ゲスト
(ka0000)
【初夢】ナイト・オーヴァー・ナイト
マスター:cr

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/01/07 22:00
- 完成日
- 2017/01/18 22:24
このシナリオは4日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
油断するな。
迷わず撃て。
弾を切らすな。
ヴォイドには手を出すな。
――ストリートの警句――
●
窓の外では雨が降っていた。煤やら酸やらその他諸々思いつく限りの体に悪そうな代物をたっぷり含んだそれだ。
そんな中、悪趣味な色とりどりの光が雨粒に乱反射していた。この光は足元にある数限りないアドバタイズ(広告)用のレーザー光線がここまで飛んできたものだ。
つまり、お前が今いる場所はいつもはうんと首を上に傾けなきゃ見えないその手の光が足元にある場所だった。そいつはこの場所がいつもお前が這いつくばっている地面とはまるで違う、高い高い空の上にあることを示していた。そいつもそのはず、ここはスプロール(多元輻輳都市)の一番上にある最高級レストラン。そこにお前がチケット付きで招待状を受け取ったことから始まった。
ハロー、チューマ(相棒)このクソッタレな世界にようこそ、あるいはお帰りなさい。気づいた者、覚醒者(イクシード)に会えて嬉しいぜ。これが最後にならきゃいいがな。
さて、そんなこの場所に似つかわしくないお前らが何でここに居るかって言えば、それは目の前の男がここに招待したからだった。こんな場所に招待してお前に天上人気分を味わせてくれる人間もまた、天上人(ハイランダー)に決まっている。名は“ミスター・ジョンソン”。もちろん偽名。いつもお前に仕事を回してくる“ミス・ジョンソン”の様なフリーランスのフィクサーとは醸し出す雰囲気が違っていた。お前なら分かる。こいつは紐付きだ。何も知らない連中ならそこらのさらりまんと同じ様に見えるだろうが、その冷たい目がこいつが俺達のご同輩、訂正、最悪の部類の相手であることを示していた。
●
めったに食えないような高級料理が並んだその向かい側で、男はゆっくりと口を開いた。
「仕事はある品物――まあ研究サンプルなのですが、それとその研究データを持ってくることです」
男はターゲットがある建物のデータをこちらに送ってくる。どこにでもある研究所と言った感じだ。ここに飛び込んで障害を排除し、狙いの品物を手に入れておさらば。お前がルーチンワークの様に行っている作業だ。
「ただデータは別のセクションにある様です。そちらはそちらで専門家の協力が必要ですが……皆さんには言うまでもないですよね」
皆を一瞥しながら言った男は、ターゲットと報酬の引き換えについても詰めてきた。
「入手が終わりましたらこちらに皆様でいらしてください。そこで品物と引き換えに報酬をお渡しします。タイムリミットは只今より24時間。大丈夫ですよね」
そして男はスマートフォンのディスプレイをこちらに見せてきた。
「お礼はお一人様、これくらいで」
そこに記載されていた、桁が一つずれた数字がお前にアラートのメッセージを出してくるのだった。
迷わず撃て。
弾を切らすな。
ヴォイドには手を出すな。
――ストリートの警句――
●
窓の外では雨が降っていた。煤やら酸やらその他諸々思いつく限りの体に悪そうな代物をたっぷり含んだそれだ。
そんな中、悪趣味な色とりどりの光が雨粒に乱反射していた。この光は足元にある数限りないアドバタイズ(広告)用のレーザー光線がここまで飛んできたものだ。
つまり、お前が今いる場所はいつもはうんと首を上に傾けなきゃ見えないその手の光が足元にある場所だった。そいつはこの場所がいつもお前が這いつくばっている地面とはまるで違う、高い高い空の上にあることを示していた。そいつもそのはず、ここはスプロール(多元輻輳都市)の一番上にある最高級レストラン。そこにお前がチケット付きで招待状を受け取ったことから始まった。
ハロー、チューマ(相棒)このクソッタレな世界にようこそ、あるいはお帰りなさい。気づいた者、覚醒者(イクシード)に会えて嬉しいぜ。これが最後にならきゃいいがな。
さて、そんなこの場所に似つかわしくないお前らが何でここに居るかって言えば、それは目の前の男がここに招待したからだった。こんな場所に招待してお前に天上人気分を味わせてくれる人間もまた、天上人(ハイランダー)に決まっている。名は“ミスター・ジョンソン”。もちろん偽名。いつもお前に仕事を回してくる“ミス・ジョンソン”の様なフリーランスのフィクサーとは醸し出す雰囲気が違っていた。お前なら分かる。こいつは紐付きだ。何も知らない連中ならそこらのさらりまんと同じ様に見えるだろうが、その冷たい目がこいつが俺達のご同輩、訂正、最悪の部類の相手であることを示していた。
●
めったに食えないような高級料理が並んだその向かい側で、男はゆっくりと口を開いた。
「仕事はある品物――まあ研究サンプルなのですが、それとその研究データを持ってくることです」
男はターゲットがある建物のデータをこちらに送ってくる。どこにでもある研究所と言った感じだ。ここに飛び込んで障害を排除し、狙いの品物を手に入れておさらば。お前がルーチンワークの様に行っている作業だ。
「ただデータは別のセクションにある様です。そちらはそちらで専門家の協力が必要ですが……皆さんには言うまでもないですよね」
皆を一瞥しながら言った男は、ターゲットと報酬の引き換えについても詰めてきた。
「入手が終わりましたらこちらに皆様でいらしてください。そこで品物と引き換えに報酬をお渡しします。タイムリミットは只今より24時間。大丈夫ですよね」
そして男はスマートフォンのディスプレイをこちらに見せてきた。
「お礼はお一人様、これくらいで」
そこに記載されていた、桁が一つずれた数字がお前にアラートのメッセージを出してくるのだった。
リプレイ本文
●
「報酬をこんなに!? オジサマ素敵!」
そこに提示された報酬額を見た天王寺茜(ka4080)の第一声はそれだった。おっと、“天王寺茜”なんて人物は居なくて、ここに居るのは《野良猫》って奴だ。正しくは“天王寺茜”って人間は居た。居たんだが、ヴォイドの尻尾を踏んじまって戸籍を失った結果、覚醒者(イグザクト)になったのが《野良猫》の過去だった。
「ヒューゥ! 桁違いの仕事(ビズ)たぁ、あたしの名前も売れたもんだ」
リコ・ブジャルド(ka6450)、通称《キルアイス》の反応も同じようなものだった。生まれたときからウェブに浸かり典型的なニューロキッズ(今時のガキ)な彼女が今時の反応を返す。若い二人にそういう反応を返され、目の前の大人、“ミスター・ジョンソン”も満足そうだ……かどうかはわからない。相好を崩してはいるが、こいつがプログラミングされた反応でないなんて誰がわかる?
一方年の頃なら似たようなもののエリ・ヲーヴェン(ka6159)の反応は少し違っていた。物静かに、余り大きな反応も返すこと無くぼんやりと虚空を見つめている。
「そちらのお嬢さんは報酬には興味が無いのでしょうか」
“ミスター・ジョンソン”が苦笑するが、そうではなかった。エリは、いや、ここに居る全員は脳にインストールしたメッセージアプリでこの状況について会話していた。
>[……って無いわよねえ]< 《野良猫》
>[バカにしやがって。『皆様でいらしてください』だぁ? 怪しい臭いがぷんぷんしてるぜ]< 《キルアイス》
>[今まで受けて来た仕事に中でも、今回のやつが一番きな臭いわ……「彼女」が楽しそうだっていうから受けちゃったけど]< エリ
>[ふふふ……こういうスリルがある方が楽しいのよ! わかってるくせに!]< 「彼女」
エリの中にはもう一つの人格が居る。それが「彼女」。
話は三年前に遡る。エリは神経系の病気に侵され、下半身不随に、さらに左半身の麻痺へと症状は拡大していった。だが、この時代ならサイバーウェア手術で障害を乗り越えることが出来る。それを受けた。
「彼女」はその時産まれた。エリと正反対で活動的でスリルジャンキーな「彼女」はサイバースペース上にのみ存在する人格だ。要は一種のサイバーサイコなんだが、腕は確かだ。だからここに居る。
「へー、ふーん、そうなんだー。随分『カンタンな仕事』だね!」
次にそう返したのは明るく鮮やかなピンクの髪が目を引くウーナ(ka1439)だった。こんなナリだがその実力の方は間違いない。なにせ彼女の中には合法非合法含め各種サイバーウェアがぎっしり詰まっている。つまりその本性は殺戮兵器と呼ぶのが正しい。さらに性格は無邪気なだけ余計厄介なのさ。彼女なら道端のアリを踏み潰す感覚で一個小隊をハチの巣に出来るからな。
「そうですな。あなた方には簡単な仕事かもしれませんね。もしかするとご興味頂けないかもしれませんが」
“ミスター・ジョンソン”はこの場に居る残り二人を見ながらそう返す。
そのうちの一人、マリィア・バルデス(ka5848)は心ここにあらずといった感じだった。だが、その理由を《野良猫》がフォローする。
「いえ、彼女はもうビズの計画を立てているんですよ」
>[NH3は銃架がないと使えないから、今回は持ち込めない、か……]< マリィア
>[NH3って研究所ごとぶっ壊す気? そんなもの無くても人を殺すならオートマチック一つで十分だよ]< ウーナ
>[マリィアはウーナみたいなトリガーハッピーじゃ無いからな。マニアってのはそういうものさ]< 《黒狼》
メッセージに入ってきた《黒狼》、それが最後の一人だった。ずらりと並んだ高級料理を端から胃の中に押し込めているのがそれだ。登録名は道元 ガンジ(ka6005)。だが、その名は知らなくても《黒狼》の名を知らない者は居ない。数々の逸話と共に語られる超S級ハンター。サイバースペースの都市伝説(ネットロア)、それが《黒狼》だった。そうさ、今メシを食うことに勤しんでいるその男がそうなのさ。
>[で、どうするの?]< 《野良猫》
>[報酬のために仕事を請けてるわけじゃない。昂る鼓動と血の流れ。そいつを感じる、生きてることを実感できる数少ない瞬間。俺が俺であるための刹那が欲しい]< 《黒狼》
>[《黒狼》は相変わらずだね。あたし、こういう事するからVOIDはキライ。お菓子くれないし]< ウーナ
>[小細工とか苦手なの! そういうのを考えるのは「あなた」の仕事でしょ! 私は踊る様に戦う、それだけよ! だってそっちの方が楽しいじゃない!]<「彼女」
>[いいよ。乗ってやろうじゃん。ただし、あたしらは脚本どおりにゃ踊らねえケドな]< 《キルアイス》
こうして、一夜の仕事(ワンナイト・ビズ)は始まったのさ。
●
「研究所への侵入に、ジョンソンの調査、なんてダブルヘッダー」
うんざりしながら《野良猫》達は侵入を開始する。論理的に無限の長さを持つ情報の海を泳ぐ三人。程なくして目的のサーバーにたどり着く。
ガチガチに固められたセキュリティがそびえ立つが、《野良猫》の前には無いも同然だった。
「抜け道裏道猫の道、と……入口あけまーす♪」
その解錠(デコード)の腕は相変わらずだった。猫の姿のアイコンで壁を触れば、そこからほどけ崩れていく。だが。
「アイスは任せな。ブツの確保は任せたぜ? チューマ(お友達)。ブラックアイスに引っかかるんじゃねえぞー?」
《キルアイス》のその言葉通り、山ほどICEが飛び出してくる。でもってその言葉は別に格好付けでも何でも無かった。うようよと溢れ出すICEだが、
「けっけっけ。どんだけ大盛りお代わり追加したって《キルアイス》様に溶かせないアイスはねえのさ!」
押し寄せるICE達にプレゼントされたのは、情報の海を埋め尽くす稲妻の嵐だった。耳をつんざく音と閃光が晴れれば、あとは綺麗さっぱりICEが“溶け”ている。
「もう、ちょっとはこっちの分も残しなさいよ!」
エリが、いや、「彼女」が抗議の声を上げる。が、終わってしまったものは仕方ない。《キルアイス》を尻目に二人はネットワークを辿り目的のサーバーにたどり着いた。
「まあこんなところね。それじゃあいただき……って」
「ハッハッハッ!」
《野良猫》は狙った得物目掛けてサーバーに飛び込もうとしたが、それより先に「彼女」が飛び込んでいた。そのアイコンは高笑いとともに一瞬で中に侵入し……その瞬間、サーバーは突然黒い鉄格子のイメージで覆われた。程なくその鉄格子の角から非合法もいいところのブラックアイスが現れ、「彼女」を一瞬で焼き付くしていく。
「エリ!」
思わず叫ぶ《野良猫》そんな彼女が次に見たもの、それは。
「ハニーポット(ダミーサーバー)には気をつけなさいって「あの子」の言うことを聞いておいてよかったわ。狭いところは嫌いなの」
その横で無事な姿の「彼女」だった。
「何したの?」
「何したって、先にダミーを入れただけよ。閉じ込められるかも、って言われた通りだったわね」
つまりはここにいる奴らが皆最高の腕を持つ連中だったってことさ。そいつらの前では、こういう仕掛けも意味がない、覚えときなよ、チューマ?
●
「《野良猫》さっすが~、見取り図来たよ」
一方研究所近くで突入に備えていたウーナはそう声を上げた。
「ついでに監視カメラもお休み中だ。相変わらずいい腕だ」
「それはいいんだけどさ、こっちで動くのは大丈夫なの?」
《黒狼》は超S級ハンターと称されるが、それはサイバースペース上で、の但し書きが付く。マンデインで動く彼を見るのは皆が初めてだった。
「侵入手段と退路は任せた。こっちに不安はない」
「何それ」
そんなやり取りを二人がしていた頃、マリィアは見取り図を解析していた。
「分からないほど敵が居るならこっちで引き付ける隙に取りに行って貰った方が良いかしらね」
「そうこなくっちゃ!」
つまり二人が囮になり、その隙に《黒狼》がかっさらうという算段だ。早速女性陣二人が飛び出して行き、その後を《黒狼》が付いていく。女は怖いって本当だな。
先に行った女性陣だが、ウーナは自分の部屋に帰る時の様に何のためらいもなく扉を開ける。当然そこに居た警備員達が一斉に銃口をこちらに向けるが、それは彼女にとってはあくびが出るほど退屈な遅さだった。
銃を抜く時点で一発、セフティを下げる時点で一発、トリガーを引く所でもう一発。警備員の最初の一発が発射される前にその銃から三発の弾丸が発射される。電気信号が神経(ニューロ)を通る速度が違う――強化反射神経(ブーステッドリフレックス)。ついでに全部ホールインワンのおまけ付きだ。血の花をブチ撒けたその肉塊を無邪気な笑みで見下ろし、次のターゲットに向かう。残虐兵器少女(キリングドール)ってのはこういうものさ。
で、残った警備員達が銃弾を浴びせる前にマリィアが動いていた。今回のお嬢様のチョイスはE10、はるか昔のクライムムービーに登場しそうなドラムマガジン型マシンガンだ。この場所でも取り回せるサイズだし、時間単位で放たれる銃弾の量は残った警備員を全滅させるのにぴったりと来ている。彼女は紛れもなくアーティストでもあった。
その頃《黒狼》はって言うと一人悠々と研究所を歩いていた。その目の前に警備員が現れる。哀れなネズミを見つけたとばかりに弾丸を撃ち始める警備員。
神経の奥がチリッと焼ける感覚。だがそれは1/60秒。次の瞬間自らの身体に力が漲るのを感じる。次の一発が放たれた瞬間に飛び出し、体ごとぶつかるように腹に一発。それでおしまい。《黒狼》は先へ進む。
>[ところで《黒狼》はもうサンプル奪取済んだかしらっ……]< マリィア
>[0.6秒待ってくれ]< 《黒狼》
>[もうすぐ交代時間。それまでには間に合うはず]< 《野良猫》
>[了解、それじゃもう暫くここで敵を引き付けるっ]< マリィア
連絡を交わしてマシンガンを撃ち続けるマリィア。だが、彼女は何かに気づいた。
「敵の包囲が予想より早いっ……まさか情報が漏れてるっ……《黒狼》は?!」
>[モニターもできないわ。どうなってるの?]< 「彼女」
「どうせVOIDでしょ? こういうことするのは。あたしはおかわりが来てうれしいけど」
「でも独りも欠けないための囮作戦なのよっ……」
相変わらずお楽しみ中のウーナを呼び寄せ、マリィアは包囲網を突破すべくBプランに移る。その時だった。
「呼んだか?」
それは《黒狼》だった。突然包囲網が薄くなる。追加が来なければ、あとはウーナが全部始末する。
「どうやったの?」
「簡単な話だ。鍵を開けて中に入ったんだ。帰りはちゃんと“鍵を閉めた”だけさ」
敵と戦い、逃走しながら同時にシステムをハックしてドアをロック。いいかい? ハッカーってのは世界の支配者なのさ。
●
「時間通りのお戻りですね。確かにいい腕です」
24時間前と同じく“ミスター・ジョンソン”はそこに居た。《黒狼》が必要なサンプルと必要なデータを引き渡せばビズはそれで終わり、のはずだった。
「天上人(ハイランダー)気取りで最高級レストラン(スリー・スターズ)を借りれるヤツは限られてるもんさ」
その時だった。《キルアイス》がそう口を開く。
「なるほど、保険というわけですか。暗号化がかかってますね」
「ついでにキーは6つに分けておいた。“ミスター・ジョンソン”とこれからもよろしくできるんなら、俺はそれでいいよ?」
「ご明察です。ただ残念なことにこの物自体はそこまで重要では無いのですが」
その時、この店に居た残りの客達が全員立ち上がる。銃は既に抜かれていた。
「ハメられた?!」
>[それで……背後関係はわかった?]< エリ
>[もう、背後関係なんてどうだっていいじゃない!]< 「彼女」
>[次の議会でワァーシン社の発言力をツォーン社が抑えたがっている]< 《野良猫》
>[つまり『うわー! 酷い目にあったー! アイツらが悪いんだー!』ってジサク=ジエンするわけでしょ。そんなとこだろうと思った]< ウーナ
>[ウーナさん、例の物の手配が終わりました]< ミス・ジョンソン
>[さっすが~! 頼りになる!]< ウーナ
「はっ、上等! こちとら分かってて舞台に上がってやったんだからなっ」
次の瞬間だった。立ち上がった客達が次々と倒れていく。銃声もしない。血しぶきも上がらない。ただ、肉が焦げるかすかな匂いだけがただよう。
《キルアイス》は“枝”を付けていた。神経を銃に直結させて反応速度と正確性を上げている連中なら、逆のルートでクラックして圧を高めた電流を流してやればこうなる。一瞬の内にフラット・ライン(脳が死んだ)。その結果がこれさ。
そして強化ガラス製の窓が割れる。この窓を割れるだけの銃を持っているのはコレクターだけさ。割れた窓の破片と共にバイクにまたがったマリィアが飛び込んできて残った連中目掛けて弾丸をバラまく。
「ハデに暴れていいぜ。明日のニュースにゃ『スプロールで事故』って流れるからさ」
「サイコー! じゃあハデに暴れちゃうね」
あとはウーナの独壇場だった。このお嬢ちゃんが動けば次々と赤い花が咲く。
「ストリートの警句第5条。知ってる? ――裏切者は殺せ」
ウーナは“ミスター・ジョンソン”の脳天に銃口を突きつけていた。
「それであなたの希望は何ですか?」
「最高潮のドヤ顔に鉛弾ブチこめれば十分。ちょーしこいた連中をブチ殺すのダイスキ」
狂った笑顔のウーナ。爆発音。立ち上る煙。
●
「いらっしゃいませー! お仕事お疲れさまでーす♪」
《野良猫》は道行くさらりまんに声をかけていた。いつもの笑顔と制服で愛想を振りまき仕事に励む。彼女には“天王寺茜”って名前を取り戻すために金が必要だからな。
そんな彼女の店に来たのは《黒狼》、いや、道元とエリ、それにウーナ。
料理がずらりと並んだ中、ウーナと《野良猫》が話していた。
「『はーい、《野良猫》の送迎タクシーのお迎えでーす』だっけ。いい飛び乗り(リギング)だったよ」
《野良猫》が車をウェブ経由で動かしてここまで運んできたわけだ。
「まあ、あんなもの運ばされたのは閉口したけどね」
そんな彼女がそう言ったのはミス・ジョンソンに手配してもらった偽装工作用の死体。各人の特徴を抑えた特製の品だ。
「でもあれだけハデに爆発させたから、しばらくは大丈夫ね」
その頃、料理を詰め込んだ《黒狼》と「彼女」も会話をしていた。
>[シアワセってのはこういう時間だな]< 《黒狼》
>[高級料理もいいけどこういうのもいいわね!]< 「彼女」
>[しかしこの生活、面倒じゃないか?]< 《黒狼》
>[……でも良いの、楽しいから]< エリ
「報酬をこんなに!? オジサマ素敵!」
そこに提示された報酬額を見た天王寺茜(ka4080)の第一声はそれだった。おっと、“天王寺茜”なんて人物は居なくて、ここに居るのは《野良猫》って奴だ。正しくは“天王寺茜”って人間は居た。居たんだが、ヴォイドの尻尾を踏んじまって戸籍を失った結果、覚醒者(イグザクト)になったのが《野良猫》の過去だった。
「ヒューゥ! 桁違いの仕事(ビズ)たぁ、あたしの名前も売れたもんだ」
リコ・ブジャルド(ka6450)、通称《キルアイス》の反応も同じようなものだった。生まれたときからウェブに浸かり典型的なニューロキッズ(今時のガキ)な彼女が今時の反応を返す。若い二人にそういう反応を返され、目の前の大人、“ミスター・ジョンソン”も満足そうだ……かどうかはわからない。相好を崩してはいるが、こいつがプログラミングされた反応でないなんて誰がわかる?
一方年の頃なら似たようなもののエリ・ヲーヴェン(ka6159)の反応は少し違っていた。物静かに、余り大きな反応も返すこと無くぼんやりと虚空を見つめている。
「そちらのお嬢さんは報酬には興味が無いのでしょうか」
“ミスター・ジョンソン”が苦笑するが、そうではなかった。エリは、いや、ここに居る全員は脳にインストールしたメッセージアプリでこの状況について会話していた。
>[……って無いわよねえ]< 《野良猫》
>[バカにしやがって。『皆様でいらしてください』だぁ? 怪しい臭いがぷんぷんしてるぜ]< 《キルアイス》
>[今まで受けて来た仕事に中でも、今回のやつが一番きな臭いわ……「彼女」が楽しそうだっていうから受けちゃったけど]< エリ
>[ふふふ……こういうスリルがある方が楽しいのよ! わかってるくせに!]< 「彼女」
エリの中にはもう一つの人格が居る。それが「彼女」。
話は三年前に遡る。エリは神経系の病気に侵され、下半身不随に、さらに左半身の麻痺へと症状は拡大していった。だが、この時代ならサイバーウェア手術で障害を乗り越えることが出来る。それを受けた。
「彼女」はその時産まれた。エリと正反対で活動的でスリルジャンキーな「彼女」はサイバースペース上にのみ存在する人格だ。要は一種のサイバーサイコなんだが、腕は確かだ。だからここに居る。
「へー、ふーん、そうなんだー。随分『カンタンな仕事』だね!」
次にそう返したのは明るく鮮やかなピンクの髪が目を引くウーナ(ka1439)だった。こんなナリだがその実力の方は間違いない。なにせ彼女の中には合法非合法含め各種サイバーウェアがぎっしり詰まっている。つまりその本性は殺戮兵器と呼ぶのが正しい。さらに性格は無邪気なだけ余計厄介なのさ。彼女なら道端のアリを踏み潰す感覚で一個小隊をハチの巣に出来るからな。
「そうですな。あなた方には簡単な仕事かもしれませんね。もしかするとご興味頂けないかもしれませんが」
“ミスター・ジョンソン”はこの場に居る残り二人を見ながらそう返す。
そのうちの一人、マリィア・バルデス(ka5848)は心ここにあらずといった感じだった。だが、その理由を《野良猫》がフォローする。
「いえ、彼女はもうビズの計画を立てているんですよ」
>[NH3は銃架がないと使えないから、今回は持ち込めない、か……]< マリィア
>[NH3って研究所ごとぶっ壊す気? そんなもの無くても人を殺すならオートマチック一つで十分だよ]< ウーナ
>[マリィアはウーナみたいなトリガーハッピーじゃ無いからな。マニアってのはそういうものさ]< 《黒狼》
メッセージに入ってきた《黒狼》、それが最後の一人だった。ずらりと並んだ高級料理を端から胃の中に押し込めているのがそれだ。登録名は道元 ガンジ(ka6005)。だが、その名は知らなくても《黒狼》の名を知らない者は居ない。数々の逸話と共に語られる超S級ハンター。サイバースペースの都市伝説(ネットロア)、それが《黒狼》だった。そうさ、今メシを食うことに勤しんでいるその男がそうなのさ。
>[で、どうするの?]< 《野良猫》
>[報酬のために仕事を請けてるわけじゃない。昂る鼓動と血の流れ。そいつを感じる、生きてることを実感できる数少ない瞬間。俺が俺であるための刹那が欲しい]< 《黒狼》
>[《黒狼》は相変わらずだね。あたし、こういう事するからVOIDはキライ。お菓子くれないし]< ウーナ
>[小細工とか苦手なの! そういうのを考えるのは「あなた」の仕事でしょ! 私は踊る様に戦う、それだけよ! だってそっちの方が楽しいじゃない!]<「彼女」
>[いいよ。乗ってやろうじゃん。ただし、あたしらは脚本どおりにゃ踊らねえケドな]< 《キルアイス》
こうして、一夜の仕事(ワンナイト・ビズ)は始まったのさ。
●
「研究所への侵入に、ジョンソンの調査、なんてダブルヘッダー」
うんざりしながら《野良猫》達は侵入を開始する。論理的に無限の長さを持つ情報の海を泳ぐ三人。程なくして目的のサーバーにたどり着く。
ガチガチに固められたセキュリティがそびえ立つが、《野良猫》の前には無いも同然だった。
「抜け道裏道猫の道、と……入口あけまーす♪」
その解錠(デコード)の腕は相変わらずだった。猫の姿のアイコンで壁を触れば、そこからほどけ崩れていく。だが。
「アイスは任せな。ブツの確保は任せたぜ? チューマ(お友達)。ブラックアイスに引っかかるんじゃねえぞー?」
《キルアイス》のその言葉通り、山ほどICEが飛び出してくる。でもってその言葉は別に格好付けでも何でも無かった。うようよと溢れ出すICEだが、
「けっけっけ。どんだけ大盛りお代わり追加したって《キルアイス》様に溶かせないアイスはねえのさ!」
押し寄せるICE達にプレゼントされたのは、情報の海を埋め尽くす稲妻の嵐だった。耳をつんざく音と閃光が晴れれば、あとは綺麗さっぱりICEが“溶け”ている。
「もう、ちょっとはこっちの分も残しなさいよ!」
エリが、いや、「彼女」が抗議の声を上げる。が、終わってしまったものは仕方ない。《キルアイス》を尻目に二人はネットワークを辿り目的のサーバーにたどり着いた。
「まあこんなところね。それじゃあいただき……って」
「ハッハッハッ!」
《野良猫》は狙った得物目掛けてサーバーに飛び込もうとしたが、それより先に「彼女」が飛び込んでいた。そのアイコンは高笑いとともに一瞬で中に侵入し……その瞬間、サーバーは突然黒い鉄格子のイメージで覆われた。程なくその鉄格子の角から非合法もいいところのブラックアイスが現れ、「彼女」を一瞬で焼き付くしていく。
「エリ!」
思わず叫ぶ《野良猫》そんな彼女が次に見たもの、それは。
「ハニーポット(ダミーサーバー)には気をつけなさいって「あの子」の言うことを聞いておいてよかったわ。狭いところは嫌いなの」
その横で無事な姿の「彼女」だった。
「何したの?」
「何したって、先にダミーを入れただけよ。閉じ込められるかも、って言われた通りだったわね」
つまりはここにいる奴らが皆最高の腕を持つ連中だったってことさ。そいつらの前では、こういう仕掛けも意味がない、覚えときなよ、チューマ?
●
「《野良猫》さっすが~、見取り図来たよ」
一方研究所近くで突入に備えていたウーナはそう声を上げた。
「ついでに監視カメラもお休み中だ。相変わらずいい腕だ」
「それはいいんだけどさ、こっちで動くのは大丈夫なの?」
《黒狼》は超S級ハンターと称されるが、それはサイバースペース上で、の但し書きが付く。マンデインで動く彼を見るのは皆が初めてだった。
「侵入手段と退路は任せた。こっちに不安はない」
「何それ」
そんなやり取りを二人がしていた頃、マリィアは見取り図を解析していた。
「分からないほど敵が居るならこっちで引き付ける隙に取りに行って貰った方が良いかしらね」
「そうこなくっちゃ!」
つまり二人が囮になり、その隙に《黒狼》がかっさらうという算段だ。早速女性陣二人が飛び出して行き、その後を《黒狼》が付いていく。女は怖いって本当だな。
先に行った女性陣だが、ウーナは自分の部屋に帰る時の様に何のためらいもなく扉を開ける。当然そこに居た警備員達が一斉に銃口をこちらに向けるが、それは彼女にとってはあくびが出るほど退屈な遅さだった。
銃を抜く時点で一発、セフティを下げる時点で一発、トリガーを引く所でもう一発。警備員の最初の一発が発射される前にその銃から三発の弾丸が発射される。電気信号が神経(ニューロ)を通る速度が違う――強化反射神経(ブーステッドリフレックス)。ついでに全部ホールインワンのおまけ付きだ。血の花をブチ撒けたその肉塊を無邪気な笑みで見下ろし、次のターゲットに向かう。残虐兵器少女(キリングドール)ってのはこういうものさ。
で、残った警備員達が銃弾を浴びせる前にマリィアが動いていた。今回のお嬢様のチョイスはE10、はるか昔のクライムムービーに登場しそうなドラムマガジン型マシンガンだ。この場所でも取り回せるサイズだし、時間単位で放たれる銃弾の量は残った警備員を全滅させるのにぴったりと来ている。彼女は紛れもなくアーティストでもあった。
その頃《黒狼》はって言うと一人悠々と研究所を歩いていた。その目の前に警備員が現れる。哀れなネズミを見つけたとばかりに弾丸を撃ち始める警備員。
神経の奥がチリッと焼ける感覚。だがそれは1/60秒。次の瞬間自らの身体に力が漲るのを感じる。次の一発が放たれた瞬間に飛び出し、体ごとぶつかるように腹に一発。それでおしまい。《黒狼》は先へ進む。
>[ところで《黒狼》はもうサンプル奪取済んだかしらっ……]< マリィア
>[0.6秒待ってくれ]< 《黒狼》
>[もうすぐ交代時間。それまでには間に合うはず]< 《野良猫》
>[了解、それじゃもう暫くここで敵を引き付けるっ]< マリィア
連絡を交わしてマシンガンを撃ち続けるマリィア。だが、彼女は何かに気づいた。
「敵の包囲が予想より早いっ……まさか情報が漏れてるっ……《黒狼》は?!」
>[モニターもできないわ。どうなってるの?]< 「彼女」
「どうせVOIDでしょ? こういうことするのは。あたしはおかわりが来てうれしいけど」
「でも独りも欠けないための囮作戦なのよっ……」
相変わらずお楽しみ中のウーナを呼び寄せ、マリィアは包囲網を突破すべくBプランに移る。その時だった。
「呼んだか?」
それは《黒狼》だった。突然包囲網が薄くなる。追加が来なければ、あとはウーナが全部始末する。
「どうやったの?」
「簡単な話だ。鍵を開けて中に入ったんだ。帰りはちゃんと“鍵を閉めた”だけさ」
敵と戦い、逃走しながら同時にシステムをハックしてドアをロック。いいかい? ハッカーってのは世界の支配者なのさ。
●
「時間通りのお戻りですね。確かにいい腕です」
24時間前と同じく“ミスター・ジョンソン”はそこに居た。《黒狼》が必要なサンプルと必要なデータを引き渡せばビズはそれで終わり、のはずだった。
「天上人(ハイランダー)気取りで最高級レストラン(スリー・スターズ)を借りれるヤツは限られてるもんさ」
その時だった。《キルアイス》がそう口を開く。
「なるほど、保険というわけですか。暗号化がかかってますね」
「ついでにキーは6つに分けておいた。“ミスター・ジョンソン”とこれからもよろしくできるんなら、俺はそれでいいよ?」
「ご明察です。ただ残念なことにこの物自体はそこまで重要では無いのですが」
その時、この店に居た残りの客達が全員立ち上がる。銃は既に抜かれていた。
「ハメられた?!」
>[それで……背後関係はわかった?]< エリ
>[もう、背後関係なんてどうだっていいじゃない!]< 「彼女」
>[次の議会でワァーシン社の発言力をツォーン社が抑えたがっている]< 《野良猫》
>[つまり『うわー! 酷い目にあったー! アイツらが悪いんだー!』ってジサク=ジエンするわけでしょ。そんなとこだろうと思った]< ウーナ
>[ウーナさん、例の物の手配が終わりました]< ミス・ジョンソン
>[さっすが~! 頼りになる!]< ウーナ
「はっ、上等! こちとら分かってて舞台に上がってやったんだからなっ」
次の瞬間だった。立ち上がった客達が次々と倒れていく。銃声もしない。血しぶきも上がらない。ただ、肉が焦げるかすかな匂いだけがただよう。
《キルアイス》は“枝”を付けていた。神経を銃に直結させて反応速度と正確性を上げている連中なら、逆のルートでクラックして圧を高めた電流を流してやればこうなる。一瞬の内にフラット・ライン(脳が死んだ)。その結果がこれさ。
そして強化ガラス製の窓が割れる。この窓を割れるだけの銃を持っているのはコレクターだけさ。割れた窓の破片と共にバイクにまたがったマリィアが飛び込んできて残った連中目掛けて弾丸をバラまく。
「ハデに暴れていいぜ。明日のニュースにゃ『スプロールで事故』って流れるからさ」
「サイコー! じゃあハデに暴れちゃうね」
あとはウーナの独壇場だった。このお嬢ちゃんが動けば次々と赤い花が咲く。
「ストリートの警句第5条。知ってる? ――裏切者は殺せ」
ウーナは“ミスター・ジョンソン”の脳天に銃口を突きつけていた。
「それであなたの希望は何ですか?」
「最高潮のドヤ顔に鉛弾ブチこめれば十分。ちょーしこいた連中をブチ殺すのダイスキ」
狂った笑顔のウーナ。爆発音。立ち上る煙。
●
「いらっしゃいませー! お仕事お疲れさまでーす♪」
《野良猫》は道行くさらりまんに声をかけていた。いつもの笑顔と制服で愛想を振りまき仕事に励む。彼女には“天王寺茜”って名前を取り戻すために金が必要だからな。
そんな彼女の店に来たのは《黒狼》、いや、道元とエリ、それにウーナ。
料理がずらりと並んだ中、ウーナと《野良猫》が話していた。
「『はーい、《野良猫》の送迎タクシーのお迎えでーす』だっけ。いい飛び乗り(リギング)だったよ」
《野良猫》が車をウェブ経由で動かしてここまで運んできたわけだ。
「まあ、あんなもの運ばされたのは閉口したけどね」
そんな彼女がそう言ったのはミス・ジョンソンに手配してもらった偽装工作用の死体。各人の特徴を抑えた特製の品だ。
「でもあれだけハデに爆発させたから、しばらくは大丈夫ね」
その頃、料理を詰め込んだ《黒狼》と「彼女」も会話をしていた。
>[シアワセってのはこういう時間だな]< 《黒狼》
>[高級料理もいいけどこういうのもいいわね!]< 「彼女」
>[しかしこの生活、面倒じゃないか?]< 《黒狼》
>[……でも良いの、楽しいから]< エリ
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質問卓 天王寺茜(ka4080) 人間(リアルブルー)|18才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2017/01/05 22:29:57 |
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逆転のための相談卓 道元 ガンジ(ka6005) 人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2017/01/07 07:50:50 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/01/04 13:53:52 |