だった。
 ヌードルを食べ終えて満腹となった3人はその後、ティーカップに乗り、ゴーカードで壮絶なカーチェイスを『3人だけ』で行って係員に大目玉を食らい、ちょっとおとなしめにいきましょうと子供達と一緒におもちゃ列車に乗った。
 おもちゃ列車で隣の子供に
「楽しナア? ええ? オイ」
 と絡むので、マリィアと星野は彼の胸のバッジを指差して近くの親に
「すみませんね、こういうことですので……すみませんねえ」
 と謝りながらではあったが。
 更に数時間、いろんなアトラクションを巡ったあと、遊具だけでなく何か販売されている場所に行きたいと言うカンベアノの希望を受けて今度はショッピングエリアに向かう。
「マリさん、ハナさん、コレなんデスか」
 カンベアノはワゴンの上からクマ顔の帽子を取り上げた。
「帽子ですよぉ。ここのマスコットのベアンゴちゃんですぅ」
 星野が彼の手から帽子を取り、被せてやる。
「あれっ……ちょっと小さい……カンベさん、頭大きいですねぇ?」
「こっちがいいんじゃない? Lって書いてあるわ」
 マリィアが別のワゴンから帽子をとってカンベアノの頭に被せた。
 何だか異様に似合う不思議。
「グッズがいろいろありますよぉ。カンベさん、お土産買ったらどうですかぁ?」
 クマ型クッキーをうふふんと眺める星野。
「私これ買って帰ろうかな……パルムの寝床だって」
 マリィアはもふもふの小さなパルム用のクッションを持ち上げる。柄はやっぱりクマ。
 すると
「キャー! 変態っ!」
 女性の叫び声。
 しまった、と星野とマリィアはカンベアノの姿を探す。
 カンベアノはカップにクマ顔がついたブラジャーを頭にかぶっていた。そりゃ変態だ。
「違いますうっ、この人異星人ですうっ!」
 急いで星野が彼の頭からブラを取りあげ、
「カンベさん、こっち!」
 マリィアが彼の手を掴んで売り場から引き離し、店の外に出た。
「ヘンタイ……」
「気にすることないわ。あれじゃあ、誰が手にとってもおかしくない陳列だったんだし」
「あ、コレ……」
 カンベアノは手に持ったままのクマ顔帽子に気づく。
「大丈夫ですぅ。今、お金払ってきましたぁ……」
 少し遅れて星野が息を切らして店の外に。
「お金、悪い。払いマス」
 慌ててごそごそとするカンベアノに星野は笑った。
「いいですぅ。お土産に持って帰ってくださーい。お子さんとかいませんかぁ? あげると喜ぶと思いますぅ」
「オコサマ……」
「子供よ。さっき、おもちゃの汽車で小さな子に話しかけてたじゃない。カンベさん、ご結婚は?」
 マリィアの言葉にカンベアノはなぜか2人の顔を交互に見た。
「次に、行きマショウか」
 言ってふと顔をあげ、
「暗くナリマシタネ。帰ったほう、イイですカ」
「私たちは大丈夫ですよぉ? お望みなら一晩中でもお付き合いしますぅ」
 星野はクマ帽子をカンベアノの頭に乗せてにこりと笑う。
「ジャア……」
 カンベアノは周囲をぐるりと見回し、
「この町、一杯眺めル、場所、アリマスか」
 マリィアが携帯端末を取り出した。
「少し歩くけど、園を出て北側に丘があるわ。展望台になってるみたい。……でも、きっと寒いわよ?」
「カンベさん、鳥、好きですかぁ?」
 ふいに星野が言った。
「トリ?」
「どうするの?」
 マリィアが怪訝な顔で星野を見る。
「テイクアウトで焼き鳥買って来ますぅ。一杯やりながら夜景を見ましょ? 先、行っててくださーい」
「あ、私……!」
 言いかけてマリィアはぼっと頬を赤くして口を押さえた。
「わかってますぅ! マリィアさん、うわばみですよねぇ?」
 星野は笑って走って行った。


 丘の上はちょうど日が沈んだ直後で、寒いからか人影はなかった。
 それでも、冬のキンとした空気の中で町の灯りがちらちらと美しい。
「お待たせですぅ」
 星野がカップに入った焼き鳥と熱燗をどっさり袋に入れてもらって持って来た。
「熱燗空いたらワインも入ってますぅ」
「悪いわね」
 マリィアは早速くいっと一口。
「カンベさん、はいどうぞ。串は食べちゃだめですよぉ。口刺さないようにしてくださいねぇ」
 星野は鳥串と熱燗の入ったカップを手渡した。ベンチを見つけて買ってきたものを並べる。
 カンベアノはクンクンと匂いを嗅いで一口食べ
「おー、デリシャス」
 と呟いた。
「ほんとはお店に誘おうかと思ってましたけどぉ、夜景を見ながらの一杯もオツですねぇ?」
「オツ、ナンですカ?」
「素敵ってことですぅ」
 カンベアノは星野の返事を聞いて夜景を眺め、確かにというように頷いた。
「今日は星もよく見えるわね。お天気が良くてよかったわ」
 ほろ酔いになったマリィアは空を見上げる。
「カンベさんの星ってどのへんなの?」
「アノ、ヘンですネ。見えマセンよ」
 カンベアノは頭上を指差す。
「カンベさんの星のこと、知りたいですぅ。こことはやっぱり全然違いますかぁ?」
 彼の指先を見ながら星野が言うと、カンベアノはちょっと寂しそうな顔になった。
「違うネ。この星とハ、元々資源送るコトだったネ。ヤシンシウツクコイテの資源、送ル、戦うナクナッタね」
「……戦争?」
 マリィアが思わずカンベアノの顔を見る。
「俺の星、アイサツ、アレ、武器持ってナイ、相手知らせるタメね」
「……」
 両腕をあげて体の重心を無理に移動させる挨拶。
 変な挨拶だと思ったが、確かにあれだと丸腰ですと相手に知らせることができるだろう。
「この星、シアワセ思う。手握る、危ない。抱きつく、とても危険ネ。敵いないト思うネ」
「そんなこともないわよ……」
 マリィアはこくんと熱燗を飲んで答える。
「……戦いがない世界のほうがもちろんいいんだけど……」
「そうですねぇ。ここだって、歪虚はいるし、人同士の争いもありますぅ」
「デモ、みんな、イイ顔ネ。俺の星のモン、ココ、来たがる理由、やとワカッタね。ガイドブック違う、文句言う、俺、何デ、て、思ウてたネ」
「いいのが書けそう? 私達、一晩しか一緒にいられないけど」
 気遣わし気なマリィアの顔を見て、カンベアノは笑った。
 そういえば、彼が優しく笑う顔は今が初めてかもしれない。
 アトラクションで多少笑みは浮かべても、今のような笑顔ではなかった。
「足らない、イッパイ、しかたない。マタ、来る。デモ、俺は、この星、好きなったネ。特に、狩人サン、最高」
「カンベさん!」
 ふいに星野が立ち上がった。
「ほと、撮りましょぉ。3人で。私たちとの思い出ですぅ」
「写真? あ、じゃあ、私の携帯でも」
 マリィアも立ち上がった。
 夜景をバックに順番に写真を撮る。
 星野とカンベアノ。マリィアとカンベアノ。星野とマリィア。
「撮れてたら送ってって言いたいけどぉ……できないんですよねぇ」
 残念そうな星野。
「デモ、またいつか、会うネ」
 カンベアノは手を差し出した。
「カンベさん、最初の挨拶はもう終わったわ」
 マリィアが笑った。
「私達、もうお友達ですぅ」
 ふたりできゅっとカンベアノをハグすると、彼は少し呆然としたあとぎごちなくハグしかえして、彼の星で最高礼の後ろ手足曲げ挨拶をした。


「マリィア、星野、仮眠は終わりだ。そろそろ移動するぞ。敵が動き出した」
 声がして2人はふと目を開く。
 朝日が眩しい。
 そうか、私達、戦いの真っ最中だったっけ。
「すっごいよく寝た気がしますぅ……」
 うーんと伸びをして立ち上がりかけた星野にマリィアが手を差し出した。
 星野はしばしそれを見つめたあと、ぎゅっと彼女の手を握って立ち上がる。
「手が握れるってぇ、信頼してるってことなんですねぇ……」
 呟く星野に
「そうね」
 マリィアはちらと笑って頷いた。
 どんな夢だったかあまり覚えていないが、2人は同時に空を見上げたのだった。

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MVP一覧

  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデスka5848

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参加者一覧

  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/01/01 21:43:45
アイコン 宇宙人ツアコン銀○風!?
星野 ハナ(ka5852
人間(リアルブルー)|24才|女性|符術師(カードマスター)
最終発言