ゲスト
(ka0000)
【初夢】不治の……?
マスター:四月朔日さくら
このシナリオは5日間納期が延長されています。
オープニング
●
――医者は、静かな声でこう告げた。
「あなたのその悩みは、我々の手に負えないのです……」
人にはそれぞれ何かしらの病がある。というか、五体満足健康真っ盛り、なんて人は世の中にそうそういない。
そんな中で告げられたのは、不治の病であること。
ただ――
それが、「死に至る病」とは……、誰も言っていない。
●
「治らない……でもどうすればいいんだ……」
そううなだれるのもいい。けれど、それが、たとえば『水虫』であるかも知れないし、『猫アレルギー』のようなものかも知れない。
あるいはもしかすると、ただの若白髪や若禿、そういう遺伝的な性質なのかも知れない。
だって、その病気が本当に『死に至る病』なのかは、蓋を開けてみないと判らないのだから。
無論、本当に『死に至る病』なのかも知れない。
それは、宣告された人それぞれだろう。けれど――
『あなたのそれは、我々の手に負えないのです』
医師からもしこんな宣告を受けたとき、どう動くのだろう。
それでも足掻く?
それとも、受け入れる?
――医者は、静かな声でこう告げた。
「あなたのその悩みは、我々の手に負えないのです……」
人にはそれぞれ何かしらの病がある。というか、五体満足健康真っ盛り、なんて人は世の中にそうそういない。
そんな中で告げられたのは、不治の病であること。
ただ――
それが、「死に至る病」とは……、誰も言っていない。
●
「治らない……でもどうすればいいんだ……」
そううなだれるのもいい。けれど、それが、たとえば『水虫』であるかも知れないし、『猫アレルギー』のようなものかも知れない。
あるいはもしかすると、ただの若白髪や若禿、そういう遺伝的な性質なのかも知れない。
だって、その病気が本当に『死に至る病』なのかは、蓋を開けてみないと判らないのだから。
無論、本当に『死に至る病』なのかも知れない。
それは、宣告された人それぞれだろう。けれど――
『あなたのそれは、我々の手に負えないのです』
医師からもしこんな宣告を受けたとき、どう動くのだろう。
それでも足掻く?
それとも、受け入れる?
リプレイ本文
●
不治の病――と聞いて、普通はどう考えるだろう。
死に至るものか、それとも――?
●
(……ああ、水が、欲しい)
天央 観智(ka0896)は喉のひりつきを覚えながら、ふらふらと周囲を見回していた。
――毎日、大量の水を摂取しないと苦しい。人間、いや生きとし生けるものなら誰しも必要な水分補給だが、観智は依存症と言えるレベルでそれを求めていた。これについては気付いていないだけで、多くのものがそう言った状態に陥っているものであったりするから、それほど深刻には考えていない。
そして、もう一つの依存症も発症していた。
それは『未知なるものに対する好奇』。学者肌の観智であるがゆえ、周囲が全て見知ったものになってしまうのがこわい。なにか『未知』のものがないと、あっという間に気力も削がれて、なにもしなくなる、出来なくなってしまう。
無論その『未知なるもの』というのは、ほんの些細なものでもいい。漠然としたものでもいい。それが全て確定してしまうのがこわいのだ。彼の行動の原動力は未知なるものへの興味。だからこそ、観智は未知なるものを探し続ける。探し求める。
自身の半身、あるいはそれ以上とも言える、未知への興味。
まだ軽度、といえるかも知れないが、普通の人の手では治すことはできない、そんな病であることは間違いないであろう……。
●
「……はぁー!?」
葛音 水月(ka1895)と、その伴侶である黒沙樹 真矢(ka5714)は、思わず同時に声を上げた。何故って、隣のベッドには見慣れない人が眠っていて、しかしそれが『性反転』をした伴侶だと言うことに気付いてしまったからだ。
顔立ちや雰囲気でお互いだと分かるものの、自分の体格が違うことにはやはり違和感がぬぐえない。
「まあ、細かい変化はどうでも良いんじゃ? それに、ちょうどお互いの性別が入れ替わってるんだし丁度良いじゃん、立場が入れ替わっただけなら関係ねーや」
さばさばした性格の真矢はそう言ってケラケラと笑う。無論二人の身体の変化を触って確かめた上で、だ。
さすがに女体化したのを触られた水月は、起き抜けでなおかつ気が動転していた状態だったとは言え、顔を僅かに染めて
「もう、真矢の思い切りはさぱっとしすぎですよ……でもおかげで、この異常も受け止められているんですけど……」
普段とちがう伴侶の姿に心臓をわしづかまれているような、不思議な緊張感をおぼえる。
「ま、折角俺が男になったんだし、たまには俺がリードしてデートしようぜ? 明日の朝まで、じーっくり、可愛がってやるから……よ?」
真矢に壁ドンをされ、ゴクリと唾を飲み、そしてこくりと頷く水月。
(……でも、真矢がリードでのデート、楽しそうですねっ。いっぱい可愛がって欲しいな)
もともとどこかのんびりした、ともすれば女の子めいた口調の水月はそう思いながら、ふふっと小さく微笑んだ。
そこで真矢がやったのが、水月を抱きかかえた、いわゆる姫だっこ状態でのデートなのである。ふわふわふりふりの服装を水月に纏わせ(下着から全てコーディネートしてである)、ふだんはできないくらいに愛でまくる。むしろもふる、という表現のほうが近いのかも知れないけれど、とりあえず真矢は満足そうに笑っている。水月はもちろん恥ずかしくてたまらないが、しかしこれは甘える絶好の機会だと思って思いきり甘えまくる。
(もうこのままでもいいのかもしれないけど)
そのくらい思ってしまう程度には、水月もこの状況にノリノリなのかも知れない。状況は相変わらず不明だが、マテリアルなどの関係かも知れない。ハンター特有とかなら、なおのことわからない可能性も高い。
「……まあ、それでも病院にみてもらったほうがいいですね……治す方法があるかも知れないし……なにが起るかもわからないし……」
それに何より――
「一人だけ治ったりは、やーです……」
甘えるような声で、そう言う水月に、真矢もさすがに根負けしたようだ。
「わかったわかったっつーの、泣くな」
真矢が苦笑しながら、水月の額に軽く口づける。水月はぽっと顔を赤らめて、そして照れくさそうに微笑んだ。
――さて、病院にはむろん他の患者もいる。
金糸雀(ka6409)は、割と切実に悩んでいた。というのも彼女の罹患した病気は【膨乳】という奇病であった。
この病気、女性限定の接触感染タイプの病気だ。感染すると、個人差はあるものの、最終的に保菌者である金糸雀なみに胸が大きくなっていく、というしろものである。ただ、そのことを本人は知らない、というのが厄介なところであるが。
ついでに言うと本人ももちろん胸が膨らんでいくわけで、厄介きわまりない事態になりかねない。
とりあえず抑制剤はあると言うことなので、いつものようにそれをもらいに、定期検診の為に病院に来ていた。本人に自覚がないので適度になにかに触りながらここマデ来ていて、結果それが街に混乱を招く原因になっていたりするわけであるが。
と、その日の担当医が男性だったこともあり、怯えて診察も受けずに帰ろうとした矢先、薬が切れたのか胸が少しずつ大きく鳴り始めているのに気付いた。
(……まずいですね)
そう思いながら早く帰ろうと足を速めた矢先、ちょうど病院にたどり着いていた水月にぶつかってしまった。この病気の厄介なところは【女体】であれば構わないと言うことであり、つまり水月にも感染してしまった――というわけなのである。ちなみに金糸雀の服はと言えばこの荘とつではち切れてしまっている。水月の胸もむくむくと大きくなり――
「え、なに、これ……!」
慌てふためく水月に、楽しそうに笑う真矢。
「おーう、どうしたどんどん女らしくなって。まあ、こういうのは嫌いじゃないけど……うん、柔らかい」
膨らむ胸を軽くもみしだいて、楽しそうに頷く真矢。水月はと言えば、涙目だ。それを庇うのが男の役目とばかりに、真矢は水月の頭を優しく撫でてやるのだった。
●
「……ひとりで逝っても、行き先なんて地獄だろ……」
骸香(ka6223)はぼんやりと、たった独りで過去を思い出していた。
ひとり、という状況は、故郷で処刑される前の、過去のことを思い起こさせる。たった独り、それはきっと恋人にも叱られてしまうだろうな、などと思いながら。
彼女がかかっているのは、結核という病気だ。今も、その病に命をうばわれるものは数多い。伝染性であるがゆえ、一人寂しく死んでいく者も多いのだが、骸香はほんの少しだけ、どこか嬉しくもあった。
故郷にいた頃は見捨てられ、処刑されるという過去を持つ彼女。無論それで命を奪われたわけではないのだが、だからこそ、家で死ぬことができる今の状況は、心なしか嬉しいのだ。
身体を蝕まれ、満足に動かなくなっても、頭の中はどこかクリアで。退屈さをどこかもてあまし、暇つぶしを兼ねて部屋の掃除をしようとすると、狛犬たちが心配そうに近づいて寄り添ってくる。その愛らしさに思わず口元を緩めるが、足取りはやはりよろよろとしているし、時折嫌な咳を繰り返す。ごほ、と口もとに当てた手には、赤い赤い、曼珠沙華のような血の色。
「あはは……血だぁ……」
思わずこみ上げてくる笑みには、どこか狂気の色もうかがえて、恋人の寝室の扉にもたれかかるようにぺたりと座ると、
「……看取られない、かぁ……」
寂しさが胸にこみ上げてくる。むかしから好きだった歌をゆっくり歌うと、それでも時々口元に感じるのは鉄の味。唇の端から滴り落ちる朱を自覚しつつ、恋人のことをぼんやりと思い出しながら、叱られてしまうなぁ、なんて僅かに目を伏せると、更に咳と吐血が激しくなり、呼吸することも難しくなっていく。気が付けば床に倒れ込んでおり、その冷たさに驚きはするものの、どこか意識の遠のきも感じ始めていて、大切な人のシーツを思わず掴もうとするけれど上手くいかない。引きずられたシーツはふわりと骸香自身の身体に被さり、嗚呼、もう駄目なのかな、とさとる。口元には小さな笑みを浮かべ、しばらくやすもう、と遠のく意識の中、ぼんやりと思った。
●
――カメリア(ka6669)は、今も夢に見続ける。過去に実際にあった、己の人生を変えた、ただの偶然で、だからこそどうしようもない、そんな出来事。
数年前。彼女はピアニストだった。
ピアノしか与えられず、ゆえにピアノにしか触れない、ピアノしか知らない、そんな空しさを抱えた演奏者。自覚はしていたけれど、それでもまわりの大人達は彼女を天才と賞賛し、その言葉が彼女を動かし、多くの演奏者達の上に立ってきたのだった。
何故って、それは指がどこまでもどこまでも、思うように動いてくれたから。
――しかし、高熱の後遺症で、右手の小指の感覚が、ほんの少しだけ鈍くなった。
普通のひとなら気にならない程度のそれは、しかし、カメリアにとっては致命的なものだった。
些細な変化過ぎて、医者ですら異常なしというしかないもので。誰にも理解されない彼女の絶望の大きさは、いかほどのものだったろうか。
両親ですら、カメリア自身ではなく、「彼女のピアノの才能」にしか価値を見ていなかった。かつての天才少女は、この変化に向き合う余裕もなく、捨てられたのだ。
――きみはどうしたいんだい?
今まで誰にも言われなかった言葉。それをもらって、カメリアはしかしいまだに戸惑い続ける。当たり前だった日常が変わってしまったことに、まだついていけないから。それでも、だからこそ探したいと思うのだ。
するべきなにか、ではなく、自分自身が心からしたいと思えるなにか、を。
全てを受け入れて、これも自分だと前を向きたいと。
なぜなら、それが、カメリアにできる今の精一杯なのだから。
●
(私はあと、どれほどこの世界を見ていられるのでしょうか。私が望む景色は……見られるのでしょうか)
メフィス(ka6674)は、少し欠けた視界で、世界を見下ろす。
緑内障。
視界が欠け、進行すると視野が狭まり――最悪、失明する病気である。
メフィスの世界は、既に一部が失われていた。進行を抑制することはできても、完治の方法は未だ見つかっていない緑内障。しかし金を持っているわけでもなし、メフィスに進行を抑えることは出来ず、日々ゆっくり失われていく視野に、ぼんやりと寂寥感を覚えていくのみ。
けれど、ここから先に見るだろう絶景、友人の顔、人々の顔……それらが見られなくなっては、ハンターとして戦うことが出来なくなってしまうのではないだろうか。心の中に、ぼんやりとした焦りが生まれるのも、無理はない。
それでも噂では、盲目の侍もいたとは聞くので、それを目指すのも良いかもしれない、なんてことも思ってしまう。
外へ出たメフィスは空を見上げる。
「眩しい……でも、そう思えるのは、あとどれ程でしょうか……?」
それでも見ることの出来るうちにたくさんのものを心に焼き付けておきたいと思うのは、自然なことだろう。――たとえ何も見えなくなっても、蒼い空は覚えておきたいと思うから。
目にうつる様々なものがまるで宝物のようにきらきらと輝きを帯びているかのように見える。手触りだけでなく、いろいろなふうに動かして、見てみると、意外な発見があったりするのだ。
「よく見れば……ここはこうなっているのですか」
当たり前のものだって、彼女にとっては小さな発見の連続。
それに、思うのだ。
眼が駄目なら耳。耳も駄目なら肌で……感じたい。だって、まだ死んだわけではないのだから、と。
●
(放置すると死に至る――それはつまり、食べないと死んでしまう、このことですね。お医者さまにもどうにもならない、と、聞いたことがありますし)
真面目に、しごく真面目にそう考えているのは、ミオレスカ(ka3496)。小柄なエルフだが、食べることに関してはそれなりに貪欲、と言うべきか。
「でも、そうでしょう? 丸一日も放っておくと、身体がまともに動かないですし、何より、おなかがぐうぐう鳴って、とても恥ずかしいです」
だから、とミオレスカは微笑む。
「ご飯を、作ります」
折角だから今までに縁のあった人も呼べるように。
赤い魚は塩焼きにして、卵を四角いフライパンで丸く多層に焼き上げる。
栗は鮮やかな黄色いマッシュ状にして、大きなエビをできるだけ形を保ったままにものにする。昆布を巻いたもの、里芋の煮物。
ニシンの卵は出汁醤油につけ、白身魚のすり身は寄せて固める。
それらを四角い多重のお弁当箱に、色合いも鮮やかに詰めていくのだ。
リアルブルーのひとがそれを見たら、きっと「おせち料理」と呼ぶだろう、それ。
ミオレスカは知った顔、知らぬ顔、仲間を集めて、みんなでそれをのんびりと食べる。少し酒も入り、だれもがちょっぴり饒舌になって。
意識を失った骸香も、はち切れんばかりの胸の少女達も、一緒、一緒だ。
観智は料理を見ながら、「リアルブルーのおせちというのは」と、解説をしてくれる。
カメリアだって、料理をつつくのは支障ない。
メフィスも、この綺麗な料理を眼に焼き付ける。
「うん。皆さんも美味しいご飯があれば、きっと元気になりますよ」
そう言って、ミオレスカは笑う。
――今年モよろしくおねがいします、そう挨拶を添えて。
辛い病気というのもあるかも知れない。
そしてそう言うとき、辛い思いをすることもあるかも知れない。
それでも、笑顔と美味しい料理があれば、乗り越えられるのかも知れない。
こいつは春から縁起が良い、なんて言葉もあるのだから。
縁起を担いだおせち料理で、だれもが笑顔になれば、病魔だって退くかも知れないのだから。
不治の病――と聞いて、普通はどう考えるだろう。
死に至るものか、それとも――?
●
(……ああ、水が、欲しい)
天央 観智(ka0896)は喉のひりつきを覚えながら、ふらふらと周囲を見回していた。
――毎日、大量の水を摂取しないと苦しい。人間、いや生きとし生けるものなら誰しも必要な水分補給だが、観智は依存症と言えるレベルでそれを求めていた。これについては気付いていないだけで、多くのものがそう言った状態に陥っているものであったりするから、それほど深刻には考えていない。
そして、もう一つの依存症も発症していた。
それは『未知なるものに対する好奇』。学者肌の観智であるがゆえ、周囲が全て見知ったものになってしまうのがこわい。なにか『未知』のものがないと、あっという間に気力も削がれて、なにもしなくなる、出来なくなってしまう。
無論その『未知なるもの』というのは、ほんの些細なものでもいい。漠然としたものでもいい。それが全て確定してしまうのがこわいのだ。彼の行動の原動力は未知なるものへの興味。だからこそ、観智は未知なるものを探し続ける。探し求める。
自身の半身、あるいはそれ以上とも言える、未知への興味。
まだ軽度、といえるかも知れないが、普通の人の手では治すことはできない、そんな病であることは間違いないであろう……。
●
「……はぁー!?」
葛音 水月(ka1895)と、その伴侶である黒沙樹 真矢(ka5714)は、思わず同時に声を上げた。何故って、隣のベッドには見慣れない人が眠っていて、しかしそれが『性反転』をした伴侶だと言うことに気付いてしまったからだ。
顔立ちや雰囲気でお互いだと分かるものの、自分の体格が違うことにはやはり違和感がぬぐえない。
「まあ、細かい変化はどうでも良いんじゃ? それに、ちょうどお互いの性別が入れ替わってるんだし丁度良いじゃん、立場が入れ替わっただけなら関係ねーや」
さばさばした性格の真矢はそう言ってケラケラと笑う。無論二人の身体の変化を触って確かめた上で、だ。
さすがに女体化したのを触られた水月は、起き抜けでなおかつ気が動転していた状態だったとは言え、顔を僅かに染めて
「もう、真矢の思い切りはさぱっとしすぎですよ……でもおかげで、この異常も受け止められているんですけど……」
普段とちがう伴侶の姿に心臓をわしづかまれているような、不思議な緊張感をおぼえる。
「ま、折角俺が男になったんだし、たまには俺がリードしてデートしようぜ? 明日の朝まで、じーっくり、可愛がってやるから……よ?」
真矢に壁ドンをされ、ゴクリと唾を飲み、そしてこくりと頷く水月。
(……でも、真矢がリードでのデート、楽しそうですねっ。いっぱい可愛がって欲しいな)
もともとどこかのんびりした、ともすれば女の子めいた口調の水月はそう思いながら、ふふっと小さく微笑んだ。
そこで真矢がやったのが、水月を抱きかかえた、いわゆる姫だっこ状態でのデートなのである。ふわふわふりふりの服装を水月に纏わせ(下着から全てコーディネートしてである)、ふだんはできないくらいに愛でまくる。むしろもふる、という表現のほうが近いのかも知れないけれど、とりあえず真矢は満足そうに笑っている。水月はもちろん恥ずかしくてたまらないが、しかしこれは甘える絶好の機会だと思って思いきり甘えまくる。
(もうこのままでもいいのかもしれないけど)
そのくらい思ってしまう程度には、水月もこの状況にノリノリなのかも知れない。状況は相変わらず不明だが、マテリアルなどの関係かも知れない。ハンター特有とかなら、なおのことわからない可能性も高い。
「……まあ、それでも病院にみてもらったほうがいいですね……治す方法があるかも知れないし……なにが起るかもわからないし……」
それに何より――
「一人だけ治ったりは、やーです……」
甘えるような声で、そう言う水月に、真矢もさすがに根負けしたようだ。
「わかったわかったっつーの、泣くな」
真矢が苦笑しながら、水月の額に軽く口づける。水月はぽっと顔を赤らめて、そして照れくさそうに微笑んだ。
――さて、病院にはむろん他の患者もいる。
金糸雀(ka6409)は、割と切実に悩んでいた。というのも彼女の罹患した病気は【膨乳】という奇病であった。
この病気、女性限定の接触感染タイプの病気だ。感染すると、個人差はあるものの、最終的に保菌者である金糸雀なみに胸が大きくなっていく、というしろものである。ただ、そのことを本人は知らない、というのが厄介なところであるが。
ついでに言うと本人ももちろん胸が膨らんでいくわけで、厄介きわまりない事態になりかねない。
とりあえず抑制剤はあると言うことなので、いつものようにそれをもらいに、定期検診の為に病院に来ていた。本人に自覚がないので適度になにかに触りながらここマデ来ていて、結果それが街に混乱を招く原因になっていたりするわけであるが。
と、その日の担当医が男性だったこともあり、怯えて診察も受けずに帰ろうとした矢先、薬が切れたのか胸が少しずつ大きく鳴り始めているのに気付いた。
(……まずいですね)
そう思いながら早く帰ろうと足を速めた矢先、ちょうど病院にたどり着いていた水月にぶつかってしまった。この病気の厄介なところは【女体】であれば構わないと言うことであり、つまり水月にも感染してしまった――というわけなのである。ちなみに金糸雀の服はと言えばこの荘とつではち切れてしまっている。水月の胸もむくむくと大きくなり――
「え、なに、これ……!」
慌てふためく水月に、楽しそうに笑う真矢。
「おーう、どうしたどんどん女らしくなって。まあ、こういうのは嫌いじゃないけど……うん、柔らかい」
膨らむ胸を軽くもみしだいて、楽しそうに頷く真矢。水月はと言えば、涙目だ。それを庇うのが男の役目とばかりに、真矢は水月の頭を優しく撫でてやるのだった。
●
「……ひとりで逝っても、行き先なんて地獄だろ……」
骸香(ka6223)はぼんやりと、たった独りで過去を思い出していた。
ひとり、という状況は、故郷で処刑される前の、過去のことを思い起こさせる。たった独り、それはきっと恋人にも叱られてしまうだろうな、などと思いながら。
彼女がかかっているのは、結核という病気だ。今も、その病に命をうばわれるものは数多い。伝染性であるがゆえ、一人寂しく死んでいく者も多いのだが、骸香はほんの少しだけ、どこか嬉しくもあった。
故郷にいた頃は見捨てられ、処刑されるという過去を持つ彼女。無論それで命を奪われたわけではないのだが、だからこそ、家で死ぬことができる今の状況は、心なしか嬉しいのだ。
身体を蝕まれ、満足に動かなくなっても、頭の中はどこかクリアで。退屈さをどこかもてあまし、暇つぶしを兼ねて部屋の掃除をしようとすると、狛犬たちが心配そうに近づいて寄り添ってくる。その愛らしさに思わず口元を緩めるが、足取りはやはりよろよろとしているし、時折嫌な咳を繰り返す。ごほ、と口もとに当てた手には、赤い赤い、曼珠沙華のような血の色。
「あはは……血だぁ……」
思わずこみ上げてくる笑みには、どこか狂気の色もうかがえて、恋人の寝室の扉にもたれかかるようにぺたりと座ると、
「……看取られない、かぁ……」
寂しさが胸にこみ上げてくる。むかしから好きだった歌をゆっくり歌うと、それでも時々口元に感じるのは鉄の味。唇の端から滴り落ちる朱を自覚しつつ、恋人のことをぼんやりと思い出しながら、叱られてしまうなぁ、なんて僅かに目を伏せると、更に咳と吐血が激しくなり、呼吸することも難しくなっていく。気が付けば床に倒れ込んでおり、その冷たさに驚きはするものの、どこか意識の遠のきも感じ始めていて、大切な人のシーツを思わず掴もうとするけれど上手くいかない。引きずられたシーツはふわりと骸香自身の身体に被さり、嗚呼、もう駄目なのかな、とさとる。口元には小さな笑みを浮かべ、しばらくやすもう、と遠のく意識の中、ぼんやりと思った。
●
――カメリア(ka6669)は、今も夢に見続ける。過去に実際にあった、己の人生を変えた、ただの偶然で、だからこそどうしようもない、そんな出来事。
数年前。彼女はピアニストだった。
ピアノしか与えられず、ゆえにピアノにしか触れない、ピアノしか知らない、そんな空しさを抱えた演奏者。自覚はしていたけれど、それでもまわりの大人達は彼女を天才と賞賛し、その言葉が彼女を動かし、多くの演奏者達の上に立ってきたのだった。
何故って、それは指がどこまでもどこまでも、思うように動いてくれたから。
――しかし、高熱の後遺症で、右手の小指の感覚が、ほんの少しだけ鈍くなった。
普通のひとなら気にならない程度のそれは、しかし、カメリアにとっては致命的なものだった。
些細な変化過ぎて、医者ですら異常なしというしかないもので。誰にも理解されない彼女の絶望の大きさは、いかほどのものだったろうか。
両親ですら、カメリア自身ではなく、「彼女のピアノの才能」にしか価値を見ていなかった。かつての天才少女は、この変化に向き合う余裕もなく、捨てられたのだ。
――きみはどうしたいんだい?
今まで誰にも言われなかった言葉。それをもらって、カメリアはしかしいまだに戸惑い続ける。当たり前だった日常が変わってしまったことに、まだついていけないから。それでも、だからこそ探したいと思うのだ。
するべきなにか、ではなく、自分自身が心からしたいと思えるなにか、を。
全てを受け入れて、これも自分だと前を向きたいと。
なぜなら、それが、カメリアにできる今の精一杯なのだから。
●
(私はあと、どれほどこの世界を見ていられるのでしょうか。私が望む景色は……見られるのでしょうか)
メフィス(ka6674)は、少し欠けた視界で、世界を見下ろす。
緑内障。
視界が欠け、進行すると視野が狭まり――最悪、失明する病気である。
メフィスの世界は、既に一部が失われていた。進行を抑制することはできても、完治の方法は未だ見つかっていない緑内障。しかし金を持っているわけでもなし、メフィスに進行を抑えることは出来ず、日々ゆっくり失われていく視野に、ぼんやりと寂寥感を覚えていくのみ。
けれど、ここから先に見るだろう絶景、友人の顔、人々の顔……それらが見られなくなっては、ハンターとして戦うことが出来なくなってしまうのではないだろうか。心の中に、ぼんやりとした焦りが生まれるのも、無理はない。
それでも噂では、盲目の侍もいたとは聞くので、それを目指すのも良いかもしれない、なんてことも思ってしまう。
外へ出たメフィスは空を見上げる。
「眩しい……でも、そう思えるのは、あとどれ程でしょうか……?」
それでも見ることの出来るうちにたくさんのものを心に焼き付けておきたいと思うのは、自然なことだろう。――たとえ何も見えなくなっても、蒼い空は覚えておきたいと思うから。
目にうつる様々なものがまるで宝物のようにきらきらと輝きを帯びているかのように見える。手触りだけでなく、いろいろなふうに動かして、見てみると、意外な発見があったりするのだ。
「よく見れば……ここはこうなっているのですか」
当たり前のものだって、彼女にとっては小さな発見の連続。
それに、思うのだ。
眼が駄目なら耳。耳も駄目なら肌で……感じたい。だって、まだ死んだわけではないのだから、と。
●
(放置すると死に至る――それはつまり、食べないと死んでしまう、このことですね。お医者さまにもどうにもならない、と、聞いたことがありますし)
真面目に、しごく真面目にそう考えているのは、ミオレスカ(ka3496)。小柄なエルフだが、食べることに関してはそれなりに貪欲、と言うべきか。
「でも、そうでしょう? 丸一日も放っておくと、身体がまともに動かないですし、何より、おなかがぐうぐう鳴って、とても恥ずかしいです」
だから、とミオレスカは微笑む。
「ご飯を、作ります」
折角だから今までに縁のあった人も呼べるように。
赤い魚は塩焼きにして、卵を四角いフライパンで丸く多層に焼き上げる。
栗は鮮やかな黄色いマッシュ状にして、大きなエビをできるだけ形を保ったままにものにする。昆布を巻いたもの、里芋の煮物。
ニシンの卵は出汁醤油につけ、白身魚のすり身は寄せて固める。
それらを四角い多重のお弁当箱に、色合いも鮮やかに詰めていくのだ。
リアルブルーのひとがそれを見たら、きっと「おせち料理」と呼ぶだろう、それ。
ミオレスカは知った顔、知らぬ顔、仲間を集めて、みんなでそれをのんびりと食べる。少し酒も入り、だれもがちょっぴり饒舌になって。
意識を失った骸香も、はち切れんばかりの胸の少女達も、一緒、一緒だ。
観智は料理を見ながら、「リアルブルーのおせちというのは」と、解説をしてくれる。
カメリアだって、料理をつつくのは支障ない。
メフィスも、この綺麗な料理を眼に焼き付ける。
「うん。皆さんも美味しいご飯があれば、きっと元気になりますよ」
そう言って、ミオレスカは笑う。
――今年モよろしくおねがいします、そう挨拶を添えて。
辛い病気というのもあるかも知れない。
そしてそう言うとき、辛い思いをすることもあるかも知れない。
それでも、笑顔と美味しい料理があれば、乗り越えられるのかも知れない。
こいつは春から縁起が良い、なんて言葉もあるのだから。
縁起を担いだおせち料理で、だれもが笑顔になれば、病魔だって退くかも知れないのだから。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
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MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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病は気から?(相談場所) 金糸雀(ka6409) エルフ|16才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2017/01/09 10:27:00 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/01/09 10:22:52 |